(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135160
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】結晶材料のスライシング方法、ウェーハの製造方法、および結晶材料からなる部材
(51)【国際特許分類】
C30B 33/00 20060101AFI20240927BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20240927BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C30B33/00
C30B29/06 Z
H01L21/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045708
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】比田井 洋史
(72)【発明者】
【氏名】坂本 康輔
(72)【発明者】
【氏名】徳永 大二郎
(72)【発明者】
【氏名】松坂 壮太
(72)【発明者】
【氏名】伊東 翔
(72)【発明者】
【氏名】小山 浩司
(72)【発明者】
【氏名】金 聖祐
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077BA03
4G077FG14
4G077FH08
4G077HA12
(57)【要約】
【課題】結晶材料から大面積の薄板を剥離できるようにする。
【解決手段】結晶材料からなる素材1の内部に、第一の改質部2を含む面状の改質層3を、同一平面上の複数個所に互いに間隔をあけて形成し、次いで、隣り合う改質層3の間に第二の改質部7を形成する。第二の改質部7の形成により、隣り合う改質層3のそれぞれに生じた亀裂を結合させて、素材1から薄板9を剥離する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶材料からなる素材の内部に、第一の改質部を含む面状の改質層を、同一平面上の複数個所に互いに間隔をあけて形成し、前記結晶材料が劈開性を備えており、
次いで、隣り合う前記改質層の間に第二の改質部を形成し、
前記第二の改質部の形成により、前記隣り合う改質層のそれぞれに生じた亀裂を結合させて、前記素材から薄板を剥離する結晶材料のスライシング方法。
【請求項2】
前記第二の改質部を形成する前の前記改質層が、劈開面方向の亀裂が伸展しない大きさを有する請求項1に記載の結晶材料のスライシング方法。
【請求項3】
前記第二の改質部を形成する前の前記隣り合う改質層の間隔を、それぞれの改質層で生じた亀裂同士が結合しない大きさにした請求項1に記載の結晶材料のスライシング方法。
【請求項4】
前記結晶材料をダイヤモンドとし、前記第一の改質部および第二の改質部をグラファイト化した組織とした請求項1に記載の結晶材料のスライシング方法。
【請求項5】
前記結晶材料をダイヤモンドとし、複数個所に形成した前記改質層を、(100)面と平行な同一平面上に配置した請求項1に記載の結晶材料のスライシング方法。
【請求項6】
前記改質層の第一の改質部を、前記改質層の行方向および列方向のそれぞれで整列した位置に形成した請求項1に記載の結晶材料のスライシング方法。
【請求項7】
前記改質層の第一の改質部として、当該改質層の行方向および列方向のそれぞれで整列した位置に形成した主改質部と、行方向で隣接する前記主改質部の間および列方向で隣接する前記主改質部の間に位置する副改質部とを有する請求項1に記載の結晶材料のスライシング方法。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載の方法により前記素材をスライスすることでウェーハを形成するウェーハの製造方法。
【請求項9】
結晶材料からなる素材の内部に、第一の改質部を含む面状の改質層が、同一平面上の複数個所に互いに間隔をあけて形成され、前記結晶材料が劈開性を備えており、
