(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135165
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】微生物および微生物由来の有機物汚れの検出及び残留評価技術
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045715
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】石川 秀
(72)【発明者】
【氏名】中小路 菫
(72)【発明者】
【氏名】初岡 徹朗
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ05
4B063QR50
4B063QR66
4B063QS10
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】 簡便な操作で迅速に有機物又は微生物を検出する方法を提供すること。
【解決手段】 検水中の有機物又は微生物を検出する方法であって、前記検水とαアルミナ粒子を混ぜて、検出用αアルミナ粒子を得る工程と、前記検出用αアルミナ粒子に蛍光色素を加えて、蛍光顕微鏡を用いて観察する工程と、を含む、方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検水中の有機物又は微生物を検出する方法であって、
前記検水とαアルミナ粒子を混ぜて、検出用αアルミナ粒子を得る工程と、
前記検出用αアルミナ粒子に蛍光色素を加えて、蛍光顕微鏡を用いて観察する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
蛍光顕微鏡を用いて、前記検出用αアルミナ粒子が発する蛍光強度を測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
蛍光顕微鏡を用いて、前記検出用αアルミナ粒子が発する蛍光の色調を観察する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
洗浄による有機物又は微生物の除去具合を評価する方法であって、
前記有機物又は微生物が付着したαアルミナ粒子を含むインジケーターを用意する工程と、
洗浄前に、洗浄箇所の近傍に前記インジケーターを配置する工程と、
洗浄後に、前記インジケーターに蛍光色素を加えて、蛍光顕微鏡を用いて観察する工程と、
前記インジケーターが発する蛍光の強度又は色調に基づいて、前記有機物又は微生物が除去されたと評価する工程と、を含む、方法。
【請求項5】
前記インジケーターが発する蛍光強度が閾値以下であるとき、前記有機物又は微生物が除去されたと評価する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記蛍光色素がアクリジンオレンジ(AO)であり、前記インジケーターが発する蛍光の色調が緑色であるとき、前記有機物又は微生物が除去されたと評価する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
対象の洗浄方法であって、
対象の表面を拭った検体を水と混合して、検水を用意する工程と
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法により、前記検水中の有機物又は微生物を検出する工程と、
前記有機物又は微生物が付着したαアルミナ粒子を含むインジケーターを用意する工程と、
洗浄前に、汚染されていると判定された表面の近傍に前記インジケーターを配置する工程と、
洗浄後に、インジケーターに蛍光色素を加えて、蛍光顕微鏡を用いて観察する工程と、
前記インジケーターが発する蛍光の強度又は色調に基づいて、前記有機物又は微生物が除去されたと評価する工程と、を含む、方法。
【請求項8】
前記有機物又は微生物が除去されたと評価された前記表面に対して、有機物又は微生物を検出する前記工程を再度行い、有機物又は微生物が検出されないことを確認する工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物および微生物由来の有機物汚れの検出及び残留評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日常生活において、微生物を除去する方法が注目されている。特に、産業界では、点眼薬、注射剤等の無菌製剤を製造するラインにおいて使用する機器及び設備に微生物が付着していると、製剤内へのコンタミネーションを起こす虞があり、製品の品質低下を招くことがある。また、深海、宇宙等の極限環境における生命探査の現場においても、探査前に微生物又は微生物に由来する有機物が所持品に付着していると、その探査結果を検証する際のノイズとなり得る。このような場面で使用する機器、設備の清浄度を確認することは非常に重要である。
【0003】
従来の洗浄プロセスの研究では、しばしば、有機物汚れを有する検体として、ウシ血清アルブミン(BSA)又はペクチンを吸着させたアルミナ粒子やステンレス鋼粉末が使用されている。非特許文献1では、BSAで汚染されたアルミナ粒子をアルカリ洗浄する前にオゾンガスで前処理することにより、BSAが部分的に分解し、BSAの除去効果が向上することを報告している。非特許文献2では、BSAで汚染されたアルミナ粒子を次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)水溶液で洗浄する際、pHを特定の範囲に調整することで、非解離型(HOCl)と解離型(OCl-)の比率が次亜塩素酸ナトリウムの洗浄効果を向上させたことを報告している。非特許文献3では、BSAで汚染されたステンレス鋼粉末の洗浄効果は、熱処理により影響を受けることが報告されている。具体的には、ステンレス鋼粉末を熱処理すると、表面のヒドロキシル化度及び見かけの表面電荷密度(σapp)が顕著に低下し、BSAの吸着量が増加することが報告されている。また、非特許文献4では、Bacillus subtilisの芽胞に対する次亜塩素酸水溶液エアロゾルの殺芽胞効果を検討し、均一空気条件下で再現性のあるデータを取得できることを報告している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Takehara, A. et al. Journal ofBioscience and Bioengineering, Vol.89, No.3, 267-270, 2000.
【非特許文献2】Urano, H. and Fukuzaki S. BiocontrolScience, 2005, Vol.10, Nos.1.2, 21-29.
【非特許文献3】Takahashi, K. et al. BiocontrolScience, 2006, Vol.11, No.2, 61-68.
