(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135214
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】光学的測定方法、光学的測定装置、及び、光学的測定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20240927BHJP
G01J 3/46 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01N21/27 A
G01J3/46 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045785
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】高梨 健太
(72)【発明者】
【氏名】加納 宏弥
(72)【発明者】
【氏名】大野 博司
(72)【発明者】
【氏名】岡野 英明
【テーマコード(参考)】
2G020
2G059
【Fターム(参考)】
2G020AA08
2G020BA02
2G020BA03
2G020CB41
2G020CB43
2G020DA02
2G020DA04
2G020DA22
2G020DA32
2G020DA34
2G059AA01
2G059AA02
2G059AA05
2G059AA10
2G059BB05
2G059BB12
2G059BB14
2G059CC16
2G059EE01
2G059EE12
2G059EE13
2G059FF03
2G059HH02
2G059JJ11
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM02
2G059MM09
2G059MM10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】例えば適宜の構造を持つ物体の物性に係る情報を推定することが可能な光学的測定方法を提供すること。
【解決手段】実施形態によれば、光学的測定方法は、第1の波長、及び、第1の波長とは異なる第2の波長を含む照明を用いて物体を照明し、明視野光学系で物体の少なくとも一部を含む物体画像を結像し、第1の波長及び第2の波長を含むスペクトルを各画素で区別可能な撮像素子で物体画像データを撮像して取得すること、物体画像データに基づいて第1の波長に関する暗視野変換を行い、それを第1の変換画像データとすること、物体画像データに基づいて第2の波長に関する暗視野変換を行い、それを第2の変換画像データとすること、第1の変換画像データ及び第2の変換画像データに基づいて色相画像データを生成する色相生成処理を行うこと、色相画像データに基づいて、物体の物性に係る情報を推定することを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の波長、及び、前記第1の波長とは異なる第2の波長を含む照明を用いて物体を照明し、明視野光学系で前記物体の少なくとも一部を含む物体画像を結像し、前記第1の波長を含むスペクトル及び前記第2の波長を含むスペクトルを各画素で区別可能な撮像素子で物体画像データを撮像して取得すること、
前記物体画像データに基づいて前記第1の波長に関する暗視野変換を行い、それを第1の変換画像データとすること、
前記物体画像データに基づいて前記第2の波長に関する暗視野変換を行い、それを第2の変換画像データとすること、
前記第1の変換画像データ及び前記第2の変換画像データに基づいて色相画像データを生成する色相生成処理を行うこと、
前記色相画像データに基づいて、前記物体の物性に係る情報を推定すること
を含む、光学的測定方法。
【請求項2】
前記暗視野変換を行うことは、
前記物体画像データに基づいて空間周波数領域の一部を抽出する処理を行うことを含む、
請求項1に記載の光学的測定方法。
【請求項3】
前記暗視野変換を行うことは、
前記物体を透過した直後の前記明視野光学系の光軸に垂直な第1の面と、前記撮像素子の撮像面としての第2の面と、前記第1の面と前記第2の面との間の、前記光軸に垂直な、仮想的な第3の面とを規定するとき、前記第3の面において、非回折光成分に相当する位置の電場を0にする処理を行うことを含む、
請求項1又は請求項2に記載の光学的測定方法。
【請求項4】
前記色相生成処理を行うことは、
前記第1の変換画像データ及び前記第2の変換画像データを各色チャンネルとするカラー画像データを生成することと、
前記カラー画像データの各画素値を色相に変換し、これを前記色相画像データとすることと
を含む、請求項1又は請求項2に記載の光学的測定方法。
【請求項5】
前記色相画像データに基づいて、前記物体の前記物性に係る情報を推定することは、前記色相画像データの全体または一部の画素に対し、色相のヒストグラムを算出することを含む、
請求項1又は請求項2に記載の光学的測定方法。
【請求項6】
前記物体画像データは、前記物体を平行光が透過したときの直進光を含む、
請求項1又は請求項2に記載の光学的測定方法。
【請求項7】
前記物性に係る情報は、前記物体に関する密度、濃度比率、体積、材質、重さ、屈折率、温度、歪に係る情報の少なくとも1つである、
請求項1又は請求項2に記載の光学的測定方法。
【請求項8】
前記物体は、溶媒と、前記溶媒中に前記溶媒とは異なる物質である被検物とを含む、
請求項1又は請求項2に記載の光学的測定方法。
【請求項9】
第1の波長、及び、前記第1の波長とは異なる第2の波長を含む照明を用いて物体を照明し、明視野光学系で前記物体の少なくとも一部を含む物体画像を結像し、前記第1の波長を含むスペクトル及び前記第2の波長を含むスペクトルを各画素で区別可能な撮像素子で物体画像データを撮像させて取得し、
前記物体画像データに基づいて前記第1の波長に関する暗視野変換を行い、それを第1の変換画像データとし、
前記物体画像データに基づいて前記第2の波長に関する暗視野変換を行い、それを第2の変換画像データとし、
前記第1の変換画像データ及び前記第2の変換画像データに基づいて色相画像データを生成する色相生成処理を行い、
前記色相画像データに基づいて、前記物体の物性に係る情報を推定する、
処理部を備える、
光学的測定装置。
【請求項10】
前記処理部は、前記暗視野変換を行うため、前記物体画像データに基づいて空間周波数領域の一部を抽出する処理を行うことを含む、
請求項9に記載の光学的測定装置。
【請求項11】
前記処理部は、前記暗視野変換を行うため、
