(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013526
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】制御情報修正方法、制御情報修正装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20240125BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20240125BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20240125BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20240125BHJP
【FI】
B23K9/095 510D
B23K9/04 Z
B23K31/00 Z
B23K9/04 G
B33Y50/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115683
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】近口 諭史
(57)【要約】
【課題】積層造形によって造形物を造形する際に、積層高さの局所的なずれを抑制し、高品質な造形物の造形を実現できる制御情報修正方法、制御情報修正装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】ビード層BLを形成する溶接ビードBの造形経路、積層方向及び積層条件に関する造形情報を取得する造形情報取得工程と、造形情報に基づいてビード層BLの予測形状を算出する予測形状算出工程と、予測形状に基づいて積層条件の変更の要否を判定する変更要否判定工程と、積層条件の変更を要すると判定された場合に、溶接ビードBの積層条件を場所ごとに調整してビード層BLの層高さBLhのばらつきを抑える積層条件調整工程と、を含む。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形経路に沿ってトーチを移動させながら溶接材料を溶融して対象面に溶接ビードを形成し、目標形状を複数層に分割したビード層が積層された三次元形状の造形物を造形する積層造形装置を制御するための制御情報を修正する制御情報修正方法であって、
前記ビード層を形成する前記溶接ビードの造形経路、積層方向及び積層条件に関する造形情報を取得する造形情報取得工程と、
前記造形情報に基づいて前記ビード層の予測形状を算出する予測形状算出工程と、
前記予測形状に基づいて前記積層条件の変更の要否を判定する変更要否判定工程と、
前記積層条件の変更を要すると判定された場合に、前記溶接ビードの前記積層条件を場所ごとに調整して前記ビード層の層高さのばらつきを抑える積層条件調整工程と、
を含む、
制御情報修正方法。
【請求項2】
前記変更要否判定工程において、前記ビード層の前記予測形状を基準とした層高さの分布を算出し、それぞれの前記ビード層における前記層高さの差分が、予め設定した閾値より大きい場合に前記積層条件を変更要と判定する、
請求項1に記載の制御情報修正方法。
【請求項3】
前記層高さの分布は、前記積層方向に対する前記造形物の表面の傾斜角に基づいて算出される、
請求項2に記載の制御情報修正方法。
【請求項4】
調整された前記積層条件の調整量が予め設定した許容値より大きくなる場合に、前記造形物の目標形状の分割数及び前記溶接ビードの積層方向の少なくとも一方を、前記調整量が前記許容値以下となるまで繰り返し修正する工程をさらに含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載の制御情報修正方法。
【請求項5】
造形経路に沿ってトーチを移動させながら溶接材料を溶融して対象面に溶接ビードを形成し、目標形状を複数層に分割したビード層が積層された三次元形状の造形物を造形する積層造形装置を制御するための制御情報を修正する制御情報修正装置であって、
前記ビード層を形成する前記溶接ビードの造形経路、積層方向及び積層条件に関する造形情報を取得する造形情報取得部と、
前記造形情報に基づいて前記ビード層の予測形状を算出する予測形状算出部と、
前記予測形状に基づいて前記積層条件の変更の要否を判定する変更要否判定部と、
前記積層条件の変更を要すると判定された場合に、前記溶接ビードの前記積層条件を場所ごとに調整して前記ビード層の層高さのばらつきを抑える積層条件調整部と、
