(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135162
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】清澄化された液体の製造方法及び液体清澄化装置
(51)【国際特許分類】
B01D 61/22 20060101AFI20240927BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B01D61/22
B01D69/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045710
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】592243553
【氏名又は名称】株式会社タカギ
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】金子 克美
(72)【発明者】
【氏名】村田 克之
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006HA41
4D006HA95
4D006JA03A
4D006JA03C
4D006JA52Z
4D006JA53Z
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4D006PA01
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4D006PB03
4D006PB08
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4D006PB52
4D006PB53
4D006PB55
4D006PB59
4D006PC11
4D006PC17
4D006PC47
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】本開示は、処理対象の液体から不要物を分離して目的の液体を低コストで得ることが可能な清澄化された液体の製造方法及び液体清澄化装置を説明する。
【解決手段】清澄化された液体の製造方法は、不要物を含有する液体を、所定の操作圧にて加圧した状態で、第1の微小孔と、第1の微小孔より大きい第2の微小孔とを含むナノメートルオーダーの複数の微小孔が形成されたフィルタに供給して、液体を分子の状態で第1の微小孔を透過させる第1の工程と、第1の微小孔を透過した液体の分子を加圧して液状に戻す第2の工程とを含む。操作圧は、液体が第2の微小孔を液状で通過しない圧力である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不要物を含有する液体を、所定の操作圧にて加圧した状態で、第1の微小孔と、前記第1の微小孔より大きい第2の微小孔とを含むナノメートルオーダーの複数の微小孔が形成されたフィルタに供給して、前記液体を分子の状態で前記第1の微小孔を透過させる第1の工程と、
前記第1の微小孔を透過した前記液体の分子を加圧して液状に戻す第2の工程とを含み、
前記操作圧は、前記液体が前記第2の微小孔を液状で通過しない圧力である、清澄化された液体の製造方法。
【請求項2】
前記第2の微小孔は前記複数の微小孔のうち最も大きく、
前記操作圧は、前記液体を前記フィルタに加圧して供給したときに、前記液体が前記第2の微小孔から液状で通過したときの圧力である透過圧よりも低い圧力である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記操作圧は前記透過圧の60%~95%の大きさである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の微小孔の直径が2nm以下であり、前記第2の微小孔の直径が2nmよりも大きい、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の工程は、前記フィルタの上流側の表面に沿って流れるように前記フィルタに前記液体を供給することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第1の微小孔と、前記第1の微小孔より大きい第2の微小孔とを含むナノメートルオーダーの複数の微小孔が形成されたフィルタと、
不要物を含有する液体を、前記液体が前記第2の微小孔を液状で通過しない圧力である操作圧にて加圧して、前記フィルタに供給するように構成された供給部と、
前記第1の微小孔を透過した前記液体の分子を加圧して液状に戻すように構成された加圧部とを備える、液体清澄化装置。
