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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135226
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】摘取装置および栽培システム
(51)【国際特許分類】
   A01D 46/30 20060101AFI20240927BHJP
   B25J 15/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A01D46/30
B25J15/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045806
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】古澤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】宇野 隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸明
(72)【発明者】
【氏名】高田 咲子
【テーマコード(参考)】
2B075
3C707
【Fターム(参考)】
2B075JF01
2B075JF05
2B075JF08
3C707AS22
3C707DS02
3C707ES03
3C707ET02
3C707EU07
3C707EU11
3C707HS27
3C707NS02
3C707NS26
(57)【要約】
【課題】カッター等の切断刃を使うことなく、果実の摘み取りが行える摘取装置および栽培システムを提供する。
【解決手段】摘取装置100は、摘取対象物となる果実の摘み取り時に果柄を挟持する挟持部131と、摘み取り時に果実を保持する保持部132とを備えている。果実の摘み取り時には、保持部132にて果実を保持し、かつ挟持部131が果柄を挟持した状態から、挟持部131と保持部132との相対位置を変化させることで果柄を果実から離脱させる。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摘取対象物となる果実の摘み取り時に果柄を挟持する挟持部と、
摘み取り時に果実を保持する保持部とを備え、
果実の摘み取り時には、前記保持部にて果実を保持し、かつ前記挟持部が果柄を挟持した状態から、前記挟持部と前記保持部との相対位置を変化させることで果柄を果実から離脱させることを特徴とする摘取装置。
【請求項2】
請求項1に記載の摘取装置であって、
果実の摘み取り時には、前記保持部が果実を下から支えるように保持した状態で前記保持部を停止させ、前記保持部を停止させた状態で、前記挟持部を前記保持部から遠ざけるように移動させることを特徴とする摘取装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の摘取装置であって、
前記挟持部および前記保持部は、共通の基台部に対してそれぞれ独立して回転動作が可能に取り付けられていることを特徴とする摘取装置。
【請求項4】
請求項3に記載の摘取装置であって、
前記保持部は、回転軸方向から見て、回転軸側から先端側にかけて屈曲または湾曲した形状とされており、屈曲または湾曲部分に形成される凹部が摘取対象物を保持するための保持空間とされており、
果実の摘み取りを、
前記挟持部が摘取対象物の果柄を挟持した後、摘取対象物を上方に持ち上げるように前記挟持部を回転させる第1動作と、
前記保持部を摘取対象物に接触させ、摘取対象物を前記保持空間に収容させる第1所定位置まで回転させる第2動作と、
前記保持部と前記挟持部とを一体的に回転させ、摘取対象物を前記保持空間上に載置するように保持できる第2所定位置まで前記保持部を回転させる第3動作と、
前記挟持部のみを前記保持部から遠ざけるように回転させ、前記挟持部が挟持している果柄を前記保持部が保持している果実から離脱させる第4動作とによって行うことを特徴とする摘取装置。
【請求項5】
請求項4に記載の摘取装置であって、
前記保持部の第2所定位置は、前記保持部の先端が水平方向よりも上を向いた状態で、摘取対象物を前記保持空間に保持する位置であることを特徴とする摘取装置。
【請求項6】
請求項4に記載の摘取装置であって、
前記保持部は、幅方向の中央に長手方向に沿って形成され、かつ前記保持部の先端側が開放したスリットを有しており、
前記保持部は、前記第2動作において摘取対象物の果柄を前記スリット内に入り込ませることを特徴とする摘取装置。
【請求項7】
請求項6に記載の摘取装置であって、
前記挟持部の幅寸法は前記スリットの幅寸法よりも小さくされており、前記挟持部は前記スリットの内側に配置されていることを特徴とする摘取装置。
【請求項8】