隣り合う前記改質層の間に第二の改質部が形成されていることを特徴とする結晶材料からなる部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶材料のスライシング方法、ウェーハの製造方法、および結晶材料からなる部材に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSIをはじめとする半導体デバイスの基板製造時には、単結晶材料のインゴットからウェーハをスライシングする必要がある。スライシングに際しては、これまでワイヤソーを使用することが一般的である。近年、ウェーハとして、熱伝導性、耐薬品性、機械特性等に優れたSiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)、サファイア、ダイヤモンド等の硬質の単結晶材料の使用が検討されているが、これらの単結晶材料は硬質であるが故に、ワイヤソーによるスライシングは困難である。
【0003】
このような硬質単結晶材料のスライシング方法として、単結晶材料に対して透過性を有する波長のレーザビームを、その集光点をインゴットの内部に位置づけて照射することで切断予定面に改質層及びクラックを形成し、外力を付与して改質層及びクラックが形成された切断予定面に沿って割断して、インゴットからウェーハを分離する手法が下記の特許文献1に提案されている。同様のスライシング方法が下記の非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】大野暁人,外3名,「ダイヤモンドのレーザスライシングに関する研究-材料内部に形成する加工痕の観察-」,2017年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,p.429-430
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
単結晶材料では、剥離し易い面(劈開面)が存在し、結晶の向きによって劈開面の向きも決まる。例えばダイヤモンドでは(111)面が劈開面になるが、(111)面は(100)面に対して約55°傾いている。このようにダイヤモンドでは、結晶面に対する劈開面の方向が大きく異なることから、(100)面で劈開を試みても、劈開方向が(111)面となる方向に曲がってしまうことが多い。
【0007】
ダイヤモンドをウェーハとして使用する場合、一般的に使用される表面は(100)面である。特許文献1に記載の手法を適用して、(100)面に沿ってダイヤモンドの劈開を試みると、一辺が100μm程度までの小面積の改質層であれば(100)面に沿って亀裂を伸展させ、(100)面に沿って剥離させることができる。しかしながら、改質層ではグラファイト化により体積膨張を生じるため、これよりも面積の大きい改質層を形成すると、改質層から離れた領域まで亀裂が伸展することとなる。改質層から一定距離離れて亀裂が伸展すると、亀裂の進行方向が改質層に平行な方向から曲がり、劈開面方向への亀裂伸展が始まるため、改質層に平行な(100)面に沿った劈開が困難となる。
【0008】
非特許文献1に記載の手法では、大きなクラックを防止するため、ドットピッチやラインピッチ等を精緻に制御している。そのため、狭いウィンドウの加工を再現良く行うために、高精度で高価な設備を用いる必要がある。また、ウェーハが変われば、レーザ光の照射条件を再検討する必要があり、煩雑な手間を要する。そのため、ウィンドウが広く、材料や装置の選択肢が広がるようなスライシング方法の提供が望まれる。
【0009】
ウェーハを半導体デバイスの基板材料として用いる場合、インチサイズのウェーハが必要となるが、特許文献1や非特許文献1の手法では、上記の理由から、必要なサイズのダイヤモンドウェーハを得ることは難しい。
【0010】
そこで、本発明は、結晶材料から大面積の薄板を剥離することができる結晶材料のスライシング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の目的を達成するため、本発明にかかる結晶材料のスライシング方法は、結晶材料からなる素材の内部に、第一の改質部を含む面状の改質層を、同一平面上の複数個所に互いに間隔をあけて形成し、前記結晶材料が劈開性を備えており、次いで、隣り合う前記改質層の間に第二の改質部を形成し、前記第二の改質部の形成により、前記隣り合う改質層のそれぞれに生じた亀裂を結合させて、前記素材から板(薄板)を剥離することを特徴とする。