【請求項7】
前記第2の微小孔は前記複数の微小孔のうち最も大きく、
前記操作圧は、前記液体を前記フィルタに加圧して供給したときに、前記液体が前記第2の微小孔から液状で通過したときの圧力である透過圧よりも低い圧力である、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記操作圧は前記透過圧の60%~95%の大きさである、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記第1の微小孔の直径が2nm以下であり、前記第2の微小孔の直径が2nmよりも大きい、請求項6~8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記供給部は、前記フィルタの上流側の表面に沿って流れるように前記フィルタに前記液体を供給するように構成されている、請求項6~8のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、清澄化された液体の製造方法及び液体清澄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、海水を加圧して逆浸透膜に通水し、淡水を生成する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-203258号公報
【特許文献2】特許第6588907号
【特許文献3】特開平5-023551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、逆浸透法により海水を淡水化する際には、一般に、約5Mpa~7MPa程度の極めて高い圧力を海水に作用させている。そのため、大量の電気エネルギーを消費してランニングコストが嵩むと共に、このような高圧に耐える設備(例えば、配管、ポンプなど)の建造のためのイニシャルコストも嵩んでいた。
【0005】
そこで、本開示は、処理対象の液体から不要物を分離して目的の液体を低コストで得ることが可能な清澄化された液体の製造方法及び液体清澄化装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
清澄化された液体の製造方法の一例は、不要物を含有する液体を、所定の操作圧にて加圧した状態で、第1の微小孔と、第1の微小孔より大きい第2の微小孔とを含むナノメートルオーダーの複数の微小孔が形成されたフィルタに供給して、液体を分子の状態で第1の微小孔を透過させる第1の工程と、第1の微小孔を透過した液体の分子を加圧して液状に戻す第2の工程とを含む。操作圧は、液体が第2の微小孔を液状で通過しない圧力である。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る清澄化された液体の製造方法及び液体清澄化装置によれば、処理対象の液体から不要物を分離して目的の液体を低コストで得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、液体清澄化装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、フィルタの一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、操作圧を決定するための手順を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。なお、本明細書において、図の上、下、右、左というときは、図中の符号の向きを基準とすることとする。
【0010】
[液体清澄化装置の構成]
図1及び
図2を参照して、液体清澄化装置1の構成について説明する。液体清澄化装置1は、処理対象の液体L1から不要物を分離して目的の液体L2(清澄化された液体)を生成するように構成されている。液体清澄化装置1は、
図1に例示されるように、供給部10と、フィルタ部20と、加圧部30と、コントローラCtr(制御部)とを備える。
【0011】
供給部10は、処理対象の液体L1をフィルタ部20に供給するように構成されている。供給部10は、ガス源11と、ポンプ12と、レギュレータ13と、送液タンク14と、配管D1,D2とを含む。
【0012】
ガス源11は、気体の供給源であり、送液タンク14に気体を供給して送液タンク14内を加圧するように構成されている。気体は、例えば、空気であってもよいし、不活性ガスであってもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどであってもよい。
【0013】