請求項6に記載の摘取装置であって、
前記保持部の先端外側におけるコーナー部には、アールもしくはテーパが形成されていることを特徴とする摘取装置。
【請求項9】
請求項6に記載の摘取装置であって、
前記スリットの側面は、前記保持部の先端側でアールもしくはテーパが設けられていることを特徴とする摘取装置。
【請求項10】
移動ベンチ上で果実の栽培を行い、栽培された果実に対して摘取装置にて摘み取りを行う栽培システムであって、
前記摘取装置は、請求項1に記載の摘取装置であることを特徴とする栽培システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、栽培植物において果実の摘み取りを行う摘取装置、およびこれを備えた栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、果実の収穫を行う摘取装置として、果柄をカッターにて切断し、収穫物をバケットの中に落下させる構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2890796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の摘取装置では、カッターにより果柄を切断することで、その切り口から雑菌が侵入し、病気を持ち込む恐れがある。
【0005】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、カッター等の切断刃を使うことなく、果実の摘み取りが行える摘取装置および栽培システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示の第1の態様である摘取装置は、摘取対象物となる果実の摘み取り時に果柄を挟持する挟持部と、摘み取り時に果実を保持する保持部とを備え、果実の摘み取り時には、前記保持部にて果実を保持し、かつ前記挟持部が果柄を挟持した状態から、前記挟持部と前記保持部との相対位置を変化させることで果柄を果実から離脱させることを特徴としている。
【0007】
上記の構成によれば、摘取対象物となる果実に対して、果柄を引っ張って離脱させることができるため、カッター等の切断刃を用いて果柄を切断する必要が無い。これにより、カッター等の切り口から雑菌が侵入することを回避できる。また、果実との境界部分で果柄を離脱させることが容易であり、摘み取られる果実に対して果柄を残さない状態での摘み取りが可能となる。
【0008】
また、上記摘取装置は、果実の摘み取り時には、前記保持部が果実を下から支えるように保持した状態で前記保持部を停止させ、前記保持部を停止させた状態で、前記挟持部を前記保持部から遠ざけるように移動させる構成とすることができる。
【0009】
上記の構成によれば、果柄が離脱した後も保持部が果実を下から支えて保持することができる。また、果柄が離脱した時点で果実に慣性力が作用することが無く、慣性力によって果実が保持部から落下することを防止できる。
【0010】
また、上記摘取装置では、前記挟持部および前記保持部は、共通の基台部に対してそれぞれ独立して回転動作が可能に取り付けられている構成とすることができる。
【0011】
また、上記摘取装置では、前記保持部は、回転軸方向から見て、回転軸側から先端側にかけて屈曲または湾曲した形状とされており、屈曲または湾曲部分に形成される凹部が摘取対象物を保持するための保持空間とされており、果実の摘み取りを、前記挟持部が摘取対象物の果柄を挟持した後、摘取対象物を上方に持ち上げるように前記挟持部を回転させる第1動作と、前記保持部を摘取対象物に接触させ、摘取対象物を前記保持空間に収容させる第1所定位置まで回転させる第2動作と、前記保持部と前記挟持部とを一体的に回転させ、摘取対象物を前記保持空間上に載置するように保持できる第2所定位置まで前記保持部を回転させる第3動作と、前記挟持部のみを前記保持部から遠ざけるように回転させ、前記挟持部が挟持している果柄を前記保持部が保持している果実から離脱させる第4動作とによって行う構成とすることができる。
【0012】
また、上記摘取装置では、前記保持部の第2所定位置は、前記保持部の先端が水平方向よりも上を向いた状態で、摘取対象物を前記保持空間に保持する位置である構成とすることができる。
【0013】
上記の構成によれば、第2所定位置にある保持部は、摘取対象物を落下させにくく、確実な保持が可能となる。
【0014】
また、上記摘取装置では、前記保持部は、幅方向の中央に長手方向に沿って形成され、かつ前記保持部の先端側が開放したスリットを有しており、前記保持部は、前記第2動作において摘取対象物の果柄を前記スリット内に入り込ませる構成とすることができる。
【0015】
上記の構成によれば、果実の摘み取り時に果柄をスリットに入り込ませることで、果実に対して果柄を引っ張って離脱させる動作が容易となる。
【0016】
