(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135158
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】デッキスラブ、及びデッキスラブの設計方法
(51)【国際特許分類】
E04B 5/40 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
E04B5/40 D
E04B5/40 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045704
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】郡 泰明
(57)【要約】 (修正有)
【課題】所定の発生荷重または設計用荷重に対して、必要十分な鉄筋量を配置して、ひび割れを制御することができるデッキスラブ、及びデッキスラブを提供する。
【解決手段】デッキスラブ100において、デッキスラブ100のスパン方向D1における断面の鉄筋比を式(1)で与えられる値以上とする。デッキスラブ100の発生荷重または設計用荷重に対し、ひび割れ幅を所望の大きさに抑えるための鉄筋比とするには、発生荷重または設計用荷重xを式(1)に代入することで、少なくとも必要とされる鉄筋比を算出することができる。所定の発生荷重または設計用荷重に対して、必要十分な鉄筋量を配置して、ひび割れを制御することができる。これにより、必要最小限の補強量となるため、鋼材量及び配筋施工手間の低減をはかることができる。また、ひび割れを適切に制御し、床としてのデッキスラブ100の品質を担保できる。
y=(x-3.9)/6.4…(1)
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デッキプレート、及びデッキプレート上に設けられたコンクリートを有するデッキスラブであって、
前記コンクリートの内部には、梁の上側及び梁の上側周辺に鉄筋が配置され、
前記デッキスラブのスパン方向における断面の鉄筋比を以下の式(1)で与えられる値以上とする、デッキスラブ。
y=(x-3.9)/6.4 …(1)
yは鉄筋比(%)であり、xは、発生荷重または設計用荷重(kN/m2)である。
【請求項2】
前記梁上の前記鉄筋のかぶり厚さを40mm以下とする、請求項1に記載のデッキスラブ。
【請求項3】
逆エンクロタイプ、または中間エンクロタイプである、請求項1に記載のデッキスラブ。
【請求項4】
積載荷重を8.9kN/m2以下とした、請求項1に記載のデッキスラブ。
【請求項5】
梁上の前記鉄筋の鉄筋径をD10より大きく、配置間隔を300mm以下とした、請求項1に記載のデッキスラブ。
【請求項6】
デッキプレート、及びデッキプレート上に設けられたコンクリートを有するデッキスラブの設計方法であって、
前記コンクリートの内部には、梁の上側及び梁の上側周辺に鉄筋が配置され、
前記デッキスラブのスパン方向における断面の鉄筋比を以下の式(1)で与えられる値以上とする、デッキスラブの設計方法。
y=(x-3.9)/6.4 …(1)
yは鉄筋比(%)であり、xは、発生荷重または設計用荷重(kN/m2)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デッキスラブ、及びデッキスラブの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のデッキスラブとして、非特許文献1に記載されたものが知られている。このデッキスラブは、デッキプレートと、デッキプレート上に打設されたコンクリートと、を備える。また、コンクリート内には、梁の上側に補強筋が配置される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「デッキプレート床構造設計・施工規準:2018(国立研究開発法人 建築研究所監修)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、デッキスラブとして逆エンクロタイプのもの(
図2参照)や、中間エンクロタイプのもの(
図5(b)参照)が採用される場合がある。これらの逆エンクロ・中間エンクロタイプは、従来のオープンタイプ(
