(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135137
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】保護シート、及び、電子部品装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240927BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240927BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240927BHJP
C09J 7/20 20180101ALI20240927BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/304 622J
C09J7/38
C09J7/20
C09J133/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045674
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慧
(72)【発明者】
【氏名】土生 剛志
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5F057
5F063
【Fターム(参考)】
4J004AB01
4J004CB03
4J004CC02
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5F063EE44
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5F063EE75
(57)【要約】
【課題】 冷却水を使用するダイシング工程によって分割されても保護対象面を保護し続けることができ、且つ、保護対象面を保護した後に比較的高温の水含有液体によって除去される保護シートなどを提供することを課題としている。
【解決手段】 電子部品の保護対象面を保護する保護シートであって、前記保護対象面に貼り合わされる第1保護層と、該第1保護層の片面に重なる第2保護層とを備え、前記第1保護層は、水溶性高分子化合物を含み、前記第2保護層は、親水性ポリエステル化合物を含む、保護シートなどを提供する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品の保護対象面を保護する保護シートであって、
前記保護対象面に貼り合わされる第1保護層と、該第1保護層の片面に重なる第2保護層とを備え、
前記第1保護層は、水溶性高分子化合物を含み、
前記第2保護層は、親水性ポリエステル化合物を含む、保護シート。
【請求項2】
前記第1保護層は、前記水溶性高分子化合物として、ポリビニルアルコール及びポリエチレンオキシドのうちの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の保護シート。
【請求項3】
前記第1保護層の表面における水の接触角が25°以上45°以下であり、前記第2保護層の表面における水の接触角が60°以上80°以下である、請求項1又は2に記載の保護シート。
【請求項4】
基材層と、該基材層の片面に重なる粘着層とを有する粘着テープをさらに備え、
前記粘着テープは、前記粘着層が前記第2保護層と重なり合うように配置されている、請求項1又は2に記載の保護シート。
【請求項5】
電子部品の保護対象面に保護シートを貼り合わせる工程と、
30℃以下の冷却水を前記保護シートに接触させつつ前記電子部品及び前記保護シートを共に複数の小片へと切断する工程と、
前記電子部品の小片の保護対象面から前記保護シートの小片を除去する工程と、を備え、
前記保護シートは、前記保護対象面に貼り合わされる第1保護層と、該第1保護層の片面に重なる第2保護層とを有し、
前記第1保護層は、水溶性高分子化合物を含み、前記第2保護層は、親水性ポリエステル化合物を含み、
前記除去する工程は、40℃以上の水含有液体で前記保護シートの小片の少なくとも一部を溶解させることによって、前記保護シートの小片を除去することを含む、電子部品装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子部品の保護対象面に貼り合わされる保護シートに関する。また、本発明は、例えば、製造工程中に前記保護シートを用いて電子部品装置を製造する電子部品装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品装置の製造において、例えば保護対象物の表面の少なくとも一部(すなわち、保護対象面)を保護するために使用される保護シートが知られている。この種の保護シートの保護対象物は、例えば、半導体ウエハなどである。この種の保護シートは、電子部品装置の製造工程中に、保護対象面に貼り付けられて使用される。
【0003】
電子部品装置としては、例えば半導体装置が挙げられる。一般的に、半導体装置を製造する方法は、高集積の電子回路によって円板状のベアウエハの片面側に回路面を形成する前工程と、回路面が形成された半導体ウエハから半導体チップを切り出して組立てを行う後工程とを備える。後工程では、基材シート及び粘着剤シートを有するダイシングテープと、該ダイシングテープに積層され且つ半導体ウエハに接着されるダイボンドシートとを使用する他、例えば、上記保護シートを使用する。
【0004】
詳しくは、後工程は、
円板状の半導体ウエハの回路面にバックグラインドテープを重ね合わせ、半導体ウエハとバックグラインドテープとが積層された状態で、半導体ウエハにおける回路面が形成されていない面に対して半導体ウエハが所定の厚さになるまで研削加工を施すバックグラインド工程と、
研削加工が施された半導体ウエハの面(回路面が形成されていない面)をダイシングテープ上のダイボンドシートに重ね合わせて、ダイボンドシートを介して半導体ウエハをダイシングテープに固定するマウント工程と、
半導体ウエハ及びダイボンドシートを小片化することによって多数の半導体チップ(ダイ)を得るダイシング工程と、
必要に応じて、半導体ウエハの放射方向にダイシングテープを引き伸ばして、隣り合う半導体チップ(ダイ)の間隔を広げるエキスパンド工程と、
ダイシングテープとダイボンドシートの小片との間で剥離してダイボンドシートの小片が貼り付いた状態の半導体チップを取り出すピックアップ工程と、
取り出した半導体チップに貼り付いたダイボンドシートの小片を介して半導体チップを被着体に接着させるダイボンド工程と、を有する。
半導体装置は、例えばこれらの工程を経て製造される。
【0005】
上述した保護シートとしては、例えば、上記の後工程においてバックグラインド工程又はダイシング工程などにおいて半導体ウエハを一時的に固定する仮固定シートの用途で使用され、その後、水によって除去されるものが知られている(例えば、特許文献1)。
特許文献1に記載の保護シートは、保護対象面に貼り付けられて、例えば蒸着等による被膜形成工程などにおいて半導体ウエハなどの保護対象面に蒸着物が付着することを防止する用途(マスキング)でも使用される。
【0006】
特許文献1に記載の保護シートは、けん化度が55mol%以下のオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール系樹脂を含有する樹脂組成物を有する。特許文献1に記載の保護シートの樹脂組成物は、水溶性を有することから、半導体ウエハなどの保護対象面を保護した後に、水によって容易に除去され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1に記載の保護シートは、半導体ウエハなどの表面(保護対象面)を保護するために使用され、ダイシング工程においてダイシングブレードによって切断されると、ダイシング工程中に保護対象面を保護できなくなるおそれがある。詳しくは、半導体ウエハなどの切断に伴う上昇温度を抑えるために、ダイシング工程中に冷却水を使用すると、保護シートが溶解してしまい、半導体ウエハなどの切断中に保護対象面から保護シートが除去されてしまうおそれがある。換言すると、ダイシングブレード及び冷却水を使用するダイシング工程中に保護シートで保護対象面を保護することができなくなるおそれがある。
【0009】
これに対して、ダイシング工程中の冷却水によって保護シートが除去されないように、保護シートの水溶性を低くすることが考えられる。しかしながら、単に保護シートの水溶性が低くなると、保護対象面を保護シートで保護した後に、保護シートを水で除去することが困難となる。
【0010】
このような問題を防ぐべく、冷却水を使用するダイシング工程によって切断されて小片化されても保護対象面の保護を持続でき、しかも、保護対象面を保護した後に水含有液体によって除去される保護シートが要望されている。
【0011】
しかしながら、冷却水を使用するダイシング工程によって分割されても保護対象面を保護し続けることができ、且つ、保護対象面を保護した後に水含有液体によって除去される保護シートについては、未だ十分に検討されているとはいえない。
【0012】
そこで、保護シートの除去において比較的高温の水含有液体を使用することに着目した。本発明は、冷却水を使用するダイシング工程によって分割されても保護対象面を保護し続けることができ、且つ、保護対象面を保護した後に比較的高温の水含有液体によって除去される保護シートを提供することを課題とする。
