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特開2024-135161キサゲ加工用ツールユニット及びキサゲ加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135161
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】キサゲ加工用ツールユニット及びキサゲ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23D 79/06 20060101AFI20240927BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B23D79/06
B23Q11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045709
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三ツ橋 正
(72)【発明者】
【氏名】町田 港
【テーマコード(参考)】
3C011
3C050
【Fターム(参考)】
3C011AA06
3C050FC10
(57)【要約】
【課題】被加工物の加工対象面にキサゲ加工を行う際に、切削工具のびびり振動を従来よりも好適に抑制可能な技術を提供する。
【解決手段】被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行う加工用ロボットに取り付けられるキサゲ加工用ツールユニットであって、少なくとも一部が可撓性を有する柄部と、当該柄部に取り付けられる切削刃と、を有する切削工具と、切削工具を保持するホルダ部と、柄部の上面に沿って配置されると共に少なくとも一部が可撓性を有する板状部材として構成され、切削時における切削工具のびびり振動を抑制する振動抑制部材と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行う加工用ロボットに取り付けられるキサゲ加工用ツールユニットであって、
少なくとも一部が可撓性を有する柄部と、当該柄部に取り付けられる切削刃と、を有する切削工具と、
前記切削工具を保持するホルダ部と、
前記柄部の上面に沿って配置されると共に少なくとも一部が可撓性を有する板状部材として構成され、切削時における前記切削工具のびびり振動を抑制する振動抑制部材と、
を備える、
キサゲ加工用ツールユニット。
【請求項2】
前記振動抑制部材は、前記切削工具の無負荷時においては前記柄部と非接触状態となるように配置され、前記加工対象面の切削時に前記柄部が撓むことに伴って前記振動抑制部材が前記柄部に接触する、
請求項1に記載のキサゲ加工用ツールユニット。
【請求項3】
前記振動抑制部材は、その下面から前記柄部の上面側に向かって突出する突出ピンを有し、
前記加工対象面の切削時に前記柄部が撓むことに伴って前記突出ピンが前記柄部に接触する、
請求項1に記載のキサゲ加工用ツールユニット。
【請求項4】
前記柄部は、その上面から前記振動抑制部材の下面側に向かって突出する突出ピンを有し、
前記加工対象面の切削時に前記柄部が撓むことに伴って前記突出ピンが前記振動抑制部材に接触する、
請求項1に記載のキサゲ加工用ツールユニット。
【請求項5】
前記突出ピンは、前記振動抑制部材における下面からの突出量、又は、前記柄部における上面からの突出量が調節可能である、
請求項3又は4に記載のキサゲ加工用ツールユニット。
【請求項6】
加工用ロボットと、
前記加工用ロボットに装着される請求項1から4の何れか一項に記載のキサゲ加工用ツールユニットと、
を備える、キサゲ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサゲ加工用ツールユニット及びキサゲ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動部を有した工作機械等の摺動面には、その平面度を高めて摺動摩擦係数を低減するために、キサゲ加工(「スクレーピング加工」ともいう)が行われる。キサゲ加工は、金属加工の一種であり、従来、被加工物(ワーク)の加工対象面(被加工面)に光明丹(鉛丹)や顔料を塗り、先端が幅広でノミ状(ヘラ状)のキサゲ工具(スクレーパ)を作業者が使って、色の違いを見ながら手作業で凸部を削り除去する作業を行っていた。
【0003】
