(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135400
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】仮想流量演算装置、仮想流量演算方法、および、仮想流量演算プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/28 20200101AFI20240927BHJP
G01F 1/00 20220101ALI20240927BHJP
G01F 1/58 20060101ALI20240927BHJP
G01F 1/66 20220101ALI20240927BHJP
G01F 1/84 20060101ALI20240927BHJP
G01F 1/32 20220101ALI20240927BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20240927BHJP
G06F 113/08 20200101ALN20240927BHJP
【FI】
G06F30/28
G01F1/00 Z
G01F1/58 Z
G01F1/66 Z
G01F1/84
G01F1/32 Z
G06Q10/04
G06F113:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046057
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 萌
(72)【発明者】
【氏名】石川 郁光
(72)【発明者】
【氏名】岡本 和年
(72)【発明者】
【氏名】木村 壮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄大
(72)【発明者】
【氏名】林 悠一
【テーマコード(参考)】
2F030
2F035
5B146
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
2F030CC06
2F030CC07
2F030CC08
2F035CA00
2F035DA26
2F035JA02
5B146AA03
5B146DJ01
5B146DJ11
5B146DJ15
5L010AA04
5L049AA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】流体の密度及び/又は混相流の分率、流体に分散する粒子の分布状態、偏在状態、電気的絶縁物の起電力効果並びに電気的絶縁物の起電力効果に基づいて電極に発生するフローノイズ量を推定する仮想流量演算装置、仮想流量演算方法および仮想流量演算プログラムを提供する。
【解決手段】仮想コリオリ流量計として機能する仮想流量演算装置100は、流量センサが計装される実空間の環境を示す環境情報を記憶する環境情報記憶部と、測定対象となる流体の物性を示す物性情報を記憶する物性情報記憶部と、環境情報および物性情報を用いて、実空間を再現した仮想空間上で流体における混相流の流動現象をシミュレーションするシミュレーション部と、シミュレーションされた結果に基づいて、流量センサにより実測される実流量を推測した仮想流量を演算する演算部と、を備える。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流量センサが計装される実空間の環境を示す環境情報を記憶する環境情報記憶部と、
測定対象となる流体の物性を示す物性情報を記憶する物性情報記憶部と、
前記環境情報および前記物性情報を用いて、前記実空間を再現した仮想空間上で前記流体における混相流の流動現象をシミュレーションするシミュレーション部と、
前記シミュレーションされた結果に基づいて、前記流量センサにより実測される実流量を推測した仮想流量を演算する演算部と、
を備える、仮想流量演算装置。
【請求項2】
前記流量センサは、コリオリ流量計、超音波流量計、電磁流量計、または、渦流量計の少なくともいずれかである、請求項1に記載の仮想流量演算装置。
【請求項3】
前記流量センサは、前記コリオリ流量計であり、
前記演算部は、フローチューブの共振周波数に基づいて、前記流体の密度または前記混相流の分率の少なくともいずれかを推定する、請求項2に記載の仮想流量演算装置。
【請求項4】
前記流量センサは、前記コリオリ流量計であり、
前記演算部は、フローチューブを振動させるために発振器へ印加される駆動電流に基づいて、前記混相流の分率を推定する、請求項2に記載の仮想流量演算装置。
【請求項5】
前記流量センサは、前記超音波流量計であり、
前記演算部は、超音波の受信信号強度を周波数帯域毎に分析した結果に基づいて、前記流体に分散する粒子の分布状態を推定する、請求項2に記載の仮想流量演算装置。
【請求項6】
前記流量センサは、前記超音波流量計であり、
前記演算部は、対向する超音波の受信信号強度の差に基づいて、前記流体に分散する粒子の偏在状態を推定する、請求項2に記載の仮想流量演算装置。
【請求項7】
前記流量センサは、前記電磁流量計であり、
前記演算部は、前記流体に分散する電気的絶縁物の起電力効果に基づいて、電極に発生するフローノイズ量を推定する、請求項2に記載の仮想流量演算装置。
【請求項8】
前記流量センサは、前記電磁流量計であり、
前記演算部は、前記シミュレーションされた結果をパラメトリックに計算した結果に基づいて、前記混相流の分率を推定する、請求項2に記載の仮想流量演算装置。
【請求項9】
前記流量センサは、前記渦流量計であり、
前記演算部は、圧電素子に発生する電圧の振幅強度に基づいて、前記混相流の分率を推定する、請求項2に記載の仮想流量演算装置。
【請求項10】
前記流量センサは、前記渦流量計であり、
前記演算部は、圧電素子に発生するノイズに基づいて、前記混相流の分率を推定する、請求項2に記載の仮想流量演算装置。
【請求項11】
前記流体が、気液二相の混相状態である場合、
前記演算部は、前記混相流の分率に基づいて、気相単独の前記仮想流量を演算する、請求項9または10に記載の仮想流量演算装置。
【請求項12】
前記演算部により推定されたパラメータが予め定められた基準を満たさない場合に、アラートを発報する診断部を更に備える、請求項3から10のいずれか一項に記載の仮想流量演算装置。
【請求項13】
前記診断部は、更に、前記実流量と前記仮想流量との差分が予め定められた基準を満たさない場合に、アラートを発報する、請求項12に記載の仮想流量演算装置。
【請求項14】
前記シミュレーション部は、前記混相流における相の組み合わせ、または、流動様式の少なくともいずれかに応じて選定された解析モデルを用いる、請求項1から10のいずれか一項に記載の仮想流量演算装置。
【請求項15】
前記解析モデルは、連続相モデルまたは分散相モデルである、請求項14に記載の仮想流量演算装置。
【請求項16】
クラウドサーバにより提供される、請求項1から10のいずれか一項に記載の仮想流量演算装置。
【請求項17】
コンピュータが、
流量センサが計装される実空間の環境を示す環境情報を記憶することと、
測定対象となる流体の物性を示す物性情報を記憶することと、
前記環境情報および前記物性情報を用いて、前記実空間を再現した仮想空間上で前記流体における混相流の流動現象をシミュレーションすることと、
前記シミュレーションされた結果に基づいて、前記流量センサにより実測される実流量を推測した仮想流量を演算することと、
を備える、仮想流量演算方法。
【請求項18】
コンピュータにより実行され、前記コンピュータを、
流量センサが計装される実空間の環境を示す環境情報を記憶する環境情報記憶部と、
測定対象となる流体の物性を示す物性情報を記憶する物性情報記憶部と、
前記環境情報および前記物性情報を用いて、前記実空間を再現した仮想空間上で前記流体における混相流の流動現象をシミュレーションするシミュレーション部と、
前記シミュレーションされた結果に基づいて、前記流量センサにより実測される実流量を推測した仮想流量を演算する演算部と、
して機能させる、仮想流量演算プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮想流量演算装置、仮想流量演算方法、および、仮想流量演算プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「差圧流量計の計測精度を向上させ、無視できない流量指示値の誤差が実機で発生するリスクを、設計段階で低減させることが可能な流量計設計支援システムを提供する。」と記載されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2020-144662
[特許文献2] 特開2019-194424
[特許文献3] 特開2012-132797
[特許文献4] 特開2009-014726
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1の態様においては、仮想流量演算装置を提供する。前記仮想流量演算装置は、流量センサが計装される実空間の環境を示す環境情報を記憶する環境情報記憶部と、測定対象となる流体の物性を示す物性情報を記憶する物性情報記憶部と、前記環境情報および前記物性情報を用いて、前記実空間を再現した仮想空間上で前記流体における混相流の流動現象をシミュレーションするシミュレーション部と、前記シミュレーションされた結果に基づいて、前記流量センサにより実測される実流量を推測した仮想流量を演算する演算部と、を備える。
【0004】
前記仮想流量演算装置において、前記流量センサは、コリオリ流量計、超音波流量計、電磁流量計、または、渦流量計の少なくともいずれかであってもよい。
【0005】
前記仮想流量演算装置のいずれかにおいて、前記流量センサは、前記コリオリ流量計であり、前記演算部は、フローチューブの共振周波数に基づいて、前記流体の密度または前記混相流の分率の少なくともいずれかを推定してもよい。
【0006】
前記仮想流量演算装置のいずれかにおいて、前記流量センサは、前記コリオリ流量計であり、前記演算部は、フローチューブを振動させるために発振器へ印加される駆動電流に基づいて、前記混相流の分率を推定してもよい。
【0007】
前記仮想流量演算装置のいずれかにおいて、前記流量センサは、前記超音波流量計であり、前記演算部は、超音波の受信信号強度を周波数帯域毎に分析した結果に基づいて、前記流体に分散する粒子の分布状態を推定してもよい。
【0008】
前記仮想流量演算装置のいずれかにおいて、前記流量センサは、前記超音波流量計であり、前記演算部は、対向する超音波の受信信号強度の差に基づいて、前記流体に分散する粒子の偏在状態を推定してもよい。
【0009】
前記仮想流量演算装置のいずれかにおいて、前記流量センサは、前記電磁流量計であり、前記演算部は、前記流体に分散する電気的絶縁物の起電力効果に基づいて、電極に発生するフローノイズ量を推定してもよい。
【0010】
前記仮想流量演算装置のいずれかにおいて、前記流量センサは、前記電磁流量計であり、前記演算部は、前記シミュレーションされた結果をパラメトリックに計算した結果に基づいて、前記混相流の分率を推定してもよい。
【0011】
前記仮想流量演算装置のいずれかにおいて、前記流量センサは、前記渦流量計であり、前記演算部は、圧電素子に発生する電圧の振幅強度に基づいて、前記混相流の分率を推定してもよい。
【0012】
前記仮想流量演算装置のいずれかにおいて、前記流量センサは、前記渦流量計であり、前記演算部は、圧電素子に発生するノイズに基づいて、前記混相流の分率を推定してもよい。
【0013】
前記仮想流量演算装置のいずれかにおいて、前記流体が、気液二相の混相状態である場合、前記演算部は、前記混相流の分率に基づいて、気相単独の前記仮想流量を演算してもよい。
【0014】
前記仮想流量演算装置のいずれかは、前記演算部により推定されたパラメータが予め定められた基準を満たさない場合に、アラートを発報する診断部を更に備えてもよい。
【0015】
前記仮想流量演算装置のいずれかにおいて、前記診断部は、更に、前記実流量と前記仮想流量との差分が予め定められた基準を満たさない場合に、アラートを発報してもよい。
