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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135295
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】搬送補助装置
(51)【国際特許分類】
   B62B 3/00 20060101AFI20240927BHJP
   B60B 19/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61G 7/08 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B62B3/00 G
B60B19/00 H
A61G7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045915
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000167222
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトマシンシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大江 洋希
【テーマコード(参考)】
3D050
4C040
【Fターム(参考)】
3D050AA04
3D050BB02
3D050DD03
3D050EE08
3D050EE15
4C040AA28
4C040BB03
(57)【要約】
【課題】対象物の移動に際し、より良好なアシストを実現する。
【解決手段】搬送補助装置1は、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lと、第1及び第2モータ22R,22Lと、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lそれぞれの回転に際して第1及び第2モータ22R,22Lに流れる誘導電流をそれぞれ検出する第1及び第2電流センサSW1,SW2と、コントローラ4と、を備える。コントローラ4は、第1及び第2電流センサSW1,SW2の検出信号に基づいて、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lそれぞれの加速度を個別に推定し、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lそれぞれの加速度に基づいて、ベッド10の移動方向を判定し、その移動方向に沿ったベッド10の移動をアシストするように、第1及び第2モータ22R,22Lを介して第1及び第2メカナムホイール21R,21Lをそれぞれ駆動する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力による対象物の移動をアシストするための搬送補助装置において、
前記対象物に取り付けられた第1及び第2メカナムホイールと、
前記第1及び第2メカナムホイールのそれぞれに駆動連結された第1及び第2モータと、
前記第1及び第2メカナムホイールそれぞれの回転に際して前記第1及び第2モータに流れる誘導電流をそれぞれ検出する第1及び第2電流センサと、
前記第1及び第2モータを制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記第1及び第2電流センサの検出信号に基づいて、前記第1及び第2メカナムホイールそれぞれの加速度を個別に推定し、
前記第1及び第2メカナムホイールそれぞれの加速度に基づいて、前記対象物の移動方向を判定し、
前記移動方向に沿った前記対象物の移動をアシストするように、前記第1及び第2モータを介して前記第1及び第2メカナムホイールをそれぞれ駆動する
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項2】
請求項1に記載された搬送補助装置において、
前記第1メカナムホイールは、
第1回転軸まわりに回転する第1ホイール本体と、
前記第1ホイール本体の外周に沿って配置され、それぞれ前記第1回転軸に対して傾斜した第1傾斜軸まわりに回転する複数の第1樽型ローラと、を有し、
前記第2メカナムホイールは、
前記第1回転軸と平行に延びる第2回転軸まわりに回転する第2ホイール本体と、
前記第2ホイール本体の外周に沿って配置され、それぞれ前記第2回転軸に対して前記第1傾斜軸とは異なる方向に傾斜した第2傾斜軸まわりに回転する複数の第2樽型ローラと、を有する
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項3】
請求項2に記載された搬送補助装置において、
前記第1及び第2回転軸は、双方とも、前記対象物の前後方向に直交しかつ前記対象物の搬送面に沿った左右方向に延び、
前記第1傾斜軸は、前記第2傾斜軸に対し、前記前後方向を基準とした線対称となるように傾斜している
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項4】
請求項3に記載された搬送補助装置において、
前記コントローラは、
前記第1メカナムホイールの加速度と、前記第2メカナムホイールの加速度との差分を演算し、
前記差分の大きさに基づいて、前記移動方向を判定する
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項5】
請求項3に記載された搬送補助装置において、
前記コントローラは、
前記第1及び第2メカナムホイールそれぞれの加速度に基づいて、前記移動方向が前記前後方向であるか否かを判定し、
前記移動方向が前記前後方向であると判定した場合には、前記第1及び第2メカナムホイールを双方とも前転又は後転させるように、前記第1及び第2モータそれぞれの指令回転数を設定するとともに、当該設定に際し、前記第1モータと前記第2モータとで前記指令回転数の絶対値を等しくする
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項6】
請求項3に記載された搬送補助装置において、
前記コントローラは、
前記第1及び第2メカナムホイールそれぞれの加速度に基づいて、前記移動方向が前記左右方向であるか否かを判定し、
前記移動方向が前記左右方向であると判定した場合には、前記第1及び第2メカナムホイールのうちの一方を前転させるとともに他方を後転させるように、前記第1及び第2モータそれぞれの指令回転数を設定するとともに、当該設定に際し、前記第1モータと前記第2モータとで前記指令回転数の絶対値を等しくする
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載された搬送補助装置において、
前記対象物は、キャスタ付きベッドであり、
前記第1及び第2メカナムホイールは、それぞれ、前記キャスタ付きベッドの下部に取り付けられる
ことを特徴とする搬送補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、搬送補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、駆動部にメカナムホイールを用いた補助推進システムが開示されている。この補助推進システムは、シャーシに連結される一対のメカナムホイール(Mecanum車輪)と、各メカナムホイールを駆動するモータと、各モータの回転速度の変化を感知する制御システムと、を備えている。
【0003】
