(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135332
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】リチウム硫黄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20240927BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240927BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240927BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20240927BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240927BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240927BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20240927BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/052
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M4/38 Z
H01M4/58
H01M4/40
H01M50/491
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045959
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 洋輔
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021HH02
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK05
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ04
5H029HJ04
5H029HJ09
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050CA11
5H050CB12
5H050DA19
5H050HA04
5H050HA09
(57)【要約】
【課題】 電圧特性を落とすことなくサイクル性能を向上させたリチウム硫黄電池を提供する。
【解決手段】本発明に係るリチウム硫黄電池は、リチウム硫黄電池において、正負極電極間距離(ミクロン)をセパレータ空孔率(%)で割った値(DP値)が、サイクル特性と電圧特性に大きな影響を及ぼすことを見出し、その値を0.5以上2.5以下と設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単体硫黄および/または硫黄化合物が電極活物質として使用された電極を正極、金属リチウムおよび/またはその合金が電極活物質として使用された電極を負極に用い、さらに正負極間をセパレータにて隔てた構造を有するリチウム硫黄電池において、正負極電極間距離(ミクロン)をセパレータ空孔率(%)で割ったDP値が0.5以上2.5以下であることを特徴とするリチウム硫黄電池。
【請求項2】
前記DP値が1.0以上1.5以下であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項3】
前記セパレータ空孔率が20%以上50%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項4】
前記正負極電極間距離が25ミクロン以上100ミクロン以下であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項5】
前記正負極電極間距離が32ミクロン以上100ミクロン以下であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項6】
リチウム塩としてリチウムビストリフルオロスルホニルアミド(LiTFSA)および/またはリチウムビスフルオロスルホニルアミド(LiFSA)、溶媒としてトリエチレングリコールジメチルエーテル(G3)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)、スルホランから選ばれる少なくとも1種を含み、さらにフッ素化エーテルを含むことを特徴とする、請求項1に記載のリチウム硫黄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム硫黄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の応用領域が電気自動車(EV)やエネルギー貯蔵装置(ESS)などに拡がることにつれ、高エネルギー密度を有する電池が求められているが、既存のリチウムイオン二次電池(例えば、特許文献1を参照)では限界があり、次世代二次電池技術の開発が急務となっている。その中でも、リチウム硫黄電池は、硫黄単位重量あたりの容量が大きく、実用化への期待が高い電池と位置付けられている。
【0003】
リチウム硫黄電池は、S-S結合(Sulfur-Sulfur Bond)を有する硫黄系物質を正極活物質で使用し、リチウム金属を負極活物質で使用した電池である。硫黄はクラーク数が15位と豊富であるため安価であり、かつ硫黄単体では毒性も低く、次世代電池材料に適した要件を備えている。
