(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135321
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】表皮取付構造及び表皮取付方法
(51)【国際特許分類】
A47C 31/02 20060101AFI20240927BHJP
B68G 7/05 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A47C31/02 A
B68G7/05 B
B68G7/05 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045947
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高蔵 実
(72)【発明者】
【氏名】小松 均
(57)【要約】
【課題】表皮を容易にシートパッドに取り付けることができる表皮取付構造及び表皮取付方法を得る。
【解決手段】表皮取付構造10は、車両用シート12の内側に配置され、挿入孔32が形成されたベース部28と、シートパッド20の一部分を覆う第1表皮材24の端部24Aに固定された第1クリップ構成部材36と、シートパッド20の他の部分を覆う第2表皮材26の端部26Aに固定されかつ第1クリップ構成部材36と係合可能に構成された第2クリップ構成部材38と、を含んで構成され、第1クリップ構成部材36と第2クリップ構成部材38とが互いに係合された状態で、シート外側から挿入孔32に挿入されベース部28に係止されたクリップ34と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートの内側に配置され、挿入孔が形成されたベース部と、
シートパッドの一部分を覆う第1表皮材の端部に固定された第1クリップ構成部材と、前記シートパッドの他の部分を覆う第2表皮材の端部に固定されかつ前記第1クリップ構成部材と係合可能に構成された第2クリップ構成部材と、を含んで構成され、前記第1クリップ構成部材と前記第2クリップ構成部材とが互いに係合された状態で、シート外側から前記挿入孔に挿入され前記ベース部に係止されたクリップと、
を有する表皮取付構造。
【請求項2】
前記クリップは、前記第1クリップ構成部材に形成された第1爪部構成部と前記第2クリップ構成部材に形成された第2爪部構成部とを含んで構成されると共に前記挿入孔に係止された爪部を備えている、
請求項1に記載の表皮取付構造。
【請求項3】
前記挿入孔は、前記ベース部を貫通して形成されており、
前記クリップは、挿入方向の先端部に前記爪部を備えており、
当該爪部は、前記ベース部における前記挿入孔のシート内側の孔縁部に係止されている、
請求項2に記載の表皮取付構造。
【請求項4】
前記クリップは、前記第1爪部構成部と前記第2爪部構成部との間に隙間を有している、
請求項2に記載の表皮取付構造。
【請求項5】
前記クリップは、前記挿入孔のシート外側の孔縁部に係止されたフランジ部を備えている、
請求項1に記載の表皮取付構造。
【請求項6】
前記挿入孔は、前記ベース部に複数形成されており、
前記クリップは、前記複数の挿入孔にそれぞれ挿入された複数の挿入部と、当該複数の挿入部を連結する前記フランジ部と、を備えている、
請求項5に記載の表皮取付構造。
【請求項7】
前記第1表皮材の前記端部は、前記第1クリップ構成部材の挿入方向の先端部において、前記第2クリップ構成部材と対向する面とは反対側の面に固定されており、
前記第2表皮材の前記端部は、前記第2クリップ構成部材の挿入方向の先端部において、前記第1クリップ構成部材と対向する面とは反対側の面に固定されている
請求項1に記載の表皮取付構造。
【請求項8】
シートパッドの一部分を覆う第1表皮材の端部に固定された第1クリップ構成部材と前記シートパッドの他の部分を覆う第2表皮材の端部に固定された第2クリップ構成部材とを互いに係合させてクリップを構成する係合工程と、
前記クリップを、車両用シートの内側に配置されたベース部に形成された挿入孔に挿入して、当該ベース部に係止する挿入工程と、