【非特許文献4】Ishikawa, S. et al. BiocontrolScience, 2019, Vol.24, No.1, 57-65.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に微生物の検出方法としては、平板法、直接計数法、マイクロコロニー法、PCR法、LAMP法が挙げられる。平板法は、検体から抽出した微生物を、栄養を含む寒天平板培地に塗布し、適温で培養してコロニーを形成させる方法であり、操作が煩雑であり、より長い時間を要し、解像度もあまり高くない。直接計数法は、検水中の微生物を蛍光色素で染色し、顕微鏡下で直接計数する方法であり、操作が簡単であるものの、細胞濃度が薄いと細胞を見つけるのが困難である。PCR法及びLAMP法は、検体中の微生物からDNAを抽出し、特定のDNAを増幅させて検出する方法であり、DNA抽出作業が繁雑である。また、非特許文献1~3では、洗浄後のアルミナ粒子やステンレス鋼粉末をカラムクロマトグラフィーにより残存タンパク質を抽出して評価している。しかし、これらの方法では、微生物又は有機物汚れの検出に分析機器が必要であり、その場で迅速に評価することは困難である。
【0006】
そこで、本発明は、簡便な操作で迅速に有機物又は微生物を検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、検水中の有機物又は微生物を検出する方法であって、上記検水とαアルミナ粒子を混ぜて、検出用αアルミナ粒子を得る工程と、上記検出用αアルミナ粒子に蛍光色素を加えて、蛍光顕微鏡を用いて観察する工程と、を含む、方法を提供する。
【0008】
蛍光顕微鏡を用いて観察する際、検出用αアルミナ粒子が発する蛍光強度を測定してもよく、蛍光の色調を観察してもよい。これらの方法により、検水中の有機物又は微生物を検出することができる。有機物は、微生物由来の有機物であり得る。
【0009】
また、本発明は、洗浄による有機物又は微生物の除去具合を評価する方法であって、上記有機物又は微生物が付着したαアルミナ粒子を含むインジケーターを用意する工程と、洗浄前に、洗浄箇所の近傍にインジケーターを配置する工程と、洗浄後に、上記インジケーターに蛍光色素を加えて、蛍光顕微鏡を用いて観察する工程と、上記インジケーターが発する蛍光の強度又は色調に基づいて、上記有機物又は微生物が除去されたと評価する工程と、を含む、方法を提供する。
【0010】
インジケーターに含まれるαアルミナ粒子に蛍光色素を組み合わせると、αアルミナ粒子は蛍光を発する。αアルミナ粒子の表面に吸着された有機物又は微生物の量が多いほど、αアルミナ粒子が発する蛍光の強度が高くなる傾向がある。そのため、インジケーターが発する蛍光強度が閾値以下であるとき、除去対象である有機物又は微生物が除去されたと評価することができる。
【0011】
αアルミナ粒子に組み合わせる蛍光色素がアクリジンオレンジ(AO)であり、たとえばミラーユニットWIB(励起波長:460-495nm、観察波長:510nm以上)で観察した場合、発する蛍光の色調が変化する。αアルミナ粒子のみをAOで染色すると緑色の蛍光を発するが、有機物又は微生物が吸着したαアルミナ粒子は、朱色の蛍光を発する。このような色調の変化は、分析技術に専門知識がない作業者であっても、容易に視認することができ、簡便に洗浄度の評価を行うことができる。
【0012】
さらに、本発明は、以下の工程1~6を含む、対象の洗浄方法を提供する。
工程1:対象の表面を拭った検体を水と混合して、検水を用意する工程、
工程2:上述の方法により、前記検水中の有機物又は微生物を検出する工程、
工程3:有機物又は微生物を付着させたαアルミナ粒子を含むインジケーターを用意する工程、
工程4:洗浄前に、汚染されていると判定された表面の近傍にインジケーターを配置する工程、
工程5:洗浄後に、インジケーターに蛍光色素を加えて、蛍光顕微鏡を用いて観察する工程、
工程6:インジケーターが発する蛍光の強度又は色調に基づいて、前記有機物又は微生物が除去されたと評価する工程。
【0013】
工程6の後、有機物又は微生物が除去されたと評価された表面に対して、有機物又は微生物を検出する工程を再度行い、有機物又は微生物が検出されないことを確認する工程(工程7)をさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便な操作で迅速かつ高感度に有機物又は微生物を検出することができる。また、本発明に係る方法は、高感度に有機物又は微生物を検出できるため、検水中の希薄な濃度の微生物を濃縮する必要がなく、αアルミナ粒子に吸着させるだけで検出することができる。また、本発明によれば、高価で扱いが難しい分析機器を必要とせず、蛍光強度又は蛍光の色調で判定可能であるため、簡単な検査環境で試験が実施できるため検体を持ち運ぶ必要もなく、分析に関する専門知識が乏しい作業者であっても容易に判定することができる。すなわち、本発明に係る方法であれば、オンサイトで簡易かつ迅速に検査を実施することが可能である。
【0015】
