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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135298
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】モータドライバ回路、電子機器
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/182 20160101AFI20240927BHJP
【FI】
H02P6/182
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045919
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】菅本 裕樹
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560BB04
5H560BB07
5H560BB12
5H560DA13
5H560DB13
5H560DC13
5H560EB01
5H560TT07
5H560UA05
(57)【要約】
【課題】高精度で逆起電力のゼロクロスを検出可能なモータドライバ回路を提供する。
【解決手段】U相出力ピンVUは、三相DCモータのU相コイルと接続される。中性点ピンCOMは、三相DCモータの中性点電圧VCOMを受けるように接続される。中性点クランプ回路260は、三相インバータ回路110の電源電圧をVccとするとき、中性点ピンに生ずる中性点電圧VCOMを、Vcc/2にもとづいて定めた第1クランプレベルを超えないようにクランプした電圧に相当する中性点クランプ電圧VCOM’を出力する。U相クランプ回路250Uは、U相出力ピンVUに生ずるU相電圧Vを第1クランプレベルVCL1より高く定めた第2クランプレベルVCL2を超えないようにクランプした電圧に相当するU相クランプ電圧V’を出力する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相DCモータを駆動するモータドライバ回路であって、
前記三相DCモータのU相コイルと接続されるべきU相出力ピンと、
前記三相DCモータのV相コイルと接続されるべきV相出力ピンと、
前記三相DCモータのW相コイルと接続されるべきW相出力ピンと、
前記三相DCモータの中性点電圧を受けるように接続されるべき中性点ピンと、
三相インバータ回路の電源電圧をVccとするとき、前記中性点電圧を、Vcc/2にもとづいて定めた第1クランプレベルを超えないようにクランプした電圧に相当する中性点クランプ電圧を出力する中性点クランプ回路と、
前記U相出力ピンに生ずるU相電圧を前記第1クランプレベルより高く定めた第2クランプレベルを超えないようにクランプした電圧に相当するU相クランプ電圧を出力するU相クランプ回路と、
前記V相出力ピンに生ずるV相電圧を前記第2クランプレベルを超えないようにクランプした電圧に相当するV相クランプ電圧を出力するV相クランプ回路と、
前記W相出力ピンに生ずるW相電圧を前記第2クランプレベルを超えないようにクランプした電圧に相当するW相クランプ電圧を出力するW相クランプ回路と、
前記U相クランプ電圧を前記中性点クランプ電圧と比較するU相比較回路と、
前記V相クランプ電圧を前記中性点クランプ電圧と比較するV相比較回路と、
前記W相クランプ電圧を前記中性点クランプ電圧と比較するW相比較回路と、
前記U相比較回路、前記V相比較回路、前記W相比較回路の出力にもとづいて、前記三相インバータ回路を制御するための制御信号を生成する制御回路と、
を備える、モータドライバ回路。
【請求項2】
前記中性点クランプ回路は、前記中性点ピンと接地の間に接続された第1電圧クランプ素子を含む、請求項1に記載のモータドライバ回路。
【請求項3】
前記U相クランプ回路、前記V相クランプ回路、前記W相クランプ回路はそれぞれ、
対応する出力ピンと接地の間に接続された第2電圧クランプ素子を含む、請求項2に記載のモータドライバ回路。
【請求項4】
前記中性点クランプ回路は、前記中性点ピンと、前記第1電圧クランプ素子の間に接続された第1抵抗をさらに含み、
