IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ナリス化粧品の特許一覧 ▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧

<>
  • 特開-物質表層の含水率の計測方法 図1
  • 特開-物質表層の含水率の計測方法 図2
  • 特開-物質表層の含水率の計測方法 図3
  • 特開-物質表層の含水率の計測方法 図4
  • 特開-物質表層の含水率の計測方法 図5
  • 特開-物質表層の含水率の計測方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135211
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】物質表層の含水率の計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/552 20140101AFI20240927BHJP
   G01N 21/3581 20140101ALI20240927BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01N21/552
G01N21/3581
A61B5/00 M
A61B10/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045781
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 広之
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄一
【テーマコード(参考)】
2G059
4C117
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB10
2G059BB12
2G059CC09
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE11
2G059JJ12
2G059MM01
2G059MM12
4C117XB01
4C117XD05
4C117XE03
4C117XE04
4C117XE06
4C117XE36
(57)【要約】
【課題】物質表面が薄膜で覆われている場合には、薄膜がATR信号を小さくし、物質表層の含水率が正確に計測できないという課題がある。
【解決手段】異なる2つの周波数f1及びf2のテラヘルツ波を用い、周波数f1のテラヘルツ波を用いて測定されたATR信号A1及び周波数f2のテラヘルツ波を用いて測定されたATR信号A2を求める。そして当該2つのATR信号A1及びATR信号A2により構成される含水率指標を求め、当該含水率指標として利用し、ATR信号A1又はATR信号A2から物質表層の含水率を算出する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質表層の含水率の計測方法であって、
異なる2つの周波数f1,f2のテラヘルツ波を用い、周波数f1のテラヘルツ波を用いて全反射減衰分光法により測定されたATR信号A1及び周波数f2のテラヘルツ波を用いて全反射減衰分光法により測定されたATR信号A2を求める工程、及び
前記求められたATR信号A1及びATR信号A2から含水率を算出する際に、含水率と単調関係にある当該2つのATR信号A1及びATR信号A2により構成される含水率指標を利用して物質表層の含水率を算出する工程、
を含むことを特徴とする、物質表層の含水率の計測方法。
【請求項2】
前記含水率指標は、次の[数3]の式で表される計算値であり、
【数3】
但し、係数a、b、c、dは実数であって、a=b=0又はc=d=0ではなく、a=c=0又はb=d=0ではないことを特徴とする、請求項1に記載の物質表層の含水率の計測方法。
【請求項3】
前記物質表層の含水率の計測方法が、物質表面を覆う薄膜の有無にかかわらず物質表層の含水率を計測するためのものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の物質表層の含水率の計測方法。
【請求項4】
前記物質表層の含水率の計測方法は、物質表面が薄膜で覆われている場合に適用される方法であり、
