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特開2024-135132液晶ポリマーフィルムおよびその製造方法ならびに該液晶ポリマーフィルムを含む積層体および多層基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135132
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】液晶ポリマーフィルムおよびその製造方法ならびに該液晶ポリマーフィルムを含む積層体および多層基板
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20240927BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240927BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20240927BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240927BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240927BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240927BHJP
   C08G 63/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08L67/04
C08J5/18 CFD
C08J5/18 CFG
B32B15/04 A
B32B27/34
B32B27/36
C08L79/08
C08G63/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045669
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】多木 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】木原 澄人
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4F071AA48
4F071AA60
4F071AA81
4F071AA84
4F071AA86
4F071AA88
4F071AF35Y
4F071AF40Y
4F071AF54Y
4F071AF62Y
4F071AG28
4F071AH12
4F071AH13
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB07
4F071BC01
4F071BC12
4F100AB01A
4F100AB01C
4F100AB33A
4F100AB33C
4F100AK01A
4F100AK41A
4F100AK49B
4F100AL01B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100EH66A
4F100EH66C
4F100GB43
4F100JA02B
4F100JA04B
4F100JA11B
4F100YY00B
4J002CF181
4J002CM042
4J002GQ00
4J029AA02
4J029AB07
4J029AD06
4J029AE03
4J029EB05A
4J029EC06A
4J029JB162
4J029KE08
(57)【要約】
【課題】寸法安定性、等方性および誘電性に十分に優れた液晶ポリマーフィルムを提供すること。
【解決手段】液晶ポリマー(A)および結晶性ポリイミド(B)を含んだ液晶ポリマーフィルムであり、前記液晶ポリマー(A)の配向度が71%以下であり、前記結晶性ポリイミド(B)の含有量が、前記液晶ポリマーの全質量に対して、1~50質量%であり、前記結晶性ポリイミド(B)のend/edge強度比が1以下である、液晶ポリマーフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー(A)および結晶性ポリイミド(B)を含んだ液晶ポリマーフィルムであり、
前記液晶ポリマー(A)の配向度が71%以下であり、
前記結晶性ポリイミド(B)の含有量が、前記液晶ポリマーの全質量に対して、1~50質量%であり、
前記結晶性ポリイミド(B)のend/edge強度比が1以下である、液晶ポリマーフィルム。
【請求項2】
前記フィルムのMDとTDの両方向の熱線膨張係数の比が0.5以上1.5未満である、請求項1に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項3】
前記液晶ポリマー(A)は、モノマー成分として、芳香族ヒドロキシカルボン酸を含有し、さらに芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジオールを含有するか、または含有しない、請求項1に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項4】
前記芳香族ヒドロキシカルボン酸の含有量は、前記液晶ポリマー(A)を構成する全モノマー量に対して、50モル%以上であり、
前記芳香族ジカルボン酸の含有量は、前記液晶ポリマー(A)を構成する全モノマー量に対して、25モル%以下であり、
前記脂肪族ジオールの含有量は、前記液晶ポリマー(A)を構成する全モノマー量に対して、25モル%以下である、請求項3に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項5】
前記液晶ポリマー(A)が、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸を共重合成分とする共重合体である、請求項1に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項6】
前記液晶ポリマー(A)が、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸と4-ヒドロキシ安息香酸の共重合体または6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸とテレフタル酸とエチレングリコールの共重合体である、請求項1に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項7】
前記結晶性ポリイミド(B)の示差走査熱量測定による融点が270~360℃である、請求項1に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項8】
前記結晶性ポリイミド(B)の含有量が2~35質量%である、請求項1に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項9】
前記結晶性ポリイミド(B)の含有量が2~20質量%である、請求項1に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の液晶ポリマーフィルムを製造する方法であって、
液晶ポリマー(A)および結晶性ポリイミド(B)をブレンドする工程;
ブレンド混合物を溶融および混練後、ダイより押し出して未延伸フィルムを得るダイ押出製膜工程;および
前記未延伸フィルムを、前記液晶ポリマー(A)の配向度および前記結晶性ポリイミド(B)のend/edge強度比が達成されるように、延伸して、液晶ポリマーフィルムを得る延伸工程を含む、液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記ダイはフラットダイである、請求項10に記載の液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれかに記載の液晶ポリマーフィルムの片面または両面に金属層を有する積層体。
【請求項13】
金属層が金属箔である、請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
金属層がスパッタリングまたは蒸着により形成されている、請求項12に記載の積層体。
【請求項15】
請求項12に記載の積層体を含む多層基板。
【請求項16】
前記多層基板は電気回路基板または高周波電気回路基板である、請求項15に記載の多層基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマーフィルム(特に液晶ポリマーブレンドフィルム)およびその製造方法ならびに該液晶ポリマーフィルムを含む積層体および多層基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代通信技術とされる第5世代(5G)移動通信システムには、これまで以上の高周波数および広帯域が用いられる。そのため、5G移動通信システムのため、回路基板用の基板フィルムとして、低誘電率および低誘電正接の特性(誘電性)を有するものが、求められており、各社種々の素材による開発を進めている。その一つとして液晶ポリマー(LCP;liquid crystal polymer)フィルムがある。
【0003】
液晶ポリマーは棒状の分子構造を有しているため、配向性が強く、液晶ポリマーを溶融押出する際、ダイスリットによるせん断応力および伸長流動などにより、液晶ポリマーが流れ方向(MD方向;Machine Direction)に配向しやすい。そのため、溶融押出によって製造された液晶ポリマーフィルムは、一軸配向性フィルムとなる傾向にある。この液晶性ポリマーの強い配向性に起因して、MD方向と直交するTD方向(Transverse Direction)の物性に大きな異方性が生じるという問題があった。
【0004】
異方性が緩和されたフィルムを製造する方法としていくつかの方法が提案されている。例えば、特許文献1においては、製膜したフィルムを延伸する方法(例えばインフレーション法)が提案されている。特許文献2においては、液晶ポリマーを有機溶媒に溶解させてキャスト製膜することで異方性のないフィルムを得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-43664
【特許文献2】特許第4742580
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のインフレーションによる製造方法では、製膜後に延伸することにより異方性を低減する効果がある程度期待できるものの、厚物化、厚み精度、大型・高速化に課題が残っている。昨今の液晶ポリマーフィルムの需要増に基づく基材不足の現状より、生産性の向上は非常に重要である。
【0007】
特許文献2の製造方法では、有機溶媒に溶解させることで異方性を低減する効果があるものの、厚物化、大型・高速化に課題が残っており、有機溶媒を用いることによる環境負荷への懸念が残る。
【0008】
また電気回路基板の分野では、高温環境下において、回路(例えば銅回路)と基板との膨張係数の差により、剥離が起こることがあるため、基板の寸法安定性が良好であることも求められている。
【0009】
本発明は、寸法安定性、等方性および誘電性により十分に優れた液晶ポリマーフィルムを提供することを目的とする。
【0010】
本発明はまた、ダイからの押し出しにより製膜を行うダイ押出製膜法のような簡便な方法で、寸法安定性、等方性および誘電性により十分に優れた液晶ポリマーフィルムを得ることができる、液晶ポリマーフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
<1> 液晶ポリマー(A)および結晶性ポリイミド(B)を含んだ液晶ポリマーフィルムであり、