を有する表皮取付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮取付構造及び表皮取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両用シートにおいて、クッションパッド(シートパッド)の正面側表面を覆う表皮とクッションパッドの背面側表面を覆う背面材とを連結させる構造が開示されている。この技術では、表皮の端末部に縫製されたJフックを、背面材の端末部に縫製されたJフックに係合させることによって、表皮と背面材の各端末部同士が連結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術では、表皮を引っ張りながらJフック同士を係合させる必要がある。このため、Jフック同士の係合作業は難しく、作業者の熟練度が低い場合に多大な時間を要する。よって、表皮を容易にシートパッドに取り付けるには、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、表皮を容易にシートパッドに取り付けることができる表皮取付構造及び表皮取付方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明に係る表皮取付構造は、車両用シートの内側に配置され、挿入孔が形成されたベース部と、シートパッドの一部分を覆う第1表皮材の端部に固定された第1クリップ構成部材と、前記シートパッドの他の部分を覆う第2表皮材の端部に固定されかつ前記第1クリップ構成部材と係合可能に構成された第2クリップ構成部材と、を含んで構成され、前記第1クリップ構成部材と前記第2クリップ構成部材とが互いに係合された状態で、シート外側から前記挿入孔に挿入され前記ベース部に係止されたクリップと、を有している。
【0007】
請求項1に記載の本発明によれば、シートパッドの一部分は、第1表皮材に覆われる。また、シートパッドの他の部分は、第2表皮材に覆われる。ここで、第1表皮材の端部には、第1クリップ構成部材が固定されており、第2表皮材の端部には、第2クリップ構成部材が固定されている。
【0008】
表皮をシートパッドに取り付ける際には、まず、第1表皮材及び第2表皮材がシートパッドに被せられる。次に、ベース部の近傍で第1クリップ構成部材と第2クリップ構成部材とが互いに係合されて、クリップが構成される。そして、第1クリップ構成部材及び第2クリップ構成部材が係合された状態のクリップがベース部の挿入孔に挿入される。これにより、クリップがベース部に係止される。
【0009】
このように、第1クリップ構成部材と第2クリップ構成部材とが係合されて第1表皮材と第2表皮材とが連結された状態でクリップが挿入孔に挿入される。よって、クリップの挿入前には、第1表皮材と第2表皮材とをシートパッドから離れた位置で容易に連結することができる。また、クリップの挿入後は、第1表皮材及び第2表皮材をシートパッドに沿わせて張ることができる。
【0010】
請求項2に記載の本発明に係る表皮取付構造は、請求項1に記載の発明において、前記クリップは、前記第1クリップ構成部材に形成された第1爪部構成部と前記第2クリップ構成部材に形成された第2爪部構成部とを含んで構成されると共に前記挿入孔に係止された爪部を備えている。
【0011】
請求項2に記載の本発明によれば、クリップは、挿入孔に係止される爪部を備えており、爪部は、第1クリップ構成部材に形成された第1爪部構成部と、第2クリップ構成部材に形成された第2爪部構成部と含んで構成されている。よって、第1クリップ構成部材及び第2クリップ構成部材がそれぞれ挿入孔に係止されるため、第1クリップ構成部材及び第2クリップ構成部材の一方のみが係止される構造と比較して、クリップが安定してベース部に係止される。
【0012】
請求項3に記載の本発明に係る表皮取付構造は、請求項2に記載の発明において、前記挿入孔は、前記ベース部を貫通して形成されており、前記クリップは、挿入方向の先端部に前記爪部を備えており、当該爪部は、前記ベース部における前記挿入孔のシート内側の孔縁部に係止されている。
【0013】
請求項3に記載の本発明によれば、爪部が挿入孔のシート内側の孔縁部に係止されるため、クリップはより一層安定してベース部に係止される。
【0014】
請求項4に記載の本発明に係る表皮取付構造は、請求項2に記載の発明において、前記クリップは、前記第1爪部構成部と前記第2爪部構成部との間に隙間を有している。
【0015】
請求項4に記載の本発明によれば、クリップが挿入孔に挿入される際、第1爪部構成部と第2爪部構成部とが互いに近接するように第1クリップ構成部材及び第2クリップ構成部材がそれぞれ撓む。よって、爪部の幅が細くなり、クリップを挿入孔に挿入する際の抵抗が低下する。
【0016】
請求項5に記載の本発明に係る表皮取付構造は、請求項1に記載の発明において、前記クリップは、前記挿入孔のシート外側の孔縁部に係止されたフランジ部を備えている。
【0017】
