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特開2024-135255ポーラス耐火物、ポーラス耐火物の製造方法およびガス吹きプラグ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135255
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ポーラス耐火物、ポーラス耐火物の製造方法およびガス吹きプラグ
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/06 20060101AFI20240927BHJP
   C21C 7/072 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C04B38/06 B
C21C7/072 P
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045852
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】古川 哲也
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013CA23
4K013CC01
(57)【要約】
【課題】通気性が良好であり、かつ、溶鋼の浸透を抑止しやすいポーラス耐火物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】JIS R1655の水銀圧入法により特定される気孔の体積基準の累積50%気孔径である平均気孔径d50が230μm以下であり、式(1)で表される気孔径のスパン値aが0.8以下であり、かつ、JIS R2115により特定される通気率が1.2(×10-10)以上であるポーラス耐火物。
a=(d10-d90)/d50 (1)
d50は平均気孔径であり、d10およびd90はそれぞれ、JIS R1655の水銀圧入法により特定される気孔の体積基準の、気孔径が大きい側からの累積10%気孔径および累積90%気孔径である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS R1655の水銀圧入法により特定される気孔の体積基準の累積50%気孔径である平均気孔径d50が230μm以下であり、式(1)で表される気孔径のスパン値aが0.8以下であり、かつ、JIS R2115により特定される通気率が1.2(×10-10)以上であるポーラス耐火物。
a=(d10-d90)/d50 (1)
d50は前記平均気孔径であり、d10およびd90はそれぞれ、前記水銀圧入法により特定される気孔の体積基準の、気孔径が大きい側からの累積10%気孔径および累積90%気孔径である。
【請求項2】
JIS R2205により特定される気孔率が40%以下である、請求項1に記載のポーラス耐火物。
【請求項3】
耐火原料と、前記耐火原料100質量%に対し外掛け3質量%以上15質量%以下のアクリル樹脂と、を混練して混練済み混合物を得る混練工程、
前記混練済み混合物を成形して成形体を得る成形工程、および
前記成形体を焼成してポーラス耐火物を得る焼成工程、を含み、
前記アクリル樹脂は、JIS Z8825のレーザ回折・散乱法により特定される体積基準粒度分布の累積50%径である平均粒子径D50が30μm以上70μm以下であり、かつ、式(2)で表される粒子径のスパン値Aが3.5以下であるポーラス耐火物の製造方法。
A=(D90-D10)/D50 (2)
D50は前記平均粒子径であり、D10およびD90はそれぞれ、前記レーザ回折・散乱法により特定される体積基準粒度分布の、粒子径が小さい側からの累積10%径および累積90%径である。
【請求項4】
前記成形工程はプレス成形ステップを含み、前記プレス成形ステップのプレス成形の最大圧力が10MPa以上である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記耐火原料は、粒子径0.1mm以上5.0mm以下の骨材原料55重量%以上95重量%以下、および、粒子径0.1mm未満の微粉原料5.0重量%以上45重量%以下、を含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載の製造方法によって製造されたポーラス耐火物。
