(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135206
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】製造方法、支援装置、および支援プログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20240927BHJP
B29C 45/78 20060101ALI20240927BHJP
B29C 45/77 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/78
B29C45/77
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045773
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ナラワデ ルトゥジャ
(72)【発明者】
【氏名】林 健太郎
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AA24
4F206AM32
4F206AP062
4F206AR022
4F206AR061
4F206AR11
4F206JA07
4F206JD03
4F206JL07
4F206JP12
4F206JP13
4F206JP18
4F206JQ46
(57)【要約】
【課題】成形不良の発生を抑える。
【解決手段】射出成形により樹脂成形品を製造する製造方法であって、溶融樹脂を金型へと押し出すスクリューの保圧完了時点における位置を特定する特定ステップ(S1)と、特定ステップで特定された位置に応じて次回以降の射出成形の条件を調整する調整ステップ(S5)と、を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形により樹脂成形品を製造する製造方法であって、
溶融樹脂を金型へと押し出すスクリューの保圧完了時点における位置を特定する特定ステップと、
前記特定ステップで特定された位置に応じて次回以降の射出成形の条件を調整する調整ステップと、を含む製造方法。
【請求項2】
前記特定ステップで特定された位置が、過去に特定された位置と比べて前記溶融樹脂の射出口から離れる方向に移動していた場合に、
前記調整ステップでは、
(1)前記溶融樹脂を加熱するヒータの設定温度を上げる、
(2)保圧圧力を高くする、および
(3)保圧時間を長くする、の少なくとも何れかの調整を行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記特定ステップで特定された位置が、過去に特定された位置と比べて前記溶融樹脂の射出口に近付く方向に移動していた場合に、
前記調整ステップでは、
(1)前記溶融樹脂を加熱するヒータの設定温度を下げる、
(2)保圧圧力を低くする、および
(3)保圧時間を短くする、の少なくとも何れかの調整を行う、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記溶融樹脂は、生分解性樹脂である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記特定ステップで特定された位置に基づいて前記溶融樹脂の粘度を推定する推定ステップを含み、
前記調整ステップでは、前記推定ステップで推定された粘度に応じて次回以降の射出成形の条件を調整する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
射出成形による樹脂成形品の製造を支援する支援装置であって、
溶融樹脂を金型へと押し出すスクリューの保圧完了時点における位置を特定する位置特定部と、
前記位置に応じて次回以降の射出成形の条件を調整する調整部と、を備える支援装置。
【請求項7】
請求項6に記載の支援装置としてコンピュータを機能させるための支援プログラムであって、前記位置特定部および前記調整部としてコンピュータを機能させるための支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形において、適正な品質の成形品を安定して製造するためには、温度や圧力などの各種条件を適切に設定することが重要である。例えば、下記の特許文献1には、規定圧力の圧力制御によりスクリューを規定時間だけ前進させて樹脂を押し出したときの、当該スクリューの前進した長さである押出ストロークに基づいて樹脂の粘性状態が適正であるか否かを判定することが記載されている。