(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013525
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】画像情報生成装置及び画像情報生成方法、画像処理装置及び画像処理方法、欠陥予測装置及び欠陥予測方法、並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
G01B 11/24 20060101AFI20240125BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20240125BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20240125BHJP
G01B 11/02 20060101ALI20240125BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20240125BHJP
G01B 11/30 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
G01B11/24 K
B23K31/00 Z
B33Y50/00
G01B11/02 H
G01B11/00 A
G01B11/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115682
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA01
2F065AA24
2F065AA49
2F065AA51
2F065BB17
2F065CC15
2F065DD06
2F065FF04
2F065JJ19
2F065JJ26
2F065QQ25
2F065RR08
2F065TT03
(57)【要約】
【課題】複雑な形状で把握しにくい造形物であっても、凹凸の分布、積層高さの過不足等の情報を視覚的に把握しやすくする。
【解決手段】画像情報生成装置220は、複数の溶接ビードからなる層が積層された造形物の形状を表す画像情報を生成する。この画像情報生成装置220は、造形物の層毎の設計形状を、溶接ビードの形状を模したモデルを用いて近似し、近似したモデルの複数点の座標情報を取得する座標情報取得部31と、指定された層の表面形状を表すプロファイルを座標情報から求めるプロファイル抽出部33と、プロファイルを用いて指定された層の表面の凹凸形状を画像情報に変換する画像情報変換部35と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溶接ビードからなる層が積層された造形物の形状を表した画像情報を生成する画像情報生成装置であって、
前記造形物の前記層毎の設計形状を、前記溶接ビードの形状を模したモデルを用いて近似し、近似した前記モデルの複数点の座標情報を取得する座標情報取得部と、
指定された前記層の表面形状を表すプロファイルを前記座標情報から求めるプロファイル抽出部と、
前記プロファイルを用いて、前記指定された層の表面の凹凸形状を画像情報に変換する画像情報変換部と、
を含む画像情報生成装置。
【請求項2】
前記画像情報は、前記指定された層の積層高さと、当該層の計画高さとの差分情報を含む、
請求項1に記載の画像情報生成装置。
【請求項3】
前記画像情報は、前記表面形状の凹凸が形成する傾斜分布を示す情報を含む、
請求項1に記載の画像情報生成装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の画像情報生成装置が生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出する狭隘部抽出部と、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出する特徴量算出部と、
を備える画像処理装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の画像情報生成装置と、
前記画像情報生成装置が生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出する狭隘部抽出部と、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出する特徴量算出部と、
前記狭隘部を形成する前記溶接ビードの積層条件を取得する積層条件取得部と、
前記狭隘部の前記特徴量及び当該狭隘部の前記積層条件に応じて、前記造形物中の前記狭隘部に生じる欠陥の有無又は欠陥のサイズを予測する欠陥判定部と、
を備える欠陥予測装置。
【請求項6】
前記欠陥判定部は、前記特徴量及び前記狭隘部の前記積層条件と、前記欠陥の有無又は前記欠陥のサイズとの関係を機械学習して求めた予測モデルから、前記特徴量算出部が算出した前記狭隘部の前記特徴量と前記積層条件取得部が取得した前記積層条件とに応じて、前記欠陥の有無又は前記欠陥のサイズを予測する、
請求項5に記載の欠陥予測装置。
【請求項7】
複数の溶接ビードからなる層が積層された造形物の形状を表す画像情報を生成する画像情報生成方法であって、
前記造形物の前記層毎の設計形状を、前記溶接ビードの形状を模したモデルを用いて近似し、近似した前記モデルの複数点の座標情報を取得し、
指定された前記層の表面形状を表すプロファイルを前記座標情報から求め、
前記プロファイルを用いて前記指定された層の表面の凹凸形状を画像情報に変換する、
画像情報生成方法。
【請求項8】
請求項7に記載の画像情報生成方法により生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出し、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出する、
画像処理方法。
【請求項9】
請求項7に記載の画像情報生成方法により生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出し、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出し、
前記狭隘部を形成する前記溶接ビードの積層条件を取得し、
