(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135133
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】筆記具用水性インク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20240927BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20240927BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K7/00
B43K8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045670
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】小椋 孝介
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350GA04
4J039AD03
4J039AD09
4J039AE04
4J039BC07
4J039BC35
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA38
4J039EA42
4J039EA43
4J039FA01
4J039FA02
4J039FA04
4J039GA26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】撥水性の高い非吸収面(PP素材、PET素材、ガラス、金属など)への筆記性と、耐水固着性とを高度に両立した筆記具用水性インク組成物及び筆記具を提供する。
【解決手段】本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、着色剤と、曇点が50℃未満のノニオン性のフッ素系界面活性剤0.05~4.0質量%と、固着性樹脂1~10質量%と、水とを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、着色剤と、曇点が50℃未満のノニオン性のフッ素系界面活性剤0.05~4.0質量%と、固着性樹脂1~10質量%と、水とを含むことを特徴とする、筆記具用水性インク組成物。
【請求項2】
前記ノニオン性のフッ素系界面活性剤の曇点が40℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用水性インク組成物。
【請求項3】
前記ノニオン性のフッ素系界面活性剤(X)と固着性樹脂(Y)との質量比〔(X)/(Y)〕が0.005~4.0であることを特徴とする請求項1又は2に記載の筆記具用水性インク組成物。
【請求項4】
前記請求項1又は2に記載の筆記具用水性インク組成物を搭載したことを特徴とする筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性の高い非吸収面(PP素材、PET素材、ガラス、金属など)への筆記性と、耐水固着性とを高度に両立した筆記具用水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
サインペンは、紙面だけでなく、インクを吸収しない撥水性の高い非吸収面、例えば、PP素材、PET素材、ガラス、金属などへの筆記性も要求される。この際に筆記具用水性インク組成物においては、特に撥水性の高い非吸収面、例えば、クラフトテープやシリコーン素材のものなどに描線がはじかれることなく筆記するために、従来、アセチレン系やフッ素系に代表される表面張力低下能の高い界面活性剤がインクに添加されて使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、記録媒体の表記面に筆記した際、記録層を傷付けることがないと共に、インキのはじきや線幅の膨らみを生じることなく、鮮明な筆記描線が得られる記録媒体表記用マーキングペンインキ組成物及びそれを内蔵したマーキングペンを提供するために、炭素数4以下のアルコール及び/又は炭素数6以下のグリコール系溶剤と、該溶剤に可溶な樹脂と、着色剤と、ノニオン性フッ素系界面活性剤とを少なくとも含む記録媒体表記用マーキングペンインキ組成物。前記ノニオン性フッ素系界面活性剤をインキ組成物全量中0.01~5.0重量%含有する記録媒体表記面用マーキングペンインキ組成物、及びこのインキ組成物を内蔵してなるマーキングペンが開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、顔料、水溶性樹脂及び水溶性溶剤を含有する水性ボールペン用顔料インキ組成物において、必須成分としてノニオン系フッ素含有界面活性剤とオレイン酸アンモニウムとポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩を含有し、且つ、表面張力が25~30dyn/cmの範囲にあり、pH値が7.5~9.0になるように調整したことを特徴とする水性ボールペン用顔料インキ組成物が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2の筆記具用水性インク組成物では、撥水性の高い非吸収面への筆記性を高めることができるが、インク中にフッ素系の界面活性剤などを添加すると耐水固着性(描線を水に濡らした状態での固着性)が悪化する課題があるのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-124562号公報 (特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2000-80317号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状などに鑑み、これを解消しようとするものであり、撥水性の高い非吸収面(PP素材、PET素材、ガラス、金属など)への筆記性と、耐水固着性とを高度に両立した筆記具用水性インク組成物及び筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくとも、着色剤と、フッ素系界面活性剤の中でも特定物性となる界面活性剤の使用と固着性樹脂とをそれぞれ特定量の範囲で含むことにより、上記目的の筆記具用水性インク組成物及び筆記具が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、着色剤と、曇点が50℃未満のノニオン性のフッ素系界面活性剤0.05~4.0質量%と、固着性樹脂1~10質量%と、水とを含むことを特徴とする。
前記ノニオン性のフッ素系界面活性剤の曇点が40℃以下であることが好ましい。
前記ノニオン性のフッ素系界面活性剤(X)と固着性樹脂(Y)との質量比〔(X)/(Y)〕が0.005~4.0であることが好ましい。
本発明の筆記具は、上記構成の筆記具用水性インク組成物を搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、撥水性の高い非吸収面(PP素材、PET素材、ガラス、金属など)への筆記性と、耐水固着性とを高度に両立した筆記具用水性インク組成物及び筆記具が提供される。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述する実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。また、本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識(設計事項、自明事項を含む)に基づいて実施することができる。
【0012】
〈筆記具用水性インク組成物〉
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、着色剤と、曇点が50℃未満のノニオン性のフッ素系界面活性剤0.05~4.0質量%と、固着性樹脂1~10質量%と、水とを含むことを特徴とするものである。
【0013】
<着色剤>
本発明に用いる着色剤としては、水に溶解もしくは分散する全ての染料、酸化チタン等の従来公知の無機系および有機顔料系、顔料を含有した樹脂粒子顔料、樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料、白色系プラスチック顔料、中空樹脂顔料(粒子)、シリカや雲母を基材とし表層に酸化鉄や酸化チタンなどを多層コーティングした顔料、アルミニウム顔料などの光輝性顔料、熱変色性顔料(粒子)、光変色性顔料(粒子)等、およびこれらの複合顔料(粒子)を制限なく使用することができる。用いることができるアルミニウム顔料としては、市販品では、例えば、アルミニウム表面をリン系化合物により防錆処理したWXMシリーズ、アルミニウム表面をモリブテン化合物により防錆処理したWLシリーズ、アルミニウムフレークの表面を密度の高いシリカでコーティングしたEMRシリーズ〔以上、東洋アルミニウム社製〕、SW-120PM〔以上、旭化成ケミカルズ社製〕等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
また、酸化チタンを添加する場合においては、例えば、アルミナまたはシリカ、またはジルコニアまたは亜鉛処理されたものを用いることが望ましく、ルチル型またはアナターゼ型の酸化チタンを用いることが好ましい。
染料としては、例えば、エオシン、フオキシン、ウォーターイエロー#6-C、アシッドレッド、ウォーターブルー#105、ブリリアントブルーFCF、ニグロシンNB等の酸性染料;ダイレクトブラック154,ダイレクトスカイブルー5B、バイオレットBB等の直接染料;ローダミン、メチルバイオレット等の塩基性染料などが挙げられる。
【0014】
無機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。より具体的には、カーボンブラック、チタンブラック、亜鉛華、べんがら、アルミニウム、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、真鍮粉等の無機顔料、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー27、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド38、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド104、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントイエロー167、C.I.ピグメントオレンジ5、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントバイオレット1、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントバイオレット50、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0015】
