(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135201
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】測定ユニット、射出成形装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20240927BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20240927BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/17
B29C45/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045767
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷹見 凌
(72)【発明者】
【氏名】東 真也
(72)【発明者】
【氏名】佐山 聡
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AJ08
4F202AM19
4F202AP02
4F202AP16
4F202AR17
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK90
4F206AJ08
4F206AM19
4F206AP02
4F206AP16
4F206AR17
4F206JA07
4F206JL02
4F206JM04
4F206JN14
4F206JP11
4F206JP17
4F206JQ57
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】射出成形において、射出ユニットから成形金型のキャビティに充填されている樹脂の粘度をリアルタイムで適切に導出可能にする測定ユニットを提供すること。
【解決手段】実施形態によれば、測定ユニットは、ベース部、エレメント及び荷重センサを備える。ベース部は、ノズルから射出された溶融樹脂が成形金型のキャビティに向かって流れる流路に隣接する流路隣接面を備える。エレメントは、ベース部と接触しない状態でベース部の流路隣接面に配置され、ベース部とエレメントとの間には、隙間が形成される。荷重センサは、流路を流れる溶融樹脂からエレメントに作用するせん断荷重を測定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから射出された溶融樹脂が成形金型のキャビティに向かって流れる流路に隣接する流路隣接面を備えるベース部と、
前記ベース部と接触しない状態で前記ベース部の前記流路隣接面に配置され、前記ベース部との間に隙間が形成されるエレメントと、
前記流路を流れる前記溶融樹脂から前記エレメントに作用するせん断荷重を測定する荷重センサと、
を具備する、測定ユニット。
【請求項2】
前記ベース部と前記エレメントとの間の前記隙間に充填され、前記流路を流れる前記溶融樹脂より粘度が高い充填流体をさらに具備する、請求項1の測定ユニット。
【請求項3】
請求項1又は2の測定ユニットと、
前記測定ユニットの前記荷重センサが測定した前記せん断荷重、及び、前記エレメントにおいて前記流路に隣接する面の面積に基づいて、前記溶融樹脂によるせん断応力を算出し、算出した前記せん断応力、前記エレメントが配置される部分での前記流路の径、及び、前記溶融樹脂の平均流速に基づいて、前記溶融樹脂の粘度を算出するコントローラと、
を具備する、射出成形装置。
【請求項4】
前記流路へ前記溶融樹脂を射出する前記ノズルを備える射出ユニットと、
前記ノズルからの前記溶融樹脂が前記流路を通して充填される前記キャビティを形成する前記成形金型と、
をさらに具備し、
前記コントローラは、算出した前記溶融樹脂の前記粘度に基づいて、前記射出ユニット及び前記成形金型の動作を制御することにより、前記溶融樹脂が前記キャビティに充填された後における成形条件を調整する、
請求項3の射出成形装置。
【請求項5】
ノズルから溶融樹脂を射出することにより、ベース部の流路隣接面が隣接する流路において、射出された前記溶融樹脂を成形金型のキャビティに向かって流すことと、
前記ベース部と接触しない状態で前記ベース部の前記流路隣接面に配置され、かつ、前記ベース部との間に隙間が形成されるエレメントにおいて、前記流路を流れる前記溶融樹脂から前記エレメントに作用するせん断荷重を測定することと、
