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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135128
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】栽培方法、及び栽培装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20240927BHJP
【FI】
A01G31/00 601C
A01G31/00 601D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045663
(22)【出願日】2023-03-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、人工知能技術適用によるスマート社会の実現/生産性分野委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】514108263
【氏名又は名称】株式会社ファームシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 由久
(72)【発明者】
【氏名】大津 恒治
【テーマコード(参考)】
2B314
【Fターム(参考)】
2B314MA38
2B314NC01
2B314NC25
2B314ND04
2B314PB09
2B314PB22
2B314PB31
2B314PB44
2B314PB49
2B314PD59
(57)【要約】
【課題】植物の苗を噴霧式の水耕栽培方法で栽培する際に、苗を良好に生育させることが可能な栽培方法及び栽培装置を提供する。
【解決手段】本発明の一つの実施形態に係る栽培方法では、植物の苗の根の一部が、容器内に溜められた液の層に浸かり、且つ、根における一部以外の部分が、容器内において液の層の上方に存在する空気に触れている状態で苗を保持しながら、容器内で、根における一部以外の部分に向けて、液を噴霧して苗を栽培する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の苗を栽培する栽培方法であって、
前記苗の根の一部が、容器内に溜められた液の層に浸かり、且つ、前記根における前記一部以外の部分が、前記容器内において前記層の上方に存在する空気に触れている状態で前記苗を保持しながら、前記容器内で、前記根における前記一部以外の部分に向けて、前記液を噴霧して前記苗を栽培する栽培方法。
【請求項2】
前記容器内における前記層の厚さが、0mm超であり、且つ20mm以下である、請求項1に記載の栽培方法。
【請求項3】
前記容器内で、前記根における前記一部以外の部分に向けて前記液を噴霧する噴霧工程が断続的に繰り返し実施され、
前記噴霧工程の実施周期をcとし、1回の前記噴霧工程の実施時間をtとした場合に、下記の式1の関係を満たすように各回の前記噴霧工程を実施する、請求項1又は2に記載の栽培方法。
0.25≦(c-t)/c<1 式1
【請求項4】
前記苗を、前記容器に取り付けられた保持部材により、前記根が前記保持部材の下面から突出した状態で保持し、
前記容器の内部に設けられた底面と前記保持部材の下面との間の空間内において、前記根における前記一部以外の部分に向けて、前記液を噴霧する、請求項1又は2に記載の栽培方法。
【請求項5】
前記底面と前記保持部材の下面との間隔が、10mm以上であり、且つ300mm以下である、請求項4に記載の栽培方法。
【請求項6】
前記苗が支持された固形培地が、前記保持部材に設けられた嵌合孔に嵌まり込むことで、前記苗が前記保持部材に保持され、
前記嵌合孔に嵌まり込んだ前記固形培地の下端面は、前記保持部材の下面より下方に位置し、
前記底面と前記固形培地の下端面との間隔が、50mm以上であり、且つ200mm以下である、請求項4に記載の栽培方法。
【請求項7】
前記保持部材には、前記苗同士の間に間隔を設けて複数の前記苗が保持される、請求項4に記載の栽培方法。
【請求項8】
植物の苗を栽培するための栽培装置であって、
内部に液が溜められて液の層が形成される容器と、
前記苗の根の一部が、前記層に浸かり、且つ、前記根における前記一部以外の部分が、前記容器内において前記層の上方に存在する空気に触れている状態で前記苗を保持する保持部材と、
前記保持部材により保持された前記苗のうち、前記根における前記一部以外の部分に向けて、前記容器内で液を噴霧する噴霧器と、を備える栽培装置。
【請求項9】
前記容器は、上端に開口を備え、
前記保持部材は、前記容器に対して、前記開口の少なくとも一部を覆うように前記容器に配置され、
前記噴霧器は、前記保持部材の下面と前記容器内の底面との間に配置されたノズルから前記液を噴霧する、請求項8に記載の栽培装置。
【請求項10】
前記噴霧器は、前記ノズルとして、複数個の噴霧ノズルを有し、
前記保持部材は、前記苗同士の間に間隔を設けて複数の前記苗を保持可能であり、
前記噴霧ノズルの個数が、前記保持部材が保持可能な前記苗の個数以下である、請求項9に記載の栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の苗を栽培する栽培方法及び栽培装置であり、特に、苗の根に液体を噴霧して苗を栽培する栽培方法及び栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の苗を水耕栽培する方法の一つとして、苗の根に、水又は培養液を噴霧する栽培方法が知られている。このような噴霧式の水耕栽培方法(エアロポニック)の例としては、特許文献1に記載の技術が挙げられる。
【0003】
特許文献1に記載の技術では、互いに対向して配置された複数のノズルから噴射された培養液同士が衝突し、培養液が、微細な霧となって雲散して植物の根に付着する。これにより、植物の根に培養液を供給して植物を栽培する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-209061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
