(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135247
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】光学検査方法及びプログラム、並びにそれを用いた光学検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/84 20060101AFI20240927BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240927BHJP
G01N 21/47 20060101ALI20240927BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20240927BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01N21/84 E
G06T7/00 610Z
G01N21/47 Z
G01N21/88 Z
G01N21/27 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045841
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 博司
(72)【発明者】
【氏名】岡野 英明
(72)【発明者】
【氏名】高梨 健太
(72)【発明者】
【氏名】神川 卓大
(72)【発明者】
【氏名】加納 宏弥
【テーマコード(参考)】
2G051
2G059
5L096
【Fターム(参考)】
2G051AB01
2G051BA08
2G051BB07
2G051CA04
2G051CB05
2G059AA05
2G059BB08
2G059EE02
2G059EE11
2G059FF01
2G059GG01
2G059GG02
2G059HH02
2G059JJ30
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM09
2G059MM10
5L096CA17
5L096FA46
(57)【要約】
【課題】少ない画素でも精度良く表現できるパターン光を用いて物体の性状を検査し得る光学検査方法及びプログラム、並びにそれを用いた光学検査装置を提供すること。
【解決手段】光学検査方法は、明暗が周期的に変化する第1の基本変調モードの第1のパターン光を物体に投影することと、第1のパターン光が投影された物体を撮像して第1の画像を取得することと、第1の基本変調モードに対して明暗が反転した第1の反転変調モードの第2のパターン光を物体に投影することと、第2のパターン光が投影された物体を撮像して第2の画像を取得することと、少なくとも第1の画像と第2の画像とに基づいて抽出される、特異的な光散乱をする特異領域が強調された特異光散乱画像を生成することとを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明暗が周期的に変化する第1の基本変調モードの第1のパターン光を物体に投影することと、
前記第1のパターン光が投影された前記物体を撮像して第1の画像を取得することと、
前記第1の基本変調モードに対して明暗が反転した第1の反転変調モードの第2のパターン光を前記物体に投影することと、
前記第2のパターン光が投影された前記物体を撮像して第2の画像を取得することと、
少なくとも前記第1の画像と前記第2の画像とに基づいて抽出される、特異的な光散乱をする特異領域が強調された特異光散乱画像を生成することと、
を具備する光学検査方法。
【請求項2】
前記第1のパターン光は、基本周波数成分と、少なくとも1つの高調波成分とを含む、
請求項1に記載の光学検査方法。
【請求項3】
前記第1のパターン光は、矩形波のパターン光である、
請求項2に記載の光学検査方法。
【請求項4】
前記第1のパターン光は、投影によって前記物体に形成される投影画像を構成する投影画素の偶数倍を1周期とする矩形波のパターン光である、
請求項3に記載の光学検査方法。
【請求項5】
前記第1のパターン光は、前記投影画素の2つを1周期とする矩形波のパターン光である、
請求項4に記載の光学検査方法。
【請求項6】
前記第1のパターン光は、前記投影画素の4つを1周期とする矩形波のパターン光である、
請求項4に記載の光学検査方法。
【請求項7】
前記第1のパターン光は、凹凸波のパターン光である、
請求項2に記載の光学検査方法。
【請求項8】
前記第1のパターン光は、投影によって前記物体に形成される投影画像を構成する8つの投影画素を1周期とする凹凸波である、
請求項7に記載の光学検査方法。
【請求項9】
前記第1のパターン光と前記第2のパターン光とは、互いに異なる波長スペクトルを含むパターン光であり、
前記第1のパターン光を前記物体に投影することと、前記第2のパターン光を前記物体に投影することとは、同時期に行われる、
請求項1に記載の光学検査方法。
【請求項10】
前記第1の基本変調モードとは位相が異なる第2の基本変調モードの第3のパターン光を前記物体に投影することと、
前記第3のパターン光が投影された前記物体を撮像して少なくとも1つの第3の画像を取得することと、
前記第1の反転変調モードとは位相が異なる第2の反転変調モードの第4のパターン光を前記物体に投影することと、
前記第4のパターン光が投影された前記物体を撮像して少なくとも1つの第4の画像を取得することと、
をさらに具備し、
前記特異光散乱画像を生成することは、少なくとも前記第1の画像と、前記第2の画像と、前記第3の画像と、前記第4の画像とを用いて前記特異光散乱画像を生成することを含む、
請求項1に記載の光学検査方法。
【請求項11】
前記第1のパターン光と、前記第2のパターン光と、前記第3のパターン光と、前記第4のパターン光とのうち少なくとも何れか2つは、互いに異なる波長スペクトルを含むパターン光であり、
前記第1のパターン光と、前記第2のパターン光と、前記第3のパターン光と、前記第4のパターン光とのうちの、互いに異なる波長のスペクトルを含むパターンを前記物体に投影するは、同時期に行われる、
請求項10に記載の光学検査方法。
【請求項12】
前記第1の基本変調モードは、第1の方向に明暗が周期的に変化する変調モードであり、
前記第2の基本変調モードは、第1の方向と直交する第2の方向に明暗が周期的に変化する変調モードである、
請求項10に記載の光学検査方法。
【請求項13】
明暗が周期的に変化する第1の基本変調モードの第1のパターン光を物体に投影することと、
前記第1のパターン光が投影された前記物体を撮像して第1の画像を取得することと、
前記第1の基本変調モードに対して明暗が反転した第1の反転変調モードの第2のパターン光を前記物体に投影することと、
前記第2のパターン光が投影された前記物体を撮像して第2の画像を取得することと、
少なくとも前記第1の画像と前記第2の画像とに基づいて抽出される、特異的な光散乱をする特異領域が強調された特異光散乱画像を生成することと、
をコンピュータに実行させるための光学検査プログラム。
【請求項14】
明暗が周期的に変化する第1の基本変調モードの第1のパターン光を物体に投影させ、
前記第1のパターン光が投影された前記物体を撮像して第1の画像を取得させ、
前記第1の基本変調モードに対して明暗が反転した第1の反転変調モードの第2のパターン光を前記物体に投影させ、
前記第2のパターン光が投影された前記物体を撮像して第2の画像を取得させ、
少なくとも前記第1の画像と前記第2の画像とに基づいて抽出される、特異的な光散乱をする特異領域が強調された特異光散乱画像を生成する、
