(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135117
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ブロックの製造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 1/18 20060101AFI20240927BHJP
B22C 1/10 20060101ALI20240927BHJP
B22C 9/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B22C1/18
B22C1/10 A
B22C9/02 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045648
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】永井 康弘
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 正幸
【テーマコード(参考)】
4E092
【Fターム(参考)】
4E092AA15
4E092BA04
4E092BA12
(57)【要約】
【課題】粘結剤の熱分解ガスが発生しにくく、実用的な強度のブロックを製造できるブロックの製造方法の提供。
【解決手段】耐火性粒状材料と、リン酸二水素ナトリウムと、水とを含む混合物を成形型に充填し、100~250℃に加熱処理して一次ブロックを得る第一の熱処理工程と、前記一次ブロックを400℃以上に加熱処理する第二の熱処理工程と、を有する、ブロックの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性粒状材料と、リン酸二水素ナトリウムと、水とを含む混合物を成形型に充填し、100~250℃に加熱処理して一次ブロックを得る第一の熱処理工程と、
前記一次ブロックを400℃以上に加熱処理する第二の熱処理工程と、
を有する、ブロックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳造用鋳型(以下、単に「鋳型」ともいう。)の一つとして自硬性鋳型が知られている。自硬性鋳型とは、例えば珪砂等の耐火性粒状材料に、粘結剤と硬化剤とを添加、混練した後、得られた混練砂を木型、樹脂型又は金型(以下、これらを総称して「成形型」ともいう。)に充填し、粘結剤を硬化させる方法で製造されているものである。
しかし、上記の方法では鋳型と同形状の成形型が必要であり、複雑な形状の鋳型を製造する場合には成形型の作製に手間がかかる。また、成形型の数を増やして複雑な形状の鋳型を製造する場合もあるが、成形型の数を増やすことは工程の煩雑化の原因となる。また、複雑な形状の成形型を作製したり、成形型の数を増やしたりすることができても、鋳型を成形型から外すことができなければ、鋳型を製造することはできない。
【0003】
そこで、粘結剤の硬化により混練砂を単純な形状、例えば直方体等のブロック状に固化した後、所望の形状に切削加工して鋳型を製造する方法が提案されている。
例えば特許文献1には、炭酸ガス硬化用アルカリフェノール樹脂とエポキシ化合物の混合物を粘結剤として用いて混練砂をブロック状に固化し、得られたブロックを切削加工して鋳型を製造する方法が開示されている。
特許文献2には、エステル硬化用アルカリフェノール樹脂及びその硬化剤からなる粘結剤を用いて混練砂をブロック状に固化し、得られたブロックを切削加工して鋳型を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3923749号公報
【特許文献2】特許第6489394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載のように、アルカリフェノール樹脂等の有機粘結剤を用いて得られた鋳型は、鉄、銅、アルミニウム等の金属を高温で溶かした液体を注湯して鋳物を製造する際に、有機粘結剤が熱分解してガス(熱分解ガス)が発生しやすく、鋳物に欠陥が生じたり、作業環境が悪化したりしやすい。注湯温度が高いほど、有機粘結剤が熱分解しやすく、ガスが発生しやすい傾向にある。
有機粘結剤の使用量を減らせば注湯時のガス発生量を削減できるが、鋳型の強度が低下してしまう。
【0006】
本発明は、粘結剤の熱分解ガスが発生しにくく、実用的な強度のブロックを製造できるブロックの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 耐火性粒状材料と、リン酸二水素ナトリウムと、水とを含む混合物を成形型に充填し、100~250℃に加熱処理して一次ブロックを得る第一の熱処理工程と、
前記一次ブロックを400℃以上に加熱処理する第二の熱処理工程と、