植物の苗を噴霧式の水耕栽培方法で栽培する方法については、当該栽培方式による従来の栽培方法に比べて苗の生長を促すことができて、より効率よく苗を栽培することが可能な栽培方法が求められる。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解決し、具体的には、植物の苗を噴霧式の水耕栽培方法で栽培する際に、苗を良好に生育させることが可能な栽培方法及び栽培装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の栽培方法は、植物の苗を栽培する栽培方法であって、苗の根の一部が、容器内に溜められた液の層に浸かり、且つ、根における一部以外の部分が、容器内において上記の層の上方に存在する空気に触れている状態で苗を保持しながら、容器内で、根における一部以外の部分に向けて、液を噴霧して苗を栽培することを特徴とする。
上記の栽培方法であれば、従来の噴霧式の水耕栽培方法に比べて、植物の苗を良好に生育させることができ、品質の良い収穫物を得ることができる。
【0008】
ここで、容器内における上記の層の厚さが、0mm超であり、且つ20mm以下であってもよい。この場合には、噴霧式の水耕栽培方法において、植物の苗をより良好に生育させることができる。
【0009】
また、上記の栽培方法において、容器内で、根における一部以外の部分に向けて液を噴霧する噴霧工程が断続的に繰り返し実施されてもよい。そして、噴霧工程の実施周期をcとし、1回の噴霧工程の実施時間をtとした場合に、下記の式1の関係を満たすように各回の噴霧工程を実施すると、好適である。
0.25≦(c-t)/c<1 式1
上記の構成によれば、噴霧式の水耕栽培方法において、植物の苗をより一層良好に生育させることができる。
【0010】
また、上記の栽培方法において、苗を、容器に取り付けられた保持部材により、根が保持部材の下面から突出した状態で保持してもよい。また、容器の内部に設けられた底面と保持部材の下面との間の空間内において、根における一部以外の部分に向けて、液を噴霧してもよい。この場合、噴霧式の水耕栽培方法において、噴霧された液が、容器内部の底面と保持部材との下面内で拡散し、苗の根に付着し易くなる。
【0011】
また、上記の栽培方法において、上記の底面と保持部材の下面との間隔が、10mm以上であり、且つ300mm以下であると、好適である。この場合には、噴霧式の水耕栽培方法において、植物の苗をさらに良好に生育させることができる。
【0012】
また、苗が支持された固形培地が、保持部材に設けられた嵌合孔に嵌まり込むことで、苗が保持部材に保持され、嵌合孔に嵌まり込んだ固形培地の下端面は、保持部材の下面より下方に位置してもよい。このような構成において、上記の底面と固形培地の下端面との間隔が、50mm以上であり、且つ200mm以下であると、より好適である。この場合には、噴霧式の水耕栽培方法において、植物の苗を一段と良好に生育させることができる。
【0013】
また、保持部材には、苗同士の間に間隔を設けて複数の苗が保持されてもよい。この場合には、より効率よく植物の苗を栽培することができる。
【0014】
また、前述した課題を解決するため、本発明の栽培装置は、植物の苗を栽培するための栽培装置であって、内部に液が溜められて液の層が形成される容器と、苗の根の一部が、上記の層に浸かり、且つ、根における一部以外の部分が、容器内において層の上方に存在する空気に触れている状態で苗を保持する保持部材と、保持部材により保持された苗のうち、根における一部以外の部分に向けて、容器内で液を噴霧する噴霧器と、を備えることを特徴とする。
そして、本発明の栽培装置によれば、従来の噴霧式の水耕栽培方法に比べて、植物の苗を良好に生育させることができる。
【0015】
また、上記の栽培装置において、容器は、上端に開口を備え、保持部材は、容器に対して、開口の少なくとも一部を覆うように容器に配置されてもよい。また、噴霧器は、保持部材の下面と容器内の底面との間に配置されたノズルから液を噴霧してもよい。
上記の構成によれば、ノズルから噴霧された液が、容器内部の底面と保持部材との下面内で拡散し、苗の根に付着し易くなるため、噴霧式の水耕栽培方法によって苗を適切に栽培することができる。
【0016】
また、上記の栽培装置において、噴霧器は、ノズルとして、複数個の噴霧ノズルを有し、保持部材は、苗同士の間に間隔を設けて複数の苗を保持可能であってもよい。この場合、噴霧ノズルの個数が、保持部材が保持可能な苗の個数以下であると、好適である。
上記の構成によれば、噴霧式の水耕栽培において、植物の苗をさらに良好に生育させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、噴霧式の水耕栽培方法において、植物の苗を良好に生育させることができ、その結果、品質の良い収穫物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一つの実施形態に係る栽培方法についての説明図である。
図2】本発明の一つの実施形態に係る栽培装置の模式断面図である。
図3】本発明の一つの実施形態に係る栽培装置の容器及び保持部材を上方から見た図である。
図4】保持部材を構成する栽培パネル同士の連結構造を示す図である。
図5】本発明の一つの実施形態における噴霧器の配置パターンの第1例を示す図である。
図6】本発明の一つの実施形態における噴霧器の配置パターンの第2例を示す図である。
図7】本発明の一つの実施形態に係る栽培装置の制御系統を示す図である。
図8】本発明の一つの実施形態における栽培条件についての説明図である。
図9】本発明の変形例に係る栽培装置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明について、添付の図面に示す好適な実施形態を参照しながら具体的に説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例であり、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、以下に説明する実施形態から変更又は改良され得る。また、本発明には、その等価物が含まれる。
【0020】