前記U相クランプ回路、前記V相クランプ回路、前記W相クランプ回路はそれぞれ、前記対応する出力ピンと前記第2電圧クランプ素子の間に接続された第2抵抗をさらに含み、
前記第1抵抗と各相の前記第2抵抗はペアリングされている、請求項3に記載のモータドライバ回路。
【請求項5】
前記U相クランプ回路、前記V相クランプ回路、前記W相クランプ回路はそれぞれ、
対応する出力ピンと前記中性点ピンの間に接続された第3電圧クランプ素子を含む、請求項2に記載のモータドライバ回路。
【請求項6】
前記中性点クランプ回路は、前記中性点ピンと、前記第1電圧クランプ素子の間に接続された第1抵抗をさらに含み、
前記U相クランプ回路、前記V相クランプ回路、前記W相クランプ回路はそれぞれ、前記対応する出力ピンと前記第3電圧クランプ素子の間に接続された第3抵抗をさらに含み、
前記第1抵抗と、各相の前記第3抵抗はペアリングされている、請求項5に記載のモータドライバ回路。
【請求項7】
前記U相比較回路、前記V相比較回路、前記W相比較回路はそれぞれ、
対応する相のクランプ電圧を受ける第1入力と、前記中性点クランプ電圧を受ける第2入力と、を有する電圧コンパレータを含む、請求項1から6のいずれかに記載のモータドライバ回路。
【請求項8】
前記U相比較回路、前記V相比較回路、前記W相比較回路はそれぞれ、
前記中性点クランプ電圧を分圧する中性点分圧回路と、
対応する相のクランプ電圧を分圧する相電圧分圧回路と、
前記相電圧分圧回路の出力電圧を受ける第1入力と、前記中性点分圧回路の出力電圧を受ける第2入力と、を有する電圧コンパレータと、
を含む、請求項1から3のいずれかに記載のモータドライバ回路。
【請求項9】
前記相電圧分圧回路は、前記U相比較回路、前記V相比較回路、前記W相比較回路とで共有される、請求項8に記載のモータドライバ回路。
【請求項10】
ひとつの半導体基板に一体集積化される、請求項1から8のいずれかに記載のモータドライバ回路。
【請求項11】
前記三相インバータ回路は、前記モータドライバ回路の外側にディスクリート素子を用いて構成される、請求項10に記載のモータドライバ回路。
【請求項12】
前記三相インバータ回路をさらに備える、請求項10に記載のモータドライバ回路。
【請求項13】
三相DCモータと、
前記三相DCモータと接続された三相インバータ回路と、
前記三相インバータ回路を制御する請求項11に記載のモータドライバ回路と、
を備える、電子機器。
【請求項14】
三相DCモータと、
前記三相インバータ回路を駆動する請求項12に記載のモータドライバ回路と、
を備える、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータドライバ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
モータドライバ回路やDC/DCコンバータ、電力変換装置などにおいて、パワートランジスタを用いたハーフブリッジ回路、Hブリッジ回路、三相ブリッジ回路(以下、ブリッジ回路と総称する)が多用されている。
【0003】
ブリッジ回路は、相ごとに、電源端子と接地端子の間に直列に設けられた上アームおよび下アームを備える。上アームは、並列に接続されるハイサイドトランジスタおよびフライホイルダイオードを含む。下アームは、並列に接続されるローサイドトランジスタおよびフライホイルダイオードを含む。
【0004】
ブラシレスDCモータを回転させるためには、ロータの位置に応じて駆動相を順に切り替える必要がある。ブラシレスDCモータの駆動方式には、ホール素子を用いたセンサ方式と、ホール素子を用いないセンサレス方式がある。センサレス方式では、モータの各相のコイルに発生する逆起電力(BEMF:Back Electromotive Force)がゼロとなるタイミングを検出し、駆動相を切り替える。
【0005】
逆起電力の検出には、コンパレータによって行われる。逆起電力の検出の際は、各相のインバータの出力はハイインピーダンスとされる。この状態で、コンパレータは、三相モータの中性点の電圧を、各相のインバータの出力電圧と比較することにより、逆起電力がゼロとなるタイミングを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第7169815号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インバータの電源電圧をVccとするとき、三相モータの中性点の電圧はVcc/2付近に保たれている一方で、各相のインバータの出力電圧は、電源電圧Vccと0Vの間でスイングする。したがって、インバータの出力をコンパレータに直接入力しようとすると、コンパレータに要求される耐圧が高くなる。
