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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135256
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】メモリデバイス
(51)【国際特許分類】
   G11C 11/16 20060101AFI20240927BHJP
   G11C 13/00 20060101ALI20240927BHJP
   H10B 61/00 20230101ALI20240927BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20240927BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20240927BHJP
【FI】
G11C11/16 240
G11C13/00 480D
G11C13/00 480K
G11C13/00 480B
H10B61/00
H01L29/82 Z
H10N50/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045853
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 正浩
(72)【発明者】
【氏名】吉川 将寿
(72)【発明者】
【氏名】村上 俊也
(72)【発明者】
【氏名】李 恬
(72)【発明者】
【氏名】梅津 信之
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA06
4M119BB01
4M119CC05
4M119CC10
4M119DD09
4M119DD17
4M119DD24
4M119DD37
4M119DD47
4M119EE03
4M119EE24
4M119EE27
4M119FF05
4M119FF15
4M119FF19
4M119GG02
5F092AA20
5F092AB07
5F092AC12
5F092AC26
5F092AC30
5F092AD23
5F092BB16
5F092BB23
5F092BB36
5F092BB42
5F092BB43
5F092BC03
5F092BC07
5F092BC08
5F092EA05
(57)【要約】
【課題】メモリデバイスの信頼性を向上する。
【解決手段】実施形態のメモリデバイスは、導電層と、第1のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子と前記導電層との間に接続された磁気抵抗効果素子と、前記導電層の一端に接続された第2のスイッチング素子と、を含むメモリセルと、前記第1のスイッチング素子を介して前記磁気抵抗効果素子に接続された第1の配線と、前記第2のスイッチング素子を介して前記導電層に接続された第2の配線と、前記導電層の他端に接続された第3の配線と、前記第2の配線又は前記第3の配線を介して書き込み電流IWRを前記導電層に流す書き込み回路と、を備える。書き込み電流IWRは、第1の電流値を有する第1の電流ピークPk1と、第2の電流値を有する第2の電流ピークPk2と、を含む。
【選択図】 図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部分及び第2の部分及び前記第1の部分と前記第2の部分との間の第3の部分を含む導電層と、第1のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子と前記第3の部分との間に接続された磁気抵抗効果素子と、前記第1の部分に接続された第2のスイッチング素子と、を含むメモリセルと、
前記第1のスイッチング素子を介して前記磁気抵抗効果素子に接続された第1の配線と、
前記第2のスイッチング素子を介して前記第1の部分に接続された第2の配線と、
前記第2の部分に接続された第3の配線と、
前記第2の配線又は前記第3の配線を介して書き込み電流を前記導電層に流す書き込み回路と、
を具備し、
前記書き込み電流は、
第1の電流値を有する第1の電流ピークと、
第2の電流値を有する第2の電流ピークと、
を含む、
メモリデバイス。
【請求項2】
前記第1及び第2の電流値は、正の値を有する、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項3】
前記第1の電流値は、正の値を有し、
前記第2の電流値は、負の値を有する、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項4】
前記第1の電流ピークにおいて、前記書き込み電流は、前記第1の部分から前記第2の部分へ流れ、
前記第2の電流ピークにおいて、前記書き込み電流は、前記第2の部分から前記第1の部分へ流れる、
請求項3に記載のメモリデバイス。
【請求項5】
前記第1の電流値の絶対値及び前記第2の電流値の絶対値は、前記磁気抵抗効果素子の磁化反転閾値電流の絶対値以上である、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項6】
前記第1の電流ピークの立ち上り速度は、前記第2の電流ピークの立ち上り速度と異なる、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項7】
前記第1の電流ピークの立ち上り速度は、前記第2の電流ピークの立ち上り速度より遅い、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項8】
前記第1の電流ピークの立ち下り速度は、前記第2の電流ピークの立ち下り速度と異なる、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項9】
前記第1の電流ピークの立ち下り速度は、前記第2の電流ピークの立ち下り速度より遅い、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項10】
前記第1の電流値は、前記第2の電流値と同じである、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項11】
前記第1の電流値は、前記第2の電流値と異なる、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項12】
前記第1の電流値の供給期間は、前記第2の電流値の供給期間と等しい、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項13】
前記第1の電流値の供給期間は、前記第2の電流値の供給期間と異なる、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項14】
前記導電層は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、及びタングステン(W)から選択される少なくとも1つの元素を含む、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項15】
前記磁気抵抗効果素子は、
前記第3の部分と前記第1のスイッチング素子との間の第1の磁性層と、
前記第3の部分と前記第1の磁性層との間の第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間のトンネルバリア層と、
を含む、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項16】
前記導電層は、
反強磁性層と、
前記磁気抵抗効果素子と前記反強磁性層との間の非磁性層と、
前記反強磁性層と前記非磁性層との間の強磁性層と、
を含む、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項17】
前記導電層が延伸する第1の方向と交差する第2の方向に延伸する第4の配線を、
さらに具備し、
前記書き込み回路は、前記書き込み電流を前記導電層に流す時に、第1の電流を前記第4の配線に流す、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項18】
前記第2のスイッチング素子は、スナップバックを伴う電流-電圧特性を有する、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、メモリデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗効果素子をメモリ素子として用いた磁気メモリデバイスが知られている。磁気抵抗効果素子へデータを書き込む方式として、種々の手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/0119114号明細書
【特許文献2】米国特許11,227,646号明細書
【特許文献3】米国特許11,367,474号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メモリデバイスの信頼性を向上する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のメモリデバイスは、第1の部分及び第2の部分及び前記第1の部分と前記第2の部分との間の第3の部分を含む導電層と、第1のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子と前記第3の部分との間に接続された磁気抵抗効果素子と、前記第1の部分に接続された第2のスイッチング素子と、を含むメモリセルと、前記第1のスイッチング素子を介して前記磁気抵抗効果素子に接続された第1の配線と、前記第2のスイッチング素子を介して前記第1の部分に接続された第2の配線と、前記第2の部分に接続された第3の配線と、前記第2の配線又は前記第3の配線を介して書き込み電流を前記導電層に流す書き込み回路と、を備え、前記書き込み電流は、第1の電流値を有する第1の電流ピークと、第2の電流値を有する第2の電流ピークと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1の実施形態のメモリデバイスの構成の一例を示すブロック図。
図2】第1の実施形態のメモリデバイスのメモリセルアレイの構成例を示す回路図。
図3】第1の実施形態のメモリデバイスのメモリセルアレイの平面レイアウトの一例を示す平面図。
図4】第1の実施形態のメモリデバイスのメモリセルアレイの断面構造の一例を示す断面図。
図5】第1の実施形態のメモリデバイスの磁気抵抗効果素子及び周辺の配線の断面構造の一例を示す断面図。
図6】第1の実施形態のメモリデバイスのスイッチング素子の特性の一例を示す図。
図7】第1の実施形態のメモリデバイスのスイッチング素子の特性の一例を示す図。
図8】第1の実施形態のメモリデバイスに用いられる書き込み電流のパルス波形を示す波形図。
