(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135416
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】圧力容器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F17C 1/06 20060101AFI20240927BHJP
F17C 11/00 20060101ALI20240927BHJP
F17C 1/16 20060101ALI20240927BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F17C1/06
F17C11/00 C
F17C1/16
F16J12/00 A
F16J12/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046084
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草場 幸助
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康太郎
【テーマコード(参考)】
3E172
3J046
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172AB04
3E172BA01
3E172BB03
3E172BC01
3E172BC04
3E172BC05
3E172BD03
3E172CA12
3E172CA22
3E172DA36
3E172FA01
3E172FA02
3E172FA08
3E172FA10
3J046AA07
3J046AA20
3J046BA03
3J046BA08
3J046DA05
3J046EA01
(57)【要約】
【課題】効率的なガス充填をライナーレスで実現しつつガスバリア性を十分に確保すること。
【解決手段】圧力容器は、軸方向に延在し、ガスを吸蔵可能かつ放出可能な貯蔵材と、貯蔵材の軸方向端部に配置された口金と、貯蔵材及び口金の外周面を覆う補強層と、それらの外周面と補強層の内周面との間に介在し、フィルム状に形成されたガスバリア性及び熱収縮性を有するガスバリア層と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延在し、ガスを吸蔵可能かつ放出可能な貯蔵材と、
前記貯蔵材の軸方向端部に配置された口金と、
前記貯蔵材及び前記口金の外周面を覆う補強層と、
前記外周面と前記補強層の内周面との間に介在し、フィルム状に形成されたガスバリア性及び熱収縮性を有するガスバリア層と、
を備える、圧力容器。
【請求項2】
前記ガスバリア層よりも外側に配置された撥水層を備える、請求項1に記載された圧力容器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された圧力容器を製造する方法であって、
前記貯蔵材の軸方向端部に前記口金が配置された状態で、前記貯蔵材及び前記口金の外周側に配置した前記ガスバリア層を加熱によって熱収縮させることにより前記外周面に沿った形状に形成する第一ステップと、
前記ガスバリア層の外周側に前記補強層を形成する第二ステップと、
を備える、圧力容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを高圧で充填することが可能な圧力容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両などに搭載されて水素ガスや天然ガスなどのガスを高圧で充填することが可能な圧力容器が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1記載の圧力容器は、樹脂製のライナーとしての容器本体と、容器本体の軸方向両端側に配置された口金と、容器本体及び口金の外周面を覆う補強層と、を有している。この補強層によれば、圧力容器の耐圧性を向上させることができる。
【0003】