熱変色性顔料(粒子)としては、発色剤として機能するロイコ色素と、該ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となる顕色剤及び上記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールすることができる変色温度調整剤を少なくとも含む熱変色性組成物を、所定の平均粒子径(例えば、0.1~10μm)となるように、マイクロカプセル化することにより製造された熱変色性顔料などを挙げることができる。
光変色性顔料(粒子)としては、例えば、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、テルペンフェノール樹脂などの樹脂とにより構成される光変色性粒子や、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、有機溶媒と、酸化防止剤、光安定剤、増感剤などの添加剤とを含む光変色性組成物を、所定の平均粒子径(例えば、0.1~10μm)となるように、マイクロカプセル化することにより製造された光変色性顔料(粒子)などを挙げることができる。
なお、本発明(実施例等含む)において、「平均粒子径」は、レーザー回析または動的光散乱法により測定した値であり、レーザー回折法においては、体積基準により算出されたD50の値であり、この測定は、例えば日機装株式会社の粒子径分布解析装置HRA9320-X100を用いることができ、動的光散乱法を用いた平均粒子径とは、例えば、濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子社製)を用いて算出された、散乱強度分布におけるキュムラント法解析の平均粒子径の値である。
これらの着色剤は、各単独で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という)使用することができる。
【0016】
これらの着色剤の(合計)含有量は、筆記具用水性インク組成物全量(以下、単に「インク組成物全量」という)に対して、好ましくは、1~18質量%、更に好ましくは、3~12質量%とすることが望ましい。
この着色剤の含有量を1質量%以上とすることにより、所望の描線濃度とすることができ、一方、18質量%以下とすることにより、粘度上昇を抑制し、インクの流動性が良好となるので好ましい。
【0017】
本発明に用いるノニオン性のフッ素系界面活性剤は、曇点が50℃未満のものが用いられる。本発明では、上記特性のノニオン性のフッ素系界面活性剤を用いものであり、曇点の低い50℃未満のものを用いることで、後述する固着性樹脂との相乗作用により、撥水性の高い非吸収面への筆記性と耐水固着性のどちらに対してもより高い効果が発揮できるものとなる。好ましくは、本発明の効果を更に向上させる点から、曇点が40℃以下のものを用いることが望ましく、更に好ましくは、30℃以下が望ましく、低温環境下での析出に伴う筆記カスレを抑制する点から、曇点の下限値は0℃である。
この曇点が50℃以上のノニオン性のフッ素系界面活性剤では、本発明の効果を奏することができないものとなる。
なお、本発明(後述する実施例などを含む)において、「曇点」とは、水に溶かした状態で加温した時に、ポリエーテル鎖と水との水素結合が切れ、水溶解性が急激に下がることによりミセルの形成ができなくなり、相分離して透明から不透明に変わる温度をいい、本発明での曇点は1%水溶液における測定値とする。
【0018】
用いるノニオン性のフッ素系界面活性剤は、曇点が50℃未満のものであれば、特に限定されないが、例えば、下記式(I)で表されるノニオン性フッ素系界面活性剤が挙げられる。
C6F13-CH2CH2O(CH2CH2O)nH ……(I)
前記一般式(I)において、曇点が50℃未満となるものであるから、nは1以上40以下の整数が好ましく、5以上30以下の整数がより好ましい。また、前記一般式(I)中のパーフルオロアルキル基C6F13-は、被筆記面への濡れ性の点から、直鎖であることが好ましい。
また、前記一般式(I)で表される化合物は、適宜合成したものを使用することができ、また、市販品があればそれぞれの市販品を使用してもよい。
【0019】
前記一般式(I)で表される化合物としては、前記一般式(I)中、nが7~17である化合物;前記一般式(I)中、nが25~35である化合物;前記一般式(I)中、nが7~17及び25~35である化合物;前記一般式(I)中、nが5~20である化合物;前記一般式(I)中、nが6~22である化合物などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、また、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記一般式(I)中、nが6~22である化合物;前記一般式(I)中、nが5~20である化合物;前記一般式(I)中、nが7~17及び25~35である化合物が特に好ましい。
