IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-エジェクタ冷却装置 図1
  • 特開-エジェクタ冷却装置 図2
  • 特開-エジェクタ冷却装置 図3
  • 特開-エジェクタ冷却装置 図4
  • 特開-エジェクタ冷却装置 図5
  • 特開-エジェクタ冷却装置 図6
  • 特開-エジェクタ冷却装置 図7
  • 特開-エジェクタ冷却装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135173
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】エジェクタ冷却装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F25B1/00 389A
F25B1/00 341R
F25B1/00 361P
F25B1/00 371B
F25B1/00 371C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045724
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 健
(72)【発明者】
【氏名】吉田 時空
(72)【発明者】
【氏名】安嶋 賢哲
(57)【要約】
【課題】エジェクタ冷凍サイクルに圧縮機を導入したハイブリッド形式の冷凍サイクルを適用したエジェクタ冷却装置の装置起動時におけるポンプのキャビテーション発生を簡易な構成で回避することができるエジェクタ冷却装置を提供する。
【解決手段】制御部Cは、装置起動時、圧縮機7をオンにするとともにポンプ3をオフにし、開閉弁V2を閉にして切替機構9を介して圧縮機7からの冷媒をエジェクタ1の吐出口1cに流動させる圧縮式モードに切り替え、ポンプ圧力Piをもとに飽和温度を求め、ポンプ温度Tiが飽和温度から所定過冷却度、減算した温度以下である場合にポンプ3を起動して運転モード制御を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を昇圧するポンプと、熱供給源から供給される熱源水により冷媒を加熱しエジェクタ駆動流を発生させる蒸気生成器と、冷媒を減圧する膨張弁と、前記膨張弁によって減圧された冷媒により被冷却媒体を冷却する蒸発器と、前記蒸気生成器からの冷媒のエジェクタ駆動流によって前記蒸発器により蒸発した冷媒を吸引するエジェクタと、前記エジェクタ内への吸引後に前記エジェクタ駆動流と混合した冷媒を冷却する凝縮器とを有するエジェクタ冷却装置であって、
前記蒸発器と前記エジェクタとの間に配置されて前記蒸発器からの冷媒を圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機の前記エジェクタの吸引入口への接続と前記圧縮機の前記エジェクタの吐出口への接続とを少なくとも切り替える切替機構と、
前記圧縮機に並列接続される開閉弁と、
前記圧縮機の吸引側の冷媒圧力である圧縮機圧力を検出する圧縮機圧力センサと、
前記エジェクタの吐出側の冷媒圧力である背圧を検出する背圧センサと、
前記ポンプの吸引側の冷媒温度であるポンプ温度を検出するポンプ温度センサと、
前記ポンプの吸引側の冷媒圧力であるポンプ圧力を検出するポンプ圧力センサと、
前記圧縮機圧力に対する背圧の圧力比が第1閾値未満の場合、前記圧縮機をオフにするとともに前記開閉弁を開にして前記切替機構を介して前記蒸発器からの冷媒を前記エジェクタの吸引入口に流動させるエジェクタモードに切り替え、前記圧力比が前記第1閾値以上、かつ、第2閾値未満である場合、前記圧縮機をオンにするとともに前記開閉弁を開にして前記切替機構を介して前記圧縮機からの冷媒を前記エジェクタの吐出口に流動させる並列ハイブリッドモードに切り替え、前記圧力比が前記第2閾値以上の場合、前記圧縮機をオンにするとともに前記開閉弁を閉にして前記切替機構を介して前記圧縮機からの冷媒を前記エジェクタの