本発明に係る洗浄効果の評価方法によれば、洗浄剤又は殺菌剤による洗浄効果を簡便に評価することができ、洗浄効果の高い洗浄剤又は殺菌剤の種類及び濃度を探索することができ、殺菌および洗浄に好適な処理条件を容易に選定することができる。また、インジケーターとして使用することで、評価の度に検体を採取して確認しなくても、上記の選定した殺菌条件が任意の殺菌及び/又は洗浄処理において十分に出力されたかどうか、簡単に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】基材としてαアルミナ粒子又はステンレス鋼粉末を、大腸菌の存在下又は非存在下でリン酸緩衝液(PBS)もしくはグルコース添加NB培地(NBG)で、37℃で1時間保温し、DAPIないしAOで染色して撮影した蛍光顕微鏡写真を比較した図である。
【
図2】DNA吸着αアルミナ粒子を、所定の濃度の洗浄剤(無添加、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(NaClO)、塩化ベンザルコニウム水溶液(BzC)、又はエタノール(EtOH))で洗浄処理を行った後の蛍光顕微鏡写真を比較した図である。
【
図3】
図2に示す各蛍光顕微鏡写真の蛍光強度をグラフで表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態を示して、詳細に説明する。
【0018】
〔第一実施形態〕
本発明の第一実施形態は、検水中の有機物又は微生物を検出する方法であって、上記検水とαアルミナ粒子を混ぜて、検出用αアルミナ粒子を得る工程と、上記検出用αアルミナ粒子に蛍光色素を加えて、蛍光顕微鏡を用いて観察する工程と、を含む、方法である。
【0019】
本実施形態に係る方法は、多様な場面で適用することができる。例えば、医療の現場では、点眼薬又は注射剤は無菌製剤であることが求められる。これら無菌製剤の製造に関係する資材(容器など)や生産機器から拭き取り資料を採取し、汚れを無菌水や緩衝液に溶出させて検水を調製し、本実施形態に係る方法に供することができる。また、手術室の壁面、手術器具の表面を布帛等で拭い、それを水に浸して検水を調製してもよい。手術器具としては、例えば、鉗子、鑷子、剪刀、鉤、メス、持針器などが挙げられる。生物学又は微生物学的研究においても、無菌又は滅菌済みの実験器具(例えば、シャーレ、培地、エーゼ)を使用することがある。特に遺伝子組換え技術又は再生医療用の細胞加工物の調製時には、有機物又は微生物で汚染されていないことが重要であり、細胞培養加工施設(特にCPC(再生医療における培養細胞加工物の供給施設))における清浄環境の維持管理にも適用し得る。このような実験器具の表面を布帛等で拭い、それを水に浸して検水を調製してもよい。食品業界においても、食中毒をもたらす微生物及びそれに由来する毒素を検出することは重要である。さらに、半導体工場等の精密機器の製造工程においても適用し得る。
【0020】
また、近年、深海や宇宙等の未知の極限環境における生命探査の試みが活発に行われている。生命探査によって持ち帰られた検体が、実際にその環境で採取されたものであることを保障するためには、探査に持参した物品に有機物又は微生物が付着していないことを事前に確認する必要がある。探査に行く前に付着した有機物又は微生物が誤って検出された場合、探査結果の評価にも影響し得る。本実施形態に係る方法は、探査に持参する物品だけでなく、探査船や宇宙船等の機体内部の壁面等に対しても適用し得る。
【0021】
また、本実施形態に係る方法は、衛生管理のための表在菌の拭き取り検査で収集した試料を利用し、試料中の微生物の有無を迅速かつ簡便な操作で検出できる。比較的低濃度での微生物の混入が疑われる検水であっても、濃縮する必要がなく、本実施形態に係る方法にそのまま適用することができる。
【0022】
さらに、近年、COVID-19によるパンデミックが発生し、新たな感染性微生物(例えば、細菌、真菌、ウイルス)によるパンデミック又はバイオテロの脅威について広く関心が持たれている。このような緊急時においても、本実施形態に係る検出方法は有用であり得る。本実施形態に係る方法は、例えば、バイオテロやパンデミックにより汚染が生じた空間の復旧作業に伴う除染効果の検証に適用できる。具体的には、本実施形態に係る方法は、家屋の壁面、扉、取っ手、窓、カーテン、机、椅子、ソファー、棚、マット、便器、寝具(例えば、枕、布団)、調理器具、カトラリー、食器、衣服、タオル、靴、バッグ、帽子、階段の手すり、電車のつり革、自動販売機等にも適用できる。本実施形態に係る方法は、物品の表面に付着した細菌細胞の検出に特に適している。検水の調製時に、必要な前処理を実施してもよい。
【0023】
本実施形態に係る方法で検出される有機物又は微生物は、特に限定されず、好ましくは微生物自体又は微生物由来の有機物である。本実施形態に係る方法によれば、特にDNA等の核酸に由来する成分を検出することができるため、核酸を有する微生物も検出可能である。このような微生物は、細菌、真菌、ウイルス等を包含する。また、あらかじめ細胞の総有機物当たりのDNA量を推算しておけば、核酸自体及び微生物を検出することにより、その他の有機物(例えば、糖、タンパク質、脂肪)の残留量についても推測し得る。