を有する、ブロックの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粘結剤の熱分解ガスが発生しにくく、実用的な強度のブロックを製造できるブロックの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】例9~11におけるガス発生量の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ブロックの製造方法]
以下、本発明のブロックの製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態のブロックの製造方法は、耐火性粒状材料と、リン酸二水素ナトリウムと、水とを含む混合物を成形型に充填し、100~250℃に加熱処理して一次ブロックを得る第一の熱処理工程と、一次ブロックを400℃以上に加熱処理する第二の熱処理工程とを有する。
【0011】
<混合物>
混合物は、耐火性粒状材料と、リン酸二水素ナトリウムと、水とを含む。
混合物は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、耐火性粒状材料、リン酸二水素ナトリウム及び水以外の成分(以下、「任意成分」ともいう。)を含んでいてもよい。
【0012】
(耐火性粒状材料)
耐火性粒状材料としては、砂、セラミック、金属などが挙げられる。
これらの耐火性粒状材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
砂としては、珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、非晶質シリカ、アルミナ砂、ムライト砂等の天然砂;人工砂などが挙げられる。また、使用済みの人工砂や天然砂を回収したもの(回収砂)や、これらを再生処理(焙焼再生、研磨など乾式再生)したもの(再生砂)なども使用できる。これらの砂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
人工砂は、一般的にボーキサイトを原料とし、溶融法(アトマイズ法)、焼結法、火炎溶融法のいずれかの方法で得られる。溶融法、焼結法、火炎溶融法の具体的な条件等は特に限定されず、例えば特開平5-169184号公報、特開2003-251434号公報、特開2004-202577号公報等に記載された公知の条件等を用いて人工砂を製造すればよい。
金属としては、ニッケル、コバルト、モリブデン、鉄、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅などが挙げられる。これらの金属は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
耐火性粒状材料の平均粒子径は10~600μmが好ましく、50~600μmがより好ましく、65~550μmがさらに好ましく、75~500μmが特に好ましい。耐火性粒状材料の平均粒子径が上記下限値以上であれば、強度の高いブロックが得られる。耐火性粒状材料の平均粒子径が上記上限値以下であれば、本発明により得られるブロックをそのまま鋳型として用いる、又はブロックを切削加工して鋳型として用いる場合、この鋳型を用いて鋳造される鋳物の表面性に優れる。
耐火性粒状材料の平均粒子径は、動的光散乱法により測定した耐火性粒状材料の体積分布基準での累積頻度50%に相当する粒子径(メジアン径)である。
【0015】
耐火性粒状材料は、得られるブロックの使用目的に応じて選択される。例えば、ブロックをそのまま鋳型として用いる、又はブロックを切削加工して鋳型として用いる場合、耐火性粒状材料としては砂が適している。天然砂は人工砂に比べて安価であるため、製造コストを抑える観点では、天然砂を単独又は人工砂と混合して用いるのが好ましく、鋳型の耐火度も考慮するのであれば、天然砂と人工砂とを混合して用いるのが好ましい。
なお、鋳型は鋳物を鋳造するための型であり、鋳造後は鋳物を取り出すために解体される。すなわち、鋳物を最終目的物(最終製品)とすると、鋳型は最終的に壊される前提のものである。
一方、ブロックが最終目的物(最終的に壊されることを前提としていないもの)である場合、耐火性粒状材料としては金属が適している。
本明細書において、砂を用いて得られたブロックを特に「砂ブロック」ともいい、金属を用いて得られたブロックを「金属ブロック」ともいう。
【0016】
(リン酸二水素ナトリウム)
リン酸二水素ナトリウムは、無機粘結剤である。
リン酸二水素ナトリウムは、加熱脱水縮合によりポリマー化して、縮合リン酸ナトリウムやポリリン酸ナトリウムを生成する。後述の第二の熱処理工程によりリン酸二水素ナトリウムがポリマー化することで生成した縮合リン酸ナトリウムやポリリン酸ナトリウム等の無機物のネットワークが、効率的に形成される。その結果、耐火性粒状材料同士を十分に粘結する。