を含む、
制御情報修正装置。
【請求項6】
造形経路に沿ってトーチを移動させながら溶接材料を溶融して対象面に溶接ビードを形成し、目標形状を複数層に分割したビード層が積層された三次元形状の造形物を造形する積層造形装置を制御するための制御情報を修正するプログラムであって、
コンピュータに、
前記ビード層を形成する前記溶接ビードの造形経路、積層方向及び積層条件に関する造形情報を取得する造形情報取得機能と、
前記造形情報に基づいて前記ビード層の予測形状を算出する予測形状算出機能と、
前記予測形状に基づいて前記積層条件の変更の要否を判定する変更要否判定機能と、
前記積層条件の変更を要すると判定された場合に、前記溶接ビードの前記積層条件を場所ごとに調整して前記ビード層の層高さのばらつきを抑える積層条件調整機能と、
を実現させるための、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御情報修正方法、制御情報修正装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザー又はアーク等の熱源を用いて、金属粉体又は金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
特許文献1には、第1溶接ビードに第2溶接ビードを積層する場合に、溶接トーチから送出する溶滴の溶滴量を制御するパラメータ値を中心線からの偏位量に基づいて演算し、演算したパラメータ値に基づいて溶接トーチ及び移動機構を制御し、高さ方向の誤差と三次元形状の崩れを抑える造形装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、溶接ビードを積層して造形物を造形する積層造形において、三次元のCADデータで表される造形物の形状を複数層にスライスして設計した軌道計画に基づいて造形物を造形する場合、軌道計画で設定する狙い位置が実際の形状からずれることがある。
【0006】
このように、軌道計画の狙い位置と実際の形状との間に不整合が生じると、トーチが造形物に干渉したり、造形物とトーチの間隔が開きすぎたりしてアークスタートのエラーを引き起こし、造形の継続に支障をきたすおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、積層造形によって造形物を造形する際に、積層高さの局所的なずれを抑制し、高品質な造形物の造形を実現できる制御情報修正方法、制御情報修正装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記構成からなる。
(1) 造形経路に沿ってトーチを移動させながら溶接材料を溶融して対象面に溶接ビードを形成し、目標形状を複数層に分割したビード層が積層された三次元形状の造形物を造形する積層造形装置を制御するための制御情報を修正する制御情報修正方法であって、
前記ビード層を形成する前記溶接ビードの造形経路、積層方向及び積層条件に関する造形情報を取得する造形情報取得工程と、
前記造形情報に基づいて前記ビード層の予測形状を算出する予測形状算出工程と、
前記予測形状に基づいて前記積層条件の変更の要否を判定する変更要否判定工程と、
前記積層条件の変更を要すると判定された場合に、前記溶接ビードの前記積層条件を場所ごとに調整して前記ビード層の層高さのばらつきを抑える積層条件調整工程と、
を含む、
制御情報修正方法。
(2) 造形経路に沿ってトーチを移動させながら溶接材料を溶融して対象面に溶接ビードを形成し、目標形状を複数層に分割したビード層が積層された三次元形状の造形物を造形する積層造形装置を制御するための制御情報を修正する制御情報修正装置であって、
前記ビード層を形成する前記溶接ビードの造形経路、積層方向及び積層条件に関する造形情報を取得する造形情報取得部と、
前記造形情報に基づいて前記ビード層の予測形状を算出する予測形状算出部と、
前記予測形状に基づいて前記積層条件の変更の要否を判定する変更要否判定部と、
前記積層条件の変更を要すると判定された場合に、前記溶接ビードの前記積層条件を場所ごとに調整して前記ビード層の層高さのばらつきを抑える積層条件調整部と、
を含む、
制御情報修正装置。
(3) 造形経路に沿ってトーチを移動させながら溶接材料を溶融して対象面に溶接ビードを形成し、目標形状を複数層に分割したビード層が積層された三次元形状の造形物を造形する積層造形装置を制御するための制御情報を修正するプログラムであって、
コンピュータに、
前記ビード層を形成する前記溶接ビードの造形経路、積層方向及び積層条件に関する造形情報を取得する造形情報取得機能と、