また、本発明は、保護対象面を保護している保護シートが、冷却水を使用するダイシング工程によって分割されても保護対象面を保護でき、保護対象面を保護した後の保護シートを比較的高温の水含有液体によって除去できる、電子部品装置の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく、本発明に係る保護シートは、
電子部品の保護対象面を保護する保護シートであって、
前記保護対象面に貼り合わされる第1保護層と、該第1保護層の片面に重なる第2保護層とを備え、
前記第1保護層は、水溶性高分子化合物を含み、
前記第2保護層は、親水性ポリエステル化合物を含む。
【0014】
本発明に係る電子部品装置の製造方法は、
電子部品の保護対象面に保護シートを貼り合わせる工程と、
30℃以下の冷却水を前記保護シートに接触させつつ前記電子部品及び前記保護シートを共に複数の小片へと切断する工程と、
前記電子部品の小片の保護対象面から前記保護シートの小片を除去する工程と、を備え、
前記保護シートは、前記保護対象面に貼り合わされる第1保護層と、該第1保護層の片面に重なる第2保護層とを有し、
前記第1保護層は、水溶性高分子化合物を含み、前記第2保護層は、親水性ポリエステル化合物を含み、
前記除去する工程は、40℃以上の水含有液体で前記保護シートの小片の少なくとも一部を溶解させることによって、前記保護シートの小片を除去することを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る保護シートは、冷却水を使用するダイシング工程によって分割されても保護対象面を保護し続けることができ、且つ、保護対象面を保護した後に比較的高温の水含有液体によって除去される。
本発明に係る電子部品装置の製造方法では、上記の保護シートを用いるため、電子部品の保護対象面を保護している保護シートが、冷却水を使用するダイシング工程によって分割されても保護対象面を保護でき、且つ、保護対象面を保護した後の保護シートを比較的高温の水含有液体によって除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】本実施形態の第一例の保護シートを厚さ方向に切断した模式断面図。
【
図1B】本実施形態の第一例の保護シートを使用する直前の様子を表す模式断面図。
【
図1C】本実施形態の第一例の保護シートを電子部品の保護対象面に貼り付けた様子を表す模式断面図。
【
図2A】本実施形態の第二例の保護シートを厚さ方向に切断した模式断面図。
【
図2B】本実施形態の第二例の保護シートを使用する直前の様子を表す模式断面図。
【
図2C】本実施形態の第二例の保護シートを電子部品の保護対象面に貼り付けた様子を表す模式断面図。
【
図3A】電子部品装置の製造方法の一例におけるマウント工程中の様子を表す模式図。
【
図3B】電子部品装置の製造方法の一例におけるマウント工程中の様子を表す模式図。
【
図3C】電子部品装置の製造方法の一例におけるマウント工程中の様子を表す模式図。
【
図4】電子部品装置の製造方法の一例におけるダイシング工程中の様子を表す模式図。
【
図5】電子部品装置の製造方法の一例における除去工程中の様子を表す模式図。
【
図6】電子部品装置の製造方法の一例におけるピックアップ工程中の様子を表す模式図。
【
図7】電子部品装置の製造方法の一例におけるダイボンド工程後の様子を表す模式図。
【
図8】電子部品装置の製造方法の一例におけるワイヤボンディング工程及び封止工程後の様子を表す模式図。
【
図9A】電子部品装置の製造方法の他の例におけるバックグラインド工程中の様子を表す模式図。
【
図9B】電子部品装置の製造方法の他の例におけるバックグラインド工程中の様子を表す模式図。
【
図9C】電子部品装置の製造方法の他の例におけるバックグラインド工程後の様子を表す模式図。
【
図10A】電子部品装置の製造方法の他の例におけるマウント工程中の様子を表す模式図。
【
図10B】電子部品装置の製造方法の他の例におけるマウント工程中の様子を表す模式図。
【
図11】電子部品装置の製造方法において製造補助用具として使用するダイシングダイボンドフィルムを厚さ方向に切断した模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る保護シートの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
なお、図面における図は模式図であり、実物における縦横の長さ比と必ずしも同じではない。
【0018】
本実施形態の保護シート1は、電子部品の保護対象面を保護する保護シート1であって、
図1Aに示すように、保護対象面に貼り合わされる第1保護層11と、該第1保護層11の片面に重なる第2保護層12とを備える。第1保護層11は、水溶性高分子化合物を含み、第2保護層12は、親水性ポリエステル化合物を含む。
【0019】
本実施形態の保護シート1は、
図1Aに示すように、第1はく離ライナー15と、第2保護層12に重なる第2はく離ライナー17とをさらに備えてもよい。第1はく離ライナー15は、第1保護層11における保護対象面に貼り合わされる面(以下、貼付面ともいう)に重なっている。第1はく離ライナー15は、
図1Bに示すように、使用前に第1保護層11の貼付面からはく離される。例えば
図1Cに示すように第1保護層11が被着体(基板Gなど)の保護対象面に貼り付けられた後に、第2はく離ライナー17は、第2保護層12の片面からはく離される。
【0020】
本実施形態の保護シート1は、例えば、電子部品装置を製造する工程中で使用される。具体的には、本実施形態の保護シート1は、被着体である電子部品の保護対象面(被保護面)を一時的に保護する等の目的で使用される。より具体的には、本実施形態の保護シート1は、例えば、電子部品の保護対象面(被保護面)に貼り付けられて使用される。
上記の電子部品としては、例えば、半導体ウエハ、半導体チップ、配線回路基板などの基板、配線回路基板が複数連接されて構成される連接配線回路基板、又は、疑似ウエハなどが挙げられる。
【0021】
上記の半導体チップは、通常、半導体チップ本体と、該半導体チップ本体の片面側又は両面側に配置され且つ他部材の電極部と電気的に接続される電極部とを有する。他部材としては、配線回路基板、又は、他の半導体チップなどが挙げられる。半導体チップには、例えば少なくとも一方の面に、回路が形成された回路面が形成されている。
具体的には、上記の半導体チップは、半導体チップ本体の両面側にそれぞれ配置されて対となる電極部と、電極部の一方及び他方を導通するように半導体チップ本体を厚さ方向に貫通する導通部とを備えたTSV(Through Silicon Via)形式の半導体チップであってもよい。TSV形式の半導体チップでは、一方の面のみに回路面が形成されていてもよく、両面にそれぞれ回路面が形成されていてもよい。
また、半導体チップの回路には、素子としてのセンサ素子(例えば、受光素子又は振動素子など)が備えられてもよい。この種の半導体チップは、例えばセンサチップである。センサチップとしては、CMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)チップ、又は、MEMS(Micro Electro Systems)チップなどが挙げられる。
【0022】
上記の疑似ウエハは、例えば、支持基板と、該支持基板上に配置された複数の半導体チップを一括して樹脂封止した状態のパッケージ体とを備える。疑似ウエハは、上記の支持基板から取り外された上記のパッケージ体であってもよい。疑似ウエハの表面の少なくとも一部には、再配線層が形成されていてもよい。斯かる再配線層を覆うように上記の保護シート1が使用されてもよい。なお、少なくとも1つの半導体チップを含む構成単位ごとに上記の疑似ウエハを分割した分割体が、電子部品であってもよい。
【0023】
上記の通り、保護対象面を有する電子部品には、様々な種類がある。例えば、被着体である電子部品としては、様々な材質の基板Gが挙げられる。被着体である基板Gの材質としては、例えば、ガラス、シリコン、ステンレス鋼(SUS)、プラスチック、又は、セラミックなどが挙げられる。
【0024】
第1保護層11は、被着体である基板Gの保護対象面に密着できる密着性を有する。保護シート1の第1保護層11を被着体である基板Gの保護対象面に重ねることによって、保護対象面に重なった第1保護層11を除去するまで、保護対象面に異物が付着することなどを防止できる。
保護シート1は、例えば半導体装置などの電子部品装置を製造する工程中で使用される。この工程中において、保護シート1が冷却水などと接触する場合がある。このような状況下では、水溶性高分子化合物を含む第1保護層11の少なくとも一部が溶解してしまう状況となり得る。
これに対して、本実施形態の保護シート1では、第1保護層11が水溶性高分子化合物を含み、第2保護層12が親水性ポリエステル化合物を含む。比較的温度の低い水に対する親水性は、水溶性高分子化合物よりも親水性ポリエステル化合物の方が低い。そのため、第1保護層11が保護対象面に貼り付けられ、第2保護層12が冷却水と接触するように配置されて使用されることにより、保護シート1が保護対象面を保護しているときに冷却水と接触しても、保護シート1が冷却水で除去されることを抑制できる。
また、保護シート1は、例えば上記のごとく保護対象面を一時的に保護するために使用された後、比較的高温の水含有液体によって除去される。
なお、保護シート1を被着体である基板Gに貼り合わせて使用する保護シート1の使用方法については、後に詳しく説明する。
【0025】
[第1保護層]