【0016】
前記仮想流量演算装置のいずれかにおいて、前記シミュレーション部は、前記混相流における相の組み合わせ、または、流動様式の少なくともいずれかに応じて選定された解析モデルを用いてもよい。
【0017】
前記仮想流量演算装置のいずれかにおいて、前記解析モデルは、連続相モデルまたは分散相モデルであってもよい。
【0018】
前記仮想流量演算装置のいずれかは、クラウドサーバにより提供されてもよい。
【0019】
本発明の第2の態様においては、仮想流量演算方法を提供する。前記仮想流量演算方法は、コンピュータが、流量センサが計装される実空間の環境を示す環境情報を記憶することと、測定対象となる流体の物性を示す物性情報を記憶することと、前記環境情報および前記物性情報を用いて、前記実空間を再現した仮想空間上で前記流体における混相流の流動現象をシミュレーションすることと、前記シミュレーションされた結果に基づいて、前記流量センサにより実測される実流量を推測した仮想流量を演算することと、を備える。
【0020】
本発明の第3の態様においては、仮想流量演算プログラムを提供する。前記仮想流量演算プログラムは、コンピュータにより実行され、前記コンピュータを、流量センサが計装される実空間の環境を示す環境情報を記憶する環境情報記憶部と、測定対象となる流体の物性を示す物性情報を記憶する物性情報記憶部と、前記環境情報および前記物性情報を用いて、前記実空間を再現した仮想空間上で前記流体における混相流の流動現象をシミュレーションするシミュレーション部と、前記シミュレーションされた結果に基づいて、前記流量センサにより実測される実流量を推測した仮想流量を演算する演算部と、して機能させる。
【0021】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態に係る仮想流量演算装置100のブロック図の一例を、センサモジュール10とともに示す。
【
図2】本実施形態に係る仮想流量演算装置100が実行する仮想流量演算方法のフロー図の一例を示す。
【
図3】仮想コリオリ流量計として機能する仮想流量演算装置100のブロック図の一例を示す。
【
図4】仮想超音波流量計として機能する仮想流量演算装置100のブロック図の一例を示す。
【
図5】仮想電磁流量計として機能する仮想流量演算装置100のブロック図一例を示す。
【
図6】仮想渦流量計として機能する仮想流量演算装置100のブロック図の一例を示す。
【
図7】第1の変形例に係る仮想流量演算装置100のブロック図の一例を、センサモジュール10とともに示す。
【
図8】第2の変形例に係る仮想流量演算装置100のブロック図の一例を、センサモジュール10とともに示す。
【
図10】仮想コリオリ流量計として機能する第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100のブロック図の一例を示す。
【
図11】仮想超音波流量計として機能する第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100のブロック図の一例を示す。
【
図12】仮想電磁流量計として機能する第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100のブロック図一例を示す。
【
図13】仮想渦流量計として機能する第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100のブロック図の一例を示す。
【
図14】本発明の複数の態様が全体的または部分的に具現化されてよいコンピュータ9900の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0024】
図1は、本実施形態に係る仮想流量演算装置100のブロック図の一例を、センサモジュール10とともに示す。なお、これらブロックは、それぞれ機能的に分離された機能ブロックであって、実際の装置構成とは必ずしも一致していなくてもよい。すなわち、本図において、1つのブロックとして示されているからといって、それが必ずしも1つのデバイスにより構成されていなくてもよい。また、本図において、別々のブロックとして示されているからといって、それらが必ずしも別々のデバイスにより構成されていなくてもよい。これより先のブロック図についても同様である。
【0025】
センサモジュール10は、設備の様々な箇所に設けられ、測定対象の物理量を測定し、測定データを他の装置へ送信する。このような設備は、例えば、原材料から製品を製造する装置(群)であってよい。一例として、設備は、プラントであってもよい。プラントとしては、化学やバイオ等の工業プラントの他、ガス田や油田等の井戸元やその周辺を管理制御するプラント、水力・火力・原子力等の発電を管理制御するプラント、太陽光や風力等の環境発電を管理制御するプラント、上下水やダム等を管理制御するプラント等が挙げられる。センサモジュール10は、流量センサ20と、処理部30と、センサ側通信部40と、を備える。
【0026】
流量センサ20は、実空間(例えば、プラントの配管等)に計装され、測定対象となる流体(液体、気体、蒸気、粉粒体、または、これらの混相状態)が管路を単位時間あたりに流れる量を測定する計測器である。このような流量センサ20としては、測定の目的、測定場所、流体の種類、または、流体の状態等の様々な条件に応じて、センシング原理の異なる様々な流量計が挙げられる。一例として、流量センサ20は、コリオリ流量計、超音波流量計、電磁流量計、または、渦流量計の少なくともいずれかであってよい。
【0027】
コリオリ流量計は、物理現象であるコリオリの力を利用した流量計である。共振周波数で動作するフローチューブの中を流体が通過すると、慣性によりフローチューブにねじれが生じ、フローチューブの流入側と流出側に取り付けられた振動検出センサの検出信号に位相変化が起こる。コリオリ流量計においては、例えばこのような位相変化を検出し、係数を掛け合わせることで流量を出力する。
【0028】
超音波流量計は、超音波の伝搬時間差を利用した流量計である。管路内の流体を斜めに横切って交互に超音波を送受信すると、超音波は流体の流れに逆らうと遅く伝わり、流れに乗ると速く伝わることとなる。超音波流量計においては、例えばこのような2つの超音波の伝搬時間の差を用いて流速を算出し、流量補正係数で面の平均流速に補正した後、管路の断面積を掛け合わせることで流量を出力する。
【0029】
電磁流量計は、ファラデーの電磁誘導を利用した流量計である。電磁石で磁界を作り、磁界中を導電性の流体が通過すると、磁界の向きと流体の流れの向きの両者に垂直な向きに流速に比例した起電力が発生する。電磁流量計においては、例えばこのような起電力の大きさを検出し、管路の断面積を掛け合わせることで流量を出力する。
【0030】
渦流量計は、カルマン渦を利用した流量計である。流れている流体の中に、柱状の障害物(渦発生体)があると、その下流側にカルマン渦が発生する。この際、流体の流速とカルマン渦の渦周波数は比例関係にある。渦流量計においては、例えばこのようなカルマン渦の渦周波数を用いて流速を算出し、管路の断面積を掛け合わせることで流量を出力する。
【0031】
流量センサ20は、例えばこのような、コリオリ流量計、超音波流量計、電磁流量計、または、渦流量計の少なくともいずれかであってよい。なお、センサモジュール10は、流量センサ20とは異なる物理量を測定可能な他のセンサ(図示せず)を更に備えていてもよい。例えば、センサモジュール10は、圧力計、温度計、粘度計、pH計、導電率計、または、スラリー濃度計等の他のセンサを更に備えていてもよい。
【0032】
処理部30は、流量センサ20、および、他のセンサからの出力信号を信号処理する。処理部30は、センサからの出力信号を信号処理した測定データをセンサ側通信部40へ供給してよい。このような測定データは、少なくとも流量センサ20により実測された実流量を示すデータであってよい。
【0033】
センサ側通信部40は、通信プロトコルに準じて仮想流量演算装置100と通信するための通信スタック(データリンク層やアプリケーション層を含む)および通信ドライバ(物理層を含む)を具備する。センサ側通信部40は、処理部30から供給された測定データを、ネットワークを介して仮想流量演算装置100へ送信してよい。
【0034】
一般に、流量センサ20は、国家標準にトレーサビリティのとれた設備において、基準動作条件の下で校正される。一例として、基準動作条件は、流体=水、流体温度=常温±α、周囲温度=常温±α、上下流の直管長=十分に長い、といった条件である。このような流量センサ20が実空間に計装される場合、流体種別、流体温度、周囲温度、または、上下流直管長等の使用条件が校正時の基準動作条件と異なるため、校正値との差分が生じることとなる。
【0035】
当然ながら、流量センサ20のサプライヤは、このような使用条件の違いを想定して、一定のレベルで使用環境や流体物性による影響を小さくするための設計を行っている。しかしながら、長期間の使用からくる計器の変化や、実流設備の変化があった場合には、実空間に計装された流量センサ20の出力変動や内部ステータス情報を元に、実流量を推測する必要があった。また、流量センサ20の健全性としては、最終的には、国家標準にトレーサビリティのとれた設備で再校正を行う必要があった。
【0036】
そこで、本実施形態に係る仮想流量演算装置100は、実空間に計装された流量センサ20の使用環境や流体物性等の使用条件を想定して仮想空間上で流体の計測に関連するシミュレーションを実行し、シミュレーション結果に基づいて上述の実流量を推測する仮想流量を演算する。本実施形態に係る仮想流量演算装置100は、環境情報記憶部110と、物性情報記憶部120と、装置側通信部130と、シミュレーション部140と、演算部150と、診断部160と、を備える。
【0037】
環境情報記憶部110は、流量センサ20が計装される実空間の環境を示す環境情報を記憶する。例えば、環境情報記憶部110は、データベースであってよく、ユーザ入力、各種メモリデバイス、または、ネットワーク等を介して取得された環境情報を、演算部150からアクセス可能となるように記憶してよい。
【0038】
物性情報記憶部120は、測定対象となる流体の物性を示す物性情報を記憶する。例えば、物性情報記憶部120は、データベースであってよく、ユーザ入力、各種メモリデバイス、または、ネットワーク等を介して取得された物性情報を、演算部150からアクセス可能となるように記憶してよい。
【0039】
装置側通信部130は、通信プロトコルに準じてセンサモジュール10と通信するための通信スタックおよび通信ドライバを具備する。例えば、装置側通信部130は、ネットワークを介してセンサモジュール10と通信し、センサモジュール10から測定データを取得してよい。上述のとおり、このような測定データは、少なくとも流量センサ20により実測された実流量を示すデータであってよい。装置側通信部130は、取得した測定データを診断部160へ供給してよい。
【0040】
シミュレーション部140は、環境情報および物性情報を用いて、実空間を再現した仮想空間上で流体の計測に関連するシミュレーションを実行する。例えば、シミュレーション部140は、演算部150からの指示にしたがって、環境情報記憶部110に記憶された環境情報、および、物性情報記憶部120に記憶された物性情報を用いて、仮想空間上で流体の計測に関連するシミュレーションを実行してよい。シミュレーション部140は、シミュレーション結果を演算部150へ供給してよい。
【0041】
演算部150は、シミュレーションされた結果に基づいて、流量センサ20により実測される実流量を推測した仮想流量を演算する。例えば、演算部150は、シミュレーション部140からシミュレーション結果を取得し、当該シミュレーション結果に基づいて、流量センサ20により実測される実流量を推測した仮想流量を演算してよい。演算部150は、演算した仮想流量を診断部160へ通知してよい。
【0042】
診断部160は、実流量および仮想流量に基づいて、流量センサ20を診断する。例えば、診断部160は、装置側通信部130から供給された測定データが示す実流量と、演算部150から通知された仮想流量とを比較して、流量センサ20を診断してよい。