前記造形情報に基づいて前記ビード層の予測形状を算出する予測形状算出機能と、
前記予測形状に基づいて前記積層条件の変更の要否を判定する変更要否判定機能と、
前記積層条件の変更を要すると判定された場合に、前記溶接ビードの前記積層条件を場所ごとに調整して前記ビード層の層高さのばらつきを抑える積層条件調整機能と、
を実現させるための、
プログラム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、積層造形によって造形物を造形する際に、積層高さの局所的なずれを抑制し、高品質な造形物の造形を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、積層造形システムの全体構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、制御情報修正装置の機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、制御情報修正装置による制御情報の修正手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、隣接するビード間の重なりを考慮したモデルの一例を示す説明図である。
【
図5】
図5は、下層側へ溶接金属が垂れた形状を再現したモデルの一例を示す説明図である。
【
図6】
図6は、円錐形状を有する筒状の造形物の概略斜視図である。
【
図7】
図7は、円錐形状を有する筒状の造形物における予測形状を示す模式図である。
【
図8】
図8は、溶接ビードを積層させた際に生じるビード層の層高さのずれを示す模式図である。
【
図9】
図9は、ビード層の層高さのずれを説明する模式図である。
【
図10】
図10は、積層条件を調整した際の第1層目のビード層を形成する溶接ビードの形状を示す模式図である。
【
図11】
図11は、積層条件を調整した際の第1層目のビード層の層高さを示す模式図である。
【
図12】
図12は、積層条件を調整した際の各ビード層の層高さを示す模式図である。
【
図13】
図13は、積層条件を調整して溶接ビードの幅を抑えた際の各ビード層の層高さを示す模式図である。
【
図14】
図14は、造形物の3次元形状のスライスの仕方を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここで示す積層造形システムは、マニピュレータに保持された溶加材(溶接ワイヤ)を熱源装置によって溶融させて溶接ビードを形成し、形成された溶接ビードを所望の形状に繰り返し積層して、溶接ビードが積層されてなる造形物を造形するものである。制御情報修正装置は、このような造形物を造形する積層造形装置を制御するための制御情報を修正する。
【0012】
<積層造形システムの構成>
上記の制御情報修正装置が生成する制御情報によって動作される、積層造形システムの一構成例を説明する。
図1は、積層造形システムの全体構成を示す概略図である。
積層造形システム100は、造形制御装置15と、マニピュレータ17と、溶加材供給装置19と、マニピュレータ制御装置21と、熱源制御装置23とを含んで構成される。
【0013】
マニピュレータ制御装置21は、マニピュレータ17と、熱源制御装置23とを制御する。マニピュレータ制御装置21には不図示のコントローラが接続されて、マニピュレータ制御装置21の任意の操作がコントローラを介して操作者から指示可能となっている。
【0014】
マニピュレータ17は、例えば多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ11には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ11は、溶加材Mを先端から突出した状態に保持する。トーチ11の位置及び姿勢は、マニピュレータ17を構成するロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。マニピュレータ17は、6軸以上の自由度を有するものが好ましく、先端の熱源の軸方向を任意に変化させられるものが好ましい。マニピュレータ17は、
図1に示す4軸以上の多関節ロボットの他、2軸以上の直交軸に角度調整機構を備えたロボット等、種々の形態であってもよい。
【0015】
