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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135300
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】警報提示装置及び警報提示方法
(51)【国際特許分類】
   G08B 21/06 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
G08B21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045923
(22)【出願日】2023-03-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年3月1日、鉄道総研報告 2023年3月号、第37巻、第3号、第29~35頁、“https://www.rtri.or.jp/publish/rtrirep/2023/rep23_03_J.html”、“https://www.rtri.or.jp/publish/rtrirep/2023/trgje60000001t1z-att/sh202303-all-protect.pdf.pdf”、及び、“https://bunken.rtri.or.jp/doc/fileDown.jsp?RairacID=0001004969”
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年11月25日、ヒューマンインタフェース学会論文誌、第24巻、第4号、第215~230頁、“https://www.jstage.jst.go.jp/browse/his/list/-char/ja”、“https://www.jstage.jst.go.jp/article/his/24/4/24_215/_article/-char/ja”、及び、“https://www.jstage.jst.go.jp/article/his/24/4/24_215/_pdf/-char/ja”
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000230696
【氏名又は名称】日本貨物鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】星野 慧
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 綾子
(72)【発明者】
【氏名】本田 真佐浩
(72)【発明者】
【氏名】原 威史
【テーマコード(参考)】
5C086
【Fターム(参考)】
5C086AA23
5C086BA22
5C086CA09
5C086DA19
5C086FA01
(57)【要約】
【課題】警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができる警報提示装置を提供する。
【解決手段】警報提示装置10は、警報音を決定する決定部13を有する。決定部13は、200~6300Hzの複数の第1周波数帯域で車内騒音の音圧レベルを表す第1値を算出する第1算出部21と、複数の第1周波数帯域で信号音と車内騒音との合成音の音圧レベルを表す第2値を算出し、200~1600Hzの複数の第2周波数帯域で第1値に対する第2値の比を表す第3値の第1総和値を算出し、2000~6300Hzの複数の第3周波数帯域で第3値の第2総和値を算出し、第1総和値に対する第2総和値の比率である第1比率を算出する、比率算出処理、を実行する第2算出部22と、を含む。決定部13は、信号音の音高をシフトしながら第1比率の算出を繰り返し、第1比率が一定の範囲内に含まれるときの信号音を警報音として決定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両に乗務している乗務員に、注意喚起するための警報音を含む警報を提示する警報提示装置において、
前記鉄道車両の車内騒音を集音する集音部と、
前記集音部により集音された前記車内騒音に基づいて、前記警報音を決定する決定部と、
前記決定部により決定された前記警報音を含む前記警報を、前記乗務員に提示する提示部と、
を有し、
前記決定部は、
前記集音部により集音された前記車内騒音をスペクトル解析することにより、200~6300Hzの範囲の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の第1周波数帯域の各々における前記車内騒音の音圧レベルを表す第1値を算出する第1算出部と、
500~2500Hzの範囲の周波数成分を有する第1音を有する信号音を生成し、
生成された前記信号音と、前記集音部により集音された前記車内騒音と、に基づいて、前記複数の第1周波数帯域の各々における、前記信号音と前記車内騒音とが合成された合成音の音圧レベルを表す第2値を算出し、
前記複数の第1周波数帯域の各々について、前記第2値から前記第1値を減じて得られる差分を表すか又は前記第1値に対する前記第2値の比を表す第3値を算出し、
前記複数の第1周波数帯域のうち、200~1600Hzの範囲の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の第1周波数帯域である、複数の第2周波数帯域についての複数の前記第3値の総和である第1総和値を算出し、
前記複数の第1周波数帯域のうち、2000~6300Hzの範囲の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の第1周波数帯域である、複数の第3周波数帯域についての複数の前記第3値の総和である第2総和値を算出し、
前記第1総和値に対する前記第2総和値の比率である第1比率を算出する、比率算出処理、を実行する第2算出部と、
を含み、
前記決定部は、前記第2算出部により生成される前記信号音の音高をシフトしながら、前記第2算出部による前記比率算出処理を繰り返して実行することにより、前記第1比率の算出を繰り返し、前記第1比率が一定の範囲内に含まれるときの前記信号音を、前記警報音として決定する、警報提示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の警報提示装置において、
前記第2算出部は、前記第1音及び複数の第2音を含む音列を表す前記信号音を生成し、
前記決定部は、前記第1音及び前記複数の第2音の各々の音高を互いに同じ方向に等しい音高差だけシフトしながら、前記第2算出部による前記比率算出処理を繰り返して実行することにより、前記第1比率の算出を繰り返し、前記第1比率が最大となるときの前記信号音を、前記警報音として決定する、警報提示装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の警報提示装置において、
前記第1算出部は、前記車内騒音の等価騒音レベルを表す第4値を算出し、
前記第2算出部は、前記信号音の等価騒音レベルを表す第5値が前記第1算出部により算出された前記第4値以下になるように、前記信号音を生成する、警報提示装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の警報提示装置において、
前記第2算出部は、2000~2500Hzの範囲の周波数成分を有する前記第1音を有する前記信号音を生成する、警報提示装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の警報提示装置において、
前記複数の第1周波数帯域は、前記複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の1/3オクターブバンドである、警報提示装置。
【請求項6】
請求項1に記載の警報提示装置において、
前記乗務員の覚醒レベルを表す第6値を検出する検出部を有し、
前記決定部は、前記検出部により検出された前記第6値が予め設定された第1閾値未満のとき、前記車内騒音に基づいて、前記警報音を決定し、
前記提示部は、前記第6値が前記第1閾値未満のとき、前記決定部により決定された前記警報音を含む前記警報を、前記乗務員に提示し、
前記決定部は、前記第1比率が、前記第6値に応じて設定される第2閾値よりも大きくなるときの前記信号音を、前記警報音として決定し、
前記第2閾値は、前記第6値が小さいほど大きくなるように設定される、警報提示装置。
【請求項7】
鉄道車両に乗務している乗務員に、注意喚起するための警報音を含む警報を、警報提示装置を用いて提示する警報提示方法において、
(a)前記鉄道車両の車内騒音を、集音部により集音するステップ、
(b)前記(a)ステップにて前記集音部により集音された前記車内騒音に基づいて、前記警報音を決定部により決定するステップ、
(c)前記(b)ステップにて前記決定部により決定された前記警報音を含む前記警報を、提示部により前記乗務員に提示するステップ、