前記物体を透過した直後の前記明視野光学系の光軸に垂直な第1の面と、前記撮像素子の撮像面としての第2の面と、前記第1の面と前記第2の面との間の、前記光軸に垂直な、仮想的な第3の面とを規定し、前記第3の面において、非回折光成分に相当する位置の電場を0にする処理を行うことを含む、
請求項9又は請求項10に記載の光学的測定装置。
【請求項12】
前記処理部は、
前記色相生成処理を行うため、前記第1の変換画像データ及び前記第2の変換画像データを各色チャンネルとするカラー画像データを生成する処理と、
前記カラー画像データの各画素値を色相に変換し、これを前記色相画像データとする処理と
を行うことを含む、請求項9又は請求項10に記載の光学的測定装置。
【請求項13】
前記処理部は、前記色相画像データに基づいて、前記物体の前記物性に係る情報を推定するため、前記色相画像データの全体または一部の画素に対し、色相のヒストグラムを算出する処理を行うことを含む、請求項9又は請求項10に記載の光学的測定装置。
【請求項14】
前記処理部は、前記物性に係る情報として、前記物体に関する密度又は濃度比率、体積、材質、重さ、屈折率、温度、歪に係る情報の少なくとも1つを出力する、請求項9又は請求項10に記載の光学的測定装置。
【請求項15】
前記明視野光学系と、
前記撮像素子と、
を有する、請求項9又は請求項10に記載の光学的測定装置。
【請求項16】
第1の波長、及び、前記第1の波長とは異なる第2の波長を含む照明を用いて物体を照明し、明視野光学系で前記物体の少なくとも一部を含む物体画像を結像した、前記第1の波長を含むスペクトル及び前記第2の波長を含むスペクトルを互いに各画素で区別可能な撮像素子で物体画像データを撮像させて取得させ、
前記物体画像データに基づいて前記第1の波長に関する暗視野変換を行い、それを第1の変換画像データとさせ、
前記物体画像データに基づいて前記第2の波長に関する暗視野変換を行い、それを第2の変換画像データとさせ、
前記第1の変換画像データ及び前記第2の変換画像データから色相画像データを生成する色相生成処理を行わせ、
前記色相画像データに基づいて、前記物体の物性に係る情報を推定させる
こと、をコンピュータに実行させる光学的測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、光学的測定方法、光学的測定装置、及び、光学的測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
適宜の物体(被検物)の形状や大きさ、物性に係る情報を測定するための光学的な手法が重要となっている。例えば適宜の構造を持つ物体に光を照射すると、その物体の構造に依存した光の回折が生じる。そのため、回折光の空間的な強度分布が分かれば、そこから物体の構造や密度分布といった物性に係る情報を推定することができる。さらに、回折光は波長に依存する。そのため、回折光の強度分布が波長ごとに分かれば、より微細な構造や密度分布などの物性に係る情報を推定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. W. Hosch and J. P. Walters, “High spatial resolution schlieren photography”, APPLIED OPTICS, Vol. 16, No. 2, (1977)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、例えば適宜の構造を持つ物体(被検物)の物性に係る情報を推定することが可能な光学的測定方法、光学的測定装置、及び、光学的測定プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、光学的検査方法は、第1の波長、及び、第1の波長とは異なる第2の波長を含む照明を用いて物体を照明し、明視野光学系で物体の少なくとも一部を含む物体画像を結像し、第1の波長を含むスペクトル及び第2の波長を含むスペクトルを各画素で区別可能な撮像素子で物体画像データを撮像して取得すること、物体画像データに基づいて第1の波長に関する暗視野変換を行い、それを第1の変換画像データとすること、物体画像データに基づいて第2の波長に関する暗視野変換を行い、それを第2の変換画像データとすること、第1の変換画像データ及び第2の変換画像データに基づいて色相画像データを生成する色相生成処理を行うこと、色相画像データに基づいて、物体の物性に係る情報を推定することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る光学的測定装置を示す概略図。
【
図2】
図1に示す光学的測定装置の処理部で行う光学的測定手法のフローチャート。
【
図3】実施形態に係る光学的測定装置の、モデル化の対象となる暗視野光学系の一例を示す概略図。
【
図4】実施形態に係る光学的測定装置における、撮像素子で取得した物体の画素値と物体(サンプル)の透過直後の光の電場分布(明視野画像の入力から算出した物体(サンプル)透過直後の光の電場分布)との関係を示す図。
【
図5】実施形態に係る光学的測定装置の、本実施形態に係るマスク面における電場分布(左図)にモデル化の対象の暗視野光学系のマスク(上図)を重ね合わせて、マスク処理(右図)を行った状態を示す概略的な模式図。
【
図7】明視野画像から暗視野変換画像を取得するためのチャート図。
【
図8】同一の被検物に対するカラー暗視野変換画像(左図)と暗視野光学系で撮像した暗視野画像(右図)を示す図。
【
図9】色相生成処理手法および物性に係る情報推定手法のフローを示す概略図。
【
図10】物体として水処理におけるフロックの色相画像の色相と頻度との関係を示す色相のヒストグラムを示す図。
【
図11】
図10に示すヒストグラムの濃度比率と面積比との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態では、
図1から
図11を用いて、一般的な結像光学系で撮影した物体(被検物)画像(以下、明視野画像と称することがある)から、その物体(被検物)の物性に係る情報を測定する方法について説明する。
【0009】
図1には、本実施形態に係る、光学的測定装置10の全体の構成の概略図を示す。
図2には、本実施形態に係る光学的測定装置10を用いる光学的測定方法(光学的測定プログラム)のフローチャートを示す。
【0010】
図1に示すように、本実施形態に係る光学的測定装置10は、撮像部12と、処理部14とを有する。
【0011】