【請求項7】
請求項1、2、および6のいずれか一項に記載のポーラス耐火物を含むガス吹きプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポーラス耐火物、ポーラス耐火物の製造方法およびガス吹きプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
取鍋内精錬では、溶鋼温度や成分の均一化を目的として、取鍋底部に装着したガス吹きプラグからアルゴンガスなどの不活性ガスを吹き込み、溶鋼や精錬剤などをかくはんする。代表的なガス吹きプラグとして、ポーラス質耐火物を使用したもの、緻密質耐火物に貫通孔を形成したもの、緻密質耐火物にスリットを形成したものなどが知られている。ポーラス質耐火物を使用したガス吹きプラグは、ガス流量制御の容易さ、バブリング信頼性の面から広く使用されている。
【0003】
ポーラス質耐火物を使用したガス吹きプラグにおいて、ガスを効率的に吹き込むために高い通気率が求められる。通気率を高めるために、ポーラス耐火物の気孔率を高めたり、気孔径を高めたりすることが考えられる。しかし、気孔率が高くなると耐火物の強度が弱くなったり、溶鋼の浸透を抑止できなくなったりする場合がある。また、気孔径が大きくなると、溶鋼の浸透を抑止できなくなる場合がある。
【0004】
気孔率と気孔径の増加を抑えつつ通気率を高める方法として、耐火物の製造時に焼失原料を添加する方法が挙げられる。耐火原料に焼失原料を添加した成形体を高温で焼成するとき、耐火原料が残る一方、焼失原料が焼失する。焼失原料の焼失により、成形体の内部にある密閉気孔が連通されて連通気孔となり、結果とし焼成後のポーラス耐火物の通気性が改善される、と考えられている。
【0005】
特許文献1では、木屑を焼失原料としてポーラス耐火物を製造する発明が開示されている。特許文献2では、木炭粉を焼失原料としてポーラス耐火物を製造する発明が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1のように木屑を使用する場合、木屑が成形工程で圧壊して焼成工程で望む気孔を形成することができず、結果としてポーラス耐火物に十分な通気率が得られない場合があった。また、仮に焼失原料の圧壊を防ぐためにプレス成形の最大圧力を低くすると、ポーラス耐火物の各部分の気孔率が不均一となる恐れがあった。さらに、引用文献1の木屑または引用文献2の木炭粉のような天然由来であり成分の制御が困難である焼失原料を使用する場合、焼け残りが発生して、焼成後のポーラス耐火物に十分な通気率が得られない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-043377号公報
【特許文献2】特開2013-001584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、通気性が良好であり、かつ、溶鋼の浸透を抑止しやすいポーラス耐火物およびその製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るポーラス耐火物は、JIS R1655の水銀圧入法により特定される気孔の体積基準の累積50%気孔径である平均気孔径d50が230μm以下であり、式(1)で表される気孔径のスパン値aが0.8以下であり、かつ、JIS R2115により特定される通気率が1.2(×10-10)以上である。
a=(d10-d90)/d50 (1)
d50は前記平均気孔径であり、d10およびd90はそれぞれ、JIS R1655の水銀圧入法により特定される気孔の体積基準の、気孔径が大きい側からの累積10%気孔径および累積90%気孔径である。
【0010】
この構成によれば、通気性が良好であり、かつ、溶鋼の浸透を抑止しやすいポーラス耐火物を提供できる。
【0011】
一態様として、JIS R2205により特定される気孔率が40%以下である。
【0012】
この構成によれば、溶鋼の浸透をより抑止しやすく、強度の高いポーラス耐火物を提供できる。
【0013】
また、本発明にポーラス耐火物の製造方法は、
耐火原料と、前記耐火原料100質量%に対し外掛け3質量%以上15質量%以下のアクリル樹脂と、を混練して混練済み混合物を得る混練工程、
前記混練済み混合物を成形して成形体を得る成形工程、および
前記成形体を焼成してポーラス耐火物を得る焼成工程、を含み、