トーチ11は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。シールドガスは、大気を遮断し、溶接中の溶融金属の酸化、窒化などを防いで溶接不良を抑制する。本構成で用いるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接又はプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、造形対象に応じて適宜選定される。ここでは、ガスメタルアーク溶接を例に挙げて説明する。消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ11は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0016】
溶加材供給装置19は、トーチ11に向けて溶加材Mを供給する。溶加材供給装置19は、溶加材Mが巻回されたリール19aと、リール19aから溶加材Mを繰り出す繰り出し機構19bとを備える。溶加材Mは、繰り出し機構19bによって必要に応じて正方向又は逆方向に送られながらトーチ11へ送給される。繰り出し機構19bは、溶加材供給装置19側に配置されて溶加材Mを押し出すプッシュ式に限らず、ロボットアーム等に配置されるプル式、又はプッシュ-プル式であってもよい。
【0017】
熱源制御装置23は、マニピュレータ17による溶接に要する電力を供給する溶接電源である。熱源制御装置23は、溶加材Mを溶融、凝固させるビード形成時に供給する溶接電流及び溶接電圧を調整する。また、熱源制御装置23が設定する溶接電流及び溶接電圧等の溶接条件に連動して、溶加材供給装置19の溶加材供給速度が調整される。
【0018】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザーとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビーム又はレーザーを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビーム又はレーザーにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、形成するビードの状態をより適正に維持して、積層構造物の更なる品質向上に寄与できる。また、溶加材Mの材質についても特に限定するものではなく、例えば、軟鋼、高張力鋼、アルミ、アルミ合金、ニッケル、ニッケル基合金など、造形物Wの特性に応じて、用いる溶加材Mの種類が異なっていてよい。
【0019】
造形制御装置15は、上記した各部を統括して制御する。
【0020】
上記した構成の積層造形システム100は、造形物Wの造形計画に基づいて作成された造形プログラムに従って動作する。造形プログラムは、多数の命令コードにより構成され、造形物の形状、材質、入熱量等の諸条件に応じて、適宜なアルゴリズムに基づいて作成される。この造形プログラムに従って、トーチ11を移動させつつ、送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶接ビードBがベース13上に形成される。つまり、マニピュレータ制御装置21は、造形制御装置15から提供される所定のプログラムに基づいてマニピュレータ17、熱源制御装置23を駆動させる。マニピュレータ17は、マニピュレータ制御装置21からの指令により、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ11を移動させて溶接ビードBを形成する。このようにして溶接ビードBを順次に形成、積層することで、目的とする形状の造形物Wが得られる。
【0021】
図2は、造形制御装置15の機能ブロック図である。造形制御装置15は、造形情報取得部31と、予測形状算出部33と、変更要否判定部35と、積層条件調整部37と、を含んで構成され、制御情報修正装置として機能する。各部の詳細については後述するが、概略的な機能は次のとおりである。
【0022】
造形情報取得部31は、溶接ビードBの造形経路、積層方向及び溶接ビードBの積層条件に関する造形情報を取得する。
【0023】
予測形状算出部33は、造形情報取得部31によって取得された溶接ビードBの造形経路及び溶接ビードBの積層条件に基づいて、溶接ビードBを積層させるビード層の予測形状を算出する。
【0024】
変更要否判定部35は、予測形状算出部33によって算出される予測形状に基づいて、溶接ビードBからなるビード層BLの層高さ(層間隔)BLhを算出し、この層高さBLhの分布に基づいて、溶接ビードBの積層条件の変更の要否を判定する。
【0025】