を有し、
前記(b)ステップは、
(b1)前記(a)ステップにて前記集音部により集音された前記車内騒音を前記決定部に含まれる第1算出部によりスペクトル解析することにより、200~6300Hzの範囲の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の第1周波数帯域の各々における前記車内騒音の音圧レベルを表す第1値を前記第1算出部により算出するステップ、
(b2)500~2500Hzの範囲の周波数成分を有する第1音を有する信号音を、前記決定部に含まれる第2算出部により生成し、
前記第2算出部により生成された前記信号音と、前記(a)ステップにて前記集音部により集音された前記車内騒音と、に基づいて、前記複数の第1周波数帯域の各々における、前記信号音と前記車内騒音とが合成された合成音の音圧レベルを表す第2値を前記第2算出部により算出し、
前記複数の第1周波数帯域の各々について、前記第2値から前記第1値を減じて得られる差分を表すか又は前記第1値に対する前記第2値の比を表す第3値を前記第2算出部により算出し、
前記複数の第1周波数帯域のうち、200~1600Hzの範囲の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の第1周波数帯域である、複数の第2周波数帯域についての複数の前記第3値の総和である第1総和値を前記第2算出部により算出し、
前記複数の第1周波数帯域のうち、2000~6300Hzの範囲の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の第1周波数帯域である、複数の第3周波数帯域についての複数の前記第3値の総和である第2総和値を前記第2算出部により算出し、
前記第1総和値に対する前記第2総和値の比率である第1比率を前記第2算出部により算出するステップ、
を含み、
前記(b)ステップでは、前記第2算出部により生成される前記信号音の音高をシフトしながら、前記(b2)ステップを繰り返して実行することにより、前記第2算出部による前記第1比率の算出を繰り返し、前記第1比率が一定の範囲内に含まれるときの前記信号音を、前記決定部により前記警報音として決定する、警報提示方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に乗務している乗務員に、注意喚起するための警報音を含む警報を提示する警報提示装置及び警報提示方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主に自動車を運転している運転者に対して注意喚起するための警報を提示する警報提示装置として、走行音等による車内騒音又は運転者の眠気若しくは心身の状態に応じて異なる警報を提示する警報提示装置が知られている。
【0003】
実開平3-67236号公報(特許文献1)には、車両の警報装置において、車両の警報条件を判定する回路と、マイクと、マイクから車両の騒音レベルを検出する回路と、警報条件が満たされたとき所定の音響信号に対応する電気信号を発生すると共に騒音レベルにマスキングされない高周波側へシフトする周波数可変発振回路と、周波数可変発振回路の出力信号を増幅して音響出力装置に与える回路と、を備えた技術が開示されている。
【0004】
また、特開平7-244787号公報(特許文献2)には、車両用警報装置において、車両周囲環境の認識結果に応じて報知すべき警報を制御する警報制御手段と、運転者の生理状態の変化の内、警報発生手段で発生された警報に基づく生理状態の変化を抽出する生理状態変化抽出手段と、を有し、警報制御手段は生理状態変化抽出手段で抽出された生理状態の変化に基づき警報を制御する技術が開示されている。
【0005】
また、特開平8-279090号公報(特許文献3)には、警報音の信号を生成する警報音生成手段と、この警報音の信号を音波に変換する音波変換手段とを有する警報音発生装置において、周辺音を検出する音検出手段と、周辺音のうち、警報音の周波数帯域成分を抽出する抽出手段と、周波数帯域成分の信号により警報音の発生レベルを調整するレベル調整手段とを具備する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平3-67236号公報
【特許文献2】特開平7-244787号公報
【特許文献3】特開平8-279090号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ISO 7731:2003, “Ergonomics - Danger signals for public and work areas - Auditory danger signals”
【非特許文献2】ISO 226:2003, “Acoustics - Normal equal-loudness-level contours”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鉄道車両に乗務している乗務員に警報を提示する警報提示方法では、警報として、一定の音圧及び周波数成分を有する警報音を提示する場合、鉄道車両の走行音が小さいときは警報音が大きく感じられる一方で、走行音が大きいときは警報音が知覚されにくく、警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができない。また、鉄道車両の走行音が有する音圧又は周波数成分は、自動車の車内の車内騒音が有する音圧又は周波数成分に比べて大きく変動するので、上記特許文献1乃至上記特許文献3に記載された技術等を用いて、鉄道車両に乗務している運転士等の乗務員に対して警報を提示する場合には、自動車を運転している運転者に対して警報を提示する場合に比べ、警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができないおそれがある。
【0009】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、鉄道車両に乗務している乗務員に、注意喚起するための警報音を含む警報を提示する警報提示装置において、鉄道車両の走行音が有する音圧又は周波数成分が鉄道車両の走行条件によって大きく変動した場合でも、警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができる警報提示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
本発明の一態様としての警報提示装置は、鉄道車両に乗務している乗務員に、注意喚起するための警報音を含む警報を提示する警報提示装置である。当該警報提示装置は、鉄道車両の車内騒音を集音する集音部と、集音部により集音された車内騒音に基づいて、警報音を決定する決定部と、決定部により決定された警報音を含む警報を、乗務員に提示する提示部と、を有する。決定部は、集音部により集音された車内騒音をスペクトル解析することにより、200~6300Hzの範囲の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の第1周波数帯域の各々における車内騒音の音圧レベルを表す第1値を算出する第1算出部を含む。また、決定部は、500~2500Hzの範囲の周波数成分を有する第1音を有する信号音を生成し、生成された信号音と、集音部により集音された車内騒音と、に基づいて、複数の第1周波数帯域の各々における、信号音と車内騒音とが合成された合成音の音圧レベルを表す第2値を算出し、複数の第1周波数帯域の各々について、第2値から第1値を減じて得られる差分を表すか又は第1値に対する第2値の比を表す第3値を算出し、複数の第1周波数帯域のうち、200~1600Hzの範囲の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の第1周波数帯域である、複数の第2周波数帯域についての複数の第3値の総和である第1総和値を算出し、複数の第1周波数帯域のうち、2000~6300Hzの範囲の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の第1周波数帯域である、複数の第3周波数帯域についての複数の第3値の総和である第2総和値を算出し、第1総和値に対する第2総和値の比率である第1比率を算出する、比率算出処理、を実行する第2算出部を含む。また、決定部は、第2算出部により生成される信号音の音高をシフトしながら、第2算出部による比率算出処理を繰り返して実行することにより、第1比率の算出を繰り返し、第1比率が一定の範囲内に含まれるときの信号音を、警報音として決定する。
【0012】
また、他の一態様として、第2算出部は、第1音及び複数の第2音を含む音列を表す信号音を生成し、決定部は、第1音及び複数の第2音の各々の音高を互いに同じ方向に等しい音高差だけシフトしながら、第2算出部による比率算出処理を繰り返して実行することにより、第1比率の算出を繰り返し、第1比率が最大となるときの信号音を、警報音として決定してもよい。
