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  • 特開-表面処理鋼板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135223
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】表面処理鋼板
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20240927BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20240927BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20240927BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20240927BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20240927BHJP
   C23C 22/00 20060101ALI20240927BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240927BHJP
   B32B 15/095 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C23C28/00 A
C22C18/04
C22C21/10
C23C2/06
C23C2/12
C23C22/00 Z
B32B15/08 Q
B32B15/095
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045803
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中野 忠
(72)【発明者】
【氏名】上田 耕一郎
【テーマコード(参考)】
4F100
4K026
4K027
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AB03A
4F100AB10B
4F100AB18B
4F100AH08C
4F100AK01C
4F100AK51C
4F100AK53C
4F100AL06C
4F100BA03
4F100BA07
4F100EC17
4F100EH71B
4F100GB07
4F100GB32
4F100GB48
4F100JB02
4F100YY00B
4F100YY00C
4K026AA07
4K026AA09
4K026AA13
4K026AA22
4K026BA03
4K026BA08
4K026BB10
4K026CA16
4K026CA18
4K026CA23
4K026CA29
4K026CA31
4K026CA37
4K026CA39
4K026CA41
4K026DA02
4K027AA05
4K027AA22
4K027AB05
4K027AB13
4K027AB44
4K027AC82
4K027AE02
4K027AE03
4K044AA02
4K044BA10
4K044BA12
4K044BA14
4K044BA21
4K044BC02
4K044BC08
4K044CA11
4K044CA16
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】耐食性に優れるとともに、スポット溶接電極の寿命を延ばすことが可能な表面処理鋼板を提供する。
【解決手段】素地鋼板20と、素地鋼板20上に形成されたZn-Al系合金めっき層30と、Zn-Al系合金めっき層30上に形成された樹脂皮膜40とを備える表面処理鋼板10である。Zn-Al系合金めっき層30は、1~70質量%のAlを含む。樹脂皮膜40は、ベース樹脂を含む有機成分、並びに10.0~95.0mg/m2のTiである第1無機元素と、0mg/m2超過50.0mg/m2以下のZr、0mg/m2超過20.0mg/m2以下のV及び0mg/m2超過42.0mg/m2以下のPから選択される1種以上の第2無機元素と、0~20.0mg/m2のMo、0~20.0mg/m2のW及び0~30.0mg/m2のSiから選択される1種以上の第3無機元素とを含む無機成分を有し、且つ10℃/分の昇温速度で600℃まで加熱したときの質量減少率が85.0%以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板と、前記素地鋼板上に形成されたZn-Al系合金めっき層と、前記Zn-Al系合金めっき層上に形成された樹脂皮膜とを備え、
前記Zn-Al系合金めっき層は、1~70質量%のAlを含み、
前記樹脂皮膜は、ベース樹脂を含む有機成分、並びに10.0~95.0mg/m2のTiである第1無機元素と、0mg/m2超過50.0mg/m2以下のZr、0mg/m2超過20.0mg/m2以下のV及び0mg/m2超過42.0mg/m2以下のPから選択される1種以上の第2無機元素と、0~20.0mg/m2のMo、0~20.0mg/m2のW及び0~30.0mg/m2のSiから選択される1種以上の第3無機元素とを含む無機成分を有し、且つ10℃/分の昇温速度で600℃まで加熱したときの質量減少率が85.0%以上である、表面処理鋼板。
【請求項2】
前記ベース樹脂は脂肪族系ウレタン樹脂である、請求項1に記載の表面処理鋼板。