を具備する、測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、測定ユニット、射出成形装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形では、射出ユニットのノズルから射出した溶融樹脂を成形金型のキャビティに充填し、キャビティにおいて充填された溶融樹脂を用いて、成形品が成形される。ここで、射出成形では、溶融樹脂の原料となるペレットの特性、及び、射出成形が行われている環境の環境温度等に対応して、キャビティに充填される溶融樹脂の粘度が変化する。このため、射出ユニットからキャビティに溶融樹脂が充填されている状態において、充填されている樹脂の粘度をリアルタイムで適切に導出可能にすることが、求められている。そして、適切に導出された溶融樹脂の粘度に対応させて、溶融樹脂がキャビティに充填された後における成形条件を調整することにより、成形される成形品のバラツキを抑制することが、求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-329864号公報
【特許文献2】特開2015-66700号公報
【特許文献3】特許第6825055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、射出成形において、射出ユニットから成形金型のキャビティに充填されている樹脂の粘度をリアルタイムで適切に導出可能にする測定ユニット、射出成形装置及び測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、測定ユニットは、ベース部、エレメント及び荷重センサを備える。ベース部は、ノズルから射出された溶融樹脂が成形金型のキャビティに向かって流れる流路に隣接する流路隣接面を備える。エレメントは、ベース部と接触しない状態でベース部の流路隣接面に配置され、ベース部とエレメントとの間には、隙間が形成される。荷重センサは、流路を流れる溶融樹脂からエレメントに作用するせん断荷重を測定する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る射出成形装置を示す概略図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る射出成形装置の成形金型において、測定ユニット及びその近傍の構成を、流路の軸方向に対して平行又は略平行な断面で概略的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図2のY1-Y1線断面を概略的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る射出成形装置において、測定ユニットの詳細な構成の一例を、流路の軸方向に対して平行又は略平行な断面で概略的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係る射出成形装置において、コントローラによって行われる処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第1の実施形態に係る射出成形装置の流路において、軸方向の寸法が微小になる円管状の領域に作用する力について説明する概略図である。
【
図7】
図7は、第1の変形例に係る射出成形装置において、測定ユニット及びその近傍の構成を、流路の軸方向に対して平行又は略平行な断面で概略的に示す断面図である。
【
図8】
図8は、第2の変形例に係る射出成形装置を示す概略図である。
【
図9】
図9は、第3の変形例に係る射出成形装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態等について、図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
まず、実施形態等の一例として、第1の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る射出成形装置1を示す。
図1等に示すように、射出成形装置1は、成形金型2、射出ユニット3及びコントローラ5を備える。
【0009】
成形金型2は、固定型6及び可動型7を備える。成形金型2では、可動型7は、固定型6に対して移動可能であり、固定型6に対して開閉可能である。成形金型2では、可動型7の移動方向として、可動型7の開閉方向(矢印M1及び矢印M2で示す方向)が規定される。