【0013】
また、他の一態様として、第1算出部は、車内騒音の等価騒音レベルを表す第4値を算出し、第2算出部は、信号音の等価騒音レベルを表す第5値が第1算出部により算出された第4値以下になるように、信号音を生成してもよい。
【0014】
また、他の一態様として、第2算出部は、2000~2500Hzの範囲の周波数成分を有する第1音を有する信号音を生成してもよい。
【0015】
また、他の一態様として、複数の第1周波数帯域は、複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の1/3オクターブバンドであってもよい。
【0016】
また、他の一態様として、当該警報提示装置は、乗務員の覚醒レベルを表す第6値を検出する検出部を有してもよい。決定部は、検出部により検出された第6値が予め設定された第1閾値未満のとき、車内騒音に基づいて、警報音を決定し、提示部は、第6値が第1閾値未満のとき、決定部により決定された警報音を含む警報を、乗務員に提示し、決定部は、第1比率が、第6値に応じて設定される第2閾値よりも大きくなるときの信号音を、警報音として決定し、第2閾値は、第6値が小さいほど大きくなるように設定されてもよい。
【0017】
本発明の一態様としての警報提示方法は、鉄道車両に乗務している乗務員に、注意喚起するための警報音を含む警報を、警報提示装置を用いて提示する警報提示方法である。当該警報提示方法は、鉄道車両の車内騒音を、集音部により集音する(a)ステップと、(a)ステップにて集音部により集音された車内騒音に基づいて、警報音を決定部により決定する(b)ステップと、(b)ステップにて決定部により決定された警報音を含む警報を、提示部により乗務員に提示する(c)ステップと、を有する。(b)ステップは、(a)ステップにて集音部により集音された車内騒音を決定部に含まれる第1算出部によりスペクトル解析することにより、200~6300Hzの範囲の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の第1周波数帯域の各々における車内騒音の音圧レベルを表す第1値を第1算出部により算出する(b1)ステップを含む。また、(b)ステップは、500~2500Hzの範囲の周波数成分を有する第1音を有する信号音を、決定部に含まれる第2算出部により生成し、第2算出部により生成された信号音と、(a)ステップにて集音部により集音された車内騒音と、に基づいて、複数の第1周波数帯域の各々における、信号音と車内騒音とが合成された合成音の音圧レベルを表す第2値を第2算出部により算出し、複数の第1周波数帯域の各々について、第2値から第1値を減じて得られる差分を表すか又は第1値に対する第2値の比を表す第3値を第2算出部により算出し、複数の第1周波数帯域のうち、200~1600Hzの範囲の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の第1周波数帯域である、複数の第2周波数帯域についての複数の第3値の総和である第1総和値を第2算出部により算出し、複数の第1周波数帯域のうち、2000~6300Hzの範囲の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の第1周波数帯域である、複数の第3周波数帯域についての複数の第3値の総和である第2総和値を第2算出部により算出し、第1総和値に対する第2総和値の比率である第1比率を第2算出部により算出する(b2)ステップを含む。また、(b)ステップでは、第2算出部により生成される信号音の音高をシフトしながら、(b2)ステップを繰り返して実行することにより、第2算出部による第1比率の算出を繰り返し、第1比率が一定の範囲内に含まれるときの信号音を、決定部により警報音として決定する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様を適用することで、鉄道車両に乗務している乗務員に、注意喚起するための警報音を含む警報を提示する警報提示装置において、鉄道車両の走行音が有する音圧又は周波数成分が鉄道車両の走行条件によって大きく変動した場合でも、警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態の警報提示装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態の警報提示方法の一部のステップを示すフロー図である。
図3】実施の形態の警報提示方法の一部のステップを示すフロー図である。
図4】警報音として使用する信号音の音型の一例を示す楽譜である。
図5】車内騒音及び信号音の音圧の周波数分布の一例を示すグラフである。
図6】車内騒音及び信号音の音圧の周波数分布の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の各実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実施の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0022】
また本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0023】
更に、実施の形態で用いる図面においては、断面図であっても図面を見やすくするためにハッチング(網掛け)を省略する場合もある。また、平面図であっても図面を見やすくするためにハッチングを付す場合もある。
【0024】
なお、以下の実施の形態においてA~Bとして範囲を示す場合には、特に明示した場合を除き、A以上B以下を示すものとする。
【0025】
(実施の形態)
<警報提示装置による警報提示方法>
初めに、図1乃至図6を参照し、実施の形態の警報提示装置による警報提示方法について説明する。本実施の形態の警報提示装置は、鉄道車両に乗務している乗務員に、注意喚起するための警報音を含む警報を提示する警報提示装置である。また、本実施の形態の警報提示方法は、本実施の形態の警報提示装置による警報提示方法であり、鉄道車両に乗務している乗務員に、注意喚起するための警報音を含む警報を、警報提示装置を用いて提示する警報提示方法である。なお、本実施の警報提示装置を用いて警報を提示する乗務員としては、運転士又は車掌等が例示される。
【0026】
図1は、実施の形態の警報提示装置の構成を示すブロック図である。図2及び図3は、実施の形態の警報提示方法の一部のステップを示すフロー図である。図1では、実施の形態の警報提示装置によって警報が提示される警報対象者である、例えば運転士としての乗務員Mを示している。
【0027】
図4は、警報音として使用する信号音の音型の一例を示す楽譜である。図4(a)は、信号音SG11(高音)の音型を示し、図4(b)は、信号音SG12(低音)の音型を示している。
【0028】
図5及び図6は、車内騒音及び信号音の音圧の周波数分布の一例を示すグラフである。図5(a)は、車内騒音NS1の音圧の周波数分布、及び、信号音SG11(高音)の音圧の周波数分布を示し、図5(b)は、車内騒音NS1の音圧の周波数分布、及び、信号音SG11(高音)と車内騒音NS1との合成音SY11の音圧の周波数分布を示している。図6(a)は、車内騒音NS1の音圧の周波数分布、信号音SG11(高音)の音圧の周波数分布、及び、信号音SG12(低音)の音圧の周波数分布を示し、図6(b)は、車内騒音NS1の音圧の周波数分布、信号音SG11(高音)と車内騒音NS1との合成音SY11の音圧の周波数分布、及び、信号音SG12(低音)と車内騒音NS1との合成音SY12の音圧の周波数分布を示している。図5(a)、図5(b)、図6(a)及び図6(b)の横軸は、1/3オクターブバンドの中心周波数を示し、図5(a)、図5(b)、図6(a)及び図6(b)の縦軸は、音圧レベルを示している。即ち、図5(a)、図5(b)、図6(a)及び図6(b)は、1/3オクターブ分析を行った場合を示している。
【0029】
図1乃至図3に示すように、また、前述したように、本実施の形態の警報提示装置10は、鉄道車両に乗務している乗務員Mに、注意喚起するための警報音を含む警報を提示する警報提示装置である。また、本実施の形態の警報提示装置10は、検出部11と、集音部12と、決定部13と、提示部14と、を有する。検出部11は、乗務員の覚醒レベルを表す覚醒レベル値を検出する。集音部12は、例えばマイク12aと接続され、鉄道車両の車内騒音をマイク12aにより集音する。決定部13は、検出部11により検出された覚醒レベル値が予め設定された第1閾値未満のとき、集音部12により集音された車内騒音に基づいて、警報音を決定する。提示部14は、例えばスピーカ14aと接続され、覚醒レベル値が第1閾値未満のとき、決定部13により決定された警報音を含む警報を、スピーカ14aにより乗務員Mに提示する。検出部11が覚醒レベル値を検出する具体的な方法については、後述する。