また、上記摘取装置では、前記挟持部の幅寸法は前記スリットの幅寸法よりも小さくされており、前記挟持部は前記スリットの内側に配置されている構成とすることができる。
【0017】
また、上記摘取装置は、前記保持部の先端外側におけるコーナー部には、アールもしくはテーパが形成されている構成とすることができる。
【0018】
上記の構成によれば、コーナー部が摘取対象物の周囲の他の収穫物に接触した場合であっても、周囲の収穫物に傷が付くことを抑制できる。
【0019】
また、上記摘取装置では、前記スリットの側面は、前記保持部の先端側でアールもしくはテーパが設けられている構成とすることができる。
【0020】
上記の構成によれば、第2動作において、摘取対象物の果柄がスリットに入り込みやすくなる。
【0021】
また、上記摘取装置では、前記保持部は、幅方向の中央に長手方向に沿ったスリットを有しており、前記挟持部の幅寸法は前記スリットの幅寸法よりも小さくされており、前記挟持は前記スリットの内側に配置されている構成とすることができる。
【0022】
また、本開示の第2の態様である栽培システムは、移動ベンチ上で果実の栽培を行い、栽培された果実に対して摘取装置にて摘み取りを行う栽培システムであって、前記摘取装置は、上記記載の摘取装置であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本開示の摘取装置および栽培システムは、果実に対して果柄を引っ張って離脱させることで、カッター等の切断刃を使うことなく、果実の摘み取りが行えるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態を示すものであり、摘取装置の外観を示す斜視図である。
図2】摘取部の拡大斜視図である。
図3】摘取部の平面図であり、挟持部を開閉動作させるための動作機構を説明する図である。
図4】摘取部の一方側の側面図であり、挟持部を回転動作させるための回転動作機構を説明する図である。
図5】摘取部の他方側の側面図であり、保持部を回転動作させるための回転動作機構を説明する図である。
図6】第1回転軸および第2回転軸の中心軸を含む断面図である。
図7】果実の摘み取りを行う際の摘取部の動作過程を示す側面図である。
図8】果実の摘み取りを行う際の摘取部の動作過程を示す側面図である。
図9】果実の摘み取りを行う際の摘取部の動作過程を示す側面図である。
図10】果実の摘み取りを行う際の摘取部の動作過程を示す側面図である。
図11】果実の摘み取りを行う際の摘取部の動作過程を示す側面図である。
図12】アーム稼働による摘取部の移動を示す斜視図である。
図13】摘取部の平面図である。
図14】摘取部の変形例を示す拡大平面図である。
図15】保持部の変形例を示す拡大側面図である。
図16】栽培システムの基本構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(摘取装置)
以下、本開示の摘取装置の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態の摘取装置100の外観を示す斜視図である。
【0026】
図1に示すように、摘取装置100は、土台110、アーム120および摘取部130を備えている。アーム120は、一方(根本側)の端部が土台110に対して取り付けられ、他方(先端側)の端部に摘取部130が取り付けられている。アーム120は、図示しないアクチュエータにより、土台110に対して水平方向の回転移動が可能とされている。また、アーム120は、図示しないアクチュエータによって稼働される複数の関節121を有しており、これらの関節121を独立して稼働させることにより、摘取部130の位置や向きを任意に変化させることができる。
【0027】
続いて、摘取装置100における摘取部130の具体的構成について説明する。図2は、摘取部130の拡大斜視図である。図2に示すように、摘取部130は、挟持部131および保持部132を基台部133に取り付けてなる構成である。挟持部131は、収穫物となる果実の摘み取り時に、果柄部分を挟持する。保持部132を、摘み取り時に果実を保持する。また、挟持部131および保持部132のそれぞれには、後述する動作機構が設けられている。
【0028】
挟持部131は、果柄部分を挟持する際の開閉動作と、基台部133に対して挟持部131自体を揺動回転させる回転動作が可能である。図3は、摘取部130の平面図であり、挟持部131を開閉動作させるための開閉動作機構を説明する図である。図4は、摘取部130の一方側の側面図であり、挟持部131を回転動作させるための回転動作機構を説明する図である。
【0029】