請求項5に記載の本発明によれば、クリップは、フランジ部において、挿入孔のシート外側の孔縁部に係止される。よって、作業者がクリップを挿入孔に挿入する際に、クリップを押し込みすぎることを防止することができる。
【0018】
請求項6に記載の本発明に係る表皮取付構造は、請求項5に記載の発明において、前記挿入孔は、前記ベース部に複数形成されており、前記クリップは、前記複数の挿入孔にそれぞれ挿入された複数の挿入部と、当該複数の挿入部を連結する前記フランジ部と、を備えている。
【0019】
請求項6に記載の本発明によれば、作業者は、フランジ部を把持して複数の挿入部を複数の挿入孔に一度に挿入させることができる。ここで、仮に挿入孔が1つの長孔である場合、挿入孔の中央部が膨らみやすいため、挿入部が抜けやすくなってしまう。これに対して、本発明によれば、挿入孔が複数に分割されているため、各挿入孔のシート表面に沿う方向の寸法を小さくすることができる。よって、挿入孔の膨らみを抑制し、挿入部を抜け難くすることができる。
【0020】
請求項7に記載の本発明に係る表皮取付構造は、請求項1に記載の表皮取付構造において、前記第1表皮材の前記端部は、前記第1クリップ構成部材の挿入方向の先端部において、前記第2クリップ構成部材と対向する面とは反対側の面に固定されており、前記第2表皮材の前記端部は、前記第2クリップ構成部材の挿入方向の先端部において、前記第1クリップ構成部材と対向する面とは反対側の面に固定されている。
【0021】
請求項7に記載の本発明によれば、第1表皮材及び第2表皮材の各端部は、第1クリップ構成部材及び第2クリップ構成部材において互いに対向する面とは反対側かつ挿入方向の各先端部に固定されている。このため、クリップが挿入孔に挿入されると、第1表皮材及び第2表皮材の各端部周辺が、クリップと共に挿入孔に深く挿入される。これにより、第1表皮材及び第2表皮材の各端部がそれぞれ第1クリップ構成部材及び第2クリップ構成部材の挿入方向の基端部に固定されている場合や、第1表皮材及び第2表皮材の各端部が第1クリップ構成部材及び第2クリップ構成部材において互いに対向する面にそれぞれ設けられている場合と比較して、挿入前の状態において第1表皮材及び第2表皮材に余長を持たせることができる。よって、第1表皮材及び第2表皮材に余長を持たせた状態で容易に第1クリップ構成部材と第2クリップ構成部材とを係合させることができる。
【0022】
請求項8に記載の本発明に係る表皮取付方法は、シートパッドの一部分を覆う第1表皮材の端部に固定された第1クリップ構成部材と前記シートパッドの他の部分を覆う第2表皮材の端部に固定された第2クリップ構成部材とを互いに係合させてクリップを構成する係合工程と、前記クリップを、車両用シートの内側に配置されたベース部に形成された挿入孔に挿入して、当該ベース部に係止する挿入工程と、を有している。
【0023】
請求項8に記載の本発明によれば、係合工程において、第1表皮材の端部に固定された第1クリップ構成部材と第2表皮材の端部に固定された第2クリップ構成部材とが互いに係合される。これにより、クリップが構成される。また、挿入工程において、ベース部の挿入孔にクリップが挿入される。これにより、クリップがベース部に係止される。
【0024】
本発明によれば、第1クリップ構成部材と第2クリップ構成部材とを係合して第1表皮材と第2表皮材とを連結させた後に、クリップを挿入孔に挿入することで、第1表皮材と第2表皮材をそれぞれシートパッドに沿わせて張ることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、請求項1に記載の本発明に係る表皮取付構造は、シートの外観意匠性を維持しつつ、表皮を容易にシートパッドに取り付けることができるという優れた効果を有する。
【0026】
請求項2に記載の本発明に係る表皮取付構造は、クリップを安定してベース部に留めることができるという優れた効果を有する。
【0027】
請求項3に記載の本発明に係る表皮取付構造は、ベース部を容易に成形することができると共に、クリップをより一層安定してベース部に留めることができるという優れた効果を有する。
【0028】
請求項4に記載の本発明に係る表皮取付構造は、クリップを容易に挿入孔に挿入することができるという優れた効果を有する。
【0029】
請求項5に記載の本発明に係る表皮取付構造は、作業性をより一層向上させることができるという優れた効果を有する。
【0030】
請求項6に記載の本発明に係る表皮取付構造は、クリップをより一層安定してベース部に留めることができるという優れた効果を有する。
【0031】