制御部を具備する光学検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、光学検査方法及びプログラム、並びにそれを用いた光学検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な産業において、物体を非接触で光学検査することが重要となっている。非接触での光学検査の手法として、三角関数で表せる空間強度変調を持つパターン光を次々と物体に投影(投映)し、その都度物体を撮像し、撮像により得られた複数の画像から物体の性状を取得するパターン投影イメージングがある。ここで、パターン光が三角関数波に近いほど、物体の性状は精度よく取得され得る。しかし、三角関数波のパターン光を精度良く投影するには、パターン光の形成に必要な投影画像の画素数が多くなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】D. J. Cuccia, et. al., “Quantitation and mapping of tissue optical properties using modulated imaging,” Journal of Biomedical Optics 14(2), (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態は、少ない画素でも精度良く表現できるパターン光を用いて物体の性状を検査し得る光学検査方法及びプログラム、並びにそれを用いた光学検査装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様の光学検査方法は、明暗が周期的に変化する第1の基本変調モードの第1のパターン光を物体に投影することと、第1のパターン光が投影された物体を撮像して第1の画像を取得することと、第1の基本変調モードに対して明暗が反転した第1の反転変調モードの第2のパターン光を物体に投影することと、第2のパターン光が投影された物体を撮像して第2の画像を取得することと、少なくとも第1の画像と第2の画像とに基づいて抽出される、特異的な光散乱をする特異領域が強調された特異光散乱画像を生成することとを備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る一例の光学検査装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、制御装置のハードウェア構成の一例について示す図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態の光学検査方法を示す模式図である。
【
図4】
図4は、特異領域を有していない物体の内部の模式図と物体を透過する光の光線図である。
【
図5】
図5は、特異領域を有している物体の内部の模式図と物体を透過する光の光線図である。
【
図6】
図6は、第1の実施形態に係る光学検査方法について示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第1の実施形態の変形例に係る光学検査方法について示すフローチャートである。
【
図8A】
図8Aは、第2の実施形態におけるパターン光の例を示す図である。
【
図8B】
図8Bは、第2の実施形態におけるパターン光の例を示す図である。
【
図8C】
図8Cは、第2の実施形態におけるパターン光の例を示す図である。
【
図8D】
図8Dは、第2の実施形態におけるパターン光の例を示す図である。
【
図9】
図9は、第3の実施形態におけるパターン光の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、第3の実施形態に係る一例の光学検査装置の構成を示す図である。
【
図11A】
図11Aは、通常のオフィス環境の照明において従来のカメラで撮像されたセラミックス基板の画像を示す図である。
【
図11B】
図11Bは、第3の実施形態の手法に基づく特異領域抽出処理で得られたセラミックス基板の画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。図面は模式的又は概念的なものである。図面に記載された各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率等は、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
また、以下の説明において用いられる用語「光」は、電磁波の一種であり、ガンマ線、X線、紫外線、可視光、赤外線、電波等も含むものである。以下では、光は、可視光であるとして説明が続けられる。可視光は、例えば400nmから750nmの波長領域に属する。一方で、以下の説明で光と記載されている場合には、それは、ガンマ線、X線、紫外線、可視光、赤外線、電波等に置き換えられ得る。
【0009】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る一例の光学検査装置の構成を示す図である。第1の実施形態の光学検査装置1は、プロジェクタ10と、撮像装置20と、制御装置30とを有する。
【0010】
プロジェクタ10は、物体Oに対して空間的な強度変調パターンを有するパターン光を投影する。実施形態におけるパターン光は、物体Oにおいて明暗が周期的に変化する光である。ここで、明暗が周期的に変化することは、強度が大きい領域と強度が小さい領域とが周期的に位置するように強度が変化することに相当する。ただし、周期的とは、必ずしも一定の間隔で繰り返されるパターンのみを意味するものではない。つまり、周期は変動してもよい。言い換えれば、周期的とは、強度が大きい領域と強度が小さい領域とが繰り返して位置することに相当する。以下では、説明を簡単にするため、特に断らない限り、周期的とは一定の周期を持つパターンとする。また、後で詳しく説明されるが、第1の実施形態では、プロジェクタ10は、2つの異なる空間的な強度変調パターンに対応した2つの変調モードでパターン光を投影できるように構成されている。以下の説明において、用語「投影」は、用語「投映」と同じ意味で用いられ得るものとする。
【0011】
ここで、物体Oは、例えば可視光に対して透過性を有し、均一な散乱媒質で構成される。物体Oの材質、形状、厚さは特には限定されない。以下では、本実施形態における物体Oは、厚さが数ミリ程度の光の透過性を有する板であるとして説明が続けられる。また、板状の物体Oの厚さ方向に対向する2つの面のうちのパターン光が投影される面を裏側とし、撮像される面を表側として説明が続けられる。
図1の例では、パターン光は物体の裏側の面から投影され、物体内で散乱されながら物体を透過し、物体の表側の面に到達して物体から射出される。物体Oから射出された光で物体Oが撮像される。投影される面は一般的に投影面Ppと呼ばれ、撮像される面は物体面Poと呼ばれる。つまり、
図1の例では、投影面Ppは物体Oの裏側の面であり、物体面Poは物体Oの表側の面である。
【0012】
また、第1の実施形態において、物体Oは、特異領域Sを有していることがある。特異領域Sは、物体Oの内部又は表面における、特異な媒質又は特異な形状で構成された局所的な領域である。特異な媒質又は特異な形状は、例えば、物体に混入した異物、気泡等であったり、物体に発生したキレツ、割れであったり、物体の応力ひずみによって生じた特異な密度の領域であったり、物体の表面の微小凹凸形状であったり、物体の表面粗さが周囲と異なる面であったりする。ただし、特異な媒質又は特異な形状は、ここで挙げたものに限らない。
【0013】
プロジェクタ10は、光源11と、空間変調器12と、投影光学素子13とを有している。
【0014】
光源11は、光を発する。光源11は、レーザ光源、LD(Laser Diode)光源、LED(Light Emitting Diode)光源、フィラメント光源、ハロゲンランプ、キセノンランプ等の任意の光源であり得る。例えば、第1の実施形態では、光源11は、白色LED光源であるとして説明が続けられる。白色光の波長スペクトルは、450nmから750nmまでの波長範囲で有意な強度を持つとする。ここで、光源11は、プロジェクタ10とは別に設けられていてもよい。
【0015】
空間変調器12は、変調面を持つ。変調面は、変調画素の集合体で構成される。変調面は、光の特性を変調画素毎に独立に変化させる。光の特性は、例えば強度、偏光方向、波長スペクトル等を含む。変調面は、例えば、DMD(Digital Micromirror Device)、LCD(Liquid Crystal Display)パネル、LCOS(Liquid Crystal on Silicon)パネル等でよい。変調面の形状は何でもよい。例えば、変調面の形状は、エリア状でもよいし、ライン状でもよい。
【0016】
