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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135182
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20240927BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B60C19/00 B
B60C5/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045744
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】永安 麻優
(72)【発明者】
【氏名】岡川 洋士
(72)【発明者】
【氏名】前田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】木元 隆平
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA08
3D131BA03
3D131BA05
3D131BB01
3D131BC05
3D131BC31
3D131CB12
3D131LA01
3D131LA20
(57)【要約】
【課題】電子モジュールが配されたタイヤにおいて、軽量化を図りつつ、電子モジュールの配置部分での耐久性を向上させる。
【解決手段】この空気入りタイヤは、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3と、一対のビード部4と、カーカス6と、インナーライナ層10と、電子モジュール20とを含む。カーカス6は、複数のカーカスコード15と、トッピングゴム層16とを含むカーカスプライ6Aを含む。インナーライナ層10は、ブチル系ゴム層11と、インスレーションゴム層12とを含む。ブチル系ゴム層11は、タイヤ内腔面を形成するように配置されている。インスレーションゴム層12は、ブチル系ゴム層11とトッピングゴム層16との間に配置され、かつ、ブチル系ゴム層11よりも小さいラジアル方向の長さで局所的に配置されている。電子モジュール20は、ブチル系ゴム層11と接触しないように、トッピングゴム層16とインスレーションゴム層12との間に配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤであって、
トレッド部と、
一対のサイドウォール部と、
それぞれにビードコアが埋設された一対のビード部と、
前記一対のビード部の前記ビードコア間を延びるトロイド状のカーカスと、
前記カーカスの内側で、前記一対のビード部の間を延びるトロイド状のインナーライナ層と、
前記カーカスと前記インナーライナ層との間に配された少なくとも1つの電子モジュールとを含み、
前記カーカスは、複数のカーカスコードと、前記複数のカーカスコードを被覆するトッピングゴム層とを含むカーカスプライを含み、
前記インナーライナ層は、ブチル系ゴム層と、前記トッピングゴム層に対する接着力が前記ブチル系ゴム層よりも高いゴムからなるインスレーションゴム層とを含み、
前記ブチル系ゴム層は、タイヤ内腔面を形成するように配置されており、
前記インスレーションゴム層は、前記ブチル系ゴム層と前記トッピングゴム層との間に配置され、かつ、前記ブチル系ゴム層よりも小さいラジアル方向の長さで局所的に配置されており、
前記電子モジュールは、前記ブチル系ゴム層と接触しないように、前記トッピングゴム層と前記インスレーションゴム層との間に配置されている、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記電子モジュールは、電子部品と、前記電子部品を被覆するカバーゴムとを含み、
前記カバーゴムは、前記インスレーションゴム層と接触している内側層と、前記トッピングゴム層と接触している外側層とを含み、
前記電子部品が、前記カバーゴムの前記内側層と前記外側層との間に配置されている、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記カバーゴムは、前記内側層と前記外側層との間の境界面を有し、
前記境界面は、前記複数のカーカスコードの表面を連ねる仮想カーカスコード基準面までの最短距離である第1距離d1を有し、
前記境界面は、前記ブチル系ゴム層までの最短距離である第2距離d2を有し、
