(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135188
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】圧縮応力の推定方法、成型体の製造方法及び成型コークスの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/08 20060101AFI20240927BHJP
G01N 33/22 20060101ALI20240927BHJP
C10B 53/08 20060101ALI20240927BHJP
C10B 57/04 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01N3/08
G01N33/22 A
C10B53/08
C10B57/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045752
(22)【出願日】2023-03-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年6月7日付で交付決定された、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業であり、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願。平成29年8月1日付で締結した、環境調和型製鉄プロセス技術の開発/フェロコークス活用製銑プロセス技術開発に係る共同開発事業協力契約書(2019年3月19日付け共同開発事業協力変更契約及び2020年3月18日付け共同開発事業協力変更契約により変更したもの)の適用を受ける特許出願。
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】奥山 憲幸
(72)【発明者】
【氏名】和田 祥平
(72)【発明者】
【氏名】小堀 竜一
(72)【発明者】
【氏名】小野 祐耶
(72)【発明者】
【氏名】松川 嘉也
(72)【発明者】
【氏名】青木 秀之
【テーマコード(参考)】
2G061
4H012
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB01
2G061BA20
2G061CA18
2G061CB03
2G061DA12
2G061EA01
2G061EA02
2G061EA03
2G061EC02
4H012KA04
4H012MA01
(57)【要約】
【課題】本発明は、種々の石炭について成型条件の設定の容易化を図ることが可能な圧縮応力の推定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る圧縮応力の推定方法は、石炭の充填構造を含む成型体の成型時における前記石炭の圧縮応力を、石炭に固有のハードグローブ指数を使用して決定したパラメータを用いた離散要素法によって推定する工程を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭の充填構造を含む成型体の成型時における前記石炭の圧縮応力を、石炭に固有のハードグローブ指数を使用して決定したパラメータを用いた離散要素法によって推定する工程を備える圧縮応力の推定方法。
【請求項2】
石炭の充填構造を含む成型体の製造方法であって、
成型時における前記石炭の圧縮応力を、石炭に固有のハードグローブ指数を使用して決定したパラメータを用いた離散要素法によって推定する工程と、
前記推定する工程で推定された圧縮応力に基づいて、前記成型時の成型条件を制御する工程と
を備える成型体の製造方法。
【請求項3】
石炭の充填構造を含む成型コークスの製造方法であって、
成型時における前記石炭の圧縮応力を、石炭に固有のハードグローブ指数を使用して決定したパラメータを用いた離散要素法によって推定する工程と、
前記推定する工程で推定された圧縮応力に基づいて、前記成型時の成型条件を制御する工程と、
前記制御する工程で制御された成型条件で成型体を成型する工程と、
前記成型する工程で成型された成型体を乾留する工程と
を備える成型コークスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮応力の推定方法、成型体の製造方法及び成型コークスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭の充填構造を含む成型体は、成型条件によって強度等の品質が変化する。従来、成型体の成型条件は、実験による試行錯誤によって求められている。
【0003】
例えばフェロコークス等の成型コークスは、使用する原料種が変わると、成型時の圧縮応力が変化する。そのため、この成型コークスについて目標とする強度等を得るためには、原料の圧縮応力に応じた成型条件を求めることが望まれる。一方で、成型時における成型体の力学特性は複雑であり、複数の因子が相互に影響し合う。そのため、試行錯誤に基づく検討結果によって成型過程の理論化を図ることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】He et al., International Journal of Mineral Processing, 142 (2015), 73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