投影光学素子13は、投影光軸zpを持ち、空間変調器12での空間変調によって得られたパターン光を投影光軸zpに沿って物体Oに結像させる。これにより、物体Oには、変調面に応じた投影画像が形成される。投影光学素子13は、例えばレンズである。しかしながら、投影光学素子13は、空間内の物点から発せられた光を像点に結像できるものならば何でもよい。投影光学素子13によって規定される光学系の場合、物点は空間変調器12の変調面の上の点であり、像点は物体Oの投影面Ppの上の点である。
【0017】
撮像装置20は、撮像光学素子21と、イメージセンサ22とを有している。撮像装置20は、物体Oの物体面Poから発された光で物体Oを撮像して物体Oの画像を取得する。
【0018】
撮像光学素子21は、撮像光軸ziを持ち、物体Oから発された光をイメージセンサ22に結像させる。撮像光学素子21は、例えばレンズである。撮像光学素子21は、空間内の物点から発された光を像点に結像できるものならば何でもよい。撮像光学素子21によって規定される光学系の場合、物点は物体Oの物体面Poの上の点であり、像点はイメージセンサ22の画素面の上の点である。
【0019】
イメージセンサ22は、画素面を有する。画素面は、光電変換素子による撮像画素の集合体で構成される。それぞれの撮像画素は、入射した光を電気信号としての画素信号に変換する。画素信号に基づく画素値の集合体が画像である。イメージセンサ22は、例えばCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサである。イメージセンサ22は、画像を取得できるものならば何でもよい。また、画素面の形状も何でもよい。画素面の形状は、エリア状でもよいし、ライン状でもよい。
【0020】
制御装置30は、光学検査装置1の制御を実施するコンピュータである。制御装置30は、プロジェクタ10からのパターン光の照射開始/停止を制御したり、変調モードの切り替えを制御したりする。また、制御装置30は、撮像装置20から得られた画像から検査画像としての特異光散乱画像を生成する。
【0021】
図2は、制御装置30のハードウェア構成の一例について示す図である。
図2に示すように、制御装置30は、制御部31、記憶部32、電源部33、計時装置34、通信インタフェース(I/F)35、入力部36、出力装置37、及び外部インタフェース(I/F)38が電気的に接続されたコンピュータを備えている。ここで、制御装置30は、
図2で示した以外の要素を有していてもよいし、
図2で示した一部の要素を有していなくてもよい。例えば、制御装置30は、計時装置34を有していなくてもよい。
【0022】
制御部31は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、RAM(Random Access Memory)、及び/又はROM(Read Only Memory)等のメモリを含み、制御装置30の各構成要素の制御を行う。制御部31は、記憶部32に記憶されている実行プログラムを呼び出して処理を実行し得る。
【0023】
記憶部32は、コンピュータ等が読み取り可能なようにプログラム等の情報を記憶する媒体である。記憶部32は、例えば、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等の補助記憶装置であり得る。さらに、記憶部32はドライブを含んでいてもよい。ドライブは、別の補助記憶装置及び記録媒体等に記憶されているデータを読み込むための装置であり、例えば、半導体メモリドライブ(フラッシュメモリ(Flash Memory)ドライブ)、CD(Compact Disk)ドライブ、DVD(Digital Versatile Disk)ドライブ等を含む。ドライブの種類は、記憶媒体の種類に応じて適宜選択されてよい。
【0024】
電源部33は、制御装置30の各要素に電力を供給する。電源部33は、例えば、2次電池又は交流電源を含み得る。
【0025】
計時装置34は、時間を計測する装置である。例えば、計時装置34はカレンダを含む時計でもよく、現在の年月及び/又は日時の情報を制御部31へ渡す。計時装置34は、検査日時等を付す際に利用されてよい。
【0026】
通信インタフェース35は、例えば、近距離無線通信(例えば、Bluetooth(登録商標))モジュール、有線LAN(Local Area Network)モジュール、無線LANモジュール等であり、ネットワークを介した有線又は無線通信を行うためのインタフェースである。このネットワークを介した通信は、無線又は有線のいずれでもよい。なお、ネットワークは、インターネットを含むインターネットワークでもよいし、社内LANのような他の種類のネットワークであってもよい。さらには、通信インタフェース35は、USB(Universal Serial Bus)ケーブル等を用いた1対1の通信をしてもよい。さらに、通信インタフェース35は、マイクロUSBコネクタを含んでいてもよい。通信インタフェース35は、各種の通信機器といった外部装置に接続するためのインタフェースである。通信インタフェース35は、制御部31によって制御され、ネットワーク等を介して外部装置に各種の情報を送る。各種の情報は、例えば物体Oについての検査画像である。
【0027】
入力部36は、入力を受け付ける装置であり、例えば、タッチパネル、物理ボタン、マウス、及びキーボード等であり得る。また、出力装置37は、出力を行う装置であり、表示等で情報を出力する、例えば、ディスプレイ等である。
【0028】
外部インタフェース38は、光学検査装置1の本体と外部装置との媒介をするためのものである。外部装置は、例えば、プリンタ、メモリ、及び通信機器等であってよい。
【0029】
次に、光学検査装置1を用いた光学検査方法について説明する。
図3は、第1の実施形態の光学検査方法を示す模式図である。第1の実施形態における光学検査方法では、空間的な強度変調パターンを有するパターン光が物体に投影される。そして、物体を透過した光によって物体が撮像され、撮像により得られた画素信号に基づいて画像が取得される。パターン光は、例えば白色光から形成される。
【0030】
第1の実施形態では、プロジェクタ10から2つの変調モードに対応したパターン光が時間間隔を空けて又は時間の経過とともに物体に照射される。これにより、撮像装置20においてそれぞれの変調モードのパターン光に応じた2つの画像が取得される。これらの2つの画像に基づき、制御装置30によって物体Oの特異領域Sに関する情報が取得される。
【0031】
特異領域Sに入射した光は、特異領域Sの周囲の均一な媒質に入射する光とは異なる散乱特性を示す。つまり、光の散乱分布は、均一媒質におけるものと特異領域におけるものとで異なる。言い換えれば、特異領域Sは、均一媒質の光散乱特性とは異なる光散乱特性を示す局所的な領域である。特異領域Sは、特異な光散乱を起こす局所的な領域ならば何でもよい。例えば、キレツでは特異な光散乱が生じる。したがって、物体Oにおけるキレツの有無の検査は、物体Oの特異領域Sの有無を検知することで行われ得る。
【0032】
第1の実施形態において、2つの異なる変調モードは、基本変調モードと反転変調モードを含む。
【0033】
図3の(a)は、物体Oの投影面Ppに投影される基本変調モードのパターン光の一例を示す。
図3の(a)の横軸は、物体Oの投影面Ppの一線分上の位置を示す。
図3の(a)の縦軸は、投影面Ppにおけるパターン光の強度Inを示す。
【0034】
基本変調モードでは、物体Oの投影面Ppにおいて、パターン光における明暗が周期的に変化(変調)する。ここで、明暗が周期的に変化することは、
図3の(a)に示すように、投影面のある線分方向で見たときに、強度Inが大きい領域と強度Inが小さい領域とが周期的に位置するように強度Inが変化することに相当する。つまり、明暗が周期的に変化することは、強度の大小が周期的に変化することと同じ意味である。ただし、周期的とは、一定の周期を持つパターンのみを意味するものでない。つまり、周期が変動する場合も含める。言い換えれば、周期的とは、強度の大小が繰り返して変化するものであれば何でもよい。ここで、第1の実施形態におけるパターン光は、三角関数波等の明暗が周期的に変化する任意の光であり得る。例えば、
図3の(a)のパターン光は、明暗が矩形波状に変化する矩形波のパターン光である。
【0035】
