(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135067
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】溶融金属の精錬方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/32 20060101AFI20240927BHJP
C21C 5/46 20060101ALI20240927BHJP
C21C 7/072 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C21C5/32
C21C5/46 101
C21C7/072 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045576
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】田村 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】内藤 憲一郎
【テーマコード(参考)】
4K013
4K070
【Fターム(参考)】
4K013CA12
4K013CA16
4K013FA04
4K070AC02
4K070AC05
4K070BA05
4K070CF01
4K070EA08
4K070EA15
4K070EA30
(57)【要約】
【課題】溶融金属の精錬において、フリップフロップノズルを備える上吹きランスから溶融金属に向けてジェットを上吹きする場合に、ジェットの流速を大きく変えることが可能な新たな技術を開示する。
【解決手段】本開示の溶融金属の精錬方法は、フリップフロップノズルを有する上吹きランスから、前記溶融金属の湯面に向けて、第1流量にて、ジェットを上吹きすること、及び、前記フリップフロップノズルを有する前記上吹きランスから、前記溶融金属の湯面に向けて、第2流量にて、ジェットを上吹きすること、を含む。前記第1流量は、前記ジェットが自励振動を起こす流量であり、前記第2流量は、前記ジェットが自励振動を起こさない流量である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属の精錬方法であって、
フリップフロップノズルを有する上吹きランスから、前記溶融金属の湯面に向けて、第1流量にて、ジェットを上吹きすること、及び
前記フリップフロップノズルを有する前記上吹きランスから、前記溶融金属の湯面に向けて、第2流量にて、ジェットを上吹きすること、を含み、
前記第1流量は、前記ジェットが自励振動を起こす流量であり、
前記第2流量は、前記ジェットが自励振動を起こさない流量である、
溶融金属の精錬方法。
【請求項2】
上吹きガスのランス前圧によって前記ジェットの流量を制御すること、を含む、
請求項1に記載の溶融金属の精錬方法。
【請求項3】
前記ランス前圧を0.3MPa以下に制御することで、前記ジェットの流量を、前記ジェットが自励振動を起こす流量に制御すること、及び
前記ランス前圧を0.4MPa以上に制御することで、前記ジェットの流量を、前記ジェットが自励振動を起こさない流量に制御すること、を含む、
請求項2に記載の溶融金属の精錬方法。
【請求項4】
前記ジェットの自励振動数が、200Hz以上である、
請求項1に記載の溶融金属の精錬方法。
【請求項5】
前記第1流量にて前記ジェットを上吹きしている際のランス高さと、前記第2流量にて前記ジェットを上吹きしている際のランス高さとが、同じである、
請求項1に記載の溶融金属の精錬方法。
【請求項6】
ランス高さが、200mm以上5000mm以下である、
請求項1に記載の溶融金属の精錬方法。
【請求項7】
前記溶融金属が、溶鉄であり、
前記ジェットが、酸素ジェットである、
請求項1~6のいずれか1項に記載の溶融金属の精錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は溶融金属の精錬方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属の精錬においては、溶融金属にジェットを吹きつけた際のスピッティング(火点から溶融金属粒が飛散すること)が問題となる。スピッティングが多いと、炉口に地金が付着して操業に支障をきたす虞があり、また、炉口から溶銑粒が飛散して歩留まりが悪化する虞がある。一方で、スピッティングを抑制するためにジェット流量を低位にした場合、生産性が悪化する虞がある。上記のスピッティングを低減するためには、上吹きランスからのジェットが溶融金属に衝突する火点の位置を動かしながら吹錬を行うことが有効である。例えば、機械的な駆動装置を用いて上吹きランスを回転・旋回させることや、2股ノズルの流量比を変えてジェットの方向を変えることがあり得る。しかしながら、これらを実現するためには設備の大幅な改造が必要である。駆動装置を使用することなくジェットを動かす方法として、ジェットを自励振動させる方法がある。ジェットを自励振動させる手段としては、特許文献1~3に開示されたようなフリップフロップノズルを採用することがあり得る。