図3に示すように、挟持部131は、ベース板131aと、ベース板131aに対して取り付けられる2本の爪131b、回転駆動部131c、および2本のシャフト131dとを含んでいる。爪131bのそれぞれは、ベース板131aに対して所定の回転軸周りに揺動回転可能に取り付けられている。シャフト131dは、爪131bと回転駆動部131cとを繋ぐように配置され、一端が爪131bの根本側端部に接続され、他端が回転駆動部131cの外周付近に接続されている。爪131bが開いた状態(図3の左図)から回転駆動部131cを所定角度回転させると、この回転に伴ってシャフト131dが根本側に引かれ、シャフト131dに引かれて爪131bが揺動回転する。このように2本の爪131bが揺動回転することで、爪131bが閉じた状態(図3の右図)となる。回転駆動部131c逆方向に回転させれば、爪131bを再び開くことができる。
【0030】
また、図4に示すように、摘取部130は、挟持部131の回転動作機構として第1モータ134と第1ベルト135とを有している。ベース板131aは、基台部133に対して、第1回転軸131eによって軸支されている。第1ベルト135は、第1回転軸131eと第1モータ134の駆動軸134aとの間に架橋される。挟持部131の回転動作機構は、第1モータ134の回転駆動力を第1ベルト135および第1回転軸131eを介してベース板131aに伝えることで、挟持部131に回転動作を行わせる。尚、第1回転軸131eおよび駆動軸134aは何れも水平方向に延びる軸であり、挟持部131は先端側の爪131b部分を上下方向に揺動させるように、鉛直面内での回転動作が可能である。
【0031】
保持部132は、基台部133に対して保持部132自体を揺動回転させる回転動作が可能である。図5は、摘取部130の他方側(図4の反対側)の側面図であり、保持部132を回転動作させるための回転動作機構を説明する図である。
【0032】
図5に示すように、摘取部130は、保持部132の回転動作機構として第2モータ136と第2ベルト137とを有している。保持部132は、基台部133に対して、第2回転軸132aによって軸支されている。第2回転軸132aは、保持部132における一端側(根本側)に設けられている。第2ベルト137は、第2回転軸132aと第2モータ136の駆動軸136aとの間に架橋される。保持部132の回転動作機構は、第2モータ136の回転駆動力を第2ベルト137および第2回転軸132aを介して保持部132に伝えることで、保持部132に第2回転軸132a周りの回転動作を行わせる。尚、第2回転軸132aおよび駆動軸136aは何れも水平方向に延びる軸であり、保持部132は先端側の部分を上下方向に揺動させるように、鉛直面内での回転動作が可能である。
【0033】
本開示の摘取装置100において、挟持部131の第1回転軸131eと保持部132の第2回転軸132aとは互いに同心の軸とされている。図6は、第1回転軸131eおよび第2回転軸132aの中心軸を含む断面図である。図6に示すように、摘取部130の一方側の側面(図6における右側側面)では、第1回転軸131eが露出しており、第1回転軸131eに対して第1ベルト135が架けられている。一方、摘取部130の他方側の側面(図6における左側側面)では、第2回転軸132aが露出しており、第2回転軸132aに対して第2ベルト137が架けられている。
【0034】
続いて、摘取装置100が果実の摘み取りを行う際の摘取部130の動作について、図7ないし図11を参照して説明する。図7ないし図11は、摘取部130の動作過程を示す側面図である。また、以下の説明における挟持部131または保持部132の回転動作について、図中の反時計回り方向を第1方向とし、時計回り方向を第2方向とする。
【0035】
最初に、図7に示すように、アーム120の稼働により、摘取対象物(以下、単に対象物)となる果実に対して摘取部130を適切な箇所に移動させる。この移動によって、対象物の果柄が2本の爪131bの間に配置され、さらに2本の爪131bを閉じることで対象物の果柄が挟持部131によって挟持される。図7の状態において、挟持部131は、先端側を幾分下方に傾けた状態で対象物の果柄を挟持する。このとき、挟持部131は、第1および第2方向の両方において回転範囲に余裕を残した状態で対象物の果柄を挟持する。また、図7の状態において、保持部132は、対象物に対して最も離間される離間位置とされている。
【0036】
図8は、図7の状態から挟持部131の先端側を持ち上げるように、挟持部131を第2方向に回転動作(第1動作)させた状態を示している。この動作により、果柄を挟持されている対象物が持ち上げられ、対象物以外の他の果実から引き離される。このように、対象物となる果実を他の果実から引き離すことで、後程の保持部132の稼働時において、保持部132が他の果実に接触して傷を付けることを抑制できる。
【0037】
