IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧

特開2024-135407超電導線材、超電導コイル、超電導磁石、超電導モータ、超電導発電機、超電導航空機、及び、超電導機器
<>
  • 特開-超電導線材、超電導コイル、超電導磁石、超電導モータ、超電導発電機、超電導航空機、及び、超電導機器 図1
  • 特開-超電導線材、超電導コイル、超電導磁石、超電導モータ、超電導発電機、超電導航空機、及び、超電導機器 図2
  • 特開-超電導線材、超電導コイル、超電導磁石、超電導モータ、超電導発電機、超電導航空機、及び、超電導機器 図3
  • 特開-超電導線材、超電導コイル、超電導磁石、超電導モータ、超電導発電機、超電導航空機、及び、超電導機器 図4
  • 特開-超電導線材、超電導コイル、超電導磁石、超電導モータ、超電導発電機、超電導航空機、及び、超電導機器 図5
  • 特開-超電導線材、超電導コイル、超電導磁石、超電導モータ、超電導発電機、超電導航空機、及び、超電導機器 図6
  • 特開-超電導線材、超電導コイル、超電導磁石、超電導モータ、超電導発電機、超電導航空機、及び、超電導機器 図7
  • 特開-超電導線材、超電導コイル、超電導磁石、超電導モータ、超電導発電機、超電導航空機、及び、超電導機器 図8
  • 特開-超電導線材、超電導コイル、超電導磁石、超電導モータ、超電導発電機、超電導航空機、及び、超電導機器 図9
  • 特開-超電導線材、超電導コイル、超電導磁石、超電導モータ、超電導発電機、超電導航空機、及び、超電導機器 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135407
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】超電導線材、超電導コイル、超電導磁石、超電導モータ、超電導発電機、超電導航空機、及び、超電導機器
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/06 20060101AFI20240927BHJP
   H01F 6/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01B12/06
H01F6/06 140
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046067
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】山下 知大
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏尚
(72)【発明者】
【氏名】江口 朋子
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA02
5G321AA04
5G321BA03
5G321CA04
5G321CA24
5G321CA27
5G321CA28
5G321CA50
5G321DB22
5G321DB46
5G321DB47
(57)【要約】
【課題】交流損失の低減が可能な超電導線材を提供する。
【解決手段】実施形態の超電導線材は、基板と、基板上に設けられ、第1の希土類元素、Ba、Cu、及びOを含む第1の領域と、基板上に設けられ、第2の希土類元素、Ba、Cu、及びOを含む第2の領域と、基板上に設けられ、第1の領域と第2の領域との間に設けられ、第3の希土類元素、Pr、Ba、Cu、及びOを含む第3の領域と、を備える。第3の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度が、第1の領域及び第2の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度より大きい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上に設けられ、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の希土類元素、バリウム(Ba)、銅(Cu)、及び酸素(O)を含み、前記基板の表面に沿った第1の方向に伸長する第1の領域と、
前記基板の上に設けられ、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の希土類元素、バリウム(Ba)、銅(Cu)、及び酸素(O)を含み、前記第1の方向に伸長する第2の領域と、
前記基板の上に設けられ、前記第1の領域と前記第2の領域との間に前記第1の領域及び前記第2の領域に接して設けられ、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第3の希土類元素、プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、銅(Cu)、及び酸素(O)を含み、前記第1の方向に伸長する第3の領域と、を備え、
前記第3の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度が、前記第1の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度より大きく、
前記第3の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の前記面密度が、前記第2の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度よりも大きい、超電導線材。
【請求項2】
前記第1の領域及び前記第2の領域に含まれるプラセオジム(Pr)の濃度は、前記第3の領域に含まれるプラセオジム(Pr)の濃度よりも小さい、請求項1記載の超電導線材。
【請求項3】
前記第1の領域及び前記第2の領域に含まれる希土類元素中のプラセオジム(Pr)の濃度は1原子%未満であり、前記第3の領域に含まれる希土類元素中のプラセオジム(Pr)の濃度は10原子%以上である、請求項1記載の超電導線材。
【請求項4】
前記第3の領域の前記表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の前記面密度は、前記第1の領域の前記表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の前記面密度の2倍以上であり、
前記第3の領域の前記表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の前記面密度は、前記第2の領域の前記表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の前記面密度の2倍以上である、請求項1記載の超電導線材。
【請求項5】
前記第1の領域の前記第1の方向に垂直で前記基板の前記表面に沿った第2の方向の幅は5μm以上10mm以下であり、
前記第2の領域の前記第2の方向の幅は5μm以上10mm以下であり、
前記第3の領域の前記第2の方向の幅は1μm以上2mm以下である、請求項1記載の超電導線材。
【請求項6】
前記第3の領域の前記第1の方向に垂直で前記基板の前記表面に沿った第2の方向の幅は、前記第1の領域の前記第2の方向の幅及び前記第1の領域の前記第2の方向の幅以下である、請求項1記載の超電導線材。
【請求項7】
前記第3の領域の前記表面より前記基板に近い位置の、前記第3の領域の前記表面に沿った断面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度が、前記第3の領域の前記表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の前記面密度よりも小さい、請求項1記載の超電導線材。
【請求項8】
前記第3の領域に含まれる不純物元素の原子濃度は、前記第1の領域に含まれる不純物元素の原子濃度より高く、
前記第3の領域に含まれる不純物元素の原子濃度は、前記第2の領域に含まれる不純物元素の原子濃度より高い、請求項1記載の超電導線材。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8いずれか一項記載の超電導線材を備えた、超電導コイル。
【請求項10】
請求項9記載の超電導コイルを備えた、超電導磁石。
【請求項11】
請求項9記載の超電導コイルを備えた、超電導モータ。
【請求項12】
請求項9記載の超電導コイルを備えた、超電導発電機。
【請求項13】
請求項11記載の超電導モータを備えた、超電導航空機。
【請求項14】