前記液晶ポリマー(A)の配向度が71%以下であり、
前記結晶性ポリイミド(B)の含有量が、前記液晶ポリマーの全質量に対して、1~50質量%であり、
前記結晶性ポリイミド(B)のend/edge強度比が1以下である、液晶ポリマーフィルム。
<2> 前記フィルムのMDとTDの両方向の熱線膨張係数の比が0.5以上1.5未満である、<1>に記載の液晶ポリマーフィルム。
<3> 前記液晶ポリマー(A)は、モノマー成分として、芳香族ヒドロキシカルボン酸を含有し、さらに芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジオールを含有するか、または含有しない、<1>または<2>に記載の液晶ポリマーフィルム。
<4> 前記芳香族ヒドロキシカルボン酸の含有量は、前記液晶ポリマー(A)を構成する全モノマー量に対して、50モル%以上であり、
前記芳香族ジカルボン酸の含有量は、前記液晶ポリマー(A)を構成する全モノマー量に対して、25モル%以下であり、
前記脂肪族ジオールの含有量は、前記液晶ポリマー(A)を構成する全モノマー量に対して、25モル%以下である、<3>に記載の液晶ポリマーフィルム。
<5> 前記液晶ポリマー(A)が、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸を共重合成分とする共重合体である、<1>~<4>のいずれかに記載の液晶ポリマーフィルム。
<6> 前記液晶ポリマー(A)が、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸と4-ヒドロキシ安息香酸の共重合体または6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸とテレフタル酸とエチレングリコールの共重合体である、<1>~<5>のいずれかに記載の液晶ポリマーフィルム。
<7> 前記結晶性ポリイミド(B)の示差走査熱量測定による融点が270~360℃である、<1>~<6>のいずれかに記載の液晶ポリマーフィルム。
<8> 前記結晶性ポリイミド(B)の含有量が2~35質量%である、<1>~<7>のいずれかに記載の液晶ポリマーフィルム。
<9> 前記結晶性ポリイミド(B)の含有量が2~20質量%である、<1>~<8>のいずれかに記載の液晶ポリマーフィルム。
<10> <1>~<9>のいずれかに記載の液晶ポリマーフィルムを製造する方法であって、
液晶ポリマー(A)および結晶性ポリイミド(B)をブレンドする工程;
ブレンド混合物を溶融および混練後、ダイより押し出して未延伸フィルムを得るダイ押出製膜工程;および
前記未延伸フィルムを、前記液晶ポリマー(A)の配向度および前記結晶性ポリイミド(B)のend/edge強度比が達成されるように、延伸して、液晶ポリマーフィルムを得る延伸工程を含む、液晶ポリマーフィルムの製造方法。
<11> 前記ダイはフラットダイである、<10>に記載の液晶ポリマーフィルムの製造方法。
<12> <1>~<9>のいずれかに記載の液晶ポリマーフィルムの片面または両面に金属層を有する積層体。
<13> 金属層が金属箔である、<12>に記載の積層体。
<14> 金属層がスパッタリングまたは蒸着またはめっきにより形成されている、<12>に記載の積層体。
<15> <12>に記載の積層体を含む多層基板。
<16> 前記多層基板は電気回路基板または高周波電気回路基板である、<12>に記載の多層基板。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、寸法安定性、等方性および誘電性により十分に優れた液晶ポリマーフィルムおよびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[液晶ポリマーフィルム]
本発明の液晶ポリマーフィルム(以下、単に「フィルム」ということがある)は、液晶ポリマー(A)および結晶性ポリイミド(B)(以下、「TPI(B)」と称する場合がある)を含有する。
【0014】
本発明において、液晶ポリマー(A)とは、溶融時に液晶状態を示すか、あるいは光学的に複屈折する性質を有するポリマーを指し、具体的には、溶融時に液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーを指す。液晶ポリマー(A)は、熱変形温度によって、I型・II型・III型と分類され、いずれの型であっても構わない。液晶ポリマー(A)としては、溶融成形可能な熱可塑性液晶ポリマーであれば特にその化学的組成は限定されない。熱可塑性液晶ポリマーとしては、熱可塑性液晶ポリエステルや熱可塑性液晶ポリエステルアミドが挙げられるが、中でも、溶融成形しやすいことから、熱可塑性液晶ポリエステルが好ましい。
【0015】
熱可塑性液晶ポリエステルは、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等からなる群から選択される1種以上の化合物に由来する反復構成単位から構成される。本発明において熱可塑性液晶ポリエステルは、溶融成形をしやすくするため、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール等のその他の成分を含有してもよい。
【0016】
芳香族ジオールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、2,6-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)エタン、3,3’-ジヒドロキシジフェニル、3,3’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,6-ナフタレンジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、メチルハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、フェノキシハイドロキノン、4-メチルレゾルシンハイドロキノンが挙げられる。
【0017】
芳香族ジオールは、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上ならびに液晶性および汎用性の観点から、好ましくは以下の群Iaからなる群から選択される1種以上の化合物であり、好ましくは以下の群Ibからなる群から選択される1種以上の化合物である。
群Ia:ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、2,6-ナフタレンジオール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル;
群Ib:ハイドロキノン、2,6-ナフタレンジオール。
【0018】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシブタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルエタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-3,3’-ジカルボン酸、ジフェノキシエーテル-3,3’-ジカルボン酸、ジフェニルエタン-3,3’-ジカルボン酸等が挙げられる。
【0019】
芳香族ジカルボン酸は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上ならびに液晶性の発現の観点から、好ましくは以下の群IIaからなる群から選択される1種以上の化合物であり、より好ましくは以下の群IIbからなる群から選択される1種以上の化合物である。
群IIa:テレフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルエタン-4,4’-ジカルボン酸;
群IIb:テレフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸。
【0020】
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、6-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、3-メチル-4-ヒドロキシ安息香酸、3-メトキシ-4-ヒドロキシ安息香酸が挙げられる。
【0021】
芳香族ヒドロキシカルボン酸は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上ならびに液晶性の発現の観点から、好ましくは以下の群IIIaからなる群から選択される1種以上の化合物であり、より好ましくは以下の群IIIbからなる群から選択される1種以上の化合物である。
群IIIa:4-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-メチル-4-ヒドロキシ安息香酸、3-メトキシ-4-ヒドロキシ安息香酸;
群IIIb:4-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸。
【0022】
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0023】
脂肪族ジオールは、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上ならびに汎用性および植物由来材料の観点から、好ましくは以下の群IVaからなる群から選択される1種以上の化合物であり、より好ましくは以下の群IVbからなる群から選択される1種以上の化合物である。
群IVa:エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール;
群IVb:エチレングリコール。
【0024】
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、水添ダイマー酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸等が挙げられる。
【0025】
脂肪族ジカルボン酸は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上ならびに汎用性の向上の観点から、好ましくは以下の群Vaからなる群から選択される1種以上の化合物であり、好ましくは以下の群Vbからなる群から選択される1種以上の化合物である。
群Va:シュウ酸、マロン酸、コハク酸;
群Vb:シュウ酸。
【0026】
液晶ポリマー(A)は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上ならびに成形性の向上の観点から、モノマー成分として、好ましくは芳香族ヒドロキシカルボン酸を含有し、さらに芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジオールを含有してもよい。詳しくは、このような好ましい液晶ポリマー(A)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸を含有し、さらに芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジオールを含有してもよいし、または含有しなくてもよい。このような好ましい液晶ポリマー(A)における、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジオールの含有量は以下の通りである。