前記特許文献1によると、シャーシが所定方向に移動する場合、それと同じ方向への力が操作者によって印加される。印加された力によって各メカナムホイールが回転すると、それに伴う回転速度の変化が制御システムに報告される。その報告に基づいて、制御システムがモータの電動回転を始動させる。この電動回転によって、シャーシの移動がアシストされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2016-525977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載されているような構成を用いる場合、より良好なアシストを実現するためには、対象物の移動方向を適切に判断することが求められる。その判断を行うためには、例えば、歪みゲージ式、圧電式等のフォースセンサを対象物に取り付けることが考えられるものの、より適切な判断を行う上で工夫の余地があった。
【0006】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、対象物の移動に際し、より良好なアシストを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、外力による対象物の移動をアシストするための搬送補助装置に係る。この搬送補助装置は、前記対象物に取り付けられた第1及び第2メカナムホイールと、前記第1及び第2メカナムホイールのそれぞれに駆動連結された第1及び第2モータと、前記第1及び第2メカナムホイールそれぞれの回転に際して前記第1及び第2モータに流れる誘導電流をそれぞれ検出する第1及び第2電流センサと、前記第1及び第2モータを制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記第1及び第2電流センサの検出信号に基づいて、前記第1及び第2メカナムホイールそれぞれの加速度を個別に推定し、前記第1及び第2メカナムホイールそれぞれの加速度に基づいて、前記対象物の移動方向を判定し、前記移動方向に沿った前記対象物の移動をアシストするように、前記第1及び第2モータを介して前記第1及び第2メカナムホイールをそれぞれ駆動する。
【0008】
前記第1の態様によると、誘導電流を検出することで、その誘導電流が生じる起因となったトルク(メカナムホイールを回転させようとするトルク)、ひいてはそのトルクに対応した加速度を推定することができる。ここで、誘導電流の符号は、推定された加速度の符号と対応しており、各ホイールの回転方向と関連付けることができる。
【0009】
さらに、複数のメカナムホイールを用いた場合、各ホイールの回転方向と、搬送補助装置全体の並進方向とを関連付けることができる。また、搬送補助装置全体の並進方向は、外力の作用方向、ひいては対象物の移動方向と略一致すると考えられる。そのため、各ホイールの回転方向から対象物の移動方向を判定することができる。そして、判定された移動方向に沿ったアシストを実現することで、各ホイールの実際の回転状況が反映された、より良好なアシストを実現することが可能になる。
【0010】
ここで、前述のような加速度を検出するために、例えば6軸センサを用いることも考えられる。しかしながら、6軸センサは、一般に振動に弱い。そのため、各メカナムホイールの構成又は取付方法が変わったり、例えば対象物としてベッドを用いたときに就寝者が寝返りしたりするとセンサの検出値が大幅に変化するため、方向判定を正確に行うには不都合である。これに対し、本開示のように誘導電流を用いると、より正確な方向判定を行うことができる。
【0011】
また、本開示の第2の態様によれば、前記第1メカナムホイールは、第1回転軸まわりに回転する第1ホイール本体と、前記第1ホイール本体の外周に沿って配置され、それぞれ前記第1回転軸に対して傾斜した第1傾斜軸まわりに回転する複数の第1樽型ローラと、を有し、前記第2メカナムホイールは、前記第1回転軸と平行に延びる第2回転軸まわりに回転する第2ホイール本体と、前記第2ホイール本体の外周に沿って配置され、それぞれ前記第2回転軸に対して前記第1傾斜軸とは異なる方向に傾斜した第2傾斜軸まわりに回転する複数の第2樽型ローラと、を有する、としてもよい。
【0012】
前記第2の態様によると、第1及び第2メカナムホイールが双方とも同じ方向に回転したときと、第1及び第2メカナムホイールの一方と他方とで異なる方向に回転したときとで、搬送補助装置全体の並進方向を異ならせることができる。並進方向に応じて各ホイールの回転方向が明確に区別されるため、対象物の移動方向を、より正確に判断することができるようになる。これにより、対象物の移動に際し、より良好なアシストを実現する上で有利になる。
【0013】
また、本開示の第3の態様によれば、前記第1及び第2回転軸は、双方とも、前記対象物の前後方向に直交しかつ前記対象物の搬送面に沿った左右方向に延び、前記第1傾斜軸は、前記第2傾斜軸に対し、前記前後方向を基準とした線対称となるように傾斜している、としてもよい。
【0014】
前記第3の態様によると、第1及び第2メカナムホイールが双方とも同じ方向に回転しているときには、搬送補助装置全体では前後方向に並進することになる。一方、第1及び第2メカナムホイールの一方と他方とで異なる方向に回転しているときには、搬送補助装置全体では左右方向に並進することになる。前後移動時と左右移動時とで各ホイールの回転方向が明確に区別されるため、対象物の移動方向を、より正確に判断することができるようになる。これにより、対象物の移動に際し、より良好なアシストを実現する上で有利になる。
【0015】
また、本開示の第4の態様によれば、前記コントローラは、前記第1メカナムホイールの加速度と、前記第2メカナムホイールの加速度との差分を演算し、前記差分の大きさに基づいて、前記移動方向を判定する、としてもよい。
【0016】
前記第4の態様によると、第1及び第2メカナムホイールが双方とも同じ方向に回転しているとき(つまり、前後方向に並進しているとき)には、前記差分は実質的にゼロとなる。一方、第1及び第2メカナムホイールの一方と他方とで異なる方向に回転しているときには、前記差分はゼロよりも有意に大きくなる。前後移動時と左右移動時とで差分の大きさが明確に区別されるため、対象物の移動方向を、より正確に判断することができるようになる。これにより、対象物の移動に際し、より良好なアシストを実現する上で有利になる。
【0017】
また、本開示の第5の態様によれば、前記コントローラは、前記第1及び第2メカナムホイールそれぞれの加速度に基づいて、前記移動方向が前記前後方向であるか否かを判定し、前記移動方向が前記前後方向であると判定した場合には、前記第1及び第2メカナムホイールを双方とも前転又は後転させるようにそれぞれの指令回転数を設定するとともに、当該設定に際し、前記第1メカナムホイールと前記第2メカナムホイールとで前記指令回転数の絶対値を同じ値に設定する、としてもよい。
【0018】
前記第5の態様によると、前後移動に際して指令回転数の絶対値を等しくすることで、対象物の姿勢に関わらず、より安定した前後移動を実現することができる。これにより、対象物の移動に際し、より良好なアシストを実現する上で有利になる。
【0019】
また、本開示の第6の態様によれば、前記コントローラは、前記第1及び第2メカナムホイールそれぞれの加速度に基づいて、前記移動方向が前記左右方向であるか否かを判定し、前記移動方向が前記左右方向であると判定した場合には、前記第1及び第2メカナムホイールのうちの一方を前転させるとともに、他方を後転させるようにそれぞれの指令回転数を設定するとともに、当該設定に際し、前記第1メカナムホイールと前記第2メカナムホイールとで前記指令回転数の絶対値を等しくする、としてもよい。
【0020】
前記第6の態様によると、左右移動に際して指令回転数の絶対値を等しくすることで、対象物の姿勢に関わらず、より安定した左右移動を実現することができる。これにより、対象物の移動に際し、より良好なアシストを実現する上で有利になる。
【0021】
