(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135373
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御方法、ハイブリッド車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 20/12 20160101AFI20240927BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20240927BHJP
B60W 20/11 20160101ALI20240927BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240927BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240927BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20240927BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20240927BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B60W20/12
B60K6/46 ZHV
B60W20/11
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60L50/61
F01N3/20 D
F02D29/06 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046011
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内河 寛明
【テーマコード(参考)】
3D202
3G091
3G093
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB00
3D202BB08
3D202BB09
3D202BB11
3D202CC10
3D202CC47
3D202DD00
3D202DD01
3D202DD22
3D202DD45
3D202DD50
3G091AA14
3G091BA02
3G091DB10
3G091EA18
3G091EA28
3G091EA38
3G091EA39
3G091FA04
3G091FC07
3G093AA07
3G093BA21
3G093CA03
3G093DB05
3G093DB09
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BD17
5H125CA18
5H125CD09
5H125EE27
5H125EE52
5H125EE62
5H125EE64
5H125EE65
(57)【要約】
【課題】EVモードで走行中に触媒暖機制御が発生する頻度を低下させるハイブリッド車両の制御方法、及びハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】車両がEV走行区間を走行するときの触媒の温度降下特性と走行時間を予測し、温度降下特性と走行時間と下限温度に基づいて車両がEV走行区間の始点から終点まで走行する際の触媒の温度推移であって車両がEV走行区間の終点に到達するときの触媒の温度が下限温度又は下限温度よりも高い温度となる第1の温度関数を算出し、第1の温度関数に基づいて車両がEV走行区間の始点に到達するときの触媒の温度を目標温度として算出し、車両がEV走行区間の始点に到達する前の触媒の温度が目標温度よりも低い場合に、車両がEV走行区間の始点に到達するときの触媒の温度が目標温度となるように、車両がEV走行区間の始点に到達する前に触媒暖機制御を実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリにより駆動モータを駆動して走行し、発電用のエンジンで発電機を駆動させて発電した電力を前記バッテリ又は前記駆動モータに供給する車両において、前記エンジンの排気ガスを触媒により浄化するとともに前記触媒の温度が所定の下限温度よりも低くなると前記エンジンを用いて前記触媒を暖機する触媒暖機制御を実行し、前記車両の走行先にEV走行区間が設定された場合に前記EV走行区間において前記エンジンの駆動を停止させて前記バッテリの電力により前記駆動モータを駆動させるEVモードで前記車両を走行させるハイブリッド車両の制御方法であって、
前記車両が前記EV走行区間を走行するときの前記触媒の温度降下特性を予測し、
前記車両が前記EV走行区間を走行するときの前記車両の車速を予測し、
前記EV走行区間の距離と前記車速に基づいて前記車両の前記EV走行区間の始点から終点までを走行する走行時間を予測し、
前記温度降下特性と、前記走行時間と、前記下限温度と、に基づいて前記車両が前記EV走行区間の始点から終点まで走行する際の前記触媒の温度推移であって前記車両が前記EV走行区間の終点に到達するときの前記触媒の温度が前記下限温度又は前記下限温度よりも高い温度となる第1の温度関数を算出し、前記第1の温度関数に基づいて前記車両が前記EV走行区間の始点に到達するときの前記触媒の温度を目標温度として算出し、
前記車両が前記EV走行区間の始点に到達する前の前記触媒の温度が前記目標温度よりも低い場合に、前記車両が前記EV走行区間の始点に到達するときの前記触媒の温度が前記目標温度となるように、前記車両が前記EV走行区間の始点に到達する前に前記触媒暖機制御を実行するハイブリッド車両の制御方法。
【請求項2】
前記温度降下特性を前記EV走行区間の始点に到達する前の前記車両の車速に基づいて予測する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項3】
前記車両の出発地から目的地までの走行予定経路の情報を取得し、前記温度降下特性を前記走行予定経路における気象条件を表す気象パラメータに基づいて予測する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項4】
前記車両の出発地から目的地までの走行予定経路の情報を取得するとともに前記車両が前記走行予定経路を走行する際の前記駆動モータの走行負荷を予測し、前記走行予定経路において前記走行負荷が所定の閾値よりも低い区間を前記EV走行区間に設定する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項5】
前記車両が走行した過去の走行経路の履歴情報を記録し、前記車両の出発地から目的地までの走行予定経路の情報を取得するとともに前記走行予定経路が前記履歴情報の前記走行経路に含まれる場合において、前記走行予定経路を走行する際の前記駆動モータの走行負荷を前記走行経路に基づいて予測し、前記走行経路において前記走行負荷が所定の閾値よりも低い区間を前記走行予定経路における前記EV走行区間に設定する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項6】