芳香族ヒドロキシカルボン酸:好ましくは50モル%以上(すなわち50~100モル%)、より好ましくは70モル%以上(すなわち70~100モル%)、さらに好ましくは80モル%以上(80~100モル%)、特に好ましくは90モル%以上(すなわち90~100モル%)、最も好ましくは100モル%;
芳香族ジカルボン酸:好ましくは25モル%以下(すなわち0~25モル%)、より好ましくは15モル%以下(すなわち0~15モル%)、さらに好ましくは10モル%以下(すなわち0~10モル%)、特に好ましくは5モル%以下(すなわち0~5モル%)、最も好ましくは0モル%;
脂肪族ジオール:好ましくは25モル%以下(すなわち0~25モル%)、より好ましくは15モル%以下(すなわち0~15モル%)、さらに好ましくは10モル%以下(すなわち0~10モル%)、特に好ましくは5モル%以下(すなわち0~5モル%)、最も好ましくは0モル%。
なお、モノマー成分としての化合物の含有量は、液晶ポリマー(A)を構成する全モノマー量に対する割合で表される。含有量「0モル%」は、液晶ポリマー(A)が当該化合物を含有しないことを意味する。
【0027】
液晶ポリマー(A)が、モノマー成分として、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジオールを含有する場合、そのモノマー配列は特に限定されず、当該液晶ポリマー(A)はランダム型ポリエステルであってもよいし、またはブロック型ポリエステルであってもよい。このとき、液晶ポリマー(A)は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、ブロック型ポリエステルであることが好ましい。
ランダム型ポリエステルは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジオールが任意の順序で配列および重合されてなるポリエステルのことである。
ブロック型ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジオールのエステルオリゴマー部(ブロック部)と、芳香族ヒドロキシカルボン酸のエステルオリゴマー部(ブロック部)とを含むブロック型ポリエステルのことである。
【0028】
液晶ポリマー(A)としては、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸を共重合成分とする共重合体(以下、共重合体(a1)ということがある)である液晶ポリマーが好ましい。中でも、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上ならびに液晶性の発現の観点から、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸と4-ヒドロキシ安息香酸の共重合体(以下、共重合体(a1-1)ということがある)または6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸とテレフタル酸とエチレングリコールの共重合体(以下、共重合体(a1-2)ということがある)がより好ましい。
【0029】
共重合体(a1)は、モノマー成分として、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸以外に、前記した芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、および脂肪族ジオールからなる群から選択される1種以上の化合物を含有してもよい。共重合体(a1)は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、モノマー成分として、芳香族ヒドロキシカルボン酸(6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸以外)、芳香族ジカルボン酸、および脂肪族ジオールからなる群から選択される1種以上の化合物を含有することが好ましい。
【0030】
共重合体(a1)において、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸の含有量は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは1~100モル%、より好ましくは10~95モル%、さらに好ましくは20~90モル%、特に好ましくは20~50モル%、最も好ましくは20~40モル%である。このとき、芳香族ヒドロキシカルボン酸(6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸以外)、芳香族ジカルボン酸、および脂肪族ジオールの好ましい含有量は以下の通りである。
芳香族ヒドロキシカルボン酸(6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸以外):好ましくは90モル%以下(すなわち0~90モル%)、より好ましくは20~90モル%、さらに好ましくは40~90モル%、特に好ましくは60~90モル%、最も好ましくは60~80モル%;
芳香族ジカルボン酸:好ましくは25モル%以下(すなわち0~25モル%)、より好ましくは15モル%以下(すなわち0~15モル%)、さらに好ましくは10モル%以下(すなわち0~10モル%)、特に好ましくは5モル%以下(すなわち0~5モル%)、最も好ましくは0モル%;
脂肪族ジオール:好ましくは25モル%以下(すなわち0~25モル%)、より好ましくは15モル%以下(すなわち0~15モル%)、さらに好ましくは10モル%以下(すなわち0~10モル%)、特に好ましくは5モル%以下(すなわち0~5モル%)、最も好ましくは0モル%。
なお、モノマー成分としての化合物の含有量は、共重合体(a1)を構成する全モノマー量に対する割合で表される。含有量「0モル%」は、共重合体(a1)が当該化合物を含有しないことを意味する。
【0031】
共重合体(a1-1)において、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸の含有量は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは1~99モル%、より好ましくは10~95モル%、さらに好ましくは20~90モル%、特に好ましくは20~80モル%、十分に好ましくは20~50モル%、最も好ましくは20~40モル%である。
共重合体(a1-1)において、4-ヒドロキシ安息香酸の含有量は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは1~99モル%、より好ましくは5~90モル%、さらに好ましくは10~80モル%、特に好ましくは20~80モル%、十分に好ましくは50~80モル%、最も好ましくは60~80モル%である。
【0032】
共重合体(a1-1)はランダム型ポリエステルであってもよいし、またはブロック型ポリエステルであってもよく、誘電性および耐熱性のさらなる向上の観点から、ランダム型ポリエステルであることが好ましい。
【0033】
共重合体(a1-2)において、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸の含有量は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは10~98モル%、より好ましくは30~95モル%、さらに好ましくは50~95モル%、特に好ましくは60~90モル%、最も好ましくは70~90モル%である。
共重合体(a1-2)において、テレフタル酸の含有量は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは1~30モル%、より好ましくは2~25モル%、さらに好ましくは5~20モル%、特に好ましくは8~15モル%、最も好ましくは10~15モル%である。
共重合体(a1-2)において、エチレングリコールの含有量は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは1~30モル%、より好ましくは2~25モル%、さらに好ましくは5~20モル%、特に好ましくは8~15モル%、最も好ましくは10~15モル%である。
【0034】
共重合体(a1-2)はランダム型ポリエステルであってもよいし、またはブロック型ポリエステルであってもよく、誘電性および耐熱性のさらなる向上の観点から、ブロック型ポリエステルであることが好ましい。
【0035】
液晶ポリマー(A)の融点は、特に限定されず、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、220~360℃であることが好ましく、270~340℃であることがより好ましく、270~320℃であることがさらに好ましい。
【0036】
本明細書中、融点は、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製、DSC-7型)を用い、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解ピークから求めた温度を用いている。
【0037】
液晶ポリマー(A)のメルトフローレート(MFR)は、特に限定されず、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、0.5~300g/10分であることが好ましく、2~100g/10分であることがより好ましく、20~100g/10分であることがより好ましい。
【0038】
本明細書中、液晶ポリマー(A)のMFRはJIS K 7210に準拠して、350℃で2.16kgf荷重で測定された値を用いている。
【0039】
液晶ポリマー(A)は、所定のモノマー成分を用いて公知の方法で重合することにより製造することもできるし、または市販品として入手することもできる。なお、液晶ポリマー(A)としてブロック型ポリエステルを製造する場合、例えば以下の方法を採用することができる。例えば、まず、特定のブロック部を構成するモノマー成分を予め重合させオリゴマーを得る。次いで、得られたオリゴマーに、他のブロック部を構成するモノマー成分を混合し、さらに重合させる。
【0040】
液晶ポリマー(A)の市販品の具体例としては、例えば、ポリプラスチック社製「ラペロス」、セラニーズ社製「ベクトラ」、上野製薬社製「UENOLCP」、住友化学社製「スミカスーパーLCP」、ENEOS社製「ザイダー」、東レ社製「シベラス」、および、ユニチカ社製「ロッドラン」が挙げられる。
【0041】
液晶ポリマー(A)の含有量は、特に限定されず、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上および押出性の向上の観点から、液晶ポリマーフィルムの全質量に対して、40~99質量%とすることが好ましく、50~99質量%とすることより好ましく、60~98質量%とすることがさらに好ましく、65~98質量%とすることが特に好ましく、80~98質量%とすることが十分に好ましく、85~97質量%とすることが最も好ましい。
【0042】
本発明のフィルムは結晶性ポリイミド(B)を含有する必要がある。液晶ポリマー(A)に結晶性ポリイミド(B)を所定量含有した溶融押出シートを延伸することで、フィルムの寸法安定性、等方性および誘電性を制御することができる。
【0043】
結晶性ポリイミド(B)とは、示差走査型熱量計により、溶融後、降温速度10℃/分で冷却した際に観測される結晶化発熱ピークの熱量(以下、単に「結晶化発熱量」ともいう)が5.0J/g以上、好ましくは10.0J/g以上、より好ましくは20.0J/g以上であるポリイミドのことである。結晶化発熱量の上限値は特に限定されないが、通常、45.0J/g以下である。他方、非晶性ポリイミド樹脂の結晶化発熱量は5.0J/g未満、特に1.0J/g未満である。