【0024】
次に、本実施形態に係る方法の各工程について、詳述する。
【0025】
(1)検水の調製
本明細書において、検水とは、有機物又は微生物を検出しようとする対象である。水性検体中の有機物又は微生物を検出する場合には、水性検体自体を検水として使用することができる。水性検体としては、例えば、点眼薬、点鼻薬、注射剤、液剤、シロップ剤等の液状医薬製剤、飲料もしくはその原料水等が挙げられる。また、機器を水洗した後のドレーン中の汚染物の検出にも適用できる。物品の表面における有機物又は微生物を検出する場合には、当該物品を滅菌済の水もしくは緩衝液に浸して検水を調製してもよい。物品が大きすぎる又は物品が固定されていて水に浸すことが困難な場合には、物品の表面を清潔な滅菌済の布帛(例えば、織布、不織布、編布)、綿棒等で拭い、それを水に浸すことにより、検水を調製してもよい。物品が小さい場合には、それを容器に入れた後、水を注ぐことにより、検水を調製してもよい。
【0026】
検水の調製に使用する水は、検出に影響する成分を含まないものであればよく、好ましくは純水、精製水、蒸留水、脱イオン水、滅菌水、RO水(逆浸透膜でろ過された水)、緩衝液である。
【0027】
(2)αアルミナ粒子への吸着
本明細書において、有機物又は微生物を吸着させたαアルミナ粒子を「検出用αアルミナ粒子」ともいう。
【0028】
αアルミナ粒子は、六方晶系の白色粉末結晶であり、アルミナの結晶形態の中でも安定で最も広く利用されている。αアルミナ粒子は、市販のものを使用することができ、αアルミナ微細結晶粒子が好ましい。本実施形態に係る方法において、蛍光色素が発する蛍光をαアルミナ粒子が増感することにより、高感度な検出が達成される。
【0029】
上記で得られた検水をαアルミナ粒子と混ぜることにより、αアルミナ粒子の表面に有機物又は微生物を吸着させる。このとき、検水中にαアルミナ粒子を加えてもよく、αアルミナ粒子を充填したカラムなどに検水を通水してもよい。αアルミナ粒子への吸着をより確実にするため、検水とαアルミナ粒子を混ぜた後によく撹拌することが好ましい。
【0030】
検水とαアルミナ粒子を混ぜた後、余分な検水を除くことで検出用αアルミナ粒子を得ることができる。余分な検水を除去する方法としては、ろ過、遠心分離等が挙げられる。αアルミナ粒子に吸着されていない有機物又は微生物を除去するために、水洗を行うことが好ましい。例えば、αアルミナ粒子を充填させたカラムに検水を注ぎ、余分な検水を排出した後、水の注入と排出を繰り返して洗浄してもよい。余分な検水を除去した後、検出用αアルミナ粒子を乾燥することが好ましい。微生物汚染の有無の1次スクリーニングとして本方法を適用する場合は、検水とαアルミナの混和後、あえて水洗を省略して検出に供することもできる。
【0031】
(3)蛍光色素の添加及び蛍光シグナルの検出
本実施形態に係る方法では、上記で得られた検出用アルミナ粒子に蛍光色素を加えて、蛍光顕微鏡で観察することにより、検水中に含まれる有機物又は微生物を検出することができる。蛍光顕微鏡は、蛍光分析に使用できるものであればよく、例えば、落射型蛍光顕微鏡を使用できる。検出用αアルミナ粒子に蛍光色素を加えて染色した後、蛍光顕微鏡のサンプル台にセットする。使用した蛍光色素に応じた励起光を照射して、検出用αアルミナ粒子から発せられる蛍光を観察する。蛍光顕微鏡で観察する際に、ノイズをカットしたり、コントラストを高めたりするためのフィルターを使用してもよい。例えばミラーユニットWU(励起波長:330-385nm、観察波長:420nm以上)やWIB(励起波長:460-495nm、観察波長:510nm以上)を適用することができる。
【0032】
蛍光色素としては、一般的に蛍光分析で使用される色素を使用できる。微生物を検出する場合には、微生物中の核酸を検出するため、膜透過性のある蛍光色素を使用することが好ましい。蛍光色素としては、例えば、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)、Hoechst33342、Hoschst33258(Hoechst社製)、アクリジンオレンジ(AO)、SYTO9、プロピジウムヨージド(PI)等が挙げられる。検出の目的に応じて、適切な蛍光色素を選択できる。
【0033】
蛍光色素がDAPI、Hoechst33342、Hoschst33258(Hoechst社製)である場合、検出用αアルミナ粒子が発する蛍光は、吸着された有機物又は微生物の量が多いほど、強い蛍光を発する。例えば、有機物又は微生物が吸着されていないαアルミナ粒子と蛍光色素を混ぜたときの蛍光強度を指標として、有機物又は微生物が吸着されているかどうかを判定できる。蛍光色素としてDAPIを使用する場合、後述する測定条件であれば、DNAが吸着していないαアルミナ粒子が発する蛍光の強度は20~40であり、DNAが吸着したαアルミナ粒子が発する蛍光の強度は70~120である。この測定条件では、蛍光強度が70以上、65以上、60以上、55以上、50以上、又は40超であれば、DNAが残存していると判定できる。この判定基準の数値を閾値ともいう。蛍光強度が閾値以上であれば、有機物又は微生物が付着している(汚染されている)と判定できる。
