(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135275
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】超伝導磁石装置
(51)【国際特許分類】
H01F 6/02 20060101AFI20240927BHJP
H10N 60/20 20230101ALI20240927BHJP
【FI】
H01F6/02
H10N60/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045886
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】江原 悠太
【テーマコード(参考)】
4M114
【Fターム(参考)】
4M114AA14
4M114BB03
4M114BB04
4M114BB07
4M114BB10
4M114CC01
4M114CC02
4M114CC03
4M114CC08
4M114CC16
4M114DB67
4M114DB68
(57)【要約】
【課題】超伝導磁石装置をクエンチから復旧させるのに要する時間を短縮する。
【解決手段】超伝導磁石装置10は、それぞれが超伝導コイル32およびその励磁電源34を備え、互いに独立して動作可能な複数の超伝導コイル励磁回路30と、それぞれが対応する超伝導コイル励磁回路30の超伝導コイル32のクエンチを検出する複数のクエンチ検出器50と、複数のクエンチ検出器50のうち少なくとも1つがクエンチを検出したとき、複数の超伝導コイル励磁回路30のうちクエンチが検出されていない超伝導コイル励磁回路30の超伝導コイル32を消磁するように当該超伝導コイル励磁回路30の励磁電源34を制御するコントローラ60と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが超伝導コイルおよびその励磁電源を備え、互いに独立して動作可能な複数の超伝導コイル励磁回路と、
それぞれが対応する超伝導コイル励磁回路の前記超伝導コイルのクエンチを検出する複数のクエンチ検出器と、
前記複数のクエンチ検出器のうち少なくとも1つがクエンチを検出したとき、前記複数の超伝導コイル励磁回路のうちクエンチが検出されていない超伝導コイル励磁回路の前記超伝導コイルを消磁するように当該超伝導コイル励磁回路の前記励磁電源を制御するコントローラと、を備えることを特徴とする超伝導磁石装置。
【請求項2】
各超伝導コイル励磁回路は、対向配置された一対の超伝導コイルを備えることを特徴とする請求項1に記載の超伝導磁石装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導磁石装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導磁石装置の運転中に起こりうる望ましくない現象に、超伝導コイルの熱暴走(クエンチ)がある。クエンチが起こると、超伝導コイルは超伝導から常伝導に転移し、コイル内部に抵抗が発生する。それまでの超伝導状態でコイルに流れていた大電流から、大きなジュール熱が引き起こされうる。コイル内での電圧の上昇とそれに起因する放電も起こるかもしれない。加えて、クエンチ発生時の過渡的な電流のアンバランスにより、超伝導コイルに大きな電磁力が働きうる。コイルの近傍に配置された導体にも渦電流が生じて電磁力が働きうる。こうして発生しうる熱、放電、電磁力は、超伝導コイルおよびその周辺の構造や機器に損傷を与えうる。そこで、超伝導コイルの近くに誘導コイルを設けることが提案されている。クエンチ発生時に電磁誘導により超伝導コイルから誘導コイルへとエネルギーを回収し、超伝導コイルが持つエネルギーを放出させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クエンチが発生した場合、超伝導コイルの温度が上昇する。クエンチから超伝導コイルを復旧させ再び稼働させるには、超伝導コイルを再冷却する必要がある。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、超伝導磁石装置をクエンチから復旧させるのに要する時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、超伝導磁石装置は、それぞれが超伝導コイルおよびその励磁電源を備え、互いに独立して動作可能な複数の超伝導コイル励磁回路と、それぞれが対応する超伝導コイル励磁回路の超伝導コイルのクエンチを検出する複数のクエンチ検出器と、複数のクエンチ検出器のうち少なくとも1つがクエンチを検出したとき、複数の超伝導コイル励磁回路のうちクエンチが検出されていない超伝導コイル励磁回路の超伝導コイルを消磁するように当該超伝導コイル励磁回路の励磁電源を制御するコントローラと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、超伝導磁石装置をクエンチから復旧させるのに要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態に係る超伝導磁石装置の要部を模式的に示す断面図である。