前記狭隘部の前記特徴量及び当該狭隘部の前記積層条件に応じて、前記造形物中の前記狭隘部に生じる欠陥の有無又は欠陥のサイズを予測する、
欠陥予測方法。
【請求項10】
複数の溶接ビードからなる層が積層された造形物の形状を表す画像情報を生成する手順を実施するプログラムであって、
コンピュータに、
前記造形物の前記層毎の設計形状を、前記溶接ビードの形状を模したモデルを用いて近似し、近似した前記モデルの複数点の座標情報を取得する手順と、
指定された前記層の表面形状を表すプロファイルを前記座標情報から求める手順と、
前記プロファイルを用いて前記指定された層の表面の凹凸形状を画像情報に変換する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【請求項11】
コンピュータに、
請求項10に記載のプログラムにより生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出する手順と、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【請求項12】
コンピュータに、
請求項10に記載のプログラムにより生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出する手順と、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出する手順と、
前記狭隘部を形成する前記溶接ビードの積層条件を取得する手順と、
前記狭隘部の前記特徴量及び当該狭隘部の前記積層条件に応じて、前記造形物中の前記狭隘部に生じる欠陥の有無又は欠陥のサイズを予測する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像情報生成装置及び画像情報生成方法、画像処理装置及び画像処理方法、欠陥予測装置及び欠陥予測方法、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接において、溶接された構造物に発生した欠陥を検出して適正な溶接施工がなされているかを判定する技術が知られている。例えば特許文献1には、半自動溶接中に溶接士の挙動、溶融プール形状ならびにワイヤ突出し長さ等に関する複数の情報を取得して、溶接施工の良否の判定を行う技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したアーク溶接により溶接ビードを積層して造形物を得る積層造形においては、溶接条件又はビード形成パスが不適切な場合、ビード間に狭隘部が発生することがある。狭隘部が発生したまま造形を継続すると、狭隘部の位置に溶融不良(未溶着)となった溶接欠陥を発生するおそれがある。そのため、積層される形状の凹凸や欠陥発生の可能性を事前に予測したうえで、溶接欠陥を発生させない溶接条件又はビード形成パスを選定することが重要となる。
しかし、積層造形においては通常の溶接に比べてパス数及びパス長さの増加傾向があり、造形前の造形物の形状予測、溶接条件等の最適化は難しい。そして、造形物の形状が複雑になるほど、上記した予測と最適化の処理が煩雑になってしまう。
【0005】
そこで本発明は、複雑な形状で把握しにくい造形物であっても、凹凸の分布、積層高さの過不足等の情報を視覚的に把握しやすくする画像情報生成装置及び画像情報生成方法、画像処理装置及び画像処理方法、欠陥予測装置及び欠陥予測方法、並びにプログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の構成からなる。
(1) 複数の溶接ビードからなる層が積層された造形物の形状を表した画像情報を生成する画像情報生成装置であって、
前記造形物の前記層毎の設計形状を、前記溶接ビードの形状を模したモデルを用いて近似し、近似した前記モデルの複数点の座標情報を取得する座標情報取得部と、
指定された前記層の表面形状を表すプロファイルを前記座標情報から求めるプロファイル抽出部と、
前記プロファイルを用いて、前記指定された層の表面の凹凸形状を画像情報に変換する画像情報変換部と、
を含む画像情報生成装置。
(2) (1)に記載の画像情報生成装置が生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出する狭隘部抽出部と、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出する特徴量算出部と、
を備える画像処理装置。
(3) (1)に記載の画像情報生成装置と、
前記画像情報生成装置が生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出する狭隘部抽出部と、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出する特徴量算出部と、
前記狭隘部を形成する前記溶接ビードの積層条件を取得する積層条件取得部と、
前記狭隘部の前記特徴量及び当該狭隘部の前記積層条件に応じて、前記造形物中の前記狭隘部に生じる欠陥の有無又は欠陥のサイズを予測する欠陥判定部と、
を備える欠陥予測装置。
(4) 複数の溶接ビードからなる層が積層された造形物の形状を表す画像情報を生成する画像情報生成方法であって、
前記造形物の前記層毎の設計形状を、前記溶接ビードの形状を模したモデルを用いて近似し、近似した前記モデルの複数点の座標情報を取得し、
指定された前記層の表面形状を表すプロファイルを前記座標情報から求め、
前記プロファイルを用いて前記指定された層の表面の凹凸形状を画像情報に変換する、
画像情報生成方法。
(5) (4)に記載の画像情報生成方法により生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出し、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出する、
画像処理方法。
(6) (4)に記載の画像情報生成方法により生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出し、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出し、
前記狭隘部を形成する前記溶接ビードの積層条件を取得し、