図1では、可動型7が固定型6に対して閉じた状態が、示される。また、可動型7が固定型6に対して閉じた状態では、可動型7と固定型6との間に、キャビティ8が形成される。射出成形では、可動型7が固定型6に対して閉じた状態において、キャビティ8に溶融樹脂が充填される。そして、キャビティ8において充填された溶融樹脂を用いて、成形品が成形される。なお、溶融樹脂は、例えば、熱可塑性樹脂を溶融させた流体である。
【0010】
射出ユニット3は、シリンダ11及びスクリュー12を備える。射出ユニット3では、シリンダ11の内部にスクリュー12が挿入され、スクリュー12は、射出ユニット3の前後方向(矢印N1及び矢印N2で示す方向)に沿って、シリンダ11に対して移動可能である。また、シリンダ11には、前方側(矢印N1側)の端部にノズル13が設けられ、ノズル13には、射出口15が形成される。射出成形では、シリンダ11の内部に溶融樹脂を充填した状態で、スクリュー12を前方側へ移動させる。これにより、ノズル13の射出口15から、溶融樹脂が射出される。
【0011】
成形金型2では、固定型6に、スプルーブッシュ16が固定される。成形金型2では、固定型6及びスプルーブッシュ16によって、流路17が規定される。可動型7が固定型6に対して閉じた状態では、流路17の一端は、キャビティ8と連通する。また、流路17では、キャビティ8に連通する側とは反対側の端に、開口18が形成される。射出成形では、ノズル13をスプルーブッシュ16に開口18で当接させ、ノズル13がスプルーブッシュ16及び固定型6を押圧する状態で、ノズル13の射出口15から流路17へ溶融樹脂を射出する。そして、ノズル13から射出された溶融樹脂は、流路17を通してキャビティ8に供給され、キャビティ8に溶融樹脂が充填される。
【0012】
また、本実施形態の射出成形装置1には、流路17において測定を行う測定ユニット20が、設けられる。測定ユニット20は、キャビティ8に溶融樹脂が充填されている状態において、キャビティ8に向かう溶融樹脂の流れに起因して流路17で発生するせん断荷重fを、測定する。測定ユニット20においてせん断荷重fを測定する構成等は、後述する。
【0013】
コントローラ5は、プロセッサ又は集積回路、及び、メモリ等の記憶媒体を備える。プロセッサ又は集積回路は、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイコン、FPGA(Field Programmable Gate Array)、及び、DSP(Digital Signal processor)等のいずれかを含む。コントローラ5は、プロセッサ等を1つのみ備えてもよく、プロセッサ等を複数備えてもよい。
【0014】
射出成形装置1では、コントローラ5によって、射出成形に関する後述の制御処理及び調整処理が、行われる。例えば、コントローラ5は、可動型7の移動を含む成形金型2の動作を制御する。また、コントローラ5は、スクリュー12の移動を含む射出ユニット3の動作を制御する。また、コントローラ5は、測定ユニット20での測定結果、すなわち、溶融樹脂の流れに起因するせん断荷重fについての測定結果を取得する。ただし、ある一例では、コントローラ5は、せん断荷重fについての測定結果を取得しなくてもよい。
【0015】
射出成形を行う際には、射出ユニット3のシリンダ11の内部に、溶融樹脂を充填する。この際、コントローラ5は、射出ユニット3に設けられる加熱ユニット(図示しない)の動作を制御する等して、シリンダ11に充填された溶融樹脂の温度を調整する。そして、コントローラ5は、可動型7の移動を制御する等して、可動型7を固定型6に対して閉じ、固定型6と可動型7との間にキャビティ8を形成する。そして、シリンダ11に溶融樹脂が充填された状態で、射出ユニット3のノズル13をスプルーブッシュ16に開口18で当接さる。
【0016】
そして、コントローラ5は、ノズル13がスプルーブッシュ16及び固定型6を押圧する状態で、スクリュー12を前方側へ移動させ、ノズル13から流路17に溶融樹脂を射出させる。これにより、ノズル13から射出された溶融樹脂が、キャビティ8に充填される。溶融樹脂のキャビティ8への充填においては、コントローラ5は、スクリュー12の移動を制御することにより、スクリュー12の前方側への移動を開始させる移動開始位置、及び、スクリュー12の前方側への移動速度を調整する。これにより、溶融樹脂のキャビティ8への充填において、ノズル13からの溶融樹脂の射出速度等が調整される。すなわち、キャビティ8への溶融樹脂の充填では、ノズル13からの溶融樹脂の射出速度を制御する速度制御が行われる。なお、ノズル13から射出される溶融樹脂の温度、及び、ノズル13からの溶融樹脂の射出速度等は、キャビティ8への溶融樹脂の充填における成形条件として、調整される。