リン酸二水素ナトリウムは、水和物であってもよいし、無水物であってもよい。
【0017】
(混合物の製造方法)
混合物は、耐火性粒状材料と、リン酸二水素ナトリウムと、水と、必要に応じて任意成分とを混練することで得られる。
耐火性粒状材料が砂の場合、混合物を「混練砂」ともいう。
【0018】
混合物中のリン酸二水素ナトリウムの含有量は、耐火性粒状材料100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましく、0.5~3質量部がより好ましく、1~2質量部がさらに好ましい。リン酸二水素ナトリウムの含有量が上記下限値以上であれば、実用的な強度のブロックが得られやすくなる。リン酸二水素ナトリウムの含有量が上記上限値以下であれば、実用的な崩壊性を有するブロックが得られやすくなる。
混合物中の水の含有量は、耐火性粒状材料100質量部に対して、0.15~7.5質量部が好ましく、0.75~4.5質量部がより好ましく、1.5~3質量部がさらに好ましい。水の含有量が上記下限値以上であれば、リン酸二水素ナトリウムが十分に溶解し、耐火性粒状材料に含浸する。よって、後述の第一の熱処理工程において水が蒸発してリン酸二水素ナトリウムが固化することで、耐火性粒状材料同士が適度に結合する。水の含有量が上記上限値以下であれば、第一の熱処理工程における処理時間の遅延を防ぐことができる。
【0019】
リン酸二水素ナトリウムは、水に溶解させて水溶液(以下、「リン酸二水素ナトリウム水溶液」ともいう。)の状態で用いてもよい。すなわち、耐火性粒状材料と、リン酸二水素ナトリウム水溶液と、必要に応じて任意成分とを混練して混合物を調製してもよい。
リン酸二水素ナトリウム水溶液の総質量に対するリン酸二水素ナトリウムの含有量は10~70質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。
【0020】
また、耐火性粒状材料は、その表面がリン酸二水素ナトリウムで被覆された状態で用いてもよい。すなわち、耐火性粒状材料にリン酸二水素ナトリウムが被覆された被覆材料と、水と、必要に応じて任意成分とを混練して混合物を調製してもよい。
耐火性粒状材料は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、リン酸二水素ナトリウムに加えて、必要に応じて先に例示した任意成分が被覆されていてもよい。
被覆材料におけるリン酸二水素ナトリウムの割合は、耐火性粒状材料100質量部に対して、0.1~5質量部となる量が好ましく、より好ましくは0.5~3質量部であり、さらに好ましくは1~2質量部である。
【0021】
被覆材料は、例えば加熱した耐火性粒状材料に、リン酸二水素ナトリウムと、必要に応じて任意成分とを含む溶液(以下、「溶液(α)」ともいう。)を添加することで得られる。
なお、リン酸二水素ナトリウム及び任意成分は、別々に耐火性粒状材料に添加してもよい。この場合、加熱した耐火性粒状材料に、リン酸二水素ナトリウムを含む溶液(以下、「溶液(α1)」ともいう。)、及び任意成分を含む溶液(以下、「溶液(α2)」ともいう。)を添加することで、被覆材料は得られる。溶液(α1)と溶液(α2)の添加の順は特に限定されず、耐火性粒状材料に溶液(α1)を添加した後に溶液(α2)を添加してもよいし、溶液(α2)を添加した後に溶液(α1)を添加してもよいし、溶液(α1)と溶液(α2)を同時に添加してもよい。
【0022】
溶液(α)、溶液(α1)、溶液(α2)に用いる溶媒としては、水、アルコール、これらの混合物などが挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2プロパノールなどが挙げられる。これらの中でも、溶媒としては水が好ましい。
溶液(α)及び溶液(α1)の総質量に対するリン酸二水素ナトリウムの合計量は、それぞれ10~55質量%が好ましく、30~40質量%がより好ましい。
【0023】
耐火性粒状材料の加熱温度は、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。耐火性粒状材料の温度が上記上限値以下であれば、リン酸二水素ナトリウムが熱分解するのを抑制できる。
特に、乾態の被覆材料を得る場合、耐火性粒状材料の加熱温度は、溶液(α)、溶液(α1)、溶液(α2)に含まれる溶媒の沸点以上であることが好ましく、具体的には100~250℃がより好ましく、100~200℃がさらに好ましく、100~150℃が特に好ましい。ただし、溶液(α)、溶液(α1)、溶液(α2)に含まれる溶媒がアルコールの場合は水に比べて低沸点であり、アルコールの沸点以下でも蒸発しやすい。そのため、耐火性粒状材料の加熱温度は上記範囲内には限らず、溶液(α)、溶液(α1)、溶液(α2)に含まれる溶媒がアルコールのときは、耐火性粒状材料の加熱温度が60℃超、100℃未満でも乾態の被覆材料が得られる場合がある。一方、湿態の被覆材料を得る場合、耐火性粒状材料の加熱温度は、溶液(α)、溶液(α1)、溶液(α2)に含まれる溶媒の沸点未満が好ましく、具体的には60℃以下がより好ましく、10~50℃がさらに好ましく、20~30℃が特に好ましい。