なお、本明細書にて参照する図面では、図示の便宜上、機器又は装置の一部を省略又は簡略化して図示する場合がある。例えば、図8では、栽培槽の内部に配置された機器のうち、大部分の図示を省略し、また、一部の機器(具体的には、保持部材14、噴霧ノズル30、及び供給配管52等)のみを簡略化して図示している。また、図9では、上下に並ぶ複数の栽培装置10のうち、一部分の栽培装置10については、断面(内部構造)を図示している。
【0021】
また、本明細書において、各機器(機器中の構成部品を含む)の位置、方向及び向き等を説明する際には、特に断る場合を除き、当該機器が利用されている状態での位置、方向及び向き等を説明する。例えば、以下の説明において、「上面」とは、使用状態において上側に位置する面、換言すると、上方(斜め上方を含む)を向く面を意味する。
【0022】
また、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「水平」、「垂直」、「直交」及び「平行」は、本発明の技術分野において一般的に許容される誤差の範囲を含み、厳密な水平、垂直、直交及び平行に対して数度(例えば2~3°)未満の範囲内でずれている場合が含まれ得る。
また、本明細書において、「同じ、「同一」及び「等しい」という意味には、本発明が属する技術分野で一般的に許容される誤差の範囲が含まれ得る。
また、本明細書において、「全部」、「いずれも」及び「すべて」という意味には、100%である場合のほか、本発明が属する技術分野で一般的に許容される誤差の範囲が含まれ、例えば99%以上、95%以上、または90%以上である場合が含まれ得る。
【0023】
[本発明の一つの実施形態に係る栽培方法について]
本発明の一つの実施形態(以下、本実施形態)に係る栽培方法について、図1を参照しながら、その概要を説明する。
本実施形態に係る栽培方法は、植物工場等の建物内において植物の苗を水耕栽培方式にて栽培する方法である。より詳しく説明すると、本実施形態の栽培は、噴霧式の水耕栽培(以下、エアロポニック)であり、且つ、薄膜水耕(Nutrient Film Technique:NFT)によって行われる。
【0024】
すなわち、本実施形態では、栽培槽を構成する容器の内部に、比較的浅い水深となるように培養液(液の一例)を溜める。そして、図1に示すように、苗Pの根Prのうち、下端部が栽培槽内で培養液の層(以下、液層L)に浸かるように苗を保持する。このとき、根Prにおける下端部以外の部分は、図1に示すように、栽培槽の内部において、液層Lの上方に位置する空気の層(以下、空気層A)に接している。つまり、栽培期間中、根Prのうち、液層Lより上方に位置する部分は、空気層Aに対して露出している。なお、根Prのうち、空気層Aに存する部分の割合は、液層Lに浸かる部分に比して格段に大きい。
【0025】
また、本実施形態では、根Prのうち、空気層A内に配置された部分、すなわち液層Lに浸かった下端部以外の部分に向けて培養液が噴霧される。噴霧された培養液は、ミスト状(霧状)となって栽培槽内で拡散し、根Prにおける下端部以外の部分の表面に付着する。これにより、苗Pの根Prに水分及び養分が供給され、苗Pは、供給された水分及び養分を利用して生長する。
【0026】
本実施形態に係る栽培方法により生育可能な植物の苗については、特に限定されないが、例えば、本発明の栽培方法は、葉菜類及び果菜類に属する植物の苗を栽培する場合に有効に利用することができる。葉菜類の例としては、レタス、キャベツ、ホウレンソウ、小松菜、クレソン、春菊及びハーブ類等が挙げられる。果菜類の例としては、イチゴ、トマト、及びナス等が挙げられる。
【0027】
上述の方法による苗Pの栽培、すなわち、NFT及びエアロポニックの水耕栽培は、例えば、植物の種が発芽した後に植物が所定サイズの苗Pになるまで生長してから開始するとよい。例えば、イチゴを栽培する場合、根が未だ少ない状態の苗Pを採取して所定の移植先に移植し、移植後に5日~20日が経過して根Prが十分に生えた段階から上述の方法による栽培を開始してもよい。また、レタスを栽培する場合、育苗開始後5日~20日が経過した段階から上述の方法による栽培を開始してもよい。
【0028】
なお、上述の方法による栽培を実施する期間において苗Pに対して光合成用の光を供給する光源としては、太陽光等の自然光の光源を利用してもよいし、あるいは、照明機器等のような人工光の光源を利用してもよい。
【0029】
[本発明の一つの実施形態に係る栽培装置について]
次に、本実施形態に係る栽培装置(以下、栽培装置10)の構成例について、図2~7を参照しながら説明する。
【0030】
栽培装置10は、上述した本実施形態に係る栽培方法、すなわち、NFT及びエアロポニックの方式で植物の苗Pを遂行栽培するために用いられる。栽培装置10は、図2に示すように、栽培槽12、保持部材14と、給液装置16と、噴霧器18とを備える。また、栽培装置10は、図7に示すように、給液装置16が備える給液ポンプ50及び制御弁54等を制御するためのコントローラ60を備える。
【0031】
なお、栽培装置10は、栽培環境に応じて、上記の機器以外の機器を備えてもよく、例えば、光源としての照明機器、及び、植物周辺の温湿度を調整するために送風を実施するためのファン等をさらに備えてもよい。
【0032】
栽培槽12は、略箱型の形状をなす有底の容器であり、その内部には培養液(液の一例)が溜められて、図2に示すように、培養液の層である液層Lが形成される。栽培槽12の内部空間は、上端が開放された空間であり、十分な深さを有する。また、栽培槽12の上端に設けられた開口12aは、図3に示すように、平面視で略矩形状である。以下の説明では、略矩形状の開口の長辺方向を「X方向」と呼ぶこととし、短辺方向を「Y方向」と呼ぶこととする。
【0033】
栽培槽12の材質については、特に限定されず、金属、樹脂材料、木材、及び紙等の繊維材料等によって構成されてもよい。例えば、運搬しやすさ及び製造コスト等の観点から発泡スチロールが栽培槽12の材料として利用されてもよい。この場合、栽培槽12内に溜められた培養液が、栽培槽12を構成する発泡スチロールの内部に浸透するのを防ぐ理由から、栽培槽12の内壁面を防水フィルム等によってカバーしてもよい。
【0034】