また、本開示の第7の態様によれば、前記対象物は、キャスタ付きベッドであり、前記第1及び第2メカナムホイールは、それぞれ、前記キャスタ付きベッドの下部に取り付けられる、としてもよい。
【0022】
前記第7の態様によると、対象物はキャスタ付きベッドとなる。キャスタ付きベッドのような重量物の移動に際しても、本開示は良好なアシストを実現することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本開示によれば、対象物の移動に際し、より良好なアシストを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】搬送補助装置及びキャスタ付きベッドの全体構成を例示する側面図である。
図2】搬送補助装置及びキャスタ付きベッドの全体構成を例示する底面図である。
図3】搬送補助装置の構成を例示する斜視図である。
図4】搬送補助装置の構成を例示する平面図である。
図5】搬送補助装置の構成を例示する側面図である。
図6】搬送補助装置の制御系の構成を例示するブロック図である。
図7】第1及び第2メカナムホイールの動作について説明するための図である。
図8】6軸センサの検出対象について説明するための図である。
図9】コントローラが行う主要な処理を例示するフローチャートである。
図10】移動方向の判定に関する処理を例示するフローチャートである。
図11】安全制限制御を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1は搬送補助装置1及びキャスタ付きベッド10の全体構成を例示する側面図であり、図2は搬送補助装置1及びキャスタ付きベッド10の全体構成を例示する底面図である。
【0027】
また、図3は搬送補助装置1の構成を例示する斜視図であり、図4は搬送補助装置1の構成を例示する平面図であり、図5は搬送補助装置1の構成を例示する側面図である。
【0028】
また、図6は、搬送補助装置1の制御系の構成を例示するブロック図であり、図7は第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの動作について説明するための図である。そして、図8は、6軸センサSW5の検出対象について説明するための図である。
【0029】
搬送補助装置1は、所定の対象物に取り付けられている。この搬送補助装置1は、外力(例えば、搬送者100が付与する外力)による対象物の移動をアシストするための装置である。
【0030】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る対象物は、キャスタ付きベッド(以下、単に「ベッド」という)10である。このベッド10は、前輪14F及び後輪14Bを含んだ複数のキャスタ14を備えており、例えば医療用ベッドとして用いられるようになっている。
【0031】
以下、ベッド10の長手方向、つまりベッド10上で人が横たわる方向を「前後方向」又は「縦方向」とし、その前後方向に沿って足先に向かう方向を「前」とし、枕元に向かう方向を「後」とする。
【0032】
同様に、ベッド10の短手方向、つまり水平面上で前後方向に直交する方向を「左右方向」又は「横方向」とし、その左右方向に沿って図1の紙面奥行側に向かう方向を「右」とし、図1の紙面手前側に向かう方向を「左」とする(詳細は、図2を参照)。なお、ここでいう「左右方向」とは、後側から前側に向かって見たときの左右方向をいう。以下の記載における「横移動」とは、この左右方向に沿った移動をいう。また、左右方向(横方向)とは、前後方向に直交しかつ搬送面(ベッド10が走行する床面)Fに沿って延びる方向であると定義することもできる。
【0033】
ベッド10は、搬送者100によって、前後方向の一端側(図例では後端側)が支持されるようになっている。搬送補助装置1は、搬送者100によって支持されたベッド10の手押移動をアシストするように動作する。
【0034】
図1に示すように、ベッド10は、不図示のマットレスが載置されるベッド本体11と、ベッド本体11を下方から支持するフレーム12と、フレーム12に対してベッド本体11を昇降させる昇降部13と、ベッド10の下面に配置された複数(図例では4つ)のキャスタ14と、を備えている。医療用ベッドとして用いられる場合、ベッド10は、例えば60kg以上300kg以下となる。
【0035】
ここで、ベッド本体11は、ベッド10の後端側に配置されるヘッドボード11hと、前後方向において前記後端側の反対に位置する前端側に配置されるフットボード11fと、ベッド10の左右両側に配置されるサイドレール11sと、を有している。
【0036】
このうち、ヘッドボード11hは、ベッド10を手押し移動させるべく、搬送者100によって後側から支持される。ヘッドボード11hは、その搬送者100によって力が加えられる支持部として機能する。ハンドル、グリップ等の部材をヘッドボード11hに取り付けたり、ヘッドボード11hと一体化させたりすることで、それらの部材を支持部としてもよい。フットボード11f、サイドレール11s等が支持されてもよい。
【0037】
また、フレーム12は、図2に示すように矩形枠状に構成されており、前フレーム12F、右フレーム12R、左フレーム12L及び後フレーム12Bによって四辺が構成されている。
【0038】
ここで、前フレーム12Fは、ベッド10の前側に配置されており、左右方向に沿って延びている。右フレーム12Rは、ベッド10の右側に配置されており、前後方向に沿って延びている。左フレーム12Lは、ベッド10の左側に配置されており、前後方向に沿って延びている。後フレーム12Bは、ベッド10の後側に配置されており、左右方向に沿って延びている。
【0039】
また、図1及び図2に示すように、複数のキャスタ14を構成する前輪14F及び後輪14Bは、ベッド10の下面の4隅に配置されている。前輪14F及び後輪14Bは、左右方向に沿って2つずつ設けられている。複数のキャスタ14は、搬送面Fに対してフレーム12、昇降部13及びベッド本体11を支持している。
【0040】
各キャスタ14は、いわゆるフリーキャスタであって、ベッド10の下面に固定される取付部14aと、この取付部14aに対して旋回軸Ocまわりに旋回可能なフォーク部14bと、フォーク部14bによって回転可能に支持された車輪14cと、を有している。各フォーク部14bの旋回軸Ocは、上下方向(ベッド10の高さ方向)に沿って延びている。各車輪14cの回転軸は、水平面に沿って延びている。この回転軸は、取付部14aに対してフォーク部14bが旋回することで、左右方向に対して傾斜するようになっている。
【0041】
そして、搬送補助装置1は、前述の右フレーム12Rにおける前後方向の中途の部位と、左フレームLにおける前後方向の中途の部位と、を架け渡すように配置されている。搬送補助装置1は、前後方向においては前輪14Fと後輪14Bとの間に配置され、左右方向においてはベッド10の中央に配置されている。
【0042】
図1図6に示すように、搬送補助装置1は、収容ボックス6と、取付具7と、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lと、第1及び第2モータ22R,22Lと、コントローラ4と、第1及び第2電流センサSW1,SW2と、第1及び第2回転センサSW3,SW4と、6軸センサSW5と、を備えている(第1及び第2モータ22R,22L、並びに各センサSW1~SW5は、図6にのみ図示)。以下、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lのうち、第1メカナムホイール21Rが右側に位置するものとし、第2メカナムホイール21Lが左側に位置するものとする。
【0043】
これらの要素のうち、コントローラ4及び6軸センサSW5は収容ボックス6に収容されており、取付具7、第1及び第2メカナムホイール21R,21L、第1及び第2モータ22R,22L、第1及び第2電流センサSW1,SW2、並びに第1及び第2回転センサSW3,SW4は、収容ボックス6外に配置されている。