【0008】
コンパレータに要求される耐圧を下げるために、コンパレータの入力側に、インバータの出力電圧を分圧する分圧回路と、中性点電圧を同じ分圧比でする分圧回路と、を設け、分圧後の出力電圧および中性点電圧をコンパレータに入力する手法が採られる場合がある。この手法は、分圧比を高くすることにより、コンパレータに必要な耐圧を下げることができる。
【0009】
しかしながら、出力電圧の分圧回路の分圧比と、中性点電圧の分圧回路の分圧比がばらつくと、検出精度が低下するという問題がある。また分圧回路の抵抗と寄生容量がフィルタを形成するため、検出速度が低下する場合もある。
【0010】
本開示は係る状況においてなされたものあり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、高精度で逆起電力のゼロクロスを検出可能なモータドライバ回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のある態様は、三相DCモータを駆動するモータドライバ回路に関する。モータドライバ回路は、三相DCモータのU相コイルと接続されるべきU相出力ピンと、三相DCモータのV相コイルと接続されるべきV相出力ピンと、三相DCモータのW相コイルと接続されるべきW相出力ピンと、三相DCモータの中性点電圧を受けるように接続されるべき中性点ピンと、三相インバータ回路の電源電圧をVccとするとき、中性点電圧をVcc/2にもとづいて定めた第1クランプレベルを超えないようにクランプした電圧に相当する中性点クランプ電圧を出力する中性点クランプ回路と、U相出力ピンに生ずるU相電圧を第1クランプレベルより高く定めた第2クランプレベルを超えないようにクランプした電圧に相当するU相クランプ電圧を出力するU相クランプ回路と、V相出力ピンに生ずるV相電圧を第2クランプレベルを超えないようにクランプした電圧に相当するV相クランプ電圧を出力するV相クランプ回路と、W相出力ピンに生ずるW相電圧を第2クランプレベルを超えないようにクランプした電圧に相当するW相クランプ電圧を出力するW相クランプ回路と、U相クランプ電圧を中性点クランプ電圧と比較するU相比較回路と、V相クランプ電圧を中性点クランプ電圧と比較するV相比較回路と、W相クランプ電圧を中性点クランプ電圧と比較するW相比較回路と、U相比較回路、V相比較回路、W相比較回路の出力にもとづいて、三相インバータ回路を制御するための制御信号を生成する制御回路と、を備える。
【0012】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本開示のある態様によれば、高精度で逆起電力のゼロクロスを検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態に係るモータドライバ回路を備えるモータ回路の回路図である。
図2図2は、実施形態に係るモータドライバ回路の回路図である。
図3図3は、図2のモータドライバ回路の動作波形図である。
図4図4は、U相逆起電力検出回路の構成例を示す回路図である。
図5図5は、図4のU相逆起電力検出回路の一例を示す回路図である。
図6図6は、図4のU相逆起電力検出回路の別の一例を示す回路図である。
図7図7は、U相比較回路の変形例を示す回路図である。
図8図8は、U相逆起電力検出回路の変形例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0016】
この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。その唯一の目的は、後で提示するより詳細な説明の前置きとして、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化した形で提示することである。
【0017】