図9】第1の実施形態のメモリデバイスの書き込みシーケンスを説明するための回路図。
図10】第1の実施形態のメモリデバイスの書き込みシーケンスを説明するための断面図。
図11】第1の実施形態のメモリデバイスの書き込みシーケンスを説明するための断面図。
図12】第1の実施形態のメモリデバイスに用いられる書き込み電流のパルス波形を示す波形図。
図13】第1の実施形態のメモリデバイスの読み出しシーケンスを説明するための回路図。
図14】第1の実施形態のメモリデバイスの読み出しシーケンスを説明するための断面図。
図15】第1の実施形態のメモリデバイスの検証を説明するための図。
図16】第1の実施形態のメモリデバイスの検証を説明するための図。
図17】第1の実施形態のメモリデバイスの検証を説明するための図。
図18】第1の実施形態のメモリデバイスの検証を説明するための図。
図19】第2の実施形態のメモリデバイスの磁気抵抗効果素子及び周辺の配線の断面構造の一例を示す断面図。
図20】第2の実施形態のメモリデバイスの書き込みシーケンスを説明するための断面図。
図21】第2の実施形態のメモリデバイスの書き込みシーケンスを説明するための断面図。
図22】第3の実施形態のメモリデバイスに用いられる書き込み電流のパルス波形を示す波形図。
図23】実施形態のメモリデバイスの変形例を説明するための図。
図24】実施形態のメモリデバイスの変形例を説明するための図。
図25】実施形態のメモリデバイスの変形例を説明するための図。
図26】実施形態のメモリデバイスの変形例を説明するための図。
図27】実施形態のメモリデバイスの変形例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1乃至図27を参照しながら、本実施形態のメモリデバイスについて説明する。以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付す。また、以下の各実施形態において、末尾に区別化のための数字/英字を伴った参照符号を付された構成要素(例えば、回路、配線、各種の電圧及び信号など)が、相互に区別されなくとも良い場合、末尾の数字/英字が省略された記載(参照符号)が用いられる。
【0008】
<実施形態>
(1)第1の実施形態
図1乃至図18を参照して、第1の実施形態のメモリデバイスについて説明する。
【0009】
(a)構成例
図1乃至図8を参照して、第1の実施形態のメモリデバイスの構成例について説明する。
【0010】
(a-1)メモリデバイスの構成例
図1は、本実施形態のメモリデバイスの構成の一例を示すブロック図である。
【0011】
図1に示されるように、メモリデバイス1は、メモリセルアレイ10、ロウ選択回路11、カラム選択回路12、デコード回路13、書き込み回路14、読み出し回路15、電圧生成回路16、入出力回路17、及び制御回路18を含む。
【0012】
メモリセルアレイ10は、メモリデバイス1におけるデータの記憶部である。メモリセルアレイ10は、複数のメモリセルMCを含む。複数のメモリセルMCの各々は、ロウ及びカラムに関連付けられる。同一のロウに属するメモリセルMCは、同一のワード線WLに接続される。同一のカラムに属するメモリセルMCは、同一の読み出し用の配線(以下では、読み出しビット線とよばれる)RBL及び書き込み用の配線(以下では、書き込みビット線とよばれる)WBLの組に接続される。
【0013】
ロウ選択回路11は、メモリセルアレイ10のロウを選択する回路である。ロウ選択回路11は、ワード線WLを介してメモリセルアレイ10に接続される。ロウ選択回路11は、デコード回路13からのアドレスADDのデコード結果(ロウアドレス)を受ける。ロウ選択回路11は、アドレスADDのデコード結果に基づいたロウに対応するワード線WLを、選択する。以下において、選択されたワード線WLは、選択ワード線WLとよばれる。選択ワード線WL以外のワード線WLは、非選択ワード線WLとよばれる。
【0014】
カラム選択回路12は、メモリセルアレイ10のカラムを選択する回路である。カラム選択回路12は、読み出しビット線RBL及び書き込みビット線WBLを介してメモリセルアレイ10に接続される。カラム選択回路12は、デコード回路13からのアドレスADDのデコード結果(カラムアドレス)を受ける。カラム選択回路12は、アドレスADDのデコード結果に基づいたカラムに対応する読み出しビット線RBL及び書き込みビット線WBLを選択する。以下において、読み出しビット線RBL及び書き込みビット線WBLの対は、ビット線対とよばれる。以下において、選択された読み出しビット線RBL及び書き込みビット線WBLのそれぞれは、選択読み出しビット線RBL及び選択書き込みビット線WBLとよばれる。選択読み出しビット線RBL以外の読み出しビット線RBL、及び、選択書き込みビット線WBL以外の書き込みビット線WBLは、非選択読み出しビット線RBL及び非選択書き込みビット線WBLとそれぞれよばれる。
【0015】
デコード回路13は、入出力回路17からのアドレスADDをデコードする回路である。デコード回路13は、アドレスADDのデコード結果を、ロウ選択回路11、及びカラム選択回路12に供給する。アドレスADDは、カラムアドレス及びロウアドレスを含む。
【0016】
書き込み回路14は、例えば、書き込みドライバ(図示せず)を含む。書き込み回路14は、メモリセルMCに対するデータの書き込みを行う。書き込み回路14は、データの書き込みのための電流(又は電圧)を、カラム選択回路12を介してメモリセルアレイ10に供給する。
【0017】
読み出し回路15は、例えば、センスアンプ(図示せず)を含む。読み出し回路15は、メモリセルMCからのデータの読出しを行う。読み出し回路15は、データの読み出しのための電流(又は電圧)を、カラム選択回路12を介してメモリセルアレイ10に供給する。
【0018】
電圧生成回路16は、メモリデバイス1の外部(図示せず)から提供された電源電圧を用いて、メモリセルアレイ10の各種の動作のための電圧を生成する。例えば、電圧生成回路16は、書き込みシーケンスに用いられる各種の電圧を生成する。例えば、電圧生成回路16は、読み出しシーケンスに用いられる各種の電圧を生成する。電圧生成回路16は、生成された種々の電圧を、書き込み回路14又は読出し回路15に出力する。
【0019】
入出力回路(インターフェイス回路ともよばれる)17は、メモリデバイス1とメモリデバイス1の外部のデバイス(以下では、外部デバイスとよばれる)との間の通信を司る。入出力回路17は、外部デバイス(例えば、メモリコントローラ又はホストデバイス)からのアドレスADDを、デコード回路13に転送する。入出力回路17は、外部デバイスからのコマンドCMDを、制御回路18に転送する。入出力回路17は、種々の制御信号CNTを、外部デバイスと制御回路18との間で送受信する。入出力回路17は、外部デバイスからのデータ(以下では、書き込みデータとよばれる)DATを書き込み回路14に転送する。入出力回路17は、読み出し回路15からのデータ(以下では、読み出しデータとよばれる)DATをメモリデバイス1の外部に出力する。
【0020】
制御回路(シーケンサ又はステートマシーンともよばれる)18は、例えば、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサ、ROM(Read Only Memory)、及びレジスタなどを含む。制御回路18は、制御信号CNT及びコマンドCMDに基づいて、メモリデバイス1内のロウ選択回路11、カラム選択回路12、デコード回路13、書き込み回路14、読み出し回路15、電圧生成回路16、及び入出力回路17の動作を制御する。
【0021】
例えば、本実施形態のメモリデバイス1は、磁気抵抗効果素子をメモリ素子に用いた磁気メモリである。
【0022】
(a-2) メモリセルアレイ
図2乃至図4を参照して、本実施形態のメモリデバイス1のメモリセルアレイ10の構成例について説明する。
【0023】
(回路構成)
図2は、本実施形態のメモリデバイスにおける、メモリセルアレイの回路構成の一例を示す回路図である。
【0024】
図2に示されるように、メモリセルアレイ10は、複数のメモリセルMC、複数のワード線WL、複数の読み出しビット線RBL、及び複数の書き込みビット線WBLを含む。図2の例において、複数のメモリセルMCは、(M+1)×(N+1)個のメモリセルMC<0,0>,MC<0,1>,・・・,MC<0,N>,MC<1,0>,・・・,MC<M,N>を含む。M及びNは、1以上の整数である。なお、図2の例において、M及びNが1以上の整数である場合について示したが、これに限られない。M及びNは、0であってもよい。
【0025】
複数のワード線WLは、(M+1)本のワード線WL<0>,WL<1>,・・・,WL<M>を含む。複数の読み出しビット線RBLは、(N+1)本の読み出しビット線RBL<0>,RBL<1>,・・・,RBL<N>を含む。複数の書き込みビット線WBLは、(N+1)本の書き込みビット線WBL<0>,WBL<1>,・・・,WBL<N>を含む。
【0026】
複数の読み出しビット線RBLのうち対応する1つと複数の書き込みビット線WBLのうち対応する1つは、対を形成する。以下において、対を成す1つの読み出しビット線RBLと1つの書き込みビット線WBLの組は、ビット線対とよばれる。
【0027】
複数のメモリセルMCは、メモリセルアレイ10内において、マトリクス状に配置される。メモリセルMCは、複数のワード線WLのうちの1つのワード線WL及び複数のビット線対のうちの1つのビット線対に対応付けられる。メモリセルMC<i,j>(0≦i≦M、0≦j≦N)は、ワード線WL<i>、読み出しビット線RBL<j>、及び書き込みビット線WBL<j>に接続される。
【0028】
メモリセルMC<i,j>は、第1のノード(第1の端子)、第2のノード(第2の端子)、及び第3のノード(第3の端子)を有する3端子型メモリセルである。メモリセルMC<i,j>の第1のノードは、ワード線WL<i>に接続される。メモリセルMC<i,j>の第2のノードは、書き込みビット線WBL<j>に接続される。メモリセルMC<i,j>の第3のノードは、読み出しビット線RBL<j>に接続される。
【0029】
メモリセルMC<i,j>は、スイッチング素子SE1<i,j>,SE2<i,j>、磁気抵抗効果素子ME<i,j>、及び配線SOTL<i,j>を含む。
【0030】
配線SOTL<i,j>は、第1の部分と、第2の部分と、第1の部分及び第2の部分の間の第3の部分と、を含む。配線SOTL<i,j>の第1の部分は、ワード線WL<i>に接続される。配線SOTL<i,j>の第2の部分は、書き込みビット線WBL<j>に接続される。配線SOTL<i,j>の第3の部分は、読み出しビット線RBL<j>に接続される。スイッチング素子SE1<i,j>は、配線SOTL<i,j>の第2の部分と書き込みビット線WBL<j>との間に接続される。磁気抵抗効果素子ME<i,j>は、配線SOTL<i,j>の第3の部分と読み出しビット線RBL<j>との間に接続される。スイッチング素子SE2<i,j>は、磁気抵抗効果素子ME<i,j>と読み出しビット線RBL<j>との間に接続される。