被覆材料は、乾態でもよいし、湿態でもよい。
【0024】
なお、湿態の被覆材料を用いて混合物を調製する場合、溶液(α)、溶液(α1)、溶液(α2)に用いる溶媒としては、水を用いることが好ましい。また、被覆材料に含まれる溶媒の量と、被覆材料に添加する水の合計量が、耐火性粒状材料100質量部に対して、0.15~7.5質量部となるように、水の添加量を調節することが好ましく、より好ましくは0.75~4.5質量部であり、さらに好ましくは1.5~3質量部である。
【0025】
<第一の熱処理工程>
第一の熱処理工程は、混合物を成形型に充填し、100~250℃に加熱処理して一次ブロックを得る工程である。
混合物を100~250℃に加熱することで、水が蒸発する。また、混合物中で水に溶解していたリン酸二水素ナトリウムが水の蒸発により固化することで、耐火性粒状材料同士が適度に結合する。
ここで、「適度に結合する」とは、一次ブロックが崩壊することなく一次ブロックを成形型から抜型できる程度に耐火性粒状材料同士が結合することを意味する。
【0026】
成形型としては特に限定されず、例えば木製の型(木型)、樹脂製の型(樹脂型)、金属製の型(金属型)などが挙げられ、第一の熱処理工程での加熱温度に応じて適宜選択して用いればよい。
【0027】
混合物の加熱温度は、100~250℃であり、120~230℃がより好ましく、130~220℃がさらに好ましく、150~200℃が特に好ましい。混合物の加熱温度が上記下限値以上であれば、水が蒸発してリン酸二水素ナトリウムが固化しやすい。混合物の加熱温度が上記上限値以下であれば、成形型が加熱により変形することを抑制できる。
混合物の加熱時間は、水が十分に蒸発する時間であれば特に制限されず、混合物の形状や大きさに応じて適宜決定すればよい。
混合物の加熱は、例えば電気炉、オーブン等の加熱装置を用いればよい。
【0028】
第一の熱処理工程で得られた一次ブロックは、成形型から抜型して第二の熱処理工程に供してもよいし、成形型が第二の熱処理工程での加熱温度に耐えられる場合は、一次ブロックを抜型せずに、そのまま第二の熱処理工程に供してもよい。
一次ブロックの取り扱い性の観点では、一次ブロックを成形型から抜型し、好ましくは25~80℃程度、より好ましくは40~80℃程度にまで冷却してから第二の熱処理工程に供することが好ましい。冷却温度が上記下限値以上であれば、一次ブロックが吸湿するのを抑制でき、取り扱い強度を良好に維持できる。冷却温度が上記上限値以下であれば、一次ブロックの取り扱い性が高まる。
冷却方法としては公知の方法を採用でき、例えば自然放冷する方法、送風を利用して強制冷却する方法などが挙げられる。
一方、エネルギー効率や作業効率の観点では、一次ブロックを成形型から抜型せずに、温度を維持した状態で第二の熱処理工程に供することが好ましい。
【0029】
<第二の熱処理工程>
第二の熱処理工程は、一次ブロックを400℃以上に加熱処理する工程である。
一次ブロックを400℃以上に加熱することで、リン酸二水素ナトリウムが脱水縮合反応によりポリマー化して、縮合リン酸ナトリウムやポリリン酸ナトリウム等の無機物のネットワークが形成され、耐火性粒状材料同士が十分に粘結する。
【0030】
一次ブロックの加熱温度は、400℃以上であり、400~1000℃が好ましく、500~800℃がより好ましく、550~750℃がさらに好ましい。一次ブロックの加熱温度が上記下限値以上であれば、リン酸二水素ナトリウムの脱水縮合反応が十分に進行する。この脱水縮合反応は、一次ブロックの加熱温度が高くなるほど進行する傾向あるが、加熱温度が高すぎても効果は頭打ちになるだけである。また、加熱温度が高くなるほどエネルギーを消費するため、コストが高くなる。加えて、得られるブロックをそのまま鋳型として用いる、又はブロックを切削加工して鋳型として用いる場合、崩壊性が低下する傾向にある。これらの点を考慮すると、一次ブロックの加熱温度は1000℃以下が好ましい。熱分解と脱水縮合反応は400℃以上で進行することから、本発明であれば、必要以上に高温で一次ブロックを加熱する必要はなく、エネルギー消費をより効果的に削減しつつ、崩壊性をより高める観点では800℃以下が好ましい。特に強度の高いブロックが得られやすい観点から750℃以下がより好ましい。
一次ブロックの加熱時間は、上述した脱水縮合反応が十分に進行する時間であれば特に制限されず、一次ブロックの形状や大きさに応じて適宜決定すればよい。