前記第1距離d1と前記第2距離d2との比d1/d2が0.50~1.50である、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第1距離d1は、0.6~2.0mmである、請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第2距離d2は、0.6~2.0mmである、請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記内側層の最大厚さは、前記内側層と前記ブチル系ゴム層との間における前記インスレーションゴム層の最大厚さの1.0~3.0倍である、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
タイヤ横断面において、前記インスレーションゴム層のラジアル方向の長さは、前記カバーゴムのラジアル方向の長さよりも5mm以上大きい、請求項2ないし4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記インスレーションゴム層の損失正接tanδは、0.16以下である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記インスレーションゴム層の複素弾性率E*は、4.0MPa以上である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記インスレーションゴム層は、前記一対のビード部の一方に設けられている、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記インスレーションゴム層は、前記電子モジュールと接触している第1のインスレーションゴム層と、前記電子モジュールと接触していない少なくとも1つの第2のインスレーションゴム層とを含む、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
前記第2のインスレーションゴム層は、前記一対のサイドウォール部のそれぞれに設けられている、請求項11に記載の空気入りタイヤ。
【請求項13】
前記トレッド部は、ベルト層を含み、
前記第2のインスレーションゴム層のタイヤ半径方向の外端は、前記ベルト層のタイヤ軸方向の外端から5mm以上の距離を隔ててタイヤ赤道側に位置している、請求項12に記載のタイヤ。
【請求項14】
前記一対のサイドウォール部は、タイヤ最大幅位置を含み、
前記第2のインスレーションゴム層のタイヤ半径方向の内端は、前記タイヤ最大幅位置から10mm以上の距離を隔てて前記ビードコア側に位置している、請求項12に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの軽量化を図るために、タイガム層を用いることなくインナーライナーがカーカスに接合されたタイヤが提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-147024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のタイヤにおいて、インナーライナーとカーカスとの間に、RFIDタグ等の電子モジュールが埋設された場合、前記電子モジュール含まれる硬質の電子部品がインナーライナーに強く接触し、ひいてはインナーライナーの剥離損傷や疲労破壊が生じる恐れがあった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出なされたもので、電子モジュールが配されたタイヤにおいて、軽量化を図りつつ、電子モジュールの配置部分での耐久性を向上させることを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、空気入りタイヤであって、トレッド部と、一対のサイドウォール部と、それぞれにビードコアが埋設された一対のビード部と、前記一対のビード部の前記ビードコア間を延びるトロイド状のカーカスと、前記カーカスの内側で、前記一対のビード部の間を延びるトロイド状のインナーライナ層と、前記カーカスと前記インナーライナ層との間に配された少なくとも1つの電子モジュールとを含み、前記カーカスは、複数のカーカスコードと、前記複数のカーカスコードを被覆するトッピングゴム層とを含むカーカスプライを含み、前記インナーライナ層は、ブチル系ゴム層と、前記トッピングゴム層に対する接着力が前記ブチル系ゴム層よりも高いゴムからなるインスレーションゴム層とを含み、前記ブチル系ゴム層は、タイヤ内腔面を形成するように配置されており、前記インスレーションゴム層は、前記ブチル系ゴム層と前記トッピングゴム層との間に配置され、かつ、前記ブチル系ゴム層よりも小さいラジアル方向の長さで局所的に配置されており、前記電子モジュールは、前記ブチル系ゴム層と接触しないように、前記トッピングゴム層と前記インスレーションゴム層との間に配置されている、空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤは、上記の構成を採用したことによって、軽量化を図りつつ、電子モジュールの配置部分での耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態の空気入りタイヤの横断面図である。