【
図2】実施の形態に係る超伝導磁石装置の外観を模式的に示す斜視図である。
【
図3】実施の形態に係る超伝導磁石装置の電源構成の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0010】
図1は、実施の形態に係る超伝導磁石装置10の要部を模式的に示す断面図である。
図2は、実施の形態に係る超伝導磁石装置10の外観を模式的に示す斜視図である。
図3は、実施の形態に係る超伝導磁石装置10の電源構成の一例を模式的に示す図である。
【0011】
超伝導磁石装置10は、単結晶引き上げ装置の磁場発生源として利用することができる。単結晶引き上げ装置は、例えば、シリコン単結晶引き上げ装置である。図示されるように、超伝導磁石装置10は、筒型クライオスタット20と、複数の超伝導コイル励磁回路30とを備える。複数の超伝導コイル励磁回路30は、それぞれが、対向配置された一対の超伝導コイル32およびその励磁電源34を備え、互いに独立して動作可能である。複数の超伝導コイル励磁回路30は、互いに切り離されており、電気的に接続されていない。
【0012】
各超伝導コイル励磁回路30の励磁電源34は、独立して動作可能な個別の電源装置であってもよい。この場合、超伝導磁石装置10は、それぞれが励磁電源34を有する複数の電源装置を備えてもよい。あるいは、複数の励磁電源34が単一の電源装置に実装されてもよい。この場合、この電源装置は、独立して動作可能な複数の電源出力を有してもよく、各電源出力が1つの励磁電源34として動作してもよい。
【0013】
以下では、説明の便宜上、超伝導磁石装置10の中心軸をZ軸、Z軸に直交し互いに直交する二軸をそれぞれX軸、Y軸とする直交座標系を考える。単結晶引き上げ軸がZ軸にあたり、単結晶引き上げ軸に垂直な融液表面にX軸、Y軸を定義することができる。
図1にはXY面における超伝導磁石装置10の断面が模式的に示され、Z軸は紙面に垂直な方向に延びる。
【0014】
筒型クライオスタット20は、筒型クライオスタット20を取りまく周囲環境22から隔離される内部空間を有し、この内部空間に超伝導コイル32が配置される。内部空間は、例えばドーナツ状または円筒状の形状を有する。筒型クライオスタット20は断熱真空容器であり、超伝導磁石装置10の動作中、筒型クライオスタット20の内部空間には超伝導コイル32を超伝導状態とするのに適する極低温真空環境が提供される。筒型クライオスタット20は、周囲圧力(たとえば大気圧)に耐えるように、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する高強度材料で形成される。
【0015】
筒型クライオスタット20は、内側に中心空洞24を定める。超伝導コイル32は、中心空洞24の外側で中心空洞24を囲むようにして配置される。超伝導磁石装置10が単結晶引き上げ装置に搭載されたとき、中心空洞24には、単結晶材料の融液を収容する坩堝が配置される。中心空洞24は、筒型クライオスタット20を取りまく周囲環境22の一部であり(すなわち筒型クライオスタット20の外にあり)、筒型クライオスタット20に囲まれた例えば円柱状の空間である。
【0016】
この実施の形態では、超伝導磁石装置10は、2つの超伝導コイル励磁回路30を備える。各超伝導コイル励磁回路30が2つの超伝導コイル32を有するので、超伝導磁石装置10には合計4つの超伝導コイル32が設けられている。超伝導コイル32は、同じ形状および同じサイズを有し、この例では、同径の円形コイルである。
【0017】
一方の超伝導コイル励磁回路30に設けられた超伝導コイル32の第1の対は、中心空洞24を挟んで対向配置されており、図示されるように、Z軸周りに時計回りにX軸から60度をなす線にコイル中心軸を一致させるように配置されている。他方の超伝導コイル励磁回路30に設けられた超伝導コイル32の第2の対は、中心空洞24を挟んで対向配置されており、図示されるように、Z軸周りに時計回りにX軸から-60度をなす線にコイル中心軸を一致させるように配置されている。このように、4つの超伝導コイル32は、各々が径方向(Z軸に垂直な方向)に磁場を発生させるように、Z軸まわりに対称的に配置されている。
【0018】