【0044】
結晶性ポリイミド(B)は、例えば、下記式(1)で示される繰り返し構成単位および下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含む。
【0045】
【化1】
【0046】
式(1)中、Rはジアミン化合物のイミド化反応による残基であり、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。ここで、脂環式炭化水素構造とは、脂環式炭化水素化合物から誘導される環を意味し、該脂環式炭化水素化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、単環であっても多環であってもよい。
脂環式炭化水素構造としては、シクロヘキサン環等のシクロアルカン環、シクロヘキセン等のシクロアルケン環、ノルボルナン環等のビシクロアルカン環、およびノルボルネン等のビシクロアルケン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくはシクロアルカン環、より好ましくは炭素数4~7のシクロアルカン環、さらに好ましくはシクロヘキサン環である。
の炭素数は6~22であり、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは6~17、より好ましくは8~17である。
は脂環式炭化水素構造を少なくとも1つ含み、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは1~3個、より好ましくは1個含む。
【0047】
は、好ましくは下記式(R1-1)または(R1-2)で表される2価の基である。
【0048】
【化2】
【0049】
(式(R1-1)中、m11およびm12は、それぞれ独立して、0~2の整数であり、好ましくは0または1である。式(R1-2)中、m13~m15は、それぞれ独立して、0~2の整数であり、好ましくは0または1である。)
【0050】
は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、特に好ましくは下記式(R1-3)で表される2価の基である。
【0051】
【化3】
【0052】
なお、上記の式(R1-3)で表される2価の基において、2つのメチレン基のシクロヘキサン環に対する位置関係はシスであってもトランスであってもよく、またシスとトランスの比は如何なる値でもよい。
【0053】
式(1)中、Xは、テトラカルボン酸化合物のイミド化反応による残基であり、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、およびテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくはベンゼン環およびナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
の炭素数は6~22であり、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは6~18、より好ましくは6~10である。
は芳香環を少なくとも1つ含み、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは1~3個、より好ましくは1個含む。
【0054】
は、好ましくは下記式(X-1)~(X-4)のいずれかで表される4価の基である。
【0055】
【化4】
【0056】
(式(X1-1)~(X1-4)中、R11~R18は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。p11~p13は、それぞれ独立して、0~2の整数であり、好ましくは0である。p14、p15、p16およびp18は、それぞれ独立して、0~3の整数であり、好ましくは0である。p17は0~4の整数であり、好ましくは0である。L11~L13は、それぞれ独立して、単結合、エーテル基、カルボニル基または炭素数1~4のアルキレン基である。)
なお、Xは少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基であるので、式(X-2)におけるR12、R13、p12およびp13は、式(X-2)で表される4価の基の炭素数が10~22の範囲に入るように選択される。
同様に、式(X-3)におけるL11、R14、R15、p14およびp15は、式(X-3)で表される4価の基の炭素数が12~22の範囲に入るように選択され、式(X-4)におけるL12、L13、R16、R17、R18、p16、p17およびp18は、式(X-4)で表される4価の基の炭素数が18~22の範囲に入るように選択される。
【0057】
は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、特に好ましくは下記式(X-5)または(X-6)で表される4価の基である。
【0058】
【化5】
【0059】
式(2)中、Rは、ジアミン化合物のイミド化反応による残基であって、炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基であり、好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10である。ここで、鎖状脂肪族基とは、鎖状脂肪族化合物から誘導される基を意味し、該鎖状脂肪族化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよく、酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素数5~16のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数6~14、更に好ましくは炭素数7~12のアルキレン基であり、なかでも好ましくは炭素数8~10のアルキレン基である。前記アルキレン基は、直鎖アルキレン基であっても分岐アルキレン基であってもよいが、好ましくは直鎖アルキレン基である。
は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくはオクタメチレン基およびデカメチレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、特に好ましくはオクタメチレン基である。
【0060】
また、Rの別の好適な様態として、エーテル基を含む炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基が挙げられる。該炭素数は、好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10である。その中でも好ましくは下記式(R2-1)または(R2-2)で表される2価の基である。
【0061】
【化6】
【0062】
(式(R2-1)中、m21およびm22は、それぞれ独立して、1~15の整数であり、好ましくは1~13、より好ましくは1~11、更に好ましくは1~9である。式(R2-2)中、m23~m25は、それぞれ独立して、1~14の整数であり、好ましくは1~12、より好ましくは1~10、更に好ましくは1~8である。)
なお、Rは炭素数5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)の2価の鎖状脂肪族基であるので、式(R2-1)におけるm21およびm22は、式(R2-1)で表される2価の基の炭素数が5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)の範囲に入るように選択される。すなわち、m21+m22は5~16(好ましくは6~14、より好ましくは7~12、更に好ましくは8~10)である。
同様に、式(R2-2)におけるm23~m25は、式(R2-2)で表される2価の基の炭素数が5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)の範囲に入るように選択される。すなわち、m23+m24+m25は5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)である。
【0063】
式(2)中、Xは、テトラカルボン酸化合物のイミド化反応による残基であって、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基であり、式(1)におけるXと同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0064】
結晶性ポリイミド(B)において、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比は通常、20~70モル%であり、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは20~60モル%、より好ましくは20~50モル%、さらに好ましくは25~45モル%、特に好ましくは30~40モル%である。
【0065】
式(1)の繰り返し構成単位および式(2)の繰り返し構成単位の含有比はNMRにより測定することができる。
【0066】
結晶性ポリイミド(B)を構成する全繰り返し構成単位に対する、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計の含有比は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは50~100モル%、より好ましくは75~100モル%、さらに好ましくは80~100モル%、特に好ましくは85~100モル%、十分に好ましくは90~100モル%、より十分に好ましくは100モル%である。
【0067】
結晶性ポリイミド(B)は、さらに、下記式(3)の繰り返し構成単位を含有してもよい。その場合、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(3)の繰り返し構成単位の含有比は、好ましくは25モル%以下である。一方で、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
前記含有比は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、一方で結晶性を維持する観点からは、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。
【0068】
【化7】
【0069】
式(3)中、Rは、ジアミン化合物のイミド化反応による残基であり、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の2価の基である。前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、およびテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくはベンゼン環およびナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
の炭素数は6~22であり、好ましくは6~18である。
は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは1~3個含む。