第1保護層11は、水溶性高分子化合物を含む。水溶性高分子化合物は、水溶性を発揮できる量の親水基を分子中に有する。第1保護層11は、水溶性高分子化合物を90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましく、99質量%以上含むことがさらに好ましい。これにより、第1保護層11は、比較的高温の水含有液体によってより除去されやすくなる。
【0026】
水溶性高分子化合物は、斯かる水溶性高分子化合物の薄膜(厚さ50μm以下)を40℃の水に浸漬するとすべて溶解するような水溶性を有する。
【0027】
第1保護層11は、所定以上の親水性を有する。第1保護層11が所定以上の親水性を有すると、通常、上記の第1保護層11の少なくとも一部は、比較的高温の水含有液体に溶解する。第1保護層11は、所定以上の親水性を有するため、比較的高温の水含有液体と接触したときに少なくとも一部が溶解して、被着体である電子部品の保護対象面から除去されるように構成されている。
【0028】
第1保護層11の親水性として、第1保護層11の表面における水の接触角が指標となり得る。第1保護層11の表面における水の接触角は、25°以上45°以下であることが好ましい。上記接触角が25°以上であることにより、被着体に対する第1保護層11の密着力をより向上できる。一方、上記接触角が45°以下であることにより、水に対する第1保護層11の溶解性がより高まる。
【0029】
上記接触角は、例えば分子中における親水基(例えば、-OH基、ポリオキシエチレン基)の割合がより高い水溶性高分子化合物を採用することによって、大きくできる。一方、分子中における親水基(例えば、-OH基、ポリオキシエチレン基)の割合がより低い水溶性高分子化合物を採用することによって、上記接触角を小さくできる。
【0030】
上記接触角は、以下のようにして測定される。具体的には、第1保護層11の一方の面(保護対象面に貼り付けられる側の面)における水の接触角を一般的な接触角計を用いて測定する。より具体的には、JIS R3257に準拠し、全自動接触角測定装置(例えば、協和界面科学社製、製品名:DM-500)を用いて、水1.5μLに対する接触角を25℃で測定する。5回の測定値の平均値を採用する。
【0031】
また、第1保護層11の物性は、例えばせん断接着力によって示される。第1保護層11のせん断接着力は、0.10MPaよりも大きいことが好ましく、0.20MPa以上であることがより好ましい。第1保護層11のせん断接着力が0.10MPaよりも大きいことにより、被着体への密着性がより高まるため、保護対象面をより十分に保護できる。即ち、ダイシング工程(後に詳述)において第1保護層11が保護対象面から剥離することをより十分に抑制できる。なお、第1保護層11のせん断接着力は、2.00MPa以下であってもよい。
【0032】
上記のせん断接着力は、例えば分子量がより小さい水溶性高分子化合物、又は、ガラス転移点がより低い水溶性高分子化合物を採用することによって、大きくできる。一方、例えば分子量がより大きい水溶性高分子化合物、又は、ガラス転移点がより高い水溶性高分子化合物を採用することによって、上記のせん断接着力を小さくできる。
【0033】
上記のせん断接着力は、ダイシェア強度試験によって以下のようにして測定される。具体的には、まず、室温にてハンドローラを用いてSUS板の片面に両面テープを貼り付け、試験用の支持台を作製する。次に、室温にてハンドローラを用いて、両面テープの露出面(上面)に試験用の各第1保護層を貼り付ける。続いて、80℃にてラミネータを用いて10mm/秒の速度で、各第1保護層の露出面(上面)にシリコンチップ(一辺5mmの正方形、厚さ500μm)を貼り付ける。各第1保護層の面方向のうち一方向に向けて、シリコンチップの上部に対して力(せん断力)を与える。このとき、500μm/秒の速さ、25℃で、シリコンチップの上面から下方へ50μmまでの部分にせん断力を与える。そして、シリコンチップが各第1保護層の上面からはく離したときの力を測定する。
【0034】
本実施形態において、第1保護層11に含まれる上記水溶性高分子化合物の親水基は、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ピロリドン基、及びポリオキシエチレン基(ポリオキシエチレン構造)からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0035】
上記の水溶性高分子化合物としては、ビニルアセテートの重合体におけるエステル結合の一部を加水分解して得られるポリビニルアルコール、少なくともポリエチレンオキシド構造を分子中に有する水溶性高分子化合物、及び、ポリビニルアルコールにアルデヒドを反応させて得られるポリビニルアセタールのうちの少なくとも1種が好ましい。
【0036】
上記の水溶性高分子化合物は、好ましくは、分子中に親水基としてヒドロキシ基又はポリオキシエチレン構造の少なくとも一方を有する。上記の水溶性高分子化合物が、分子中に親水基としてヒドロキシ基又はポリオキシエチレン構造を有することにより、第1保護層11は、基板G(電子部品)の保護対象面に対してより十分に密着できる。
【0037】
例えば、第1保護層11は、多数のヒドロキシ基を分子中に有するポリビニルアルコールを上記の水溶性高分子化合物として含んでもよい。
【0038】
上記の水溶性高分子化合物がポリビニルアルコール(PVA)である場合、ポリビニルアルコールのけん化度(モル%)は、70以上100以下であってもよい。
ポリビニルアルコールのけん化度(モル%)は、80以上であることが好ましく、90以上であることがより好ましい。ポリビニルアルコールのけん化度がより大きくなることによって、上記の第1保護層11が、より高い親水性を有することとなる。従って、比較的高温の水含有液体によって第1保護層11をより簡便に除去できる。
一方、被着体に対する密着力をより向上できるという点で、ポリビニルアルコールのけん化度は、98以下であることが好ましく、95以下であることがより好ましい。
【0039】
<けん化度の測定方法、測定条件>
上記のけん化度は、以下の分析条件で実施するプロトン磁気共鳴分光法(1H MNR)によって測定される。
なお、第1保護層11がPVA以外の成分を含む場合、測定チャートにおけるピークの重なりを避けるため、メタノール抽出等によってPVAの分離抽出処理を行った後、測定を実施する。
分析装置:FT-NMR
(例えばBrukerBiospin社製、「AVANCEIII-400」)
観測周波数:400MHz(1H)
測定溶媒:重水、または、重ジメチルスルホキシド(重DMSO)
測定温度:80℃
化学シフト基準:外部標準TSP-d4(0.00ppm)(重水測定時)
:測定溶媒(2.50ppm)(重DMSO測定時)
【0040】
上記のポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは100以上であり、より好ましくは200以上である。また、上記平均重合度は、好ましくは1000以下であり、より好ましくは800以下である。
ポリビニルアルコールの平均重合度が100以上であることによって、上記の第1保護層11をより形成しやすくなる。一方、ポリビニルアルコールの平均重合度が1000以下であることによって、ポリビニルアルコールの親水性がより高まり、比較的高温の水含有液体に、上記の第1保護層11がより溶解しやすくなる。
【0041】
上記の平均重合度は、以下の測定方法及び測定条件によって求められる。
<平均重合度の測定方法、測定条件>
・分析装置:ゲル浸透クロマトグラフィー分析装置
(例えば、Agilent社製 装置名「1260Infinity」)
・カラム:TSKgel G6000PWXL及びTSKgel G3000PWXL(東ソー社製 直列接続)
・カラム温度:40℃
・溶離液:0.2Mの硝酸ナトリウム水溶液
・流速:0.8mL/min
・注入量:100μL
・検出器:示差屈折率計(RI)
・標準試料:PEG標準試料及びPVA標準試料
PEG標準試料を用いたGPC測定によって、被測定試料(PVA)、及び、平均重合度が既知のPVA標準試料の質量平均分子量Mwをそれぞれ算出する。PVA標準試料の平均重合度と、算出したPVA標準試料の質量平均分子量Mwとから検量線を作成する。この検量線を用いて、被測定試料(PVA)の質量平均分子量Mwから被測定試料(PVA)の平均重合度を求める。
【0042】
本実施形態において第1保護層11は、例えば、ポリオキシエチレン構造のみを分子中に有するポリエチレンオキシド(PEO)(例えば分子量5万以上)を上記の水溶性高分子化合物として含んでもよい。一方、第1保護層11は、ポリオキシエチレン構造とポリオキシプロピレン構造とを分子中に有する、ポリアルキレンオキシド共重合体(例えば分子量5万以上)を上記の水溶性高分子化合物として含んでもよい。
ポリアルキレンオキシド共重合体は、ポリオキシエチレン構造のブロックと、ポリオキシプロピレン構造のブロックとを分子中に有するブロック共重合体であってもよく、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム共重合体であってもよい。
【0043】
上記の水溶性高分子化合物が、ポリオキシエチレン構造に加え、ポリオキシプロピレン構造を分子中に有することにより、第1保護層11の被着体への密着性がより高まる。
【0044】
上記のポリオキシエチレン構造を分子中に有する水溶性高分子化合物の質量平均分子量Mwは、1,000,000(100万)以下であることが好ましい。質量平均分子量Mwが1,000,000以下であることにより、上記の水溶性高分子化合物は、十分に低い軟化点を有することができる。これにより、低温における第1保護層11の被着体に対する密着性がより良好になり得る。また、比較的高温の水含有液体によって、被着体の保護対象面から第1保護層11をより短時間で効率良く除去できる。なお、質量平均分子量Mwは、例えば5万以上であってもよい。