【0043】
このような機能部を備えた仮想流量演算装置100は、PC(パーソナルコンピュータ)、タブレット型コンピュータ、スマートフォン、ワークステーション、サーバコンピュータ、または汎用コンピュータ等のコンピュータであってよく、複数のコンピュータが接続されたコンピュータシステムであってもよい。このようなコンピュータシステムもまた広義のコンピュータである。また、仮想流量演算装置100は、コンピュータ内で1または複数実行可能な仮想コンピュータ環境によって実装されてもよい。これに代えて、仮想流量演算装置100は、仮想流量の演算用に設計された専用コンピュータであってもよく、専用回路によって実現された専用ハードウェアであってもよい。また、インターネットに接続可能な場合、仮想流量演算装置100は、クラウドコンピューティングにより実現されてもよい。特に、仮想流量演算装置100は、処理能力やメモリ容量の観点から、クラウドサーバにより提供されると好ましい。
【0044】
また、このようなコンピュータは、仮想流量演算プログラムを格納するメモリと、仮想流量演算プログラムを実行するプロセッサと、を備え、プロセッサが仮想流量演算プログラムを実行することにより、仮想流量演算装置100としての機能が実装されてもよい。すなわち、コンピュータにより実行され、コンピュータを、流量センサ20が計装される実空間の環境を示す環境情報を記憶する環境情報記憶部110と、測定対象となる流体の物性を示す物性情報を記憶する物性情報記憶部120と、環境情報および物性情報を用いて、実空間を再現した仮想空間上で流体の計測に関連するシミュレーションを実行するシミュレーション部140と、シミュレーションされた結果に基づいて、流量センサ20により実測される実流量を推測した仮想流量を演算する演算部150と、して機能させる、仮想流量演算プログラムが提供されてよい。
【0045】
図2は、本実施形態に係る仮想流量演算装置100が実行する仮想流量演算方法のフロー図の一例を示す。仮想流量演算方法における各ステップは、コンピュータが動作主体となって実行されてよい。しかしながら、各ステップにおいて、全体としてコンピュータが動作主体となっていればよく、主たる部分ではない一部の部分をコンピュータ以外が実行する場合が含まれていてもよい。
【0046】
ステップS210において、コンピュータは、環境情報を記憶する。例えば、環境情報記憶部110は、流量センサ20が計装される実空間の環境を示す環境情報を、演算部150からアクセス可能となるように記憶してよい。この際、環境情報記憶部110は、一例として、流量センサ20の外部に取り付けられる配管の情報(直管長、または、上下流側のエルボーの状態等)、取付ガスケットの情報、流体の情報(液種、濃度、混相有無、想定温度、または、想定圧力等)、または、周辺機器の情報等を、環境情報として記憶してよい。なお、このような環境情報の一部、例えば、配管の情報等は、CAD(Computer Aided Design)データや、空撮撮影データ等から抽出されたものであってもよい。
【0047】
ここで、使用環境が経時的に変動する場合は、環境情報記憶部110は、流量センサ20と同様に実空間に計装された圧力計、温度計、粘度計、pH計、導電率計、または、スラリー濃度計等の他のセンサによる測定データを、環境情報として記憶してもよい。また、環境情報記憶部110は、流量センサ20による測定データ、すなわち、流量センサ20により実測された実流量それ自体を、環境情報として記憶してもよい。このような場合、環境情報記憶部110は、データが経時的に変化することを想定し、測定データを時系列に記憶してよい。
【0048】
ステップS220において、コンピュータは、物性情報を記憶する。例えば、物性情報記憶部120は、測定対象となる流体の物性を示す物性情報を、演算部150からアクセス可能となるように記憶してよい。この際、物性情報記憶部120は、一例として、測定対象となる流体の温圧特性を含む密度、粘度、導電率、電気抵抗率、誘電率、または、音響特性等の情報を、物性情報として記憶してよい。また、上述の説明では、物性情報記憶部120が測定対象となる流体の物性を示す物性情報のみを記憶する場合を一例として示したが、これに限定されるものではない。物性情報記憶部120は、測定対象となる流体以外の、シミュレーションに必要となる様々な物質の物性を示す物性情報をも記憶してよい。この際、物性情報記憶部120は、いわゆる理科年表や様々な基礎物性データベースに記載される様々な情報(例えば、金属の抵抗率や機械的物性の温度特性)を、物性情報として記憶してもよい。
【0049】
ステップS230において、コンピュータは、測定データを取得する。例えば、装置側通信部130は、ネットワークを介してセンサモジュール10から、測定データを取得してよい。上述のとおり、このような測定データは、少なくとも流量センサ20により実測された実流量を示すデータであってよい。
【0050】
なお、この際、環境情報記憶部110は、取得された測定データ(流量センサ20による測定データや他のセンサによる測定データ)を時系列に追加することによって、ステップS210において記憶された環境情報を更新してもよい。
【0051】
ステップS240において、コンピュータは、シミュレーションを実行する。例えば、演算部150は、環境情報記憶部110にアクセスしてシミュレーションに必要となる環境情報を取得してよい。また、演算部150は、物性情報記憶部120にアクセスしてシミュレーションに必要となる物性情報を取得してよい。なお、このような物性情報には、上述のとおり、測定対象となる流体の物性を示す情報が含まれていてよく、測定対象となる流体以外の物質の物性を示す情報が含まれていてもよい。そして、演算部150は、これら情報をシミュレーション部140へ供給し、シミュレーションの実行を指示してよい。これに応じて、シミュレーション部140は、環境情報および物性情報を用いて、実空間を再現した仮想空間上、例えば、デジタルツイン上で流体の計測に関連するシミュレーションを実行してよい。
【0052】
一例として、シミュレーション部140は、有限要素法(FEM:Finite Element Method)、または、有限差分法(FDM:Finite Difference Method)等の既知の数値解析手法を用いてシミュレーションを実行してよい。この際、シミュレーション部140は、仮想空間上で、応力、流体、電磁場、または、超音波の少なくともいずれかをシミュレーションしてよい。
【0053】
シミュレーション部140は、例えば、応力シミュレーションにおいて、ポンプなどの振動源から配管を伝わって流量センサ20へ印加される振動状態をシミュレーションしてよい。また、シミュレーション部140は、圧力計やレベル計等の情報をもとに、流量センサ20へ印加される流体圧力をシミュレーションしてよい。また、シミュレーション部140は、配管間のボルト締結やスタンション等による配管への応力分布をシミュレーションしてよい。
【0054】
また、シミュレーション部140は、例えば、流体シミュレーションにおいて、ポンプの揚程、流体、および、配管系の全体からくる圧損等の基礎情報を入力し、実空間で使用される流量計部分の流速をシミュレーションしてよい。この場合、フルモデルで流体シミュレーションを実行することにより、実流量と仮想流量との直接比較が可能となる。ここでのメリットは、流速および流体粘度により変化する流量計断面の流速分布を知ることができることである。コリオリ流量計、超音波流量計、電磁流量計、および、渦流量計では流速分布の影響を受け易いが、その出力が流速分布に依拠するものかを推定することが可能となる。一方で、プラント等の設備全体の配管を想定した流体シミュレーションが演算装置のパフォーマンス上で困難な場合は、シミュレーション部140は、一部の要素を省略してシミュレーションを実行してもよい。この場合、実流量と仮想流量とのズレが発生することもある。したがって、そのような場合には、シミュレーション部140は、プラント等で使用される制御システム上のPID(Proportional Integral Differential)制御で設定されるセットポイント流量を初期値としてもよいし、正常動作とみなされる期間における実流量値を初期値としてもよい。シミュレーション部140は、部分的に流体シミュレーションを実行することにより、演算負荷を下げることが可能となるが、この場合、正常動作状態とみなされる仮想流量の値および実流量の値からの差分を見ていくこととなる。
【0055】
また、シミュレーション部140は、例えば、電磁場シミュレーションにおいて、流量センサ20内に備えられた2つのコイルの印加電流値を初期値として与え、管路の断面における磁束密度分布をシミュレーションしてよい。
【0056】
また、シミュレーション部140は、例えば、超音波伝搬シミュレーションにおいて、流体物性、プラント配管のパラメータ、環境温度から、超音波伝搬時間や超音波信号の減衰などをシミュレーションしてよい。
【0057】
このように、シミュレーション部140は、仮想空間上で、応力、流体、電磁場、または、超音波の少なくともいずれか、好ましくは、これらの組み合わせをシミュレーションしてよい。
【0058】
ステップS250において、コンピュータは、仮想流量を演算する。例えば、演算部150は、ステップS240においてシミュレーションされた結果に基づいて、流量センサ20により実測される実流量を推測した仮想流量を演算してよい。一般に、配管条件や流体条件等により、流速分布や流体物性(流体の圧力、密度、および、粘度等)が変化する。しかしながら、演算部150によれば、環境情報および物性情報を用いたシミュレーション結果に基づいて仮想流量を演算する。これにより、演算部150は、実際の使用環境や流体物性を計算に反映させて、実流量をより正確に推測した仮想流量を演算することができる。具体的な仮想流量の演算については、流量計のセンシング原理ごとに詳細を後述する。
【0059】
なお、演算部150は、流量センサ20の動作が正常とみなされる期間における実流量および仮想流量に基づいて、仮想流量を演算するための処理を決定してもよい。より詳細には、演算部150は、流量センサ20の実空間への計装時に動作が正常とみなされる期間において演算された仮想流量と、実流量との間に差分がある場合に、差分に応じた比率を補正値として演算された仮想流量に掛けて、仮想流量の初期結果とみなしてよい。これにより、例えば、流量センサ20が経年的に誤差を含んでしまう場合であっても、流量センサ20を実空間に取り付けた直後等の経年的な誤差を含まない初期の段階において仮想流量の演算結果を実流量に合わせこむことで、正しい流量(経年的な誤差を含まない実流量により近い流量)の初期値で仮想流量計を値付けすることができる。また、演算部150は、仮想流量の演算条件を追加する(例えば、周囲温度を実空間の測定データを使ったり、シミュレーションの収束値設定をより小さい値に設定したりする)ことで、繰り返し計算により仮想流量を実流量に近づけてもよい。また、流体シミュレーションの結果に基づいて仮想流量を演算する場合、演算部150は、実流量で流体シミュレーションした結果に基づいて仮想流量を演算し、より実流量に近い値を用いた流体シミュレーションにより仮想流量を演算する手順を繰り返すことによって、さらに実流量に近い仮想流量を演算してもよい。
【0060】
ステップS260において、コンピュータは、実流量と仮想流量とを比較する。例えば、診断部160は、ステップS230において取得された測定データが示す実流量と、ステップS250において演算された仮想流量とを比較してよい。
【0061】
ステップS270において、コンピュータは、差分が基準を満たすか否か判定する。例えば、診断部160は、ステップS260において比較した結果、実流量と仮想流量との差分が予め定められた基準を満たすか否か判定してよい。差分が基準を満たす(Yes)と判定された(例えば、差分が閾値未満である)場合、仮想流量演算装置100は、処理をステップS230へ戻してフローを継続してよい。一方、差分が基準を満たさない(No)と判定された(例えば、差分が閾値以上である)場合、仮想流量演算装置100は、処理をステップS280へ進めてよい。