【0031】
各スイッチング素子SE(SE1,SE2)のそれぞれは、2端子型のスイッチング素子である。2端子型スイッチング素子は、3個目の端子(ノード)を含まない点において、トランジスタ等の3端子型のスイッチング素子と異なる。
【0032】
スイッチング素子SE1は、閾値電圧Vth1を有する。スイッチング素子SE2は、閾値電圧Vth2を有する。スイッチング素子SE(SE1,SE2)は、スイッチング素子SEの2端子間に印加される電圧が閾値電圧Vth(Vth1,Vth2)未満であるか否かに応じて、電気的に非導通状態又は導通状態となり得る。以下において、スイッチング素子SEの電気的に非導通状態は、高抵抗状態又はオフ状態とよばれる。スイッチング素子SEの電気的に導通状態は、低抵抗状態又はオン状態とよばれる。
【0033】
例えば、対応するメモリセルMCに印加される電圧がスイッチング素子SE1の閾値電圧Vth1未満かつスイッチング素子SE2の閾値電圧Vth2未満である場合、スイッチング素子SE1及びSE2のそれぞれは、大きい抵抗値を有する絶縁体として、電流を遮断する(オフ状態となる)。対応するメモリセルMCに印加される電圧が閾値電圧Vth1以上かつVth2以上である場合、スイッチング素子SE1及びSE2のそれぞれは、小さい抵抗値を有する導電体として、メモリセルMC内に電流を流す(オン状態となる)。
【0034】
スイッチング素子SEの2端子間に印加される電圧の極性が、正の極性又は負の極性のどちらの極性であっても(スイッチング素子SE内を流れる電流の方向に依存せずに)、スイッチング素子SE1,SE2は、対応するメモリセルMCに印加される電圧の大きさに応じて、電流を流すか遮断するかを切替えることができる。
【0035】
配線SOTLは、メモリセルMCにおける電流経路である。例えば、スイッチング素子SE1がオン状態かつスイッチング素子SE2がオフ状態である場合、配線SOTLは、ワード線WLと書き込みビット線WBLとの間の電流経路として機能する。例えば、スイッチング素子SE1がオフ状態かつスイッチング素子SE2がオン状態である場合、配線SOTLの一部は、ワード線WLと読み出しビット線RBLとの間の電流経路として機能する。
【0036】
磁気抵抗効果素子MEは、抵抗変化素子である。磁気抵抗効果素子MEは、スイッチング素子SEによって経路を制御された電流に基づいて、磁気抵抗効果素子MEの抵抗状態(抵抗値)を低抵抗状態と高抵抗状態とに切替わることができる。磁気抵抗効果素子MEは、磁気抵抗効果素子MEの抵抗状態の変化によって、データを不揮発に記憶するメモリ素子として機能する。
【0037】
(平面レイアウト)
図3を参照して、本実施形態のメモリデバイス1のメモリセルアレイ10の平面レイアウトについて説明する。以下では、基板の表面に平行な面は、XY平面とする。XY平面内において、XY平面に平行な方向は、X方向とする。XY平面内において、XY平面に平行でX方向に交差する方向は、Y方向とする。XY平面に垂直な方向は、Z方向(又は上方向)とする。
【0038】
図3は、本実施形態のメモリデバイス1のメモリセルアレイ10の平面レイアウトの一例を示す平面図である。図3において、絶縁層等の構造は、省略されて示される。
【0039】
図3に示されるように、メモリセルアレイ10は、複数の縦型構造901、複数の縦型構造902、及び複数の縦型構造903を含む。複数の縦型構造901の各々は、スイッチング素子SE1を含む。複数の縦型構造902の各々は、磁気抵抗効果素子ME及びスイッチング素子SE2を含む。
【0040】
複数の書き込みビット線WBLは、X方向に並ぶ。複数の書き込みビット線WBLの各々は、Y方向に延びる。
【0041】
複数の書き込みビット線WBLの上方に、複数のワード線WLが設けられる。複数のワード線WLは、Y方向に並ぶ。複数のワード線WLの各々は、X方向に延びる。
【0042】
複数のワード線WLの上方に、複数の配線SOTLが設けられる。Z方向から見た平面視において、複数の配線SOTLの各々は、X方向に対してY方向に長い四角形状を有する。複数の配線SOTLの各々は、Y方向に延びる。Z方向から見た平面視において、複数の配線SOTLの各々は、1本のワード線WL、及び1本の書き込みビット線WBLと重なる位置に対応して、マトリクス状に設けられる。
【0043】
複数の配線SOTLの上方に、複数の読み出しビット線RBLが設けられる。複数の読み出しビット線RBLは、X方向に並ぶ。複数の読み出しビット線RBLの各々は、Y方向に延びる。Z方向から見た平面視において、各読み出しビット線RBLは、複数の書き込みビット線WBLにZ方向において重なる位置に設けられる。
【0044】
複数の縦型構造901は、Z方向に延びる。Z方向から見た平面視において、複数の縦型構造901は、円形状を有する。複数の縦型構造901の各々は、対応する1本の書き込みビット線WBLと1本の配線SOTLとの間に接続される。
【0045】
複数の縦型構造902は、Z方向に延びる。Z方向から見た平面視において、複数の縦型構造902は、円形状を有する。複数の縦型構造902の各々は、対応する1本の読み出しビット線RBLと1本の配線SOTLとの間に接続される。
【0046】
複数の縦型構造903は、Z方向に延びる。Z方向から見た平面視において、複数の縦型構造903は、円形状を有する。複数の縦型構造903の各々は、対応する1本のワード線WLと1本の配線SOTLとの間に接続される。
【0047】
以上のような構成のうち、1本の配線SOTL及び1本の配線SOTLに接続された3つの縦型構造901,902,903の集合が、1つのメモリセルMCとして機能する。
【0048】
(断面構造)
図4を参照して、本実施形態のメモリデバイス1における、メモリセルアレイ10の断面構造について説明する。
【0049】
図4は、本実施形態における、メモリセルアレイ10の断面構造の一例を示す断面図である。図4は、図3のIV―IV線に沿った断面を示している。
【0050】
メモリセルアレイ10は、半導体基板20、階層構造L1、及び階層構造L2を含む。階層構造L1は、導電層21-1,23-1,24-1,25-1,26-1,29-1、及び、素子層22-1,27-1,28-1を含む。階層構造L2は、導電層21-2,23-2,24-2,25-2,26-2,29-2、及び、素子層22-2,27-2,28-2を含む。
【0051】
図4に示されるように、階層構造L1,L2は、半導体基板20の上方に設けられている。階層構造L2が、Z方向において、絶縁層(図示せず)を介して、階層構造L1の上方に積層される。階層構造L1,L2の各々は、図3に示された平面レイアウトを有する。
【0052】
半導体基板20と階層構造L1との間に、ロウ選択回路11及びカラム選択回路12等の周辺回路(CMOS回路)が設けられていてもよい。半導体基板20と階層構造L1との間に、回路が形成されていなくてもよい。半導体基板20と階層構造L1との間に回路が形成されない場合、半導体基板20のうち階層構造L1の下方に位置する部分に、STI(Shallow Trench Isolation)構造を有する絶縁体が、半導体基板20内に設けられてもよい。
【0053】
階層構造L1について説明する。
【0054】
導電層21-1が、半導体基板20の上方に、設けられる。導電層21-1は、書き込みビット線WBLとして使用される。導電層21-1は、Y方向に延びる。
【0055】
素子層22-1が、導電層21-1の上面上に、設けられる。素子層22-1は、スイッチング素子SE1として使用される。
【0056】
導電層23-1が、素子層22-1の上面上に設けられる。導電層23-1は、コンタクトとして使用される。素子層22-1及び導電層23-1は、縦型構造901を構成する。
【0057】
導電層24-1が、導電層23-1の上面上に、設けられる。導電層23-1及び素子層22-1は、導電層24-1のY方向における一端側に設けられている。導電層24-1は、配線SOTLとして使用される。導電層24-1は、Y方向に延びる。
【0058】
導電層25-1が、導電層24-1の下面上のうち導電層23-1が設けられる部分とは異なる部分に、設けられる。導電層25-1は、導電層24-1のY方向における他端側に設けられている。導電層25-1は、コンタクトとして使用される。導電層25-1は、縦型構造903を構成する。
【0059】
導電層26-1が、導電層25-1の下面上に設けられる。導電層26-1は、ワード線WLとして使用される。導電層26-1は、X方向に延びる。
【0060】
素子層27-1が、導電層24-1の上面上のうち導電層23-1が設けられる部分と導電層25-1が設けられる部分との間の部分に、設けられる。例えば、素子層27-1は、導電層24-1の中央部に設けられている。素子層27-1は、磁気抵抗効果素子MEとして使用される。
【0061】
素子層28-1が、素子層27-1の上面上に設けられる。素子層28-1は、スイッチング素子SE2として使用される。素子層27-1及び素子層28-1は、縦型構造902を構成する。
【0062】
導電層29-1が、素子層28-1の上面上に設けられる。導電層29-1は、読み出しビット線RBLとして使用される。導電層29-1は、Y方向に延びる。
【0063】
以上のような構成によって、階層構造L1内の1組の導電層24-1及び縦型構造901,902,903は、導電層21-1,26-1,29-1に接続された3端子構造を有する1つのメモリセルMCとして機能する。
【0064】
階層構造L2は、階層構造L1と実質的に同じ構成を有する。すなわち、導電層21-2,23-2,24-2,25-2,26-2,29-2及び素子層22-2,27-2,28-2はそれぞれ、導電層21-1,23-1,24-1,25-1,26-1,29-1及び素子層22-1,27-1,28-1と実質的に同じ構造及び機能を有する。これによって、階層構造L2内の1組の導電層24-2及び縦型構造901,902,903は、導電層21-2,26-2,29-2にそれぞれ接続された3端子構造の1つのメモリセルMCとして機能する。
【0065】
(a-3) 磁気抵抗効果素子及び周辺の配線
図5を参照して、本実施形態のメモリデバイス1の磁気抵抗効果素子ME及び周辺の配線の構成について説明する。
【0066】
図5は、本実施形態のメモリデバイス1における、磁気抵抗効果素子ME及び周辺の配線の断面構造の一例を示している。図5は、図4の領域Vの断面図である。
【0067】
導電層24は、反強磁性層24a、強磁性層24b、及び非磁性層24cを含む。素子層27は、強磁性層27a、非磁性層27b、強磁性層27c、非磁性層27d、及び強磁性層27eを含む。
【0068】
導電層24の構造の詳細について、説明する。
【0069】
反強磁性層24aは、反強磁性を有する導電膜である。反強磁性層24aは、強磁性層24bと交換結合することにより、強磁性層24bの磁化方向を安定化させる。反強磁性層24aは、例えば、白金マンガン(PtMn)を含む。