請求項1ないし請求項8いずれか一項記載の超電導線材を備えた、超電導機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導線材、超電導コイル、超電導磁石、超電導モータ、超電導発電機、超電導航空機、及び、超電導機器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、超電導線材を用いた超電導コイルをモータに応用する場合、超電導コイルで生み出される磁場を変化させるために、超電導コイルを構成する超電導線材に電流の向きが反転する交流電流を流す。このように、超電導線材に交流電流を流して利用することは、超電導の交流応用と称される。
【0003】
超電導の交流応用では、超電導線材のインダクタンス成分によるエネルギーロスが生じる。超電導線材のインダクタンス成分によるエネルギーロスは交流損失とも称される。超電導の交流応用においては、超電導線材の交流損失を低減させることが望まれる。
【0004】
なお、以下の記述では電流を反転させずに変化させ、インダクタンス成分が問題となる応用も交流応用と称することにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-48874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、交流損失の低減が可能な超電導線材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の超電導線材は、基板と、前記基板の上に設けられ、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の希土類元素、バリウム(Ba)、銅(Cu)、及び酸素(O)を含み、前記基板の表面に沿った第1の方向に伸長する第1の領域と、前記基板の上に設けられ、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の希土類元素、バリウム(Ba)、銅(Cu)、及び酸素(O)を含み、前記第1の方向に伸長する第2の領域と、前記基板の上に設けられ、前記第1の領域と前記第2の領域との間に前記第1の領域及び前記第2の領域に接して設けられ、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第3の希土類元素、プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、銅(Cu)、及び酸素(O)を含み、前記第1の方向に伸長する第3の領域と、を備え、前記第3の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度が、前記第1の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度より大きく、前記第3の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の前記面密度が、前記第2の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度よりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態の超電導線材の模式上面図。
図2】第1の実施形態の超電導線材の模式断面図。
図3】第1の実施形態の超電導線材の模式図。
図4】第1の実施形態の超電導線材の製造方法の説明図。
図5】第1の実施形態の超電導線材の製造方法の説明図。
図6】第1の実施形態の超電導線材の製造方法の説明図。
図7】第1の実施形態の超電導線材の製造方法の説明図。
図8】第2の実施形態の超電導モータの模式断面図。
図9】第3の実施形態の超電導航空機の模式上面図。
図10】第4の実施形態の超電導機器のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書中の超電導線材を構成する部材の化学組成の定性分析及び定量分析は、例えば、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectroscopy:SIMS)、電子線プローブマイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)により行うことが可能である。また、超電導線材を構成する部材の幅、部材の厚さ、部材間の距離等の測定、結晶構造の連続性の同定には、例えば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)又は走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)を用いることが可能である。また、超電導線材を構成する部材の構成物質の同定、結晶軸の配向性の同定には、例えば、X線回折分析(X-ray Diffraction:XRD)を用いることが可能である。
【0010】
本明細書中の超電導線材に含まれる「粒子のアスペクト比」とは、以下のように定義される。超電導線材を撮像した2次元画像から決定される粒子を楕円でフィッテイングした時の長軸の長さを長径、短軸の長さを短径と定義する。短径に対する長径の比(長径/短径)を、粒子のアスペクト比と定義する。例えば、超電導線材のSEM画像を画像処理することで粒子の形状を決定し、決定された粒子の形状から「粒子のアスペクト比」を求めることができる。
【0011】
超電導線材のSEM画像は、例えば、画像処理ソフトウェアImageJを用いて解析される。SEM画像においてアスペクト比が高い粒子は明るい領域として抽出される。抽出はSEM画像の二値化により行う。二値化の閾値は、元のSEM画像と二値化後のSEM画像を比較し、アスペクト比が高い粒子が適切に抽出されるように設定する。なお、隣り合う粒子が接している場合、二値化後に繋がった状態になることがある。このような場合、例えば分節化によって粒子を分割する。この他、粒子の抽出に必要な処理を適宜行い、元のSEM画像から適切にアスペクト比が高い粒子を抽出する。
【0012】
以下、実施形態の超電導線材について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の超電導線材は、基板と、基板の上に設けられ、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の希土類元素、バリウム(Ba)、銅(Cu)、及び酸素(O)を含み、基板の表面に平行な第1の方向に伸長する第1の領域と、基板の上に設けられ、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の希土類元素、バリウム(Ba)、銅(Cu)、及び酸素(O)を含み、基板の表面に沿った第1の方向に伸長する第2の領域と、基板の上に設けられ、第1の領域と第2の領域との間に第1の領域及び第2の領域に接して設けられ、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第3の希土類元素、プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、銅(Cu)、及び酸素(O)を含み、第1の方向に伸長する第3の領域と、を備える。そして、第3の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度が、第1の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度より大きく、第3の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度が、第2の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度よりも大きい。
【0014】
図1は、第1の実施形態の超電導線材の模式上面図である。図2は、第1の実施形態の超電導線材の模式断面図である。図1は、図2の保護層を除去した状態の上面図である。図2は、図1のAA’断面である。
【0015】
第1の実施形態の超電導線材は、超電導線材100である。
【0016】
超電導線材100は、図2に示すように、基板10と、中間層20と、酸化物超電導層30と、保護層40とを備える。基板10は、酸化物超電導層30の機械的強度を高める。中間層20は、いわゆる配向中間層である。中間層20は、酸化物超電導層30を成膜する際に、酸化物超電導層30を配向させるために設けられる。保護層40は、酸化物超電導層30を保護する。
【0017】
超電導線材100の基板10の表面に平行な第1の方向の長さは、例えば、0.1m以上500m以下である。
【0018】
基板10は、例えば、ニッケルタングステン合金などの金属である。また、中間層20は、例えば、基板10側から酸化イットリウム(Y)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、酸化セリウム(CeO)である。基板10と中間層20の層構成は、例えば、ニッケルタングステン合金/酸化イットリウム/イットリア安定化ジルコニア/酸化セリウムである。この場合、酸化セリウム上に酸化物超電導層30が形成される。