【0012】
以上の方法であれば、スライシングに伴う意図しない亀裂の伸展(例えば劈開面方向の亀裂の伸展)を回避することができる。そのため、素材から大面積の薄板を剥離することが可能となる。
【0013】
かかる作用効果を得るため、前記第二の改質部を形成する前の前記改質層は、劈開面方向の亀裂が伸展しない大きさを有するのが好ましい。
【0014】
また、前記第二の改質部を形成する前の前記隣り合う改質層の間隔を、それぞれの改質層で生じた亀裂同士が結合しない大きさにするのが好ましい。
【0015】
以上に述べたスライシング方法では、前記結晶材料をダイヤモンドとし、前記第一の改質部および第二の改質部をグラファイト化した組織とすることができる。グラファイト化に伴う体積膨張により、第一の改質部の周辺に亀裂存在領域が形成される。隣り合う改質層の間に第二の改質部を設けることで、隣り合う改質層の亀裂存在領域の亀裂同士が結合するため、素材から薄板を剥離することができる。
【0016】
前記結晶材料をダイヤモンドとし、複数個所に形成した前記改質層を、(100)面と平行な同一平面上に配置することにより、(100)面方向に沿って薄板を剥離させることが可能となる。
【0017】
前記改質層の第一の改質部は、前記改質層の行方向および列方向のそれぞれで整列した位置に形成することができる。これにより、各第一の改質部の間隔が均等なものとなるので、改質層における各第一の改質部の周辺で生じた亀裂を安定的に結合することができる。
【0018】
前記改質層の第一の改質部として、当該改質層の行方向および列方向のそれぞれで整列した位置に形成した主改質部と、行方向で隣接する前記主改質部の間および列方向で隣接する前記主改質部の間に位置する副改質部とを設けることで、より大きな面積の改質層を形成することができ、素材から大面積の薄板を効率的にスライシングすることが可能となる。
【0019】
以上に述べた方法により前記素材をスライスすることで、大口径のウェーハを形成することが可能となる。
【0020】
また、本発明に係る結晶材料からなる部材は、結晶材料からなる素材の内部に、第一の改質部を含む面状の改質層が、同一平面上の複数個所に互いに間隔をあけて形成され、前記結晶材料が劈開性を備えており、隣り合う前記改質層の間に第二の改質部が形成されていることを特徴とする。
【0021】
かかる結晶材料からなる部材に外力を与える等の後処理を行うことで、全ての改質層を含む平面を界面として素材から薄板を分離することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、結晶材料から大面積の薄板を安定して剥離することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】素材の内部に形成した第一の改質部の概略を表す、(100)面と直交する方向の断面図である。
【
図2】素材の内部に形成した改質層の概略を表す、(100)面と直交する方向の断面図である。
【
図4】複数箇所に形成された改質層を示す、
図2のA-A線方向の断面図である。
【
図5】第二の改質部を設けた素材を示す、
図2のA-A線方向の断面図である。
【
図6】
図4の状態での応力分布を示す、(100)面と直交する方向の断面図である。
【
図7】
図5の状態での応力分布を示す、(100)面と直交する方向の断面図である。
【
図8】素材から薄板を剥離する工程を示す、(100)面と直交する方向の断面図である。
【
図9】第一の改質部の他の配置パターンを示す、
図2のA-A線方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明にかかる結晶材料のスライシング方法の実施形態を
図1~
図9に基づいて説明する。
【0025】