【0030】
本実施の形態の警報提示装置10として、鉄道車両の内部又は外部に設置されたコンピュータ15を用いることができ、このような場合、検出部11、集音部12、決定部13及び提示部14の各々として、コンピュータ15を用いることができる。或いは、集音部12は、例えば警報提示装置10の外部でマイク12aと一体的に設置されてもよい。
【0031】
決定部13は、第1算出部21と、第2算出部22と、を含む。第1算出部21は、集音部12により集音された車内騒音NS1(図5(a)参照)をスペクトル解析することにより、200~6300Hzの範囲RG1(図5(a)参照)の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の周波数帯域FB1(図5(a)参照)の各々における車内騒音の音圧レベルを表す値VL1(図5(a)参照)を算出する。
【0032】
第2算出部22は、500~2500Hzの範囲RG2(図5(a)参照)の周波数成分を有する第1音を有する信号音SG1(図5(a)参照)を生成し、生成された信号音SG1と、集音部12により集音された車内騒音NS1(図5(a)参照)と、に基づいて、複数の周波数帯域FB1(図5(a)参照)の各々における、信号音SG1と車内騒音NS1とが合成された合成音SY1(図5(b)参照)の音圧レベルを表す値VL2(図5(b)参照)を算出し、複数の周波数帯域FB1の各々について、値VL2から値VL1(図5(b)参照)を減じて得られる差分を表すか又は値VL1に対する値VL2の比を表す値VL3(図5(b)参照)を算出し、複数の周波数帯域FB1(図5(b)参照)のうち、200~1600Hzの範囲RG3(図5(a)参照)の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の周波数帯域FB1である、複数の周波数帯域FB2(図5(b)参照)についての複数の値VL3の総和である総和値TT1(図5(b)参照)を算出し、複数の周波数帯域FB1のうち、2000~6300Hzの範囲RG4(図5(a)参照)の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の周波数帯域FB1である、複数の周波数帯域FB3(図5(b)参照)についての複数の値VL3の総和である総和値TT2(図5(b)参照)を算出し、総和値TT1に対する総和値TT2の比率である比率Iを算出する、比率算出処理、を実行する。
【0033】
決定部13は、第2算出部22により生成される信号音SG1(図5(a)参照)の音高をシフトしながら、第2算出部22による比率算出処理を繰り返して実行することにより、比率Iの算出を繰り返し、比率Iが一定の範囲内に含まれるときの信号音SG1を、警報音として決定する。
【0034】
なお、本実施の形態の警報提示装置10として、検出部11を有するものを例示して説明した。しかしながら、例えば警報提示装置10とは異なる検出装置であって、乗務員Mの覚醒レベルを表す覚醒レベル値を検出する検出装置を用いる場合には、警報提示装置10は、検出部11を有しなくてもよい。
【0035】
本実施の形態の警報提示装置10として用いられるコンピュータ15は、中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)、RAM(Random Access Memory)、記憶部、データ・指令入力部、画像表示部及び出力部等により構成されている。
【0036】
CPUは、図示は省略するが、各種データに対して、四則演算(加算、減算、乗算及び除算)、論理演算(論理積、論理和、否定及び排他的論理和等)、又は、データ比較、若しくはデータシフト等の処理を実行する部分である。なお、記憶部は、図示は省略するが、ハードディスク装置(Hard Disk Drive:HDD)、又は、ROM(Read Only Memory)等を有しており、CPUを制御するための制御プログラム、及び、CPUが用いる各種データ等を格納している部分である。また、ROMは、一般に、半導体チップ等により構成される。
【0037】
また、本実施の形態の警報提示装置10として用いられるコンピュータ15は、以下に説明する道床形状測定方法の各ステップの動作及び処理を行うためのプログラムを実行するものである。
【0038】
本実施の形態の警報提示装置10による警報提示方法では、まず、乗務員Mの覚醒レベルを表す覚醒レベル値を、検出部11により検出する(図2のステップS11)。このステップS11では、言い換えれば、覚醒レベルの低下を検知する(図3のステップS31)。
【0039】
ステップS11にて検出部11により検出された覚醒レベル値が予め設定された第1閾値未満のとき、例えば乗務員室内の車内騒音等の鉄道車両の車内騒音NS1を、集音部12により集音する(図2のステップS12)。このステップS12では、言い換えれば、ステップS31にて、覚醒レベルが低下していることが検出されたとき、車内騒音を計測する(図3のステップS32)。
【0040】
次に、ステップS11にて検出部11により検出された覚醒レベル値が予め設定された第1閾値未満のとき、ステップS21にて集音部12により集音された車内騒音NS1に基づいて、警報音を決定部13(図1参照)により決定する(図2のステップS13)。このステップS13では、言い換えれば、車内騒音NS1に応じて警報音を決定する(図3のステップS33)。
【0041】
ステップS13では、まず、ステップS12にて集音部12により集音された車内騒音NS1を決定部13に含まれる第1算出部21によりスペクトル解析することにより、200~6300Hzの範囲RG1(図5(a)参照)の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の周波数帯域FB1(図5(a)参照)の各々における車内騒音NS1の音圧レベルを表す値VL1を第1算出部21により算出する(図2のステップS21)。
【0042】
このステップS21では、例えば、ステップS32で計測された車内騒音NS1に対して、スペクトル解析として1/3オクターブ分析を行い、200~6300Hzの範囲の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の1/3オクターブバンドの各々における車内騒音NS1の音圧レベルを表す値VL1を第1算出部21により算出する(図3のステップS34)。
【0043】
また、ステップS21では、例えば、ステップS32で計測された車内騒音の等価騒音レベルを表す値A(dB)を算出する(図3のステップS35)。なお、ステップS21では、等価騒音レベルを表す値Aを算出しないようにすることもできる。
【0044】
スペクトル解析即ち周波数分析として、定幅分析であるフーリエ分析、又は、定比幅分析であるオクターブ分析(オクターブバンド分析)を用いることができ、オクターブ分析として、1/1オクターブ分析又は1/3オクターブ分析を用いることができる。このうち、騒音等の音の分析を行う音響分野では、1/1オクターブ分析又は1/3オクターブ分析が一般的に用いられており、本実施の形態でも、1/3オクターブ分析を用いることができる。また、1/3オクターブ分析を行う場合、200~6300Hzの範囲の中心周波数を、例えば200Hz、250Hz、316Hz、400Hz、500Hz、630Hz、800Hz、1000Hz、1250Hz、1600Hz、2000Hz、2500Hz、3160Hz、4000Hz、5000Hz、6300Hzとすることができる。ステップS34即ちステップS21にて1/3オクターブ分析された車内騒音NS1の音圧の周波数分布(周波数依存性)の一例を、図5(a)の「車内騒音NS1」に示す。
【0045】
なお、200~6300Hzの範囲RG1(図5(a)参照)は、後述する信号音の500~2500Hzの範囲RG2(図5(a)参照)、帯域1の200~1600Hzの範囲RG3(図5(a)参照)、及び、帯域2の2000~6300Hzの範囲RG4(図5(a)参照)を含むものである。
【0046】
ステップS13では、次に、500~2500Hzの範囲RG2(図5(a)参照)の周波数成分を有する第1音の音高を設定し、音高が設定された第1音を有する信号音SG1を、決定部13に含まれる第2算出部22により生成する(図2のステップS22)。信号音SG1として、少なくとも一つの音を有する信号音SG1を生成すればよいが、後述するように、好適には、複数の音を含む音列を表す信号音SG1を生成することができる。また、信号音が複数の音を含む音列を表す場合の信号音SG1としての信号音SG11の音型の一例を、図4(a)に示す。
【0047】