【0019】
基板10は、例えば、酸化物超電導層30と格子整合する単結晶層であっても構わない。単結晶層は、例えば、ランタンアルミネート(LaAlO、以下、LAOとも表現する)である。基板10にランタンアルミネートを適用する場合、中間層20は省略することも可能である。
【0020】
保護層40は、例えば、銀(Ag)や銅(Cu)が母材の金属である。保護層40は、例えば、合金である。保護層40として酸化物層を用いることも可能である。
【0021】
酸化物超電導層30は、基板10と保護層40との間に設けられる。酸化物超電導層30は、中間層20と保護層40との間に設けられる。酸化物超電導層30は、中間層20の上に、中間層20に接して設けられる。
【0022】
酸化物超電導層30は、第1の超電導領域31a、第2の超電導領域31b、第3の超電導領域31c、第4の超電導領域31d、第1の非超電導領域32a、第2の非超電導領域32b、及び第3の非超電導領域32cを含む。
【0023】
第1の超電導領域31aは、第1の領域の一例である。第2の超電導領域31bは、第2の領域の一例である。第1の非超電導領域32aは第3の領域の一例である。
【0024】
第1の超電導領域31a、第2の超電導領域31b、第3の超電導領域31c、第4の超電導領域31d、第1の非超電導領域32a、第2の非超電導領域32b、及び第3の非超電導領域32cは、基板10の表面に沿った第1の方向に伸長する。第1の方向は、例えば、基板10の長手方向である。
【0025】
第1の非超電導領域32aは、第1の超電導領域31aと第2の超電導領域31bとの間に設けられる。第1の非超電導領域32aは、第1の超電導領域31a及び第2の超電導領域31bに接する。
【0026】
第2の非超電導領域32bは、第2の超電導領域31bと第3の超電導領域31cとの間に設けられる。第2の非超電導領域32bは、第2の超電導領域31b及び第3の超電導領域31cに接する。
【0027】
第3の非超電導領域32cは、第3の超電導領域31cと第4の超電導領域31dとの間に設けられる。第3の非超電導領域32cは、第3の超電導領域31c及び第4の超電導領域31dに接する。
【0028】
以下、説明を容易にするために、第1の超電導領域31a、第2の超電導領域31b、第3の超電導領域31c、及び第4の超電導領域31dを総称して、単に超電導領域31と称する場合がある。また、第1の非超電導領域32a、第2の非超電導領域32b、及び第3の非超電導領域32cを総称して、単に非超電導領域32と称する場合がある。
【0029】
第2の方向は第1の方向に垂直で、基板10の表面に沿った方向である。第2の方向は非超電導領域32から超電導領域31に向かう方向である。第2の方向は、例えば、基板10の短手方向である。第1の方向及び第2の方向に垂直な方向が第3の方向である。第3の方向は基板10の厚み方向であり、基板10の表面に略垂直である。
【0030】
酸化物超電導層30は、非超電導領域32と超電導領域31を含む。酸化物超電導層30は、非超電導領域32を間に挟んで複数の超電導領域31に分割されている。図1図2の場合、酸化物超電導層30は、4つの超電導領域31に分割されている。酸化物超電導層30は、例えば、2つに分割されていてもよいし、3つに分割されていてもよい。また、酸化物超電導層30は、例えば、5つ以上の領域に分割されていてもよい。
【0031】
超電導領域31は、超電導特性を有する。非超電導領域32は、超電導特性を有しない。非超電導領域32は、超電導領域31を電気的に分離する。非超電導領域32は、超電導線材100に電流を流す際に、絶縁体として機能する。
【0032】
酸化物超電導層30の第1の方向の長さ(図1中のL)は、例えば、0.1m以上である。超電導領域31の第1の方向の長さは、例えば、0.1m以上である。非超電導領域32の第1の方向の長さは、例えば、0.1m以上である。
【0033】
超電導領域31の第2の方向の幅W1は、例えば、5μm以上10mm以下である。非超電導領域32の第2の方向の幅W2は、例えば、1μm以上2mm以下である。なお、便宜上図1では超電導領域31a、31b、31c、31dの幅を全て等しくW1と表記しているが、実際にはそれぞれの幅が異なっていても良い。ここでは、超電導領域31a、31b、31c、31dの幅の中央値をW1と表記する。非超電導領域32a、32b、32cについても同様に、非超電導領域32a、32b、32cのそれぞれの幅が異なっていても良く、非超電導領域32a、32b、32cの幅の中央値をW2と表記する。
【0034】
酸化物超電導層30の第2の方向の幅(図1中のWx)は、例えば、1mm以上20mm以下である。非超電導領域32の第2の方向の幅(図1中のW2)は、例えば、超電導領域31の第2の方向の幅(図1中のW1)以下である。非超電導領域32の第2の方向の幅(図1中のW2)は、例えば、超電導領域31の第2の方向の幅(図1中のW1)より小さい。
【0035】
超電導領域31と非超電導領域32の境界は、例えば、酸化物超電導層30の表面をEPMAでマッピングと点分析し、希土類元素RE中のプラセオジム(Pr)の濃度が1%未満の領域を超電導領域31、希土類元素RE中のプラセオジム(Pr)の濃度が1%以上の領域を非超電導領域32とすることで決定できる。
【0036】
酸化物超電導層30の第3の方向の厚さは、例えば、100nm以上10μm以下である。
【0037】
酸化物超電導層30は、希土類元素を含む酸化物である。酸化物超電導層30に含まれる希土類元素を含む酸化物は、ペロブスカイト構造を有する。酸化物超電導層30に含まれる希土類元素を含む酸化物の結晶は、例えば、直方晶(斜方晶)である。
【0038】
酸化物超電導層30に含まれる希土類元素を含む酸化物は、例えば、REBaCu7-C(1.8≦A≦2.2,2.7≦B≦3.3,-0.2≦C≦1)の化学組成を有する。酸化物超電導層30に含まれる希土類元素を含む酸化物は、例えば、REBaCu7-y(-0.2≦y≦1)の化学組成を有する酸化物を含む。REが希土類サイトである。
【0039】
超電導領域31は、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの希土類元素、バリウム(Ba)、銅(Cu)、及び酸素(O)を含む。
【0040】
超電導領域31における希土類元素RE中のプラセオジム(Pr)の濃度は、例えば、1原子%未満である。超電導領域31におけるプラセオジム(Pr)の濃度は、非超電導領域32におけるプラセオジム(Pr)の濃度よりも小さい。
【0041】
超電導領域31に含まれる希土類元素を含む酸化物は、例えば、REBaCu7-F(1.8≦D≦2.2,2.7≦E≦3.3,-0.2≦F≦1)の化学組成を有する。超電導領域31は、例えば、REBaCu7-y(-0.2≦y≦1)の化学組成を有する酸化物を含む。
【0042】
超電導領域31は、例えば、ペロブスカイト構造を有する。超電導領域31は、例えば、ペロブスカイト構造を有する単結晶である。
【0043】
超電導領域31は、例えば、c軸配向する。超電導領域31に含まれる化合物REBaCu7-F(1.8≦D≦2.2,2.7≦E≦3.3,-0.2≦F≦1)の結晶のc軸は、例えば、酸化物超電導層30の厚み方向、すなわち基板10の表面に略垂直な方向、すなわち、第3の方向に揃っている。
【0044】
非超電導領域32は、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの希土類元素、プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、銅(Cu)、及び、酸素(O)を含む。
【0045】
非超電導領域32はプラセオジム(Pr)を含むことで、超電導特性を発現しない。非超電導領域32における希土類元素RE中のプラセオジム(Pr)の濃度は、例えば、10原子%以上50原子%以下である。非超電導領域32における希土類元素RE中のプラセオジム(Pr)の濃度は、15原子%以上45原子%以下であることがより好ましく、20原子%以上40原子%以下であることが更に好ましい。
【0046】
非超電導領域32に含まれる希土類元素を含む酸化物は、例えば、REBaCu7-I(1.8≦G≦2.2,2.7≦H≦3.3,-0.2≦I≦1)の化学組成を有する。非超電導領域32は、例えば、REBaCu7-y(-0.2≦y≦1)の化学組成を有する酸化物を含む。
【0047】
非超電導領域32は、例えば、ペロブスカイト構造を有する。
【0048】