より詳細には、特許文献1の技術では、規定回数だけ射出成形を行った後、押出ストロークが適正範囲に入った回数が基準値以上であるか否かを判定し、その回数が基準値未満である場合に、粘性状態が不適正であると判定して警報を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、警報が出力された場合に、その後の処理がオペレータに委ねられているという点で改善の余地がある。つまり、特許文献1の技術における警報は、粘性状態が不適正であることを示しているだけであるから、オペレータは、警報が発報されただけでは、粘性が高すぎるのかあるいは低すぎるのかを認識することができず、それゆえ適切な対応を採ることが難しい。
【0005】
本発明の一態様は、射出成形を繰り返し行う間に溶融樹脂の粘度が変化した場合であっても、誰でも容易に成形不良の発生を抑えることが可能な製造方法等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る製造方法は、射出成形により樹脂成形品を製造する製造方法であって、溶融樹脂を金型へと押し出すスクリューの保圧完了時点における位置を特定する特定ステップと、前記特定ステップで特定された位置に応じて次回以降の射出成形の条件を調整する調整ステップと、を含む。
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る支援装置は、射出成形による樹脂成形品の製造を支援する支援装置であって、溶融樹脂を金型へと押し出すスクリューの保圧完了時点における位置を特定する位置特定部と、前記位置に応じて次回以降の射出成形の条件を調整する調整部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、射出成形を繰り返し行う間に溶融樹脂の粘度が変化した場合であっても、誰でも容易に成形不良の発生を抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る射出成形システムの概要を示す図である。
【
図2】溶融樹脂の粘度と保圧完了時点におけるスクリューの位置との関係を調べるための実験の結果を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る支援装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】上記支援装置による射出成形の条件の調整の例を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る製造方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔システム概要〕
図1は、射出成形システム1000の概要を示す図である。射出成形システム1000は、溶融樹脂を金型に射出して成形品を製造するシステムである。図示のように、射出成形システム1000には、射出成形を支援する支援装置1が含まれている。
【0011】
また、射出成形システム1000には、射出成形に必要な各種装置(原料樹脂を溶融させて溶融樹脂とした上で射出する射出ユニット、金型、および型締めユニット等)と、これらの装置の動作を制御する制御装置とが含まれている。
図1にはそのうち射出ユニットの部分を示している。具体的には、
図1には、ホッパ2、シリンダ3、スクリュー4、および逆流防止部5を示しており、これらは何れも射出ユニットの構成要素である。
【0012】
ホッパ2は、固体の原料樹脂を収容し、シリンダ3内に供給するものである。シリンダ3は、ホッパ2から供給された原料樹脂をその内部で溶融させ、溶融した樹脂をその内部に保持するものである。なお、原料樹脂を溶融させる際には、シリンダ3の周囲に設けられた図示しないヒータによる加熱を行う。また、シリンダ3の先端部は溶融樹脂の射出口31となっており、射出口31は図示しない金型につながっている。スクリュー4は、シリンダ3内の溶融樹脂を金型へと押し出すものである。そして、逆流防止部5はスクリュー4の先端付近に設けられており、スクリュー4の外周面とシリンダ3の内周面との間の隙間を埋めて溶融樹脂の逆流を防ぐためのものである。
【0013】
樹脂成形品の製造においては、まず、
図1の上側の「原料樹脂の投入開始」の図に示すように、スクリュー4をシリンダ3の右端(射出口31から遠い側の端部付近)に位置させた状態で、ホッパ2を介してシリンダ3の内部に原料樹脂を投入する。この時点におけるスクリュー4の先端部の位置はL1であり、この位置L1からシリンダ3の射出口31側の端部の位置L2までの距離はA0である。そして、図示しないヒータにより原料樹脂を加熱し、シリンダ3内で溶融させる。