【0003】
また、溶融金属の精錬においては、溶融金属の精錬挙動が適切なものとなるように、精錬段階ごとに、ジェットの流速を大きく変化させる場合がある。一例として、溶鉄に対して酸素ジェットを吹き付ける場合について考える。この場合、吹き付けられた酸素の一部が溶鉄中の炭素と反応してCOガスを発生させるとともに、吹き付けられた酸素の一部がCOガスと反応して二次燃焼反応を起こす。COガスの二次燃焼によって、例えば、溶鉄の温度を上昇させることができる。COガスの二次燃焼率を高めることで、鉄源としてスクラップ等を多量に採用することができ、高炉溶銑の使用比率を下げて、CO2排出原単位を低減することが可能と考えられる。ここで、二次燃焼率を高めるためには、酸素ジェットの流速を低下させることが有効である。しかしながら、酸素ジェットの流速を低下させると、酸素ジェットと溶鉄との精錬反応効率が低下する虞がある。この点、溶鉄に酸素ジェットを吹き付けて精錬を行う場合、精錬初期においては酸素ジェットの流速を低下させて二次燃焼率を高め、その後、酸素ジェットの流速を大きく増加させて精錬効率を高める、といった操業がなされる場合がある。
【0004】
ジェットの流速は、一般的に、ジェットの流量やランス高さによって制御される。具体的には、ジェット流量を下げ、ランス高さを上げることで、溶融金属に吹き付けられるジェット流速を低下させることができる。しかしながら、ジェット流速を十分に低下させるためには、ジェット流量を過度に低下させる必要があり、ランス前圧が小さくなって、逆火が生じる懸念がある。また、ランス高さについても、下げ過ぎるとランスへの地金付きリスクが増大し、上げ過ぎると炉口付近の炉壁の熱負荷が大きくなって耐火物の溶損速度が増加する懸念がある。以上の通り、従来において、ランスから上吹きされるジェットの流速は、ジェットの流量やランス高さの調整によって制御されてきたが、その制御範囲は限られる。ジェット流速の制御範囲を拡大できれば、精錬制御性を改善することが可能と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-143086号公報
【特許文献2】特開2005-113200号公報
【特許文献3】特開2019-190695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願は、溶融金属の精錬において、溶融金属に向けてジェットを上吹きする場合に、ジェットの流速の制御範囲を拡大可能な新たな技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
溶融金属の精錬方法であって、
フリップフロップノズルを有する上吹きランスから、前記溶融金属の湯面に向けて、第1流量にて、ジェットを上吹きすること、及び
前記フリップフロップノズルを有する前記上吹きランスから、前記溶融金属の湯面に向けて、第2流量にて、ジェットを上吹きすること、を含み、
前記第1流量は、前記ジェットが自励振動を起こす流量であり、
前記第2流量は、前記ジェットが自励振動を起こさない流量である、
溶融金属の精錬方法。
<態様2>
上吹きガスのランス前圧によって前記ジェットの流量を制御すること、を含む、
態様1の溶融金属の精錬方法。
<態様3>
前記ランス前圧を0.3MPa以下に制御することで、前記ジェットの流量を、前記ジェットが自励振動を起こす流量に制御すること、及び
前記ランス前圧を0.4MPa以上に制御することで、前記ジェットの流量を、前記ジェットが自励振動を起こさない流量に制御すること、を含む、
態様2の溶融金属の精錬方法。
<態様4>
前記ジェットの自励振動数が、200Hz以上である、
態様1~3のいずれかの溶融金属の精錬方法。
<態様5>
前記第1流量にて前記ジェットを上吹きしている際のランス高さと、前記第2流量にて前記ジェットを上吹きしている際のランス高さとが、同じである、
態様1~4のいずれかの溶融金属の精錬方法。
<態様6>
ランス高さが、200mm以上5000mm以下である、
態様1~5のいずれかの溶融金属の精錬方法。
<態様7>
前記溶融金属が、溶鉄であり、
前記ジェットが、酸素ジェットである、
態様1~6のいずれかの溶融金属の精錬方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、溶融金属の精錬において、溶融金属に向けてジェットを上吹きする場合に、ジェットの流速の制御範囲を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】溶融金属の精錬における上吹きランスと溶融金属とジェットとの位置関係の一例を概略的に示している。また、自励振動の有無とジェット流速との関係を説明している。