キサゲ加工の本来の目的は、摺動面を高精度な平面に仕上げることにあるが、このキサゲ加工によって摺動面に形成されたミクロン単位の微小な凹みは、摺動時に潤滑油の油溜まりの作用をするため、摺動面の潤滑性が向上し、摺動時のリンギングを防止する効果がある。しかしながら、作業者の手作業によるキサゲ加工は、熟練が要求される作業であり、また、大変な重労働でもあった。
【0004】
これに関連して、被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行うキサゲ加工装置も提案されている(例えば、特許文献1を参照)。この種のキサゲ加工装置は、可撓性を有する柄部と当該柄部に取り付けられた切削刃を有するキサゲ加工用の切削工具を加工用ロボット(例えば、ロボットアームなど)に取り付け、加工用ロボットによって切削工具を操作することによって加工対象面に対するキサゲ加工を機械的に行うことができる。
【0005】
しかしながら、切削刃を加工対象面に押し付け、柄部を撓ませた状態で加工対象面に沿ってストロークさせながら切削する際に、切削工具にびびり振動(chatter vibration)
が起こる場合がある。びびり振動とは、2物体が接触して相対運動をする際、その相対速度や摩擦力などの特性に起因して生じる自励振動であり、加工対象面に凹凸を生じさせる要因にもなり得る。
【0006】
これに関連して、工作機械におけるツールホルダに、びびり振動を抑制するための錘を設けることも提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-240809号公報
【特許文献2】特開2022-155721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、加工用ロボットによってキサゲ加工を行う際、加工対象面が鉛直上向き面である保証はなく、例えば、鉛直方向に対して横向きの面(以下、「鉛直横向き面」という)にキサゲ加工を行う場合もある。また、場合によっては、鉛直下向き面に対してキサゲ加工を行うことも考えられる。そのため、従来のような錘を用いた切削工具のびびり振動抑制技術をキサゲ加工に適用しようとした場合、鉛直方向上向きの加工対象面に対しては所期の効果を奏することができたとしても、条件(加工対象面の向き)によってはその効果が著しく低減してしまうことが懸念される。
【0009】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであって、被加工物の加工対象面に
キサゲ加工を行う際に、切削工具のびびり振動を従来よりも好適に抑制可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(態様1)
本発明の態様1は、被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行う加工用ロボットに取り付けられるキサゲ加工用ツールユニットであって、少なくとも一部が可撓性を有する柄部と、当該柄部に取り付けられる切削刃と、を有する切削工具と、前記切削工具を保持するホルダ部と、前記柄部の上面に沿って配置されると共に少なくとも一部が可撓性を有する板状部材として構成され、切削時における前記切削工具のびびり振動を抑制する振動抑制部材と、を備える。
【0011】
(態様2)
上記態様1に係るキサゲ加工用ツールユニットにおいて、前記振動抑制部材は、前記切削工具の無負荷時においては前記柄部と非接触状態となるように配置され、前記加工対象面の切削時に前記柄部が撓むことに伴って前記振動抑制部材が前記柄部に接触してもよい。
【0012】
(態様3)
上記態様1に係るキサゲ加工用ツールユニットにおいて、前記振動抑制部材は、その下面から前記柄部の上面側に向かって突出する突出ピンを有し、前記加工対象面の切削時に前記柄部が撓むことに伴って前記突出ピンが前記柄部に接触してもよい。
【0013】
(態様4)
上記態様1に係るキサゲ加工用ツールユニットにおいて、前記柄部は、その上面から前記振動抑制部材の下面側に向かって突出する突出ピンを有し、前記加工対象面の切削時に前記柄部が撓むことに伴って前記突出ピンが前記振動抑制部材に接触してもよい。
【0014】
(態様5)
上記態様3又は4に係るキサゲ加工用ツールユニットにおいて、前記突出ピンは、前記振動抑制部材における下面からの突出量、又は、前記柄部における上面からの突出量が調節可能であってもよい。
【0015】
(態様6)
