(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135310
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】燃料電池の電流密度分布計測装置、及び電流密度分布計測装置を備えた燃料電池システム、燃料電池車
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04537 20160101AFI20240927BHJP
【FI】
H01M8/04537
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045933
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳田道太
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AB04
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA59
5H127BB02
5H127DB64
5H127EE04
5H127EE27
(57)【要約】
【課題】簡易な構成により、抵抗器の並列数を必要以上に向上させずに精度良く電流検出を行える電流密度分布計測装置を提供する。
【解決手段】孔部が形成された平板状の第1電極セグメントと、前記第1電極セグメントに対向して配置される第2電極セグメントと、前記第1電極セグメントと前記第2電極セグメントの間に配置される絶縁層と、前記第1電極セグメント及び前記第2電極セグメントの間に配置されると共に、前記第1電極セグメント及び前記第2電極セグメントと電気的に接続され、前記1電極セグメントに形成された前記孔部から取り出し可能な抵抗器と、を有する燃料電池の電流密度分布計測装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔部が形成された平板状の第1電極セグメントと、
前記第1電極セグメントに対向して配置される第2電極セグメントと、
前記第1電極セグメントと前記第2電極セグメントの間に配置される絶縁層と、
前記第1電極セグメント及び前記第2電極セグメントの間に配置されると共に、前記第1電極セグメント及び前記第2電極セグメントと電気的に接続され、前記第1電極セグメントに形成された前記孔部から取り出し可能な抵抗器と、
を有する燃料電池の電流密度分布計測装置。
【請求項2】
前記第1電極セグメントにおける前記孔部の直径が前記抵抗器の長さよりも大きい、請求項1に記載の電流密度分布計測装置。
【請求項3】
前記抵抗器を被覆するためのコーティング層が設けられる、請求項1又は2のいずれかに記載の電流密度分布計測装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の電流密度分布計測装置を備えた、燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の電流密度分布計測装置を備えた、燃料電池車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池の電流密度分布計測装置、及び電流密度分布計測装置を備えた燃料電池システム、燃料電池車に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)の開発が進められている。燃料電池車には従来、燃料電池の内部を流れる電流を測定する電流測定装置が適用されている。
【0003】
特許文献1には、複数の電流測定部を測定板の面方向にマトリックス状に配置することによりセルの面内における電流密度分布を測定する電流測定装置が開示される。
【0004】
特許文献2は、隣合うセル一方に接触する第1電極と抵抗体とを接続する第1スルーホールおよび抵抗体と隣合うセルの他方に接触する第2電極と接続する第2スルーホール間に、定電流を流すことによって第1、第2スルーホール間の抵抗体の電気抵抗を検出する抵抗検出回路を設ける電流測定装置の構成を開示する。
【0005】
特許文献3は、電解質・電極構造体の発電面領域に対応する領域を複数の領域に分割し、それぞれ対をなす平面矩形状の複数の電極セグメントを備え、各電極セグメントに対応して薄膜状抵抗体を配置する計測装置の構成を開示する。
【0006】
特許文献4は、電解質膜・電極構造体の発電面領域を複数の領域に分割し、それぞれ対をなす平面矩形状の複数の電極セグメントと、一方の極である複数の前記電極セグメントと他方の極である複数の前記電極セグメントとの間に配置される一対の絶縁シートと、一対の前記絶縁シート間に各電極セグメントに対応して配置される複数の薄膜状抵抗体とを備える計測装置の構成を開示する。