物体Oの投影面Ppに投影されるパターン光の強度Inは、一様成分の強度と変調成分の強度を足し合わせたものである。一様成分はDC成分と呼ばれ、変調成分はAC成分と呼ばれることもある。一様成分は、強度Inの平均値又は中央値である。変調成分は、一様成分を中心に振動する。このため、変調成分の強度の平均値は0である。
【0036】
また、変調成分の強度の絶対値を変調振幅とすると、変調振幅は、強度Inから一様成分の強度を引いたものの絶対値と一致する。ここで、物体Oの投影面Ppに投影される基本変調モードのパターン光の変調振幅を第1の変調振幅A1とすると、
図3の(a)に示すようになる。ここでは、第1の変調振幅A1は、空間的に一様である。ただし、この限りではない。
【0037】
物体Oに投影された基本変調モードのパターン光は、物体Oで散乱されつつ透過する。そして、このパターン光は、物体Oの表側の面に到達する。このようにして物体の表側の面に到達した光によって物体Oが撮像されることで画像が取得される。
【0038】
物体Oが均一媒質である場合、物体Oの表側の面に到達した光の明暗は、物体Oに投影されたパターン光と同じように周期的に変化する。つまり、物体Oが均一媒質である場合、投影面Ppに投影されたパターン光の強度と物体面Poに到達した光の強度は正の相関を持つ。これにより、投影面Ppにおいて強度Inが大きい領域と対向する物体面Poの領域の強度Inのほうが、投影面Ppにおいて強度Inが小さい領域に対向する物体面Poの領域の強度Inよりも大きくなる。
【0039】
通常、光学検査装置1の周囲には、背景光Bが存在する。そして、物体面Poでは、背景光Bによる反射光が生じ得る。この背景光Bによる反射光も含めて物体Oは、撮像される。背景光Bは、光学検査装置1の使用環境によって異なるが、例えば、オフィスにおける一般照明であったり、野外における太陽光であったり、室内に窓から入射する太陽光であったりする。つまり、背景光は、2つの変調モードの光以外の光である。
【0040】
図3の(b)は、
図3の(a)のパターン光の投影に応じた物体面Poの光の一例を示す。
図3の(b)の横軸は、物体Oの投影面Ppの一線分と対応する物体面Poの一線分上の位置を示す。
図3の(b)の縦軸は、物体面Poにおける光の強度Inを示す。
【0041】
図3の(b)に示すように、背景光Bにより、物体面Poにおける光の強度は、一様成分と変調成分に加えて、背景光Bの成分を足し合わせたものになる。したがって、撮像により得られる画像も、一様成分と変調成分の他に背景光の成分を含むことになる。ここで、物体Oの物体面Poに到達した基本変調モードの光の変調振幅を第2の変調振幅A2とすると、第2の変調振幅A2は特異領域Sを除いて空間的に一様である。
【0042】
図3の(c)は、物体Oの投影面Ppに投影される反転変調モードのパターン光の一例を示す。
図3の(c)の横軸は、物体Oの投影面Ppの一線分上の位置を示す。
図3の(c)の縦軸は、投影面Ppにおけるパターン光の強度Inを示す。
【0043】
反転変調モードでも、基本変調モードと同様に、物体Oの投影面Ppにおいてパターン光の明暗が周期的に変化(変調)する。ただし、反転変調モードの変調成分は、基本変調モードに対して反転している。つまり、基本変調モードのパターン光の強度Inが最大のときに反転変調モードのパターン光の強度Inは最小になり、基本変調モードのパターン光の強度Inが最小のときに反転変調モードのパターン光の強度Inは最大になる。反転変調モードのパターン光の変調振幅は、基本変調モードのパターン光の変調振幅と同じ第1の変調振幅A1であり得る。ただし、この限りではなく、反転変調モードのパターン光の変調振幅と基本変調モードのパターン光の変調振幅は異なっていてもよい。
【0044】
物体Oに投影された反転変調モードのパターン光は、基本変調モードのパターン光と同様に、物体Oで散乱されつつ透過する。そして、このパターン光は、物体Oの表側の面に到達する。このようにして物体Oの表側の面に到達した光で物体Oが撮像されることで画像が取得される。
【0045】
図3の(d)は、
図3の(b)のパターン光の投影に応じた物体面Poの光の一例を示す。
図3の(d)の横軸は、物体Oの投影面Ppの一線分と対応する物体面Poの一線分上の位置を示す。
図3の(d)の縦軸は、物体面Poにおける光の強度Inを示す。
【0046】
物体Oが均一媒質である場合、物体面Poにおける反転変調モードの光の変調振幅は、特異領域Sを除いて基本変調モードの光の変調振幅と同じ第2の変調振幅A2であり得る。これは、投影面Ppにおけるパターン光の変調振幅が基本変調モードと反転変調モードで同じ第1の変調振幅A1であるためである。つまり、投影面Ppにおける基本変調モードと反転変調モードの変調振幅が異なる場合、物体面Poにおける基本変調モードと反転変調モードの変調振幅も異なる。また、背景光Bの成分は、光学検査装置1の使用環境が変わらない限りにおいては基本変調モードと反転変調モードとで変わらない。
【0047】
基本変調モードの光と反転変調モードの光のそれぞれについての物体Oの画像が取得された後、基本変調モードの画像と反転変調モードの画像の画素毎の画素値の差分が取られることで検査画像としての特異光散乱画像が生成される。つまり、
図3の(b)のパターン光に基づく画像と
図3の(d)のパターン光に基づく画像との画素値の差分が取られる。
図3の(e)は、特異光散乱画像の例を示す。
図3の(e)の横軸は、物体Oの投影面物体面Poの一線分上と対応するイメージ面上の一線分の位置を示す。イメージ面をPiとする。
図3の(e)の縦軸は、画素値Pixel Valueを示す。画素値Pixel Valueは、パターン光の強度Inをデジタル値に変換したものであり得る。
図3の(e)に示すように、特異光散乱画像では、一様成分及び背景光の成分が無くなる。また、特異光散乱画像では、特異領域Sの成分が強調される。前述したように、物体Oにおけるキレツの有無の検査は、物体Oの特異領域Sの有無を検知することで行われ得る。特異領域Sの成分が強調されることにより、キレツの有無の検査精度の向上が期待される。
【0048】
ここで、画像が複数のカラーチャンネルを備える場合には、それぞれのカラーチャンネル毎に差分を取ることができる。例えば、イメージセンサ22のそれぞれの撮像画素に特定の波長スペクトルに分光感度を有するカラーフィルタを形成することによって、画像にカラーチャンネルを持たせることができる。例えば、青色のカラーフィルタが形成された撮像画素は、波長450nmにピークを持つ波長スペクトルを受光して、青色のカラーチャンネルの画素信号を取得する。同様に、緑色のカラーフィルタが形成された撮像画素は、波長550nmにピークを持つ波長スペクトルを受光して、緑色のカラーチャンネルの画素信号を取得する。また同様に、赤色のカラーフィルタが形成された撮像画素は、波長650nmにピークを持つ波長スペクトルを受光して、赤色のカラーチャンネルの画素信号を取得する。画像における、青色のカラーチャンネルの画素の画素値と、緑色のカラーチャンネルの画素の画素値と、赤色のカラーチャンネルの画素の画素値とは独立している。なお、以下では、画像は白色光に対する1つのチャンネルのみを持つモノクロ画像であるとして説明が続けられる。
【0049】
次に、光学検査方法の原理を説明する。まず、物体Oが均一媒質である場合を考える。つまり、物体Oが特異領域Sを有していない場合を考える。
図4は、特異領域Sを有していない物体Oの内部の模式図と物体Oを透過する光の光線図を示す。
図4においては、光の強度が黒矢印の数と破線矢印の太さとで模式的に表現されている。
【0050】
物体Oの投影面Ppに投影されたパターン光は、物体Oで散乱されつつ物体Oを透過し、物体Oの物体面Poに到達する。ここで、前述したように、基本変調モード及び反転変調モードのパターン光は、投影面Ppに投影されたときに明るい領域と暗い領域とを持つ。
【0051】
特異領域Sがない場合、基本変調モード及び反転変調モードのパターン光のうちの投影面Ppにおいて明るい領域の光、つまり強度の大きい光L1aは、物体Oの投影面Ppから物体面Poに向かって散乱されながら物体Oを進む。このとき、光L1aの一部が暗い領域の方に向かって散乱する。これにより、光L1aの強度は減少する。したがって、物体面Poから射出される光L1bの強度は、光L1aの強度よりも小さくなる。
【0052】