一実施形態に係るモータドライバ回路は、三相DCモータのU相コイルと接続されるべきU相出力ピンと、三相DCモータのV相コイルと接続されるべきV相出力ピンと、三相DCモータのW相コイルと接続されるべきW相出力ピンと、三相DCモータの中性点電圧を受けるように接続されるべき中性点ピンと、三相インバータ回路の電源電圧をVccとするとき、中性点電圧をVcc/2にもとづいて定めた第1クランプレベルを超えないようにクランプした電圧に相当する中性点クランプ電圧を出力する中性点クランプ回路と、U相出力ピンに生ずるU相電圧を第1クランプレベルより高く定めた第2クランプレベルを超えないようにクランプした電圧に相当するU相クランプ電圧を出力するU相クランプ回路と、V相出力ピンに生ずるV相電圧を第2クランプレベルを超えないようにクランプした電圧に相当するV相クランプ電圧を出力するV相クランプ回路と、W相出力ピンに生ずるW相電圧を第2クランプレベルを超えないようにクランプした電圧に相当するW相クランプ電圧を出力するW相クランプ回路と、U相クランプ電圧を中性点クランプ電圧と比較するU相比較回路と、V相クランプ電圧を中性点クランプ電圧と比較するV相比較回路と、W相クランプ電圧を中性点クランプ電圧と比較するW相比較回路と、U相比較回路、V相比較回路、W相比較回路の出力にもとづいて、三相インバータ回路を制御するための制御信号を生成する制御回路と、を備える。
【0018】
モータ回路が正常動作しているとき、三相DCモータの中性点電圧は、電源電圧Vccの中点電圧Vcc/2近傍に維持される。また逆起電力のゼロクロス検出において必要とされるのは、各相電圧が中性点電圧とクロスするタイミングであるから、中性点電圧を大きく上回っている相電圧は監視する必要が無い。そこで、正常時の中点電圧Vcc/2を基準として、それと同じか、それよりわずかに高いレベルに第1クランプレベルを定めて中性点電圧をクランプし、第1クランプレベルより高いレベルに第2クランプレベルを定めて相電圧をクランプし、クランプ後の中性点電圧と相電圧を比較することで、逆起電力のゼロクロス検出が可能となる。比較対象となるクランプ後の中性点電圧と相電圧の最大電圧は、中点電圧Vcc/2に近いクランプレベルであるため、比較回路に要求される耐圧を低下させることができる。
【0019】
一実施形態において、中性点クランプ回路は、中性点ピンと接地の間に接続された第1電圧クランプ素子を含んでもよい。
【0020】
一実施形態において、U相クランプ回路、V相クランプ回路、W相クランプ回路はそれぞれ、対応する出力ピンと接地の間に接続された第2電圧クランプ素子を含んでもよい。
【0021】
一実施形態において、中性点クランプ回路は、中性点ピンと、第1電圧クランプ素子の間に接続された第1抵抗をさらに含んでもよい。U相クランプ回路、V相クランプ回路、W相クランプ回路はそれぞれ、対応する出力ピンと第2電圧クランプ素子の間に接続された第2抵抗をさらに含んでもよい。第1抵抗と各相の第2抵抗はペアリングされていてもよい。
【0022】
一実施形態において、U相クランプ回路、V相クランプ回路、W相クランプ回路はそれぞれ、対応する出力ピンと中性点ピンの間に接続された第3電圧クランプ素子を含んでもよい。
【0023】
一実施形態において、中性点クランプ回路は、中性点ピンと、第1電圧クランプ素子の間に接続された第1抵抗をさらに含んでもよい。U相クランプ回路、V相クランプ回路、W相クランプ回路はそれぞれ、対応する出力ピンと第3電圧クランプ素子の間に接続された第3抵抗をさらに含んでもよい。第1抵抗と、各相の第3抵抗はペアリングされていてもよい。
【0024】
一実施形態において、U相比較回路、V相比較回路、W相比較回路はそれぞれ、対応する相のクランプ電圧を受ける第1入力と、中性点クランプ電圧を受ける第2入力と、を有する電圧コンパレータを含んでもよい。
【0025】
一実施形態において、U相比較回路、V相比較回路、W相比較回路はそれぞれ、中性点クランプ電圧を分圧する中性点分圧回路と、対応する相のクランプ電圧を分圧する相電圧分圧回路と、相電圧分圧回路の出力電圧を受ける第1入力と、中性点分圧回路の出力電圧を受ける第2入力と、を有する電圧コンパレータと、を含んでもよい。
【0026】
一実施形態において、相電圧分圧回路は、U相比較回路、V相比較回路、W相比較回路とで共有されてもよい。