また、本開示に係るキサゲ加工装置は、加工用ロボットと、前記加工用ロボットに装着される態様1から4の何れかに記載のキサゲ加工用ツールユニットと、を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被加工物の加工対象面にキサゲ加工を行う際に、切削工具のびびり振動を従来よりも好適に抑制可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態1に係るキサゲ加工装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、実施形態1に係るキサゲ加工用ツールユニットを説明する図である。
図3図3は、実施形態1に係るキサゲ加工用ツールユニットを説明する図である。
図4図4は、キサゲ加工時におけるスクレーパ及び振動抑制部材の挙動を概略的に説明する図である。
図5図5は、変形例に係るキサゲ加工用ツールユニットの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0019】
<実施形態1>
図1は、実施形態1に係るキサゲ加工装置1の概略構成を示す図である。図1に示すように、キサゲ加工装置1は、制御装置100、ロボットアーム200等を備えている。
【0020】
キサゲ加工装置1は、被対象物であるワーク10の加工対象面(被加工面)11に対してキサゲ加工(スクレーピング加工)を自動で行う装置である。ワーク10は、例えば、工作機械等を構成する金属製の摺動部材であり、その摺動面を加工対象面11とすることができる。ワーク10は、例えば図1に示す加工用架台C1のステージに固定された状態で載置される。加工用架台C1のステージは、X-Y平面に平行な平面状に形成されている。キサゲ加工は金属加工の一種であり、キサゲ工具(切削工具)であるスクレーパを用いて加工対象面11の凸部を削り取り、加工対象面11の平面度を高めることによって摺動摩擦係数を低減させる。また、キサゲ加工の本来の目的は、摺動面を高精度な平面に仕上げることにあるが、摺動面の摺動時にリンギング(Wringing)現象が発生することを防止すべく、キサゲの仕上加工においては摺動面にミクロン単位の微小な多数の窪みを潤滑油の油溜まりとして形成し、摺動面の潤滑性を向上させるようにしている。
【0021】
ロボットアーム200は、例えば、6軸の多関節ロボットアームであり、制御装置100によって制御される。ロボットアーム200は、その先端側にロボット側アダプタ210を有し、このロボット側アダプタ210に各種のツールユニットを着脱自在に取り付けること(保持)が可能である。ここで、ツールユニットは、例えば、スクレーパ(切削工具)を有するキサゲ加工用ツールユニット30や、チャックユニット(図示せず)が例示できるが、これらに限定されない。なお、チャックユニットは、架台間でワーク10を移動させる際に、当該ワーク10を把持するためのアタッチメントである。また、ロボットアーム200は、各関節(例えば、第1軸~第6軸)をサーボモータ等によって駆動することで、ロボット側アダプタ210をXYZ三次元直交座標系の任意の位置へと移動させることができる。
【0022】
制御装置100は、加工指示データに従ってロボットアーム200を制御する。加工指示データに従ってロボットアーム200が制御装置100によって制御されることにより、ワーク10の加工対象面11に対して加工指示データに応じたキサゲ加工が行われる。制御装置100は、ロボットアーム200を制御するための加工指示データを生成する情報処理装置(加工指示データ生成装置)として機能してもよい。勿論、ロボットアーム200の加工指示データは、制御装置100とは別の情報処理装置(加工指示データ生成装置)によって生成されてもよい。この場合、当該情報処理装置(加工指示データ生成装置)が生成した加工指示データを制御装置100が取得し、取得した加工指示データに従って制御装置100がロボットアーム200を制御する。なお、情報処理装置(加工指示データ生成装置)から制御装置100への加工指示データの送信は有線通信または無線通信のいずれによって行われてもよい。
【0023】
制御装置100は、例えば、一般的なコンピュータであり、通信インターフェース(通信I/F)、記憶装置、入出力装置、及びプロセッサ等を備え、これらが通信バスを介して接続されている。制御装置100の通信I/Fは、例えばネットワークカードや通信モ
ジュールであってもよく、所定のプロトコルに基づき、他のコンピュータ、機器等と通信を行う。
【0024】