【0062】
ステップS280において、コンピュータは、アラートを発報する。例えば、診断部160は、差分が基準を満たさない旨をモニタに表示出力してもよいし、音声出力してもよいし、印字出力してもよいし、信号送信出力してもよい。診断部160は、例えばこのようにして、実流量と仮想流量との差分が予め定められた基準を満たさない場合に、アラートを発報してもよい。これにより、診断部160は、実流量および仮想流量に基づいて、流量センサ20を診断することができる。
【0063】
そして、仮想流量演算装置100は、本フローを終了する。なお、仮想流量演算装置100は、これらの演算及び診断を動的に行うことができる。例えば、仮想流量演算装置100は、実流量の測定周期の複数倍の周期で、連続的に仮想流量の演算と流量センサ20の診断を行ってもよい。また、仮想流量演算装置100は、ユーザにより指定されるタイミング(例えば、1時間毎、1日毎、または、運転開始等のイベントに依拠するタイミング等)で、仮想流量の演算と流量センサ20の診断を行ってもよい。また、仮想流量演算装置100は、実流量の変動がユーザもしくはシステムにより指定された値(例えば、測定スパンの5%)となったタイミングや、環境情報や物性情報に入力される条件が変更されたタイミング、もしくは、その変化がユーザもしくはシステムにより指定された値(例えば、5%)を超えたタイミングで、仮想流量の演算と流量センサ20の診断を行ってもよい。
【0064】
本フローを用いて説明したように、コンピュータが、流量センサ20が計装される実空間の環境を示す環境情報を記憶することと、測定対象となる流体の物性を示す物性情報を記憶することと、環境情報および物性情報を用いて、実空間を再現した仮想空間上で流体の計測に関連するシミュレーションを実行することと、シミュレーションされた結果に基づいて、流量センサ20により実測される実流量を推測した仮想流量を演算することと、を備える、仮想流量演算方法が提供されてよい。これより、具体的な仮想流量の演算について、流量計のタイプごとに詳細に説明する。
【0065】
図3は、仮想コリオリ流量計として機能する仮想流量演算装置100のブロック図の一例を示す。仮想流量演算装置100は、仮想コリオリ流量計として機能してもよい。仮想コリオリ流量計として機能する場合、シミュレーション部140は、例えば、流体シミュレーション部141と、応力シミュレーション部142と、電磁場シミュレーション部143とを含んでよい。そして、仮想流量演算装置100は、例えば、流体シミュレーション部141と応力シミュレーション部142と電磁場シミュレーション部143とを用いて、実空間で使用されるコリオリ流量計の出力値を推測してよい。
【0066】
より詳細には、フローチューブ形状や振動検出センサの位置など、構造的な特徴量の関数である係数をSK、フローチューブの上流側と下流側に発生する振動の位相差から計算される位相時間差をτとすると、演算部150は、仮想流量Qを、次式により演算してよい。すなわち、演算部150は、仮想流量Qを、係数SKと位相時間差τとの積により演算してよい。ここで、位相時間差τは、振動検出センサに生じる位相差φを発振器の励振振動数frで除したものである。したがって、仮想流量Qは、係数SKと位相差φとの積を励振振動数frで除したものとして表すこともできる。
【数1】
【0067】
この際、係数SKに関連して、シミュレーション部140は、応力シミュレーション部142を用いて応力シミュレーションを実行してよい。一例として、応力シミュレーション部142は、フローチューブ・発振器・振動検出センサの常温常圧下での3Dモデル、および、実空間の計器から得た温度・圧力を入力として、仮想コリオリ流量計のフローチューブ形状を出力してよい。さらに、応力シミュレーション部142は、同フローチューブ形状および同条件下のヤング率を入力として、係数SKを算出するのに必要なフローチューブの共振周波数や慣性モーメントを出力してよい。
【0068】
そして、演算部150は、このようにフローチューブに加わる温度・圧力、および、フローチューブの振動の動力である発振器の励振力を加味した応力シミュレーションの結果から、固有角振動数等の特徴量を算出し、予め導出しておいた特徴量を変数とする関数に、算出された特徴量を代入することで、係数SKを算出してよい。
【0069】
また、位相時間差τに関連して、シミュレーション部140は、流体シミュレーション部141・応力シミュレーション部142・及び電磁場シミュレーション部143を用いて連成シミュレーションを実行してよい。そして、演算部150は、連成シミュレーションの結果から振動検出センサに生じる位相差φを算出し、これを発振器の励振振動数frで除することで、位相時間差τを算出してよい。
【0070】
図4は、仮想超音波流量計として機能する仮想流量演算装置100のブロック図の一例を示す。仮想流量演算装置100は、仮想超音波流量計として機能してもよい。仮想超音波流量計として機能する場合、シミュレーション部140は、例えば、流体シミュレーション部141と、超音波伝搬シミュレーション部144とを含んでよい。そして、仮想流量演算装置100は、例えば、流体シミュレーション部141と超音波伝搬シミュレーション部144とを用いて、実空間で使用される超音波流量計の出力値を推測してよい。
【0071】
より詳細には、測定管軸と超音波伝搬軸との角度をθ、超音波が伝搬する距離をL、上流側から下流側へ超音波が伝搬する伝搬時間をt1、下流側から上流側へ超音波が伝搬する伝搬時間をt2とすると、演算部150は、流速vを、次式により算出してよい。すなわち、演算部150は、流速vを、伝搬時間の逆数差(周波数差)の関数を用いて算出してよい。
【数2】
【0072】
そして、流量補正係数をk、管路の断面積をAとすると、演算部150は、仮想流量Qを、次式により演算してよい。すなわち、演算部150は、流速vを流量補正係数kで流体が流れる断面の平均流速に補正した後、管路の断面積Aを掛け合わせることで仮想流量を演算してよい。
【数3】
【0073】
この際、伝搬時間t1およびt2に関連して、シミュレーション部140は、流体シミュレーション部141を用いて流体シミュレーションを実行してよい。一例として、流体シミュレーション部141は、上下流直管長、上下流エルボー、および、流体粘度等を加味して、測定管内における3次元の流速分布を計算してよい。この際、必要により実空間に計装された流量センサ20の実流量(流速)出力値が使用されてもよい。
【0074】
また、シミュレーション部140は、超音波伝搬シミュレーション部144を用いて超音波伝搬シミュレーションを実行してよい。一例として、超音波伝搬シミュレーション部144は、圧電素子から放射される超音波について、流量ゼロのときの上下流センサ取付位置における上流から下流方向及び下流から上流方向の伝搬時間を計算してよい。そして、超音波伝搬シミュレーション部144は、配管肉厚やスケール等の配管パラメータや温度(環境温度、流体温度)を考慮して伝搬時間を計算することで、超音波の伝搬をシミュレーションしてよい。
【0075】
そして、演算部150は、測定管内の3次元流速分布と超音波伝搬のシミュレーション結果に基づく伝搬時間による連成解析により、上流側から下流側への伝搬時間t1と下流側から上流側への伝搬時間t2を算出してよい。連成解析によって、超音波伝搬シミュレーションで計算された伝搬時間に、流体シミュレーションで計算された3次元流速分布を組合せた伝搬時間t1とt2を算出できる。
【0076】
図5は、仮想電磁流量計として機能する仮想流量演算装置100のブロック図の一例を示す。仮想流量演算装置100は、仮想電磁流量計として機能してもよい。仮想電磁流量計として機能する場合、シミュレーション部140は、例えば、流体シミュレーション部141と、電磁場シミュレーション部143とを含んでよい。そして、仮想流量演算装置100は、例えば、流体シミュレーション部141と電磁場シミュレーション部143とを用いて、実空間で使用される電磁流量計の出力値を推測してよい。
【0077】
より詳細には、演算部150は、電極に発生する起電力eを次式により演算してよい。すなわち、演算部150は、重み関数wと、磁束密度Bと、流速vとを掛け合わせて積分することで起電力eを算出してよい。
【数4】
【0078】
そして、演算部150は、仮想流量Qを次式により演算してよい。すなわち、演算部150は、算出された起電力e、配管内径D、および、定数Kを用いて、仮想流量Qを演算してよい。
【数5】
【0079】
ここで、磁束密度Bに関連して、シミュレーション部140は、電磁場シミュレーション部143を用いて電磁場シミュレーションを実行してよい。一例として、電磁場シミュレーション部143は、電磁流量計のコイルおよび磁性材料の寸法と磁性材料物性値を入力して、測定管内の磁束密度分布を計算してよい。この際、磁束密度については、実際に測定した測定管内の磁束密度分布をデータベースとして持っておいてもよい。他社製品のコイル、磁性材料の寸法または磁性材料物性値の少なくともいずれかの他社製品等設計情報が無い場合には、この方法により対応が可能となる。
【0080】
また、流速vに関連して、シミュレーション部140は、流体シミュレーション部141を用いて流体シミュレーションを実行してよい。一例として、流体シミュレーション部141は、上下流直管長、上下流エルボー、および、流体粘度等を加味して、測定管路の断面での流速分布を計算してよい。この際、必要により実空間に計装された流量センサ20の実流量(流速)出力値が使用されてもよい。
【0081】
なお、重み関数wについては、測定管路内の各点で発生する電界(磁束密度×流速)と電極間の距離の関数であり、例えば、JIS B 7554に記載される重み関数や、電極形状や配置位置に基づいた重み関数が用いられてよい。
【0082】
そして、演算部150は、測定管路内の各点で発生する電界(磁束密度B×流速v)に、重み関数wを掛けて、積分することで電極に発生する起電力eを算出してよい。この際、材料物性等はある一定幅を持っているケースがあるため、計算した起電力eに対して、一定の係数を掛け算することもある。
【0083】
図6は、仮想渦流量計として機能する仮想流量演算装置100のブロック図の一例を示す。仮想流量演算装置100は、仮想渦流量計として機能してもよい。仮想渦流量計として機能する場合、シミュレーション部140は、例えば、流体シミュレーション部141を含んでよい。そして、仮想流量演算装置100は、例えば、流体シミュレーション部141を用いて、実空間で使用される渦流量計の出力値を推測してよい。
【0084】
より詳細には、演算部150は、仮想流量Qを次式により演算してよい。すなわち、演算部150は、渦周波数fに管路断面積Aと渦発生体の幅dをかけてストローハル数Stで割ることで仮想流量Qを演算してよい。なお、ストローハル数Stは渦発生体の形状、寸法によって決定される無次元数である。
【数6】
【0085】
ここで、渦周波数fに関連して、シミュレーション部140は、流体シミュレーション部141を用いて流体シミュレーションを実行してよい。一例として、流体シミュレーション部141は、流体の物性値、渦棒の形状、および、配管の状況(直管長や段差等)を入力して、測定管路内の渦発生の様子をシミュレートしてよい。この際、必要により実空間に計装された流量センサ20の実流量(流速)出力値が使用されてもよい。
【0086】
また、シミュレーション部140は、流体シミュレーション部141を用いて測定管路内の圧力分布、温度分布を計算してよい。そして、演算部150は、例えば特に測定流体が気体の場合、測定管路内の算出した圧力および温度の分布に対して、仮想流量Qを補正してよい。
【0087】
本実施形態に係る仮想流量演算装置100は、例えばこのようにして、仮想コリオリ流量計、仮想超音波流量計、仮想電磁流量計、または、仮想渦流量計の少なくともいずれかとして機能することができる。
【0088】