前記アクリル樹脂は、JIS Z8825のレーザ回折・散乱法により特定される体積基準粒度分布の累積50%径である平均粒子径D50が30μm以上70μm以下であり、かつ、式(2)で表される粒子径のスパン値Aが3.5以下である。
A=(D90-D10)/D50 (2)
D50は前記平均粒子径であり、D10およびD90はそれぞれ、JIS Z8825のレーザ回折・散乱法により特定される体積基準粒度分布の、粒子径が小さい側からの累積10%径および累積90%径である。
【0014】
この構成によれば、通気性が良好であり、かつ、溶鋼の浸透を抑止しやすいポーラス耐火物の製造方法を提供できる。
【0015】
一態様として、前記成形工程はプレス成形ステップを含み、前記プレス成形ステップのプレス成形の最大圧力が10MPa以上である。
【0016】
この構成によれば、内部の気孔率の分布が均一なポーラス耐火物を製造しやすい。
【0017】
一態様として、
前記耐火原料は、粒子径0.1mm以上5.0mm以下の骨材原料55重量%以上95重量%以下、および、粒子径0.1mm未満の微粉原料5重量%以上45重量%以下、を含む。
【0018】
この構成によれば、通気性がより良好であり、かつ、溶鋼の浸透をより抑止しやすいポーラス耐火物の製造方法を提供できる。
【0019】
一態様として、本発明に係るポーラス耐火物は上記の方法によって製造される。
【0020】
この構成によれば、通気性が良好であり、かつ、溶鋼の浸透を抑止しやすいポーラス耐火物を提供できる。
【0021】
本発明に係るガス吹きプラグは、上述したいずれかのポーラス耐火物を含む。
【0022】
この構成によれば、通気性が良好であり、かつ、溶鋼の浸透を抑止しやすいガス吹きプラグを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本開示の解決手段として必須であるとは限らない。
【0024】
〔ポーラス耐火物の構成〕
本実施形態に係るポーラス耐火物は、耐火原料を含み、かつ、後述するその他の成分を含みうる。本実施形態に係るポーラス耐火物は、所定の通気特性を有する。
【0025】
(ポーラス耐火物の成分)
1.耐火原料
耐火原料の種類は特に限定されず、各種の公知の原料でありうる。耐火原料は、骨材原料および微粉原料を含み、また、釉薬(フリット)およびバインダーなどを含みうる。これらの種類の原料の配合比率は適宜調整することができる。
【0026】
骨材原料は耐火原料の主となる成分である。骨材原料の種類は特に限定されず、各種の球状アルミナ、破砕アルミナ、ムライト、マグネシアなどの公知の骨材原料でありうる。骨材原料の粒子径は、好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは0.2mm以上である。骨材原料の粒子径が0.1mm以上であると、気孔径が大きくなり、通気性を確保しやすいため好ましい。また、骨材原料の粒子径は、好ましくは5.0mm以下であり、より好ましくは4.0mm以下である。骨材原料の粒子径が5.0mm以下であると、気孔径が大きくなりすぎず、耐溶鋼浸潤性を確保しやすいため好ましい。
【0027】
耐火原料の全体における骨材原料の含有量は、好ましくは55質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上である。骨材原料の含有量が55質量%以上であると、均一なガス通路を形成し易く、通気性を確保しやすいため好ましい。また、耐火原料の全体における骨材原料の含有量は、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは92質量%以下である。骨材原料の含有量が95質量%以下であると、粒子間結合力を確保しやすいため好ましい。
【0028】
微粉原料は、耐火原料において粒子間の結合力を高める役割を果たすことができる。微粉原料の種類は特に限定されず、各種のアルミナ、クロミア、ジルコン、ジルコニア、耐火粘土などの公知の微粉原料でありうる。微粉原料の粒子径は、この分野において一般的に微粉原料と認識される粒子径である限り限定されないが、好ましくは0.1mm未満であり、より好ましくは0.08mm未満である。微粉原料の粒子径が0.1mm未満であると、粒子間の結合力を確保しやすいため好ましい。
【0029】