【0044】
収容ボックス6は、前述のようにコントローラ4を収容している。収容ボックス6は、左右方向において、第1メカナムホイール21Rと第2メカナムホイール21Lの間に配置されている。
【0045】
収容ボックス6は、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lと共に取付具7に組み付けられており、この取付具7を介してベッド10の下部に取り付けられている。取付具7は、ベッド10の下部に対して着脱可能である。すなわち、本実施形態に係る搬送補助装置1は、ベッド10に対して後付可能であって、必要に応じて取り外し可能とされている。
【0046】
詳しくは、本実施形態に係る取付具7は、図2図5に示すように、前側レール部材71f及び後側レール部材71bと、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lをそれぞれ回転可能に支持する第1及び第2アーム部材72R,72Lと、を有している。
【0047】
ここで、前側レール部材71fと後側レール部材71bは、前後方向に間隔を空けて配置されており、それぞれ、右フレーム12Rの前後方向中央部と、左フレーム12Lの前後方向中央部と、を架け渡している。前側レール部材71fと後側レール部材71bは、右フレーム12R及び左フレーム12Lに対して着脱可能である。第1及び第2メカナムホイール21R,21Lと収容ボックス6は、前後方向において、前側レール部材71fと後側レール部材71bの間に配置されるようになっている。
【0048】
一方、図3及び図4において右側に位置する第1アーム部材72Rは、後側レール部材71bによって揺動可能に支持されている。第1アーム部材72Rの前端部は、第1メカナムホイール21Rを回転可能に支持している。また、第1アーム部材72Rは、左右方向において、第1メカナムホイール21Rと収容ボックス6との間に配置されるようになっている。
【0049】
また、第1アーム部材72Rの上端部には、第1引張バネ75Rの一端部が係止されている。この第1引張バネ75Rの他端部は、前側レール部材71fに固定された第1ブラケット76Rに係止されている。
【0050】
そして、図3及び図4において左側に位置する第2アーム部材72Lは、第1アーム部材72Rと同様に、後側レール部材71bによって揺動可能に支持されている。第2アーム部材72Lの前端部は、第2メカナムホイール21Lを回転可能に支持している。また、第2アーム部材72Lは、左右方向において、第2メカナムホイール21Lと収容ボックス6との間に配置されるようになっている。
【0051】
また、第2アーム部材72Lの上端部には、第2引張バネ75Lの一端部が係止されている。この第2引張バネ75Lの他端部は、前側レール部材71fに固定された第2ブラケット76Lに係止されている(図5も参照)。
【0052】
第1及び第2メカナムホイール21R,21Lは、図1図2に示すように、ベッド10の下部(底部)に取り付けられている。第1及び第2メカナムホイール21R,21Lは、ベッド10の搬送面Fに接している。搬送面Fは、図1にのみ示す。また、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lは、前輪14Fの後側かつ後輪14Bの前側に配置されている。本実施形態の場合、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lは、図2に示すように、短手方向としての左右方向に並ぶように配置されている。
【0053】
詳しくは、図3図5に示すように、第1メカナムホイール21Rは、第1回転軸Oy1まわりに回転する第1ホイール本体211Rと、第1ホイール本体211Rの外周に沿って配置され、それぞれ第1回転軸Oy1に対して傾斜した第1傾斜軸Orまわりに回転する複数の第1樽型ローラ212Rと、を有している。
【0054】
一方、第2メカナムホイール21Lは、第2回転軸Oy2まわりに回転する第2ホイール本体211Lと、第2ホイール本体211Lの外周に沿って配置され、それぞれ第2回転軸Oy2に対して第1傾斜軸Orとは異なる方向に傾斜した第2傾斜軸Olまわりに回転する複数の第2樽型ローラ212Lと、を有している。
【0055】
ここで、第1及び第2回転軸Oy1,Oy2は、双方とも、左右方向に延びている。そして、第1傾斜軸Orは、第2傾斜軸Olに対し、前後方向を基準(図4の対称軸Osを参照)とした線対称となるように傾斜している。言い換えると、第1傾斜軸Orと第2傾斜軸Olは、上下方向及び前後方向に延びる平面を鏡映面とすると、その鏡映面に関して鏡映対称となるように延びている。
【0056】
さらに、図4のように上方から見た場合(平面視した場合)、第1及び第2傾斜軸Or,Olは、それぞれ、前後方向に沿って後側から前側に向かうに従って、左右方向の内側から外側(左右方向の中央部から右側又は左側)に向かって延びている。
【0057】
詳しくは、第1傾斜軸Orは、前後方向に沿って後側から前側に向かうに従って、左右方向の中央部から右側に向かって延びている。一方、第2傾斜軸Olは、前後方向に沿って後側から前側に向かうに従って、左右方向の中央部から左側に向かって延びている。
【0058】
さらに詳しくは、第1回転軸Oy1に対する第1傾斜軸Orの傾斜角θrは、平面視で45°に設定されている。同様に、第2回転軸Oy2に対する第2傾斜軸Olの傾斜角θlは、同じく平面視で45°に設定されている。なお、各樽型ローラ212R,212Lの傾斜方向及び傾斜角度は、これらの例には限定されない。例えば、搬送補助装置1全体を、図2に例示した状態から、上下方向に延びるz軸回りに所定角度回転させた状態に配置変更してもよい。
【0059】
また、前述のように、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lは、図3等に示した前側レール部材71f及び後側レール部材71bを介して相互に連結されている。したがって、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lは、前後方向及び左右方向に一体的に移動したり、水平面に垂直な旋回軸まわりに一体的に旋回したりする。
【0060】
第1及び第2モータ22R,22Lは、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lのそれぞれに駆動連結されている。具体的に、第1及び第2モータ22R,22Lは、それぞれ、いわゆる3相のDCブラシレスモータとして構成されている。第1及び第2モータ22R,22Lは、双方ともコントローラ4と電気的に接続されており、このコントローラ4によって制御されるようになっている。
【0061】
第1及び第2モータ22R,22Lには、それぞれの回転に際し、トルク負荷に対応したモータ電流が供給される。モータ電流を通じて、第1及び第2モータ22R,22Lの回転数と、正転及び逆転とを切り替えることができる。
【0062】
そして、第1モータ22Rは、第1メカナムホイール21Rに対し、駆動力(トルク)を伝達できるように連結されている。第2モータ22Lは、第2メカナムホイール21Lに対し、駆動力(トルク)を伝達できるように連結されている。
【0063】
第1モータ22Rが回転することで、その駆動力が伝達されて第1メカナムホイール21Rが回転する。同様に、第2モータ22Lが回転することで、その駆動力が伝達されて第2メカナムホイール21Lが回転する。
【0064】
本実施形態では、第1モータ22Rを正転させることで第1メカナムホイール21Rが前転し、第1モータ22Rを逆転させることで第1メカナムホイール21Rが後転するように構成されている。同様に、本実施形態では、第2モータ22Lを正転させることで第2メカナムホイール21Lが前転し、第2モータ22Lを逆転させることで第2メカナムホイール21Lが後転するように構成されている。