前記走行負荷を、前記走行予定経路における道路勾配、統計平均車速、制限車速のいずれかに基づいて予測する請求項4又は請求項5に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項7】
前記車両の出発地から目的地までの走行予定経路の情報を取得し、前記走行予定経路の距離が所定の走行距離よりも短い場合に前記走行予定経路を前記EV走行区間に設定し、前記走行予定経路における統計平均車速又は制限車速に基づいて前記温度降下特性と、前記EV走行区間における前記車速と、を予測する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項8】
前記車両の出発地から目的地までの走行予定経路の情報と、渋滞情報を取得するとともに前記走行予定経路に前記渋滞情報が包含する渋滞発生区間が含まれる場合において、
前記渋滞発生区間を前記EV走行区間に設定し、
前記渋滞情報が包含する前記渋滞発生区間における推定車速に基づいて前記温度降下特性と、前記EV走行区間における前記車速と、を予測する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項9】
前記車両が走行した過去の走行経路と前記走行経路に設定された前記EV走行区間と前記走行経路における前記車速の履歴を履歴情報として記録し、前記車両の出発地から目的地までの走行予定経路の情報を取得するとともに前記走行予定経路が前記履歴情報の前記走行経路に含まれる場合において、
前記走行予定経路に対応する前記走行経路において前記EV走行区間として設定された頻度が所定の閾値よりも高い区間を前記走行予定経路における前記EV走行区間に設定し、
前記走行予定経路に対応する前記履歴情報の前記走行経路の前記EV走行区間における前記車速を、前記走行予定経路の前記EV走行区間における前記車速として予測する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項10】
前記車両が走行した過去の走行経路と前記走行経路における前記車速の履歴を履歴情報として記録し、前記車両の出発地から目的地までの走行予定経路の情報を取得するとともに前記走行予定経路が前記履歴情報の前記走行経路に含まれる場合において、
前記走行予定経路が前記エンジンの駆動を禁止する指定区間を含む場合において、前記指定区間を前記EV走行区間に設定し、
前記走行予定経路に対応する前記履歴情報の前記走行経路の前記指定区間に対応する経路における前記車速を、前記走行予定経路の前記EV走行区間における前記車速として予測する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項11】
前記EV走行区間の距離と前記車速との積が所定値よりも高くなる場合、前記積が前記所定値を超えないように前記EV走行区間の距離を補正する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項12】
前記車両が前記EV走行区間の始点よりも前を走行し且つ前記車両の現在地と前記EV走行区間の始点との距離が所定距離よりも長い場合に前記触媒暖機制御を実行せず前記所定距離以下になったときに前記触媒暖機制御を実行する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項13】
前記車両が前記EV走行区間の始点に到達する前の前記バッテリの充電率が所定の上限値を超える場合に前記触媒暖機制御を実行しない請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項14】
前記触媒の温度が前記目標温度に到達しない状態で前記車両が前記EV走行区間の始点に到達した場合に前記エンジンの駆動を停止する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項15】
前記車両のドライバーの操作により設定された要求EV走行区間を前記EV走行区間として設定する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項16】
前記車両の位置情報と前記車両が前記EV走行区間の始点に到達する前の前記車両の車速に基づいて、前記車両が前記EV走行区間の始点に到達するときの時刻を予測し、
前記時刻と、前記目標温度と、前記触媒暖機制御を実行する場合の前記触媒の温度の上昇速度と、に基づいて前記車両が前記EV走行区間の始点に到達する前に前記触媒暖機制御を実行したときの前記触媒の温度の時間推移であって前記車両が前記EV走行区間の始点に到達したときの前記触媒の温度が前記目標温度となる第2の温度関数を算出し、
前記車両が前記EV走行区間の始点に到達する前の前記触媒の温度が前記目標温度よりも低い場合であって、前記第2の温度関数が表す温度が前記触媒の温度に到達したときに前記触媒暖機制御を実行する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項17】
バッテリにより駆動する駆動モータと、
前記バッテリ又は前記駆動モータに電力を供給する発電機を駆動する発電用のエンジンと、
前記エンジンの排気ガスを浄化する触媒と、
前記触媒の温度が所定の下限温度よりも低くなると前記エンジンを用いて前記触媒を暖機する触媒暖機制御を実行する制御部と、
車両の走行先のEV走行区間を設定するEV走行区間設定部と、を含み、
前記制御部は、前記車両の走行先にEV走行区間が設定された場合に前記EV走行区間において前記エンジンの駆動を停止させて前記バッテリの電力により前記駆動モータを駆動させるEVモードで前記車両を走行させるハイブリッド車両の制御システムであって、
前記制御部は、
前記車両が前記EV走行区間を走行するときの前記触媒の温度降下特性を予測する温度降下特性予測部と、
前記車両が前記EV走行区間を走行するときの前記車両の車速を予測する車速予測部と、
前記EV走行区間の距離と前記車速に基づいて前記車両の前記EV走行区間の始点から終点までを走行する走行時間を予測する走行時間予測部と、
前記温度降下特性と、前記走行時間と、前記下限温度と、に基づいて前記車両が前記EV走行区間の始点から終点まで走行する際の前記触媒の温度推移であって前記車両が前記EV走行区間の終点に到達するときの前記触媒の温度が前記下限温度又は前記下限温度よりも高い温度となる第1の温度関数を算出し、前記第1の温度関数に基づいて前記車両が前記EV走行区間の始点に到達するときの前記触媒の温度を目標温度として算出する目標温度算出部と、