吸引入口に流動させる直列ハイブリッドモードに切り替える運転モード制御を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、装置起動時、前記圧縮機をオンにするとともに前記ポンプをオフにし、前記開閉弁を閉にして前記切替機構を介して前記圧縮機からの冷媒を前記エジェクタの吐出口に流動させる圧縮式モードに切り替え、前記ポンプ圧力をもとに飽和温度を求め、前記ポンプ温度が前記飽和温度から所定過冷却度、減算した温度以下である場合に前記ポンプを起動して前記運転モード制御を行うことを特徴とするエジェクタ冷却装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ポンプ温度が前記飽和温度から所定過冷却度、減算した温度以下でない場合、前記圧縮機の回転数を所定値増加させる処理を繰り返すことを特徴とする請求項1に記載のエジェクタ冷却装置。
【請求項3】
前記蒸気生成器に供給される前記熱源水の温度を検出する熱源水温度センサを備え、
前記制御部は、前記熱源水の温度が所定閾値温度未満である場合、前記圧縮式モードに切り替えて前記運転モード制御を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のエジェクタ冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エジェクタ冷凍サイクルに圧縮機を導入したハイブリッド形式の冷凍サイクルを適用したエジェクタ冷却装置の装置起動時におけるポンプのキャビテーション発生を簡易な構成で回避することができるエジェクタ冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エジェクタ冷却装置としては、例えば特許文献1に記載されたものが既に提供されている。このエジェクタ冷却装置のエジェクタ冷凍サイクルはポンプのみで駆動できるため、圧縮機を用いた圧縮式冷凍サイクルに比較して消費電力を抑えることができる。しかし、凝縮器を流れる冷却水の温度が高いとエジェクタの背圧が上昇し、冷凍能力及び装置効率が大幅に低下してしまうことがある。
【0003】
このため、特許文献2では、圧縮機を導入したエジェクタ冷却装置が提案されている。その1つは、圧縮機とエジェクタとを直列に連結し、エジェクタにより圧縮機の吐出圧力を低減することにより、圧縮機の消費電力を低減するようにしている。また、他の1つとして、圧縮機とエジェクタとを並列に配置するものが提案されている。
【0004】
また、特許文献3には、最下部へのポンプ設置、凝縮器や貯留タンク内冷媒の液位ヘッドの確保、貯留タンクへの冷媒回収運転などによるポンプのキャビテーション回避手段をもつエジェクタ冷却装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-190587号公報
【特許文献2】特開2011-94814号公報
【特許文献3】特開2022-28593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、圧縮機を導入したエジェクタ冷却装置では、装置起動時に電源をオンさせるとポンプと圧縮機とが同時に運転を開始するため、ポンプの吸込み圧力が冷媒の飽和圧力より低くなるキャビテーションが発生する。このキャビテーションの発生は、流量の急減や異常振動等による機器の破損の原因となるため回避する必要がある。