【請求項3】
前記脂肪族系ウレタン樹脂がエポキシ変性されている、請求項2に記載の表面処理鋼板。
【請求項4】
前記樹脂皮膜における前記無機成分の合計付着量が150.0mg/m2以下である、請求項1又は2に記載の表面処理鋼板。
【請求項5】
前記樹脂皮膜における前記無機成分の合計付着量に対する前記Tiの付着量の比が0.40~0.90である、請求項1又は2に記載の表面処理鋼板。
【請求項6】
前記樹脂皮膜の厚さが0.3~2.0μmである、請求項1又は2に記載の表面処理鋼板。
【請求項7】
前記樹脂皮膜における前記ベース樹脂以外の有機成分の含有量が13.0質量%以下である、請求項1又は2に記載の表面処理鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
素地鋼板上にZn-Al系合金めっき層が設けられた表面処理鋼板は、耐食性などの特性に優れることから、自動車部品、家電製品、建材などの各種分野で広く用いられている。このような各種分野で用いられる表面処理鋼板には、各種製品を製造する際に溶接が施されることが多い。溶接としては、溶接部分が小さく、他の溶接よりも仕上がりが良好になるスポット溶接が多く利用されている。
【0003】
しかしながら、表面処理鋼板に対してスポット溶接を行うと、スポット溶接に用いられる電極(以下、「スポット溶接電極」という)の寿命が極端に短くなるという問題がある。これは、スポット溶接時の発熱により、Zn-Al系合金めっき層中のZnがスポット溶接電極の主要成分であるCu中に拡散し、CuとZnとの合金層がスポット溶接電極の先端に形成されることに主に起因する。すなわち、スポット溶接電極に形成されたCuとZnとの合金層は脆いため、連続打点を繰り返すうちに剥離することにより、スポット溶接電極の先端が損耗するとともに先端の径が拡大する。その結果、スポット溶接時に電流密度が低下して発熱不足となり、所望の大きさのナゲットを生成できなくなる。
【0004】
そこで、スポット溶接電極の寿命の問題を解決するために、Zn-Al系合金めっき層などの各種めっき層の表面に各種皮膜を形成することが提案されている。例えば、特許文献1には、素地鋼板上に形成されたZn系めっき層上にエポキシ系樹脂皮膜を形成すること、及びこのエポキシ系樹脂皮膜に酸化物を含有させることが提案されている。また、特許文献2には、素地鋼板上に形成されたZn系めっき層上に、Mo、V、Cuの一種又は二種以上の金属酸化物皮膜を形成することが提案されている。さらに、特許文献3には、素地鋼板上に形成されたAl系めっき層上に、シリカ、高分子固体潤滑剤を含む有機樹脂皮膜を形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-216930号公報
【特許文献2】特開平5-214558号公報
【特許文献3】特開平9-142466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のエポキシ系樹脂皮膜、及び酸化物を含有するエポキシ系樹脂皮膜は、耐食性が十分でないとともに、スポット溶接電極の寿命を延ばす効果も乏しい。
特許文献2に記載の金属酸化物皮膜は、スポット溶接を繰り返すうちに金属酸化物がスポット溶接電極の先端に堆積してしまう。
特許文献3に記載の有機樹脂皮膜は、ベース樹脂である有機樹脂が限定されていないため、有機樹脂の種類によっては、スポット溶接を繰り返すうちにスポット溶接電極の先端に有機樹脂の成分が堆積してしまう。また、有機樹脂皮膜に含まれるシリカもスポット溶接電極の先端に堆積し易い。
したがって、特許文献2及び3に記載の各皮膜はいずれも、スポット溶接電極の先端に各皮膜の成分が堆積することによってスポット溶接電極と表面処理鋼板との間の抵抗が上昇する。その結果、スポット溶接時に発熱不足となるため、スポット溶接電極の寿命が短くなり易い。
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、耐食性に優れるとともに、スポット溶接電極の寿命を延ばすことが可能な表面処理鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、素地鋼板上に形成されたZn-Al系合金めっき層を備える表面処理鋼板について鋭意研究を行った結果、Zn-Al系合金めっき層に特定の樹脂皮膜を形成することにより、上記の問題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、素地鋼板と、前記素地鋼板上に形成されたZn-Al系合金めっき層と、前記Zn-Al系合金めっき層上に形成された樹脂皮膜とを備え、
前記Zn-Al系合金めっき層は、1~70質量%のAlを含み、
前記樹脂皮膜は、ベース樹脂を含む有機成分、並びに10.0~95.0mg/m2のTiである第1無機元素と、0mg/m2超過50.0mg/m2以下のZr、0mg/m2超過20.0mg/m2以下のV及び0mg/m2超過42.0mg/m2以下のPから選択される1種以上の第2無機元素と、0~20.0mg/m2のMo、0~20.0mg/m2のW及び0~30.0mg/m2のSiから選択される1種以上の第3無機元素とを含む無機成分を有し、且つ10℃/分の昇温速度で600℃まで加熱したときの質量減少率が85.0%以上である、表面処理鋼板に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐食性に優れるとともに、スポット溶接電極の寿命を延ばすことが可能な表面処理鋼板を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る表面処理鋼板の模式的な断面図である。