前記狭隘部の前記特徴量及び当該狭隘部の前記積層条件に応じて、前記造形物中の前記狭隘部に生じる欠陥の有無又は欠陥のサイズを予測する、
欠陥予測方法。
(7) 複数の溶接ビードからなる層が積層された造形物の形状を表す画像情報を生成する手順を実施するプログラムであって、
コンピュータに、
前記造形物の前記層毎の設計形状を、前記溶接ビードの形状を模したモデルを用いて近似し、近似した前記モデルの複数点の座標情報を取得する手順と、
指定された前記層の表面形状を表すプロファイルを前記座標情報から求める手順と、
前記プロファイルを用いて前記指定された層の表面の凹凸形状を画像情報に変換する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、、複雑な形状で把握しにくい造形物であっても、凹凸の分布、積層高さの過不足等の情報を視覚的に把握しやすい画像情報が得られる。これにより、欠陥サイズを精度よく予測し、欠陥発生の抑制に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2は、欠陥予測装置のブロック構成図である。
【
図3】
図3は、欠陥予測装置による欠陥予測方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、造形物の形状を複数の単位モデルにより再現した様子を示す説明図である。
【
図5】
図5は、単位モデルの頂点の点群を示す説明図である。
【
図6】
図6は、奥行き方向に延びる1列分の単位モデルを示す説明図である。
【
図7】
図7は、造形物の形状を楕円形状の単位モデルにより再現した様子を示す説明図である。
【
図8A】
図8Aは、造形物の形状に近似した複数の単位モデルからプロファイルを抽出する様子を示す説明図である。
【
図8B】
図8Bは、造形物の形状に近似した複数の単位モデルからプロファイルを抽出する様子を示す説明図である。
【
図9A】
図9Aは、コンター状に表現した画像情報による画像の模式図である。
【
図10】
図10は、傾斜したベース上に造形する場合を示す説明図である。
【
図11】
図11は、狭隘部の特徴量の一例を示す説明図である。
【
図12】
図12は、欠陥予測装置が備える欠陥判定部の機能ブロック図である。
【
図13】
図13は、複数の溶接ビードによる造形物の積層計画の内容を示すモデル図である。
【
図14】
図14は、
図13のXIV-XIV線に沿った断面におけるモデルの高さ分布を示すグラフである。
【
図15】
図15は、
図13のモデル図から抽出した点群の情報を画像化した結果を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の構成例について、図面を参照して詳細に説明する。ここでは、アーク溶接により溶接ビードを積層して造形物を製造する積層造形装置の一例を説明するが、造形物の製造方法及び積層造形のための装置構成はこれに限らない。
【0010】
<積層造形装置の構成>
図1は、積層造形装置の全体構成図である。積層造形装置100は、造形部11と制御装置13とを備える。造形部11は、マニピュレータ15と、マニピュレータ制御部17と、溶加材供給部19と、熱源制御部21とを含んで構成される。
【0011】
マニピュレータ制御部17は、マニピュレータ15と熱源制御部21とを制御する。マニピュレータ制御部17には不図示のコントローラが接続されて、マニピュレータ制御部17への任意の操作がコントローラを介して操作者から指示可能となっている。
【0012】
マニピュレータ15は、例えば多関節ロボットであり、先端軸に設けた溶接トーチ23に溶加材Mが連続供給可能に支持される。溶接トーチ23は、溶加材(溶接ワイヤともいう)Mを先端から突出した状態に保持する。溶接トーチ23の位置及び姿勢は、マニピュレータ15を構成するロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。マニピュレータ15は、6軸以上の自由度を有するものが好ましく、先端の熱源の軸方向を任意に変化させられるものが好ましい。マニピュレータ15は、
図1に示す4軸以上の多関節ロボットの他、2軸以上の直交軸に角度調整機構を備えたロボット等、種々の形態でもよい。
【0013】
溶接トーチ23は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。シールドガスは、大気を遮断し、溶接中の溶融金属の酸化、窒化等を防いで溶接不良を抑制する。本構成で用いるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接又はプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、造形対象に応じて適宜選定される。ここでは、ガスメタルアーク溶接を例に挙げて説明する。消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。溶接トーチ23は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0014】
溶加材供給部19は、溶接トーチ23に向けて溶加材Mを供給する。溶加材供給部19は、溶加材Mが巻回されたリール19aと、リール19aから溶加材Mを繰り出す繰り出し機構19bとを備える。溶加材Mは、繰り出し機構19bによって必要に応じて正方向又は逆方向に送られながら溶接トーチ23へ送給される。繰り出し機構19bは、溶加材供給部19側に配置されて溶加材Mを押し出すプッシュ式に限らず、ロボットアーム等に配置されるプル式、又はプッシュ-プル式であってもよい。
【0015】
熱源制御部21は、マニピュレータ15による溶接に要する電力を供給する溶接電源である。熱源制御部21は、溶加材Mを溶融、凝固させるビード形成時に供給する溶接電流及び溶接電圧を調整する。また、熱源制御部21が設定する溶接電流及び溶接電圧等の溶接条件に連動して、溶加材供給部19の溶加材供給速度が調整される。