【0014】
原料樹脂が溶融した後、スクリュー4を射出口31に向かって前進させる。これにより射出口31から溶融樹脂が射出され、金型に供給される。初期の段階ではスクリュー4の前進速度が一定になるように制御し、その後、スクリュー4にかかる圧力が一定となるように前進させる制御に切り替える。そして、圧力一定でスクリュー4を所定時間前進させた後、スクリュー4を停止させて所定時間待機する。なお、これらの制御は図示しない制御装置により行われる。
【0015】
スクリュー4を停止させた状態で保持する工程が保圧工程であり、保持する時間が保圧時間である。
図1の下側には保圧完了時における射出ユニットの状態を示している。この例では、スクリュー4の先端部が距離D1だけ進んでその位置がL3に到達し、位置L3から位置L2までの距離は、原料樹脂の投入時における距離A0よりも短い距離A1となっている。
【0016】
ここで、射出成形を繰り返し行う場合、繰り返し中に溶融樹脂の粘度が変化すると、バリやショートショット等の成形不良が発生することがある。これを防ぐ方策としては、例えば粘度を頻繁に測定し、測定結果に応じて射出成形の条件を調整することが考えられるが、このような方策は手間がかかり過ぎるため現実的ではない。
【0017】
そこで、本発明の発明者らは様々な実験を行い、溶融樹脂の粘度と保圧完了時点におけるスクリューの位置との間に相関があることを見出した。
図2は、溶融樹脂の粘度と保圧完了時点におけるスクリューの位置との関係を調べるための実験の結果を示す図である。
【0018】
図2に示すグラフG1は、ある粘度の溶融樹脂を用いて複数回射出成形を行ったときの、各射出成形の保圧完了時点におけるスクリューの位置を示している。なお、ここでは、保圧完了時点における、シリンダの射出口側の端部からスクリューの先端部までの距離(単位はmm)をスクリューの位置としている。また、
図2に示すグラフG2は、上記よりも高い粘度の溶融樹脂を用いて複数回射出成形を行ったときの、各射出成形の保圧完了時点におけるスクリューの位置をグラフG1と同様にして示している。これらのグラフから、溶融樹脂の粘度と保圧完了時点におけるスクリューの位置との間に相関があることがわかる。具体的には、溶融樹脂の粘度が高くなると、スクリューの位置は射出口から離れる方向に遷移することがわかる。
【0019】
支援装置1は、上述のような知見に基づいて射出成形を支援するものであり、スクリュー4の保圧完了時点における位置を特定し、特定した位置に応じて次回以降の射出成形の条件を調整する。これにより、溶融樹脂の粘度が変化した場合に、粘度の測定等の手間を発生させることなく、誰でも容易に成形不良の発生を抑えることが可能になる。
【0020】
射出成形システム1000は上述のような調整を行うから、分解温度が低い樹脂の成型に特に好適である。例えば、射出成形システム1000は、生分解性プラスチック等の成形に好適に利用できる。つまり、射出成形システム1000における溶融樹脂は、生分解性樹脂であってもよい。本明細書における「生分解性」とは、自然界において微生物によって低分子化合物に分解され得る性質をいう。本製造方法にて使用される生分解性樹脂は、生分解性を有していれば、特に限定されない。具体的には、生分解性樹脂は、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)のようなポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、またはポリカプロラクトンであってもよい。
【0021】
一般に、生分解性樹脂は、原料ペレットの粘度のばらつきが大きくなりがちであり、そのような原料ペレットを用いて成形する場合、粘度のばらつきに起因してショートショットやバリ等の成形不良が生じることがある。また、一般に、生分解性樹脂は熱分解しやすいため、最初からショートショットが発生しにくい高温条件で成形することは望ましくない。
【0022】
この点、射出成形システム1000によれば、初期段階では設定温度を抑えつつ、融樹脂の粘度が変化したときに射出成形の条件を調整して成形不良の発生を抑えることができるから、成形不良の発生を抑えて生分解性樹脂を効率よく成形することが可能になる。なお、生分解性樹脂以外を製造する場合においても同様の効果は得られるが、生分解性樹脂を製造する場合にこの効果は特に顕著である。
【0023】
〔支援装置の構成〕