なお、装置起動時に凝縮器に十分な液冷媒が無いためにポンプ吸い込み時に気相冷媒が混入し、同様の障害が発生する場合がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、エジェクタ冷凍サイクルに圧縮機を導入したハイブリッド形式の冷凍サイクルを適用したエジェクタ冷却装置の装置起動時におけるポンプのキャビテーション発生を簡易な構成で回避することができるエジェクタ冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、冷媒を昇圧するポンプと、熱供給源から供給される熱源水により冷媒を加熱しエジェクタ駆動流を発生させる蒸気生成器と、冷媒を減圧する膨張弁と、前記膨張弁によって減圧された冷媒により被冷却媒体を冷却する蒸発器と、前記蒸気生成器からの冷媒のエジェクタ駆動流によって前記蒸発器により蒸発した冷媒を吸引するエジェクタと、前記エジェクタ内への吸引後に前記エジェクタ駆動流と混合した冷媒を冷却する凝縮器とを有するエジェクタ冷却装置であって、前記蒸発器と前記エジェクタとの間に配置されて前記蒸発器からの冷媒を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機の前記エジェクタの吸引入口への接続と前記圧縮機の前記エジェクタの吐出口への接続とを少なくとも切り替える切替機構と、前記圧縮機に並列接続される開閉弁と、前記圧縮機の吸引側の冷媒圧力である圧縮機圧力を検出する圧縮機圧力センサと、前記エジェクタの吐出側の冷媒圧力である背圧を検出する背圧センサと、前記ポンプの吸引側の冷媒温度であるポンプ温度を検出するポンプ温度センサと、前記ポンプの吸引側の冷媒圧力であるポンプ圧力を検出するポンプ圧力センサと、前記圧縮機圧力に対する背圧の圧力比が第1閾値未満の場合、前記圧縮機をオフにするとともに前記開閉弁を開にして前記切替機構を介して前記蒸発器からの冷媒を前記エジェクタの吸引入口に流動させるエジェクタモードに切り替え、前記圧力比が前記第1閾値以上、かつ、第2閾値未満である場合、前記圧縮機をオンにするとともに前記開閉弁を開にして前記切替機構を介して前記圧縮機からの冷媒を前記エジェクタの吐出口に流動させる並列ハイブリッドモードに切り替え、前記圧力比が前記第2閾値以上の場合、前記圧縮機をオンにするとともに前記開閉弁を閉にして前記切替機構を介して前記圧縮機からの冷媒を前記エジェクタの吸引入口に流動させる直列ハイブリッドモードに切り替える運転モード制御を行う制御部と、を備え、前記制御部は、装置起動時、前記圧縮機をオンにするとともに前記ポンプをオフにし、前記開閉弁を閉にして前記切替機構を介して前記圧縮機からの冷媒を前記エジェクタの吐出口に流動させる圧縮式モードに切り替え、前記ポンプ圧力をもとに飽和温度を求め、前記ポンプ温度が前記飽和温度から所定過冷却度、減算した温度以下である場合に前記ポンプを起動して前記運転モード制御を行うことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記の発明において、前記制御部は、前記ポンプ温度が前記飽和温度から所定過冷却度、減算した温度以下でない場合、前記圧縮機の回転数を所定値増加させる処理を繰り返すことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記の発明において、前記蒸気生成器に供給される前記熱源水の温度を検出する熱源水温度センサを備え、前記制御部は、前記熱源水の温度が所定閾値温度未満である場合、前記圧縮式モードに切り替えて前記運転モード制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エジェクタ冷凍サイクルに圧縮機を導入したハイブリッド形式の冷凍サイクルを適用したエジェクタ冷却装置の装置起動時におけるポンプのキャビテーション発生を簡易な構成で回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施の形態であるエジェクタ冷却装置の構成を示す回路図である。
図2図2は、圧力比(Pd/Ps)に対する運転モード効率及び冷凍能力の変化を示す図である。
図3図3は、運転モードに対する圧縮機、ポンプ、開閉弁の切替状態を示す図である。
図4図4は、運転モードにおける冷媒の流れを示す図である。
図5図5は、制御部による運転モード処理手順を示すフローチャートである。
図6図6は、図1に示したエジェクタ冷却装置の運転制御処理を示す全体フローチャートである。