図2図1のカーカスプライ及びインナーライナ層の拡大断面図である。
図3図1のビード部の拡大図である。
図4図3の電子モジュールの拡大斜視図である。
図5図3のカーカス、インナーライナ層及び電子モジュールの拡大断面図である。
図6】本発明の他の実施形態の空気入りタイヤの横断面図である。
図7】本発明の他の実施形態の空気入りタイヤの横断面図である。
図8】比較例1の空気入りタイヤの横断面図である。
図9】比較例2の空気入りタイヤの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のいくつかの実施形態が図面に基づき説明される。図面は、本発明の特徴を内包して記載されているが、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれている場合がある。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。図1は、本実施形態の空気入りタイヤ1(以下、単に「タイヤ」ということがある)の正規状態における横断面を示す断面図である。なお、図1は、円環状に延びるタイヤ1を、タイヤ回転軸を通り、かつ、タイヤ周方向と直交する仮想平面で切断したときの、タイヤ1の断面を示す図である。本実施形態のタイヤ1は、例えば、乗用車用として好適に用いられる。
【0010】
前記正規状態とは、各種の規格が定められた空気入りタイヤの場合、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。各種の規格が定められていないタイヤの場合、前記正規状態は、タイヤの使用目的に応じた標準的な使用状態であって無負荷の状態を意味する。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、前記正規状態で測定された値である。また、前記正規状態で測定できない構成(例えば、タイヤ1の内部材である。)の寸法は、タイヤ1を出来るだけ前記正規状態に近似させた状態にして、測定された値である。
【0011】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0012】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0013】
図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3と、一対のビード部4とを含む。それぞれのビード部4には、ビードコア5が埋設されている。また、タイヤ1は、カーカス6及びインナーライナ層10と、少なくとも1つの電子モジュール20とを含んでいる。
【0014】
カーカス6は、一対のビード部4のビードコア5間をトロイド状に延びている。本実施形態のカーカス6は、例えば、1枚のカーカスプライ6Aで構成されている。カーカスプライ6Aは、例えば、本体部6aと折返し部6bとを含んでいる。本体部6aは、例えば、2つのビード部4の間を延びている。これにより、本体部6aは、少なくともトレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至る。折返し部6bは、例えば、本体部6aに連なりビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されている。本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックス8が配され、ビード部4が適宜補強される。
【0015】
インナーライナ層10は、カーカス6の内側で、一対のビード部4の間をトロイド状に延びている。
【0016】
図2には、カーカス6及びインナーライナ層10の拡大断面図が示されている。図2は、電子モジュール20を避けた位置でのカーカスプライ6A及びインナーライナ層10の断面図である。また、図2において、カーカスプライ6Aよりタイヤ外面側のゴム部材は、省略されている。図2に示されるように、カーカスプライ6Aは、複数のカーカスコード15と、複数のカーカスコード15を被覆するトッピングゴム層16とを含む。
【0017】