図2】サンプルNo.S1-1の樹脂皮膜のTG-DTA分析における加熱温度と質量減少率との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
なお、本明細書において成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る表面処理鋼板の模式的な断面図である。
図1に示されるように、本発明の実施形態に係る表面処理鋼板10は、素地鋼板20と、素地鋼板20上に形成されたZn-Al系合金めっき層30と、Zn-Al系合金めっき層30上に形成された樹脂皮膜40とを備える。
ここで、本明細書において「鋼板」とは、板状(帯状を含む)の鋼材のことを意味する。
【0014】
素地鋼板20としては、特に限定されず、熱延鋼板や冷延鋼板などの各種鋼板を用いることができる。その中でも素地鋼板20として冷延鋼板が好適に用いられる。
素地鋼板20の組成についても、特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0015】
Zn-Al系合金めっき層30は、Zn及びAlを含む合金めっき層である。Zn-Al系合金めっき層30は、MgやSiなどの他の元素を更に含むことができる。
Zn-Al系合金めっき層30は、1~70%のAlを含む。このような範囲にAlの含有量を制御することにより、耐食性を向上させることができる。
Zn-Al系合金めっき層30の厚さは、特に限定されず、用途に応じて適宜調整することができる。
Zn-Al系合金めっき層30は、当該技術分野において公知の方法によって形成することができる。例えば、Zn-Al系合金めっき層30は、素地鋼板20を溶融Zn-Al系合金めっき浴に浸漬することにより形成することができる。
【0016】
樹脂皮膜40は、ベース樹脂を含む有機成分、及び無機成分を有する。
また、樹脂皮膜40は、10℃/分の昇温速度で600℃まで加熱したときの質量減少率が85.0%以上である。このような範囲の質量減少率を有する樹脂皮膜40であれば、熱分解性に優れるといえるため、スポット溶接電極の先端に樹脂皮膜40の成分が堆積することを抑制できる。その結果、スポット溶接電極と表面処理鋼板10との間の抵抗が上昇してスポット溶接時に発熱不足となり難くなるため、スポット溶接電極の寿命を延ばすことができる。この効果を安定して得る観点から、上記の質量減少率は86.0%以上が好ましく、87.0%以上がより好ましい。なお、上記の質量減少率の上限は、特に限定されないが、典型的に98.0%である。
ここで、上記の質量減少率は、樹脂皮膜40の熱重量・示差熱同時測定(TG-DTA)によって算出することができる。
【0017】
ベース樹脂としては、10℃/分の昇温速度で600℃まで加熱したときの樹脂皮膜40の質量減少率を85.0%以上に制御し得るものであれば特に限定されない。
ベース樹脂の例としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの樹脂の中でもウレタン樹脂が好ましく、脂肪族系ウレタン樹脂がより好ましい。脂肪族系ウレタン樹脂をベース樹脂として用いることにより、10℃/分の昇温速度で600℃まで加熱したときの樹脂皮膜40の質量減少率を85.0%以上に制御し易くなる。
【0018】
ウレタン樹脂は、有機ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物との反応生成物である。特に、脂肪族ウレタン樹脂は、脂肪族系の有機ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物との反応生成物である。脂肪族系の有機ポリイソシアネート化合物としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどが挙げられる。ポリオール化合物としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリオレフィンポリオール(例えば、ポリブタジエンポリオール)などが挙げられる。これらの成分は単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、ウレタン樹脂は市販されているため、当該市販品を用いることができる。
【0019】
アクリル樹脂は、1種のアクリルモノマーの単独重合体、2種以上のアクリルモノマーの共重合体、1種以上のアクリルモノマーと1種以上のアクリルモノマー以外のモノマー(非アクリルモノマー)との共重合体である。
アクリル樹脂を構成するアクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリルアルキルエステルなどを用いることができる。ここで、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念である。
(メタ)アクリルアルキルエステルの例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。
非アクリルモノマーとしては、例えば、エチレン、ノルボルネンなどのオレフィン、酢酸ビニル、スチレンなどが挙げられる。
なお、アクリル樹脂は市販されているため、当該市販品を用いることができる。