本実施形態において、スライスの対象となる結晶材料は、単結晶もしくは多結晶であって、劈開性を有する材料である。多くの場合、劈開性は単結晶材料が備えているが、多結晶材料でも結晶粒の向きが揃ったいわゆる高配向多結晶材料は劈開性を有するため、本実施形態によるスライシングの対象に含めることができる。また、異種材料基板の上にダイヤモンドを成長させるヘテロエピタキシャル成長により作製した、実質的に単結晶とみなし得る材料も「単結晶材料」に含まれる。以下の説明では、単結晶材料としてダイヤモンドを例に挙げて、そのスライシング方法を説明する。単結晶ダイヤモンドは、高硬度、高熱伝導率、広い光透過波長帯とバンドギャップ、低い誘電率、優れた化学的安定性などの有用な物性を持つことから、次世代の半導体デバイス用基板、あるいは高精度磁気センサの材料として有望視されている。
【0026】
本実施形態に係るスライシング方法は、(1)素材(インゴットあるいはブロック)の内部の複数個所に面状の改質層を形成する改質層形成工程、(2)改質層形成工程で形成した各改質層の亀裂同士を結合させる亀裂結合工程、および(3)亀裂結合工程を経た素材1から薄板を剥離する剥離工程を備える。(1)~(3)の順に各工程を経ることで、ダイヤモンドからなる素材1のスライシングが行われる。以下、各工程の詳細を説明する。
【0027】
[改質層形成工程]
改質層形成工程は、
図1に示すように、単結晶材料で形成した素材1の内部に、ドット状の第一の改質部2を多数含む面状の改質層3を形成する工程である。
【0028】
ダイヤモンドからなる素材1は、高温高圧(HTPT)法あるいは化学蒸着(CVD)法等で製作される。ダイヤモンドとしてIa型、IIa型、IIb型があるが、型の種類は特に問わず、何れの型のダイヤモンドも使用可能である。素材1の表面11は平坦となるように研磨され、かつ(100)面と平行となる方向に延びている。
【0029】
図1に示すように、第一の改質部2は、素材1の表面11に素材1を透過する波長のレーザ光Lを照射すると共に、対物レンズ4を用いて表面11から所定深さの素材1内部にレーザ光Lを集光させることで形成される。第一の改質部2では、ダイヤモンド組織が熱分解によってグラファイト化している。第一の改質部2は、集光部Cから光軸方向に向けて延びるように形成されており、その光軸方向の長さは概ね10μm~50μm程度である。
【0030】
図2に示すように、第一の改質部2は、素材1内部の複数個所に所定ピッチPで形成される。各第一の改質部2は、表面11から同じ深さにレーザ光を集光させることで形成される。そのため、各第一の改質部2は、(100)面と平行な同一平面上に位置する。集光部Cの位置は、得ようとする薄板9(
図8参照)の厚さに応じて定められ、例えば集光部Cの位置を深くすれば、薄板9の厚さを厚くすることができる。集光部Cは、例えば表面11から50μm~700μmの深さに設定することができる。
【0031】
レーザ光は、図示しないレーザ光源から、例えばピコ秒パルスで照射される。パルス幅(パルス持続時間)は数psから数百psの範囲内で選択することができる。
【0032】
第一の改質部2では、グラファイト化により体積膨張が生じるため、体積膨張によるくさび効果で周辺に亀裂が発生する。
図1および
図2は、第一の改質部2の周辺構造を概念的に示す図であり、黒塗の部分がグラファイト化した第一の改質部2を表し、第一の改質部2の周囲のグレー色部分が第一の改質部2の体積膨張によって生じた亀裂の存在領域5(以下、「亀裂存在領域」という)を表す。
図1に示すように、隣り合う第一の改質部2のピッチPは、亀裂存在領域5同士が(100)面方向でつながる大きさとされる。例えばピッチPを10μm~30μm程度に設定することにより、隣り合う第一の改質部2の亀裂存在領域5同士をつなげることができる。
【0033】
図2および
図3に示すように、第一の改質部2と、第一の改質部2の周囲の亀裂存在領域5とで、(100)面方向に延びる面状の改質層3が形成される。ここでの「面状」は、肉眼レベルで見た時に改質層3が面状に形成されているように見えることを意味する。改質層3は、例えば、
図3に示すように、パルスレーザを素材1の表面11に沿ってX方向に走査し、次いで表面11に沿うY方向(X方向と直交する方向)にずれた位置で再びX方向にパルスレーザを走査する、という手順を繰り返すことで形成される。これにより、行方向(X方向)および列方向(Y方向)のそれぞれ複数箇所に整列した状態で第一の改質部2が形成される。
【0034】