【0070】
強磁性層24bが、反強磁性層24aの上面上に、設けられる。強磁性層24bは、強磁性を有する導電膜である。強磁性層24bは、強磁性層24bの延びる方向(Y方向)に磁化容易軸方向を有する。強磁性層24bの磁化方向は、形状異方性に加えて、反強磁性層24aとの交換結合によって、Y方向に沿って安定する。強磁性層24bの磁化方向は、強磁性層24b内を流れる電流の方向に応じて反転する。強磁性層24bは、例えば、コバルト鉄(CoFe)を含む。
【0071】
非磁性層24cが、強磁性層24bの上面上に設けられる。非磁性層24cは、非磁性を有する重金属の導電膜である。非磁性層24cは、非磁性層24c内を流れる電流により、スピン軌道トルク(SOT:Spin Orbit Torque)を発生させる。スピン軌道トルクは、強磁性層27aに注入される。非磁性層24cは、強磁性層24b及び強磁性層27aを層間交換結合(Interlayer Exchange Coupling)させる。非磁性層24cは、例えば、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、金(Au)、及び銀(Ag)の中から選択される少なくとも1つの元素を含む。
【0072】
素子層27の構造の詳細について説明する。
【0073】
強磁性層27aが、非磁性層24cの上面上に設けられる。強磁性層27aは、強磁性を有する導電膜である。強磁性層27aは、記憶層(SL)として使用される。強磁性層27aは、層面に垂直な方向(Z方向)に磁化容易軸方向を有する。非磁性層24cとの界面において、Y方向のバイアス磁界が、非磁性層24cを介した強磁性層27aと強磁性層24bとの層間交換結合によって、強磁性層27aに印加される。強磁性層27aに、非磁性層24cにおいて発生したスピン軌道トルクが注入される。強磁性層27aの磁化方向は、Y方向のバイアス磁界及びスピン軌道トルクに基づき、反転するように構成される。
【0074】
強磁性層27aは、鉄(Fe)を含む。強磁性層27aは、更にコバルト(Co)、及びニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つの元素を含み得る。強磁性層27aは、ボロン(B)を更に含み得る。より具体的な例に関して、強磁性層27aは、コバルト鉄ボロン(CoFeB)又は鉄ボロン(FeB)を含む。
【0075】
非磁性層27bが、強磁性層27aの上面上に、設けられる。非磁性層27bは、非磁性を有する絶縁膜である。非磁性層27bは、トンネルバリア層(TB)として使用される。非磁性層27bは、強磁性層27aと強磁性層27cとの間に設けられている。非磁性層27bは、強磁性層27aの結晶化処理において、非磁性層27bと強磁性層27aとの間の界面から結晶質の膜を成長させるための核となるシード材として機能する。非磁性層27bは、層面(膜面)が(001)面に配向したNaCl結晶構造を有する。非磁性層27bは、例えば、酸化マグネシウム(MgO)を含む。
【0076】
強磁性層27cが、非磁性層27bの上面上に設けられる。強磁性層27cは、強磁性を有する導電膜である。強磁性層27cは、参照層(RL)として使用される。強磁性層27cは、層面に垂直な方向(Z方向)に磁化容易軸方向を有する。強磁性層27cの磁化方向は、固定されている。図5の例において、強磁性層27cの磁化方向は、強磁性層27aの方向を向いている。なお、「磁化方向が固定されている」とは、強磁性層27aの磁化方向を反転させ得る大きさのトルクによって、強磁性層27cの磁化方向が変化しないことを意味する。強磁性層27cは、例えば、コバルト白金(CoPt)、コバルトニッケル(CoNi)、及びコバルトパラジウム(CoPd)から選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0077】
非磁性層27dが、強磁性層27cの上面上に、設けられる。非磁性層27dは、非磁性を有する導電膜である。非磁性層27dは、スペーサ層として使用される。非磁性層27dは、例えば、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、バナジウム(V)、及びクロム(Cr)から選択される少なくとも1つの元素を含む。
【0078】
強磁性層27eが、非磁性層27dの上面上に、設けられる。強磁性層27eは、強磁性を有する導電膜である。強磁性層27eは、シフトキャンセル層(SCL)として使用される。強磁性層27eは、層面に垂直な方向(Z方向)に磁化容易軸方向を有する。強磁性層27eは、例えば、コバルト白金(CoPt)、コバルトニッケル(CoNi)、及びコバルトパラジウム(CoPd)から選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0079】
強磁性層27c及び強磁性層27eは、非磁性層27dによって反強磁性的に結合される。すなわち、強磁性層27c及び強磁性層27eは、互いに反平行な磁化方向を有するように結合される。このような強磁性層27c、非磁性層27d、及び強磁性層27eの結合構造を、SAF(Synthetic Anti-Ferromagnetic)構造という。SAF構造により、強磁性層27eは、強磁性層27cの漏れ磁場が強磁性層27aの磁化方向に与える影響を相殺することができる。なお、強磁性層27c,27e及び非磁性層27dの集合(SAF構造)が、参照層とよばれる場合もある。
【0080】
非磁性層27b及び2つの強磁性層27a、27cは、磁気トンネル接合を形成する。磁気トンネル接合を含む磁気抵抗効果素子は、MTJ素子ともよばれる。
【0081】
例えば、磁気抵抗効果素子MEは、円柱状の構造を有する。磁気抵抗効果素子MEのZ方向から見た平面形状は、円形である。例えば、Z方向から見た記憶層(強磁性層)27aの直径は、3nmから50nmである。
【0082】
磁気抵抗効果素子MEは、記憶層SL(27a)及び参照層RL(27c)の磁化方向の相対関係が平行か反平行かによって、低抵抗状態及び高抵抗状態のいずれかを取ることができる。本実施形態のメモリデバイス1は、磁気抵抗効果素子ME内に書き込み電流を流すことなく、参照層RLの磁化方向に対する記憶層SLの磁化方向を制御する。具体的には、配線SOTLに電流を流すことによって発生させたスピン軌道トルクを利用した書き込み方式が、磁気抵抗効果素子MEに対するデータの書き込みに、採用される。
【0083】
配線SOTLに、Y方向に或る大きさの書き込み電流IWR-0を流すと、記憶層SL及び参照層RLの磁化方向の相対関係は、平行になる。記憶層SL及び参照層RLの磁化方向の相対関係が、平行状態である場合、磁気抵抗効果素子MEの抵抗値は最も低くなり、磁気抵抗効果素子MEの抵抗状態は低抵抗状態に設定される。磁気抵抗効果素子MEのこの低抵抗状態は、「P(Parallel)状態」とよばれる。P状態は、例えばデータ“0”の保持状態と規定される。
【0084】
配線SOTLに、書き込み電流IWR-0が流れる向きと反対方向に流れる書き込み電流IWR-1を流すと、記憶層SL及び参照層RLの磁化方向の相対関係は、反平行になる。記憶層SL及び参照層RLの磁化方向の相対関係が、反平行状態である場合、磁気抵抗効果素子MEの抵抗値は最も高くなり、磁気抵抗効果素子MEの抵抗状態は高抵抗状態に設定される。磁気抵抗効果素子MEのこの高抵抗状態は、「AP(Anti-Parallel)状態」とよばれる。AP状態は、例えばデータ“1”の保持状態と規定される。
【0085】
書き込み電流IWR(IWR-0,IWR-1)は、磁気抵抗効果素子MEの記憶層SLの磁化反転閾値電流ithより大きい電流値を有する。磁化反転閾値電流は、記憶層の磁化の向きを反転させることができる閾値の電流値である。
【0086】
なお、以下の説明では、上述したデータの規定方法に従って説明するが、データ“1”及びデータ“0”の規定の仕方は、上述した例に限られない。例えば、P状態をデータ“1”と規定し、AP状態をデータ“0”と規定してもよい。
【0087】
(a-4) スイッチング素子
図6及び図7を参照して、本実施形態のメモリデバイス1のスイッチング素子SEの構成について説明する。
【0088】
スイッチング素子SE1は、主に書き込み動作時にオフ状態からオン状態に切り替わる。これに対して、スイッチング素子SE2は、主に読み出し動作時にオフ状態からオン状態に切り替わる。このように、スイッチング素子SE1及びスイッチング素子SE2は、オフ状態からオン状態に切り替わるタイミングが異なる。このため、スイッチング素子SE1,SE2の好適な電流-電圧特性は、互いに異なる。例えば、スイッチング素子SE1は、スナップバックを伴う電流-電圧特性を有することが好ましい。スイッチング素子SE2は、スナップバックを伴わない電流-電圧特性を有することが好ましい。
【0089】
図6及び図7は、本実施形態のメモリデバイス1における、スイッチング素子SEの特性の一例を示すダイアグラムである。図6は、スナップバックを伴う電流-電圧特性を有するスイッチング素子SE1の電流-電圧特性の一例を示す。図7は、スナップバックを伴わない電流-電圧特性を有するスイッチング素子SE2の電流-電圧特性の一例を示す。
【0090】
図6を参照して、スイッチング素子SE1におけるスナップバックを伴う電流-電圧特性について説明する。図6において、グラフの横軸は電圧(V1)に対応し、グラフの縦軸(Logスケール)は電流(I1)に対応する。
【0091】
スイッチング素子SE1の両端に印加される電圧(印加電圧V1)が0Vから閾値電圧Vth1になると、スイッチング素子SE1に流れる電流(電流I1)は、閾値電流Ith1となる。閾値電流Ith1は、1μA程度であり、無視できる程度に小さい。このため、印加電圧V1が0Vから閾値電圧Vth1までの範囲において、スイッチング素子SE1は、オフ状態となる。
【0092】
電流I1が閾値電流Ith1を超えると、スイッチング素子SE1は、オン状態となると共に、スナップバックが発生する。スナップバックとは、スイッチング素子の電圧降下量(印加電圧の大きさ)が閾値電圧Vth1から減少しつつ、閾値電流Ith1より大きな電流が流れる現象である。電流I1がホールド電流Ihold1(>Ith1)に達すると、スイッチング素子SE1による電圧降下量は、ホールド電圧Vhold1(<Vth1)となる。
【0093】
電圧V1がスナップバックによってホールド電圧Vhold1に達すると、スイッチング素子SE1の電圧降下量は、電流I1の増加によってほとんど変化しない状態となる。
【0094】
このように、スイッチング素子SE1は、オン状態となる際のスイッチング素子SE1の抵抗が閾値電圧Vth1より低いホールド電圧Vhold1に応じた値を有し得る。このため、スイッチング素子SE1は、オン状態となる際に、より大きな電流を流しやすい。
【0095】