【
図2】上吹きランスに備えられるフリップフロップノズルの構成の一例を概略的に示している。
【
図3】フリップフロップノズルを備える上吹きランスにおける上吹きガスのランス前圧と、ジェットの最大流速平均値との関係を示すグラフである。
【
図4】フリップフロップノズルを備える上吹きランスにおける上吹きガスのランス前圧と、二次燃焼率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.溶融金属の精錬方法
図1に、溶融金属の精錬における上吹きランスと溶融金属とジェットとの位置関係の一例を概略的に示す。また、
図2に、上吹きランスに備えられるフリップフロップノズルの構成の一例を概略的に示す。
図1及び2に示されるように、一実施形態に係る溶融金属の製造方法は、フリップフロップノズル10を有する上吹きランス100から、前記溶融金属20の湯面20xに向けて、第1流量にて、ジェット30を上吹きすること、及び、前記フリップフロップノズル10を有する前記上吹きランス100から、前記溶融金属20の湯面20xに向けて、第2流量にて、ジェット30を上吹きすること、を含む。ここで、前記第1流量は、前記ジェット30が自励振動を起こす流量であり、前記第2流量は、前記ジェット30が自励振動を起こさない流量である。
【0011】
1.1 上吹きランス
上吹きランス100は、少なくとも1つのフリップフロップノズル10を備える。
図2に示されるように、フリップフロップノズル10は、スロート部10aを備える。スロート部10aは、ガスの流れ方向に直交する断面の開口形状が長方形状であってもよい。
図2に示されるように、フリップフロップノズル10は、スロート部10aよりも下流側、かつ、スロート部10aの2つの長辺側において、ジェットが側壁に付着する性質(コアンダ効果)を利用するための振動用側壁10dを各々有しており、各々の振動用側壁10dの上流側に開口部10cが設けられ、開口部10c同士が連結管10gで接続されることでジェットを自励振動させる機能を有するものである。すなわち、ジェットが2つの振動用側壁10dの片方にコアンダ効果によって付着した後、付着した側の開口部10cの圧力が低下し、圧力差によって連結管10g内に流れが発生することでジェットが片方の振動用側壁10dから剥がれ、もう片方の振動用側壁10dに付着することを繰り返す。つまり、
図2に白抜き矢印で示されるように、フリップフロップノズル10から噴出するジェット30は、スロート部10aの長辺側の2つの振動用側壁10d、10dの間で自励振動する。
【0012】
特許文献1~3に開示されているようにフリップフロップノズルの基本構造については公知である。上吹きランス100においても、基本構造としては、公知のフリップフロップノズルと同様の構成を採用すればよい。例えば、フリップフロップノズル10の各々のスロート部10aが短辺及び長辺を有する長方形状の開口形状を有することで、ジェットの自励振動が可能である。特に、上記短辺と長辺とのアスペクト比が2以上である場合に、ジェットを自励振動させ易い。当該アスペクト比の上限は特に限定されるものではないが、例えば、20以下であってもよい。
【0013】
図2に示されるように、フリップフロップノズル10は、スロート部10aのほか、当該スロート部10aよりも上流側に末細部10eを有していてもよく、当該スロート部10aよりも下流側に末広部10b、開口部10c及び振動用側壁10dを有していてもよい。末広部10bは適宜省略してもよい。末細部10eにおける上流から下流に向かっての開口面積の縮小率や末細部10eの長さ、スロート部10aの長さ、末広部10bにおける上流から下流に向かっての開口面積の拡大率や末広部10bの長さ、開口部10cの大きさ、振動用側壁10dにおいて上流から下流に向かっての拡大率や振動用側壁10dの長さ等については、フリップフロップノズル10として機能し得るものであれば特に限定されない。
図2に示されるように、スロート部10aから振動用側壁10dに向かって、開口形状の短辺のみ拡大していてもよい。すなわち、スロート部10aの開口形状のアスペクト比が、スロート部10aよりも下流側の開口形状のアスペクト比よりも小さくてもよい。
【0014】
尚、上吹きランス100に対して複数のフリップフロップノズル10を設置する場合は、ランス100における冷却水流路等との兼ね合いもあって、ノズル10の設置個所について自ずと制約を受ける。例えば、あまりに多くのノズル10を設けることや、あまりに大きなノズル10を設けることは、ランス100におけるフリップフロップノズル10の設置の制約上、不可能である。この点、スロート部10aの大きさ等は、ランス100への設置の制約を考慮して、適当な大きさに設定されればよい。
