(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135314
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】鋼管用ねじ継手
(51)【国際特許分類】
F16L 15/04 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F16L15/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045939
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100194777
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 憲治
(72)【発明者】
【氏名】森重 有矢
(72)【発明者】
【氏名】井瀬 景太
(72)【発明者】
【氏名】栗生 賢
(72)【発明者】
【氏名】和田 顕
【テーマコード(参考)】
3H013
【Fターム(参考)】
3H013JA02
(57)【要約】
【課題】鋼管本体の外径の105%以下の外径を有するスリム型の鋼管用ねじ継手において、優れた圧縮性能と密封性能を有する鋼管用ねじ継手を提供する。
【解決手段】鋼管用ねじ継手1は、ピン10及びボックス20を有する。ピン10は、ピンノーズ11、ピンショルダ面12、ピン内シール面13及びピン10の内周面に設けられた環状の凹部15を有する。ピン内シール面13は、シールポイントSPを有する。凹部15は、ピン10先端側の端部151を有する。凹部15の端部151は、管軸CL方向においてシールポイントSPと一方の鋼管本体2との間に位置付けられる。これにより、圧縮荷重を負荷したとき、凹部15に応力を集中させ、ピン内シール面13近傍に蓄積される塑性ひずみを分散させることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管用ねじ継手であって、
管状のピンと、
鋼管本体の外径の105%よりも小さい外径を有し、前記ピンが挿入されて前記ピンと締結される管状のボックスと、を備え、
前記ピンは、
前記ピンの先端部に設けられたピンノーズと、
前記ピンノーズの先端に設けられたピンショルダ面と、
前記ピンノーズと前記鋼管本体との間で前記ピンの外周面に設けられたピン内シール面と、
前記ピン内シール面と前記鋼管本体との間で前記ピンの外周面に設けられた雄ねじと、
前記ピンの内周面に設けられた環状の凹部及び凸部のいずれか一方とを含み、
前記ボックスは、
前記ピンショルダ面に対応して前記ボックスの奥端に設けられ、締結状態において前記ピンショルダ面と接触するボックスショルダ面と、
前記ピン内シール面に対応して前記ボックスの内周面に設けられ、締結状態において前記ピン内シール面と接触するボックス内シール面と、
前記雄ねじに対応して前記ボックスの内周面に設けられた雌ねじとを含み、
前記ピン内シール面は、締結状態において前記ボックス内シール面との接触面上の管軸方向の中点に位置するシールポイントを有し、
前記凹部及び凸部のいずれか一方における前記ピン先端側の端部は、管軸方向において前記シールポイントと前記鋼管本体との間に位置付けられている、鋼管用ねじ継手。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼管用ねじ継手であって、
前記ピンは、前記雄ねじと前記鋼管本体との間で前記ピンの外周面に設けられたピン外シール面を含み、
前記ボックスは、前記ピン外シール面に対応して前記ボックスの内周面に設けられたボックス外シール面と、前記ボックス外シール面と前記ボックスの先端面とを接続する接続面とを含む、鋼管用ねじ継手。
【請求項3】
請求項1に記載の鋼管用ねじ継手であって、
前記凹部及び凸部のいずれか一方は、前記ピンの内周面に複数設けられている、鋼管用ねじ継手。
【請求項4】
請求項1に記載の鋼管用ねじ継手であって、
前記凹部及び凸部のいずれか一方における前記ピン先端側の端部は、管軸方向において前記シールポイントと前記雄ねじにおける前記ピンノーズ側の先端との間に位置付けられる、鋼管用ねじ継手。