従来の技術では、ユーザの使用環境における流量計部の流れおよび配管振動等の外部環境因子を想定しておらず、また、リアルタイムで流量計出力をシミュレートしていなかった。また、流量測定においては、使用環境によって測定管内の流速分布の影響が変わり、混相状態によって流体物性自体も変わり、これらは測定精度に影響を与える。しかしながら、これらを考慮して流量計出力の実流量を推定することは、極めて困難であった。
【0089】
これに対して、本実施形態に係る仮想流量演算装置100は、実空間に計装された流量センサ20の使用環境や流体物性等の使用条件を想定して仮想空間上で流体の計測に関連するシミュレーションを実行し、シミュレーション結果に基づいて仮想流量を演算する。これにより、本実施形態に係る仮想流量演算装置100によれば、ユーザの実使用環境や流体物性等の使用状況に則して流量センサ20により実測される実流量を高精度に推測することができる。したがって、本実施形態に係る仮想流量演算装置100によれば、実空間に計装されて使用条件の影響を受ける流量センサ20の流量測定の運転をサポートし、ひいては、計装システムの安定操業に繋げることができる。
【0090】
また、本実施形態に係る仮想流量演算装置100は、実流量および仮想流量に基づいて、流量センサ20を診断してもよい。この際、本実施形態に係る仮想流量演算装置100は、実流量と仮想流量との差分が基準を満たさない場合に、アラートを発報してもよい。これにより、本実施形態に係る仮想流量演算装置100によれば、演算した仮想流量が実流量に照らして意図した値となっているかに応じて、流量センサ20自体が正しく機能しているか、または、流量センサ20が正しく計装されているかを診断し、異常が疑われる(想定外のことが流量センサ20に起こっている可能性がある)場合に、ユーザへその旨を知らしめることができる。
【0091】
また、本実施形態に係る仮想流量演算装置100は、流量センサ20の動作が正常とみなされる期間における実流量および仮想流量に基づいて、演算部150での処理を決定してもよい。これにより、本実施形態に係る仮想流量演算装置100によれば、演算される仮想流量が正常期間における実流量に近づくように、演算処理のアルゴリズムを学習することができる。
【0092】
また、本実施形態に係る仮想流量演算装置100は、仮想空間上で実行された応力シミュレーション、流体シミュレーション、電磁場シミュレーション、または、超音波シミュレーションの少なくともいずれか、好ましくは、これらの組み合わせからなる連成シミュレーションの結果に基づいて、仮想コリオリ流量計、仮想超音波流量計、仮想電磁流量計、または、仮想渦流量計の少なくともいずれかとして機能する。これにより、本実施形態に係る仮想流量演算装置100によれば、様々なシミュレーション結果に基づいて仮想流量を演算するので、流量計のセンシング原理に則した仮想流量を高精度に演算することができる。
【0093】
ここで、使用環境や混相状態による影響を考慮して流量計出力を推定するには、高速の演算ユニットおよび大容量のメモリを必要とするが、これらを流量計内部に設けることは極めて困難であった。これに対して、本実施形態に係る仮想流量演算装置100は、クラウドサーバにより提供されてもよい。これにより、本実施形態に係る仮想流量演算装置100によれば、実空間における流量計に搭載されるプロセッサの処理能力、メモリ容量、および、消費電力等の制約を取り除くことが可能となる。したがって、本実施形態に係る仮想流量演算装置100によれば、データ量や演算の自由度が増すことで、流量計の様々な計装条件を取り込んだ流量出力を得ることが可能となる。
【0094】
図7は、第1の変形例に係る仮想流量演算装置100のブロック図の一例を、センサモジュール10とともに示す。上述の実施形態においては、仮想流量演算装置100が、仮想流量を演算する際に、都度シミュレーションを実行する場合を一例として示した。しかしながら、本変形例においては、仮想流量演算装置100は、シミュレーション結果の少なくとも一部を再利用する。
【0095】
本変形例に係る仮想流量演算装置100は、シミュレーション結果記憶部710を更に備える。本変形例において、シミュレーション部140は、シミュレーションした結果を演算部150に加えて、シミュレーション結果記憶部710へ供給する。
【0096】
シミュレーション結果記憶部710は、シミュレーションされた結果を記憶する。例えば、シミュレーション結果記憶部710は、データベースであってよく、シミュレーション部140によりシミュレーションされた結果を、演算部150からアクセス可能となるように記憶してよい。
【0097】
演算部150は、シミュレーション結果記憶部710にアクセスして記憶された結果を取得してよい。そして、演算部150は、仮想流量を演算するにあたって、記憶された結果の少なくとも一部を再利用してよい。
【0098】
本変形例に係る仮想流量演算装置100は、過去に実行されたシミュレーション結果を記憶し、当該シミュレーション結果の少なくとも一部を再利用してよい。これにより、本変形例に係る仮想流量演算装置100によれば、一度、計算した結果を保管するので、既に実行した条件での再シミュレーションが不要となるため計算の負荷を軽減させることができるとともに、学習演算モジュール(AI分析)による複数条件を加味した分析が可能となる。また、本変形例に係る仮想流量演算装置100によれば、応力、流体、電磁場、および、超音波伝搬シミュレーションを含むフルモデルのシミュレーションを必ずしもリアルタイムに都度実施する必要が無く、予め種々条件のシミュレーション結果を記憶しておき、記憶された結果から回帰的にシミュレーション結果を得ることで、実時間で実行する演算量を大幅に削減することができる。
【0099】
図8は、第2の変形例に係る仮想流量演算装置100のブロック図の一例を、センサモジュール10とともに示す。上述の実施形態においては、仮想流量演算装置100が、仮想流量に基づいて流量センサ20を診断する場合を一例として示した。しかしながら、本変形例においては、仮想流量演算装置100は、仮想流量の変動傾向を特定する。
【0100】
本変形例に係る仮想流量演算装置100は、傾向特定部810と、通知部820と、推奨部830と、を更に備える。
【0101】
例えば、演算部150は、環境情報または物性情報のうちの少なくとも1つの変数を変動させた場合における仮想流量をそれぞれ演算してよい。一例として、演算部150は、流体温度を±10℃の範囲で変動させた場合における仮想流量をそれぞれ演算してよい。演算部150は、このようにして異なる条件で演算した仮想流量を、仮想流量を演算した際の条件とともに、傾向特定部810へ供給してよい。
【0102】
傾向特定部810は、演算部150から供給された情報に基づき、変動させた変数(例えば、流体温度)と仮想流量との傾向を得ることができる。傾向特定部810は、例えばこのようにして、環境情報または物性情報のうちの少なくとも1つの変数を変動させた場合における仮想流量の傾向を特定することができる。
【0103】
ここで、環境情報または物性情報の中には、仮想流量に対して不感の変数もあれば、一定の傾向(例えば、単調増加、単調減少、または、関数による傾向等)を持つ変数も存在する。一定の傾向を持つ変数が発見された場合、傾向特定部810は、当該傾向に関する情報を通知部820へ供給してよい。この際、傾向特定部810は、例えば、変数と仮想流量との散布図のデータを様々な種類に近似(例えば、線形近似、指数近似、対数近似、多項式近似、および、累乗近似等)した複数の曲線を導出し、散布図のデータと各曲線との相関係数の二乗(1に近いほど相関が強く、0に近いほど相関が弱い)が最も大きい曲線を近似曲線として選択してもよい。また、傾向特定部810は、選択した近似曲線を数式化し、当該数式から補正関数を算出してもよい。傾向特定部810は、例えばこのような近似曲線や補正関数を示す情報を、傾向に関する情報として通知部820へ供給してもよい。
【0104】
そして、通知部820は、当該傾向に関する情報を、装置側通信部130を介してセンサモジュール10へ通知してよい。通知部820は、例えばこのようにして、傾向に関する情報を、流量センサ20を備えるセンサモジュール10へ通知することができる。
【0105】
したがって、本変形例において、センサモジュール10は、傾向特性記憶部50を更に備えてよい。傾向特性記憶部50は、仮想流量演算装置100から通知された傾向に関する情報を傾向特性として記憶してよい。そして、処理部30は、傾向特性記憶部50に記憶された傾向特性に基づいて、センサからの出力信号を信号処理してもよい。一例として、処理部30は、センサからの出力信号を、傾向特性記憶部50に記憶された補正関数を用いて補正処理してもよい。
【0106】
なお、仮想流量を演算する対象となる流量センサ20が複数存在する場合、傾向特定部810は、少なくとも1つの変数を変動させた場合における仮想流量の傾向を、流量センサ20毎に特定することもできる。なお、このような複数の流量センサ20は、サプライヤ、または、センシング原理の少なくともいずれかが互いに異なるものでもあってもよい。このような場合、傾向特定部810は、流量センサ20毎に特定したそれぞれの傾向に関する情報を推奨部830へ供給してよい。
【0107】
そして、推奨部830は、流量センサ20毎の傾向に基づいて、複数の流量センサ20の中から推奨する流量センサ20を決定してよい。例えば、推奨部830は、選定した1つまたは複数の変数(例えば、温度、粘度、または、レイノルズ数等)に対する仮想流量の変動の大きさを複数の流量センサ20間で比較し、変動の最も小さな流量センサ20を、推奨する流量センサ20として決定してよい。本変形例に係る仮想流量演算装置100は、例えばこのようにして、様々なサプライヤによる様々なタイプの複数の流量センサ20の変動特性を比較して、使用環境において最適な流量センサ20をユーザに推奨することができる。
【0108】
ここまで、測定対象となる流体が単相流(Single-Phase Flow)であることを前提に説明してきたが、実際には、複数の物質(意図しない物質をも含む)が混在することにより、混相流(Multi-Phase Flow)となる場合があり得る。
【0109】
ここで、「混相流」とは、物性の異なる複数の物質が混在した流体を示し、相(気体、液体、および、固体)の組み合わせによって、例えば、気液二相流、固気二相流、固液二相流、および、固気液三相流等を含む。また、「混相流」とは、必ずしも相が複数であるものに限定されず、相が一つであるもの、例えば、水と油のように分離する複数の物質が混在した流体、すなわち、液液二相流等をも含むものと解釈されてよい。
【0110】
図9は、混相流の流動様式の一例を示す。流体が単相流である場合には、流動状態は層流と乱流に大別される。これに対して、流体が混相流である場合には、混在する物質の物性、流速、および、管路の形状等により様々な流動状態が存在する。このような流動状態の特徴をとらえて分類したものが流動様式である。
【0111】
本図左上は、液相ベースの分散流を示す。例えば、液体が主である流体内に、気体(気泡等)や固体(砂またはスラリー等)が分散して流れることがある。また、主となる液体に混ざりきらない状態で物性の異なる他の液体(液滴等)が分散して流れる(水に微量の油が分散して流れる、または、油に微量の水が分散して流れる等)ことがある。このように、液相に、気体、固体、または、液体等の粒子が分散して流れる場合に、液相ベースの分散流が発生し得る。
【0112】
本図右上は、気相ベースの分散流を示す。例えば、気体が主である流体内に、固体や液体が分散して流れることがある。このように、気相に、固体、または、液体等の粒子が分散して流れる場合に、気相ベースの分散流が発生し得る。
【0113】
本図左下は、気液二相流における層状流を示す。例えば、管路が略水平方向に延伸する場合において、液体が管路内の下層(底層)を流れ、気体が管路内の上層を流れることがある。このように、性質を異にする複数の成分(複数の相)が層状に流れる場合に、層状流が発生し得る。
【0114】
本図右下は、気液二相流における環状流を示す。例えば、管路が略鉛直方向に延伸する場合において、液体が管路内の外層(壁面上)を同心円状に流れ、気体が管路内の内層(中心部)を流れることがある。このように、性質を異にする複数の成分(複数の相)が環状に流れる場合に、環状流が発生し得る。