本実施形態において、光は電磁波の一種であり、X線、紫外線、可視光、赤外線、マイクロ波なども含まれるとする。本実施形態において、光は可視光であるとし、例えば波長は400nmから750nmの領域にあるとする。
【0012】
撮像部12は、結像光学系(明視野光学系)22及び撮像素子(イメージセンサ)24を有する。
【0013】
結像光学系22は、一般的な明視野光学系を用いることができる。結像光学系22として物体Oの少なくとも一部を含む物体画像を撮像素子24に結像することができれば種々のものを用いることができる。結像光学系22として、例えば、1つ又は複数のレンズを用いることができる。結像光学系22として、暗視野光学系122(
図3参照)をセットすることは不要となり得る。
【0014】
撮像素子24が配置された領域を含む面を、結像光学系22の撮像面とする。撮像素子24は例えばエリアセンサーを用いる。エリアセンサーとは、同一面内にエリア状に画素を配列させたものである。本実施形態に係る撮像素子24は、複数の画素を有する。各画素は少なくとも2つの異なる波長スペクトルの光線、つまり第1の波長スペクトルの光線と、第1の波長スペクトルとは異なる波長の第2の波長スペクトルの光線を受光できる、いわゆるRGBカメラを用いることが好適である。撮像素子24の各画素では、R、G、Bの3チャンネルのように、複数の所定波長スペクトルの光を区別して受光する色チャンネルを備えることが好適である。ただし、R、G、Bに対してそれぞれ独立な画素を備えてもよく、それらのR、G、Bの各画素をまとめて一つの画素と考えてもよい。本実施形態では、撮像素子24の各画素は少なくともR(赤)とB(青)の2つの色チャンネルを備えるとする。このため、撮像素子24は、各画素において、波長450nmのB(青)光と、波長650nmのR(赤)光をそれぞれ独立な色チャンネルで受光できるとする。本実施形態に係る撮像素子24は、例えば波長550nmのG(緑)光も独立な色チャンネルで受光可能である。例えば、第1の色チャンネルをB(青)光を受光するものとし、第2の色チャンネルをR(赤)光を受光するものとし、第3の色チャンネルをG(緑)光を受光するものとする。
【0015】
このように、本実施形態に係る撮像素子24は、複数の画素を有し、少なくとも2つの波長を含むスペクトルを各画素で区別可能である。このため、撮像素子24は、第1の波長(例えばB光)を含むスペクトル及び第2の波長(例えばR光)を含むスペクトルを各画素で区別可能である。また、撮像素子24は、第3の波長(例えばG光)を含むスペクトルを各画素で区別可能である。
【0016】
撮像素子24は、一般的なものを用いることができる。撮像素子24は例えば、Charge-Coupled Device(CCD)を用いることができる。撮像素子24は例えば単板式のカラーCCDを用いてもよく、3板式のカラーCCDを用いてもよい。撮像素子24は、CCDに限らず、Complementary Metal-Oxide Semiconductor(CMOS)等の撮像センサであってもよいし、受光素子であってもよい。
【0017】
処理部14は、例えば、コンピュータ等から構成され、プロセッサ(処理回路)及び記憶媒体を備える。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイコン、FPGA(Field Programmable Gate Array)及びDSP(Digital Signal Processor)等のいずれかを含む。記憶媒体には、メモリ等の主記憶装置に加え、非一時的な補助記憶装置が含まれ得る。記憶媒体としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気ディスク、光ディスク(CD-ROM、CD-R、DVD等)、光磁気ディスク(MO等)、及び、半導体メモリ等の書き込み及び読み出しが随時に可能な不揮発性メモリが挙げられる。
【0018】
処理部14では、プロセッサ及び記憶媒体のそれぞれは、1つのみ設けられてもよく、複数設けられてもよい。処理部14では、プロセッサは、記憶媒体等に記憶されるプログラム等を実行することにより、処理を行う。また、処理部14のプロセッサによって実行されるプログラムは、インターネット等のネットワークを介して処理部14に接続されたコンピュータ(サーバ)、又は、クラウド環境のサーバ等に格納されてもよい。この場合、プロセッサは、ネットワーク経由でプログラムをダウンロードする。
【0019】
処理部14では、撮像素子24からの画像取得、撮像素子24から取得した画像に基づく各種算出処理は、プロセッサ等によって実行され、記憶媒体が、データ記憶部として機能する。
【0020】
また、処理部14による処理の少なくとも一部が、クラウド環境に構成されるクラウドサーバによって実行されてもよい。クラウド環境のインフラは、仮想CPU等の仮想プロセッサ及びクラウドメモリによって、構成される。ある一例では、撮像素子24からの画像取得、撮像素子24から取得した画像に基づく各種算出処理が、仮想プロセッサによって実行され、クラウドメモリが、データ記憶部として機能する。
【0021】
本実施形態では、処理部14は、撮像素子24を制御するとともに、撮像素子24から得た像データに対して各種の演算を行う。
【0022】
また、光学的測定装置10は、図示しないが、少なくとも2つの波長(第1の波長、及び、第1の波長とは異なる第2の波長)を含む照明光を用いて物体Oを照明する照明部(図示せず)を備えていてもよい。照明部の照明としては、平行光(直進光)に限らず、平行光でなくてもよい。照明部の照明として、例えば白色光、その他の複数の波長を有する光を用いることができる。一例として、第1の波長を450nmのB(青)光とし、第2の波長を650nmのR(赤)光とする。ただし、これに限らず、各波長は何でもよい。なお、照明部は、処理部14に制御されることが好適である。
【0023】
本実施形態に係る光学的測定装置10に本実施形態に係る光学測定手法を適用する流れを簡略に説明する。
【0024】
はじめに、処理部14は、
図1に示す光学的測定装置10の撮像部12の撮像素子24を制御し、物体Oの明視野画像(物体画像データ)Ibを撮像させる。一例として、物体画像データIbは、物体Oを平行光が透過したときの直進光、回折光を含む。そして、処理部14は、撮像素子24から、その物体Oの画像Ibを取得する。すなわち、処理部14には、その物体Oの画像Ibが入力される(ステップST1)。処理部14に入力される物体Oの画像Ibは、SSD等の記憶媒体に記憶されていてもよい。すなわち、光学的測定手法を適用するための物体Oの画像データIbがあれば、光学的測定装置10の撮像部12は不要となる場合があり得る。