図7図7は、図1に示したエジェクタ冷却装置の起動運転モード処理を示す詳細フローチャートである。
図8図8は、起動運転モード処理によってポンプで吸引できる冷媒が液相となってポンプの起動を可能にする状態変化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照してこの発明を実施するための形態について説明する。
【0014】
<全体構成>
図1は、本発明の実施の形態であるエジェクタ冷却装置の構成を示す回路図である。ここで例示するエジェクタ冷却装置は、工場排水や使用済み冷却水等の排温水からの排熱を熱源水として回収し、被冷却媒体を冷却した冷水を生成するものであり、エジェクタ冷凍サイクルに圧縮機7による圧縮式冷凍サイクルを適用したものである。なお、被冷却媒体としては、水や油、空気あるいはその他の冷媒を対象とすることができる。本実施の形態では、特に、排温水から回収した排熱により、被冷却水から冷水を生成するエジェクタ冷却装置を例示している。
【0015】
エジェクタ冷却装置は、エジェクタ1、凝縮器2、ポンプ3、蒸気生成器4を順次接続した循環経路を有する。また、エジェクタ冷却装置には、凝縮器2とポンプ3との間の分岐点P1において循環経路を流通する冷媒の一部を吸引流体としてエジェクタ1に供給する。
【0016】
分岐点P1から分岐した冷媒は、膨張弁5、蒸発器6を介してエジェクタ1側に供給される。蒸発器6の下流には、分岐点P2から圧縮機7及び逆止弁8が並列接続され、切替機構9に接続される。圧縮機7の吐出冷媒は、切替機構9により、エジェクタ1の吸引入口1b又は吐出口1cに接続される。エジェクタ1の駆動流入口1aには、蒸気生成器4から供給される冷媒が駆動流として入力され、この駆動流により吸引入口1bから冷媒が吸引流として吸引され吐出口1cから吐出する。
【0017】
ポンプ3は、循環経路において冷媒の循環供給を行うものである。ポンプ3は、例えば液相の可変容量ポンプであり、冷媒を昇圧してエジェクタ1に供給するものである。ポンプ3は、後述する制御部Cから与えられる駆動信号に従った回転数で駆動される。蒸気生成器4は、熱供給源20から蒸気生成器4に供給される排温水などの熱源水との間で熱交換を行うことにより、ポンプ3から供給された冷媒を蒸発させる。
【0018】
凝縮器2は、エジェクタ1から吐出された気相の冷媒と、凝縮器2に供給される冷却水との間で熱交換し放熱を行うことにより、冷媒を凝縮させるものである。膨張弁5は、凝縮器2を通過して分岐点P1を介して分岐供給された冷媒を膨張させて減圧する。蒸発器6は、膨張弁5を通過した後の液相の冷媒と、蒸発器6に供給される被冷却水との間で熱交換を行うことにより、冷媒を蒸発させるとともに冷水を生成するものである。なお、膨張弁5としては電子膨張弁が好適であるが、用途や構成に応じて手動膨張弁、定圧膨張弁、温度膨張弁等のその他の形式の膨張弁を適宜選択しても良い。圧縮機7は、冷媒を圧縮できるものであればよい。
【0019】
切替機構9は、圧縮機7とエジェクタ1の吐出口1cとを接続する第1配管と、逆止弁8とエジェクタ1の吸引入口1bとを接続する第2配管と、第1配管の接続点9aと第2配管の接続点9bとを接続する接続配管を有する。そして、接続点9aとエジェクタ1の吐出口1cとの間に開閉弁V1が設けられ、接続配管には開閉弁V2が設けられる。
【0020】
本実施の形態では、圧縮機7、逆止弁8及び切替機構9により、エジェクタモード、並列ハイブリッドモード、直列ハイブリッドモード、圧縮式モードの4つの運転モードに切り替えられる(図3図4参照)。エジェクタモードでは、圧縮機7がオフ、ポンプ3がオン、開閉弁V1が閉、開閉弁V2が閉となり、エジェクタ1のみによるエジェクタ冷凍サイクルとなる。このエジェクタモードは、圧縮機7を停止しているため、低消費電力で駆動することができるが、高背圧下では駆動することができない。
【0021】