第1の超電導領域31a、第2の超電導領域31b、第3の超電導領域31c、第4の超電導領域31d、第1の非超電導領域32a、第2の非超電導領域32b、及び第3の非超電導領域32cのそれぞれの領域に含まれる上記群から選ばれる少なくとも一つの希土類元素は、例えば、同一である。
【0049】
例えば、第1の超電導領域31aに、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の希土類元素が含まれ、第2の超電導領域31bに、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の希土類元素が含まれ、第1の非超電導領域32aに、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第3の希土類元素が含まれるとする。
【0050】
例えば、第1の希土類元素、第2の希土類元素、及び第3の希土類元素が同一の元素である。例えば、第1の希土類元素、第2の希土類元素、及び第3の希土類元素が全てイットリウム(Y)である。
【0051】
第1の超電導領域31a、第2の超電導領域31b、第3の超電導領域31c、第4の超電導領域31d、第1の非超電導領域32a、第2の非超電導領域32b、及び第3の非超電導領域32cのそれぞれの領域に含まれる上記群から選ばれる少なくとも一つの希土類元素は、異なっていても構わない。
【0052】
例えば、第1の希土類元素、第2の希土類元素、及び第3の希土類元素が異なる元素である。例えば、第1の希土類元素がイットリウム(Y)、第2の希土類元素がサマリウム(Sm)、第3の希土類元素がジスプロシウム(Dy)である。
【0053】
例えば、第1の希土類元素、第2の希土類元素、及び第3の希土類元素のいずれか又は全てが、2種以上の希土類元素であっても構わない。例えば、第1の希土類元素、第2の希土類元素、及び第3の希土類元素のいずれか又は全てが、3種以上の希土類元素であっても構わない。
【0054】
図3(a)、図3(b)は、第1の実施形態の超電導線材の模式図である。図3(a)は、超電導領域31の表面の模式図である。図3(b)は、非超電導領域32の表面の模式図である。図3(a)、図3(b)は、酸化物超電導層30の上の保護層40除去した状態の上面図である。
【0055】
図3(a)及び図3(b)に示すように、非超電導領域32の表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度は、超電導領域31の表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度よりも大きい。高アスペクト粒子36のアスペクト比は3以上である。
【0056】
高アスペクト粒子36は、例えば、棒状又は針状の粒子である。高アスペクト粒子36の長軸方向は、直方晶のペロブスカイ構造を有する希土類元素を含む酸化物のc軸方向であると考えられる。したがって、高アスペクト粒子36は、基板10の表面に対してc軸配向していない。
【0057】
高アスペクト粒子36の面密度が大きいほど、c軸配向度が低い。したがって、少なくとも酸化物超電導層30の表面においては、非超電導領域32のc軸配向度が、超電導領域31のc軸配向度より低い。
【0058】
例えば、第1の非超電導領域32a表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度は、第1の超電導領域31aの表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度よりも大きい。また、例えば、第1の非超電導領域32a表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度は、第2の超電導領域31bの表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度よりも大きい。
【0059】
例えば、非超電導領域32の表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度は、超電導領域31の表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度の2倍以上1000倍以下である。例えば、第1の非超電導領域32aの表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度は、第1の超電導領域31aの表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度の2倍以上100倍以下である。また、例えば、第1の非超電導領域32a表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度は、第2の超電導領域31bの表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度の2倍以上1000倍以下である。
【0060】
高アスペクト粒子36の面密度は、単位面積あたりに存在する高アスペクト粒子36の個数である。高アスペクト粒子36の面密度を算出する際の単位面積は、例えば、1μmである。
【0061】
超電導領域31又は非超電導領域32の表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度を求める際には、例えば、複数の10μm□(square)の領域で高アスペクト粒子36の個数を数えて面密度を求め、その平均値を用いる。
【0062】
超電導領域31の高アスペクト粒子36の面密度は、例えば、0.1個/μm未満である。非超電導領域32の高アスペクト粒子36の面密度は、例えば、0.1個/μm以上1個/μm以下である。
【0063】
例えば、非超電導領域32の内部に存在する高アスペクト粒子36の面密度は、非超電導領域32の表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度よりも小さい。例えば、非超電導領域32の内部とは、非超電導領域32の表面より基板10に近い位置の、非超電導領域32の表面に沿った断面である。例えば、非超電導領域32の内部とは、非超電導領域32の第3の方向の厚さの半分の位置よりも基板10に近い位置の断面である。非超電導領域32の内部に存在する高アスペクト粒子36の面密度は、例えば、非超電導領域32の表面を研磨等で除去することで測定できる。非超電導領域32の表面とは、例えば、非超電導領域32の保護層40との界面近傍である。非超電導領域32の表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度は、例えば、保護層40を剥離等で除去することで測定できる。
【0064】
酸化物超電導層30は、例えば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、銅(Cu)、酸素(O)、アルミニウム(Al)、及び炭素(C)以外の元素である不純物元素が含まれ得る。不純物元素は2種以上であっても構わない。
【0065】
例えば、非超電導領域32に含まれる不純物元素の原子濃度は、超電導領域31に含まれる不純物元素の原子濃度より高い。
【0066】
以下、第1の実施形態の超電導線材100の製造方法の一例について説明する。
【0067】
第1の実施形態の超電導線材100の製造方法の一例では、基板10上に中間層20を形成し、中間層20上に酸化物超電導層30を形成し、酸化物超電導層30上に保護層40を形成する。酸化物超電導層30はTrifuluoro Acetates Metal Organic Deposition法(TFA-MOD法)により形成される。
【0068】
図4は、第1の実施形態の超電導線材の製造方法の説明図である。図4は、第1の実施形態の製造方法のコーティング溶液作製の一例を示すフローチャートである。
【0069】
最初に、第1のコーティング溶液及び第2のコーティング溶液の作製について説明する。
【0070】
図4に示すように、イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、銅(Cu)それぞれの金属酢酸塩を準備する(a1)。また、トリフルオロ酢酸を準備する(a2)。次に、準備した金属酢酸塩を水に溶解させ水溶液を作製する(b)。得られた水溶液を、準備したトリフルオロ酢酸と混合する(c)。得られた溶液を反応・精製し(d)、不純物入りの第1のゲルを得る(e)。その後、得られた第1のゲルをメタノールに溶解し(f)、不純物入りの溶液を作成する(g)。得られた溶液を反応・精製し不純物を取り除き(h)、溶媒入りの第2のゲルを得る(i)。さらに、得られた第2のゲルをメタノールに溶解し(j)、コーティング溶液が準備される(k)。図4に示す溶媒をゲル内に取り込ませて不純物を低減する手法はSolvent-Into-Gel法(SIG法)と呼ばれる。
【0071】
イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、及び銅(Cu)を含むコーティング溶液が、第1のコーティング溶液となる。以下、第1のコーティング溶液を、超電導領域形成用コーティング溶液と称する。
【0072】
次に、第2のコーティング溶液の作製について説明する。
【0073】
図4に示すように、プラセオジム(Pr)、イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、銅(Cu)それぞれの金属酢酸塩を準備する(a1)。また、トリフルオロ酢酸を準備する(a2)。次に、準備した金属酢酸塩を水に溶解させ水溶液を作製する(b)。得られた水溶液を、準備したトリフルオロ酢酸と混合する(c)。得られた溶液を反応・精製し(d)、不純物入りの第1のゲルを得る(e)。その後、得られた第1のゲルをメタノールに溶解し(f)、不純物入りの溶液を作成する(g)。得られた溶液を反応・精製し不純物を取り除き(h)、溶媒入りの第2のゲルを得る(i)。さらに、得られた第2のゲルをメタノールに溶解し(j)、コーティング溶液が準備される(k)。
【0074】
プラセオジム(Pr)、イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、及び銅(Cu)を含むコーティング溶液が、第2のコーティング溶液となる。以下、第2のコーティング溶液を、非超電導領域形成用コーティング溶液と称する。
【0075】
図5は、第1の実施形態の超電導線材の製造方法の説明図である。図5は、コーティング溶液から超電導膜を成膜する方法の一例を示すフローチャートである。
【0076】
図5に示すように、まず、先に調製したコーティング溶液を準備する(a)。コーティング溶液を基板上に、例えば、インクジェット法により塗布することで成膜し(b)、ゲル膜を得る(c)。その後、得られたゲル膜に、一次熱処理である仮焼を行い、有機物を分解し(d)、仮焼膜を得る(e)。さらに、この仮焼膜に二次熱処理である本焼を行い(f)、その後、例えば、純酸素アニールを行い(g)、超電導膜(h)を得る。
【0077】
図6(a)、図6(b)は、第1の実施形態の超電導線材の製造方法の説明図である。図6(a)、図6(b)は、第1の実施形態のインクジェット法による基板上へのゲル膜の形成の説明図である。図6(a)は基板10の上方向から見た図、図6(b)は基板10の横方向から見た図である。
【0078】
図6(a)、図6(b)に示すように、ノズル34から、超電導領域形成用コーティング溶液35aと、非超電導領域形成用コーティング溶液35bを基板10に向けて射出する。図6(a)に示すように、基板10の上に、超電導領域形成用コーティング溶液35aの間に非超電導領域形成用コーティング溶液35bが挟まれ、かつ、超電導領域形成用コーティング溶液35aと非超電導領域形成用コーティング溶液35bが接するように、超電導領域形成用コーティング溶液35a及び非超電導領域形成用コーティング溶液35bが射出される。
【0079】
基板10は、ノズル34に対して第1の方向に移動する。基板10の上に射出された超電導領域形成用コーティング溶液35a及び非超電導領域形成用コーティング溶液35bは、第1の方向に伸長する。
【0080】
基板10の上に射出された非超電導領域形成用コーティング溶液35bが基板10に達した際の液滴の平均直径は、例えば、5μm以下である。
【0081】
なお、インクジェット法にかえて、例えば、ダイコート法を用いることも可能である。
【0082】
図7は、第1の実施形態の超電導線材の製造方法の説明図である。図7は、超電導線材100を製造する際の仮焼又は本焼の焼成条件と、高アスペクト粒子36の面密度との関係の説明図である。
【0083】
図7に示すように、焼成条件と高アスペクト粒子36の面密度との関係は、超電導領域31と非超電導領域32とで異なる。焼成条件は、例えば、焼成温度、焼成時間、又は、酸素分圧等である。
【0084】
例えば、条件Xでは、本焼時の酸素分圧を、超電導領域に最適な値と非超電導領域に最適な値の中間の値に設定することで、超電導領域31及び非超電導領域32のいずれにおいても、高アスペクト粒子36の面密度が小さくなる。言い換えれば、条件Xでは、超電導領域31及び非超電導領域32のいずれにおいても、高いc軸配向度が得られる。
【0085】
一方、条件Yでは、本焼時の酸素分圧を超電導領域に最適な値から少し高い側にずらした条件にすると、超電導領域に対しては最適な値から少しずれるだけである一方、非超電導領域に対しては最適な値からのずれが超電導領域と比較して大きい。このため、超電導領域31の高アスペクト粒子36の面密度は小さいが、非超電導領域32の高アスペクト粒子36の面密度は大きい。言い換えれば、条件Yでは、超電導領域31のc軸配向度は高いが、非超電導領域32のc軸配向度は低くなる。
【0086】
例えば、第1の実施形態の超電導線材100の製造方法では、焼成条件として条件Yに相当する条件を選択することによって、非超電導領域32の高アスペクト粒子36の面密度を、超電導領域31の高アスペクト粒子36の面密度よりも大きくすることが可能となる。さらに、例えば、本焼時の酸素分圧を、はじめは条件Xにしておき途中で条件Yに変更することで、基板側から結晶成長した非超電導領域32の高アスペクト比の面密度を変化させ、非超電導領域32の内部では高アスペクト比の面密度を低く、非超電導領域32の表面では高アスペクト比の面密度を高くするという制御が可能となる。
【0087】
以上の製造方法により、酸化物超電導層30を含む第1の実施形態の超電導線材100が製造される。
【0088】
第1の実施形態の超電導線材100は、酸化物超電導層30が非超電導領域32によって、複数の超電導領域31に分割されている。言い換えれば、酸化物超電導層30が複数の超電導領域31に細線化されている。
【0089】
したがって、超電導線材100によれば、交流応用した際に、インダクタンス成分によるエネルギーロスが低減できる。よって、超電導線材100によれば、交流損失の低減が可能となる。
【0090】
超電導線材の酸化物超電導層を分割する方法にはレーザースクライビング法で上方からアブレーション加工する方法がある。この方法ではレーザースクライビング法の熱ダメージにより、超電導特性が劣化することや、分割された酸化物超電導層の間は空隙となるため、酸化物超電導層の機械的強度が低下するおそれがある。
【0091】
第1の実施形態の超電導線材100は、酸化物超電導層30が非超電導領域32によって、複数の超電導領域31に分割されている。非超電導領域32は、コーティング溶液の射出又は塗布により形成できる。したがって、超電導領域31の超電導特性の劣化が生じにくい。また、分割された超電導領域31の間には、非超電導領域32が存在する。したがって、酸化物超電導層30の機械的強度が向上する。
【0092】
第1の実施形態の超電導線材100では、非超電導領域32の表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度は、超電導領域31の表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度よりも大きい。非超電導領域32の表面に高アスペクト粒子36が高密度に存在することで、非超電導領域32の表面が不純物のゲッタリングサイトとして機能することが考えられる。すなわち、非超電導領域32の表面が超電導線材100の製造中に意図せず導入されてしまう不純物を捕獲する領域として機能することができる。
【0093】
例えば、意図せず導入された不純物が、超電導領域31に侵入すると、超電導領域31の超電導特性を劣化させるおそれがある。第1の実施形態の超電導線材100は、非超電導領域32の表面が不純物のゲッタリングサイトとして機能することで、不純物が超電導領域31に侵入することが抑制できる。したがって、超電導特性に優れた超電導線材100が実現できる。
【0094】
非超電導領域32の表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度は、超電導領域31の表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度の2倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、10倍以上であることが更に好ましい。上記下限値を上回ることで、非超電導領域32の表面での不純物の捕獲が更に促進される。したがって、更に超電導特性に優れた超電導線材100が実現できる。
【0095】