図9は、図8の状態から保持部132を対象物に対して第1方向に第1所定位置まで回転動作(第2動作)させた状態を示している。ここでの第1所定位置とは、保持部132が対象物に接触できる程度に回転された位置であり、例えば、保持部132が挟持部131を僅かに追い越す程度に回転し、保持部132と挟持部131とが近接状態となる位置である。
【0038】
ここで、保持部132は、幅方向の中央に、長手方向に沿ったスリット132b(図13図14参照)を有している。また、スリット132bは、保持部132の先端側が開放している。このため、図8から図9への保持部132の回転動作において、対象物の果柄がスリット132bに入り込むように案内される。また、挟持部131の幅寸法(少なくとも第2回転軸132aよりも先端側での幅寸法)は、スリット132bの幅寸法よりも僅かに小さくされており、保持部132の幅方向と直交する方向から見て挟持部131はスリット132bの内側に配置される。これにより、保持部132および挟持部131は、互いに阻害することなく、それぞれの回転動作を独立して行うことができる。
【0039】
さらに、保持部132は、側方から見て(回転軸方向から見て)、回転軸側から先端側にかけて略L字形状に屈曲した形状とされており、L字の屈曲部分に形成される凹部が、対象物を保持するための保持空間S(図5参照)となる。すなわち、上述した保持部132の第1所定位置とは、対象物を保持空間Sに収容させる位置である。
【0040】
図10は、図9の状態から保持部132を第1方向にさらに回転させ、第2所定位置まで回転動作(第3動作)させた状態を示している。このとき、保持部132だけでなく、挟持部131も保持部132と一体的に(同じ方向に同じ角速度で)回転動作する。すなわち、図9から図10の動作では、挟持部131と保持部132との相対位置は変化しない。ここでの第2所定位置とは、保持部132の先端が水平方向よりも幾分上を向き、対象物を落下させることなく、保持部132に載置された対象物を保持空間Sに保持できる位置である。言いかえれば、第2所定位置にある保持部132は、対象物である果実を下から支えるように保持することができる。
【0041】
図11は、図10の状態から挟持部131のみを第2方向に回転動作(第4動作)させ、挟持部131を保持部132から遠ざけるように移動させた状態である。このとき、対象物は保持部132によって移動が制限されるため、挟持部131の回転に伴って引っ張られた果柄が果実から離脱し、対象物の摘み取りが完了する。
【0042】
尚、上述の摘取動作において、図7における位置での挟持部131の停止、および図9から図10にかけての保持部132および挟持部131の一体的な回転動作を行わせるには、第1モータ134および第2モータ136の両方にステッピングモータを用いるなどして、保持部132および挟持部131の位置制御や回転速度制御を行うことが好ましい。
【0043】
上述した摘取動作では、摘み取りが完了した時点(果柄が果実から離脱した時点)で、保持部132は第2所定位置とされており、摘み取り直後の対象物を保持部132にて保持し続けることが可能となる。また、果柄を果実から離脱させる動作は、挟持部131の回転動作のみによって行われるため、果柄が離脱した時点で対象物に慣性力が作用することは無く、慣性力によって対象物が保持部132から落下することもない。
【0044】
そして、上述した摘取動作では、対象物となる果実に対して、果柄を引っ張って離脱させることができるため、カッター等の切断刃を用いて果柄を切断する必要が無い。これにより、カッター等の切り口から雑菌が侵入することを回避できる。また、カッター等で果柄を切断する場合、切断箇所は果実に対して幾分離れた場所となるため、摘み取られる果実には果柄の一部が残る状態となる。これに対して、上述した摘取動作では、果実との境界部分で果柄を離脱させることが容易であり、摘み取られる果実に対して果柄を残さない状態での摘み取りが可能となる。
【0045】
摘み取られた対象物は、摘み取り直後において保持部132に載置され、下から支えられるように保持されているため、対象物に過剰な圧を与えない状態で搬送可能である。このため、図12に示すように、アーム120の稼働によって摘取部130を出荷ケース等の上に移動させ、かつ、保持部132を離間位置に戻すように回転させることで収穫物を出荷ケース等に収容させる可能となる。
【0046】
尚、図13に示すように、本開示の摘取装置100における保持部132の幅寸法Lは、収穫物の幅以下とされることが好ましい。例えば、収穫物がイチゴであり、イチゴの幅をφ30mm程度と想定する場合、保持部132の幅寸法Lは30mm以下とされることが好ましい。これにより、収穫物の摘取動作において保持部132を回転させる際、保持部132が対象物の周囲の他の収穫物に接触しにくくなり、周囲の収穫物に傷が付くことを抑制できる。
【0047】