【0020】
オレフィン樹脂としては、特に限定されず、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンなどが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、オレフィン樹脂は市販されているため、当該市販品を用いることができる。
【0021】
ベース樹脂は、必要に応じてエポキシ変性及び/又はメラミン変性されていてもよい。ここで、エポキシ変性されたベース樹脂とは、ベース樹脂骨格中にエポキシ構造が導入された樹脂を意味する。また、メラミン変性されたベース樹脂とは、ベース樹脂骨格中にメラミン構造が導入された樹脂を意味する。エポキシ変性及び/又はメラミン変性されたベース樹脂を用いることにより、耐食性(例えば、耐溶剤性及び耐アルカリ性)を向上させることができる。ただし、エポキシ変性及び/又はメラミン変性された部分が多いベース樹脂であると、高分子化によって熱分解温度が高くなる。そのため、10℃/分の昇温速度で600℃まで加熱したときの樹脂皮膜40の質量減少率が85.0%以上となるようにエポキシ変性及び/又はメラミン変性された部分の量を調整することに留意すべきである。エポキシ変性及び/又はメラミン変性された部分の量は、架橋剤の量を調整することによって制御することができる。
以上の観点から、より好ましいベース樹脂は、エポキシ変性された脂肪族系ウレタン樹脂である。エポキシ変性された脂肪族系ウレタン樹脂をベース樹脂として用いることにより、熱分解温度を低くしつつ耐食性を向上させることができる。
【0022】
上記のようなベース樹脂を含む有機成分は、スポット溶接時に熱分解して炭化物を生成する。この炭化物は、Zn-Al系合金めっき層30中のZnがスポット溶接電極の主要成分であるCu中に拡散してCuとZnとの合金層がスポット溶接電極の先端に形成されることを抑制することができる。
【0023】
樹脂皮膜40における無機成分は、10.0~95.0mg/m2のTiである第1無機元素と、0mg/m2超過50.0mg/m2以下のZr、0mg/m2超過20.0mg/m2以下のV及び0mg/m2超過42.0mg/m2以下のPから選択される1種以上の第2無機元素と、0~20.0mg/m2のMo、0~20.0mg/m2のW及び0~30.0mg/m2のSiから選択される1種以上の第3無機元素とを含む。
樹脂皮膜40に含有されるTi(第1無機元素)は、Zn-Al系合金めっき層30に対する防錆効果を与える。また、Ti(第1無機元素)をZr、V及びPから選択される1種以上の第2無機元素と組み合わせて樹脂皮膜40に含有させることにより、耐食性を向上させることができる。これらの効果を安定して確保する観点から、例えば、膜厚が1.0μm前後~1.5μm前後(0.8~1.8μm)の場合は、Tiの付着量は20.0~80.0mg/m2が好ましく、20.0~60.0mg/m2がより好ましい。また、Zrの付着量は0mg/m2超過15.0mg/m2以下が好ましく、Vの付着量は0mg/m2超過10.0mg/m2以下が好ましく、Pの付着量は0mg/m2超過15.0mg/m2以下が好ましい。
ここで、樹脂皮膜40における無機成分の付着量は、樹脂皮膜40を酸(フッ酸)で溶解し、この溶液をICP発光分光分析することによって求めることができる。
【0024】
Mo、W及びSiから選択される1種以上の第3無機元素は、任意の無機成分であり、樹脂皮膜40に含まれていなくてよい。しかしながら、Ti(第1無機元素)及び第2無機元素とともに第3無機元素を組み合わせて樹脂皮膜40に含有させることにより、耐食性をより一層向上させることができる。この効果を安定して確保する観点から、Moの付着量は0~5.0mg/m2が好ましく、Wの付着量は0~5.0mg/m2が好ましく、Siの含有量は0~8.0mg/m2が好ましい。
【0025】
樹脂皮膜40における上記の無機成分の合計付着量は、特に限定されないが、好ましくは150.0mg/m2以下、より好ましくは100.0mg/m2以下、更に好ましくは80.0mg/m2以下、特に好ましくは60.0mg/m2以下である。このような範囲に無機成分の合計付着量を制御することにより、樹脂皮膜40の成分がスポット溶接電極の先端に堆積することを抑制する効果を高めることができる。
【0026】
樹脂皮膜40における無機成分の合計付着量に対するTiの付着量の比は、特に限定されないが、好ましくは0.40~0.90、より好ましくは0.60~0.70である。このような範囲に当該比を制御することにより、耐食性を高めつつ、樹脂皮膜40の成分がスポット溶接電極の先端に堆積することを抑制する効果を向上させることができる。
【0027】
樹脂皮膜40は、潤滑剤を更に含むことができる。潤滑剤は、樹脂皮膜40の表面の摩擦係数を低減して潤滑性を付与し、かじりなどを防止して加工性(例えば、プレス加工性、しごき加工性)を向上させるための成分である。潤滑剤の例としては、フッ素系ワックス、ポリエチレン系ワックス、スチレン系ワックスなどの有機ワックスが挙げられる。この有機ワックスは、樹脂皮膜40の有機成分となる。また、シリカ、二硫化モリブデン、タルクなどの無機系潤滑剤を用いてもよい。無機系潤滑剤は、樹脂皮膜40の無機成分となる。有機ワックスは、化成処理液の乾燥時に表面にブリードして樹脂皮膜40に潤滑性を与えると考えられる。また、PTFE系ワックス(フッ素系ワックスの一種)や無機系潤滑剤などは、スポット溶接時の通電加熱で熱分解され難いか又は熱分解されないことがある。そのため、スポット溶接電極の先端部への堆積を考慮すると、ポリエチレン系ワックスを潤滑剤として用いることが好ましい。