【0034】
蛍光色素がAOである場合、ミラーユニットWIB(励起波長:460-495nm、観察波長:510nm以上)を介して蛍光観察すると、DNAが吸着していないαアルミナ粒子は緑色蛍光を発し、DNAが吸着したαアルミナ粒子は朱色蛍光を発する。DNAの吸着の有無によって発する蛍光の色調が顕著に異なり、目視で視認できるため、蛍光強度を測定することなく、有機物又は微生物を検出することができる。また、DNAの吸着の有無にかかわらず、測定用の励起光を照射することで朱色又は緑色の蛍光を発することから、未熟な測定者が励起光を照射し忘れるという技術的なミスを回避することができる。AOの蛍光色調の変化を観察するために、必要に応じて、それぞれの検出波長に対応したフィルターを使用してもよい。
【0035】
さらに、蛍光色素としてSYTO9(励起波長:485nm)を使用すると、全細胞が緑色蛍光(検出波長として498nm)を発し、プロピジウムヨージド(PI、励起波長:535nm)を使用すると、死細胞が赤色蛍光(検出波長として617nm)を発する。SYTO9及びPIを同時に使用(二重染色)することにより、生細胞は緑色蛍光を発し、死細胞は赤色蛍光を発するため、吸着された微生物の生死判定も行うことができる。SYTO9は膜透過性があるため、微生物の核DNAを染色することができるが、PIは膜透過性がないため、膜にダメージがある死細胞のDNAのみを染色することができる。発する蛍光の色調の違いで生死判定ができるため、本明細書の技術と組み合わせれば検水中の微生物について、細胞の生死判定を伴った簡易迅速検出も可能となる。
【0036】
本実施形態に係る方法によれば、簡便な操作で迅速に、対象の有機物又は微生物による付着を定性的に検出することができる。また、分析技術に関する専門的な知識がない測定者であっても、有機物又は微生物の残存状況を容易に判定することができる。
【0037】
本実施形態に係る方法は、平板法、直接計数法、マイクロコロニー法、PCR法(定量PCRを含む)、LAMP法、免疫クロマトグラフィー等のその他の分析手法と組み合わせてもよい。
【0038】
〔第二実施形態〕
本発明の第二実施形態は、洗浄による有機物又は微生物の除去具合を評価する方法であって、上記有機物又は微生物が付着したαアルミナ粒子を含むインジケーターを用意する工程と、洗浄前に、洗浄箇所の近傍にインジケーターを配置する工程と、洗浄後に、上記インジケーターに蛍光色素を加えて、蛍光顕微鏡を用いて観察する工程と、上記インジケーターが発する蛍光の強度又は色調に基づいて、上記有機物又は微生物が除去されたと評価する工程と、を含む、方法である。
【0039】
本実施形態では、例えば、対象に付着した特定の有機物又は微生物を除去する際の適用に適しており、あらかじめ所定量の有機物又は微生物が付着したαアルミナ粒子を調製し、インジケーターとして利用する。本実施形態に係る方法おいて、インジケーターは、第一実施形態において調製した検出用αアルミナ粒子であってもよい。
【0040】
インジケーターは、上記検出用αアルミナ粒子のみであってもよく、容器に入れた又は皿に載せた検出用αアルミナ粒子であってもよい。容器は、洗浄効果を妨げないものであればよく、例えば、布帛(例えば、織布、不織布、編布)製のバッグ、一部が開放した容器であってもよい。容器又は皿は、検出用αアルミナ粒子に洗浄処理(例えば、洗浄剤や殺菌剤またはそのガス、蒸気、ミスト、熱、光)が到達できるものであればよく、メッシュ状の袋であってもよい。
【0041】
インジケーターは、機器や設備に付着した有機物又は微生物を除去する際の指標として使用することができ、洗浄を実施する場所に設置して、洗浄対象とともに洗浄処理に付される。洗浄処理の後、インジケーターを回収し、洗浄処理による有機物又は微生物の除去効果が十分であったかどうかを判定するのに適している。
【0042】
インジケーターに使用する有機物又は微生物は、実際に洗浄処理を行う場所からサンプリングしたものであってもよく、モデル基質であってもよい。DNA、RNA等の核酸のモデルとしてλDNAを、ビタミンB、補酵素等のビタミン類のモデルとしてアクリジンオレンジ(AO)等の色素を使用できる。
【0043】
蛍光色素としてDAPIを使用する場合、蛍光強度が閾値以下であれば、十分に洗浄されたと判定できる。蛍光強度が閾値より大きいときは、十分に洗浄されていないと判定できる。有機物又は微生物が吸着していないαアルミナ粒子は、蛍光顕微鏡で観察しても、その蛍光強度は目視で認識できない。そのため、蛍光顕微鏡で観察したときに、蛍光が視認できなければ、十分に洗浄されたと判定してもよい。
【0044】
蛍光色素としてAOを使用し、ミラーユニットWIBを介して観察する場合、緑色蛍光を発していれば、十分に洗浄されたと判定できる。朱色蛍光を発していれば、十分に洗浄されていないと判定できる。蛍光色素としてAOを使用する場合には、その色相の違いを検鏡によって目視で観察してもよく、蛍光検出器を用いて特定波長の蛍光を検出してもよい。
【0045】