図5(a)参照)に比べ、梁上のコンクリート厚が薄くなる。従って、梁近傍に生じる負曲げ応力を負担できる有効断面が小さくなることから、コンクリート表層の応力が大きくなり、クラック発生のリスクが高くなる。例えば、
図1には、デッキスラブに対して作用する発生モーメントが示されている。デッキスラブを下部から梁で支持される箇所には、発生モーメントの負側へのピークMTが発生するため、当該箇所では正曲げではなく負曲げが生じ、コンクリートに引張力が作用してしまう。これにより、表層にクラックCRが生じてしまう原因となる。
【0005】
逆エンクロ・中間エンクロタイプに限らず、オープンタイプの断面においても同様の課題はあり、梁上に補強用の鉄筋を配置する措置が取られる場合がある。しかし、鉄筋量や定着長さは一律の仕様に則っており、存在応力に応じた定量的な設計は行われていない。
【0006】
またデッキ規準においては、梁上のコンクリート厚が薄くなる逆エンクロ・中間エンクロタイプのデッキを想定した仕様規定とはなっていない。土木学会コンクリート標準示方書[構造性能照査編]では、「一般の環境」における許容ひび割れ幅は異形鉄筋・普通丸鋼使用時は0.005×cmm(c:かぶり厚さ(mm))と明記されており、一般的に使用されるかぶり厚さ30mmにおいては、許容ひび割れ幅は0.15mmとなる。以降の解析結果で示すが、逆エンクロ仕様では鉄筋比0.2%を超える配筋を行っても、ひび割れ幅が0.15mmを超過する結果となっており、適切な配筋量を定める必要があった。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、所定の発生荷重または設計用荷重に対して、必要十分な鉄筋量を配置して、ひび割れを制御することができるデッキスラブ、及びデッキスラブの設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るデッキスラブは、デッキプレート、及びデッキプレート上に設けられたコンクリートを有するデッキスラブであって、コンクリートの内部には、梁の上側及び梁の上側周辺に鉄筋が配置され、デッキスラブのスパン方向における断面の鉄筋比を以下の式(1)で与えられる値以上とする。
y=(x-3.9)/6.4 …(1)
yは鉄筋比(%)であり、xは、発生荷重または設計用荷重(kN/m2)である。
【0009】
本発明に係るデッキスラブにおいて、デッキスラブのスパン方向における断面の鉄筋比を式(1)で与えられる値以上とする。この場合、デッキスラブの発生荷重または設計用荷重に対し、ひび割れ幅を所望の大きさに抑えるための鉄筋比とするには、発生荷重または設計用荷重xを式(1)に代入することで、少なくとも必要とされる鉄筋比を算出することができる。以上より、所定の発生荷重または設計用荷重に対して、必要十分な鉄筋量を配置して、ひび割れを制御することができる。これにより、必要最小限の補強量となるため、鋼材量及び配筋施工手間の低減をはかることができる。また、ひび割れを適切に制御し、床としてのデッキスラブの品質を担保できる。
【0010】
梁上の鉄筋のかぶり厚さを40mm以下としてよい。この場合、鉄筋が適切にひび割れを制御できる。
【0011】
デッキスラブは、逆エンクロタイプ、または中間エンクロタイプであってよい。逆エンクロタイプや中間エンクロタイプのデッキプレートであっても、必要十分な鉄筋量を求めることができる。
【0012】
積載荷重を8.9kN/m2以下としてよい。この場合、荷重が大きくなり過ぎることを抑制することができる。
【0013】
梁上の鉄筋の鉄筋径をD10より大きく、配置間隔を300mm以下としてよい。これにより、鉄筋で適切にひび割れを制御することができる。
【0014】
本発明に係るデッキスラブの設計方法は、デッキプレート、及びデッキプレート上に設けられたコンクリートを有するデッキスラブの設計方法であって、コンクリートの内部には、梁の上側及び梁の上側周辺に鉄筋が配置され、デッキスラブのスパン方向における断面の鉄筋比を以下の式(1)で与えられる値以上としてよい。
y=(x-3.9)/6.4 …(1)
yは鉄筋比(%)であり、xは、発生荷重または設計用荷重(kN/m2)である。
【0015】
本発明に係るデッキスラブの設計方法によれば、上述のデッキスラブと同様な作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所定の設計荷重に対して、必要十分な鉄筋量を配置して、ひび割れを制御することができるデッキスラブ、及びデッキスラブの設計方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係るデッキスラブの概略断面図である。