【0045】
本実施形態の第1保護層11は、上述した配合成分の他に、例えば界面活性剤、又は、可塑剤などをさらに含んでもよい。
【0046】
第1保護層11の厚さは、特に限定されないが、例えば1μm以上100μm以下である。斯かる厚さは、3μm以上であってもよく、5μm以上であってもよい。また、斯かる厚さは、40μm以下であってもよく、30μm以下であってもよい。なお、第1保護層11が積層体である場合、上記の厚さは、積層体の総厚さである。
【0047】
[保護シートの第2保護層]
上述したように、第2保護層12は、親水性ポリエステル化合物を含む。第2保護層12は、親水性ポリエステル化合物のみで形成されていてもよく、親水性ポリエステル化合物以外の成分を含んでもよい。第2保護層12は、例えば親水性ポリエステル化合物で形成されたフィルムである。
【0048】
第2保護層12は、親水性ポリエステル化合物を95質量%以上含むことが好ましく、98質量%以上含むことがより好ましい。これにより、第2保護層12は、ダイシング工程(後に詳述)で使用される冷却液と接触しても第1保護層11との積層状態をより確実に維持できることから、第1保護層11の冷却液への溶解をより十分に抑制できる。
【0049】
第2保護層12の親水性の程度として、例えば第2保護層12の表面における水の接触角が指標となり得る。第2保護層12の表面における水の接触角は、60°以上80°以下であることが好ましい。上記接触角が60°以上であることにより、例えば30℃未満の冷却水に対する第2保護層12の溶解性がより低くなる。一方、上記接触角が80°以下であることにより、比較的高温の水含有液体に第2保護層12がより溶解しやすくなる。
なお、接触角の測定方法の詳細は、上述した通りである。
【0050】
上記接触角は、例えばより酸価の小さい親水性ポリエステル化合物を採用することによって大きくできる。一方、より酸価の大きい親水性ポリエステル化合物を採用することによって、上記接触角を小さくできる。
【0051】
第2保護層12に含まれる親水性ポリエステル化合物は、少なくとも多価カルボン酸とポリオールとのエステル化反応生成物である。従って、親水性ポリエステル化合物は、多価カルボン酸の残基とポリオールの残基とを分子中に有する。多価カルボン酸としては、例えばテレフタル酸が挙げられる。
【0052】
親水性ポリエステル化合物は、分子中にカルボキシ基又はスルホン酸基を有する。カルボキシ基又はスルホン酸基は、塩の状態であってもよい。親水性ポリエステル化合物は、上記のごとき親水基を分子中に有するため、比較的高温の水含有液体に溶解し得る。
【0053】
親水性ポリエステル化合物は、以下の物性を有することが好ましい。詳しくは、親水性ポリエステル化合物の粉末:50℃の水=1:5の質量比で混合して調製した混合液に超音波を10分間照射すると、すべての親水性ポリエステル化合物が水に溶解する。
【0054】
親水性ポリエステル化合物の質量平均分子量Mwは、25,000(2.5万)以下であることが好ましく、20,000(2万)以下であることがより好ましい。これにより、第2保護層12を形成しやすくなる。
親水性ポリエステル化合物の質量平均分子量Mwは、10,000(1万)以上であることが好ましい。これにより、第2保護層12が冷却水(例えば30℃以下)に接触したときに第2保護層12がより溶解しにくくなる一方で、比較的高温の水(例えば40℃以上の温水)に接触したときは、第2保護層12が保護対象面から比較的容易に除去され得る。
親水性ポリエステル化合物の質量平均分子量Mwが上記のごとき範囲内であることにより、第2保護層12は、例えば30℃以下という比較的低温の冷却水と接触しつつ、ダイシングブレードなどによって切断された場合(例えば、後に詳述するブレードダイシング加工時など)であっても、保護対象面の保護を維持することができる。一方で、第2保護層12は、例えば40℃以上の水含有液体と接触した場合(例えば、後に詳述する除去工程時など)に、比較的容易に溶解されて除去され得る。
【0055】
親水性ポリエステル化合物の酸価は、5mgKOH/g未満であることが好ましい。親水性ポリエステル化合物の酸価がより小さいことによって、比較的低温の冷却水と接触したときの第2保護層12の溶解がより抑制される。
なお、上記の酸価は、JIS K 0070-1992に規定される中和滴定法により求められる。
【0056】
第2保護層12の厚さは、特に限定されないが、例えば1μm以上100μm以下である。斯かる厚さは、3μm以上であってもよく、5μm以上であってもよい。また、斯かる厚さは、40μm以下であってもよい。なお、第2保護層12が積層体である場合、上記の厚さは、積層体の総厚さである。
【0057】
[第1はく離ライナー及び第2はく離ライナー]
本実施形態の保護シート1は、上述したように使用される前の状態において、第1保護層11の一方の面(第2保護層12と重なっていない第1保護層11の片面)を覆う第1はく離ライナー15を備えてもよい。第1はく離ライナー15は、第1保護層11を保護するために用いられ、例えば第1保護層11を被着体(電子部品としての基板Gなど)に貼り付ける直前に、第1保護層11の上記片面から剥離される。
また、本実施形態の保護シート1は、上述したように第2保護層12の一方の面(第1保護層11と重なっていない第2保護層12の片面)を覆う第2はく離ライナー17を備えてもよい。第2はく離ライナー17は、第2保護層12を保護するために用いられ、例えば第1保護層11及び第2保護層12を被着体(基板Gなど)に貼り付けた後に、第2保護層12の上記片面から剥離される。
【0058】
上記の各はく離ライナーは、例えば、シリコーン系剥離剤、長鎖アルキル系剥離剤、フッ素系剥離剤、硫化モリブデン等の剥離剤によって表面処理された、プラスチックフィルム又は紙等であってもよい。
【0059】
本実施形態の保護シート1は、
図1Aに示すような第一例であってもよい。第一例の保護シート1は、第1はく離ライナー15及び第2はく離ライナー17の両方を備える。第一例の保護シートは、例えば以下のようにして、一般的な方法によって製造できる。
【0060】
第1保護層11を作製するために、まず、水を含む溶媒に、水溶性高分子化合物を溶解させる。溶解させるときに加熱してもよい。溶媒としては、水以外に有機溶媒を用いてもよい。有機溶媒としては、任意の割合で水に溶解する水性有機溶媒が好ましい。斯かる水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。
次に、上記のごとく調製した高分子溶液を第1はく離ライナー15に塗布(塗工)する。塗布した後、溶媒が揮発する温度で加熱することにより、第1はく離ライナー15に重なった第1保護層11を形成する。
【0061】
一方で、第2保護層12を作製するために、水又は有機溶媒を含む溶媒に、上記の親水性ポリエステル化合物を溶解させる。溶解させるときに、加熱してもよい。有機溶媒としては、水又は極性有機溶媒が好ましい。斯かる極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。
次に、上記のごとく調製した親水性ポリエステル化合物の溶液を第2はく離ライナー17に塗布(塗工)する。塗布した後、溶媒が揮発する温度で加熱することにより、第2はく離ライナー17に重なった第2保護層12を形成する。
【0062】
そして、第1はく離ライナー15に重なった第1保護層11と、第2はく離ライナー17に重なった第2保護層12とを重ね合わせて圧力を加える。換言すると、第1はく離ライナー15と第2はく離ライナー17とで第1保護層11及び第2保護層12を挟み込むことによって、第1保護層11及び第2保護層12を積層させ、さらに加圧する。
このようにして保護シート1を製造できるが、保護シートの製造方法は、上記のごとく例示した方法に限定されない。
【0063】
保護シート1は、例えば、電子部品装置を製造するための補助用具として使用される。保護シート1は、例えば、電子部品装置を製造する工程中で一時的に使用される。そのため、製造された電子部品装置は、保護シート1を備えないこととなり得る。
【0064】
電子部品装置は、上述したような様々な電子部品のうち少なくとも1種を備える装置である。電子部品装置としては、例えば、半導体チップを備える半導体集積回路などの半導体装置、相補型MOS(CMOS)を有するシステムLSIを備える装置、又は、機械要素部品、センサ、アクチュエータ、若しくは電子回路を1つのシリコン基板、ガラス基板、若しくは有機材料基板などの上に微細加工技術によって集積化したデバイス(MEMS Micro Electro Mechanical Systems)などを備える装置などが挙げられる。なお、製造される電子部品装置は、配線回路基板を備える装置であってもよい。
【0065】
上記の実施形態では、第1はく離ライナー15及び第2はく離ライナー17を備え得る保護シート(本実施形態の第一例)について詳しく説明したが、本実施形態の保護シートは、以下に説明するような保護シート(本実施形態の第二例)であってもよい。
【0066】
本実施形態の保護シートの第二例は、
図2Aに示すように、第一例の保護シートの第2はく離ライナー17に代えて、粘着テープ13(例えばバックグライントテープ)を備え得る。第二例の保護シートは、第一例と同様に第1はく離ライナー15が取り除かれてから使用される(
図2B参照)。そして、例えば