耐火原料の全体における微粉原料の含有量は、好ましくは5.0質量%以上であり、より好ましくは8.0質量%以上である。微粉原料の含有量が5.0質量%以上であると、粒子間の結合力を確保しやすいため好ましい。また、耐火原料の全体における微粉原料の含有量は、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。微粉原料の含有量が45質量%以下であると、通気性を確保しやすいため好ましい。
【0030】
釉薬(フリット)は、骨材原料のネック成長を促進することができる。釉薬の種類は特に限定されず、各種のケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸ガラス、ジルコン系ガラス、リン酸ガラスなどの公知の釉薬でありうる。耐火原料の全体における釉薬の含有量は、骨材原料および微粉原料に対して、好ましくは外掛け0.2質量%以上であり、より好ましくは外掛け0.5質量%以上である。釉薬の含有量が外掛け0.2質量%以上であると、粒子間の結合力を確保しやすいため好ましい。また、耐火原料の全体における釉薬の含有量は、骨材原料および微粉原料に対して、好ましくは外掛け10質量%以下であり、より好ましくは外掛け8.0質量%以下である。釉薬の含有量が外掛け10質量%以下であると、通気性を確保しやすいため好ましい。
【0031】
2.その他の成分
ポーラス耐火物にはその他の成分も含まれうる。例として、バインダーの焼失後の残留物、焼失原料の焼失後の残留物などが挙げられる。
【0032】
(ポーラス耐火物の通気特性)
1.平均気孔径
ポーラス耐火物の平均気孔径は、230μm以下であり、好ましくは225μm以下であり、より好ましくは220μm以下であり、さらに好ましくは215μm以下である。平均気孔径が230μm以下であると、溶鋼の浸透を抑止しやすい。
【0033】
ここで、ポーラス耐火物の平均気孔径はJIS R1655「ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔径分布試験方法」(以下、水銀圧入法とする。)より特定される、気孔の体積基準の累積50%気孔径である。以下、平均気孔径の符号をd50とする。
【0034】
2.気孔径の分布
ポーラス耐火物の気孔径の分布を表すスパン値aは、0.8以下であり、好ましくは0.7以下であり、より好ましくは0.6以下であり、さらに好ましくは0.55以下である。スパン値aが0.8以下であると、平均気孔径が一定である前提下で、過大な気孔の存在を防ぐことができ、溶鋼の浸透を抑止しやすい。
【0035】
ここで、スパン値aは式(1)で表される。
a=(d10-d90)/d50 (1)
式(1)中、d50は前述の平均気孔径であり、d10およびd90はそれぞれ、JIS R1655の水銀圧入法により特定される気孔の体積基準の、気孔径が大きい側からの累積10%気孔径および累積90%気孔径である。
【0036】
3.気孔率
ポーラス耐火物の気孔率は、好ましくは40%以下であり、より好ましくは38.5%以下であり、さらに好ましくは37%以下である。気孔率が40%以下であることは、溶鋼の浸透を抑制することに寄与するとともに、ポーラス耐火物の強度を確保するために好ましい。
【0037】
ここで、ポーラス耐火物の気孔率は、JIS R2205「耐火レンガの見掛気孔率、吸水率および比重の測定方法」により特定される。
【0038】
4.通気率
ポーラス耐火物の通気率は、1.2(×10-10)以上であり、好ましくは1.5(×10-10)以上であり、より好ましくは1.7(×10-10)以上であり、さらに好ましくは1.9(×10-10)以上である。通気率が1.2(×10-10)以上であると、ガスを効率的に吹き込みやすい。
【0039】
ここで、ポーラス耐火物の通気率は、JIS R2115「耐火物の通気率の試験方法」により特定される。
【0040】
〔ポーラス耐火物の製造方法〕
本実施形態に係るポーラス耐火物は、耐火原料と、耐火原料100質量%に対し外掛け3質量%以上15質量%以下のアクリル樹脂とを混練して混練済み混合物を得る混練工程、混練済み混合物を成形して成形体を得る成形工程、および成形体を焼成してポーラス耐火物を得る焼成工程、を含む方法によって製造される。
【0041】
(混練工程)
混練工程において、耐火原料と、アクリル樹脂と、が混練される。また、任意の成分として、バインダー、およびその他の成分も混練されうる。混練工程を終えると、粒子状のアクリル樹脂を含む混練済み混合物が得られる。