前記市販品としては、例えば、Chemours社製のCapstone(キャップストーン、商品名)FS-31、CapstoneFS-35などの曇点が40℃以下のものが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、また、2種以上を併用してもよい。
【0020】
これらの曇点が50℃未満のノニオン性のフッ素系界面活性剤の(合計)含有量は、インク組成物全量に対して、0.05~4質量%、更に好ましくは、0.08~2質量%、特に好ましくは、0.1~1質量%とすることが望ましい。
この曇点が50℃未満のノニオン性のフッ素系界面活性剤の含有量が0.05質量%未満では、非吸収面への筆記性が満足できず、一方、4質量%超過では、耐水固着性が悪化し、好ましくない。
【0021】
本発明に用いる固着性樹脂は、被筆記面への固着性、また、耐水固着性を向上させる成分となるものであり、例えば、ポリアクリル酸、アクリル系樹脂、水溶性スチレン-アクリル樹脂、水溶性スチレン-マレイン酸樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性マレイン酸樹脂、水溶性スチレン樹脂、水溶性エステル-アクリル樹脂、エチレン-マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキサイド、水溶性ウレタン樹脂等の分子内に疎水部を持つ水溶性樹脂、また、アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン、ポリオレフィン系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、スチレン-ブタジエンエマルジョン、スチレン-アクリロニトリルエマルジョン、シリコーンレジンエマルジョン、シリコーンアクリル共重合体エマルションなどの樹脂エマルジョンなどから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0022】
好ましくは、インク組成物中にスチレンアクリル樹脂成分、アクリル樹脂成分、ウレタン樹脂成分のうちいずれかを含む樹脂成分(溶解状態か分散状態かは問わない)を含有することで、より高い耐水固着性を発揮することができる。
【0023】
好ましくは、十分な耐水固着性を発揮する点から、ガラス転移温度(Tg)が60℃以下の上記各水溶性樹脂、上記各樹脂エマルジョンの使用が好ましく、更に好ましくは、ガラス転移温度(Tg)が50℃以下のアクリル系樹脂、水溶性スチレン-アクリル樹脂、スチレンマレイン酸、ウレタン樹脂の水溶性樹脂、または、アクリル系樹脂エマルジョンなどの各樹脂エマルジョンの使用が望ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)の下限は、経時的なインクの保存安定性の点から、0℃が望ましい。
本発明におけるガラス転移温度(Tg)は、示差熱分析法(DTA)により求めた値である。
【0024】
上記固着性樹脂は、市販品を使用することができ、例えば、BASF社製のJONCRYL PDX-7326(Tg:9℃)、JONCRYL PDX-7787(Tg:25℃)、JONCRYL PDX-7734(Tg:40℃)、JONCRYL PDX-7630A(Tg:53℃)、第一工業製薬社製のスーパーフレックス210(Tg:41℃)、スーパーフレックス860(Tg;36℃)が使用できる。
【0025】
これらの固着性樹脂の含有量は、インク組成物全量に対して、固形分量で1~10質量%が好ましく、更に好ましくは、2~8質量%、特に好ましくは、3~6質量%である。
これら固着性樹脂の含有量が1質量%未満であると、固着性や耐水固着性を満足することができず、一方、10質量%を超えた場合は、筆記カスレが生じやすくなり、好ましくない。
【0026】
本発明では、撥水性の高い非吸収面への筆記性と耐水固着性とを更に高度に両立せしめる点から、前記ノニオン性のフッ素系界面活性剤(X)と、固着性樹脂(Y)との質量比〔(X)/(Y)〕が0.005~4.0であることが好ましく、更に、好ましくは、0.01~1であることが望ましい。
【0027】
本発明の筆記具用水性インク組成物には、少なくとも、着色剤と、曇点が50℃未満のノニオン性のフッ素系界面活性剤0.05~4.0質量%と、固着性樹脂1~10質量%の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)、また、本発明の効果を損なわない範囲で、分散剤、潤滑剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤、増粘剤などを適宜含有することができる。
【0028】
用いることができる分散剤としては、ノニオン、アニオン界面活性剤や水溶性樹脂が用いられる。好ましくは水溶性高分子が用いられる。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
【0029】
pH調整剤としては、アンモニア、尿素、モノエタノーアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンや、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなとの炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水和物などが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