積層条件調整部37は、変更要否判定部35が溶接ビードBの積層条件の変更を要すると判定した場合に、溶接ビードBの積層条件を場所ごとに調整する。
【0026】
上記の造形制御装置15は、例えば、PC(Personal Computer)などの情報処理装置を用いたハードウェアにより構成される。造形制御装置15の各機能は、不図示の制御部が不図示の記憶装置に記憶された特定の機能を有するプログラムを読み出し、これを実行することで実現される。記憶装置としては、揮発性の記憶領域であるRAM(Random Access Memory)、不揮発性の記憶領域であるROM(Read Only Memory)等のメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等のストレージを例示できる。また、制御部としては、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processor Unit)などのプロセッサ、又は専用回路等を例示できる。造形制御装置15は、上記した形態のほか、ネットワーク等を介して積層造形システム100から遠隔から接続される他のコンピュータであってもよい。
【0027】
<制御情報の生成手順>
図3は、制御情報修正装置による制御情報の修正手順を示すフローチャートである。
【0028】
造形情報取得部31が、溶接ビードBの造形経路、積層方向、ビード形状及び溶接ビードBの積層条件に関する情報を、造形情報として取得する(ステップS1)。
【0029】
この溶接ビードBの造形情報における造形経路及び積層方向については、公知の手段で算出できる。例えば、CADデータ等における造形物を複数層にスライスした形状データに対して、各種の軌道パターンを適用して生成できる。また、予め生成・記憶された軌道の情報を読み込んでもよい。なお、読み込む軌道の情報としては、例えば、溶接ビードBのパス中に含まれる点の座標情報(X,Y,Z)、隣接する溶接ビードBのパス同士のピッチ、各ビード層の間隔、各溶接ビードBのパスの積層順序などが挙げられる。
【0030】
一方、溶接ビードBのビード形状の情報については、溶接ビードBの形状モデル、ビード高さ、ビード幅といった情報を取得する。
【0031】
形状モデルとしては隣接する溶接ビードB間の重なりを考慮したモデル、下層側への垂れ形状を再現したモデルなど、溶接ビードBを実際に積層した際に起きる現象を再現したものが望ましい。
【0032】
図4は、隣接する溶接ビードB間の重なりを考慮したモデルの一例である。各モデルは、基準となるパスP1のモデルBM1の断面形状が台形であり、モデルBM1にはパスPS2のモデルBM2が隣接して設けられ、モデルBM2にはパスPS3のモデルBM3が隣接して設けられている。モデルBM2,BM3は、
図4の左側に配置されるモデルに一部をオーバーラップさせている。その結果、モデルBM2の形状は、モデルBM1の一方の斜辺に寄り添う多角形状(5角形)となり、モデルBM3の形状は、モデルBM2の一方の斜辺に寄り添う多角形状(5角形)となる。このように、各BM1,BM2,BM3は、実際の溶接ビードの断面形状に近似した形状となる。
【0033】
図5は、下層側へ溶融金属が垂れた形状を再現したモデルの一例である。ベース13に積層された断面形状が台形のモデルBM1と、モデルBM1より上層のモデルBM2,BM3,・・・,BMn(nは整数)のうち、上層の台形ビードモデルBM2,BM3,・・・,BMnについては、底辺41の両端部に、下方へ延びる垂れ部47A,47Bを追加している。このように、垂れ部47A,47Bを設けたモデルBM2,BM3,・・・,BMnを、積層計画用のビードモデルに設定することで、溶接ビードBのビード高さが、溶接ビードBに生じる溶融金属の垂れ下がりによる影響を受けにくくなる。これにより、オーバーハング部などの溶接ビードBの溶融金属が垂れやすい条件下でも、輪郭の予測形状と実際の形状とが整合されやすくなる。
【0034】
溶接ビードBのビード幅及びビード高さは溶接速度、送給速度などの溶接条件と関係づけられていてもよい。
【0035】
例えば、ビード高さHは式(1)から求め、ビード幅LWは式(2)から求めてもよい。
H =C1+C2Wf+C3Ts+C4Wf
2+C5Ts
2+C6WfTs ・・・式(1)
LW=D1+D2Wf+D3Ts+D4Wf
2+D5Ts
2+D6WfTs ・・・式(2)
Ts:トーチ移動速度
Wf:溶加材送給速度
C1~C6:係数
D1~D6:係数
【0036】