【0025】
処理部14は、その明視野画像Ibを波長ごと、すなわち、色ごとに区別する(ステップST2)。処理部14は、明視野画像Ibをここでは、2つの波長に区別する。処理部14は、撮像素子24のチャンネル数に合わせて、明視野画像Ibを3つ以上の波長に区別してもよい。
【0026】
そして、処理部14は、明視野画像Ibの各波長成分に対して、暗視野変換と呼ぶ処理を施す(ステップST31,ST32)。この暗視野変換は、物体Oで生じる回折光を抽出した画像(暗視野画像)Idを取得するように、
図3に示す暗視野光学系122をモデル化したものであり、処理部14は、明視野画像Ibから回折光の波長依存性を反映したカラー暗視野変換画像Itを生成し得る。
【0027】
処理部14は、カラー暗視野変換画像It(カラー画像データ)に含まれる色相情報を抽出する色相生成処理を行う(ステップST4)。
【0028】
そして、処理部14は、色相生成処理を行った後、その色相生成処理を行ったその情報から物体(被検物)の物性に係る情報を推定し得る(ステップST5)。
【0029】
処理部14は、その推定した物性に係る情報をモニタ(図示せず)等に出力する(ステップST6)。推定した物性に係る情報は、各種の制御の指標として用いられることも好適である。
【0030】
したがって、本手法で必要なのは明視野光学系22を用いて取得する、又は、取得した物体画像Ib及び処理部14であり、暗視野光学系122及び撮像部12を必ずしも必要としない。以下では、各項目について具体的に説明してゆく。
【0031】
ここで、今回モデル化する暗視野光学系122について
図3を用いて説明する。
図3には、モデル化する暗視野光学系122の構成の例を示す。
【0032】
図3に示す暗視野光学系122を用いる場合、処理部14は照明部から光軸OAに平行な平行光Pを出射する。照明部からの平行光Pは、一例であるが、物体(検査対象)Oの容器R内の溶媒S及び被検物Tに照射される。
図3に示す容器R、溶媒Sは、照明部からの照明光を通すものである必要がある。
【0033】
ここで、物体(サンプル)Oを透過した直後の暗視野光学系122の光軸OAに垂直な面をΣ1とする。面Σ1において、光は物体O中の被検物Tの物性に係る情報に依存して回折する光(回折光)Dと、溶媒Sを通してそのまま直進する光(直進光)Bに分離される。物体Oの後方(直進光Bの光路上)にはレンズL1とマスクMの遮光領域Maが配置されている。ここで、マスクMが存在する位置の光軸OAに垂直な面をΣ2とする。面Σ2は、レンズL1に対して、レンズL1の焦点距離f1離れ、面Σ1とレンズL1とは、レンズL1の焦点距離f1離れている。また、レンズL2は、マスクMと撮像素子24との間に設けられる。面Σ2と、レンズL2との間の距離、レンズL2と撮像素子24の撮像面Σ3との間の距離は、それぞれレンズL2の焦点距離f2離れている。
【0034】
物体Oに照射され、被検物Tに当たらず、容器R及び溶媒Sを通過した平行光P(直進光B)はレンズL1によって、レンズL1の焦点であるマスクMの遮光領域Maに到達する。遮光領域Maの大きさは、平行光Pの光源(図示せず)の光を遮光領域Maに投影した大きさよりも大きい。このため、平行光P(直進光B)は、遮光領域Maで遮光され、撮像素子24に到達しない。このため、マスクMの遮光領域Maは、直進光Bを遮光する。
【0035】
光の回折による回折光Dは、平行光Pに沿う光軸OAからずれた状態でレンズL1に向かう。レンズL1に入射され、レンズL1を通した回折光Dは、マスクMのうち光軸OA上の遮光領域Maからずれた通過領域Mbを通る。すなわち、レンズL1の焦点面f1の焦点に配置された通過領域Mbは、平行光Pのうち、被検物Tによって平行光Pの方向とは異なる方向に向かう回折光Dを通す。
【0036】
マスクMの通過領域Mbを通過した回折光Dは、レンズL2によって、撮像素子24の撮像面Σ3に入射する。このとき、処理部14は、撮像素子24で、撮像素子24の撮像面Σ3に到達する、少なくとも2つ以上の異なる波長スペクトルの光を、互いに区別して同時期に各画素で撮像する。したがって、撮像素子24は、物体Oの暗視野画像Idを取得する。このとき、処理部14は、撮像素子24によって撮像された暗視野画像Idにより、溶媒Sとは異なる被検物Tに関する情報を非接触に取得する。被検物Tに関する情報の一例は、被検物Tの形状、輪郭、大きさ等である。
【0037】
物体Oに照射され、被検物Tに当たらず、容器R及び溶媒Sを通過した平行光P(直進光B)はレンズL1によって、レンズL1の焦点であるマスクMの遮光領域Maに到達し、撮像素子24に到達しないため、撮像素子24では、回折光Dが撮像される。したがって、
図3に示す暗視野光学系122を用いて得られる暗視野画像Idは、溶媒S中の被検物Tの構造情報を反映したものであると言える。
【0038】
ところで、波長に応じて回折光Dの回折角は変化する。一般に、波長が大きくなるにつれて、回折角が大きくなり得る。450nmの青光(第1の波長)と、650nmの赤光(第2の波長)では、赤光の方が青光に比べて回折角が大きくなり、すなわち、回折角が異なり得る。撮像素子24は、少なくとも2つ以上の異なる波長スペクトルの光を区別して同時期に各画素で撮像する。したがって、
図1に示す明視野光学系22は、溶媒S中の被検物Tで生じた回折光Dの方向分布の波長依存性(色を有する画像)を撮像素子24を用いて取得することができる。
【0039】
このように、暗視野光学系122を通して撮像素子24で得られる画像は、回折光Dの方向分布の波長依存性に関する情報、及び、被検物Tの構造情報を反映する。
図3に示す暗視野光学系122の処理部14は、撮像素子24を制御して溶媒S中の被検物Tで生じた回折光Dの方向分布の波長依存性及び被検物Tの構造情報を撮像素子24を用いて取得する。
【0040】
続いて、本実施形態に係る明視野光学系22を用いる、本モデルに入力する画像データIbについて述べる。通常、回折光を用いて物体Oの物性に係る情報を推定するためには、物体Oで生じる強度変調と位相変調をともに考慮しなければならない。本実施形態に係る光学的測定手法では強度変調のみを仮定して物体Oの物性に係る情報を推定する方法について説明する。以下に具体的な方法を述べる。
【0041】
ここで、以降の説明のために、
図1に示す撮像部12(明視野光学系22及び撮像素子24)に対して、
図3に示す暗視野光学系122に対応する座標系を仮想的に定義する。光軸OAをz軸とし、物体(サンプル)Oを透過した直後の明視野光学系22の光軸OAに垂直な面をΣ