【
図2】デッキスラブの幅方向から見たときのデッキスラブの拡大断面図である。
【
図3】
図2に示すIIIa-IIIa線、IIIb-IIIb線、及びIIIc-IIIc線に沿ったデッキスラブのスパン方向の断面図である。
【
図5】シミュレーションによる検証を行うためのモデルを示す図である。
【
図6】シミュレーションによる検証結果を示す図である。
【
図7】シミュレーションによる検証結果を示す図である。
【
図8】シミュレーションによる検証を行うためのモデルを示す図である。
【
図9】シミュレーションによる検証を行うためのモデルの仕様を示す表である。
【
図10】シミュレーションによる検証結果を示すグラフである。
【
図11】シミュレーションによる検証結果を示すグラフである。
【
図12】シミュレーションによる検証結果を示す表である。
【
図13】シミュレーションによる検証結果を示すグラフである。
【
図14】シミュレーションによる検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係るデッキスラブ100の概略断面図である。
図1に示すように、デッキスラブ100は、建物における床スラブとして提供される。デッキスラブ100は、四方の縁部を梁2によって支持される。四方の梁2は、柱3によってそれぞれ支持される。また、互いに対向する一対の辺に対応する梁2と梁2との間の中途位置には、梁2(ここでは二本)が設けられる場合がある。
【0020】
デッキスラブ100のスパン方向D1、及び幅方向D2について説明する。デッキスラブ100のデッキプレート6の山部6aと谷部6bが延びる方向をデッキスラブ100のスパン方向D1とし、山部6aと谷部6bが並ぶ方向をデッキスラブ100の幅方向D2とする。以降の説明において、単に「スパン方向」「幅方向」と称した場合、デッキスラブ100のスパン方向D1及び幅方向D2を意味するものとする。
図2は、幅方向D2から見たときのデッキスラブ100の拡大断面図である。
図3(a)(b)(c)は、
図2に示すIIIa-IIIa線、IIIb-IIIb線、及びIIIc-IIIc線に沿った断面図である。
図2に示すように、デッキスラブ100は、デッキプレート6と、デッキプレート6に設けられたコンクリート7と、を有する。
【0021】
図3(a)(b)に示すように、デッキプレート6は、幅方向D2に山部6aと谷部6bとを交互に有している。山部6aは、谷部6bの底面から上方へ向かって突出するように設けられる。複数の山部6aは、互いに幅方向D2に離間した状態で、スパン方向D1に互いに平行をなすように延びている。山部6aは、谷部6bの両側壁を構成する。
【0022】
コンクリート7は、デッキプレート6上に打設される。コンクリート7は、デッキプレート6の谷部6bの内部に充填された状態で、山部6aの上面よりも高い位置まで充填される。これにより、コンクリート7は、デッキプレート6の上方にて、スパン方向D1及び幅方向D2に広がる上面を有する。当該上面がデッキスラブ100の上面100aとなる。デッキプレート6の山部6a上におけるコンクリート7の厚さtは、50mm~100mmである。
【0023】
図2及び
図3に示すように、コンクリート7の内部には、ひび割れ拡大防止筋8が配置されている。ひび割れ拡大防止筋8は、スパン方向D1、及び幅方向D2に平行に広がる網部材である。ひび割れ拡大防止筋8は、山部6aと上面100aとの間に配置される。
【0024】
また、
図2に示すように、コンクリート7の内部には、梁2の上側に鉄筋9が配置される。鉄筋9は、スパン方向D1に延びる鉄筋である。鉄筋9は、スパン方向D1において梁2の両側からはみ出るように延びている。鉄筋9の長さのうち、梁2からはみ出る部分の長さは、定着長さと称される。鉄筋9は、山部6aと上面100aとの間に配置される。なお、鉄筋9は、幅方向D2に所定のピッチで設けられる(
図4参照)。
【0025】
補強用の鉄筋は、規格化された長さに比して短くてよい。規格は、例えば、「建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリート工事 2018」などに従う規格である。例えば、直線定着の長さ40d(d:鉄筋径(mm))に準拠してよい。
