(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135151
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20240927BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20240927BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240927BHJP
B60W 20/20 20160101ALI20240927BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20240927BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/46 ZHV
B60W10/06 900
B60W20/20
B60L50/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045697
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹下 弘志
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB05
3D202BB12
3D202CC42
3D202DD18
3D202DD24
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BD17
5H125EE09
5H125EE31
(57)【要約】
【課題】エンジンの始動判定を適切に行うことが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンと、発電モータと、を備えるハイブリッド車両において、発電モータを力行させてエンジンを回転させた後、発電モータのトルクを下げてエンジンを始動させる制御装置であって、発電モータのトルクを下げた後、エンジンの回転加速度の変化が第1の閾値以上の場合、エンジンの始動が不能と判定する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンの出力が伝達される発電モータと、を備えるハイブリッド車両において、前記発電モータを力行させて前記エンジンを回転させた後、前記発電モータのトルクを下げて前記エンジンを始動させる制御装置であって、
前記発電モータのトルクを下げた後、前記エンジンの回転加速度の変化が第1の閾値以上の場合、前記エンジンの始動が不能と判定する、
ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記発電モータのトルクが下がりきるまでの間において、前記エンジンの回転加速度の変化が前記第1の閾値以上となる回数が所定回数以上の場合、前記エンジンの始動が不能と判定する、
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記発電モータのトルクを下げた後、前記発電モータのトルクが第2の閾値以上である状態が一定期間継続した場合、前記エンジンの始動が不能と判定する、
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の動力源としてエンジンと発電モータとを備えるハイブリッド車両の始動制御において、発電モータがスタータとして起動され、発電モータの起動開始から所定時間が経過した後に発電モータのトルクを低下させた後、発電モータのトルクが閾値以上である状態が一定期間にわたって継続した場合に、エンジンの始動が不能と判定する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術では、例えば始動時のエンジンの燃焼状態が微妙であり、発電モータのトルクが閾値近傍であるものの閾値に到達していない場合は、始動不能と判定することはできない。つまり、始動時のエンジンの燃焼状態が微妙な状態の場合に、エンジンの始動判定を適切に行うことが困難であるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、エンジンの始動判定を適切に行うことが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、前記エンジンの出力が伝達される発電モータと、を備えるハイブリッド車両において、前記発電モータを力行させて前記エンジンを回転させた後、前記発電モータのトルクを下げて前記エンジンを始動させる制御装置であって、前記発電モータのトルクを下げた後、前記エンジンの回転加速度の変化が第1の閾値以上の場合、前記エンジンの始動が不能と判定する。
【0007】
この構成によれば、発電モータのトルクに応じた回転加速度の変化からエンジンの燃焼状態を正確に判定することができるので、始動時のエンジンの燃焼状態が微妙であっても、エンジンの始動判定を適切に行うことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エンジンの始動判定を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、ハイブリッド車両の要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、EFI-ECUが有する機能の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、エンジンの始動判定の方法を説明するための図である。
【
図4】
図4は、エンジンの始動判定の方法を説明するための図である。
【
図5】
図5は、始動時におけるEFI-ECUの動作例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、エンジンの始動判定の方法を説明するための図である。
【
図7】
図7は、エンジンの始動判定の方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照しながら、本発明のハイブリッド車両の制御装置の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態によって本発明が限定されるものではない。
【0011】