蛍光色素としてSYTO9及びPIを使用する場合、付着した微生物の生死判定を行うこともできる。検出用αアルミナ粒子が緑色蛍光を発していれば、生きている微生物が付着しており、赤色蛍光を発していれば死んだ微生物が付着していると判定できる。洗浄の目的が生きている微生物の除去であるならば、緑色蛍光を発しているかを判定基準としてもよい。
【0046】
本実施形態に係る方法によれば、有機物又は微生物の残留を許容できない高度にクリーンな環境を構築するための洗浄処理の効果を評価できる。本実施形態に係る方法では、有機物又は微生物が吸着された基材(インジケーターともいう。)として、DNA等の核酸が吸着されたαアルミナ粒子を使用する。インジケーターを洗浄箇所の近傍に配置し、同様の洗浄処理に曝露させる。洗浄処理の後、インジケーターを回収し、蛍光色素で染色して、蛍光顕微鏡で観察する。
【0047】
本明細書において、「近傍」とは、「洗浄すべき場所」を洗浄する際に、洗浄処理の影響が到達する場所であればよく、同一空間内又は同一室内であり、「洗浄すべき場所」の中心部から5m以内、4m以内、3m以内、2m以内、又は1m以内であることが好ましい。
【0048】
また、病院の手術室、実験室、探査船、宇宙船等の特定の空間全体を洗浄する場合には、大規模な洗浄(例えば、気体状の洗浄剤を噴霧する)が行われる。各位置の洗浄効果を効率的に評価するためには、その都度、検水を用意するよりも、あらかじめインジケーターを用意して評価を行うのが好ましい。第一実施形態に係る方法によって対象の複数の位置(例えば、位置A、B、C)において有機物又は微生物が検出された場合、その検出された位置は洗浄すべき位置であると認識できる。次に、各位置に対応するインジケーターA、B、Cを用意し、対応する位置の近傍に配置する。その後、洗浄操作を行い、各インジケーターから検出用αアルミナ粒子を回収し、蛍光色素を加えた後、蛍光顕微鏡を用いて観察することにより、各位置における洗浄具合を評価することができる。
【0049】
検出用αアルミナ粒子における有機物又は微生物の付着量は、洗浄箇所の水準と同等であってもよく、所定の付着量に定めてもよい。例えば、付着量が異なるインジケーターを複数用意して、所定の方法による洗浄を行った場合の有機物又は微生物の除去効果を評価するのにも適用し得る。第一実施形態に係る方法により、有機物又は微生物の付着量Xを測定した後、その付着量Xと同等の付着量を有するインジケーターa、付着量Xの50%に相当する付着量を有するインジケーターb、付着量Xの25%に相当する付着量を有するインジケーターcを用意し、同時に所定の洗浄操作を行う。洗浄後、各インジケーターを回収し、有機物又は微生物の付着量を測定することにより、その洗浄操作によってどの程度の除去効果が得られるかを評価することができる。
【0050】
洗浄処理は、その目的に応じた公知の洗浄処理を採用することができる。洗浄処理としては、例えば、洗浄剤又は殺菌剤の噴霧、熱又は光の照射などが挙げられる。
【0051】
洗浄剤又は殺菌剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸、二酸化塩素、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の第四級アンモニウム塩、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩、イソプロピルメチルフェノール、クレゾール、クロルヘキシジン、アクリノール、ポビドンヨード、エチレンオキシド、グルタルアルデヒド、オルトフタルアルデヒド、オゾン、過酸化水素、過酢酸、及びこれらの組み合わせが挙げられる。洗浄剤又は殺菌剤は、水溶液、懸濁液、ミスト、ガスの形態であってもよい。
【0052】
洗浄剤が液状又はミスト状である場合には、洗浄処理後のインジケーターが濡れていることがある。その場合には、検出用αアルミナ粒子からドリップが垂れることで、試料が二次汚染される可能性があるため、吸水ポリマーを用いてドリップを吸収してもよい。
【0053】
本実施形態に係る方法によれば、洗浄剤又は殺菌剤による洗浄効果を簡便に評価することができ、洗浄効果の高い洗浄剤又は殺菌剤の種類及び濃度を探索することができる。また、インジケーターを使用することで、評価の度に検体を採取する必要もない。また、洗浄剤又は殺菌剤の種類及び濃度が異なる処理を施すことにより、有機物又は微生物の付着量の多寡を検水ごとに把握することができる。例えば、ある室内の異なる複数の場所からサンプリングを行い、検水を調製することにより、当該室内における有機物又は微生物の付着の多寡をマッピングすることもできる。
【0054】
本実施形態に係る方法は、平板法、直接計数法、マイクロコロニー法、定量PCR法、定量LAMP法、免疫クロマトグラフィー等のその他の分析手法と組み合わせてもよい。
【0055】
DAPI等の蛍光色素は、核酸との複合体を形成することで蛍光を発するため、核酸以外の有機物を直接的に評価することはできない。しかし、細胞中に含まれる総有機物に対するDNAの相対量を予め調べておくことにより、DNAの検出を介して有機物の残存量を推測することもできる。