【0007】
特許文献5は、分割集電部にそれぞれ設けられた電子負荷装置と電圧計測装置より、単セル面内の電流密度分布を精度良く計測する装置の構成を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-033664号公報
【特許文献2】特開2009-193899号公報
【特許文献3】特開2014-150004号公報
【特許文献4】特開2012-146525号公報
【特許文献5】特開2007-087859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した各特許文献に限らず、現在の技術では市場のニーズを適切に満たしているとは言えず、以下に述べる課題が存在する。すなわち、燃料電池の電流密度分布計測装置において、電流検出を担う抵抗体が複数配置されているが、それらの抵抗体の一部が破損した場合は、当該抵抗体に関連づけられた電極周辺における電流検出ができなくなる。その対策として、あらかじめ抵抗体を複数並列し、抵抗体破損の影響を抑制することが行われていた。しかしながら、並列数を増やした場合には電流検出回路の抵抗値が下がるため、精度よく検出を行うことが困難になるという問題を併発していた。
【0010】
本開示は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、簡易な構成により、抵抗体の並列数を必要以上に向上させずに精度良く電流検出を行うことを目的とする。本開示はさらには、破損した抵抗体を簡便に交換することを可能とする電流密度分布計測装置と、それを備えた燃料電池システム及び燃料電池車の提供をも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本開示の一実施形態における燃料電池の電流密度分布計測装置は、孔部が形成された平板状の第1電極セグメントと、前記第1電極セグメントに対向して配置される第2電極セグメントと、前記第1電極セグメントと前記第2電極セグメントの間に配置される絶縁層と、前記第1電極セグメント及び前記第2電極セグメントの間に配置されると共に、前記第1電極セグメント及び前記第2電極セグメントと電気的に接続され、前記1電極セグメントに形成された前記孔部から取り出し可能な抵抗体と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、簡易な構成により、抵抗体の並列数を必要以上に向上させずに精度良く電流検出を行える電流密度分布計測装置を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態における燃料電池システムを示す概略図である。
【
図2】本実施形態における電流密度分布計測装置を示す概略図である。
【
図3】(a)は本実施形態における電流密度分布計測装置におけるセンサパッドを示す平面図であり、(b)は(a)のA-A’断面図である。
【
図4】第一変形例にかかる電流密度分布計測装置におけるセンサパッドを示す断面模式図である。
【
図5】第二変形例にかかる電流密度分布計測装置におけるセンサパッドを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、以下で詳述する以外の構成については、上記した特許文献を含む公知の車両に関する技術を適宜補完することができる。
【0015】
まず、本実施形態の電流密度分布計測装置20を適用した燃料電池システム100及び燃料電池車FCVについて説明する。燃料電池システム100は、いわゆる燃料電池車FCVに適用され、車両走行用電動モータ等の電気負荷に電力を供給するものである。なお、以下では燃料電池車を例として本実施形態の燃料電池システムの説明をするが、これに限られるものではない。
【0016】
図1に示すように、燃料電池車FCVは、燃料電池システム100と、空気供給路21と、空気吸入口31と、水素ガス供給路41と、水排出路44と、水素タンク51と、開閉弁52と、駆動用モータ60とを備える。
【0017】
燃料電池システム100は、水素と酸素との電気化学反応を利用して電力を発生する燃料電池10と、燃料電池10の内部を流れる電流密度分布を測定するための電流密度分布計測装置20と、備える。燃料電池システム100は、図示しない制御部等により電流密度分布計測装置20の測定値に基づいて電流密度分布を制御する機能を有していてもよい。
【0018】
燃料電池10は、車両走行用の駆動用モータ60や、図示しない二次電池、車両用各種補機類等の電気負荷に供給される電気エネルギを出力する。燃料電池10は、
図2に示すように、基本単位となる燃料電池セル10aが複数個、電気的に直列に接続されて構成される。各燃料電池セル10aにおいては、水素と酸素との電気化学反応により、電気エネルギが出力される。