請求項7に記載の本発明に係る表皮取付構造は、第1クリップ構成部材と第2クリップ構成部材との係合をより一層容易にすることができるという優れた効果を有する。
【0032】
請求項8に記載の本発明に係る表皮取付方法は、シートの外観意匠性を維持しつつ、表皮を容易にシートパッドに取り付けることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本実施形態に係る表皮取付構造を含んで構成された車両用シートの後方斜視図である。
【
図2】
図1の2-2線で切断した断面を拡大した要部拡大断面図である。
【
図4】
図2に示される第1クリップ構成部材及び第2クリップ構成部材の斜視図である。
【
図5】
図2に示される第1クリップ構成部材及び第2クリップ構成部材の係合前の状態を示す、
図2に対応する要部拡大断面図である。
【
図6】
図5に示される第1クリップ構成部材及び第2クリップ構成部材が係合されて
図3に示されるベース部の挿入孔に挿入される前の状態を示す要部拡大断面図である。
【
図7】変形例に係る表皮取付構造を示す、
図2に対応する要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、
図1~
図6を用いて、本発明の第1実施形態に係る表皮取付構造10について説明する。なお、各図に適宜示される矢印FR、矢印UP、矢印LH及び矢印RHは、表皮取付構造10が採用されたシートバック16を備えた車両用シート12のシート前方側、シート上方側、シート幅方向左側及びシート幅方向右側を示している。また、以下の説明で特記なく前後、上下、左右の方向を用いる場合は、シート前後方向の前後、シート上下方向の上下、シート左右方向(幅方向)の左右をそれぞれ示すものとする。
【0035】
図1には、車両用シート12の後方斜視図が示されている。車両用シート12は、着座乗員の臀部及び大腿部を支持可能なシートクッション14と、着座乗員の背部を支持可能なシートバック16と、を備えている。シートバック16は、リクライニング機構18を介してシートクッション14の後端部に傾倒可能に連結されている。
【0036】
シートバック16は、骨格を構成する図示しないシートバックフレームと、シートバックフレームに装着されたシートパッドとしてのシートバックパッド20(
図2参照)と、シートバックパッド20を覆う表皮22と、を備えている。表皮22は、一例としてポリ塩化ビニル製とするが、布材、ニット素材、合成皮革及び皮革等、あらゆる材質を採用し得る。
【0037】
表皮22は、シートバック16の前面、上面、左右側面及び背面の上部を覆う第1表皮材としての意匠面トリム24と、シートバック16の背面の下部を覆う第2表皮材としての背面トリム26と、を含んで構成されている。意匠面トリム24は、シートバック16の前面、上面、左右側面及び背面の上部の形状に沿って立体的に形成されている。一方、背面トリム26は、シートバック16の背面の下部に沿って略矩形状に形成されている。
【0038】
また、背面トリム26のシート上下方向中央部には、シート幅方向に沿って縫製部27が設けられている。当該縫製部27には、略矩形状のスカート(図示省略)の上端部が縫製されている。スカートは、シートバック16の下部及びシートクッション14の上部を覆い隠すように配置されている。なお、表皮はスカートを備えていなくてもよい。
【0039】
ここで、意匠面トリム24と背面トリム26とは、互いに縫製されており、これにより表皮22は下側が開放された袋状に構成されている。つまり、表皮22は、シートバックパッド20(
図2参照)に装着される前の状態で開口部22A(
図5参照)を備えており、当該開口部22Aからシートバックパッド20が挿入されることで、シートバックパッド20に被せられるようになっている。なお、意匠面トリム24と背面トリム26との結合方法は縫製に限らず、例えばファスナ等で結合してもよい。
【0040】
図2には、
図1の2-2線断面図が示されている。シートバックパッド20は、例えばポリウレタンフォーム等の発泡樹脂製とされている。ここで、シートバック16の下端部において、シートバックパッド20の下端部のシート後側には、略直方体状のベース部28が隣接して設けられている。ベース部28は、例えば軽くて汎用性の高い発泡ポリプロピレン等、シートバックパッド20よりも硬質な発泡樹脂で成形されている。なお、ベース部は、発泡樹脂以外の樹脂材料で成形されていてもよい。また、ベース部の材質は樹脂に限らず、金属等他の材質であってもよい。
【0041】