また、前記芳香環には1価もしくは2価の電子求引性基が結合していてもよい。1価の電子求引性基としてはニトロ基、シアノ基、p-トルエンスルホニル基、ハロゲン、ハロゲン化アルキル基、フェニル基、アシル基などが挙げられる。2価の電子求引性基としては、フッ化アルキレン基(例えば-C(CF-、-(CF)p-(ここで、pは1~10の整数である))のようなハロゲン化アルキレン基のほかに、-CO-、-SO-、-SO-、-CONH-、-COO-などが挙げられる。
【0070】
は、好ましくは下記式(R3-1)または(R3-2)で表される2価の基である。
【0071】
【化8】
【0072】
(式中、m31およびm32は、それぞれ独立して、0~2の整数であり、好ましくは0または1である。m33およびm34は、それぞれ独立して、0~2の整数であり、好ましくは0または1である。R21、R22、およびR23は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、または炭素数2~4のアルキニル基である。p21、p22およびp23は0~4の整数であり、好ましくは0である。L21は、単結合、エーテル基、カルボニル基または炭素数1~4のアルキレン基である。)
なお、Rは少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の2価の基であるので、式(R3-1)におけるm31、m32、R21およびp21は、式(R3-1)で表される2価の基の炭素数が6~22の範囲に入るように選択される。
同様に、式(R3-2)におけるL21、m33、m34、R22、R23、p22およびp23は、式(R3-2)で表される2価の基の炭素数が12~22の範囲に入るように選択される。
【0073】
式(3)中、Xは、テトラカルボン酸化合物のイミド化反応による残基であって、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基であり、式(1)におけるXと同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0074】
結晶性ポリイミド(B)は、さらに、下記式(4)で示される繰り返し構成単位を含有してもよい。
【0075】
【化9】
【0076】
式(4)中、Rは-SO-またはSi(Rx)(Ry)O-を含む2価の基であり、RxおよびRyはそれぞれ独立して、炭素数1~3の鎖状脂肪族基またはフェニル基を表す。
は、テトラカルボン酸化合物のイミド化反応による残基であって、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基であり、式(1)におけるXと同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0077】
結晶性ポリイミド(B)の末端構造には特に制限はないが、炭素数5~14の鎖状脂肪族基を末端に有することが好ましい。該鎖状脂肪族基は、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよい。結晶性ポリイミド(B)が上記特定の基を末端に有すると、耐熱老化性に優れる樹脂組成物を得ることができる。
【0078】
炭素数5~14の飽和鎖状脂肪族基としては、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、ラウリル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルペンチル基、2-メチルヘキシル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、イソノニル基、2-エチルオクチル基、イソデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基等が挙げられる。
炭素数5~14の不飽和鎖状脂肪族基としては、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、1-へキセニル基、2-へキセニル基、1-ヘプテニル基、2-ヘプテニル基、1-オクテニル基、2-オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基等が挙げられる。
【0079】
中でも、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、上記鎖状脂肪族基は飽和鎖状脂肪族基であることが好ましく、飽和直鎖状脂肪族基であることがより好ましい。上記鎖状脂肪族基は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素数6以上、より好ましくは炭素数7以上、更に好ましくは炭素数8以上であり、好ましくは炭素数12以下、より好ましくは炭素数10以下、更に好ましくは炭素数9以下である。上記鎖状脂肪族基は1種のみでもよく、2種以上でもよい。
上記鎖状脂肪族基は、特に好ましくはn-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、イソノニル基、n-デシル基、およびイソデシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはn-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、およびイソノニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、最も好ましくはn-オクチル基、イソオクチル基、および2-エチルヘキシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0080】
結晶性ポリイミド(B)は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、末端アミノ基および末端カルボキシ基以外に、炭素数5~14の鎖状脂肪族基のみを末端に有することが好ましい。上記以外の基を末端に有する場合、その含有量は、好ましくは炭素数5~14の鎖状脂肪族基に対し10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0081】
結晶性ポリイミド(B)中の上記炭素数5~14の鎖状脂肪族基の含有量は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、結晶性ポリイミド(B)を構成する全繰り返し構成単位の合計100モル%に対し、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、更に好ましくは0.2モル%以上である。また、十分な分子量を確保し良好な機械的物性を得るためには、結晶性ポリイミド(B)中の上記炭素数5~14の鎖状脂肪族基の含有量は、結晶性ポリイミド(B)を構成する全繰り返し構成単位の合計100モル%に対し、好ましくは10モル%以下、より好ましくは6モル%以下、更に好ましくは3.5モル%以下、より更に好ましくは2.0モル%以下、より更に好ましくは1.2モル%以下である。
結晶性ポリイミド(B)中の上記炭素数5~14の鎖状脂肪族基の含有量は、結晶性ポリイミド(B)を解重合することにより求めることができる。
【0082】
結晶性ポリイミド(B)は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、360℃以下の融点を有することが好ましい。結晶性ポリイミド(B)の融点は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、より好ましくは270℃以上、さらに好ましくは290℃以上であり、高い成形加工性を発現する観点からは、好ましくは345℃以下、より好ましくは340℃以下、更に好ましくは335℃以下である。
【0083】
本明細書中、ポリマーの融点は、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製、DSC-7型)を用い、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解ピークから求めた温度を用いている。
【0084】
結晶性ポリイミド(B)の5質量%濃硫酸溶液の30℃における対数粘度は、好ましくは0.2~2.0dL/g、より好ましくは0.3~1.8dL/gの範囲である。対数粘度が0.2dL/g以上であれば、得られる樹脂組成物を成形体とした際に十分な機械的強度が得られ、2.0dL/g以下であると、成形加工性および取り扱い性が良好になる。対数粘度μは、キャノンフェンスケ粘度計を使用して、30℃において濃硫酸および上記ポリイミド樹脂溶液の流れる時間をそれぞれ測定し、下記式から求められる。
μ=ln(ts/t0)/C
t0:濃硫酸の流れる時間
ts:ポリイミド樹脂溶液の流れる時間
C:0.5(g/dL)
【0085】
結晶性ポリイミド(B)の重量平均分子量Mwは、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは10,000~150,000、より好ましくは15,000~100,000、更に好ましくは20,000~80,000、より更に好ましくは30,000~70,000、より更に好ましくは35,000~65,000の範囲である。
【0086】
結晶性ポリイミド(B)の重量平均分子量Mwは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を標準試料としてゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)法により測定することができる。
【0087】
結晶性ポリイミド(B)の含有量は、液晶ポリマーフィルムの全質量に対して、1~50質量%であり、特に限定されず、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、2~40質量%とすることが好ましく、2~35質量%とすることがより好ましく、2~20質量%とすることがさらに好ましく、3~15質量%とすることが特に好ましい。結晶性ポリイミド(B)の含有量が1質量%未満であると、溶融押出シートを延伸したとき破断しやすい。破断なく延伸できたとしても、フィルムの配向度が増大し、等方性が不十分となってしまう。一方、結晶性ポリイミド(B)の含有量が50質量%を超えると、寸法安定性が低下し、回路基板用として必要な線膨張係数が大きくなり回路用基板として使用できない。
【0088】
本発明のフィルムは、液晶ポリマー(A)および結晶性ポリイミド(B)以外のポリマー(以下、単に「他のポリマー」ということがある)を、液晶ポリマーフィルムの全質量に対して、25質量%以下で添加しても、本発明の効果を奏する本発明のフィルムを得ることができる。他のポリマーとは、液晶ポリマー(A)でも、結晶性ポリイミド(B)でもないポリマーのことであり、例えば、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、およびポリフェニレンサルファイドからなる群から選択される1種以上のポリマーであってもよい。寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、ポリアリレートが好ましい。
【0089】
ポリアリレートは、芳香族ジカルボン酸およびビスフェノール系ジオールをモノマー成分として含有するポリエステルのことである。
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、クロルフタル酸、ニトロフタル酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、メチルテレフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2-ビス(4-カルボキシフェノキシ)エタン、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ジフェン酸ならびにそれらの誘導体、例えば、酸ハライド化物が挙げられる。