【0004】
リチウム硫黄電池は、放電時に負極活物質であるリチウムが電子を放出し、正極活物質である硫黄が電子を受け入れ還元される。ここで、リチウムの酸化反応は、リチウム金属が電子を放出してリチウムイオンとなる過程である。また、硫黄の還元反応は、S-S結合が2個の電子を受け入れてS2-に変換される過程である。リチウムの酸化反応によって生成されたリチウムイオンは、電解質を通じて正極に伝達され、硫黄の還元反応によって生成された硫化物イオンと結合する。具体的に、放電前の硫黄は環形のS8構造を有しているが、これは還元反応によってリチウムポリスルフィド(Lithium polysulfide、LiSx)に変換される。リチウムポリスルフィドが還元される場合、多段階反応を経て最終的にリチウムスルフィド(Li2S)となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このリチウムポリスルフィドは電解液への溶解性が高く、充放電に伴い活物質として使用している硫黄が徐々に電極から無くなってしまうことによる容量低下が大きな問題となっている。この問題は、以前から電池研究者および技術者の間ではよく知られている事柄であり、炭素材料中にポリスルフィドを閉じ込めることで電解液中への溶出を防ぐ方法、あるいはポリスルフィドの溶解性の低い電解液を開発することで電解液中への溶出を防ぐ方法などが開発され対策が取られている。上記対策により、ポリスルフィド溶出の問題は少しずつ解決に向かっているが、実用化が可能なレベルには達していないのが現状である。
【0007】
このように、電極および電解液からの課題解決のアプローチは大学や研究機関などを中心に行われているが、リチウム硫黄電池のセル構成を工夫することによる課題解決のアプローチは、ほとんど行われていない。リチウム硫黄電池を実用化しようとした際に、実際に製品を作るのは大学や研究機関ではなく電池メーカーとなるが、製品化に乗り出そうとしているメーカーはまだ少ないことが、セル構成の検討が行われない理由として挙げられる。このため、リチウム硫黄電池を作製する際は、既存のリチウムイオン電池の構成(特許文献1参照)をそのままリチウム硫黄電池に適用しているのが実態となっているが、電気化学的な原理そのものがリチウムイオン電池とリチウム硫黄電池とでは異なるため、リチウム硫黄電池に適したセル構成の検討が必要となっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決のため、リチウム硫黄電池のセル構成に着目した。鋭意検討の結果、電極間距離をセパレータの空孔率で割った値(以下、DP値)を0.5以上2.5以下と規定することにより、上記組み合わせ特有の効果が発生し、リチウム硫黄電池の電圧特性を落とすことなく、サイクル性能が向上させることが可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るリチウム硫黄電池は、単体硫黄および/または硫黄化合物が電極活物質として使用された電極を正極、金属リチウムおよび/またはその合金が電極活物質として使用された電極を負極に用い、さらに正負極間をセパレータにて隔てた構造を有するリチウム硫黄電池において、正負極電極間距離(ミクロン)をセパレータ空孔率(%)で割った値(DP値)が0.5以上2.5以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るリチウム硫黄電池は、第二の観点として、上記の第一の観点において、前記DP値が1.0以上1.5以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るリチウム硫黄電池は、第三の観点として、上記の第一の観点において、前記セパレータ空孔率が20%以上50%以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るリチウム硫黄電池は、第四の観点として、上記の第一の観点において、前記正負極電極間距離が25ミクロン以上100ミクロン以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るリチウム硫黄電池は、第五の観点として、上記の第一の観点において、前記正負極電極間距離が32ミクロン以上100ミクロン以下であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るリチウム硫黄電池は、第六の観点として、上記の第一の観点において、リチウム塩としてリチウムビストリフルオロスルホニルアミド(LiTFSA)および/またはリチウムビスフルオロスルホニルアミド(LiFSA)、溶媒としてトリエチレングリコールジメチルエーテル(G3)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)、スルホランから選ばれる少なくとも1種を含み、さらにフッ素化エーテルを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、電圧特性を落とすことなく高いサイクル性能を有する、実用性の高いリチウム硫黄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係るリチウム硫黄電池の一例として示す、コイン型の電池の模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態2に係るリチウム硫黄電池の一例として示す、積層型の電池の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の形態や構成について例示するが、本発明はこれらに限定されることはなく、特許請求の範囲に記載の事項、課題を解決するための手段、発明の効果等の記載の意図に沿ったものであれば、全て本発明に含まれる。