ガス源11は、配管D1を介して、送液タンク14に接続されている。すなわち、配管D1の上流端は、ガス源11に接続されている。配管D1の下流端は、送液タンク14の天壁に接続されている。
【0014】
ポンプ12及びレギュレータ13は、配管D1の上流側からこの順に、配管D1上に設けられている。ポンプ12は、コントローラCtrからの動作信号に基づき動作して、ガス源11の気体を圧縮して下流側に送気する(すなわち圧送する)ように構成されている。ポンプ12に代えて、コンプレッサが用いられてもよい。
【0015】
レギュレータ13は、コントローラCtrからの動作信号に基づいて動作し、電気信号に比例してガス源11ら供給される気体の圧力を無段階に制御するように構成されている。すなわち、レギュレータ13は、送液タンク14内への気体の圧力の大きさを調整可能に構成されている。
図1に示される例では、レギュレータ13は、送液タンク14内への気体の圧力が設定された一定の圧力となるように制御されてもよい。
【0016】
送液タンク14は、フィルタ部20に供給するための処理対象の液体L1を貯留するように構成されている。ポンプ12及びレギュレータ13によって加圧された気体が送液タンク14に供給されると、送液タンク14に貯留されている液体L1が、配管D2を介して、フィルタ部20に圧送される。すなわち、液体L1は、所定の圧力(操作圧Pop)に加圧された状態で、フィルタ部20に供給される。配管D2の上流端は、送液タンク14の下底近傍に位置していてもよい。
【0017】
フィルタ部20は、筐体21と、フィルタ22と、バルブV1,V2と、配管D3,D4とを含む。筐体21は、フィルタ22を収納するように構成されている。筐体21の内部空間は、フィルタ22によって上流側空間SP1と下流側空間SP2とに区画されている。筐体21には、上流側空間SP1と連通するように、配管D2の下流端と、配管D3の上流端とが接続されている。筐体21には、下流側空間SP2と連通するように、配管D4の上流端が接続されている。
【0018】
図1に例示されるように、配管D2の下流端は、上流側空間SP1の一端側(
図2の左端側)に位置しており、配管D3の上流端は、上流側空間SP1の他端側(
図2の右端側)に位置していてもよい。この場合、配管D2を介して上流側空間SP1内に流入した液体L1は、フィルタ22のうち上流側空間SP1の表面に沿って流れた後、配管D3を通じて筐体21の外部に流出する。すなわち、上流側空間SP1内におけるフィルタ22に対する液体L1の流れが、いわゆるタンジェンシャルフロー(クロスフロー)となる。
【0019】
フィルタ22は、処理対象の液体L1から不要物を分離するように構成されている。フィルタ22は、
図2に例示されるように、ベース部材23と、支持体24と、フィルタ本体25とを含む。
【0020】
ベース部材23は、操作圧Popにて加圧された液体L1が支持体24及びフィルタ本体25に作用したときに、これらが下流側に押し流されたり破損したりしないよう、これらを支持している。そのため、ベース部材23は、例えば、金属によって構成されていてもよい。
【0021】
ベース部材23は、枠体23aと、網部材23bとを含む。枠体23aは、環状を呈しており、網部材23bの周囲を取り囲んで網部材23bを保持するように構成されている。枠体23aは、例えば、矩形状であってもよいし、円環状であってもよい。網部材23bは、支持体24と重なり合うように支持体24の一方の主面(
図2の例では下面)に接合されている。
【0022】
支持体24は、フィルタ本体25を支持している。支持体24は、例えば、フィルム状のフォトレジストであってもよいし、ポリイミド膜であってもよい。支持体24は、一方の主面(
図2の例では下面)から他方の主面(
図2の例では上面)に至るまで延びる複数の貫通孔24aを含んでいる。複数の貫通孔24aは、例えば、生検トレパンなどの穿孔機によって形成されてもよい。複数の貫通孔24aの直径は、例えば、1mm程度であってもよい。
【0023】
フィルタ本体25は、原子レベルの厚さの薄膜(単分子膜)によって構成されていてもよい。フィルタ本体25は、例えば、単層のグラフェンシートであってもよいし、2層以上のグラフェンシートが重ね合わされた複合シートであってもよい。
【0024】
フィルタ本体25は、直径の異なるナノメートルオーダーの複数の微小孔を含む。すなわち、フィルタ本体25は、
図3(a)に例示されるように、直径が所定の大きさ(以下、「基準径」ともいう。)より大きい複数の非極小孔25a(第2の微小孔)と、直径が基準径以下の複数の極小孔25b(第1の微小孔)とを含んでいてもよい。非極小孔は、液体L1がフィルタ本体25に接したときに、表面張力の作用によって液体L1を孔内に保持するように構成されている。極小孔は、液体L1がフィルタ本体25に接したときに表面張力が作用せず、液体L1を分子の状態で透過させるように構成されている。なお、