予測形状算出部33が、造形情報取得部31によって取得された造形情報に基づいて、ビード層BLの予測形状を算出する(ステップS2)。つまり、溶接ビードBの造形経路及び積層方向の情報に、溶接電流、溶接電圧、送給速度、溶接速度等の積層条件を与えることにより、溶接ビードBからなるビード層BLの形状の予測を行う。このビード層BLの形状の予測は、
図4及び
図5に示したモデル形状を用いてもよい。なお、このビード層BLの形状予測の算出に際しては、予測形状と積層条件の関係を把握するため、同一パス内での条件を固定するのが好ましい。
【0037】
ここで、
図6及び
図7は、下部から上部へ向かって偏心する円錐形状を有する筒状の造形物Wの予測形状の一例を示しており、予測形状算出部33は、造形物Wの形状をスライスし、溶接ビードBi(i=1~N)からなる複数のビード層BLi(i=1~N)を設計する。
【0038】
その後、溶接ビードBの各ビード層BLi(i=1~N)について、下段から順に、変更要否判定部35による積層条件の変更要否判定(ステップS3,S4)及び積層条件調整部37による積層条件の調整(ステップS5)を行う。
【0039】
変更要否判定では、まず、変更要否判定部35が、予測形状に基づいて、各ビード層BLi(i=1~N)の層高さBLhi(i=1~N)の分布を算出する(ステップS3)。
【0040】
さらに、変更要否判定部35は、予測形状に基づいて算出した各ビード層BLi(i=1~N)の層高さBLhi(i=1~N)の分布に基づいて、ビード層BLi(i=1~N)に積層条件の変更を要する傾斜角θを有するか否かをビード層BLiごとに判定する(ステップS4)。
【0041】
積層条件調整部37は、変更要否判定部35が溶接ビードBi(i=1~N)の積層条件の変更を要すると判定した場合(ステップS4:Yes)、つまり、ビード層BLi(i=1~N)の法線ベクトルと積層方向Zとの間に一定の乖離が認められる場合、そのビード層BLi(i=1~N)を形成する溶接ビードBi(i=1~N)の積層条件を場所ごとに調整する(ステップS5)。
【0042】
ところで、
図6及び
図7に示したように、下部から上部へ向かって偏心する円錐形状を有する筒状の造形物Wを造形する造形例の場合、ビード層BLi(i=1~N)は、周方向において、積層方向Zに沿って略垂直に積層される積層箇所と、積層方向Zに対して傾斜角θで斜めに積層される積層箇所とを有する。したがって、この造形例では、
図8に示すように、積層方向Zと積層形状の側面とのなす傾斜角θによってビード層BLi(i=1~N)の層高さBLhi(i=1~N)にずれが生じる。
図9に示すように、例えば、積層方向Zに沿って傾斜せずに垂直(θ=0°)に積層される積層箇所(
図9における右側)では、溶接ビードBiのビード高さがビード層BLiの層高さBLhiと略一致する。一方、積層方向Zに対して傾斜角θで傾斜(θ≠0°)する積層箇所(
図9における左側)では、溶接ビードBiの最大ビード高さがビード層BLiの層高さBLhiとはならない。このため、溶接ビードBiの予測形状を考慮すると、造形物Wにおけるビード層BLiは、
図7に示した層境界が実現されなくなる。そして、この層高さBLhi(i=1~N)のずれが累積すると、
図8に示すように、ビード層BLi(i=1~N)の層境界面が徐々に傾くこととなる。
【0043】
このような造形物Wを造形する造形例では、まず、変更要否判定部35が、第1層目のビード層BL1について、層高さBLh1の最大値BLh1maxと最小値BLh1minを抽出し、これらの層高さBLh1の最大値BLh1maxと最小値BLh1minとの差分が閾値ε以内に収まるか否かを判定する(ステップS4)。
【0044】
次に、積層条件調整部37が、第1層目のビード層BL1の層高さBLh1が均一となるように積層条件を調整する(ステップS5)。具体的には、ビード層BL1の場所ごとにおける傾斜角θに基づいて、ビード層BL1の予測形状を算出するために用いた積層条件における溶接電流、溶接電圧、送給速度、溶接速度等を調整する。これにより、
図10及び
図11に示すように、溶接ビードB1の溶着量を場所Pa,Pb,Pc…ごとに調整する。すると、溶接ビードB1は、場所毎に溶着量が増減され、溶着量の調整前(
図11における破線)から溶着量の調整後(
図11における実線)に変更される。例えば、積層方向Zに沿って傾斜せずに垂直(θ=0°)に積層される積層箇所(
図11における右側)では、溶接ビードB1の溶着量を減少させ、積層方向Zに対して傾斜角θで傾斜(θ≠0°)する積層箇所(
図11における左側)では、溶接ビードB1の溶着量を増加させている。これにより、溶接ビードB1からなるビード層BL1の層高さBLh1が均一化される(