1とする。同様に、マスクMが存在すると仮定する位置の光軸OAに垂直な面をΣ
2とし、撮像素子24の撮像面(受光面)であって、光軸OAに垂直な、仮想的な面をΣ
3とする。面Σ
2は、面Σ
1と面Σ
3との間にある。面Σ
2は、明視野光学系22のレンズL1がある位置に対して距離f1の焦点距離の位置にあるとする。面Σ
3は、明視野光学系22のレンズL2がある位置に対して距離f2の焦点距離の位置にあるとする。面Σ
1の面内座標は光軸OAを原点とする直交座標(x
1,y
1)で表す。面Σ
2の面内座標を(x
2,y
2)で表し、面Σ
3の面内座標を(x
3,y
3)で表す。x
1,x
2,x
3軸はそれぞれ互いに平行であるとし、y
1,y
2,y
3軸はそれぞれ互いに平行であるとする。また、レンズL1,L2やマスクMは厚さを無視できる薄肉の光学素子とする。
【0042】
はじめに、処理部14は、
図1に示す明視野光学系22を用いて、物体Oの明視野画像Ibを撮影する。物体Oの例としては、容器R、容器R内に入れられた溶媒S、溶媒S内に存在する被検物Tを含む。一例として、本実施形態に係る光学的測定装置10は、明視野光学系22及び撮像素子24により、物体Oを、
図4の左図に示すような画像データIbとして得ることができる。
【0043】
処理部14は、被検物Tの形状として画像Ibを取得し、演算(画像処理)を行うことで、被検物Tの形状とともに、その被検物Tの大きさがわかる。このため、処理部14は、被検物Tの面積(表面積)を推定することができる。また、光学的測定装置10は、被検物Tの面積(表面積)の積分によって、被検物Tの体積Tを推定することができる。
【0044】
この明視野画像Ibにおける各画素の画素値(カラー画像に対しては各チャンネルにおける各画素値)をI(x,y)とおく。画素値I(x,y)は光の強度分布(ある波長に対応する、例えば直進光と回折光の光強度分布)を表しているため、光の電場分布ν(x,y)とは以下の式(1)の関係がある(ST301)。
【0045】
【0046】
そこで、物体(サンプル)Oの透過直後の面Σ1の光の電場分布ν1(x1,y1)は、例えば式(2)のように表すこととした。
【0047】
【0048】
物体(サンプル)Oの透過直後の面Σ
1の光の電場分布ν
1(x
1,y
1)を本モデルの明視野画像Ibの入力とする(
図4の右図参照)。更に、物体Oで生じる位相変調が小さい場合には、処理部14は、本手法により暗視野画像Idに対応するカラー暗視野変換画像Itを理論的に導出することができる。これは以下のように説明できる。
【0049】
光が物体Oを透過すると、その物質の透過後の面Σ1の電場分布ν(x,y)は一般に複素関数になる。しかし、物体Oで生じる位相変調が小さい場合、電場分布ν(x,y)の虚部が微小となるため、実質的に実部だけを考えればよい。
【0050】
ゆえに、式(1)および式(2)に従って処理部14に物体(サンプル)Oの透過直後の面Σ1の光の電場分布ν1(x1,y1)、すなわち明視野画像Ibを入力することで、暗視野画像Idに相当するカラー暗視野変換画像Itを理論的に計算できる。
【0051】
実際に、例えば水処理システムを用いて水処理時に発生させるフロック(floc)と呼ばれる、被検物Tを含む物体O(サンプル)に対して今回構築した光学検査手法を適用したところ、その有効性が確認できた。実施形態とその結果については後述する。
【0052】
次に、処理部14は、入力した画像データIbに基づいて暗視野変換画像Itを取得するための演算(処理)を行う。先に述べた通り、今回モデル化した暗視野光学系122(
図3参照)は2枚のレンズL1,L2とその間に配置されたマスクMの遮蔽領域Maによって回折光を抽出する。以下、処理部14によるこの過程による暗視野画像Idの計算を「暗視野変換」と呼ぶ。暗視野変換は、回折過程、遮光過程、イメージング過程という3つの段階に分けられる。これは、暗視野光学系122を用いて暗視野画像Idを取得する際の、物体Oで回折させ、マスクMの遮光領域Maで遮光した像を撮像素子24で取得するのと同様の過程を経ることと同じである。このうち、回折過程とイメージング過程は光の回折現象で理論的に記述できる。更に、
図3に示すような配置のもとではフラウンホーファー回折近似が適用できる。
【0053】
まず、回折過程について説明する。
【0054】
物体O(サンプル)の透過直後の面Σ1における光の電場分布をν1(x1,y1,λ)とし、マスク面Σ2における光の電場分布をν2(x2,y2,λ)とすると、フラウンホーファー回折は以下の式(3)のように表される。
【0055】
【0056】
更に、式(3)に対して適切な変数変換(以下、正規化と呼ぶ)を施す。その変数変換は、具体的には、式(4A)-(4F)のように表される(a1は任意定数)。
【0057】
【0058】
即ち、正規化は物体Oの透過直後の面Σ1の電場分布ν1(x1,y1,λ)、および、マスク面Σ2の電場分布ν2(x2,y2,λ)に対し、波長λやレンズL1の焦点距離f1に応じてスケーリングする座標変換である。正規化後の座標系を「´」で表すと、式(5)を得る(ST302)。
【0059】
【0060】
式(5)は、マスク面Σ2における電場分布ν2(x2,y2,λ)は、物体Oの透過直後の面Σ1における電場分布ν1(x1,y1,λ)に対するフーリエ変換で計算できることを意味している。
【0061】
【0062】
本遮光過程は、先ほど計算したマスク面Σ
2における光の電場分布ν
2(x
2,y
2,λ)に対し、非回折光成分に相当する(x
2,y
2)=(0,0)近傍の値を0にする処理でその効果を適用した(ST303)。すなわち、
図5に示すように、処理部14は、本実施形態に係るマスク面Σ
2における電場分布ν
2(x
2,y
2,λ)(
図5左図)にモデル化の対象の暗視野光学系122のマスクMの遮光領域Ma及び通過領域Mbと同じもの(上図)を仮想的に重ね合わせて、マスク面Σ
2における電場分布ν
2(x
2,y
2,λ)に対してマスク処理(
図5右図)を行った。したがって、このマスク処理は、
図3に示す暗視野光学系122のマスクMの遮蔽領域Maにおいて、平行光の直進光を遮光する処理を行ったと同様の処理を行ったと言える。マスクMに対応する関数をm(x
2,y
2)とすると、遮光処理後の光電場分布ν
2
(m)(x
2,y
2,λ)は以下の式(6)のように表される。
【0063】
【0064】