【0018】
本発明は、リチウム硫黄電池に関し、下記の3点の特徴を有する。
【0019】
第1点としては、DP値を0.5以上2.5以下と規定する点である。この値は、リチウムイオン電池では0.5未満であることが一般的であり、従来のセル構成とは一線を画す。DP値の設定が重要となるのは、本電池系が極間距離と空孔率を単に規定すれば良いほど単純ではないことに因る。これら2つのパラメータのバランスが重要であり、これが0.5以上2.5以下の範囲でのみ、電圧特性とサイクル特性とのバランスの取れた実用可能なリチウム硫黄電池となり、この点を本発明者は他者に先駆けて見出した。例えば、サイクル特性が良くなったとしても、電圧特性が低下してしまうようでは実用的・商用的価値は皆無であり、本発明がいかに有用なものであるかは言うに及ばない。DP値が0.5以上2.5以下というのは、リチウムイオン電池と比較した場合、定性的には、極間距離が広く、かつセパレータの空孔率が小さくなる。より好ましくは、DP値は1.0以上1.5以下である。2.5より大であると、セパ空孔率に対して極間距離が大きすぎ、電解液抵抗が上がりすぎて電圧低下が生じる。
DP値をコントロールするには、セパレータの厚みを調整する方法と、セパレータの枚数を増やす方法とが考えられる。
また、DP値の計測は、電池を解体して、ある正負極の極板間の全てのセパレータの厚みを合計したものの最大値とする。
なお、本発明は、巻回型、積層型、どちらでも適用可能である。巻回型のリチウムイオン電池でDP値を計測する場合、電極が屈曲しておらず、平面状となっている部分を利用して計測する。
【0020】
第2点としては、セパレータの空孔率を20%以上50%以下とする点である。リチウムイオン電池では強度に問題が出ない範囲では、空孔率は高いほど良いことが常識となっており、特許文献1においても、セパレータ空孔率は35%以上60%以下と本発明より大きな値となっている。なお、本発明においてリチウム硫黄電池の場合は、リチウムイオン電池の場合とは逆の傾向となっている点も、本発明者が他者に先駆けて見出した点である。リチウム硫黄電池では、正極で溶出したポリスルフィドが負極へ移動することによって生じるレドックスシャトル現象が問題となるが、セパレータ空孔率が低いほど遮蔽性が高く、物理的にポリスルフィドが負極に到達しにくくなる。ただし、空孔率が低くなりすぎると極間抵抗が大きくなりすぎ、電圧降下への影響が大きくなる。本発明では、第1点との組み合わせとして、セパレータの空孔率を20%以上50%以下とすることによって、サイクル特性向上の効果が得られる。
【0021】
第3点としては、正負極電極間距離を25ミクロン以上100ミクロン以下とする点である。リチウムイオン電池では正負極電極間距離は短いほど良いことが常識となっており、特許文献1においても、セパレータ厚み(=正負極電極間距離)は最大でも25ミクロン未満であり、本発明より小さな値となっている。なお、この点においても、本発明においてリチウム硫黄電池の場合は、リチウムイオン電池の場合とは逆の傾向となっており、本発明者が他者に先駆けて見出した点である。リチウム硫黄電池では、正極で溶出したポリスルフィドが負極へ移動することによって生じるレドックスシャトル現象が問題となるが、正負極電極間距離が長くなるほど、正極で溶出したポリスルフィドが負極に到達する前に放電が終了するため、結果としてレドックスシャトル抑制によるサイクル特性改善が可能となる。ただし、正負極電極間距離が長くなりすぎると、極間に含まれる電解液量が多くなりすぎ、ポリスルフィド溶解量が増加することによるサイクル特性の低下を招く。
【0022】
[リチウム硫黄電池]
本発明のリチウム硫黄電池は、例えば以下に説明する正極、負極、セパレータ、非水電解液、端子および外装体により構成され得る。
【0023】
〈正極〉
正極は、例えば正極活物質合剤電極層(以下、「合剤層」とする場合がある)と、集電体にて構成される。
【0024】
(正極活物質合剤電極層)
正極活物質合剤電極層は、例えば正極活物質、導電材、結着剤、溶媒にて構成することができる。また、正極活物質としては、単体硫黄あるいは硫黄化合物が例示される。単体硫黄にはα型、γ型等の同素体が存在するが、全て電極活物質として作用する。また、硫黄化合物としては、金属硫化物、硫黄系高分子化合物などが挙げられるが、電極活物質として作用するものは全て本発明に含まれる。
【0025】
また、導電材は、本発明においては特に制限はなく、例えば、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、メソ孔連通型炭素材料、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維、活性炭、黒鉛等の公知または市販のものを使用することができる。ただし、本発明では、その使用方法に特徴を持たせることができ、上述の正極活物質と共に乳鉢等ですり潰すようにして複合体として使用する。正極活物質として使用する硫黄および硫黄化合物は、リチウムイオン電池で使用される正極活物質と比較して、電子伝導性が非常に低く、単体では絶縁体として作用してしまい、電極活物質として使用できない。このため、複合体とすることで炭素材料との接触表面積を大きく取り、硫黄を電極活物質として使用する。
【0026】
結着剤においても特に制限はなく、公知または市販のものを使用することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル樹脂等を使用することができる。