図3に示されるように、ベース部28は、シート幅方向に沿って延在している。ベース部28の下面には、シート上側へ向かって凹んだ凹部30が形成されている。凹部30は、シート下側から見てシート幅方向を長手方向とする略矩形状に形成されている。
【0042】
また、ベース部28には、それぞれシート上下方向に貫通する挿入孔としての貫通孔32が3つ形成されている。各貫通孔32は、シート幅方向を長手方向とする略矩形の長孔とされている。3つの貫通孔32は、シート幅方向に間隔をあけて形成されており、それぞれベース部28においてシート前後方向の中央部に形成されている。左右両端の貫通孔32におけるシート幅方向外側の端部は、凹部30のシート幅方向の両端部と一致している。なお、挿入孔の数は3つに限定されるものではない。
【0043】
ベース部28は、ベース部発泡成形型(図示省略)において発泡成型される。シートバックパッド20は、パッド発泡成形型(図示省略)にベース部28をセットした状態で発泡剤を流し込んで発砲することで、ベース部28と一体に成形される。なお、ベース部とシートパッドとの結合方法はこれに限らず、例えば接着等の方法でベース部をシートパッドに固定してもよい。また、シートパッドとベース部とを結合せずに、それぞれをシートフレームに装着することで、シートパッドとベース部とを隣接させてもよい。
【0044】
図2に示されるように、ベース部28の貫通孔32には、クリップ34が挿入されている。クリップ34は、意匠面トリム24の下端部24Aに固定された第1クリップ構成部材としての前側樹脂部材36と、背面トリム26の下端部26Aに固定された第2クリップ構成部材としての後側樹脂部材38と、が互いに係合されて構成されている。前側樹脂部材36及び後側樹脂部材38は、一例として、ポリプロピレン等の樹脂製とされているが、これに限らず、他の材質で構成されていてもよい。
【0045】
クリップ34は、前側樹脂部材36と後側樹脂部材38とが互いに係合された状態で、シート下側からベース部28の貫通孔32に挿通されている。クリップ34は、各貫通孔32に挿通された3つの挿入部40と、凹部30において貫通孔32のシート下側の孔縁部32Aに係止されたフランジ部42と、を含んで構成されている。各挿入部40の挿入方向の先端部(上端部)には、爪部44が設けられている。爪部44は、貫通孔32のシート上側の孔縁部32Bに係止されている。なお、挿入部は、3つに限定されるものではなく、挿入孔の数に応じて適宜設けられる。
【0046】
図4に示されるように、前側樹脂部材36は、シート幅方向に延在する長尺状の前フランジ46と、前フランジ46から立設された3つの前側挿入片50と、を備えている。同様に、後側樹脂部材38は、シート幅方向に延在する長尺状の後フランジ48と、後フランジ48から立設された3つの後側挿入片52と、を備えている。各前側挿入片50及び各後側挿入片52は、それぞれシート幅方向に連続した断面形状を有している。
【0047】
前側樹脂部材36及び後側樹脂部材38は、一例として、それぞれ押出成形された後に、各前側挿入片50、後側挿入片52の間を切り欠かれて形成されているが、これに限らず、第1クリップ構成部材及び第2クリップ構成部材は、例えば射出成形等、他の方法で成形されていてもよい。
【0048】
前側樹脂部材36の各前側挿入片50は、前フランジ46の後端部からシート上向きに立設された略矩形板状の前壁部50Aと、前壁部50Aの上端部においてシート前方側へ屈曲された第1爪部構成部としての前側爪部50Bと、を備えている。前側挿入片50は、さらに、前壁部50Aの後面からシート後方側かつシート下方側へ突出して形成された上下一対の前側フック50Cを備えている。上下一対の前側フック50Cは、側断面視で下向きの略L字状に形成されている。
【0049】
同様に、後側樹脂部材38の各後側挿入片52は、後フランジ48の前端部からシート上向きに立設された略矩形板状の後壁部52Aと、後壁部52Aの上端部においてシート後方側へ屈曲された第2爪部構成部としての後側爪部52Bと、を備えている。後側挿入片52はさらに、後壁部52Aの前面からシート前方側かつシート上方側へ突出して形成された上下一対の後側フック52Cを備えている。上下一対の後側フック52Cは、前側樹脂部材36の上下一対の前側フック50Cと係合可能に側断面視で上向きの略L字状に形成されている。後側樹脂部材38は、上下一対の後側フック52C部分を除いて、前側樹脂部材36と前後対称に形成されている。
【0050】