一方、基本変調モード及び反転変調モードのパターン光のうちの投影面Ppにおいて暗い領域の光、つまり、強度が小さい光L2aは、物体Oの投影面Ppから物体面Poに向かって散乱されながら進む。このとき、光L2aの一部が明るい領域の方に向かって散乱する。また、明るい領域の方に向かって散乱されなかった光L2aは、暗い領域の方に向かって散乱されてくる光L1aと合波する。光L2aは、散乱による強度の減少よりも光L1aとの合波による強度の増加の方が大きいので、結果として、光L2aの強度は増加する。光L2aは、このように強度を増しながら物体面Poに到達し、光L2bになる。したがって、物体面Poから射出される光L2bの強度は、光L2aの強度よりも大きくなる。
【0053】
以上から、特異領域Sがない場合には、基本変調モードと反転変調モードの何れの場合であっても、投影面Ppにおける明暗差、すなわちコントラストは、物体面Poのコントラストよりも低くなる。言い換えれば、物体面Poにおける光の変調振幅は、投影面Ppにおける光の変調振幅よりも小さくなる。
【0054】
次に、物体Oが特異領域Sを有している場合を考える。
図5は、特異領域Sを有している物体Oの内部の模式図と物体Oを透過する光の光線図を示す。
図5においても、
図4と同様に、光の強度が黒矢印の数と破線矢印の太さとで模式的に表現されている。なお、
図5の例では、特異領域Sは、例えばキレツである。一般に、キレツは、2つの対向する第1の界面I1と第2の界面I2とを持つ。例では、第1の界面I1と第2の界面I2の間には空気が存在しているものとする。しかながら、キレツには空気以外、例えば液体、あるいは固体の異物といった媒質が存在していてもよい。
【0055】
物体Oに特異領域Sがある場合であっても、物体Oに特異領域Sがない場合と同様に、基本変調モード及び反転変調モードのパターン光は、投影面Ppに投影されたときに明るい領域と暗い領域とを持つ。
【0056】
ここで、特異領域Sが例えば明るい領域と暗い領域の間に存在していたとする。この場合も、基本変調モード及び反転変調モードのパターン光のうちの投影面Ppにおいて明るい領域の光、つまり強度の大きい光L1aは、物体Oの投影面Ppから物体面Poに向かって散乱されながら進む。散乱された光L1aの一部は、暗い領域の方に向かおうとして、特異領域Sに到達する。しかし、特異領域Sに到達した光L1aは、特異領域Sの第2の界面I2によって反射される。このような反射が起こるのは、特異領域Sの第2の界面I2を構成する空気と物体との間において大きな屈折率差があるためである。一般的に、屈折率が不連続になると反射が起こる。そして、このような反射のため、特異領域Sに到達した光L1aは、暗い領域の方に向かうことができない。したがって、物体面Poから射出される光L1bの強度は、光L1aの強度と変わらない。
【0057】
一方、基本変調モード及び反転変調モードのパターン光のうちの投影面Ppにおいて暗い領域の光、つまり強度の小さい光L2aも、物体Oの投影面Ppから物体面Poに向かって散乱されながら進む。散乱された光L2aの一部は、明るい領域の方に向かおうとして、特異領域Sに到達する。しかし、特異領域Sに到達した光L2aは、特異領域Sの第1の界面I1によって反射される。そして、このような反射のため、特異領域Sに到達した光L2aは、明るい領域の方に向かうことができない。したがって、物体面Poから射出される光L2bの強度は、光L2aの強度と変わらない。
【0058】
以上から、特異領域Sがある場合には、基本変調モードと反転変調モードの何れの場合であっても、投影面Ppにおけるコントラストと物体面Poのコントラストとはほぼ同じになる。言い換えれば、特異領域S及びその近傍を通過した光に関し、物体面Poにおける光の変調振幅と投影面Ppにおける光の変調振幅とはほぼ同じになる。
【0059】
以上をまとめると、物体Oに特異領域Sが存在しない場合には、基本変調モード及び反転変調モードの何れの場合であっても、物体面Poにおける変調振幅は、投影面Ppにおける変調振幅よりも小さくなる。つまり、物体面Poにおける変調振幅は、投影面Ppにおける変調振幅に比べて減衰する。一方、物体Oに特異領域Sが存在する場合には、基本変調モード及び反転変調モードの何れの場合であっても、特異領域S及びその近傍の物体面Poにおける変調振幅は、特異領域S及びその近傍の投影面Ppにおける変調振幅とほぼ同じとなる。つまり、物体面Poにおける変調振幅は投影面Ppにおける変調振幅に比べて減衰しない。これにより、物体面において、特異領域S及びその近傍の物体面Poにおける変調振幅は、特異領域S及びその近傍以外の領域の物体面Poにおける変調振幅と比べて大きくなる。
【0060】
前述したように、撮像画像のそれぞれの画素は、背景光成分と、一様成分と、変調成分の3つの成分が重ね合わされた画素値を持つ。ここで、反転変調モードの画像から基本変調モードの画像を差し引くことによって特異光散乱画像を算出することにより、背景光成分と一様成分は除去され得る。一方、変調成分の正負は基本変調モードと反転変調モードで反転しているので、特異光散乱画像における変調成分は除去されずに残る。さらに、変調成分のうちの特異領域Sの変調振幅は、特異領域S以外の領域の変調振幅よりも大きくなる。なぜならば、前述したように、特異領域S及びその近傍の物体面Poにおける変調振幅は投影面Ppにおける変調振幅に比べて減衰しないのに対して、特異領域S及びその近傍以外の領域の物体面Poにおける変調振幅は投影面Ppにおける変調振幅に比べて減衰するためである。
【0061】
以上から特異光散乱画像における例えば閾値以上の画素値を有する画素の位置が特異領域Sの位置として特定され得る。このような特異領域Sの有無の検査により、物体に混入した異物、気泡、物体に発生したキレツ、割れ、物体の応力ひずみによって生じた特異な密度の領域、物体の表面の微小凹凸形状が周囲と異なる面、物体の表面粗さが周囲と異なる面等の検査が精度良く行われ得る。
【0062】
図6は、第1の実施形態に係る光学検査方法について示すフローチャートである。
図6の動作は、制御装置30の制御部31によって制御され得る。
【0063】
ステップS1において、制御部31は、プロジェクタ10から基本変調モードのパターン光を物体Oに投影させる。ステップS2において、制御部31は、撮像装置20に物体Oの撮像を実施させる。撮像装置20の撮像によって得られた基本変調モードの画像は、制御装置30の記憶部32の所定の記憶領域において保持される。ここで、ステップS1の動作とステップS2の動作とは順次に行われてもよいし、同時に行われてもよい。
【0064】
ステップS3において、制御部31は、プロジェクタ10から反転変調モードのパターン光を物体Oに投影させる。ステップS4において、制御部31は、撮像装置20に物体Oの撮像を実施させる。撮像装置20の撮像によって得られた反転変調モードの画像は、制御装置30の記憶部32の基本変調モードの画像が記憶されている記憶領域とは別の記憶領域において保持される。ここで、ステップS3の動作とステップS4の動作とは順次に行われてもよいし、同時に行われてもよい。
【0065】
ステップS5において、制御部31は、特異領域抽出処理として、反転変調モードの画像と基本変調モードの画像の画素毎の画素値の差分を計算する。特異領域抽出処理によって得られる検査画像としての特異光散乱画像により、特異領域Sがその他の均一媒質の領域に比べて強調される。
【0066】
ステップS6において、制御部31は、物体Oについての検査画像を出力する。その後、
図6の処理は終了する。例えば、制御部31は、検査画像を出力装置37のディスプレイに表示する。または、制御部31は、通信インタフェース35を用いて検査画像を図示しない解析装置に送信する。解析装置は、例えば、検査画像の各画素の画素値を予め記憶している特異領域Sを表す閾値と比較することによって、キレツ等の欠陥の有無を解析する。このような解析は、制御部31によって行われてもよい。
【0067】
以上で述べたように第1の実施形態では、明暗が周期的に変化するパターンを有する基本変調モードのパターン光と基本変調モードに対して明暗のパターンが反転しているパターンを有する反転変調モードのパターン光とをそれぞれ物体に投影し、この物体を撮像することで得られた2枚の画像から特異光散乱画像が生成される。特異光散乱画像では物体の特異領域が強調され得る。したがって、特異光散乱画像から、物体の特異領域に関する情報が取得され得る。また、第1の実施形態では明暗が周期的に変化する任意のパターン光が用いられても精度良く特異領域に関する情報が抽出され得る。