また、栽培槽12には、液層Lの厚さを調整する目的で、栽培槽12内に溜められた培養液を栽培槽12の外に排出して所定の回収先に回収する設備(不図示)が設けられてもよい。また、苗Pの栽培期間中、栽培槽12内の液層Lが静置状態で維持されてもよい。あるいは、栽培槽12に対して不図示の循環経路を設け、苗Pの栽培期間中、その循環経路を通じて栽培槽12内の培養液を循環させてもよい。
【0035】
保持部材14は、苗Pの栽培期間中に苗Pを保持する部材である。保持部材14は、栽培槽12の上部に取り付けられた状態で使用され、具体的には、図2に示すように、栽培槽12に対して、開口12aの少なくとも一部を覆うように栽培槽12の上部に配置される。本実施形態では、保持部材14が、開口12aの略全体を塞いだ状態で栽培槽12の上部に取り付けられている。
【0036】
本実施形態において、保持部材14は、図3に示すように複数の栽培パネル20を並べて構成されており、それぞれの栽培パネル20にて複数の苗Pを保持する。各栽培パネル20は、幾分の厚みを有するプレート又はパレットからなり、苗Pの栽培期間中には、図2に示すように、栽培槽12内の底面12bの上方位置に配置されている。ここで、栽培槽12内の底面12bは、栽培槽12の内壁面のうち、開口12aと対向する面であり、詳しくは、栽培槽12の底壁の上端面である。
【0037】
各栽培パネル20には、図2及び3に示すように、嵌合孔22が設けられており、この嵌合孔22に、苗Pが支持された固形培地Mが嵌合孔22に嵌まり込むことで、苗Pが保持部材14に保持される。固形培地Mは、キューブ状又は円柱状に成形されたウレタン又はスポンジ製の培地である。固形培地Mは、植物の種を担持し、その植物が種から発芽して苗Pまで生長すると、以降の栽培期間中には当該苗Pを保持する。苗Pを保持した固形培地Mでは、固形培地Mの下面から苗Pの根Prが伸びており、固形培地Mの上面から苗Pの葉茎が伸びている。
【0038】
本実施形態では、図2及び8に示すように、嵌合孔22に嵌まり込んだ固形培地Mの下端面が、保持部材14の下面(詳しくは、栽培パネル20の下面28)より下方に位置する。この結果、固形培地Mを介して保持部材14に保持された苗Pについては、図2に示すように、その根Prの下端部が液層Lに浸かり、且つ、根Prにおける下端部以外の部分(詳しくは、液層Lより上方に位置する部分)が、栽培槽12内の空気層Aに触れるようになる。すなわち、本実施形態において、保持部材14は、栽培槽12内で苗Pの根Prが液層L及び空気層Aの双方に接した状態で当該苗Pを保持する。
【0039】
本実施形態では、図3に示すように、各栽培パネル20に複数の嵌合孔22が設けられており、互いに隣り合う嵌合孔22同士は、互いに離れた位置にある。つまり、本実施形態において、保持部材14には、苗P同士の間に間隔を設けて複数の苗Pが保持される。また、複数の嵌合孔22は、各栽培パネル20において規則的に配置され、具体的には、X方向及びY方向のそれぞれにおいて所定の間隔(ピッチ)で設けられている。
なお、嵌合孔22同士の間隔(ピッチ)の大きさについては、栽培される植物の種類等に応じて適切な大きさに設定されるのが好ましい。また、嵌合孔22の外形形状及びサイズ等についても、栽培される植物の種類等に応じて適切な形状及びサイズに設定されるのが好ましい。
【0040】
また、本実施形態において、保持部材14を構成する複数の栽培パネル20は、それぞれ、平面視で略矩形状をなし、図3に示すようにX方向に沿って列状に連なっている。そして、複数の栽培パネル20がX方向に連なることにより、一つの保持部材14が構成されている。つまり、複数の栽培パネル20のうち、X方向において隣り合う2つの栽培パネル20同士は、互いに連結している。
【0041】
栽培パネル20同士の連結構造の一例について説明すると、各栽培パネル20は、図4に示すように、栽培パネル20の外縁から立ち上がった立上がり部24を、X方向における両端部に備える。また、各立上がり部24は、その上端部をX方向の外側に向けて折り曲げてから下方に向けてさらに折り曲げることで形成されたフランジ部26を有する。
【0042】
そして、フランジ部26を利用することで、図4に示すように、X方向において隣り合う2つの栽培パネル20同士を連結させることができる。詳しくは、X方向において隣り合う2つの栽培パネル20を第1パネル及び第2パネルとした場合、第1パネルにおいて第2パネル側に配置されたフランジ部26と、第2パネルにおいて第1パネル側に配置されたフランジ部26とが重ねられる。この結果、第1パネルと第2パネルとがX方向において連結する。
【0043】
上記の連結構造によれば、X方向において隣り合う2つの栽培パネル20同士は、栽培パネル20の間に隙間を設けずに連結される。これにより、培養液(詳しくは、噴霧器18から噴霧された培養液)が栽培パネル20同士の隙間から漏れる事態を回避することができる。
【0044】
なお、X方向において隣り合う2つの栽培パネル20を連結させるための構造については、上記の構造に限定されず、上記の構造以外の連結構造、例えば、凹凸嵌合による連結構造を採用してもよい。あるいは、磁力等を利用して栽培パネル20同士を連結させてもよい。また、連結用クリップ又はピンチ等の連結具を用いて栽培パネル20同士を連結させてもよい。
【0045】
給液装置16は、噴霧器18から噴霧される培養液を噴霧器18に供給する。噴霧器18によって噴霧された培養液は、栽培槽12内に溜まって液層Lを形成する。つまり、給液装置16は、噴霧器18と協働して、栽培槽12内に培養液を供給し、液層Lを形成させる。給液装置16は、図2、5、6及び8に示すように、給液ポンプ50と、給液ポンプ50に接続された供給配管52と、供給配管52に設けられた制御弁54とを有する。
【0046】
給液ポンプ50は、例えば栽培槽12の外に設置され、不図示の培養液タンクから培養液を吸引し、吸引した培養液を所定の吐出圧にて吐出する。吐出された培養液は、供給配管52内を流れ、詳しくは圧送される。供給配管52は、鋼管又は硬質ポリ塩化ビニル管等のパイプ、ホース及びチューブ等によって構成されている。供給配管52は、その一端部が給液ポンプ50に接続されており、栽培槽12内に入り込んで噴霧器18に繋がれるように敷設されている。
【0047】