なお、本実施形態では、それぞれ側断面視で略L字状に形成された前側フック50Cと後側フック52Cとが係合するものとして説明したが、これに限らず、他の形状及び態様によって第1クリップ構成部材と第2クリップ構成部材とが係合されてもよい。また、各前側挿入片50、各後側挿入片52は、連続した断面形状を有するものとして説明したが、これに限らない。例えば、第1クリップ構成部材及び第2クリップ構成部材の一方の一部を凹状に形成し、他方の一部を凸状に形成することで、第1クリップ構成部材と第2クリップ構成部材とを係合させてもよい。
【0051】
図2に示されるように、クリップ34は、前側樹脂部材36における上下一対の前側フック50Cと、後側樹脂部材38における上下一対の後側フック52Cと、が互いに係合されることで、前側樹脂部材36と後側樹脂部材38とが一体になって構成されている。
【0052】
また、意匠面トリム24の下端部24Aは、3つの前側挿入片50に対応する部分を残して切り欠かれている。前側樹脂部材36は、各前側挿入片50において、シート幅方向に沿って意匠面トリム24の下端部24Aに縫製されている。具体的には、前側爪部50Bの下側と上側の前側フック50Cとの間における前壁部50Aのシート前方側の面において、意匠面トリム24に縫製されている。
【0053】
背面トリム26の下端部26Aは、3つの後側挿入片52に対応する部分を残して切り欠かれている。後側樹脂部材38は、各後側挿入片52において、シート幅方向に沿って背面トリム26の下端部26Aに縫製されている。具体的には、後側爪部52Bの下側と上側の後側フック52Cとの間における後壁部52Aのシート後方側の面において、背面トリム26に縫製されている。なお、前側樹脂部材36及び後側樹脂部材38は、縫製に限らず、他の方法で意匠面トリム24及び背面トリム26にそれぞれ固定されていてもよい。
【0054】
ここで、前フランジ46と後フランジ48とを含んで構成されたフランジ部42は、シート下側から見て、凹部30よりも一回り小さく形成されている。これにより、フランジ部42は、凹部に収容されている。
【0055】
(本実施形態の作用)
次に、本実施形態に係る表皮取付構造10の表皮22をシートバックパッド20に取り付ける表皮取付方法について説明し、その説明を通して本実施形態の作用について説明する。ここでは、ベース部28と一体となったシートバックパッド20が図示しないシートバックフレームに装着され、袋状の表皮22がシートバックパッド20に被せられた後の工程について説明する。
【0056】
(係合工程)
図5に示されるように、表皮22は、シートバックパッド20に被せられた状態で下端部に開口部22Aを有している。開口部22Aは、意匠面トリム24の下端部24Aと、背面トリム26の下端部26Aとを含んで構成されている。
【0057】
図6に示されるように、係合工程において、意匠面トリム24の下端部24Aに縫製された前側樹脂部材36と、背面トリム26の下端部26Aに縫製された後側樹脂部材38とが係合される。より詳細には、各前側挿入片50の上下一対の前側フック50Cと、各後側挿入片52の上下一対の後側フック52Cとが係合される。これにより、クリップ34が構成されて開口部22A(
図5参照)が閉じられる。係合工程において、意匠面トリム24の下端部24A及び背面トリム26の下端部26Aは撓んでいる。
【0058】
(挿入工程)
さらに、
図2に示されるように、クリップ34は、ベース部28の貫通孔32に挿入される。これにより、爪部44が貫通孔32のシート上側の孔縁部32Bに係止されると共に、フランジ部42が貫通孔32のシート下側の孔縁部32Aに係止される。このとき意匠面トリム24の下端部24A及び背面トリム26の下端部26Aは、それぞれクリップ34と共に貫通孔32に入り込み、貫通孔32とクリップ34に挟まれて固定される。
【0059】
本実施形態に係る表皮取付構造10及び表皮取付方法によれば、前側樹脂部材36と後側樹脂部材38とが係合されて意匠面トリム24の下端部24Aと背面トリム26の下端部26Aとが連結された後に、クリップ34が貫通孔32に挿入される。よって、クリップ34の挿入前には、意匠面トリム24及び背面トリム26をシートバックパッド20から離れた位置で容易に連結することができる。また、クリップ34の挿入後は、意匠面トリム24及び背面トリム26をシートバックパッド20に沿わせて張ることができる。
【0060】
また、本実施形態に係る表皮取付構造10及び表皮取付方法によれば、クリップ34は、爪部44において貫通孔32に係止される。ここで、爪部44は、前側樹脂部材36に形成された前側爪部50Bと、後側樹脂部材38に形成された後側爪部52Bとを備えている。よって、前側樹脂部材36及び後側樹脂部材38がそれぞれ貫通孔32に係止されるため、クリップ34が安定してベース部28に係止される。
