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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135288
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】合金鉄粉の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/00 20060101AFI20240927BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20240927BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20240927BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C22B1/00 601
C22B3/44 101Z
C22B3/22
C22B7/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045906
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】小野 信行
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA15
4K001BA24
4K001CA02
4K001CA04
4K001CA05
4K001CA06
4K001CA09
4K001DB16
(57)【要約】
【課題】合金鉄粉からの油分除去エネルギーを低減し、かつ油分除去率および固液分離速度を高めることが可能な、合金鉄粉の回収方法を提供する。
【解決手段】油分が付着し、かつ、合金鉄粉と非磁着物を含む混合物から油分を分離して合金鉄粉を回収する方法であって、混合物と、水とを、粘度が0.003~1.00Pa・Sの範囲内となるよう混合してスラリーを生成するスラリー化工程と、スラリーに第1揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、第1エマルジョンを形成する第1エマルジョン化工程と、第1エマルジョンから、磁力選別により粉体相を分離して回収する第1磁選工程と、第1磁選工程で得られた粉体相中に残存している第1揮発性疎水性溶剤を揮発除去する残留溶剤除去工程と、残留溶剤除去工程で得られた粉体相を含むスラリーから、湿式分級にて、合金鉄粉を分離回収する合金鉄粉回収工程と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油分が付着し、かつ、合金鉄粉と非磁着物を含む混合物から前記油分を分離して前記合金鉄粉を回収する合金鉄粉の回収方法であって、
前記混合物と、水とを、粘度が0.003~1.00Pa・Sの範囲内となるよう混合してスラリーを生成するスラリー化工程と、
前記スラリーに第1揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、第1エマルジョンを形成する第1エマルジョン化工程と、
前記第1エマルジョンから、磁力選別により粉体相を分離して回収する第1磁選工程と、
前記第1磁選工程で得られた前記粉体相を、前記第1揮発性疎水性溶剤の沸点超の水温である温水槽に投入し、前記粉体相中に残存している前記第1揮発性疎水性溶剤を揮発除去する残留溶剤除去工程と、
前記残留溶剤除去工程で得られた前記粉体相を含むスラリーから、湿式分級にて、合金鉄粉を分離回収する合金鉄粉回収工程と、
を備えることを特徴とする、合金鉄粉の回収方法。
【請求項2】
油分が付着し、かつ、合金鉄粉と非磁着物を含む混合物から前記油分を分離して前記合金鉄粉を回収する合金鉄粉の回収方法であって、
前記混合物と、水とを、粘度が0.003~1.00Pa・Sの範囲内となるよう混合してスラリーを生成するスラリー化工程と、
前記スラリーに第1揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、第1エマルジョンを形成する第1エマルジョン化工程と、
前記第1エマルジョンから、磁力選別により粉体相を分離して回収する第1磁選工程と、
前記第1磁選工程で得られた前記粉体相を、前記第1揮発性疎水性溶剤の沸点超の水温である温水槽に投入し、前記粉体相中に残存している前記第1揮発性疎水性溶剤を揮発除去する残留溶剤除去工程と、
前記残留溶剤除去工程で得られた前記粉体相を含むスラリーから、乾式分級にて、合金鉄粉を分離回収する合金鉄粉回収工程と、
を備え、
前記合金鉄粉回収工程は、
前記残留溶剤除去工程で得られた前記粉体相を含むスラリーを脱水機にて脱水する脱水工程と、
前記脱水工程で得られた前記粉体相を乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程で得られた前記粉体相から、乾式分級にて、合金鉄粉を分離回収する分級工程と、
を含むことを特徴とする、合金鉄粉の回収方法。
【請求項3】
前記残留溶剤除去工程で得られた前記粉体相を含むスラリー内の固形物中の油分濃度が、1.5質量%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の合金鉄粉の回収方法。
【請求項4】
前記湿式分級が、液体サイクロン、磁選のいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の合金鉄粉の回収方法。
【請求項5】
前記乾式分級が、遠心力型気流分級機、磁選、重液による比重分離のいずれかであることを特徴とする、請求項2に記載の合金鉄粉の回収方法。
【請求項6】
前記第1エマルジョン化工程と前記第1磁選工程からなる洗浄ステップを1回以上繰り返すことを特徴とする、請求項1又は2に記載の合金鉄粉の回収方法。
【請求項7】
前記第1磁選工程と前記残留溶剤除去工程との間において、さらに、
前記第1磁選工程で得られた前記粉体相に、第2揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、第2エマルジョンを形成する第2エマルジョン化工程と、
前記第2エマルジョンから磁力選別により第2粉体相を分離して回収する第2磁選工程と、
を備え、
前記洗浄ステップと、前記第2エマルジョン化工程と前記第2磁選工程からなるすすぎステップとを1つのカウンターフロー槽内にて行う向流型連続プロセスであることを特徴とする請求項6に記載の合金鉄粉の回収方法。
【請求項8】
前記第1揮発性疎水性溶剤の比重が、1.05超、2.0未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の合金鉄粉の回収方法。
【請求項9】
前記第1揮発性疎水性溶剤の常圧での沸点が95℃未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の合金鉄粉の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金鉄粉の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄業をはじめとする各種製造業では、親水性粒子を含む粉体が水または水溶液中で分散した混合物が大量に排出される。混合物は、含水スラリーの形態で排出されることが多い。混合物に含まれる粉体は多種多様であり、例えば製鉄業の分野であればスケール、ロール研磨屑等である。
【0003】
例えばスケールおよびロール研磨屑には、工業生産に際して不可避的に発生する油分と水分(例えば、圧延で使用する圧延油や潤滑油、冷却水)が混入する。このような油分と水分を含むスケールやロール研磨屑は、5~50%の水分と、数%の油分を含有する。そのため、リサイクルまたは効率的な使用等を目的として、スケール、ロール研磨屑などの合金鉄粉から油分および水分を除去する必要がある。
【0004】
油分を含む合金鉄粉(以下、含油粉体とも称する。)から油分を除去する方法として、従来では、ロータリーキルンなどで燃焼処理する方法が知られている。しかし、含油粉体の油分濃度は低いため、燃焼処理する場合には助燃燃料が必要となることから、多量のエネルギーを要するという問題があった。特に、含油粉体の油分濃度がより低い場合には、助燃燃料としてCOG(コークス炉ガス)、重油等のような高級(高価)なエネルギーが使用される場合があり、このような場合に上記の問題がより深刻になっていた。また、燃焼処理する場合には、CO排出量も増えるので、近年特に課題となっているCO削減にも反することとなる。
【0005】
また、油分の付着したスケール(以下、含油スケールとも称する)の場合、燃焼処理し油分を除去した後のスケールは、焼結工程等での鉄源として使用されることが多い。しかし、燃焼処理中にスケール中の主成分であるFeO(ウスタイト)およびFe(マグネタイト)がFe(ヘマタイト)まで酸化してしまい、焼結工程におけるコークス使用量を増加させてしまう問題があった。
【0006】
また、燃焼処理は助燃油などを使用するため、ランニングコストが高くなってしまう。さらに、燃焼処理は炉で実施するため、炉の高温耐性が必要となり設備費も高額となってしまう。
油分を含む合金鉄粉からの油分分離で必要なのは、合金粉体表面からの除去であるが、キルンなどでの燃焼処理は、上記のとおりランニングコスト、設備コストが高まる課題がある。さらに、燃焼処理は、助燃燃料を使用し、かつ、合金鉄粉の成分を酸化させてしまうため、COを多く排出する場合があり、カーボンニュートラル時代に適さない。
【0007】
また、レアメタル(Cr、Ni、Mo、V、Nb)を含む合金鉄粉と砥石粉と油分と水とを含むロール研摩屑に関しては、油分を含むスケールとともに、前述のロータリーキルンで燃焼して油分を除去して粉体を回収した後、得られた粉体を鉄源としてリサイクルすることが多い。ロール研磨屑から回収した粉体を鉄源としてリサイクルした場合、普通鋼などの低トランプエレメント鉄鋼材料の原料となり、ロール研磨屑に含まれるレアメタル成分はほぼ分離できなくなり、レアメタルが本来有する金属価値を利用することができなくなるという問題があった。
【0008】
このような問題に対し、燃焼処理を行わずに含油粉体から油分を分離する方法が種々検討されている。
【0009】
例えば、特許文献1では、油分の付着したスケールに抽出剤として有機溶剤を混合して攪拌することで、油分の付着したスケールから油分を有機溶剤に抽出し、比重差を利用して遠心力を作用させ、溶剤相と水相とスケール相に分離する方法が開示されている。
【0010】
特許文献2では、スケールを含むエマルジョンに対して、液体サイクロンにて遠心力を作用させて、含油粉体を含む混合物から油分を分離して、粉体を回収するという方法が開示されている。
【0011】
特許文献3では、金属帯研削ラインで発生したスラッジを含む研削油混合物を濾過して研削油を少量含むスラッジ混合物を得るという方法が開示されている。
【0012】