【0065】
なお、第1モータ22Rは第1メカナムホイール21Rに内蔵されており、第2モータ22Lは第2メカナムホイール21Lに内蔵されている。このように第1及び第2モータ22R,22Lを内蔵させることで、搬送補助装置1全体の簡素化及びコンパクト化を図ることができる。
【0066】
また、第1電流センサSW1は、第1メカナムホイール21Rの回転に際して第1モータ22Rに流れる誘導電流を検出する。つまり、外力を受けて第1メカナムホイール21Rが回転すると、第1モータ22Rにおいてロータとステータとが相対的に回転し、誘導電流が発生する。第1電流センサSW1によって検出される誘導電流は、q軸電流に相当する。
【0067】
ここで、誘導電流の大きさは、外力を受けて第1メカナムホイール21Rが回転したときに、その第1メカナムホイール21Rに作用したトルクに比例する。このトルクの大きさは、ベッド10が受けた外力の大きさ、ひいては、外力に起因したベッド10の速度変化量と関連している。また、誘導電流の符号は、外力を受けて第1メカナムホイール21Rが回転したときの、第1メカナムホイール21Rの回転方向と関連している。誘導電流の符号は、第1モータ22Rの駆動時に流れることになるモータ電流に対し、逆符号となる。
【0068】
第2電流センサSW2は、第2メカナムホイール21Lの回転に際して第2モータ22Lに流れる誘導電流を検出する。つまり、外力を受けて第2メカナムホイール21Lが回転すると、第2モータ22Lにおいてロータとステータとが相対的に回転し、誘導電流が発生する。第2電流センサSW2によって検出される誘導電流は、q軸電流に相当する。
【0069】
ここで、誘導電流の大きさは、外力を受けて第2メカナムホイール21Lが回転したときに、その第2メカナムホイール21Lに作用したトルクに比例する。このトルクの大きさは、ベッド10が受けた外力の大きさ、ひいては、外力に起因したベッド10の速度変化量と関連している。また、誘導電流の符号は、外力を受けて第2メカナムホイール21Lが回転したときの、第2メカナムホイール21Lの回転方向と関連している。誘導電流の符号は、第2モータ22Lの駆動時に流れることになるモータ電流に対し、逆符号となる。
【0070】
例えば、外力を受けて第1メカナムホイール21Rが前転すると同時に、第2メカナムホイール21Lが後転した場合、第1電流センサSW1は、第1モータ22Rを逆転させるときと同符号の誘導電流を検出することになる。第2電流センサSW2は、第2モータ22Lを正転させるときと同符号の誘導電流を検出することになる。
【0071】
本実施形態に係るコントローラ4は、誘導電流に係るトルクをフィードバックする(より詳細には、トルクに対応した指令回転数で第1及び第2モータ22R,22Lを回転させる)ことで、順方向つまり外力の作用方向へのアシストを実行するように構成されている。
【0072】
また、第1及び第2回転センサSW3,SW4は、それぞれ、第1及び第2モータ22R,22Lの回転数を検出する。具体的に、本実施形態に係る第1及び第2回転センサSW3,SW4は、それぞれエンコーダによって構成されている。エンコーダとしての第1回転センサSW3は、第1モータ22Rの回転数及び回転角度を検出し、同じくエンコーダとしての第2回転センサSW4は、第2モータ22Lの回転数及び回転角度を検出する。
【0073】
また、図8に示すように、6軸センサSW5は、前後方向に延びるx軸、左右方向に延びるy軸、及び上下方向に延びるz軸それぞれに沿った3方向の加速度と、x軸まわりの回転角(いわゆるロール角φ)の角速度と、y軸まわりの回転角(いわゆるピッチ角θ)の角速度と、z軸まわりの回転角(いわゆるヨー角ψ)の角速度と、を検出することができる。6軸センサSW5の検出信号は、コントローラ4に入力される。
【0074】
コントローラ4は、各種センサSW1~SW5から入力された電気信号に基づいて、第1及び第2モータ22R,22Lを制御する。このコントローラ4は、CPU、メモリ及び入出力バスを有しており、例えば制御基板によって構成されている。
【0075】
具体的に、本実施形態に係るコントローラ4は、各種センサSW1~SW5から入力された検出信号に基づいて、第1及び第2モータ22R,22Lそれぞれの指令回転数を設定する。コントローラ4は、設定された指令回転数に対応したモータ電流を、第1及び第2モータ22R,22Lに入力する。これにより、第1及び第2モータ22R,22Lは、それぞれ、コントローラ4が設定した指令回転数で回転することになる。
【0076】
その際、第1メカナムホイール21Rは、第1モータ22Rと同じ回転数で回転し、第2メカナムホイール21Lは、第2モータ22Lと同じ回転数で回転する。すなわち、第1及び第2モータ22R,22Lそれぞれの指令回転数を設定することは、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lそれぞれの指令回転数を設定することに等しい。
【0077】
また、各指令回転数の符号を変更することで、第1モータ22R及び第2モータ22Lの回転方向を個別に変更することができる。各モータ22R,22Lの回転方向を変更することで、対応するメカナムホイール21R,21Lを前転と後転とに切り替えることができる。
【0078】
本実施形態では、右側に位置する第1メカナムホイール21Rを前転させると、搬送補助装置1及びベッド10に対し、左斜め前方へと推力を付与することができる(図7の矢印A11を参照)。一方、左側に位置する第2メカナムホイール21Lを前転させると、搬送補助装置1は、ベッド10に対して右斜め前方へと推力を付与することができる(図7の矢印A12を参照)。
【0079】
したがって、例えば図7の左上に示すように、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを双方とも前転させると、第1メカナムホイール21Rを前転させることで付与される左方への推力と、第2メカナムホイール21Lを前転させることで付与される右方への推力とを相殺し、搬送補助装置1全体では前方へと推力を付与することができる。この推力によって、ベッド10の前方への移動をアシストすることができる。
【0080】
同様に、右側に位置する第1メカナムホイール21Rを後転させると、搬送補助装置1及びベッド10に対し、右斜め後方へと推力を付与することができる(図7の矢印A21を参照)。一方、左側に位置する第2メカナムホイール21Lを後転させると、搬送補助装置1は、ベッド10に対して左斜め後方へと推力を付与することができる(図7の矢印A22を参照)。
【0081】
したがって、例えば図7の右上に示すように、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを双方とも後転させると、第1メカナムホイール21Rを後転させることで付与される右方への推力と、第2メカナムホイール21Lを後転させることで付与される左方への推力とを相殺し、搬送補助装置1全体では後方へと推力を発揮させることができる。この推力によって、ベッド10の後方への移動をアシストすることができる。
【0082】
一方、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lのうちの一方を前転させ、他方を後転させると、搬送補助装置1は、ベッド10に対して左右方向への推力を付与する。
【0083】
図7の左下に示す例では、第1メカナムホイール21Rを後転させるとともに第2メカナムホイール21Lを前転させることで、ベッド10には、右方向への推力が付与される。
【0084】