一次ブロックの加熱は、例えば電気炉、オーブン等の加熱装置を用いればよい。
【0031】
一次ブロックを400℃以上に加熱処理した後に室温(例えば25℃)まで冷却し(冷却工程)、ブロックを得る。
冷却方法としては公知の方法を採用でき、例えば室温で自然放冷する方法、送風を利用して強制冷却する方法などが挙げられる。
【0032】
こうして得られるブロックは、一次ブロックを加熱処理したものであるから、「二次ブロック」ともいえる。
耐火性粒状材料が砂の場合、砂ブロックが得られる。
【0033】
<作用効果>
以上説明した本実施形態のブロックの製造方法では、粘結剤として無機粘結剤であるリン酸二水素ナトリウムを用い、特定の温度で2段階の加熱処理を行うので、リン酸二水素ナトリウムがポリマー化して、縮合リン酸ナトリウムやポリリン酸ナトリウム等の無機物のネットワークが形成される。その結果、耐火性粒状材料同士が十分に粘結するので、実用的な強度のブロックが得られる。また、このようにして得られるブロックは吸湿しにくいため、湿度の高い環境下でも強度を良好に維持できる。
しかも、本実施形態のブロックの製造方法であれば有機粘結剤を用いる必要がないため、例えば得られるブロックをそのまま鋳型として用いる、又はブロックを切削加工して鋳型として用いる場合、有機粘結剤の熱分解ガスが発生せず、注湯時における作業環境が悪化しにくく、また、鋳造欠陥の発生を抑制できる。
このように、本発明によれば、粘結剤の熱分解ガスが発生しにくく、実用的な強度のブロックを製造できる。
【0034】
なお、無機粘結剤としては、例えば水ガラス等が知られている。リン酸二水素ナトリウムに代えて水ガラスを用いても、実用的な強度のブロックが得られる。しかし、水ガラスを用いて得られるブロックをそのまま鋳型として用いる、又はブロックを切削加工して鋳型として用いる場合、鋳型の耐熱温度は800℃程度である。そのため、この鋳型の耐熱温度を超える温度の溶融金属を注湯すると水ガラスが軟化し、鋳型が変形しやすくなり、高温での鋳物の寸法精度が低下することから、鋳造に用いる金属が制限されてしまう。
対して、リン酸二水素ナトリウム用いて得られる鋳型は、水ガラスを用いて得らえる鋳型よりも耐熱性に優れる。よって、800℃を超える溶融金属を注湯しても鋳型が変形しにくく、高温でも鋳物の寸法精度が高いため、鋳造に用いる金属が制限されにくい。
【0035】
本発明により得られるブロックは、鋳型用ブロックとして好適である。耐火性粒状材料が砂の場合、得られるブロックをそのまま鋳型として用いてもよいし、ブロックを切削加工して鋳型を製造してもよい。
例えば、比較的に単純な形状の鋳型を製造するのであれば、その鋳型と同形状の成形型を用いてブロックを製造し、得られたブロックをそのまま鋳型として用いればよい。この場合、本実施形態のブロックの製造方法の一つの側面としては、鋳型の製造方法ともいえる。
【0036】
一方、複雑な形状の鋳型を製造する場合は、単純な形状の成形型を用いてブロックを製造した後に、得られたブロックを切削加工して複雑な形状の鋳型を製造すればよく、必ずしも鋳型等の目的物と同形状の成形型を用いる必要はない。
この場合、鋳型の製造方法は、上述した本実施形態のブロックの製造方法によりブロックを製造するブロック成形工程と、得られたブロックを所望形状に切削加工する切削工程とを有するものである。
【0037】
ブロックを切削加工する場合、例えば、NC加工機械を用い、所望の形状となるようにブロックを切削加工する。具体的には、まず、3次元CAD(computer aided design)により、鋳型等の目的物の形状データを作成する。次いで、3次元CADの形状データを基にNC加工機械を用いてブロックを切削加工して、目的物を製造する。
【実施例0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各例で用いた材料を以下に示す。また、各種測定方法は以下の通りである。
【0039】
[測定・評価方法]
<曲げ強さの測定>
各実施例および比較例で得られた一次ブロック及びブロックの曲げ強さをJACT試験法SM-1に記載の測定方法を用いて測定した。
【0040】
<ガス発生量の測定>
ブロックを1000℃の雰囲気下で5分間加熱処理し、鋳物を作製する際と同様の雰囲気に鋳型を曝した。加熱処理時におけるガス発生量をJACT試験法M-5「ガス発生量測定法」に従って測定した。
【0041】
[例1]
耐火性粒状材料として、溶融法により得られた人工砂(伊藤機工株式会社製、「アルサンド#750」、平均粒子径212μm)を用いた。
溶液(α-1)として、リン酸二水素ナトリウム40質量部を水60質量部に溶解した水溶液を用いた。
【0042】
<混練砂の調製>