【0056】
〔第三実施形態〕
本発明の第三実施形態は、以下の工程1~6を含む、対象の洗浄方法である。
工程1:対象の表面を拭った検体を水と混合して、検水を用意する、
工程2:上述の方法により、前記検水中の有機物又は微生物を検出する、
工程3:有機物又は微生物が付着したαアルミナ粒子を含むインジケーターを用意する、
工程4:洗浄前に、汚染されていると判定された表面の近傍にインジケーターを配置する、
工程5:洗浄後に、インジケーターに蛍光色素を加えて、蛍光顕微鏡を用いて観察する、
工程6:インジケーターが発する蛍光の強度又は色調に基づいて、前記有機物又は微生物が除去されたと評価する。
【0057】
本実施形態に係る方法は、第一実施形態及び第二実施形態を組み合わせであり、詳細については各実施形態の記載を適宜参酌できる。具体的には、工程1及び2は第一実施形態に対応し、工程3~6は第二実施形態に対応する。工程7は、工程6を実施した結果、有機物又は微生物が除去されたと判断された後、確認のために再度、検出工程を設けるものである。
【0058】
工程1では、第一実施形態の記載にしたがい、検水を調製する。例えば、高い清浄度管理を求められる工室又は研究室において、室内各所の設備表面、洗浄すべき場所を布帛、綿棒等で拭き取りを行い、サンプルを回収する。回収した各サンプルを精製水等に懸濁させて、検水を調製する。検水の調製で使用する水は、好ましくは滅菌水または滅菌済みの生理食塩水等の緩衝液である。工程1では、検体と水を混合して、微生物又は有機物汚れを十分に溶出させる。工程2では、調製した検水とαアルミナ粒子を混合して、検出用αアルミナ粒子を得る。得られた検出用αアルミナ粒子に蛍光色素を加えて、必要に応じて水洗を行い、蛍光顕微鏡を用いて観察する。工程1及び2により、有機物又は微生物が検出された場所が「汚染されている」と判定でき、すなわち「洗浄すべき場所」である。
【0059】
工程3では、上記「洗浄すべき場所」から採取したサンプルを用いて、有機物又は微生物が付着したαアルミナ粒子を用意し、必要に応じて容器に入れるか又は皿に載せる等してインジケーターを用意する。有機物又は微生物を付着させたαアルミナ粒子は、工程2で調製した検出用αアルミナ粒子を使用してもよく、新たに検水を用いて調製してもよい。また、指標となるような有機物又は微生物を、一定量均一になるようにαアルミナ粒子に付着させて、検出用αアルミナ粒子を調製してもよい。有機物又は微生物を付着させたαアルミナ粒子は、必要に応じて乾燥(例えば、風乾)される。実際にサンプリングした有機物又は微生物ではなく、別途用意したモデル基質をαアルミナ粒子に付着させてもよい。モデル基質としては、λDNA等の核酸、AO等の色素が挙げられる。
【0060】
工程4では、洗浄前に、工程2で汚染されていると判定された箇所(洗浄すべき場所)の近傍に、工程3で用意したインジケーターを配置する。工程4の後、洗浄処理を行う。洗浄処理は、その目的に応じた公知の洗浄処理を採用することができる。洗浄処理としては、例えば、洗浄剤又は殺菌剤の噴霧、熱又は光の照射などが挙げられる。
【0061】
工程5では、洗浄後に、洗浄処理を曝露された各インジケーターを回収し、蛍光色素を加えて、蛍光顕微鏡を用いて観察する。蛍光色素を加えた後、余分な蛍光色素を除くために、必要に応じて水洗してもよい。
【0062】
工程6では、工程5で観察した結果、αアルミナ粒子が発する蛍光の強度又は色調に基づいて、有機物又は微生物が除去されたかどうかを評価する。蛍光色素がDAPI、Hoechst33342、Hoschst33258(Hoechst社製)である場合、蛍光強度が閾値以上であると、まだ汚染されている(すなわち、有機物又は微生物が付着している)と判定でき、蛍光強度が閾値未満であると、汚染されていない(すなわち、有機物又は微生物が除去された)と判定できる。また、蛍光色素がAOである場合、朱色蛍光が観察されると、まだ汚染されている(すなわち、有機物又は微生物が付着している)と判定でき、緑色蛍光が観察されると、汚染されていない(すなわち、有機物又は微生物が除去された)と判定できる。もし「まだ汚染されている」と判定される場合には、「汚染されていない」と判定されるまで工程3~4を繰り返す。
【0063】
本実施形態に係る方法は、工程6の後、有機物又は微生物が除去されたと評価された表面に対して、有機物又は微生物を検出する工程を再度行い、有機物又は微生物が検出されないことを確認する工程(工程7)をさらに含んでもよい。工程7では、確認のために、再度、第一実施形態に係る方法により、有機物又は微生物の検出を行う。工程7は、必須の工程ではなく、例えば、洗浄工程を保証するための確認的作業であり得る。例えば、洗浄の依頼を受けた者は、工程7で得られた結果を報告書に記載し、依頼者に提出してもよい。
【実施例0064】
以下、実験例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は、下記実験例に限定されるものではない。
【0065】
(実験例1)微生物細胞の簡易・高感度検出