【請求項5】
請求項1に記載の鋼管用ねじ継手であって、
前記凹部及び凸部のいずれか一方における前記ピン先端側の端部は、管軸方向において前記ピン内シール面の雄ねじ側の端部と前記雄ねじにおける前記ピンノーズ側の先端との間に位置付けられる、鋼管用ねじ継手。
【請求項6】
請求項1に記載の鋼管用ねじ継手であって、
前記凹部及び凸部のいずれか一方は、管軸に対して垂直方向から視て、前記ピン内シール面の管軸方向の長さの50%以下と重なる重なり領域を有する、鋼管用ねじ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼管外径の105%以下の外径を有し、鋼管の連結に用いられる鋼管用ねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
油井、天然ガス井等(以下、総称して「油井」ともいう)においては、地下資源を採掘するためにケーシング、チュービング等の油井管が使用される。油井管は鋼管が順次連結されて成り、その連結にねじ継手が用いられる。
【0003】
この種の鋼管用ねじ継手の形式は、カップリング型とインテグラル型とに大別される。カップリング型の場合、連結対象の一対の管材のうち、一方の管材が鋼管であり、他方の管材がカップリングである。この場合、鋼管の両端部の外周に雄ねじが設けられ、カップリングの両端部の内周に雌ねじが設けられる。そして、鋼管の雄ねじがカップリングの雌ねじにねじ込まれ、これにより両者が締結されて連結される。インテグラル型の場合、連結対象の一対の管材がともに鋼管であり、別個のカップリングを用いない。この場合、鋼管の一端部の外周に雄ねじが設けられ、他端部の内周に雌ねじが設けられる。そして、一方の鋼管の雄ねじ部が他方の鋼管の雌ねじ部にねじ込まれ、これにより両者が締結されて連結される。
【0004】
一般に、雄ねじ部が形成された管端部の継手部分は、雌ねじに挿入される要素を含むことから、ピンと称される。一方、雌ねじが形成された管端部の継手部分は、雄ねじを受け入れる要素を含むことから、ボックスと称される。これらのピンとボックスは、管材の端部であるため、いずれも管状である。
【0005】
近年、油井の深井戸化が進んでいる。深井戸では、通常、高い耐圧性を有する油井管が使用される。油井管同士を連結するためのねじ継手には、高い強度及び密封性能が要求されるだけでなく、油井管を多重に配置するために厳しい外径寸法の制約が課されている。
【0006】
油井管用ねじ継手は、シール部で高い密封性能を発揮する。一般に、ピンのシール部の直径はボックスのシール部の直径よりも大きい。そのため、締結状態では両シール部は互いに嵌め合い密着して締まりばめの状態となり、メタル接触によるシール部を形成する。ピンのシール部の直径とボックスのシール部の直径との間の差は「シール干渉量」と呼ばれる。シール干渉量が大きいほどシール接触力が高くなり、良好な密封性能が得られる。
【0007】
特表2012-505981号公報(特許文献1)は、炭化水素井戸の掘削用および運転用コンポーネントを開示している。コンポーネントは、別のコンポーネントの第2の端部に接続される第1の端部を有する管状のコンポーネントである。第1の端部は、第2の端部のシール面を干渉して協働するのに適したシール面を有する第1の終端部を備える。第1の終端部は、第1の終端部の厚みに形成された少なくとも1つの窪みにより形成される圧縮可能空間を備えている。これにより、コンポーネントは、軸方向の剛性をあまり低下させることなく、雄型シール面を有する部分の半径方向の剛性を主に低減することにより、シール面の摩耗の問題を克服している。
【0008】
特開昭58-193993号公報(特許文献2)は、油井管用ねじ継手を開示している。油井管用ねじ継手において、雄ねじが刻設された管の端部にシール面を有するリップ部が形成され、管を螺合する雌ねじが刻設されたカップリングの内奥部にリップ部のシール面と密合するシール面を有する肩部が形成されている。リップ部又は肩部は、管軸線方向と略垂直な方向に穿設されたスリットを有する。このように穿設されたスリットにより、弾性変形可能なリップエッジ部又は肩エッジ部が形成される。リップエッジ部又は肩エッジ部は、管とカップリングとが螺合締め付けられたとき、弾性エネルギーを貯えた状態で相互間の金属面対金属面のシールを形成している。