増粘剤としては、例えばセルロース誘導体を用いることができ、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、発酵セルロース、結晶セルロース、多糖類などが挙げられる。用いることができる多糖類としては、例えば、キサンタンガム、グアーガム、ヒドロキシプロピル化グアーガム、カゼイン、アラビアガム、ゼラチン、アミロース、アガロース、アガロペクチン、アラビナン、カードラン、カロース、カルボキシメチルデンプン、キチン、キトサン、クインスシード、グルコマンナン、ジェランガム、タマリンドシードガム、デキストラン、ニゲラン、ヒアルロン酸、プスツラン、フノラン、HMペクチン、ポルフィラン、ラミナラン、リケナン、カラギーナン、アルギン酸、トラガカントガム、アルカシーガム、サクシノグリカン、ローカストビーンガム、タラガムなどが挙げられる。
合成高分子としては、たとえば、ポリアクリル酸類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ビスアクリルアミドメチルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、ポリジオキソラン、ポリスチレンスルホン酸、ポリプロピレンオキサイドなどが挙げられる。
これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの市販品があればそれを使用することができる。
【0030】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、着色剤と、曇点が50℃未満のノニオン性のフッ素系界面活性剤0.05~4.0質量%と、固着性樹脂1~10質量%の他、残部として溶媒である水、その他の各成分を筆記具用(ボールペン用、サインペン用、マーキングペン用等)インクの用途に応じて適宜組み合わせて、ホモミキサー、ホモジナイザーもしくはディスパー等の撹拌機により撹拌混合することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によって筆記具用水性インク組成物が得られる。
また、本発明の筆記具用水性インク組成物のpH(25℃)は、使用性、安全性、インク自身の安定性、インク収容体とのマッチング性の点からpH調整剤などにより5~10に調整されることが好ましく、更に好ましくは、6~9.5とすることが望ましい。
【0031】
このように構成される本発明の筆記具用水性インク組成物において、本発明の効果を更に発揮せしめる点、適正な流出量とする点から、せん断速度38.3s-1時のインク粘度(25℃)を3~20mPa・sの範囲とすることが好ましく、更に好ましくは、粘度S1(せん断速度:38.3s-1)/粘度S2(せん断速度:383s-1)の比(TI値:Thixotropic Index)が1.0~3.0の範囲にあることが好ましい。
上記粘度範囲、TI値の調整は、上記配合する着色剤、曇点が50℃未満のノニオン性のフッ素系界面活性剤、固着性樹脂の各配合量や必要に応じて増粘剤などを含有せしめて好適に調整することできる。
上記粘度、TI値は、E型粘度計(東機産業社製)を用いて、25℃のインク粘度を測定し、また、TI値を算出した。
【0032】
このように構成される本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、着色剤と、曇点が50℃未満のノニオン性のフッ素系界面活性剤0.05~4.0質量%と、固着性樹脂1~10質量%の他、残部として溶媒である水とを含有するものであり、撥水性の高い非吸収面(PP素材、PET素材、ガラス、金属など)への筆記性と、耐水固着性とを高度に両立したものが得られることとなる。
【0033】
〈筆記具〉
本発明の筆記具は、上記特性の筆記具用水性インク組成物を搭載したものであり、撥水性の高い非吸収面(PP素材、PET素材、ガラス、金属など)への筆記性と、耐水固着性とを高度に両立した筆記具が得られることとなる。
筆記具としては、例えば、ボールペンチップ、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ、繊維芯、多孔質芯などのペン先部を備えたボールペン、マーキングペン等に搭載される。
【0034】
本発明において、「マーキングペン」とは、インク貯蔵部に貯蔵されているインクを、毛細管現象により樹脂製の筆記部に供給する機構を有するペンを意味し、「サインペン」として言及されるペンをも包含する。また、「ボールペン」とは、筆記部に備えられているボールの回転によって、インク貯蔵部に貯蔵されているインクを滲出させる機構を有するペンを意味する。
ボールペンとしては、前記組成の筆記具用水性インク組成物を直径が0.18~2.0mmのボールを備えたボールペン用インク収容体(リフィール)に収容すると共に、インク追従体を追加する。インク追従体には、インク収容体内に収容された上記特性の筆記具用水性インク組成物とは相溶性がなく、かつ、該水性インク組成物に対して比重が小さい液体、例えば、ポリブテン、シリコーンオイル、鉱油等が使用される。
なお、ボールペン、マーキングペン等の構造は、特に限定されず、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に前記構成の筆記具用水性インク組成物を充填したコレクター構造(インク保持機構)を備えた直液式のボールペン、マーキングペンであってもよい。