特許文献4には、油と水の混合物を攪拌して得られた油エマルジョンに対し、凝集剤と磁性粒子を加え、さらに攪拌して磁性フロックとし、その後、磁気分離によって油と水を分離する方法が開示されている。
【0013】
特許文献5には、金属加工用ロールを研磨する際に発生する、油分及び水分を含有する研磨屑を、Fe、Cr、Ni、及びMoを含むが、W、Vのいずれも含まない第1の研磨屑と、Fe、Cr、Ni、及びMoを含み、且つW、Vのいずれかを含む第2の研磨屑とに分別して管理する研磨屑の分別管理工程と、第1及び第2の研磨屑を、それぞれ乾燥させて水分を除去する研磨屑の水分除去工程と、第1及び第2の研磨屑を、それぞれ溶剤によって洗浄し、油分を除去する研磨屑の油分除去工程と、前記第1及び第2の研磨屑を、それぞれ溶融炉に入れて、金属成分を回収する研磨屑の金属成分回収工程と、を有するロール屑のリサイクル方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2015-132011号公報
【特許文献2】特開2017-177018号公報
【特許文献3】特開平7-116960号公報
【特許文献4】特開2003-277771号公報
【特許文献5】特開2016-196671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、高額な遠心分離機が必要となるという課題があった。さらに、後述する向流型連続プロセスを行い、油分除去率を向上させる場合、複数の抽出と相分離をポンプと配管で連結し、かつ、それらを制御する制御系統が必要であることから、高額な遠心分離機が複数台必要となるとともに、複雑になり、操業トラブルが生じやすいという課題があった。
【0016】
特許文献2に記載の方法では、微細な粒子の含有率が高い粉体の場合、液体サイクロンでの粒子の回収率が低下するという課題があった。
【0017】
また、特許文献3に記載の方法で、水と油分と親水性粒子を含む粉体が混合されたスラリーを濾過すると、濾過面の目詰まりが頻繁に発生する問題があった。さらに、濾過速度が小さいため、濾過装置が非常に大きくなり、安定操業が難しいという課題があった。
【0018】
特許文献4に記載の方法では、磁性粒子に付着した油分を分離し、低油分含有率まで低下しないという課題があった。
【0019】
特許文献5に記載の方法では、溶剤によって油分を除去する油分除去工程の前に、乾燥による水分除去工程を実施している。ロール研磨屑を構成する粒子間の間隙では、水(沸点100℃)と油分(沸点200℃超)が混じりあって存在する。そのため、水分を蒸発させるには、油分が障害となることから、水の沸点より数十℃高い温度で、かつ長時間を要するという問題があった。また、特許文献5に記載の方法のように、油分除去工程の前に水分除去工程を実施する場合には、油分の一部が気化して臭気が著しく悪化することが多いため、通常、排ガス処理設備が必要になるという問題があった。
【0020】
このように、燃焼処理を行わずに処理する特許文献1~5のいずれの技術によっても、含油粉体からの油分分離の問題を十分に解決することができていない。
【0021】
以上のような背景から、含油粉体から油分を除去して高純度の粉体を回収する方法においては、油分を除去する際のエネルギー(油分除去エネルギー)の消費が少なく、さらに高い回収率で粉体を回収できる方法が切望されている。
【0022】
さらに、燃焼処理を行わない従来のプロセスを用いてロール研摩屑(レアメタルと砥石粉と油と水の混合物)から油分を分離しようとすると、油分は分離できるものの、レアメタル(Cr、Ni、Mo、V、Nbなど)を含む合金鉄粉と砥石成分とを十分に分離できない場合があった。つまり、従来の方法で回収された油分分離後の粉体相は、レアメタル成分を含む合金鉄粉(磁着物)と、砥石成分(非磁着物)が混在している場合があった。
【0023】
砥石成分には、シリカ(SiO)やアルミナ(Al)などの非磁着物が含まれる。そのため、合金鉄粉と砥石成分とが混在した粉体相を、例えばロール原料もしくはステンレス原料としてリサイクルする場合、より多くのカルシウム源(石灰など)を添加してスラグの成分調整を行ったうえで溶融させるため、より多くのスラグを排出する必要があった。
【0024】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、従来の燃焼処理による油分分離とは異なり、油分を含む合金鉄粉からの油分除去エネルギーを低減し、かつ油分除去率および粉体回収率を高め、かつ磁着物と非磁着物とを分離することが可能な、合金鉄粉の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0026】
[1]油分が付着し、かつ、合金鉄粉と非磁着物を含む混合物から前記油分を分離して前記合金鉄粉を回収する合金鉄粉の回収方法であって、
前記混合物と、水とを、粘度が0.003~1.00Pa・Sの範囲内となるよう混合してスラリーを生成するスラリー化工程と、
前記スラリーに第1揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、第1エマルジョンを形成する第1エマルジョン化工程と、
前記第1エマルジョンから、磁力選別により粉体相を分離して回収する第1磁選工程と、
前記第1磁選工程で得られた前記粉体相を、前記第1揮発性疎水性溶剤の沸点超の水温である温水槽に投入し、前記粉体相中に残存している前記第1揮発性疎水性溶剤を揮発除去する残留溶剤除去工程と、
前記残留溶剤除去工程で得られた前記粉体相を含むスラリーから、湿式分級にて、合金鉄粉を分離回収する合金鉄粉回収工程と、
を備えることを特徴とする、合金鉄粉の回収方法。
[2]油分が付着し、かつ、合金鉄粉と非磁着物を含む混合物から前記油分を分離して前記合金鉄粉を回収する合金鉄粉の回収方法であって、
前記混合物と、水とを、粘度が0.003~1.00Pa・Sの範囲内となるよう混合してスラリーを生成するスラリー化工程と、
前記スラリーに第1揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、第1エマルジョンを形成する第1エマルジョン化工程と、
前記第1エマルジョンから、磁力選別により粉体相を分離して回収する第1磁選工程と、
前記第1磁選工程で得られた前記粉体相を、前記第1揮発性疎水性溶剤の沸点超の水温である温水槽に投入し、前記粉体相中に残存している前記第1揮発性疎水性溶剤を揮発除去する残留溶剤除去工程と、
前記残留溶剤除去工程で得られた前記粉体相を含むスラリーから、乾式分級にて、合金鉄粉を分離回収する合金鉄粉回収工程と、
を備え、
前記合金鉄粉回収工程は、
前記残留溶剤除去工程で得られた前記粉体相を含むスラリーを脱水機にて脱水する脱水工程と、
前記脱水工程で得られた前記粉体相を乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程で得られた前記粉体相から、乾式分級にて、合金鉄粉を分離回収する分級工程と、
を含むことを特徴とする、合金鉄粉の回収方法。
[3]前記残留溶剤除去工程で得られた前記粉体相を含むスラリー内の固形物中の油分濃度が、1.5質量%以下であることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載の合金鉄粉の回収方法。
[4]前記湿式分級が、液体サイクロン、磁選のいずれかであることを特徴とする、上記[1]に記載の合金鉄粉の回収方法。
[5]前記乾式分級が、遠心力型気流分級機、磁選、重液による比重分離のいずれかであることを特徴とする、上記[2]に記載の合金鉄粉の回収方法。
[6]前記第1エマルジョン化工程と前記第1磁選工程からなる洗浄ステップを1回以上繰り返すことを特徴とする、上記[1]または[2]に記載の合金鉄粉の回収方法。
[7]前記第1磁選工程と前記残留溶剤除去工程との間において、さらに、前記第1磁選工程で得られた前記粉体相に、第2揮発性疎水性溶剤を添加した後、混合し、第2エマルジョンを形成する第2エマルジョン化工程と、前記第2エマルジョンから磁力選別により第2粉体相を分離して回収する第2磁選工程と、を備え、前記洗浄ステップと、前記第2エマルジョン化工程と前記第2磁選工程からなるすすぎステップとを1つのカウンターフロー槽内にて行う向流型連続プロセスであることを特徴とする上記[6]に記載の合金鉄粉の回収方法。
[8]前記第1揮発性疎水性溶剤の比重が、1.05超、2.0未満であることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載の合金鉄粉の回収方法。
[9]前記第1揮発性疎水性溶剤の常圧での沸点が95℃未満であることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載の合金鉄粉の回収方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る上記態様によれば、含油粉体からの油分除去エネルギーを低減し、かつ油分除去率および粉体回収率を高め、かつ磁着物と非磁着物とを分離することが可能な、合金鉄粉の回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】含油スケール中の油分と水分の存在形態を示す模式図である。
図2】本実施形態に係る粉体の回収方法を説明するフローチャートである。
図3】本実施形態に係る粉体の回収方法の概要を説明するための模式図である。
図4】本実施形態に係る粉体の回収設備と、それを用いた連続処理(連続プロセス)を示す模式図である。
図5】本実施形態に係る粉体の回収設備の変形例と、それを用いた連続処理(連続プロセス)を示す模式図である。
図6】実施例1における、水および粉体の配合比(水/粉体(g/g))とスラリーの粘度(Pa・s)との関係を示すグラフである。
図7】実施例1における、スラリーの粘度(Pa・s)と油分除去率(%)の関係を示すグラフである。
図8】実施例1における、油分含有率(%)と合金含有率(%)との関係を示すグラフである。
図9】処理対象物をロール研磨屑とした場合の、油分抽出時のエマルジョン状態の模式図である。
図10図9に示すエマルジョンを、磁石を用いて破壊した状態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本実施形態に係る合金鉄粉の回収方法について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0030】
まず、合金鉄粉の回収方法における処理対象物、溶液等について、本発明者によって得られた新たな知見と合わせて説明する。
【0031】
本実施形態の合金鉄粉の回収方法は、磁力を用いて油分が除去され、かつ非磁着物(例えば、砥石成分)と分離された合金鉄粉を回収する方法である。そのため、本実施形態の合金鉄粉の回収方法における処理対象物は、油分が付着し、かつ磁着物を含む粉体(含油粉体)であり、例えば、圧延工程で発生するスケールやロール研磨屑などである。