また、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lのうちの一方のみを前転又は後転させると、搬送補助装置1は、ベッド10に対して斜め方向への推力を付与する。
【0085】
図7の右下に示す例では、第2メカナムホイール21Lのみを前転させたことで、右斜め前方へとベッド10を推進させることができる。これにより、ベッド10の斜め移動をアシストすることができる。一方、第1メカナムホイール21Rのみを前転させると、左斜め前方へとベッド10の移動をアシストすることができる(図示省略)。
【0086】
そして、搬送補助装置1は、各種センサSW1~SW5の検出信号に基づいて第1及び第2モータ22R,22Lを作動させることで、前述のように付与される推力を通じて、搬送者100によるベッド10の搬送をアシストするように構成されている。
【0087】
そうしたアシストを実現すべく、本実施形態に係るコントローラ4は、各種センサSW1~SW5の検出信号に基づいて、外力が作用する方向(以下、単に「作用方向」ともいう)を判定し、その作用方向に沿って推力を発揮するように第1及び第2モータ22R,22Lを作動させる。
【0088】
例えば、ヘッドボード11hが後方から前方に押された結果、後側から前方に向かって外力が作用していると判定された場合、コントローラ4は、第1及び第2モータ22R,22Lを双方とも正転させることで、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを双方とも前転させる。これにより、図7の左上に例示したようにベッド10の前進をアシストすることが可能になる。
【0089】
また、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lは、対応するモータ22R,22Lを駆動していない場合も前転および後転が許容される。これにより、ベッド10を手押移動する際のふらつきを抑制し、ベッド10の搬送を安定させることができる。
【0090】
以下、コントローラ4によるアシストに関し、図9等を用いて詳細に説明する。
【0091】
ここで、図9は、コントローラ4が行う主要な処理を例示するフローチャートである。図10は、移動方向の判定に関する処理を例示するフローチャートである。図11は、安全制限制御を例示するフローチャートである。
【0092】
まず、図9のステップS1において、コントローラ4は、前述した5つのセンサSW1~SW5の検出信号を読み込む。
【0093】
続くステップS2において、コントローラ4は、第1及び第2電流センサSW1,SW2の検出信号に基づいて、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lそれぞれの加速度を個別に推定する。
【0094】
以下、第1メカナムホイール21Rの加速度を「第1加速度」と呼称し、第2メカナムホイール21Rの加速度を「第2加速度」と呼称する。第1及び第2加速度は、双方とも、並進速度の時間微分、つまり、いわゆる接線加速度である。
【0095】
第1及び第2電流センサSW1,SW2それぞれによって検出された誘導電流の大きさは、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの回転時に、それらのホイールに作用したトルク(特に、反力に起因したトルク)に比例する。コントローラ4は、そうした比例関係に基づいて、第1メカナムホイール21Rに作用した第1トルクと、第2メカナムホイール21Lに作用した第2トルクと、を個別に推定する。その際、誘導電流からトルクに変換するための比例係数は、コントローラ4に事前に記憶させたものを用いることができる。
【0096】
本実施形態に係るコントローラ4は、第1及び第2トルクに対応した反力に逆らうように第1及び第2モータ22R、22Lを駆動することで、ベッド10の移動をアシストする。
【0097】
そうしたアシストを実現するために、コントローラ4は、下式(1)及び(2)に基づいて、第1トルクに対応した第1加速度と、第2トルクに対応した第2加速度とを推定する。
【0098】
=(-1)・T/(R・m) …(1)
=(-1)・T/(R・m) …(2)
【0099】
上式(1)及び(2)において、T[Nm]は第1トルクであり、T[Nm]は第2トルクである。また、a[m/s]は、第1トルクに対応した第1加速度であり、a[m/s]は、第2トルクに対応した第2加速度である。
【0100】
その他、R[m]は第1及び第2メカナムホイール21R,21Lそれぞれのタイヤ半径であり、m[kg]は第1及び第2メカナムホイール21R,21Lそれぞれの質量である。本実施形態におけるタイヤ半径R及び質量mの大きさは、第1メカナムホイール21Rと第2メカナムホイール21Lとで同一である。
【0101】
続くステップS3において、コントローラ4は、第1及び第2電流センサSW1,SW2の検出信号に基づいて、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの並進加速度を推定する。
【0102】
詳細には、コントローラ4は、第1及び第2電流センサSW1,SW2の検出信号に基づいて推定した第1及び第2加速度a,aを用いて、前後方向における第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの並進加速度を示す縦加速度と、横方向における第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの並進加速度を示す横加速度と、をそれぞれ推定する。
【0103】
さらに詳しくは、図3図5のように第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを構成した場合、コントローラ4は、第1加速度aと第2加速度aとを加算することで縦加速度を推定し、第1加速度aと第2加速度aとの差分を演算することで横加速度を推定する。これらの演算の詳細は、下式(3)及び(4)に示す通りである。
【0104】
=(a+a)/2 …(3)
=(a-a)/2 …(4)
【0105】
上式(3)及び(4)において、a[m/s]が縦加速度であり、a[m/s]が横加速度である。式(3)の符号は、前方を正とし、後方を負とするように規定されている。前方と後方とで符号の正負を反転してもよい。同様に、式(4)の符号は、左方を正とし、右方を負とするように規定されている。左方と右方とで符号の正負を反転してもよい。
【0106】
すなわち、第1及び第2加速度a,aは、それぞれ、前後方向の成分と、左右方向の成分とを有する。本実施形態のように第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを構成及び配置した場合、前後方向の成分は、第1メカナムホイール21Rと第2メカナムホイール21Lとで同符号となり、左右方向の成分は、第1メカナムホイール21Rと第2メカナムホイール21Lとで逆符号となる。
【0107】
そのため、式(3)によって左右方向の成分を相殺し、前後方向の成分を抽出して平均化することができる。同様に、式(4)によって前後方向の成分を相殺し、左右方向の成分を抽出して平均化することができる。式(3)及び(4)により、第1及び第2メカナムホイール21R,21L全体で見た並進加速度を推定することができる。
【0108】
なお、式(3)及び(4)の如き関係式は、第1及び第2モータ22R,22Lそれぞれの回転数(つまり、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lそれぞれの回転数)についても成立する。
【0109】
ここで、r[rpm]を前後方向における第1モータ22Rの回転数(以下、「第1回転数」ともいう)とし、r[rpm]を前後方向における第2モータ22Lの回転数(以下、「第2回転数」ともいう)とする。これらの回転数のうち、第1回転数rは第1回転センサSW3によって検出される回転数であり、第2回転数rは第2回転センサSW4によって検出される回転数である。