制御装置100の記憶装置は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の主記憶装置、及びHDD(Hard-Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置(二次記憶装置)を含んでいる。主記憶装置は、プロセッサが読み出すプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報を一時的に記憶したり、プロセッサの作業領域を確保したりする。補助記憶装置は、プロセッサが実行するプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報等を記憶する。また、補助記憶装置は、リムーバブルメディア(可搬記録媒体)を含んでいてもよい。リムーバブルメディアは、例えば、USBメモリ、SDカード、または、CD-ROM、DVDディスク、若しくはブルーレイディスクのようなディスク記録媒体である。記憶装置(例えば、補助記憶装置)には、オペレーティングシステム(OS)、各種プログラム、および各種情報テーブル等が格納されている。
【0025】
制御装置100の入出力装置は、例えば、キーボード、マウス等の入力装置、モニタ等の出力装置、タッチパネルのような入出力装置等のユーザインターフェースである。制御装置100のプロセッサは、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等の演算処理装置であり、プログラムを実行することにより本実施形態
に係る各処理を行う。例えば、プロセッサが、記憶装置の補助記憶装置に記憶されたプログラムを主記憶装置にロードして実行することによって各種の処理が実現される。なお、制御装置100は、必ずしも単一の物理的構成によって実現される必要はなく、互いに連携する複数台のコンピュータによって構成されてもよい。
【0026】
次に、実施形態1に係るキサゲ加工用ツールユニット30の詳細について説明する。図2及び図3は、実施形態1に係るキサゲ加工用ツールユニット30を説明する図である。図2には、ロボット側アダプタ210に保持された状態におけるキサゲ加工用ツールユニット30の斜視図が示されている。図3には、キサゲ加工用ツールユニット30の側面図が示されている。なお、図2及び図3は、スクレーパの無負荷時における状態を示している。ここでいう「無負荷時」とは、スクレーパによってワーク10の加工対象面11を切削していない状態という。
【0027】
キサゲ加工用ツールユニット30は、ホルダ部40、スクレーパ(切削工具)50、振動抑制部材60等を備えたツールユニットである。ホルダ部40は、スクレーパ50を保持する保持部材である。ホルダ部40は、例えば、アダプタ式になっており、本実施形態の例ではロボットアーム200におけるロボット側アダプタ210に対して着脱自在に取り付け可能なツール側アダプタとして構成されている。ホルダ部40の底部には、取付プレート41が設けられている。そして、スクレーパ50及び振動抑制部材60等は、各種スペーサ等を介して取付プレート41と一体に取り付けられている。
【0028】
スクレーパ50は、可撓性を有する金属材料により形成された略帯板形状の柄部51と、柄部51の長手方向における先端側に取り付けられたチップホルダ52等を含んで構成されている。チップホルダ52は、切削刃53を保持する保持部材である。切削刃53は、適宜のネジ部品等によってチップホルダ52に対して固定されている。切削刃53は、例えば超硬合金によって形成されており、例えば金属製のワーク10の加工対象面11を切削することが超硬チップである。
【0029】
スクレーパ50は、柄部51に対してチップホルダ52が着脱式で、当該チップホルダ52を交換可能に設けられていてもよい。勿論、スクレーパ50の構成は上述のものに限られず、例えば、切削刃53をチップホルダ52に対して一体不可分な態様で構成し、或
いは、チップホルダ52を柄部51に対して一体不可分な態様で構成してもよい。図3に示す例では、スクレーパ50は、柄部51の長手方向における後端側にて、固定用ネジ71,71によって取付プレート41に固定されている。
【0030】
振動抑制部材60は、可撓性を有する金属材料により形成された板状部材であり、スクレーパ50における柄部51の上面51Aに沿って配置されている。振動抑制部材60は、所謂板バネ部材として形成されている。本実施形態において、振動抑制部材60は、スクレーパ50の柄部51と同様、一方向に延びる略帯板形状を有している。振動抑制部材60は、スクレーパ50の切削刃53によってワーク10の加工対象面11を切削する際に、当該切削時におけるスクレーパ50のびびり振動を抑制するための部材である。図3に示す例では、振動抑制部材60の長手方向における後端側にて、固定用ネジ71,71によって取付プレート41に固定されている。なお、図中、符号51Bは、スクレーパ50における柄部51の下面である。また、符号60Aは振動抑制部材60の上面、符号60Bは振動抑制部材60の下面である。なお、柄部51及び振動抑制部材60の上下方向は、これらの相対的な位置関係を説明するものであって、絶対的な方向を意味するものではない。