【0016】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザーとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビーム又はレーザーを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビーム又はレーザーにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、形成するビードの状態をより適正に維持して、積層構造物の更なる品質向上に寄与できる。また、溶加材Mの材質についても特に限定するものではなく、例えば、軟鋼、高張力鋼、アルミ、アルミ合金、ニッケル、ニッケル基合金等、造形物Wkの特性に応じて、用いる溶加材Mの種類が異なっていてよい。
【0017】
制御装置13は、上記した各部を統括して制御する。制御装置13は、PC(Personal Computer)等の情報処理装置を用いたハードウェアにより構成される。
【0018】
上記した構成の積層造形装置100は、造形物Wkの積層計画に基づいて作成された造形プログラムに従って動作する。造形プログラムは、多数の命令コードにより構成され、造形物Wkの形状、材質、入熱量等の諸条件に応じて、適宜なアルゴリズムに基づいて作成される。この造形プログラムに従って、溶接トーチ23を移動させつつ、送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶接ビードBがベース25上に形成される。つまり、マニピュレータ制御部17は、制御装置13から提供される所定の造形プログラムに基づいてマニピュレータ15、熱源制御部21を駆動させる。マニピュレータ15は、マニピュレータ制御部17からの指令により、溶加材Mをアークで溶融させながら溶接トーチ23を移動させて溶接ビードBを形成する。このようにして溶接ビードBを順次に形成、積層することで、目的とする形状の造形物Wkが得られる。
【0019】
次に、積層造形装置100により造形する造形物の積層計画について説明する。
積層計画は、造形対象の造形物の形状と、積層造形装置100を構成する各部の仕様等の条件に応じて、所定のアルゴリズムに基づいて決定される。具体的に、積層計画には溶接トーチ23を移動させる軌跡(パス)の情報、溶接ビードを形成する溶接条件の情報等が含まれる。積層計画の具体的な決定手順については公知であるため、ここではその説明を省略する。
【0020】
この積層計画は、造形物の形状が複雑になるほどその内容を把握することが難しくなる。そこで、積層計画を画像情報で表し、その画像情報をモニタ等の表示部に表示可能にすることが好ましい。その場合、作業者が積層計画の内容を確認したり、特徴となる部位を抽出して評価したりすることが視覚的に容易に行える。つまり、積層計画が可視化できれば、未溶着欠陥等の各種の欠陥を発生させる要因を抽出しやすくなり、抽出された欠陥要因の情報から欠陥を予測することもできる。欠陥要因としては、例えば、溶接ビードにより形成される狭隘部が挙げられる。狭隘部には溶接ビードの未溶着が生じやすいことがわかっている。ここでは、狭隘部の情報から欠陥の有無、又は欠陥のサイズを予測する。以下の説明では、狭隘部を欠陥要因として説明するが、これに限らず他の要因を抽出して欠陥を予測することでもよい。
【0021】
次に、積層計画から造形物中の狭隘部に含まれる欠陥情報を予測する欠陥予測方法及び欠陥予測装置について、以下に詳細に説明する。
図2は、欠陥予測装置200のブロック構成図である。
欠陥予測装置200は、用意された積層計画から積層条件を取得する積層条件取得部210と、画像情報生成装置220と、画像処理装置230と、欠陥判定部250とを含んで構成される。
【0022】
画像情報生成装置220は、積層計画に基づく造形物の層毎の設計形状を、溶接ビードのビード形状を模したモデルで表し、そのモデルの複数点の座標情報から、指定された層の表面形状を表す画像情報を生成する。層の指定は、欠陥予測装置の使用者が任意に設定できる。この画像情報生成装置220は、詳細は後述するが、座標情報取得部31とプロファイル抽出部33と、画像情報変換部35とを有する。座標情報取得部31は、造形物の層毎の設計形状を、溶接ビードの形状を模したモデルを用いて近似し、近似したモデルの複数点の座標情報を取得する。プロファイル抽出部33は、指定された層の表面形状を表すプロファイルを、取得した座標情報から求める。画像情報変換部35は、求めたプロファイルを用いて、指定された層の表面の凹凸形状を画像情報に変換する。
【0023】
また、画像処理装置230は、画像情報生成装置220が生成する画像情報を画像処理して、溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を抽出する狭隘部抽出部37と、抽出した狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を画像情報から算出する特徴量算出部39と、を備える。
【0024】
欠陥予測装置200は、画像情報生成装置220から出力される画像情報、画像処理装置230から出力される特徴量の情報を表示する表示部240を備えてもよい。表示部240にそれぞれ出力された情報を表示することで、設定された積層条件が視覚的に把握しやすくなる。
【0025】
さらに欠陥予測装置200は、特徴量算出部39で算出された狭隘部の特徴量と、その狭隘部の積層条件とに応じて、造形物中の狭隘部に含まれる未溶着欠陥等の欠陥の有無、又は欠陥のサイズを予測する欠陥判定部250を備える。
【0026】
欠陥予測装置200は、制御装置13と同様に、PC(Personal Computer)等の情報処理装置を用いたハードウェアにより構成される。欠陥予測装置200の制御機能は、図示しない制御デバイスが記憶装置に記憶された特定の機能を有するプログラムを読み出し、これを実行することで実現される。制御デバイスとしては、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processor Unit)等のプロセッサ、又は専用回路等が挙げられる。記憶装置としては、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等のストレージを例示できる。この欠陥予測装置200は、上記した画像情報生成装置220、画像処理装置230等の各構成要素を含んで構成される形態のほか、ネットワーク等を介して各構成要素が遠隔から接続される形態でもよい。なお、画像処理装置230は、GPU(Graphics Processing Unit)をプロセッサに含む高速処理に適した構成にしてもよい。