超伝導コイル励磁回路30の励磁電源34は、筒型クライオスタット20の外に配置されている。一方の超伝導コイル励磁回路30に設けられた第1の励磁電源34と、他方の超伝導コイル励磁回路30に設けられた第2の励磁電源34とは、互いに独立して動作可能である。第1の励磁電源34は、第1の対の超伝導コイル32と直列に接続され、これら超伝導コイル32に第1励磁電流を供給する。第2の励磁電源34は、第2の対の超伝導コイル32と直列に接続され、これら超伝導コイル32に第2励磁電流を供給する。よって、超伝導磁石装置10は、第1励磁電流と第2励磁電流とを等しくすることもでき、あるいは、第1励磁電流と第2励磁電流とを互いに異ならせることもできる。
【0019】
第1の励磁電源34と第2の励磁電源34は、互いに独立した2つの個別電源であってもよい。あるいは、第1の励磁電源34と第2の励磁電源34は、単一の電源装置に実装され、この電源装置が有する複数の電源出力のうち互いに独立して動作可能な2つの電源出力であってもよい。
【0020】
第1の励磁電源34は、第1の対の超伝導コイル32に第1励磁電流を供給することにより、
図1で矢印35、36で模式的に示すように、第1の対の超伝導コイル32のうち一方(例えば
図1で原点に対し左下側の超伝導コイル32)が径方向内向き(Z軸に垂直であってZ軸に向かう方向)に磁場を発生させ、他方の超伝導コイル32(例えば
図1で原点に対し右上側の超伝導コイル32)が径方向外向き(Z軸に垂直であってZ軸から離れる方向)に磁場を発生させる。また、第2の励磁電源34は、第2の対の超伝導コイル32に第2励磁電流を供給することにより、
図1で矢印37、38で模式的に示すように、第2の対の超伝導コイル32のうち一方(例えば
図1で原点に対し左上側の超伝導コイル32)が径方向内向き(Z軸に垂直であってZ軸に向かう方向)に磁場を発生させ、他方の超伝導コイル32(例えば
図1で原点に対し右下側の超伝導コイル32)が径方向外向き(Z軸に垂直であってZ軸から離れる方向)に磁場を発生させる。
【0021】
このようにして、超伝導磁石装置10の複数の超伝導コイル励磁回路30は、中心空洞24の中心部に合成磁場40を発生させることができる。図示の例では、合成磁場40は、+Y方向を向く磁場である。
【0022】
図2に示されるように、超伝導磁石装置10は、少なくとも1つの極低温冷凍機42を備え、筒型クライオスタット20内に配置される超伝導コイル32は極低温冷凍機42と熱的に結合される。極低温冷凍機42は、たとえば二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機またはその他の形式の極低温冷凍機であってもよい。各超伝導コイルは、極低温冷凍機42によって超伝導転移温度以下の極低温に冷却された状態で使用される。この実施形態では、超伝導磁石装置10は、超伝導コイルを液体ヘリウムなどの極低温液体冷媒に浸漬するのではなく、極低温冷凍機42によって直接冷却する、いわゆる伝導冷却式として構成される。
【0023】
図示の例では、4台の極低温冷凍機42が筒型クライオスタット20の上面に設置されている。よって、1つの超伝導コイル32に1台の極低温冷凍機42が設けられている。なお、超伝導磁石装置10は、より少数の極低温冷凍機42を備えてもよい。例えば、2台の極低温冷凍機42が筒型クライオスタット20に設置され、Z軸周りに180度間隔で配置されてもよい。この場合、極低温冷凍機42は、隣り合う2つの超伝導コイル32間に配置され、これら2つの超伝導コイル32を冷却してもよい。コイル間の空きスペースを利用して極低温冷凍機42を設置することにより、筒型クライオスタット20をよりコンパクトに設計し、超伝導磁石装置10を小型化することができる。あるいは、超伝導磁石装置10は、より多数の極低温冷凍機42を備えてもよい。例えば、超伝導コイル32が大型の場合など、1つの超伝導コイル32が複数の極低温冷凍機42で冷却されてもよい。
【0024】
図3に示されるように、超伝導磁石装置10は、複数の超伝導コイル励磁回路30とともに、複数のクエンチ検出器50と、コントローラ60とを備える。
【0025】
複数のクエンチ検出器50は、それぞれが、対応する超伝導コイル励磁回路30の超伝導コイル32のクエンチを検出するように構成されている。クエンチ検出器50は、超伝導コイル励磁回路30ごとに設けられている。
【0026】
クエンチ検出器50は、超伝導コイル励磁回路30の少なくとも1つの超伝導コイル32でのクエンチを、さまざまな公知のクエンチ検出方法に基づいて検出し、クエンチ検出信号を出力するように構成されている。一例として、クエンチ検出器50は、クエンチ発生時に超伝導コイル32に発生する電圧を測定することによりクエンチを検出してもよい。例えば、クエンチ検出器50は、超伝導コイル32と抵抗とで形成されるブリッジ回路のバランス電圧を測定し、測定されたバランス電圧に基づいてクエンチ検出信号を出力してもよい。クエンチ検出方法は特に限定されず、クエンチ検出器50は、超伝導コイル32の電気的変化、磁気的変化、熱的変化など、超伝導コイル32の超伝導状態(すなわちクエンチが発生していない状態)からの例えば電気的変化、磁気的変化、熱的変化、音響的変化などクエンチに起因しうる何らかの変化を検出し、クエンチ検出信号を出力してもよい。