図7を参照して、スイッチング素子SE2におけるスナップバックを伴わない電流-電圧特性について説明する。図7において、グラフの横軸は電圧(V2)に対応し、グラフの縦軸(Logスケール)は電流(I2)に対応する。
【0096】
スイッチング素子SE2の両端に印加される電圧(印加電圧V2)が0Vから閾値電圧Vth2になると、スイッチング素子SE2に流れる電流(電流I2)は、閾値電流Ith2となる。閾値電流Ith2は、1μA程度であり、無視できる程度に小さい。このため、印加電圧V2が0Vから閾値電圧Vth2までの範囲において、スイッチング素子SE2は、オフ状態となる。
【0097】
電流I2が閾値電流Ith2を超えると、スイッチング素子SE2は、スナップバックを発生させることなくオン状態となる。これにより、スイッチング素子SE2の電圧降下量は、電流I2の増加によってほとんど変化しない状態となる。
【0098】
このように、スイッチング素子SE2は、オン状態となる際に、電圧降下量が瞬間的に変化しない。このため、スイッチング素子SE2がオン状態となる場合、瞬間的に高い電圧が、スイッチング素子SE2に直列接続される素子(例えば、磁気抵抗効果素子ME)に印加されることを抑制できる。
【0099】
(a-5) 書き込み電流
図8は、本実施形態のメモリデバイス1における、書き込み電流のパルス形状を、模式的に示す波形図である。図8において、グラフの横軸は時間に対応し、グラフの縦軸は電流値に対応する。
【0100】
図8に示されるように、本実施形態において、書き込み電流IWRは、電流値に関して、2つの電流ピークPk1,Pk2を含む。
【0101】
書き込み電流IWRにおいて、2つの電流ピークPk1,Pk2のそれぞれは、電流値i1を有する。電流値i1は、磁気抵抗効果素子MEの磁化反転閾値電流ith以上である。例えば、電流値i1は、30μAから500μA程度である。
【0102】
書き込み電流IWRの電流ピークPk1は、期間T1において、電流値i1を維持する。例えば、書き込み電流IWRの電流ピークPk2は、期間T1において、電流値i1を維持する。電流ピークPk2において電流値i1が維持される期間の長さは、電流ピークPk1において電流値i1が維持される期間T1の長さと異なってもよい。
【0103】
書き込み電流IWRは、2つの電流ピークPk1,Pk2間において、電流値i0を有する。電流値i0は、電流値i1より低く、磁化反転閾値電流ith以上である。なお、電流値i0は、磁化反転閾値電流ithより低くともよい。例えば、2つの電流ピークPk1,Pk2間の期間において、書き込み電流IWRの電流値は、電流値i0に維持される。
【0104】
本実施形態のように、書き込み電流IWRが2つの電流ピークPk1,Pk2を有することによって、SOT-MRAMのデータ書き込みの信頼性が、向上する。
【0105】
(b)動作例
図9乃至図14を参照して、本実施形態のメモリデバイス(例えば、SOT-MRAM)1の動作例について説明する。
【0106】
(b-1)書き込みシーケンス
図9乃至図12を参照して、本実施形態のメモリデバイス1の書き込みシーケンスについて説明する。
【0107】
図9は、本実施形態のメモリデバイス1の書き込みシーケンスにおける、メモリセルアレイ10内の状態を説明するための模式図である。図9の例において、複数のメモリセルMCのうち、メモリセルMC<m,n>にデータが書き込まれる場合が示される。なお、mは、0以上、M以下であり、nは、0以上、N以下である。
【0108】
メモリセルMC<m,n>にデータが書き込まれる場合、電圧VDD又は電圧VSSが、選択されたワード線(選択ワード線)WL<m>及び選択された書き込みビット線(選択書き込みビット線)WBL<n>の各々に、印加される。電圧VDDがワード線WL<m>に印加される場合、電圧VSSが書き込みビット線WBL<n>に印加される。電圧VSSがワード線WL<m>に印加される場合、電圧VDDが書き込みビット線WBL<n>に印加される。
【0109】
選択ワード線WL<m>以外のワード線(非選択ワード線)WL、選択書き込みビット線WBL<n>以外の書き込みビット線(非選択書き込みビット線)WBL、及び、全ての読み出しビット線RBLに、電圧(非選択電圧)VDD/2が印加される。
【0110】
電圧VSSは、メモリデバイス1に用いられる基準電位である。電圧VSSは、例えば、0Vである。電圧VSSに対する電圧VDD(電位差VDD)は、スイッチング素子SE1,SE2をオン状態にする電圧である。電位差VDD/2は、スイッチング素子SE1,SE2をオフ状態にする電圧である。
【0111】
これにより、選択ワード線WL<m>と選択書き込みビット線WBL<n>との間に、電位差VDDが発生する。選択ワード線WL<m>と非選択書き込みビット線WBLとの間に、電位差VDD/2が発生する。選択ワード線WL<m>と読み出しビット線RBLとの間に、電位差VDD/2が発生する。
【0112】
非選択ワード線WLと選択書き込みビット線WBL<n>との間に、電位差VDD/2が発生する。非選択ワード線WLと非選択書き込みビット線WBLとの間に、電位差が発生しない。非選択ワード線WLと読み出しビット線RBLとの間に、電位差が発生しない。
【0113】
選択書き込みビット線WBL<n>と読み出しビット線RBL<n>との間に、電位差VDD/2が発生する。非選択書き込みビット線WBLと対応する読み出しビット線RBLとの間に、電位差が発生しない。
【0114】
このため、スイッチング素子SE1<m,n>は、オン状態となる。スイッチング素子SE1<m,n>を除くスイッチング素子SE1は、オフ状態となる。全てのスイッチング素子SE2<m,n>は、オフ状態となる。
【0115】
これによって、配線SOTL<m,n>を除く全ての配線SOTLに電流を流すことなく、書き込み電流IWRを、選択されたメモリセルMC<m,n>の配線SOTL<m,n>のみに、選択的に流すことができる。
【0116】
書き込み動作において、データの書き込み対象のメモリセルMC<m,n>の状態は、選択状態ともよばれる。メモリセルMC<0,n>~MC<m-1,n>、MC<m+1,n>~MC<M,n>、MC<m,0>~MC<m,n-1>、及びMC<m,n+1>~MC<m,N>の状態は、半選択状態ともよばれる。選択状態及び半選択状態でない全てのメモリセルMCの状態は、非選択状態ともよばれる。
【0117】
図10及び図11は、本実施形態のメモリデバイス1における書き込み動作の一例を示す断面図である。図10及び図11において、選択状態のメモリセルMCに流れる電流、及び磁気抵抗効果素子MEの磁化方向が模式的に示される。図10は、データ“1”を書き込む場合の書き込み動作に対応する。図11は、データ“0”を書き込む場合の書き込み動作に対応する。
【0118】
図10を参照して、データ“1”の書込み動作について説明する。図10の例では、書き込み回路140が、ワード線WL(紙面右側)から書き込みビット線WBL(紙面左側)に向けて書き込み電流IWR-1を流す場合が示される。
【0119】
上述の通り、導電層24の両端において、スイッチング素子SE1をオン状態にする電位差VDDが発生する。書き込み回路140は、書き込み電流IWR-1を流す。電位差VDDの大きさを制御することによって、書込み電流IWR-1が、導電層24(配線SOTL)内に流れる。書き込み電流IWR-1が導電層24内の特に非磁性層24c内を流れることによって、強磁性層27aの磁化方向を強磁性層27cの磁化方向に対して反平行にしようとするスピン軌道トルクが発生する。スピン軌道トルクは、非磁性層24cに近接する強磁性層27aに注入される。
【0120】
加えて、強磁性層24bの磁化方向は、書込み電流IWR-1の流れる方向に揃う。このため、強磁性層27aに、非磁性層24cを介した強磁性層27aと強磁性層24bとの層間交換結合によって発生するY方向のバイアス磁界Mbが印加される。
【0121】
これによって、強磁性層27aの磁化方向は、スピン軌道トルクと、交換結合によって生じるY方向のバイアス磁界Mbによるアシストと、によって、強磁性層27cの磁化方向に対して反平行な方向に反転する。
【0122】
図11を参照してデータ“0”の書き込み動作について説明する。図11の例では、書き込み回路140が、書き込みビット線WBL(紙面左側)からワード線WL(紙面右側)に向けて書込み電流IWR-0を流す場合が示される。
【0123】
上述の通り、導電層24の両端に、スイッチング素子SE1をオン状態にする電位差VDDが発生する。書き込み回路140は、書き込み電流IWR-1を流す。電位差VDDの大きさを制御することにより、導電層24内に、書き込み電流IWR-0が流れる。書き込み電流IWR-0が導電層24内の特に非磁性層24c内を流れる。これによって、強磁性層27aの磁化方向を強磁性層27cの磁化方向に対して平行にしようとするスピン軌道トルクが発生する。スピン軌道トルクは、非磁性層24cに近接する強磁性層27aに注入される。
【0124】
加えて、強磁性層24bの磁化方向は、書込み電流IWR-0の流れる方向に揃う。このため、強磁性層27aに、非磁性層24cを介した強磁性層27aと強磁性層24bとの間の層間交換結合によって発生するY方向のバイアス磁界Mbが印加される。
【0125】
これによって、強磁性層27aの磁化方向は、スピン軌道トルクと、交換結合によって生じるY方向のバイアス磁界Mbによるアシストと、によって、強磁性層27cの磁化方向に対して平行な方向に反転する。
【0126】
本実施形態のメモリデバイス1は、上記のように書き込みデータに応じて、データの書き込み対象のメモリセルMC<m,n>を選択状態に設定した状態で、2つの電流ピークPk1,Pk2を有する書き込み電流IWRを、選択状態のメモリセルMC<m,n>に供給する。書き込み電流IWRは、書き込まれるデータに応じた方向に、導電層24(配線SOTL)内を流れる。
【0127】
書き込み電流IWRの供給時、2つの電流ピークPk1,Pk2を有する書き込み電流IWRのパルス形状(書き込み電流IWRの電流値)を制御するために、書き込みビットWBL線及びワード線WLのうち高電位側の配線に印加される電圧VDDの電圧値が、制御され得る。
【0128】
なお、書き込み電流IWRの電流値の変化に応じて、メモリセルMCの非選択状態を維持するために、非選択の各種の配線に印加される電圧の電圧値も、変動され得る。
【0129】
図12は、本実施形態のメモリデバイス1における、書き込み電流IWRのパルス波形を示す図である。図12において、グラフの横軸は時間に対応し、グラフの縦軸は電流値に対応する。
【0130】
図12に示されるように、書き込みデータに応じた方向に流れる書き込み電流IWRの供給時において、時刻t11において、書き込み電流IWRの立ち上りが、開始する。或る立ち上り期間(立ち上り速度)において、書き込み電流IWRの電流値は、ゼロから上昇する。書き込み電流IWRの立ち上り速度は、2つの時刻間の期間における電流値の上昇量から得られる値である。
【0131】
時刻t12において、書き込み電流IWRの電流値は、書き込み電流IWRの最大値である電流値i1に達する。電流値i1は、磁気抵抗効果素子MEの磁化反転閾値電流ith以上の大きさを有する。