【0027】
図3は、欠陥予測装置による欠陥予測方法の手順を示すフローチャートである。以下、欠陥予測装置200により欠陥を予測する手順について説明する。
まず、積層条件取得部210は、造形物の積層造形する際の溶接ビードの積層に関する制御情報である積層計画の情報を取得する(S1)。例えば、用意された造形物の積層計画から、予測に必要となる各種の積層条件を抽出する。必要な積層条件としては、溶接トーチの運棒軌跡に関する情報、運棒時のトーチ姿勢に関する情報等が含まれる。運棒軌跡に関する情報は、例えば軌跡(造形パス)上に位置する特定の点Pの三次元の座標(x,y,z)を含む。また、トーチ姿勢に関する情報は、例えば各座標軸まわりの角度(α,β,γ)を含む。なお、座標情報やトーチ姿勢の情報は、上記の例に限らず、例えば極座標を用いて表わされる円筒形の座標系(r,θ,z)の情報でもよく、トーチ姿勢については、トーチを保持するマニピュレータの各関節角度や関節位置から決定してもよい。そのほか、溶接電流、溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度、運棒軌跡のパターン(ウィービングの有無)、特定の造形パスの終了時から次のパスの開始時までのパス間時間等が含まれてもよい。上記した座標情報は、画像情報生成装置220の座標情報取得部31が、入力された積層条件から抽出する。
【0028】
次に、取得した積層条件から造形物の形状を予測する(S2)。ここでは、溶接ビードを複数積層した際の積層形状を、溶接ビードのビード形状を模したモデルで表したプロファイルを求める。
図4は、造形物の形状を複数の単位モデルBMにより再現した様子を示す説明図である。積層形状のプロファイルPrfは、ビード形状を模擬した形状の単位モデルBMを用いて予測することが好ましい。単位モデルBMを用いることで、形状を単純化でき、座標値等の計算を軽減できる。具体的には、造形パスに沿ってビード形状を表す単位モデルBMを複数列、複数層にわたって配置して、造形しようとする造形物の形状に近似させる。この単位モデルBM自体は、溶接条件(溶接電流、溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度、溶接速度等)に応じて形状が変化するものとする。さらに、各単位モデルBMは、その配置状態に応じて、隣接するビード同士の重なり、ビードの垂れ等をモデル形状に反映させることが望ましい。単位モデルBMの形状は、台形又は台形に近い形状の他、多角形状、楕円形状等の種々の形状でよく、特に制限されない。
【0029】
このようにして配置した複数の単位モデルBMは、溶接条件、ビード形成の狙い位置等の情報を当てはめることで、造形物の積層形状を再現する。複数の単位モデルBMにより再現された積層形状から、単位モデルBM同士が重なってできるモデル外表面の形状が把握できる。この形状は、
図4に示すように、単位モデルBMの最外縁を連結したプロファイルPrfとして表される。このプロファイルPrfの抽出処理は、
図2に示すプロファイル抽出部33が行う。モデル外表面のプロファイルPrfは、造形パスごとに抽出してもよく、層ごとに抽出してもよい。つまり、造形途中の任意のタイミング、任意の層での積層形状を表すプロファイルPrfを抽出しておけば、そのタイミング、層での積層形状を自在に予測できる。
【0030】
次に、指定された層のモデル外表面の形状を表すプロファイルPrfの情報から、3次元の点群の情報を生成する(S3)。元々の外表面が
図4に示すように直線が折れ曲がって形成されている場合は、各直線の角部となる複数の点Pを点群としてよい。また、各単位モデルBMの形状における各頂点を点群としてもよい。
【0031】
図5は、単位モデルの頂点の点群を示す説明図である。
図5に示すように、台形、又は台形の底辺に三角形が付加された単位モデルBMの各頂点の点Pを点群の情報にする。例えば、一層目の単位モデルBMの各頂点は、一層目の点群として定義できる。また、二層目の単位モデルBMの場合は、二層目の単位モデルの外側に表出した各頂点と、二層目の単位モデルから外側に表出した一層目の単位モデルの各頂点とを、二層目の点群として定義できる。
【0032】
また、点群の情報は、
図5に示す断面上のみの点群ではなく、
図5の奥行き方向(ビード形成方向)に延びて配置される複数の単位モデルからも抽出される。
図6は、奥行き方向に延びる1列分の単位モデルを示す説明図である。上記した単位モデルBMは、zx平面における断面形状で説明したが、実際の単位モデルBMは、例えば断面形状が台形の場合、合計8つの頂点を有する6面体となる。このように立体状の単位モデルBMの複数の点が点群の情報として抽出される。
【0033】
上記した点群は、単位モデルBMの頂点以外の点にしてもよい。
図7は、造形物の形状を楕円形状の単位モデルにより再現した様子を示す説明図である。単位モデルが楕円等の滑らかな曲線で積層形状を再現している場合、単位モデルの外表面形状を一定間隔(ピッチPt)でサンプリングした点Pの集合体を、上記した点群として定義してもよい。点群が有する情報は、直交座標系の(x,y,z)に限らず、極座標系を含む(r,θ,z)等、好ましい座標系に変換しても構わない。なお、この場合も前述したように、奥行き方向についても所定の一定間隔でサンプリングした点Pを求め、これら点Pを点群として定義する。
【0034】
図8A、
図8Bは、造形物の形状に近似した複数の単位モデルからプロファイルPrfを抽出する様子を示す説明図である。ここで例示する造形物は、枠状の壁部と、壁部で囲まれた領域を埋める充填部を有している。
図8A,
図8Bは、その一部のモデル断面を示している。
【0035】
図8Aには、壁部を構成する4層の単位モデルBMwと、単位モデルBMwの脇部に、ビード幅、ビード高さが壁部よりも大きく設定された充填部を構成する2層の単位モデルBM1,BM2とを示している。単位モデルBM1は1層目で、単位モデルBM2は2層目のモデルである。各単位モデルBMw,BM1,BM2は、それぞれ台形を基調とする形状であり、充填部に、壁部となる単位モデルBMwに近い側から順にビード形成されることを想定している。
【0036】
図8Aに示す造形物の積層形状は、