前記車両が前記EV走行区間の始点に到達する前の前記触媒の温度が前記目標温度よりも低い場合に、前記車両が前記EV走行区間の始点に到達するときの前記触媒の温度が前記目標温度となるように、前記車両が前記EV走行区間の始点に到達する前に前記触媒暖機制御を実行する触媒暖機制御実行部と、を含むハイブリッド車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御方法、ハイブリッド車両の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、走行モードがエンジンの動力とモータの動力により車両を駆動するHVモードが選択され、モータに電力を供給するバッテリの充電率が所定充電率よりも高い場合に触媒暖機時間をバッテリの充電率が所定充電率以下のときに設定される触媒暖機時間よりも長く設定することで、触媒の温度を高くし、触媒暖機の頻度を低下させる内容を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハイブリッド車両では、エンジンの排気系に取り付けられた触媒の温度が低下し排気浄化性能が低下した場合は、触媒暖機のためエンジンを作動・燃焼させ発電している。一方、ハイブリッド車両には、騒音を低減するため、エンジンによる発電を停止しバッテリの電力により駆動モータを駆動させるEVモードがあるが、EVモードが選択された直後に触媒暖機制御を開始する場合がありドライバーに違和感を与える場合があった。
【0005】
本発明は、EVモードで走行中に触媒暖機制御が発生する頻度を低下させるハイブリッド車両の制御方法、及びハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるハイブリッド車両の制御方法は、バッテリにより駆動モータを駆動して走行し、発電用のエンジンで発電機を駆動させて発電した電力をバッテリ又は駆動モータに供給する車両において、エンジンの排気ガスを触媒により浄化するとともに触媒の温度が所定の下限温度よりも低くなるとエンジンを用いて触媒を暖機する触媒暖機制御を実行し、車両の走行先にEV走行区間が設定された場合にEV走行区間においてエンジンの駆動を停止させてバッテリの電力により駆動モータを駆動させるEVモードで車両を走行させるハイブリッド車両の制御方法である。この制御方法では、車両がEV走行区間を走行するときの触媒の温度降下特性を予測し、車両がEV走行区間を走行するときの車両の車速を予測し、EV走行区間の距離と車速に基づいて車両のEV走行区間の始点から終点までを走行する走行時間を予測する。また、温度降下特性と、走行時間と、下限温度と、に基づいて車両がEV走行区間の始点から終点まで走行する際の触媒の温度推移であって車両がEV走行区間の終点に到達するときの触媒の温度が下限温度又は下限温度よりも高い温度となる第1の温度関数を算出する。そして、第1の温度関数に基づいて車両がEV走行区間の始点に到達するときの触媒の温度を目標温度として算出する。さらに、車両がEV走行区間の始点に到達する前の触媒の温度が目標温度よりも低い場合に、車両がEV走行区間の始点に到達するときの触媒の温度が目標温度となるように、車両がEV走行区間の始点に到達する前に触媒暖機制御を実行する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両がEV走行区間をEVモードで走行するときの触媒の温度推移が第1の温度関数と同一又は略同一となるので、車両がEV走行区間の終点に到達したときの触媒の温度が下限温度以上となる。従って、車両がEV走行区間を走行中、触媒の温度が下限温度よりも低くなる場合を低減できるので、EV走行区間を走行中の触媒暖機制御の発生頻度を低減でき、ドライバーの不快感を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態のハイブリッド車両の制御システムの概略図である。
【
図2】
図2は、車両がEVモードで走行するときの速度パラメータ(車速+風速)と、触媒の温度降下特性の時定数との関係を示すマップである。
【
図3】
図3は、本実施形態のハイブリッド車両の制御システムの制御フローである。
【
図4】
図4は、本実施形態のハイブリッド車両の制御システムにより触媒暖機制御を実行した場合の触媒の温度のタイムチャートである。
【
図5】
図5は、本実施形態のハイブリッド車両の制御システムの変形例の制御フローである。
【
図6】
図6は、本実施形態のハイブリッド車両の制御システムの変形例により触媒暖機制御を実行した場合の触媒の温度のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[本実施形態の基本構成]
図1は、本実施形態のハイブリッド車両の制御システムの概略図である。第1に示すように本実施形態のハイブリッド車両の制御システムは、駆動モータ1、バッテリ2、エンジン3、発電機4、触媒システム5、制御部(車両コントローラ7、エンジンコントローラ8、モータコントローラ9)等により構成される。
【0011】
駆動モータ1は、減速機10及び駆動軸11を介して駆動輪12に機械的に結合され、バッテリ2(及び発電機4)から電力を受けることで駆動輪12を駆動させる。また駆動モータ1は駆動輪12の回転を減速させる場合に回生電力を発生させる。
【0012】
バッテリ2は、駆動モータ1に電力を供給するとともに、駆動モータ1が生成した回生電力及び発電機4が発電した電力を充電する。
【0013】
エンジン3は、例えばガソリンエンジンである。エンジン3は発電機4と動力伝達可能に結合され、燃料(ガソリン)を燃焼して回転することで発電機4を発電させる。
【0014】
発電機4は、エンジン3が回転することで発電し、発電した電力をバッテリ2及び駆動モータ1に供給する。
【0015】
触媒システム5は、エンジン3から排気される排気ガスを無害なガスとなるように処理し、マフラー6を介して無害化したガスを外部に放出する。
【0016】
制御部(車両コントローラ7、エンジンコントローラ8、モータコントローラ9)は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えた1又は複数のマイクロコンピュータで構成される。制御部(車両コントローラ7、エンジンコントローラ8、モータコントローラ9)では、ROM又はRAMに格納されたプログラムをCPUによって実行することで各種の制御が行われる。
【0017】
車両コントローラ7には、アクセル開度(APO)の情報、車速の情報が入力される。
【0018】
車両コントローラ7には、エンジンコントローラ8から触媒システム5を構成する触媒の温度の情報が入力される。
【0019】
車両コントローラ7には、バッテリ2の充電率(SOC)の情報が入力される。
【0020】
車両コントローラ7は、アクセル開度(APO)に基づいてトルク指令値を生成し、当該トルク指令値をモータコントローラ9に出力する。