【0027】
溶媒も本発明においては特に制限はなく、使用する正極活物質あるいは結着剤によって種々の溶媒を選択することができる。具体的には、結着剤としてPVDF、PTFEを用いる場合は、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを用いることが好ましく、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系結着剤を用いる場合には、溶媒として水が好適である。
【0028】
(集電体)
集電体も本発明においては特に制限はないが、リチウムイオン電池正極用集電体としてはアルミニウム箔が一般的であり、用途によっては多孔質アルミニウム集電体も用いられる。
【0029】
正極は、例えば次に示す方法で作製することができる。最初に、正極活物質と導電助剤を乳鉢で混合して複合体を作製し、その複合体と結着剤等を溶剤に分散させてスラリーを調製する。続いて、正極集電体の一方又は両方の面に正極スラリーを塗布した後、乾燥して正極活物質合剤電極層を形成する。これらの工程により正極が作製され得る。
【0030】
〈負極〉
負極は、負極活物質と集電体にて構成される。
【0031】
(負極活物質)
負極活物質としては、本発明においては、金属リチウムおよびその合金に限定される。形態としては、金属箔の状態で使用され、本発明においては概ね100ミクロン以下の厚さが好適である。さらに正確には、正極側の単位容量に相当する量の金属箔があれば良く、10ミクロンでも使用することができる。リチウムは、3851mAh/gという、電池の電極活物質として使用可能な元素の中で最も理論容量が大きく、少量でも大きな容量を発現する特徴を有する。
【0032】
(集電体)
集電体も本発明においては特に制限はないが、電子伝導性の観点から、銅箔が最適であるが、ステンレス箔、アルミ箔なども使用可能である。
【0033】
負極は、例えば次に示す方法で作製することができる。最初に、金属リチウム圧延箔を作製しておき、その後、集電体と重ねてプレスをかけることにより作製する。また、この他に、真空蒸着などの方法で金属リチウムを集電箔上に設けることもできる。
【0034】
〈セパレータ〉
正極と負極との間に介在するセパレータとしては、一般的に用いられているPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン系樹脂や、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等よりなる合成樹脂製の不織布や多孔シート、ガラスセパレータ等を使用することができる。不織布や多孔シートは、単層であっても、多層構造であってもよい。なお、乾式セパレータと湿式セパレータとの双方が本発明に使用でき、透気度や、積層の状態、比重、引張強度、吸水率などは任意に選択できる。
【0035】
本発明においては、セパレータの材質には制限はないが、空孔率に制限があり、上記第2点の特徴として空孔率が20%以上50%以下のときのみ効果を発揮する。空孔率は、セパレータを作製する際の延伸率等にて調整が可能である。
【0036】
さらに、本発明においては、正負極電極間距離に制限があるため、この正負極電極間距離をセパレータの厚みによって調整を行う。1枚のセパレータで規定の正負極電極間距離としても、複数枚のセパレータを重ねて使用しても、どちらでも良い。また、正負極電極間距離はX線CTスキャナによっても測定可能であり、例えば、TOSCANER-32252μhd(株式会社東芝製)によって電池内部を透過させて計測することができる。
【0037】
〈非水電解液〉
非水電解液は、電解質、電解液溶媒によって構成され、場合によっては希釈剤を使用することもある。本発明における非水電解液の種類は多岐にわたり、従来のリチウムイオン電池のように電解質と溶媒にて構成されるもの、常温溶融塩電解液、電解質と溶媒の相互作用でクラスターを生成するもの(溶媒和イオン液体、濃厚電解液系)などが存在し、いずれの電解液も使用可能である。
【0038】
電解質は、特に限定はなく、リチウムイオン二次電池で一般に用いられるリチウムイオンを含むリチウム塩を本発明にも使用することができる。例えば、リチウムビストリフルオロスルホニルアミド(LiTFSA)、リチウムビスフルオロスルホニルアミド(LiFSA)、LiPF6等のリチウム塩を使用することができる。これらの電解質は、1種類で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、リチウム塩の濃度は特に限定はないが、リチウムイオン電池の電解液のような場合は、電解液溶媒に対して0.1mol/L以上2.0mol/L以下であることが好ましく、クラスターを生成する電解液の場合は2.0mol/L以上5.0mol/L以下であることが一般的である。
【0039】
より詳しくは、リチウムイオン電池の電解液のような従来型の場合は、電解質として、例えば0.1M(mol/L)以上2.0M以下のLiTFSAおよび/またはLiFSAを含み、溶媒としてジオキソラン、ジメトキシエタンといったエーテルを用いた電解液が例示される。
【0040】
また、クラスター形成系電解液としては、LiTFSAおよび/またはLiFSAを2.0mol/L以上5.0mol/L以下で含み、トリエチレングリコールジメチルエーテル(G3)および/またはテトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)といった中鎖エーテルを溶媒に用いた溶媒和イオン液体、あるいは、濃厚電解液系としては、溶媒としてスルホランを用いた電解液が例示される。リチウム硫黄電池は、これらのうち少なくとも一種を含んでいることが好ましい。さらにフッ素化エーテルを含むことがより好ましい。