【0027】
一実施形態において、モータドライバ回路は、ひとつの半導体基板に一体集積化されてもよい。「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。回路を1つのチップ上に集積化することにより、回路面積を削減することができるとともに、回路素子の特性を均一に保つことができる。
【0028】
一実施形態において、三相インバータ回路は、モータドライバ回路の外側にディスクリート素子を用いて構成されてもよい。
【0029】
(実施形態)
以下、好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0030】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0031】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0032】
図1は、実施形態に係るモータドライバ回路200を備えるモータ回路100の回路図である。モータ回路100は、三相DCモータ2と、三相インバータ回路110と、モータドライバ回路200と、を備える。三相DCモータ2は、U相コイル、V相コイル、W相コイルを備える。またU相コイル、V相コイル、W相コイルの接続点である中性点からは、タップが引き出されている。
【0033】
三相インバータ回路110は、三相ブリッジ回路であり、U相、V相、W相のインバータ(レグ)を含む。以下、説明の容易化のために、U、V、Wを、#で示し、一般化することとする。#相のインバータは、電源ライン112と接地ライン114の間に接続されたハイサイドトランジスタMH#およびローサイドトランジスタML#を含む。ハイサイドトランジスタMH#とローサイドトランジスタML#の接続ノードが、#相インバータの出力であり、対応する#相コイルと接続される。
【0034】
モータドライバ回路200は、ひとつの半導体基板に集積化されたIC(Integrated Circuit)であり、三相DCモータ2が目標とする状態で回転するように、三相インバータ回路110を制御する。たとえばモータドライバ回路200は、三相DCモータ2の回転数を安定化してもよいし、三相DCモータ2のロータの位置を安定化してもよく、制御方式は特に限定されない。また通電方式も特に限定されず、120度通電方式(矩形波駆動方式)であってもよいし、180度通電方式(正弦波駆動方式)であってもよい。
【0035】
モータドライバ回路200は、U相出力ピンVU、V相出力ピンVV、W相出力ピンVW、中性点ピンCOMを備える。U相出力ピンVUは、三相DCモータ2のU相コイル、言い換えるとU相インバータの出力と接続される。同様に、V相出力ピンVVは、V相コイルと接続され、W相出力ピンVWは、W相コイルと接続される。
【0036】
中性点ピンCOMは、三相DCモータ2の中性点電圧VCOMを受けるように接続される。この例では、中性点ピンCOMは、三相DCモータ2の実際の中性点と接続されているが本開示はそれに限定されず、仮想中性点と接続されていてもよい。
【0037】
U相逆起電力検出回路240Uは、U相電圧Vを中性点電圧VCOMと比較し、比較結果を示す検出信号BEMFUを出力する。120度通電方式の場合、U相コイルに電流が流れていない期間に、U相逆起電力検出回路240Uが動作する。180度通電方式の場合、逆起電力のゼロクロスのタイミングを予測して時間窓を設定し、この時間窓の間、U相インバータの出力をハイインピーダンスとして、逆起電力を監視する。
【0038】
V相逆起電力検出回路240Vは、V相電圧Vを中性点電圧VCOMと比較し、比較結果を示す検出信号BEMFVを出力する。W相逆起電力検出回路240Wは、W相電圧Vを中性点電圧VCOMと比較し、比較結果を示す検出信号BEMFWを出力する。
【0039】
制御回路230は、U相比較回路270U、V相比較回路270V、W相比較回路270Wが生成する検出信号BEMFU,BEMFV,BEMFWにもとづいて、三相インバータ回路110を制御するための制御信号HCTRLU、HCTRLV、HCTRLW、LCTRLU、LCTRLV、LCTRLWを生成する。
【0040】