カーカスコード15は、例えば、アラミド、レーヨンなどの有機繊維コードが採用される。カーカスコード15は、例えば、タイヤ赤道Cに対して70~90°の角度で配列されるのが望ましい。
【0018】
カーカス6のトッピングゴム層16のゴム成分としては、イソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、イソプレン系ゴム、SBR、BRが好ましい。
【0019】
上述のカーカスプライ6Aの構成は、一例であり、本発明におけるカーカス6には、公知の構成を適用することが可能である。また、図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1のトレッド部2において、カーカス6のタイヤ半径方向外側には、金属性のベルトコードを含むベルト層7が設けられている。ベルト層7は、例えば、2枚のベルトプライ7A、7Bを含む。2枚のベルトプライ7A、7Bのそれぞれには、タイヤ周方向に対して15~45°の角度で配列された複数のベルトコードが配されている。一方のベルトプライ7Aのベルトコードと、他方のベルトプライ7Bのベルトコードとは、タイヤ周方向に対して互いに逆向きに傾斜している。これにより、トレッド部2が効果的に補強される。
【0020】
電子モジュール20は、カーカス6とインナーライナ層10との間に配されている。本実施形態では、一対のビード部4の一方(図1では左側である。)に1つの電子モジュール20が配されている。但し、本発明は、このような態様に限定されるものではなく、電子モジュール20は、例えば、サイドウォール部3やトレッド部2に設けられても良い。
【0021】
図3には、電子モジュール20が配されたビード部4の拡大断面図が示されている。また、図4には、電子モジュール20の拡大斜視図が示されている。図4における電子モジュール20の外面には、ドットが施されている。図3及び図4に示されるように、電子モジュール20は、電子部品21と、この電子部品21を被覆するカバーゴム22とを含む。電子部品21としては、例えば、REIDタグ、圧力センサ、温度センサ、加速度センサ及び磁気センサが挙げられる。本実施形態の電子部品21は、RFIDタグである。図4に示されるように、RFIDタグは、送受信回路、制御回路、メモリ等をチップ化した本体部21aと、アンテナ21bとから構成される小型軽量の電子部品である。RFIDタグは、質問電波を受信すると、これを電気エネルギーとして使用し、メモリ内の諸データを応答電波として発信する。このRFIDタグには、公知の構成が採用され、本明細書において詳細な説明は省略される。
【0022】
カバーゴム22には、接着性に優れた公知のゴムが適宜採用される。カバーゴム22には、上述のカーカスプライ6Aのトッピングゴム層16(図2に示す)と同様のゴムが採用されても良い。
【0023】
図1に示されるように、インナーライナ層10は、ブチル系ゴム層11と、インスレーションゴム層12とを含む。なお、本明細書の各図では、インスレーションゴム層12にドットが施されている。ブチル系ゴム層11は、タイヤ内腔面1i側を形成するように配置されている。ブチル系ゴム層11は、極めて低い空気透過率を有し、タイヤ内圧を保持することができる。ブチル系ゴム層11は、例えば、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムを80%以上含有している。
【0024】
インスレーションゴム層12は、カーカスプライ6Aのトッピングゴム層16に対する接着力がブチル系ゴム層11よりも高いゴムからなる。インスレーションゴム層12は、例えば、天然ゴムやスチレン・ブタジエンゴムを含むエラストマー組成物からなるのが望ましい。また、インスレーションゴム層12は、ブチル系ゴム層11とカーカスプライ6Aのトッピングゴム層16(図2に示す)との間に配置されている。また、インスレーションゴム層12は、ブチル系ゴム層11よりも小さいラジアル方向の長さで局所的に配置されている。
【0025】
図5には、カーカスプライ6A、インナーライナ層10及び電子モジュール20の拡大断面図が示されている。なお、図5では、発明を理解し易いように、各層が一定の厚さを備えており、カーカスコード15が等間隔で配置されているが、実際のタイヤ1は、ゴム製品において不可避な変形や歪を含み得る。図5に示されるように、電子モジュール20は、ブチル系ゴム層11と接触しないように、トッピングゴム層16とインスレーションゴム層12との間に配置されている。これにより、本発明のタイヤ1は、軽量化を図りつつ、電子モジュール20の配置部分での耐久性を向上させることができる。その理由は、以下の通りである。
【0026】