【0019】
図2に示すように、電流密度分布計測装置20は、燃料電池10の内部を流れる電流を測定するために、燃料電池10の隣り合う燃料電池セル10aの間に配置される。電流密度分布計測装置20は、板状の測定板2を備えると共に、測定板2の内部にセンサパッド2aを複数個備えている。
【0020】
図2に示すように、複数のセンサパッド2aは、測定板2の内部において、直交する二方向に格子状に配置されていてもよい。より具体的には、
図2に示すように、センサパッド2aは、上下方向に4個、左右方向に6個の格子状に配置することができる。なおセンサパッド2aの配置及び個数等については特に制限はない。
【0021】
センサパッド2aは、隣り合う燃料電池セル10aの一方から他方へ流れる電流を測定する。なおセンサパッド2aは、設定されている領域周辺の電流を測定する。よって、燃料電池セル10aを複数配置することによって、セル面内における電流密度分布を測定することが可能となる。
【0022】
図3に、各々のセンサパッド2aを拡大した図を示す。
図3(a)は、本実施形態におけるセンサパッド2aを示す平面図であり、
図3(b)は
図3(a)におけるA-A’断面図である。センサパッド2aは、複数の絶縁層が積層された多層基板で構成されている。絶縁層は、熱可塑性樹脂で構成された樹脂層や、公知のガラスエポキシ基板を適用することができる。本実施形態では、第1絶縁層201、第2絶縁層202、第3絶縁層203の3層の絶縁層が積層されている。第1絶縁層201、第2絶縁層202、第3絶縁層203はそれぞれ、同形状の矩形を呈している。
【0023】
第1絶縁層201の表面上に、平板状の第1電極セグメント211が設置される。第1電極セグメント211には、中央部分に略円形状の貫通孔が形成されている。一方で、第1電極セグメント211に対向して、第3絶縁層203の裏面には第2電極セグメント212が設置される。言い換えれば、複数の絶縁層の両面を、平板状の第1電極セグメント211と平板状の第2電極セグメント212により挟み込むことにより、センサパッド2aが構成される。
【0024】
第1電極セグメント211と第2電極セグメント212の間には、抵抗器220が配置される。換言すれば、抵抗器220が多層基板の内部に埋め込まれるように配置される。抵抗器220と第1電極セグメント211、及び、抵抗器220と第2電極セグメント212とは、それぞれ、多層基板の内部に配置された第1信号線231(231a及び231b)、及び第2信号線232(232a及び232b)とで電気的に接続されている。抵抗器220は、第1電極セグメント211及び第2電極セグメント212よりも抵抗値が大きな抵抗部材によって構成される。抵抗器220としては、公知のシャント抵抗器等が適用できる。
【0025】
第1絶縁層201及び第2絶縁層202にはそれぞれ、中央部分に略円形状の貫通孔が開孔される。
図3に示されるように、第1電極セグメント211に形成される貫通孔と、第1絶縁層201及び第2絶縁層202に形成される貫通孔とは、概ね同じ形状、及び同じ大きさとすることができる。そして、それらの複数の貫通孔が垂直な方向で連なることにより、センサパッド2a全体としての孔部HLを成している。なお、孔部HLは
図3では円形状を有しているが、これに限られるものではなく、後述のように孔部HLの外部へ抵抗器220を取り出し可能な限りにおいて、他の形状を有していてもよい。なお、
図3に示すとおり、抵抗器220は孔部HLの底部である第3絶縁層203上に配置されると共に、孔部HLの外部から視認可能となっている。
【0026】
本実施形態は
図3(a)に示すとおり、孔部HLの直径DMが、平面視において抵抗器220の対角線よりも大きく形成されている。従って、孔部HLの底部に配置される抵抗器220は、孔部HLの第1電極セグメント211側の表面より、孔部HLの外部へ取り出し可能となっている。このように、本実施形態においては、孔部HLの直径を抵抗器220の長さよりも大きくすることにより、抵抗器220の取り外しを行うことができる。なお、本実施形態では孔部HLが円形状、抵抗器220の平面視における形状が矩形である状態で、孔部HLの直径DMを抵抗器220の対角線よりも大きくすることで、抵抗器220の孔部HLからの取り出しを可能としたが、これに限られるものではない。例えば平面視において、孔部HLの形状に抵抗器220の形状が含まれるような関係とすることにより、抵抗器220の孔部HLからの取り出しが可能となる。
【0027】
なお、抵抗器220を孔部HLの外部へ取り出す際は、抵抗器220は信号線からの電気的な接続が分離される。すなわち、抵抗器220は