図1は、本実施形態のハイブリッド車両1の要部構成の一例を示す図である。ハイブリッド車両1は、シリーズ方式のハイブリッドシステム10を搭載している。ハイブリッドシステム10は、エンジン11と、発電モータ(MG1)12と、駆動モータ(MG2)13と、バッテリ14と、PCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)15とを備える。
【0012】
エンジン11は、例えば、ガソリンエンジンである。
【0013】
発電モータ12は、例えば、永久磁石同期モータである。発電モータ12の回転軸は、エンジン11のクランクシャフトと非図示のギヤを介して機械的に連結されている。例えば、エンジン11のクランクシャフトにエンジン11の出力ギヤが相対回転不能に支持され、発電モータ12の回転軸にエンジン11の出力ギヤが相対回転不能に支持されて、エンジン11の出力ギヤとモータギヤとが噛合している。
【0014】
駆動モータ13は、例えば、発電モータ12よりも大型の永久磁石同期モータである。駆動モータ13の回転軸は、ハイブリッド車両1の駆動系16に連結されている。駆動系16には、デファレンシャルギヤが含まれており、駆動モータ13の動力は、デファレンシャルギヤに伝達されて、デファレンシャルギヤから左右の前輪または後輪からなる駆動輪17に分配されて伝達される。これにより、左右の駆動輪17が回転し、ハイブリッド車両1が前進または後進する。
【0015】
バッテリ14は、複数の二次電池を組み合わせた組電池である。二次電池は、例えば、リチウムイオン電池である。バッテリ14は、例えば、約200~350Vの直流電力を出力する。
【0016】
PCU15は、発電モータ12および駆動モータ13の駆動を制御するためのユニットであり、第1インバータ21と、第2インバータ22と、コンバータ23とを備えている。
【0017】
エンジン11の始動時には、バッテリ14から出力される直流電力がコンバータ23により昇圧されて、昇圧された直流電力が第1インバータ21で交流電力に変換され、交流電力が発電モータ12に供給される。これにより、発電モータ12が力行運転されて、エンジン11が発電モータ12によりモータリング(クランキング)される。モータリングによりエンジン11のクランクシャフトの回転数が始動に必要な回転数まで上昇した状態で、エンジン11の点火プラグがスパークされると、エンジン11が始動する。
【0018】
ハイブリッド車両1の走行時には、駆動モータ13が力行運転されて、駆動モータ13が動力を発生する。
【0019】
駆動モータ13に要求される出力がバッテリ14の出力より小さいときには、ハイブリッド車両1がEV走行する。即ち、エンジン11が停止されて、発電モータ12による発電が行われず、バッテリ14から駆動モータ13に電力が供給されて、その電力で駆動モータ13が駆動される。
【0020】
また、バッテリ14の残容量が所定以下に低下すると、駆動モータ13の駆動/停止に関わらず、エンジン11が稼動している状態で、発電モータ12が発電運転される。このとき、発電モータ12からの交流電力が第1インバータ21で直流電力に変換され、第1インバータ21から出力される直流電力がコンバータ23で降圧されて、降圧後の直流電力がバッテリ14に供給されることにより、バッテリ14が充電される。
【0021】
ハイブリッド車両1の減速時には、駆動モータ13が回生運転されて、駆動輪17から駆動モータ13に伝達される動力が交流電力に変換される。このとき、駆動モータ13が走行駆動系の抵抗となり、その抵抗がハイブリッド車両1を制動する制動力(回生制動力)として作用する。このとき、PCU15では、駆動モータ13から第2インバータ22に供給される交流電力が第2インバータ22で直流電力に変換され、第2インバータ22から出力される直流電力がコンバータ23で降圧される。そして、降圧後の直流電力がバッテリ14に供給されることにより、バッテリ14が充電される。
【0022】
ECU31は、ハイブリッド車両1を制御する制御装置である。ECU31には、ハイブリッドシステム10の制御を司るHEV-ECU100、エンジン11の始動に関する制御を司るEFI(Electronic Fuel Injection)-ECU200等の複数のECUが含まれる。各ECUは、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されて構成されている。
【0023】
次に、本実施形態のエンジン11の始動判定に関する部分について説明する。EFI-ECU200は、発電モータ12を力行させてエンジン11を回転させた後、発電モータ12のトルクを下げてエンジン11を始動させ、始動判定(始動の良否の判定)を行う。以下、EFI-ECU200の具体的な構成を説明する。
【0024】
図2は、EFI-ECU200が有する機能の一例を示す図である。
図2に示すように、EFI-ECU200は、発電モータ制御部210、回転加速度取得部220、判定部230を有する。これらの機能は、プロセッサが不揮発性メモリに格納されたプログラムを実行することにより実現される。
【0025】
なお、
図2の例では、本実施形態の要部の説明に必要な機能のみを例示しているが、EFI-ECU200が有する機能はこれらに限られるものではない。また、
図2に例示する機能の一部または全部が専用のハードウェア回路(例えば半導体集積回路)で実現される形態であってもよい。
【0026】
発電モータ制御部210は、始動時の発電モータ12の駆動を制御する。本実施形態では、発電モータ制御部210は、始動時において発電モータ12をスタータとして起動し、第1の所定時間経過すると、エンジン11の燃焼を見越して発電モータ12のトルクを下げる制御を行う。
【0027】
回転加速度取得部220は、発電モータ制御部210により発電モータ12のトルクが下げられた後、発電モータ12のトルクダウンに応じたエンジン11の回転加速度を取得する。エンジン11の回転加速度は、回転加速度取得部220が算出する形態であってもよいし、回転加速度取得部220とは異なる機能が回転加速度を算出し、その算出された回転加速度を回転加速度取得部220が取得する形態であってもよい。
【0028】
判定部230は、発電モータ制御部210により発電モータ12のトルクが下げられた後、回転加速度取得部220により取得される回転加速度の変化が第1の閾値以上の場合、エンジン11の始動が不能と判定する。より具体的には、判定部230は、