本発明では、ブチル系ゴム層11とカーカスプライ6Aとの接着力を高めるためのインスレーションゴム層12が局所的に配置されているため、従来のタイヤ(ブチル系ゴム層を接着するためのタイガム層が、タイヤ全体に亘ってトロイド状に延びているタイヤ)と比較して、インナーライナ層10のボリュームを小さくすることができ、軽量化を図ることができる。
【0027】
また、本発明の電子モジュール20は、ブチル系ゴム層11と接触しないように、トッピングゴム層16とインスレーションゴム層12との間に配置されているため、タイヤの使用によって電子モジュール20が配された領域(本実施形態ではビード部4である。)が繰り返し変形しても、電子モジュール20に含まれる電子部品21はブチル系ゴム層11に接触し難い。したがって、ブチル系ゴム層11の剥離損傷や疲労破壊が効果的に抑制され、耐久性が向上する。
【0028】
以下、本実施形態のさらに詳細な構成が説明される。なお、以下で説明される構成は、本実施形態の具体的態様を示すものである。したがって、本発明は、以下で説明される構成を具えないものであっても、上述の効果を発揮し得るのは言うまでもない。また、上述の特徴を具えた本発明のタイヤに、以下で説明される各構成のいずれか1つが単独で適用されても、各構成に応じた性能の向上は期待できる。さらに、以下で説明される各構成のいくつかが複合して適用された場合、各構成に応じた複合的な性能の向上が期待できる。
【0029】
図1に示されるように、電子モジュール20は、ビードコア5のタイヤ半径方向の外面から3mm以上の距離をタイヤ半径方向外側に隔てて位置するのが望ましい。また、電子モジュール20は、ベルト層7のタイヤ軸方向の外端から3mm以上の距離をタイヤ半径方向内側に隔てて位置するのが望ましい。これにより、ビードコア5やベルト層7に含まれる金属の部材から電子モジュール20が離れて配置されるため、電子モジュール20の電波障害等の動作不良を抑制することができる。なお、前記距離は、ビードコア5の外面又はベルト層7の外端から、電子モジュール20に含まれる電子部品21(図4に示す)の重心までのタイヤ半径方向に平行な方向の距離で特定される。
【0030】
図3に示されるように、電子モジュール20は、ビード部4に配置されるのが望ましく、本実施形態ではビードエーペックス8のタイヤ軸方向内側に配置されている。これにより、電子モジュール20周辺の変形がビードエーペックス8によって抑制されるため、タイヤの耐久性がさらに向上する。
【0031】
電子部品21とビードコア5との距離を十分に確保しつつ、上述の効果を得る観点から、電子モジュール20のタイヤ半径方向の内端からビードコア5の外面までのタイヤ半径方向の距離L1は、ビードエーペックス8のタイヤ半径方向の高さh1の50%~60%であるのが望ましい。また、電子モジュール20のタイヤ半径方向の外端からビードエーペックス8のタイヤ半径方向の外端までの距離L2は、ビードエーペックス8の前記高さh1の25%~35%であるのが望ましい。
【0032】
より具体的には、ビードエーペックス8の前記高さh1が35mm以上の場合、前記距離L1が5mm以上であり、かつ、前記距離L2が7mm以上であるのが望ましい。一方、ビードエーペックス8の前記高さh1が35mm未満の場合、前記距離L1及び前記距離L2の両方を十分に確保するのが難しい場合がある。このため、前記高さh1が35mm未満の場合、前記距離L1を5mm以上と優先して確保し、前記距離L2が7mm未満となっても良い。
【0033】
図4に示されるように、電子モジュール20に含まれる電子部品21は、その全長(アンテナ21bを含む全長である)が、例えば、35~50mm程度となる。一方、カバーゴム22は、この電子部品21を完全に被覆できるように、電子部品21の前記全長よりも大きい全長を有している。具体的には、カバーゴム22は、第1長さLa、第2長さLb及び厚さtaを有する横長かつ扁平した直方体形状で構成されている。第1長さLaは、タイヤ周方向の長さであり、例えば、60~80mmである。第2長さLbは、第1長さLaと直交する方向の長さであり、タイヤ横断面における電子モジュール20のカーカスプライ6Aに沿った長さに相当する。第2長さLbは、第1長さLaよりも小さく、例えば、10~15mmである。厚さtaは、第1長さLa及び第2長さLbと直交する方向の厚さである。厚さtaは、第1長さLa及び第2長さLbよりも小さく、例えば、2.0~3.0mmであり、望ましくは2.2~2.4mmである。
【0034】
本実施形態のカバーゴム22は、インスレーションゴム層12(図5に示す)と接触している内側層26と、カーカスプライ6Aのトッピングゴム層16(図5に示す)と接触している外側層27とを含んでいる。また、本発明では、電子部品21が、カバーゴム22の内側層26と外側層27との間に配置されている。これにより、耐久性がより一層向上する。