【0009】
特開平10-169855号公報(特許文献3)は、ピン部材とボックス部材とを螺合締結してなる大径油井管用ねじ継手を開示している。ピン部材は、管端の外周面に雄ねじとシール形成用のねじ無し部とを備えている。ピン部材は、雄ねじとねじ無し部との間に円周方向の刻設された溝を有する。これにより、大径油井管用ねじ継手は、シール部に大きな嵌合代が設けられているねじ継手の場合においても、締結をおこなうときのピン部材先端側の大きな嵌合代に起因する縮径変形がねじ部に与える影響を軽減させ、ねじの噛み合い状態を向上させている。
【0010】
特開昭58-187684号公報(特許文献4)は、一方の鋼管の端部外面に雄ねじを有するピンと、他方の鋼管の端部内面に雌ねじを有するボックスを螺合する油井用鋼管継手を開示している。鋼管継手は、ピンノーズ部内径面に直線の組合わせ、又は、直線と円弧の組合わせからなるなめらかな凹状の溝を有する。これにより、鋼管継手は、ピンノーズ厚みを薄くして弾性変形を起こしやすくし、螺合に際して、ノーズ先端及びボックスショルダの密着、並びに、ピンノーズフランク及びボックスフランクの密着によって、気密構造としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2012-505981号公報
【特許文献2】特開昭58-193993号公報
【特許文献3】特開平10-169855号公報
【特許文献4】特開昭58-187684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本開示の目的は、鋼管本体の外径の105%以下の外径を有するスリム型の鋼管用ねじ継手において、優れた圧縮性能と密封性能を有する鋼管用ねじ継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示に係る鋼管用ねじ継手は、管状のピンと、鋼管本体の外径の105%よりも小さい外径を有し、ピンが挿入されてピンと締結される管状のボックスとを備えてよい。ピンは、ピンの先端部に設けられたピンノーズと、ピンノーズの先端に設けられたピンショルダ面と、ピンノーズと鋼管本体との間で前記ピンの外周面に設けられたピン内シール面と、ピン内シール面と鋼管本体との間でピンの外周面に設けられた雄ねじと、ピンの内周面に設けられた環状の凹部及び凸部のいずれか一方とを含んでよい。ボックスは、ピンショルダ面に対応してボックスの奥端に設けられ、締結状態においてピンショルダ面と接触するボックスショルダ面と、ピン内シール面に対応してボックスの内周面に設けられ、締結状態においてピン内シール面と接触するボックス内シール面と、雄ねじに対応してボックスの内周面に設けられた雌ねじとを含んでよい。ピン内シール面は、締結状態においてボックス内シール面との接触面上の管軸方向中心に位置するシールポイントを有してよい。凹部及び凸部のいずれか一方におけるピン先端側の端部は、管軸方向においてシールポイントと鋼管本体との間に位置付けられてよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る鋼管用ねじ継手の縦断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す鋼管用ねじ継手の拡大縦断面図である。
【
図3】
図3は、変形例の鋼管用ねじ継手の拡大縦断面図である。
【
図4】
図4は、変形例の鋼管用ねじ継手の拡大縦断面図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態に係る鋼管用ねじ継手を示す縦断面図である。
【
図6】
図6は、第3実施形態に係る鋼管用ねじ継手を示す縦断面図である。
【
図7】