図3は、支援装置1の要部構成の一例を示すブロック図である。図示のように、支援装置1は、支援装置1の各部を統括して制御する制御部10と、支援装置1が使用する各種データを記憶する記憶部11を備えている。また、支援装置1は、支援装置1が他の装置と通信するための通信部12、支援装置1に対する各種データの入力を受け付ける入力部13、および支援装置1が各種データを出力するための出力部14を備えている。また、制御部10には、位置特定部101、粘度推定部102、調整内容決定部103、および調整部104が含まれている。
【0024】
位置特定部101は、溶融樹脂を金型へと押し出すスクリュー4の保圧完了時点における位置を特定する。なお、ここで、スクリュー4の位置とは、シリンダ3内におけるスクリュー4の位置を意味する。スクリュー4の位置は、保圧完了時点までにスクリュー4を前進させた距離から特定することができる。例えば、シリンダ3の射出口31側の端部から保圧完了時点におけるスクリュー4の先端部までの距離をスクリュー4の位置として特定してもよい。この場合、位置特定部101は、初期位置にあるときのスクリュー4の先端部から射出口31側の端部までの距離から、保圧完了時点までにスクリュー4を前進させた距離を減算することにより、スクリュー4の位置を特定することができる。例えば、
図1の例であればスクリューの位置はA1=(A0-D1)と特定される。
【0025】
なお、スクリュー4の位置をどのように表すかは任意である。例えば、位置特定部101は、保圧完了時点までにスクリュー4を前進させた距離(
図1におけるD1)を、スクリュー4の位置を示すものとして特定してもよい。この他にも、例えば、位置特定部101は、保圧完了時点までにスクリュー4を前進させた距離(
図1におけるD1)のシリンダ3の全長に対する比をスクリュー4の位置を示すものとして特定してもよい。
【0026】
粘度推定部102は、位置特定部101が特定する位置(上述したスクリュー4の位置)に応じて、溶融樹脂の粘度を推定する。
図2に基づいて説明したように、スクリュー4の位置と溶融樹脂の粘度との間には相関があるため、この相関に基づいて粘度を推定することが可能である。例えば、スクリュー4の位置と溶融樹脂の粘度との関係を定式化した粘度推定モデルを予め生成しておけば、粘度推定部102は当該粘度推定モデルを用いて粘度を推定することができる。粘度推定モデルの生成方法は特に限定されない。例えば、スクリュー4の位置と溶融樹脂の粘度との関係を示す教師データを用いた機械学習等により粘度推定モデルを生成することもできる。
【0027】
調整内容決定部103は、位置特定部101が特定する位置(スクリュー4の位置)に応じて射出成形の条件の調整内容を決定する。詳細は後述するが、調整内容決定部103は、スクリュー4の位置が過去に特定された位置と比べて射出口31から離れる方向に移動していた場合と、射出口31に近付く方向に移動していた場合とで、それぞれ異なる調整内容を決定する。また、調整内容決定部103は、粘度推定部102が推定した粘度に基づいて調整内容を決定してもよい。
【0028】
調整部104は、位置特定部101が特定する位置(スクリュー4の位置)に応じて次回以降の射出成形の条件を調整する。調整の内容は、調整内容決定部103により決定される。なお、調整部104は、射出成形システム1000に含まれる制御装置にアクセスして直接的に射出成形の条件を調整してもよいし、調整内容を任意の出力装置(例えば表示装置や音声出力装置等)に出力させることにより、オペレータに条件の調整を行わせてもよい。
【0029】
以上のように、支援装置1は、射出成形による樹脂成形品の製造を支援する支援装置であって、溶融樹脂を金型へと押し出すスクリュー4の保圧完了時点における位置を特定する位置特定部101と、当該位置に応じて次回以降の射出成形の条件を調整する調整部104と、を備える。よって、射出成形を繰り返し行う間に溶融樹脂の粘度が変化した場合であっても、誰でも容易に成形不良の発生を抑えることが可能になる。
【0030】
〔調整の例〕
図4は、支援装置1による射出成形の条件の調整の例を示す図である。
図4にはEX1とEX2の2つの例を示している。何れの例についても、保圧完了時点の射出ユニットの状態を示している。
【0031】
EX1において、スクリュー4の先端部の位置は、初期位置L1から距離D2だけ進んだ位置L4となっており、位置L2からL4までの距離はA2である。スクリュー4が進んだ距離D2は
図1の例における距離D1よりも短くなっており、距離A2は
図1の例における距離A1よりも長くなっている。このことは、EX1では、