並列ハイブリッドモードでは、圧縮機7がオン、ポンプ3がオン、開閉弁V1が開、開閉弁V2が閉となる。このモードでは、蒸発器6からの冷媒は、圧縮機7に吸引される冷媒と、逆止弁8を通りエジェクタ1の吸引入口1bに吸引される冷媒とに分岐される。圧縮機7により圧縮された冷媒とエジェクタ1で圧縮された冷媒とは、凝縮器2の上流にて合流し、凝縮器2に送られる。なお、凝縮器2の上流側に内部熱交換器などの放熱器を設けるようにしてもよい。この並列ハイブリッドモードは、圧縮機7により、エジェクタ1の冷凍能力低下分を補填することが可能であり、中背圧条件下で有効である。
【0022】
直列ハイブリッドモードでは、圧縮機7がオン、ポンプ3がオン、開閉弁V1が閉、開閉弁V2が開となる。このモードでは、蒸発器6からの冷媒は、圧縮機7に吸引された後、エジェクタ1の吸引入口1bに吸引される。この直列ハイブリッドモードでは、エジェクタ1により圧縮機7の吐出圧力を下げることができるため、圧縮機7の消費電力が抑えられ、従来の圧縮式冷凍サイクルよりも高い効率(COP)を達成することができる。直列ハイブリッドモードは、中背圧から高背圧の条件下において有効である。
【0023】
圧縮式モードでは、圧縮機7がオン、ポンプ3がオフ、開閉弁V1が開、開閉弁V2が閉となる。このモードは、エジェクタ冷凍サイクルではなく、一般的な圧縮式冷凍サイクルとなる。圧縮式モードは、最も効率が低くなるが、排熱等の熱源水がなくても駆動することができる。すなわち、熱供給源20から供給される熱源水の熱源が得られない場合であっても、本エジェクタ冷却装置を停止せずに安定して運転することが可能となる。
【0024】
なお、圧縮機圧力センサS1は、圧縮機7の吸引側の冷媒圧力である圧縮機圧力Psを検出する。また、背圧センサS2は、エジェクタ1の吐出側の冷媒圧力である背圧Pdを検出する。さらに、熱源水温度センサS3は、蒸気生成器4に供給される熱源水の熱源水温度Twを検出する。また、ポンプ温度センサS4は、ポンプ3の吸引側(吸込み側)の冷媒温度であるポンプ温度Tiを検出する。さらに、ポンプ圧力センサS5は、ポンプ3の吸引側(吸込み側)の冷媒圧力であるポンプ圧力Piを検出する。
【0025】
制御部Cは、冷媒の圧力や温度、熱源水の温度などを検出して、ポンプ3、膨張弁5、圧縮機7、切替機構9などを制御する。制御部Cは、特に、圧縮機圧力Ps、背圧Pd、熱源水温度Twを検出し、運転モードの切替制御を行う。制御部Cは、運転モードの切替制御の際、圧縮機圧力Psに対する背圧Pdの圧力比(Pd/Ps)を用いる。また、制御部Cは、圧縮機7をオンにするとともにポンプ3をオフにし、圧縮機7を並列接続する開閉弁を閉にして圧縮機7からの冷媒をエジェクタの吐出口に流動させる圧縮式モードに切り替え、ポンプ圧力Piをもとに飽和温度Tisを求め、ポンプ温度Tiが飽和温度Tisから所定過冷却度ΔTsc、減算した温度以下である場合にポンプ3を起動して運転モード制御を行う。
【0026】
<運転モードに対する効率及び冷凍能力>
図2は、圧力比(Pd/Ps)に対する運転モード効率及び冷凍能力の変化を示す図である。図2に示すように、圧力比(Pd/Ps)が第1閾値R12未満の低背圧の領域E1では、曲線M1が示すようにエジェクタモードの効率及び冷凍能力が高い。また、圧力比(Pd/Ps)が第1閾値R12以上で第2閾値R23未満の中背圧の領域E2では、曲線M2が示すように並列ハイブリッドモードの効率及び冷凍能力が高い。さらに、圧力比(Pd/Ps)が第2閾値R23以上の高背圧の領域E3では、曲線M3,M4が示すように直列ハイブリッドモード及び圧縮式モードの効率及び冷凍能力が高い。したがって、制御部Cは、圧力比(Pd/Ps)が領域E1の場合、エジェクタモードに切り替え、圧力比(Pd/Ps)が領域E2の場合、並列ハイブリッドモードに切り替え、圧力比(Pd/Ps)が領域E3の場合、直列ハイブリッドモードに切り替える。なお、各運転モードに対する圧縮機7、ポンプ3、開閉弁V1、開閉弁V2の切替制御内容および冷媒の流れは、上記のように、図3及び図4に示すとおりである。
【0027】
<運転モード処理>