図7は、第4実施形態に係る鋼管用ねじ継手を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述のように、近年、油井管を多重に配置する多段ケーシングデザインを可能にするために、鋼管本体の外径よりも僅かに外径が大きいスリム型の鋼管用ねじ継手が広く用いられている。スリム型の鋼管用ねじ継手は、上述のインテグラル型又はカップリング型の鋼管用ねじ継手のいずれにも適用可能である。しかしながら、スリム型の鋼管用ねじ継手には厳しい外径寸法が課されているため、密封性能を担保するシール部、特にピンの先端に近い内シール部の厚みは、非常に薄くなる。そのため、鋼管用ねじ継手に圧縮荷重が負荷されたとき、内シール部近傍には応力が集中する。その結果、反復して圧縮荷重が負荷されると、ピンの先端部が塑性変形し、シール干渉量が減少して密封性能が低下するおそれがある。
【0016】
特許文献1のコンポーネントは、雄型シール面の下面に1つの窪みを設けることにより、半径方向の剛性を主に低減してシール面の摩耗の抑制している。しかしながら、特許文献1のコンポーネントは、比較的大径のドリルストリングに用いられるものである。そのため、特許文献1では、肉厚が非常に薄くなる内シール部近傍に応力が集中することによってピンの先端部が塑性変形し得ることに対する提案は為されていない。
【0017】
特許文献2の油井管用ねじ継手は、スリットにより形成されたリップエッジ部又は肩エッジ部が弾性エネルギーを貯えた状態で相互間の金属面対金属面のシールを形成している。特許文献3の大径油井管用ねじ継手は、雄ねじとねじ無し部との間に設けた溝によってねじの噛み合い状態を向上させている。特許文献4の鋼管継手は、ピンノーズ部内径面に設けた凹状の溝により、ピンノーズ厚みを薄くして弾性変形を起こし易くして密封性能を向上させている。しかしながら、特許文献2~4においても、上述したような応力集中によりピンの先端部が塑性変形し得ることに対する提案は為されていない。
【0018】
通常、所定の構造体に対して複数回大きな荷重を負荷したとき、隅角部等の不連続な形状を有する部分に応力や塑性ひずみが集中する。本発明者らは、鋭意検討の結果、スリム型の鋼管用ねじ継手において、ピンの内周面のうち少なくとも後述するシールポイントと鋼管本体との間の内周面の形状を不連続に形成することにより、シール部近傍ではなく不連続に形成されたピン内周面の一部に応力を集中させ、シール部近傍に蓄積する塑性ひずみを分散させれば、ピンの先端部における塑性変形を抑制できることを見出した。本発明者らは、この知見に基づき、以下の鋼管用ねじ継手を完成させた。
【0019】
(構成1)
本実施の形態に係る鋼管用ねじ継手は、管状のピンと、鋼管本体の外径の105%よりも小さい外径を有し、ピンが挿入されてピンと締結される管状のボックスとを備えてよい。ピンは、ピンの先端部に設けられたピンノーズと、ピンノーズの先端に設けられたピンショルダ面と、ピンノーズと鋼管本体との間で前記ピンの外周面に設けられたピン内シール面と、ピン内シール面と鋼管本体との間でピンの外周面に設けられた雄ねじと、ピンの内周面に設けられた環状の凹部及び凸部のいずれか一方とを含んでよい。ボックスは、ピンショルダ面に対応してボックスの奥端に設けられ、締結状態においてピンショルダ面と接触するボックスショルダ面と、ピン内シール面に対応してボックスの内周面に設けられ、締結状態においてピン内シール面と接触するボックス内シール面と、雄ねじに対応してボックスの内周面に設けられた雌ねじとを含んでよい。ピン内シール面は、締結状態においてボックス内シール面との接触面上の管軸方向中心に位置するシールポイントを有してよい。凹部及び凸部のいずれか一方におけるピン先端側の端部は、管軸方向においてシールポイントと鋼管本体との間に位置付けられてよい。
【0020】
これにより、ピン内シール面近傍に蓄積される塑性ひずみに分散させることができ、ピンの先端部の塑性変形を抑制することができる。その結果、鋼管用ねじ継手は、優れた圧縮性能及び密封性能を得ることができる。
【0021】
(構成2)
構成1の鋼管用ねじ継手であって、ピンは、雄ねじと鋼管本体との間でピンの外周面に設けられたピン外シール面を含んでよい。ボックスは、ピン外シール面に対応してボックスの内周面に設けられたボックス外シール面と、ボックス外シール面とボックスの先端面とを接続する接続面とを含んでよい。これにより、外圧が負荷された場合でも、流体が内部に流入する可能性が低減されるため、より優れた外圧密封性能を得ることができる。