【0026】
コンクリート7のうち、梁2で支持される領域には、他の領域E1の一般部11に比してコンクリート厚さが薄くされた減厚部12が形成される。本実施形態では、コンクリート7のうち、梁2で支持される領域及び梁2で支持される領域の周辺を含む領域E2には、減厚部12が形成される。デッキプレート6は、スパン方向D1に設けられた斜辺部13と、平板部14と、を備える。斜辺部13は、梁2に対して、スパン方向D1における両側に設けられる。斜辺部13は、一般部11(領域E1)の梁2側の端部から、スパン方向D1の梁2側へ向かうに従って、上側に向かうように傾斜する。平板部14は、一対の斜辺部13の上端部の間に形成される。平板部14は、梁2の上側フランジの上面に配置される。
【0027】
図3(a)に示すように、一般部11におけるコンクリート7の厚さを「t1」とする。
図3(b)に示すように、斜辺部13の谷部6bは、一般部11の谷部6bよりも高い位置に配置される。これにより、斜辺部13のコンクリート7の厚さは、一般部11のコンクリート7の厚さt1より薄い。
図3(c)に示すように、平板部14は、一般部11の谷部6bよりも高い位置に配置される。本実施形態では、平板部14は、一般部11の山部6aと同じ高さ位置に配置される。これにより、平板部14のコンクリート7の厚さt2は、一般部11のコンクリート7の厚さt1より薄い(
図2も参照)。なお、本実施形態のようなタイプのデッキスラブ100を逆エンクロタイプと称する。
【0028】
ここで、デッキスラブ100のスパン方向D1における断面(
図2の断面)の鉄筋比を以下の式(1)で与えられる値以上としてよい。yは鉄筋比(%)であり、xは、発生荷重または設計用荷重(kN/m
2)である。なお、鉄筋比は、コンクリート断面積と鉄筋断面積との比率によって定義される。なお、鉄筋比yの上限値は特に限定されないが、0.353%より大きく、0.881%より大きくてよい。
y=(x-3.9)/6.4 …(1)
【0029】
例えば、梁上のコンクリート厚さ80mmのデッキスラブに、φ6―100x100のひび割れ拡大防止筋(鉄筋断面積282.7mm2/m)とD13の梁上の補強の鉄筋を300mm(鉄筋断面積422.3mm2/m)の間隔で配置した場合、y=(282.7+422.3)/(80×1000)≒0.0081(=0.881%)と鉄筋比を算出することができる。
【0030】
梁上の鉄筋9のかぶり厚H1は、床の標準かぶり厚さ30mmに施工誤差10mmを考慮した40mm以下としてよい。かぶり厚H1は、鉄筋9の上端と、コンクリート7の上面との間の上下方向の寸法によって定められる。また、厚H1は、「鉄筋コンクリート造配筋指針・同解説(日本建築学会)」の鉄筋のあき最小値25mm以上としてもよく、「建築工事標準仕様書 JASS5 鉄筋コンクリート工事」の最小かぶり厚20mm以上としてもよい。積載荷重は、8.9kN/m2以下としてもよく、6.0kN/m2以下としてもよい。3.0kN/m2以上としてもよい。
【0031】
梁2上の鉄筋9の鉄筋径は、D10より大きくてよく、D13以上であってよい。鉄筋9の鉄筋配置間隔P1(
図4参照)は、300mm以下としてよく、200mm以下としてよい。
【0032】
なお、デッキスラブ100として、
図5(b)に示す形態が採用されてもよい。
図5(b)に示すデッキスラブ100は、
図2のデッキスラブ100に対し、上側に斜辺部26を追加したものである。斜辺部26は、一般部11の梁2側の端部から、スパン方向D1の梁2側へ向かうに従って、下側に向かうように傾斜する。このようなタイプのデッキスラブ100を中間エンクロタイプと称する。
【0033】
次に、上述の式(1)を導き出すための検証内容について説明する。本検証では、
図2に示す逆エンクロタイプのデッキプレートの他、
図5(a)に示すオープンタイプのデッキスラブ100を用いる。
図5(a)のオープンタイプは、斜辺部を有さないデッキプレート6の端部が梁上に配置された構成を有する。オープンタイプは、梁上のコンクリート7も他の領域と同じ厚みを有する。
【0034】
図6に示すように、無筋のデッキスラブ及び骨組み(柱、大梁、小梁)をモデル化し、設計荷重レベル(6000N/m
2)の等分布荷重を与えた場合のFEM解析結果(スパン方向D1、表層応力コンタ図)を示す。
図6(a)はオープンタイプの結果を示し、