図1の例と比べて溶融樹脂の粘度が高くなったことを意味している。そして、溶融樹脂の粘度が高くなった場合、金型の全体に溶融樹脂が行き渡らず、ショートショットが発生するおそれがある。
【0032】
このように、特定されたスクリュー4の位置が、過去に特定された位置(射出成形された成形品が正常であったときの位置と言い換えることもできる)と比べて射出口31から離れる方向に移動していた場合には、調整内容決定部103は、ショートショットが発生しにくくなるように射出成形の条件の調整内容を決定する。例えば、調整内容決定部103は、(1)溶融樹脂を加熱するヒータの設定温度を上げる、(2)保圧圧力を高くする、および(3)保圧時間を長くする、の少なくとも何れかの調整を行うことを決定してもよい。
【0033】
上記(1)~(3)は、何れもショートショットの発生を防ぐために有効な措置であるから、上記のように調整内容を決定して、調整部104に当該内容で調整を行わせることにより、ショートショットの発生を抑えることが可能になる。なお、設定温度の調整の対象とするヒータは、シリンダ3を加熱するヒータであってもよいし、ホットランナーにより射出成形を行う場合には溶融樹脂の流路に設けられたヒータであってもよい。
【0034】
一方、EX2においては、スクリュー4の先端部の位置は、初期位置L1から距離D3だけ進んだ位置L5となっており、位置L2からL5までの距離はA3である。スクリュー4が進んだ距離D3は
図1の例における距離D1よりも長くなっており、距離A3は
図1の例における距離A1よりも短くなっている。このことは、EX2では、
図1の例と比べて溶融樹脂の粘度が低くなったことを意味している。そして、溶融樹脂の粘度が低くなった場合、金型から溶融樹脂があふれて、バリが発生するおそれがある。
【0035】
このように、特定されたスクリュー4の位置が、過去に特定された位置(射出成形された成形品が正常であったときの位置と言い換えることもできる)と比べて射出口31に近付く方向に移動していた場合には、調整内容決定部103は、バリが発生しにくくなるように射出成形の条件の調整内容を決定する。例えば、調整内容決定部103は、(1)溶融樹脂を加熱するヒータの設定温度を下げる、(2)保圧圧力を低くする、および(3)保圧時間を短くする、の少なくとも何れかの調整を行うことを決定してもよい。
【0036】
上記(1)~(3)は、何れもバリの発生を防ぐために有効な措置であるから、上記のように調整内容を決定して、調整部104に当該内容で調整を行わせることにより、バリの発生を抑えることが可能になる。なお、設定温度の調整の対象とするヒータは、シリンダ3を加熱するヒータであってもよいし、ホットランナーにより射出成形を行う場合には溶融樹脂の流路に設けられたヒータであってもよい。
【0037】
また、調整内容決定部103は、設定温度の変更幅、保圧圧力の変更幅、および保圧時間の変更幅を決定してもよい。例えば、調整内容決定部103は、スクリュー4の位置の変動幅に応じて変更幅を決定してもよい。これにより、スクリュー4の位置が起きく変動したときには変更幅も大きくし、ショートショットやバリの発生を防ぐために十分な調整を行うことができる。
【0038】
また、調整内容決定部103は、粘度推定部102による粘度の推定結果に基づいて、ヒータの設定温度、保圧圧力、および保圧時間の少なくとも何れかを決定してもよい。こにより、粘度に応じた適切な調整を行うことが可能になる。なお、粘度の推定値と、それに応じた設定温度、保圧圧力、および保圧時間との関係は予めモデル化しておけばよく、これにより調整内容決定部103は当該モデルを用いて、ヒータの設定温度、保圧圧力、および保圧時間を決定することができる。
【0039】
〔成形品の製造方法〕
図5は、本実施形態に係る製造方法の流れを示すフローチャートである。なお、
図5には、本製造方法に含まれる処理のうち支援装置1が実行する処理を示しており、当該処理は保圧完了後に実行される。
【0040】
S1(特定ステップ)では、位置特定部101が、保圧完了時点におけるスクリュー4の位置を特定する。例えば、支援装置1のオペレータが入力部13を介して保圧完了時点までにスクリュー4を前進させた距離を入力するようにしてもよく、この場合、位置特定部101は、入力された距離から保圧完了時点におけるスクリュー4の位置を特定する。また、保圧完了時点までにスクリュー4を前進させた距離は、通信部12を介してスクリュー4の動作を制御する制御装置から取得するようにしてもよい。
【0041】
S2では、粘度推定部102が、S1で特定されたスクリュー4の位置に基づいて溶融樹脂の粘度を推定する。