【0028】
樹脂皮膜40における潤滑剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは1.0~10.0%である。樹脂皮膜40における潤滑剤の含有量が1%未満であると、潤滑剤の配合による加工性の向上効果が十分に得られないことがある。また、樹脂皮膜40における潤滑剤の含有量が10%を超えると、加工性の向上効果が飽和し、樹脂皮膜40の成膜性が阻害されてしまい、耐食性が低下することがある。
なお、樹脂皮膜40における潤滑剤の含有量は、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)を用いて特定することができる。
【0029】
樹脂皮膜40は、シランカップリング剤を更に含むことができる。シランカップリング剤は、Zn-Al系合金めっき層30に対する樹脂皮膜40の密着性を向上させるための成分である。シランカップリング剤は、ベース樹脂の官能基と反応する官能基を有することが好ましい。このような官能基を有するシランカップリング剤を用いることにより、ベース樹脂骨格中にシランカップリング剤を導入することができる。シランカップリング剤の官能基とベース樹脂の官能基との反応の種類は、特に限定されず、重合反応、縮合反応、付加反応などが挙げられる。例えば、ベース樹脂及びシランカップリング剤の一方が官能基としてカルボキシル基を有し、他方が官能基としてアミノ基を有している場合、縮合反応によって形成されたアミド結合を介してベース樹脂とシランカップリング剤とが強固に結合し、樹脂皮膜40がより強化されるとともに、樹脂皮膜40とめっき皮膜とZn-Al系合金めっき層30との密着性も向上する。このような互いに反応する官能基の他の組合わせは、アミノ基、水酸基及び/又はカルボキシル基とエポキシ基との組合わせ、水酸基及び/又はスルホ基とカルボキシル基との組合わせ、ビニル基同士の組合わせなどが挙げられる。したがって、ベース樹脂の官能基の種類に応じて、この官能基と反応する適切な官能基を有するシランカップリング剤を選択すればよい。
具体的には、ビニル基を有するベース樹脂に対しては、同じビニル基を有するビニルトリメトキシシランといったシランカップリング剤を用いればよい。また、カルボン酸基を有する(酸価を有する)ベース樹脂に対しては、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いればよい。さらに、水酸基を有するベース樹脂に対しては、エポキシ基を有するシランカップリング剤を用いればよい。
【0030】
樹脂皮膜40は、本発明の効果を阻害しない範囲において公知の添加剤を更に含むことができる。添加剤としては、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、防菌防ばい剤、着色剤、安定化剤などが挙げられる。
【0031】
樹脂皮膜40におけるベース樹脂以外の有機成分の含有量は、特に限定されないが、好ましくは13.0%以下、好ましくは12.8%以下である。このような範囲に当該含有量を制御することにより、樹脂皮膜40が熱分解し易くなるため、スポット溶接電極の先端に樹脂皮膜40の成分が堆積することを安定して抑制できることから、スポット溶接電極の寿命を延ばすことができる。また、樹脂皮膜40の耐食性も向上する。
【0032】
樹脂皮膜40の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.3~2.0μmである。樹脂皮膜40の厚さを0.3μm以上とすることにより、環境遮断性(酸素遮断性)が発現し、耐食性を高めつつ、樹脂皮膜40の成分がスポット溶接電極の先端に堆積することを抑制する効果を安定して得ることができる。また、樹脂皮膜40の厚さを2.0μm以下とすることにより、スポット溶接時に通電性が低下することを抑制することができる。樹脂皮膜40の特に好ましい厚さは、通常1.0μm前後(0.8~1.2μm)である。また、耐食性を重視する場合は、樹脂皮膜40の厚さを1.5μm前後(1.3~1.8μm)としてもよい。
【0033】
樹脂皮膜40は、所定の組成を有する化成処理液を用いて形成することができる。
化成処理液は、有機成分を与える原料と無機成分を与える原料とを含む。また、化成処理液に用いられる原料は、有機成分及び無機成分の両方を与える原料であってもよい。例えば、化成処理液は、有機成分(特に、ベース樹脂)を与える樹脂成分、無機成分を与える無機化合物、無機成分及び/又は有機成分を与える有機化合物などを含むことができる。また、無機成分は、ベース樹脂を与える樹脂成分中に導入されていてもよい。
【0034】
ベース樹脂を与える樹脂成分としては、特に限定されないが、ベース樹脂として上記で例示したウレタン樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂などを樹脂成分としてそのまま用いることができる。
化成処理液における樹脂の含有量は、特に限定されないが、好ましくは70.0~98.0%、より好ましくは75.0~97.0%である。