【0015】
上述の通り、フリップフロップノズル10は、ジェット30を自励振動させるための連結管10g等を有する。ここで、ジェット30の自励振動数は、連結管10gの長さや太さによって変化し得る。例えば、連結管10gが長いほど、ジェット30の自励振動数が小さくなる。また、連結管10gが太いほど、ジェット30の自励振動数が小さくなる。
【0016】
上吹きランス100に備えられるフリップフロップノズル10の数の上限は、フリップフロップノズル10として機能させることが可能な数であればよい。フリップフロップノズル10の数が多過ぎると、上吹きガスの圧力の減衰が大きくなることから、上吹きガスの供給圧力を過剰に高圧とする必要がある。また、上吹きランス100における設置の制約上、上吹きランス100に設置可能なフリップフロップノズル10の数には自ずと上限がある。上吹きランス100に備えられるフリップフロップノズル10の数は、1以上であり、2以上又は3以上であってもよく、また、8以下、7以下又は6以下であってもよい。
【0017】
上吹きランス100において、フリップフロップノズル10以外の構成については従来と同様としてもよい。例えば、上吹きランス100の全体としての形状は、柱状であってよい。具体的には、円柱状であってもよいし、角柱状であってもよいし、テーパーを有するような柱状であってもよい。
【0018】
上吹きランス100の下面は、ランス中心軸に沿って下向きに凸となるような形状であってもよいし、或いは、平面状であってもよい。ランス中心軸に沿って下向きに凸となる形状の具体例としては、例えば、錐状が挙げられる。この場合、錐の中心軸をランス中心軸と一致させてもよい。例えば、上吹きランス100が円柱状である場合、ランス100の下面は、下向きに凸となる円錐状であってもよい。上吹きランス100の下面が錐状である場合、その頂角は特に限定されるものではない。
【0019】
1.2 溶融金属
精錬対象である溶融金属20の種類は、特に限定されるものではない。溶融金属20は、例えば、溶鉄であってもよいし、溶鉄以外の溶融金属であってもよい。例えば、溶融金属20が溶鉄であり、後述のジェット30が酸素ジェットである場合、本実施形態に係る精錬方法によって、当該溶鉄の脱炭等を行うことができる。溶鉄は、例えば、高炉溶銑等の溶銑であってもよいし、スクラップや還元鉄等のその他の鉄源からなるものであってもよいし、これら溶銑や鉄源を含むものであってもよい。溶融金属20の精錬時、溶融金属20の湯面20xには、スラグ等が存在していてもよい。
【0020】
1.3 ジェット
本実施形態に係る精錬方法においては、ジェット30が、溶融金属20の湯面に向けて上吹きされる。
図2に示されるように、溶融金属の精錬においては、例えば、上吹きランス100の内部において、ガス供給路10fからフリップフロップノズル10の末細部10eへと上吹きガスが流れ込む。当該上吹きガスは、スロート部10a、末広部10b、開口部10c及び振動用側壁10dを経て上吹きランス100のノズル吹出口からジェット30として噴出し、炉内の溶融金属20の湯面20xに衝突する等して火点が生じる。この際、フリップフロップノズル10から噴出したジェット30が上記のメカニズムで自励振動することによって、火点の位置が経時的に移動する。フリップフロップノズル10からのジェット30の噴出方向は、特に限定されるものではない。
【0021】
本発明者の知見によると、フリップフロップノズル10を用いてジェット30を上吹きする場合、ジェット30の流量が相対的に少ないときに、ジェット30が自励振動を起こす。また、本発明者の知見によると、ジェット30が自励振動を起こす場合、ジェット30の勢いが弱くなり、ジェット30が減速し易くなる。すなわち、ノズル吹出口の径が同じで、かつ、ジェットの流量(ランス前圧)が同じであるものと仮定すると、ジェット30を自励振動させた場合のほうが、ジェット30を自励振動させなかった場合よりも、ジェット30の流速が低下する。例えば、フリップフロップノズルを備えない上吹きランスを用いた場合(ジェットの自励振動が起こらない上吹きランスを用いた場合)、ランス前圧を過度に低下させることでようやく達成できるジェット流速の超低速化が、ジェット30を自励振動させることで、ランス前圧を過度に低下させることなく可能となる。
【0022】
また、本発明者の知見によると、フリップフロップノズル10を用いてジェット30を上吹きする場合、ジェット30の流量が一定以上となると、ジェット30が自励振動を起こさなくなる。上述の通り、ノズル吹出口の径が同じで、かつ、ジェットの流量(ランス前圧)が同じであるものと仮定すると、ジェット30を自励振動させた場合のほうが、ジェット30を自励振動させなかった場合よりも、ジェット30の流速が小さくなる。言い換えれば、フリップフロップノズル10を用いてジェット30を上吹きする場合において、ジェット30が自励振動を起こさない域にまでジェット30の流量を増加させた場合、ジェット30の流速が顕著に増加するといえる。