【0061】
さらに、本実施形態に係る表皮取付構造10及び表皮取付方法によれば、貫通孔32はベース部28において貫通して形成されているため、ベース部28を容易に成形することができる。また、爪部44が貫通孔32のシート上側の孔縁部32Bに係止されるため、クリップ34はより一層安定してベース部28に係止される。
【0062】
さらにまた、本実施形態に係る表皮取付構造10及び表皮取付方法によれば、クリップ34が貫通孔32に挿通される際、前側爪部50Bと後側爪部52Bとが互いに近接するように前側樹脂部材36及び後側樹脂部材38がそれぞれ撓む。よって、爪部44の幅が細くなり、クリップ34を貫通孔32に挿入する際の抵抗が低下する。
【0063】
また、本実施形態に係る表皮取付構造10及び表皮取付方法によれば、クリップ34は、フランジ部42において、貫通孔32のシート下側の孔縁部32Aに係止される。よって、作業者がクリップ34を貫通孔32に挿通させる際に、クリップ34を押し込みすぎることを防止することができる。
【0064】
さらに、本実施形態に係る表皮取付構造10及び表皮取付方法によれば、作業者は、フランジ部42を把持して複数の挿入部40を複数の貫通孔32に一度に挿入させることができる。ここで、仮に挿入孔が1つの長孔である場合、挿入孔の中央部が膨らみやすいため、挿入部が抜けやすくなってしまう。これに対して、本発明によれば、貫通孔32が複数に分割されているため、各貫通孔32のシート表面に沿う方向の寸法を小さくすることができる。よって、貫通孔32の膨らみを抑制し、挿入部40を抜け難くすることができる。
【0065】
さらにまた、本実施形態に係る表皮取付構造10及び表皮取付方法によれば、意匠面トリム24及び背面トリム26は、前側樹脂部材36及び後側樹脂部材38において、互いに対向する面とは反対側かつ挿入方向の各先端部に設けられている。このため、クリップ34が貫通孔32に挿入されると、意匠面トリム24の下端部24A周辺及び背面トリム26の下端部26A周辺が、クリップ34と共に貫通孔32に深く挿入される。これにより、意匠面トリム及び背面トリムの各端部がそれぞれ前側樹脂部材及び後側樹脂部材の挿入方向の基端部に固定されている場合や、意匠面トリム24の下端部24A及び背面トリム26の下端部26Aが前側樹脂部材36及び後側樹脂部材38において互いに対向する面にそれぞれ固定されている場合と比較して、挿入前の状態において意匠面トリム24及び背面トリム26に余長を持たせることができる。よって、意匠面トリム24及び背面トリム26に余長を持たせた状態で容易に前側樹脂部材36と後側樹脂部材38とを係合させることができる。
【0066】
〔上記実施形態の補足説明〕
上記実施形態では、表皮取付構造10は、シートバック16に採用されているものとして説明したが、これに限らない。例えば、表皮取付構造は、ヘッドレストやアームレストに採用されてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、クリップ34は、前側樹脂部材36に形成された前側爪部50Bと後側樹脂部材38に形成された後側爪部52Bとを含んで構成された爪部44において、貫通孔32のシート上側の孔縁部32Bに係止されているものとして説明したが、これに限らない。例えば、クリップは、第1クリップ構成部材及び第2クリップ構成部材のいずれか一方にのみ爪部を備えていてもよい。
【0068】
さらに、上記実施形態では、ベース部28において貫通孔32がシート上下方向に貫通して形成されているものとして説明したが、これに限らず、挿入孔は貫通して形成されていなくてもよい。
【0069】
さらにまた、クリップ34は、挿入方向の先端部に爪部44を備えており、爪部44が貫通孔32のシート上側の孔縁部32Bに係止されているものとして説明したが、これに限らない。例えば、
図7に示される変形例の構造を採用してもよい。なお、以下の変形例において、本実施形態と同一の構成については、同一の符号を付して適宜その説明を省略する。
【0070】
(変形例)
図7に示されるように、変形例に係る表皮取付構造60は、シートバック62に採用されており、ベース部28と、意匠面トリム24に縫製された前側樹脂部材64と、背面トリム26に縫製された後側樹脂部材66と、を含んで構成されたクリップ68と、を備えている。前側樹脂部材64の各前側挿入片70は、前壁部70Aと、前側爪部70Bと、上下一対の前側フック70Cと、を備えている。また、後側樹脂部材66の各後側挿入片72は、後壁部72Aと、後側爪部72Bと、上下一対の後側フック72Cと、を備えている。