前記薄膜の厚みが、前記2つの周波数f1及びf2のテラヘルツ波の全反射により生じるエバネッセント波のしみだし深さよりも薄い場合に適用されるものである、請求項1又は2に記載の物質表層の含水率の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を用いた物質表層の含水率の計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、テラヘルツ波を用いた全反射減衰分光法により皮膚角層水分量を計測する方法が開示されている。
【0003】
先行技術に係る水分量の計測方法は、プリズム表面に試料である皮膚の表面を接触させて、テラヘルツ波を照射してその反射率R(=Eout/Ein)又はATR信号量ATRint(=log(1/R))を求める工程と、求められた反射率R又はATR信号量ATRintから試料の角層水分量を求める工程とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6781424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の方法により物質表層の含水率を計測する場合において、物質表面が薄膜で覆われている場合には、プリズム表面に薄膜で覆われた物質表面を接触させた際に、物質表面とプリズムとの間の薄膜がATR信号に影響を与え、その結果、物質表層の含水率が正確に計測できないという課題があった。
【0006】
本発明は、係る課題を解決するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、テラヘルツ波を用いた全反射減衰分光法によりATR信号を求める工程を含み、異なる2つの周波数f1,f2のテラヘルツ波を用い、周波数f1のテラヘルツ波を用いて測定されたATR信号A1及び周波数f2のテラヘルツ波を用いて測定されたATR信号A2を求める工程、及び、前記求められたATR信号A1及びATR信号A2から含水率を算出する際に、含水率と単調関係にある当該2つのATR信号A1及びATR信号A2により構成される含水率指標を利用して物質表層の含水率を算出する工程、を含むことを特徴とする、物質表層の含水率の測定方法である。
【0008】
前記含水率指標としては、ATR信号A1及びATR信号A2に対して、例えば、(A1+A2)/A1で表される含水率指標を用いることで、物質の表面が薄膜で覆われているか否かにかかわらず、物質表層の含水率を正確に測定できる計測方法となる。
【0009】
なお、本発明においては、物質の表面が薄膜で覆われている場合に、当該薄膜の厚みが、選択した2つの周波数f1及びf2のテラヘルツ波のエバネッセント波のしみ出し深さよりも薄いことが条件となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、物質表面が薄膜で覆われているか否かにかかわらず、物質表層の含水率を正確に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】異なる2つの周波数(f1及びf2)のテラヘルツ波によって、薄膜で覆われた物質表面(試料)に対して全反射減衰分光法を適用した場合に得られる2つのATR信号(A1及びA2)を説明する図である。
図2】それぞれ(a)0.80THz、(b)0.85THz、(c)0.95THzのテラヘルツ波を用いた場合の含水率[wt%]とATR信号との関係を示す図であり、各図において、薄膜あり及び薄膜なしの測定値が示されている。
図3】異なる2つの周波数f1,f2のテラヘルツ波で計測したATR信号A1及びATR信号A2に含水率指標を適用した場合の含水率[wt%]と含水率指標との関係を示す図であり、各図において、薄膜あり及び薄膜なしの場合が対比されている。
図4】(a)周波数が0.80THzのテラヘルツ波を用いて全反射減衰分光法によってATR信号を測定した場合の、薄膜なし、及び厚みの異なる5種類の薄膜がある場合のATR信号を示すグラフ、(b)周波数f1が0.80THz及び、周波数f2が0.95THzのテラヘルツ波を用いて全反射減衰分光法によってATR信号を測定し、含水率指標を適用した後の、薄膜なし、及び厚みの異なる5種類の薄膜がある場合の含水率指標を示すグラフである。
図5】試料としてトマトを用い、(a)0.80THzのテラヘルツ波によって全反射減衰分光法でATR信号を測定した結果を示す図、(b)周波数f1が0.80THz、及び、周波数f2が0.95THzの2つのテラヘルツ波を用いて、全反射減衰分光法によってATR信号A1及びATR信号A2を測定し、含水率指標で補正した後の含水率指標と、薄膜のなし、ありとの関係を示す図である。