ここでいうスケールとは、油分および水分を含有するスケールであり、含油スケールまたは含油スラッジと呼ばれることもある。ロール研磨屑とは、鉄鋼プロセスで使用する各種金属加工用ロールを研磨する際に発生する研磨屑であり、ロール屑と呼ばれることもある。スケールやロール研磨屑などの含油粉体の中には非磁着物が含まれる場合があり、中でも特にロール研磨屑中には、研磨で使用する砥石成分(シリカ、アルミナなど)が含まれる場合が多い。
【0032】
処理対象物である含油粉体の粉体粒子径は特に限定されないが、例えば、含油粉体としては平均粒子径5μm~200μmの粉体を対象とすることができる。ロール研磨屑の場合には、砥石成分が含まれるが、この砥石成分も平均粒子径5μm~200μm程度である。なお、粉体の粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定することができ、平均粒子径は体積基準とする。
【0033】
次に、含油粉体が含油スケールである場合を例に挙げ、含油スケール中の油分と水分の存在形態について説明する。なお、含有粉体がロール研磨屑である場合も、図1と同様の形態となる。
【0034】
図1は、含油スケール中の油分と水分の存在形態を示す模式図である。なお、図1に示す各構成要素の形状および寸法比率は、説明の便宜上、実際それらと異なるよう図示しているが、本実施形態における含油粉体は、図1に限定されるものではない。含油スケール中の水分および油分は、図1に示すように、バルク中の油水分、間隙中の油水分、毛管中の油水分、スケールに吸着している油水分として存在している。油水分とは、油分と水分が混合している状態のものをいう。また、ここでいうバルクとは、スケール粒子の界面に触れていない、スケール粒子の外部領域を指す。
【0035】
バルク中の油水分とは、スケール粒子群周辺に存在している水分と油分である。間隙中の油水分とは、スケール等の大小の固形粒子が凝集してできた隙間に囲まれている水分と油分である。毛管中の油水分とは、スケール表面の毛管内において毛管圧で結合している水分と油分である。スケール等の粒子に吸着している油水分とは、スケールに化学的に吸着している水分と油分である。
【0036】
バルク中の油水分は、スケール等の粒子群との結合力が殆ど無く、外圧を作用させることで安易に分離できる水分と油分であり、機械的な力、例えば、加圧型脱水機や遠心脱水機による脱水・脱油、又は、静置による自然脱水・脱油等の操作で、分離することができる。
【0037】
一方、間隙中の油水分は、スケール等の固形粒子に囲まれているため、機械的な力による脱水・脱油、又は、静置による脱水・脱油等の操作で分離することは非常に困難である。
【0038】
また毛管中の油水分は、スケール等の粒子表面の毛管内部に毛管力によって保持された水分や油分で、間隙中の油水分と同様、機械的な力による脱水・脱油、又は、静置による脱水・脱油等の操作で分離することは困難である。
【0039】
またスケール等の粒子に吸着している油水分は、粒子表面や内部に化学的に結合している水分・油分であり、温度の上昇による揮発や、化学反応でしか分離できない水分や油分である。つまり、間隙中の油水分、毛管中の油水分、粒子に吸着している油水分は、通常の脱水・脱油操作(遠心脱水機やフィルタープレスによる機械的な脱水・脱油操作、又は、静置による自然脱水・脱油等)では、容易に分離することはできない。
【0040】
このような課題について本発明者は、油水分、特に油分を分離・除去する手段として溶剤を用いる方法について検討した。検討の結果から、バルク中、間隙中および毛管中の油分ならびに、スケールやロール研磨屑を構成している合金鉄粉および非磁着物などの粉体に付着している油分を溶剤によって吸着させることで粉体から分離させることができると考え、さらに検討を進めた。
【0041】
例えば、図1に示すような含油スケールに有機溶剤を添加後、撹拌し、含油スケール中の油分を抽出する場合、バルク中の油分は容易に有機溶剤に接触するため、抽出されやすい。一方、間隙中および毛管中の各油分は、スケールに囲まれており、かつ、間隙中および毛管中には水分も油分と同時に存在する。そのため、間隙中および毛管中の各油分と有機溶剤は、水分とスケールに遮断されてしまい、有機溶剤と間隙中および毛管中の各油分とは容易に接触できない。つまり、間隙中の油分および毛管中の油分については、有機溶剤の添加・攪拌だけでは、含油スケール中の油分は抽出されにくく、油分の含有率は低下しにくい。
【0042】
本発明者は、通常の脱水・脱油操作では容易に分離できない間隙中の油分と毛管中の油分を、揮発し易い疎水性の有機溶剤(以下、揮発性疎水性溶剤とも称する。)で抽出した後、間隙および毛管中にある揮発性疎水性溶剤を揮発させることで、含油スケール中の油分を低減できることを見出した。
【0043】
また、含油粉体から油分を分離する手段として疎水性の有機溶剤を用いた場合、有機溶剤と含油粉体と水の混合液を強撹拌すると、溶剤液滴間の水相に多くの粉体粒子が分散したエマルジョン(乳濁液)となり、溶剤により油分を抽出することができる。しかしエマルジョン化が不十分な場合、溶剤による油分の抽出が十分に進行しないことが分かった。エマルジョン化が不十分な領域では、水と含油粉体とからなるスラリー中で、粉体が十分な流動性を確保できていないために、溶剤が均一に混合されず、溶剤と粉体が接触する確率が著しく減少するため、油分の抽出が進みにくいと考えられる。そのため、疎水性の有機溶剤と含油粉体の混合液をエマルジョンとする際、エマルジョン化する領域を十分に把握した上で、混合比率を決定していくことが重要である。
【0044】
また、一般には、疎水性の有機溶剤と水の混合液を強撹拌して静置すると、一時的にエマルジョンが生じるが、短時間でエマルジョン状態が解消することが多い。しかし、上述した微細な含油粉体と有機溶剤と水の混合液のように、親水性(ぬれ性)が高い微細粉体を含有する混合液を強撹拌して静置すると、油分の抽出を促進できる一方、エマルジョンが容易に破壊されずに安定化してしまうことがある。これは、固形分である微細粉体が乳化剤として機能して、微細な水滴と有機溶剤相との界面、若しくは、微細な有機溶剤液滴と水相との界面に微細粉体が介在することで、エマルジョンが安定化するからである。エマルジョンが安定化すると、疎水性の有機溶剤と水と微細粉体とを容易に分離できなくなってしまう。したがって、合金鉄粉等の粉体を回収するためには、エマルジョンを破壊する必要がある。
【0045】
そこで本発明者は、エマルジョンを破壊し、かつ、油分および水分が除去された磁着物を含む粉体を回収する方法として、磁気的な選別(以下、単に磁選ともいう)が可能な磁気分離機を用いてエマルジョンに磁力を作用させる方法を検討した。その結果、磁力によってエマルジョンを破壊して粉体相を分離できるとともに、油分が除去された粉体相のみを回収できることを見出した。このように、エマルジョンに磁力を作用させることにより、エマルジョン中の磁着物を含む粉体は、磁力の作用する方向へ移動されるため、短時間でエマルジョンは解消(解乳化)、すなわち破壊される。
【0046】
ただし、含油粉体中に、合金鉄粉等の磁着物と、砥石成分等の非磁着物とが混在している場合、エマルジョン状態のスラリー中では、磁着物と非磁着物をすばやく入れ替える(分離する)ことが難しく、油分が除去された粉体相において、磁着物と非磁着物の分離ができない場合があることが判明した。その理由について、以下に説明する。
【0047】
図9は、処理対象物をロール研磨屑とした場合の、油分抽出時のエマルジョン状態の模式図である。図10は、図10に示すエマルジョンを、磁石を用いて(つまり、磁着によって)破壊した状態の模式図である。
【0048】
図9に示すように、水相中に溶剤液滴が均一に広がり、溶剤液滴の周辺の水相中に油分が付着した合金鉄粉(磁着物)と砥石粉(非磁着物)が分散している。これら合金鉄粉と砥石粉が溶剤液滴と接触することで、合金鉄粉と砥石粉それぞれの表面に付着していた油分は溶剤相に抽出される。
【0049】
次に、このエマルジョンに磁石を近づけると、図10に示すように、磁着物である合金鉄粉は磁石に引き付けられて溶剤液滴間の水相中の粉体がなくなり、さらに、溶剤液滴同士が合一して、粉体相(ケーキ相)、油分を含んだ溶剤相、水相に分離される。このとき砥石成分は、非磁着性であるが、エマルジョン状態時には溶剤液滴間の狭い領域(図9の点線部分)に存在しているため、図10のように磁石を近づけたとしても、合金鉄粉との場所の入れ替わり(つまり分離)は物理的に生じにくい。そのため、磁石を近づけた場合、非磁着物である砥石成分の多くは、磁着物である合金鉄粉に巻き込まれるように、ともに磁石に引き付けられてしまうことから、エマルジョン内にある合金鉄粉と砥石粉成分それぞれを完全には分離することができない。
【0050】
合金鉄粉と砥石成分を含むエマルジョンを遠心分離した場合も、溶剤液滴間の狭い領域の水相中において、合金鉄粉と砥石成分の入れ替わりが生じにくく、合金鉄粉と砥石成分をそれぞれ完全には分離できない。
【0051】
そこで、本発明者らは、油分を除去した粉体相において合金鉄粉と砥石成分を分離する方法について検討した結果、合金鉄粉と砥石成分からなる粉体相を、湿式分級もしくは乾式分級により分級することで、効率的に合金鉄粉のみを回収できることを見出した。ただし、合金鉄粉と砥石成分を分級する際の流体部の大部分は単一相であることが重要であり、単一相は液相でも気相でも構わない。流体部が水相の場合には、水スラリーとなり、合金鉄粉と砥石粉はそれぞれ自由に移動することができ、磁選もしくは遠心分離によって、合金鉄粉と砥石粉はそれぞれ分離することができる(湿式分級)。また、流体部が気相の場合も同様に、合金鉄粉と砥石粉はそれぞれ自由に移動することができ、磁選もしくは遠心分離によって、合金鉄粉と砥石粉はそれぞれ分離することができる(乾式分級)。
【0052】
以上説明した新たな知見に基づき、本発明はなされた。
次に、本発明の一実施形態である合金鉄粉の回収方法について、図面を参照しながら説明する。
【0053】
<1.粉体の回収方法>
図2は、本実施形態に係る合金鉄粉の回収方法を示すフローチャートである。また図3は、本実施形態に係る合金鉄粉の回収方法の概要を説明するための模式図である。
【0054】
図2に示すように、本実施形態に係る合金鉄粉の回収方法は、スラリー化工程S1と、第1エマルジョン化工程S2-1と、第1磁選工程S2-2と、残留溶剤除去工程S4と、合金鉄粉回収工程S5を含む。
以下、各工程について、図3を参照しながら説明する。なお説明の便宜上、図3では、磁気分離機を各工程に配置した場合を示しているが、本実施形態に係る合金鉄粉の回収方法は、使用される装置および設備によって限定されるものではない。
【0055】
(スラリー化工程S1)
スラリー化工程S1は、油分が付着し、かつ、合金鉄粉と非磁着物を含む混合物(粉体)10と水20とを容器内で混合してスラリー30を生成する工程である(図3(a))。