【0027】
コントローラ60は、複数のクエンチ検出器50の検出結果に基づいて、複数の超伝導コイル励磁回路30を制御するように構成されている。例えば、コントローラ60は、複数のクエンチ検出器50の各々からクエンチ検出信号を受信し、受信したクエンチ検出信号に基づいて複数の超伝導コイル励磁回路30を制御するように構成されている。
【0028】
コントローラ60は、複数の励磁電源34のうちいずれかの励磁電源34に内蔵されていてもよい。複数の励磁電源34が単一の電源装置に実装される場合には、コントローラ60は、この電源装置に内蔵されていてもよい。あるいは、コントローラ60は、励磁電源34とは別体の制御装置として設けられてもよい。
【0029】
コントローラ60は、複数のクエンチ検出器50のうち少なくとも1つがクエンチを検出したとき(例えば、少なくとも1つのクエンチ検出器50からクエンチ検出信号を受信したとき)、複数の超伝導コイル励磁回路30のうちクエンチが検出されていない超伝導コイル励磁回路30の超伝導コイル32を消磁するように当該超伝導コイル励磁回路30の励磁電源34を制御するように構成されている。この場合、コントローラ60は、例えば、消磁用の予め定められた電流プロファイルに従って励磁電源34から超伝導コイル32に電流が供給されるように励磁電源34を制御してもよい。消磁用の電流プロファイルは、例えば一定のレートで電流を減少させるように予め定められていてもよい。あるいは、コントローラ60は、超伝導コイル32を消磁する公知の消磁方法に従って励磁電源34を制御してもよい。
【0030】
一方、コントローラ60は、すべてのクエンチ検出器50がクエンチを検出しないときには(例えば、すべてのクエンチ検出器50がクエンチ検出信号を出力しないときには)、超伝導磁石装置10の動作を妨げない。すなわち、超伝導磁石装置10は、各超伝導コイル励磁回路30の超伝導コイル32への通電により磁場を発生させることができる。
【0031】
コントローラ60は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0032】
いずれかの超伝導コイル32でクエンチが起こると、その超伝導コイル32は超伝導から常伝導に転移し、コイル内部に抵抗が発生する。それまでの超伝導状態でコイルに流れていた電流の少なくとも一部がジュール熱に変換され、超伝導コイル32の温度が上昇しうる。クエンチから超伝導コイル32を復旧させ再び稼働させるには、超伝導コイル32を再冷却する必要がある。
【0033】
既存技術では、超伝導磁石装置に設けられた複数の超伝導コイルは、単一の励磁電源に直列に接続され、この励磁電源から電流の供給を受ける。ある超伝導コイルでクエンチが発生したとき、それによる温度上昇など異常動作が他の超伝導コイルにも伝播または影響し、それら他の超伝導コイルにもクエンチが連鎖するおそれがある。その結果もたらされる超伝導磁石装置内の全体的な温度上昇は、再冷却に要する時間を増加させ得る。
【0034】
これに対して、この実施の形態では、超伝導磁石装置10は、互いに独立して動作可能な複数の超伝導コイル励磁回路30を備えており、各超伝導コイル励磁回路30が超伝導コイル32およびその励磁電源34を備える。このように、超伝導磁石装置10の電源構成を複数系統に分けることにより、ある系統でクエンチが発生したとしても、そのクエンチが他の系統に直ちに波及するのを避けることが可能になる。好ましくは、クエンチが発生していない系統では、コントローラ60による制御のもとで、クエンチが発生する前に超伝導コイル32をすみやかに消磁することができる。超伝導磁石装置10の温度上昇を抑え、クエンチからの復旧に要する時間を短くすることができ、有利である。
【0035】
上述のような超伝導コイル配置では、すなわち複数の超伝導コイル32が超伝導磁石装置10の径方向にコイル中心軸を合わせるようにして中心空洞24まわりに配置される場合には、各超伝導コイル32には電流に応じた径方向外向きの電磁力が働く。各超伝導コイル32の電流のばらつきなど、各超伝導コイル32に流れる電流が異なる場合には、これら超伝導コイル32に働く電磁力の大きさも異なり、その合成力が超伝導磁石装置10に作用することになる。超伝導磁石装置10はこの合成力に耐える強固な構造を持つ必要がある。
【0036】