【0017】
また、射出成形では、キャビティ8に溶融樹脂を充填すると、溶融樹脂の射出速度を制御する速度制御から、スクリュー12から溶融樹脂への圧力を制御する圧力制御へ切替えられる。圧力制御が行われている状態では、スクリュー12から溶融樹脂への圧力が、保持圧力で保持される。スクリュー12から溶融樹脂へ保持圧力が作用することにより、溶融樹脂の逆流等が防止される。射出速度を制御する速度制御から溶融樹脂への圧力を制御する圧力制御へ切替えられるスクリュー12の位置を、“V/P切替え位置”とも称する。
【0018】
コントローラ5は、スクリュー12の移動等を含む射出ユニット3の動作を制御することにより、V/P切替え位置及び保持圧力を調整する。また、コントローラ5は、射出ユニット3の動作を制御することにより、保持圧力でスクリュー12から溶融樹脂への圧力を保持する時間である圧力保持時間を調整する。なお、V/P切替え位置、溶融樹脂へ作用させる保持圧力、及び、圧力保持時間等は、溶融樹脂への保持圧力の印加における成形条件として、調整され、キャビティ8に溶融樹脂を充填した後の成形条件として、調整される。
【0019】
射出成形では、溶融樹脂に保持圧力を圧力保持時間だけ作用させた後、スクリュー12を後方側へ移動し、保持圧力の印加を解除する。そして、可動型7が固定型6に対して閉じた状態を維持したまま、キャビティ8において、充填した溶融樹脂を冷却し、樹脂を硬化させる。そして、キャビティ8において樹脂が硬化すると、コントローラ5は、可動型7の移動を制御することにより、可動型7を固定型6に対して開く。ここで、保持圧力の印加を解除してから可動型7を開くまでの時間を、“冷却時間”とも称する。コントローラ5は、成形金型2等の動作を制御することにより、冷却時間を調整する。なお、冷却時間等は、溶融樹脂の冷却における成形条件として、調整され、キャビティ8に溶融樹脂を充填した後の成形条件として、調整される。
【0020】
図2は、測定ユニット20及びその近傍の構成を示す。
図3は、
図2のY1-Y1線断面を示す。
図2及び
図3に示すように、流路17では、流路17の中心軸Cが規定される。流路17及びその近傍では、中心軸Cに沿う方向が、軸方向として規定される。また、軸方向の一方側が下流側となり、下流側は、溶融樹脂をキャビティ8に充填している状態での溶融樹脂の流れ方向(矢印F1)に相当する。そして、軸方向について下流側とは反対側が、上流側となる。
【0021】
また、流路17及びその近傍では、中心軸Cの軸回り方向が、周方向として規定される。また、流路17及びその近傍では、流路17の径方向について中心軸Cに近づく側が、内周側となり、流路17の径方向について中心軸Cから離れる側が、外周側となる。
図2は、流路17の軸方向に対して平行又は略平行な断面を示し、
図3は、流路17の軸方向に対して直交又は略直交する断面を示す。
【0022】
図2及び
図3に示すように、測定ユニット20は、ベース部21を備える。本実施形態では、スプルーブッシュ16によって、ベース部21が形成される。ベース部21は、流路17に外周側から隣接する流路隣接面22を備える。
図2及び
図3の構成では、ベース部21は、周方向の全周に渡って、流路17を外周側から覆う。また、ベース部21の流路隣接面22には、外周側へ凹む凹部23が形成される。
【0023】
また、測定ユニット20は、エレメント25及び荷重センサ26を備える。エレメント25は、ベース部21の流路隣接面22の凹部23に配置される。エレメント25には、内周側から流路17が隣接し、エレメント25は、流路17に外周側から隣接する面27を備える。エレメント25は、流路17の周方向について一部の範囲に渡ってのみ、形成される。キャビティ8への溶融樹脂の充填においてキャビティに向かって溶融樹脂が流れている状態では、エレメント25には、溶融樹脂の流れに起因して発生するせん断荷重fが作用する。エレメント25では、せん断荷重fは、流路17の軸方向に沿って作用する。なお、エレメント25では、流路17に隣接する面27が、せん断荷重fが作用する面となる。
【0024】
凹部23では、エレメント25に対して流路17の下流側に隣接して、隙間d1が形成され、エレメント25に対して流路17の上流側に隣接して、隙間d2が形成される。また、凹部23では、エレメント25に対して外周側に隣接して、隙間d3が形成される。そして、凹部23では、エレメント25に対して流路17の周方向の一方側に隣接して、隙間d4が形成され、エレメント25に対して流路17の周方向について隙間d4とは反対側に隣接して、隙間d5が形成される。このため、エレメント25は、ベース部21との間に隙間d1~d5が形成される状態で、凹部23に配置され、ベース部21とは接触しない。