【0022】
(構成3)
構成1又は2の鋼管用ねじ継手であって、凹部及び凸部のいずれか一方は、ピンの内周面に複数設けられてよい。これにより、ピン内シール面近傍に蓄積される塑性ひずみを安定して分散させることができ、より優れた圧縮性能及び密封性能を得ることができる。
【0023】
(構成4)
構成1~3のいずれか1つの鋼管用ねじ継手であって、凹部及び凸部のいずれか一方におけるピン先端側の端部は、管軸方向においてシールポイントと雄ねじにおけるピンノーズ側の先端との間に位置付けられる。これにより、凹部及び凸部のいずれか一方が管軸方向において比較的ピン内シール面に近く位置付けられるため、ピン内シール面近傍に蓄積される塑性ひずみを効果的に分散させることができ、より優れた圧縮性能及び密封性能を得ることができる。
【0024】
(構成5)
構成1~3のいずれか1つの鋼管用ねじ継手であって、凹部及び凸部のいずれか一方におけるピン先端側の端部は、管軸方向においてピン内シール面の雄ねじ側の端部と雄ねじにおけるピンノーズ側の先端との間に位置付けられてよい。これにより、管軸に対して垂直方向から視て、凹部及び凸部のいずれか一方がピン内シール面とは重ならない。そのため、ピン内シール面近傍におけるピンの先端部の剛性の低下を抑制でき、かつ、凹部及び凸部のいずれか一方によって塑性ひずみを分散できるため、さらに優れた圧縮性能及び密封性能を得ることができる。
【0025】
(構成6)
構成1~3のいずれか1つの鋼管用ねじ継手であって、凹部及び凸部のいずれか一方は、管軸に対して垂直方向から視て、ピン内シール面の管軸方向の長さの50%以下と重なる重なり領域を有してよい。これにより、重なり領域を有する場合であっても、凹部及び凸部のいずれか一方のピン先端側の端部がシールポイントと鋼管本体との間に位置し、かつ、重なり領域の管軸方向の長さが比較的短ければ、ピン内シール面近傍に蓄積される塑性ひずみを十分に分散させることができる。その結果、鋼管用ねじ継手は、優れた圧縮性能及び密封性能を得ることができる。
【0026】
以下、図面を参照し、本実施の形態を詳細に説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付し、その説明を繰り返さない。なお、説明を分かりやすくするために、以下で参照する図面においては、構成が簡略化または模式化して示されたり、一部の構成部材が省略されたりしている。
【0027】
[鋼管用ねじ継手の構成]
[第1実施形態]
図1に示すように、第1実施形態に係る鋼管用ねじ継手1は、スリム型の鋼管用ねじ継手であって、一方の鋼管本体2の管端に設けられた管状のピン10と、他方の鋼管本体2の管端に設けられ、ピン10がねじ込まれてピン10と締結される管状のボックス20とを備える。本開示に係る鋼管用ねじ継手1は、スリム型の鋼管用ねじ継手1において、主に厳しい外径寸法が課せられる油井管用ねじ継手としてより好適に用いることができる。スリム型の鋼管用ねじ継手1は、鋼管本体2の外径に対して105%以下の外径を有する。なお、本開示の鋼管用ねじ継手1は、上述したカップリング型のねじ継手においても用いることができる。
【0028】
ピン10は、ピンノーズ11と、ピンショルダ面12と、ピン内シール面13と、テーパ状の雄ねじ14と、環状の凹部15と、ピン外シール面16とを含む。
【0029】
ピンノーズ11は、ピン10の先端部に設けられる。ピン10とボックス20との締結状態において、ピンノーズ11の外周面は、ピンノーズ11の外周面に対向するボックス20の内周面と接触していない。すなわち、ピンノーズ11の外周面とボックス20の内周面との間には隙間が形成されている。
【0030】
ピンショルダ面12は、ピンノーズ11の先端(ピン10の先端)に設けられる。ピンショルダ面12は、管軸CLに対して略垂直な環状面である。
【0031】
ピン内シール面13は、ピンノーズ11と一方の鋼管本体2との間でピン10の外周面に設けられる。ピン内シール面13は、ピン10の先端に向かって縮径するように傾斜するテーパ面である。ピン内シール面13は、外方に凸となるように湾曲した凸曲面であってもよく、テーパ面と凸曲面とを組み合わせてもよい。ピン内シール面13は、後述するようにシールポイントSPを有する。