耐火性粒状材料100質量部と、溶液(α-1)2.5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で1質量部)とを品川式万能撹拌機(株式会社品川工業所製、MIXER)に投入し、これらを混合して混練砂を得た。混練砂の配合組成を表1に示す。
【0043】
<ブロックの作製>
縦10mm、横60mm、高さ10mmの直方体の型が5個形成された樹脂製の成形型を7個用意した。
得られた混練砂を、直ちに温度25℃、湿度50%の条件下、用意した各成形型に充填し、150℃で1時間加熱処理して、一次ブロックを得た(第一の熱処理工程)。
成形型から一次ブロックを取り出し、室温(25℃)まで冷却した後、5個の一次ブロックについて曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
残りの30個の一次ブロックを5個ずつのグループに分けて、350℃、400℃、500℃、600℃、700℃又は800℃で1時間加熱して、ブロックを得た(第二の熱処理工程)。
室温(25℃)まで冷却した後、各グループのブロック5個の曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0044】
[例2]
溶液(α-1)の配合量を5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で2質量部)に変更した以外は、例1と同様にして一次ブロック及びブロックを作製し、曲げ強さを測定した。結果を表1に示す。
【0045】
[例3]
例1と同様にして一次ブロックを作製した。
冷却直後の5個の一次ブロックについて曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表2に示す。
残りの一次ブロックを5個ずつのグループに分けて、温度25℃、湿度50%の条件下で5分又は10分、放置した。放置後の各グループの一次ブロック5個の曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表2に示す。
【0046】
[例4]
例1と同様にして一次ブロック及びブロックを作製した。ただし、第二の熱処理工程における一次ブロックの加熱温度は350℃とした。
冷却直後の5個のブロックについて曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表2に示す。
残りのブロックを5個ずつのグループに分けて、温度25℃、湿度50%の条件下で5分又は10分、放置した。放置後の各グループのブロック5個の曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表2に示す。
【0047】
[例5]
例1と同様にして一次ブロック及びブロックを作製した。ただし、第二の熱処理工程における一次ブロックの加熱温度は400℃とした。
冷却直後の5個のブロックについて曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表2に示す。
残りのブロックを5個ずつのグループに分けて、温度25℃、湿度50%の条件下で5分又は10分、放置した。放置後の各グループのブロック5個の曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表2に示す。
【0048】
[例6]
溶液(α-1)の配合量を5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で2質量部)に変更した以外は、例1と同様にして一次ブロックを作製した。
冷却直後の5個の一次ブロックについて曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表3に示す。
残りの一次ブロックを5個ずつのグループに分けて、温度25℃、湿度50%の条件下で5分、10分、15分、20分又は25分、放置した。放置後の各グループの一次ブロック5個の曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表3に示す。
【0049】
[例7]
溶液(α-1)の配合量を5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で2質量部)に変更した以外は、例1と同様にして一次ブロック及びブロックを作製した。ただし、第二の熱処理工程における一次ブロックの加熱温度は350℃とした。
冷却直後の5個のブロックについて曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表3に示す。
残りのブロックを5個ずつのグループに分けて、温度25℃、湿度50%の条件下で5分、10分、15分、20分又は25分、放置した。放置後の各グループのブロック5個の曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表3に示す。