図6】ヒトの皮膚を測定対象とし、(a)0.80THzのテラヘルツ波によって全反射減衰分光法でATR信号を測定した結果を示す図、(b)周波数f1が0.80THz、及び、周波数f2が0.95THzの2つのテラヘルツ波を用いて、全反射減衰分光法によってATR信号A1及びATR信号A2を測定し、含水率指標で補正した後の含水率指標と、薄膜のなし、ありとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[周波数とATR信号の関係]
図1は、全反射減衰分光法により、プリズムを介して物質表面(試料)にテラヘルツ波を照射する場合の、入射テラヘルツ波の強度Einと、反射テラヘルツ波の強度Eoutと、試料表面で生じるエバネッセント波とを図解的に示す図である。図中、Ein,1、Eout,1のように用いられた1,2という数字の添え字は測定に用いたテラヘルツ波の周波数f1、f2との対応を表す。
【0013】
図1を参照して、全反射減衰分光法では、プリズムを物質表面(試料)あるいは物質表面を覆う薄膜に接触させ、物質表面でテラヘルツ波が全反射する条件で、プリズムを介してテラヘルツ波を照射する。
【0014】
物質表面あるいは物質表面を覆う薄膜の表面でテラヘルツ波が全反射する条件は、入射側の媒質の屈折率と、出射側の媒質の屈折率と、入射角とで一義的に決定される。全反射する条件で物質表面にテラヘルツ波を照射すると、その際にエバネッセント波と称される特殊な電場が生じる。その強度はプリズムと物質の界面から物質内部への方向に指数関数的に減少する。
【0015】
また、エバネッセント波のしみだし深さdpは、次の[数1]で与えられる。
【0016】
【数1】
【0017】
ここで、cは光の速さ、πは円周率、fは入射波の周波数、θiは入射角、n1はプリズムの屈折率、n2は出射側の媒質の屈折率、κ2は消衰係数を表す。
【0018】
つまり、本実施形態のATR信号測定では、入射波の周波数、入射角、プリズムの屈折率を適宜調整することによって、物質あるいは物質表面を覆う薄膜の屈折率に応じた全反射条件を適用できる。一例として、屈折率が3.4のプリズムを用い、屈折率が1.3で消衰係数がゼロの薄膜に50度の入射角でテラヘルツ波を入射すれば全反射が生じ、入射するテラヘルツ波の周波数が0.80THzの場合、約26μmのしみだし深さのエバネッセント波が生じる。
【0019】
図1において、Ein,xは入射されるテラヘルツ波の強度であり、Eout,xは反射されるテラヘルツ波の強度である。ここで、xは測定に用いたテラヘルツ波の周波数f1、f2に対応した数値を表す。よって、図1における全反射減衰分光法におけるATR信号Axは、
x=-log10(Eout,x/Ein,x
となる。
【0020】
ところで、テラヘルツ波とは、0.1~10THzの電磁波で、光波と電波の中間領域に位置する。テラヘルツ波は良好な物質透過性を有し、水による吸収が非常に大きいという特徴を有している。そのため、物質表面に薄膜がない場合に全反射する条件で物質表面に入射強度Ein,xのテラヘルツ波を照射すると、照射したテラヘルツ波の一部は物質表層の含水率に相関して吸収され、反射テラヘルツ波の強度Eout,xは入射テラヘルツ波の強度Ein,xに比べて小さくなる。この原理を利用して、ATR信号Ax=-log10(Eout,x/Ein,x)を求めることにより、物質表層の含水率を検出することができる。
【0021】
なお、本実施形態において、含水率を測定する「物質表層」とは、表面から5~200μm程度入り込んだ表面層を指すものであり、エバネッセント波のしみだし深さが含まれる表面層を、本実施形態では、「物質表層」と定義している。
【0022】
図1はまた、異なる2つの周波数(f1及びf2)のテラヘルツ波によって、薄膜で覆われた物質表面(試料)に対して全反射減衰分光法を適用した場合に得られる2つのATR信号(A1及びA2)を説明する図である。
【0023】
本実施形態では、異なる2つの周波数(f1及びf2)のテラヘルツ波で計測した図1に示す2つのATR信号(A1及びA2)を使い、含水率指標を得ることを特徴としている。含水率指標としては、例えば、
含水率指標=(A1+A2)/A1
を例示することができる。
【0024】
なお、ATR信号の含水率指標としては、