【0031】
また、図中、符号SP1は第1スペーサであり、符号SP2は第2スペーサである。一例として、第1スペーサSP1及び第2スペーサSP2は平板状のスペーサ部材である。図3に示す例では、第1スペーサSP1が振動抑制部材60の下面60Bと柄部51の上面51Aとの間に介装されている。また、第2スペーサSP2は、取付プレート41の下面41Aと振動抑制部材60の上面60Aとの間に介装されている。一例として、第1スペーサSP1、第2スペーサSP2、振動抑制部材60、及び柄部51には、固定用ネジ71,71のネジ軸部を挿通可能な挿通孔が形成されており、取付プレート41の下面41Aには、固定用ネジ71,71のネジ軸部に形成された雄ネジと螺合可能なネジ孔が開口されている。固定用ネジ71,71のネジ軸部を柄部51、第1スペーサSP1、振動抑制部材60、第2スペーサSP2の各挿通孔に挿通させ、取付プレート41のネジ孔に螺着することによって、図3に示すようにスクレーパ50における柄部51と振動抑制部材60を取付プレート41に固定することができる。
【0032】
勿論、スクレーパ50における柄部51と振動抑制部材60を取付プレート41に固定する態様は上記の例に限られない。例えば、上記の例では、柄部51及び振動抑制部材60が共通の固定用ネジ71,71によって取付プレート41に固定されているが、別々の固定用ネジを用いて取付プレート41に対して個別に固定されていてもよい。
【0033】
上記の通り、スクレーパ50における柄部51と振動抑制部材60との間には、第1スペーサSP1が介在するため、スクレーパ50の無負荷時において、第1スペーサSP1の厚さに相当する隙間S1が柄部51と振動抑制部材60との間(厳密には、第1スペーサSP1が配置されていない箇所)に形成される。また、図3に示す例では、スクレーパ50の無負荷時において、スクレーパ50における柄部51と振動抑制部材60とは隙間S1を挟んで互いに平行な姿勢を保持している。このようにして、振動抑制部材60は、スクレーパ50における柄部51の上段に隙間S1を挟んで配置される。すなわち、振動抑制部材60は、スクレーパ50の無負荷時において、柄部51の上面51Aと非接触の状態となるように配置されている。
【0034】
同様に、ホルダ部40における取付プレート41と振動抑制部材60との間には、第2スペーサSP2が介在するため、スクレーパ50の無負荷時において、第2スペーサSP2の厚さに相当する隙間S2が取付プレート41と振動抑制部材60との間(厳密には、第2スペーサSP2が配置されていない箇所)に形成される。
【0035】
本実施形態における振動抑制部材60には、その下面50Bから柄部51の上面51A側に向かって突出する突出ピン80を有している。図2及び図3に示す例では、振動抑制部材60の長手方向における先端側に、突出ピン80が取り付けられている。突出ピン80は、一例として、先端部が丸まったラウンド形状(R形状)を有するピン先端部81を有するR付きネジによって形成されている。また、突出ピン80の外周部にはネジ溝82が形成されている。一方、振動抑制部材60には、突出ピン80を取り付けるためのネジ孔61が振動抑制部材60を板厚方向に貫通するように形成されており、ネジ孔61に突出ピン80のネジ溝82を螺合することによって、ピン先端部81が柄部51の上面51Aと対向するように振動抑制部材60に突出ピン80が取り付けられている。
【0036】
上記のように振動抑制部材60の先端側に取り付けられた突出ピン80は、スクレーパ50の無負荷時において、ピン先端部81と柄部51の上面51Aとの間には隙間S3が形成されている。つまり、振動抑制部材60は、スクレーパ50の無負荷時において、柄部51の上面51Aと突出ピン80のピン先端部81が非接触の状態となるように突出ピン80を保持している。なお、突出ピン80の頭部には、例えば六角穴が形成されており、振動抑制部材60のネジ孔61に対する突出ピン80におけるネジ溝82の螺合量を変更することができる。これにより、振動抑制部材60における下面60Bから突出ピン80が突出する突出量を自在に調節することができる。つまり、スクレーパ50の無負荷時における隙間S3の大きさを自在に調節できる。