図8Bに示す、最外層の単位モデルの外表面のプロファイルPrfとして設定できる。プロファイルPrfは、
図6にも示したように、
図8Bの奥行き方向にも繋がる立体形状のプロファイルであり、xy平面上での高さ分布を表している。
【0037】
次に、上記のように得られた点群の情報を造形物の形状を表すコンター図に変換する(S4)。具体的には、特定方向の平面に対して造形物表面の凹凸を、コンター状に表現した画像情報(コンター図)を生成する。上記したプロファイルPrfの情報から3次元の点群の情報を生成させてコンター図に変換する処理は、
図2に示す画像情報変換部35が行う。
【0038】
図9Aは、コンター状に表現した画像情報による画像の模式図である。
図9Bは、
図9AのIX-IX線上の画素値を示すグラフである。画像51は、2次元平面上で高さ情報を画素値(濃淡)として表したもので、
図9Bの高さ情報である画素値が、
図8Bに示すプロファイルPrfの高さ分布を表している。
【0039】
作業者は、この画像51を
図2に示すモニタ等の表示部240で観察することで、直感的にわかりにくい点群情報の凹凸の状態を、視覚的に容易に捉えることができる。また、点群情報を画像情報に変換することで、保存する情報容量を軽減できる。さらに二値化処理等の画像処理技術を適用すれば、所望の特徴情報が簡単に抽出可能となる。
【0040】
なお、コンター表示する画像情報の画素値は、積層高さzでもよく、積層計画による計画高さz
0と、モデル化して得られた積層高さzとの差分値でもよく、特定の微小単位区間における高低差等でもよい。つまり、表面形状の凹凸が形成する高さの絶対値以外にも、凹凸による傾斜度合いを表す値でもよい。画像情報の画素値を、計画高さz
0と積層高さzの差分とした場合は、溶接ビードの過剰又は過少な溶着領域を特定する際に好適な情報となる。さらには、特定の軸方向に対する凹凸の傾斜角をコンター表示する値に設定してもよい。例えば、
図8BのプロファイルPrfにように、上記した傾斜角を鉛直方向(z軸方向)からの傾斜に定義すれば、傾斜した部分が強調表示される。そのため、造形表面の平坦度合いが評価しやすくなり、大きな凹部53が存在した場合に、これを発見しやすくなる。
【0041】
また、
図9Aでは、xy平面に対するz軸方向の高さをコンター状に表示しているが、これに限らず、例えば、yz平面に対するx方向の値をコンター状に表示する等、他の値を表示してもよい。
【0042】
図10は、傾斜したベース25上に造形する場合を示す説明図である。造形物を積層造形する際、ベース25を水平面(xy平面)から傾斜させ、この傾斜したベース面に溶接ビードBを形成して積層する場合がある。その場合、前述したコンター状に表示する対象は、座標系(x,y,z)の高さzではなく、傾斜したベース面をxL-yL平面とし、ベース面の法線方向をzL方向としたローカル座標系(xL,yL,zL)におけるzL軸の値にするのが好ましい。これによれば、造形物の溶接ビードの積層高さによる形状変化を把握しやすくなる。
【0043】
次に、得られたコンター図から溶接ビードの狭隘部を抽出する(S5)。
図2に示す画像情報生成装置220の狭隘部抽出部37は、画像情報変換部35によって変換された画像情報から、積層計画に基づき形成される溶接ビード同士の間(単位モデルBM同士又は単位モデルの列同士の間)に生じる狭隘部を抽出する。狭隘部抽出部37は、抽出した狭隘部の位置、大きさ等の情報を特徴量算出部39に出力する。特徴量算出部39は、入力された狭隘部の情報から、狭隘部及び狭隘部周辺の座標情報に基づき、狭隘部の特徴量を算出する。
【0044】
狭隘部抽出部37は、入力された画像情報に対して適宜な画像処理を施すことで狭隘部を抽出する。例えば、二値化処理等により、急激な凹みを伴う狭隘部を抽出してもよい。具体的には、画像情報の画像を、特定の画素値を閾値とする二値化処理によって抽出された凹み領域を狭隘部として捉える。特徴量算出部39は、狭隘部抽出部37が抽出した狭隘部の大きさ、中心位置等の各種の特徴量を求める。また、狭隘部の近傍の外表面形状をその狭隘部の特徴量として求めてもよい。
【0045】
図11は、狭隘部の特徴量の一例を示す説明図である。
図11に模式的に示すように、ベース25又は下層の既設溶接ビード(不図示)の表面を表す下地面FL上に、一対の隣り合う溶接ビードを形成し、一対の溶接ビード間に狭隘部が形成されたとする。この場合、ビード形成方向の直交方向(
図11の左右方向)に関して、溶接ビードを表す一対のモデルBMa,BMbにより形成される谷部の谷底における、モデル下端部Pb
1,Pb
2同士の間隔を底部間隔U、一方のモデルBMaの頂部Pt
1と、他方のモデルBMbの頂部Pt
2との間の間隔をビード間隔Wとする。底部間隔Uは、一対のモデルBMa,BMbの長手方向の間隔(ビード形成の開始端から終了端に向かう方向の間隔)でもよい。また、下地面FLからモデルBMaの頂部Pt
1までの高さと、下地面FLからモデルBMbの頂部Pt
2までの高さとの平均値を平均高さHとする。平均高さHは、積層方向に関して一対のモデルBMa,BMbにより形成される谷部の谷深さに相当する。これら底部間隔U、ビード間隔W、平均高さHを狭隘部の特徴量としてもよい。
【0046】
上記したU,W,Hの算出は、狭隘部の形状を模擬したモデル関数を予め用意して、このモデル関数を狭隘部の形状にフィッティングして求めてもよい。例えば、前述したプロファイルPrfを用いて、このプロファイルPrfの狭隘部の形状に近似できる特定の基準プロファイル関数を選定し、選定した基準プロファイル関数をフィッティングすることで、関数が有するパラメータ値に応じた特徴量を設定してもよい。基準プロファイル関数としては、例えば、二次曲線、双曲線、ガウス曲線、特定の曲率半径の円弧、特定の角度のV字線等でもよい。
【0047】
次に、上記のように算出した狭隘部の特徴量と、その狭隘部を形成する溶接ビードの積層条件との情報を基に、欠陥発生の予測又は欠陥サイズの予測を行う(S6)。
図2に示す積層条件取得部210は、狭隘部抽出部37が抽出した狭隘部を形成する溶接ビードの積層条件を、積層計画を参照して求める。得られた積層条件の情報と、特徴量算出部39から出力される狭隘部の特徴量の情報とが、欠陥判定部250に入力される。
【0048】