数値解析は、様々な因子の影響を切り離して定量的に評価することを可能とする手法であり、成型過程の論理化に有効であると考えられる。特に、離散要素法は、成型条件が充填構造全体に及ぼす影響だけでなく、充填構造を構成する個々の粒子の運動に及ぼす影響を解析できるため、成型過程の理論化に適していると考えられる。
【0007】
本発明は、このような事情に基づいてなされたもので、成型体の成型時における石炭の圧縮応力を、離散要素法を用いて推定することで、種々の石炭について成型条件の設定の容易化を図ることが可能な圧縮応力の推定方法を提供することを目的とする。
【0008】
なお、特許文献1には、粉状物質に水分を添加して混合造粒する造粒工程における造粒物の粒度予測方法について、離散要素法を用いて粒子同士の衝突回数を算出することが記載されている。特許文献1には、離散要素法を用いて算出された粒子同士の衝突回数と、ポピュレーションバランスモデルを用いて算出された粒子の粒度分布とを互いに反映させることで、造粒物の粒度を精度よく予測できることが記載されている。また、非特許文献1には、他分野における圧縮応力の検討例が記載されている。
【0009】
しかしながら、今日までに離散要素法を用いて、石炭の充填構造を含む成型体の成型過程における圧縮応力を推定することは検討されていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、離散要素法を用いて、石炭の充填構造を含む成型体の成型時における石炭の圧縮応力を推定することで、種々の石炭についての成型過程の理論化を図り得ることを知得し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の一態様に係る圧縮応力の推定方法は、石炭の充填構造を含む成型体の成型時における前記石炭の圧縮応力を、石炭に固有のハードグローブ指数を使用して決定したパラメータを用いた離散要素法によって推定する工程を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係る圧縮応力の推定方法は、種々の石炭について成型条件の設定の容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る圧縮応力の推定方法を示すフロー図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る成型体の製造方法を示すフロー図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る成型コークスの製造方法を示すフロー図である。
【
図4】
図4は、実施例における圧縮成型試験に用いた試験器具を示す模式的断面図である。
【
図5】
図5は、圧縮成型試験で得られたピストンの変位と圧縮応力との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、圧縮成型試験における最大圧縮応力とHGIとの関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、数値解析で得られたピストンを模した壁の変位と圧縮応力との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、数値解析における最大圧縮応力とばね定数との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、試料A、B、Cについての圧縮成型試験による実験値と解析による解析値との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、最大圧縮応力の解析値を横軸に、最大圧縮応力の実験値を縦軸にプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0015】
本発明の一態様に係る圧縮応力の推定方法は、石炭の充填構造を含む成型体の成型時における前記石炭の圧縮応力を、石炭に固有のハードグローブ指数を使用して決定したパラメータを用いた離散要素法によって推定する工程を備える。
【0016】
本発明者らは、石炭の圧縮応力の推定において、離散要素法で用いるパラメータの1つであるばね定数と前記ハードグローブ指数とが相関していることを知得した。当該圧縮応力の推定方法は、石炭に固有のハードグローブ指数を使用して決定したパラメータを用いた離散要素法を用いることで、前記石炭(石炭粒子)が接触しながら重なり合う塑性変形時の挙動を模擬し、この挙動を追跡することができる。そのため、当該圧縮応力の推定方法は、前記成型体の成型時における前記石炭の圧縮応力を推定することができる。従って、当該圧縮応力の推定方法によって前記石炭の圧縮応力を推定することで、種々の石炭について成型条件の設定の容易化を図ることができる。
【0017】