図3において、非極小孔25aに付されているハッチングは、当該非極小孔25aに液体L1が表面張力によって保持されている様子を示している。
【0025】
なお、国際純正・応用化学連合(IUPAC:International Union of Pure and Applied Chemistry)によれば、直径2nm以下の微小孔が「マイクロ孔」と定義されており、直径2nm~50nmの微小孔が「メソ孔」と定義されており、直径50nm以上の微小孔が「マクロ孔」と定義されている。この定義に準じて、フィルタ本体25は、例えば、複数のマイクロ孔と、複数のメソ孔と、複数のマクロ孔とを含んでいてもよい。2nmよりも大きいメソ孔及びマクロ孔が上記の非極小孔に対応しており、2nm以下のマイクロ孔が上記の極小孔に対応していてもよい。すなわち、基準径が2nmに設定されていてもよい。
【0026】
フィルタ本体25がグラフェンシートによって構成されている場合、グラフェンシートが所定温度にて所定時間空気中で加熱されることにより、ナノメートルオーダーの複数の微小孔がグラフェンシートに形成される。本願出願人らによる特許第6588907号によれば、当該所定温度は、例えば、160℃~250℃であってもよく、200℃~250℃であってもよい。また、同特許によれば、当該所定時間は、例えば、20時間以上であってもよく、50時間以上であってもよい。
【0027】
このような熱処理によってフィルタ本体25に微小孔が形成される場合、微小孔の形状は、真円ではなく、略円形状を呈する。そのため、本書において、微小孔の「直径」は、微小孔に内接する円の直径をいうものとする。微小孔の「直径」は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)などの走査型プローブ顕微鏡を用いて直接測定されてもよいし、電子顕微鏡を用いて観察された微小孔の原子中心を通る最大内接円から炭素原子の直径を減算して算出されてもよいし、バブルポイント法によって測定された表面張力に基づいて微小孔の最大内接円の直径が算出されてもよい。
【0028】
バルブV1は、配管D3上に設けられている。バルブV1は、例えば、バルブV1に所定の大きさの圧力が作用したとき自動的に開放状態となるリリーフ弁であってもよい。バルブV1が開放状態となる圧力は、例えば、液体L1の操作圧Popよりも小さくなるように設定されていてもよい。この場合、液体L1が上流側空間SP1に流入して配管D3を通じてバルブV1に到達すると、バルブV1が自動的に開放されて配管D3を通じて上流側空間SP1から排出される。そのため、上流側空間SP1内において、液体L1が常に流動することとなる。
【0029】
バルブV2は、配管D4上に設けられている。バルブV2は、例えば、バルブV2に所定の大きさの圧力が作用したとき自動的に開放状態となる安全弁であってもよい。バルブV2が開放状態となる圧力は、例えば、液体L1の操作圧Popよりも小さく、且つ、フィルタ22を透過した液体L1の分子(詳しくは後述する)の圧力よりも大きくなるように設定されていてもよい。この場合、フィルタ本体25が破れるなどの不測の事態により、液体L1が液状のまま直接配管D4に流入したときに、バルブV2が自動的に開放されて配管D4を通じて液体L1が液体清澄化装置1の外部に排出される。そのため、液体清澄化装置1の全体的な損傷が防止される。
【0030】
加圧部30は、フィルタ22を透過した液体L1の分子を加圧して液状に戻すように構成されている。加圧部30は、
図1に例示されるように、ポンプ31と、集液タンク32と、バルブV3と、配管D5とを含む。
【0031】
ポンプ31は、配管D5上に設けられている。ポンプ31は、コントローラCtrからの動作信号に基づき動作して、フィルタ22を透過した液体L1の分子を圧縮して、分子間に水素結合等を作用させることにより、清澄化された液体L2とするように構成されている。配管D5の上流端は、配管D4のうちフィルタ部20とバルブV2との間に接続されている。すなわち、配管D5は、フィルタ部20とバルブV2との間において配管D4から分岐している。配管D5の下流端は、集液タンク32に接続されている。
【0032】
集液タンク32は、ポンプ31によって液化された液体L2を回収するように構成されている。バルブV3は、配管D5上に設けられている。バルブV3は、コントローラCtrからの動作信号に基づいて開閉動作するように構成されている。バルブV3は、液体清澄化装置1の稼働時に開放され、液体清澄化装置1の停止時に閉鎖されてもよい。