【0050】
[例8]
溶液(α-1)の配合量を5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で2質量部)に変更した以外は、例1と同様にして一次ブロック及びブロックを作製した。ただし、第二の熱処理工程における一次ブロックの加熱温度は400℃とした。
冷却直後の5個のブロックについて曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表3に示す。
残りのブロックを5個ずつのグループに分けて、温度25℃、湿度50%の条件下で5分、10分、15分、20分又は25分、放置した。放置後の各グループのブロック5個の曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表3に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
表1から明らかなように、第二の熱処理工程において、400℃以上で一次ブロックを加熱処理することで、実用的な強度のブロックを製造できた。
また、表2、3から明らかなように、例3、6で得られた一次ブロック、及び第二の熱処理工程において350℃で一次ブロックを加熱処理して得られた例4、7のブロックは、温度25℃、湿度50%の条件下で放置すると、吸湿により曲げ強さが低下しやすかった。対して、第二の熱処理工程において400℃で一次ブロックを加熱処理して得られた例5、8のブロックは、例3、4、6、7に比べて温度25℃、湿度50%の条件下で放置しても吸湿しにくく、曲げ強さを良好に維持できた。
【0055】
[例9]
溶液(α-1)の配合量を5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で2質量部)に変更した以外は、例1と同様にして一次ブロック及びブロックを作製した。ただし、第二の熱処理工程における一次ブロックの加熱温度は600℃とした。
得られたブロックを用いて、ガス発生量を測定した。結果を
図1に示す。
【0056】
[例10]
有機粘結剤として、フラン樹脂(群栄化学工業株式会社製、エヌフラン用樹脂「GFA-160」、純分90質量%)を用いた。
硬化剤として、スルホン酸水溶液(群栄化学工業株式会社製、エヌフラン硬化剤「GH-20」)60質量部と、スルホン酸水溶液(群栄化学工業株式会社製、エヌフラン硬化剤「GH-70」)40質量部との混合物を用いた。
【0057】
<混練砂の調製>
耐火性粒状材料100質量部と、フラン樹脂0.8質量部(フラン樹脂の純分換算で0.72質量部)と、硬化剤0.3質量部とを品川式万能撹拌機(株式会社品川工業所製、MIXER)に投入し、これらを混合して混練砂を得た。
【0058】
<ブロックの作製>
得られた混練砂を、直ちに温度25℃、湿度50%の条件下、例1と同様の成形型に充填して硬化させ、硬化開始から1時間経過後に硬化物を取り出した(抜型時間1時間)。
得られた硬化物を温度25℃、湿度50%の条件下、硬化開始から24時間放置し、ブロックを得た。
得られたブロックを用いて、ガス発生量を測定した。結果を
図1に示す。
【0059】
[例11]
有機粘結剤として、アルカリフェノール樹脂であるレゾール型フェノール樹脂(群栄化学工業株式会社製、アルファシステム用樹脂「AR-170」、純分45質量%、水分量55質量%)を用いた。
硬化剤として、有機エステル(群栄化学工業株式会社製、アルファシステム硬化剤「AH-530」、トリアセチンおよびエチレングリコールジアセテートの混合物)を用いた。
【0060】
<ブロックの調製>
耐火性粒状材料100質量部と、アルカリフェノール樹脂1質量部(アルカリフェノール樹脂の純分換算で0.45質量部)と、硬化剤0.2質量部とを品川式万能撹拌機(株式会社品川工業所製、MIXER)に投入し、これらを混合して混練砂を得た。
【0061】
<ブロックの作製>
得られた混練砂を、直ちに温度25℃、湿度50%の条件下、例1と同様の成形型に充填して硬化させ、硬化開始から1時間経過後に硬化物を取り出した(抜型時間1時間)。
得られた硬化物を温度25℃、湿度50%の条件下、硬化開始から24時間放置し、ブロックを得た。
得られたブロックを用いて、ガス発生量を測定した。結果を
図1に示す。
【0062】
図1から明らかなように、無機粘結剤であるリン酸二水素ナトリウムを用いた例9で得られたブロックはガスが発生しなかった。
対して、有機粘結剤を用いた例10、11で得られたブロックは、ガスが発生しやすかった。
これらの結果より、本発明であれば、粘結剤の熱分解ガスが発生しにくく、実用的な強度のブロックを製造できることが示された。