【0041】
さらに、クラスター形成系電解液の場合には、希釈剤が使用されることがある。クラスター形成系電解液は、電解質濃度が高いため一般に高粘度であり、そのままではセパレータの細孔に浸透できないケースが存在する。溶媒ではなく希釈剤と呼ぶのは、形成されたクラスターを壊すことなく低粘度化が可能な点にある。具体的には、フッ素化エーテルとしてハイドロフルオロエーテルが使用され、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルが本発明においては好適である。
【0042】
〈端子〉
端子としては、金属が一般に使用される。材料および形状に制限はないが、本発明においては、例えば材料としてはアルミニウムおよび銅が好適であり、形状としては結線等にて変形しないような形状が好適である。
【0043】
〈外装体〉
外装体としては、例えば缶材およびラミネート材が選択される。材料および形状に制限はないが、例えば材料としては缶材ではステンレスが好適であり、ラミネート材ではアルミ箔の表面をプラスチックフィルムにてコーティングしたものが好適である。形状はセル容量に応じて変化させることができ、一般的にセル容量が大きいほど大きな形状となる。
【0044】
本発明のリチウム硫黄電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、角形、扁平型等が挙げられる。
【0045】
(実施の形態1)
以下、コイン型のリチウム硫黄電池を例にして、本発明の実施の形態1に係るリチウム硫黄電池の構造を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係るリチウム硫黄電池の一例として示す、コイン型の電池の模式的な断面図である。
【0046】
コイン型のリチウム硫黄電池1は、正極2と、負極3と、それら正極2および負極3の間に配置されたセパレータ4とを備える。これら正極2、負極3およびセパレータ4は、図の下部側に位置する第1外部端子5と、図の上部側に位置する第2外部端子6との間に収納されている。当該第1外部端子5および当該第2外部端子6の接続部位は、ガスケット7により絶縁されている。
【0047】
正極2は、第1外部端子5の内面に位置してそれと接続される正極集電体21と、当該正極集電体21のセパレータ4と対向する面に設けられた正極層22とから構成されている。
【0048】
負極3は、第2外部端子6の内面に位置してそれと接続される負極集電体31と、当該負極集電体31のセパレータ4と対向する面に設けられた、金属リチウムからなる負極層32とから構成されている。
【0049】
セパレータ4は、例えば非水電解質に含浸されている。
【0050】
第2外部端子6は、その端部がその下端および両側面をガスケット7で包んだ状態で第1外部端子5内に挿入され、下部側の第1外部端子5の開口端をガスケット7側に湾曲させて第2外部端子6を第1外部端子5にかしめ固定するとともに、第1外部端子5および第2外部端子6の接続部位をガスケット7により絶縁している。
【0051】
本実施の形態1において、上述した第1点~第3点のうち、少なくとも第1点の条件を満たすことによって、電圧特性を落とすことなく高いサイクル性能を有する、実用性の高いリチウム硫黄電池とすることができる。
【0052】
(実施の形態2)
次に、
図2を参照して、本発明の実施の形態2に係るリチウム硫黄電池の一例である積層型の電池について説明する。
図2は、本発明の実施の形態2に係るリチウム硫黄電池の一例として示す、積層型の電池の模式的な断面図である。
【0053】
積層型のリチウム硫黄電池100は、ラミネートフィルムからなる袋状の外装体200を備えている。外装体200内には、積層構造の電極群300が収納されている。ラミネートフィルムは、例えば複数枚(例えば2枚)のプラスチックフィルムをそれらのフィルム間にアルミニウム箔のような金属箔を挟んで積層した構造を有する。2枚のプラスチックフィルムのうち、一方のプラスチックフィルムは熱融着性樹脂フィルムが用いられる。外装体200は、2枚のラミネートフィルムを熱融着性樹脂フィルムが互いに対向するように重ね、これらのラミネートフィルム間に電極群300を収納し、電極群300周辺の2枚のラミネートフィルム部分を互いに熱融着して封止することにより、前記電極群300を気密に収納している。
【0054】
電極群300は、正極400と、負極500と、それら正極400、負極500の間に介在されたセパレータ600とを備える。リチウム硫黄電池100では、負極500が最外層に位置するとともに、負極500と外装体200の内面の間にセパレータ600が位置するように、複数の電極群300を積層した構造を有する。
【0055】
正極400は、正極集電体410と、当該正極集電体410の両面に形成された正極層420とから構成されている。負極500は、負極集電体510と、当該負極集電体510の両面に形成された金属リチウムからなる負極層520とから構成されている。
【0056】
正極400は、正極集電体410が正極層420の例えば左側面から延出した正極リード700を有する。各正極リード700は、外装体200内において先端側で束ねられ、互いに接合されている。正極タブ800は、一端が正極リード700の接合部に接合され、かつ他端が外装体200の封止部を通して外部に延出している。
【0057】