図11参照)。この溶接ビードBの溶着量の調整は、ビード層BL1の層高さBLh1が予め設定された基準層高さBLhsとなるように調整するのが好ましい。なお、積層条件調整部37は、変更要否判定部35が溶接ビードB1の積層条件の変更を要しないと判定した場合(ステップS4:No)、ビード層BL1を形成する溶接ビードB1の積層条件をそのまま維持する。
【0045】
その後、変更要否判定処理(ステップS3,S4)及び積層条件変更処理(ステップS5)を繰り返す(ステップS6)。これにより、第2層目以降のビード層BLi(i=2~N)について、溶接ビードBi(i=2~N)の積層条件の変更を要すると判定した場合(ステップS4:No)、そのビード層BLi(i=2~N)を形成する溶接ビードBi(i=2~N)の積層条件を調整し(ステップS5)、層高さBLhi(i=2~N)を調整する。
【0046】
これにより、
図12に示すように、各溶接ビードBi(i=1~N)からなる各ビード層BLi(i=1~N)は、その層高さBLhi(i=1~N)がそれぞれ均一化される。したがって、造形物Wの一部にオーバーハング部位が含まれていても、層高さBLhi(i=1~N)の局所的なずれを抑制することができ、高品質な造形物Wを円滑に造形できる。
【0047】
なお、変更要否判定部35による変更要否の判定(ステップS4)は、各ビード層BLi(i=1~N)について、特定の2箇所における層高さBLhi1,BLhi2を抽出し、これらのBLhi1,BLhi2の差分が閾値(許容値)ε以内に収まるか否かによって行ってもよい。
【0048】
また、溶接ビードBの積層条件を調整して溶着量を調整すると、溶着量の増加箇所において過剰な余肉が発生してしまうおそれがある。このため、溶着量の調整とともに、溶接ビードBのビード幅の調整を併せて行ってもよい。例えば、ウィービングの調整、トーチ11の傾斜角の調整、入熱量の調整などを行って溶接ビードBのビード幅に制限を設け、ビード幅の増加を抑えつつビード高さを調整する。すると、
図13に示すように、溶着量の増加による過剰な余肉の発生を抑えつつビード層BLi(i=1~N)の層高さBLhi(i=1~N)を均一化できる。
【0049】
このように、本構成例によれば、溶接ビードBの積層条件を場所ごとに調整してビード層BLの層高さBLhのばらつきを抑えるので、造形物Wの一部にオーバーハング部位が含まれていても層高さBLhの局所的なずれを抑制することができる。これにより、層高さBLhの局所的なずれによって生じるおそれのあるトーチ11と造形中の造形物Wとの干渉及びアークスタートのエラーを抑え、高品質な造形物Wを円滑に造形できる。
【0050】
なお、同一パス内における溶接ビードBの積層条件の調整量が著しく大きい場合、溶接ビードBの積層プロセスが不安定化するおそれがある。このような場合、予め許容値を設定し、積層条件の調整量が許容値より大きくなる場合に、造形物Wの目標形状の分割数及び溶接ビードBの積層方向Zの少なくとも一方を、調整量が許容値以下となるまで繰り返し修正するのが好ましい。
【0051】
例えば、
図14に示すように、作成した造形物Wの3次元形状をスライスして複数のビード層BLに分割した形状データ(
図14左参照)に対して、分割数を多くした形状データ(
図14右上参照)を、調整量が許容値以下となるまで繰り返し作成する。または、層高さBLhの調整量が大きくなる側へ傾けた積層方向Zaの形状データ(
図14右下参照)を、調整量が許容値以下となるまで繰り返し作成する。これにより、同一パス内における溶接ビードBの積層条件の調整量を抑え、溶接ビードBの積層プロセスを安定化できる。
【0052】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0053】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 造形経路に沿ってトーチを移動させながら溶接材料を溶融して対象面に溶接ビードを形成し、目標形状を複数層に分割したビード層が積層された三次元形状の造形物を造形する積層造形装置を制御するための制御情報を修正する制御情報修正方法であって、
前記ビード層を形成する前記溶接ビードの造形経路、積層方向及び積層条件に関する造形情報を取得する造形情報取得工程と、
前記造形情報に基づいて前記ビード層の予測形状を算出する予測形状算出工程と、
前記予測形状に基づいて前記積層条件の変更の要否を判定する変更要否判定工程と、