含水率指標=(A1-A2)/A1
含水率指標= A2/A1
含水率指標=(A1-A2)/(A1+A2
含水率指標=(A1+A2)/A2
含水率指標=(A1-A2)/A2
含水率指標= A1/A2
であってもよい。
【0025】
含水率指標は、一般化して、
含水率指標=(aA1+bA2)/(cA1+dA2
と表すことができる。ただし、上記含水率指標の各係数a,b,c,dは実数であって、a=b=0又はc=d=0ではなく、かつ、a=c=0又はb=d=0ではない。上記含水率指標の式は、異なる2つの周波数(f1及びf2)のテラヘルツ波で計測した2つのATR信号(A1及びA2)を使って含水率指標を得る際の概念を表すもので、含水率指標と含水率の単調関係を損なわない程度に、上記含水率指標の式に対して、記載のない数値や演算子を導入しても良い。たとえば、選択した式によって得られる含水率指標が小数点以下第2位までがゼロの小数、一例として0.0012である場合に、適当な数値をかけて大きくし、1.2などとしても良い。
【0026】
また、本実施形態において、「薄膜」とは、水に比較して十分にATR信号が小さい(反射率Rが大きい)膜を指し、プリズムに密着させてATR信号A1及びA2を計測した場合に、空気を計測した場合のATR信号A1及びA2と実質的に同等のATR信号A1及びA2を与えるものである。該薄膜について、固体状・液状など状態は問わない。
【0027】
[含水率とATR信号の関係]
物質表層の含水率とATR信号との関係を明らかにするために、3つの周波数(0.80THz、0.85THz、0.95THz)のテラヘルツ波を用い、表面が薄膜で覆われた試料及び薄膜で覆われていない試料について、全反射減衰分光法によってATR信号を測定し、含水率とATR信号との関係を確認した。
【0028】
試料は、水と1,3-ブチレングリコールとの混合物を用い、薄膜は、Newラップ(リケンファブロ社製、厚さ:10μm、材質:ポリ塩化ビニル)を用いた。
【0029】
図2(a)は、0.80THzのテラヘルツ波を用いた場合の含水率[wt%]とATR信号との関係、図2(b)は、0.85THzのテラヘルツ波を用いた場合の含水率[wt%]とATR信号との関係、図2(c)は、0.95THzのテラヘルツ波を用いた場合の含水率[wt%]とATR信号との関係である。
【0030】
図2(a)~(c)によれば、上記の条件下では、テラヘルツ波の周波数に関わらず、
(1)ATR信号は試料の含水率が高いほど大きい。
(2)ATR信号は、試料表面が薄膜で覆われている場合は、小さくなる。
(3)ATR信号の薄膜有無での差は、試料の含水率が高いほど大きい。
ということが確認できた。
【0031】
[含水率指標の考察]
図2(a)に示す含水率とATR信号との関係を確認したデータに示す通り、薄膜ありでは薄膜なしと比較してATR信号が低下し、含水率が増加するほど薄膜なしと薄膜ありとのATR信号の差が大きくなる。
【0032】
そこで、図2(a)及び図2(c)に示す異なる2つの周波数(f1及びf2)のテラヘルツ波(一例として、f1が0.80THz、f2が0.95THz)で計測したATR信号A1及びATR信号A2について、たとえば、含水率指標=(A1+A2)/A1を適用すると、薄膜ありでも、薄膜なしと同等の含水率指標となる。
【0033】
すなわち、異なる2つの周波数(f1及びf2)のテラヘルツ波を用いて全反射減衰分光法を適用して得られる2つのATR信号(A1及びA2)を使い、たとえば、含水率指標=(A1+A2)/A1を用いることで、薄膜が有る場合や薄膜有無が分からない場合においても、薄膜の有無がほとんど関与しない含水率指標を提示することが可能となる。
【0034】
含水率指標は、含水率に依存して増加する値であることから、含水率指標から含水率を評価するための検量線を作成することで、薄膜の有無にかかわらない、含水率の測定が可能となる。
【0035】
なお、薄膜ありと薄膜なしの評価値の近さは、たとえば次の[数2]で定義される決定係数により評価できる。
【0036】
【数2】
【0037】
薄膜なしの値を実測値、薄膜ありの値を予測値(予測値は実測値に近いほど予測精度が高い)とし、実測値と予測値の差は残差とする。この時、実測値と予測値の残差平方和RSSは、実測値と予測値の差である残差の平方(二乗)値を計算し、それを総和した値となる。一方、偏差平方和SSは、実測値の偏差(平均値との差)の平方値を計算し、それを総和した値となる。
【0038】