また、負極500は、負極集電体510が負極層520の例えば右側面から延出した負極リード900を有する。各負極リード900は、外装体200内において先端側で束ねられ、互いに接合されている。負極タブ1000は、一端が負極リード900の接合部に接合され、かつ他端が外装体200の封止部を通して外部に延出している。非水電解液は、外装体200内に注入されている。外装体200の注入箇所は、非水電解液の注入後に封止される。
【0058】
本実施の形態2において、上述した第1点~第3点のうち、少なくとも第1点の条件を満たすことによって、電圧特性を落とすことなく高いサイクル性能を有する、実用性の高いリチウム硫黄電池とすることができる。
【実施例0059】
以下に、実施例を挙げて本発明についてさらに詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されない。
なお、本発明のポリオレフィン製微多孔膜の諸特性(特性1、2)は、次の試験方法にて評価した。
1.膜厚(μm)
マイクロメーターを用いて、雰囲気温度23±2℃で測定する。
2.空孔率(%)
Xcm×Ycmの矩形のサンプルを切り出し、下記(1)式により算出した。
空孔率={1-(10000×M/ρ)/(X×Y×T)}×100 ・・・(1)
上式(1)中、T:サンプル厚み(μm)、M:サンプル重量(g)、ρ:樹脂の密度
【0060】
<実施例1>
(1)電解液の調製
4.0gのLiTFSAと、3.3gのスルホランとを混合し、一晩攪拌した。このときの塩濃度は3.0mol/Lであった。その後、希釈剤として1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルを12.0g加え、電解液とした。
【0061】
(2)硫黄複合体の作製
環状単体硫黄(S8)と、メソ連通孔型炭素材料(東洋炭素社製 CNovel(登録商標) MH00)とを、それぞれ10g、擂潰機へ投入し、一晩混合した。その後、混合物を耐熱容器に移し、オーブンで165℃、10時間加熱し、硫黄複合体(正極複合体)を得た。
【0062】
(3)硫黄電極の作製
水を溶媒にして、上記にて作製した硫黄複合体、導電材、およびバインダーをボールミルで混合して硫黄電極スラリーを作製した。この時、導電材はデンカブラック(登録商標 デンカ製)を、バインダーはSBR(JSR製)とCMC(日本製紙:サンローズ)との混合形態のバインダーを使用し、混合の割合は重量比で硫黄複合体:導電材:バインダーが90:10:10とした。作製した硫黄電極スラリーをアルミニウム集電体に塗布した後、乾燥して硫黄電極を作製した。
【0063】
(4)金属リチウム極の作製
負極集電体である厚さ10ミクロンの銅箔上に、厚み50ミクロンの金属リチウムを貼り付け、プレスすることにより金属リチウム極を作製した。
【0064】
(5)リチウム硫黄電池(コインセル型)の作製
露点-50℃以下の雰囲気下、コインセル外装体の内部に、硫黄極、金属リチウム極、ポリエチレンセパレータを2枚(総厚み50ミクロン、空孔率40%、DP値1.3)、非水電解液を組み込み、上蓋をした後、かしめ機にて周囲をかしめることによりコイン型のリチウム硫黄電池(2032型)を作製し、実施例1とした。
【0065】
(6)充放電試験
東洋システム社製充放電試験装置(TOSCAT-3000)にて、充放電試験を行った。放電容量の測定は、作製した実施例1のリチウム硫黄電池について、0.1Cにて1.0Vまで定電流放電を行い、到達時間、電流値、硫黄電極中の硫黄重量から、放電容量は1195mAh/gと算出された。また、サイクル試験は、上記放電後、15分間の休止を入れた後、0.1C、3.0Vにて定電流/定電圧充電を行い、さらに15分間の休止を入れ、これを1サイクルとした。50サイクル後の放電容量維持率は80%であり、50サイクル目の放電平均電圧は、1.82Vであった。なお、放電容量維持率と放電平均電圧は、下記計算式にて算出される。
【0066】
実施例1における物性および試験結果を、表1に示す。
【表1】
【0067】
<実施例2>
ポリエチレンセパレータを3枚(総厚み75ミクロン、空孔率40%、DP値1.9)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、実施例2とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1182mAh/g、放電容量維持率83%、放電平均電圧1.77Vであった。実施例2における物性および試験結果を、表1に示す。
【0068】
<実施例3>
ポリエチレンセパレータを4枚(総厚み100ミクロン、空孔率40%、DP値2.5)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、実施例3とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1177mAh/g、放電容量維持率87%、放電平均電圧1.70Vであった。実施例3における物性および試験結果を、表1に示す。
【0069】
<実施例4>
ポリエチレンセパレータを1枚(総厚み25ミクロン、空孔率40%、DP値0.6)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、実施例4とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1250mAh/g、放電容量維持率72%、放電平均電圧1.88Vであった。実施例4における物性および試験結果を、表1に示す。
【0070】
<実施例5>