U相ハイサイドプリドライバ210Uは、制御信号HCTRLUにもとづいて対応する相のハイサイドトランジスタMHUを駆動する。V相ローサイドプリドライバ210V、W相ローサイドプリドライバ210Wも同様である。一般化するとハイサイドプリドライバ210#は、制御信号HCTRL#にもとづいて、ハイサイドトランジスタMH#を駆動する。
【0041】
U相ローサイドプリドライバ220Uは、制御信号LCTRLUにもとづいて対応する相のローサイドトランジスタMLUを駆動する。V相ローサイドプリドライバ220V、W相ローサイドプリドライバ220Wも同様である。一般化するとローサイドプリドライバ220#は、制御信号LCTRL#にもとづいて、ローサイドトランジスタML#を駆動する。
【0042】
以上がモータドライバ回路200の構成である。
【0043】
図2は、実施形態に係るモータドライバ回路200の回路図である。図2には、図1のU相逆起電力検出回路240U、V相逆起電力検出回路240V、W相逆起電力検出回路240Wの構成が示される。
【0044】
U相クランプ回路250U、U相比較回路270Uは、中性点クランプ回路260とともに図1のU相逆起電力検出回路240Uを構成する。V相、W相についても同様であるから代表としてU相の構成を説明する。
【0045】
正常状態における三相インバータ回路110の電源電圧をVccとする。中性点クランプ回路260は、中性点ピンCOMに生ずる中性点電圧VCOMをVcc/2にもとづいて定めた第1クランプレベルVCL1を超えないようにクランプし、クランプの結果発生する中性点クランプ電圧VCOM’を出力する。
【0046】
U相クランプ回路250Uは、U相出力ピンVUに生ずるU相電圧Vを、第2クランプレベルVCL2を超えないようにクランプした電圧に相当するU相クランプ電圧V’を出力する。第2クランプレベルVCL2は、第1クランプレベルVCL1より高く定められる。
【0047】
U相比較回路270Uは、U相クランプ電圧V’を中性点クランプ電圧VCOM’と比較し、比較結果を示す検出信号BEMFUを出力する。
【0048】
以上がモータドライバ回路200の構成である。続いてその動作を説明する。
【0049】
図3は、図2のモータドライバ回路200の動作波形図である。ここでは120度通電方式を例とし、U相の逆起電力検出について説明する。図3には、三相の逆起電力VBEMFU~VBEMFW、三相のハイサイドトランジスタMHU~MHWの状態、三相のローサイドトランジスタMLU~MLWの状態、U相電圧V、U相の通電状態、U相クランプ電圧VU’、検出信号BEMFUが示される。
【0050】
U相の通電区間において、U相電圧Vは、電源電圧VCCまたは接地電圧0Vとなる。非通電区間においてU相電圧Vは、U相コイルの逆起電力VBEMFUとなる。
【0051】
中性点電圧VCOMは、第1クランプレベルVCL1より低く、したがって、中性点クランプ電圧VCOM’は、中性点電圧VCOMと等しい。
【0052】
U相クランプ電圧V’は、U相電圧Vを第2クランプレベルVCL2でクランプした電圧である。U相の非通電区間において、U相クランプ電圧V’が、クランプ後の中性点電圧VCOM’(=VCOM)と比較され、比較結果に応じた検出信号BEMFUが生成される。検出信号BEMFUの矢印を付したエッジが、検出すべきタイミングを表す。
【0053】
以上がモータドライバ回路200の動作である。続いてその利点を説明する。
【0054】
このモータドライバ回路200によれば、U相比較回路270Uに入力される中性点クランプ電圧VCOM’は第1クランプレベルVCL1より低いことが保証され、U相クランプ電圧V’は第2クランプレベルVCL2より低いことが保証される。したがって、U相比較回路270Uの耐圧は、第2クランプレベルVCL2を想定して設計すればよい。
【0055】
図2のモータドライバ回路200では、U相出力ピンVUに、抵抗分圧回路が直接接続されていない。その結果、高速な逆起電力検出が可能となる。
【0056】
さらに、相電圧と中性点電圧を同じ分圧比で分圧する構成に比べて、製造ばらつきに起因する分圧比の誤差の影響を受けないため、高精度な逆起電力検出が可能となる。
【0057】