また、保持部132の先端外側におけるコーナー部132cは、図13に示すようなアール(もしくはテーパ)が形成されていることが好ましい。保持部132のコーナー部132cにアールやテーパが形成されることにより、コーナー部132cが対象物の周囲の他の収穫物に接触した場合であっても、周囲の収穫物に傷が付くことを抑制できる。さらに、図14に示すように、保持部132におけるスリット132bの側面は、先端側でスリット幅を広げるようなアールやテーパが設けられていてもよい。これにより、図8から図9への保持部132の回転動作において、対象物の果柄がスリット132bに入り込みやすくなる。
【0048】
また、上記例では、保持部132は側方から見て略L字形状に屈曲した形状とされているが、対象物を保持するための保持空間Sが形成されるものであれば、保持部132の形状はこれに限定されるものでない。例えば、図15に示すように、保持部132は側方から見て、保持空間Sが形成されるように緩やかに湾曲された形状であってもよい。
【0049】
(栽培システム)
上述した摘取装置100は、屋内で果実の栽培を行う栽培システムにおいて使用することが想定される。図16は、本開示に係る栽培システム10の基本構成を示す概略図である。尚、以下の説明において、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば「左右」「上下」等)を用いる場合は、図16において紙面に直交する方向を平面視とし、紙面上下方向を縦方向とし、紙面左右方向を横方向とする。これらの用語は説明の便宜のために用いるものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0050】
図16に示すように、栽培システム10は、複数の移動ベンチ20を循環移動させる閉ループ状のものとされている。移動ベンチ20には、栽培植物が植えられたプランタPが載置される。移動ベンチ20に載置されるプランタPの形状および個数は特に限定されるものではない。
【0051】
栽培システム10において、移動ベンチ20を移動させる手段としては、横方向において互いに逆向きの搬送方向を有し、かつ、縦方向に間隔を隔てて配置された一対の搬送コンベヤ装置30A,30Bと、縦方向において互いに逆向きの搬送方向を有する一対の案内装置40A,40Bと、移動ベンチ20を押し出し移動させる一対の押し出し装置50A,50Bとが設けられている。搬送コンベヤ装置30A,30Bの搬送方向と、案内装置40A,40Bの搬送方向とは、平面視で互いに直交している。
【0052】
案内装置40Aは、一方の搬送コンベヤ装置30Aの下流側箇所と他方の搬送コンベヤ装置30Bの上流側箇所とを繋ぐように配置されている。案内装置40Bは、他方の搬送コンベヤ装置30Bの下流側箇所と一方の搬送コンベヤ装置30Aの上流側箇所とを繋ぐように配置されている。これにより、各移動ベンチ20は、搬送コンベヤ装置30A、案内装置40A、搬送コンベヤ装置30B、案内装置40Bの順で循環移動することができる。尚、移動ベンチ20は、平面視で略矩形状であり、案内装置40A,40Bの搬送方向と直交する方向を長手方向、案内装置40A,40Bの搬送方向と平行な方向を短手方向としている。
【0053】
案内装置40A,40Bは、それぞれ2本の案内レール41を備えている。一方、各移動ベンチ20の下面側には、案内レール41の配置幅に合わせた間隔で、移動ベンチ20を案内レール41上で摺動させる図示しない摺動体(車輪等)が取り付けられている。あるいは、摺動体は案内装置40A,40Bに設けられていてもよい。これにより、各移動ベンチ20は、案内装置40A,40B上において縦方向に移動可能となる。また、図16では図示していないが、移動ベンチ20は、案内装置40A,40Bによる移動方向(縦方向)に延びる当接体を有していてもよい。案内装置40A,40B上では、この当接体を隣の移動ベンチ20に当接させることにより、隣り合う移動ベンチ20の間に適宜間隔を設けることができる。あるいは、案内装置40A,40B上での移動ベンチ20間隔は、上記当接体を設ける代わりに、移動ベンチ20の縦方向寸法によっても調節することができる。
【0054】
押し出し装置50A,50Bは、搬送コンベヤ装置30A,30Bの搬送下流側において、当該箇所にある移動ベンチ20(図16中では一点鎖線で示す)をこれに対峙する案内装置40A,40Bに向けて押し出し搬送する手段として設けられている。この場合の押し出し装置50A,50Bは、例えば、多段に伸縮動するように構成された電磁ソレノイドやエアシリンダ等の直動アクチュエータとすることができる。押し出し装置50A,50Bによる移動ベンチ20の押し出し移動に伴い、案内装置40A,40B上では、複数の移動ベンチ20が玉突き状に搬送される。その結果、案内装置40A,40Bの下流側では、最下流にある移動ベンチ20が搬送コンベヤ装置30B,30Aの上流側に押し出され、載置される。搬送コンベヤ装置30A,30Bの上流側に載置された移動ベンチ20は、搬送コンベヤ装置30A,30Bの上流側から下流側へ横方向の搬送を受ける。