図7(b)は逆エンクロタイプの結果を示す。ここのモデルには、ひび割れ拡大防止筋8及び梁上の鉄筋9が含まれていない。逆エンクロタイプでは、オープンタイプに比して梁上の応力が大きくなっていることがわかる(図中のA1参照)。
【0035】
次に、オープンタイプのモデルと、逆エンクロタイプのモデルにおいて、各節点の応力値をプロットしたグラフを
図7に示す。オープンタイプの結果をグラフGA1に示し、逆エンクロタイプの結果をGA2に示す。なお、図中、ハッチングが付された四角形は小梁を示す。図中、ドットが付された四角形は大梁を示す。
図7に示す通り、スパン方向D1の応力は大きく差が出ており(オープンタイプが4.79N/mm
2であるのに対し、逆エンクロタイプが8.08N/mm2である)、大梁上の負曲げに抵抗する断面が小さくなっている影響を確認できた。なお、上記の発生応力度が、コンクリート7の許容引張応力度を超えると、クラックが発生する。
【0036】
次に、モデルに対しひび割れ拡大防止筋8及び梁上の鉄筋9を追加し、クラック発生及び進展状況を定量的に比較するため、荷重増分による弾塑性解析を実施した。共通するモデル概要を
図8に示す。
図8(a)(b)は、柱、大梁、小梁、デッキスラブを有するモデルの全体図である。
図8(c)は、骨組みモデルの拡大図である。柱は梁要素を有し、大梁はシェル要素を有し、小梁はシェル要素を有し、スタッドは梁要素を有する。
図8(d)は、ひび割れ拡大防止筋・梁上・柱廻り補強用の鉄筋モデルを示す。鉄筋はトラス要素を有し、コンクリートと完全付着の境界条件としている。
【0037】
デッキスラブ100の解析モデルとして、モデルNo.1~4の四つのモデルを準備した。モデルNo.1として、オープンタイプであって、鉄筋9を有さないものを準備した。モデルNo.2として、逆エンクロタイプのものであって、鉄筋9を有さないものを準備した。モデルNo.3として、逆エンクロタイプのものであって、鉄筋9を設けたものを準備した。モデルNo.3では、鉄筋9のピッチを300mmとした。モデルNo.4として、逆エンクロタイプのものであって、鉄筋9を設けたものを準備した。モデルNo.4では、鉄筋9のピッチを200mmとした。
【0038】
図9に各モデルの条件を示す。モデルNo.1~4において、デッキプレート6の上面に対するコンクリート7の山上厚さの寸法L1は80mmであり、デッキプレート6の厚さの寸法L2は75mmであり、ひび割れ拡大防止筋8のかぶり厚H2は、30mmであった(
図2参照)。モデルNo.1~4において、ひび割れ拡大防止筋8として「φ6mm-100mm×100mm」のものを採用した。大梁として「H-700mm×300mm×13mm×24mm」のものを採用した。モデルNo.3において、鉄筋9として「D13@300mm」ものを用い、かぶり厚H1(
図2参照)を30mmとした。モデルNo.4において、鉄筋9として「D13@200mm」ものを用い、かぶり厚H1(
図2参照)を30mmとした。なお、スパン方向D1に鉄筋9が梁2からはみ出る長さP1(
図2参照)を520mm(=40d=40×13(d:鉄筋径(mm))とした。
【0039】
図10に荷重とひび割れ幅との関係を示すグラフを示す。なおコンクリートひび割れ幅は、コンクリートひび割れひずみ(%)と要素サイズ(mm)を乗じて算出している。また、
図11は単位荷重増分当たりのひび割れひずみ上昇量を整理し、変曲点を確認したところ、変曲する荷重値は補強用の鉄筋なし/ありで大差はないが、上昇量は2倍程度差があり、補強用の鉄筋ありの場合には、オープン断面と同程度に抑えられることが確認できた。
【0040】
ここまでの結果を整理したものを
図12に示す。補強用の鉄筋なし(No.2)と補強用の鉄筋あり(No.3,4)の比較では、ひび割れ発生荷重の差はなし、ひび割れ進展荷重は少し差がある程度であったが、単位増分荷重当たりのひび割れひずみとひび割れ幅には大きな差が見られた。以上より、本解析で確認できた仕様(鉄筋比0.881%以上)の鉄筋9の導入により、ある荷重を超えたときの急激な梁近傍の回転剛性の低下や、最終的に生じるひび割れ幅の増大を抑制(8.9kN/m
2でも0.15mm以下)する効果を確認できた。
【0041】
なお、建物の用途や当該デッキスラブの使用環境に応じて、必要なひび割れ性能(ひび割れ幅をいくつまで許容できるか)は異なるため、要求性能とコストの両面から定量的に判断する必要がある。以降、ひび割れ幅と鉄筋比の評価式を求める。