非超電導領域32の表面での不純物の捕獲を促進する観点からは、非超電導領域32の内部に存在する高アスペクト粒子36の面密度は、超電導領域31の内部に存在する高アスペクト粒子36の面密度よりも高いことが好ましい。例えば、超電導領域31の内部とは、超電導領域31の表面より基板10に近い位置の、超電導領域31の表面に沿った断面である。超電導領域31の内部とは、例えば、超電導領域31の第3の方向の厚さの半分の位置よりも基板10に近い断面である。超電導領域31の内部に存在する高アスペクト粒子36の面密度は、例えば、超電導領域31の表面を研磨等で除去することで測定できる。超電導領域31の表面とは、例えば、超電導領域31の保護層40との界面近傍である。超電導領域31の表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度は、例えば、保護層40を剥離等で除去することで測定できる。
【0096】
一方、酸化物超電導層30の機械的強度を向上させる観点からは、非超電導領域32の内部に存在する高アスペクト粒子36の面密度は、非超電導領域32の表面に存在する高アスペクト粒子36の面密度よりも小さいことが好ましい。非超電導領域32の内部のc軸配向度が向上し、超電導領域31と非超電導領域32との界面でのペロブスカイト構造の連続性が向上する。よって、超電導領域31と非超電導領域32との界面の機械的強度が向上する。
【0097】
第1の実施形態の超電導線材100において、超電導線材100を線材として機能させる観点から、超電導領域31及び非超電導領域32の、第1の方向の長さは0.1m以上であることがましい。
【0098】
第1の実施形態の超電導線材100において、交流損失を低減させる観点から、非超電導領域32の第2の方向の幅(図1中のW2)は、超電導領域31の第2の方向の幅(図1中のW1)よりも小さいことが好ましい。
【0099】
第1の実施形態の超電導線材100において、超電導特性を損なわない観点から、超電導領域31の第2の方向の幅(図1中のW1)は、例えば、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。
【0100】
第1の実施形態の超電導線材100において、交流損失を低減させる観点から、超電導領域31の第2の方向の幅(図1中のW1)は、例えば、1mm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更に好ましい。
【0101】
第1の実施形態の超電導線材100において、絶縁性を保証する観点から、非超電導領域32の第2の方向の幅(図1中のW2)は、例えば、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。
【0102】
第1の実施形態の超電導線材100において、交流損失を低減させる観点から、非超電導領域32の第2の方向の幅(図1中のW2)は、例えば、1mm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更に好ましい。
【0103】
第1の実施形態の超電導線材100において、非超電導領域32に含まれるプラセオジム(Pr)の濃度は、非超電導領域32に超電導特性を発現させない観点から10原子%以上であることが好ましく、20原子%以上であることが更に好ましい。
【0104】
第1の実施形態の超電導線材100において、超電導領域31に含まれるプラセオジム(Pr)の濃度は、超電導領域31の超電導特性を阻害しない観点から1原子%未満であることが好ましく、0.1原子%未満であることが更に好ましい。
【0105】
以上、第1の実施形態によれば、交流損失の低減が可能な超電導線材を提供できる。また、不純物のゲッタリングサイトを備えることで、超電導特性に優れた超電導線材を提供できる。
【0106】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の超電導モータは、第1の実施形態の超電導線材を備えた超電導コイル及び上記超電導コイルを備えた超電導磁石を含む。以下、第1の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する場合がある。
【0107】
図8(a)及び図8(b)は、第2の実施形態の超電導モータの模式断面図である。図8(b)は、図8(a)のBB’断面である。
【0108】
第2の実施形態の超電導モータ200は、回転子及び固定子のいずれにも超電導コイルを用いる全超電導モータである。
【0109】
超電導モータ200は、ケース50、固定子52、回転子54、及びシャフト56を備える。固定子52は固定子コイル52a、回転子54は回転子コイル54aを含む。
【0110】
固定子コイル52aに第1の実施形態の超電導線材100が用いられる。また、回転子コイル54aに第1の実施形態の超電導線材100が用いられる。固定子コイル52a及び回転子コイル54aは超電導コイルの一例である。
【0111】
固定子52の固定子コイル52aには、交流電流が流され、交流磁界が発生する。固定子52は、超電導磁石の一例である。
【0112】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態の超電導線材100を用いることで交流損失が低減した超電導コイル、超電導磁石、及び超電導モータが実現できる。また、超電導特性に優れた超電導線材100を用いることで、特性の優れた超電導コイル、超電導磁石、及び超電導モータが実現できる。
【0113】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の超電導航空機は、第2の実施形態の超電導モータを備える。以下、第1の実施形態又は第2の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する場合がある。
【0114】
図9は、第3の実施形態の超電導航空機の模式上面図である。第3の実施形態の超電導航空機300は、超電導モータ200を動力源とする。
【0115】
超電導航空機300は、胴体部60、主翼62、ガスタービン64、超電導発電機66、及び複数の超電導モータ200を含む。
【0116】
複数の超電導モータ200は、主翼62の上に設けられる。超電導モータ200は、第1の実施形態の超電導線材100を用いた超電導コイルを含む。
【0117】
複数の超電導モータ200のそれぞれによって、図示しない推進用ファンが回転され、超電導航空機300の推進力が生み出される。
【0118】
ガスタービン64及び超電導発電機66は、胴体部60の中に設けられる。超電導発電機66は、第1の実施形態の超電導線材100を用いた超電導コイルを含む。
【0119】
ガスタービン64は、例えば、液体水素を燃料として駆動される。超電導発電機66はガスタービン64に直結され、ガスタービン64が駆動することにより発電し電力を生み出す。超電導発電機66で生み出された電力により複数の超電導モータ200が駆動される。
【0120】
第3の実施形態によれば、第1の実施形態の超電導線材100を用いることで交流損失が低減した超電導発電機及び超電導航空機が実現できる。また、超電導特性に優れた超電導線材100を用いることで、特性の優れた超電導発電機及び超電導航空機が実現できる。
【0121】
(第4の実施形態)
第4の実施形態の超電導機器は、第1の実施形態の超電導線材を用いた超電導コイルを備えた超電導機器である。以下、第1の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
【0122】
図10は、第4の実施形態の超電導機器のブロック図である。第4の実施形態の超電導機器は、重粒子線治療器400である。重粒子線治療器400は、超電導機器の一例である。
【0123】
重粒子線治療器400は、入射系70、シンクロトロン加速器72、ビーム輸送系74、照射系76、制御系78を備える。
【0124】
入射系70は、例えば、治療に用いる炭素イオンを生成し、シンクロトロン加速器72に入射するための予備加速を行う機能を有する。入射系70は、例えば、イオン発生源と線形加速器を有する。
【0125】
シンクロトロン加速器72は、入射系70から入射された炭素イオンビームを治療に適合したエネルギーまで加速する機能を有する。シンクロトロン加速器72に、第1の実施形態の超電導線材100を用いた超電導コイルが適用される。
【0126】
ビーム輸送系74は、シンクロトロン加速器72から入射された炭素イオンビームを照射系76まで輸送する機能を有する。ビーム輸送系74は、例えば、偏向電磁石を有する。
【0127】
照射系76は、ビーム輸送系74から入射された炭素イオンビームを照射対象である患者に照射する機能を備える。照射系76は、例えば、炭素イオンビームを任意の方向から照射可能にする回転ガントリーを有する。回転ガントリーに、第1の実施形態の超電導線材100を用いた超電導コイルが適用される。
【0128】