図5は、制御部Cによる運転モード処理手順を示すフローチャートである。図5に示すように、制御部Cは、まず、熱源水温度Tw、圧縮機圧力Ps、背圧Pdを計測する(ステップS101)。その後、熱源水温度Twが所定閾値温度Tth未満であるか否かを判定する(ステップS102)。熱源水温度Twが所定閾値温度Tth未満である場合(ステップS102:Yes)、運転モードを圧縮式モードに切り替え(ステップS103)、本処理を終了する。
【0028】
一方、熱源水温度Twが所定閾値温度Tth未満でない場合(ステップS102:No)、さらに、圧力比(Pd/Ps)が第1閾値R12未満であるか否かを判定する(ステップS104)。圧力比(Pd/Ps)が第1閾値R12未満である場合(ステップS104:Yes)、運転モードをエジェクタモードに切り替え(ステップS105)、本処理を終了する。
【0029】
圧力比(Pd/Ps)が第1閾値R12未満でない場合(ステップS104:No)、さらに、圧力比(Pd/Ps)が第2閾値R23未満であるか否かを判定する(ステップS106)。圧力比(Pd/Ps)が第2閾値R23未満である場合(ステップS106:Yes)、運転モードを並列ハイブリッドモードに切り替え(ステップS107)、本処理を終了する。
【0030】
一方、圧力比(Pd/Ps)が第2閾値R23未満でない場合(ステップS106:No)、運転モードを直列ハイブリッドモードに切り替え(ステップS108)、本処理を終了する。
【0031】
従来、直列ハイブリッド方式による冷凍サイクルでは、中背圧の領域において、圧縮機7が運転できずに効率及び冷凍能力が低下するが、本実施の形態ではこの中背圧の領域において並列ハイブリッドモードに切り替えることにより、効率及び冷凍能力の低下を抑えることができる。
【0032】
また、従来、並列ハイブリッド方式による冷凍サイクルでは、高背圧の領域において効率及び冷凍能力が低下するが、本実施の形態では、この高背圧の領域において直列ハイブリッドモードに切り替えることによって、効率及び冷凍能力の低下を抑えることができる。
【0033】
<起動運転モード処理>
図6は、図1に示したエジェクタ冷却装置の運転制御処理を示す全体フローチャートである。図6に示すように、エジェクタ冷却装置は、装置起動時にまず、起動運転モード処理を行った(ステップS201)後、上記の運転モード処理を行う(ステップS202)。起動運転モード処理は、装置起動時にポンプ3より先に圧縮機7を起動させてポンプ3のキャビテーション発生を回避する処理である。
【0034】
図7は、図1に示したエジェクタ冷却装置の起動運転モード処理を示す詳細フローチャートである。図7に示すように、まず制御部Cは、凝縮器2に供給される冷却水の送液ポンプを起動する(ステップS301)。なお、冷却水に替えて冷却ファンの起動であってもよい。その後、制御部Cは、蒸発器6に供給される冷却対象媒体の送液ポンプを起動する(ステップS302)。なお、冷却対象媒体の送液に替えて、冷却対象媒体を空気として冷風を送風する送風ファンの起動であってもよい。
【0035】
その後、開閉弁V1を開、開閉弁V2を閉とし(ステップS303)、圧縮機7を起動する(ステップS304)。すなわち、圧縮式モードで運転する。そして、制御部Cは、ポンプ温度Tiおよびポンプ圧力Piを取得し、図8に示した飽和蒸気圧曲線の近似式等を用いてポンプ圧力Piに対する飽和温度Tisを算出する(ステップS305)。
【0036】
その後、ポンプ温度Tiが飽和温度Tisから所定過冷却度ΔTsc、減算した温度以下(Ti≦Tis-ΔTsc)であるか否かを判定する(ステップS306)。ポンプ温度Tiが飽和温度Tisから所定過冷却度ΔTsc、減算した温度以下でない場合(ステップS306:No)には、圧縮機7の回転数fを増分回転数Δfだけ上昇させて(ステップS307)、ステップS304に移行し、圧縮機7の運転を継続する。一方、ポンプ温度Tiが飽和温度Tisから所定過冷却度ΔTsc、減算した温度以下である場合(ステップS306:Yes)には、ポンプ3の起動を許容してステップS202の運転モード処理に移行する。