そこで、予測値の決定係数は上記[数2]で表すことができ、実測値に対する予測値の誤差が小さいほど1に近づく。本実施形態においては、決定係数が0.8以上の場合、予測値は実測値と同等であると判断した。
【0039】
0.80THzの単周波数と、上述の含水率指標=(A1+A2)/A1の決定係数をそれぞれ求めると、0.80THzの単周波数では決定係数が0.62となる一方、上述の含水率指標では決定係数が0.88となり、含水率指標では、薄膜ありでも試料自体と同等の評価値を求めることが可能になる。
【0040】
次の表1に比較例1~3及び実施例1~6における決定係数を示す。表1の比較例1~3は、それぞれ、単周波数での測定における決定係数である。また、表1の実施例1~3は、周波数f1が0.80THz、周波数f2が0.95THzの異なる2つの周波数f1及びf2のテラヘルツ波で計測したATR信号A1及びA2について、
含水率指標=(aA1+bA2)/(cA1+dA2
を適用した場合の決定係数を示している。
【0041】
なお、実施例1、2、3においては、それぞれ、含水率指標の係数a、b、c、dを、表1に記載の通りとした。
【0042】
同様に、表1の実施例4~6は、周波数f1が0.80THz、周波数f2が0.85THzの異なる2つの周波数f1及びf2のテラヘルツ波で計測したATR信号A1及びA2について、
含水率指標=(aA1+bA2)/(cA1+dA2
を適用した場合の決定係数を示している。実施例4、5、6においても、それぞれ、含水率指標の係数a、b、c、dは、表1に記載の通りとした。
【0043】
【表1】
【0044】
また、実施例1~6の含水率[wt%]と含水率指標との関係、及び薄膜のあり、なしの関係を図3に示す。
【0045】
表1及び図3に示す通り、異なる2つの周波数のテラヘルツ波を用い、当該2つのATR信号A1及びATR信号A2から含水率を算出する際に、含水率と単調関係にある当該2つのATR信号A1及びATR信号A2を用いた特定の含水率指標を利用することで、物質表面を覆う薄膜の有無にかかわらず、物質表層の含水率を測定することが可能になる。
【0046】
[薄膜の種類・厚みの影響の考察]
試料として、水50重量%と、1,3-ブチレングリコールとの混合物を用い、その表面を下記[表2]に示す5種の薄膜のいずれかで覆ったものと、薄膜で覆わないものについて、周波数0.80THzのテラヘルツ波を用いて全反射減衰分光法によってATR信号を測定した。
【0047】
【表2】
【0048】
その結果を、図4(a)に示す。図4(a)は、薄膜なしの場合のATR信号(左端)と、厚みの異なる薄膜がある場合のATR信号(左から2~6番目)との関係を示すグラフである。図の横軸の項目名に示したカッコ内の数値は薄膜の厚み (μm)を示す。
【0049】
図4(a)により、薄膜の厚みはATR信号に大きく影響を与えることが理解できる。特に、薄膜の厚みが30μmの場合、ATR信号が非常に小さく、薄膜の厚みがエバネッセント波のしみだし深さを超えていると考えられる。薄膜の厚みが30μmの場合を除き、薄膜なしの場合に対する薄膜ありの場合のATR信号の割合の最小値は、29%であった。
【0050】
図4(b)は、全反射減衰分光法によってATR信号を測定し、前述した含水率指標(A1+A2)/A1で補正した後の、薄膜なし、及び厚みの異なる薄膜がある場合の含水率指標との関係を示すグラフである。図4(b)において、薄膜の厚みが30μmの場合を除き、薄膜なしの場合に対する薄膜ありの場合のATR信号の割合の最小値は、67%で、図4(a)での最小値29%を大きく改善した。なお、図4(a)において薄膜の厚みがエバネッセント波のしみだし深さを超えているとみられた厚み30μmの薄膜で覆った場合は、図4(b)に示すように、ATR信号が弱くなりすぎ、補正不能と判断された。
【0051】
以上の検証により、全反射減衰分光法によりATR信号を求める方法では、物質表面がエバネッセント波のしみだし深さ(エバネッセント波の強度が界面から1/eに減少するまでの距離。侵入の深さ、ともいう。)を超える厚みの薄膜で覆われている場合は、補正ができないことが判明した。
【0052】
[実施例1]
試料として、トマトを用い、その表面を薄膜で覆ったものと、薄膜で覆っていないものについて、0.80THzのテラヘルツ波を用いて全反射減衰分光法によってATR信号を測定した。
【0053】
薄膜は、Newラップ(リケンファブロ社製、厚さ:10μm、材質:ポリ塩化ビニル)を用いた。