【0132】
時刻t12から時刻t13までの期間T1において、書き込み電流IWRの電流値は、電流値i1に維持される。これによって、書き込み電流IWRの第1の電流ピークPk1が、発生する。
【0133】
電流ピークPk1において、電流値i1の供給によって、記憶層(SL)27aの磁化方向は、ある磁化反転確率に基づいて、スピン軌道トルク(及びバイアス磁界)によって、反転する。但し、磁化反転確率に応じて、記憶層(SL)27aの磁化方向は、反転しない場合もある。
【0134】
時刻t13において、第1の電流ピークPk1における書き込み電流IWRの立ち下りが、開始する。或る立ち下り期間(立ち下り速度)において、書き込み電流IWRの電流値は、下降する。書き込み電流IWRの立ち下り速度は、2つの時刻間の期間における電流値の下降量から得られる値である。
【0135】
例えば、電流ピークPk1の立ち下り期間に応じて、磁気抵抗効果素子MEの記憶層27aの磁気緩和時間の長さが制御され得る。
【0136】
時刻t14において、書き込み電流IWRの電流値は、電流値i1より低い電流値ixに達する。例えば、電流値ixは、磁化反転閾値電流ithより高い。但し、電流値ixは、磁化反転閾値電流ithと同じ又は低くともよい。
【0137】
書き込み電流IWRの電流値が電流値i1から電流値ixに下降した後、書き込み電流IWRの電流値は、電流値ixから上昇する。なお、書き込み電流IWRの電流値は、或る期間において、電流値ixに維持されてもよい。
【0138】
時刻t14において、第2の電流ピークPk2における書き込み電流IWRの立ち上りが、開始する。或る立ち上り期間(立ち上り速度)に応じて、書き込み電流IWRの電流値は、第2の電流ピークPk2の最大値に向かって、上昇する。
【0139】
時刻t15において、書き込み電流IWRの電流値は、第2の電流ピークPk2における電流値i1に達する。
【0140】
時刻t15から時刻t16までの期間T1において、書き込み電流IWRの電流値は、電流値i1に維持される。これによって、書き込み電流IWRの第2の電流ピークPk2が、発生する。
【0141】
電流ピークPk1の期間において記憶層27aの磁化方向が反転していない場合、記憶層27aの磁化方向は、電流ピークPk2における電流値i1の供給によって、ある磁化反転確率に基づいて、反転する。但し、磁化反転確率に応じて、記憶層27aの磁化方向は、反転しない場合もある。
【0142】
時刻t13から第2の電流ピークPk2中の時刻txまでの期間Tdは、記憶層27aの緩和時間を含む。電流ピークPk2に起因するスピン軌道トルクは、記憶層27aの磁化が平衡状態となる前の緩和時間中に、記憶層27aに作用する。第1の電流ピークPk1において、記憶層27aの磁化方向が初期状態から変化していない場合、記憶層27aの磁化は、第2の電流ピークPk2に起因するスピン軌道トルク(及びバイアス磁界)によって、或る磁化反転確率に基づいて、反転する。
【0143】
時刻t16において、書き込み電流IWRの第2の電流ピークPk2からの立ち下りが、開始する。或る立ち下り期間において、書き込み電流IWRの電流値は、下降する。
【0144】
時刻t17において、書き込み電流IWRの電流値は、ゼロに達する。これによって、書き込み電流IWRの供給は、停止する。
【0145】
この後、各種の配線に印加される電圧は、電圧VSSに設定される。
【0146】
以上の動作によって、本実施形態のメモリデバイスの書き込みシーケンスは、終了する。
【0147】
なお、データ“0”の書き込み電流IWR-0及びデータ“1”の書き込み電流IWR-1は、電流の流れる方向が互いに異なるのみで、電流のパルス波形は実質的に同じである。
【0148】
(b-2)読み出しシーケンス
図13及び図14を参照して、本実施形態のメモリデバイス1の読み出しシーケンスについて説明する。
【0149】
図13は、本実施形態のメモリデバイスにおける読み出しシーケンスの一例を示す回路図である。図13の例において、図9の場合と同様に、メモリセルMC<m,n>が選択された場合が示される。
【0150】
メモリセルMC<m,n>からデータが読み出される場合、選択読み出しビット線RBL<n>及び選択ワード線WL<m>のそれぞれに、電圧VDD及びVSSが印加される。選択ワード線WL<m>以外の非選択ワード線WL、選択読み出しビット線RBL<n>以外の非選択読み出しビット線RBL、及び全ての書き込みビット線WBLに、電圧VDD/2が印加される。
【0151】
これによって、選択ワード線WL<m>と選択読み出しビット線RBL<n>との間に、電位差VDDが発生する。選択ワード線WL<m>と非選択読み出しビット線RBLとの間に、電位差VDD/2が発生する。選択ワード線WL<m>と非選択書き込みビット線WBLとの間に、電位差VDD/2が発生する。
【0152】
非選択ワード線WLと選択読み出しビット線RBL<n>との間に、電位差VDD/2が発生する。非選択ワード線WLと非選択読み出しビット線RBLとの間に、電位差は、発生しない。非選択ワード線WLと非選択書き込みビット線WBLとの間に、電位差は、発生しない。
【0153】
書き込みビット線WBL<n>と選択読み出しビット線RBL<n>との間に、電位差VDD/2が発生する。非選択書き込みビット線WBLと対応する非選択読み出しビット線RBLとの間に、電位差は発生しない。
【0154】
このため、スイッチング素子SE2<m,n>は、オン状態となる。スイッチング素子SE2<m,n>を除く全てのスイッチング素子SE2は、オフ状態となる。全てのスイッチング素子SE1は、オフ状態となる。
【0155】
したがって、選択状態のメモリセルMC<m,n>の磁気抵抗効果素子ME<m,n>を除く磁気抵抗効果素子MEに電流を流すことなく、磁気抵抗効果素子ME<m,n>に電流を選択的に流すことができる。
【0156】
図14は、本実施形態のメモリデバイス1の読み出しシーケンスを説明するための模式図である。図14において、選択状態のメモリセルMCに流れる電流、及び磁気抵抗効果素子MEの磁化方向が、模式的に示される。図14の例において、磁気抵抗効果素子ME(紙面上側)からワード線WL(紙面右側)に向けて読み出し電流IRDが流れる場合が示される。
【0157】
図14に示されるように、上述の通り、素子層27の上端と導電層24の右端との間に、スイッチング素子SE2をオン状態にする電位差VDDが発生する。電位差VDDを制御することにより、素子層27の上端から導電層24の右端に向けて、読み出し電流IRDが流れる。読み出し回路15は、読み出し電流IRDをセンスする。
【0158】
読み出し電流IRDが素子層27内を流れることにより、読み出し電流IRDの電流値は、素子層27の抵抗状態に応じて変化する。読み出し回路15は、読み出し電流IRDの大きさに基づき、素子層27が高抵抗状態であるか低抵抗状態であるかを判定できる。読み出し回路15は、素子層27の抵抗状態の判定結果に基づいて、データを判別する。
【0159】
なお、読み出し電流IRDの電流値は、磁気抵抗効果素子MEの磁化反転閾値電流ithより小さくなるように制御される。これにより、読み出し電流IRDによる記憶層27aの磁化方向の反転及び非磁性層27bの絶縁破壊を抑制することができる。
【0160】
(c)検証
図15乃至図18を参照して、本実施形態のメモリデバイスの検証について説明する。
【0161】
図15は、本実施形態のメモリデバイスの書き込みシーケンスにおける、磁気抵抗効果素子の記憶層の磁化反転のモデルを示す模式図である。
【0162】
図15において、グラフの横軸は時間に対応し、グラフの縦軸は磁性層の平均磁化に対応する。磁気抵抗効果素子の磁性層(記憶層)の磁化の初期状態は、“+1”の値で示されている。磁性層の磁化の反転状態は、“-1”の値で示されている。
【0163】
図15において、破線の特性線A0は、2つの電流ピークPk1,Pk2を含む書き込み電流IWRにおいて、1つ目の電流ピークPk1で磁性層の磁化が反転した場合の平均磁化の変化を示している。図15において、実線の特性線A1は、2つの電流ピークPk1,Pk2を含む書き込み電流IWRにおいて、1つ目の電流ピークPk1で磁性層の磁化が反転せずに、2つ目の電流ピークPk2で磁性層の磁化が反転した場合の平均磁化の変化を示している。
【0164】
図15に示されるように、時刻t0において、配線SOTLに対する書き込み電流IWRの供給が、開始される。書き込み電流IWRの1つ目の電流ピークPk1が、印加されると、スピン軌道トルクが発生する。
【0165】
電流ピークPk1の供給期間において、発生したスピン軌道トルクが、記憶層に注入される。注入されたスピン軌道トルクが、記憶層の磁化に作用する。スピン軌道トルクによって、記憶層の磁化は、傾く。このような磁化の傾きによって、平均磁化の値は、+1から0へ変化する。
【0166】
なお、配線SOTLが強磁性層24b及び非磁性層24cを含む場合、層間交換結合に起因するバイアス磁界も、スピン軌道トルクと共に、記憶層の磁化の変化に作用する。
【0167】
1つ目の電流ピークPk1によって、記憶層の磁化は、或る確率(p)で反転する。記憶層の磁化が反転した場合、平均磁化の値は、0から-1に変化する。これに対して、記憶層の磁化は、記憶層に生じた熱擾乱の影響などによって、或る確率(1-p)で反転しない場合もある。記憶層の磁化が反転しない場合、平均磁化の値は、+1に戻る。
【0168】
この後、時刻t1において、書き込み電流IWRの2つ目の電流ピークPk2が、印加される。2つ目の電流ピークPk2に起因するスピン軌道トルクが、発生する。2つ目の電流ピークPk2の供給期間において、発生したスピン軌道トルクが、磁性層に注入される。
【0169】
1つ目の電流ピークPk1によって記憶層の磁化方向が反転した場合、2つ目の電流ピークPk2に起因するスピン軌道トルクは、記憶層の磁化の反転に作用しにくくなる。したがって、1つ目の電流ピークPk1によって反転された記憶層の磁化は、再び反転することはほとんど無い。
【0170】
1つ目の電流ピークPk1によって記憶層の磁化方向が反転しなかった場合、2つ目の電流ピークPk2に起因するスピン軌道トルクは、記憶層の磁化に作用する。例えば、バイアス磁界も、再び、記憶層の磁化に作用する。
【0171】
2つ目の電流ピークPk2に起因するスピン軌道トルク(及びバイアス磁界)によって、記憶層の平均磁化は、+1から0に傾く。記憶層の磁化は、或る確率(p)に基づいて、反転する。記憶層の磁化の反転が生じた場合、平均磁化の値は、0から-1に変化する。なお、2つ目の電流ピークPk2においても、記憶層の磁化は、或る確率(1-p)で反転しない場合もある。
【0172】
以上のようなモデルによって、複数の電流ピークPk1,Pk2を含む書き込み電流IWRによるデータの書き込みが、実現され得る。
【0173】