ISO7731(非特許文献1)では、警報音に500~2500Hzの範囲の周波数成分を有することが推奨されている。そのため、信号音が500~2500Hzの範囲の周波数成分を有する第1音を有することにより、国際標準化機構により推奨されている周波数成分を有する信号音を警報音として用いることができる。
【0048】
即ち、ステップS22では、500~2500Hzの推奨される周波数範囲の周波数が含まれる信号音を生成することになる。
【0049】
また、ステップS22では、例えば、信号音SG1の等価騒音レベルを表す値A(dB)が、第1算出部21により算出された車内騒音NS1の等価騒音レベルを表す値A(dB)と同程度になるように、信号音SG1を生成する(図3のステップS36)。なお、等価騒音レベルについては、後述する。
【0050】
ステップS13では、次に、ステップS22にて第2算出部22により生成された信号音SG1と、ステップS12にて集音部12により集音された車内騒音NS1と、に基づいて、複数の周波数帯域FB1(図5(b)参照)の各々における、信号音SG1と車内騒音NS1とが合成された合成音SY1の音圧レベルを表す値VL2を算出する(図2のステップS23)。
【0051】
このステップS23では、ステップS22にて第2算出部22により生成された信号音SG1をスペクトル解析することにより、複数の周波数帯域FB1(図5(a)参照)の各々における信号音SG1の音圧レベルを表す値VL21(図5(a)参照)を算出し、算出された値VL21及び値VL1に基づいて、複数の周波数帯域FB1(図5(b)参照)の各々における、集音部12により集音された車内騒音NS1と信号音SG1とが合成された合成音SY1の音圧レベルを表す値VL2を算出する。
【0052】
或いは、ステップS23では、ステップS22にて第2算出部22により生成された信号音SG1と、ステップS12にて集音部12により集音された車内騒音NS1と、が合成された合成音SY1を生成し、生成された合成音SY1をスペクトル解析することにより、複数の周波数帯域FB1(図5(b)参照)の各々における合成音SY1の音圧レベルを表す値VL2を算出する。
【0053】
このステップS23では、例えば、ステップS36で生成された信号音SG1に対して、スペクトル解析として1/3オクターブ分析を行う(図3のステップS37)。ステップS37即ちステップS23にて1/3オクターブ分析された信号音SG1としての信号音SG11の音圧の周波数分布(周波数依存性)の一例を、図5(a)の「信号音SG11」に示す。
【0054】
また、例えば、200~6300Hzの範囲RG1(図5(a)参照)の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の1/3オクターブバンドの各々において、信号音SG1の音圧レベルと、車内騒音NS1の音圧レベルと、が加算又は合成された音圧レベルを表す合成値である値VL2を算出する(図3のステップS38)。ステップS38即ちステップS23にて1/3オクターブ分析された合成音SY1の音圧の周波数分布(周波数依存性)の一例を、図5(b)の「信号音SG11+車内騒音NS1」に示す。
【0055】
ここで、合成音の音圧レベルを表す合成値を算出する方法は、特に限定されないものの、例えば1/3オクターブバンドにおける合成音の音圧レベルL(x)が以下の式(1)により算出されることにより、合成値を算出することができる。
【0056】
【数1】
【0057】
上記式(1)において、xは1/3オクターブバンドの中心周波数であり、G(x)は中心周波数xを有する1/3オクターブバンドにおける信号音SG1の音圧レベルであり、H(x)は中心周波数xを有する1/3オクターブバンドにおける車内騒音NS1の音圧レベルである。また、L(x)は、中心周波数xを有する1/3オクターブバンドにおける合成音の音圧レベルである。
【0058】
即ち、ステップS23では、計測した車内騒音NS1と信号音SG1とを合成し、上記式(1)においてL(x)で表される周波数帯域ごとの音圧を算出することになる。
【0059】
ステップS13では、次に、複数の周波数帯域FB1(図5(b)参照)の各々について、値VL2から値VL1を減じて得られる差分を表すか又は値VL1に対する値VL2の比を表す値VL3を第2算出部22により算出する(図3のステップS24)。また、ステップS24では、複数の周波数帯域FB1のうち、200~1600Hzの範囲RG3の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の周波数帯域FB1である、複数の周波数帯域FB2(図5(b)参照)についての複数の値VL3の総和である総和値TT1を第2算出部22により算出する。また、ステップS24では、複数の周波数帯域FB1のうち、2000~6300Hzの範囲RG4の互いに異なる複数の中心周波数の各々をそれぞれ有する複数の周波数帯域FB1である、複数の周波数帯域FB3(図5(b)参照)についての複数の値VL3の総和である総和値TT2を第2算出部22により算出する。
【0060】
総和値TT1を算出する方法は、特に限定されないものの、例えば以下の式(2)により総和値TT1としてのf帯域1を算出することができる。
【0061】
【数2】
【0062】
帯域1を算出する場合、上記式(2)において、nは1であり、aは中心周波数の下限即ち200であり、bは中心周波数の上限即ち1600である。
【0063】
また、総和値TT2を算出する方法は、特に限定されないものの、例えば上記式(2)により総和値TT2としてのf帯域2を算出することができる。
【0064】
帯域2を算出する場合、上記式(2)において、nは2であり、aは中心周波数の下限即ち2000であり、bは中心周波数の上限即ち6300である。
【0065】
このように、ステップS24では、2つの帯域である帯域1(範囲RG3)及び帯域2(範囲RG4)において上記式(2)でそれぞれ表される2つのfをそれぞれ算出する(図3のステップS39)。即ち、ステップS24では、算出した音圧から車内騒音単体の音圧を、帯域1(200~1600Hz)と帯域2(2000~6300Hz)ごとに減算して合計した値であるfを算出することになる。
【0066】
ISO226(非特許文献2)に記載された等ラウドネス曲線によれば、人の聴覚は2000~4000Hzで聞こえがよい。図示は省略するものの、等ラウドネス曲線とは、1000Hzの純音を基準としたときに、基準と同じ大きさに聞こえる他の周波数の音のレベルを示す曲線であり、曲線が下方にあり谷の部分では、1000Hzの音圧よりも小さい音圧レベルにも関わらず1000Hzと同じ大きさに聴こえることから、聴覚特性が良いことを示す。即ち、車内騒音下で聞き取りやすい音は2000~4000Hzの範囲の周波数成分である。そのため、200~6300Hzの範囲を、人が相対的に聞き取りにくい200~1600Hzの範囲と、人が相対的に聞き取りやすい2000~6300Hzの範囲とに分割し、それぞれの範囲で、車内騒音と合成音との音量差又は音量比を積算することにより、信号音の車内騒音に対する聞き取りやすさを、定量的に評価することができる。
【0067】
ステップS13では、次に、総和値TT1に対する総和値TT2の比率である比率Iを第2算出部22により算出する(図3のステップS25)。
【0068】
このステップS25では、比率Iを、例えば以下の式(3)により算出することができる。
【0069】
【数3】
【0070】
このように、ステップS25では、帯域1(範囲RG3)と帯域2(範囲RG4)との比となるIを算出する(図3のステップS40)。即ちステップS25では、帯域1の総和値TT1と帯域2の総和値TT2との比率であるIを算出することになる。
【0071】
ステップS13では、第2算出部22により生成される信号音SG1の音高をシフトしながら、ステップS22からステップS25までの比率算出処理を繰り返して実行することにより、第2算出部22による比率Iの算出を繰り返し、比率Iが一定の範囲内に含まれるときの信号音SG1を、決定部13により警報音として決定する(図2のステップS26)。図6(a)では、信号音SG1として、信号音SG11及び信号音SG12を示し、図6(b)では、合成音SY1として、信号音SG11と車内騒音NS1との合成音SY11、及び、信号音SG12と車内騒音NS1との合成音SY12を示している。なお、音列を表す信号音SG1の音高をシフトして信号音SG1が決定される方法については、後述する。
【0072】
ステップS26では、好適には、比率IがI>1を満たすか、又は、比率IがIの最大値Imaxとなるときの信号音SG1を、警報音として決定する。IがI>1を満たす場合には、帯域2の総和値TT2を少なくとも帯域1の総和値TT1よりも大きくすることができる信号音SG1を警報音として用いることができる。また、IがIの最大値Imaxとなるときは、確実に最適化された信号音SG1を警報音として用いることができる。
【0073】