【0090】
ビスフェノール系ジオールとしては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノールAP)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル〔4,4’-ビフェノール〕、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-(1,3-ジメチルブチリデン)ジフェノール、レゾルシノールが挙げられる。
【0091】
ポリアリレートの分子量は特に限定されず、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、1,1,2,2-テトラクロロエタンに、濃度1g/dLとなるように溶解した樹脂溶液の、温度25℃におけるインヘレント粘度が、0.40~1.20dL/gであることが好ましく、0.45~1.00dL/gであることがより好ましい。
【0092】
他のポリマーの含有量は、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、液晶ポリマーフィルムの全質量に対して、好ましくは10質量%以下(すなわち0~10質量%)、より好ましくは5質量%以下(すなわち0~5質量%)、さらに好ましくは3質量%以下(すなわち0~3質量%)である。
【0093】
本発明のフィルムは、液晶ポリマー(A)と結晶性ポリイミド(B)との相溶性を向上させるため、相溶成分を含有させてもよい。相溶成分としては、例えば、エポキシ基含有ポリオレフィン系共重合体、無水マレイン酸含有ポリオレフィン系共重合体、オキサゾリン基含有ビニル系共重合体、カルボキシル基含有オレフィン系共重合体、アイオノマー樹脂が挙げられる。
【0094】
相溶成分の含有量は通常、液晶ポリマーフィルムの全質量に対して、30質量%以下(すなわち0~30質量%)であり、液晶ポリマー(A)と結晶性ポリイミド(B)との相溶性の向上の観点、ならびに寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、20質量%以下(すなわち0~20質量%)とすることが好ましく、10質量%以下(すなわち0~10質量%)とすることがより好ましく、5質量%以下(すなわち0~5質量%)とすることがさらに好ましく、1質量%以下(すなわち0~1質量%)とすることが十分に好ましく、0質量%とすることがより十分に好ましい。
【0095】
本発明のフィルムには、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、各種の添加剤が含有されていてもよい。添加剤としては、粒子や脂肪酸エステルなどの滑剤;顔料、染料などの着色剤;熱安定剤;着色防止剤、酸化防止剤、耐候性改良剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、強化剤、改質剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、防曇剤、各種ポリマー樹脂などが挙げられる。本発明のフィルムには、製膜時の熱安定性を高め、フィルムの強度や伸度の劣化を防ぎ、使用時においても酸化や分解などに起因するフィルムの劣化を防止するため、熱安定剤を含有させることが好ましい。熱安定剤としては、ヒンダードフェノール系熱安定剤、ヒンダードアミン系熱安定剤、リン系熱安定剤、イオウ系熱安定剤、2官能型熱安定剤などが挙げられる。
【0096】
上記添加剤の含有量は通常、液晶ポリマーフィルムの全質量に対して、10質量%以下(すなわち0~10質量%)であり、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、5質量%以下(すなわち0~5質量%)とすることが好ましく、2質量%以下(すなわち0~2質量%)とすることがより好ましく、1質量%以下(すなわち0~1質量%)とすることがさらに好ましく、0.1質量%以下(すなわち0~0.1質量%)とすることが十分に好ましく、0質量%とすることがより十分に好ましい。
【0097】
[液晶ポリマーフィルムの製造方法]
本発明の液晶ポリマーフィルムの製造方法は、液晶ポリマー(A)および結晶性ポリイミド(B)をブレンドするブレンド工程、ブレンド混合物を用いて未延伸フィルムを形成する工程、および未延伸フィルムを1軸方向または2軸方向に延伸する延伸工程を含む。
【0098】
(ブレンド工程)
本工程では、液晶ポリマー(A)および結晶性ポリイミド(B)、ならびに所望により添加される上記した他のポリマー、相溶化剤および添加剤を所定の比率でブレンドする。ブレンドは、単に機械的混合を行う乾式混合であってもよいし、または溶融および混錬を行い、ペレットを得る湿式混合であってもよい。ブレンドは、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、湿式混合であることが好ましく、より好ましくは乾式混合した後、湿式混合を行う。
【0099】
乾式混合は、例えば、タンブラーまたはヘンシェルミキサー等の混合装置を用いて、行うことができる。
湿式混合に用いる溶融混練装置としては、特に限定されず、例えば、一軸または二軸押出機や、各種ニーダー等が用いられる。溶融混練装置は特に、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、二軸混練押出機の使用が好ましい。ブレンド工程および後述の製膜工程の装置として、押出機を用いる場合、これらの工程を1つの装置で行うことができる。
【0100】
(製膜工程)
本工程では、ブレンド工程で得られたブレンド混合物(例えばペレット)を溶融および混練後、溶融混練物をフィルム化する。相溶成分、熱安定剤等の添加剤は、本工程で添加されてもよい。本工程において、溶融および混錬は、ブレンド工程の説明で例示した一軸または二軸押出機により行うことができる。
【0101】
フィルム化は、従来公知の方法によって実施することができ、例えば、溶融混練物をダイより押し出して未延伸フィルムを得る(ダイ押出製膜工程)。詳しくは、溶融混練物を、Tダイなどのフラットダイを用いて、フィルム状に押出すことが好ましい。ダイ押出製膜工程(特にフラットダイによる押出製膜工程)は、厚物化、厚み精度、大型・高速に有利なプロセスであるため、本発明のフィルムの製造方法は、液晶ポリマーフィルム不足の現状において、生産性の向上の観点から、非常に重要である。フィルム状の溶融物は、冷却ロールやスチールベルトなどの移動冷却体の冷却面に接触させて冷却することにより、未延伸フィルムを得ることができる。この未延伸フィルムは、MD方向に配向している未延伸フィルムである。
【0102】
(延伸工程)
本工程では、製膜工程で得られた未延伸フィルムを延伸し、フィルムの配向度を所定の範囲に制御する。詳しくは液晶ポリマー(A)の配向度および結晶性ポリイミド(B)のend/edge強度比各々を所定の範囲になるように延伸を行う。より詳しくは、未延伸フィルムはMD方向に強く配向しているため、予熱後に、少なくともTD方向(例えば、TD方向の1軸方向、または、MD方向およびTD方向の両方の2軸方向)に延伸する。寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくはTD方向のみに延伸する。予熱温度としては、140℃以上「液晶ポリマーが実質的に溶融する温度」未満であることが好ましく、150~260℃であることがより好ましく、170~250℃であることがさらに好ましく、190~230であることが十分に好ましく、200~220℃であることがより十分に好ましい。予熱温度をこの範囲とすることで、所定の成分を含む液晶ポリマーフィルムであれば、延伸ムラやフィルムの破断が発現することなく、安定して延伸をおこなうことができる。140℃未満であると、延伸時にフィルムが変形できずに破断する場合がある。一方、「液晶ポリマーが実質的に溶融する温度」を超えると、延伸ムラ大きく、また溶融による破断が生じたりする場合がある。この温度域で延伸する場合、従来、液晶ポリマー未延伸フィルムは、本発明の延伸工程では、延伸されずに破断しやすいが、本発明の液晶ポリマーフィルムの構成にすることで、延伸しやすくなる。延伸前のフィルムの予熱時間は、特に限定されず、1~60秒が現実的な範囲である。
【0103】
この延伸工程は、未延伸フィルムに対して、後述する所望の等方性を与える。延伸倍率は、未延伸フィルムに所望の等方性を与えることができる限り、特に限定されない。例えば、MD方向の延伸倍率が1倍(特に0.7~1.3倍)であるとき、TD方向の延伸倍率2.2~4.0倍(特に2.2~3.5倍)であってもよく、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは2.8~3.2倍である。
【0104】
延伸装置および延伸方法としては、従来公知の装置および延伸方法を用いることができる。一軸および二軸延伸法としては、テンター式同時二軸機により縦方向と横方向に同時に延伸する同時二軸延伸法や、ロール式延伸機で縦方向に延伸した後にテンター式横延伸機で横方向に延伸する逐次二軸延伸法等が挙げられる。
【0105】
延伸をおこなった後、延伸のためのクリップでフィルムを把持したまま、熱固定処理を行うことが好ましい。熱固定処理を行うことで、得られるフィルムの高温での寸法安定性を向上させることができる。
【0106】
熱固定処理温度は、フィルムの耐熱性や寸法安定性の観点から、200℃~「Tm-5」℃であることが好ましく、240℃~「Tm-10」℃であることがより好ましい。Tmは液晶ポリマー(A)の融点(℃)である。
【0107】
熱固定処理時間は、特に限定されず、フィルムの耐熱性や寸法安定性の観点から、1秒間~90秒間、特に5秒間~30秒間であってもよい。
【0108】
熱固定処理をおこなった後、クリップでフィルムを把持したまま1~10%の弛緩処理を行うことが好ましく、3~7%の弛緩処理を行ってもよい。弛緩処理をおこなうことで、得られるフィルムの高温での寸法安定性をさらに向上させることができる。
また弛緩処理はMD方向とTD方向に問わず行うことができる。
【0109】
(後処理工程)
延伸工程の後、得られた延伸フィルムを比較的高温および長時間での熱処理に基づく後処理工程に付してもよい。詳しくは、延伸フィルムを、窒素雰囲気下、熱固定処理工程における処理温度および処理時間それぞれと比較して高温および長時間で保持することにより熱処理を行う。
【0110】
後処理工程での熱処理温度は通常、230℃~Tm-5℃であることが好ましく、250℃~Tm-10℃であることがより好ましい。Tmは液晶ポリマー(A)の融点(℃)である。
【0111】
後処理工程での熱処理時間は通常、5分間~12時間、特に1時間~5時間であってもよい。
【0112】
得られたフィルムは、枚葉とされてもよいし、巻き取りロールに巻き取られることでフィルムロールの形態とされてもよい。各種用途への利用に際しての生産性の点から、フィルムロールの形態とすることが好ましい。フィルムロールとされた場合は、所望の巾にスリットされてもよい。
【0113】
本発明のフィルムには、必要に応じてコロナ放電処理等の表面処理を施してもよい。
【0114】