【0110】
そして、r[rpm]を前後方向における第1及び第2モータ22R,22L全体の回転数(以下、これを「縦回転数」ともいう)とし、r[rpm]を左右方向における第1及び第2モータ22R,22L全体の回転数(以下、これを「横回転数」ともいう)とする。本実施形態のように第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを構成及び配置した場合、下式(5)及び(6)が成立する。
【0111】
=(r+r)/2 …(5)
=(r-r)/2 …(6)
【0112】
上式(5)及び(6)は、下式(7)及び(8)のように変形可能である。下式(7)及び(8)に示すように、rとrを設定することで、rとrを一意に決定することができる。
【0113】
=r+r …(7)
=r-r …(8)
【0114】
続いて、コントローラ4は、第1及び第2回転センサSW3,SW4の検出信号に基づいて、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの回転数が所定の第1閾値以上になったことを条件に、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの駆動を許容する。
【0115】
詳しくは、ステップS3から続くステップS4において、コントローラ4は、以下の関係式(5)及び(6)のいずれか一方が満足されているか否かを判定する。その判定を通じて、実際にベッド10が搬送されているか否かを確認することができる(搬送確認)。
【0116】
≧T1 …(9)
≧T1 …(10)
【0117】
上式(9)及び(10)において、T1[1/s]は第1閾値である。第1閾値の大きさは、コントローラ4のメモリ等に事前に記憶されており、上式(13)と(14)とで等しくなるように設定されている。
【0118】
ここで、上式(9)及び(10)が双方とも満足されていない場合、コントローラ4は、外力によってベッド10が搬送されていないと判定し、第1及び第2モータ22R、22Lそれぞれの駆動を許容しない(ステップS4:NO)。この場合、制御プロセスはステップS5に進む。このステップS5において、コントローラ4は、第1及び第2モータ22R,22Lそれぞれの指令回転数をゼロにする。
【0119】
ステップS5に進んだ場合、それ以降のステップS7及びS8において、第1及び第2モータ22R、22Lの指令回転数は、ゼロに設定される(ステップS7及びS8の詳細は後述)。この場合、コントローラ4は、第1及び第2モータ22R,22Lを駆動することなく、図9に示すフローを終了する。
【0120】
一方、上式(9)及び(10)のうちの少なくとも一方が満足されている場合、コントローラ4は、外力によってベッド10が搬送されていると判定し、第1及び第2モータ22R、22Lそれぞれの駆動を許容する(ステップS4:YES)。この場合、制御プロセスはステップS6に進む。このステップS6において、コントローラ4は、外力による手押移動をアシストすべく、第1及び第2モータ22R,22Lそれぞれの指令回転数を設定する。
【0121】
図10のステップS11~S15は、それぞれ、図9のステップS6で実行される処理を例示している。つまり、制御プロセスがステップS6に進むと、コントローラ4は、図10のステップS11を開始する。
【0122】
以下に説明されるステップS11~S13において、コントローラ4は、図9のステップS2で推定された第1及び第2加速度a,aに基づいて、ベッド10の移動方向を判定する。詳細には、本実施形態に係るコントローラ4は、第1及び第2加速度a,aに基づいて、ベッド10の移動方向が前後方向であるか否かの判定と、ベッド10の移動方向が前後方向であるか否かの判定と、を実行する。
【0123】
さらに詳細には、本実施形態に係るコントローラ4は、同図のステップS3で演算された第1加速度aと第2加速度aとの差分(横加速度a)の大きさに基づいて、ベッド10の移動方向を判定するようになっている。
【0124】
具体的に、図10のステップS11において、コントローラ4は、以下の関係式(11)が満足されているか否かを判定する。
【0125】
|a|<T2 …(11)
【0126】
上式(11)において、T2[m/s]は第2閾値である。第2閾値の大きさは、コントローラ4のメモリ等に事前に記憶されており、必要に応じて適宜読み出されるようになっている。
【0127】
ここで、上式(11)が満足されている場合(ステップS11:YES)、コントローラ4は、制御ステップをステップS12に進める。ステップS12において、コントローラ4は「移動方向=前後方向」と判定する。
【0128】
また、このステップS12において、コントローラ4は、縦加速度aの符号に基づいて、移動方向が前方(a>0)か後方(a<0)かを判定する。この判定が完了すると、コントローラ4は、制御プロセスをステップS13に進める。
【0129】
一方、上式(7)が満足されていない場合(ステップS11:NO)、コントローラ4は、制御ステップをステップS14に進める。ステップS14において、コントローラ4は「移動方向=左右方向」と判定する。
【0130】
また、このステップS14において、コントローラ4は、横加速度aの符号に基づいて、移動方向が左方(a>0)か右方(a<0)かを判定する。この判定が完了すると、コントローラ4は、制御プロセスをステップS15に進める。
【0131】
ステップS13及びステップS15において、コントローラ4は、ステップS12又はステップS14で行われた判定に基づいて、その移動方向に沿ったベッド10の移動をアシストするように、第1及び第2モータ22R,22Lそれぞれの指令回転数を設定する。
【0132】
具体的に、移動方向が前後方向であると判定された場合に進むステップS13において、コントローラ4は、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを双方とも前転又は後転させるように、第1及び第2モータ22R,22Lそれぞれの指令回転数を設定する。その設定に際し、コントローラ4は、第1モータ22Rと第2モータ22Lとで指令回転数の絶対値を等しくする。各指令回転数の符号は、モータ正転時には正、モータ逆転時には負となるように定義されている。
【0133】
したがって、第1モータ22Rの指令回転数(以下、第1指令回転数ともいう)をRとし、第2モータ22Lの指令回転数(以下、第2指令回転数ともいう)をRとすると、本実施形態に係る搬送補助装置1では、移動方向=前方のときには下式(12)が満足されるとともに、移動方向=後方のときには下式(13)が満足されるようにそれぞれ設定される。
【0134】
=R>0 …(12)
=R<0 …(13)
【0135】
一方、移動方向が左右方向であると判定された場合に進むステップS15において、コントローラ4は、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの一方を前転させるとともに他方を後転させるように、第1及び第2モータ22R,22Lそれぞれの指令回転数を設定する。その設定に際し、コントローラ4は、第1モータ22Rと第2モータ22Lとで指令回転数の絶対値を等しくする。
【0136】
したがって、本実施形態に係る搬送補助装置1では、移動方向=左方のときには下式(14)が満足されるとともに、移動方向=右方のときには下式(15)が満足されるようにそれぞれ設定される。
【0137】
=-R>0 …(14)
=-R>0 …(15)
【0138】
図10のステップS13及びステップS15の処理が完了すると、制御プロセスは、図9のステップS7に進む。このステップS7において、コントローラ4は安全制御処理を実行する。この処理の詳細は、図11のステップS31及びステップS32に示す通りである。