式(3)のマスク面Σ2における電場分布ν2(x2,y2,λ)が物体Oの透過直後の面Σ1における電場分布ν1(x1,y1,λ)のフーリエ変換であることから分かるように、マスク面Σ2の光の電場分布ν2(x2,y2,λ)は物体Oの透過直後の面(サンプル面)Σ1の電場分布ν1(x1,y1,λ)を空間周波数領域で表示したものに相当する。したがって式(6)で表される処理は、マスク面Σ2において、波長ごとに異なる空間周波数領域を抽出するマスク処理であると言える。
【0065】
最後のイメージング過程は、回折過程を時間反転させたものに相当する。したがって、式(3)と同様の対応付けが可能であり、最終的な撮像素子24の撮像面Σ3における光の電場分布ν3(x3,y3,λ)は、遮光処理後の光電場分布ν2
(m)(x2,y2,λ)を用いて式(7)のように表される。
【0066】
【0067】
したがって、明視野光学系22で取得した入力としての物体Oの画像Ib(物体Oの透過直後の面Σ1における電場分布ν1(x1,y1,λ))から、暗視野変換した、撮像素子24の撮像面Σ3における光の電場分布ν3(x3,y3,λ)が取得される。式(1)、式(2)の関係から、撮像素子24の撮像面Σ3における光の電場分布ν3(x3,y3,λ)に基づいて、ある波長に対応する回折光の光強度分布を算出する(ST304)。
【0068】
以上が暗視野変換の流れである。
図6にその簡易的なチャート図(ST301-ST304)を示す。
【0069】
続いて、波長ごとの暗視野変換画像It(Itb,Itr,Itg)の計算について述べる。
【0070】
式(3)および式(7)を見ると、マスク面Σ2における回折光の電場分布ν2(x2,y2,λ)および撮像面Σ3における回折光の電場分布ν3(x3,y3,λ)は波長λに依存していることが分かる。これは、暗視野変換画像Itにおける光の波長、すなわち色の情報が物体Oの物性に係る情報を推定する上で重要な役割を持つことを意味している。そこで、処理部14は、入力した物体Oの明視野画像Ibに対して複数の波長λでそれぞれ暗視野変換を実行し、最後にそれらを合成することでカラー暗視野変換画像Itを生成した。
【0071】
例えば、処理部14は、B光(第1波長)を波長450nmと対応づけ、R光(第2波長)を波長650nmと対応づけ、G光(第3波長)を波長550nmと対応づけ、処理部14は、明視野画像IbのBチャンネル、Rチャンネル、Gチャンネルに対して暗視野変換を実行する。処理部14は、その計算結果(変換画像データItb,Itr、Itg)を再度カラー暗視野変換画像ItのBチャンネル、Rチャンネル、Gチャンネルにそれぞれ割り当てることで、回折の波長依存性を再現したカラー暗視野変換画像Itを生成できる。すなわち、処理部14は、第1の波長(例えばB光(波長:450nm))に関する暗視野変換を行い、それを第1の変換画像データItbとする。処理部14は、第2の波長(例えばR光(波長:650nm))に関する暗視野変換を行い、それを第2の変換画像データItrとする。また、処理部14は、第3の波長(例えばG光(波長:550nm))に関する暗視野変換を行い、それを第3の変換画像データItgとする。
【0072】
図7には、処理部14が、明視野画像Ibに基づいて、カラー暗視野変換画像Itを取得するまでのチャート図を示す。処理部14は、明視野画像IbをBチャンネル(B成分)、Rチャンネル(R成分)、Gチャンネル(G成分)にそれぞれ分解した画像Ibb,Ibr,Ibgを生成する。そして、処理部14は、それぞれの波長(チャンネル)ごとに暗視野変換を行い、すなわち、明視野画像IbのB成分に対応する暗視野変換画像Itbを算出し、R成分に対応する暗視野変換画像Itrを算出し、G成分に対応する暗視野変換画像Itgを算出する。なお、処理部14が暗視野変換画像Itb,Itr,Itgを合成すると、カラー暗視野変換画像Itを得ることができる。
【0073】
同一の物体Oを用いて、本実施形態に係る光学的計測方法(光学的計測プログラムのアルゴリズム)を用いて明視野画像Ibを取得し、明視野画像Ibから暗視野変換して生成した暗視野変換画像It(
図8左図)と、実際に暗視野光学系122を用いて撮影した暗視野画像Id(
図8右図)とを並べたものを
図8に示す。
図8の左側に示す例のように、本実施形態に係る暗視野変換によるカラー暗視野変換画像Itと、暗視野光学系122を用いて取得した暗視野画像Idは、略一致する。このため、本実施形態に係る処理部14により、暗視野光学系122のような特別な光学系を組む必要がなく、明視野光学系22から暗視野画像Idに対応するカラー暗視野変換画像Itが出力される。
【0074】
溶媒S及び被検物Tを含む物体O(
図8に示す像のサンプル)は、
図1に示す照明部と結像光学系(明視野光学系)22との間に配置される。また、物体Oは、
図3に示す暗視野光学系122の照明部とレンズL1との間に配置される。本実施形態での物体Oは溶媒S中に被検物Tが混入されているものを対象とする。溶媒Sは液体であり、例えば水である。溶媒Sは、水以外の材料であっても構わない。溶媒Sに色が付されていてもよい。溶媒Sは、照明部の光源で出射した光がそのまま抜けるようなものが用いられる。
【0075】
最後に、本実施形態に係る明視野光学系22を用いて取得する暗視野変換画像It(Itb,Itr,Itg)に基づく画像解析による物性に係る情報の推定手法について述べる。
【0076】
まず、処理部14は、波長ごとの暗視野変換によって生成した暗視野変換画像Itに対して、各画素値を色相に変換した色相画像Ihを生成する。以下、暗視野変換画像Itを生成し、それを色相画像Ihに変換する過程を色相生成処理と呼ぶ。なお、暗視野変換画像Itが回折光の波長依存性を反映したものであり、色相画像Ihも回折光の波長依存性を反映したものとなる。そして、処理部14は、色相画像Ihに対して画像解析を施すことで物体O(被検物T)の物性に係る情報が推定できる。処理部14が行う画像解析の内容としては、例えば色相画像Ih内に現れる各色相値の頻度、即ち色相のヒストグラムを算出することが挙げられる。
図9には、処理部14が行う、色相生成処理手法および物性に係る情報推定手法のフローの概略図を示す。また、推定される物体の物性に係る情報としては、例えば今回の実施形態で測定する物体に含まれる被検物Tの濃度比率ρのほか、物体の密度、体積、材質、重さ、屈折率、温度、歪などが挙げられ得る。
【0077】
今回の実施形態では、物体Oの被検物Tとして、水中の懸濁物質に凝集剤を注入することで生成した凝集体(フロックと呼ぶ)の明視野画像Ibを撮影し、それに本実施形態に係る光学的測定方法を適用して、物体Oの被検物Tの物性に係る情報を推定する例について説明する。本実施形態では濃度比率ρの異なる3種類のフロック(被検物T)の物体(サンプル)Oを用意した。ここで濃度比率ρは、フロック(被検物T)を生成した懸濁物質濃度と凝集剤濃度で以下の式(8)のように定義する。