【0025】
エレメント25がベース部21と接触しない構成であるため、ノズル13から流路17への溶融樹脂の射出において、ノズル13からスプルーブッシュ16及び固定型6へ押圧による荷重が作用しても、ノズル13からの押圧による荷重は、ベース部21を形成するスプルーブッシュ16からエレメント25に伝達されない。このため、ノズル13から射出した溶融樹脂をキャビティ8に充填している状態では、ノズル13からの押圧による荷重は、エレメント25に作用せず、流路17の軸方向に沿う荷重として、溶融樹脂の流れに起因するせん断荷重fのみが、エレメント25に作用する。
【0026】
なお、高温の溶融樹脂を流路17に流している状態では、ベース部21及びエレメント25の温度が膨張し、ベース部21及びエレメント25が熱膨張する。本実施形態では、ベース部21及びエレメント25が熱膨張しても、エレメント25とベース部21との間の隙間d1~d5は維持され、エレメント25は、ベース部21に接触しない。そして、ノズル13からの押圧による荷重がベース部21を含むスプルーブッシュ16に作用している状態でも、エレメント25とベース部21との間の隙間d1~d5は維持され、エレメント25は、ベース部21に接触しない。
【0027】
また、エレメント25には、流路17を流れる溶融樹脂の重力が作用することがある。本実施形態では、溶融樹脂の重力がエレメント25に作用しても、エレメント25とベース部21との間の隙間d1~d5は維持され、エレメント25は、ベース部21に接触しない。ここで、溶融樹脂の重力がエレメント25に作用する場合、溶融樹脂の重力は、流路17の径方向に沿う荷重として、すなわち、流路17の軸方向に対して交差する(直交又は略直交する)方向への荷重として、エレメント25に作用する。また、エレメント25とベース部21との間の隙間d1~d5のそれぞれは、流路17を流れる溶融樹脂が隙間d1~d5に流入しない程度の大きさに、形成される。
【0028】
荷重センサ26は、エレメント25において、流路17の軸方向に作用する荷重を検知及び測定する。ここで、流路17をとおしてキャビティ8に溶融樹脂を充填している状態では、前述のように、エレメント25には、流路17の軸方向に沿う荷重として、流路を流れる溶融樹脂によるせん断荷重fのみが、作用する。このため、キャビティ8に溶融樹脂を充填している状態では、荷重センサ26は、流路17を流れる溶融樹脂からエレメント25に作用するせん断荷重fを測定する。荷重センサ26は、例えば、ロードセルである。
【0029】
また、本実施形態では、流路17の軸方向についてエレメント25が配置される範囲の全寸法に渡って、流路17の断面積が均一又は略均一になり、流路17の半径Rが均一又は略均一になる。すなわち、流路17の軸方向についてエレメント25が配置される範囲では、流路17の断面積が変化せず、流路17の半径Rが変化しない。
【0030】
図4は、測定ユニット20の詳細な構成の一例を示す。なお、測定ユニット20では、ベース部21の流路隣接面22にエレメント25が配置され、ベース部21とエレメント25との間に隙間d1~d5が形成される構成であれば、
図4の一例の構成に限るものではない。なお、
図4では、流路17の軸方向に対して平行又は略平行な断面を示す。
【0031】
図4の一例では、ベース部21に回転円環31が取付けられ、回転円環31には、ロープ32が巻回される。そして、ロープ32において回転円環31からの延出端が、エレメント25に接続される。回転円環31を回転することにより(矢印Y2)、ロープ32の回転円環31らの延設長が変化する。
図4の一例では、ロープ32の回転円環31からの延設長を調整することにより、ベース部21の流路隣接面22に対するエレメント25の面27の傾きが、調整される。そして、測定ユニット20では、エレメント25がベース部21の流路隣接面22に対して内周側へ突出せず、かつ、エレメント25がベース部21の流路隣接面22に対して外周側へ凹まない状態に、流路隣接面22に対する面27の傾きが、調整される。
【0032】
また、
図4の一例では、複数の板バネ33が設けられる。そして、板バネ33のそれぞれでは、一端がベース部21に接続され、他端がエレメント25に接続される。