また、エポキシ変性及び/又はメラミン変性されたベース樹脂とする場合には、エポキシ系架橋剤及び/又はメラミン系架橋剤を樹脂成分として更に含むことができる。この場合、樹脂に対する架橋剤(エポキシ系架橋剤及び/又はメラミン系架橋剤)の質量比(架橋剤の質量/樹脂の質量)は、好ましくは0.01~0.15、より好ましくは0.02~0.10である。このような範囲に当該質量比を制御することにより、エポキシ変性及び/又はメラミン変性された部分が過度に多くなって高分子化し、ベース樹脂の熱分解温度が高くなることを抑制することができる。
【0035】
化成処理液は、無機成分を与える無機化合物として、Ti化合物と、Zr化合物、V化合物及びP化合物から選択される1種以上とを含む。また、化成処理液は、無機成分を与える無機化合物として、Mo化合物、W化合物及びSi化合物から選択される1種以上を更に含むことができる。
【0036】
Ti化合物としては、特に限定されないが、KnTiF6(Kはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、nは1又は2である)、K2[TiO(COO)2]、(NH42TiF6(フッ化チタン酸アンモニウム)、TiCl4、TiOSO4、Ti(SO42、Ti(OH)4、Ti[OCH(CH324、Ti(OC494、ペルオキソチタン酸などを用いることができる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記で例示したTi化合物の中でも、入手容易性の観点から、Ti[OCH(CH324、フッ化チタン酸アンモニウムが好ましい。さらに、市販されたTi化合物、例えば、マツモトファインケミカル株式会社製の有機チタン化合物(TC-400、TC-310、TC-300、TC-315など)を用いてもよい。
化成処理液におけるTi化合物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは1.0~13.0%、より好ましくは1.0~10.0%である。
【0037】
Zr化合物としては、特に限定されないが、ジルコニウム化合物には、(NH42ZrF6、Zr(SO42、(NH42ZrO(CO32(炭酸ジルコニウムアンモニウム)、炭酸ジルコニウムカリウム水溶液、ジルコニウムフッ化水素酸などを用いることができる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記で例示したZr化合物の中でも、入手容易性の観点から、炭酸ジルコニウムアンモニウムが好ましい。さらに、市販されたZr化合物、例えば、マツモトファインケミカル株式会社製の有機ジルコニウム化合物(ZC-126など)を用いてもよい。
化成処理液におけるZr化合物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0%超過10.0%以下、より好ましくは0.1~8.0%である。
【0038】
V化合物としては、特に限定されないが、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート、三塩化バナジウム、リンバナドモリブデン酸、硫酸バナジウム、二塩化バナジウム、酸化バナジウムなどを用いることができる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記で例示したV化合物の中でも、入手容易性の観点から、五酸化バナジウムが好ましい。
化成処理液におけるV化合物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0%超過2.3%以下、より好ましくは0.1~2.0%である。
【0039】
P化合物としては、特に限定されないが、オルトリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、亜リン酸(ホスホン酸)、次亜リン酸(ホスフィン酸)、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、C2872、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸二ナトリウム塩などを用いることができる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記で例示したP化合物の中でも、入手容易性の観点から、オルトリン酸、C2872、リン酸水素二アンモニウムが好ましい。
化成処理液におけるP化合物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0%超過5.0%以下、より好ましくは0.1~3.0%である。
【0040】
Mo化合物としては、特に限定されないが、(NH46Mo724(モリブデン酸アンモニウム)、K2(MoO24)などを用いることができる。これらは単独又は組み合わせて用いることができる。
化成処理液におけるMo化合物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは3.0%未満、より好ましくは0.1~2.5%である。
【0041】
W化合物としては、特に限定されないが、(NH46[H21240]、Na2WO4(NH42TiF6などを用いることができる。これらは単独又は組み合わせて用いることができる。
化成処理液におけるW化合物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは3.0%未満、より好ましくは0.1~2.5%である。
【0042】