制御系78は、入射系70、シンクロトロン加速器72、ビーム輸送系74、及び照射系76の制御を行う。制御系78は、例えば、コンピュータである。
【0129】
第4の実施形態の重粒子線治療器400は、シンクロトロン加速器72及び回転ガントリーに、第1の実施形態の超電導線材100を用いた超電導コイルが用いられる。したがって、第4の実施形態によれば、特性の優れた重粒子線治療器が実現される。
【0130】
第4の実施形態では、超電導機器の一例として、重粒子線治療器400の場合を説明したが、超電導機器は、例えば、核磁気共鳴装置(NMR)、磁気共鳴画像診断装置(MRI)、磁界印加式単結晶引き上げ装置、又は超電導磁気浮上式鉄道車両であっても構わない。
【0131】
以下、実施例について説明する。
【実施例0132】
(実施例1)
図4図5に示されるフローチャートに従い、第1の実施形態の超電導線材100と同様の超電導線材を製造した。超電導領域の希土類元素及び非超電導領域の希土類元素はイットリウム(Y)を選択した。コーティング溶液の基板上への塗布は、インクジェット法を用いた。
【0133】
ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が小さくなり、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が大きくなる条件を選択した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧850ppmという条件である。
【0134】
(実施例2)
ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が実施例1よりも小さくなる条件を選択する以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧800ppmという条件である。
【0135】
(実施例3)
ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が実施例2よりも小さくなる条件を選択する以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧750ppmという条件である。
【0136】
(実施例4)
超電導領域の希土類元素及び非超電導領域の希土類元素としてガドリニウム(Gd)を選択し、ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度は小さくなり、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が大きくなる条件を選択した以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧80ppmという条件である。
【0137】
(実施例5)
超電導領域の希土類元素及び非超電導領域の希土類元素としてユウロピウム(Eu)を選択し、ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度は小さくなり、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が大きくなる条件を選択した以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧35ppmという条件である。
【0138】
(実施例6)
超電導領域の希土類元素及び非超電導領域の希土類元素としてランタン(La)を選択し、ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度は小さくなり、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が大きくなる条件を選択した以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧0.2ppmという条件である。
【0139】
(実施例7)
超電導領域の希土類元素及び非超電導領域の希土類元素としてネオジム(Nd)を選択し、ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度は小さくなり、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が大きくなる条件を選択した以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧3.5ppmという条件である。
【0140】
(実施例8)
超電導領域の希土類元素及び非超電導領域の希土類元素としてサマリウム(Sm)を選択し、ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度は小さくなり、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が大きくなる条件を選択した以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧20ppmという条件である。
【0141】
(実施例9)
超電導領域の希土類元素及び非超電導領域の希土類元素としてジスプロシウム(Dy)を選択し、ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度は小さくなり、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が大きくなる条件を選択した以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧300ppmという条件である。
【0142】
(実施例10)
超電導領域の希土類元素及び非超電導領域の希土類元素としてホルミウム(Ho)を選択し、ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度は小さくなり、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が大きくなる条件を選択した以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧510ppmという条件である。
【0143】
(実施例11)
超電導領域の希土類元素及び非超電導領域の希土類元素としてエルビウム(Er)を選択し、ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度は小さくなり、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が大きくなる条件を選択した以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧920ppmという条件である。
【0144】
(実施例12)
超電導領域の希土類元素及び非超電導領域の希土類元素としてツリウム(Tm)を選択し、ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度は小さくなり、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が大きくなる条件を選択した以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧1600ppmという条件である。
【0145】
(実施例13)
超電導領域の希土類元素及び非超電導領域の希土類元素としてイッテルビウム(Yb)を選択し、ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度は小さくなり、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が大きくなる条件を選択した以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧2000ppmという条件である。
【0146】
(実施例14)
超電導領域の希土類元素及び非超電導領域の希土類元素としてルテチウム(Lu)を選択し、ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度は小さくなり、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が大きくなる条件を選択した以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧2400ppmという条件である。
【0147】
(実施例15)