ポリエチレンセパレータを2枚(総厚み50ミクロン、空孔率50%、DP値1.0)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、実施例5とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1202mAh/g、放電容量維持率73%、放電平均電圧1.79Vであった。実施例5における物性および試験結果を、表1に示す。
【0071】
<実施例6>
ポリエチレンセパレータを3枚(総厚み75ミクロン、空孔率50%、DP値1.5)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、実施例6とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1190mAh/g、放電容量維持率75%、放電平均電圧1.75Vであった。実施例6における物性および試験結果を、表1に示す。
【0072】
<実施例7>
ポリエチレンセパレータを4枚(総厚み100ミクロン、空孔率50%、DP値2.0)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、実施例7とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1188mAh/g、放電容量維持率78%、放電平均電圧1.70Vであった。実施例7における物性および試験結果を、表1に示す。
【0073】
<実施例8>
ポリエチレンセパレータを1枚(総厚み25ミクロン、空孔率50%、DP値0.5)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、実施例8とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1154mAh/g、放電容量維持率70%、放電平均電圧1.88Vであった。実施例8における物性および試験結果を、表1に示す。
【0074】
<実施例9>
ポリエチレンセパレータを1枚(総厚み25ミクロン、空孔率20%、DP値1.3)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、実施例9とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1178mAh/g、放電容量維持率81%、放電平均電圧1.73Vであった。実施例9における物性および試験結果を、表1に示す。
【0075】
<実施例10>
ポリエチレンセパレータを2枚(総厚み32ミクロン、空孔率50%、DP値0.6)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、実施例10とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1158mAh/g、放電容量維持率76%、放電平均電圧1.87Vであった。実施例10における物性および試験結果を、表1に示す。
【0076】
<実施例11>
ポリエチレンセパレータを1枚(総厚み20ミクロン、空孔率10%、DP値2.0)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、実施例11とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1058mAh/g、放電容量維持率85%、放電平均電圧1.70Vであった。実施例11における物性および試験結果を、表1に示す。
【0077】
<実施例12>
ポリエチレンセパレータを2枚(総厚み50ミクロン、空孔率60%、DP値0.8)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、実施例12とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量 1255mAh/g、放電容量維持率 70%、放電平均電圧 1.86Vであった。実施例12における物性および試験結果を、表1に示す。
【0078】
<実施例13>
ポリエチレンセパレータを5枚(総厚み125ミクロン、空孔率60%、DP値2.1)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、実施例13とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1176mAh/g、放電容量維持率72%、放電平均電圧1.71Vであった。実施例13における物性および試験結果を、表1に示す。
【0079】
<実施例14>
ポリエチレンセパレータを1枚(総厚み16ミクロン、空孔率10%、DP値1.6)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、実施例14とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1105mAh/g、放電容量維持率 83%、放電平均電圧1.73Vであった。実施例14における物性および試験結果を、表1に示す。
【0080】
<実施例15>
電解液として1.0MのLiTFSAおよびジオキソラン/ジメトキシエタン(1:1体積比)に硝酸リチウムを0.1wt%添加したものを用いた以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、実施例15とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1304mAh/g、放電容量維持率73%、放電平均電圧1.93Vであった。実施例15における物性および試験結果を、表1に示す。