供給配管52の一部分(以下、槽内ライン58)は、図2に示すように、栽培槽12内に配置されており、例えば、栽培槽12内の底面12bの直上位置に配置されている。このような構成において、図2に示すように、槽内ライン58と底面12bとの間に若干の隙間56を設ければ、底面12b上において供給配管52周辺に培養液が溜まってしまうのを抑えることができる。これにより、栽培槽12内の培養液を排出する際には、培養液の溜まり箇所が生じにくくなるため、スムーズに培養液を排出することができる。
【0048】
なお、槽内ライン58と底面12bとの間に隙間56を設ける手段については、特に限定されない。例えば、槽内ライン58の一部分(大径部)の外径を他の部分(小径部)の外径より大きくし、大径部の外周面が底面12bに接するようにすれば、小径部の外周面と底面12bとの間に隙間56が形成される。
【0049】
また、槽内ライン58は、図3に示すように、X方向に沿って直線状に延出するように敷設されてもよい。ただし、これに限定されず、槽内ライン58は、栽培槽12内において蛇行してもよく、又はジグザグ状に延出してもよい。また、栽培槽12内において、X方向に沿って直線状に延出する槽内ライン58は、複数配置されてもよく、詳しくは、図3に示すように、Y方向において互いに離れた位置に配置されてもよい。ただし、これに限定されず、槽内ライン58は、Y方向において一箇所にのみ配置されてもよい。
【0050】
制御弁54は、オンオフ(開閉)切り換え可能な電動弁であり、図2に示すように、供給配管52において各噴霧ノズル30の直前位置に設置されており、噴霧ノズル30毎に設けられている。また、各制御弁54のオンオフ(開閉)は、コントローラ60の制御によって切り換えられる。
【0051】
噴霧器18は、保持部材14により保持された苗Pの根Pr、より詳しくは根Prにおいて液層Lに浸かった下端部以外の部分、つまり、空気層Aに接する部分に向けて、栽培槽12内で培養液を噴霧する。本実施形態において、噴霧器18は、図2等に示すように、複数個の噴霧ノズル30を備える。
【0052】
複数個の噴霧ノズル30の各々は、スプレーノズルであり、供給配管52に接続されており、供給配管52内にて圧送される培養液が各噴霧ノズル30の微細孔(ノズル孔)を通過することで、培養液が各噴霧ノズル30から噴霧される。各噴霧ノズル30の仕様及び性能は、エアロポニックの水耕栽培において利用可能な範囲内で設定されればよい。具体的には、液噴霧時の圧力(吐出圧)、噴霧量、スプレー角度、スプレー距離、及びスプレー幅等は、エアロポニックの水耕栽培において通常採用される範囲内で設定されてもよい。また、噴霧ノズル30の材質、液噴霧時のスプレーパターン(噴射液が拡散した際の断面形状)、及びノズル取付方式等についても、自由に選定することができる。
【0053】
また、本実施形態では、図5及び6に示すように、噴霧器18が有する噴霧ノズル30の個数が、保持部材14が保持可能な苗Pの個数以下である。より詳しく説明すると、保持部材14を構成する複数の栽培パネル20の個数をi個とし、各栽培パネル20に設けられている嵌合孔22の個数をj個とし、噴霧ノズル30の個数をk個とした場合、本実施形態では、以下の条件式(1)が満たされている。
k≦i×j 条件式(1)
上記の条件式(1)を満たすことにより、本実施形態では、噴霧器18が苗Pの根Prに向けて培養液を効率よく噴霧することができる。
【0054】
また、苗Pを保持した保持部材14が栽培槽12の上部に取り付けられた状態において、各噴霧ノズル30は、図2に示すように、栽培槽12内の底面12bよりも上方に位置し、且つ、保持部材14の下面(詳しくは、栽培パネル20の下面28)よりも下方に位置する。より詳しく説明すると、各噴霧ノズル30は、底面12bよりも保持部材14の下面に近い位置に配置されている。これにより、苗Pの根Prのうち、空気層Aに接する部分に向けて、培養液を効率よく噴霧することができる。
【0055】
噴霧ノズル30による噴霧位置については、特に限定されない。例えば、図5に示すように、栽培槽12内の供給配管52である槽内ライン58がX方向に沿って延びている場合、X方向における槽内ライン58の各部に噴霧ノズル30が繋がれてもよい。この場合、X方向において、噴霧ノズル30が一定の間隔で設けられると、好適である。また、図5に示すように、保持部材14に保持された苗P同士の間、換言すると、Y方向において隣り合う嵌合孔22同士の間に噴霧ノズル30が1個ずつ配置されているとよい。このような構成であれば、噴霧ノズル30から培養液を効率よく噴霧することができ、噴霧性を向上させることができる。
【0056】
また、噴霧ノズル30の噴霧方向、つまり、ノズル孔の向きについても、特に限定されない。例えば、図5に示すように、Y方向において間隔を空けて設けられた2以上の槽内ライン58の各々に対して複数個の噴霧ノズル30が一定間隔毎に配置されている場合、各噴霧ノズル30が放射状に培養液を噴霧してもよい。
なお、上記の構成には限定されず、例えば、図6に示すように、栽培槽12の内部空間におけるY方向の両端領域に、槽内ライン58がX方向に沿って延びており、各槽内ライン58に複数の噴霧ノズル30が一定間隔毎に配置されてもよい。この場合、各噴霧ノズル30がY方向の内側に向かって培養液を噴霧するとよい。
【0057】
コントローラ60は、給液ポンプ50及び制御弁54の各々と無線方式にて通信可能であり、これらの機器を遠隔制御することができ、具体的には、給液ポンプ50の発停、及び制御弁54の開閉等を切り換える。コントローラ60の制御により、各噴霧ノズル30からの培養液の噴霧の有無、噴霧量、噴霧のタイミング、及び噴霧時間等を調整することができる。噴霧ノズル30から培養液を噴霧する工程(以下、噴霧工程)を断続的に繰り返し実施する場合には、噴霧工程の実施間隔を調整することができる。
【0058】
コントローラ60による給液ポンプ50の発停の切り換え、及び制御弁54の開閉等の切り換えは、例えば、タイマー制御方式で行われ、具体的には、予め設定されたタイムスケジュールに従って実施されてもよい。また、栽培槽12の内部環境を不図示のセンサによってモニタリングし、センサによる計測結果に基づいて上記の切り換えが実施されてもよい。
【0059】
[本発明の一つの実施形態に係る栽培方法について]