図3に示すように、第1信号線231により第1電極セグメント211と接続されると共に、第2信号線232により第2電極セグメント212に接続されている。抵抗器220を取り外す場合には、まず、抵抗器220と各信号線との接続箇所を加熱する。加熱温度を、接続に用いたはんだの融解温度以上とすることにより、はんだを除去して抵抗器220と各接続線とを分離できる。
【0028】
抵抗器220の破損により交換が必要となった場合には、まず、上記手順により、抵抗器220を分離後に孔部HLの外部へ取り出す。次に、新たな抵抗器220を孔部HL内部に配置して、はんだ付けすることにより、抵抗器220の交換が可能となる。
【0029】
なお、本実施形態の電流密度分布計測装置20を使用した電流密度分布の計測に関しては、適宜公知の方法を適用可能である。例えば、上述の特許文献4等に記載のような方法が適用できる。具体的に、燃料電池が発電されることによって抵抗器に電流が流れた場合、電圧計を介して抵抗器における電圧降下を計測し、この電圧降下から各電極セグメント211、212に対応する各発電面領域毎の電流密度分布を計測してもよい。
【0030】
<第一変形例>
以下に、第一の変形例におけるセンサパッド2bについて、
図4を用いて説明する。なお、本変形例におけるセンサパッド2bは、孔部HLの内部に配置された抵抗器220が、コーティング層250により被覆されている点で、上記実施形態と相違する。そのため、以下では相違点について主に説明し、実施形態と共通する点についてはその説明を省略する。
【0031】
本第一変形例においては、
図4に示されるように、抵抗器220上にはコーティング層250が形成される。コーティング層250が形成されることにより、抵抗器220の大気への暴露を防ぐことができるため、抵抗器220を粉塵や水分から防ぐことが可能となる。コーティング層250としては、公知の多層基板用の樹脂等を適宜使用することができる。具体的には、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂等を、コーティング層250として適宜使用することができる。
【0032】
<第二変形例>
次に、第二変形例におけるセンサパッド2cについて
図5を用いて説明する。なお、本変形例におけるセンサパッド2cは、多層基板を構成する絶縁層が、第1絶縁層201及び第2絶縁層202の二層構成となっている点において、上述の実施形態と異なる。
【0033】
具体的には、孔部が形成された第1絶縁層201の表面上に、孔部が形成された第1電極セグメント211が設置される。第1絶縁層201の、第1電極セグメント211とは反対側の面には、第2絶縁層202を介して、第2電極セグメント212が積層される。
【0034】
第1電極セグメント211の孔部と、第1絶縁層201に形成された孔部は、多層基板の垂直方向に重なり合うことによって、センサパッド2cにおける孔部HLを成している。ここで、本変形例における孔部HLの深さは、第1電極セグメント211の厚み、及び、第1絶縁層201の厚みの合計に相当する。
【0035】
本変形例において、抵抗器220は、孔部HLの底部に配置される。また、抵抗器220と第1電極セグメント211は、第1信号線231(231a及び231b)により電気的に接続される。一方で、抵抗器220と第2電極セグメント212とは、第2信号線232(232a及び232b)により電気的に接続される。抵抗器220を取り出す際には、上記実施形態と同様に、抵抗器220を各々の信号線から分離した後に、孔部HLの上から取り出すことが可能となる。本第二変形例に示されるように、本開示の電流密度分布計測装置は、多層基板の積層数において限定されずに、目的を達成することができる。
【0036】
本開示の電流密度分布計測装置は、以上の実施形態及び変形例により説明したとおり、破損した抵抗器220を取り出して新たな抵抗器と交換することを可能とする。そして交換後の抵抗器220の周辺において、引き続き電流測定を行うことができる。よって、必要以上に抵抗器220の設置個数を多くしなくても、精度良く電流検出を継続することが可能となる。
【0037】
本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、これら実施形態や変形例に対して更なる修正を試みることは明らかであり、これらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0038】
FCV:燃料電池車、100:燃料電池システム、10:燃料電池、10a:燃料電池セル、20:電流密度分布計測装置、2:測定板、2a:センサパッド、201:第1絶縁層、202:第2絶縁層、203:第3絶縁層、211:第1電極セグメント、212:第2電極セグメント、220:抵抗器、231:第1信号線、232:第2信号線、HL:孔部