本発明のフィルムは、液晶ポリマー(A)の配向度が71%以下であり、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは70%以下である。この数値は、液晶ポリマー(A)の配向について、フィルム面内において完全にランダムな配向の場合は0%となり、フィルム面内でMD方向に完全に一軸配向している場合は無限大に大きくなり、TD方向に配向している場合は、100%となる。当該配向度が71%を超えると、寸法安定性および等方性が低下する。当該配向度は通常、50%以上、特に60%以上である。
【0115】
本明細書中、液晶ポリマー(A)の配向度は、X線広角回折により、X線源:Cu-Kα線および出力50kV-300mAにて測定された方位角強度分布から、回折ピーク位置における半値幅A°を求め、以下の式に基づいて算出された値を用いている。
配向度=(180°-A°)/180°
【0116】
一般的にMD方向に配向しやすい液晶ポリマー(A)の配向度はフィルムの等方性の観点から、可能な限り低くするべきである。しかしながら、本発明のフィルムにおいては、液晶ポリマー(A)の配向度が上記範囲内でも、結晶性ポリイミド(B)のend/edge強度比が後述の範囲内とすることで、より十分に優れた等方性が得られる。
【0117】
本発明のフィルムは、結晶性ポリイミド(B)の配向について、結晶性ポリイミド(B)のend/edge強度比が1以下(特に1未満)であり、寸法安定性、等方性および誘電性のさらなる向上の観点から、好ましくは0.8以下(特に0.8未満)、より好ましくは0.6以下(特に0.6未満)、さらに好ましくは0.4以下(特に0.4未満)である。この数値が小さいほど、結晶性ポリイミド(B)がTD方向に配向していることを示す。当該強度比が1を超えると、寸法安定性および等方性が低下する。当該強度比は通常、0.01以上、特に0.1以上である。
【0118】
本明細書中、end/edge強度比は、X線広角回折に基づいて規定されるTPI(B)のブラッグ角2θ=5°ピークのβスキャンにより求めたend/edge強度比を用いている。
【0119】
本発明のフィルムの厚み(延伸後)は、特に限定されず、例えば、1μm以上、特に10μm以上であってもよい。本発明のフィルムは、厚物化が容易なダイ押出製膜法による製造が可能であることから、厚みは好ましくは40μm以上、より好ましくは60μm以上、さらに好ましくは100μm以上、十分に好ましくは120μm以上、より十分に好ましくは140μm以上である。本発明のフィルムの厚みの上限値は特に限定されず、当該厚みは通常、1000μm以下であり、特に400μm以下であってもよい。
【0120】
本明細書中、フィルムの厚みは、ハイデンハイン社製 HEIDENHAIN-METRO MT1287により任意の50箇所で測定された厚みの平均値を用いている。
【0121】
本発明のフィルムは、寸法安定性により十分に優れている。寸法安定性は、フィルム面内において直交する2つの方向(特にMD方向およびTD方向)の熱線膨張係数の各々が銅の熱線膨張係数(18ppm/℃)に近似している特性のことである。例えば、本発明のフィルムのMD方向およびTD方向の熱線膨張係数はいずれも10ppm/℃以上30ppm/℃以下であり、好ましくは11ppm/℃以上29ppm/℃未満であり、より好ましくは12ppm/℃以上26ppm/℃未満であり、さらに好ましくは13ppm/℃以上24ppm/℃未満である。
【0122】
フィルムの熱線膨張係数は、10mm長の試料に40mNの荷重を付与して、25~250℃の温度範囲で測定された試料長に基づく値を用いている。
【0123】
本発明のフィルムは、等方性にもより十分に優れている。等方性は、フィルム面内において直交する2つの方向(特にMD方向およびTD方向)の熱線膨張係数が相互に近似している特性のことである。例えば、本発明のフィルムのMD方向およびTD方向の熱線膨張係数のMD/TD比は0.5以上1.5未満であり、好ましくは0.6以上1.4未満であり、より好ましくは0.7以上1.3未満であり、さらに好ましくは0.8以上1.2未満である。
【0124】
本発明のフィルムは、誘電性にもより十分に優れている。誘電性はフィルムの比誘電率および誘電正接がより小さい特性のことである。例えば、本発明のフィルムの比誘電率は3.2以下であり、好ましくは3.1以下である。当該比誘電率は通常、2.0以上、特に2.5以上である。また例えば、本発明のフィルムの誘電正接率は0.0027以下であり、好ましくは0.0025以下であり、より好ましくは0.0023以下であり、さらに好ましくは0.0021以下である。当該誘電正接は通常、0.001以上、特に0.0015以上である。
【0125】
比誘電率および誘電正接は、空洞共振器摂動法により、5GHzにて、温度22~24℃、湿度45~55%RH下で測定された値を用いている。
【0126】
[積層体および多層基板]
本発明の液晶ポリマーフィルムは電気回路基板用(特に高周波電気回路基板用)のフィルム基材として有用である。詳しくは、本発明の液晶ポリマーフィルムを用いて電気回路基板用(特に高周波電気回路基板用)の積層体および多層基板を製造することができる。例えば、本発明の液晶ポリマーフィルムは、その表面(例えば、片面または両面)に金属層を形成させることにより、積層体とすることができる。この場合、金属層を構成する金属としては、Cu、Ni合金、Al、Ag、Au、Sn、ステンレススチール(SUS)等の各種のものが挙げられる。高周波電気回路基板とは、3~300GHzの高周波数で挙動する電気回路の基板のことである。本発明のフィルム、積層体および多層基板は、このような高周波数環境下であっても、十分に優れた誘電性を有する。
【0127】
フィルム表面に金属層を形成する方法としては、特に限定されず、フィルム上に金属箔を積層し、両層を接着(融着)させる方法や、スパッタリングや蒸着などの物理法(乾式法)、無電解めっきや無電解めっき後の電解めっきなどの化学法(湿式法)、金属ペーストを塗布する方法等が挙げられる。金属層の厚さは、特に限定されず、例えば、500Å~100μm程度であり、金属ラミネートフィルムの厚さは、例えば、3~1100μmであり、特に10~500μm程度である。金属ラミネートフィルムとは、本発明のフィルムの片面または両面に金属層を有する積層体のことである。
【0128】
本発明の積層体は、多層基板用材料として使用し得る他、以下の材料またはフィルムとして、好適に用いることができる:高放熱基板;アンテナ基板;医薬品の包装材料;レトルト食品等の食品の包装材料;半導体パッケージ等の電子部品の包装材料;モーター、トランス、ケーブル、電線、多層プリント配線板等のための電気絶縁材料;コンデンサ用途等のための誘電体材料;カセットテープ、デジタルデータストレージ向けデータ保存用磁気テープ、ビデオテープ等の磁気テープ用材料;太陽電池基板、液晶板、導電性フィルム、ガラス、デジタルサイネージ、その他表示機器等のための保護材料;LED実装基板、有機EL基板、フレキシブルプリント配線板、フレキシブルフラットケーブル、フレキシブルアンテナ、スピーカー振動板等の電子基板材料;フレキシブルプリント配線用カバーレイフィルム、耐熱マスキング用テープ等の耐熱保護フィルム;耐熱バーコードラベル、各種工業用工程テープ等の耐熱粘着フィルム;耐熱リフレクター;耐熱離型フィルム;熱伝導フィルム;ダイシングテープ、ダイシングテープ一体型ダイアタッチフィルム(ダイシング・ダイアタッチフィルム)、ダイシングテープ一体型ダイボンディングフィルム(ダイシング・ダイボンディングフィルム)、ダイシングテープ一体型ウェハ裏面保護フィルム、バックグライディングフィルム等の半導体工程用フィルム;インモールド成形、フィルムインサート成形、真空成形、圧空成形等の成形加飾用材料;積層体や多層プリント配線板用の層間接着剤、フレキシブルプリント配線板用ボンディングシート、フレキシブルフラットケーブル用ボンディングシート、カバーレイフィルム用ボンディングシート等の接着用材料;チューブ被覆、電線被覆、衝撃吸収フィルム、封止フィルム等の衝撃吸収材料;写真フィルム;農業用材料;医療用材料;土木、建築用材料;濾過膜;家庭用、産業資材;繊維材料用のフィルムとして、好適に用いることができる。
【0129】
本発明の多層基板は、前記積層体を複数で用いて積層熱圧着させることにより得ることができる。本発明の多層基板に含まれる前記積層体の数は、特に限定されず、例えば、2~100であり、特に2~50であってもよい。
【0130】
本発明の多層基板は、回路基板として使用し得る。回路基板は、半導体素子(例えば、ICチップ)を搭載している回路基板(または半導体素子実装基板)、光電子混載基板等に用いることができる。回路基板は、例えば、同軸線路、ストリップ線路、マイクロストリップ線路、コプレナー線路、平行線路などの公知または慣用の伝送線路に用いられてもよいし、アンテナに用いられてもよい。回路基板は、電気回路基板(特に高周波電気回路基板)であってもよい。
【実施例0131】
1.測定方法
(1)フィルム内のLCPの配向度
X線広角回折装置(リガク社製RINT-TTR III、X線源:Cu-Kα線、出力50kV-300mA)を用いて、サンプルを、X線の照射方向がフィルム面と垂直となるように試料台に取り付けた。次いで、LCPのブラッグ角(2θ=約44°)にて、サンプルを、X線照射方向を回転軸として、方位角を0°から360°まで回転させて透過法でLCPの回折強度を測定した。方位角強度分布から、回折ピーク位置における半値幅A°を求め、以下の式に代入することにより配向度を算出した。
配向度=(180°-A°)/180°
【0132】
(2)フィルム内のTPI(B)のend/edge比
X線広角回折装置(リガク社製RINT-TTR III、X線源:Cu-Kα線、出力50kV-300mA)を用いて、X線の照射方向がフィルム面と垂直となるように試料台に取り付ける。
サンプルの取付方向はX線照射方向を回転軸として0°の時に得られる回折強度をedge方向の強度としてTD方向の強度となり、90°の時に得られる回折強度をend方向の強度としてMD方向の強度が得られるように配置する。
次いで、TPI(B)のブラッグ角(2θ=約5°)にて、サンプルを、回転軸に対して方位角を0°から360°まで回転させて透過法でTPI(B)の回折強度を測定した。
end/edge比を下記式に代入することにより算出した。
end/edge比=end方向の強度/edge方向の強度
【0133】
・フィルムの熱線膨張係数
フィルムをMDおよびTDに対して10mm×5mmの大きさに切り出し、下記の条件で熱機械分析装置(TMA)にて寸法変化を測定した。
温度条件
(i)10℃/分で20℃から255℃まで昇温して5分間保持(1回目昇温)
(ii)10℃/分で255℃から25℃まで降温して60分保持
(iii)10℃/分で25℃から250℃まで昇温して5分間保持(2回目昇温)
荷重 :40mN一定
試料(測定)サイズ :長さ10mm×幅4mm
平均線膨張係数の測定温度範囲は、2回目昇温時の25~250℃であり、線膨張係数の算出は下記式を用いた。
平均線膨張係数[ppm/℃]=(250℃の寸法-25℃の寸法)/(25℃の寸法)/(250℃-25℃)×10
MD方向およびTD方向の平均線膨張係数α[ppm/℃]を求め、以下の基準に従って評価した。
◎◎:α=13以上24未満(最良);
◎:α=12以上13未満または24以上26未満(優良);
○:α=11以上12未満または26以上29未満(良);
△:α=10以上11未満または29以上30以下(実用上問題なし);
×:α=10未満または30超(実用上問題あり)。
【0134】
・寸法安定性
MD方向およびTD方向の平均線膨張係数の評価結果から、寸法安定性を評価した。
◎◎:MD方向およびTD方向の平均線膨張係数の評価結果がいずれも「◎◎」であった(最良);
◎:MD方向およびTD方向の平均線膨張係数の評価結果のうち、より低い評価結果が「◎」であった(優良);