【0035】
図5に示されるように、カバーゴム22は、内側層26と外側層27との間の境界面28を有している。本実施形態の電子モジュール20は、境界面28から仮想カーカスコード基準面30までの最短距離である第1距離d1が確保される様に配置されている。仮想カーカスコード基準面30は、複数のカーカスコード15の表面を連ねる仮想の面を意味し、具体的には、各カーカスコード15のタイヤ内腔面1i側の端を通る平面又は滑らかな湾曲面である。図5では、仮想カーカスコード基準面30が2点鎖線で示されている。
【0036】
また、本実施形態の電子モジュール20は、境界面28からブチル系ゴム層11までの最短距離である第2距離d2が確保される様に配置されている。第1距離d1は、例えば、0.6~2.0mmである。また、第2距離d2は、例えば、0.6~2.0mmである。これにより、電子部品21とカーカスコード15又はブチル系ゴム層11との接触が確実に抑制される。
【0037】
第1距離d1と第2距離d2との比d1/d2は、望ましくは0.50以上、より望ましくは0.85以上であり、望ましくは1.50以下、より望ましくは1.15以下である。これにより、電子部品21が複数のカーカスコード15とブチル系ゴム層11との間の中央部に配置され、タイヤの耐久性がより一層向上する。
【0038】
カバーゴム22において、内側層26の最大厚さt2は、外側層27の最大厚さt1よりも小さい。具体的には、内側層26の最大厚さt2は、外側層27の最大厚さt1の40%~60%である。これにより、タイヤ重量の増加や、ユニフォミティの悪化を抑制することができる。
【0039】
内側層26の最大厚さt2は、内側層26とブチル系ゴム層11との間におけるインスレーションゴム層12の最大厚さt3の1.0~3.0倍であるのが望ましい。これにより、タイヤ重量の増加を抑制しつつ、タイヤの耐久性が向上する。
【0040】
図1に示されるように、本実施形態では、一対のビード部4の一方のみにインスレーションゴム層12が配されており、これ以外にはインスレーションゴム層12が配されていない。但し、後述されるように、他の領域にインスレーションゴム層12が配されても良い。タイヤの軽量化を図る観点から、インスレーションゴム層12のラジアル方向の長さの合計は、タイヤ内腔面1iのラジアル方向の総長さの50%以下が望ましく、より望ましくは30%以下である。また、ブチル系ゴム層11の剥離損傷を抑制する観点から、インスレーションゴム層12のラジアル方向の長さの合計は、タイヤ内腔面1iのラジアル方向の総長さの5%以上が望ましい。
【0041】
図3に示されるように、インスレーションゴム層12のタイヤ半径方向の内端12iは、ビードコア5のタイヤ半径方向の外面よりも5mm以上離れた位置に配されている。また、タイヤ横断面において、インスレーションゴム層12のラジアル方向の長さL3は、カバーゴム22のラジアル方向の長さ(図4で示される第2長さLbに相当する。)よりも5mm以上大きいのが望ましい。具体的には、インスレーションゴム層12の前記長さL3は、カバーゴム22の前記長さの4.0~6.0倍であるのが望ましい。これにより、タイヤの耐久性が確実に向上する。
【0042】
ブチル系ゴム層11の剥離損傷や疲労破壊を確実に抑制する観点から、インスレーションゴム層12の損失正接tanδは、0.16以下であるのが望ましい。なお、損失正接tanδとは、JIS-K6394の規定に準じ、粘弾性スペクトロメーターを用いて下記の条件で測定されたものである。
初期歪み:10%
振幅:±2%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:30℃
【0043】
同様の観点から、インスレーションゴム層12の複素弾性率E*は、4.0MPa以上であるのが望ましい。なお、前記複素弾性率E*は、JIS-K6394の規定に準じて、次に示される条件で、粘弾性スペクトロメータを用いて測定された値である。
初期歪み:10%
振幅:±2%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:30℃
【0044】
図5に示されるように、トッピングゴム層16の最大厚さt4(外側層27と接触している領域における、仮想カーカスコード基準面30からカーカスプライ6Aの外面までの最大厚さである。)は、例えば、外側層27の最大厚さt1よりも小さい。具体的には、トッピングゴム層16の最大厚さt4は、外側層27の最大厚さt1の10%~30%である。これにより、カーカス6の厚さを小さくでき、タイヤ重量を小さくすることができる。