【0068】
ここで、第1の実施形態では、基本変調モードのパターン光と反転変調モードのパターン光の投影面Ppにおける強度Inが同じであるとして説明がされている。しかしながら、基本変調モードのパターン光と反転変調モードのパターン光の投影面Ppにおける強度Inは同じでなくともよい。同様に、第1の実施形態では、基本変調モードのパターン光と反転変調モードのパターン光の投影面Ppにおける変調振幅が同じであるとして説明がされている。しかしながら、基本変調モードのパターン光と反転変調モードのパターン光の投影面Ppにおける変調振幅も同じでなくともよい。基本変調モードのパターン光と反転変調モードのパターン光の投影面Ppにおける強度In又は変調振幅が異なっている場合には、特異領域抽出処理において、基本変調モードの画像と反転変調モードの画像の画素値を強度比又は変調振幅比に応じて規格化した上で差分が取られればよい。
【0069】
また、第1の実施形態では、物体Oの裏側の面から表側の面まで透過した光で物体Oが撮像される。これに対し、物体Oの裏側の面で反射された光で物体Oが撮像されてもよい。この場合、プロジェクタ10と撮像装置20とは共に物体Oの裏側の面に設置される。また、この場合、物体Oの投影面Ppと物体面Poとはともに物体Oの裏側の面である。
【0070】
(第1の実施形態の変形例)
第1の実施形態の変形例を説明する。第1の実施形態では、基本変調モードのパターン光と反転変調モードのパターン光は、白色光であるとされている。これに対し、第1の実施形態の変形例では、基本変調モードのパターン光と反転変調モードのパターン光とは、異なる波長スペクトルを持つ。例えば、基本変調モードのパターンの光は青光であり、反転変調モードのパターン光は赤光である。青光は例えば波長450nmにピーク波長を持つ光であり、赤光は波長650nmにピークを持つ光である。ただし、基本変調モードのパターン光と反転変調モードのパターン光の組み合わせはこれに限らない。つまり、基本変調モードのパターン光と反転変調モードのパターン光の組み合わせは、異なる波長スペクトルの組み合わせであればよい。
【0071】
第1の実施形態の変形例におけるイメージセンサ22は、異なる波長のスペクトルを有する基本変調モードのパターン光と反転変調モードのパターン光のそれぞれを独立して受光できるように構成されている。例えば、イメージセンサ22は、赤光に対して分光感度を有する撮像画素と青光に対して分光感度を有する撮像画素を備えている。これにより、イメージセンサ22で取得される画像は、赤光に対応したカラーチャンネルと、青色に対応したカラーチャンネルとを持つ。赤光に対応したカラーチャンネルから基本変調モードの画像が取得され得る。同様に、青光に対応したカラーチャンネルから反転変調モードの画像が取得され得る。
【0072】
図7は、第1の実施形態の変形例に係る光学検査方法について示すフローチャートである。
図7の動作は、制御装置30の制御部31によって制御され得る。
【0073】
ステップS11aにおいて、制御部31は、プロジェクタ10から基本変調モードのパターン光を物体Oに投影させる。また、ステップS11bにおいて、制御部31は、プロジェクタ10から反転変調モードのパターン光を物体Oに投影させる。つまり、第1の実施形態の変形例では、基本変調モードのパターン光の投影と反転変調モードのパターン光の投影とが同時期に行われ得る。
【0074】
ステップS12aにおいて、制御部31は、撮像装置20に物体Oの撮像を実施させる。撮像装置20の撮像によって得られた基本変調モードの画像は、制御装置30の記憶部32の所定の記憶領域において保持される。また、ステップS12bにおいて、制御部31は、撮像装置20に物体Oの撮像を実施させる。撮像装置20の撮像によって得られた反転変調モードの画像は、制御装置30の記憶部32の基本変調モードの画像とは別の記憶領域において保持される。つまり、第1の実施形態の変形例では、基本変調モードについての物体Oの撮像と反転変調モードについての物体Oの撮像とが同時期に行われ得る。
【0075】
ステップS13において、制御部31は、特異領域抽出処理として、反転変調モードの画像と基本変調モードの画像の画素毎の画素値の差分を計算する。
【0076】
ステップS14において、制御部31は、物体Oについての検査画像を出力する。その後、
図7の処理は終了する。例えば、制御部31は、検査画像を出力装置37のディスプレイに表示する。または、制御部31は、通信インタフェース35を用いて検査画像を図示しない解析装置に送信する。解析装置は、例えば、検査画像の各画素の画素値を予め記憶している特異領域Sを表す閾値と比較することによって、キレツ等の欠陥の有無を解析する。このような解析は、制御部31によって行われてもよい。
【0077】
以上述べたように第1の実施形態の変形例では、基本変調モードのパターン光と反転変調モードのパターン光とに異なる波長のスペクトルを持たせることにより、基本変調モードのパターン光と反転変調モードのパターン光とを同時期に物体Oに照射し、同時期に基本変調モードについての撮像と反転変調モードについての撮像とをすることができる。つまり、基本変調モードについての処理の後で時間をおいて反転変調モードパターンについての処理をする必要がなくなる。これにより、検査時間が短縮され得る。
【0078】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。以下では、第1の実施形態と共通する説明は適宜に省略される。ここで、第2の実施形態における光学検査装置の基本的な構成は、
図1及び
図2で示したものが適用され得る。
【0079】
第1の実施形態においては、基本変調モードのパターン光と反転変調モードのパターン光とは明暗が周期的に変化する任意の光であるとされている。ここで、空間変調器の変調面における変調画素のサイズと投影光学素子とによって、投影面に形成される投影画像の解像度が定まる。具体的には、投影光学素子の拡大倍率と変調画素のサイズとの積が、投影される投影画像を構成する投影画素のサイズである。サイズが大きい投影画素によって形成される投影画像では、微小な特異領域に対する感度が低下する。また、三角関数波等の曲線を含む投影画像を精度良く再現するためには、多くの変調画素が必要である。一方、矩形波、三角波、多角波は、少ない変調画素でも精度良く再現され得る。第2の実施形態では、少ない変調画素でも精度良く特異領域の検査が実施され得るパターン光の例について説明される。
【0080】
図8A、
図8B、
図8C、
図8Dは、第2の実施形態におけるパターン光の例を示す図である。
図8A、
図8B、
図8C、
図8Dの縦軸は、パターン光の強度Inであり、横軸は物体Oの投影面Ppの一線分上の投影画素の位置である。例えば、一線分の方向は、投影面Ppのx軸の方向と一致している。
【0081】
図8Aは、明るい投影画素と暗い投影画素の2つの投影画素を周期とする矩形波のパターン光を示す図である。最小の数の投影画素で構成できる変調成分は、
図8Aで示す、2つの投影画素を周期とする矩形波である。つまり、2つの投影画素を周期とする矩形波のパターン光は、最小の周期の変調成分を有する。このような2つの投影画素を周期とする矩形波のパターン光は、微小な特異領域Sについても感度を持つ。
【0082】
図8Bは、投影画素の偶数倍を周期とする矩形波のパターン光としての、4つの投影画素を周期とする矩形波のパターン光を示す図である。前述したように、変調成分の強度は、パターン光の強度Inから一様成分の強度を引いたものである。このため、変調成分の強度は、0を基準として正負が交互に入れ替わるように変化する。このとき、正の領域と負の領域の投影画素数を一致させると必ず周期は偶数となる。つまり、投影画素の偶数倍を周期とすることで、正負で偏りのない矩形波が生み出され得る。これにより、パターン光が物体Oの均一媒質を通るとき、正負に偏りがある場合に比べて速く変調振幅を減少できる。前述したように、パターン光が物体Oの均一媒質を通るときの変調振幅の減少は、コントラストの低減につながる。このように、正負で偏りのない矩形波のパターン光の投影は、特異領域Sを通るパターン光のコントラストを相対的に向上させ得る。
【0083】
図8Cは、8つの投影画素を周期とする凹凸波のパターン光を示す図である。