【0081】
<従来例>
ポリエチレンセパレータを1枚(総厚み16ミクロン、空孔率50%、DP値0.3)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、従来例とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1350mAh/g、放電容量維持率 48%、放電平均電圧1.86Vであった。従来例における物性および試験結果を、表1に示す。
【0082】
<比較例1>
ポリエチレンセパレータを5枚(総厚み125ミクロン、空孔率40%、DP値3.1)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、比較例1とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1200mAh/g、放電容量維持率80%、放電平均電圧1.60Vであった。比較例1における物性および試験結果を、表1に示す。
【0083】
<比較例2>
ポリエチレンセパレータを2枚(総厚み50ミクロン、空孔率10%、DP値5.0)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、比較例2とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1089mAh/g、放電容量維持率90%、放電平均電圧1.51Vであった。比較例2における物性および試験結果を、表1に示す。
【0084】
<比較例3>
ポリエチレンセパレータを1枚(総厚み25ミクロン、空孔率60%、DP値0.4)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム硫黄電池を作製し、比較例3とした。実施例1と同様の方法にて充放電試験を実施し、放電容量1322mAh/g、放電容量維持率65%、放電平均電圧1.90Vであった。比較例3における物性および試験結果を、表1に示す。
【0085】
表1に示すように、全ての水準において、初回放電容量の値が1000~1400mAh/gであったことから、試験セル作製上の問題はなく、50サイクル経過時の容量維持率および放電平均電圧の違いは、DP値に依存するものと考えられる。実施例1~14では、容量維持率は70~90%であり、なおかつ放電平均電圧が1.70V以上となった。本発明は、電圧特性を下げることなくサイクル特性を向上させた、実用性の高いリチウム硫黄電池の提供を課題として挙げており、その事が証明された結果となった。DP値が0.5未満では、容量維持率が低く、レドックスシャトル現象が起きたと考えられる。DP値が2.5より大では平均電圧が低く、電解液抵抗が上がりすぎて電圧低下が生じたものと考えられる。
【0086】
なかでも、初回放電容量が1178(mAh/g)以上でより良く、維持率が73%以上でより良く、平均電圧が1.73V以上であるとより良いとしたとき、DP値が1.0以上1.5以下で全ての値が良いことが示された。
【0087】
従来例は、リチウムイオン電池の一般的な構成をリチウム硫黄電池に適用した例である。近年では、リチウムイオン電池は車載用途等で高出力を求められることが増え、電解液抵抗を低減する目的でセパレータを薄くすることがトレンドとなっている。しかし、リチウム硫黄電池では、正極からのポリスルフィドの溶出という、リチウムイオン電池にはない要素があり、このことが容量維持率を低下させる直接の原因になったと考えられる。従来例では、空孔率が50%のセパレータを使用したが、仮に40%であったとしても容量維持率の大幅低下は避けられず、DP値の設定がいかに重要であるかが示される結果といえる。
【0088】
比較例1は、セパレータを5枚入れた例である。初回放電容量は1200mAh/g、50サイクル経過時の容量維持率は80%であったことから、0.1Cといった低い放電レートであれば、これらの性能に正負極電極間距離が与える影響は小さいと考えられる。しかし、50サイクル経過時の放電平均電圧は1.60Vと極端に他の水準よりも低く、実用性の高いリチウム硫黄電池とは言えない結果であった。セパレータを5枚入れたことによりポリスルフィドの影響は小さく抑えられているものの、逆に、電極間抵抗が大きくなりすぎてしまい、容量は出るが肝心の電圧が出ないという電池となってしまった。この点においても、DP値の設定がいかに重要であるかが示される結果といえる。
【0089】
以上より、リチウム硫黄電池において、正負極電極間距離をセパレータの空孔率で割った値(以下、DP値)を0.5~2.5と規定することにより、電圧特性を落とすことなく、サイクル性能が向上させることが可能であり、電気自動車、ドローン等のモビリティー用途はもちろんのこと、自然エネルギー貯蔵用途等、幅広い分野における使用が期待される。
1・・・リチウム硫黄電池、 2・・・正極、 3・・・負極、 4・・・セパレータ、 5・・・第1外部端子、 6・・・第2外部端子、 7・・・ガスケット、 21・・・正極集電体、 22・・・正極層、 31・・・負極集電体、 32・・・負極層、 100・・・積層型のリチウム硫黄電池、 200・・・外装体、 300・・・電極群、 400・・・正極、 500・・・負極、 600・・・セパレータ、 410・・・正極集電体、 420・・・正極層、 510・・・負極集電体、 520・・・負極層、 700・・・正極リード、 800・・・正極タブ、 900・・・負極リード、 1000・・・負極タブ