【0042】
1.耐火原料
耐火原料は、前述の通りである。
【0043】
2.アクリル樹脂
アクリル樹脂は、焼失原料として用いられる。アクリル樹脂は、典型的にはアクリル酸エステルの重合体またはメタクリル酸エステルの重合体である。アクリル樹脂は例えば、公知のポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチルなどでありうる。アクリル樹脂は共重合体または架橋ポリマーであってよい。本発明では各種アクリル樹脂が使用できるが、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)が好適に使用できる。
【0044】
アクリル樹脂の平均粒子径は30μm以上であり、好ましくは35μm以上であり、より好ましくは40μm以上であり、さらに好ましくは45μm以上であり、最も好ましくは50μmである。アクリル樹脂の平均粒子径が30μm以上であると、ポーラス耐火物の通気性を確保しやすい。
【0045】
また、アクリル樹脂の平均粒子径は70μm以下であり、好ましくは65μm以下であり、より好ましく60μm以下であり、さらに好ましくは55μm以下である。アクリル樹脂の平均粒子径が70μm以下であると、ポーラス耐火物の気孔径および気孔率を抑え、溶鋼の浸透を抑止しやすく、強度を確保しやすい。
【0046】
ここで、アクリル樹脂の平均粒子径とは、JIS Z8825「粒子径解析-レーザ回折・散乱法」により特定される体積基準粒度分布の累積50%径である。以下、平均粒子径の符号をD50とする。
【0047】
アクリル樹脂の粒子径の分布を表すスパン値Aは、3.5以下であり、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.5以下であり、さらに好ましくは2.0以下である。スパン値Aが3.5以下であると、生成するポーラス耐火物の気孔径の分布を小さくしやすい。
【0048】
ここで、スパン値Aは式(2)で表される。
A=(D90-D10)/D50 (2)
式(2)中、D50は前述の平均粒子径であり、D10およびD90はそれぞれ、JIS Z8825「粒子径解析-レーザ回折・散乱法」により特定される粒子径の累積分布の、粒子径の小さい方から累積体積が10体積%にあたる粒子径および累積体積が90体積%にあたる粒子径である。
【0049】
アクリル樹脂のD50、D10およびD90は、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0050】
所定の粒子径および/または所定に粒子径分布を有するアクリル樹脂は、公知技術によって製造することが可能であり、市販品として入手することも可能である。
【0051】
アクリル樹脂の添加量は、耐火原料100質量%に対し外掛け3質量%以上であり、好ましくは4.0質量%以上であり、より好ましくは5.0質量%以上であり、さらに好ましく6.0質量%以上である。アクリル樹脂の添加量が耐火原料100質量%に対し外掛け3質量%以上であると、ポーラス耐火物の通気性を確保しやすい。
【0052】
また、アクリル樹脂の添加量は、耐火原料100質量%に対し外掛け15質量%以下であり、好ましくは14質量%以下であり、より好ましくは13質量%以下であり、さらに好ましく12質量%以下である。アクリル樹脂の添加量が耐火原料100質量%に対し外掛け15質量%以下であると、ポーラス耐火物の気孔径および気孔率を抑え、溶鋼の浸透を抑止しやすく、強度を確保しやすい。
【0053】
3.バインダー
耐火原料とアクリル樹脂の他に、任意にバインダーが混練されうる。バインダーとして、公知の有機バインダーまたは無機バインダーを使用することができる。有機バインダーとして、デキストリン、リグニンスルホン酸塩、ポリビニルアルコール、糖蜜、フェノール樹脂などが例示でき、無機バインダーとして、珪酸ナトリウム、リン酸アルミニウムなどが例示できる。バインダーは焼成後に残渣の残らないものが好ましい。なお、混練済み混合物の中のアクリル樹脂の粒子形状が損なわれないようにするために、バインダーは例えばアクリル樹脂を溶解しない成分であったり、またはアクリル樹脂を実質的に溶解しない程度の添加量で添加したりすることが望ましい。
【0054】