図8Cのパターン光は、正の領域と負の領域の投影画素数は、それぞれ4つである。また、
図8Dのパターン光は、投影画素の偶数倍を周期とする凹凸波のパターン光を示す図である。
図8Dのパターン光は、正の領域と負の領域の投影画素数は、それぞれ2つである。ここで、矩形波のパターン光と異なり、凹凸波のパターン光では、変調振幅が投影画素毎に一定ではない。しかしながら、
図8Cのパターン光及び
図8Dのパターン光の何れであっても、矩形波の場合と同様に、特異領域Sを通るパターン光のコントラストを相対的に向上させ得る。
【0084】
次に、第2の実施形態の効果について述べる。定常状態において、光の散乱は光拡散方程式を用いて予測できることが知られている。光拡散方程式は、物体内の媒質点で等方散乱が起こることを仮定したものである。光拡散方程式を用いると、物体内を伝搬する光の散乱強度の変調成分φに対して次のように書ける。
【数1】
ここで、μ
aは、有効吸収係数であり、μ
tは有効伝搬係数である。また、Φは投影されるパターン光の変調成分の強度である。
【0085】
式(1)において、パターン光の変調成分を反転させると、つまりΦを-Φにすると、式(1)は、式(2)のようになる。
【数2】
このとき、式(2)を満たす物体内を伝搬する光の変調成分φは、式(1)で得られる解を反転させたものとなる。つまり、式(1)で得られる解φの正負の符号を反転させたものである-φが式(2)の解になる。
【0086】
以上により、投影面に投影されるパターン光の変調成分を反転させると、物体面に到達するパターン光の変調成分も反転する。これは、物体が均一媒質であっても、特異領域を持っていても同様である。物体が特異領域を持つ場合は、係数μが空間的に分布を持つことになる。つまり、係数μが空間位置に依存することになる。
【0087】
このように、変調成分が反転することにより、特異領域抽出処理において、基本変調モードの画像と反転変調モードの画像との差分を取ったときには、変調成分が残ることになる。一方、一様成分と背景光成分は、反転しないので、差分を取ることによって除去される。つまり、特異領域抽出処理により、変調成分のみが抽出され得る。
【0088】
ここで、以下の説明において、投影面はxy平面に平行な面であるとし、投影光軸はxy平面に垂直なz軸であるとする。また、パターン光をx方向に強度が変調する矩形波であるとする。さらに、パターン光は、x方向に強度が周期的に変調するパターン光であるとする。このとき、パターン光の変調成分の強度Φは、一般的に、三角関数の足し合わせで記述できる。これはフーリエ級数展開又はフーリエ変換とも呼ばれる。つまり、強度Φは、cos関数とsin関数を用いて式(3)のように記述され得る。
【数3】
ここで、α
mとβ
m実数の係数であり、mは1以上の整数であるとする。また、k
mは空間周波数(波数)を表す。空間周波数k
mは、空間周期をΛとすると、式(4)で表される。
【数4】
例えば、変調振幅0.5の矩形波は、式(3)から式(5)のように記述され得る。
【数5】
式(5)の右辺を第3項まで記述すると、式(6)のようになる。
【数6】
ここで、右辺第1項は、空間周期Λで強度が変調するモードである。右辺第1項は、基本モードと呼ばれる。一方、右辺第2項は、空間周期Λの3分の1で強度が変調するモードである。右辺第2項は、3倍波モードと呼ばれる。同様に、右辺第3項は、空間周期Λの5分の1で強度が変調するモードである。右辺第3項は、5倍波モードと呼ばれる。なお、右辺第2項以降の項は、高調波モードと呼ばれることもある。
【0089】
式(6)において、右辺第1項、つまり基本モードの係数は2/πである。2/πは、約0.64であって、1/2(つまり0.5)よりも大きい。このことから、同じ大きさの変調振幅を持つ矩形波の基本モードと三角関数波(sin波)とで強度を比較すると、矩形波の基本モードの強度の方が三角関数波の強度よりも大きいことがわかる。これは、プロジェクタ10で投影できる最大の輝度において、矩形波の基本モードのほうが三角関数波よりも強度を大きくし得ることを意味している。
【0090】
ここで、パターン光が均一媒質である物体内を伝搬するときの変調成分φは、投影面上の位置x及びyにのみ依存する成分φ
xyと投影光軸上の位置zにのみ依存するφ
z成分との積で表される。特に、パターン光が式(5)で表される矩形波であるとき、φ
xyは、式(5)を用いて式(1)を解くことにより、式(7)で表される。
【数7】
式(7)において空間周期Λを十分に小さくしていくと、式(4)から空間周波数が大きくなり、式(7)は、式(8)のように近似される。
【数8】
つまり、空間周期Λが十分に小さい場合には、均一媒質を伝搬して物体面に到達する変調成分φの高調波モードの成分は残らず、基本モードの成分のみが残る。前述したように、矩形波の基本モードの強度は、プロジェクタ10で投影可能な輝度の範囲内において、三角関数波の強度よりも大きい。すなわち、空間周期Λが十分に小さい条件では、矩形波のパターン光を投影面に投影した場合の物体面における光の強度は、三角関数波のパターン光を投影面に投影した場合の物体面における光の強度における強度よりも大きくなる。物体面における光の強度が大きくなることは、特異領域抽出処理によって得られる画像における特異領域の画素値も大きくなることを意味している。したがって、空間周期Λが十分に小さい条件では、矩形波のパターン光を投影面に投影したほうが三角関数波のパターン光を投影するよりも、特異領域の有無の検査が容易になり得る。このことは、パターン光が矩形波である場合に限らない。つまり、空間周期Λが十分に小さい条件では、高調波モードを含むパターン光を投影面に投影した場合の物体面における光の強度は、三角関数波のパターン光を投影面に投影した場合の物体面における光の強度よりも大きくなる。したがって、矩形波以外の三角波、多角形波といった高調波を含むパターン光を投影面に投影したほうが三角関数波のパターン光を投影するよりも、特異領域の有無の検査が容易になり得る。
【0091】
以上述べたように第2の実施形態では、高調波を含むパターン光を投影面に投影することによって、特異領域の有無の検査が精度良く実施され得る。特に、矩形波、三角波、多角波は、少ない変調画素でも精度良く再現され得る。したがって、第2の実施形態では、少ない変調画素でも精度良く特異領域の検査が実施され得る。
【0092】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。以下では、第1又は第2の実施形態と共通する説明は適宜に省略される。
【0093】
図9は、第3の実施形態におけるパターン光の一例を示す図である。ここで、
図9において、縦軸はパターン光の強度Inであり、横軸は物体Oの投影面Ppの一線分上の投影画素の位置である。例えば、一線分の方向は、投影面Ppのx軸の方向と一致している。
【0094】
第3の実施形態においては、投影面に投影されるパターン光として、基準位相を持つ変調モードのパターン光と、基準位相に対して1/4位相ずれた変調モードのパターン光が用いられる。例えば、基準位相を持つ変調モードのパターン光の位相を0としたとき、1/4位相ずれた変調モードのパターン光の位相は+1/4又は-1/4である。基準位相を持つ変調モードのパターン光と1/4位相ずれた変調モードのパターン光は、それぞれ、基本変調モードと反転変調モードとを有する。したがって、第3の実施形態において投影面に投影されるパターン光は、基準位相を持つ基本変調モードのパターン光と、1/4位相ずれた位相を持つ基本変調モードのパターン光と、基準位相を持つ反転変調モードのパターン光と、1/4位相ずれた位相を持つ反転変調モードのパターン光の4種類のパターン光を含む。ここで、
図9のパターン光は、
図8Bで示した投影画素の偶数倍を周期とする矩形波のパターン光である。しかしながら、第3の実施形態で用いられ得るパターン光は、投影画素の偶数倍を周期とする矩形波のパターン光に限らない。
【0095】
以下では、基準位相を持つ基本変調モードのパターン光を位相0の基本変調モードのパターン光とし、1/4位相ずれた位相を持つ基本変調モードのパターン光を位相1/4の基本変調モードのパターン光とし、基準位相を持つ反転変調モードのパターン光を位相0の反転変調モードのパターン光とし、1/4位相ずれた位相を持つ反転変調モードのパターン光を位相1/4の反転変調モードのパターン光とする。