本発明の別の一態様に係る成型体の製造方法は、石炭の充填構造を含む成型体の製造方法であって、成型時における前記石炭の圧縮応力を、石炭に固有のハードグローブ指数を使用して決定したパラメータを用いた離散要素法によって推定する工程と、前記推定する工程で推定された圧縮応力に基づいて、前記成型時の成型条件を制御する工程とを備える。
【0018】
当該成型体の製造方法は、前記推定する工程で成型時における前記石炭の圧縮応力を推定するので、前記制御する工程における成型条件の設定の容易化を図ることができる。
【0019】
本発明の別の一態様に係る成型コークスの製造方法は、石炭の充填構造を含む成型コークスの製造方法であって、成型時における前記石炭の圧縮応力を、石炭に固有のハードグローブ指数を使用して決定したパラメータを用いた離散要素法によって推定する工程と、前記推定する工程で推定された圧縮応力に基づいて、前記成型時の成型条件を制御する工程と、前記制御する工程で制御された成型条件で成型体を成型する工程と、前記成型する工程で成型された成型体を乾留する工程とを備える。
【0020】
当該成型コークスの製造方法は、前記推定する工程で成型時における前記石炭の圧縮応力を推定するので、前記制御する工程における成型条件の設定の容易化を図ることができる。その結果、所望の品質を有する成型コークスを容易に製造することができる。
【0021】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0022】
[圧縮応力の推定方法]
図1に示すように、当該圧縮応力の推定方法(以下、「当該推定方法」ともいう。)は、石炭の充填構造を含む成型体の成型時における前記石炭の圧縮応力を、石炭に固有のハードグローブ指数(HGI)を使用して決定したパラメータを用いた離散要素法(DEM)によって推定する工程(推定工程S1)を備える。なお、「石炭の充填構造」とは、前記石炭以外の材料が前記充填構造に含まれる構成を除外するものではない。
【0023】
前記成型体としては、フェロコークスの成型炭、石炭のみを含む成型炭、炭材内装鉱の成型物等が挙げられる。フェロコークスの成型炭及び炭材内装鉱の成型物は、石炭、鉄鉱石及びバインダーを含む。前記成型体は、乾留してコークス化することで、フェロコークス、炭材内装鉱等の成型コークスとなる。例えばフェロコークスは、鉄鉱石、石炭、バインダー等を混合成型した成型体を乾留することで製造できる。フェロコークスは、鉄鉱石と石炭とが近接配置されているため、高炉内での還元反応を促進できること、炭素原単位を削減できること等から環境負荷の低減を図ることができる。一方で、フェロコークス等の成型コークスは、使用する原料が変わると、成型時の圧縮応力が変化するため目標とする構造や強度を得難いことがある。この点において、当該推定方法を用いることで、成型体の成型条件の設定の容易化を図ることができる。より詳しくは、成型条件出しの事前検討の簡略化、成型機スペックに合わせた石炭の選定、又は成型条件の緩和等を図ることができる。なお、フェロコークスの成型炭及び炭材内装鉱の成型物に含まれる鉄鉱石、バインダー等については、別途ばね定数を設定することで離散要素法によって圧縮応力を推定可能である。
【0024】
推定工程S1では、前記石炭の充填構造を含む成型体の成型時における前記石炭の圧縮応力を推定するために離散要素法を用いる。離散要素法は、互いに接触した粒子間に働く反発力又は摩擦力等の接触力をモデル化し、運動方程式に基づいて接触力が作用する個々の粒子の運動を追跡する手法である。個々の粒子の運動は、下記式1によって表される並進運動と、下記式2によって表される回転運動とから成り立っている。なお、下記式において、Fnは粒子の接触面において粒子に作用する接触力の法線方向成分を意味し、Ftは粒子の接触面において粒子に作用する接触力の接線方向成分を意味する。また、Iは粒子の慣性モーメント[kg・m2]、mは粒子の質量[kg]、gは重力加速度[m/s2]、xは粒子の位置座標[m]、ωは角速度[rad/s]を意味する。Tは接触によって生じるトルク[N・m]であり、rを粒子半径[m]、nを法線方向単位ベクトルとして下記式3で与えられる。なお、x´´=d2x/dt2、ω´=dω/dtを意味する。
【0025】
【0026】
推定工程S1では、2つの石炭粒子が接触している場合には、それらの粒子同士の重なりを変位δとし、ばね定数kとの積によって接触力を算出する。より詳しくは、推定工程S1では、Walton and Braunにより提案されたモデルを用いて接触力の法線方向成分Fnを算出する。
【0027】
接触力の法線方向成分Fnは、変位δが増加しているとき(負荷時)には下記式4によって算出され、変位δが減少し、あるいは減少後に再増加しているとき(除荷時あるいは再負荷時)には下記式5によって算出される。なお、下記式において、kn,1は負荷時におけるばね定数[N/m]、kn,2は除荷時あるいは再負荷時におけるばね定数[N/m]、δnは変位δの法線方向成分である。δn
pは塑性変形した変位の法線方向成分であり、過去の接触力の法線方向成分の最大値Fn
maxに依存し、下記式6によって求められる。なお、除荷時あるいは再負荷時のばね定数kn,2は、負荷時のばね定数kn、1よりも大きく、反発係数eを用いた下記式7によって関連付けられる。