【0078】
【0079】
また、処理部14は、色相画像Ihに対する解析として、色相のヒストグラムを算出した。その結果を
図10に示す。
図10中、横軸の0.0近傍は赤、横軸の0.6近傍は青に相当する。
図10中の縦軸はその色相の値を持つ画素の数を頻度として示す。この結果をみると、色相ヒストグラムには2つの山型曲線が現れており、そのピークの値は濃度比率ρと相関があることが分かる。すなわち、ピークの高さは濃度比率ρに応じて変化することがわかる。そこで、この関係性を定量的に評価する指標として、処理部14は、“Γ”という値を定義する。まず、処理部14は、色相ヒストグラム中に2つの領域を定める。本実施形態では、2つのピークの中心近傍の色相値を境界として、その前後で領域1,領域2を定めた。領域1のピーク周辺では、濃度比率ρが大きいほど、頻度が小さくなり、反対に、領域2のピーク周辺では、濃度比率ρが大きいほど頻度が高くなった。各領域1,領域2におけるヒストグラムの面積を算出し、その面積比を“Γ”とする。即ち、面積比Γは、式(9)のように表される。
【0080】
【0081】
以上のようにして定義した面積比Γを各濃度比率ρに対して算出し、散布図にしたものが
図11である。
図11を見ると、濃度比率ρと面積比Γとの間に正の相関があることが分かる。すなわち、濃度比率ρが上昇すると面積比Γが上昇し、濃度比率ρが下降すると面積比Γが下降する。すなわち本実施形態では、光学的測定手法によりフロックの濃度比率ρという物性に係る情報の推定を達成したといえる。
【0082】
なお、今回は面積比Γを式(9)のように定義したが、定量的に評価する指標は他にも考えられる。例えば、面積ではなくヒストグラム中で極大値となっている2点の比や、ヒストグラムをある関数形でフィッティングした時のフィッティングパラメータを用いるといったことが考えられる。
【0083】
以下、水処理システムに本実施形態に係る光学的測定装置10を適用した場合の、フロックの濃度比率ρなど、被検物Tの物性分布を推定する一連の処理について、
図2を用いて説明する。
【0084】
処理部14は、まず、溶媒S内に被検物Tを含む物体Oを撮像素子24で撮像させ、明視野画像Ibを取得する(ステップST1)。
【0085】
そして、処理部14は、
図2に示すステップST2及びステップST31,ST32を経て、色相生成処理(ステップST4)を行う。
【0086】
撮像素子24で撮像し、取得した被検物Tの画像に基づいて、処理部14は、被検物Tの暗視野変換画像Itを構成するピクセルの出力値を色相(Hue)に変換する。処理部14は、さらに、目的の色相画像Ihに対して処理を行うべく、色相画像Ihの全体または一部のピクセルに対し、色相のヒストグラムを算出する。
【0087】
処理部14は、色相のヒストグラムから上述した面積比Γを算出する。すなわち、処理部14は、撮像素子24によって撮像された明視野画像Ibの全部又は一部の画素に基づいて、溶媒Sとは異なる被検物Tを含む物体Oに関する情報を取得する。そして、処理部14は、例えば記憶媒体に記憶された面積比Γに対応する濃度比率ρを読み出して、濃度比率ρを推定する(ST5)。なお、濃度比率ρに適宜の係数を乗算すること等により、物体Oにおける被検物Tの密度を推定することができることが分かっている。
【0088】
そして、処理部14は、物体Oにおける被検物Tの濃度比率ρ及び/又は密度を出力する(ST6)。
【0089】
このように、例えば、推定対象箇所におけるフロックの濃度比率ρ及び/又は密度を推定することにより、水処理システムに含まれる光学的測定装置10の処理部14又は水処理システムのオペレータは、推定対象箇所において、必要な凝集剤の量を推定することができる。濃度比率ρは、例えば降雨による河川の増水、濁り、ダム湖の貯水率等、自然の影響を受けて時々刻々と変化する。本実施形態に係る光学的測定装置10を用いて測定し、出力した濃度比率ρに基づいて、処理部14、又は、水処理システムのオペレータは、水質変動の影響に依らず凝集剤の量を決めることができる。
【0090】
なお、例えば、物体O(被検物T)の温度が変われば、被検物Tの屈折率が変化する。このため、2つ以上の異なる波長スペクトルの光の強度を比較することで、被検物Tの温度又は屈折率を推定し、すなわち、被検物Tに関する物性分布を推定することとなる。
同様に、被検物Tの温度が変われば、被検物Tの濃度比率ρ及び密度が変化し得る。このため、2つ以上の異なる波長スペクトルの光の強度を比較することで、被検物Tの温度、濃度比率、及び、密度を推定し、すなわち、被検物Tに関する物性分布を推定することとなる。
上述した、溶媒Sとは異なる被検物Tに係る情報とは、例えば被検物Tの形状、密度及び、濃度比率、体積、材質、重さ、屈折率などである。このように、本実施形態に係る光学的計測装置10によれば、従来は非接触かつ迅速に測定又は取得することができなかった物体Oにおける溶媒S中の被検物Tの物性に係る情報を非接触で取得することができる。また、処理部14を用いた処理により、撮像素子24によって撮像された明視野画像Ibに基づいて、色相画像Ihを生成し、2つ以上の異なる波長スペクトルの光の強度を比較し、物体Oにおける溶媒Sとは異なる被検物Tの物性分布を推定することができる。
【0091】
このように、本実施形態によれば、例えば適宜の構造を持つ物体の物性に係る情報を推定することが可能な光学的測定装置10、光学的測定方法、及び、光学的測定プログラムを提供することができる。
【0092】
本実施形態に係る光学的測定方法は、第1の波長(B光)、及び、第1の波長とは異なる第2の波長(R光)を含む照明を用いて物体Oを照明し、結像光学系(明視野光学系22)で物体Oの少なくとも一部を含む物体画像(明視野画像)Ibを結像し、第1の波長を含むスペクトル及び第2の波長を含むスペクトルを各画素で区別可能な撮像素子24で物体画像Ibを撮像して取得すること、物体画像Ibに基づいて第1の波長に関する暗視野変換を行い、それを第1の変換画像It1(Itb)とすること、物体画像Ibに基づいて第2の波長に関する暗視野変換を行い、それを第2の変換画像It2(Itr)とすること、第1の変換画像It1及び第2の変換画像It2から色相画像Ihを生成する色相生成処理を行うこと、色相画像に基づいて、物体Oの物性に係る情報を推定することを含む。