なお、1つの電流ピークの書き込み電流により、磁性層(記憶層)の磁化方向の反転確率が“p”で示され、反転した磁化が元の方向に戻る確率が“q”で示される場合、2つの電流ピークを含む書き込み電流による記憶層の磁化方向の反転確率(書き込み確率)Pは、以下の式(1)で示される。
【0174】
P = p(1―q)+(1-p)p ・・・(式1)
2回の電流ピークの供給の書き込み確率Pが1回の電流ピークの供給の書き込み確率pより大きくなる(P>p)には、式1に基づいてq<1-pの関係が満たされる。また、書き込み時に外部磁場が与えられているので、q<pとなる。pとqがこの2つの範囲を満たすとき、2回の電流ピークの供給を含む書き込みシーケンスによって書き込みエラー率は、下がる。
書き込み電流IWRに含まれる電流ピークPkの数が“s”で示され、かつ反転した磁化が元の向きに戻る確率が小さい(q=0)場合、複数の電流ピークを含む書き込み電流による記憶層の磁化方向の反転確率(書き込み確率)Pは、以下の式(2)で示される。
【0175】
P = 1-(1-p) ・・・(式2)
式(1)のqが0であるとき、式1は、P=2p-pとなり、s=2である場合の式(2)に、一致する。
【0176】
図16は、本実施形態のメモリデバイス1の検証結果を説明するためのグラフである。
【0177】
図16において、グラフの横軸は1つの電流ピークを含む書き込み電流を用いた場合の書き込みエラー率に対応し、グラフの縦軸は複数の電流ピークを含む書き込み電流を用いた場合の書き込みエラー率に対応する。
【0178】
図16において、四角のプロットは、書き込み電流の電流ピークが1つである場合に対応し、丸のプロットは、書き込み電流の電流ピークが2つである場合に対応し、三角のプロットは、書き込み電流の電流ピークが3つである場合に対応する。図16において、“spec”は、メモリデバイスに要求されるスペック値を示す。
【0179】
図16に示されるように、書き込み電流IWRに含まれる電流ピークの数が増加するにしたがって、書き込みエラー率は、下がる。尚、図16の例はq=0の場合を示しているが、q>0の場合でも複数回の電流ピークの供給における書き込み確率Pがpより大きくできるpの範囲がある。その範囲内のpが設定されることによって書き込みエラー率は、低減され得る。
【0180】
図17は、本実施形態のメモリデバイスの検証結果を説明するためのグラフである。
【0181】
図17において、グラフの横軸は、磁性層の緩和定数に対応し、グラフの縦軸は、磁化反転確率に対応する。実線によって示されている特性P1a,P1bは、書き込み電流が2つの電流ピークを含む場合における特性を示している。破線によって示されている特性P2a,P2bは、書き込み電流が1つの電流ピークを含む場合における特性を示している。特性P1a,P2aは、電流ピークにおける書き込み電流IWRの電流密度が1.4×1012A/mである場合の特性を示している。特性P1b,P2bは、電流ピークにおける書き込み電流の電流密度が1.3×1012A/mである場合の特性を示している。
【0182】
図17に示されるように、記憶層の磁化反転確率は、2つの電流ピークを含む書き込み電流によって、向上する。
【0183】
図18は、本実施形態のメモリデバイスの検証結果を説明するためのグラフである。
【0184】
図18において、グラフの横軸は、磁性層の緩和定数に対応し、グラフの縦軸は、磁化反転確率に対応する。書き込み電流IWRは、2つの電流ピークを含む。
【0185】
実線によって示されている特性P3a,P3bは、書き込み時間及び緩和時間のそれぞれが、1nsに設定されている場合における特性を示している。破線によって示されている特性P4a,P4bは、書き込み時間及び緩和時間のそれぞれが、5nsに設定されている場合における特性を示している。特性P3a,P4aは、電流ピークにおける書き込み電流IWRの電流密度が1.4×1012A/mである場合の特性を示している。特性P3b,P4bは、電流ピークにおける書き込み電流IWRの電流密度が1.3×1012A/mである場合の特性を示している。
【0186】
図18に示されるように、書き込み電流IWRが2つの電流ピークPk1,Pk2を含んでいる場合、書き込み時間及び緩和時間が短縮されていても、高い磁化反転確率が、維持され得る。
【0187】
以上のように、本実施形態のメモリデバイス1は、書き込み電流IWRが複数の電流ピークPkを含むことによって、書き込みエラーを抑制できる。
【0188】
(d)まとめ
本実施形態のメモリデバイス1は、書き込み電流IWRによって発生するスピン軌道トルクを用いて、メモリ素子としての磁気抵抗効果素子MEにデータを書き込む。
【0189】
本実施形態のメモリデバイス1において、図8又は図12に示されるように、書き込み電流IWRは、複数の電流ピークPk1,Pk2を含む。
【0190】
本実施形態のように、書き込み電流IWRが複数の電流ピークPk1,Pk2を含む場合、磁気抵抗効果素子MEの記憶層27aの磁化方向が、先行の電流ピークPk1の供給時に意図せずに反転しなかったとしても、後続の電流ピークPk2の供給によって、記憶層27aの磁化方向が、反転し得る。
【0191】
この結果として、本実施形態のメモリデバイス1は、書き込みシーケンスにおいて、記憶層27aの磁化方向が反転しないエラーの発生を、低減できる。
【0192】
以上のように、実施形態のメモリデバイス1は、メモリデバイスの信頼性を向上できる。
【0193】
(2)第2の実施形態
図19乃至図21を参照して、第2の実施形態のメモリデバイスについて、説明する。
【0194】
(a)構成例
図19は、第2の実施形態のメモリデバイスにおける、磁気抵抗効果素子及び周辺の配線の断面構造の一例を示す断面図である。
【0195】
図19に示されるように、本実施形態において、メモリセルアレイ10は、導電層30をさらに含む。
【0196】
導電層(配線)30が、非磁性層24cの下方に設けられる。例えば、反強磁性層24a及び強磁性層24bは、配線SOTL内に設けられない。
【0197】
導電層30は、磁気抵抗効果素子MEに印加する磁場を発生させるための導電膜である。導電層30は、導電層24の長辺方向(Y方向)に対して直交する方向(X方向)に延びる。導電層30は、例えば、メモリセルMC内のその他の全ての構成(導電層21,23,24,25,26,29、及び素子層22,27,28)から電気的に絶縁される。導電層30は、X方向に沿った一端から他端に向けて電流を双方向に流すことができるように構成される。
【0198】
図19の例において、導電層30が非磁性層24cの下方に設けられる場合が示されたが、これに限定されない。例えば、導電層30は、非磁性層24cの上方(例えば、導電層29の上方)に設けられてもよい。
【0199】
書き込み回路14は、書き込みシーケンスにおいて、電流を導電層30に流す。導電層30に電流が流れた場合、導電層30は、磁場を発する。磁場の大きさは、例えば、10Oeから500Oeである。
【0200】
(b)動作例
本実施形態のメモリデバイス1の書き込みシーケンスについて説明する。
【0201】
本実施形態のメモリデバイス1の書き込みシーケンスにおいて、メモリセルアレイ10内及びメモリセルMC内の各種の配線に印加される電圧は、図9の例と同じとする。
【0202】
図20及び図21は、本実施形態のメモリデバイスにおける書き込みシーケンスの一例を説明するための断面図である。
【0203】
図20を参照して、データ“1”の書き込みシーケンスについて説明する。図20の例において、書き込み電流IWR-1は非磁性層24c内をワード線WL(紙面右側)から書き込みビット線WBL(紙面左側)に向かう方向(-Y方向)に流れ、電流Iaは導電層30内を紙面奥側から紙面手前側に向かう方向(+X方向)に流れる。
【0204】
上述の通り、導電層24の両端に、電位差VDDが発生する。これによって、スイッチング素子SE1は、オンする。電位差VDDを制御することにより、導電層24内に、複数の電流ピークPk1,Pk2を有する書き込み電流IWR-1が流れる。
【0205】
図20に示されるように、書き込み電流IWR-1が、非磁性層24c内を流れる。これによって、スピン軌道トルクが発生する。スピン軌道トルクは、非磁性層24cに近接する強磁性層27aに注入される。
【0206】
書き込み電流IWR-1に起因するスピン軌道トルクは、強磁性層27aの磁化方向を強磁性層27cの磁化方向に対して反平行にするように、作用する。
【0207】
加えて、電流Iaが、導電層30内を流れる。電流IaはX方向に流れる電流であるため、YZ平面内において電流Iaを中心とする円状の磁場Mex1が、導電層30から発生する。この円状の磁場Mex1の向きは、強磁性層27aと交差する部分において、-Y方向(紙面左側)を向く。
【0208】
これによって、強磁性層27aの磁化方向は、スピン軌道トルクに加えて、電流Iaによって発生する磁場Mex1によるアシストによって、強磁性層27cの磁化方向に対して反平行な方向に反転する。
【0209】
この結果として、データ“1”が、データの書き込み対象のメモリセルMC<m、n>に書き込まれる。
【0210】
図21を参照して、データ“0”の書き込みシーケンスについて、説明する。図21の例において、書き込み電流IWR-0は非磁性層24c内を書き込みビット線WBL(紙面左側)からワード線WL(紙面右側)に向かう方向(+Y方向)に流れ、かつ、電流Iaが導電層30内を紙面手前側から紙面奥側に向かう方向(-X方向)に流れる。
【0211】
上述のように、導電層24の両端に、電位差VDDが発生する。これによって、スイッチング素子SE1は、オンする。電位差VDDの大きさの制御によって、書き込み電流IWR-0が、導電層24内に流れる。
【0212】
図21に示されるように、書き込み電流IWR-0が、非磁性層24c内を流れることによって、スピン軌道トルクが、発生する。スピン軌道トルクは、非磁性層24cに近接する強磁性層27aに注入される。
【0213】
書き込み電流IWR-0に起因するスピン軌道トルクは、強磁性層27aの磁化方向を強磁性層27cの磁化方向に対して平行にするように、作用する。
【0214】
加えて、電流Iaが、導電層30内を流れる。電流Iaは、-X方向に流れる電流であるため、YZ平面内において電流Iaを中心とする円状の磁場Mex2が発生する。発生した円状の磁場Mex2の向きは、強磁性層27aと交差する部分では、+Y方向を向く。
【0215】
これにより、強磁性層27aの磁化方向は、スピン軌道トルクに加えて、電流Iaによって発生する磁場Mex2によるアシストによって、強磁性層27cの磁化方向に対して平行な方向に反転する。
【0216】
この結果として、データ“0”が、データの書き込み対象のメモリセルMC<m,n>に書き込まれる。
【0217】
(c)まとめ
本実施形態において、導電層30は、配線SOTLに対して直交する方向に延びる。メモリデバイス1は、書き込みシーケンスにおいて、導電層30に電流Iaを流すように構成される。
【0218】
これによって、導電層30は、強磁性層27aに対して、書き込み電流IWRに平行な磁場を印加できる。これによって、磁気抵抗効果素子の記憶層の磁化反転確率を向上できる。