【0139】
ステップS31において、コントローラ4は、図10のフローを通じて設定された各指令回転数R,Rの絶対値が、所定の第3閾値T3以上か否かを判定する。ここで、第3閾値T3の大きさは、コントローラ4のメモリ等に事前に記憶されており、必要に応じて適宜読み出されるようになっている。
【0140】
ステップS31の判定がYESの場合、コントローラ4は、制御プロセスをステップS32に進める。このステップS32において、コントローラ4は、各指令回転数R,Rを第3閾値T3に変更する。
【0141】
一方、ステップS32の判定がNOの場合、コントローラ4は、ステップS32をスキップしてリターンする。この場合、各指令回転数R,Rの大きさは、第3閾値T3未満のまま維持される。
【0142】
そして、図9のステップS7から続くステップS8において、コントローラ4は、移動方向に沿ったベッド10の移動をアシストするように、第1及び第2モータ22R,22Lを介して第1及び第2メカナムホイール21R,21Lをそれぞれ駆動する。その際、前述のステップS5、ステップS6及びステップS7を通じて決定された指令回転数R,Rを実現するように、第1及び第2モータ22R,22Lはそれぞれ駆動される。これによりベッド10の移動方向に沿ったアシストが実現される。
【0143】
以上のように、2つのメカナムホイール21R,21Lを用いたことで、各メカナムホイール21R,21Lの回転方向と、xy平面上での並進方向とを関連付けることができる(図7参照)。また、搬送補助装置1自身の並進方向は、外力の作用方向、ひいてはベッド10の移動方向と略一致すると考えられる。そのため、各メカナムホイール21R,21Lの回転方向に基づいて、ベッド10全体の移動方向を判定することができる。そして、判定された移動方向に沿ったアシストを実現することで、各メカナムホイール21R,21Lの実際の回転状況が反映された、より良好なアシストを実現することが可能になる。
【0144】
また、図7に例示したように、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lが双方とも同じ方向に回転したときと、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの一方と他方とで異なる方向に回転したときとで、搬送補助装置1全体の並進方向を異ならせることができる。並進方向に応じて各メカナムホイール21R,21Lの回転方向が明確に区別されるため、ベッド10の移動方向を、より正確に判断することができるようになる。これにより、ベッド10の移動に際し、より良好なアシストを実現する上で有利になる。
【0145】
また、図7に例示したように、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lが双方とも同じ方向に回転しているときには、搬送補助装置1全体では前後方向に並進することになる。一方、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの一方と他方とで異なる方向に回転しているときには、搬送補助装置1全体では左右方向に並進することになる。前後移動時と左右移動時とで各メカナムホイール21R,21Lの回転方向が明確に区別されるため、ベッド10の移動方向を、より正確に判断することができるようになる。これにより、ベッド10の移動に際し、より良好なアシストを実現する上で有利になる。
【0146】
また、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lが双方とも同じ方向に回転しているとき(つまり、前後方向に並進しているとき)には、横加速度aは実質的にゼロとなる。一方、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの一方と他方とで異なる方向に回転しているときには、横加速度aはゼロよりも有意に大きくなる。前後移動時と左右移動時とで差分の大きさが明確に区別されるため、図10のステップS11、ステップS12及びステップS14に例示したように、ベッド10の移動方向を、より正確に判断することができるようになる。これにより、ベッド10の移動に際し、より良好なアシストを実現する上で有利になる。
【0147】
また、図10のステップS13に関して説明したように、前後移動に際して指令回転数の絶対値を左右で等しくすることで、ベッド10の姿勢に関わらず、より安定した前後移動を実現することができる。これにより、ベッド10の移動に際し、より良好なアシストを実現する上で有利になる。
【0148】
また、図10のステップS15に関して説明したように、左右移動に際して指令回転数の絶対値を左右で等しくすることで、ベッド10の姿勢に関わらず、より安定した左右移動を実現することができる。これにより、ベッド10の移動に際し、より良好なアシストを実現する上で有利になる。
【0149】
また、本実施形態に係る搬送補助装置1は、キャスタ付きベッドのような重量物の移動に際しても、良好なアシストを実現することができる。
【0150】
<他の実施形態>
前記実施形態では、2つ1組のメカナムホイールを備えた構成について例示したが、本開示は、そうした構成には限定されない。例えば、ベッド10の移動方向の判定に利用可能な第1及び第2メカナムホイール21R,21Lに加えて、第3及び第4のメカナムホイール等、複数のメカナムホイールを備えた構成としてもよい。
【0151】
また、前記実施形態では、ベッド10の移動方向が、前後方向であるか左右方向であるかが判定されるように構成されていたが、本開示は、そうした構成には限定されない。例えば、縦加速度aと横加速度aとが双方とも所定以上の場合には、ベッド10の移動方向が斜め方向であると判定するように構成してもよい。図7の右下に例示したように、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lのうちの一方を前転又は後転させることで生じる推力を利用して、その斜め方向への移動をアシストするように構成することもできる。
【0152】
斜め方向に関して判定する場合、例えば、図10のステップS11とステップS14との間で、下式(16)が満足されているか否かの判定を行えばよい。
【0153】
|a|<T2 …(16)
【0154】
コントローラ4は、上式(16)の判定がYESの場合、ベッド10の移動方向が左右方向であると判断し、制御プロセスをステップS14に進めて前述の処理を実行すればよい。コントローラ4はまた、上式(16)の判定がNOの場合、ベッド10の移動が斜め方向であると判断し、前述のように第1及び第2メカナムホイール21R,21Lのうちの一方を前転又は後転させるような処理を実行すればよい。
【0155】
また、斜め方向へのアシストを行う場合、図9のステップS4では、式(9)及び10)のいずれか一方ではなく、式(9)及び(10)の少なくとも一方が成立するか否かを判定すればよい。例えば、ベッド10が斜め方向に移動している場合、式(9)及び(10)の双方が成立することになる。
【符号の説明】
【0156】
1 搬送補助装置
4 コントローラ
10 ベッド(対象物)
14 キャスタ
14F 前輪
14B 後輪
21R 第1メカナムホイール
211R 第1ホイール本体
212R 第1樽型ローラ
21L 第2メカナムホイール
211L 第2ホイール本体
212L 第2樽型ローラ
22R 第1モータ
22L 第2モータ
Oy1 第1回転軸
Oy2 第2回転軸
Or 第1傾斜軸
Ol 第2傾斜軸
SW1 第1電流センサ
SW2 第2電流センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11