本実施形態に係る光学的測定プログラムは、第1の波長(B光)、及び、第1の波長とは異なる第2の波長(R光)を含む照明を用いて物体Oを照明し、結像光学系(明視野光学系122)で物体Oの少なくとも一部を含む物体画像(明視野画像)IBを結像した、第1の波長を含むスペクトル及び第2の波長を含むスペクトルを互いに各画素で区別可能な撮像素子24で物体画像データIbを撮像させて取得させ、物体画像データIbに基づいて第1の波長に関する暗視野変換を行い、それを第1の変換画像データIt1(Itb)とさせ、物体画像データIbに基づいて第2の波長に関する暗視野変換を行い、それを第2の変換画像データIt2(Itr)とさせ、第1の変換画像データIt1及び第2の変換画像データIt2から色相画像データIhを生成する色相生成処理を行わせ、色相画像データIhに基づいて、物体Oの物性に係る情報を推定させること、をコンピュータに実行させる。
本実施形態に係る光学的測定装置10は、処理部14を含む。処理部14は、第1の波長(例えばB光)、及び、第1の波長とは異なる第2の波長(例えばR光)を含む照明を用いて物体Oを照明し、結像光学系22で物体Oの少なくとも一部を含む物体画像を結像し、第1の波長を含むスペクトル及び第2の波長を含むスペクトルを各画素で区別可能な撮像素子24で物体画像データIbを撮像させて取得し、物体画像データIbに基づいて第1の波長に関する暗視野変換を行い、それを第1の変換画像データIt1(Itb)とし、物体画像データIbに基づいて第2の波長に関する暗視野変換を行い、それを第2の変換画像データIt2(Itr)とし、第1の変換画像データIt1及び第2の変換画像データIt2に基づいて色相画像データIhを生成する色相生成処理を行い、色相画像データIhに基づいて、物体Oの物性に係る情報を推定する。
【0093】
このため、処理部14は、物体画像(=明視野画像)Ibから、暗視野変換(回折光の抽出処理)を行って、波長の情報を用いて色相画像データIhを算出し、色相画像データIhに基づいて物体Oの物性に係る情報を取得できる。
【0094】
暗視野変換を行うことは、物体画像データIbに基づいて空間周波数領域の一部を抽出する処理を行うことを含む。
このため、処理部14は、明視野の物体画像データIbについて、回折光の強度分布を波長ごとに取得できる。
【0095】
暗視野変換を行うことは、物体Oを透過した直後の明視野光学系22の光軸OAに垂直な第1の面Σ1と、撮像素子24の撮像面としての第2の面Σ3と、第1の面Σ1と第2の面Σ3との間の、光軸OAに垂直な、仮想的な第3の面Σ2とを規定するとき、第3の面Σ2において、非回折光成分に相当する位置の電場を0にする処理を行うことを含む。
第1の面Σ1の明視野画像Ibに対して、第3の面Σ2で暗視野変換を行う際、マスク処理を行って非回折光を遮蔽し、撮像面(第2の面Σ3)において、回折光を抽出した暗視野変換画像Itを取得することができる。
【0096】
色相生成処理を行うことは、第1の変換画像データIt1及び第2の変換画像データIt2を各色チャンネルとするカラー画像データItを生成することを含み、カラー画像データItの各画素値を色相に変換し、これを色相画像データIhとすることを含む。
このため、処理部14は、回折光の波長依存性を反映したカラー暗視野変換画像Itを取得できる。また、処理部14は、例えば3波長(色)の情報を1つのスカラー量として扱うことができ、定量的な評価が容易になる。
【0097】
色相画像データIhに基づいて、物体Oの物性に係る情報を推定することは、色相画像データIhの全体または一部の画素に対し、色相のヒストグラムを算出することを含む。
このため、処理部14は、色相のヒストグラムから物体Oの物性に係る情報を測定できる。
【0098】
物体画像データIbは、物体Oを平行光が透過したときの直進光を含む。
このため、暗視野変換画像Itが
図3に示す暗視野光学系122のモデル化で理論的に計算できるようになる。
【0099】
物性に係る情報は、物体Oに関する密度、濃度比率、体積、材質、重さ、屈折率、温度、歪に係る情報の少なくとも1つである。
物体Oの物性をつかさどる具体的な物理量を、本光学的物性測定方法で測定できる。
【0100】
本実施形態に係る光学的測定装置10、光学的測定方法、光学的測定プログラムは、医療分野、海洋分野等、種々の分野に用いることができる。
【0101】
本実施形態に係る光学的測定装置10は、例えば医療分野であれば、細胞膜内の組織に関する情報を取得する場合に用いることができる。本実施形態に係る光学的測定装置10は、例えば、透明な細胞の構造を画像として取得できる。溶媒Sとは異なる被検物Tに関する情報として、細胞質、核、ミトコンドリア等がある。そして、処理部14を用いて取得した、被検物Tに関する情報を含む画像(明視野画像)Ibに基づいて、細胞内の組織や核等の形状、密度又は濃度比率、体積、材質、重さ、屈折率、温度、歪等の物性に係る少なくとも1つの情報を推定可能となり得る。
【0102】
また、海洋分野であれば、洋上に本実施形態に係る光学的測定装置10を設置し、マイクロプラスチックなどの被検物Tの形状を画像(明視野画像)Ibとして取得でき、取得した被検物Tに関する情報を含む画像(明視野画像)Ibに基づいて、被検物Tの形状、密度又は濃度比率、体積、材質、重さの少なくとも1つ等を推定可能となり得る。本実施形態に係る光学的測定装置10は、例えば、海中の特定の領域のリアルタイムの汚れ具合を可視化することができる。
【0103】
その他、水中にレーザー光を発して例えば対象材料の改良を行うレーザーピーニングを行う際の対象材料からの飛散物を被検物Tの画像(明視野画像)Ibとしてとらえ、それを分析したり、レーザーピーニングを行う際に生じるキャビテーションの発生を画像(明視野画像)Ibとしてとらえ、それを分析したりすることができる。このため、本実施形態に係る光学的測定装置10は、レーザーピーニングにより生じる現象、メカニズム等をとらえることができる。
【0104】
上述した実施形態では、溶媒Sとして水を用いる例について説明したが、単なる水とは異なる適宜の溶媒も用いることができる。
【0105】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の光学的測定装置10、光学的測定方法、及び、光学的測定プログラムによれば、例えば適宜の構造を持つ物体の物性に係る情報を推定することができる。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0107】
10…光学的測定装置、12…撮像部、14…処理部、22…結像光学系(明視野光学系)、24…撮像素子、122…暗視野光学系。