図4の一例では、板バネ33によって、流路17の軸方向、流路17の径方向及び流路17の周方向のそれぞれについてのエレメント25の位置が、調整される。そして、測定ユニット20では、ベース部21とエレメント25との間の隙間d1~d5のそれぞれが維持される状態に、エレメント25の位置が調整される。
【0033】
図5は、コントローラ5によって行われる処理の一例を、フローチャートで示す。
図5の一例の処理は、射出成形において1つの成形品を形成する度に行われる。
図5の一例の処理を開始すると、コントローラ5は、キャビティ8に溶融樹脂を充填している状態において溶融樹脂からエレメント25に作用するせん断荷重fについて、荷重センサ26での測定結果を取得する(S101)。
【0034】
そして、コントローラ5は、荷重センサ26が測定したせん断荷重f、及び、エレメント25において流路に隣接する面27の面積Aに基づいて、流路17を流れる溶融樹脂によるせん断応力τを算出する(S102)。せん断応力τは、せん断荷重f及び面積Aを用いて、式(1)のようにして算出される。面積Aについての情報は、例えば、コントローラ5の記憶媒体等に記憶される。なお、せん断荷重fの単位は、例えば、Nであり、面積Aの単位は、例えば、m2であり、せん断応力τの単位は、例えば、Paである。
【0035】
【0036】
そして、コントローラ5は、算出したせん断応力τ、エレメント25が配置される部分での流路17の半径(径)R、及び、溶融樹脂の平均流速uaveに基づいて、溶融樹脂の粘度μを算出する(S103)。粘度μは、せん断応力τ、半径R及び平均流速uaveを用いて、式(2)のようにして算出される。半径Rに関する情報は、例えば、コントローラ5の記憶媒体等に記憶される。
【0037】
また、平均流速uaveは、流路17の半径R、射出ユニット3のシリンダ11の半径Rs、及び、ノズル13からの溶融樹脂の平均射出速度vaveを用いて、式(3)のようにして算出される。半径Rsに関する情報は、例えば、コントローラ5の記憶媒体等に記憶され、平均射出速度vaveは、キャビティ8に溶融樹脂を充填している状態における射出ユニット3の制御情報に基づいて、算出可能である。なお、平均流速uave及び平均射出速度vaveの単位は、例えば、m/sであり、半径R,Rsの単位は、例えば、mであり、粘度μの単位は、例えば、Pa・sである。
【0038】
【0039】
また、溶融樹脂によるせん断応力τに対する溶融樹脂の粘度μの関係である式(2)の関係は、以下のようにして、導出可能である。
図6は、流路17において軸方向の寸法がdxと微小になる円管状の領域βに作用する力について説明する。ここで、円管状の領域βにおいて、流路17の軸方向について一方側の端面α1に作用する圧力pを、規定する。この場合、領域βでは、流路17の軸方向について端面α1とは反対側の端面α2に、圧力p+(dp/dx)dxが作用する。また、領域βには、溶融樹脂によるせん断応力τが、外周部分に作用する。このため、領域βでの力のつり合いは、流路17の半径Rを用いて、式(4)のようになる。そして、式(4)から、せん断応力τは、式(5)のようになる。
【0040】
【0041】
また、流路17において半径Rの円管状の部分では、粘度μの溶融樹脂の定常流による流速分布で示される流速uは、ナビエ・ストークスの方程式を変形して、式(6)のようになる。ここで、rは、流路17における径方向についての位置を示すパラメータであり、0以上R以下の範囲の値になり得る。そして、半径Rの円管状の部分での流量Qは、径方向について0以上R以下の範囲で式(6)の流速uを積分することにより、式(7)のようにして、算出される。
【0042】
【0043】
そして、式(7)の流速を流路17の断面積で除算することにより、溶融樹脂の平均流速uaveが、式(8)のようにして算出される。そして、式(8)から、式(9)で示す関係が成り立つ。そして、式(5)のdp/dxに式(9)の関係を代入することにより、式(10)の関係が成り立つ。そして、式(10)から、前述した式(2)の関係が導出される。
【0044】
【0045】
図5の一例では、前述のようにして溶融樹脂の粘度μを算出すると、コントローラ5は、算出した溶融樹脂の粘度μに基づいて、キャビティ8に溶融樹脂を充填した後における射出ユニット3及び成形金型2の動作を制御する。すなわち、粘度μに基づいて、溶融樹脂への保持圧力の印加、及び、溶融樹脂の冷却における射出ユニット3及び成形金型2の動作が、制御される。そして、コントローラ5は、粘度μに基づく射出ユニット3及び成形金型2の動作の制御によって、溶融樹脂がキャビティ8に充填された後における成形条件を調整する(S104)。したがって、溶融樹脂への保持圧力の印加、及び、溶融樹脂の冷却における成形条件が、算出された粘度μに基づいて、調整される。この際、例えば、前述のV/P切替え位置、保持圧力、圧力保持時間及び冷却時間のいずれかが、粘度μに基づいて調整される。