【0115】
混相流においては、このように様々な相の組み合わせや、様々な流動様式が存在する。ここで、測定対象となる流体が混相流となると、センシングした信号の低下や変動等により、流量センサ20により実測された実流量と仮想流量との間に不整合が生じるが、このような不整合は、混相流の状態によって影響が様々である。そこで、第二の実施形態において、仮想流量演算装置100は、仮想流量を演算するにあたって、測定対象となる流体の混相状態をも考慮する。
【0116】
第二の実施形態においては、上述の実施形態との共通点については説明を省略し、相違点のみを説明するが、第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100についても、上述の実施形態に係る仮想流量演算装置100と同様の機能を提供可能であってよい。また、第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100についても、上述の実施形態に係る仮想流量演算装置100と同様に(例えば、第1の変形例や第2の変形例のように)変形可能であってよい。
【0117】
第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100において、シミュレーション部140は、混相流体シミュレーションを実行する混相流体シミュレーション部145を更に含んでよい。混相流体シミュレーション部145は、環境情報および物性情報を用いて、実空間を再現した仮想空間上で流体における混相流の流動現象をシミュレーションしてよい。そして、演算部150は、このようにしてシミュレーションされた結果に基づいて、仮想流量を演算してよい。
【0118】
すなわち、流量センサ20が計装される実空間の環境を示す環境情報を記憶する環境情報記憶部110と、測定対象となる流体の物性を示す物性情報を記憶する物性情報記憶部120と、環境情報および物性情報を用いて、実空間を再現した仮想空間上で流体における混相流の流動現象をシミュレーションするシミュレーション部140と、シミュレーションされた結果に基づいて、流量センサ20により実測される実流量を推測した仮想流量を演算する演算部150と、を備える、仮想流量演算装置100が提供されてよい。このような仮想流量演算装置100についても、上述の実施形態に係る仮想流量演算装置100と同様、クラウドサーバにより提供されると好ましい。
【0119】
また、コンピュータが、流量センサ20が計装される実空間の環境を示す環境情報を記憶することと、測定対象となる流体の物性を示す物性情報を記憶することと、環境情報および物性情報を用いて、実空間を再現した仮想空間上で前記流体における混相流の流動現象をシミュレーションすることと、シミュレーションされた結果に基づいて、流量センサ20により実測される実流量を推測した仮想流量を演算することと、を備える、仮想流量演算方法が提供されてよい。
【0120】
また、コンピュータにより実行され、コンピュータを、流量センサ20が計装される実空間の環境を示す環境情報を記憶する環境情報記憶部110と、測定対象となる流体の物性を示す物性情報を記憶する物性情報記憶部120と、環境情報および物性情報を用いて、実空間を再現した仮想空間上で流体における混相流の流動現象をシミュレーションするシミュレーション部140と、シミュレーションされた結果に基づいて、流量センサ20により実測される実流量を推測した仮想流量を演算する演算部150と、して機能させる、仮想流量演算プログラムが提供されてよい。
【0121】
ここで、混相流体シミュレーションを実行するにあたって、シミュレーション部140は、混相流における相の組み合わせ、または、流動様式の少なくともいずれかに応じて選定された解析モデルを用いてよい。このような解析モデルは、混相流の物理モデルであってよく、例えば、連続相モデルまたは分散相モデルであってよい。なお、解析モデルは、人手により選定されてもよいが、シミュレーション部140が、予め定められたルールにしたがって自動的に選定してもよい。
【0122】
一例として、混相流をマクロ的に捉え、大まかな流れを解析する場合においては、シミュレーション部140は、オイラー・オイラー法等の連続相モデルを用いてよい。連続相モデルにおいては、全ての相をオイラー的に連続相として取り扱う。
【0123】
一方、混相流をミクロ的に捉え、粒子を個々に追跡する場合においては、シミュレーション部140は、オイラー・ラグランジュ法等の分散相モデルを用いてよい。分散相モデルにおいては、連続相の中に分散した粒子をラグランジュ的に個々に取り扱う。
【0124】
このような混相流体シミュレーションをも実行する場合における具体的な仮想流量の演算について、流量計のセンシング原理ごとに詳細に説明する。
【0125】
図10は、仮想コリオリ流量計として機能する第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100のブロック図の一例を示す。本図においては、
図3と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100において、シミュレーション部140は、流体シミュレーション部141、応力シミュレーション部142、および、電磁場シミュレーション部143に加えて、混相流体シミュレーション部145を更に含んでよい。そして、第二の実施形態において、仮想流量演算装置100は、実空間で使用されるコリオリ流量計の出力値を推測するにあたって、混相流体シミュレーション部145を用いて混相流体シミュレーションを実行してよい。
【0126】
上述のとおり、仮想コリオリ流量計においては、位相時間差τから仮想流量Qを演算可能である。しかしながら、例えば、測定対象となる流体が気液二相流である場合、各相の流速やフローチューブ内での位置により、フローチューブに作用するコリオリ力が変化し、それに応じて位相時間差τも変化する。そこで、シミュレーション部140は、混相流体シミュレーション部145を用いて混相流体シミュレーションを実行し、フローチューブ内の各相の流速や気泡の分布位置を計算してよい。そして、演算部150は、混相流体、応力、および、電磁場に関する連成シミュレーションの結果から、振動検出センサに生じる位相差φを算出し、これを発振器の励振振動数frで除すことで、位相時間差τを算出してよい。
【0127】
この際、仮想流量演算装置100は、シミュレーション結果に基づいてコリオリ流量計の実流量を推測するとともに、シミュレーション結果を用いた理論計算を行うことにより、他の様々なパラメータを推定することもできる。
【0128】
例えば、仮想流量演算装置100は、フローチューブの共振周波数から測定対象となる流体の密度を推定することができる。一例として、シミュレーション部140は、混相流体、および、応力に関する連成シミュレーションを実行してよい。演算部150は、このようにシミュレーションされた結果から、流体を含むフローチューブ全体の共振周波数fvを算出してよい。そして、演算部150は、次式により流体密度ρを推定してよい。すなわち、演算部150は、真空中におけるフローチューブの共振周波数flを、流体を含むフローチューブ全体の共振周波数fvで除して二乗した値に、係数Cを掛け合わせることにより、流体密度ρを推定してよい。
【数7】
【0129】
また、演算部150は、フローチューブの共振周波数に基づいて、混相流の分率を推定することもできる。例えば、流体が気相単独の場合におけるフローチューブの共振周波数fref0、および、流体が液相単独の場合におけるフローチューブの共振周波数fref1が予め記憶されていたとする。この場合、演算部150は、算出されたフローチューブの共振周波数fvを、既知のフローチューブの共振周波数fref0およびfref1と比較することにより、液体中の気体分率を推定してよい。このように、流量センサ20がコリオリ流量計である場合、演算部150は、フローチューブの共振周波数に基づいて、流体の密度または混相流の分率の少なくともいずれかを推定してよい。
【0130】
また、コリオリ流量計においては、発振器の励振力によりフローチューブを振動させている。ここで、例えば、液体中に気泡が含まれている場合、フローチューブのダンピングが増加するため、励振を補うために発振器へ印加される駆動電流が増加する。そこで、仮想流量演算装置100は、このような駆動電流に基づいて、混相流の分率を推定することもできる。一例として、シミュレーション部140は、混相流体、応力、および、電磁場に関する連成シミュレーションを実行してよい。演算部150は、このようにシミュレーションされた結果から、発振器へ印加される駆動電流を算出してよい。ここで、発振器へ印加される駆動電流と液体中の気泡分率との相関関係を示すデータセットが予め記憶されていたとする。この場合、演算部150は、算出された駆動電流を、既知のデータセットと比較することにより、液体中の気体分率を推定してよい。このように、流量センサ20がコリオリ流量計である場合、演算部150は、フローチューブを振動させるために発振器へ印加される駆動電流に基づいて、混相流の分率を推定してよい。
【0131】
演算部150は、例えばこのようにして推定したパラメータを、診断部160へ通知してよい。そして、診断部160は、演算部150から通知されたパラメータが予め定められた基準を満たさない場合に、アラートを発報してよい。一例として、プラントプロセスにおいて流体に混入物が決まった物量で混入していることが分かっていたとする。この場合、診断部160は、演算部150から通知されたパラメータ(例えば、流体の密度や混相流の分率等)が、既知である混入物の物量から想定される範囲を超えた場合に、アラートを発報してよい。診断部160は、例えばこのようにして、演算部150により推定されたパラメータが予め定められた基準を満たさない場合に、アラートを発報することができる。なお、第二の実施形態においても、診断部160は、上述の実施形態において説明した機能を備えていてよい。すなわち、診断部160は、更に、実流量と仮想流量との差分が予め定められた基準を満たさない場合に、アラートを発報することもできる。
【0132】
図11は、仮想超音波流量計として機能する第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100のブロック図の一例を示す。本図においては、
図4と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100において、シミュレーション部140は、流体シミュレーション部141、および、超音波伝搬シミュレーション部144に加えて、混相流体シミュレーション部145を更に含んでよい。そして、第二の実施形態において、仮想流量演算装置100は、実空間で使用される超音波流量計の出力値を推測するにあたって、混相流体シミュレーション部145を用いて混相流体シミュレーションを実行してよい。
【0133】
上述のとおり、仮想超音波流量計においては、超音波が伝搬する伝搬時間t1およびt2から仮想流量Qを演算可能である。しかしながら、例えば、測定対象となる流体が液相中に気泡や個体等の粒子が分散している分散流である場合、粒子によって超音波の散乱反射が起こる。これにより、超音波送信子から発信された超音波が対向側で受信される信号強度が低下したり、液体中の見かけの伝搬速度が変化したりする。そこで、シミュレーション部140は、混相流体シミュレーション部145を用いて混相流体シミュレーションを実行し、管内における流速分布を計算してよい。そして、演算部150は、混相流体、および、超音波に関する連成シミュレーションの結果から、伝搬時間t1およびt2を算出してよい。
【0134】
この際、仮想流量演算装置100は、シミュレーション結果に基づいて超音波流量計の実流量を推測するとともに、シミュレーション結果を用いた理論計算を行うことにより、他の様々なパラメータを推定することもできる。また、仮想流量演算装置100は、気泡や固体粒子の多少を診断したり、流量出力への影響を見積もったりすることもできる。