また、樹脂製の圧力容器としては、低コスト化や軽量化のため、ライナーレスが検討され始めている。一方、圧力容器においてガスを効率的に充填するうえでは、ガスの吸蔵と放出とを行うことのできる貯蔵材を用いた圧力容器の開発も行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、圧力容器が上記の如くライナーレス化されかつ貯蔵材を用いた構造であれば、ガスを効率的に充填しつつ低コスト化及び軽量化を図ることはできるが、そのままの構造では、貯蔵材に貯蔵されたガスを遮蔽する層が無く、補強層の隙間からガスが放出されてガスバリア性を確保することができない。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、効率的なガス充填をライナーレスで実現しつつガスバリア性を十分に確保することが可能な圧力容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、軸方向に延在し、ガスを吸蔵可能かつ放出可能な貯蔵材と、前記貯蔵材の軸方向端部に配置された口金と、前記貯蔵材及び前記口金の外周面を覆う補強層と、前記外周面と前記補強層の内周面との間に介在し、フィルム状に形成されたガスバリア性及び熱収縮性を有するガスバリア層と、を備える、圧力容器である。
【0008】
この構成によれば、効率的なガス充填をライナーレスで実現しつつガスバリア性を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る圧力容器の斜視図である。
【
図4】本実施形態の圧力容器の要部の拡大断面図である。
【
図5】本実施形態の圧力容器を製造する手順の一例を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、
図1-
図5を用いて、本発明に係る圧力容器及びその製造方法の具体的な実施の形態について説明する。
【0011】
一実施形態に係る圧力容器1は、ガスを貯蔵しかつその貯蔵したガスを放出する容器である。圧力容器1は、ガスを例えば燃料にして走行する車両などに搭載される。尚、圧力容器1が貯蔵するガスは、何れの種類のガスであってもよいが、水素ガスや天然ガス等の燃料ガスであることが好適である。また、圧力容器1が貯蔵可能なガスの圧力は、何れであってもよいが、高圧(例えば100MPaなど)であってもよい。すなわち、圧力容器1は、耐圧容器であってよい。
【0012】
圧力容器1は、柱状(具体的には、円柱状)に形成されている。圧力容器1は、
図1、
図2、
図3、及び
図4に示す如く、貯蔵材10と、口金20,30と、シャフト40と、補強層50と、ガスバリア層60と、撥水層70と、を備えている。
【0013】
貯蔵材10は、ガスを貯蔵するための部材である。貯蔵材10は、ガスを吸蔵することが可能であると共に放出することが可能である。貯蔵材10は、柱状(具体的には、円柱状)に形成されており、軸方向Xに延びている。貯蔵材10は、軸方向X中央部において略同径になるように形成されかつ軸方向X両端部において軸方向X中央側から軸方向X端側にかけて縮径するように形成されている。以下、貯蔵材10における略同径の部分を胴体部と、縮径する部分をドーム部と、それぞれ称す。
【0014】
貯蔵材10は、所定量のガスを貯蔵することができる容量を有している。尚、貯蔵材10には、例えば貯蔵材10全体におけるガス濃度の均一化を図るため、ガスが流通する流路が設けられていてもよい。貯蔵材10は、貯蔵対象のガスの種類に応じた材料により形成されている。貯蔵材10の材料は、例えば、カーボンナノチューブ等の多孔性の炭素材料、多孔性の金属錯体(すなわちMOF)、ゼオライト、水素吸蔵合金、金属水素化物などである。
【0015】
尚、貯蔵材10は、例えば一次粒子や二次粒子などの粉末を固めた状態すなわちペレット状に形成されていてよい。ペレット状の貯蔵材10によれば、ガスに対する貯蔵材10の接触面積を大きく確保することができるので、ガスの吸蔵放出性能を向上させることができる。この場合、貯蔵材10は、貯蔵材材料の粉末が架橋剤により架橋され又はバインダにより結着されることにより成形されてよい。架橋剤やバインダは、例えば、シリコン系、エポキシ系、アミン系の材料により形成されている。
【0016】
また、貯蔵材10は、軸方向X位置に応じて変化する性能を有していてよく、例えば、軸方向X中央部に比べて軸方向X端部の耐破損性が高くなるように構成されていてよい。この耐破損性とは、粉末で固められた貯蔵材10の粉末化のし難さを示す指標である。この耐破損性は、強度、剛性、耐摩耗性、粘度、弾性力などに言い換えることができる。
【0017】