前記積層条件の変更を要すると判定された場合に、前記溶接ビードの前記積層条件を場所ごとに調整して前記ビード層の層高さのばらつきを抑える積層条件調整工程と、
を含む、制御情報修正方法。
この構成の制御情報修正方法によれば、溶接ビードの積層条件を場所ごとに調整してビード層の層高さのばらつきを抑えるので、造形物の一部にオーバーハング部位が含まれていても層高さの局所的なずれを抑制することができる。これにより、層高さの局所的なずれによって生じるおそれのあるトーチと造形中の造形物との干渉及びアークスタートのエラーを抑え、高品質な造形物を円滑に造形できる。
【0054】
(2) 前記変更要否判定工程において、前記ビード層の前記予測形状を基準とした層高さの分布を算出し、それぞれの前記ビード層における前記層高さの差分が、予め設定した閾値より大きい場合に前記積層条件を変更要と判定する、(1)に記載の制御情報修正方法。
この構成の制御情報修正方法によれば、オーバーハング部位又は曲面の有無に対応して積層条件の変更の要否を適切に判定できる。
【0055】
(3) 前記層高さの分布は、前記積層方向に対する前記造形物の表面の傾斜角に基づいて算出される、(2)に記載の制御情報修正方法。
この構成の制御情報修正方法によれば、造形物の表面の傾斜角を考慮することで、場所ごとに正確な層高さの分布を取得できる。
【0056】
(4) 調整された前記積層条件の調整量が予め設定した許容値より大きくなる場合に、前記造形物の目標形状の分割数及び前記溶接ビードの積層方向の少なくとも一方を、前記調整量が前記許容値以下となるまで繰り返し修正する工程をさらに含む、(1)から(3)のいずれか一つに記載の制御情報修正方法。
この構成の制御情報修正方法によれば、各ビード層における積層条件の変更による調整量が過度に大きくなることを抑え、積層プロセスを安定化できる。
【0057】
(5) 造形経路に沿ってトーチを移動させながら溶接材料を溶融して対象面に溶接ビードを形成し、目標形状を複数層に分割したビード層が積層された三次元形状の造形物を造形する積層造形装置を制御するための制御情報を修正する制御情報修正装置であって、
前記ビード層を形成する前記溶接ビードの造形経路、積層方向及び積層条件に関する造形情報を取得する造形情報取得部と、
前記造形情報に基づいて前記ビード層の予測形状を算出する予測形状算出部と、
前記予測形状に基づいて前記積層条件の変更の要否を判定する変更要否判定部と、
前記積層条件の変更を要すると判定された場合に、前記溶接ビードの前記積層条件を場所ごとに調整して前記ビード層の層高さのばらつきを抑える積層条件調整部と、
を含む、制御情報修正装置。
この構成の制御情報修正装置によれば、溶接ビードの積層条件を場所ごとに調整してビード層の層高さのばらつきを抑えるので、造形物の一部にオーバーハング部位が含まれていても層高さの局所的なずれを抑制することができる。これにより、層高さの局所的なずれによって生じるおそれのあるトーチと造形中の造形物との干渉及びアークスタートのエラーを抑え、高品質な造形物を円滑に造形できる。
【0058】
(6) 造形経路に沿ってトーチを移動させながら溶接材料を溶融して対象面に溶接ビードを形成し、目標形状を複数層に分割したビード層が積層された三次元形状の造形物を造形する積層造形装置を制御するための制御情報を修正するプログラムであって、
コンピュータに、
前記ビード層を形成する前記溶接ビードの造形経路、積層方向及び積層条件に関する造形情報を取得する造形情報取得機能と、
前記造形情報に基づいて前記ビード層の予測形状を算出する予測形状算出機能と、
前記予測形状に基づいて前記積層条件の変更の要否を判定する変更要否判定機能と、
前記積層条件の変更を要すると判定された場合に、前記溶接ビードの前記積層条件を場所ごとに調整して前記ビード層の層高さのばらつきを抑える積層条件調整機能と、
を実現させるための、プログラム。
この構成のプログラムによれば、溶接ビードの積層条件を場所ごとに調整してビード層の層高さのばらつきを抑えるので、造形物の一部にオーバーハング部位が含まれていても層高さの局所的なずれを抑制することができる。これにより、層高さの局所的なずれによって生じるおそれのあるトーチと造形中の造形物との干渉及びアークスタートのエラーを抑え、高品質な造形物を円滑に造形できる。
【符号の説明】
【0059】
11 トーチ
15 造形制御装置(制御情報修正装置)
31 造形情報取得部
33 予測形状算出部
35 変更要否判定部
37 積層条件調整部
100 積層造形システム(積層造形装置)
B 溶接ビード
W 造形物
θ 傾斜角