バインダーの添加量は、好ましくは耐火原料100質量%に対し外掛け0.2質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましく0.8質量%以上である。バインダーの添加量が0.2以上であると、各種の原料が均一に混練されやすいため好ましい。また、バインダーの添加量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8.0質量%以下であり、さらに好ましく5.0質量%以下である。バインダーの添加量が10質量%以下であると、バインダーの揮発や焼失などに起因する形状変化を防ぎうるため好ましい。
【0055】
4.その他の原料
耐火原料、アクリル樹脂およびバインダーの他に、その他の成分も混練されうる。例として、フェノール樹脂の硬化剤であるヘキサミンなどが挙げられる。なお、なお、混練済み混合物の中のアクリル樹脂の粒子形状が損なわれないようにするために、その他の成分は例えばアクリル樹脂を溶解しない成分であったり、またはアクリル樹脂を実質的に溶解しない程度の添加量で添加したりすることが望ましい。
【0056】
混練工程は公知の混練装置によって実施されうる。公知の装置として、例えばコナーミキサーが挙げられる。耐火原料とアクリル樹脂などの原料をすべてミキサーに投入してから混練を始めてもよく、混練を進行しつつ原料を所定の順番でミキサーに投入しても良い。ミキサーの出力および混練の時間は当業者によって調整できる。
【0057】
(成形工程)
成形工程では、混練工程で得られた混練済み混合物が所望の型に移され、プレス成形される。プレス成形に用いられる装置として、例えば公知のフリクションプレスが挙げられる。プレス成形の最大圧力は、好ましくは10MPa以上であり、より好ましくは20MPa以上である。プレス成形の圧力が10MPa以上であると、成形体の内部の気孔率が均一となる観点から好ましい。また、プレス成形の最大圧力は、好ましくは300MPa以下であり、より好ましくは250MPa以下である。プレス成形の圧力が300MPa以下であると、焼失原料を過度に変形させることを避けうるので、ポーラス耐火物の通気性を確保する観点から好ましい。
【0058】
プレス成形の後に得られた未乾燥の成形体は好ましくはその後乾燥される。成形体を乾燥することにより、バインダーの溶媒およびその他の揮発性の溶媒が揮発し、次の焼成工程において亀裂の発生を抑止することができる。乾燥温度は好ましくは50℃以上であり、より好ましくは80℃以上である。乾燥の温度が50℃以上であることは、成形体に含まれる揮発性成分を除去する観点から好ましい。また、乾燥温度は好ましくは300℃以下であり、より好ましくは200℃以下である。乾燥の温度が300℃以下であることは、焼失原料を過度に変形させることを避けうるので、通気性を確保する観点から好ましい。乾燥の時間は、好ましくは5.0時間以上であり、より好ましくは10時間以上である。乾燥の時間が5.0時間以上であることは、成形体に含まれる揮発性成分を除去する観点から好ましい。また、乾燥の時間は、好ましくは80時間以下であり、より好ましくは50時間以下である。乾燥の時間が80時間以下であることは、焼失原料を過度に変形させることを避けうるので、通気性を確保する観点から好ましい。
【0059】
上記の成形工程を終えると、粒子状のアクリル樹脂を含む成形体が得られる。
【0060】
(焼成工程)
焼成工程では、成形工程で得られる成形体を焼成し、ポーラス耐火物を得る。また、焼成工程において、焼失原料である粒子状のアクリル樹脂が焼失して、気孔がポーラス耐火物の中に形成される。成形体をポーラス耐火物に焼成するための装置として、例えば公知の工業窯炉が挙げられる。
【0061】
焼成工程における焼成温度は、好ましくは1000℃以上であり、より好ましくは1200℃以上である。焼成温度が1000℃以上であることは、焼失原料を残留なく焼失させ、通気率を向上する観点から好ましい。また、焼成温度の上限は特に限定されないが、例えば2000℃でありうる。
【0062】
焼成工程における焼成時間は、好ましくは10時間以上であり、より好ましくは20時間以上である。焼成時間が10時間以上であることは、焼失原料を残留なく焼失させ、通気率を向上する観点から好ましい。また、焼成時間の上限は特に限定されないが、例えば200時間でありうる。
【0063】
〔ポーラス耐火物の使用方法〕
上記のポーラス耐火物は、例えばガス吹きプラグの製造に用いられうる。また、上記のポーラス耐火物は、電気炉、取鍋、AOD炉、タンディッシュなどに用いられうる。
【実施例0064】