【0219】
したがって、本実施形態のメモリデバイス1は、メモリデバイスの信頼性を向上できる。
【0220】
(3)第3の実施形態
図22を参照して、第3の実施形態のメモリデバイスについて説明する。
【0221】
図22は、本実施形態のメモリデバイス1の書き込み電流を説明するための模式図である。
【0222】
図22に示されるように、書き込み電流IWRzに含まれる複数の電流ピークPk1,Pkzは、互いに異なる極性を有していてもよい。
【0223】
書き込み電流IWRzは、正の極性の電流ピークPk1と負の極性の電流ピークPkzとを含む。
【0224】
書き込み電流IWRzにおける電流ピークPk1は、正の電流値i1を有する。電流値i1の絶対値は、磁気抵抗効果素子MEの磁化反転閾値電流“+ith”の絶対値より大きい。書き込み電流IWRzにおける電流ピークPkzは、負の電流値izを有する。電流値-izは、負の値を有する磁化反転閾値電流“-ith”以下である。電流値-izの絶対値は、磁化反転閾値電流の絶対値(|ith|)以上である。
【0225】
電流ピークPkzにおける書き込み電流IWRzの流れる方向は、電流ピークPk1における書き込み電流IWRzの流れる方向に対して反対となる。
【0226】
時刻t21において、1つ目の電流ピークPk1における電流の立ち上りが開始する。時刻t22において、電流ピークPk1における最大の電流値i1に達する。時刻t22から時刻t23までの期間T1において、書き込み電流IWRzの電流値は、電流値i1に維持される。時刻t23において、電流ピークPk1における電流の立ち下りが、開始する。例えば、時刻t24において、書き込み電流IWRzの電流値は、磁化反転閾値電流(+ith)程度になる。時刻t25において、書き込み電流IWRzの電流値は、ゼロになる。
【0227】
このように、時刻t21から時刻t25までの期間において、書き込み電流IWRzの正の極性の電流ピークPk1が、配線SOTL内に供給される。
【0228】
時刻t25において、2つ目の電流ピークPkzにおける電流の立ち下りが開始する。時刻t26において、電流ピークPkzにおける最小の電流値-izに達する。時刻t26から時刻t27までの期間T1において、書き込み電流IWRzの電流値は、電流値-izに維持される。時刻t27において、電流ピークPkzにおける電流の立ち上りが、開始する。時刻t28において、書き込み電流IWRzの電流値は、ゼロになる。
【0229】
このように、時刻t25から時刻t28までの期間において、書き込み電流IWRzの負の極性の電流ピークPk2が、配線SOTL内に供給される。
【0230】
例えば、書き込み電流IWRzの供給時において、図19の導電層30からの磁場が、印加される。電流ピークPkzの供給期間中に印加される磁場の向きは、電流ピークPk1の供給期間中に印加される磁場の向きと異なる。
【0231】
書き込み電流IWRzの供給時、正の電流値i1を有する電流ピークPk1が導電層24(配線SOTL)に供給されている期間において、例えば、図21の例と同様に、+Y方向を向く磁場が、磁気抵抗効果素子MEの記憶層27aに印加される。書き込み電流IWRzの供給時、負の電流値izを有する電流ピークPkzが導電層24に供給されている期間において、例えば、図20の例と同様に、-Y方向を向く磁場が、磁気抵抗効果素子MEの記憶層27aに印加される。
【0232】
上述のように、書き込み回路14は、メモリセルMCに書き込まれるデータ(データ“0”又はデータ“1”)に応じて、書き込み電流IWRzを、選択ワード線WL(紙面右側)から書き込みビット線WBL(紙面左側)に向けて、又は、書き込みビット線WBLから選択ワード線WLに向けて、配線STOL内に流す。
【0233】
メモリデバイス1において、或る方向に流れる書き込み電流のスピン軌道トルクに起因する磁気抵抗効果素子MEの磁化反転確率が、或る方向に対して反対の方向に流れる書き込み電流のスピン軌道トルクに起因する磁化反転確率と大きく異なる場合に、本実施形態のように、異なる極性の電流ピークPk1,Pkzを含む書き込み電流IWRzは、データの書き込みの信頼性の向上に寄与する。
【0234】
以上のように、本実施形態のメモリデバイスは、メモリデバイスの信頼性を向上できる。
【0235】
(4)変形例
図23乃至図27を参照して、本実施形態のメモリデバイスの変形例について、説明する。
【0236】
図23は、本実施形態のメモリデバイス1の変形例における、書き込み電流IWRのパルス形状を示す波形図である。図23において、グラフの横軸は時間に対応し、グラフの縦軸は電流値に対応する。
【0237】
図23に示されるように、書き込み電流IWRに含まれる複数の電流ピークPk1,Pk3の電流値が、互いに異なっていてもよい。
【0238】
電流ピークPk1は、電流値i1を有する。電流ピークPk3は、電流値i1より低い電流値i3を有する。電流値i3は、磁化反転閾値電流ith以上である。
【0239】
なお、電流ピークPk3の電流値が、電流ピークPk1の電流値より高くともよい。
【0240】
図24は、本実施形態のメモリデバイス1の変形例における、書き込み電流IWRのパルス形状を示す波形図である。図24において、グラフの横軸は時間に対応し、グラフの縦軸は電流値に対応する。
【0241】
図24に示されるように、電流ピークPk4の供給期間T2の長さが、電流ピークPk1の供給期間T1の長さと異なってもよい。
【0242】
例えば、電流ピークPk1において、電流値i1は、時刻t12から時刻t13までの期間T1内に供給される。例えば、電流ピークPk4において、電流値i1は、時刻t15から時刻t16aまでの期間T2内に供給される。期間T2は、期間T1より短い。
【0243】
なお、期間T2が、期間T1より長くともよい。
【0244】
図25は、本実施形態のメモリデバイス1の変形例における、書き込み電流IWRのパルス形状を示す波形図である。図25において、グラフの横軸は時間に対応し、グラフの縦軸は電流値に対応する。
【0245】
図25に示されるように、書き込み電流IWRは、3つ以上の電流ピークPkを含んでもよい。例えば、書き込み電流IWRは、3つ電流ピークPk1,Pk2,Pk5を含んでいてもよい。
【0246】
なお、各電流ピークPk1,Pk2,Pk5の電流値(最大値)は、異なってもよい。各電流ピークPk1,Pk2,Pk5の供給期間T1の長さは、異なってもよい。
【0247】
図26は、本実施形態のメモリデバイスの変形例における、書き込み電流IWRのパルス形状を示す波形図である。図26において、グラフの横軸は時間に対応し、グラフの縦軸は電流値に対応する。
【0248】
図26に示されるように、各電流ピークPk1,Pk2において、電流ピークPkの立ち上り速度は、ピークの立ち下り速度と異なってもよい。
【0249】
例えば、電流ピークPk1の立ち上りにおいて、期間Taにおいて電流値ixから電流値i1に変化する。電流ピークPk1の立ち下りにおいて、期間Tbにおいて電流値i1から電流値ixに変化する。
【0250】
期間Tbは、期間Taより長い。
【0251】
このように、書き込み電流IWRの電流ピークPk1において、電流の立ち上り速度の絶対値は、電流の立ち下り速度の絶対値より大きい。
【0252】
なお、書き込み電流IWRの立ち上り速度の絶対値は、書き込み電流IWRの立ち下り速度の絶対値より小さくともよい。
【0253】
図27は、本実施形態のメモリデバイス1における、書き込み電流IWRのパルス形状を示す波形図である。図27において、グラフの横軸は時間に対応し、グラフの縦軸は電流値に対応する。
【0254】
図27に示されるように、書き込み電流IWRにおいて、1つ目の電流ピークPk1における電流の立ち上り速度は、2つ目の電流ピークPk2zにおける電流の立ち上り速度と異なってもよい。例えば、電流ピークPk1において、書き込み電流IWRの電流値は、期間Taにおいて電流値ixから電流値i1に変化する。電流ピークPk2zにおいて、書き込み電流IWRの電流値は、期間Tcにおいて、電流値ixから電流値i1に変化する。期間Tcは、期間Taより短い。したがって、電流ピークPk2zにおける電流の立ち上り速度は、第1の電流ピークPk1における電流の立ち上り速度より速い。
【0255】
例えば、第2の電流ピークPk2zは、電流値が一定の値に維持される期間が、設けられなくともよい。
【0256】
電流ピークPk1における電流の立ち下り速度は、電流ピークPk2zにおける電流の立ち下り速度と異なってもよい。例えば、電流ピークPk1において、書き込み電流IWRの電流値は、期間Tbにおいて電流値i1から電流値ixに変化する。電流ピークPk2において、書き込み電流IWRの電流値は、期間Tbより短い期間Tdにおいて、電流値i1から電流値ixに変化する。このように、第1の電流ピークPk1における電流の立ち下り速度は、第2の電流ピークPk2zにおける電流の立ち下り速度より遅い。
【0257】
複数の電流ピークPk1,Pk2zを有する書き込み電流IWRにおいて、2つ目の電流ピークPk2zは、1つ目の電流ピークPk1の供給に応じた磁性層(例えば、記憶層)の磁気緩和時間内に、供給されることが望ましい。電流ピークPk2zが磁性層の磁気緩和時間内に供給された場合、電流ピークPk2zに起因する磁化反転確率(書き込み確率)が、向上する。
【0258】
この結果として、メモリデバイス1のデータの書き込みの信頼性は、向上する。
【0259】
なお、スピン軌道トルクを用いたデータ書き込み方式の磁気メモリデバイスにおいて、データの書き込みシーケンス時、メモリセルMC(配線SOTL)に印加される電圧(書き込み電圧)が、上述の図8図12、及び図22乃至図27の何れかのパルス波形のような、複数の電圧ピークを含む電圧パルスであってもよい。
【0260】
以上のように、各変形例のメモリデバイスは、上述の実施形態のメモリデバイスと実質的に同じ効果を得ることができる。
【0261】
したがって、実施形態のメモリデバイスの変形例は、メモリデバイスの信頼性を向上できる。
【0262】
(5) その他
上述の実施形態のメモリデバイスにおいて、磁気抵抗効果素子MEの磁化方向が磁性層の層面に垂直である場合について説明したが、これに限定されない。例えば、磁気抵抗効果素子MEの磁性層の磁化方向が、層面に平行であってもよい。
【0263】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0264】
1:メモリデバイス、10:メモリセルアレイ、11:ロウ選択回路、12:カラム選択回路、13:デコード回路、14:書き込み回路、15:読み出し回路、16:電圧生成回路、17:入出力回路、18:制御回路、ME:磁気抵抗効果素子、SE1,SE2:スイッチング素子。
図1
図2
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図5
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