【0032】
雄ねじ14は、ピン内シール面13と一方の鋼管本体2との間でピン10の外周面に設けられる。雄ねじ14は、バットレスねじ(台形ねじ)及び楔型ねじのいずれであってもよい。また、雄ねじ14は、1段ねじに限られず、2段ねじであってもよい。雄ねじ14のねじ形状は、特に限定されるものではない。
【0033】
凹部15は、ピン10の内周面に設けられる。凹部15の詳細については、後述する。
【0034】
ピン外シール面16は、雄ねじ14と一方の鋼管本体2との間でピン10の外周面に設けられる。
【0035】
ボックス20は、ボックスショルダ面21と、ボックス内シール面22と、テーパ状の雌ねじ23と、ボックス外シール面24と、接続面25と、先端面26とを含む。
【0036】
ボックスショルダ面21は、管軸CLに対して略垂直な環状面である。ボックスショルダ面21は、ピンショルダ面12に対応し、ボックス20の奥端側に設けられる。ボックス内シール面22は、ピン内シール面13に対応し、ボックス20の内周面に設けられる。ボックス内シール面22は、ピン10及びボックス20が締結されているとき、ピン内シール面13に接触する。雌ねじ23は、雄ねじ14に対応し、ボックス20の内周面に設けられる。ボックス外シール面24は、ピン外シール面16に対応し、ボックス20の内周面に形成される。ボックス外シール面24は、ピン10及びボックス20が締結されているとき、ピン外シール面16に接触する。接続面25は、ボックス外シール面24と先端面26との間に設けられる、先端面26は、ボックス20の先端に設けられる。なお、特に図示はしないが、本開示において、ボックスの先端面26をボックス外ショルダとして、ピン10及びボックス20が締結されているとき、ボックス外ショルダと雄ねじ14と一方の鋼管本体2との間に形成されたピン外ショルダとを接触するようにしてもよい。
【0037】
次に、
図2を用いて、環状の凹部15について詳しく説明する。
【0038】
凹部15は、ピン10の内周面に形成された環状の溝である。本実施形態において、凹部15は、縦断面視において台形状に切欠いて形成されている。凹部15は、ピン10先端側の端部151を有する。凹部15の端部151は、一方の鋼管本体2とシールポイントSPとの間に位置付けられる。シールポイントSPは、
図2に示すように、ピン内シール面13とボックス内シール面22との接触面上におけるピン内シール面13の管軸CL方向の中点である。これにより、圧縮荷重が負荷されたとき、ピン内シール面13近傍ではなく凹部15に応力が集中し、ピン内シール面13近傍に蓄積される塑性ひずみを分散させることができる。その結果、ピン10の先端部の塑性変形を抑制することができ、優れた圧縮性能及び密封性能を得ることができる。
【0039】
ピン内シール面13近傍に蓄積される塑性ひずみを分散させるとの観点からすれば、凹部15は、ピン内シール面13に対して比較的近い位置に設けるのがよい。したがって、凹部15の端部151は、管軸CL方向においてシールポイントSPと雄ねじ14のピンノーズ11側の先端141との間に位置付けることができる。なお、雄ねじ14の先端141は、螺旋状に形成された雄ねじ14におけるピンノーズ11側の先端である。このように、凹部15をピン内シール面13に対して比較的近い位置となるように設けたことにより、ピン内シール面13近傍に蓄積される塑性ひずみを効果的に分散させることができ、より優れた圧縮性能及び密封性能を得ることができる。
【0040】
さらに、ピン内シール面13近傍の剛性の低下を抑制するという観点からすれば、凹部15の端部151は、管軸CL方向において、ピン内シール面13の雄ねじ14側の端部131と雄ねじ14におけるピンノーズ11側の先端141との間に位置付けられるのがよい。すなわち、管軸CLに対して垂直方向から視て、凹部15がピン内シール面13とは重ならない。そのため、ピン内シール面13近傍におけるピン10の先端部の剛性の低下を抑制でき、かつ、凹部15によって塑性ひずみを分散できるため、さらに優れた圧縮性能及び密封性能を得ることができる。
【0041】