【0045】
図6には、本発明の他の実施形態のタイヤ1の横断面図が示されている。図6に示されるように、この実施形態では、インスレーションゴム層12は、電子モジュール20と接触している第1のインスレーションゴム層12Aと、電子モジュール20と接触していない少なくとも1つの第2のインスレーションゴム層12Bとを含む。この実施形態において、第2のインスレーションゴム層12Bは、一対のサイドウォール部3のそれぞれに設けられている。これにより、インナーライナ層10の剥離損傷がさらに抑制される。
【0046】
望ましい態様では、第2のインスレーションゴム層12Bのタイヤ半径方向の外端12Boは、ベルト層7のタイヤ軸方向の外端7oから5mm以上の距離を隔ててタイヤ赤道C側に位置しているのが望ましい。また、第2のインスレーションゴム層12Bのタイヤ半径方向の内端12Biは、サイドウォール部3のタイヤ最大幅位置3Mから10mm以上の距離を隔ててビードコア5側に位置しているのが望ましい。これにより、タイヤ1の変形し易い領域に第2のインスレーションゴム層12Bが配置されるため、タイヤの耐久性が確実に向上する。
【0047】
図7には、本発明のさらに他の実施形態のタイヤ1の横断面図が示されている。図7に示されるように、この実施形態では、サイドウォール部3に、電子モジュール20及びインスレーションゴム層12が設けられている。このインスレーションゴム層12とは反対側のサイドウォール部3には、図6で示される実施形態の第2のインスレーションゴム層12Bが設けられている。この実施形態では、サイドウォール部3に電子モジュール20が配されているため、タイヤ1をリム組みするときに生じる衝撃が電子モジュール21に伝達し難くなり、リム組み時の電子部品21の損傷を抑制するのに役立つ。
【0048】
この実施形態では、ベルト層7の外端7oとタイヤ最大幅位置3Mとの間に、電子部品21が設けられている。電子部品21は、例えば、電子モジュール20がタイヤ最大幅位置3Mと重複する位置に設けられても良い(図示省略)。
【0049】
以上、本発明のいくつかの実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例0050】
図1の基本構造を有するサイズ285/65R17の乗用車用の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作された。比較例1として、図8に示される横断面を有するタイヤが試作された。また、比較例2として、図9に示される横断面を有するタイヤが試作された。図8に示されるように、比較例1は、カーカスプライaとブチル系ゴム層bとを完全に隔てるように、タイガム層cが配されており、カーカスプライaとタイガム層cとの間に、電子モジュールdが配されている。また、図9に示されるように、比較例2は、カーカスプライaとブチル系ゴム層bとの間に、タイガム層やインスレーションゴム層が配されておらず、カーカスプライaとブチル系ゴム層bとの間に、電子モジュールdが配されている。比較例1及び2は、上述の事項を除き、実質的に実施例のタイヤと同じである。各テストタイヤについて、タイヤ重量が測定され、タイヤの耐久性がテストされた。タイヤの共通仕様やテスト方法は、下記の通りである。
リム:17×8.0
タイヤ内圧:250kPa
【0051】
<タイヤ重量>
リムを含まないタイヤの重量が測定された。結果は、比較例1のタイヤ重量を100とする指数で示されており、数値が小さい程、タイヤ重量が小さいことを示す。
【0052】
<タイヤの耐久性>
各テストタイヤをドラム試験機上で一定の縦荷重(7.33kN)を負荷して120km/hで走行させ、電子モジュールの配置部分に損傷が発生するまでの走行距離が測定された。結果は、比較例1の前記走行距離を100とする指数で示されており、数値が大きい程、タイヤの耐久性が高いことを示す。
テスト結果が表1に示される。
【0053】
【表1】
【0054】
表1で示されるように、カーカスプライとブチル系ゴム層とを完全に隔てるようにタイガム層が配された比較例1では、タイヤ重量が大きい。また、カーカスプライとブチル系ゴム層との間に、タイガム層やインスレーションゴム層が配されていない比較例2では、タイヤの耐久性が75ポイントと大きく低下している。
【0055】
これに対し、実施例1及び2では、比較例1よりもタイヤ重量が小さくなっている一方、タイヤの耐久性が90~95ポイントと比較例2よりも良好な状態に維持できている。すなわち、本発明では、電子モジュールが配されたタイヤにおいて、軽量化を図りつつ、電子モジュールの配置部分での耐久性を向上させていることが確認できた。