また、貯蔵材10は、例えばハニカム形状に形成された収容部材の各収容空間に収容されて、収容部材の区画壁に囲まれて保持されるものであってもよい。この場合には、貯蔵材10を収容した収容部材が、貯蔵材10の一部として後述の回り止め構造を有していてもよい。また、貯蔵材10が収容部材に収容される場合、収容部材の区画壁は、熱伝導材により形成されて熱交換器として機能してもよい。この熱伝導材は、シャフト40と同様に、常温(例えば25℃)における熱伝導率が空気の熱伝導率に比べて高い材料であり、具体的には、ステンレススチール、アルミニウム、アルミナ、炭化ケイ素等に代表される金属、合金、セラミックス等であってよい。
【0018】
更に、貯蔵材10は、複数の分体により構成されている。具体的には、
図2及び
図3に示す如く、貯蔵材10は、軸方向X中央部で分かれた二つの貯蔵材分体10a,10bにより構成されている。貯蔵材分体10a,10b同士は、軸方向X中央部で軸方向Xに互いに対向し又は接した状態にある。各貯蔵材分体10a,10bはそれぞれ、胴体部の一部とドーム部の一部とを含んでいる。
【0019】
貯蔵材10は、嵌合部12,13を有している。嵌合部12は、口金20が嵌る部位である。嵌合部12は、貯蔵材分体10aの軸方向X一端部に設けられており、貯蔵材10の軸方向X一端に露出している。嵌合部13は、口金30が嵌る部位である。嵌合部13は、貯蔵材分体10bの軸方向X他端部に設けられており、貯蔵材10の軸方向X他端に露出している。嵌合部12,13の開口はそれぞれ、例えば円形状に形成されている。嵌合部12には口金20が嵌められ、また、嵌合部13には口金30が嵌められる。
【0020】
口金20,30は、圧力容器1の内部(具体的には、貯蔵材10)と外部(具体的には、ガス供給源)との間でガスを出し入れさせる部材である。口金20,30は、容器外から容器内へのガスの導入に用いられると共に、容器内から容器外へのガスの放出に用いられる。
【0021】
口金20は、貯蔵材10の軸方向X一端側に配置されている。口金30は、貯蔵材10の軸方向X他端側に配置されている。口金20,30は、剛性確保のため、例えばアルミニウムやステンレススチール等の金属により形成されている。口金20,30はそれぞれ、軸部20a,30aと、フランジ部20b,30bと、を有している。
【0022】
軸部20a,30aは、軸方向に延在する部位である。軸部20a,30aは、貯蔵材10の嵌合部12,13に嵌る筒状(例えば円筒状)に形成されている。フランジ部20b,30bは、軸回りの全周に亘って径方向に広がる部位である。フランジ部20b,30bは、軸部20a,30aに一体化されている。フランジ部20b,30bは、軸部20a,30aの外面から径方向外側に向けて延びる円板状に形成されている。
【0023】
口金20は、連通路21を有している。口金30は、連通路31を有している。連通路21,31は、圧力容器1の内部(具体的には、貯蔵材10)を外部に連通させる通路である。連通路21は、軸部20aの軸中心部に設けられている。連通路31は、軸部30aの軸中心部に設けられている。連通路21,31は、軸方向に延びており、例えば円柱状に形成されている。連通路21,31は、図示しない例えばガス管やバルブなどに接続される。
【0024】
尚、圧力容器1は、口金20,30の連通路21,31の双方でガスを出し入れさせるものであってもよいし、連通路21,31の何れか一方だけでガスを出し入れさせると共に他方に栓が装着されたものであってもよい。
【0025】
更に、口金20,30は、熱伝導材により形成されている。口金20,30は、圧力容器1の温度調整のため、熱交換媒体が循環する熱交換器として機能してもよい。この場合、口金20,30の双方が熱交換器として機能することが好適であるが、口金20,30のうちの何れか一方が熱交換器として機能するものであってもよい。例えば、ガスの出入りが一方の口金(例えば口金20)で行われる場合は、その口金とは軸方向反対側の他方の口金(例えば口金30)が熱交換器として機能してもよい。
【0026】
シャフト40は、口金20と口金30とを接続させる軸部材である。シャフト40は、軸方向Xに直線的に延在している。シャフト40は、軸方向X一端部で口金20に接続されていると共に、軸方向X他端部で口金30に接続されている。シャフト40は、貯蔵材10に設けられた貫通孔11に挿入配置されている。シャフト40は、軸方向X中央部で分かれた二つのシャフト分体40a,40bにより構成されている。シャフト分体40a,40b同士は、軸方向X中央部で例えば凹凸嵌合などにより互いに接続されている。
【0027】