図12は、欠陥予測装置200が備える欠陥判定部250の機能ブロック図である。欠陥判定部250は、入力された狭隘部の積層条件と特徴量の情報から、その狭隘部に欠陥が発生するかを判定する。また、欠陥が発生する場合にはその欠陥のサイズを予測してもよい。
【0049】
ここで、欠陥サイズとは、溶接ビードの長手方向に直交する断面における断面積又は長さを含むサイズを意味する。具体的な欠陥サイズとしては、例えば、欠陥の形状を真円で近似した際の直径(相当円直径)、近似した円の断面積、観察される欠陥の面積、欠陥の形状を楕円近似した際の楕円の長軸長さ、短軸長さ等の指標が挙げられる。
【0050】
欠陥判定部250による欠陥の予測は、積層条件及び狭隘部の情報と、欠陥の有無又は欠陥サイズとの関係をあらかじめ機械学習させて予測モデルを生成し、この予測モデルを用いて実施してもよい。その場合、欠陥判定部250は、データ取得部55と学習部57を備え、データ取得部55から取得される種々の学習データを学習部57が繰り返し学習することで予測モデル59を生成する。学習部67が予測モデル59を生成する手段としては、決定木、線形回帰、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、ガウス過程回帰、ニューラルネットワーク等の公知の手段が挙げられる。生成した予測モデル59は、前述した狭隘部の積層条件と特徴量の情報を入力すると、欠陥の有無又は欠陥サイズの情報を出力する。
【0051】
また、欠陥判定部250は、機械学習以外にも、簡易的に積層条件に対応する溶け込み深さと狭隘部の深さとを比較して、その差分が所定の閾値より大きい場合に欠陥が発生すると判定してもよい。このように、欠陥予測の予測方法は種々の方法が採用できる。
【0052】
次に、複数列の溶接ビードを形成するとともに、その一部に狭隘部を形成して、その狭隘部の欠陥を予測した検証結果を説明する。
図13は、複数の溶接ビードによる造形物の積層計画の内容を示すモデル図である。この造形物は、xy平面上で一方向(x方向)に沿って互いに平行な複数の溶接ビードを隣接させて形成される。複数の溶接ビードの一部には、全長Wt中に幅Wa、Wbの空隙部61,63を欠陥として設けてある。
【0053】
図14は、
図13のXIV-XIV線に沿った断面におけるモデルの高さ分布を示すグラフである。ここに示されるプロファイルPrfは、
図13に示すモデルから抽出した点群の高さ情報を表している。プロファイルPrfには、空隙部61に相当する狭隘部65が存在することがわかる。
【0054】
図15は、
図13のモデル図から抽出した点群の情報を画像化した結果を示す画像である。この画像には、
図13に示す空隙部61,63が明瞭に現れており、画素値から周囲のモデルの高さに影響を及ぼしている様子がわかる。
【0055】
図16は、
図15に示す画像を画像処理して狭隘部を強調した結果を示す画像である。この画像は、
図15に示す画像を二値化処理、微分処理等の画像処理を施して、特に急峻な斜面を有する狭隘部を強調している。
図16の画像からすると、空隙部63よりも空隙部61の方が、画素値が大きく、しかも範囲が広くなっていることがわかる。
【0056】
そして、
図16の画像から狭隘部の特徴量を抽出して、学習済みの予測モデルを用いて欠陥を予測した。その結果、空隙部61については1.73mm、空隙部63については0.73mmの欠陥サイズであると予測できた。実際の欠陥(空隙部)の測定寸法は、空隙部61については1.77mmであり、空隙部63については0.55mmであった。よって、本手法によれば、欠陥の有無と欠陥サイズが十分な精度で予測できることを検証できた。
【0057】
以上説明したように、三次元の複雑化した形状を有し、形状が把握しにくい造形物であっても、その形状をモデル化して点群の情報にすることで、積層造形する層毎に容易に把握できる画像情報が得られる。そして、画像情報に適宜な画像処理を施すことで、凹凸の分布、積層高さの過不足等の情報が視覚的に容易に把握可能となる。これにより、積層表面の平坦度合が評価しやすくなり、積層造形における欠肉箇所、過剰な溶着箇所等の欠陥位置、欠陥の状態を特定しやすくなる。よって、欠陥を生じさせないよう、積層計画にフィードバックして、適切な積層計画に容易に修正できる。
【0058】
また、欠陥情報を画像処理して抽出するため、例えば、形状の実測値、又はモデルから得た点群の情報から狭隘部のモデル形状を当てはめる等して、直接的に欠陥を特定する場合と比較して、高い精度で簡便に欠陥情報が得られる。そして、狭隘部の特徴量及び積層条件と、欠陥との関係を求めた予測モデルを使用することで、造形前の計画段階で欠陥の発生、発生する欠陥のサイズを予測でき、積層計画の見直しが容易に行える。つまり、欠陥発生のシミュレーションが可能となり、実際に造形することなく解析的に積層計画の良否を判断できる。また、予測モデルを機械学習により求めることで、欠陥発生のメカニズムの詳細を把握できなくても、確実に欠陥の予測が可能になる。
【0059】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0060】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 複数の溶接ビードからなる層が積層された造形物の形状を表した画像情報を生成する画像情報生成装置であって、
前記造形物の前記層毎の設計形状を、前記溶接ビードの形状を模したモデルを用いて近似し、近似した前記モデルの複数点の座標情報を取得する座標情報取得部と、
指定された前記層の表面形状を表すプロファイルを前記座標情報から求めるプロファイル抽出部と、
前記プロファイルを用いて、前記指定された層の表面の凹凸形状を画像情報に変換する画像情報変換部と、
を含む画像情報生成装置。
この画像情報生成装置によれば、造形物の設計形状を、ビード形状を模したモデルにより近似し、そのモデルの表面形状を表すプロファイルを求め、このプロファイルを用いて、造形物の表面の凹凸形状を画像情報に変換する。これにより、複雑な三次元形状を有する造形物であっても各層の表面形状を画像情報で確認できるため、凹凸の分布、積層高さの過不足等を視覚的に把握しやすくなる。
【0061】
(2) 前記画像情報は、前記指定された層の積層高さと、当該層の計画高さとの差分情報を含む、(1)に記載の画像情報生成装置。
この画像情報生成装置によれば、積層造形で欠肉が生じる箇所、溶接ビードの過不足が生じる箇所等がより特定しやすくなる。