【0021】
車両コントローラ7は、バッテリ2の充電率(SOC)が所定の下限値よりも低くなるとエンジン始動指令をエンジンコントローラ8に出力し、バッテリ2の充電率(SOC)が前記下限値よりも高い所定の上限値に到達するとエンジン停止指令をエンジンコントローラ8に出力する。
【0022】
車両コントローラ7は、触媒システム5を構成する触媒の温度が所定の下限温度(Tmin)よりも低くなると触媒暖気指令をエンジンコントローラ8に出力し、当該触媒の温度が所定の上限温度、又は後述の目標温度(Ttarget)に到達するとエンジン停止指令をエンジンコントローラ8に出力する。
【0023】
車両コントローラ7には、ナビゲーション装置13から車両の出発地から目的地までの走行予定経路を包含する地図情報、及び車両の現在の位置を示す位置情報が入力される。
【0024】
ナビゲーション装置13は、車両の現在地(又は出発地)から目的地(又は経由地)までの走行予定経路の情報を包含する地図情報を生成して車両コントローラ7に出力する。車両の現在の位置(出発位置)の情報は例えばGPS(Global Postioning System)により取得し、ナビゲーション装置13が有する地図情報上の道路にマッチングさせることにより得られる。目的地の情報は、ドライバーの入力操作により地図情報上の目的地を特定することにより得られる。ここで、目的地とは、例えばナビゲーションの最終地点であり、車両システム全体が停止する位置である。走行予定経路の情報はナビゲーション装置13が、地図情報において出発地(現在地)と目的地を結ぶ経路を選択することにより得られる。地図情報は、出発地(現在地)から目的地までの距離の情報、走行予定経路における道路の道路勾配の情報、車速情報(統計平均車速の情報、制限車速の情報)、交通情報(渋滞情報)、指定区間情報(住宅街、通学路、エンジン稼働禁止(排気ガス規制)区域)、気象パラメータ(外気温度、風速、湿度、大気圧)等が含まれる。
【0025】
ナビゲーション装置13は、ドライバーの入力操作により要求EV走行区間が設定された場合に当該要求EV走行区間の情報をEV走行区間の情報として車両コントローラ7に出力する。EV走行区間の情報は、走行予定経路のうちEV走行区間の始点と終点を示すものであり、当該EV走行区間においてエンジン3の駆動を停止して車両をバッテリ2のみを駆動源として駆動モータ1を駆動させるEVモードを要求するものである。
【0026】
車両コントローラ7は、地図情報、位置情報、EV走行区間の情報を参照し、車両がEV走行区間の始点に到達するとエンジン停止指令をエンジンコントローラ8に指令し、EV走行区間の終点に到達するとエンジン停止解除指令をエンジンコントローラ8に出力する。
【0027】
車両コントローラ7は、ナビゲーション装置13からEV走行区間の情報が入力されない場合において、ナビゲーション装置13から入力される地図情報(又は過去に取得した地図情報の履歴情報)に基づいてEV走行区間を推定する。
【0028】
車両コントローラ7は、例えば、道路勾配(上り坂)の情報に基づいて車両(駆動モータ1)の走行負荷を予測し、走行負荷が所定の閾値よりも低い区間をEV走行区間に設定することができる。
【0029】
車両コントローラ7は、例えば車速情報(統計平均車速の情報、制限車速の情報)において車速が所定の閾値よりも低い区間を走行負荷が低い区間と予測し、これをEV走行区間に設定することができる。
【0030】
車両コントローラ7は、地図情報にエンジン3の駆動を禁止する指定区間の情報が含まれている場合に、当該指定区間をEV走行区間に設定することができる。
【0031】
車両コントローラ7は、地図情報に交通情報(渋滞情報)が含まれている場合に、渋滞発生区間をEV走行区間に設定することができる。渋滞は、交通事故による通行止め又は車線規制、道路工事による車線規制等により発生する。なお渋滞情報には、渋滞発生区間の始点及び終点の位置、渋滞発生区間における推定車速の情報が含まれる。
【0032】
車両コントローラ7は、地図情報を参照して渋滞の発生が予測されるポイントがある場合、当該ポイントを終点とし、当該ポイントから所定距離手前の位置を始点としてEV走行区間に設定することもできる。渋滞の発生の要因となるポイントは、例えば車線数が減少する位置、高速道路の料金所、平坦な道路から登り坂に切り替わる位置等がある。
【0033】
車両コントローラ7は、車両の出発地から目的地までの走行予定経路の距離が所定の走行距離よりも短い場合は、当該走行予定経路をEV走行区間に設定できる。
【0034】
車両コントローラ7は、車両が過去に走行した走行経路を包含する地図情報、前記走行経路における車速の情報、当該走行経路において設定されたEV走行区間の情報を履歴情報として記憶している。
【0035】
車両コントローラ7は、ナビゲーション装置13から入力された地図情報に含まれる走行予定経路の情報が、履歴情報に含まれる走行経路のいずれかに一致する場合において、当該走行経路に対応するEV走行区間の情報を抽出し、当該EV走行区間を走行予定経路のEV走行区間に設定することができる。この場合、履歴情報において同一の走行経路を車両が複数回走行した場合において、当該走行経路においてEV走行区間として設定された頻度(同一区間におけるEV走行区間の設定回数/走行経路の走行回数)が、所定の閾値以上となる区間、又はEV走行区間として最も高い頻度で設定された区間を走行予定経路のEV走行区間として設定できる。
【0036】
なお、ナビゲーション装置13から入力された地図情報(走行予定経路)に関して駆動モータ1の走行負荷を予測するための情報が不十分な場合は、走行予定経路に対応する履歴情報の走行経路から走行負荷を予測し、当該走行負荷が所定の閾値よりも低い区間をEV走行区間に設定できる。これにより、EV走行区間の設定の信頼性を向上できる。
【0037】
エンジンコントローラ8は、触媒システム5を構成する触媒の温度を検知し、触媒の温度の情報を車両コントローラ7に出力する。
【0038】
エンジンコントローラ8は、車両コントローラ7からエンジン始動指令を受けるとエンジン3に対する燃料供給を開始しエンジン3を起動させる。エンジンコントローラ8は、発電機4に要求される出力に基づいてエンジン3の出力を制御するが、エンジンコントローラ8はエンジン3の動作点(回転数、トルク)が最適動作点(出力効率が最大となる点)となるようにエンジン3の出力を制御する。
【0039】
エンジンコントローラ8は、車両コントローラ7から触媒暖機指令を受けるとエンジン3に対する燃料供給を開始しエンジン3を起動させる。このときエンジンコントローラ8は、燃料の点火時期をエンジン始動指令によりエンジン3を起動させるときの燃料の点火時期よりも遅角側にシフトさせ、これにより排気ガスの温度を上昇させ触媒の暖機を促進する。
【0040】
エンジンコントローラ8は、車両コントローラ7からエンジン停止指令を受けるとエンジン3の駆動を停止する。