【0033】
[操作圧の決定方法]
続いて、
図3を参照して、操作圧Popの決定方法について説明する。液体L1がフィルタ本体25に接すると、上述のとおり、極小孔25bは液体L1を分子の状態で透過させるが、非極小孔25aは表面張力の作用によって液体L1を孔内に保持する。例えば、
図3(b)及び
図3(c)に例示されるように、フィルタ本体25に形成されている複数の微小孔のうち最も大きな微小孔が非極小孔25c(第2の微小孔)であり、非極小孔25cの直径がDpeであると仮定する。このとき、液体L1に作用する圧力を徐々に大きくすると、
図3(b)に例示されるように、非極小孔25cに保持されている液体L1が表面張力に抗して非極小孔25cから押し出されてしまい、非極小孔25cから液体L1が液状で通過するようになる。このときの圧力を、透過圧Ppeとする。
【0034】
ところで、透過圧Ppeと表面張力との力の釣り合いから、パラメータγ、θをそれぞれ
γ:液体L1の表面張力
θ:液体L1とフィルタ本体25との接触角
と定義したときに、次の式1が成り立つことが知られている(例えば、特開平5-023551号公報の段落0003を参照)。
Dpe=4γcosθ/Ppe ・・・(1)
【0035】
すなわち、表面張力γ及び接触角θは予め測定しておくことで既知であるので、式1によれば、透過圧Ppeを測定することで、非極小孔25cの直径Dpeを算出することができる。したがって、フィルタ本体25において、極小孔25bのみから液体L1を分子の状態で透過させる場合には、表面張力によって非極小孔25cの孔内に液体L1が保持されている必要があることから、
図3(c)に例示されるように、透過圧Ppeよりも低い操作圧Popを液体L1に作用させればよい。以上より、操作圧Popは、透過圧Ppeよりも低い大きさに設定される。操作圧Popは、例えば、透過圧Ppeの60%~95%の大きさに設定されてもよい。操作圧Popは、液体L1が海水の場合には、3MPa~4MPa程度に設定されてもよい。なお、接触角θは、例えば、協和界面科学株式会社製「接触角計 DMs-401」によって測定されてもよい。
【0036】
[清澄化された液体の製造方法]
続いて、上述した液体清澄化装置1を利用して、処理対象の液体L1から不要物を分離して目的の液体L2(清澄化された液体)を生成する方法について説明する。
【0037】
まず、不要物を含有する処理対象の液体L1を、送液タンク14に貯留する。次に、コントローラCtrが、ポンプ12,31を動作させると共に、バルブV3を開放状態とする。また、コントローラCtrが、レギュレータ13を制御して、液体L1の圧力が操作圧Popとなるように液体L1を加圧する。これにより、液体L1が、操作圧Popにて加圧された状態で、フィルタ部20に供給される。
【0038】
液体L1がフィルタ部20に供給されると、上流側空間SP1に液体L1が流入し、フィルタ22のうち上流側空間SP1の表面に沿って流れた後、配管D3を通じて筐体21の外部に流出する。この際、液体L1が分子の状態で、フィルタ本体25の極小孔25bを透過し、下流側空間SP2及び配管D5を介してポンプ31に到達する。ポンプ31は、液体L1の分子を加圧して液状に戻し、不要物を含まない液体L2を生成する。液体L2は、配管D5を通じてさらに下流側に流れ、集液タンク32に回収される。以上により、清澄化された液体L2の製造が完了する。
【0039】
[作用]
以上の例によれば、液体L1が極小孔25bを液状で通過しない操作圧Popにて加圧した液体L1を、フィルタ22に供給している。すなわち、液体L1が極小孔25bを液状で通過しない限度で液体L1が加圧されるので、逆浸透法よりも低い圧力によって、より多量の液体L1が分子の状態で極小孔25bを通過するようになる。そのため、液体L1に不要物が含まれていても、液体L1のうち分子の状態となった要素がフィルタ22によって、効率的に取り出される。したがって、処理対象の液体L1から不要物を分離して目的の液体L2を低コストで得ることが可能となる。
【0040】
以上の例によれば、操作圧Popは、液体L1をフィルタ22に加圧して供給したときに、液体L1が非極小孔25cから液状で通過したときの圧力である透過圧Ppeよりも低い圧力に設定されうる。この場合、液体L1の処理中、フィルタ22に存在する非極小孔25aの全てにおいて、表面張力により液体L1が保持される。そのため、非極小孔25aから液体L1が液状で通過することがほぼ防止される。したがって、処理対象の液体L1から不要物を分離して目的の液体L2をより効率的に得ることが可能となる。
【0041】