Si化合物としては、特に限定されないが、コロイダルシリカ(例えば、湿式シリカ、シリカゾル)、乾式シリカ(例えば、気相シリカ、フュームドシリカ)、珪酸金属塩(例えば、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム)、珪酸エステル(例えば、エチルシリケート)などを用いることができる。コロイダルシリカとしては、「スノーテックス(登録商標)N」、「スノーテックス(登録商標)NS」、「スノーテックス(登録商標)NXS」、「スノーテックス(登録商標)30」、「スノーテックス(登録商標)40」、「スノーテックス(登録商標)C」、「スノーテックス(登録商標)S」、「スノーテックス(登録商標)20L」、「スノーテックス(登録商標)XS」、「スノーテックス(登録商標)XL」(以上、日産化学株式会社製)、「アデライトAT-20N」、「アデライトAT-20A」(以上、株式会社ADEKA製)などを用いることができる。これらは単独又は組み合わせて用いることができる。
また、ベース樹脂をシリカ変性又はシリコーン変性することにより、ベース樹脂にSiを導入することができる。シリカ変性又はシリコーン変性の方法は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法にしたがって行えばよい。
化成処理液におけるSi化合物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは4.0%未満、より好ましくは0.1~3.0%である。
【0043】
無機成分及び/又は有機成分を与える有機化合物としては、上述したシランカップリング剤や潤滑剤などが挙げられる。
化成処理液におけるシランカップリング剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは4.0%以下、より好ましくは0.1~3.5%である。
化成処理液における潤滑剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは1.0~15.0%、好ましくは1.0~12.0%である。
【0044】
化成処理液に含有される溶媒は、水を主体とするが、樹脂皮膜40の乾燥性を向上させる観点から、アルコール、ケトン、セロソルブ系の水溶性有機溶剤を併用してもよい。
化成処理液は、本発明の効果を阻害しない範囲において、上述した公知の添加剤を更に含むことができる。
【0045】
樹脂皮膜40は、化成処理液をZn-Al系合金めっき層30に塗布して乾燥することによって形成することができる。
化成処理液の塗布方法としては、特に限定されず、例えば、バーコート法、ロールコート法、スピンコート法、スプレー法などを用いることができる。化成処理液の塗布は、形成される樹脂皮膜40が所定の厚さとなるように1回又は複数回行うことができる。
塗布された化成処理液の乾燥は、常温でも可能であるが、製造効率を考慮すると、50℃以上の温度で行うことが好ましい。ただし、乾燥温度が200℃を超えると、樹脂皮膜40に含有される有機成分が熱分解し、耐食性や外観などの品質が低下してしまう。したがって、乾燥温度は50~200℃とすることが好ましい。
【実施例0046】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
素地鋼板上にZn-Al系合金めっき層が形成された以下の3種類のめっき鋼板を準備した。
<めっき鋼板>
めっき鋼板A:厚さ4.5mmの素地鋼板上に、溶融Zn-Al-Mg合金めっき層(片面付着量90g/m2、Al:6質量%、Mg:3質量%、Zn:残部)が形成されためっき鋼板
めっき鋼板B:厚さ4.5mmの素地鋼板上に、溶融Zn-Al-Mg合金めっき層(片面付着量100g/m2、Al:19質量%、Mg:6質量%、Zn:残部)が形成されためっき鋼板
めっき鋼板C:厚さ4.5mmの素地鋼板上に、溶融Zn-Al合金めっき層(片面付着量80g/m2、Al:55質量%、Zn:残部)が形成されためっき鋼板
【0047】
また、表1及び2に示す組成を有する化成処理液を準備した。化成処理液に用いた原料は以下の通りである。
<樹脂>
樹脂A:株式会社ADEKA製HUX566(脂肪族系ウレタン樹脂)
樹脂B:株式会社ADEKA製HUX541(芳香族系ウレタン樹脂)
樹脂C:DIC株式会社製COR-2600(アクリル樹脂)
樹脂D:ポリエステル樹脂
樹脂E:ポリエーテルスルホン(PES)
樹脂F:エポキシ樹脂
<架橋剤>
エポキシ系架橋剤:株式会社ADEKA製EM-0434AN
【0048】
<Ti化合物>
Ti[OCH(CH324
<Zr化合物>
(NH42ZrO(CO32
<V化合物>
25
<P化合物>
P化合物A:C2872
P化合物B:H3PO4
P化合物C:(NH42HPO4
<Mo化合物>
(NH46Mo724
<W化合物>
(NH46[H21240
<Si化合物>
シリカゾル:日産化学株式会社製ST-NS
【0049】
<シランカップリング剤>
エポキシ系シランカップリング剤:信越化学工業株式会社製KBE-403
<潤滑剤>
潤滑剤A:ポリエチレン系ワックス(東邦化学工業株式会社製HYTEC E-9016)
潤滑剤B:ポリエチレン・PTFE系ワックス(興洋化学株式会社製CJ-81B)
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