【0023】
以上の知見をまとめると、ジェット30の流速を低下させたい場合は、ジェット30の流量を低下させるだけでなく、ジェット30を自励振動させることで、流速低下量が大きくなるといえる。一方、ジェット30の流速を増加させたい場合は、ジェット30の流量を増加させるだけでなく、ジェット30を自励振動させないことで、流速増加量が大きくなるといえる。上記知見に基づき、本実施形態に係る精錬方法は、フリップフロップノズル10を有する上吹きランス100から、前記溶融金属20の湯面20xに向けて、ジェット30が自励振動を起こす第1流量にて、ジェット30を上吹きすること、及び、ジェット30が自励振動を起こさない第2流量にて、ジェット30を上吹きすること、を含むものとしている。すなわち、本実施形態に係る精錬方法においては、相対的にジェット流量が少なく、かつ、ジェット流速低減効果が大きい自励振動発生域における流量(第1流量)と、相対的にジェット流量が多く、かつ、ジェット流速増加効果が大きい自励振動非発生域における流量(第2流量)とで、ジェット30の流量を変化させることで、ジェットの流速を大きく変化させることができる。
【0024】
本実施形態に係る精錬方法においては、例えば、上吹きランス100に供給される上吹きガスのランス前圧によってジェット30の流量を制御することができる。具体的には、本実施形態に係る精錬方法は、前記ランス前圧を0.3MPa以下に制御することで、前記ジェット30の流量を、前記ジェット30が自励振動を起こす流量(第1流量)に制御すること、及び、前記ランス前圧を0.4MPa以上に制御することで、前記ジェット30の流量を、前記ジェット30が自励振動を起こさない流量(第2流量)に制御すること、を含んでいてもよい。ジェット30の流量を第1流量に制御する場合のランス前圧は、0.1MPa以上0.3MPa以下、又は、0.2MPa以上0.3MPa以下であってもよい。また、ジェット30の流量を第2流量に制御する場合のランス前圧は、0.4MPa以上1.0MPa以下、又は、0.4MPa以上0.8MPa以下であってもよい。尚、「ランス前圧」とは、上吹きランス100へと供給された上吹きガスがフリップフロップノズル10へと到達する際のノズル入口圧(ランス内の上吹きガス供給路10fにおける上吹きガスの圧力)である。
【0025】
本発明者の知見によると、ジェット30の自励振動数が増加するほど、ジェット30の流速低減効果が大きくなる。特に、ジェット30の自励振動数が200Hz以上である場合に、流速低減効果が一層顕著となる。本実施形態に係る精錬方法において、ジェット30の自励振動数は、200Hz以上、250Hz以上、300Hz以上、350Hz以上又は400Hz以上であってもよく、500Hz以下、450Hz以下、400Hz以下、350Hz以下、300Hz以下又は250Hz以下であってもよい。
【0026】
上述の通り、ジェット30は、その流量が制御されることで、その流速が大きく変化し得る。フリップフロップノズル10の流路内における上吹きガスの流速は、例えば、超音速となっていてもよい。具体的には、フリップフロップノズル10のスロート部10aよりも下流側において、上吹きガスの流速が超音速となり得る。
【0027】
本実施形態に係る精錬方法において、ジェット30の種類は、特に限定されるものではない。ジェット30は、例えば、酸素ジェットであってもよいし、酸素ジェット以外のジェットであってもよい。酸素ジェットとは、酸素を含むジェットをいう。
【0028】
1.4 その他
本実施形態に係る精錬方法において、上述の上吹きランス100と溶融金属20の湯面20xとの位置関係は、精錬を適切に実施できる限りにおいて、特に限定されるものではない。溶融金属20の湯面20xから上吹きランス100のノズル吹出口(フリップフロップノズル10の出口)までの高さは、溶融金属の精錬において通常採用される高さと同様であってよい。例えば、本実施形態に係る精錬方法において、ランス高さ(溶融金属20の湯面20xから上吹きランス100のノズル吹出口までの高さ)は、200mm以上5000mm以下であってもよい。下限は、250mm以上であってもよく、上限は、4000mm以下、3000mm以下、2000mm以下、1000mm以下、750mm以下、500mm以下、400mm以下、又は、350mm以下であってもよい。
【0029】
本実施形態に係る精錬方法によれば、ランス高さを変更せずとも、ジェット30の流速を大きく変化させることができる。すなわち、本実施形態に係る精錬方法においては、前記第1流量にて前記ジェット30を上吹きしている際のランス高さと、前記第2流量にて前記ジェット30を上吹きしている際のランス高さとが、同じであってもよい。
【0030】