【0042】
S3では、調整内容決定部103が、射出成形の条件を調整するか否かを判定する。S3の判定条件は予め定めておけばよい。例えば、調整内容決定部103は、S2で推定された粘度が所定の正常範囲内であれば調整しない(S3でNO)と判定し、正常範囲外であれば調整する(S3でYES)と判定してもよい。S3でNOと判定された場合には図示の処理は終了する。一方、S3でYESと判定された場合にはS4に進む。
【0043】
S4では、調整内容決定部103は、射出成形の条件の調整内容を決定する。上述のように、射出成形の条件の調整内容は、スクリュー4の位置に基づいて決定されてもよいし、粘度の推定結果に基づいて決定されてもよく、また、それらの両方に基づいて決定されてもよい。
【0044】
S5(調整ステップ)では、調整部104が、S4で決定された内容で射出成形の条件を調整する。例えば、調整部104は、スクリュー4の動作を制御する制御装置における保圧圧力および保圧時間の少なくとも何れかの設定を変更する調整を行ってもよい。また、例えば、調整部104は、ヒータを制御する制御装置に対して、設定温度を変更する調整を行ってもよい。また、例えば、調整部104は、出力部14あるいは通信部12を介してS4で決定された調整内容をオペレータに通知して、当該調整内容を反映させることをオペレータに促してもよい。S5の終了により、
図5の処理は終了する。S5で条件の調整が行われた場合、次回の射出成形は調整後の条件を適用して行われる。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る製造方法は、射出成形により樹脂成形品を製造する製造方法であって、溶融樹脂を金型へと押し出すスクリュー4の保圧完了時点における位置を特定する特定ステップ(S1)と、特定された位置に応じて次回以降の射出成形の条件を調整する調整ステップ(S5)と、を含む。よって、射出成形を繰り返し行う間に溶融樹脂の粘度が変化した場合であっても、誰でも容易に成形不良の発生を抑えることが可能になる。
【0046】
また、
図5に示す製造方法は、上記特定ステップで特定された位置に基づいて溶融樹脂の粘度を推定する推定ステップ(S2)を含む。そして、上記調整ステップでは、推定ステップで推定された粘度に応じて次回以降の射出成形の条件を調整してもよい。これにより、溶融樹脂の粘度として妥当な値を推定し、推定した粘度に応じた妥当な条件で射出成形を行い、成形不良の発生を抑えることが可能になる。
【0047】
なお、
図5の処理は、所定回数の射出成形を行う度に実行してもよいし、射出成形により成形された成形品の品質が低下したとき(例えば不良率が閾値以上となったとき)に実行してもよい。複数回の射出成形ごとに
図5の処理を実行する場合、S1では複数回の射出成形におけるスクリュー4の位置をそれぞれ特定し、S5では当該位置の統計値(例えば平均値や最大値、最小値等)に基づいて射出成形の条件を調整してもよい。
【0048】
〔変形例〕
上述の実施形態で説明した各処理の実行主体は任意であり、上述の例に限られない。つまり、相互に通信可能な複数の情報処理装置(コンピュータと言い換えることもできる)により、支援装置1と同様の機能を実現することができる。例えば、
図5に示す各処理を複数の情報処理装置に分担で実行させてもよい。
【0049】
〔ソフトウェアによる実現例〕
支援装置1の機能は、支援装置1としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、支援装置1の各制御ブロック(特に制御部10に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラム(支援プログラム)により実現することができる。
【0050】
この場合、支援装置1は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記実施形態で説明した各機能が実現される。
【0051】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、支援装置1が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して支援装置1に供給されてもよい。
【0052】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0053】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1 支援装置
101 位置特定部
104 調整部