〔焼失原料の物性測定〕
粒子形状のアクリル樹脂(PMMA)、木屑およびポリスチレン樹脂の3種類の焼失原料について、粒子径の測定、圧壊試験、および耐熱試験を行った。
【0065】
平均粒子径D50および粒子径のスパン値Aの測定は、レーザ回折式粒度分布測定装置(堀場製作所社製のPartica LA-960)を用いて行った。
【0066】
圧壊試験は、金属製のスペーサーを用いて行った。具体的には、二枚の金属製平板の間に焼失原料を2g挟み、万力を用いて二枚の金属製平板を5分間押圧した。光学顕微鏡を使用して加圧前後の焼失原料の状態を調査した。加圧前後、粒子の変形がなかった場合は耐圧壊性を「良好」とし、粒子の変形があった場合は耐圧壊性を「不良」とした。
【0067】
耐熱試験は、熱風循環式乾燥機を用いて行った。具体的には、焼失原料を10gを称量し、金属容器に入れ、200℃、大気雰囲気下で、6時間の加熱を行った後に、室温へ冷却した。光学顕微鏡を使用して加熱前後の焼失原料の状態を調査した。加熱前後、粒子の変形がなかった場合は耐熱性を「良好」とし、粒子の変形があった場合は耐熱性を「不良」とした。
【0068】
表1:焼失原料の物性測定の結果
【表1】
【0069】
表1に示したように、アクリル樹脂、木屑およびポリスチレン樹脂のD50はいずれも50μmであった。スパン値Aの値から、アクリル樹脂の粒子径の分布が天然由来の木屑よりシャープであることが分かった。
【0070】
圧壊試験において、アクリル樹脂は加圧前後で変形せず、耐圧壊性が良好であった。一方、木屑は加圧前後で変形し、耐圧壊性が不良だった。
【0071】
耐熱試験において、アクリル粒子は形状を保ち、耐熱性が良好であった。一方、ポリスチレン樹脂は加熱により完全に融解し、耐熱性が不良だった。
【0072】
以上の結果から、アクリル樹脂は、耐圧壊性および耐熱性の両方が良好であることが分かった。成形工程において形状を失わず焼成工程において所望の気孔を形成するという目的から、アクリル樹脂は焼失原料として適していることが分かった。
【0073】
〔ポーラス耐火物の製造〕
(混練工程)
耐火原料、焼失原料、バインダーおよび水をコナーミキサーで混練して混練済み混合物を得た。
【0074】
耐火原料のうちの骨材原料として、粒子径1.0-0.5mmの球状粒アルミナ(アルミナ99.5%)を74重量%、粒子径1.7-0.3mmのムライト(アルミナ60%、シリカ33%)を12%用いた。耐火原料のうちの微粉原料として、粒子径45μm以下の微粉アルミナ(アルミナ99.5%)を3質量%、酸化クロム(平均粒子径2μm、クロミア99.5%)を2質量%、ジルコン(粒子径45μm以下、ジルコニア66%、シリカ33%)を5質量%、耐火粘土(粒子径75μm以下、シリカ49%、アルミナ34%)を4質量%用いた。
【0075】
各種焼失原料は、耐火原料100質量%に対して外掛けで、後述する配合比で配合した。
【0076】
バインダーであるリグニンスルホン酸マグネシウム溶液(リグニンスルホン酸マグネシウムの50wt%の水溶液)は、耐火原料100質量%に対して外掛けで2質量%配合した。
【0077】
助剤として、水を耐火原料100質量%に対して外掛けで1.5質量%配合した。
【0078】
(成形工程)
混練済み混合物を、フリクションプレスを用いて最大圧力98MPaの条件にて、加圧を行い、その後120℃で12時間乾燥した。
【0079】
(焼成工程)
成形体を1720℃で、工業窯炉において、120時間焼成し、ポーラス耐火物を得た。
【0080】
〔ポーラス耐火物の評価〕
ポーラス耐火物の通気率は、JIS R2115「耐火物の通気率の試験方法」により測定した。直径が約50mmで長さが約50mmの円柱状の試験片を用いて測定した。測定ガスとして窒素を用いた。
【0081】
ポーラス耐火物の気孔率は、JIS R2205「耐火レンガの見掛気孔率、吸水率および比重の測定方法」により、ポーラス耐火物を直径約50mmで長さが約50mmの円柱状に切り出し、媒液に水を用いた煮沸法により測定した。
【0082】
ポーラス耐火物の平均気孔径d50および気孔径の分布を表すスパン値aは、JIS R1655の水銀圧入法により測定した。直径が約15mmの球状の試験片を用いて測定した。なお、気孔径は、水銀圧入法にて接触角130°、表面張力0.485N/mの条件で測定した。
【0083】