スラリー化工程S1では、まず、容器内に粉体10と水20を投入して攪拌(混合)することで、粉体10を水20中に分散させてスラリー30を生成する。
【0056】
粉体10は、磁着物である合金鉄粉と非磁着物を含む混合物であり、スケールやロール研磨屑等が挙げられる。ロール研磨屑の場合、非磁着物は砥石成分である。粉体10は、スケールとロール研磨屑の混合物であってもよい。スケールは、主成分がFeOおよびFeであり磁性体であるが、磁着性が低い成分が含まれる場合がある。
【0057】
磁力による合金鉄粉の回収効率の向上の観点から、粉体10における磁着物の含有率は高いほうが好ましく、具体的には、磁着物の含有量は20質量%以上であることが好ましい。また、粉体10の磁着物の含有量が低い場合、例えば、20質量%未満の場合には、粉体10に鉄粉等の磁着物を新たに添加して、粉体10全体における磁着物の合計含有量を20質量%以上に増加させてもよい。そうすることで、元々の粉体中の磁着物と新たに添加した磁着物とを共に磁力によって回収することもできる。但し、新たに添加する磁着物の割合は、元々粉体中に存在した磁着物の割合よりも少なくすることが、回収物の再利用を考えるとエネルギー的に好ましい。
【0058】
ここで、スケールとは例えば、熱間圧延時、スラブ表面に生成されるFeOおよびFeが主成分である酸化鉄を指す。このようなスケールは、熱間圧延時に微細に粉砕され、クーラント水とともに排出される。つまり、クーラント水中に微細なスケールが分散した含水スラリー(含水スケール)が排出されるため、このような場合は、当該含水スラリーを使用する場合は、スラリー化工程S1を省略して後述する第1エマルジョン工程に直接含水スラリーを使用してもよい。なお、熱間圧延時に生成した含水スラリーには、一般的に、油分が3~8質量%(粉体の総質量に対する質量%)で含まれることが多い。
【0059】
本実施形態で用いる粉体10の比重は特に限定しないが、1.05超としてよい。また、粉体10は、スケールやロール研磨屑などの親水性粒子であることが好ましい。親水性粒子は、水に対する親和性を有する粒子であり、水に混ざり易い性質を有する。含油粉体10は、親水性粒子のみで構成されているのがより好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば他の種類の粒子、例えば疎水性粒子を含んでいてもよい。疎水性粒子は水に対する疎水性を有する粒子であり、例えば、コークス粉、プラスチック粉などが挙げられる。
【0060】
粉体10の比重は、後工程の第1エマルジョン化工程S2-1で使用する第1揮発性疎水性溶剤(以下、洗浄用溶剤とも称する。)50の比重よりも大きいことが好ましい。これにより、後にエマルジョンを破壊して相分離を図る際に、粉体10の粒子間に存在する水20を第1揮発性疎水性溶剤50で置換することができ、結果、粉体10の乾燥に要するエネルギーを低減できる。
【0061】
粉体10の粒子径は特に問わないが、粉体10の体積基準50%粒子径(d50)が200μm以下であることが好ましい。本実施形態では、粉体10の粒子間に存在する水20を第1揮発性疎水性溶剤50で置換することで、粉体10の乾燥に要するエネルギーを低減するとともに、効率よく粉体を回収するものである。第1揮発性疎水性溶剤50は水20に比べて低いエネルギーで蒸発する。したがって、粉体10の粒子間に存在する水20を第1揮発性疎水性溶剤50で置換することで、粉体10の乾燥に要するエネルギーを低減することができる。そして粉体10の粒子径が小さいほど、粉体10の粒子間に存在する間隙が大きくなるため、より多くの水20を第1揮発性疎水性溶剤50で置換することができ、結果、上記効果が増大する。このような観点から、粉体10の粒子径は小さいことが好ましく、粉体10の体積基準50%粒子径(d50)が100μm以下であることが好ましい。より好ましくは80μm以下であり、更により好ましくは50μm以下である。一方、粉体10の体積基準50%粒子径が1μm未満であると、間隙水に対して毛管水及び吸着水が多くなる。その結果、粉体10の親水性が非常に高くなり、本実施形態の処理を行っても粉体10の粒子間に存在する水20を除去しにくくなる可能性がある。そのため、粉体10の体積基準50%粒子径の下限値は1μm以上であることが好ましい。
【0062】
粉体10の体積基準50%粒子径(d50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた以下の測定方法によって測定可能である。具体的にはまず、測定対象となる油分の付着した粉体を水でスラリー化し、分散剤としてヘキサメタりん酸ナトリウム溶液を少量添加して混合液とし、さらに、混合液の撹拌及び超音波照射を行うことで混合液中に油分の付着した粉体を分散させる。ついで、混合液をレーザー回折式粒度分布測定装置にセットし、粒度分布を測定する。
【0063】
スラリー化工程S1における水20の添加量は、粉体10が水20中でスラリー状になる量以上とする。なお、後段の第1エマルジョン化工程で、スラリー30に第1揮発性疎水性溶剤50を添加するため、スラリー30の粘性は上昇する。そのため、スラリー化工程S1における粘性は目標とする粘性よりも低くしておく方がよい。具体的には、スラリー化工程S1におけるスラリーの粘度を1.00Pa・S以下になるように、粉体10に対して水20を添加する。スラリーの粘度は、好ましくは0.65Pa・S以下、より好ましくは0.50Pa・S以下、さらに好ましくは、0.35Pa・S以下とする。一方、スラリー化工程S1において水の添加量が多すぎると、第1エマルジョン化工程以降で、粉体10と第1揮発性疎水性溶剤50の接触確率が低下してしまう。このような場合には、粉体10からの油分の抽出時間を長くしたり、撹拌強度を大きくしたりする必要があり、作業効率の観点から好ましくない。したがって、粉体10に対する水20の添加量は、スラリーの粘度が0.003Pa・S以上になるように調整する。より好ましくは、0.10Pa・S以上である。
【0064】
スラリーの粘度は、まず回転粘度計により粘性抵抗トルクを測定し、得られた粘性抵抗トルクを粘度に換算することで求めることができる。具体的には、まず作成したスラリー300mlをトールビーカーに入れ、回転粘度計のローター部を浸漬させた状態で回転させることにより、ローター部に作用するスラリーの粘性抵抗トルクを測定する。その後、得られた粘性抵抗トルクを粘度に換算する。
【0065】
ここで、スラリー化工程S1における粘性の限定理由について、本発明者の検討結果を合わせて以下、説明する。
本発明者は、第1エマルジョン化工程S2-1におけるエマルジョン化の度合いと油分の抽出の進行度合いの相関について検討したところ、エマルジョン化が不十分であると洗浄用溶剤による油分の抽出も不十分となる、という新たな知見を得た。これは、エマルジョン化が不十分である場合では、粉体がスラリー中で十分な流動性を確保できていないために、洗浄用溶剤を添加しても当該溶剤が均一に混合されず、油分の抽出が促進されないためと考えられる。すなわち、エマルジョン中において、粉体から油分を抽出するためには、粉体の1つ1つの粒子が洗浄用溶剤の液滴に接することが必要となる。そのためには、水相中で粉体が自由に移動できるようにする必要がある。この「水相中を自由に移動できる」ことを評価する指標を検討した結果、本発明者はスラリーの粘性でもって評価できることを見出した。スラリー中の含油粉体の比率が上昇するとスラリーの粘度は急激に上昇し、スラリーの流動性が大幅に低下するため、その後、エマルジョン化を図っても、粉体と洗浄用溶剤の液滴は接触する機会が急激に減少してしまう。このようなことから、本実施形態では上記のとおり、スラリー化工程S1におけるスラリーの粘度を1.00Pa・S以下とすることが重要である。
【0066】
また、本実施形態では、安定したエマルジョン化の観点から、予め粉体10と水20とを混合してスラリー30を作成しておき、その次の工程で、スラリー30に第1揮発性疎水性溶剤50を添加することとする。
粉体10と水20と第1揮発性疎水性溶剤50を同時に混ぜて混合した場合、水20と粉体10との混合が進みにくく、エマルジョン化が難しくなる場合がある。特に、水/粉体の混合比(g/g)が小さくなると、エマルジョン化しにくくなり、油分の除去性能が低下する。よって、スラリー化工程S1において、水20と粉体10を予め混合し、スラリー化させた後に、得られたスラリーに第1揮発性疎水性溶剤50を添加して混合することでエマルジョン化していく方が好ましい。
【0067】
スラリー化工程S1で使用する混合装置としては、特に限定しないが、例えば、粉体10と水20の混合物を撹拌する撹拌翼を備えた容器、ラインミキサーなどを使用することができる。
【0068】
(洗浄ステップS2)
(第1エマルジョン化工程S2-1)
第1エマルジョン化工程S2-1は、スラリー化工程S1で生成したスラリー30に、第1揮発性疎水性溶剤50を添加して攪拌することでエマルジョン40を形成する工程である(図3(b))。
第1エマルジョン化工程S2-1では、まず、粉体10と水20からなるスラリー30が入った容器内に比重が1.05超、2.0未満の第1揮発性疎水性溶剤50を添加し、さらに攪拌してエマルジョン40を形成する。なお、第1エマルジョン化工程S2-1では、スラリー30を、スラリー化工程S1で使用した容器から別の容器へ移し替えて、エマルジョン40を形成してもかまわない。
【0069】
一般に、エマルジョンとは、相互に混じり合わない2種の液体であって、一方の液体中に他方の液体が微細な液滴となって分散している分散系溶液を意味し、乳濁液とも称される。本実施形態に係るエマルジョン40は、比重の異なる2種の液体(水20と第1揮発性疎水性溶剤50)と、固形分の粉体10が懸濁した分散系溶液を意味する。
【0070】
第1揮発性疎水性溶剤50は、揮発性および疎水性を有する液体、即ち、水に対する親和性が低い(水に溶解し難い、若しくは水と混ざり難い)性質を有する液体である。第1揮発性疎水性溶剤50は、例えば、常温(25℃)での水に対する溶解度が0g/L以上、10.0g/L以下の液体である。第1揮発性疎水性溶剤50の水への溶解度が高いと、粉体10の粒子間に存在する水20を第1揮発性疎水性溶剤50で置換した際に、第1揮発性疎水性溶剤50中に多くの水20が残る。この場合、残留溶剤除去工程S4後の粉体相の乾燥に要するエネルギーを十分に低減することができない可能性がある。このような観点から、第1揮発性疎水性溶剤50の水への溶解度は常温で10.0g/L以下であることが好ましく、5.0g/L以下であることがより好ましい。この場合、第1揮発性疎水性溶剤50中に残留する水20をさらに低減することができる。
【0071】
なお、本実施形態における「疎水性」とは、親油性を含む性質であってもよく、第1揮発性疎水性溶剤50は、例えば、疎水性を有する有機溶剤又は各種の油等であってよい。
【0072】