ステップS33即ちステップS13にて比率算出処理を繰り返したときにステップS22にて第2算出部22により生成された信号音SG1の音型の一例を、図4(a)及び図4(b)に示す。ステップS33即ちステップS13にて比率算出処理を繰り返したときに1/3オクターブ分析された信号音SG1の音圧の周波数分布(周波数依存性)を、図6(a)の「信号音SG11」及び「信号音SG12」に示す。ステップS33即ちステップS13にて比率算出処理を繰り返したときに1/3オクターブ分析された合成音SY1の音圧の周波数分布(周波数依存性)を、図6(b)の「信号音SG11+車内騒音NS1」及び「信号音SG12+車内騒音NS1」に示す。なお、図4(a)及び図4(b)に示す音型を有する信号音SG11及び信号音SG12を用いたときの、1/3オクターブ分析された信号音SG1及び合成音SY1の音圧の周波数分布の詳細については、後述する。
【0074】
このステップS26では、例えば比率Iが1よりも大きくなるとき、又は、比率Iが最大値Imaxとなるときの信号音SG1を、警報音として決定する。即ち、ステップS26では、帯域1の総和値TT1と帯域2の総和値TT2との比率Iから警報音を決定する。
【0075】
このようにしてステップS13が実行された場合であって、検出部11により検出された覚醒レベル値が予め設定された第1閾値未満のとき、ステップS13にて決定部13により決定された警報音を含む警報を、提示部14により乗務員Mに提示する(図2のステップS14)。このステップS14では、言い換えれば、警報音を出力する。
【0076】
なお、本実施の形態の警報提示装置による警報提示方法として、覚醒レベル値を検出するステップであるステップS11を有するものを例示して説明した。しかしながら、例えば警報提示装置とは異なる検出装置であって、乗務員Mの覚醒レベルを表す覚醒レベル値を検出する検出装置を用いる場合には、本実施の形態の警報提示装置による警報提示方法は、ステップS11を有しなくてもよい。
【0077】
このように、本実施の形態の警報提示装置による警報提示方法では、200~6300Hzの複数の周波数帯域FB1で車内騒音NS1の音圧レベルを表す値VL1を算出し、複数の周波数帯域FB1で信号音SG1と車内騒音NS1との合成音の音圧レベルを表す値VL2を算出し、200~1600Hzの複数の周波数帯域FB2で値VL1に対する値VL2の比を表す値VL3の総和値TT1を算出し、2000~6300Hzの複数の周波数帯域FB3で値VL3の総和値TT2を算出し、総和値TT1に対する総和値TT2の比率である比率Iを算出する、比率算出処理を、信号音SG1の音高をシフトしながら繰り返し、比率Iが一定の範囲内に含まれるときの信号音SG1を警報音として決定する。
【0078】
ここで、鉄道車両に乗務している乗務員に、注意喚起するための警報音を含む警報を提示する際の問題点について説明する。
【0079】
鉄道車両の乗務員室内では鉄道車両の走行音が主要な車内騒音となるものの、従来の鉄道車両に乗務している乗務員に警報を提示する警報提示方法では、警報として、一定の音圧及び周波数成分を有する警報音を提示している。このような場合、例えば走行音が小さい場合には、警報音が大きく感じられることで、目的以上の過度の警報感が伝達されてしまう。一方、走行音が大きい場合には、警報音が知覚されにくく、適切な警報感が伝達されない。更に、走行音と同程度の音高を有する警報音を提示する場合には、適切な警報感が伝達されるためには大きな音圧で警報音を提示する必要があり、消費電力及び身体に及ぼす負荷が大きい。そのため、警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができない。
【0080】
また、鉄道車両の走行音が有する音圧又は周波数成分は、鉄道車両の種類若しくは速度、路線の状態、窓開け有無又はトンネル内外等の各種の鉄道車両の走行条件によって、大きく変動する。そのため、鉄道車両の乗務員室内の車内騒音が有する音圧又は周波数成分は、自動車の車内の車内騒音が有する音圧又は周波数成分に比べても、大きく変動する。従って、上記特許文献1乃至上記特許文献3に記載された技術等において、走行音等による車内騒音又は運転者の眠気若しくは心身の状態に応じて異なる警報を提示する警報提示装置を用いて、鉄道車両に乗務している運転士等の乗務員に対して警報を提示する場合には、自動車を運転している運転者に対して警報を提示する場合に比べ、警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができないおそれがある。
【0081】
上記特許文献1に記載された技術では、周波数可変発振回路は、音声合成回路が発生した音声合成信号をFFT回路で時間領域から周波数組成の信号に変換し、騒音レベルに対応して変更されたパワースペクトル定数に基づいてFFT回路の出力周波数領域を高周波側にシフトし、シフトした周波数信号を逆FFT回路で時間領域信号に戻しD/A変換回路でアナログ音声信号として出力する。そのため、警報音を出力する際の信号処理が複雑になる。また、鉄道車両の走行条件によって鉄道車両の走行音が大きく変動した場合には、警報音の周波数帯域が高くなりすぎる等、警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができない。
【0082】
上記特許文献2に記載された技術では、騒音が運転者に与える生理状態の変化に着目し、運転者の生理状態の変化に基づき警報を調整するものの、そもそも車両内外の騒音などに基づき警報の音圧等を制御するものではなく、騒音そのものを用いて警報のレベルを変化させるものではない。そのため、報知される警報の音圧レベルが鉄道車両の走行音に応じたものとならない。また、鉄道車両の走行条件によって鉄道車両の走行音が大きく変動した場合でも、運転者の生理状態が変動しなかったときは、警報音が知覚されにくく、適切な警報感が伝達されない等、警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができない。
【0083】
上記特許文献3に記載された技術では、マイクロホンはスピーカより発せられた警報音を含む周囲騒音を採取し、周囲騒音から警報信号を減算した減算結果に基づき、周囲騒音のうち警報音の成分を除いたものから、警報音の周波数帯域成分のみが抽出され、更に波形成形されたものを基準信号とすることにより、警報音のゲイン(音圧)設定が行われる。そのため、周囲騒音に応じて警報音の音圧を調整するものの、周囲騒音に応じて警報音の周波数帯域を変更するものではない。また、鉄道車両の走行条件によって鉄道車両の走行音の周波数帯域が大きく変動した場合には、警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができない。
【0084】
一方、本実施の形態の警報提示装置による警報提示方法によれば、200~6300Hzの複数の周波数帯域FB1で車内騒音NS1の音圧レベルを表す値VL1を算出し、複数の周波数帯域FB1で信号音SG1と車内騒音NS1との合成音の音圧レベルを表す値VL2を算出し、200~1600Hzの複数の周波数帯域FB2で値VL1に対する値VL2の比を表す値VL3の総和値TT1を算出し、2000~6300Hzの複数の周波数帯域FB3で値VL3の総和値TT2を算出し、総和値TT1に対する総和値TT2の比率である比率Iを算出する、比率算出処理を、信号音SG1の音高をシフトしながら繰り返し、比率Iが一定の範囲内に含まれるときの信号音SG1を警報音として決定する。
【0085】
このような場合、走行音が小さいときには、警報音の音圧を小さくしつつ適切な警報音を決定することができる。そのため、警報音が大きく感じられることで、目的以上の過度の警報感が伝達されてしまうことを防止又は抑制することができる。また、走行音が大きいときには、警報音を知覚されやすくし、適切な警報感が伝達されるようにすることができる。更に、走行音よりも少し高い音高を有する警報音を提示することになるので、適切な警報感が伝達されるために大きな音圧で警報音を提示する必要がなく、消費電力及び身体に及ぼす負荷が大きくなることを防止又は抑制することができる。そのため、警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができる。
【0086】
本実施の形態の警報提示装置による警報提示方法では、周波数信号を逆FFT回路で時間領域信号に戻すものではないので、上記特許文献1に記載された技術に比べ、警報音を出力する際の信号処理が複雑にならない。また、鉄道車両の走行条件によって鉄道車両の走行音が大きく変動した場合でも、警報音の周波数帯域が高くなりすぎず、警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができる。
【0087】