本実施形態に係る精錬方法において採用される精錬炉の種類は、特に限定されるものではない。精錬炉は、溶製すべき溶融金属20の種類や量等に応じて、適切な炉が選択されればよい。精錬炉は、例えば、転炉であってもよいし、電気炉であってもよいし、これら以外の炉であってもよい。転炉は、上吹き転炉及び上底吹き転炉のいずれであってもよい。
【0031】
2.精錬用上吹きランス
本開示の技術は精錬用上吹きランスとしての側面も有する。すなわち、
図1及び2に示されるように、一実施形態に係る精錬用上吹きランス100は、フリップフロップノズル10を備える。精錬用上吹きランス100は、ガス吹出口から上吹きされるジェット30の流量を制御する、制御部を備える。精錬用上吹きランス100は、制御部によってジェット30の流量が制御されることで、ジェット30を自励振動させつつ第1流量にて上吹きする第1モードと、ジェット30を自励振動させずに第2流量にて上吹きする第2モードとを切り替え可能に構成されている。制御部は、例えば、上吹きガスのランス前圧を制御することで、ジェット30の流量を制御するものであってもよい。具体的には、制御部は、前記ランス前圧を0.3MPa以下に制御することで、前記ジェット30の流量を、前記ジェット30が自励振動を起こす第1流量に制御し、かつ、前記ランス前圧を0.4MPa以上に制御することで、前記ジェット30の流量を、前記ジェット30が自励振動を起こさない第2流量に制御するものであってもよい。また、精錬用上吹きランス100は、ジェット30の自励振動数が200Hz以上となるように構成されていてもよい。上述の通り、ジェット30の自励振動数は、フリップフロップノズル10の連結管10gの長さや太さによって決定され得る。上吹きランス100の構成そのものは、上述の通りであり、ここでは詳細な説明を省略する。
【0032】
3.作用・効果
本実施形態に係る精錬方法によれば、フリップフロップノズル10を有する上吹きランス100を用い、ジェット30が流速増加とともに自励振動する状態から自励振動しなくなる状態に移行する現象を応用して、ジェット30の流速を大きく変化させることができる。すなわち、溶融金属に向けてジェットを上吹きする場合に、ジェットの流速の制御範囲を拡大可能である。本実施形態に係る精錬方法においては、ランス高さを変更せずとも、ジェットの流速を容易に大きく変化させることができる。例えば、本実施形態に係る精錬方法においては、精錬段階に応じて、ジェットの流速を最適なものに変化させることも可能である。
【実施例0033】
以下、実施例を示しつつ本開示の技術による効果等について、より詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
1.自励振動とジェット流速との関係
ジェットが自励振動する場合と自励振動しない場合とで、ジェットの流速の違いを評価した。
【0035】
先端にフリップフロップノズルを1つ有する単孔ランスに酸素を流し、ジェットの流速を熱線流速計で測定した。ここで、転炉などの精錬設備のランスは、ノズル内に飛散粒鉄などが入り込むことを抑制するため、ガスがスロートでチョークする超音速条件にて使用することが一般的であり、本検討においても、超音速条件にて実験を行った。
【0036】
本実施例で採用したフリップフロップノズルのスロート部の断面形状は、長辺が36mm、短辺が2.7mmの長方形である。その他の構成についてはフリップフロップノズルの既報文献を参考に、ジェットがスロート部でチョークする超音速となるようにした。ここで、連結管形状を調整して、ジェットの自励振動数が100Hzとなるように構成された単孔ランスB、200Hzとなるように構成された単孔ランスC、300Hzとなるように構成された単孔ランスD、400Hzとなるように構成された単孔ランスEを各々作製した。
【0037】
また、比較のため、上記フリップフロップノズルとノズルスロート断面積が同じである長方形ノズルを有する単孔ランスAについてもジェットの流速を測定した。すなわち、単孔ランスAから吹き出されるジェットの自励振動数は0Hzである。
【0038】
以下の実験では、ジェットがスロート部で超音速となるように、ランス前圧がゲージ圧で0.1MPa以上であり、上記スロート形状において、ランス前圧が0.1MPa以上となる、酸素流量2.0~8.0Nm3/minにて測定を行った。尚、超音速条件では、同一ランスで酸素流量を変更しても、自励振動が発生した際の自励振動数は一定であることを事前に確認している。
【0039】
ランスから吹き出されるジェットの流速は、熱線流速計によって測定した。熱線流速計はノズル中心軸上のジェット下流側、かつ、ノズル吹出口から300mm離れたランス中心軸と垂直な平面位置に10mm間隔でジェットが通過する範囲に設置し、自励振動しないジェットの最大流速(単孔ランスAの場合)や、自励振動によって常に位置が動くジェットの最大流速(単孔ランスB~Gの場合)を測定し、その時間平均値を求めた。