【0042】
図13は、逆エンクロ仕様(No.2~4)のひび割れ幅が0.05mm、0.1mm、0.15mmに到達した荷重時をプロットし、近似式を算出したものである。なお、B1で囲んだプロットはNo.2の結果によるものであり、B2で囲んだプロットはNo.3の結果によるものであり、B3で囲んだプロットはNo.4の結果によるものである。概ね一次関数で評価できることが確認できた。デッキ規準に定める最低鉄筋比0.2%よりも鉄筋比が大きくなると、各ひび割れ幅において許容できる荷重値が右肩上がりで大きくなることが分かる。
【0043】
実用のイメージを
図14に示す。例えば積載荷重6.0kN/m
2となるデッキスラブにおいて、ひび割れ幅を0.15mm以下に抑えたい場合には、B4で示す範囲(鉄筋比0.32%以上)とすることで所定のひび割れ性能を確保できる。
【0044】
評価式をまとめたものを
図15(a)(b)に示す。ある鉄筋比における許容荷重を確認する式が
図15(a)に示され、ある発生荷重下における必要な鉄筋比を確認する式が
図15(b)に示される。ひび割れ幅を0.15mm以下に抑える場合には、デッキスラブ100のスパン方向D1における断面の鉄筋比を以下の式(1)で与えられる値以上とする。また、ひび割れ幅を0.10mm以下に抑える場合には、デッキスラブ100のスパン方向D1における断面の鉄筋比を以下の式(2)で与えられる値以上とする。ひび割れ幅を0.05mm以下に抑える場合には、デッキスラブ100のスパン方向D1における断面の鉄筋比を以下の式(3)で与えられる値以上とする。なお、yは鉄筋比(%)であり、xは、発生荷重または設計用荷重(kN/m
2)である。
y=(x-3.9)/6.4 …(1)
y=(x-3.4)/4.2 …(2)
y=(x-4.4)/0.7 …(3)
【0045】
次に、本発明の実施形態に係るデッキスラブ100の作用・効果について説明する。
【0046】
本実施形態に係るデッキスラブ100において、デッキスラブ100のスパン方向D1における断面の鉄筋比を式(1)で与えられる値以上とする。この場合、デッキスラブ100の発生荷重または設計用荷重に対し、ひび割れ幅を所望の大きさに抑えるための鉄筋比とするには、発生荷重または設計用荷重xを式(1)に代入することで、少なくとも必要とされる鉄筋比を算出することができる。以上より、所定の発生荷重または設計用荷重に対して、必要十分な鉄筋量を配置して、ひび割れを制御することができる。これにより、必要最小限の補強量となるため、鋼材量及び配筋施工手間の低減をはかることができる。また、ひび割れを適切に制御し、床としてのデッキスラブ100の品質を担保できる。
【0047】
梁上の鉄筋9のかぶり厚さを40mm以下としてよい。この場合、鉄筋9が適切にひび割れを制御できる。
【0048】
デッキスラブ100は、逆エンクロタイプ、または中間エンクロタイプであってよい。逆エンクロタイプや中間エンクロタイプのデッキスラブ100であっても、必要十分な鉄筋量を求めることができる。
【0049】
積載荷重を8.9kN/m2以下としてよい。この場合、荷重が大きくなり過ぎることを抑制することができる。
【0050】
梁上の鉄筋9の鉄筋径をD10より大きく、配置間隔を300mm以下としてよい。これにより、補強用の鉄筋9で適切にひび割れを制御することができる。
【0051】
本実施形態に係るデッキスラブ100の設計方法は、デッキプレート6、及びデッキプレート6上に設けられたコンクリート7を有するデッキスラブ100の設計方法であって、コンクリート7の内部には、梁の上側に鉄筋9が配置され、デッキスラブ100のスパン方向D1における断面の鉄筋比を以下の式(1)で与えられる値以上としてよい。
y=(x-3.9)/6.4 …(1)
yは鉄筋比(%)であり、xは、発生荷重または設計用荷重(kN/m2)である。
【0052】
本実施形態に係るデッキスラブ100の設計方法によれば、上述のデッキスラブ100と同様な作用・効果を得ることができる。
【0053】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0054】
例えば、上述のデッキスラブの構造は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0055】
2…梁、6…デッキプレート、7…コンクリート、9…鉄筋、100…デッキスラブ。