○:MD方向およびTD方向の平均線膨張係数の評価結果のうち、より低い評価結果が「○」であった(良);
△:MD方向およびTD方向の平均線膨張係数の評価結果のうち、より低い評価結果が「△」であった(実用上問題なし);
×:MD方向およびTD方向の平均線膨張係数の評価結果のうち、より低い評価結果が「×」であった(実用上問題あり)。
【0135】
・等方性
上記フィルムの熱線膨張係数αよりMD/TD比を求め、等方性を評価した。
◎◎:MD/TD比=0.8以上1.2未満(最良);
◎:MD/TD比=0.7以上0.8未満または1.2以上1.3未満(優良);
○:MD/TD比=0.6以上0.7未満または1.3以上1.4未満(良);
△:MD/TD比=0.5以上0.6未満または1.4以上1.5未満(実用上問題なし);
×:MD/TD比=0.5未満または1.5以上(実用上問題あり)。
【0136】
(3)フィルムの比誘電率および誘電正接(誘電性)
空洞共振器摂動法により、5GHzにおける比誘電率および誘電正接を測定した。試料の大きさは2mm×50mmとし、温度22~24℃、湿度45~55%RH下で12時間以上調湿した。
・比誘電率
◎◎:3.2以下(最良);
×:3.2超(実用上問題あり)。
・誘電正接
◎◎:0.0021以下(最良);
◎:0.0021超0.0023以下(優良);
○:0.0023超0.0025以下(良);
△:0.0025超0.0027以下(実用上問題なし);
×:0.0027超(実用上問題あり)。
【0137】
・誘電性
比誘電率および誘電正接の評価結果に基づいて、誘電性を評価した。
◎◎:比誘電率および誘電正接の評価結果がいずれも「◎◎」であった(最良);
◎:比誘電率および誘電正接の評価結果のうち、より低い評価結果が「◎」であった(優良);
○:比誘電率および誘電正接の評価結果のうち、より低い評価結果が「○」であった(良);
△:比誘電率および誘電正接の評価結果のうち、より低い評価結果が「△」であった(実用上問題なし);
×:比誘電率および誘電正接の評価結果のうち、より低い評価結果が「×」であった(実用上問題あり)。
【0138】
(4)総合評価
寸法安定性、等方性および誘電性の評価結果に基づいて、総合的に評価した。
◎◎:寸法安定性、等方性および誘電性の評価結果がいずれも「◎◎」であった(最良);
◎:寸法安定性、等方性および誘電性の評価結果のうち、より低い評価結果が「◎」であった(優良);
○:寸法安定性、等方性および誘電性の評価結果のうち、より低い評価結果が「○」であった(良);
△:寸法安定性、等方性および誘電性の評価結果のうち、より低い評価結果が「△」であった(実用上問題なし);
×:寸法安定性、等方性および誘電性の評価結果のうち、より低い評価結果が「×」であるか、または延伸工程で破断が起こった(実用上問題あり)。
【0139】
(5)融点
ポリマーの融点は、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製、DSC-7型)を用い、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解ピークから求めた温度である。より具体的には、まず、所定のポリマー試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20℃以上50℃以下高い温度で10分間保持した。次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を当該ポリマーの融点とする。
【0140】
(6)メルトフローレート(MFR)
東洋精機製作所社製メルトインデクサーF-B01を用いて、JIS K 7210に準拠して測定した。試験温度は350℃、試験荷重2.16kgの条件で測定した。
【0141】
原料
実施例および比較例に用いた原料は下記のとおりである。
【0142】
(1)液晶ポリマー:LCP1
撹拌翼のついた重合管に、4-ヒドロキシ安息香酸:6230g(72モル%)および、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸:3300g(28モル%)さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.02倍モルの無水酢酸を仕込み、窒素ガス雰囲気下に室温から145℃まで1時間かけて昇温し、145℃で30分保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ320℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリマーのペレットを得た。得られたペレットの融点(Tm)は280℃であって、MFR=100g/10分であった。
【0143】
(2)液晶ポリマー:LCP2
撹拌翼のついた重合管にポリエチレンテレフタレート1452g(13モル%)を仕込み、窒素ガス雰囲気下に260℃に昇温し、これに6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸9292g(87モル%)を4回に分けて20分間の間隔をおいて添加し、添加終了後、その温度を保ちながら120分間アシドリシス反応を行った。次いで、系内温度を140℃に下げた後、無水酢酸6650g(117モル%)を加えてアセチル化反応を2時間行った。最後に、反応系の温度を3時間かけて 300℃まで昇温した後、80分かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリマーのペレットを得た。得られたペレットの融点(Tm)は285℃であって、MFR=80g/10分
【0144】
(3)結晶性ポリイミド:TPI(B)
ディーンスターク装置、リービッヒ冷却管、熱電対、4枚パドル翼を設置した2Lセパラブルフラスコ中に2-(2-メトキシエトキシ)エタノール(日本乳化剤(株)製)500gとピロメリット酸二無水物(三菱ガス化学(株)製)218.12g(1.00mol)を導入し、窒素フローした後、均一な懸濁溶液になるように150rpmで撹拌した。一方で、500mLビーカーを用いて、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(三菱ガス化学(株)製、シス/トランス比=7/3)49.79g(0.35mol)、1,8-オクタメチレンジアミン(関東化学(株)製)93.77g(0.65mol)を2-(2-メトキシエトキシ)エタノール250gに溶解させ、混合ジアミン溶液を調製した。この混合ジアミン溶液を、プランジャーポンプを使用して徐々に加えた。滴下により発熱が起こるが、内温は40~80℃に収まるよう調整した。混合ジアミン溶液の滴下中はすべて窒素フロー状態とし、撹拌翼回転数は250rpmとした。滴下が終わったのちに、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール130gと、末端封止剤であるn-オクチルアミン(関東化学(株)製)1.284g(0.010mol)を加えさらに撹拌した。この段階で、淡黄色のポリアミド酸溶液が得られた。次に、撹拌速度を200rpmとした後に、2Lセパラブルフラスコ中のポリアミド酸溶液を190℃まで昇温した。昇温を行っていく過程において、液温度が120~140℃の間にポリイミド樹脂粉末の析出と、イミド化に伴う脱水が確認された。190℃で30分保持した後、室温まで放冷を行い、濾過を行った。得られたポリイミド樹脂粉末は2-(2-メトキシエトキシ)エタノール300gとメタノール300gにより洗浄、濾過を行った後、乾燥機で180℃、10時間乾燥を行い、317gのポリイミド樹脂1の粉末を得た。
また、得られたポリイミド樹脂1の粉末をラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度350℃、スクリュー回転数70rpmで溶融混練し押し出した。押出機より押し出されたストランドを空冷後、ペレタイザー((株)星プラスチック製「ファンカッターFC-Mini-4/N」)によってペレット化した。得られたペレットは150℃、12時間乾燥を行った後、成形体の作製に使用した。
ポリイミド樹脂1のIRスペクトルを測定したところ、ν(C=O)1768、1697(cm-1)にイミド環の特性吸収が認められた。対数粘度は1.30dL/g、Tmは323℃、Tgは184℃、Tccは266℃、結晶化発熱量は25.0J/g、半結晶化時間は20秒以下、Mwは55,000であった。
【0145】
(4)非晶性ポリイミド:PI
UIP-R(商品名)(宇部興産株式会社製)
【0146】
(5)ポリアリレート:PAR1
Uポリマー(登録商標)U-100(ユニチカ株式会社製)
【0147】
(6)ポリアリレート:PAR2
Uポリマー(登録商標)Cパウダー(ユニチカ株式会社製)
【0148】
(7)ポリエーテルイミド:PEI1
Ultem(登録商標)RESIN1000(サビック社製)
【0149】
(8)ポリエーテルイミド:PEI2
Ultem(登録商標)RESIN1010(サビック社製)
【0150】
<実施例1>
(ブレンド工程)
表1に記載する成分(液晶ポリマー成分、および液晶ポリマー以外の成分)を表1に示す通りの配合で混合し、押出機を用いて混練ペレット化した。混練ペレット化して得られたペレットを150℃で真空乾燥機を用いて12時間乾燥させて含有水分量を50ppm以下とした。このようにして乾燥されたペレットを原料Aともいう。
【0151】
(製膜工程)
原料Aを、スクリュ径40mmのフルフライトスクリュー単軸押出機に供給し、350℃で加熱溶融し、ダイ幅350mm、リップ間隔0.6mmのTダイへ8kg/時で供給した後、60℃に温調した2m/分の速度で回転する金属ドラム上にシート状に押出し、約150μmの厚みの未延伸フィルムを得た。
【0152】
(延伸工程)
得られた未延伸フィルムを、フィルムの端部を、テンター式同時二軸延伸機のクリップに保持させ、210℃で20秒の予熱をしたのち、TD方向に3.0倍に延伸した。その後、270℃で10秒間の熱処理(熱固定処理)を施し、室温まで徐冷して、厚みが50μmのフィルムを得た。
【0153】
<実施例2~9ならびに比較例2,4,5,6,9~11>
配合する原料、配合量、厚み、および延伸倍率を表1に記載のように変更する以外は、実施例1と同様に液晶ポリマーフィルムを得た。
【0154】
<比較例1、3、7、8>
配合する原料や配合量を表1に記載のように変更する以外は、実施例1と同様に液晶ポリマーフィルムを得ようとしたが、結晶性ポリイミドの含有量が少なかったため、延伸工程時に破断し、フィルムを得ることができなかった。
【0155】
【表1】
【0156】
<考察>
実施例1~9の液晶ポリマーフィルムは、本発明の要件を満たしていたため、等方性および誘電性に優れた。等方性および誘電性の総合評価結果より、好ましくは実施例1,2,6~9の液晶ポリマーフィルムであり、より好ましくは実施例1,7の液晶ポリマーフィルムであった。
【0157】
比較例2,4,6の液晶ポリマーフィルムは、結晶性ポリイミドの含有量が本発明で規定する含有量よりも少なかったため、熱線膨張係数のMD/TD比が悪く、等方性に劣った。
比較例5の液晶ポリマーフィルムは、TDの延伸倍率が低く、液晶ポリマーの配向度および結晶性ポリイミドの強度比が高すぎたため、寸法安定性および等方性に劣った。
比較例9のフィルムは結晶性ポリイミドの含有量が本発明で規定する含有量よりも多かったため、熱線膨張係数のMDおよびTDの値が高く、寸法安定性に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明の液晶ポリマーフィルムは電気回路基板用(特に高周波電気回路基板用)のフィルム基材として有用である。