図2Cに示すように第1保護層11が基板Gの保護対象面に貼り付けられた後に、粘着テープ13は、第2保護層12の片面からはく離される。
【0067】
粘着テープ13は、基材層13aと、該基材層13aに重なり合う粘着層13bとを有する。本実施形態では、粘着層13bが感圧型接着剤で形成されているため、粘着テープ13は、感圧型粘着テープとして使用できる。
【0068】
(粘着テープの基材層)
基材層13aは、例えば樹脂で構成されている。斯かる樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などのポリエステル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などのポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリイミド、セルロース類、フッ素系樹脂、ポリエーテル、ポリスチレンなどのポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン等が挙げられる。好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、又は、ポリブチレンナフタレートなどが採用され得る。
【0069】
基材層13aは、さらに添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、又は、光安定剤等が挙げられる。
【0070】
基材層13aの厚さは、例えば10μm以上200μm以下であってもよい。基材層13aの引張弾性率は、例えば、50MPa以上6000MPa以下であってもよい。
【0071】
(粘着テープの粘着層)
粘着テープ13の粘着層13bは、例えば、アクリル樹脂と、イソシアネート化合物と、重合開始剤(光重合開始剤など)とを含む。
【0072】
上記のアクリル樹脂は、例えば、分子中にアルキル(メタ)アクリレートの構成単位と、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位と、重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位と、を少なくとも有する。構成単位は、アクリル樹脂の主鎖を構成する単位である。
【0073】
上記のアルキル(メタ)アクリレートの構成単位は、アルキル(メタ)アクリレートモノマーに由来する。換言すると、アルキル(メタ)アクリレートモノマーが重合反応したあとの分子構造が、アルキル(メタ)アクリレートの構成単位である。「アルキル」という表記は、(メタ)アクリル酸に対してエステル結合した炭化水素部分を表す。アルキル部分の炭素数は、6以上12以下であってもよい。
【0074】
アルキル(メタ)アクリレートの構成単位としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレートなどの各構成単位が挙げられる。
【0075】
アクリル樹脂は、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位を有し、斯かる構成単位の水酸基が、イソシアネート基と容易に反応する。
水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位を有するアクリル樹脂と、イソシアネート化合物とを粘着層13bに共存させておくことによって、粘着層13bを適度に硬化させることができる。そのため、アクリル樹脂が十分にゲル化できる。よって、粘着層13bは、形状を維持しつつ粘着性能を発揮できる。
【0076】
水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位は、水酸基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレートの構成単位であることが好ましい。「C2~C4アルキル」という表記は、(メタ)アクリル酸に対してエステル結合した炭化水素部分及びその炭素数を表す。換言すると、水酸基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、(メタ)アクリル酸と、炭素数2以上4以下のアルコール(通常、2価アルコール)とがエステル結合したモノマーを示す。なお、C2~C4アルキルの炭化水素部分は、通常、飽和炭化水素である。
【0077】
水酸基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレートの構成単位としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシn-ブチル(メタ)アクリレート、又は、ヒドロキシiso-ブチル(メタ)アクリレートといったヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの各構成単位が挙げられる。
【0078】
上記のアクリル樹脂は、側鎖に重合性不飽和二重結合を有する重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位を含む。
上記のアクリル樹脂が、重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位を含むことによって、紫外線等の活性エネルギー線の照射によって、光重合開始剤からラジカルを発生させ、このラジカルの作用によって、アクリル樹脂同士を架橋反応させることができる。これによって、照射前における粘着層13bの粘着力を、照射によって低下させることができる。
なお、活性エネルギー線としては、紫外線、放射線、電子線が採用される。
【0079】
重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位は、具体的には、上述した水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位における水酸基に、イソシアネート基含有(メタ)アクリレートモノマーのイソシアネート基がウレタン結合した分子構造を有してもよい。
【0080】
重合性基を有する重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位は、アクリル樹脂を合成する重合反応の後に、調製され得る。例えば、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーとの共重合の後に、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位の一部における水酸基と、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基とを、ウレタン化反応させることによって、上記の重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位を得ることができる。
【0081】
上記のイソシアネート基含有(メタ)アクリレートモノマーは、分子中にイソシアネート基を1つ有し且つ(メタ)アクリロイル基を1つ有することが好ましい。斯かるモノマーとしては、例えば、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0082】
粘着層13bは、さらにイソシアネート化合物を含み得る。イソシアネート化合物の一部は、ウレタン化反応などによって反応した後の状態であってもよい。
イソシアネート化合物は、分子中に複数のイソシアネート基を有する。イソシアネート化合物が分子中に複数のイソシアネート基を有することによって、粘着層13bにおけるアクリル樹脂間の架橋反応を進行させることができる。
【0083】
イソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、又は、芳香脂肪族ジイソシアネートなどのジイソシアネートが挙げられる。さらに、イソシアネート化合物としては、例えば、ジイソシアネートの二量体や三量体等の重合ポリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートが挙げられる。上記のイソシアネート化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
粘着層13bに含まれる重合開始剤は、加えられた熱や光のエネルギーによって重合反応を開始できる化合物である。粘着層13bが重合開始剤を含むことによって、粘着層13bに熱エネルギーや光エネルギーを与えたときに、アクリル樹脂間における架橋反応を進行させることができ、粘着層13bを硬化させることができる。これにより、粘着層13bの粘着力を低下させ、バックグラインド工程(後に詳述)の後に、第2保護層12と硬化した粘着層13bとの間で容易に剥離させることができる。
重合開始剤としては、例えば、市販されている一般的な光重合開始剤又は熱重合開始剤などが採用される。
【0085】
粘着層13bは、さらに添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、又は界面活性剤等が挙げられる。
【0086】
粘着層13bの厚さは、例えば5μm以上150μm以下であってもよい。
【0087】
第二例の保護シート1は、例えば、上記のごとく製造した第一例の第2はく離ライナー17を取り除いた後、第2はく離ライナー17に代えて粘着テープ13の粘着層13bを第2保護層12に貼り付けることによって製造できる。
粘着テープ13としては、市販されている製品を採用できる。粘着テープ13は、例えばバックグラインドテープの市販製品であってもよい。