図3に示すように、X方向およびY方向で隣接する第一の改質部2は、それぞれの亀裂存在領域5同士がつながった状態にある。何れかの第一の改質部2の亀裂存在領域5が、その周囲のすべての亀裂存在領域5とつながる必要は必ずしもなく、周囲にある亀裂存在領域5のうちの少なくとも一つとつながった状態にあれば足りる。また、改質層3の中に、周囲の何れの亀裂存在領域5ともつながっていない独立した亀裂存在領域5が少数形成されていても特に問題はない。
【0035】
既に述べたように改質層3の面積が大きすぎると、体積膨張による応力の蓄積により、素材1に外力を加えない状態でも亀裂が自然に伸展するようになる。そのため、改質層3から離れた部分にまで亀裂が生じ、
図2に破線で示すように、劈開面方向((111)面の方向)の亀裂α(以下、「面外亀裂」という)が発生する。このように劈開面方向の亀裂αが発生すると、(100)面に沿って薄板を剥離することが困難となる。
【0036】
従って、改質層3の面積は、劈開面方向の亀裂αが伸展しない範囲内で極力大きくするのが好ましい。例えば、表面11側から見て一辺Sが50μm~100μm程度の正方形状の輪郭を有する改質層3であれば、このような劈開面方向の亀裂αの発生を回避することができる。改質層3の形状は、正方形の他、矩形や円形等の他の形状であってもよい。
【0037】
以上に述べた改質層3は、
図4に示すように、素材1の内部の複数個所に間隔Qをあけて形成される。間隔Qを有する領域は、グラファイト化されていない非改質領域6となる。各改質層3は表面11から同じ深さ、つまり(100)面と平行な同一平面上に配置される。この際、隣り合う改質層3の間隔Qは、改質層3に含まれる第一の改質部2のピッチPよりも大きくする(Q>P)。
図6に矢印で示すように、各改質層3の縁部には、亀裂を伸展させようとする方向の応力が作用しているが、当該応力が、隣り合う改質層3の間で亀裂が伸展して両改質層3の亀裂同士が結合する時の応力よりも僅かに小さくなるように隣り合う改質層3の間隔Qが設定される。
【0038】
改質層3の間隔Qが小さすぎると、外力を加えない状態で、隣り合う改質層3の亀裂同士がつながってしまい、間隔Qが大きすぎると、後述する第二の改質部7の形成後も隣り合う改質層3の間で亀裂同士が結合されず、大面積の薄板の剥離が困難となる。以上の観点から、隣り合う改質層3の間隔Qは30μmよりも大きく、1mm以下とするのが好ましい。量産性、安定性の観点から、間隔Qは50μmよりも大きく、100μm以下であるとなお好ましい。
【0039】
なお、素材1の内部に形成する改質層3の数は任意である。従って、
図4に示すように一つの素材1に四つの改質層3を形成する他、五つ以上の改質層3を形成してもよいし、三つ以下の改質層3を形成してもよい。
【0040】
[亀裂結合工程]
亀裂結合工程では、
図5に示すように、隣り合う改質層3の間の非改質領域6、例えば隣り合う改質層3の間の中間位置に、新たにドット状の第二の改質部7が形成される。第二の改質部7の形態および形成手法は、改質層3に形成された第一の改質部2と同じである。すなわち、第一の改質部2を形成する際の集光位置と同じ深さにレーザ光Lを集光させ、材料を改質(グラファイト化)することにより第二の改質部7が形成される。第二の改質部7の周囲には、その体積膨張により、新たな亀裂存在領域8が形成される。
【0041】
図6に示す応力の蓄積状態において、隣り合う改質層3の間の非改質領域6に第二の改質部7を設けると、
図5および
図7に示すように、第二の改質部7の形成に伴って生じた新たな亀裂がきっかけとなり、隣り合う改質層3の亀裂同士が新たな亀裂存在領域8を介して連鎖的につながる。この際、隣接する第二の改質部7を結ぶ線で囲まれた領域全体が新たな亀裂存在領域8となる場合が多い。隣り合う改質層3のうち、一方の改質層3の縁に並んだ第一の改質部2と向き合う他方の改質層3の第一の改質部2の数(
図5では5つ)よりも少ない数(例えば1つ)の第二の改質部7を形成しても、隣り合う改質層3の間で亀裂をつなげることができる。
図5では、隣り合う改質層3に挟まれた全ての非改質領域6に一つずつ第二の改質部7を設けているが、各非改質領域6に設ける第二の改質部7の数は二以上であってもよい。また、素材1の隣り合う改質層3に挟まれた全ての非改質領域6に第二の改質部7を設ける必要はなく、一部の非改質領域6に限って第二の改質部7を形成してもよい。