【0135】
例えば、気泡や個体等の粒子の大きさ(径)は、散乱反射の大きさや周波数成分に影響を与える。そこで、演算部150は、超音波の受信信号強度を周波数帯域毎に分析し、当該分析結果と、超音波伝搬および混相流体のシミュレーション結果とを組み合わせることで、粒子の分布状態(大きさ等)を推定してよい。これにより、仮想流量演算装置100は、粒子の分布状態に基づく流体変化等を診断することができる。このように、流量センサ20が超音波流量計である場合、演算部150は、超音波の受信信号強度を周波数帯域毎に分析した結果に基づいて、流体に分散する粒子の分布状態を推定してよい。
【0136】
また、気泡や個体等の粒子が偏在して流れると、対向する超音波の受信信号強度(すなわち、上流側から下流側への超音波の受信信号強度、および、下流側から上流側への超音波の受信信号強度)に差が生じる。そこで、演算部150は、対向する超音波の受信信号強度の差、すなわち、アンバランスの程度を算出してよい。ここで、受信信号強度の差と粒子の偏在状態との相関関係を示すデータセットが予め記憶されていたとする。この場合、演算部150は、算出された受信信号強度の差を、既知のデータセットと比較することにより、気泡や個体等の粒子の偏在状態を推定してよい。このように、流量センサ20が超音波流量計である場合、演算部150は、対向する超音波の受信信号強度の差に基づいて、流体に分散する粒子の偏在状態を推定してよい。
【0137】
演算部150は、例えばこのようにして推定したパラメータを、診断部160へ通知してよい。そして、診断部160は、演算部150から通知されたパラメータが予め定められた基準を満たさない場合に、アラートを発報してよい。一例として、診断部160は、演算部150から通知されたパラメータ(例えば、粒子の分布状態や粒子の偏在状態等)をモニタし、パラメータの変動値が予め定められた範囲を超える場合に、アラートを発報してよい。診断部160は、例えばこのようにして、演算部150により推定されたパラメータが予め定められた基準を満たさない場合に、アラートを発報することができる。
【0138】
図12は、仮想電磁流量計として機能する第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100のブロック図一例を示す。本図においては、
図5と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100において、シミュレーション部140は、流体シミュレーション部141、および、電磁場シミュレーション部143に加えて、混相流体シミュレーション部145を更に含んでよい。そして、第二の実施形態において、仮想流量演算装置100は、実空間で使用される電磁流量計の出力値を推測するにあたって、混相流体シミュレーション部145を用いて混相流体シミュレーションを実行してよい。
【0139】
上述のとおり、仮想電磁流量計においては、電極に発生する起電力eから仮想流量Qを演算可能である。ここで、起電力eは、重み関数wと、磁束密度Bと、流速vとを掛け合わせて積分することで算出される。しかしながら、例えば、測定対象とする流体が電気的導電性の液相中(例えば、水)に電気的絶縁性の粒子(気泡、油、砂、または、スラリー等)が分散している分散流である場合、電気的絶縁性の粒子は、電極で検出する起電力に寄与しない。そこで、シミュレーション部140は、混相流体シミュレーション部145を用いて混相流体シミュレーションを実行し、電極近傍における粒子の発生頻度や面積を計算してよい。そして、演算部150は、粒子が存在する部位からの信号をゼロとして積分計算に組み込むことで起電力eを算出してよい。この際、当然、シミュレーション上は省略している要素が存在するため、演算部150は、シミュレーション結果と実流量とを予め関連付けた所定の係数を演算に組み込むこともできる。このように、演算部150は、測定対象となる流体に分散する電気的絶縁物の起電力効果を減じて電磁流量計の実流量を推測することができる。
【0140】
この際、仮想流量演算装置100は、シミュレーション結果に基づいて電磁流量計の実流量を推測するとともに、シミュレーション結果を用いた理論計算を行うことにより、他の様々なパラメータを推定することもできる。
【0141】
例えば、電気的絶縁性の粒子が電極部を擦過することで、揺動性の電気的ノイズが発生する。その他、流体の様々な条件に応じて、電磁流量計の電極には様々なフローノイズが発生する。このようなフローノイズについては、特許6229852号に記載されたとおりであってよいので、ここでは説明を省略する。第二の実施形態において、シミュレーション部140が混相流体シミュレーション部145を含むことにより、仮想流量演算装置100は、電磁流量計の電極に発生するこのようなフローノイズに対しても関連付けが可能となる。例えば、電極近傍における混相流の流れの変動や揺らぎの状態が分かることで、演算部150は、測定管の測定断面もしくは電極付近における混相流の分率の変動量が計算可能となる。このような計算結果と、電磁流量計の実流量を予め関連付けて所定の係数とすることで、仮想空間におけるシミュレーション結果とフローノイズ診断信号との関連付けが可能となる。これにより、演算部150は、混相流体シミュレーションの結果によって得られた分散相における電気的絶縁物の起電力効果とフローノイズ量とを同定することができる。このように、流量センサ20が電磁流量計である場合、演算部150は、流体に分散する電気的絶縁物の起電力効果に基づいて、電極に発生するフローノイズ量を推定してよい。
【0142】
また、演算部150は、電磁流量計のプロセス値の変動値やフローノイズの変動値を、混相状態をパラメトリックに計算した結果と対比することで、分散相が気相の場合は気泡分率が分かったり、油の場合は油の分率が分かったりするなど、混相状態を推定することができる。このように、流量センサ20が電磁流量計である場合、演算部150は、シミュレーションされた結果をパラメトリックに計算した結果に基づいて、混相流の分率を推定してよい。
【0143】
演算部150は、例えばこのようにして推定したパラメータを、診断部160へ通知してよい。そして、診断部160は、演算部150から通知されたパラメータが予め定められた基準を満たさない場合に、アラートを発報してよい。一例として、診断部160は、演算部150から通知されたパラメータ(例えば、フローノイズ量や分率)をモニタし、パラメータの変動値が予め定められた範囲を超える場合に、アラートを発報してよい。診断部160は、例えばこのようにして、演算部150により推定されたパラメータが予め定められた基準を満たさない場合に、アラートを発報することができる。
【0144】
図13は、仮想渦流量計として機能する第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100のブロック図の一例を示す。本図においては、
図6と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100において、シミュレーション部140は、流体シミュレーション部141に加えて、応力シミュレーション部142、電磁場シミュレーション部143、および、混相流体シミュレーション部145を更に含んでよい。そして、第二の実施形態において、仮想流量演算装置100は、実空間で使用される渦流量計の出力値を推測するにあたって、混相流体シミュレーション部145を用いて混相流体シミュレーションを実行してよい。
【0145】
上述のとおり、仮想渦流量計においては、渦周波数fと管路断面積Aとを用いて仮想流量Qを演算可能である。しかしながら、例えば、測定対象となる流体が層状流や環状流のような気液二相の混相状態である場合、管壁に液相が存在していると見かけの配管内径が小さくなり流速が上がる。そこで、シミュレーション部140は、混相流体シミュレーション部145を用いて混相流体シミュレーションを実行し、管路内における流速分布を計算してよい。そして、演算部150は、シミュレーションの結果から、気相単独の仮想流量Qを演算してよい。
【0146】
この際、仮想流量演算装置100は、シミュレーション結果に基づいて渦流量計の実流量を推測するとともに、シミュレーション結果を用いた理論計算を行うことにより、他の様々なパラメータを推定することもできる。また、仮想流量演算装置100は、蒸気プロセス中の乾き度の推定に用いることもできる。
【0147】
例えば、仮想流量演算装置100は、圧電素子に発生する電圧の振幅強度から混相流の分率を推定することができる。一例として、渦周波数fを検出するにあたっては、カルマン渦の発生に際して渦発生体に加わる交番圧力によって生じる応力を圧電素子で検出する方式が採用されている。しかしながら、管壁に液相が存在していると、気相単独の場合よりもカルマン渦の発生によって渦発生体に加わる交番圧力が低下する。そこで、シミュレーション部140は、混相流体、および、応力に関する連成シミュレーションを実行してよい。演算部150は、このようにシミュレーションされた結果と、圧電関数とにより、圧電素子に発生する電圧の振幅強度を算出し、当該振幅強度から、気相中の液体分率を推定してよい。このように、流量センサ20が渦流量計である場合、演算部150は、圧電素子に発生する電圧の振幅強度に基づいて、混相流の分率を推定してよい。
【0148】
また、仮想流量演算装置100は、圧電素子に発生するノイズ(混相流体の流れの変動や揺らぎ)から混相流の分率を推定することもできる。一例として、管壁に液相が存在していると、液相流れの揺らぎ等によって生じた振動を渦発生体中の圧電素子がノイズとして感受する。また、気相中に液滴が存在している場合にも、渦発生体に液滴が衝突することによって圧電素子へのノイズが発生する。そこで、シミュレーション部140は、混相流体、応力、および、電磁場に関する連成シミュレーションを実行してよい。演算部150は、このようにシミュレーションされた結果により圧電素子に発生するノイズを算出し、当該ノイズから、気相中の液体分率等を推定してよい。このように、流量センサ20が渦流量計である場合、演算部150は、圧電素子に発生するノイズに基づいて、混相流の分率を推定してよい。
【0149】
また、シミュレーション部140は、混相流の分率(例えば、気液相の分率)を用いて、混相流体シミュレーション部145により混相流体シミュレーションを実行し、管路内における流速分布を計算してよい。そして、演算部150は、シミュレーションの結果から、気相単独の仮想流量Qを演算してよい。このように、流体が、気液二相の混相状態である場合、演算部150は、混相流の分率に基づいて、気相単独の仮想流量Qを演算してもよい。
【0150】
演算部150は、例えばこのようにして推定したパラメータを、診断部160へ通知してよい。そして、診断部160は、演算部150から通知されたパラメータが予め定められた基準を満たさない場合に、アラートを発報してよい。一例として、診断部160は、演算部150から通知されたパラメータ(例えば、混相流の分率等)をモニタし、パラメータの変動値が予め定められた範囲を超える場合に、アラートを発報してよい。診断部160は、例えばこのようにして、演算部150により推定されたパラメータが予め定められた基準を満たさない場合に、アラートを発報することができる。
【0151】
このように、第二の実施形態においても、流量センサ20は、コリオリ流量計、超音波流量計、電磁流量計、または、渦流量計の少なくともいずれかであってよく、仮想流量演算装置100は、仮想コリオリ流量計、仮想超音波流量計、仮想電磁流量計、または、仮想渦流量計の少なくともいずれかとして機能してよい。
【0152】
流量測定において、測定管内における混相状態が測定精度に影響を与える。そこで、第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100は、環境情報および物性情報を用いて、測定対象となる流体における混相流の流動現象をシミュレーションし、シミュレーションされた結果に基づいて、仮想流量を演算する。これにより、第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100によれば、流量測定に対する多様性や流量計測に係る診断を更に高度化することができる。