シャフト40(具体的には、そのシャフト分体40a)の軸方向X一端部は、口金20に組み付けられて一体化されている。また、シャフト40(具体的には、そのシャフト分体40b)の軸方向X他端部は、口金30に組み付けられて一体化されている。口金20とシャフト40と口金30とは、相互に相対回転が規制されて相互に固定されており、互いに一体回転する。尚、口金20とシャフト40と口金30とは、例えば、圧入、ボルト締結、螺合、溶接、溶着などにより相互に固定されるものであってよい。
【0028】
シャフト40は、熱伝導材により形成されている。この熱伝導材は、例えば、常温(例えば25℃)における熱伝導率が空気の熱伝導率に比べて高い材料であり、具体的には、ステンレススチール、アルミニウム、アルミナ、炭化ケイ素等に代表される金属、合金、セラミックス等である。
【0029】
シャフト40は、貫通孔41と、通気孔(図示せず)と、を有している。貫通孔41は、口金20側と口金30側との間で貯蔵材10を貫通している。貫通孔41は、口金20,30の一方の連通路21,31側のガスを他方の連通路31,21側へ導くための通路である。上記の通気孔は、貫通孔41に接続しつつ径方向外方に延びシャフト40の外面からシャフト外に露出する孔である。通気孔は、貫通孔41に流通するガスをシャフト40の軸方向中途から径方向外側の貯蔵材10に導くと共に、貯蔵材10内のガスをシャフト40の軸方向中途から貫通孔41に導くための通路である。通気孔は、シャフト40に万遍なく複数設けられている。
【0030】
貯蔵材10及びシャフト40は、互いに接して相対回転を規制する回り止め構造を有している。貯蔵材10は、シャフト40の外面を覆うように配置されており、シャフト40は、貯蔵材10の貫通孔11に挿入配置されている。この回り止め構造は、例えばシャフト40の外形や貯蔵材10の貫通孔11の形状(すなわち、貫通孔11周縁の部位の内形)が断面非円形(例えば、断面星形や正多角形など)であることが一例である。
【0031】
補強層50は、貯蔵材10及び口金20,30の外周面を覆って貯蔵材10を補強する層である。具体的には、補強層50は、貯蔵材10の胴体部及びドーム部の外側に向いた面並びに口金20,30のフランジ部20b,30bの軸方向外側に向いた面を覆う。補強層50は、例えば繊維状部材により構成されている。補強層50は、フィラメントワインディング(FW)法などによって繊維状部材が貯蔵材10の外面に巻回されることにより形成されている。補強層50を構成する繊維状部材は、例えば、樹脂を含浸した高強度繊維(すなわち、FRP)であって、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等である。
【0032】
尚、補強層50は、繊維状部材がフープ巻きされたフープ層や繊維状部材がヘリカル巻きされたヘリカル層であってよい。また、補強層50は、繊維状部材が直接的に貯蔵材10の外面に巻回されることに代えて、繊維状部材を用いてシート状に形成されたヘリカル層やフープ層が貯蔵材10の外面に貼り付けられることにより形成されてもよい。また、補強層50は、繊維状部材に樹脂が含浸された状態で形成されてよく、例えば、ヘリカル層やフープ層の形成後に樹脂が加熱硬化されたものであってもよい。この繊維状部材に含浸される樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂などである。
【0033】
ガスバリア層60は、ガスの透過を遮断するガスバリア性を有すると共に加熱により収縮する熱収縮性を有する層である。ガスバリア層60は、貯蔵材10及び口金20,30の外周面と補強層50の内周面との間に介在している。ガスバリア層60は、フィルム状に形成された薄肉部材である。ガスバリア層60の厚さは、ガスバリア性及び熱収縮性を有すれば何れであってもよいが、例えば0.01mm~0.1mmに設定されており、強度や柔軟性を考慮すると0.1mm程度であることが好ましい。また、ガスバリア層60が熱収縮する温度は、例えば120℃~140℃などであり、130℃程度であることが好ましい。
【0034】
ガスバリア層60は、貯蔵対象のガスの種類に応じた材料により形成されている。ガスバリア層60の材料は、例えばエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)やポリ塩化ビニリデンなどである。ガスバリア層60は、貯蔵材10及び口金20,30の外周面を覆っている。
【0035】