超電導領域の希土類元素としてイットリウム(Y)、非超電導領域の希土類元素としてガドリニウム(Gd)を選択し、ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度は小さくなり、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が大きくなる条件を選択した以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧760ppmという条件である。
【0148】
(実施例16)
超電導領域の希土類元素としてイットリウム(Y)、非超電導領域の希土類元素としてユウロピウム(Eu)を選択し、ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度は小さくなり、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が大きくなる条件を選択した以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧755ppmという条件である。
【0149】
(実施例17)
超電導領域の希土類元素としてガドリニウム(Gd)、非超電導領域の希土類元素としてユウロピウム(Eu)を選択し、ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度は小さくなり、非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が大きくなる条件を選択した以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧80ppmという条件である。
【0150】
(比較例)
ゲル膜及び仮焼膜の焼成条件として、超電導領域の高アスペクト粒子の面密度と非超電導領域の高アスペクト粒子の面密度が同様に小さくなる条件を選択する以外は、実施例1と同様の方法で超電導線材を製造した。焼成条件は、具体的には、本焼温度790℃、酸素分圧700ppmという条件である。
【0151】
表1に、実施例1~17、及び比較例の超電導線材の評価結果を示す。なお、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、銅(Cu)、酸素(O)、アルミニウム(Al)、及び炭素(C)以外の元素を不純物として数えた。EPMA測定の結果、実施例1~17では、非超電導領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度が、超電導層の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度より大きい。また、非超電導領域に塩素(Cl)が偏析していることが明らかになった。表1から、実施例1~17では比較例と比較して臨界電流密度が上がり、超電導特性が向上することが分かる。

【0152】
【表1】
【0153】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、一実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と置き換え又は変更してもよい。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0154】
以下、本発明の技術案を記載する。
【0155】
(技術案1)
基板と、
前記基板の上に設けられ、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の希土類元素、バリウム(Ba)、銅(Cu)、及び酸素(O)を含み、前記基板の表面に沿った第1の方向に伸長する第1の領域と、
前記基板の上に設けられ、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の希土類元素、バリウム(Ba)、銅(Cu)、及び酸素(O)を含み、前記第1の方向に伸長する第2の領域と、
前記基板の上に設けられ、前記第1の領域と前記第2の領域との間に前記第1の領域及び前記第2の領域に接して設けられ、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第3の希土類元素、プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、銅(Cu)、及び酸素(O)を含み、前記第1の方向に伸長する第3の領域と、を備え、
前記第3の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度が、前記第1の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度より大きく、
前記第3の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の前記面密度が、前記第2の領域の表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度よりも大きい、超電導線材。
【0156】
(技術案2)
前記第1の領域及び前記第2の領域に含まれるプラセオジム(Pr)の濃度は、前記第3の領域に含まれるプラセオジム(Pr)の濃度よりも小さい、技術案1記載の超電導線材。
【0157】
(技術案3)
前記第1の領域及び前記第2の領域に含まれる希土類元素中のプラセオジム(Pr)の濃度は1原子%未満であり、前記第3の領域に含まれる希土類元素中のプラセオジム(Pr)の濃度は10原子%以上である、技術案1又は技術案2記載の超電導線材。
【0158】
(技術案4)
前記第3の領域の前記表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の前記面密度は、前記第1の領域の前記表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の前記面密度の2倍以上であり、
前記第3の領域の前記表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の前記面密度は、前記第2の領域の前記表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の前記面密度の2倍以上である、技術案1ないし技術案3いずれかに記載の超電導線材。
【0159】
(技術案5)
前記第1の領域の前記第1の方向に垂直で前記基板の前記表面に沿った第2の方向の幅は5μm以上10mm以下であり、
前記第2の領域の前記第2の方向の幅は5μm以上10mm以下であり、
前記第3の領域の前記第2の方向の幅は1μm以上2mm以下である、技術案1ないし技術案4いずれかに記載の超電導線材。
【0160】
(技術案6)
前記第3の領域の前記第1の方向に垂直で前記基板の前記表面に沿った第2の方向の幅は、前記第1の領域の前記第2の方向の幅及び前記第1の領域の前記第2の方向の幅以下である、技術案1ないし技術案5いずれかに記載の超電導線材。
【0161】
(技術案7)
前記第3の領域の前記表面より前記基板に近い位置の、前記第3の領域の前記表面に沿った断面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の面密度が、前記第3の領域の前記表面に存在するアスペクト比が3以上の粒子の前記面密度よりも小さい、技術案1ないし技術案6いずれかに記載の超電導線材。
【0162】
(技術案8)
前記第3の領域に含まれる不純物元素の原子濃度は、前記第1の領域に含まれる不純物元素の原子濃度より高く、
前記第3の領域に含まれる不純物元素の原子濃度は、前記第2の領域に含まれる不純物元素の原子濃度より高い、技術案1ないし技術案7いずれかに記載の超電導線材。
【0163】
(技術案9)
技術案1ないし技術案8いずれか一項記載の超電導線材を備えた、超電導コイル。
【0164】
(技術案10)
技術案9記載の超電導コイルを備えた、超電導磁石。
【0165】
(技術案11)
技術案9記載の超電導コイルを備えた、超電導モータ。
【0166】
(技術案12)
技術案9記載の超電導コイルを備えた、超電導発電機。
【0167】
(技術案13)
技術案11記載の超電導モータを備えた、超電導航空機。
【0168】
(技術案14)
技術案1ないし技術案8いずれか一項記載の超電導線材を備えた、超電導機器。
【符号の説明】
【0169】
10 基板
20 中間層
30 酸化物超電導層
31a 第1の超電導領域(第1の領域)
31b 第2の超電導領域(第2の領域)
32a 第1の非超電導領域(第3の領域)
40 保護層
52 固定子(超電導磁石)
52a 固定子コイル(超電導コイル)
54a 回転子コイル(超電導コイル)
66 超電導発電機
100 超電導線材
200 超電導モータ
300 超電導航空機
400 重粒子線治療器(超電導機器)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10