【0037】
次に、キサゲ加工用ツールユニット30のスクレーパ50を用いてワーク10の加工対象面11をキサゲ加工する際の動作について説明する。図4は、加工対象面11のキサゲ加工時におけるスクレーパ50及び振動抑制部材60の挙動を概略的に説明する図である。キサゲ加工では、制御装置100がロボットアーム200を制御することで、スクレーパ50の切削刃53を加工対象面11に対して斜めに当てがい、スクレーパ50(ロボット側アダプタ210)を-Z方向に駆動して加工対象面11に対してスクレーパ50を下方(-Z方向)に押し込みながら(図4中、矢印A方向)、スクレーパ50を加工対象面11に沿って(X-Y平面と平行に)ストロークさせる(図4中、矢印B方向)。
【0038】
上記のように、図4の矢印A方向にスクレーパ50(ロボット側アダプタ210)を駆動すると、加工対象面11から受ける反力によってスクレーパ50の柄部51が弾性変形し、図4の鎖線で示す姿のように撓むこととなる。このように、スクレーパ50の柄部51を撓ませた状態で、矢印B方向へとスクレーパ50をストロークさせることにより、スクレーパ50のストローク毎に、切削刃53によって加工対象面11をミクロンオーダー或いはサブミクロンオーダーの厚さずつ切削することができる。従来のキサゲ加工装置においては、単純に、スクレーパの柄部を撓ませた状態で加工対象面に沿ってストロークさせながら切削しようとすると、スクレーパにびびり振動(chatter vibration)が起こり
、これに起因して加工対象面に凹凸を生じさせる要因にもなっていた。
【0039】
そこで、本実施形態に係るキサゲ加工用ツールユニット30は、切削時におけるスクレーパ50のびびり振動を抑制するために振動抑制部材60を備えるようにしている。振動抑制部材60(及び振動抑制部材60に設けられた突出ピン80)は、初期状態(スクレーパ50の無負荷時)において、スクレーパ50の柄部51に対して離間した状態となっている。一方、加工対象面11の切削時にスクレーパ50の切削刃53が加工対象面11に対して押し込まれると、柄部51が撓むことで、柄部51の上面51Aが突出ピン80のピン先端部81に接近する。そして、柄部51の上面51Aがピン先端部81に当接し、これを押圧することにより、振動抑制部材60が弾性変形を伴って柄部51から離反する方向に撓むこととなる(図4の破線の姿を参照)。
【0040】
上記のように柄部51の撓み変形に伴って振動抑制部材60が撓むと、振動抑制部材6
0の復元力が突出ピン80を介して柄部51を上方から押し付ける方向に作用する。つまり、スクレーパ50が加工対象面11を切削するストローク中に、振動抑制部材60の復元力が柄部51を加工対象面11に押し付ける方向に作用し続ける。その結果、スクレーパ50のびびり振動を抑制することができる。
【0041】
特に、本実施形態においては、振動抑制部材60の復元力によってスクレーパ50のびびり振動を抑制するため、スクレーパ50の姿勢に関わらず所期のびびり振動抑制効果が得られる。例えば、図1の符号11Aで示されるような鉛直方向上向き面を加工対象面とする場合であっても、符号11Bで示されるような鉛直方向横向き面を加工対象面とする場合であっても、加工対象面11の向きに左右されずに所期のびびり振動抑制効果を得ることが可能である。
【0042】
また、本実施形態における振動抑制部材60は突出ピン80を有しているため、加工対象面11の切削時に柄部51が撓んだ際、柄部51の上面51Aに対して常に突出ピン80(ピン先端部81)を介して接触することができる。これによれば、加工対象面11の切削時に、撓んだ柄部51から振動抑制部材60に押圧力が作用するときの作用点、言い換えると、撓んだ振動抑制部材60の復元力を柄部51に作用させる作用点の位置が安定する。つまり、振動抑制部材60が柄部51を付勢する位置や付勢力の大きさを安定して作用させ易くなり、所期のびびり振動抑制効果が得られ易くなる。
【0043】
更に、本実施形態においては、振動抑制部材60における下面60Bからの突出ピン80の突出量を調節することが可能である。そのため、スクレーパ50の無負荷時における隙間S3の大きさを調節できる。その結果、加工対象面11の切削時にスクレーパ50の柄部51に対して振動抑制部材60を付勢する際の付勢力(振動抑制部材60の復元力)の大きさを容易に調整することが可能となり、より一層きめ細やかにスクレーパ50のびびり振動を抑制できる。
【0044】