【0055】
このように、栽培システム10では、搬送コンベヤ装置30A,30Bによる移動ベンチ20の搬送動作と、押し出し装置50A,50Bによる移動ベンチ20の押し出し搬送動作とが交互に行われることによって、移動ベンチ20の循環移動が行われる。この循環移動において、搬送コンベヤ装置30A,30Bによる移動ベンチ20の搬送速度、押し出し装置50A,50Bによる押し出し搬送速度(すなわち、案内装置40A,40B上での移動ベンチ20の移動速度)、押し出し装置50A,50Bによる押し出し搬送の時間間隔等は任意に設定可能である。これにより、各移動ベンチ20が1周分の移動に係る時間も任意に設定可能となる。
【0056】
また、搬送コンベヤ装置30A,30Bにおいては、搬送される移動ベンチ20に向けて水を散布する灌水装置60が設けられている。灌水装置60の配置位置は、搬送方向の中央付近、言い換えれば、搬送コンベヤ装置30A,30Bによって搬送される各移動ベンチ20の全体に散水を行える位置とされる。尚、図16では、灌水装置60は搬送コンベヤ装置30A,30Bのそれぞれに設けられているが、搬送コンベヤ装置30A,30Bの何れか一方のみに灌水装置60が設けられてもよい。
【0057】
栽培システム10では、搬送コンベヤ装置30A,30Bの一方(図16では、搬送コンベヤ装置30B)に対し、案内装置40Aまたは40Bと反対側のスペースに摘取装置100が配置される。摘取装置100は、栽培システム10における所定位置(図16では左下)に搬送されてきた移動ベンチ20上のプランタPに対して果実の摘み取りを行うことができる。
【0058】
尚、摘取の対象である果実は、プランタPに対する相対位置や密集具合等が摘取作業前に事前に把握されている。具体的には、栽培システム10の適切な箇所に撮影部(カメラ等)を設け、収穫作業前の任意の段階(例えば潅水稼働時)で、プランタPで栽培されている果実の撮影を行う。この場合、栽培システム10において撮影部を複数設け、プランタPに対して複数の方向から撮影を行うことがより好ましい。この撮影データに対して画像処理を行うことによってプランタPに対する果実の相対位置や密集具合等を認識することができる。
【0059】
図16に示す栽培システム10では、1つの移動ベンチ20に対して複数(図では5個)のプランタPが載置されている。この場合、1カ所に静止した移動ベンチ20上の全てのプランタPに対して摘取装置100が摘取動作を行うとすれば、摘取装置100において広い動作範囲が必要となる。このことは、摘取装置100に、装置の大型化や制御の複雑化等のデメリットを生じさせる。
【0060】
このため、栽培システム10では、搬送コンベヤ装置30Bによる移動ベンチ20の移動(横送り)と、摘取装置100による摘取動作とを組み合わせることが好ましい。例えば、図16に示す状態では、摘取装置100は、図中左下の移動ベンチ20上の最も右側のプランタPに対してのみ摘取動作を行う。この摘取動作が終了すると、搬送コンベヤ装置30Bは、移動ベンチ20を所定距離(移動ベンチ20上に載置されるプランタPの1ピッチ分)だけ右へ横送りする。この移動ベンチ20の横送りにより、摘取装置100は、移動ベンチ20上の右側から2番目のプランタPに対して摘取動作を行えるようになる。
【0061】
このように、搬送コンベヤ装置30Bによる移動ベンチ20の移動と、摘取装置100による摘取動作とを組み合わせることで、摘取装置100において広い動作範囲を設ける必要が無くなり、摘取装置100の小型化や制御の簡素化等が実現できる。
【0062】
また、移動ベンチ20を横送りする時間間隔または移動速度は、一定でなくてもよく、各プランタPにおいて予め把握された摘取対象の果実の数や位置情報に基づいて、収穫に適した摘み取り動作時間が確保されるようにプランタP毎に時間間隔または移動速度が調整されることが好ましい。
【0063】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本開示の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて定められる。
【符号の説明】
【0064】
10 栽培システム
20 移動ベンチ
100 摘取装置
110 土台
120 アーム
130 摘取部
131 挟持部
131a ベース板
131b 爪
131c 回転駆動部
131d シャフト
131e 第1回転軸
132 保持部
132a 第2回転軸
132b スリット
132c コーナー部
133 基台部
134 第1モータ
135 第1ベルト
136 第2モータ
137 第2ベルト
S 保持空間
図1
図2
図3
図4
図5
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