しかしながら、この実施の形態では、各超伝導コイル励磁回路30は、対向配置された一対の超伝導コイル32を備える。これら対向する超伝導コイル32が同じ励磁電源34に直列に接続されている。そのため、対向する超伝導コイル32には電流のばらつきが生じにくく、同じ大きさの電流を供給することが容易である。対向する超伝導コイル32のそれぞれに流れる電流が等しい場合には、電磁力の大きさは等しくかつ逆向きとなるから、対向する超伝導コイル32に働く電磁力は相殺される。合成力は理想的にはゼロになる。これは、超伝導磁石装置10に必要とされる構造上の強度を低減することを可能にするから、超伝導磁石装置10を簡素な構造とすることに役立つ。
【0037】
なお、
図3に示されるように、複数の超伝導コイル励磁回路30の各々は、超伝導コイル32に並列接続されたジュール熱発生素子33を備えてもよい。ジュール熱発生素子33は、通電により発熱可能であり、一般的な線形の(つまりオームの法則に従う)抵抗素子を備えてもよく、または、非線形抵抗を備えてもよい。非線形抵抗は、この非線形抵抗にかかる電圧が小さいときは抵抗値が高く、非線形抵抗にかかる電圧が大きいとき抵抗値が低くなる非線形の特性を有してもよい(非線形抵抗は、非線形抵抗にかかる電圧が第1の値のとき第1の抵抗値を有し、非線形抵抗にかかる電圧が第1の値より大きい第2の値のとき第1の抵抗値より小さい第2の抵抗値を有してもよい)。非線形抵抗は、例えば、ダイオード、サイリスタなどの整流素子であってもよい。この実施の形態では、ジュール熱発生素子33は、一例として、ダイオードを備える。あるいは、非線形抵抗は、バリスタであってもよい。なお、ジュール熱発生素子33は、線形抵抗と非線形抵抗の両方を備えてもよく、例えばこれらが直列接続されていてもよい。
【0038】
超伝導コイル32の動作中にクエンチが発生したとき超伝導コイル32に生じた電圧がこのジュール熱発生素子33にも掛かる。このとき超伝導コイル32からジュール熱発生素子33に電流を流すことができ、超伝導コイル32に蓄えられていた電磁気的なエネルギーの少なくとも一部をジュール熱発生素子33で熱に変換して消費することができる。このようにして、ジュール熱発生素子33によって超伝導コイル32からエネルギーを取り出すことにより、クエンチ発生時に超伝導コイル32を保護することができる。超伝導コイル32のエネルギーが減少することで、これに起因して発生しうる超伝導コイル32およびその周囲への損傷を防止または軽減することができる。
【0039】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0040】
上述の実施の形態では、超伝導磁石装置10が2対(つまり4個)の超伝導コイル32を有する場合を例として説明しているが、超伝導磁石装置10は、任意の数の超伝導コイル32を有してもよい。例えば、超伝導磁石装置10は、3対(つまり6個)の超伝導コイル32を備えてもよく、各対の超伝導コイル32が対向配置されてもよい。この場合、超伝導磁石装置10は、3つの超伝導コイル励磁回路30を備え、各超伝導コイル励磁回路30が、対向配置された超伝導コイル32の対とその励磁電源34とを備えてもよい。
【0041】
1つの超伝導コイル励磁回路30に含まれる複数の超伝導コイル32が対向配置されることは必須ではない。よって、超伝導コイル励磁回路30は、(例えばZ軸まわりに)互いに隣接する複数(例えば2つ)の超伝導コイル32とその励磁電源34とを備えてもよい。
【0042】
あるいは、超伝導コイル励磁回路30は、1つの超伝導コイル32とその励磁電源34とを備えてもよい。
【0043】
上述の実施の形態では、超伝導磁石装置10が単結晶引き上げ装置に搭載される場合を例として説明しているが、超伝導磁石装置10は、他の装置に搭載されてもよい。例えば、超伝導磁石装置10は、NMR(Nuclear Magnetic Resonance)システム、MRI(Magnetic Resonance Imaging)システム、サイクロトロンなどの加速器、核融合システムなどの高エネルギー物理システム、またはその他の高磁場利用機器(図示せず)の磁場源として高磁場利用機器に搭載され、その機器に必要とされる高磁場を発生させることができる。
【0044】
上述の実施の形態では、超伝導磁石装置10は、超伝導コイル12を液体ヘリウムなどの極低温液体冷媒に浸漬する浸漬冷却式ではなく、極低温冷凍機16によって直接冷却する、いわゆる伝導冷却式として構成されている。しかしながら、超伝導磁石装置10は、浸漬冷却式であってもよい。この場合、超伝導コイル12は例えば液体ヘリウムなどの極低温液体に浸漬され冷却されてもよい。
【0045】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0046】
10 超伝導磁石装置、 30 超伝導コイル励磁回路、 32 超伝導コイル、 34 励磁電源、 50 クエンチ検出器、 60 コントローラ。