尚、ガスバリア層60は、複数の分体により構成されていてよい。例えば
図3に示す如く、ガスバリア層60は、三つのガスバリア分体60a,60b,60cにより構成されていてよい。これらの三つのガスバリア分体60a,60b,60cの継目は、例えば溶着により接合される。
【0036】
ガスバリア分体60aは、貯蔵材10の胴体部の外周面を覆っている。ガスバリア分体60aは、例えばシート状に形成されたフィルム部材からなり、圧力容器1の製造時に貯蔵材10の胴体部の外周面に軸回りに巻かれて配置される。ガスバリア分体60bは、貯蔵材10の軸方向一端側のドーム部及び口金20の外周面を覆っている。また、ガスバリア分体60cは、貯蔵材10の軸方向他端側のドーム部及び口金30の外周面を覆っている。ガスバリア分体60b,60cは、例えば貯蔵材10の軸方向他端側のドーム部及び口金30の外周面に合致したカップ状に形成されたフィルム部材からなり、圧力容器1の製造時に貯蔵材10の軸方向他端側のドーム部及び口金30の外周側に配置される。
【0037】
ガスバリア層60は、貯蔵材10の軸方向端部に口金30が配置された状態で、上記の如く、フィルム状のガスバリア分体60a,60b,60cが貯蔵材10及び口金20,30の外周面を覆うように配置されその後に溶着などにより接合されたものになる。そして、そのガスバリア層60は、加熱によって熱収縮されることにより、貯蔵材10及び口金20,30の外周面に沿った形状に形成される。上記の補強層50は、ガスバリア層60が熱収縮された後、そのガスバリア層60の外周面を覆うように形成される。
【0038】
口金20(具体的には、軸部20aの外表面)と補強層50(正確には、ガスバリア層60)との間、及び、口金30(具体的には、軸部30aの外表面)と補強層50(正確には、ガスバリア層60)との間にはそれぞれ、シール部材80(
図2や
図7参照)が介在されている。各シール部材80は、圧力容器1の容器内から容器外へのガスの漏出を防止するための部材である。各シール部材80は、例えば円環状に形成されたOリングなどである。シール部材80は、口金20,30の軸部20a,30aに略径方向外側を向くように形成されたシール溝部22,32に嵌って装着されている。
【0039】
撥水層70は、撥水性を有する層である。撥水層70は、水をはじいて貯蔵材10及びガスバリア層60への水の進入を防ぐ機能を有している。撥水層70は、ガスバリア層60よりも外側に配置されている。具体的には、撥水層70は、補強層50の外周面を覆うように配置されている。尚、撥水層70は、補強層50が形成された後に補強層50の表面にスプレーなどで塗布されてよい。撥水層70における接触角は、例えば90°~180°の範囲内である。
【0040】
撥水層70は、シリコン系やフッ素系の材料により形成されている。尚、撥水層70は、例えば、フッ素系樹脂に撥水効果を高める架橋剤を加えたものであってもよい。また、撥水層70は、上記の如く補強層50の外周側に配置されることに代えて、補強層50の形成時や形成前に補強層50を構成する繊維状部材の外表面に塗布されてもよい。また、撥水層70は、補強層50の材料自体に撥水性を有する材料が含まれることにより形成されてもよい。
【0041】
次に、圧力容器1を組み立てて製造する手順の一例を説明する。圧力容器1の組み立て・製造は、所定の製造装置により以下の手順に従って行われる。
【0042】
まず、貯蔵材10を構成する二つの貯蔵材分体10a,10bを準備する。また、二つの口金20,30を準備すると共に、シャフト40を構成する二つのシャフト分体40a,40bを準備する。更に、ガスバリア層60を構成するガスバリア分体60a,60b,60cを準備すると共に、補強層50を構成する繊維状部材を準備する。
【0043】
次に、貯蔵材分体10aの貫通孔11にシャフト分体40aを挿入すると共に、貯蔵材分体10bの貫通孔11にシャフト分体40bを挿入する。また、口金20をシャフト分体40aに接続させると共に貯蔵材分体10aの嵌合部12に嵌めて配置し、更に、口金30をシャフト分体40bに接続させると共に貯蔵材分体10bの嵌合部13に嵌めて配置する(
図5におけるステップS100)。そして、貯蔵材分体10a側と貯蔵材分体10b側とを一体となるように組み付けてシャフト分体40a,40b同士を接続させて容器サブアッシーを構成する。
【0044】
また、口金20,30それぞれのシール溝部22,32にシール部材80を装着する(ステップS110)。尚、口金20,30へのシール部材80の装着タイミングは、口金20,30が貯蔵材10に配置された後であってもよいし或いはその配置の前であってもよい。