【0071】
ここで、前壁部70A及び後壁部72Aにおいて、上側の前側フック70C及び後側フック72Cは、それぞれ挿入方向の先端部に設けられている。また、前側爪部70B及び後側爪部72Bは、前側樹脂部材64及び後側樹脂部材66において、それぞれ上下一対の前側フック70C及び上下一対の後側フック72Cの間に設けられている。なお、
図7において、実線はクリップ68が貫通孔32に挿通される前の状態を表し、二点鎖線は、クリップ68が貫通孔32に挿通されて表皮22が取り付けられた後の状態を示している。
【0072】
本変形例に係る表皮取付構造60によれば、前側爪部70B及び後側爪部72Bによって構成された爪部74は、貫通孔32の上下方向の中央部においてベース部28に食い込んで係止される。
【0073】
また、本変形例に係る表皮取付構造60によれば、クリップ68の先端部が上側の前側フック70C及び上側の後側フック72Cによって係合されているため、クリップ68の挿入前の状態において、仮に意匠面トリム24の下端部24Aがシート前方側へ引っ張られ、背面トリム26の下端部26Aがシート後方側へ引っ張られたとしても、前側樹脂部材64と後側樹脂部材66の先端部同士が離れてクリップ68の先端部が開いてしまうことを抑制することができる。よって、クリップ68の貫通孔32への挿入をより一層容易にすることができる。なお、クリップ68は、貫通孔32に限らず、貫通していない挿入孔に挿入されてもよい。この場合であっても、爪部74が挿入孔に係止されるため、表皮22をシートバックパッド20に取り付けることができる。
【0074】
以上の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0075】
(付記1)
車両用シートの内側に配置され、挿入孔が形成されたベース部と、
前記シートパッドの一部分を覆う第1表皮材の端部に固定された第1クリップ構成部材と、前記シートパッドの他の部分を覆う第2表皮材の端部に固定されかつ前記第1クリップ構成部材と係合可能に構成された第2クリップ構成部材
と、を含んで構成され、前記第1クリップ構成部材と前記第2クリップ構成部材とが互いに係合された状態で、シート外側から前記挿入孔に挿入され前記ベース部に係止されたクリップと、
を有する表皮取付構造。
(付記2)
前記クリップは、前記第1クリップ構成部材に形成された第1爪部構成部と前記第2クリップ構成部材に形成された第2爪部構成部とを備えた爪部において、前記挿入孔に係止されている、
付記1に記載の表皮取付構造。
(付記3)
前記挿入孔は、前記ベース部を貫通して形成されており、
前記クリップは、挿入方向の先端部に前記爪部を備えており、
当該爪部は、前記ベース部における前記挿入孔のシート内側の孔縁部に係止されている、
付記2に記載の表皮取付構造。
(付記4)
前記クリップは、前記第1爪部構成部と前記第2爪部構成部との間に隙間を有している、
付記2又は付記3に記載の表皮取付構造。
(付記5)
前記クリップは、前記挿入孔のシート外側の孔縁部に係止されたフランジ部を備えている、
付記1~付記5のいずれか一に記載の表皮取付構造。
(付記6)
前記挿入孔は、前記ベース部に複数形成されており、
前記クリップは、前記複数の挿入孔にそれぞれ挿入された複数の挿入部と、当該複数の挿入部を連結する前記フランジ部と、を備えている、
付記5に記載の表皮取付構造。
(付記7)
前記第1表皮材の前記端部は、前記第1クリップ構成部材の挿入方向の先端部において、前記第2クリップ構成部材と対向する面とは反対側の面に固定されており、
前記第2表皮材の前記端部は、前記第2クリップ構成部材の挿入方向の先端部において、前記第1クリップ構成部材と対向する面とは反対側の面に固定されている
請求項1~付記6のいずれか一に記載の表皮取付構造。
【符号の説明】
【0076】
10、60 表皮取付構造
12 車両用シート
20 シートバックパッド(シートパッド)
22 表皮
24 意匠面トリム(第1表皮材)
24A 意匠面トリムの下端部(第1表皮材の端部)
26 背面トリム(第2表皮材)
26A 背面トリムの下端部(第2表皮材の端部)
28 ベース部
32 貫通孔(挿入孔)
32A シート外側の孔縁部
32B シート内側の孔縁部
34、68 クリップ
36、64 前側樹脂部材(第1クリップ構成部材)
38、66 後側樹脂部材(第2クリップ構成部材)
40 挿入部
42 フランジ部
44、74 爪部
50B、70B 前側爪部(第1爪部構成部)
52B、72B 後側爪部(第2爪部構成部)