【0088】
<電子部品装置を製造するときの保護シートの使用方法>
続いて、本実施形態の保護シート1の使用方法について説明する。具体的には、上記の保護シート1を使用して、電子部品装置を製造する方法の実施形態について説明する。換言すると、上記のごとき電子部品装置を製造するために使用される保護シート1の使用方法の具体例について説明する。
【0089】
本実施形態の電子部品装置の製造方法は、
電子部品の保護対象面に保護シートを貼り合わせる工程(保護工程)と、
30℃以下の冷却水を前記保護シートに接触させつつ前記電子部品及び前記保護シートを共に複数の小片へと切断する工程(ダイシング工程)と、
前記電子部品の小片の保護対象面から前記保護シートの小片を除去する工程(除去工程)と、を備え、
前記保護シートは、前記保護対象面に貼り合わされる第1保護層11と、該第1保護層11の片面に重なる第2保護層12とを有し、
前記第1保護層11は、水溶性高分子化合物を含み、前記第2保護層12は、親水性ポリエステル化合物を含み、
前記除去する工程は、40℃以上の水含有液体で前記保護シートの小片の少なくとも一部を溶解させることによって、前記保護シートの小片を除去することを含む。
【0090】
本実施形態の電子部品装置の製造方法では、上記の保護シート1を使用して、電子部品装置を製造する。上記の保護シート1によって保護される保護対象面は、例えば、電子部品装置を構成する電子部品(例えば基板)の表面の少なくとも一部である。上記の保護シート1を使用して製造される電子部品装置としては、例えば上述した装置などが挙げられる。
【0091】
本実施形態の電子部品装置の製造方法では、製造補助用具としてダイシングダイボンドフィルム50をさらに使用できる。ダイシングダイボンドフィルム50は、
図11に示すように、ダイシングテープ20と、該ダイシングテープ20に積層されたダイボンドシート30と、を備える。ダイシングテープ20は、支持層21と、支持層21に重なった粘着剤層22とを有する。ダイシングダイボンドフィルム50としては、市販されている製品を使用できる。
【0092】
上記の保護シート1を使用する電子部品装置の製造方法において、例えば基板Gの一方の面である保護対象面が保護シート1によって保護される。なお、基板Gの保護対象面は、例えば、回路が形成された回路面であってもよく、回路が形成されていない非回路面であってもよい。
【0093】
基板Gは、板状であればその材質は特に限定されない。基板Gとしては、例えば、半導体ウエハ、CMOS又はMEMSなどのセンサ系ウエハ、疑似ウエハ、又は配線回路基板などが挙げられる。
【0094】
以下、電子部品装置としての半導体装置を製造する方法を例に挙げて、本実施形態の電子部品装置の製造方法を詳しく説明する。
【0095】
半導体装置(電子部品装置)の製造方法において、例えば、回路面が形成された半導体ウエハWから半導体チップXを切り出し、切り出した半導体チップXを有する半導体装置を組み立てる。下記の半導体装置の製造方法では、少なくとも保護シート1とダイシングダイボンドフィルム50とを使用して半導体装置を製造する。
【0096】
一般的に、半導体装置の製造方法は、高集積の電子回路によってベアウエハの片面側に回路面を形成する前工程と、回路面が形成された半導体ウエハWから半導体チップXを切り出して組立てを行う後工程とを備える。
【0097】
後工程では、例えば、回路面が形成された基板としてのウエハ(半導体ウエハW)を小さい半導体チップX(ダイ)へ小片化し、その後、小片となった半導体チップXを被着体に接合すること等によって、半導体集積回路(半導体装置)を組み立てる。
【0098】
半導体ウエハWは、複数の半導体チップXを得られるように構成されている。詳しくは、半導体ウエハWは、面に沿う複数の方向(例えば面に沿う方向であって互いに直交する方向)に間隔をそれぞれ空けるように分割されて小片化されることによって、複数の半導体チップXを作製できるように構成されている。また、半導体ウエハWは、回路構成要素の少なくとも1種が配置された回路面を一方の面に有する。
【0099】
近年の半導体産業においては、集積化技術のさらなる進展に伴って、より薄い半導体チップ(例えば20μm以上50μm以下の厚さ)が要望されている。半導体チップを厚さ方向の一方から見たときの形状は、例えば矩形状であり、一辺の長さは、例えば5mm以上20mm以下の所定長さである。
【0100】
半導体装置の製造方法の具体的な第1例及び第2例についてそれぞれ説明する。第1例では、
図1Aに示す保護シート1を使用し、第2例では、
図2Aに示す保護シート1を使用する。
なお、第1例の製造方法の様子を示す図面には、「I」と記載している。同様に、第2例については、図面中に「II」と記載している。
【0101】
「第1例の半導体装置の製造方法」
第1例の半導体装置の製造方法は、回路面が形成された半導体ウエハW(基板)を小片化することによって半導体チップXを作製して、斯かる半導体チップXを有する半導体装置を組立てる組立工程を備える。
斯かる組立工程は、半導体ウエハWの少なくとも一方の面であって回路構成要素が配置された回路面に、該回路面を保護するための保護シート1を重ね合わせて回路面(保護対象面)を保護する保護工程と、
片面に回路面が形成された半導体ウエハWをダイシングダイボンドフィルム50(ダイシングテープ20に重なったダイボンドシート30)に貼り付けて、ダイシングダイボンドフィルム50に半導体ウエハWを固定するマウント工程と、
半導体ウエハW、保護シート1及びダイボンドシート30の積層物を分割して小片化することによって、半導体ウエハWが小片化した半導体チップXと保護シートの小片とダイボンドシートの小片30’とが重なり合った複数の小片化積層物を作製するダイシング工程と、
必要に応じて実施する、互いに隣り合う半導体チップXの間隔を広げるエキスパンド工程と、
半導体チップXの回路面に重なった保護層の各小片と、比較的高温の水含有液体とを接触させることによって、保護層の各小片を除去する除去工程と、
ダイシングテープ20とダイボンドシートの小片30’との間を剥離して、ダイボンドシートの小片30’が貼り付いた状態の半導体チップXを取り出すピックアップ工程と、
取り出した半導体チップXを、ダイボンドシートの小片30’を介して被着体に接合させるダイボンド工程と、を少なくとも含む。
【0102】
保護工程では、半導体ウエハWの回路面に保護シート1の第1保護層11を重ね合わせる。半導体ウエハWの回路面に保護シート1を重ね合わせることによって、保護シート1が除去されるまで、回路面を保護シート1によって保護できる。よって、保護シート1で覆われた半導体ウエハWの回路面に異物等が付着することを防止できる。
【0103】
マウント工程では、まず、ダイシングテープ20の粘着剤層22にダイシングリングRを取り付けた後、エキスパンド装置の保持具HにダイシングリングRを固定してもよい。その後、
図3Aに示すように、ダイシングテープ20に重なったダイボンドシート30に対して、半導体ウエハWと保護シート1と第2はく離ライナー17とを一度に貼り付ける。例えば、このようにして半導体ウエハWをダイボンドシート30に固定する。そして、第2はく離ライナー17を介して保護シート1を半導体ウエハWに押し付けることによって、上記回路面に保護シート1を感圧接着させる。
【0104】
なお、半導体ウエハWの回路面に保護シート1を重ね合わせて保護工程を実施した後にマウント工程を実施してもよく、一方、回路面が露出した半導体ウエハWをダイボンドシート30に固定してマウント工程を実施した後に保護工程を実施してもよい。
【0105】
上記のごとく第2はく離ライナー17を用いた場合、
図3B及び
図3C示すように、保護シート1から第2はく離ライナー17を剥離することによって、第2はく離ライナー17を取り除く。
【0106】
ダイシング工程では、ブレードダイシング加工を実施する。ブレードダイシング加工では、例えば
図4示すように、ダイボンドシート30と半導体ウエハWと保護シート1とを、ダイシングブレードTなどによって分割して小片化し、半導体ウエハWを小片化してなる半導体チップX(ダイ)を作る。
【0107】
ダイシング工程では、ダイシングブレードTを用いて比較的硬い半導体ウエハWを切断することに伴い、摩擦熱等によって半導体ウエハW等の温度が上昇する。過剰な温度上昇を抑えるために、ブレードダイシング加工中に、冷却水を保護シート1と接触させる。具体的には、保護シート1の第2保護層12に冷却水をかけながら、ダイボンドシート30、半導体ウエハW、及び保護シート1の積層物をダイシングブレードTによって切断する。
【0108】
より詳しくは、ダイシング工程では、保護シート1及び半導体ウエハWをダイボンドシート30と共に所定のサイズに切断し、ダイボンドシートの小片30’付き半導体チップXを形成する。このとき、保護シートの小片も形成される。即ち、第1保護層の小片11’及び第2保護層の小片12’の積層物も形成される。ブレードダイシング加工は、例えばダイシングブレードTを用いて、常法に従い行われる。ブレードダイシング加工では、例えばダイボンドシート30まで切り込みを実施するフルカットと呼ばれる切断方式を採用できる。ブレードダイシング加工で使用されるダイシング装置としては、特に限定されず、従来公知の装置を使用できる。
ブレードダイシング加工では、半導体ウエハWの切断に伴って破片などの異物が生じ得る。このとき、保護シート1によって半導体ウエハWの保護対象面が保護されているため、保護対象面に異物が付着することを抑制できる。
【0109】