また、振動抑制部材60(突出ピン80)は、スクレーパ50の無負荷時において柄部51と非接触状態となるように配置され、加工対象面11の切削時に柄部51が撓むことに伴って振動抑制部材60(突出ピン80)が柄部51に接触するようになっている。これによれば、加工対象面11の切削時にスクレーパ50の柄部51がある程度撓らせてから、振動抑制部材60を柄部51に付勢することができる。そのため、振動抑制部材60の過剰な復元力がスクレーパ50の柄部51に加わることがなく、スクレーパ50の下方(-Z方向)の押し込み力を微調整することが出来るという利点がある。
【0045】
但し、キサゲ加工用ツールユニット30は、上記内容に限られず種々の態様を採用できる。例えば、振動抑制部材60(突出ピン80)は、スクレーパ50の無負荷時(すなわち、初期状態)において、柄部51の上面51Aと接触していてもよい。また、振動抑制部材60は、突出ピン80を必ずしも有している必要はない。この場合、振動抑制部材60は、スクレーパ50の無負荷時において柄部51と非接触状態となるように配置され、加工対象面11の切削時に柄部51が撓むことに伴って振動抑制部材60の下面60Bが柄部51の上面51Aに接触するようになっていてもよい。また、別の形態において、スクレーパ50の無負荷時(すなわち、初期状態)において、振動抑制部材60の下面60Bが柄部51の上面51Aと接触していてもよい。このような態様によっても、振動抑制部材60を設けない場合に比べて、加工対象面11の切削時におけるスクレーパ50のびびり振動を好適に抑制できる。
【0046】
また、本実施形態における振動抑制部材60は、少なくとも一部が可撓性を有する板状部材であればよい。すなわち、振動抑制部材60は、全体が可撓性を有していてもよいし、一部のみが可撓性を有していてもよい。後者の態様においても、加工対象面11の切削
時に振動抑制部材60の一部が撓むことによって生成される復元力を柄部51に作用させることにより、スクレーパ50のびびり振動を好適に抑制できる。また、スクレーパ50の柄部51においても、その全体が可撓性を有している必要はなく、少なくとも一部が可撓性を有していればよい。すなわち、スクレーパ50の柄部51は、全体が可撓性を有していてもよいし、一部のみが可撓性を有していてもよい。
【0047】
また、別の態様において、突出ピン80は、スクレーパ50の柄部51に設けられていてもよい。図5は、変形例に係るキサゲ加工用ツールユニット30の側面図である。図5に示す例では、スクレーパ50の柄部51は、その上面51Aから振動抑制部材60の下面60B側に向かって突出する突出ピン80を有している。突出ピン80の構造自体は図3で説明した構造と同様であり、柄部51に対する取付態様も、図3で説明したものと類似している。すなわち、図5に示す態様では、突出ピン80を取り付けるためのネジ孔54が柄部51に貫通形成されている。そして、ネジ孔54に突出ピン80のネジ溝82を螺合することによって、ピン先端部81が振動抑制部材60の下面60Bと対向するように突出ピン80が柄部51に取り付けられている。このような態様では、加工対象面11の切削時に柄部51が撓むことに伴って、当該柄部51に設けられた突出ピン80(ピン先端部81)を振動抑制部材60の下面60Bに接触させ、振動抑制部材60を撓ませることができる。その結果、振動抑制部材60の復元力が突出ピン80を介して柄部51に伝達され、柄部51を上方から加工対象面11に押し付けることができ、加工対象面11の切削時におけるスクレーパ50のびびり振動を抑制することができる。
【0048】
なお、上記の実施形態及び変形例はあくまでも一例であって、本開示はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。例えば、スクレーパ50の柄部51や振動抑制部材60は特に限定されない。また、振動抑制部材60や柄部51に設けられる突出ピン80の位置、数等の態様については特に限定されない。場合によっては、スクレーパ50の柄部51と振動抑制部材60の双方に突出ピン80が設けられていてもよい。
【0049】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0050】
1・・・キサゲ加工装置
10・・・ワーク
11・・・加工対象面
30・・・キサゲ加工用ツールユニット
40・・・ホルダ部
50・・・スクレーパ
51・・・柄部
52・・・チップホルダ
53・・・切削刃
60・・・振動抑制部材
80・・・突出ピン
図1
図2
図3
図4
図5