【0041】
モータコントローラ9は、トルク指令値に基づいて駆動モータ1を制御する。
【0042】
モータコントローラ9は、発電機4が発電した電力をバッテリ2に供給するが、トルク指令値に係るトルクが大きいときは発電機4が発電した電力の一部又は全部を駆動モータ1に供給する。
【0043】
[EVモードと触媒暖機制御]
車両コントローラ7は、車両が走行予定経路を走行中、車両の位置情報を参照し、位置情報が示す車両の現在位置がEV走行区間の始点に到達するとエンジン3の駆動を停止(禁止)し、車両の現在位置がEV走行区間の終点に到達するとエンジン3の駆動の停止(禁止)を解除し、エンジン3を駆動可能な状態する。
【0044】
しかし、車両がEVモードでEV走行区間を走行中に触媒システム5の触媒の温度が、触媒が排気ガスを浄化可能な下限温度よりも低くなりEVモードに優先して触媒暖機制御を実行することになると、ドライバー(特にドライバーが要求EV走行区間を設定した場合)に不快感を与えることになる。
【0045】
そこで、本実施形態では、EV走行区間を車両がEVモードで走行中に触媒暖機制御が実行されないように、EV走行区間の終点において触媒の温度が下限温度以上となるようにEV走行区間の始点における触媒の目標温度を設定し、車両がEV走行区間の始点に到達したときの温度が目標温度となるように車両がEV走行区間の始点する前に触媒暖機制御を実行する。
【0046】
車両がEVモードで走行しているとき、すなわち車両がEV走行区間の始点から終点まで走行する際の触媒の温度の時間変化を表す第1の温度関数(T
C1(t))は、温度差に対する一次応答として得られ、以下のようになる。
【数1】
ここで、「A」は温度パラメータ、「ts」は車両がEV走行区間の始点に到達するときの時刻、「T」は時定数、「Tair」は外気温度である。ここで時刻「ts」は、EV走行区間の始点の位置(走行予定経路の情報に含まれる)と車両の位置(車両の位置情報)との差分を、車両がEV走行区間の始点よりも前を走行しているときの車速により除算して得られる時間を現在の時間に加算することにより得られる。(1)式では時刻(t)が無限大のときにT
C1(t)が外気温度に収束するが、(t-ts)が時定数(T)よりも大きくなるとT
C1(t)は実質的に外気温度となる。
【0047】
図2は、車両がEVモードで走行するときの速度パラメータ(車速+風速)と、触媒の温度降下特性の時定数との関係を示すマップである。時定数(T)は、触媒の温度の減少速度に対応するものであり、
図2に示すマップに基づいて定められる。
図2における「風速」は、風の向きが車両の進行方向とは逆向きの場合は正の値となり、車両の進行方向と同じ方向であれば負の値となる。
図2に示すように「車速+風速」の値が高くなるほど時定数は小さくなり、「車速+風速」の値が低くなるほど時定数は大きくなる。ただし、「車速+風速」が所定の下限値以下になると触媒の温度と外気温度との温度差に起因する時定数成分が顕著となるので、時定数(T)に当該時定数成分(略一定の値)が現れる。なお、風速が車速に対して十分小さい場合、又は車両において触媒の温度低下に対する風速の影響が小さい場合、
図2のマップにおいて「風速」は省略してもよい。また、
図2のマップは、車両の周囲の湿度、気圧等の気象パラメータ、車両の走行負荷の影響を考慮した設計としてもよい。
【0048】
車両がEV走行区間を走行中の車速を「V」(一定)とし、EV走行区間の始点から終点までの距離を「L」とし、終点に到着する時刻を「te」とすると、車両がEV走行区間の始点から終点までを走行する走行時間(te-ts)は(L/V)となる。
【0049】
ここで、車両コントローラ7は、EV走行区間の始点よりも前を走行する車両の車速が一定の場合に、EV走行区間の始点よりも前を走行する車両の車速をEV走行区間における車両の車速(V)として予測する。
【0050】
車両コントローラ7は、車両が渋滞発生区間を走行する場合は、渋滞情報に含まれる渋滞発生区間における推定車速の情報を抽出し、当該推定予測をEV走行区間における車両の車速(V)として予測する。
【0051】
車両コントローラ7は、走行予定経路の距離が所定の走行距離よりも短い場合は、地図情報の当該走行予定経路に関連する統計平均車速、又は制限車速を抽出し、当該統計平均車速、又は当該制限車速をEV走行区間における車両の車速(V)として予測する。
【0052】
よって、車両がEV走行区間走行中の触媒暖機制御を回避する場合、車両がEV走行区間の終点に到着したときの温度Tc(te)と、触媒が排気ガスを浄化可能な下限温度(Tmin)との関係は、以下のようになる。
【数2】
【0053】
よって、例えばT
C1(te)=Tminとしたときの温度パラメータ(A)は、以下のようになる。
【数3】
【0054】
従って、車両がEV走行区間の始点に到達するとき(時刻:te)の触媒の目標温度(Ttarget)は以下のようになる。
【数4】
【0055】
なお、(1)式は以下のように近似してもよい。
【数5】
【0056】
同様に、(3)式は以下のように近似してもよい。
【数6】
【0057】
(4)式の右辺は目標温度(Ttarget)の下限値であり、目標温度(Ttarget)は(4)式の右辺に示される温度よりも高い温度であってもよい。以上より、車両がEV走行区間の始点に到達する前に触媒を温度が目標温度(Ttarget)となるように暖機することで、EV走行区間中の触媒暖機制御を回避できる。この場合、車両の現在の位置とEV走行区間の始点との距離が所定距離よりも長い場合に触媒暖機制御を実行せず所定距離以下になったときに触媒暖機制御を実行する。ここで、所定距離は、触媒の温度が触媒暖機制御を開始してから目標温度(Ttarget)に到達する間に車両が走行する距離よりもやや長くなるように設定される。これにより、触媒の温度が目標温度(Ttarget)に到達してすぐにEV走行区間に始点に到達するので、触媒暖機制御を有効に実行できる。
【0058】
なお、EV走行区間の長さと車速との積が所定値よりも高くなる場合、当該積が当該所定値を超えないようにEV走行区間の長さを補正することができる。これにより、バッテリ2の負担を軽減する。
【0059】
また、EV走行区間の始点に到達する前のバッテリ2の充電率が所定の上限値を超える場合に触媒暖機制御を実行しない。これにより、バッテリ2に対する過充電を抑制することでバッテリ2の劣化を抑制する。
【0060】
さらに、触媒の温度が目標温度(Ttarget)に到達しない状態で車両がEV走行区間の始点に到達した場合にエンジン3の駆動を停止する。これにより、EV走行区間の長さが設定された長さよりも短くなり得るがドライバーの期待どおり車両をEVモードで走行できる。
【0061】
[制御フロー]
図3は、本実施形態のハイブリッド車両の制御システムの制御フローである。ステップS01において、車両コントローラ7はナビゲーション装置13から入力される地図情報から走行予定経路の情報を取得する。