また、本実施の形態の警報提示装置による警報提示方法では、車両内外の騒音などに基づき警報の音圧等を制御するので、上記特許文献2に記載された技術に比べ、報知される警報の音圧レベルが鉄道車両の走行音に応じたものとなる。また、鉄道車両の走行条件によって鉄道車両の走行音が大きく変動した場合であって、運転者の生理状態が変動しなかったときでも、警報音が知覚されやすく、適切な警報感が伝達されやすく、警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができる。
【0088】
また、本実施の形態の警報提示装置による警報提示方法では、上記特許文献3に記載された技術と異なり、周囲騒音に応じて警報音の周波数帯域を変更する。そのため、鉄道車両の走行条件によって鉄道車両の走行音の周波数帯域が大きく変動した場合でも、警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができる。
【0089】
即ち、本実施の形態の警報提示装置は、周囲音を認識し解析した結果に基づいて、警報音を生成して提示する装置であり、車内騒音の音圧の周波数分布から、特定の周波数帯域の分布を上回る警報音を生成し、警報を提示する装置である。そのため、本実施の形態の警報提示装置によれば、どのような走行音に対しても、走行音の特性を考慮して周波数を調整した警報音を提示することで、知覚性が高く、警報感の強い警報音を、走行音と近い音圧レベルで提示することが可能となり、警報音の適切なメッセージの伝達が可能となる。
【0090】
好適には、第1算出部21は、ステップS21において、車内騒音NS1の等価騒音レベルを表す値Aとしての値VL4(図5(a)参照)を算出する(図3のステップS35)。また、第2算出部22は、ステップS22において、信号音SG1の等価騒音レベルを表す値Aとしての値VL5(図5(a)参照)が第1算出部21により算出された値VL4以下になるように、信号音SG1を生成する(図3のステップS36)。なお、図3のステップS36では、値Aとしての値VL5が、値Aとしての値VL4に等しい場合を示している。
【0091】
「等価騒音レベル」とは、騒音レベルが時間とともに不規則かつ大幅に変化している場合(非定常音、変動騒音)に、ある時間内で変動する騒音レベルのエネルギーに着目して時間平均値を算出したものであり、時間的に大きく変動する騒音レベルを評価する際に用いられる。そのため、第2算出部22は、ステップS22において、信号音SG1の等価騒音レベルを表す値VL5(図5(a)参照)が車内騒音NS1の等価騒音レベルを表す値VL4(図5(a)参照)以下になるように、信号音SG1を生成することにより、警報音の音圧が必要以上に大きくなることを防止又は抑制することができる。従って、例えば鉄道車両の走行音が小さい場合に、警報音が大きく感じられることで、目的以上の過度の警報感が伝達されてしまうことを防止又は抑制することができる。
【0092】
<検出部による乗務員の覚醒レベルの検出方法>
次に、図1を参照し、検出部11による乗務員の覚醒レベルの検出方法について説明する。
【0093】
前述したように、検出部11は、乗務員の覚醒レベルを表す覚醒レベル値を検出する。具体的には、検出部11は、乗務員Mの撮影画像に基づいて乗務員Mの顔を検出して特徴点を抽出し、乗務員Mの顔の特徴点に基づいて乗務員Mの覚醒度(眠気度)を推定する。検出部11は、撮影部31と、顔検出部32と、推定部33と、を含む。
【0094】
撮影部31は、乗務員Mを撮影する。撮影部31は、例えば鉄道車両の運転室(乗務員室)内に設置されており、この運転室内で例えば運転士である乗務員Mの頭部を撮影する。撮影部31は、運転室内の多様な光環境に対応可能であり、適切な光量で乗務員Mに赤外線を照射する赤外線照射器(図示は省略)、及び、乗務員Mを撮影する近赤外線カメラ31aと接続され、近赤外線カメラ31aにより乗務員Mの頭部を撮影する。なお、撮影部31は、例えば警報提示装置10の外部で近赤外線カメラ31aと一体的に設置されてもよい。
【0095】
顔検出部32は、乗務員Mの顔を検出する装置である。顔検出部32は、撮影部31によって撮影された乗務員Mの頭部画像に基づいて乗務員Mの顔を検出し、乗務員Mの特徴点を抽出する。また、顔検出部32は、乗務員Mの頭部画像から乗務員Mの顔領域を機械学習によって抽出する。ここで、機械学習とは、人工知能の一種であり、経験からの学習により自動で改善するコンピュータアルゴリズムである。機械学習は、データを学習することによってデータの特徴をつかみ識別又は予測が可能である。
【0096】
推定部33は、乗務員Mの覚醒度を推定する。推定部33は、顔検出部32によって検出された乗務員Mの顔画像を解析して、覚醒レベルを表す覚醒レベル値としての覚醒度推定値(眠気評定値)を演算することにより、覚醒レベル値を検出する。推定部33は、例えば、乗務員Mの特徴点のフレーム毎の画像に基づいて、多変量解析又は機械学習によって乗務員Mの覚醒度を推定したり、乗務員Mの特徴点の時系列画像に基づいて、機械学習によって乗務員Mの覚醒度を推定したりする。
【0097】
前述したように、提示部14は、覚醒レベルを表す覚醒レベル値が予め設定された第1閾値未満のとき、車内騒音NS1(図5(a)参照)に基づいて、警報音を決定する。
【0098】
好適には、決定部13は、比率Iが、覚醒レベル値に応じて設定される第2閾値よりも大きくなるときの信号音SG1(図5(a)参照)を、警報音として決定する。また、第2閾値は、覚醒レベル値が小さいほど大きくなるように設定される。
【0099】
このような場合、覚醒レベル値が小さいほど、即ち乗務員Mの覚醒度が小さく眠気度が大きいほど、比率Iがより大きくなるような信号音SG1(図5(a)参照)を、警報音として用いることになり、乗務員Mにとって、警報音が車内騒音に比べてより大きく感じられるような警報音を乗務員Mに提示することができる。そのため、警報音が伝達すべき警報内容を、眠気度の大きさに応じた適切な音量で、乗務員に適切に伝達することができる。
【0100】
<音列を表す信号音の音高をシフトして決定される警報音>
次に、図4を参照し、音列を表す信号音の音高をシフトして決定される警報音及び当該警報音の決定方法について説明する。
【0101】
好適には、第2算出部22(図1参照)は、ステップS22(図2参照)では、第1音及び複数の第2音を含む音列を表す信号音SG1(図5(a)参照)を生成する。言い換えれば、第2算出部22は、ステップS22では、複数の音を含む音列を表す信号音SG1を生成する。また、決定部13は、ステップS13では、第1音及び複数の第2音、即ち複数の音の各々の音高を互いに同じ方向に等しい音高差だけシフトしながら、第2算出部22による比率算出処理を繰り返して実行することにより、比率Iの算出を繰り返し、比率Iが最大となるときの信号音SG1を、警報音として決定する。なお、本願明細書において、音高差が等しいとは、音程差が等しい、即ち、半音と全音に基づく七音音階上の段階の数で2音間の高さの隔たりを例えば完全8度等の度で表した場合の当該度の値が等しいことを意味する。
【0102】
ある信号音が、複数の音を含む音列よりなる音型が一定の緊張感を有する信号音であるとする。このような場合、第2算出部22が、ステップS22において、複数の音の各々の音高を互いに同じ方向に等しい音高差だけシフトすることにより生成される信号音は、前述した一定の緊張感と略同様の緊張感を有する信号音である。そのため、いずれの信号音を警報音として決定した場合でも、決定された警報音を、前述した一定の緊張感と略同様の緊張感を有する警報音とすることができる。
【0103】
このように、複数の音の各々の音高を互いに同じ方向に等しい音高差だけシフトしながら比率算出処理を繰り返して実行することにより、いずれの信号音SG1が警報音として決定された場合でも、警報音として決定された信号音SG1が有する音列から乗務員Mが受ける印象を一定にすることができ、警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができる。
【0104】
前述したように、ISO7731では、警報音に500~2500Hzの範囲の周波数成分を有することが推奨されている。一方、トンネル内の鉄道車両の走行音は1000Hz以下の範囲の周波数成分を有することが多いので、鉄道車両の走行音を含む車内騒音にマスキングされない音として1000Hz以上の音を含むことが望ましい。そのため、図4に示す信号音として、1000~2500Hzの範囲の周波数成分を有する音を有するものを用いることが望ましい。
【0105】
図4(a)及び図4(b)に示す具体例では、音列は、複数の和音を含み、複数の和音の各々は、基音と、基音と増4度又は減5度の音程を形成する第1付加音と、基音と長7度の音程を形成する第2付加音と、よりなる三和音である。また、複数の三和音の各々がそれぞれ含む複数の基音は、順次上行(上昇)する8音よりなる半音階を形成するように、選択される。
【0106】