【0096】
ここで、位相0のパターン光と位相1/4のパターン光とは順次に物体に投影されてもよいし、第1の実施形態の変形例で説明したようにしてそれぞれのパターン光に異なる波長のスペクトルを持たせることで同時期に物体に投影されてもよい。
【0097】
図10は、第3の実施形態に係る一例の光学検査装置の構成を示す図である。第3の実施形態の光学検査装置1は、プロジェクタ10と、撮像装置20と、制御装置30、ビームスプリッタ40とを有する。
図10に示すように、第3の実施形態では、プロジェクタ10の投影光軸zpと撮像装置20の撮像光軸ziとがビームスプリッタ40において垂直に交わるようにプロジェクタ10と撮像装置20とが配置されている。ただし、この限りではなく、投影光軸zpと撮像光軸ziとが傾斜して交わるようにプロジェクタ10と撮像装置20が配置される斜入射配置であってもよい。
【0098】
第3の実施形態では、物体Oの裏側の面から表側の面まで透過した光で物体Oが撮像されるのではなく、物体Oの裏側の面で反射された光で物体Oが撮像される。つまり、第3の実施形態では、物体Oの投影面Ppと物体面Poとはともに物体Oの裏側の面である。
【0099】
ビームスプリッタ40は、無偏光スプリッタ又は偏光スプリッタである。または、ビームスプリッタ40は、ダイクロイックミラーであってもよい。ビームスプリッタ40が偏光スプリッタである場合、物体Oに投影されたパターン光のうち、物体Oからの正反射成分を透過し、散乱されて反射される散乱成分のみを撮像装置20の方へ反射させる。これは、一般的に、散乱によって偏光が変化するからである。前述したように、特異領域Sはその周辺の均一媒質とは異なる特異な散乱特性を示す。一方、均一媒質からの反射光は、一般的に正反射成分を多く含む。つまり、ビームスプリッタ40が偏光スプリッタである場合は、特異領域からの散乱光のみを抽出しやすくできる。ビームスプリッタ40が無偏光スプリッタである場合は、投影光軸zpと撮像光軸ziを一致させることができる。
【0100】
次に、第3の実施形態の効果について述べる。例えば、
図9で示した位相0の基本変調モードのパターン光が投影面に投影された場合の物体面における光の強度分布φ
A0は、式(9)のように表され得る。
【数9】
ここで、式(9)のΛは、空間周期であり、
図9の例では4つの投影画素の大きさと等しい。また、aは、(8)の係数と対応した実数の係数である。式(8)と同様に、aは、Λが小さくなると減少する。
【0101】
同様に、
図9で示した位相1/4の基本変調モードのパターン光が投影面に投影された場合の物体面における光の強度分布φ
A1/4は、式(10)のように表され得る。
【数10】
【0102】
反転変調モードのパターン光は、基本変調モードのパターン光を反転させたものである。したがって、位相0の反転変調モードのパターン光が投影面に投影された場合の物体面における光の強度分布φ
B0、及び位相1/4の反転変調モードのパターン光が投影面に投影された場合の物体面における光の強度分布φ
B1/4は、それぞれ、式(11)、(12)のように表され得る。
【数11】
【0103】
第3の実施形態では、4種類のパターン光が投影面に投影され、それぞれのパターン光についての画像が撮像装置20において取得される。撮像装置20において取得される画像の画素値をI(m,n)とすると、I(m,n)は、式(13)のように表される。ここで、(m,n)は、画像を構成する画素の2次元位置を表す整数の組である。また、式(13)におけるI
noiseは、背景光の成分を表す画素値である。式(13)におけるφ
DCは、一様成分を表す画素値である。式(13)におけるφ
ACは、変調成分を表す画素値であって、式(9)、(10)、(11)、(12)で示した強度をそれぞれ画素値に変換したものである。式(13)におけるΔφは、特異領域からの変調成分を表す画素値である。
【数12】
【0104】
ここで、式(13)に基づく、位相0の基本変調モードにおける画像の画素値I(m,n)をI
A0とし、位相1/4の基本変調モードにおける画像の画素値I(m,n)をI
A1/4とし、位相0の反転変調モードにおける画像の画素値I(m,n)をI
B0とし、位相1/4の反転変調モードにおける画像の画素値をI
B1/4とする。第3の実施形態では、特異領域抽出として、これらのI
A0、I
A1/4、I
B0、I
B1/4のうちの基本変調モードとそれに対する反転変調モードの組み合わせが2通り作られ、それぞれの組の差分が取られて足し合わせた量が計算される。この量を検査画像としての特異光散乱画像の画素値Sとすると、Sは、例えば以下の式(14)によって計算される。
【数13】
式(14)に、式(9)、(10)、(11)、(12)を代入すると、以下の式(15)が得られる。
【数14】
ここで、式(15)のΔφ
0は、位相0における特異領域からの変調成分を表す画素値である。Δφ
1/4は、位相
1/4における特異領域からの変調成分を表す画素値である。また、О(X)は、引数Xのオーダーを示す量である。空間周期Λが小さくなると、aは小さくなる。そこで、aが十分に小さいとすると、式(15)は、次のように式(16)となる。
【数15】
式(16)は、特異領域抽出処理によって特異領域の変調成分のみが抽出されることを意味している。また、式(16)は、特異領域の変調成分は位相0と位相1/4とで個別に抽出されることを意味している。つまり、第3の実施形態では、基本変調モードのパターン光と反転変調モードのパターン光のそれぞれについて複数の位相のパターン光を物体に投影することにより、特異領域の成分がより大きくなる。したがって、第1の実施形態に比べてさらに検査精度が向上する。
【0105】
式(16)は、x方向に変調するパターン光について得られた式である。同様の考え方により、y方向に変調するパターン光についても式(16)と同様の結果が得られる。さらに、x方向についての結果とy方向についての結果は、組み合わせられてもよい。具体的には、x方向についての式(16)の結果をS
x(m,n)とし、y方向についての式(16)の結果をS
y(m,n)とし、検査画像の画素値をS(m,n)とすると、S(m,n)は、以下の式(17)によって表される。
【数16】
x方向に変調するパターン光とy方向に変調するパターン光の何れかだけでは、特異領域の方向によっては、特異領域の抽出精度が低下する。x方向に変調するパターン光とy方向に変調するパターン光の両方が組み合わせて用いられることにより、特異領域の方向に依存せず、安定して特異領域が抽出され得る。
【0106】
ここで、x方向に変調するパターン光とy方向に変調するパターン光の両方が組み合わせて用いられる場合、x方向に変調するパターン光とy方向に変調するパターン光とは順次に物体に投影されてもよいし、第1の実施形態の変形例で説明したようにしてそれぞれのパターン光に異なる波長スペクトルを持たせることで同時期に物体に投影されてもよい。
【0107】
図11Aは、通常のオフィス環境の照明において従来のカメラで撮像されたセラミックス基板の画像を示す図である。また、
図11Bは、第3の実施形態の手法に基づく特異領域抽出処理で得られたセラミックス基板の画像を示す図である。ここで、セラミックス基板には、2つのキレツがある。
図11A及び
図11Bにおいて、それぞれのキレツの位置は、S1、S2で示されている。
図11Aでは、S1、S2の位置において、キレツは殆ど画像化されていない。一方、
図11Bでは、S1、S2の位置において、キレツが鮮明に画像化されている。このように、基本変調モードのパターン光と反転変調モードのパターン光とを物体に投影することにより、特異領域としてのキレツ等が鮮明に画像化され得る。
【0108】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0109】
1…光学検査装置、10…プロジェクタ、11…光源、12…空間変調器、13…投影光学素子、20…撮像装置、21…撮像光学素子、22…イメージセンサ、30…制御装置、31…制御部、32…記憶部、33…電源部、34…計時装置、35…通信インタフェース、36…入力部、37…出力装置、38…外部インタフェース、40…ビームスプリッタ。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】