【0062】
ステップS02において、車両コントローラ7は走行予定経路におけるEV走行区間を設定する。車両コントローラ7は、地図情報にドライバーが設定した要求EV走行区間の情報が含まれる場合は当該要求EV走行区間を走行予定経路におけるEV走行区間に設定する。また、車両コントローラ7は、地図情報にドライバーが設定した要求EV走行区間の情報がない場合は、上記のように地図情報を解析し、又は履歴情報を参照してEV走行区間を設定する。
【0063】
ステップS03において、車両コントローラ7は、EV走行区間走行中の触媒の温度降下特性((1)-(3)式)を予測する。
【0064】
ステップS04において、車両コントローラ7は、車両がEV走行区間の始点に到達するときの触媒の目標温度(Ttarget、(4)式)を算出する。
【0065】
ステップS05において、車両コントローラ7は、触媒の温度が目標温度(Ttarget)よりも低いか否かを判断し、YESであればステップS06に移行し、NOであれば「END」に移行する。
【0066】
ステップS06において、車両がEV走行区間より所定距離手前の位置に到達したか否かを判断し、YESであればステップS07に移行し、NOであればステップS06に留まる。
【0067】
ステップS07において、車両コントローラ7は、エンジンコントローラ8に触媒暖機指令を出力して触媒暖機制御を開始する。
【0068】
ステップS08において、車両コントローラ7は、車両がEV走行区間の始点に到達したか否かを判断し、YESであればステップS09に移行し、NOであればステップS08に留まる。
【0069】
ステップS09において、車両コントローラ7は、エンジンコントローラ8にエンジン停止指令を出力して、エンジン3を停止し、触媒暖機制御を停止する。これにより車両はEVモード(エンジン3の駆動を停止させてバッテリ2の電力により駆動モータ1を駆動させる走行モード)でEV走行区間を走行する。
【0070】
ステップS10において、車両コントローラ7は、車両がEV走行区間の終点に到達したか否かを判断し、YESであれば「END」に移行し、NOであればステップS010に留まる。
【0071】
本実施形態によれば、車両がEV走行区間の終点に到達するときの触媒の温度が下限温度(Tmin)、又は下限温度(Tmin)よりも高い温度となるので、車両がEV走行区間をEVモードで走行中に触媒暖機制御が発生する頻度を低減できる。
【0072】
[タイムチャート]
図4は、本実施形態のハイブリッド車両の制御システムにより触媒暖機制御を実行した場合の触媒の温度のタイムチャートである。
図4において車両は一定の車速により走行しているものとする。車両がEV走行区間の始点に到達する時刻(ts)以前においてエンジン3は駆動しており触媒の温度(T
C)も目標温度(Ttarget)よりも低いものとする。またEV走行区間より所定距離手前の位置に車両が到達する時刻であって触媒暖機制御を開始する時刻(t1)以前において、触媒の温度(T
C)は一定となっているが、単調に増加若しくは減少してもよく、またエンジン3の回転数の変動等に伴って振動してもよい。
【0073】
時刻(t1)以前において、車両コントローラ7は、走行予定経路の情報、EV走行区間(始点、終点)の情報、車速の情報に基づいて、車両がEV走行区間の始点に到達する時刻(ts)、及び車両がEV走行区間の終点に到達するときの時刻(te)を算出する。
【0074】
時刻(t1)以前において、車両コントローラ7は、速度パラメータ(車速+風速)及び
図2に示すマップに基づいて時定数(T)を算出する。また、車両コントローラ7は、(3)式を用いて、時刻(ts)、時刻(te)、時定数(T)、外気温度(Tair)に基づいて温度パラメータ(A)を算出する。さらに、車両コントローラ7は(4)式を用いて、車両がEV走行区間の始点に到達するときの目標温度(Ttarget)を算出する。
【0075】
時刻(t1)において、車両がEV走行区間の始点から所定距離手前の位置に到達すると車両コントローラ7は触媒暖機制御を開始する。
【0076】
時刻(t2)において、触媒の温度(TC)が目標温度(Ttarget)に到達すると、車両コントローラ7は、触媒暖機制御から通常のエンジン制御に切り替える、又は引き続き触媒暖機制御を継続する。
【0077】
時刻(ts)において、車両がEV走行区間の始点に到達すると、車両コントローラ7は、エンジン3を停止し車両の走行モードをEVモードに切り替える。
【0078】
時刻(ts)から時刻(te)において、触媒の温度(TC)は、第1の温度関数(TC1(t))に従って単調に減少するが、下限温度(Tmin)以上の値を維持する。
【0079】
時刻(te)において、車両がEV走行区間の終点に到達すると、車両コントローラ7はEVモードを解除する。
【0080】
一方、車両がEV走行区間の始点に到達する前に触媒暖機制御を実行しない場合の触媒の温度(TC’)は、時刻(ts)において目標温度(Ttarget)よりも低い温度となっている。
【0081】
時刻(ts)以降において、触媒の温度(TC’)は、触媒の温度(TC)と同一の時定数(T)により減少する。しかし、時刻(ts)よりも前となる時刻(t3)において下限温度(Tmin)よりも低くなり、触媒暖機制御が開始されることになり、ドライバーに不快感を与えることになる。
【0082】
本実施形態では、車両がEV走行区間の始点に到達する前に触媒暖気制御を実行するので、その分の燃料消費が増加するが、その増加量は少なくすることができる。さらに、EVモードの走行距離(走行時間)が十分に長くなるので、燃費及びEVモードでの走行に関してドライバーに不快感を与えることはない。
【0083】
[変形例の制御フロー]
図5は、本実施形態のハイブリッド車両の制御システムの変形例の制御フローである。変形例の制御フローは、基本形態の制御フロー(
図2)においてステップS04とステップS05の間にステップS04aが配置され、ステップS06の代わりにステップS06aが配置されたものである。変形例では、車両がEV走行区間の始点に到達する前に触媒暖気制御を開始し触媒の温度が目標温度(Ttarget)に到達すると同時に車両がEV走行区間の始点に到達する制御となっている。これにより、触媒暖機制御を行う際の燃料消費を最小限にすることができる。
【0084】
ステップS04aにおいて、車両コントローラ7は、EV走行区間始点到達時の時刻(ts)、目標温度(Ttarget)、触媒暖気制御時の触媒の温度の上昇速度(B)に基づいて車両がEV走行区間の始点に到達する前に触媒暖気制御を実行したときの触媒の温度の時間推移であって車両が当該始点に到達するときの触媒の温度が目標温度となる第2の温度関数を算出する。第2の温度関数(T
C2(t))は以下のようになる。
【数7】
【0085】