凹部15の切欠き形状は、ピン10の内周面に不連続な形状を形成できれば限定されるものではない。
図3に示すように、凹部15は、縦断面視において、台形状ではなく、曲面を有する形状に切欠いてもよく、円弧状に切欠いてもよい。
【0042】
[第2実施形態]
次に、
図4及び
図5を用いて、第2実施形態に係る鋼管用ねじ継手1について説明する。第1実施形態と同じ構成については説明を省略し、基本的には第1実施形態と異なる構成について詳しく説明する。
【0043】
第2実施形態の鋼管用ねじ継手1において、ピン10は、凹部15ではなく、環状の凸部15を含む。
図4に示すように、凸部15は、縦断面視において台形状に突出するように形成されている。凸部15は、ピン10先端側の端部151を有する。凸部15の端部151は、第1実施形態の凹部15と同様に位置付けられる。これにより、第2実施形態の鋼管用ねじ継手1は、第1実施形態の鋼管用ねじ継手1と同様の効果を得ることができる。
【0044】
凸部15の突出形状は、ピン10の内周面に不連続な形状を形成できれば限定されるものではない。
図5に示すように、凸部15は、縦断面視において、台形状ではなく、曲面を有する形状に突出させてもよく、凸曲面を有するように突出させてもよい。
【0045】
[第3実施形態]
次に、
図6を用いて、第3実施形態に係る鋼管用ねじ継手1について説明する。第1実施形態と同じ構成については説明を省略し、基本的には第1実施形態と異なる構成について詳しく説明する。
【0046】
図6に示すように、凹部15は、ピン10の内周面に管軸CL方向に並ぶように複数設けてもよい。このとき、凹部15の端部151は、複数の凹部15のうちピン10の先端に最も近い凹部15の端部151である。凹部15を複数設けたことにより、ピン10の内周面は、より不連続に形成される。これにより、ピン内シール面13近傍に蓄積される塑性ひずみを安定して分散させることができ、より優れた圧縮性能及び密封性能を得ることができる。なお、第3実施形態における凹部15は、第2実施形態における凸部15に置き換えてもよい。また、第3実施形態における凹部15と第2実施形態における凸部15とを組み合わせて凹凸構造を形成してもよい。
【0047】
[第4実施形態]
次に、
図7を用いて、第4実施形態に係る鋼管用ねじ継手1について説明する。第1実施形態と同じ構成については説明を省略し、基本的には第1実施形態と異なる構成について詳しく説明する。
【0048】
図7に示すように、第4実施形態の鋼管用ねじ継手1において、凹部15は、管軸CLに対して垂直方向に視て、ピン内シール面13の管軸CL方向の長さL1の50%以下と重なる重なり領域152を有する。すなわち、重なり領域152は、ピン内シール面13の管軸CL方向の長さL1の50%以下の長さL2を有する。このように重なり領域152を有する場合であっても、凹部15の端部151がシールポイントSPと鋼管本体2との間に位置し、かつ、重なり領域152の管軸CL方向の長さL2が比較的短ければ、ピン内シール面13近傍における剛性の低下を抑制しながら、ピン内シール面13近傍に蓄積される塑性ひずみを十分に分散させることができる。その結果、鋼管用ねじ継手は、優れた圧縮性能及び密封性能を得ることができる。
【0049】
なお、第4実施形態における鋼管用ねじ継手1において、凹部15は、第2実施形態における凸部15に置き換えてもよい。このとき、凸部15を含むピン内シール面13近傍の厚みは大きくなる。これにより、ピン内シール面13近傍における剛性を確保しながら、ピン内シール面13近傍に蓄積される塑性ひずみを十分に分散させることができる。
【0050】
以上、実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0051】
1:鋼管用ねじ継手
2:鋼管本体
10:ピン
11:ピンノーズ
12:ピンショルダ面
13:ピン内シール面
14:雄ねじ
15:凹部、凸部
16:ピン外シール面
20:ボックス
21:ボックスショルダ面
22:ボックス内シール面
23:雌ねじ
24:ボックス外シール面
25:接続面
26:先端面
SP:シールポイント
L1:ピン内シール面の管軸方向の長さ
L2:重なり領域の管軸方向の長さ