第1揮発性疎水性溶剤50の比重は、粉体から油分を分離させる磁選に大きな影響を及ぼさないため、特に限定されない。なお、エマルジョン破壊後の各要素の比重差を考慮すると、第1揮発性疎水性溶剤50の比重は、水より大きく、回収対象となる粉体10の比重よりも小さいことが好ましい。具体的には、第1揮発性疎水性溶剤50の比重は1.05超、2.0未満とすることが好ましい。これにより、エマルジョンを破壊した後に生じる水と第1揮発性疎水性溶剤50とを比重差で分離することができる。ただし、上記のとおり、第1揮発性疎水性溶剤50の比重は、当該範囲に限らず、1.05以下でもよく、エマルジョンを破壊した後に生じる水と第1揮発性疎水性溶剤50とを比重差で分離することができればよい。
【0073】
第1揮発性疎水性溶剤50の沸点は、常圧で95℃未満であることが好ましい。沸点の上限値が95℃未満であれば、後工程で粉体相を回収した後、粉体相中に残留した第1揮発性疎水性溶剤50を、容易に(例えば安価なエネルギー源である水蒸気で)除去することができる。なお、第1揮発性疎水性溶剤50の沸点の下限値は特に限定しないが、油分の抽出操作は常温で行いやすいことから、50℃以上とすることが好ましい。
【0074】
また、第1揮発性疎水性溶剤50の揮発熱量は、水の揮発熱量より小さいことが好ましい。この場合、第1揮発性疎水性溶剤50を揮発除去しやすくなり、粉体10と分離しやすくなる。
【0075】
また、第1揮発性疎水性溶剤50として用いる溶剤としては、粉体10より効率的に油分を除去するため、KB値(カウリブタノール値)の大きい溶剤を選択することが好ましい。第1揮発性疎水性溶剤50としてKB値の大きな溶剤を用いることで、油分をより吸収しやすくなる。KB値の観点からは、第1揮発性疎水性溶剤50として、例えばトリクロロエチレン、1-ブロモプロパン、n-ヘキサンなどを使用することが好ましい。また、第1揮発性疎水性溶剤50として、ハイドロフルオロエーテルを用いてもよい。
【0076】
油分の付着した粉体10に対する第1揮発性疎水性溶剤50の添加量(洗浄用溶剤添加率)は、特に限定しないが、使用する溶剤の種類や、使用設備等に応じて、適宜決定してよい。油分の除去率の観点からは添加量が多い方が好ましい。
【0077】
なお、本実施形態では前述したように、粉体10に対し、鉄粉等の磁着物を新たに添加して、粉体10中の磁着物の割合を増やすことで、回収割合を改善することもできる。
【0078】
(第1磁選工程S2-2)
第1磁選工程S2-2は、第1エマルジョン化工程S2-2で形成した第1エマルジョン40から、磁力選別により第1粉体相10aを分離して回収するする工程である(図3(c))。
【0079】
第1磁選工程S2-2は、第1磁気分離機80を用いて実施する。第1磁気分離機80としては、磁選効率の観点からドラム型の分離機を用いることが好ましい。以下、第1磁気分離機80としてドラム型の分離機を用いた場合について説明する。
【0080】
まず、エマルジョン40と第1磁気分離機80のドラム81を、図3(c)に示すように、接触させるとともに、ドラム81内に固定されている磁石82によりエマルジョン40に磁力を作用させる。エマルジョン40に磁力が作用すると、エマルジョン40中の粉体10のみがドラム81表面に磁着され、ドラム81の回転に伴って、粉体相(第1粉体相)10aが回収される。
【0081】
エマルジョン40の粉体10がドラム81表面に磁着されると、エマルジョン中の溶剤液滴が合一して溶剤相となり、その結果、エマルジョン40が破壊され、水20と第1揮発性疎水性溶剤50とに分離される。
【0082】
以上の工程により、油分が除去された、磁着物と非磁着物とからなる粉体相10aを回収することができる。
なお、ドラム81表面に磁着された粉体相10a中には、残留水、残留溶剤が付着している場合がある。そのような場合には、ドラム81表面に磁着された粉体相10aに対し、図3(c)に示すような絞りロール83によって圧力を加え脱液するとよい。脱液手段としては、絞りロール83に限らず、後述するような絞りガイド84(図4参照)を用いてもよい。
【0083】
また、以上説明した、第1エマルジョン化工程S2-1および第1磁選工程S2-2からなる洗浄ステップS2を2回以上繰り返し行ってもよい。これにより、油分除去率をさらに高めることができる。
【0084】
またさらに、残留溶剤の除去効率をさらに高めるために、残留溶剤除去工程をさらに実施するが、残留溶剤除去工程を実施する前に、以下のすすぎステップS3を実施してもよい。
【0085】
(すすぎステップ工程S3)
(第2エマルジョン化工程S3-1)
(第2磁選工程S3-2)
本実施形態では、洗浄ステップS2にて得られた粉体相10aに、第2揮発性疎水性溶剤51を添加した後に混合して第2エマルジョン41を形成する第2エマルジョン化工程S3-1(図3(d))、および第2エマルジョンから磁力選別により第2粉体相10aaを分離して回収する第2磁選工程(図3(e))を実施してもよい。
【0086】
上記のとおり、ドラム81表面に磁着された粉体相10a中には、残留水、残留溶剤が付着している場合がある。そこで、洗浄ステップS2に得られた粉体相10aを用いて、再度、エマルジョン化と磁力選別を実施することで、より油分の除去された粉体(第2粉体相10aa)を回収することができる。
【0087】
第2エマルジョン化工程S3-1、および第2磁選工程S3-2の具体的な実施方法および実施条件は、それぞれ、第1エマルジョン化工程S2-1、および第1磁選工程S2-2と同様としてよい。
【0088】
例えば、第1揮発性疎水性溶剤50と第2揮発性疎水性溶剤51は同じ溶剤を使用してもよく、違ってもよい。ただし、後述する残留溶剤除去工程や乾燥工程の実施効率の観点からは、第1揮発性疎水性溶剤50と第2揮発性疎水性溶剤51は同じ溶剤とすることが好ましい。
【0089】
また、第2揮発性疎水性溶剤51の比重は、第1揮発性疎水性溶剤50と同様に、含油粉体から油分を分離させる磁選に大きな影響を及ぼさないため、特に限定されない。なお、エマルジョン破壊後の各要素の比重差を考慮すると、水より大きく、回収対象となる粉体10の比重よりも小さいことが好ましい。具体的には、第2揮発性疎水性溶剤51の比重は1.05超、2.0未満とすることが好ましい。これにより、エマルジョンを破壊した後に生じる水と第2揮発性疎水性溶剤51とを比重差で分離することができる。ただし、上記のとおり、第2揮発性疎水性溶剤51の比重は、当該範囲に限らず、1.05以下でもよく、エマルジョンを破壊した後に生じる水と第1揮発性疎水性溶剤50とを比重差で分離することができればよい。
【0090】
また、第2エマルジョン化工程S3-1および第2磁選工程S3-2からなるすすぎステップS3を2回以上繰り返し行ってもよい。これにより、油分除去率をさらに高めることができる。
【0091】
また、本実施形態では、回収作業の効率化、ならびに回収速度の向上の観点から、洗浄ステップS2とすすぎステップS3を1つのカウンターフロー槽内にて行う向流型連続プロセスで実施することが好ましい。向流型連続プロセスを採用した回収設備の詳細については、後述する。
【0092】
また、第2揮発性疎水性溶剤51の添加量は、次のように算出することが好ましい。
まず、すすぎステップS3において除去された残留溶剤相を、比重分離によって油分をほとんど含まない水相と、油分を含む溶剤相とに分離し、そのうちの油分を含む溶剤相の吸光度を測定する。得られた吸光度の測定値から、すすぎステップS3後の粉体相中の残留油分量を推定し、この残留油分量の推定値が目標値以下となるよう、第2揮発性疎水性溶剤51の添加量を調整する。
【0093】
つまり、すすぎステップS3によって除去された残留溶剤相中に油分が多く含む場合(吸光度が高い場合)は、粉体相10aから除去しきれなかった油分が多く残っていると判断でき、その場合は第2揮発性疎水性溶剤51の添加量を増やす。一方、すすぎステップS3によって除去された残留溶剤相中に油分がほぼ残っていない場合(吸光度が低い場合)は、粉体相10aから油分を十分に除去できていると言えるため、第2揮発性疎水性溶剤51の添加量を減らせばよい。これにより、残留溶剤相を効率的に粉体相10aから除去することができ、また、すすぎステップS3によって除去された油分を含む残留溶剤相の吸光度によって、回収後の粉体相中の残留油分量を制御することができる。
【0094】
すすぎステップS3によって除去された油分を含む残留溶剤相の吸光度は、例えば、測定対象である残留溶剤相を密閉セルに入れ、吸光度計で吸光度を測定する。また油分は、一般的に黄色を帯びているため、油分を含んだ残留溶剤相の吸光度を測定する際の吸収波長は、350~500nm付近を用いればよい。
【0095】
なお、洗浄ステップS2により排出された廃液(洗浄廃液)から回収した油分を含む溶剤相については、蒸留した後に、油分を含まない揮発性疎水性溶剤として再生させてもよい。この再生させた揮発性疎水性溶剤は、第1揮発性疎水性溶剤もしくは第2揮発性疎水性溶剤として使用することができる。
また、すすぎステップS3により排出された廃液(すすぎ廃液)から回収した溶剤相に関しては、油分の含有量が少ないことから、第1揮発性疎水性溶剤(洗浄用溶剤)としても使用ができる。このような再利用の観点からも、第1揮発性疎水性溶剤50と第2揮発性疎水性溶剤51は同じものを使用するのが好ましい。
【0096】
(残留溶剤除去工程S4)
洗浄ステップS2(もしくはすすぎステップS3)後、回収後の粉体相10a(もしくは粉体相10aa)中に残留している第1揮発性疎水性溶剤50を除去する残留溶剤除去工程S4を実施する(図3(f))。すすぎステップS3を実施している場合には、第2揮発性疎水性溶剤51も本工程にて除去する。
回収後の粉体相10a中には、排出しきれなかった第1揮発性疎水性溶剤50が残留している場合がある。また、すすぎステップS3を実施した場合には、回収後の粉体相10aa中には、排出しきれなかった第2揮発性疎水性溶剤51も残留している場合がある。このような場合には、これら残留溶剤を除去することが好ましい。具体的には、例えば、乾燥や揮発除去によりこれらの溶剤を除去すればよい。なお、図3(f)では、揮発除去によって残留溶剤を除去する方法を示している。
【0097】
乾燥によって第1揮発性疎水性溶剤50および第2揮発性疎水性溶剤51を除去する場合、乾燥温度は第1揮発性疎水性溶剤50の沸点超の温度とすることが好ましい。これにより粉体相10a(もしくは粉体相10aa)から効率的に各溶剤を乾燥除去できる。なお、すすぎ工程において第2揮発性疎水性溶剤51として第1揮発性疎水性溶剤50とは異なる疎水性溶剤を用いた場合は、第1揮発性疎水性溶剤50および第2揮発性疎水性溶剤51の沸点のうちいずれか高い方の温度で乾燥除去すればよい。なお、第1揮発性疎水性溶剤50および第2揮発性疎水性溶剤51を乾燥によって除去した場合には、得られた粉体相10aを、そのまま磁選等によって分級することで、非磁着物を分離させることもできる。つまり、乾燥によって残留溶剤が除去した場合は、粉体相10aをスラリー化させることなく、磁選等によって磁着物と非磁着物に分級できる。
【0098】