第2の温度関数(TC2(t))は時刻(t)の一次関数であって時刻の経過とともに単調に上昇する。また、上昇速度(B)は予め実験により定められる。
【0086】
ステップS06aにおいて、車両コントローラ7は、第2の温度関数(TC2(t))が示す温度が触媒の温度(TC)に到達したかを判断し、YESであればステップS07に以降し、NOであればステップS06aに留まる。
【0087】
[変形例のタイムチャート]
図6は、本実施形態のハイブリッド車両の制御システムの変形例により触媒暖機制御を実行した場合の触媒の温度のタイムチャートである。
図6において時刻(ts)以降の温度変化は
図4のタイムチャートと同様である。
【0088】
時刻(t1)以前において、触媒の温度(TC)は、目標温度(Ttarget)よりも低い温度となっている。一方、第2の温度関数(TC2(t))が示す温度は、触媒の温度(TC)よりも低い温度であるが、温度経過とともに単調に増加している。
【0089】
時刻(t1)において第2の温度関数(TC2(t))が示す温度が触媒の温度(TC)に到達し、車両コントローラ7は、触媒暖気制御を開始する。時刻(t1)から時刻(ts)までの触媒の温度(Tc)は第2の温度関数(TC2(t))と同一又は略同一の状態で目標温度(Ttarget)まで上昇する。
【0090】
[本実施形態の効果]
本実施形態のハイブリッド車両の制御方法によれば、バッテリ2により駆動モータ1を駆動して走行し、発電用のエンジン3で発電機4を駆動させて発電した電力をバッテリ2又は駆動モータ1に供給する車両において、エンジン3の排気ガスを触媒(触媒システム5)により浄化するとともに触媒の温度(TC)が所定の下限温度(Tmin)よりも低くなるとエンジン3を用いて触媒を暖機する触媒暖機制御を実行し、車両の走行先にEV走行区間が設定された場合にEV走行区間においてエンジン3の駆動を停止させてバッテリ2の電力により駆動モータ1を駆動させるEVモードで車両を走行させるハイブリッド車両の制御方法であって、車両がEV走行区間を走行するときの触媒の温度降下特性(時定数(T))を予測し、車両がEV走行区間を走行するときの車両の車速(V)を予測し、EV走行区間の距離と車速(V)に基づいて車両のEV走行区間の始点から終点までを走行する走行時間(te-ts)を予測し、温度降下特性(時定数(T))と、走行時間(te-ts)と、下限温度(Tmin)と、に基づいて車両がEV走行区間の始点から終点まで走行する際の触媒の温度推移であって車両がEV走行区間の終点に到達するときの触媒の温度(TC)が下限温度(Tmin)又は下限温度(Tmin)よりも高い温度となる第1の温度関数(TC1(1)、(1)-(3)式)を算出し、第1の温度関数(TC1(t))に基づいて車両がEV走行区間の始点に到達するときの触媒の温度(TC)を目標温度(Ttarget、(4)式)として算出し、車両がEV走行区間の始点に到達する前の触媒の温度(TC)が目標温度(Ttarget)よりも低い場合に、車両がEV走行区間の始点に到達するときの触媒の温度(TC)が目標温度(Ttarget)となるように、車両がEV走行区間の始点に到達する前に触媒暖機制御を実行する。
【0091】
上記方法により、車両がEV走行区間をEVモードで走行するときの触媒の温度推移が第1の温度関数と同一又は略同一となるので、車両がEV走行区間の終点に到達したときの触媒の温度が下限温度(Tmin)以上となる。従って、車両がEV走行区間を走行中、触媒の温度が下限温度よりも低くなる場合を低減できるので、EV走行区間を走行中の触媒暖機制御の発生頻度を低減でき、ドライバーの不快感を低減できる。
【0092】
本実施形態において、温度降下特性をEV走行区間の始点に到達する前の車両の車速(V)(
図2に示すマップ)に基づいて予測する。
【0093】
上記方法により、簡易な方法で温度降下特性(時定数(T))を予測できる。
【0094】
本実施形態において、車両の出発地から目的地までの走行予定経路の情報を取得し、温度降下特性(時定数(T))を走行予定経路の気象条件を表す気象パラメータ(外気温度、風速、湿度、大気圧)に基づいて予測する。
【0095】
上記方法により、温度降下特性(時定数(T))の予測精度を高めることができる。
【0096】
本実施形態において、車両の出発地から目的地までの走行予定経路の情報を取得するとともに車両が走行予定経路を走行する際の駆動モータ1の走行負荷を予測し、走行予定経路において走行負荷が所定の閾値よりも低い区間をEV走行区間に設定する。
【0097】
上記方法により、簡易な方法でEV走行区間を設定できる。
【0098】
本実施形態において、車両が走行した過去の走行経路の履歴情報を記録し、車両の出発地から目的地までの走行予定経路の情報を取得するとともに走行予定経路が履歴情報の走行経路に含まれる場合において、走行予定経路を走行する際の駆動モータ1の走行負荷を走行経路に基づいて予測し、走行経路において走行負荷が所定の閾値よりも低い区間を前走行予定経路におけるEV走行区間に設定する。
【0099】
上記方法により、走行予定経路において走行負荷を予測するための情報が不十分であったとしても履歴情報の走行経路の情報からEV走行区間を設定できるので、EV走行区間の設定の信頼性を高めることができる。
【0100】
本実施形態において、負荷を、走行予定経路における道路勾配、統計平均車速、制限車速のいずれかに基づいて予測する。
【0101】
上記方法により、駆動モータ1に対する負荷が小さいEV走行区間の設定の精度を高めることができる。
【0102】
本実施形態において、車両の出発地から目的地までの走行予定経路の情報を取得し、走行予定経路の距離が所定の走行距離よりも短い場合に走行予定経路をEV走行区間に設定し、走行予定経路における統計平均車速又は制限車速に基づいて温度降下特性(時定数(T))と、EV走行区間における車速と、を予測する。
【0103】
上記方法により、出発地から目的地までの走行距離が短い場合にはエンジン3を駆動することなくEVモードで目的地まで走行できる。
【0104】
本実施形態において、車両の出発地から目的地までの走行予定経路の情報と、渋滞情報を取得するとともに走行予定経路に渋滞情報が包含する渋滞発生区間が含まれる場合において、渋滞発生区間をEV走行区間に設定し、渋滞情報が包含する渋滞発生区間における推定車速に基づいて温度降下特性(時定数(T))と、EV走行区間における前記車速と、を予測する。
【0105】
上記方法により、渋滞発生区間の始点から終点までEVモードで走行することが可能となる。
【0106】
本実施形態において、車両が走行した過去の走行経路と走行経路に設定されたEV走行区間と走行経路における車速の履歴を履歴情報として記録し、車両の出発地から目的地までの走行予定経路の情報を取得するとともに走行予定経路が履歴情報の走行経路に含まれる場合において、走行予定経路に対応する走行経路においてEV走行区間として設定された頻度が所定の閾値よりも高い区間を走行予定経路におけるEV走行区間に設定し、走行予定経路に対応する履歴情報の走行経路のEV走行区間における車速を、走行予定経路のEV走行区間における車速として予測する。