【0054】
その結果、薄膜なしの場合に対する薄膜ありの場合のATR信号の割合は約50%であった(図5(a)を参照)。
【0055】
そこで、周波数f1が0.80THzのテラヘルツ波、及び、周波数f2が0.95THzのテラヘルツ波を用いて、薄膜がない場合と、薄膜がある場合のそれぞれについてATR信号A1及びATR信号A2を測定し、前述した含水率指標=(A1+A2)/A1を適用すると、図5(b)に示す結果が得られ、薄膜なしの場合に対する薄膜ありの場合のATR信号の割合は102%となった。
【0056】
よって、薄膜で覆われたトマトの表面の含水率を計測する場合には、周波数f1に0.80THzのテラヘルツ波、及び、周波数f2に0.95THzのテラヘルツ波を用いて、ATR信号A1及びATR信号A2を測定し、含水率指標=(A1+A2)/A1を適用すると、ATR信号A1又はATR信号A2に基づいて、トマト表層の含水率を正しく算出できることが理解できる。
【0057】
[実施例2]
ヒトの皮膚を測定対象とし、その表面にワセリンを一例として20μm未満の厚みで塗布した場合と、塗布しなかった場合について、0.80THzのテラヘルツ波を用いて全反射減衰分光法によってATR信号を測定した。本実施例の場合、ワセリンが薄膜として作用する。
【0058】
その結果、図6(a)に示すように、ワセリンなし(薄膜なし)の場合に対するワセリンあり(薄膜あり)の場合のATR信号の割合は約19%であった。
【0059】
そこで、周波数f1に0.80THzのテラヘルツ波、及び、周波数f2に0.95THzのテラヘルツ波を用いて、ワセリンを塗布しない場合と、ワセリンを塗布した場合のそれぞれについてATR信号A1及びATR信号A2を測定し、前述した含水率指標=(A1+A2)/A1を適用すると、図6(b)に示す結果が得られた。
【0060】
すなわち、上記の含水率指標を適用することにより、ワセリンなしの場合に対するワセリンありの場合のATR信号の割合は95%となった。
【0061】
よって、ワセリンを塗布した人の皮膚表層の含水率を計測する場合には、周波数f1に0.80THzのテラヘルツ波、及び、周波数f2に0.95THzのテラヘルツ波を用いて、ATR信号A1及びATR信号A2を測定し、含水率指標=(A1+A2)/A1を適用すると、ATR信号A1又はATR信号A2に基づいて、ワセリンを塗布しているか否かにかかわらず、皮膚表層の含水率を正しく算出できることが理解できる。
【0062】
これは、測定対象がヒトの皮膚の場合において、皮膚の表面に化粧料等が塗布されている場合であっても、化粧料等を除去することなく皮膚表層の含水率を正しく計測できることを意味する。従って、ヒトの皮膚表層の含水率の計測がより簡易かつ便利に行える。
【0063】
[応用範囲]
本実施形態に係る含水率の計測方法を応用して利用できるものを一例として列挙すると、ラップフィルムで包装された対象物の表層の含水率、化粧品や塗料などを塗布した塗膜下の対象物の表層の含水率、医用フィルムの下の対象物であるヒトの皮膚の表層の含水率の計測が例示される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、テラヘルツ波を用いて種々の物質表層の含水率を計測する場合に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-03-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0052
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0052】
[実施例
試料として、トマトを用い、その表面を薄膜で覆ったものと、薄膜で覆っていないものについて、0.80THzのテラヘルツ波を用いて全反射減衰分光法によってATR信号を測定した。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0057
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0057】
[実施例
ヒトの皮膚を測定対象とし、その表面にワセリンを一例として20μm未満の厚みで塗布した場合と、塗布しなかった場合について、0.80THzのテラヘルツ波を用いて全反射減衰分光法によってATR信号を測定した。本実施例の場合、ワセリンが薄膜として作用する。