【0028】
【0029】
接触力の接線方向成分Ftは、石炭粒子の表面に滑りがない場合、下記式8によって算出される。なお、下記式において、ktはばね定数[N/m]、δtは変位δの接線方向成分である。
【0030】
【0031】
一方、石炭粒子の表面に滑りがある場合、すなわち下記式9が成立する場合、接触力の接線方向成分Ftは、下記式10で算出される。なお、下記式において、μは摩擦係数であり、vtは衝突中の2つの石炭粒子の相対速度の接線方向成分である。
【0032】
【0033】
推定工程S1では、離散要素法で用いるパラメータを石炭に固有のHGIを使用して決定する。本発明者らは、石炭の圧縮応力の推定において、離散要素法で用いるパラメータの1つであるばね定数とHGIとが相関していることを知得した。具体的には、本発明者らは、HGIと前記石炭の最大圧縮応力とには負の相関があり、ばね定数kと最大圧縮応力とには正の相関があることを知得し、HGIとばね定数kとは、a、bを正の定数(a、bは、例えば石炭の種類毎に設定されてもよい)として下記式11によって表すことができるとの知見を得た。
k[N/m]=-a×(HGI)+b ・・・11
【0034】
当該圧縮応力の推定方法は、ばね定数kを石炭に固有のHGIを使用して決定することで、石炭を含む成型体の成型時における前記石炭の圧縮応力(充填構造全体における圧縮応力)をより容易に推定することができる。
【0035】
<利点>
当該圧縮応力の推定方法は、石炭に固有のHGIを使用して決定したパラメータを用いた離散要素法を用いることで、前記石炭粒子が接触しながら重なり合う塑性変形時の挙動を模擬し、この挙動を追跡することができる。そのため、当該圧縮応力の推定方法は、前記成型体の成型時における前記石炭の圧縮応力を推定することができる。従って、当該圧縮応力の推定方法によって前記石炭の圧縮応力を推定することで、種々の石炭について成型条件の設定の容易化を図ることができる。
【0036】
[成型体の製造方法]
当該成型体の製造方法では、石炭の充填構造を含む成型体を製造する。
図2に示すように、当該成型体の製造方法は、成型時における前記石炭の圧縮応力を、石炭に固有のHGIを使用して決定したパラメータを用いた離散要素法によって推定する工程(推定工程S11)と、推定工程S11で推定された圧縮応力に基づいて、前記成型体の成型条件を制御する工程(制御工程S12)とを備える。
【0037】
推定工程S11は、上述の当該推定方法における推定工程S1と同様の手順で行うことができる。
【0038】
(制御工程)
制御工程S12では、前記成型条件として、例えば回転速度、原料フィード量、原料配合、粒径等を制御する。
【0039】
<利点>
当該成型体の製造方法は、推定工程S11で成型時における石炭粒子の圧縮応力を推定するので、制御工程S12における成型条件の設定の容易化を図ることができる。
【0040】
[成型コークスの製造方法]
当該成型コークスの製造方法では、石炭の充填構造を含む成型コークスを製造する。この成型コークスとしては、例えば石炭のみを含むもの、フェロコークス、又は炭材内装鉱等が挙げられる。
図3に示すように、当該成型コークスの製造方法は、成型時における前記石炭の圧縮応力を、石炭に固有のHGIを使用して決定したパラメータを用いた離散要素法によって推定する工程(推定工程S21)と、推定工程S21で推定された圧縮応力に基づいて、前記成型時の成型条件を制御する工程(制御工程S22)と、制御工程S22で制御された成型条件で成型体を成型する工程(成型工程S23)と、成型工程S23で成型された成型体を乾留する工程(乾留工程S24)とを備える。
【0041】
推定工程S21は、上述の当該成型体の製造方法における推定工程S11と同様の手順で行うことができる。また、制御工程S22は、上述の当該成型体の製造方法における制御工程S12と同様の手順で行うことができる。
【0042】
(成型工程)
成型工程S23では、前記石炭を含む原料を混合したうえで、混合された原料を成型機等を用いて加熱成型する。なお、当該成型コークスの製造方法がフェロコークス又は炭材内装鉱の製造方法として用いられる場合、前記原料としては、前記石炭の他、鉄鉱石及びバインダーを含む。また、前記石炭としては、特に限定されるものではないが、例えば低品位炭を用いることができる。さらに、成型工程S23では、例えば混合前の石炭、鉄鉱石等の原料を必要に応じて粉砕又は乾燥してもよい。
【0043】
(乾留工程)
乾留工程S24では、成型工程S23によって得られた成型体を乾留炉等を用いて乾留する。成型体は、乾留工程S24で乾留されることで成型コークスとして形成される。
【0044】
<利点>
当該成型コークスの製造方法は、推定工程S21で成型時における前記石炭の圧縮応力を推定するので、制御工程S22における成型条件の設定の容易化を図ることができる。その結果、所望の品質を有する成型コークスを容易に製造することができる。
【0045】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【実施例0046】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0047】