乾燥させる手段は特に限定しないが、例えば、間接加熱型乾燥器、真空間接加熱型乾燥器などを用いて乾燥させてよい。
【0099】
揮発除去によって第1揮発性疎水性溶剤50および第2揮発性疎水性溶剤51を除去する場合は、まず、図3(f)に示すように、第1揮発性疎水性溶剤50の沸点超の水温である温水槽に投入して第1揮発性疎水性溶剤50を揮発除去する。温水槽に投入された粉体相10a(もしくは粉体相10aa)はスラリー化してスラリー42となるため、溶剤を揮発除去した後は、当該スラリー42を分級する合金鉄粉回収工程S5を実施する。詳細は後述する。なお、すすぎステップS3において第2揮発性疎水性溶剤51として第1揮発性疎水性溶剤50とは異なる疎水性溶剤を用いた場合は、温水槽の水温は、第1揮発性疎水性溶剤50および第2揮発性疎水性溶剤51の沸点のうちいずれか高い方とすればよい。
【0100】
上述したように、洗浄ステップS2後の粉体相(粉体ケーキ)10a、もしくはすすぎステップS3後の粉体相(粉体ケーキ)10aaに含まれる液体の一部分は第1揮発性疎水性溶剤50、または、第2揮発性疎水性溶剤51である。そのため、より少ないエネルギー(気化熱量)で粉体相10aもしくは粉体相10aaを乾燥することができる。なお、後述する実施例で示されるように、粉体相の乾燥に要するエネルギーは示差走査熱量測定(DSC、Differential scanning calorimetry)によって測定することができるが、他の方法、例えばカールフィッシャー法によっても測定することができる。
【0101】
(合金鉄粉回収工程S5)
残留溶剤除去工程S4後の粉体相10a(もしくは粉体相10aa)中には、磁着物と非磁着物が混在した状態で含まれている。そこで本実施形態では、残留溶剤除去工程S4によって得られた粉体相10a(もしくは粉体相10aa)を含むスラリー42から合金鉄粉10bを回収する、すなわち当該スラリーから非磁着物を分離させる工程を実施する(図3(g))。
【0102】
残留溶剤除去工程S4を揮発除去で行う場合には、上記のとおり、温水槽に投入された粉体相10a(もしくは粉体相10aa)はスラリー化しているため、合金鉄粉回収工程S5では、このスラリー42を湿式分級により、合金鉄粉10bを分離して回収すればよい。湿式分級の具体的な手段は特に限定しないが、液体サイクロン、もしくは磁選がよい。
【0103】
また、残留溶剤除去工程S4で得られたスラリー42を、一旦、脱水機等で脱水して粉体相とし(脱水工程)、その後、粉体相を乾燥し(乾燥工程)、乾式分級にて合金鉄粉10bを分離して回収してもよい(分級工程)。乾式分級の具体的な手段は特に限定しないが、遠心力型気流分級機、磁選、もしくは重液による比重分離がよい。また脱水工程で使用する脱水機としては、第1磁気分離機80と同様の磁気分離機を使用してもよいし、遠心分離機、スクリュープレス、ろ過型脱水機などを使用してもよい。
【0104】
なお、合金鉄粉回収工程S5において、効率よく合金鉄粉と非磁着物とを分離するためには、残留溶剤除去工程S4で得られたスラリー42内の固形物中の油分濃度が低下していることが好ましい。すなわち、合金鉄粉と非磁着物との分離効率は、洗浄ステップ(もしくはすすぎステップ)における油分除去率が影響し、粉体から油分が十分に除去できていればいるほど、つまりがスラリー42内の固形物中の油分濃度が低いほど、合金鉄粉の回収効率を高めることができる。好ましくは、スラリー42内の固形物中の油分濃度は1.5質量%以下である。
【0105】
以上の工程により、油分ならびに各溶剤が除去された合金鉄粉10bを回収することができる。
【0106】
以上、本実施形態に係る合金鉄粉の回収方法について説明してきたが、各工程を行う際の温度、圧力は特に制限されず、例えば常温常圧下で行ってもよい。
また、上記では、すすぎステップS3の後に残留溶剤除去工程S4を実施したが、すすぎステップS3を省略し、洗浄ステップS2の後に残留溶剤除去工程S4を実施しても構わない。
【0107】
また、本実施形態に係る合金鉄粉の回収方法は、スラリー化工程S1~合金鉄粉回収工程S5の各工程を回分処理で実施することも可能であるが、固液分離速度、粉体回収速度および生産性の観点からは、これら工程を同時並行で処理する連続処理で実施することが好ましい。
【0108】
本実施形態に係る合金鉄粉の回収方法によれば、磁気分離機を用い、揮発性の疎水性溶剤を利用した油分の抽出・除去を行うため、従来の燃焼処理方法に比べ、含油粉体からの油分除去エネルギーを大幅に低減できる。また回収された粉体相中の間隙は、揮発性疎水性溶剤が多く含まれることから、容易に除去することができ、油分をほとんど含まない低水分かつ高純度の合金鉄粉を、効率的に回収することができる。すなわち、本実施形態に係る合金鉄粉の回収方法によれば、油分除去率および固液分離速度を高めることが可能な、新規かつ改良された合金鉄粉の回収方法を提供することができる。
さらに、本実施形態に係る合金鉄粉の回収方法では、溶剤を揮発除去後、合金鉄粉と非磁着物(例えば砥石成分)を分離するが、上記の通り、油分および溶剤が効率よくかつ十分に除去された粉体相を得ることができるため、合金鉄粉を高効率で粉体相から回収することができる。
【0109】
<2.合金鉄粉の回収設備>
次に、上述した本実施形態の合金鉄粉の回収方法を実施するための合金鉄粉の回収設備の一実施形態について説明する。
【0110】
本実施形態に係る合金鉄粉の回収設備は、油分が付着し、かつ、合金鉄粉と非磁着物を含む混合物から油分を分離して合金鉄粉を回収する設備である。本実施形態の合金鉄粉の回収設備における各装置は回分式(図3参照)で設けてもよいが、回収作業の効率化、ならびに回収速度の向上の観点から、エマルジョン化装置と磁気分離機を1つのカウンターフロー槽内に配置し、各工程を同時に実施しながら連続して処理を進める、いわゆる向流型連続プロセスとなるよう設けてもよい。
以下の説明では、本実施形態の回収設備の一例として、向流型連続プロセスで実施する場合を例に挙げ、説明する。
【0111】
図4は、本実施形態に係る合金鉄粉の回収設備1と、それを用いた連続処理(連続プロセス)を示す模式図である。
本実施形態の粉体の回収設備1は、スラリー化装置60と、第1エマルジョン化装置70と、磁力によって第1粉体相を分離して回収する第1磁気分離機80と、残留溶剤除去装置73を備える。第1エマルジョン化装置70及び第1磁気分離機80は、スラリー及び各揮発性疎水性溶剤が充填されたカウンターフロー槽100内に、上流から下流に向かって縦列に配置されている。なお、本実施形態でいう「上流」とは、第1エマルジョン化装置70側であり、「下流」とは第2磁気分離機90側である。つまり、上流から下流に向けた流れとは、粉体相の搬送方向を意味する。一方、水相および溶剤相の流れは、下流から上流に向けた流れとなり、粉体相の流れと向流となる。
【0112】
スラリー化装置60は、スラリー化工程S1を実行する装置であり、油分が付着した合金鉄粉と非磁着物を含む混合物(粉体)10と水20とを攪拌・混合してスラリー30を生成する。スラリー化装置60としては公知のものを使用することができ、例えば、粉体10及び水20の混合液を撹拌する撹拌翼とモータを備えた容器、ラインミキサーなどを使用することができる。
【0113】
スラリー化装置60は、後段の第1エマルジョン化装置70と、例えば配管を介して接続することができる。配管にはポンプPが接続されており、ポンプPによってスラリー30がエマルジョン化装置70に送出される。なお、図4では、設備の上方よりスラリー30を投入しているが、設備側面より投入しても構わない。
【0114】
第1エマルジョン化装置70は、第1エマルジョン化工程S2-1を実行する装置であり、スラリー30と第1揮発性疎水性溶剤50を攪拌・混合し、エマルジョン40を形成する。なお本実施形態は向流型であるため、溶剤相は下流から上流に向け流れる。つまり第1エマルジョン化装置70で用いられる第1揮発性疎水性溶剤50は、下流側から流入する形態となるため、第1揮発性疎水性溶剤50の投入位置は、第1エマルジョン化装置70よりも下流側とする。具体的には、第1揮発性疎水性溶剤50は第2エマルジョン化装置71の上方より投入されることが望ましい。ただし、第1揮発性疎水性溶剤50の投入位置は、1箇所に限らず、第1エマルジョン化装置70の上方から投入されてもよい。第1エマルジョン化装置70については公知のものを使用することができ、例えば、スラリー30と第1揮発性疎水性溶剤50との混合物を撹拌する撹拌翼とモータを備えた容器、ラインミキサーなどを使用することができる。
【0115】
本実施形態の回収設備1は、粉体相の流れと、水相および溶剤相の流れとが向流である向流型連続回収設備であるため、後段のすすぎステップS3で用いられる第2揮発性疎水性溶剤51は、洗浄ステップS1に流れ込む。つまり、第1エマルジョン化装置70では、第1揮発性疎水性溶剤50と第2揮発性疎水性溶剤51の2つの溶剤が適用されることになるため、第1揮発性疎水性溶剤50と第2揮発性疎水性溶剤51は、同種の溶剤を用いることが好ましい。
【0116】
第1エマルジョン化装置70は、モータMで撹拌翼を回転させることにより、スラリー30と第1揮発性疎水性溶剤50とを撹拌して、混合する。その結果、粉体10と水20と第1揮発性疎水性溶剤50が強攪拌されるため、上述したエマルジョン40を生成することができる。さらに、第1揮発性疎水性溶剤50が油分の抽出剤として作用して、粉体10から油分が抽出される。
【0117】
第1磁気分離機80は、第1磁選工程S2-2を実行する装置であり、磁力によって第1粉体相を分離して回収する。第1磁気分離機80は、第1エマルジョン化装置70の下流側に配置される。磁選効率の観点からドラム型の分離機を用いることが好ましい。以下、第1磁気分離機80としてドラム型の分離機を用いた場合について説明する。
【0118】
第1磁気分離機80は、ドラム81と、ドラム81内に設けられた磁石82と、ドラム81上部に設けられた絞りガイド84を備える。第1磁気分離機80は、ドラム81及び磁石82の少なくとも一部がエマルジョン40に浸漬するように設けられ、ドラム81内に固定されている磁石82によりエマルジョン40に磁力が作用する。エマルジョン40に磁力が作用すると、エマルジョン40中の粉体10のみがドラム81表面に磁着され、ドラム81の回転に伴って、粉体相(第1粉体相)10aが回収される。
【0119】
エマルジョン40の粉体10がドラム81表面に磁着されると、エマルジョン中の溶剤液滴が合一して溶剤相となり、その結果、エマルジョン40が破壊され、水20と第1揮発性疎水性溶剤50とに分離される。
【0120】
絞りガイド84は、ドラム81の上方に設けられた脱液手段である。絞りガイド84によって、回収された粉体相10aに付着している残留水および残留溶剤に圧力を加えることで、第1粉体相10aを脱液することができる。
【0121】
本実施形態の回収設備1では、粉体相10a中の残留溶剤の除去効率をさらに高めるために、すすぎステップS3を実施するための第2エマルジョン化装置71、第2磁気分離機90をさらに備えてもよい。