【0107】
上記方法により、履歴情報にもとづいてEV走行区間を設定するので、制御系(車両コントローラ7)に対する負担を軽減することができ、特に駆動モータ1に対する負荷が小さいEV走行区間の設定を走行予定経路に基づいて行う場合よりも顕著に軽減できる。またドライバーにとって違和感の少ないEV走行区間を設定し、当該EV走行区間においてEVモードで走行できる。
【0108】
本実施形態において、車両が走行した過去の走行経路と走行経路における車速の履歴を履歴情報として記録し、車両の出発地から目的地までの走行予定経路の情報を取得するとともに走行予定経路が履歴情報の走行経路に含まれる場合において、走行予定経路がエンジン3の駆動を禁止する指定区間を含む場合において、指定区間をEV走行区間に設定し、走行予定経路に対応する履歴情報の走行経路の指定区間に対応する経路における車速を、走行予定経路のEV走行区間における車速として予測する。
【0109】
上記方法により、車両が指定区間においてEVモードで走行できる。
【0110】
本実施形態において、EV走行区間の距離と車速との積が所定値よりも高くなる場合、当該積が所定値を超えないようにEV走行区間の距離を補正する。
【0111】
上記方法により、バッテリ2に対する負担を軽減できる。
【0112】
本実施形態において、車両がEV走行区間の始点よりも前を走行し且つ車両の現在地とEV走行区間の始点との距離が所定距離よりも長い場合に触媒暖機制御を実行せず所定距離以下になったときに触媒暖機制御を実行(開始)する。
【0113】
上記方法により、触媒の温度が目標温度(Ttarget)に到達してすぐにEV走行区間に始点に到達するので、触媒暖機制御を有効に実行できる。
【0114】
本実施形態において、車両がEV走行区間の始点に到達する前のバッテリ2の充電率が所定の上限値を超える場合に触媒暖機制御を実行しない。
【0115】
上記方法により、バッテリ2に対する過充電を抑制することでバッテリ2の劣化を低減することができる。
【0116】
本実施形態において、触媒の温度が目標温度(Ttarget)に到達しない状態で車両がEV走行区間の始点に到達した場合にエンジン3の駆動を停止する。
【0117】
上記方法により、車両がEV走行区間の始点に到達した場合にはエンジン3の駆動の停止が確実に実行されるので、ドライバーの期待に沿って車両をEVモードで走行できる。
【0118】
本実施形態において、車両のドライバーの操作により設定された要求EV走行区間をEV走行区間として設定する。
【0119】
上記方法により、ドライバーの意図を反映させたEV走行区間を設定できる。
【0120】
本実施形態において、車両の位置情報と車両がEV走行区間の始点に到達する前の車両の車速に基づいて、車両がEV走行区間の始点に到達するときの時刻を予測し、当該時刻と、目標温度(Ttarget)と、触媒暖機制御を実行する場合の触媒の温度(TC)の上昇速度(B)と、に基づいて車両がEV走行区間の始点に到達する前に触媒暖機制御を実行したときの触媒の温度(TC)の時間推移であって車両がEV走行区間の始点に到達したときの触媒の温度(TC)が目標温度(Ttarget)となる第2の温度関数(TC2(t)、(6)式)を算出し、車両がEV走行区間の始点に到達する前の触媒の温度(TC)が目標温度(Ttarget)よりも低い場合であって、第2の温度関数(TC2(t))が表す温度が触媒の温度(TC)に到達したときに触媒暖機制御を実行(開始)する。
【0121】
上記方法により、触媒の温度(TC)が目標温度(Ttarget)に到達するとほぼ同時に車両がEV走行区間に入ってEVモードで走行するので、触媒暖気制御を実行する際の燃料消費を最小限にすることができる。
【0122】
本実施形態に係るハイブリッド車両の制御システムは、バッテリ2により駆動する駆動モータ1と、バッテリ2又は駆動モータ1に電力を供給する発電機4を駆動する発電用のエンジン3と、エンジン3の排気ガスを浄化する触媒(触媒システム5)と、触媒の温度(TC)が所定の下限温度(Tmin)よりも低くなるとエンジン3を用いて触媒を暖機する触媒暖機制御を実行する制御部(車両コントローラ7)と、車両の走行先のEV走行区間を設定するEV走行区間設定部(車両コントローラ7、ナビゲーション装置13)と、を含み、制御部(車両コントローラ7)は、車両の走行先にEV走行区間が設定された場合にEV走行区間においてエンジン3の駆動を停止させてバッテリ2の電力により駆動モータ1を駆動させるEVモードで車両を走行させるハイブリッド車両の制御システムであって、制御部(車両コントローラ7)は、車両がEV走行区間を走行するときの触媒の温度降下特性(時定数(T))を予測する温度降下特性予測部(車両コントローラ7)と、車両がEV走行区間を走行するときの車両の車速を予測する車速予測部(車両コントローラ7)と、EV走行区間の距離と車速に基づいて車両のEV走行区間の始点から終点までを走行する走行時間を予測する走行時間予測部(車両コントローラ7)と、温度降下特性(時定数(T))と、走行時間(te-ts)と、下限温度(Tmin)と、に基づいて車両がEV走行区間の始点から終点まで走行する際の触媒の温度推移であって車両がEV走行区間の終点に到達するときの触媒の温度(TC)が下限温度(Tmin)又は下限温度(Tmin)よりも高い温度となる第1の温度関数(TC1(t)、(1)-(3)式)を算出し、第1の温度関数(TC1(t))に基づいて車両がEV走行区間の始点に到達するときの触媒の温度(TC)を目標温度(Ttarget)として算出する目標温度算出部(車両コントローラ7)と、車両がEV走行区間の始点に到達する前の触媒の温度(TC)が目標温度(Ttarget)よりも低い場合に、車両がEV走行区間の始点に到達するときの触媒の温度(TC)が目標温度(Ttarget)となるように、車両がEV走行区間の始点に到達する前に前触媒暖機制御を実行する触媒暖機制御実行部(車両コントローラ7)と、を含む。
【0123】
上記構成により、車両がEV走行区間をEVモードで走行するときの触媒の温度推移が第1の温度関数と同一又は略同一となるので、車両がEV走行区間の終点に到達したときの触媒の温度が下限温度(Tmin)以上となる。従って、車両がEV走行区間を走行中、触媒の温度が下限温度よりも低くなる場合を低減できるので、EV走行区間を走行中の触媒暖機制御の発生頻度を低減でき、ドライバーの不快感を低減できる。
【0124】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0125】
1 駆動モータ、2 バッテリ、3 エンジン、5 触媒システム、7 車両コントローラ、13 ナビゲーション装置