【0040】
図3に、単孔ランスA~Eの各々から吹き出されるジェットの最大流速の平均値と、ランス前圧との関係を示す。
図3に示されるように、単孔ランスAを用いた場合、ランス前圧が増加するにつれて、単調にジェットの流速が増加した。一方、フリップフロップノズルを有する単孔ランスB~Eを用いた場合、酸素流量が小さい条件では、ジェットが自励振動したが、酸素流量が増加しランス前圧が0.3~0.4MPa付近を境にジェットの自励振動が生じなくなり、自励振動数によって程度の差異はあるものの、自励振動の発生有無の境の流量前後でジェット流速が大きく変化することが分かった。ここで、自励振動の発生有無はジェット流速の最大位置の時間変化から判断した。
【0041】
自励振動数100Hzの単孔ランスBを用いた場合、自励振動しない単孔ランスAを用いた場合と比べて、自励振動が発生しているランス前圧0.3MPa以下にて、ジェット流速がわずかに低下した。自励振動数200Hz以上の単孔ランスC~Eを用いた場合、自励振動しない単孔ランスAを用いた場合と比べて、自励振動が発生しているランス前圧0.3MPa以下にて、ジェット流速が大幅に低下し、その低下の程度は自励振動数が大きいほど大きくなった。自励振動数が大きくなるほど、自励振動によってジェットの振動方向の移動が速くなり、その分、ジェットの勢いが弱くなり、流速が低下したと考えられる。
【0042】
以上の通り、フリップフロップノズルを有する上吹きランスからジェットを上吹きする場合、ジェットが自励振動を起こす低流量領域と、ジェットが自励振動を起こさなくなる高流量領域とで、ジェットの流速が大きく変化することがわかった。
【0043】
尚、自励振動を止める方法としては、特開2005-113200号公報に開示されているように、連結ダクトに調節弁を設け、それを閉じて連結ダクトを無効化して振動を止める方法もあるが、上吹きランスの中に設置された連結ダクトの調節弁を開閉することは非常に困難である。この点、上記実施例のように、自励振動の発生と停止の制御は、ガス流量を変更して行うとよい。
【0044】
2.実機試験
以下、2.5t上底吹き転炉での実施例を示す。
【0045】
2.1 二次燃焼率評価
2.5t上底吹き転炉に、脱りん後の溶銑2.0tを装入した。溶銑に対して塊生石灰等のフラックスを添加後、上吹きランスを用いて酸素を溶銑に上吹きして脱炭吹錬を行い、二次燃焼率の制御性について評価した。上吹きランスは上述の流速測定で用いたのと同じ単孔ランスA~Eを用いた。吹錬時の上吹きランスの高さ(溶銑の湯面からランスのノズル吹出口までの高さ)は300mmとし、ノズルスロートにおいて上吹きガスが超音速となる条件にて酸素を上吹きし、溶銑とスラグとをサンプラーで随時採取してその組成を分析し、供給した酸素ガス量と、サンプリングした溶銑及びスラグ組成とでマスバランスをとって二次燃焼率を求めた。ランス前圧及び酸素流量を変更しつつ、同様の操作を行った。
【0046】
図4に、ランス前圧と二次燃焼率との関係を示す。
図4に示されるように、単孔ランスAを用いた場合、ランス前圧が増加して酸素流量が増加するにつれて、単調に二次燃焼率が低下した。一方、単孔ランスB~Eを用いた場合、自励振動が発生しているランス前圧が0.3MPa以下となる酸素流量条件では、自励振動しない単孔ランスAを用いた場合に比べて、二次燃焼率が上昇する傾向が得られ、ランス前圧を増加させたときの二次燃焼率の低下代は、自励振動数が大きいほど大きくなった。言い換えれば、単孔ランスAを用いた場合においてランス前圧を過度に低下させることでようやく達成できる二次燃焼率が、単孔ランスB~Eを用いた場合は、ランス前圧を過度に低下させることなく実現可能であった。以上の通り、単孔ランスのB~E、特にC~Eを用いて酸素流量を変化させた場合、二次燃焼率を大きく変化させることができた。
【0047】
2.2 実操業での評価
2.5t上底吹き転炉に、スクラップ0.40tと、脱りん処理済の炭素濃度3.6質量%、温度1350℃の溶銑1.60tとを装入し、カバースラグ用フラックスとして、20kgの塊生石灰と、6kgの珪石と、2kgのMgO粒とを添加後、上吹きランスを用いて酸素を溶銑に上吹きして脱炭吹錬を行い、炭素濃度0.05~0.08質量%、温度1650~1660℃の溶鋼を溶製した。
【0048】
上吹きランスとしては、上記の流速測定で用いたのと同じ単孔ランスA~C及びEを用いた。具体的には、比較例1、2では、単孔ランスAである長方形ノズルランスを用い、比較例3及び実施例1~3においては、フリップフロップを有する単孔ランスB、C又はEを用いた。
【0049】
比較例1では、上吹き酸素流量を6.0Nm3/min一定とし、ランス高さは、吹錬開始後から8min間は二次燃焼率が60%と高位になるよう1000mmと高くし、その後は300mmまで下げ、炭素濃度0.05~0.08質量%、温度1650~1660℃の溶鋼が得られるまで吹錬を行った。