次に、所定のめっき鋼板に対して所定の化成処理液をバーコート法によって塗布した。次に、雰囲気温度が350℃の乾燥オーブンに入れ、めっき鋼板の温度が160℃に到達した段階でオーブンから取り出した後、雰囲気温度25℃の室内に放置して冷却することにより、樹脂皮膜を形成した。このようにして得られた表面処理鋼板のサンプルについて以下の評価を行った。
また、従来の比較サンプルとして、上記の各めっき鋼板に対してクロメート処理を行ったサンプルも作製した。このクロメート処理で得られたクロメート処理層は、Cr付着量を40mg/m2、P付着量を10mg/m2、SiO2付着量を20mg/m2とした。このサンプルについても以下の評価の一部を実施した。
【0053】
<樹脂皮膜を10℃/分の昇温速度で600℃まで加熱したときの質量減少率>
SAICAS(Surface And Interfacial Cutting Analysis System)を用いてサンプルから樹脂皮膜を剥離し、熱重量・示差熱同時測定(TG-DTA)分析を行って600℃まで加熱したときの質量減少率を算出した。ここで、一例として、以下の表3-1に示すサンプルNo.S1-1の樹脂皮膜のTG-DTA分析における加熱温度と質量減少率との関係を表すグラフを図2に示す。
SAICAS及びTG-DTAの条件は以下の通りとした。
(SAICAS)
装置:ダイプラ・ウィンテス株式会社製DN-GS型
切削刃:ダイヤモンド製(刃幅1.0mm、スクイ角度20°、ニゲ角度10°)
水平速度:2.0μm/秒
垂直速度:0.004μm/秒
切削倍率:縦横比約500倍
(TG-DTA)
装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TG/DTA 7300型
昇温速度:10℃/分
雰囲気ガス:大気雰囲気
ガス流量:200mL/分
試料容器:Pt製標準容器
試料重量:10mg
【0054】
<樹脂皮膜中の無機成分の付着量>
サンプルから樹脂皮膜を酸(フッ酸)で溶解し、この溶液をICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製ICPS-8100)により分析することで各元素の付着量を算出した。
【0055】
<樹脂皮膜の厚さ>
サンプルの断面が観察できるようにサンプルを切り出し、切断面が観察面となるように樹脂埋めを施した。次に、樹脂埋めを行った測定用試験片を湿式研磨によって鏡面処理した。鏡面処理した表面について、SEM(株式会社日立ハイテク製SU6600形)を用いて観察した。SEM像において、樹脂皮膜の厚さを1mm間隔で10点測定し、その平均値を樹脂皮膜の厚さとした。
【0056】
<スポット溶接試験(最大打点数)>
スポット溶接試験は、次の溶接条件にてスポット溶接時の連続打点数を調査した。スポット溶接電極としては、先端直径14mm、先端角20度、外直径25mmのCu-1%Cr製電極を使用した。スポット溶接では、60Hz電源により、180サイクルの通電を行った。また、11.0kNの加圧力にて、通電前に60サイクル、通電後に40サイクル、アップダウンスロープなしで2つの同一サンプルの間を加圧した。なお、連続打点性の調査における溶接電流値は、スポット溶接部のせん断強度が40kN以上で、且つチリ発生開始電流値から-0.2kAとして行った。この条件で、スポット溶接部のせん断強度を40kNに維持することができた最大打点数を求めた。
このスポット溶接試験の結果は、従来のクロメート処理で得られたサンプルに対する各サンプルの相対評価とした。この評価において、従来のクロメート処理で得られたサンプルに対して最大打点数が2.0倍以上を◎、2.0倍未満~1.2倍以上を○、1.2倍未満~0.9倍以上を△、0.9倍未満を×とした。
【0057】
<耐食性>
サンプルから試験片を切り出した後、この試験片の端面をシールし、JIS Z2371:2015に準拠して35℃の5%NaCl水溶液を噴霧した。塩水噴霧を所定時間継続した後、試験片の表面を観察した。塩水噴霧時間は、めっき鋼板Aを用いたサンプルでは240時間、めっき鋼板Bを用いたサンプルでは120時間、めっき鋼板Cを用いたサンプルでは72時間とした。試験片の表面の観察では、試験片の表面に発生している白錆の面積率を測定し、白錆発生面積率が5%以下を◎、5%超~10%以下を○、10%超~30%以下を△、30%超を×とした。
【0058】
上記の評価結果を以下の表3-1、3-2、4及び5にそれぞれ示す。なお、表3-1及び3-2はめっき鋼板Aを用いたサンプルであり、表4はめっき鋼板Bを用いたサンプルであり、表5はめっき鋼板Cを用いたサンプルである。
【0059】
【表3-1】
【0060】
【表3-2】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
表3-1、3-2、4及び5に示されるように、実施例のサンプルはいずれも最大打点数及び耐食性の結果が良好であった。
これに対して比較例のサンプルは、樹脂皮膜に含まれる無機成分の付着量が所定の範囲外であったり、樹脂皮膜の質量減少率が所定の範囲外であったりするため、最大打点数及び/又は耐食性の結果が十分でなかった。
【0064】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、耐食性に優れるとともに、スポット溶接電極の寿命を延ばすことが可能な表面処理鋼板を提供することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 表面処理鋼板
20 素地鋼板
30 Zn-Al系合金めっき層
40 樹脂皮膜
図1
図2