【0045】
上記した容器サブアッシーの構成後、まず、貯蔵材10及び口金20,30の外周側にガスバリア層60を配置する。具体的には、ガスバリア分体60aを貯蔵材10の胴体部の外周面に巻き付けると共に、ガスバリア分体60b,60cを貯蔵材10のドーム部及び口金20,30の外周側に配置する。そして、そのガスバリア層60を例えば130℃程度で加熱する(ステップS120)。この場合には、ガスバリア層60が加熱により熱収縮して貯蔵材10及び口金20,30の外周面に沿った形状に形成される。
【0046】
次に、例えばフィラメントワインディング(FW)法でガスバリア層60の外周面に補強層50を巻き付けて被覆する。この場合には、貯蔵材10及び口金20,30の外周面を覆うガスバリア層60の外周側に、補強層50が形成される(ステップS130)。そして最後に、例えばガスバリア層60の外周面に撥水層70を塗布する。この場合には、ガスバリア層60よりも外側に撥水層70が形成される(ステップS140)。これらの処理により、圧力容器1が製造される。
【0047】
この圧力容器1の製造方法においては、口金20,30が貯蔵材10の軸方向X端部に配置された状態で、ガスバリア性を有するガスバリア層60が、貯蔵材10及び口金20,30の外周側に配置され、その後、加熱により熱収縮されることにより貯蔵材10及び口金20,30の外周面に沿った形状に形成される。このため、この製造方法によれば、ガスバリア層60を貯蔵材10及び口金20,30の外周面に沿うように密着させることができるので、圧力容器1のガスバリア性を十分に確保することができる。
【0048】
更に、圧力容器1の動作及び作用について説明する。
製造後の圧力容器1においては、例えば口金30の連通路31が閉じられた状態でガスが口金20の連通路21を介して導入されると、そのガスは、シャフト40の貫通孔41に流れた後に通気孔から貯蔵材10に流入する。貯蔵材10に流入したガスは、その貯蔵材10に徐々に吸蔵される。そして、ガス流入後、口金20の連通路21が閉じられると、貯蔵材10にガスが充填される。
【0049】
また、圧力容器1へのガスの充填後、例えば口金30の連通路31がバルブにより開放されると、貯蔵材10のガスがシャフト40の通気孔及び貫通孔41を経由して連通路31から容器外に放出される。
【0050】
従って、圧力容器1によれば、貯蔵材10を用いてガスを充填することができると共にその充填したガスを容器外に放出することができる。
【0051】
また、圧力容器1は、ガスを吸蔵可能かつ放出可能な貯蔵材10と、貯蔵材10の軸方向X端部に配置された口金20,30と、貯蔵材10及び口金20,30の外周面を覆う補強層50と、貯蔵材10及び口金20,30の外周面と補強層50の内周面との間に介在し、フィルム状に形成されたガスバリア性及び熱収縮性を有するガスバリア層60を備えている。
【0052】
この圧力容器1の構成においては、ライナーレスで貯蔵材10を用いてガスを充填することができるので、ガスを効率的に充填しつつ低コスト化及び軽量化を図ることができる。また、ガスバリア層60によりガスバリア性を確保することができると共に、そのガスバリア層60を加熱により貯蔵材10及び口金20,30の外周面に沿うように密着させることができるので、そのガスバリア性を十分に確保することができる。従って、圧力容器1によれば、効率的なガス充電をライナーレスで実現しつつガスバリア性を十分に確保することができる。
【0053】
また、圧力容器1は、ガスバリア層60よりも外側に配置された撥水層70を備えている。この圧力容器1の構成においては、撥水層70により水をはじいてガスバリア層60への水の進入を防ぐことができるので、圧力容器1の耐水性を向上させることができ、圧力容器1の使用強度を高めることができる。
【0054】
尚、本発明は、上述した実施形態や変形形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。また、本明細書は、出願当初に各請求項に記載された引用関係で示される技術思想を開示するだけでなく、各請求項に記載された事項を適宜組み合わせた技術思想を開示するものである。
【符号の説明】
【0055】
1:圧力容器、10:貯蔵材、20,30:口金、40:シャフト、50:補強層、60:ガスバリア層、70:撥水層、80:シール部材。