【0037】
図8は、起動運転モード処理によってポンプ3で吸引できる冷媒が液相となってポンプ3の起動を可能にする状態変化を説明する図である。図8に示すように、ステップS306による判定処理により、ポンプ温度Tiが飽和温度Tisから所定過冷却度ΔTsc、減算した温度以下(Ti≦Tis-ΔTsc)となる場合、ポンプ3の吸引側の冷媒は液相となり、ポンプ3のキャビテーション発生を回避することができる。なお、所定過冷却度ΔTscは、状態変化等に対して冷媒が液相になっているかを安定して判定するための余裕度である。
【0038】
本実施の形態では、ポンプ3と圧縮機7とを用いるハイブリッド式のエジェクタ冷却装置において、装置起動時、ポンプ3よりも圧縮機7を先に起動することにより、液冷媒の回収、あるいは圧縮機吐出圧力を上昇させ、ポンプ吸込み圧力を飽和蒸気圧以上に上昇させることによりポンプ3のキャビテーション発生を回避することができる。この結果、ポンプ保護とともに、エジェクタ冷却装置の安定的な起動を実現することができる。
【0039】
また、本実施の形態では、最下部へのポンプ設置、凝縮器や貯留タンク内冷媒の液位ヘッドの確保、貯留タンクへの冷媒回収運転などを行う必要がないので、簡易な構成で装置起動時におけるポンプのキャビテーション発生を回避することができる。
【0040】
さらに、本実施の形態では、圧縮機を導入したエジェクタ冷却装置において、圧力比(Pd/Ps)の全領域に対して効率及び冷凍能力の高い運転モードに切り替えることができ、エジェクタ冷凍サイクルに圧縮機を導入したハイブリッド形式の冷凍サイクルを適用する場合に、冷凍能力及び装置効率の低下の発生を抑えることができる。
【0041】
なお、第1閾値R12及び第2閾値R23、さらに所定閾値温度Tthは、エジェクタ冷却装置に対して事前に性能試験などを行って予め決定されるものである。この第1閾値R12は、例えば、背圧上昇によりエジェクタ1のみによる効率が低下する点であり、第2閾値R23は、例えば、背圧低下により圧縮機7が運転できなくなる点である。
【0042】
さらに、圧力比(Pd/Ps)に替えて、圧力差(Pd-Ps)をパラメータとして用いてもよい。また、圧縮機圧力Psに替えて圧縮機7と吸引入口1bとの間の圧力を用いてもよい。また、圧縮機圧力Psに替えて、蒸発器6の入口側、すなわち膨張弁5による膨張後の温度を間接的に用いてもよいし、背圧Pdに替えて、凝縮器2による凝縮後の温度や冷却水の温度などを間接的に用いてもよい。さらに、熱源水温度Twに替えて、熱源水の流量であってもよい。
【0043】
また、逆止弁8は、制御部Cによって制御される電磁弁などの開閉弁であってもよい。なお、コスト面からは、逆止弁8とするとよい。
【0044】
なお、上記の実施の形態で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置及び構成要素の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を各種の使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 エジェクタ
1a 駆動流入口
1b 吸引入口
1c 吐出口
2 凝縮器
3 ポンプ
4 蒸気生成器
5 膨張弁
6 蒸発器
7 圧縮機
8 逆止弁
9 切替機構
9a,9b 接続点
20 熱供給源
C 制御部
E1~E3 領域
M1~M4 曲線
P1,P2 分岐点
Pd 背圧
Pi ポンプ圧力
Ps 圧縮機圧力
R12 第1閾値
R23 第2閾値
S1 圧縮機圧力センサ
S2 背圧センサ
S3 熱源水温度センサ
S4 ポンプ温度センサ
S5 ポンプ圧力センサ
Ti ポンプ温度
Tis 飽和温度
Tth 所定閾値温度
Tw 熱源水温度
V1,V2 開閉弁
ΔTsc 所定過冷却度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8