本発明において、通気性が良好であり、かつ、溶鋼の浸透を抑止しやすいポーラス耐火物を提供する観点から、ポーラス耐火物の総合評価を通気率が高く、かつ、気孔率ならびに気孔径および気孔径のバラツキが小さい順で、以下の「A」、「B」、「C」の三段階とした。
「A」 通気率が1.9(×10-10)以上であり、気孔率が37%以下であり、平均気孔径が215μm以下であり、かつ、スパン値aが0.55以下である。
「B」 通気率が1.2(×10-10)以上であり、気孔率が40%以下であり、平均気孔径が230μm以下であり、かつ、スパン値aが0.8以下であって、「A」の要件を満たさない。
「C」 「B」の要件を満たさない。
【0084】
1.異なる種類の焼失原料について
実施例1では、アクリル樹脂(D50=50μm、スパン値A=1.80)を焼失原料として使用してポーラス耐火物を製造した。比較例として、焼失原料を使用しないで、または木屑(D50=50μm、スパン値A=2.90)もしくはポリスチレン樹脂(D50=50μm、スパン値A=1.80)を使用してポーラス耐火物を製造した。いずれの焼失原料の添加量も、耐火原料100質量%に対して外掛け9wt%であった。製造されたポーラス耐火物の通気特性を表2に示した。
【0085】
表2:異なる種類の焼失原料を使用した場合の通気特性
【表2】
【0086】
表2に示したように、アクリル樹脂を焼失原料として使用した実施例1では、高い通気率が得られ、総合評価が「A」であった。一方、焼失原料を使用しなかった比較例1では通気率が低く、総合評価が「C」であった。これはアクリル樹脂の焼失によって、連通気孔を多く含むポーラス耐火物が得られたためだと考えられる。
【0087】
また、アクリル樹脂を使用した実施例1では通気率が高く、総合評価が「A」であったのに対し、他の焼失原料(木屑またはポリスチレン樹脂)を使用した比較例2、3では、通気率が不十分であり、総合評価が「C」であった。これは、アクリル樹脂が成形工程において形状を維持でき、かつ、焼成工程において残留なく焼失するのに対し、他の焼失原料は成形工程で形状を失ったり、焼成工程で焼け残ったりするためだと考えられる。
【0088】
2.アクリル樹脂の添加量について
アクリル樹脂(D50=50μm、スパン値A=1.80)を使用して、アクリル樹脂の添加量を変更してポーラス耐火物を製造した。製造されたポーラス耐火物の通気特性を表3に示した。
【0089】
表3:アクリル樹脂の添加量を変更した場合の通気特性
【表3】
【0090】
表3に示したように、アクリル樹脂の添加量が3~15wt%の間にあると、総合評価が「A」または「B」である性能良好なポーラス耐火物が得られた。一方、添加量が低い比較例4では、通気率が不十分であった。また、添加量が高い比較例5では、気孔率と平均気孔径d50が高くなった。そのため比較例5では、強度と耐溶鋼浸透性が不十分だと考えられる。
【0091】
3.アクリル樹脂のD50について
アクリル樹脂の添加量を9wt%とし、アクリル樹脂の平均粒子径D50を変更してポーラス耐火物を製造した。なお、アクリル樹脂のスパン値Aはいずれも1.80であった。製造されたポーラス耐火物の通気特性を表4に示した。
【0092】
表4:アクリル樹脂のD50を変更した場合の通気特性
【表4】
【0093】
表4に示したように、アクリル樹脂のD50が30μmから70μmの間にあると、性能良好なポーラス耐火物が得られた。一方、D50が小さい比較例6では、通気率が十分でなかった。また、D50が高い比較例7では、平均気孔径d50が高くなった。そのため比較例7では、耐溶鋼浸透性が不十分だと考えられる。
【0094】
4.アクリル樹脂のスパン値Aについて
アクリル樹脂の添加量を9wt%とし、アクリル樹脂の平均粒子径D50を50μmとし、アクリル樹脂の粒子径のスパン値Aを変更してポーラス耐火物を製造した。製造されたポーラス耐火物の通気特性を表5に示した。
【0095】
表5:アクリル樹脂のスパン値Aを変更した場合の通気特性
【表5】
【0096】
表5に示したように、アクリル樹脂のスパン値Aが3.5以下であると、総合評価が「A」または「B」である性能良好なポーラス耐火物が得られた。一方、アクリル樹脂のスパン値Aが大きい比較例8では、気孔径のスパン値aが高くなった。そのため比較例8では、耐溶鋼浸透性が不十分だと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、例えばガス吹きプラグに利用することができる。