以上の例によれば、操作圧Popは透過圧Ppeの60%~95%の大きさに設定されうる。この場合、液体L1が非極小孔25cを液状で通過しない限度で、より大きな圧力で液体L1を加圧できる。そのため、処理対象の液体L1から不要物を分離して目的の液体L2をさらに効率的に得ることが可能となる。
【0042】
以上の例によれば、極小孔25bの直径が2nm以下であり、非極小孔25aの直径が2nmよりも大きく設定されうる。この場合、特に、液体が水である場合に、水が水分子として極小孔25bを透過しやすくなる。
【0043】
以上の例によれば、液体L1は、フィルタ22の上流側の表面に沿って流れるようにフィルタ22に供給されうる。この場合、フィルタ22に対する液体L1の流れが、いわゆるタンジェンシャルフロー(クロスフロー)となり、フィルタ22を通過しない不要物等がフィルタ22の上流側の表面に滞留し難い。そのため、フィルタ22の性能を比較的長期間、維持することが可能となる。
【0044】
[変形例]
本明細書における開示はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特許請求の範囲及びその要旨を逸脱しない範囲において、以上の例に対して種々の省略、置換、変更などが行われてもよい。
【0045】
(1)液体清澄化装置1は、例えば、海水を淡水化するために用いられてもよい。すなわち、処理対象の液体L1は海水であってもよく、目的の液体L2は淡水(脱塩水)であってもよい。液体清澄化装置1は、例えば、脱イオン処理をするために用いられてもよい。すなわち、処理対象の液体L1はイオン性不純物を含む液体であってもよく、目的の液体L2はイオン性不純物が除去された液体(例えば、脱イオン水)であってもよい。液体清澄化装置1は、例えば、工場等において生ずる廃液から有害物質を除去するために用いられてもよい。液体清澄化装置1は、例えば、飲料(果汁、ワイン等の酒類など)の濃縮や透明化のために用いられてもよい。液体清澄化装置1は、例えば、ウイルス・細菌・微生物・核酸・タンパク質・酵素などの分離・濃縮・精製や、人工透析などのために用いられてもよい。
【0046】
(2)以上の例では、フィルタ部20において、いわゆるタンジェンシャルフロー(クロスフロー)方式により液体L1を処理していたが、直接フロー(デッドエンドフロー)方式により液体L1を処理してもよい。すなわち、フィルタ22の上流側の表面に対して略直交するように、液体L1がフィルタ22に供給されてもよい。
【0047】
(3)以上の例では、フィルタ本体25が1層以上のグラフェンシートで構成されていたが、他の素材で形成された単分子膜又は多分子膜によってフィルタ本体25が構成されていてもよい。フィルタ本体25として、例えば、グラフェンオキサイド膜が用いられてもよいし、グラフェンオキサイドが還元された膜が用いられてもよい。これらに微小孔を形成する手法としては、例えば、グラフェンシートと同様に、加熱酸化が採用されてもよい。フィルタ本体25として、例えば、六方形窒化ホウ素膜が用いられてもよい。これに微小孔を形成する手法としては、例えば、アルゴンプラズマエッチングが採用されてもよい。フィルタ本体25として、例えば、遷移金属ダイカルコゲナイドの単層膜又は多層膜が用いられてもよい。遷移金属ダイカルコゲナイドは、遷移金属元素M(例えば、タングステン、パラジウム、白金、モリブデン、ニオブなど)と、カルコゲン元素X(硫黄、セレン又はテルル)とが結合し、「MX2」の化学組成で表される層状構造を持つ化合物である。遷移金属ダイカルコゲナイドは、例えば、硫化モリブデン、硫化タングステンなどを含む。遷移金属ダイカルコゲナイドに微小孔を形成する手法としては、例えば、アルゴンプラズマエッチングなどの各種のドライエッチングが採用されてもよい。
【0048】
[他の例]
例1.清澄化された液体の製造方法の一例は、不要物を含有する液体を、所定の操作圧にて加圧した状態で、第1の微小孔と、第1の微小孔より大きい第2の微小孔とを含むナノメートルオーダーの複数の微小孔が形成されたフィルタに供給して、液体を分子の状態で第1の微小孔を透過させる第1の工程と、第1の微小孔を透過した液体の分子を加圧して液状に戻す第2の工程とを含む。操作圧は、液体が第2の微小孔を液状で通過しない圧力である。
【0049】