【0050】
比較例2及び実施例1~3では、ランス高さは300mm一定とし、上吹き酸素流量は、吹錬開始後8min間は二次燃焼率を上げるために酸素流量を3.0Nm3/minと低流量とし、またランス前圧は0.3MPa以下とし、単孔ランスB、C、Eの場合はジェットが自励振動する条件とした。その後、酸素流量を6.0Nm3/minとし、ランス前圧を0.4MPa以上として、単孔ランスB、C、Eについても自励振動しない条件にて脱炭吹錬を行い、炭素濃度0.05~0.08質量%、温度1650~60℃の溶鋼が得られるまで吹錬を行った。
【0051】
比較例3では、ランス高さは300mm一定とし、上吹き酸素流量はランス前圧が0.3MPa以下でジェットが自励振動する流量となる3.0Nm3/min一定で、炭素濃度0.05~0.08質量%、温度1650~60℃の溶鋼が得られるまで吹錬を行った。
【0052】
吹錬途中にサブランスを使用して、測温するとともに、C濃度を測定し、温度不足になると見込まれた場合は土壌黒鉛を添加して熱源を補った。吹錬後のスラグ中(T.Fe)濃度は28~32質量%の範囲内の結果のみを評価に用い、この範囲外の結果については評価から除外した。評価は同条件の3ヒート分の結果を平均して行った。結果を下記表1に示す。
【0053】
【0054】
比較例1においては、吹錬開始後8min間の二次燃焼率を60%にまで高められ、その燃焼熱が溶銑温度の上昇に寄与し、土壌黒鉛添加量が15kgと比較的少量で済んだが、炉口耐火物が大きく溶損した。比較例1においては、吹錬前半にランス高さを高くして二次燃焼率を上げ、ランス先端から浴面間の二次燃焼領域が、炉内径が小さい炉口部に近接したことにより、炉口耐火物が大きく溶損したと考えられる。
【0055】
比較例2においては、吹錬開始後8min間の二次燃焼率が約40%であり、二次燃焼率を十分に高められず、目標とする温度、炭素濃度の溶鋼を溶製するために、熱源として、土壌黒鉛を34kgと大量に添加することが必要となった。
【0056】
比較例3においては、吹錬開始後8min間において、ジェットを200Hzにて自励振動させて、ジェットの流速を大きく低下させることで、二次燃焼率を51%に高めることができた。これにより、土壌黒鉛を添加せずに目標とする温度、炭素濃度の溶鋼を溶製することができた。しかしながら、溶鋼温度が高くなる吹錬後半も含めて、常に高二次燃焼率で吹錬を行ったため、炉腹の耐火物が大きく溶損した。
【0057】
実施例1においては、吹錬開始後8min間において、ジェットを100Hzにて自励振動させることで、比較例2と比べて、二次燃焼率を高めることができた。結果として、目標とする温度及び炭素濃度の溶鋼を溶製するために必要となる土壌黒鉛の量を、比較例2と比べて、減らすことができた。
【0058】
実施例2においては、吹錬開始後8min間において、ジェットを200Hzにて自励振動させて、ジェットの流速を大きく低下させることで、吹錬開始後8min間の二次燃焼率が51%と高位となり、その後に自励振動が発生しない領域にまでジェット流量を増加させて二次燃焼率を低下させたとしても、10kgの土壌黒鉛の添加で目標とする温度、炭素濃度の溶鋼を溶製することができた。また、温度の比較的低い吹錬前半に限って二次燃焼率を高めたため、耐火物溶損を小さく抑えることができた。
【0059】
実施例3においては、吹錬開始後8min間において、ジェットを400Hzにて自励振動させて、ジェットの流速を大きく低下させることで、吹錬開始後8min間の二次燃焼率が67%と高位となり、その後に自励振動が発生しない領域にまでジェット流量を増加させて二次燃焼率を低下させたとしても、土壌黒鉛を添加することなく、目標とする温度、炭素濃度の溶鋼を溶製することができた。また、温度の比較的低い吹錬前半に限って二次燃焼率を高めたため、耐火物溶損を小さく抑えることができた。
【0060】
上記の実施例では、上底吹き転炉において溶銑の脱炭精錬を行う場合を例示したが、炉の種類、溶融金属の種類及び精錬の種類については、これに限定されるものではない。本開示の技術は、溶融金属の湯面に向けてジェットを上吹きする種々の精錬処理に適用可能である。
【0061】
4.まとめ
以上の結果から、溶融金属の精錬方法によれば、溶融金属に向けてジェットを上吹きする場合に、ジェットの流速の制御範囲を拡大することができる。すなわち、本開示の溶融金属の精錬方法は、フリップフロップノズルを有する上吹きランスから、前記溶融金属の湯面に向けて、第1流量にて、ジェットを上吹きすること、及び、前記フリップフロップノズルを有する前記上吹きランスから、前記溶融金属の湯面に向けて、第2流量にて、ジェットを上吹きすること、を含む。前記第1流量は、前記ジェットが自励振動を起こす流量であり、前記第2流量は、前記ジェットが自励振動を起こさない流量である。