【0056】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0057】
[本発明1]
空気入りタイヤであって、
トレッド部と、
一対のサイドウォール部と、
それぞれにビードコアが埋設された一対のビード部と、
前記一対のビード部の前記ビードコア間を延びるトロイド状のカーカスと、
前記カーカスの内側で、前記一対のビード部の間を延びるトロイド状のインナーライナ層と、
前記カーカスと前記インナーライナ層との間に配された少なくとも1つの電子モジュールとを含み、
前記カーカスは、複数のカーカスコードと、前記複数のカーカスコードを被覆するトッピングゴム層とを含むカーカスプライを含み、
前記インナーライナ層は、ブチル系ゴム層と、前記トッピングゴム層に対する接着力が前記ブチル系ゴム層よりも高いゴムからなるインスレーションゴム層とを含み、
前記ブチル系ゴム層は、タイヤ内腔面を形成するように配置されており、
前記インスレーションゴム層は、前記ブチル系ゴム層と前記トッピングゴム層との間に配置され、かつ、前記ブチル系ゴム層よりも小さいラジアル方向の長さで局所的に配置されており、
前記電子モジュールは、前記ブチル系ゴム層と接触しないように、前記トッピングゴム層と前記インスレーションゴム層との間に配置されている、
空気入りタイヤ。
[本発明2]
前記電子モジュールは、電子部品と、前記電子部品を被覆するカバーゴムとを含み、
前記カバーゴムは、前記インスレーションゴム層と接触している内側層と、前記トッピングゴム層と接触している外側層とを含み、
前記電子部品が、前記カバーゴムの前記内側層と前記外側層との間に配置されている、本発明1に記載のタイヤ。
[本発明3]
前記カバーゴムは、前記内側層と前記外側層との間の境界面を有し、
前記境界面は、前記複数のカーカスコードの表面を連ねる仮想カーカスコード基準面までの最短距離である第1距離d1を有し、
前記境界面は、前記ブチル系ゴム層までの最短距離である第2距離d2を有し、
前記第1距離d1と前記第2距離d2との比d1/d2が0.50~1.50である、本発明2に記載の空気入りタイヤ。
[本発明4]
前記第1距離d1は、0.6~2.0mmである、本発明3に記載の空気入りタイヤ。
[本発明5]
前記第2距離d2は、0.6~2.0mmである、本発明3に記載の空気入りタイヤ。
[本発明6]
前記内側層の最大厚さは、前記内側層と前記ブチル系ゴム層との間における前記インスレーションゴム層の最大厚さの1.0~3.0倍である、本発明2に記載の空気入りタイヤ。
[本発明7]
タイヤ横断面において、前記インスレーションゴム層のラジアル方向の長さは、前記カバーゴムのラジアル方向の長さよりも5mm以上大きい、本発明2ないし4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
[本発明8]
前記インスレーションゴム層の損失正接tanδは、0.16以下である、本発明1又は2に記載の空気入りタイヤ。
[本発明9]
前記インスレーションゴム層の複素弾性率E*は、4.0MPa以上である、本発明1又は2に記載の空気入りタイヤ。
[本発明10]
前記インスレーションゴム層は、前記一対のビード部の一方に設けられている、本発明1又は2に記載の空気入りタイヤ。
[本発明11]
前記インスレーションゴム層は、前記電子モジュールと接触している第1のインスレーションゴム層と、前記電子モジュールと接触していない少なくとも1つの第2のインスレーションゴム層とを含む、本発明1又は2に記載の空気入りタイヤ。
[本発明12]
前記第2のインスレーションゴム層は、前記一対のサイドウォール部のそれぞれに設けられている、本発明11に記載の空気入りタイヤ。
[本発明13]
前記トレッド部は、ベルト層を含み、
前記第2のインスレーションゴム層のタイヤ半径方向の外端は、前記ベルト層のタイヤ軸方向の外端から5mm以上の距離を隔ててタイヤ赤道側に位置している、本発明12に記載のタイヤ。
[本発明14]
前記一対のサイドウォール部は、タイヤ最大幅位置を含み、
前記第2のインスレーションゴム層のタイヤ半径方向の内端は、前記タイヤ最大幅位置から10mm以上の距離を隔てて前記ビードコア側に位置している、本発明12に記載のタイヤ。
【符号の説明】
【0058】
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
6A カーカスプライ
10 インナーライナ層
15 カーカスコード
16 トッピングゴム層
11 ブチル系ゴム層
12 インスレーションゴム層
20 電子モジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9