図3に示すように、発電モータ12のトルクを下げ始めてからトルクが下がりきるまでの期間Tにおいて、エンジン11の回転加速度の変化が第1の閾値以上となる回数が所定回数以上の場合、エンジン11の始動が不能と判定する。「所定回数」は例えば「3回」等であってもよいが、これに限らず、設計条件等に応じて任意に設定可能である。
【0029】
また、判定部230は、発電モータ12のトルクが下げられた後、発電モータ12のトルクが第2の閾値(始動不能判定閾値)以上である状態が一定期間(第2の所定時間)継続した場合、エンジン11の始動が不能と判定する。
【0030】
図4は、エンジン11の始動判定の前提条件および流れを模式的に示す図である。始動判定の前提条件として、CAN通信が正常と判定されたことを示す信号(CAN信号正常判定)、FC(Fuel Cut)中であることを示すフラグ(FC中フラグ)、エンジン11が回転していることを示す信号(エンジン回転)、イグニッションスイッチがオン状態であることを示す信号(IGSW ON)のそれぞれが、それぞれに対応するECUからEFI-ECU200に入力されることを条件とする。
【0031】
上記前提条件が成立し、エンジン始動モードであることを示す信号がEFI-ECU200に入力され、エンジン下支え中を示すフラグがHEV-ECU100からEFI-ECU200に入力され、かつ、エンジン下支え中のフラグがオン判定されると、EFI-ECU200は上述の始動判定を行う。「エンジン下支え中」のフラグは、HEV-ECU100はファイアリングを要求しているが、発電モータ12のトルクが放電側(トルク≧第2の閾値)の状態である場合にオン判定となる。
【0032】
EFI-ECU200は、エンジン11の始動が不能と判定すると、始動不能によるフェイルセーフ要求判定を行い、この判定結果が肯定の場合は、始動不能によるエンジン11の停止を要求するエンジン停止要求フラグを出力する。
【0033】
図5は、始動時におけるEFI-ECU200の動作例を示すフローチャートである。
図5に示すように、まず発電モータ制御部210は、発電モータ12をスタータとして起動する(ステップS1)。ステップS1の後、第1の所定時間が経過すると(ステップS2:Yes)、発電モータ制御部210は発電モータ12のトルクを下げる(ステップS3)。
【0034】
ステップS3の後、発電モータ12のトルクが減少中の場合(ステップS4:Yes)、判定部230は、回転加速度取得部220による取得される回転加速度の変化が第1の閾値以上であり、かつ、回転加速度の変化が第1の閾値以上となる回数が所定回数以上であるか否かを判定する(ステップS5)。ステップS5の結果が否定の場合(ステップS5:Nо)、ステップS4以降の処理が繰り返され、ステップS4の結果が肯定の場合(ステップS4:Yes)、判定部230は、エンジン11の始動は不能であると判定する(ステップS6)。
【0035】
また、ステップS3の後、判定部230は、上述のステップS4~ステップS6の処理と並行して以下の処理を行う。ステップS7において、判定部230は、発電モータ12のトルクが第2の閾値以上である状態が第2の所定時間(一定期間)継続したか否かを判断する。ステップS7の結果が肯定の場合(ステップS7:Yes)、判定部230は、エンジン11の始動は不能であると判定する(ステップS7)。
【0036】
以上に説明したように、本実施形態EFI-ECU200は、ハイブリッド車両1のエンジン11の始動時において、スタータとして起動した発電モータ11のトルクを下げた後、エンジン11の回転加速度の変化が第1の閾値以上の場合、エンジン11の始動が不能と判定する。エンジン11の回転数の変化よりも、回転加速度の変化の方が早く現れるので、発電モータ12のトルクダウンに応じた回転加速度の変化には、エンジン11の燃焼状態が適切に反映される。つまり、回転加速度の変化が大きい場合は、エンジン11の燃焼状態が不安定であることが分かる。本実施形態では、回転加速度の変化に基づいてエンジン11の始動の良否を判定するので、エンジン11の始動判定を適切に行うことができる。
【0037】
また、上述したように、本実施形態のEFI-ECU200は、発電モータ12のトルクを下げた後、発電モータ12のトルクが第2の閾値(始動不能判定閾値)以上である状態が一定期間(第2の所定時間)継続した場合、エンジン11の始動が不能と判定する。例えば
図6に示すように、発電モータ12のトルクが下がり切った時間T1を判定の始点とし、トルクが第2の閾値以上である状態が時間T2まで継続(時間T1からT2までの間が第2の所定時間に相当)した場合は、エンジン11の始動は不能であると判定することができ、始動判定フラグはアクティブ状態(始動不能を意味する)に遷移する。
【0038】
一方、例えば
図7に示すように、エンジン11の燃焼状態が微妙であり、発電モータ12のトルクは第2の閾値付近の値を示しつつも第2の閾値に到達していない場合は、始動不能と判定することができない。つまり、発電モータ12のトルクに基づく判定方法では、エンジン11の燃焼状態が微妙な場合に、エンジン11の始動判定を適切に行うことができない。
【0039】
このような場合であっても、発電モータ12のトルクダウンに応じた回転加速度の変化には、エンジン11の燃焼状態が適切に反映されるので、上述した回転加速度の変化に基づく判定によれば、始動時のエンジン11の燃焼状態が微妙な状態であっても、エンジン11の始動判定を適切に行うことができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述した実施形態は、例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能である。また、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。また、この実施形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1 ハイブリッド車両
10 ハイブリッドシステム
11 エンジン
12 発電モータ(MG1)
13 駆動モータ(MG2)
14 バッテリ
15 PCU
16 駆動系
17 駆動輪
21 第1インバータ
22 第2インバータ
23 コンバータ
31 ECU
100 HEV-ECU
200 EFI-ECU
201 プロセッサ
202 ROM
203 RAM
204 I/F部
210 発電モータ制御部
220 回転加速度取得部
230 判定部