基音と、基音と増4度又は減5度の音程を形成する第1付加音と、よりなる和音は、警告感が強いとされている。また、基音と、基音と長7度の音程を形成する第2付加音と、よりなる和音は、危険を伝達できるイメージを抱くとされている。そのため、基音と、第1付加音と、第2付加音と、よりなる三和音は、乗務員に提示される警報音として特に有効である。
【0107】
また、基音が順次上行(上昇)する8音よりなる半音階を形成することにより、警報音に多く用いられるスイープに類似した、周波数が変化する音を表現できることから、警報感又は注意喚起する効果が大きい。
【0108】
また、図4(a)及び図4(b)に示す例では、信号音SG11(高音)は、信号音SG12(低音)に対して1オクターブと長7度(又は減8度)の音程、即ち略2オクターブの音程を形成している。このように複数の音の各々の音高を互いに同じ方向に略2オクターブの音程(音高差)だけシフトしながら、第2算出部による比率算出処理を繰り返して実行することにより、比率Iの算出を繰り返し、比率Iが最大となるときの信号音SG1を、警報音として決定する場合、比率算出処理を繰り返す回数を少なくしつつ、適切な警報音を効率よく決定することができる。
【0109】
<車内騒音及び警報音における音圧の周波数分布の測定結果>
次に、図5及び図6を参照し、信号音SG11(図4(a)参照)及び信号音SG12(図4(b)参照)を警報音として用いた場合の、車内騒音及び警報音における音圧の周波数分布の測定結果について説明する。
【0110】
図6(a)に示すように、400~800Hz及び4000~5000Hzの範囲の中心周波数において、信号音SG12の音圧レベルは車内騒音NS1の音圧レベルを超えているものの、400~800Hz及び4000~5000Hzの範囲以外の範囲の中心周波数において、信号音SG12の音圧レベルは車内騒音NS1の音圧レベルと同程度か同定度以下であった。一方、図5(a)及び図6(a)に示すように、2000~6300Hzの範囲以外の範囲の中心周波数において、信号音SG11の音圧レベルは車内騒音NS1の音圧レベル以下であるものの、2000~6300Hzの範囲の中心周波数において、信号音SG11の音圧レベルは車内騒音NS1の音圧レベルを大きく超えていた。
【0111】
また、図6(b)に示すように、400~800Hz及び4000~5000Hzの範囲の中心周波数において、信号音SG12と車内騒音NS1との合成音SY12の音圧レベルは車内騒音NS1の音圧レベルを大きく超えているものの、400~800Hz及び4000~5000Hzの範囲以外の範囲の中心周波数において、信号音SG12と車内騒音NS1との合成音SY12の音圧レベルは車内騒音NS1の音圧レベルと同程度であった。一方、図5(b)及び図6(b)に示すように、2000~6300Hzの範囲以外の範囲の中心周波数において、信号音SG11と車内騒音NS1との合成音SY11の音圧レベルは車内騒音NS1の音圧レベルと同程度であるものの、2000~6300Hzの範囲の中心周波数において、信号音SG11と車内騒音NS1との合成音SY11の音圧レベルは車内騒音NS1の音圧レベルを大きく超えていた。
【0112】
ここで、200~1600Hzの範囲RG3の値VL1に対する値VL2の比を表す値VL3の総和である総和値TT1とは、200~1600Hzの範囲RG3の合成音SY1の音圧レベル曲線と車内騒音NS1の音圧レベル曲線とで囲まれた部分の面積に相当する。また、2000~6300Hzの範囲RG4の値VL1に対する値VL2の比を表す値VL3の総和である総和値TT2とは、2000~6300Hzの範囲RG4の合成音SY1の音圧レベル曲線と車内騒音NS1の音圧レベル曲線とで囲まれた部分の面積に相当する。
【0113】
また、図6(b)において、2000~6300Hzの範囲RG4の合成音SY11の音圧レベル曲線と車内騒音NS1の音圧レベル曲線とで囲まれた部分の面積が、200~1600Hzの範囲RG3の合成音SY11の音圧レベル曲線と車内騒音NS1の音圧レベル曲線とで囲まれた部分の面積よりも大きい。一方、2000~6300Hzの範囲RG4の合成音SY12の音圧レベル曲線と車内騒音NS1の音圧レベル曲線とで囲まれた部分の面積が、2000~6300Hzの範囲RG4の合成音SY11の音圧レベル曲線と車内騒音NS1の音圧レベル曲線とで囲まれた部分の面積よりも小さい。また、200~1600Hzの範囲RG3の合成音SY12の音圧レベル曲線と車内騒音NS1の音圧レベル曲線とで囲まれた部分の面積が、200~1600Hzの範囲RG3の合成音SY11の音圧レベル曲線と車内騒音NS1の音圧レベル曲線とで囲まれた部分の面積よりも大きい。
【0114】
即ち、本実施の形態の警報提示装置による警報提示方法は、図6(b)において、2000~6300Hzの範囲RG4の合成音SY1の音圧レベル曲線と車内騒音NS1の音圧レベル曲線とで囲まれた部分の面積が、200~1600Hzの範囲RG3の合成音SY1の音圧レベル曲線と車内騒音NS1の音圧レベル曲線とで囲まれた部分の面積よりも大きくなるような信号音SG1、即ち信号音SG12を警報音として決定するものである。
【0115】
好適には、第2算出部22は、ステップS22において、2000~2500Hzの範囲の周波数成分を有する第1音を有する信号音SG1を生成する。信号音SG1が2500Hz以下の周波数成分を有することにより、警報音として決定された信号音SG1を、人間が聞き取りやすくなる。一方、信号音SG1が2000Hz以上の周波数成分を有することにより、2000~6300Hzの範囲RG4の合成音SY1の音圧レベル曲線と車内騒音NS1の音圧レベル曲線とで囲まれた部分の面積が、200~1600Hzの範囲RG3の合成音SY1の音圧レベル曲線と車内騒音の音圧レベル曲線とで囲まれた部分の面積よりも大きくなるような信号音SG1を容易に生成することができる。
【0116】
<警報音に関する調査結果>
次に、信号音SG11(図4(a)参照)及び信号音SG12(図4(b)参照)を警報音として用いた場合の、警報音に関する調査結果について説明する。ここでは、実際に運転士として鉄道車両に乗務したことがある運転士経験者に聞き取り調査を行い、信号音SG11と信号音SG12とを比較して、より効果が高い方を回答してもらった。ここで、機能性とは、目が覚めると感じることを意味し、知覚性とは、聞き取りやすいことを意味する。また、聞き取り調査に参加した運転士経験者の人数は、27人であった。この聞き取り調査の調査結果を表1に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
表1に示すように、信号音SG11の方が機能性が高い、即ち目が覚める、と感じた人の人数は19人であり、信号音SG12の方が機能性が高いと感じた人の人数である8人に比べて多かった。また、信号音SG11の方が知覚性が高い、即ち聞き取りやすい、と感じた人の人数は16人であり、信号音SG12の方が知覚性が高いと感じた人の人数である11人に比べて多かった。そのため、高音の信号音である信号音SG11の機能性及び知覚性の方が、低音の信号である信号音SG12の機能性及び知覚性よりも高いことが分かった。
【0119】
即ち、本実施の形態の警報提示装置による警報提示方法を行って決定された警報音を用いることにより、即ち、2000~6300Hzの範囲RG4の合成音SY1の音圧レベル曲線と車内騒音NS1の音圧レベル曲線とで囲まれた部分の面積が、200~1600Hzの範囲RG3の合成音SY1の音圧レベル曲線と車内騒音NS1の音圧レベル曲線とで囲まれた部分の面積よりも大きくなるような信号音SG1を警報音として用いることにより、実際に機能性及び知覚性が高い信号音SG1を警報音として用いることができる。従って、本実施の形態の警報提示装置による警報提示方法によれば、鉄道車両の走行音が有する音圧又は周波数成分が鉄道車両の走行条件によって大きく変動した場合でも、警報音が伝達すべき警報内容を、乗務員に適切に伝達することができる。
【0120】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0121】
本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0122】
例えば、前述の各実施の形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明は、鉄道車両に乗務している乗務員に、注意喚起するための警報音を含む警報を提示する警報提示装置及び警報提示方法に適用して有効である。
【符号の説明】
【0124】
10 警報提示装置
11 検出部
12 集音部
12a マイク
13 決定部
14 提示部
14a スピーカ
15 コンピュータ
21 第1算出部
22 第2算出部
31 撮影部
31a 近赤外線カメラ
32 顔検出部
33 推定部
FB1~FB3 周波数帯域
M 乗務員
NS1 車内騒音
RG1~RG4 範囲
SG1、SG11、SG12 信号音
SY1、SY11、SY12 合成音
TT1、TT2 総和値
VL1~VL5 値

図1
図2
図3
図4
図5
図6