αアルミナ微細結晶粒子(粒径:5μm)は5倍量以上の蒸留水(DW)で2回洗浄(2000×g、5分)し、風乾させた。NBG液体培地(NB培地にグルコースを終濃度2%で添加したもの、非特許文献4参照)に大腸菌JM109を植菌し、37℃で一晩振蕩培養した。αアルミナ微細結晶粒子を終濃度で1.5%(v/v)、かつ大腸菌細胞を光学密度OD660が1.8相当になるように、100mMリン酸緩衝生理食塩水PBS(pH7.4)またはNBG液体培地に懸濁し、30℃で2時間保温してカクテルを得た。カクテルは10~15分ごとに撹拌し、αアルミナ微細結晶粒子が沈降したままにならないように維持した(吸着処理)。吸着処理後、αアルミナ微細結晶粒子が確実に含まれるようにカクテル1mLをマイクロチューブに分取し、スピンダウン用の遠心機で沈降画分に回収した。その後、滅菌蒸留水(SDW)で3回洗浄し、液中に浮遊している大腸菌を可能な限り除去し、DAPI又はAOで染色して観察した。また、αアルミナ微細結晶粒子に代えて、ステンレス鋼粉末を用いて、同様の処理を行った。
【0066】
結果を
図1に示す。大腸菌が存在しない場合、αアルミナ粒子はDAPIと混ぜても蛍光を示さず、AOと混ぜると緑色蛍光を示した。大腸菌が存在する場合、αアルミナ粒子はDAPIと混ぜると青色蛍光を示し、AOと混ぜると朱色蛍光を示した。PBSとNBG液体培地の両方で同様の傾向が観察された。一方、αアルミナ粒子と同等量の大腸菌と温和したステンレス鋼粉末は、いずれの場合にも蛍光を示さず、わずかに大腸菌細胞自体が光点として確認できる。αアルミナ粒子を用いた場合、吸着した大腸菌の周辺のαアルミナ粒子も蛍光を発することで、わずかな菌数の大腸菌であっても鋭敏に検出できた。
【0067】
(実験例2)有機汚れの洗浄成績評価、残留評価
(1)有機物汚れインジケーターの調製
蒸留水で洗浄したαアルミナ微細結晶粒子に、常温又は氷冷下でDNAを混和して、DNA吸着αアルミナ粒子を得た。λDNA 25μg/mL、αアルミナ微細結晶粒子0.02g/mL(1.5%(v/v)相当)となるように、DNA吸着αアルミナ粒子を1xTAE緩衝液(pH8.0)に混和し、氷温で1時間、穏やかに撹拌した(吸着処理、10~15分ごとに穏やかに撹拌した。)。吸着処理中、チューブは氷上に寝かして置き、アルミナ粒子が沈積しないようにした。吸着処理後、DNA吸着αアルミナ粒子を蒸留水(DW)で2回洗浄(10000rpm、フラッシュ)し、40℃で1晩乾燥してから、蛍光顕微鏡で観察した。
【0068】
(2)洗浄操作と洗浄成績の判定
DNA吸着αアルミナ粒子を蒸留水(DW)に懸濁して、予め洗浄試験に使用する量(終濃度で0.02g/mL(1.5%(v/v)相当))をマイクロチューブに分注し、上澄液を捨てて、風乾させた。風乾後のαアルミナ粒子のペレットは比較的固いため、供試前に指ではじいてほぐしておいた。精製水に洗浄剤(次亜塩素酸ナトリウム水溶液、エタノール)又は殺菌剤(塩化ベンザルコニウム水溶液)を添加して、洗浄カクテルを得た。得られたカクテルにDNA吸着αアルミナ粒子を添加して混和し、Tube Rotator TR-350(AS ONE CORPORATION製)を用いて穏やかに撹拌しながら、常温で1時間洗浄処理を行った(タイムコース試験では5~40分処理とした)。洗浄カクテルに添加した洗浄剤又は殺菌剤は以下の通りである。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(終濃度で0.01、0.1、0.2、1、10、1000ppm-AC(有効塩素濃度換算のppmの意味))、
塩化ベンザルコニウム水溶液(終濃度2.5、250mg/L)
エタノール(30%(v/v))。
洗浄処理後、αアルミナ粒子を遠心処理(10000rpm、フラッシュ)により回収し、蒸留水(DW)で2回洗浄し、1mg/LのDAPIで15分染色処理を行い、更に蒸留水(DW)で2回洗浄して蛍光顕微鏡で観察した。
【0069】
結果を
図2、3に示す。
図2に示すように、洗浄剤又は殺菌剤で処理していない場合、DNA吸着αアルミナ粒子は青色蛍光を示した。
図3に示すように、DNA吸着αアルミナ粒子では、蛍光強度が70~95であったのに対し、DNA未吸着αアルミナ粒子では、蛍光強度は25~35であった。したがって、これらの数値を指標として、洗浄効果を判定することができる。
【0070】
0.01又は0.1ppm-AC濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液で洗浄しても、青色蛍光が観察されたことから、これらの洗浄効果は不十分であると考えられた。一方、1、10又は1000ppm-AC濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液で洗浄すると、青色蛍光が観察されなかったことから、これらの洗浄効果は十分であると考えられた。
図3に示すように、蛍光強度の数値からも、上記の判定結果が裏付けられた。また、イオン性殺菌剤の一種である塩化ベンザルコニウムを用いた場合、DNAを洗浄する効果は不十分であった。30%エタノールを用いた場合も、DNAを洗浄する効果は不十分であった。