【0042】
[剥離工程]
以上の手順で複数の改質層3並びに第二の改質部7を形成した素材1(結晶材料からなる部材)に外力を加えることで、各改質層3で生じた亀裂が素材1の縁にまで達し、
図8に示すように、全ての改質層3を含む平面を界面として素材1から薄板9が分離される。外力は、例えば素材1の側面に衝撃を加えることで与えることができる。その後、剥離した薄板9に残る改質層3を研磨等により除去することで、ウェーハを得ることができる。剥離工程は、上記のように素材1に外力を加える他、エッチングによって行うこともできる。
【0043】
特許文献1に記載されるような既存のスライシング方法では、劈開面方向の亀裂α(
図2参照)の伸展が避けられないため、大面積の薄板9を剥離させることは困難であったが、本実施形態のスライシング方法では、劈開面方向の亀裂αの伸展が起きない程度の小面積の改質層3を適切な間隔を空けつつ複数箇所に形成し、その後、隣り合う改質層3の間に新たに第二の改質部7を形成することで連鎖的に亀裂を伸展させ、大面積の薄板9を剥離させている。これにより、大面積の薄板9、例えば1mm角以上の薄板9、さらにはインチサイズの薄板9を素材1からスライシングすることが可能となる。これにより、ダイヤモンドウェーハの大口径化を図ることができる。改質層3の厚さは大きくても50μm程度であるから、スライシングに要する切り取り代が小さくなり、素材11の経済的な利用が可能となる。また、非特許文献1に記載のスライシング方法に比べ、ウィンドウを広げると共に、材料や装置の選択肢も広げることができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、薄板9を(100)面に沿う方向で剥離させることができる。(111)面は後工程である機械的研磨による平滑化が困難であるのに対して、(100)面は研磨により容易に平滑化できる。従って、(100)面に沿う方向で薄板9を剥離させることで、後工程で薄板9を研磨し、容易にウェーハとして使用可能になるというメリットが得られる。(100)面を表面とする基板は、半導体素子や半導体デバイスをはじめ、ダイヤモンド単結晶の用途として最も需要があり、その大面積化を可能とした点において本発明は顕著な意義を有する。
【0045】
図9に、改質層3に形成される第一の改質部2の配置パターンの他例を示す。
図9に示す実施形態では、改質層3の第一の改質部2が、当該改質層3の行方向Xおよび列方向Yのそれぞれで整列する位置に形成された主改質部2aと、行方向で隣接する主改質部2aの間および列方向で隣接する主改質部2aの間に位置する副改質部2bとを有する。このような第一の改質部2a、2bの配置パターンであれば、劈開面方向の亀裂αの伸展を抑制しつつ個々の改質層3の面積をより大きくすることができる。そのため、より大きな面積の薄板9を効率的に得ることが可能となる。
【0046】
なお、以上の実施形態では、レーザビームを素材11の内部に集光させて改質層3を形成する場合を例示したが、面状の改質層3の形成手法は、これに限定されるものではなく、面状の改質層3を形成し得るあらゆる手法を採用することができる。例えば、イオンビームを素材内部に打ち込んでグラファイト化させ、さらにアニーリングやエッチングによってイオン注入層を脆化させることにより、第一の改質部2を多数含む面状の改質層3を形成してもよい。この場合、同一平面上に位置する複数の改質層3の間にレーザ光を照射してドット状の第二の改質部7を形成することで、素材1をスライシングすることが可能となる。
【0047】
また、結晶材料としてダイヤモンドを例示したが、以上に説明したスライシング方法は、ワイヤソーによるスライシングが困難で、かつ劈開性を有する結晶材料、例えばSiC、GaN、サファイア等のスライシングに広く用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 素材
2 第一の改質部
2a 主改質部
2b 副改質部
3 改質層
5 亀裂存在領域
7 第二の改質部
8 新たな亀裂存在領域
9 薄板