【0122】
第2エマルジョン化装置71は、第2エマルジョン化工程S3-1を実行する装置であり、第1磁気分離機80によって回収された第1粉体相10aに、さらに第2揮発性疎水性溶剤51を添加した後、攪拌・混合し、エマルジョン40を形成する。ここで用いる第2揮発性疎水性溶剤51は第1揮発性疎水性溶剤50と同種の溶剤である。また、第2エマルジョン化装置71としては、第1エマルジョン化装置70と同構成の装置を採用してよい。
【0123】
第2磁気分離機90は、第2磁選工程S3-2を実行する装置である。第1磁気分離機80によって回収された第1粉体相10aには、油分を含んだ溶剤が残留、もしくは、粉体表面に油分が残留している場合がある。そのため、再度、第2磁気分離機によって磁選することで、より油分の除去された粉体(第2粉体相10aa)を分離して回収することができる。第2磁気分離機90は、第1磁気分離機と同構成の装置を採用してよい。
【0124】
また本実施形態の粉体の回収設備1では、第1磁気分離機80によって回収された第1粉体相10aに残留している溶剤、もしくはすすぎステップS3を実施する場合には、第2磁気分離機90によって回収された第2粉体相10aaに残留している溶剤を除去する(残留溶剤除去工程S4)ための、残留溶剤除去装置73および脱水機91をさらに設けてもよい。
【0125】
残留溶剤除去装置73は、揮発除去によって、第1粉体相10aもしくは第2粉体相10aa中に残留している第1揮発性疎水性溶剤50および第2揮発性疎水性溶剤51を除去する装置である。残留溶剤除去装置73の具体的な構成は、公知の構成を採用できるが、例えば、温水を充填する温水槽および攪拌するためのモータMを備える構成を例示できる。
まず、温水が充填された温水槽中に第1粉体相10aもしくは第2粉体相10aaを投入し、モータMで撹拌翼を回転させることにより、第1粉体相10aもしくは第2粉体相10aaに残留した溶剤を除去することができる。なお、揮発除去に使用した温水は、回収設備1の最下流にて回収し、再度、残留溶剤除去装置73内に投入されて再利用することができる。また、揮発除去により除去された溶剤は、蒸留装置(不図示)に回収され、精留されることで、再び、第1揮発性疎水性溶剤50もしくは第2揮発性疎水性溶剤51として再利用することができる。
【0126】
残留溶剤除去装置73を用いた揮発除去では、温水を用いる。そのため、第2磁気分離機90と残留溶剤除去装置73との間には、熱エネルギーが下流側へ伝熱することを回避するために断熱壁Wを設けることが望ましい。なお断熱壁Wは、第2磁気分離機90と残留溶剤除去装置73との間のカウンターフロー槽100の断面(境界)のうち、粉体相10aaを搬送および投入するための投入口以外の境界に設けられることが望ましいが、少なくとも断熱壁Wの高さが温水の水面より高い位置となればよい。また、第1粉体相10aもしくは第2粉体相10aaを搬送および投入するための投入口には、シール性が高いロータリーバルブなどを設け、第1粉体相10aもしくは第2粉体相10aaを搬送および投入することが望ましい。
【0127】
脱水機91は、温水槽にて溶剤が揮発除去された第1粉体相10aもしくは第2粉体相10aaを含むスラリーを脱水して合金鉄粉10bを回収する装置である。脱水機91の具体的な構成は、第1磁気分離機80、第2磁気分離機90と同様の構成としてよい。または、脱水機91として液体サイクロンを使用してもよい。
【0128】
このように残留溶剤除去装置73によって粉体相から残留溶剤を除去した後、当該粉体相を含むスラリーを脱水機91により脱水し、湿式分級することにより、粉体相から合金鉄粉10bを分離回収することができる。なお、粉体相から分離された非磁着物(例えば砥石成分)は、ろ過等によって水と非磁着物に分離される。
【0129】
図5は、本実施形態に係る合金鉄粉の回収設備1の変形例である。本変形例の回収設備1の残留溶剤除去装置73までの各構成は、図4の構成と同じである。
図5に示すように、本変形例の回収設備では、残留溶剤除去設備73で溶剤が除去されたスラリーに対し脱水機91によって湿式分級が行われるが、このスラリーは下流から回収され、再度、残留溶剤除去装置73内に投入されるフローとなっている。そのため、スラリーが残留溶剤除去設備73と脱水機91と連続して循環する流れとなり、粉体相中に含まれる非磁着物が脱水機91で十分に分級されず、合金鉄粉中に残留したまま、粉体相10aaとして排出されてしまう。
【0130】
そこで、本変形例では、この合金鉄粉中に非磁着物が残留している粉体相10aaを、乾燥装置にて乾燥して水分を除去した後に、乾燥後の粉体相aaを乾式分級機によって分級する。乾式分級の具体的な手段は特に限定しないが、遠心力型気流分級機、磁選、もしくは重液による比重分離がよい。これにより、合金鉄粉と非磁着物が混在する粉体相から合金鉄粉10bのみを分離回収することができる。
【0131】
また、図4または図5において、磁気分離機80,90、および脱水機91の回転方向は、液体の流れに対して並行方向(時計回り)としているが、対抗方向(反時計回り)としてもよい。粉体中に磁着性の弱い粒子が多く含まれる場合は、対抗方向に回転させることが好ましい。
また、図4または図5において、洗浄ステップS2と相分離工程の間に、流出防止用磁着ドラムを1台もしくは複数台設置してもよい。洗浄ステップS2よって流出した粉体、つまり磁着できなかった粉体を流出防止用磁着ドラムで磁着し、第1エマルジョン化装置70に戻すことができる。なお、洗浄ステップS2よって磁着できなかった粉体中には磁着性の弱い粒子が多く含まれるため、流出防止用磁着ドラムの回転方向は、対抗方向(反時計回り)とすることが好ましい。
【0132】
以上、本実施形態の回収設備1の好ましい形態について説明してきたが、上記のとおり、回収設備1として、回分式の設備でも適用可能であり、その場合でも向流型と同様の技術思想を適用できる。
【0133】
また、本実施形態の回収設備1は向流型連続回収設備であり、水相および溶剤相の流れは、下流から上流に向けた流れとなる。そのため、第2エマルジョン化装置の上方から投入された揮発性疎水性溶剤をエマルジョン化に十分に寄与させるためには、第1磁気分離機と第2エマルジョン化装置との間に、越流堰を設けることが好ましい。これにより、投入した溶剤を第2エマルジョン化装置周辺に滞留させることができ、結果、十分なエマルジョン化を図ることができる。
また、粉体10が容易にスラリー化できる場合は、粉体10を直接第1エマルジョン化装置70に投入してもよい。
また、すすぎステップS3をさらに追加し、複数回実施してもよい。こうすることで、油分除去率をさらに高めることができる。
また、第1エマルジョン化工程S2-1に、第2揮発性疎水性溶剤を添加してもよい。
【実施例0134】
次に、本実施形態の実施例(実験例)を説明する。以下に説明する各実施例では、本実施形態の効果を確認するために様々な試験を行った。なお、以下の各実施例はいずれも常温常圧下で行った。
【0135】
<実施例1>
油分が付着したロール研磨屑(油分含有率:7.5質量%、合金含有率:76.0質量%)及び水を表1に示す条件で配合し、混合しスラリーを作成した。その後、比重が0.65~1.43である揮発性疎水性溶剤(洗浄用溶剤)を添加し、混合しエマルジョンを作成した。
【0136】
次に、得られたエマルジョン中にネオジウム磁石(表面積:14.5cm、表面における磁束密度:約5,000ガウス)を5秒間浸漬した後、ネオジウム磁石を引きあげ、磁石表面に磁着した磁着物を主体とする粉体相(脱液前ケーキ)を回収した。
【0137】
次に、磁石表面に磁着した粉体相に、ゴム板を押しあてて絞ることで、磁石表面上で脱液した。
【0138】
脱液後の粉体相を磁石表面よりかきとり、粉体相中の油分含有率を測定し油分除去率を計算した。油分除去率は、処理前の粉体中の油分含有率と処理後の粉体中の油分含有率より、油分の除去率を算出した。
【0139】
また、磁石表面に付着した粉体相を除去した後に、再度、エマルジョン中に磁石を浸漬させ、エマルジョン中に残存している磁着物を回収した。この操作を、磁石表面に磁着物が磁着しなくなるまで、繰り返した。
【0140】
回収した磁着物を、98℃(疎水性溶剤の沸点より高い温度)に調整した温水に投入し、10分間混合し、疎水性溶剤を揮発除去したスラリーを回収した。
【0141】
比較例1-1~比較例1-3、発明例1-4~発明例1-10、発明例1-15、1-16では、疎水性溶剤除去後のスラリーの温度を常温まで低下させた後に、ネオジウム磁石(表面積:14.5cm、表面における磁束密度:約5,000ガウス)を5秒間浸漬した後、ネオジウム磁石を引きあげ、磁石表面に磁着した磁着物を主体とする粉体相(合金鉄粉)を回収した。次に、磁石表面に磁着した磁着物を主体とする粉体相に、ゴム板を押しあてて絞ることで、磁石表面上で脱液した。
次に、磁石表面に付着した粉体相を除去した後に、再度、スラリー中に磁石を浸漬させ、スラリー中に残存している磁着物を回収した。この操作を、磁石表面に磁着物が磁着しなくなるまで、繰り返した。回収した全ての磁着物を乾燥させた後、蛍光X線分析により、ロールの構成金属元素(Fe、Ni、V、Cr、Mo、Mn、Nb、W)を合金元素とし、それ以外を砥石成分として回収した磁着物全体に対する合金元素含有率(合金含有率)を算出した。
【0142】
発明例1-11では、疎水性溶剤除去後のスラリーの温度を常温まで低下させた後に、スラリー濃度を10質量%に調整し、調整したスラリーを液体サイクロンに投入し、液体サイクロン下部から磁着物を主体とする粉体相を多く含むスラリーを回収した。次いで、回収したスラリーを乾燥させて磁着物を主体とする粉体相を回収し、その後、蛍光X線分析により、ロールの構成金属元素(Fe、Ni、V、Cr、Mo、Mn、Nb、W)を合金元素とし、それ以外を砥石成分として回収した磁着物を主体とする粉体相全体に対する合金元素含有率を算出した。
【0143】
発明例1-12~発明例1-14では、疎水性溶剤除去後のスラリーの温度を常温まで低下させた後に、スラリーをろ過して得られた磁着物を主体とする粉体相を乾燥させた。
その後、発明例1-12では、ネオジウム磁石(表面積:14.5cm、表面における磁束密度:約5,000ガウス)による磁選を行い、磁着物(合金成分)を回収した後、蛍光X線分析により、ロールの構成金属元素(Fe、Ni、V、Cr、Mo、Mn、Nb、W)を合金元素とし、それ以外を砥石成分として回収した磁着物全体に対する合金元素含有率を算出した。
発明例1-13では、磁着物を主体とする粉体相を比重3に調整した重液(ポリタングステン酸ナトリウム水溶液)に投入し混合した後、静置し、沈殿した沈殿物を回収した。回収した沈殿物はろ紙上でよく水洗いを行い、ろ紙上の固形物を乾燥させた後、蛍光X線分析により、ロールの構成金属元素(Fe、Ni、V、Cr、Mo、Mn、Nb、W)を合金元素とし、それ以外を砥石成分として回収した磁着物全体に対する合金元素含有率を算出した。