【0153】
また、第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100は、流量計のセンシング原理に則して、実流量の推測のみならず、他の様々なパラメータを推定することができ、推定したパラメータが予め定められた基準を満たさない場合に、アラートを発報することもできる。また、第二の実施形態に係る仮想流量演算装置100は、混相流体シミュレーションを実行するにあたって、大まかな流れを解析する場合には連続相モデルを用いて計算負荷を抑え、粒子を個々に追跡する場合には分散相モデルを用いて詳細なシミュレーション結果を得る等、混相状態に応じて最適な解析モデルを用いることができる。
【0154】
本発明の様々な実施形態は、フローチャートおよびブロック図を参照して記載されてよく、ここにおいてブロックは、(1)操作が実行されるプロセスの段階または(2)操作を実行する役割を持つ装置のセクションを表わしてよい。特定の段階およびセクションが、専用回路、コンピュータ可読媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプログラマブル回路、および/またはコンピュータ可読媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプロセッサによって実装されてよい。専用回路は、デジタルおよび/またはアナログハードウェア回路を含んでよく、集積回路(IC)および/またはディスクリート回路を含んでよい。プログラマブル回路は、論理AND、論理OR、論理XOR、論理NAND、論理NOR、および他の論理操作、フリップフロップ、レジスタ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラマブルロジックアレイ(PLA)等のようなメモリ要素等を含む、再構成可能なハードウェア回路を含んでよい。
【0155】
コンピュータ可読媒体は、適切なデバイスによって実行される命令を格納可能な任意の有形なデバイスを含んでよく、その結果、そこに格納される命令を有するコンピュータ可読媒体は、フローチャートまたはブロック図で指定された操作を実行するための手段を作成すべく実行され得る命令を含む、製品を備えることになる。コンピュータ可読媒体の例としては、電子記憶媒体、磁気記憶媒体、光記憶媒体、電磁記憶媒体、半導体記憶媒体等が含まれてよい。コンピュータ可読媒体のより具体的な例としては、フロッピー(登録商標)ディスク、ディスケット、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EPROMまたはフラッシュメモリ)、電気的消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EEPROM)、静的ランダムアクセスメモリ(SRAM)、コンパクトディスクリードオンリメモリ(CD-ROM)、デジタル多用途ディスク(DVD)、ブルーレイ(RTM)ディスク、メモリスティック、集積回路カード等が含まれてよい。
【0156】
コンピュータ可読命令は、アセンブラ命令、命令セットアーキテクチャ(ISA)命令、マシン命令、マシン依存命令、マイクロコード、ファームウェア命令、状態設定データ、またはSmalltalk(登録商標)、JAVA(登録商標)、C++等のようなオブジェクト指向プログラミング言語、および「C」プログラミング言語または同様のプログラミング言語のような従来の手続型プログラミング言語を含む、1または複数のプログラミング言語の任意の組み合わせで記述されたソースコードまたはオブジェクトコードのいずれかを含んでよい。
【0157】
コンピュータ可読命令は、汎用コンピュータ、特殊目的のコンピュータ、若しくは他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサまたはプログラマブル回路に対し、ローカルにまたはローカルエリアネットワーク(LAN)、インターネット等のようなワイドエリアネットワーク(WAN)を介して提供され、フローチャートまたはブロック図で指定された操作を実行するための手段を作成すべく、コンピュータ可読命令を実行してよい。プロセッサの例としては、コンピュータプロセッサ、処理ユニット、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ等を含む。
【0158】
図14は、本発明の複数の態様が全体的または部分的に具現化されてよいコンピュータ9900の例を示す。コンピュータ9900にインストールされたプログラムは、コンピュータ9900に、本発明の実施形態に係る装置に関連付けられる操作または当該装置の1または複数のセクションとして機能させることができ、または当該操作または当該1または複数のセクションを実行させることができ、および/またはコンピュータ9900に、本発明の実施形態に係るプロセスまたは当該プロセスの段階を実行させることができる。そのようなプログラムは、コンピュータ9900に、本明細書に記載のフローチャートおよびブロック図のブロックのうちのいくつかまたはすべてに関連付けられた特定の操作を実行させるべく、CPU9912によって実行されてよい。
【0159】
本実施形態によるコンピュータ9900は、CPU9912、RAM9914、グラフィックコントローラ9916、およびディスプレイデバイス9918を含み、それらはホストコントローラ9910によって相互に接続されている。コンピュータ9900はまた、通信インターフェイス9922、ハードディスクドライブ9924、DVDドライブ9926、およびICカードドライブのような入/出力ユニットを含み、それらは入/出力コントローラ9920を介してホストコントローラ9910に接続されている。コンピュータはまた、ROM9930およびキーボード9942のようなレガシの入/出力ユニットを含み、それらは入/出力チップ9940を介して入/出力コントローラ9920に接続されている。
【0160】
CPU9912は、ROM9930およびRAM9914内に格納されたプログラムに従い動作し、それにより各ユニットを制御する。グラフィックコントローラ9916は、RAM9914内に提供されるフレームバッファ等またはそれ自体の中にCPU9912によって生成されたイメージデータを取得し、イメージデータがディスプレイデバイス9918上に表示されるようにする。
【0161】
通信インターフェイス9922は、ネットワークを介して他の電子デバイスと通信する。ハードディスクドライブ9924は、コンピュータ9900内のCPU9912によって使用されるプログラムおよびデータを格納する。DVDドライブ9926は、プログラムまたはデータをDVD-ROM9901から読み取り、ハードディスクドライブ9924にRAM9914を介してプログラムまたはデータを提供する。ICカードドライブは、プログラムおよびデータをICカードから読み取り、および/またはプログラムおよびデータをICカードに書き込む。
【0162】
ROM9930はその中に、アクティブ化時にコンピュータ9900によって実行されるブートプログラム等、および/またはコンピュータ9900のハードウェアに依存するプログラムを格納する。入/出力チップ9940はまた、様々な入/出力ユニットをパラレルポート、シリアルポート、キーボードポート、マウスポート等を介して、入/出力コントローラ9920に接続してよい。
【0163】
プログラムが、DVD-ROM9901またはICカードのようなコンピュータ可読媒体によって提供される。プログラムは、コンピュータ可読媒体から読み取られ、コンピュータ可読媒体の例でもあるハードディスクドライブ9924、RAM9914、またはROM9930にインストールされ、CPU9912によって実行される。これらのプログラム内に記述される情報処理は、コンピュータ9900に読み取られ、プログラムと、上記様々なタイプのハードウェアリソースとの間の連携をもたらす。装置または方法が、コンピュータ9900の使用に従い情報の操作または処理を実現することによって構成されてよい。
【0164】
例えば、通信がコンピュータ9900および外部デバイス間で実行される場合、CPU9912は、RAM9914にロードされた通信プログラムを実行し、通信プログラムに記述された処理に基づいて、通信インターフェイス9922に対し、通信処理を命令してよい。通信インターフェイス9922は、CPU9912の制御下、RAM9914、ハードディスクドライブ9924、DVD-ROM9901、またはICカードのような記録媒体内に提供される送信バッファ処理領域に格納された送信データを読み取り、読み取られた送信データをネットワークに送信し、またはネットワークから受信された受信データを記録媒体上に提供される受信バッファ処理領域等に書き込む。
【0165】
また、CPU9912は、ハードディスクドライブ9924、DVDドライブ9926(DVD-ROM9901)、ICカード等のような外部記録媒体に格納されたファイルまたはデータベースの全部または必要な部分がRAM9914に読み取られるようにし、RAM9914上のデータに対し様々なタイプの処理を実行してよい。CPU9912は次に、処理されたデータを外部記録媒体にライトバックする。
【0166】
様々なタイプのプログラム、データ、テーブル、およびデータベースのような様々なタイプの情報が記録媒体に格納され、情報処理を受けてよい。CPU9912は、RAM9914から読み取られたデータに対し、本開示の随所に記載され、プログラムの命令シーケンスによって指定される様々なタイプの操作、情報処理、条件判断、条件分岐、無条件分岐、情報の検索/置換等を含む、様々なタイプの処理を実行してよく、結果をRAM9914に対しライトバックする。また、CPU9912は、記録媒体内のファイル、データベース等における情報を検索してよい。例えば、各々が第2の属性の属性値に関連付けられた第1の属性の属性値を有する複数のエントリが記録媒体内に格納される場合、CPU9912は、第1の属性の属性値が指定される、条件に一致するエントリを当該複数のエントリの中から検索し、当該エントリ内に格納された第2の属性の属性値を読み取り、それにより予め定められた条件を満たす第1の属性に関連付けられた第2の属性の属性値を取得してよい。
【0167】
上で説明したプログラムまたはソフトウェアモジュールは、コンピュータ9900上またはコンピュータ9900近傍のコンピュータ可読媒体に格納されてよい。また、専用通信ネットワークまたはインターネットに接続されたサーバーシステム内に提供されるハードディスクまたはRAMのような記録媒体が、コンピュータ可読媒体として使用可能であり、それによりプログラムを、ネットワークを介してコンピュータ9900に提供する。
【0168】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0169】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0170】
10 センサモジュール
20 流量センサ
30 処理部
40 センサ側通信部
50 傾向特性記憶部
100 仮想流量演算装置
110 環境情報記憶部
120 物性情報記憶部
130 装置側通信部
140 シミュレーション部
141 流体シミュレーション部
142 応力シミュレーション部
143 電磁場シミュレーション部
144 超音波伝搬シミュレーション部
145 混相流体シミュレーション部
150 演算部
160 診断部
710 シミュレーション結果記憶部
810 傾向特定部
820 通知部
830 推奨部
9900 コンピュータ
9901 DVD-ROM
9910 ホストコントローラ
9912 CPU
9914 RAM
9916 グラフィックコントローラ
9918 ディスプレイデバイス
9920 入/出力コントローラ
9922 通信インターフェイス
9924 ハードディスクドライブ
9926 DVDドライブ
9930 ROM
9940 入/出力チップ
9942 キーボード