【0062】
(3) 前記画像情報は、前記表面形状の凹凸が形成する傾斜分布を示す情報を含む、(1)に記載の画像情報生成装置。
この画像情報生成装置によれば、造形物の表面形状の平坦度合いが評価しやすくなる。
【0063】
(4) (1)から(3)のいずれか一つに記載の画像情報生成装置が生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出する狭隘部抽出部と、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出する特徴量算出部と、
を備える画像処理装置。
この画像処理装置によれば、画像処理により狭隘部を抽出して特徴量を算出するため、例えば狭隘部のモデル形状を当てはめて特定する方法よりも高い精度で簡便に処理できる。
【0064】
(5) (1)から(3)のいずれか一つに記載の画像情報生成装置と、
前記画像情報生成装置が生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出する狭隘部抽出部と、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出する特徴量算出部と、
前記狭隘部を形成する前記溶接ビードの積層条件を取得する積層条件取得部と、
前記狭隘部の前記特徴量及び当該狭隘部の前記積層条件に応じて、前記造形物中の前記狭隘部に生じる欠陥の有無又は欠陥のサイズを予測する欠陥判定部と、
を備える欠陥予測装置。
この欠陥予測装置によれば、狭隘部を画像処理により抽出して特徴量を算出するため、高い精度で簡便に特徴量が求められる。また、特徴量と積層条件に応じて欠陥を予測することで、造形前の設計段階で欠陥を予測でき、積層計画の見直しを行える。
【0065】
(6) 前記欠陥判定部は、前記特徴量及び前記狭隘部の前記積層条件と、前記欠陥の有無又は前記欠陥のサイズとの関係を機械学習して求めた予測モデルから、前記特徴量算出部が算出した前記狭隘部の前記特徴量と前記積層条件取得部が取得した前記積層条件とに応じて、前記欠陥の有無又は前記欠陥のサイズを予測する、(5)に記載の欠陥予測装置。
この欠陥予測装置によれば、機械学習した予測モデルを使用することで、欠陥発生のメカニズムの詳細を把握できなくても、欠陥の予測が可能となる。
【0066】
(7) 複数の溶接ビードからなる層が積層された造形物の形状を表す画像情報を生成する画像情報生成方法であって、
前記造形物の前記層毎の設計形状を、前記溶接ビードの形状を模したモデルを用いて近似し、近似した前記モデルの複数点の座標情報を取得し、
指定された前記層の表面形状を表すプロファイルを前記座標情報から求め、
前記プロファイルを用いて前記指定された層の表面の凹凸形状を画像情報に変換する、
画像情報生成方法。
【0067】
(8) (7)に記載の画像情報生成方法により生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出し、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出する、
画像処理方法。
【0068】
(9) (7)に記載の画像情報生成方法により生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出し、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出し、
前記狭隘部を形成する前記溶接ビードの積層条件を取得し、
前記狭隘部の前記特徴量及び当該狭隘部の前記積層条件に応じて、前記造形物中の前記狭隘部に生じる欠陥の有無又は欠陥のサイズを予測する、
欠陥予測方法。
【0069】
(10) 複数の溶接ビードからなる層が積層された造形物の形状を表す画像情報を生成する手順を実施するプログラムであって、
コンピュータに、
前記造形物の前記層毎の設計形状を、前記溶接ビードの形状を模したモデルを用いて近似し、近似した前記モデルの複数点の座標情報を取得する手順と、
指定された前記層の表面形状を表すプロファイルを前記座標情報から求める手順と、
前記プロファイルを用いて前記指定された層の表面の凹凸形状を画像情報に変換する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【0070】
(11) コンピュータに、
(10)に記載のプログラムにより生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出する手順と、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【0071】
(12) コンピュータに、
(10)に記載のプログラムにより生成した前記画像情報から前記溶接ビードにより形成される凹状の狭隘部を画像処理して抽出する手順と、
抽出した前記狭隘部の位置と大きさのいずれかを含む特徴量を算出する手順と、
前記狭隘部を形成する前記溶接ビードの積層条件を取得する手順と、
前記狭隘部の前記特徴量及び当該狭隘部の前記積層条件に応じて、前記造形物中の前記狭隘部に生じる欠陥の有無又は欠陥のサイズを予測する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0072】
11 造形部
13 制御装置
15 マニピュレータ
17 マニピュレータ制御部
19 溶加材供給部
19a リール
19b 繰り出し機構
21 熱源制御部
23 溶接トーチ
25 ベース
31 座標情報取得部
33 プロファイル抽出部
35 画像情報変換部
37 狭隘部抽出部
39 特徴量算出部
51 画像
53 凹部
55 データ取得部
57 学習部
59 予測モデル
61,63 空隙部
65 狭隘部
100 積層造形装置
200 欠陥予測装置
210 積層条件取得部
220 画像情報生成装置
230 画像処理装置
240 表示部
250 欠陥判定部
B 溶接ビード
BM,BM1,BM2 単位モデル
BMa,BMb モデル
FL 下地面
H 平均高さ
M 溶加材
P 点
Prf プロファイル
Pb1,Pb2 モデル下端部
Pt ピッチ
Pt1,Pt2 頂部
U 底部間隔
W ビード間隔
Wa,Wb 幅
Wk 造形物
Wt 全長