次に、上述した栽培装置10を用いた苗Pの栽培方法、すなわち、NFT及びエアロポニック方式の栽培方法(以下、本方法)について、図8を参照しながら説明する。
【0060】
本方法による水耕栽培を開始するにあたり、先ず、苗Pを保持した保持部材14を栽培槽12の上部に取り付ける。具体的には、列状に並んだ複数の栽培パネル20を連結させて保持部材14を構成し、各栽培パネル20に設けられた複数の嵌合孔22のそれぞれに、苗Pを支持した固形培地Mを嵌め込む。これにより、苗Pが保持部材14に保持される。その後、栽培槽12の上端に設けられた開口12aの少なくとも一部、具体的には開口12aの略全体を保持部材14によって塞ぐように、保持部材14を栽培槽12に対して取り付ける。
【0061】
上記の手順によって、苗Pが、栽培槽12に取り付けられた保持部材14により、根Prが保持部材14の下面(詳しくは、栽培パネル20の下面28)から突出した状態で保持される。このとき、栽培パネル20の嵌合孔22に嵌まり込んだ固形培地Mの下端面は、保持部材14の下面をなす栽培パネル20の下面28より下方に位置している(図2参照)。また、保持部材14に保持された苗Pの根Prの下端が、栽培槽12内の底面12b付近に位置する。
【0062】
次に、給液ポンプ50を作動して、栽培槽12内に培養液を送液する。これにより、栽培槽12内に培養液が溜まり、栽培槽12内に液層L、詳しくは培養液の薄膜が形成される。ここで、栽培槽12内における液層Lの厚さは、0mm超であり、且つ20mm以下に調整される。液層Lの厚さとは、液層Lの液面と栽培槽12内の底面12bとの間の距離、すなわち水深のことである。液層Lの厚さは、例えば、給液ポンプ50による培養液の供給量、及び不図示の回収設備により栽培槽12から回収される培養液の回収量を制御することで調整可能である。
なお、液層Lの厚さについては、0.1mm~30mmであることが好ましく、1mm~20mmであることがより好ましい。
また、底面12bから仕切壁(不図示)が突出して液層Lが仕切壁によって分断する等、液層Lが完全に繋がっていない場合に、底面12bの面積に対する、液層Lが存在する面積の割合が20%以上であればよい。この場合、その割合は、40%以上であることがより好ましく、70%であることがさらに好ましい。
また、液抜き操作等により栽培槽12内に液層Lが存在しない期間があってもよいが、苗Pの栽培期間のうち、20%以上の期間において栽培槽12内に培養液が溜められて液層Lが存在しているとよい。この場合、苗Pの栽培期間のうち、栽培槽12内に液層Lが存在する期間は、40%以上の期間であることがより好ましく、70%以上の期間であることがさらに好ましい。
【0063】
上記の厚さを有する液層Lが栽培槽12内に形成されると、苗Pの根Prの下端部が、液層Lに浸かり、且つ、根Prにおける下端部以外の部分が、栽培槽12内において液層Lの上方に存在する空気(すなわち、空気層A)に触れる。換言すると、保持部材14は、上記の状態で苗Pを保持し、本実施形態では複数の苗Pを保持する。このとき、栽培槽12内の底面12bと保持部材14の下面との間隔(図8中、記号d1にて示す長さ)は、10mm以上であり、且つ300mm以下であるとよい。
なお、上記の間隔d1については、30mm~250mmであることが好ましく、50mm~200mmであることがより好ましい。
【0064】
また、栽培槽12内の底面12bと固形培地Mの下端面との間隔(図8中、記号d2にて示す長さ)は、50mm以上であり、且つ200mm以下であるとよい。
なお、上記の間隔d2については、30mm~250mmであることが好ましく、50mm~200mmであることがより好ましい。
【0065】
以上の手順が完了した後、保持部材14により苗Pを上記の状態で保持しながら、栽培槽12内で、噴霧器18により、苗Pの根Prにおける下端部以外の部分に向けて、培養液を噴霧して苗Pを栽培する。すなわち、NFT及びエアロポニック方式にて苗Pを水耕栽培する。具体的には、栽培槽12内の底面12bと保持部材14の下面との間の空間内、すなわち空気層Aにおいて、根Prの下端部以外の部分に向けて、噴霧ノズル30から培養液を噴霧する。これにより、空気層Aにおいて、ミスト状の培養液が拡散し、根Prのうち、空気層A内に位置する部分にミスト状の培養液が付着する。
【0066】
栽培槽12内で苗Pの根Prにおける下端部以外の部分に向けて培養液を噴霧する噴霧工程では、コントローラ60により給液ポンプ50及び制御弁54を適宜制御する。具体的には、給液ポンプ50の発停、及び制御弁54の開閉等を切り換えて、各噴霧ノズル30からの培養液の噴霧の有無、噴霧量、噴霧時間、及び噴霧のタイミング等を調整する。この結果、空気層Aにおける培養液のミストの浮遊量が調整され、換言すると、空気層A内にて根Prが空気に曝露される度合い(具体的には、後述の空気曝露率)を調整することができる。
【0067】
本実施形態では、苗Pの栽培期間中、噴霧工程が断続的に繰り返し実施される。コントローラ60は、給液ポンプ50及び制御弁54を制御することにより、1回の噴霧工程の実施時間と噴霧工程の実施間隔とを調整することができる。そして、本実施形態では、噴霧工程の実施周期をcとし、1回の噴霧工程の実施時間をtとした場合に、下記の条件式(2)の関係を満たすように各回の噴霧工程を実施する。
0.25≦(c-t)/c<1 条件式(2)
【0068】
上記の条件式(2)について補足すると、実施周期cは、ある噴霧工程の開始時点から次の噴霧工程の開始時点までの時間である。また、(c-t)は、ある噴霧工程の終了時点から次の噴霧工程の開始時点までの時間であり、噴霧工程が実施されていない時間、すなわち、噴霧工程が実施されない期間である。換言すると、(c-t)の期間中には、根Prのうち、下端部以外の部分が空気に触れることになる。以下では、(c-t)/cを空気曝露率とも呼ぶ。
なお、上記の空気曝露率については、0.3~0.88であることが好ましく、0.5~0.75であることがより好ましい。
【0069】
[本実施形態の有効性について]
本実施形態では、前述したように、苗Pの根Prの下端部が、栽培槽12内の液層Lに浸かり、且つ、根Prにおける下端部以外の部分が、栽培槽12内の空気層Aに触れている状態で苗Pを保持する。そして、その状態で苗Pをしながら、栽培槽12内で、根Prにおける下端部以外の部分に向けて、培養液を噴霧して苗Pを栽培する。