発明例1-14では、乾燥して得た磁着物を主体とする乾粉を、遠心力型気流分級機で分級し、比重が大きい粒子と比重が小さい粒子とに分級した。比重が大きい粒子について、蛍光X線分析により、ロールの構成金属元素(Fe、Ni、V、Cr、Mo、Mn、Nb、W)を合金元素とし、それ以外を砥石成分として回収した磁着物全体に対する合金元素含有率を算出した。
【0144】
なお、本実施例では、合金含有率が85.0質量%以上であったものを、合金回収率に優れる(合格)と評価した。評価基準値を「85.0質量%」とした理由は以下のとおりである。
例えば、合金含有率が85%(砥石成分15%)の材料で金属成分を溶融還元した際、金属の比重:7、スラグの比重:2.5(融点付近の比重)、スラグの塩基度:1.5として計算した場合、溶融金属:溶融スラグは70:30(重量比)、体積比で45:55となる。すなわち、合金含有率85%の材料で金属成分を溶融還元した場合、溶融還元炉の約半分が溶融スラグで占有されるようになり、スラグ除去のために多くのエネルギーを費やすことになってしまう。よって、合金含有率が85質量%より低い材料を用いると、溶融還元炉単位体積当たりの金属生産量はさらに低下することとなるため、回収処理後の合金鉄粉の合金含有率が85.0%質量以上の場合を、合金回収率に優れる発明例であると評価した。
【0145】
【表1】
【0146】
比較例1-1~1-3、発明例1-4~1-7は、洗浄用溶剤と粉体との配合比(洗浄用溶剤/粉体(g/g))を一定(2.00(g/g))にし、水および粉体の配合比(水/粉体(g/g))のみを0.18~1.06(g/g)まで変化させた例である。
水/粉体が0.33(g/g)以下(比較例1-1および比較例1-2)では、スラリー化できておらず、スラリーの粘度測定時、測定範囲を超過(100Pa・S超)してしまい、測定自体が実施できなかった。
水/粉体が0.47(g/g)の比較例1-3では、油分は低下するものの、最終回収物の合金含有率は80.1%と元サンプルの合金含有率76.0%よりあまり改善できなかった。
水/粉体が0.62(g/g)~1.06(g/g)の発明例1-4~1-7では、溶剤の揮発除去後の粉体相における油分含有率は1.4%以下となり、発明例1-6~1-7に至っては0.3%まで改善できた。また、油分含有率が低下するにつれて、最終回収物の合金含有率は上昇し、85.2%以上となり、発明例1-7では98.1%まで改善した。
【0147】
図6および図7のそれぞれは、比較例1-3、発明例1-4~発明例1-7における、水および粉体の配合比(水/粉体(g/g))とスラリーの粘度(Pa・s)との関係、ならびにスラリーの粘度(Pa・s)と油分除去率(質量%)を示すグラフである。また、図8は、比較例1-0~比較例1-3、発明例1-4~発明例1-7における、油分含有率と合金含有率との関係を示すグラフである。
図6および図7のグラフに示すとおり、水/粉体が小さくなると、スラリーの粘度が上昇してしまい、洗浄用溶剤との混合が不十分となる結果、油分除去率は低下する傾向となった。また、図8のグラフに示すとおり、油分含有率が低下するにつれて、最終回収物の合金含有率は高くなる傾向となった。特に油分含有率が1.4%(発明例1-4)の時、合金含有率は85.2%となり、さらに油分含有率が低下すると、最終回収物中の合金含有率はさらに上昇した。これより、油分含有率1.4%以下が好ましいといえる。
【0148】
研磨屑中の砥石成分と合金成分の真比重が異なり、かつ、合金鉄成分は磁着性があることから、油分含有率を1.4%以下にすることで、湿式分級である磁選(発明例1-4~発明例1-10)、液体サイクロン(発明例1-11)により、あるいは、乾式分級である磁選(発明例1-12)、重液分離(発明例1-13)、遠心力型気流分級機(発明例1-14)により、合金含有率85%以上の最終回収物が得られる。とくに油分含有率が0.5質量%を下回る場合、合金含有率は95%超となった(発明例1-5~発明例1-14)。
【0149】
発明例1-9~1-10は、疎水性溶剤(洗浄用溶剤)として、ハイドロフルオロエーテル、n-ヘキサンを使用した例であるが、油分が除去できることを確認できた。
【0150】
<実施例2>
図5に示す向流型連続回収設備を用いて、カウンターフロー方式によって、油分が付着したロール研磨屑からの油分抽出を行い、疎水性溶剤を揮発除去し、研磨屑を脱水(磁着)して研磨屑ケーキを回収した。回収した研磨屑ケーキを乾燥させた後、遠心力型気流分級機により、合金成分を分離・回収した。
以下、実施例2の詳細を説明する。
【0151】
まず、油分が付着した研磨屑(油分:7.5%、水分:20%、合金含有率:76質量%)を3.8kg/分でスラリー化装置に投入し、水と混合し、スラリー濃度40質量%のスラリーを生成した。スラリーの粘度は、0.12Pa・Sであった。その後、スラリーを第1エマルジョン化装置に投入し、さらに第1磁気分離機により磁選を実施した(洗浄ステップ)。
さらに、第2エマルジョン化装置に、油分を含まない揮発性疎水性溶剤(1-ブロモプロパン)を2.0kg/分で投入し、水を2.7L/分で投入し、第1磁気分離機による磁選後の粉体相(粉体ケーキ)と水と揮発性疎水性溶剤を混合し、エマルジョン化し、さらに第2磁気分離機により磁選を実施した(すすぎステップ)。
【0152】
このように、洗浄ステップおよびすすぎステップでロール研磨屑に付着した油分を揮発性疎水性溶剤で抽出し、脱液した後、脱液後の磁着物を主体する粉体相を90℃に調整した温水を含む残留溶剤除去装置に投入し、粉体相中に残留している溶剤を揮発させるとともに、水でスラリー化させた。
【0153】
その後、脱水機(第3の磁気分離機を脱水機として採用)にて、磁選による脱水を行い、粉体相を回収した。磁着しなかった砥石成分は、余剰水とともに、第3の磁選工程後のポンプによって、残留溶剤除去工程に再投入し、磁選した際に生じる粉体相中に取り込まれ、脱油後のロール研磨屑として、排出される。なお、洗浄ステップとすすぎステップで投入した水と油分を含んだ溶剤は、研磨屑の流れとは反対の方向(図5の場合、紙面左側方向)に移動する。相分離槽にて水と油分を含んだ溶剤とに相分離し、分離した水は再度、スラリー化工程もしくは、第2エマルジョン化工程に投入し、再度使用した。また、油分を含んだ溶剤は、図示していない蒸留装置にて蒸留し、油分と溶剤とに分離し、再生した溶剤は第2エマルジョン化工程に投入した。回収した粉体相中の油分は0.3質量%であり、油分除去率は96%であった。水分は25質量%であり、合金含有率は76.7%であった。
【0154】
回収した粉体相を120℃の乾燥炉で乾燥させた後、乾燥粉を50kg得た。乾燥粉を遠心力型気流分級機で分級したところ、合金含有率が94.7%である合金粉を35.7kg得た。
【0155】
<実施例3>
図4に示す向流型連続回収設備を用いて、カウンターフロー方式によって、油分が付着したロール研磨屑からの油分抽出を行い、疎水性溶剤を揮発除去した後、合金成分をスラリーから磁着して合金成分を分離・回収した。磁着時に磁着しなかった砥石成分はろ過により、水と分離した。
以下、実施例3の詳細を説明する。
【0156】
まず、油分が付着した研磨屑(油分:7.5%、水分:20%、合金含有率:76質量%)を3.8kg/分でスラリー化装置に投入し、水と混合し、スラリー濃度40質量%のスラリーを生成した。スラリーの粘度は、0.12Pa・Sであった。その後、スラリーを第1エマルジョン化装置に投入し、さらに第1磁気分離機により磁選を実施した(洗浄ステップ)。
【0157】
さらに、第2エマルジョン化装置に、油分を含まない揮発性疎水性溶剤(1-ブロモプロパン)を2.0kg/分で投入し、水を2.7L/分で投入し、第1磁気分離機による磁選後の粉体相(粉体ケーキ)と水と揮発性疎水性溶剤を混合し、エマルジョン化し、さらに第2磁気分離機により磁選を実施した(すすぎステップ)。
【0158】
このように、洗浄ステップおよびすすぎステップでロール研磨屑に付着した油分を揮発性疎水性溶剤で抽出し、脱液した後、脱液後の磁着物を主体する粉体相を90℃に調整した温水を含む残留溶剤除去装置に投入し、粉体相中に残留している溶剤を揮発させるとともに、水でスラリー化させた。
【0159】
その後、スラリーから磁選により、合金成分からなる磁着物(合金鉄粉)を回収した。磁着しなかった砥石成分は、余剰水とともに、ろ過装置に投入し、ろ過し、砥石成分を分離・回収した。ろ過した余剰水は再度、残留溶剤除去工程に再投入した。なお、洗浄ステップとすすぎステップで投入した水と油分を含んだ溶剤は、研磨屑の流れとは反対の方向(図4の場合、紙面左側方向)に移動する。相分離槽にて水と油分を含んだ溶剤とに相分離し、分離した水は再度、スラリー化工程もしくは、第2エマルジョン化工程に投入し、再度使用した。また、油分を含んだ溶剤は、図示していない蒸留装置にて蒸留し、油分と溶剤とに分離し、再生した溶剤は第2エマルジョン化工程に投入した。回収した磁着物中の油分は0.3質量%であり、油分除去率は96%であった。水分は25質量%であり、合金含有率は95.2%であった。
【0160】
なお、実施例1~3において、油分除去前の粉体および回収した粉体相(ケーキ)の各油分含有率は、次のように測定した。
まず、油分除去前の粉体および回収したケーキそれぞれについて、105℃の乾燥機で2時間乾燥させた後、ソックスレー抽出器を用いて、n-ヘキサンにて油分を抽出した。引き続き、抽出したn-ヘキサンと油分を含んだ混合物を加温し、n-ヘキサンを揮散した後、残さ物(油分)の重量を測定し、油分除去前の粉体およびケーキ中の油分含有率をそれぞれ算出した。なお油分除去率は、油分除去前の粉体の油分含有率から油分除去後のケーキ(粉体相)の油分含有率を引いた油分含有率差を分子とし、油分除去前の粉体の油分含有率を分母とした場合の値である。
【0161】
また、実施例1~3において、スラリーの粘度は、まず回転粘度計により粘性抵抗トルクを測定し、得られた粘性抵抗トルクを粘度に換算することで求めた。具体的には、まず作成したスラリー300mlをトールビーカーに入れ、回転粘度計のローター部を浸漬させた状態で回転させることにより、ローター部に作用するスラリーの粘性抵抗トルクを測定した。その後、得られた粘性抵抗トルクを粘度に換算した。なお、回転粘度計は、「VISCOMETER DVL-8型(東機産業製)」を用いた。
【符号の説明】
【0162】
1 合金鉄粉の回収設備
10 粉体(含油粉体)
10a 第1粉体相(粉体相)
10aa 第2粉体相(粉体相)
20 水
30 スラリー
40 エマルジョン
50 第1の揮発性疎水性溶剤(洗浄用溶剤)
51 第2の揮発性疎水性溶剤(すすぎ用溶剤)
60 スラリー化装置
70 第1エマルジョン化装置
71 第2エマルジョン化装置
73 残留溶剤除去装置
80 第1磁気分離機
81 ドラム
82 磁石
90 第2磁気分離機
91 脱水機
100 カウンターフロー槽
W 断熱壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10