本開示は、図2のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本開示の範囲を狭めるためではなく、本開示や本発明の本質や動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0058】
図4は、U相逆起電力検出回路240Uの構成例を示す回路図である。ここではU相について説明するが、UはV,Wと読み替えることができる。
【0059】
U相クランプ回路250Uは、第2抵抗R2および第2電圧クランプ回路252を含む。第2電圧クランプ回路252は第1抵抗R1を介して、中性点ピンCOMと接続される。第2電圧クランプ回路252は、ノード253の電位をクランプする。図3に示したように、通電区間において相電圧Vは電源電圧VCC近傍まで上昇する。第1抵抗R1を挿入することにより、スイッチング動作に影響を与えずに、ノード253の電位をクランプできる。
【0060】
中性点クランプ回路260は、第1抵抗R1および第1電圧クランプ回路262を含む。第1電圧クランプ回路262は、第1抵抗R1を介して、中性点ピンCOMと接続される。第1電圧クランプ回路262は、ノード263の電位をクランプする。第1抵抗R1は、第2抵抗R2と同じ抵抗値を有する。
【0061】
通常動作中に、中性点電圧VCOMは第1クランプレベルVCL1より低いため、中性点クランプ回路260の第1抵抗R1は無くてもよいが、第1抵抗R1を追加することで、U相クランプ回路250Uと中性点クランプ回路260が同じ構成を有することとなるため、電圧検出の精度を高めることができる。第1抵抗R1と第2抵抗R2は半導体基板上で同じ素子構成を有し、隣接配置されることが好ましい。これをペアリングという。
【0062】
U相比較回路270Uは、電圧コンパレータ272を含む。電圧コンパレータ272は、第1入力にU相クランプ電圧V’を受け、第2入力に中性点クランプ電圧VCOM’を受ける。電圧コンパレータ272は、2つの電圧V’とVCOM’の大小関係を示す検出信号BEMFUを出力する。
【0063】
図5は、図4のU相逆起電力検出回路240Uの一例を示す回路図である。第1電圧クランプ回路262は、ノード263と接地の間に接続された第1電圧クランプ素子であるツェナーダイオードZD1を含む。ツェナーダイオードZD1のツェナー電圧をVzとするとき、ノード263の電圧VCOM’は、Vを上限レベルとしてクランプされる。つまり、VCL1=Vとなる。
【0064】
第2電圧クランプ回路252は、ノード253と接地の間に直列に接続された第2電圧クランプ素子であるツェナーダイオードZD2およびダイオードD2を含む。ツェナーダイオードZD2のツェナー電圧をVz、ダイオードD2の順方向電圧をVfとするとき、ノード253の電圧V’は、V+Vfを上限レベルとしてクランプされる。つまり、VCL2=V+Vfとなる。
【0065】
図6は、図4のU相逆起電力検出回路240Uの別の一例を示す回路図である。図6の第2電圧クランプ回路252は、ノード253とノード263の間に接続された第3電圧クランプ素子であるダイオードD3を含む。ノード253とU相出力ピンVUの間には第3抵抗R3が接続される。第3抵抗R3と第1抵抗R1はペアリングされる。この構成によっても、ノード253の電圧V’は、V+Vfを上限レベルとしてクランプできる。
【0066】
なお、クランプ回路の構成はツェナーダイオードやダイオードなどの整流素子を利用したものに限定されず、ソースフォロア回路やエミッタフォロア回路で構成してもよい。
【0067】
実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示あるいは本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0068】
図7は、U相比較回路270Uの変形例を示す回路図である。この変形例は、中性点電圧VCOMが、電圧コンパレータ272の耐圧より高い場合に有用である。U相比較回路270Uは、電圧コンパレータ272に加えて、中性点分圧回路274、相電圧分圧回路276を備える。中性点分圧回路274は、中性点クランプ電圧VCOM’を分圧する。相電圧分圧回路276は、U相クランプ電圧V’を同じ分圧比で分圧する。電圧コンパレータ272は、分圧後の中性点クランプ電圧VCOM”と、分圧後のU相クランプ電圧V”を比較する。
【0069】