【0035】
本発明では、筆記具として、特に撥水性の高い非吸収面、例えば、クラフトテープやシリコーン素材のものなどに描線がはじかれることなく筆記することができるものなどであるので、サインペンでの使用が特に好ましく、非吸収面への筆記性、耐水固着性に耐えうる塗膜厚さを得られる点から、筆記流量が30~300mg/100mのサインペンであることが特に好ましい実施形態となる。
【実施例0036】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0037】
〔実施例1~7及び比較例1~4〕
下記表1に示す配合組成により、常法により、各筆記具用水性インク組成物を調製した。各筆記具用水性インク組成物の室温(25℃)下のpHをpH測定計(HORIBA社製)で測定したところ、7.9~8.2の範囲内であった。
上記で得られた各筆記具用水性インク組成物について、下記方法により筆記具(サインペン)を作製して、下記各評価方法で被筆記面となるシリコーン面、PET(ポリエチレンテレフタレート)面、ステンレス面、ガラス面に筆記して、筆記性、固着性、耐水固着性の各評価を行った。
これらの結果を下記表1に示す。
【0038】
(サインペンの作製)
上記で得られた各インク組成物を用いてサインペンを作製した。具体的には、サインペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:PM-120Tの軸を使用し、軸材質:再生PP樹脂、ペン芯:(細)PET繊維芯(筆記流量:80g/100m)、(極細)POM樹脂芯(筆記流量:50mg/100m)からなるサインペン〕に各インク組成物を装填してサインペンを作製した。得られた実施例1~7及び比較例1~4のサインペンを用いて、各評価を行った。
【0039】
(筆記性の評価方法)
シリコーン面(シリコーンゴムシート、十川ゴム社製)、PET面(PETフィルム:ルミラーフィルムT-60-A4、東レ社製)、ステンレス面(SUS304切板)、ガラス面(石英ガラス板)に、上記サインペンの(細)ペン芯で温度25℃、湿度65%の環境下で、手書きで文字「三菱鉛筆」と筆記し、筆記性を評価した。
<筆記性の評価基準>
A:筆跡に欠損は全く生じなかった
B:筆跡に一、二の細線状の欠損があった
C:筆跡に明らかな欠損があった
D:文字の判読が困難になる程大きな欠損があった
【0040】
(固着性の評価方法)
シリコーン面(シリコーンゴムシート、十川ゴム社製)、PET面(PETフィルム:ルミラーフィルムT-60-A4、東レ社製)、ステンレス面(SUS304切板)、ガラス面(石英ガラス板)に、上記サインペンの(細)ペン芯で温度25℃、湿度65%の環境下で、手書きで文字「三菱鉛筆」と筆記し、24時間以上経過した後に、この筆跡の上にウエス紙(キムワイプ;日本製紙クレシア社製)を置き、500gの分銅を載せ、ウエス紙を分銅ごと水平に5回往復させることによって筆跡を擦過し、その後の筆跡の状態を下記の基準で評価した。
<固着性の評価基準>
A:描線に全く変化が見られない。
B:描線の色相がやや薄くなったり、描線が一部欠けたりした。
C:描線の色相がかなり薄くなったり、半分ないし大部分の描線が消去したりした。
D:描線の色相や形状の一部が残っているが元の形状を想像することが困難であった。
【0041】
(耐水固着性の評価方法)
シリコーン面(シリコーンゴムシート、十川ゴム社製)、PET面(PETフィルム:ルミラーフィルムT-60-A4、東レ社製)、ステンレス面(SUS304切板)、ガラス面(石英ガラス板)に、上記サインペンの(細)ペン芯で気温25℃、湿度65%の環境下において、手書きで文字「三菱鉛筆」と筆記し、24時間以上経過した後に、市販のシャワーのノズルから毎分12リットルの流量で水道水を噴射し、その後の描線の様子を観察し、下記評価基準で評価した。
<評価基準>
A:描線に全く変化が見られない。
B:描線の色相がやや薄くなったり、描線が一部欠けたりした。
C:描線の色相がかなり薄くなったり、半分ないし大部分の描線が消去したりした。
D:描線の色相や形状の一部が残っているが元の形状を想像することが困難であった。
【0042】
【0043】
上記表1中の*1~*9は、下記のとおりである。
*1:Capstone FS―31、Chemours社製
*2:Capstone FS―35、Chemours社製
*3:Capstone FS―10、Chemours社製
*4:オルフィンE1020、日信化学工業社製
*5:カーボンブラックMCF-88、三菱ケミカル社製
*6:WATERBLUE 105、オリヱント化学工業社製
*7:SF-5018、シンロイヒ社製
*8:JONCRYL PDX-7787、Tg:25℃、BASF社製
*9:スーパーフレックス860、Tg:36℃、第一工業製薬社製
【0044】
上記表1の結果から明らかなように、本発明となる実施例1~7の各筆記具用水性インク組成物は、本発明の範囲外となる比較例1~4の筆記具用水性インク組成物に較べて、撥水性の高い非吸収面(シリコーン面、PET面、ステンレス面、ガラス面)への筆記性と、耐水固着性とを高度に両立した筆記具用水性インク組成物が得られることが判明した。また、本発明となる実施例1~7の各筆記具用水性インク組成物は、紙面などの筆記についても滲むことなく優れた筆記性能を奏することを確認した。