ダイシング工程で使用する冷却水の温度は、30℃以下であり、好ましくは25℃以下である。なお、冷却水の温度は、0℃以上であってもよく、5℃以上であってもよく、10℃以上であってもよい。
【0110】
冷却水は、水を含む液体であれば特に限定されない。使用後の冷却水の廃棄処理がより簡便になるという点で、冷却水は、水を90質量%以上含むことが好ましく、水を95質量%以上含むことがより好ましく、水を98質量%以上含むことがさらに好ましく、水であることが最も好ましい。
【0111】
ダイシング工程において保護シートが上記のごとき冷却水と接触しても、第2保護層12が冷却水と接するように保護シートが配置されているため、保護シートの第1保護層11と冷却水との接触が抑えられる。そのため、第1保護層11が冷却水に溶解することが抑制される。従って、保護シートが冷却水と接触しても、半導体ウエハWの保護対象面(回路面)が保護シートによって保護された状態を維持できる。
【0112】
必要に応じて実施するエキスパンド工程では、半導体ウエハWが分割されて作製された互いに隣り合う半導体チップ(ダイ)Xの間隔を広げる。詳しくは、ダイシングテープ20の粘着剤層22にダイシングリングRを取り付けた後、エキスパンド装置の保持具Hに固定する。エキスパンド装置が備える突き上げ部材Uを、ダイシングダイボンドフィルム50の下側から突き上げることによって、ダイシングダイボンドフィルム50を面方向に広げるように引き延ばす。引き延ばすことにより、上記の間隔を広げる。
【0113】
除去工程では、例えば
図5に示すように、40℃以上の水含有液体と、保護シートの小片(第1保護層の小片11’及び第2保護層の小片12’の積層物)とを接触させて、保護シートの各小片の少なくとも一部を比較的高温の水含有液体に溶解させる。これにより、半導体チップXの保護対象面に重なった保護シートの小片をすべて除去できる。即ち、半導体チップXの表面(保護対象面)から第1保護層の小片11’及び第2保護層の小片12’の両方を除去できる。
このようにして除去工程を実施することにより、保護シートの複数の小片の全部を比較的簡便に除去できる。また、半導体チップ表面に付着した異物の数を水含有液体によって比較的簡便に減らすこともできる。また、各半導体チップXの表面(保護対象面)を比較的高温の水含有液体で洗浄することもできる。
【0114】
保護シートの小片と接触させる上記水含有液体の温度は、保護シートの小片をより短時間で取り除けるという点で、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。なお、上記水含有液体の温度は、100℃以下であってもよい。
【0115】
除去工程では、保護シートの小片(11’、12’)が付着した半導体チップXを、撹拌されている比較的高温の水含有液体のなかに浸積してもよい。又は、ノズル等から噴射された液体を、保護シートの小片に接触させてもよい。
【0116】
除去工程では、保護シート1の構成成分の全てを上記液体に溶解させることによって保護シートの複数の小片を除去してもよい。一方、保護シートの構成成分の一部を上記液体に溶解させることで、半導体チップXとの付着力が弱くなった各小片が半導体チップXから離れることによって保護シートの複数の小片を除去してもよい。
【0117】
例えば、除去工程では、ダイシングテープ20を下方から支える円板状のステージを周方向に回転させつつ、ダイボンドシートの小片30’にそれぞれ貼り付いている半導体チップXに向けて比較的高温の水含有液体を噴射する。これにより、半導体チップXにそれぞれ重なった保護シートの複数の小片を効率的に除去できる。
【0118】
水含有液体は、水を含む液状物質であれば、特に限定されない。斯かる液体は、水を90質量%以上含んでもよく、95質量%以上含んでもよく、98質量%以上含んでもよい。水含有液体は、水であってもよい。
上記液体は、水の他に、水に溶解する成分を含んでもよい。斯かる成分としては、例えば、水溶性有機溶媒が挙げられる。斯かる水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのプロパノール、又は、t-ブタノールなどのブタノールといった、炭素数4以下の1価アルコールが挙げられる。
【0119】
ピックアップ工程を行うときに、半導体チップXに貼り付いたダイボンドシートの小片30’が、ダイシングテープ20の粘着剤層22から容易に剥離される必要がある。上述したダイシングテープ20は、このような性能を良好に発揮できるように設計されている。
例えば、ダイシングテープ20は、活性エネルギー線(例えば紫外線)が照射されることによって、粘着剤層22が硬化して、粘着剤層22の粘着力が低下するように構成されている。照射後に粘着剤層22が硬化することによって、粘着剤層22の粘着力を下げることができるため、照射後に粘着剤層22から半導体チップX及びダイボンドシートの小片30’を比較的容易に剥離させることができる。このような構成のダイシングテープ20は、市販されている。
【0120】
ピックアップ工程では、
図6に示すように、半導体チップXに貼り付いたダイボンドシートの小片30’を、ダイシングテープ20の粘着剤層22から剥離する。詳しくは、ピン部材Pを上昇させて、ピックアップ対象の半導体チップXを、ダイシングテープ20を介して突き上げる。突き上げられた半導体チップX及びダイボンドシートの小片30’を吸着治具Jによって保持する。このようにして、ダイボンドシートの小片30’が貼り付いた状態で半導体チップ(ダイ)を取り出す。
【0121】
ダイボンド工程では、ダイボンドシートの小片30’が貼り付いた状態の半導体チップXを被着体Zに接合させる。換言すると、ダイボンドシートの小片30’を介して、半導体チップXを基板又は半導体チップXなどの被着体に接合させる。なお、ダイボンド工程では、
図7に示すように、ダイボンドシートの小片30’が貼り付いた状態の半導体チップXの複数を積み重ねていくことがある。
なお、被着体Zとしては、例えば、インターポーザ、配線回路基板、又は、基板の小片(基板の小片を積み重ねて積層させる場合)などが挙げられる。
【0122】
本実施形態の半導体装置の製造方法は、さらに、被着体に接着したダイボンドシート30を硬化させるキュアリング工程と、半導体チップ(ダイ)における電子回路の電極と被着体とをワイヤによって電気的に接続するワイヤボンディング工程と、被着体上の半導体チップ(ダイ)及びワイヤを熱硬化性樹脂によって封止する封止工程と、を有し得る。
【0123】
ダイボンド工程の後のキュアリング工程では、ダイボンドシート30の硬化を進行させるために、例えば100℃以上180℃以下の温度で加熱処理を行ってもよい。
【0124】
キュアリング工程の後のワイヤボンディング工程では、半導体チップX(ダイ)と被着体Zとを加熱しつつワイヤLで接続してもよい。
【0125】
上記ワイヤボンディング工程の後の封止工程では、
図8に示すように、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂Mによって半導体チップX(ダイ)とダイボンドシートの小片30’とを封止する(覆う)。このとき、熱硬化性樹脂Mの硬化反応を進行させるために、例えば100℃以上180℃以下の温度で加熱処理を行ってもよい。
【0126】
次に、第2例の半導体装置の製造方法について説明する。第2例の製造方法は、第1例の製造方法と類似するが、粘着テープ13を有する保護シート1(
図2A参照)を使用する点で、第1例の製造方法と異なる。具体的には、保護工程とマウント工程との間に、粘着テープ13を有する保護シート1を用いてバックグラインド工程を実施する点などで、第1例の製造方法と異なる。
【0127】
「第2例の半導体装置の製造方法」
第2例の半導体装置の製造方法は、例えば、バックグラインドテープなどの粘着テープ13を有する保護シート1を半導体ウエハWの保護対象面に重ねる保護工程と、保護シート1を貼り付けた半導体ウエハWを研削して厚さを薄くするバックグラインド工程と、厚さが薄くなった半導体ウエハWの片面(例えば、回路面とは反対側の面)をダイボンドシート30に貼り付けて、ダイシングテープ20に半導体ウエハを固定するマウント工程と、上記と同様のダイシング工程と、必要に応じて実施する上記と同様のエキスパンド工程と、上記と同様の除去工程と、上記と同様のピックアップ工程と、上記と同様のダイボンド工程と、を少なくとも備える。
【0128】
バックグラインド工程では、
図9A及び
図9Bに示すように、粘着テープ13(例えばバックグラインドテープ)を貼り付けた状態の半導体ウエハWに対して研削加工を施し、後のダイシング工程によって作製されるチップ(ダイ)の厚さになるまで(
図9C参照)半導体ウエハWの厚さを薄くする。
【0129】
バックグラインド工程で使用する保護シート1は、粘着層13bを有するため、粘着層13bが第2保護層12と強く粘着することができる。そのため、
図9Bに示すように、バックグラインド加工時に半導体ウエハWを通じて比較的強い力が与えられたとしても、保護シート1の粘着層13bと、隣接する層との間の剥離が抑制される。従って、バックグラインド加工を安定的に実施できる。
【0130】
マウント工程では、上述した第1例の製造方法と同様にして、半導体ウエハWをダイシングテープ20に固定する(
図10A参照)。次に、半導体ウエハWから粘着テープ13(例えばバックグラインドテープ)を剥離する(
図10B参照)。
半導体ウエハWから粘着テープ13(例えばバックグラインドテープ)を剥離するときに、上述したように粘着層13bを硬化させることによって、上記剥離を容易に行うことができる。
【0131】