上記の方法により、本実施形態では、従来のエアロポニック方式の水耕栽培に比べて、苗Pを良好に生育させることができ、最終的に得られる収穫物の品質を向上させることができる。
【0070】
より詳しく説明すると、本実施形態では、エアロポニック方式であり、且つNFT方式の水耕栽培を採用している。そして、NFT及びエアロポニック方式の水耕栽培では、苗Pの根Prの下端部が培養液の層(液層L)に浸かるとともに、根Prの下端部以外の部分に向けて培養液を噴霧する。これにより、苗Pが培養液を効率よく根Prから吸収することができる。また、根Prの下端部が液層Lに浸かっている分、培養液の噴霧量及び噴霧時間を削減することができる。これにより、根Prの下端部以外の部分に空気が触れやすくなり、呼吸用の酸素及び光合成用の二酸化炭素を根Prから取り込みやすくなる。
以上の結果、苗Pは、良好に生育し、収穫物の収量が増えて収率が高められ、また、収穫物の品質が向上し、具体的には、糖度又は有用成分の含有量等が増加する。
【0071】
さらに、根Prの一部(下端部以外の部分)が空気に触れている時間の割合、すなわち空気曝露率を上記の条件式(2)が示す数値範囲内に調整することにより、苗Pをより一層良好に生育することができ、収穫物の品質を一段と向上させることができる。
【0072】
[その他の実施形態]
以上までに本発明の植物の栽培方法、及び、栽培装置について具体例を挙げて説明してきたが、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするために挙げた一例に過ぎず、上記以外の実施形態も考えられ得る。
【0073】
上述の実施形態では、圧送される培養液が噴霧ノズル30のノズル孔を通過することで培養液が噴霧されることとした。ただし、これに限定されず、例えば、超音波噴霧器により、超音波を培養液に照射して培養液を霧化して噴霧してもよい。
【0074】
また、上述の実施形態にて説明した栽培装置10を、図9に示すように、多段の栽培棚40に適用してもよい。すなわち、栽培棚40の各段において、栽培槽12を置き、栽培槽12に取り付けられた保持部材14に苗Pを保持させ、苗Pの根Prの下端部を栽培槽12内の液層Lに浸し、且つ、根Prのうち、下端部以外の部分に培養液を噴霧してもよい。この場合、栽培棚40での段数を極力多くする目的で、栽培槽12の高さを低くするのが好ましく、例えば、5cm~20cmに設定されるのがよい。また、栽培装置10の上方位置には、LED(Light Emitting Diode)又は照明機器からなる光源42が配置され、その下方に位置する苗Pに向けて光(人工光)を照射してもよい。
【0075】
また、上述の実施形態では、植物の苗Pが、栽培パネル20からなる保持部材14によって保持されることとした。ただし、これに限定されず、栽培槽12内の液層Lに根Prの下端部が浸かった状態で苗Pを保持することができれば、上記以外の構成の保持部材14を用いてもよい。例えば、鉢型の保持部材、網状の保持部材、マット状の保持部材、あるいはフレーム型の保持部材を用いてもよい。
【0076】
また、上述の実施形態では、苗Pを保持した保持部材14が、栽培槽12の上端の開口12aの少なくとも一部を覆うように栽培槽12の上部に取り付けられることとしたが、これに限定されず、開口12aが開放された状態のまま保持部材14が栽培槽12に取り付けられてもよい。
【0077】
また、上記の実施形態では、栽培パネル20に設けられた複数の嵌合孔22、すなわち、保持部材14において複数設けられた苗Pの保持箇所が規則的に並んでいることとしたが、これに限定されず、保持部材14において苗Pの保持箇所が不規則に配置されてもよい。
【0078】
また、上記の実施形態では、箱型形状の栽培槽12を用いることとしたが、これに限定されず、例えば、円筒形状の栽培槽、釜型形状の栽培槽、あるいはドーム形状の栽培槽を用いてもよい。
【実施例0079】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0080】
[試験1]
試験1では、いちご(品種:べにほっぺ)の苗を水耕栽培によって栽培し、具体的には、以下に説明する実施例1~4、及び比較例1~5の条件で上記の苗を栽培した。
(実施例1~4)
実施例1~4では、本発明の栽培方法を用いて、NFT及びエアロポニック方式の水耕栽培を行った。各実施例では、採苗後に根が少ない状態で苗を移植し、移植後5~20日で根が出た後に、NFT及びエアロポニック方式の水耕栽培を開始した。
また、各実施例では、苗の根の下端部を栽培槽内の液層に浸し、根において下端部以外の部分を栽培槽内で空気に接触させ、栽培槽内で、当該部分に向けて培養液を噴霧した。なお、培養液については、いちごの水耕栽培に用いられる公知の培養液であるため、説明を省略するが、液中の各成分の濃度を、予め設定された濃度となるように調整した。
【0081】
また、各実施例では、苗の栽培期間中、噴霧工程を繰り返し実施した。各実施例では、噴霧工程の実施周期c、噴霧工程の実施時間t、空気曝露率(c-t)/c、及び液層Lの厚さ(水深)を、下記の表1に記載した値に設定した。
【0082】
【表1】
【0083】
(比較例1)
比較例1では、湛液型(Deep Flow Technique:DFT)の水耕栽培を行った。比較例1では、培養液の噴霧を行わず、液層Lの厚さ(水深)を、前述の表1に記載した値に設定した。また、比較例1では、根の全体が培養液に浸されており、根のうち、栽培槽内で空気に接する部分の割合は、略0%であった。
それ以外の条件については、実施例1~4と同様とした。
【0084】
(比較例2~5)
比較例2~5では、栽培槽内に液層Lを形成しない状態でエアロポニック方式の水耕栽培を行った。すなわち、比較例2~5では、NFTを採用せず、従来のエアロポニック方式の水耕栽培を行った。また、比較例2~5では、苗の栽培期間中、噴霧工程を繰り返し実施した。各比較例では、噴霧工程の実施周期c、噴霧工程の実施時間t、空気曝露率(c-t)/c、及び液層Lの厚さ(水深)を、前述の表1に記載した値に設定した。
それ以外の条件については、実施例1~4と同様とした。