【0046】
なお、ある一例では、溶融樹脂からエレメント25に作用するせん断荷重fについての荷重センサ26での測定結果を、コントローラ5は、取得しない。この場合、コントローラ5とは別のコンピュータ(サーバ)等が、せん断荷重fについての測定結果を取得する。そして、コントローラ5とは別のコンピュータが、前述のようにして、溶融樹脂によるせん断応力τを算出し、溶融樹脂の粘度μを算出する。そして、ユーザインタフェース等を用いて、溶融樹脂の粘度μについての算出結果が、射出成形装置1のユーザ等に告知される。粘度μについての算出結果は、例えば、画面表示及び音声等のいずれかによって、告知される。
【0047】
そして、射出成形装置1のユーザ等は、告知された粘度μについての算出結果に基づいて、溶融樹脂がキャビティ8に充填された後における成形条件を、設定する。この際、ユーザインタフェースの操作入力部等を用いて、成形条件が設定される。そして、コントローラ5は、ユーザ等によって設定された成形条件に基づいて、キャビティ8に溶融樹脂を充填した後における射出ユニット3及び成形金型2の動作を制御する。
【0048】
また、ある一例では、せん断荷重fについての測定結果が、ユーザインタフェース等を用いて、射出成形装置1のユーザ等に告知されてもよい。この場合、射出成形装置1のユーザ等によって、せん断荷重fについての測定結果から、溶融樹脂によるせん断応力τが算出され、溶融樹脂の粘度μが算出される。そして、射出成形装置1のユーザ等は、算出した粘度μに基づいて、溶融樹脂がキャビティ8に充填された後における成形条件を、設定する。
【0049】
本実施形態では、スプルーブッシュ16から形成されるベース部21と接触しない状態で、ベース部21の流路隣接面22にエレメント25が配置され、ベース部21とエレメント25との間に、隙間d1~d5が形成される。そして、荷重センサ26は、流路17を流れる溶融樹脂からエレメント25に作用するせん断荷重fを測定する。本実施形態では、エレメント25がベース部21に接触しないため、ノズル13から射出した溶融樹脂をキャビティ8に充填している状態では、ノズル13からの押圧による荷重は、エレメント25に作用しない。このため、溶融樹脂をキャビティ8に充填している状態において、溶融樹脂の流れに起因してエレメント25に作用するせん断荷重fが、リアルタイムで適切に測定される。
【0050】
せん断荷重fが適切に測定されることにより、キャビティ8に溶融樹脂を充填している状態において、せん断荷重f及び式(1)等を用いて、充填されている溶融樹脂に起因するせん断応力τを、リアルタイムで適切に導出可能となる。そして、せん断応力τが適切に算出されることにより、キャビティ8に溶融樹脂を充填している状態において、せん断応力τ及び式(2)等を用いて、充填されている溶融樹脂の粘度μを、リアルタイムで適切に導出可能となる。
【0051】
また、本実施形態では、コントローラ5は、前述のようにしてリアルタイムで適切に導出された溶融樹脂の粘度μに基づいて、射出ユニット3及び成形金型2の動作を制御し、溶融樹脂がキャビティ8に充填された後における成形条件を調整する。このため、リアルタイムで適切に算出された溶融樹脂の粘度μに基づいて、V/P切替え位置、保持圧力、圧力保持時間及び冷却時間等が、調整される。これにより、溶融樹脂の粘度μに起因する成形品のバラツキが、適切に抑制される。
【0052】
(変形例)
図7に示す第1の変形例では、ベース部21とエレメント25との間の隙間d1~d5に、充填流体35が充填される。充填流体35は、流路17を流れる溶融樹脂より、粘度が高い。なお、
図7は、測定ユニット20及びその近傍の構成を、流路17の軸方向に対して平行又は略平行な断面を示す。
【0053】
本変形例でも、前述の実施形態等と同様の作用及び効果を奏する。すなわち、本変形例でも、キャビティ8に溶融樹脂が充填されている状態において、溶融樹脂の流れに起因してエレメント25に作用するせん断荷重fが、リアルタイムで適切に測定され、充填されている溶融樹脂の粘度μが、リアルタイムで適切に導出可能となる。また、本変形例では、隙間d1~d5に、溶融樹脂より粘度が高い充填流体35が、充填される。このため、流路17を流れる溶融樹脂の隙間d1~d5への流入が、さらに適切に防止される。
【0054】