なお、中性点分圧回路274は、U相比較回路270U、V相比較回路270V、W相比較回路270Wで共有されており、分圧後の中性点クランプ電圧VCOM”は、V相比較回路270V、W相比較回路270Wの電圧コンパレータ272にも供給される。
【0070】
図7の構成の利点を、比較技術と対比して説明する。比較技術は、図7の構成から、U相クランプ回路250U、中性点クランプ回路260を省略した構成であり、相電圧U分圧回路276に、U相電圧Vが直接入力され、中性点分圧回路274に中性点電圧VCOMが直接入力される。
【0071】
いま、電圧コンパレータ272の耐圧を10V、三相インバータ回路110の電源電圧VCCを40Vであるとする。この場合、U相電圧Vの最大レベルは40V、中性点電圧VCOMは20V程度となる。比較技術では、40VのU相電圧Vを、10V以下に下げる必要があるため、分圧回路276の分圧比は1/4倍(もしくはそれ以下)とする必要がある。中性点分圧回路274の分圧比も同様であり、1/4倍とする必要がある。このとき、電圧コンパレータ272に入力される中性点電圧VCOM”は20V×1/4=5Vとなる。つまり比較技術では、5V近傍の2つの電圧VCOM”とV”を比較することとなる。
【0072】
これに対して、図7の構成では、相電圧U分圧回路276の入力であるU相クランプ電圧V’は、中性点電圧VCOMよりわずかに高い電圧レベルにクランプされるため、その最大レベルは、20V程度となる。したがって、図7の構成では、相電圧U分圧回路276によって、20VのU相クランプ電圧V’を、10V以下に下げればよいため、分圧回路276の分圧比は1/2倍(もしくはそれ以下)とすればよい。中性点分圧回路274の分圧比も同様であり、1/2倍とすればよい。このとき、電圧コンパレータ272に入力される中性点電圧VCOM”は20V×1/2=10Vとなる。つまり図7の構成では、10V近傍の2つの電圧VCOM”とV”を比較することとなる。
【0073】
電圧コンパレータ272は、入力オフセット電圧を有しており、入力電圧が小さいほど、入力オフセット電圧の影響が顕著となり、電圧比較の精度が低下する。図7の構成では、比較技術に比べて、入力電圧が2倍となるため、より正確な電圧比較が可能となる。
【0074】
図8は、U相逆起電力検出回路240Uの変形例を示す回路図である。この変形例において、第1抵抗R1は第1スイッチSW1と置換され、第2抵抗R2もしくは第3抵抗R3は、第2スイッチSW2と置換されている。第1スイッチSW1と第2スイッチSW2は、逆起電力の検出区間のみオンとなり、それ以外の区間はオフとされる。
【0075】
実施形態では、ブリッジ回路110がディスクリート部品で構成されたが、その限りでなく、ブリッジ回路110は駆動回路400に集積化されていてもよい。
【0076】
実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにさまざまな変形例が存在すること、またそうした変形例も本開示または本発明の範囲に含まれることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0077】
100 モータ回路
2 三相DCモータ
110 三相インバータ回路
112 インバータ回路
200 モータドライバ回路
210U U相ハイサイドプリドライバ
210V V相ハイサイドプリドライバ
210W W相ハイサイドプリドライバ
220U U相ローサイドプリドライバ
220V V相ローサイドプリドライバ
220W W相ローサイドプリドライバ
230 制御回路
240U U相逆起電力検出回路
240V V相逆起電力検出回路
240W W相逆起電力検出回路
250U U相クランプ回路
250V V相クランプ回路
250W W相クランプ回路
252 第2電圧クランプ回路
260 中性点クランプ回路
262 第1電圧クランプ回路
270U U相比較回路
270V V相比較回路
270W W相比較回路
272 電圧コンパレータ
274 中性点分圧回路
276 相電圧分圧回路
R1 第1抵抗
R2 第2抵抗
R3 第3抵抗
SW1 第1スイッチ
SW2 第2スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8