HGIとばね定数との関係性に着目して離散要素法に基づく解析手法を用いて石炭の充填層に対する負荷・除荷試験を行い、HGIと成型時における石炭の圧縮応力との関係性について検討した。また、HGIに基づいて石炭の圧縮成型時の挙動が表現できるかを検討した。
【0048】
(試料)
石炭試料の工業分析値及び元素分析値を表1に示す。本実施例では、試料A、B、Cをそれぞれ篩にかけ、粒径が850μmから1000μmの範囲内になるように分級した。その後、アズワン株式会社製の真空乾燥機「AVO-200NB」を用いて試料A、B、Cをそれぞれ窒素雰囲気において107℃で4時間乾燥させ、室温に冷却した。
【0049】
【0050】
(圧縮成型試験)
石炭充填層の機械的特性を把握するために、試料A、B、Cのそれぞれについて、
図4の試験器具10を用いて負荷・除荷試験を行った。試験器具10としては、円柱状の充填層Pを形成可能なケーシング1と、充填層Pに対して上方から押圧可能なピストン2と、ピストン2の上端に接続される円盤3とを有する圧縮用セル20を、株式会社島津製作所製の万能試験機「AG-10kNX」に設置したものを用いた。ピストン2の上端には半球状の突起を形成し、かつ円盤3の下面の中央にはこの突起に篏合する半球状の凹部を形成することで、円盤3からの負荷がピストン2に均等に加わるようにした。また、充填層Pの直径は9mm、試料A、B、Cの充填量は1.0gとした。
【0051】
圧縮成型試験では、10mm/minの速度で充填層Pの高さが13mmとなるまで充填層Pを圧縮(負荷)し、その後同じ速度で除荷を行った。圧縮成型試験は、各試料について3度実施し、応力とピストンの変位との関係の再現性が得られていることを確認した。
【0052】
また、この圧縮成型試験では、試料A、B、Cのそれぞれについて、圧縮及び除荷過程において充填層Pに働く圧縮応力σを下記式12によって算出した。なお、下記式において、fは充填層Pに負荷した荷重、Mはピストン2と円盤3との重量の和、gは重力加速度[m/s2]、Aは充填層Pの断面積[mm2]を意味する。
【0053】
【0054】
この圧縮成型試験で得られたピストンの変位[mm]と圧縮応力[MPa]との関係を
図5に示す。
図5に示すように、成型時の圧縮応力が石炭種によって大きく異なることが分かる。ここで、この最大圧縮応力と石炭の性状との関係を調査したところ、
図6に示すように、HGIと高い相関(R
2=0.9687)があることが示唆された。
【0055】
(離散要素法による解析)
上述の式1から式10を用いた離散要素法によって、前記圧縮成型試験を模擬した数値解析を行った。この数値解析における解析条件を表2に示す。この数値解析では、粒径1mmの粒子1365個を内径9mmの円筒容器に一様乱数を使用して発生させ、自由落下によって静置した状態を初期配置とした。続いて、容器底面を基準とする高さが13mmとなるまで解析領域上部のピストンを模した壁を移動させることで充填層を負荷し、その後除荷した。この数値解析では、種々のばね定数での解析を行った。この解析結果を
図7に示す。
【0056】
【0057】
図7に示すように、前記数値解析では、ばね定数の増加に伴って圧縮応力が増加した。この結果を基に、最大圧縮応力とばね定数との関係性を検討した。その結果、
図8に示すように、最大圧縮応力とばね定数とには比例関係があることが確認された。
【0058】
(関係式の導出)
図6の結果から、上述の圧縮成型試験では、HGIと圧縮時の最大圧縮応力とには負の相関があることが分かる。ここで、この関係が一次関数であるとすると、下記式13によって表すことができる。
最大圧縮応力[MPa]=-2.244×(HGI)+253.0 ・・・13
【0059】
一方で、
図8の結果から、上述の数値解析では、圧縮時の最大圧縮応力はばね定数に比例していることが分かる。ここで、この関数が一次関数であるとすると、下記式14によって表すことができる。
最大圧縮応力[MPa]=2.527×10
-4×ばね定数[N/m] ・・・14
【0060】
前記式13及び前記式14から最大圧縮応力を消去して整理すると、HGIとばね定数の関係式が下記式15によって得られる。
ばね定数[N/m]=-8.88×103×(HGI)+1.00×106 ・・・15
【0061】
すなわち、HGIとばね定数との関係式は、HGIと最大圧縮応力とを変数とする一次関数と、ばね定数と最大圧縮応力とを変数とする一次関数とによって得られる。
【0062】
(検証)
前記式15の妥当性を検証するために、上述の圧縮成型試験における試料A、B、CのHGIからばね定数をそれぞれ推算して解析に反映し、前記圧縮成型試験の実験値と比較した。その結果、
図9に示すように、実験値と解析値との圧縮応力-変位曲線はおおむね一致していることが分かった。なお、解析値の方が比較的直線的に応力が増加しているが、これは線形ばねのモデルを採用したためと考えられる。
【0063】
最大圧縮応力の解析値を横軸に、最大圧縮応力の実験値を縦軸にプロットしたグラフを
図10に示す。
図10に示すように、解析値及び実験値はほぼ対角線上にプロットされており、解析値が実験値を良好に表現できていることが分かる。