図8に示す第2の変形例の射出成形装置1では、成形金型2の固定型6に、ヒータ等の加熱ユニット36が搭載される。加熱ユニット36は、測定ユニット20の近傍に配置される。加熱ユニット36の動作は、コントローラ5によって、制御される。コントローラ5は、加熱ユニット36の動作を制御することにより、成形金型2において測定ユニット20及びその近傍の温度を調整する。本変形例でも、前述の実施形態等と同様の作用及び効果を奏する。
【0055】
また、本変形例のある一例では、コントローラ5は、溶融樹脂への保持圧力の印加、及び、キャビティ8での溶融樹脂の冷却のそれぞれが行われている状態において、加熱ユニット36によって、測定ユニット20及びその近傍を加熱させる。これにより、溶融樹脂への保持圧力の印加、及び、キャビティ8での溶融樹脂の冷却のそれぞれが行われている状態では、測定ユニット20及びその近傍の温度は、キャビティ8及びその近傍の温度に比べて、高くなる。このため、溶融樹脂の冷却によってキャビティ8において樹脂が硬化しても、流路17において測定ユニット20の近傍では、樹脂は、硬化することなく、溶融した状態で維持される。流路17において測定ユニット20の近傍で樹脂が溶融した状態で維持されることにより、溶融樹脂の冷却が終了した後の成形品を成形金型2(キャビティ8)から取出す作業において、作業性が向上する。
【0056】
図9に示す第3の変形例の射出成形装置1では、成形金型2及び射出ユニット3に加えて、アダプタ40が設けられる。そして、アダプタ40の内部には、流路41が規定される。本変形例では、射出成形において、射出ユニット3のノズル13から、アダプタ40の流路41に、溶融樹脂が射出される。この際、ノズル13がアダプタ40を押圧する状態で、ノズル13の射出口15から流路41へ溶融樹脂を射出する。そして、ノズル13から射出された溶融樹脂は、アダプタ40の流路41、及び、固定型6及びスプルーブッシュ16によって規定される流路17の順に通って下流側へ流れ、キャビティ8に充填される。
【0057】
また、本変形例では、測定ユニット20は、成形金型2ではなく、アダプタ40に設けられる。そして、測定ユニット20は、キャビティ8に溶融樹脂が充填されている状態において、キャビティ8に向かう溶融樹脂の流れに起因して流路41で発生するせん断荷重fを、測定する。本変形例では、アダプタ40によって、前述のベース部21が形成される。
【0058】
ただし、本変形例では、ベース部21がアダプタ40から形成されることを除き、測定ユニット20の構成等は、前述の実施形態等と同様になる。すなわち、本変形例でも、ベース部21と接触しない状態で、ベース部21の流路隣接面22にエレメント25が配置され、ベース部21とエレメント25との間に、隙間d1~d5が形成される。そして、荷重センサ26は、キャビティ8に向かってを流れる溶融樹脂からエレメント25に作用するせん断荷重fを測定する。
【0059】
本変形例でも、エレメント25がベース部21に接触しないため、ノズル13から射出した溶融樹脂をキャビティ8に充填している状態では、ノズル13からの押圧による荷重は、エレメント25に作用しない。このため、溶融樹脂をキャビティ8に充填している状態において、溶融樹脂の流れに起因してエレメント25に作用するせん断荷重fが、リアルタイムで適切に測定される。そして、溶融樹脂をキャビティ8に充填している状態において、せん断荷重fの測定結果に基づいて、充填されている溶融樹脂の粘度μが、リアルタイムで適切に導出可能となる。したがって、本変形例でも、前述の実施形態等と同様の作用及び効果を奏する。
【0060】
これらの少なくとも一つの実施形態又は実施例によれば、エレメントは、ベース部と接触しない状態でベース部の流路隣接面に配置され、ベース部とエレメントとの間には、隙間が形成される。そして、荷重センサは、流路を流れる溶融樹脂からエレメントに作用するせん断荷重を測定する。これにより、射出成形において、射出ユニットから成形金型のキャビティに充填されている樹脂の粘度をリアルタイムで適切に導出可能にする測定ユニット、射出成形装置及び測定方法を提供することができる。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1…射出成形装置、2…成形金型、3…射出ユニット、5…コントローラ、6…固定型、7…可動型、8…キャビティ、13…ノズル、17…流路、20…測定ユニット、21…ベース部、22…流路隣接面、25…エレメント、26…荷重センサ、27…面、35…充填流体、40…アダプタ、41…流路、d1~d5…隙間、f…せん断荷重、τ…せん断応力。