【0085】
<栽培状態及び収穫物の評価>
実施例1~4、及び比較例1~5のそれぞれについて、栽培期間中の所定時点、例えば、栽培開始日から一定期間が経過した時点での苗の生育状態、及び苗の根の伸び具合いを目視にて確認し、1~5の五段階で評価した。また、実施例1~4、及び比較例1~5のそれぞれについて、栽培開始日から所定日数が経過した時点での苗Pの開花度合いを目視にて確認し、1~5の五段階で評価した。さらに、実施例1~4、及び比較例1~5のそれぞれについて、栽培終了時点で得られる収穫物の重量(詳しくは1粒当たりの重量)を、1~5の五段階で評価した。
なお、各項目の評価については、5が最も高く、数値が小さくなるにつれて評価が下がることとする。
【0086】
実施例1~4、及び、比較例1~5のそれぞれの評価結果は、前述の表1に示す通りである。具体的に説明すると、実施例1~4及び比較例1を対比すると分かるように、NFT及びエアロポニック方式の水耕栽培では、DFTの水耕栽培に比べて、苗を良好に生長させ、収穫物の重量を増やすことができた。
また、実施例1~4と比較例2~5とを対比すると、NFT及びエアロポニック方式の水耕栽培では、NFTではない従来のエアロポニック方式の水耕栽培に比べて、苗を良好に生長させ、収穫物の重量を増やすことができた。また、実施例1~4同士を対比すると分かるように、空気曝露率が所定範囲内(具体的には、0.5~0.75の範囲内)にある場合には、根に程よく空気を接触させることができたため、より良好に苗を生長させることができ、結果として、収穫物の重量を一段と増やすことができた。
【0087】
[試験2]
試験2では、レタス(品種:スマシャキ)の苗を水耕栽培によって栽培し、具体的には、以下に説明する実施例5~8、及び比較例6~10の条件で上記の苗を栽培した。
(実施例5~8)
実施例5~8では、本発明の栽培方法を用いて、NFT及びエアロポニック方式の水耕栽培を行った。具体的には、実施例5では、試験1の実施例1と同じ条件で、実施例6では、試験1の実施例2と同じ条件で、実施例7では、試験1の実施例3と同じ条件で、実施例8では、試験1の実施例4と同じ条件で、それぞれ水耕栽培を行った。
各実施例では、苗の根の下端部を栽培槽内の液層Lに浸けさせ、根において下端部以外の部分を栽培槽内で空気に接触させ、当該部分に向けて培養液を噴霧した。なお、培養液については、レタスの水耕栽培に用いられる公知の培養液であるため、説明を省略するが、液中の各成分の濃度を、予め設定された濃度となるように調整した。
【0088】
また、各実施例では、苗の栽培期間中、噴霧工程を繰り返し実施した。各実施例では、噴霧工程の実施周期c、噴霧工程の実施時間t、空気曝露率(c-t)/c、及び液層Lの厚さ(水深)を、下記の表2に記載した値に設定した。
【0089】
【表2】
【0090】
(比較例6)
比較例6では、試験1の比較例1と同様の条件で、湛液型(Deep Flow Technique:DFT)の水耕栽培を行った。比較例6では、培養液の噴霧を行わず、液層Lの厚さ(水深)を、前述の表2に記載した値に設定した。また、比較例6では、根の全体を培養液に浸し、根のうち、栽培槽内で空気に接する部分の割合を略0%とした。
【0091】
(比較例7~10)
比較例7~10では、栽培槽内に液層Lを形成しない状態でエアロポニック方式の水耕栽培を行った。すなわち、具体的には、比較例7では、試験1の比較例2と同じ条件で、比較例8では、試験1の比較例3と同じ条件で、比較例9では、試験1の比較例4と同じ条件で、実施例10では、試験1の比較例5と同じ条件で、それぞれ、NFTを採用しない従来のエアロポニック方式の水耕栽培を行った。また、比較例2~5では、苗の栽培期間中、噴霧工程を繰り返し実施した。各比較例では、噴霧工程の実施周期c、噴霧工程の実施時間t、空気曝露率(c-t)/c、及び液層Lの厚さ(水深)を、前述の表2に記載した値に設定した。
それ以外の条件については、実施例5~8と同様とした。
【0092】
<栽培状態及び収穫物の評価>
実施例5~8、及び比較例6~10のそれぞれについて、栽培開始日から一定期間が経過した時点での苗の生育状態、及び苗の根の伸び具合いを目視にて確認し、1~5の五段階で評価した。また、実施例5~8、及び比較例6~10のそれぞれについて、栽培終了時点で得られる収穫物の重量(詳しくは1粒当たりの重量)を、1~5の五段階で評価した。
実施例5~8、及び、比較例6~10のそれぞれの評価結果は、前述の表2に示す通りである。具体的に説明すると、実施例5~8及び比較例6を対比すると分かるように、NFT及びエアロポニック方式の水耕栽培では、DFTの水耕栽培に比べて、苗を良好に生長させ、収穫物の重量を増やすことができた。
また、実施例5~8と比較例6~10とを対比すると、NFT及びエアロポニック方式の水耕栽培では、NFTではない従来のエアロポニック方式の水耕栽培に比べて、苗を良好に生長させ、収穫物の重量を増やすことができた。また、実施例5~8同士を対比すると分かるように、空気曝露率が所定範囲内(具体的には、0.5~0.75の範囲内)にある場合には、根に程よく空気を接触させることができたため、より良好に苗を生長させることができ、結果として、収穫物の重量を一段と増やすことができた。
【0093】
以上までに説明してきたように、本発明の実施例1~8は、NFT及びエアロポニック方式の水耕栽培にて苗を栽培する点において、本発明の範囲にある。そして、本発明の実施例1~8では、NFTではない従来のエアロポニック方式の水耕栽培、及びDFTの水耕栽培に比べて、苗をより良好に生長させることができるから、本発明の効果は明らかである。
【符号の説明】
【0094】
10 栽培装置
12 栽培槽(容器)
12a 開口
12b 底面(容器内の底面)
14 保持部材
16 給液装置
18 噴霧器
20 栽培パネル
22 嵌合孔
24 立上り部
26 フランジ部
28 下面
30 噴霧ノズル
40 栽培棚
42 光源
50 給液ポンプ
52 供給配管
54 制御弁
56 隙間
58 槽内ライン
60 コントローラ
A 空気層
L 液層
M 固形培地
P 苗
Pr 根
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9