その後の各工程は、上述した第1例の製造方法と同様にして実施できる。
【0132】
本実施形態の保護シート及び電子部品装置の製造方法は上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示の保護シート及び電子部品装置の製造方法に限定されない。
即ち、一般的な保護シート及び電子部品装置の製造方法において用いられる種々の形態が、本発明の効果を損ねない範囲において、採用され得る。
【0133】
本明細書によって開示される事項は、以下のものを含む。
(1)
電子部品の保護対象面を保護する保護シートであって、
前記保護対象面に貼り合わされる第1保護層と、該第1保護層の片面に重なる第2保護層とを備え、
前記第1保護層は、水溶性高分子化合物を含み、
前記第2保護層は、親水性ポリエステル化合物を含む、保護シート。
(2)
前記第1保護層は、前記水溶性高分子化合物として、ポリビニルアルコール及びポリエチレンオキシドのうちの少なくとも一方を含む、上記(1)に記載の保護シート。
(3)
前記第1保護層の表面における水の接触角が25°以上45°以下であり、前記第2保護層の表面における水の接触角が60°以上80°以下である、上記(1)又は(2)に記載の保護シート。
(4)
基材層と、該基材層の片面に重なる粘着層とを有する粘着テープをさらに備え、
前記粘着テープは、前記粘着層が前記第2保護層と重なり合うように配置されている、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の保護シート。
(5)
シリコンウエハに対する前記第1保護層のせん断接着力は、25mm2の接着面積で25℃において0.20MPa以上である、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の保護シート。
(6)
電子部品の保護対象面に保護シートを貼り合わせる工程と、
30℃以下の冷却水を前記保護シートに接触させつつ前記電子部品及び前記保護シートを共に複数の小片へと切断する工程と、
前記電子部品の小片の保護対象面から前記保護シートの小片を除去する工程と、を備え、
前記保護シートは、前記保護対象面に貼り合わされる第1保護層と、該第1保護層の片面に重なる第2保護層とを有し、
前記第1保護層は、水溶性高分子化合物を含み、前記第2保護層は、親水性ポリエステル化合物を含み、
前記除去する工程は、40℃以上の水含有液体で前記保護シートの小片の少なくとも一部を溶解させることによって、前記保護シートの小片を除去することを含む、電子部品装置の製造方法。
【実施例0134】
次に、実験例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0135】
以下の各原料を用いて、表1にそれぞれ示す保護シートを製造した。
【0136】
<第1保護層の原料>
(水溶性高分子化合物)
[A-1]
ポリビニルアルコール(PVA)
製品名「JMR-3M」日本酢ビ・ポバール社製
(けん化度:60、重合度:100)
[A-2]
ポリビニルアルコール(PVA)
製品名「JMR-3H」日本酢ビ・ポバール社製
(けん化度:80、重合度:100)
[A-3]
ポリビニルアルコール(PVA)
製品名「JMR-10L」日本酢ビ・ポバール社製
(けん化度:35、重合度:250)
【0137】
<第2保護層の原料>
(親水性ポリエステル化合物)
[B-1]
-SO3Naを分子中に有する親水性ポリエステル化合物
製品名「プラスコート Z-221」互応化学工業社製
(ガラス転移点Tg:47℃、軟化点:135~140℃、酸価:5mgKOH/g未満)
[B-2]
-SO3Naを分子中に有する親水性ポリエステル化合物
製品名「プラスコート Z-446」互応化学工業社製
(分子中の-SO3Naが上記B-1よりも少ない)
(ガラス転移点Tg:47℃、軟化点:115~125℃、酸価:5mgKOH/g未満)
【0138】
<第1はく離ライナー及び第2はく離ライナー>
(第1はく離ライナー)
表面が離型処理されたPETフィルム
三菱ケミカル社製 製品名「ダイアホイル MRA50」厚さ50μm
(第2はく離ライナー)
表面が離型処理されたPETフィルム
三菱ケミカル社製 製品名「ダイアホイル MRA50」厚さ25μm)
【0139】
各実施例及び各比較例における保護シートの構成を表1にそれぞれ示す。
【0140】
(実施例1~3)
各水溶性高分子化合物を水に分散させ、さらに90℃に加熱し、撹拌することによって各水溶性高分子化合物の水溶液を調製した。次に、アプリケータを用いて、各第1はく離ライナーの片面(離型処理面)に、上記の水溶液を塗工した。110℃で2分間乾燥することにより、第1はく離ライナー上に第1保護層を形成した。このようにして、表1に示す構成の第1保護層(10μm厚さ)を製造した。
一方、各親水性ポリエステル化合物を水に分散させ、さらに90℃に加熱し、撹拌することによって各親水性ポリエステル化合物の溶解液を調製した。次に、アプリケータを用いて、各第2はく離ライナーの片面(離型処理面)に、上記の溶解液を塗工した。110℃で2分間乾燥することにより、第2はく離ライナー上に第2保護層を形成した。このようにして、表1に示す構成の第2保護層を製造した。
次に、第1保護層及び第1はく離ライナーの積層物と、第2保護層及び第2はく離ライナーの積層物とを重ね合わせた。なお、70℃の温度条件、10mm/秒の速度条件で重ね合わせた。重ね合わせるときに、第1保護層及び第2保護層が互いに直接接触するように配置し、これらの保護層を第1はく離ライナー及び第2はく離ライナーの間で挟み込んだ。
(比較例1~3)
第2保護層を実施例1の第1保護層と同様にして形成し、表1に示す構成の各保護シートを製造した。
【0141】
【0142】
[第1保護層及び第2保護層の物性(水の接触角)測定]
上述した測定方法によって水の接触角を測定した。測定結果は、以下の通りであった。
・上記[A-1]のみで形成された第1保護層表面における水の接触角(25℃)
40.8°
・上記[A-3]のみで形成された第1保護層表面における水の接触角(25℃)
79.5°
・上記[B-1]のみで形成された第2保護層表面における水の接触角(25℃)
68.4°
・上記[B-2]のみで形成された第2保護層表面における水の接触角(25℃)
74.7°
・上記[A-2]のみで形成された第2保護層表面における水の接触角(25℃)
40.6°
【0143】
[第1保護層及び第2保護層の物性(せん断接着力)測定]
上述した測定方法に従って、第1保護層及び第2保護層の各せん断接着力を測定した。測定結果は、以下の通りであった。
・上記[A-1]のみで形成された第1保護層のせん断接着力(25℃)
0.46MPa
・上記[A-3]のみで形成された第1保護層のせん断接着力(25℃)
1.21MPa
・上記[B-1]のみで形成された第2保護層のせん断接着力(25℃)
0.06MPa
・上記[B-2]のみで形成された第2保護層のせん断接着力(25℃)
0.05MPa
・上記[A-2]のみで形成された第2保護層のせん断接着力(25℃)
0.08MPa
【0144】
<ダイシング性>
シリコンベアウエハの表面に上記の各保護シートを貼り付けたうえで、下記の条件でブレードダイシング加工を実施した。なお、保護シートの第1保護層をベアウエハに貼り付け、第2保護層の片面が露出した状態でブレードダイシング加工を実施した。
ウエハ厚さ:200μm
シングルカット
ブレード:ZH05 SD-3000-N1-70 CC
ダイシング速度:50mm/sec
回転数:45000rpm
水量:0.5L/min
冷却水の温度:23℃
ブレードダイシング加工後に分割された保護シートの各小片において、エッジ(端縁)からはく離している長さ(めくれている部分のエッジからの長さ)を観察した。つまり、ウエハの露出程度を観察した。そして、以下の判断基準によって評価した。
500μm以下:良好(○)
500μm以上1mm以下:やや良好(△)
1mm以上:不良(×)
<温水除去性能>
上記のブレードダイシング加工後に、50℃の温水(流水)を用いて60秒間の流水洗浄処理を実施することによって、保護シートの複数の小片を除去する操作を行った。
その後、チップ上の糊残りを確認した。
糊が残った場合:不良(×)
保護シートの小片がわずかに残った場合:やや良好(△)
保護シートの小片が残らなかった場合:良好(〇)
結果を表1に示す。
【0145】
上記の結果から把握されるように、実施例の保護シートは、23℃の冷却水と接触しつつ切断されても除去されなかった一方で、50℃の温水では容易に除去された。これに対して、比較例1では、冷却水と接触しつつ切断された保護シートは、保護対象面との密着力が弱いため保護対象面から剥離した。比較例2では、冷却水と接触しつつ切断された保護シートは、冷却水への溶解に伴って保護対象面から剥離した。比較例3では、50℃の温水に接触しても保護シートが十分に除去されなかった。
【0146】
実施例の保護シートは、水溶性高分子化合物を含む第1保護層と、親水性ポリエステル化合物を含む第2保護層とを備える。
このような実施例の保護シートを、電子部品装置の製造において使用することによって、電子部品装置を効率良く製造することができる。
例えば、実施例のごとき保護シートは、半導体ウエハにおける電子回路が形成された回路面を保護するために使用され、ダイシング加工されるときに冷却水と接触しつつ切断されても保護対象面の保護を十分に維持でき、しかも、保護した後に、比較的高温の水含有液体によって除去される。よって、実施例のごとき保護シートを使用することにより、電子部品装置を効率良く製造することができる。