ところで、ナノメートルオーダーの複数の微小孔のうち直径が所定の大きさよりも大きい微小孔(本書において「非極小孔」ともいう。)に液体が接すると、表面張力の作用によって非極小孔に液体が保持されるので、液体が非極小孔を通過しない。一方、ナノメートルオーダーの複数の微小孔のうち直径が所定の大きさ以下の微小孔(本書において「極小孔」ともいう。)に液体が接すると表面張力が作用せず、液体が分子として極小孔を通過する。液体が分子として極小孔を通過する量は液体の圧力に比例するため、フィルタに供給する液体の圧力が高くなるほど収率が高まるようにも思われる。しかしながら、液体の圧力を高めるほど、非極小孔に保持されている液体が表面張力に抗して非極小孔から押し出されてしまい、非極小孔から液体が液状で通過するようになる。
【0050】
この点、例1の方法によれば、液体が第2の微小孔を液状で通過しない操作圧にて加圧した液体を、フィルタに供給している。すなわち、液体が第2の微小孔を液状で通過しない限度で液体が加圧されるので、逆浸透法よりも低い圧力によって、より多量の液体が分子の状態で第1の微小孔を通過するようになる。そのため、液体に不要物が含まれていても、液体のうち分子の状態となった要素がフィルタによって、効率的に取り出される。したがって、処理対象の液体から不要物を分離して目的の液体を低コストで得ることが可能となる。なお、本書において、「清澄化」とは、処理対象の液体が分子の状態でフィルタを透過することで、処理対象の液体から不要物を分離して目的の液体を得ることをいうものとする。
【0051】
例2.例1の方法において、第2の微小孔は複数の微小孔のうち最も大きく、操作圧は、液体をフィルタに加圧して供給したときに、液体が第2の微小孔から液状で通過したときの圧力である透過圧よりも低い圧力であってもよい。この場合、液体の処理中、フィルタに存在する非極小孔の全てにおいて、表面張力により液体が保持される。そのため、非極小孔から液体が液状で通過することがほぼ防止される。したがって、処理対象の液体から不要物を分離して目的の液体をより効率的に得ることが可能となる。
【0052】
例3.例2の方法において、操作圧は透過圧の60%~95%の大きさであってもよい。この場合、液体が第2の微小孔を液状で通過しない限度で、より大きな圧力で液体を加圧できる。そのため、処理対象の液体から不要物を分離して目的の液体をさらに効率的に得ることが可能となる。
【0053】
例4.例1~例3のいずれかの方法において、第1の微小孔の直径が2nm以下であり、第2の微小孔の直径が2nmよりも大きくてもよい。この場合、特に、液体が水である場合に、水が水分子として第1の微小孔を透過しやすくなる。
【0054】
例5.例1~例4のいずれかの方法において、第1の工程は、フィルタの上流側の表面に沿って流れるようにフィルタに液体を供給することを含んでいてもよい。この場合、フィルタに対する液体の流れが、いわゆるタンジェンシャルフロー(クロスフロー)となり、フィルタを通過しない不要物等がフィルタの上流側の表面に滞留し難い。そのため、フィルタの性能を比較的長期間、維持することが可能となる。
【0055】
例6.液体清澄化装置の一例は、第1の微小孔と、第1の微小孔より大きい第2の微小孔とを含むナノメートルオーダーの複数の微小孔が形成されたフィルタと、不要物を含有する液体を、液体が第2の微小孔を液状で通過しない圧力である操作圧にて加圧して、フィルタに供給するように構成された供給部と、第1の微小孔を透過した液体の分子を加圧して液状に戻すように構成された加圧部とを備える。この場合、例1の方法と同様の作用効果が得られる。
【0056】
例7.例6の装置において、前記第2の微小孔は前記複数の微小孔のうち最も大きく、前記操作圧は、前記液体を前記フィルタに加圧して供給したときに、前記液体が前記第2の微小孔から液状で通過したときの圧力である透過圧よりも低い圧力であってもよい。この場合、例2の方法と同様の作用効果が得られる。
【0057】
例8.例7の装置において、前記操作圧は前記透過圧の60%~95%の大きさであってもよい。この場合、例3の方法と同様の作用効果が得られる。
【0058】
例9.例6~例8のいずれかの装置において、前記第1の微小孔の直径が2nm以下であり、前記第2の微小孔の直径が2nmよりも大きくてもよい。この場合、例4の方法と同様の作用効果が得られる。
【0059】
例10.例6~例8のいずれかの装置において、前記供給部は、前記フィルタの上流側の表面に沿って流れるように前記フィルタに前記液体を供給するように構成されていてもよい。この場合、例5の方法と同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0060】
1…液体清澄化装置、10…供給部、20…フィルタ部、22…フィルタ、25a…非極小孔(第2の微小孔)、25b…極小孔(第1の微小孔)、25c…非極小孔(第2の微小孔)、30…加圧部、Ctr…コントローラ(制御部)、L1…処理対象の液体、L2…目的の液体(清澄化された液体)、Pop…操作圧、Ppe…透過圧。