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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135425
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】変化検出装置及び変化検出方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 16/907 20190101AFI20240927BHJP
【FI】
G06F16/907
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046097
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000142425
【氏名又は名称】アズビル金門株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 英治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 郁美
(72)【発明者】
【氏名】原 一夫
【テーマコード(参考)】
5B175
【Fターム(参考)】
5B175DA10
5B175FB03
(57)【要約】
【課題】時系列データの特徴的な変化を検出する精度を従来よりも向上させることができる変化検出装置を提供する。
【解決手段】変化検出装置100は、第1期間及び第1期間よりも後の期間である第2期間を含む期間の時系列データを取得する時系列データ取得部10と、時系列データ取得部が取得した時系列データに基づいて、第1期間における複数の部分時系列データである複数の第1ベクトルと、第2期間における複数の部分時系列データである複数の第2ベクトルと、を取得するベクトル取得部21と、複数の第1ベクトルのうち特定の第1ベクトルと、複数の第2ベクトルのうち特定の第2ベクトルと、の組合せに係る差分ベクトルを、複数の組合せにおいて取得する差分ベクトル取得部22と、差分ベクトル取得部が取得した複数の差分ベクトルの、方向の分布の偏りに基づいて、時系列データの特徴的な変化を検出する変化検出部25と、を備えた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1期間及び前記第1期間よりも後の期間である第2期間を含む期間の時系列データを取得する時系列データ取得部と、
前記時系列データ取得部が取得した前記時系列データに基づいて、前記第1期間における複数の部分時系列データである複数の第1ベクトルと、前記第2期間における複数の部分時系列データである複数の第2ベクトルと、を取得するベクトル取得部と、
前記複数の第1ベクトルのうち特定の第1ベクトルと、前記複数の第2ベクトルのうち特定の第2ベクトルと、の組合せに係る差分ベクトルを、複数の組合せにおいて取得する差分ベクトル取得部と、
前記差分ベクトル取得部が取得した複数の差分ベクトルの、方向の分布の偏りに基づいて、前記時系列データの特徴的な変化を検出する変化検出部と、を備えた
ことを特徴とする変化検出装置。
【請求項2】
前記差分ベクトル取得部が取得した複数の差分ベクトルのそれぞれを、向きを変えず大きさを統一させるように変換したベクトルを取得するベクトル変換部を備え、
前記変化検出部は、前記ベクトル変換部によって取得されたベクトルの方向の分布の偏りに基づいて、前記時系列データの特徴的な変化を検出する
ことを特徴とする請求項1記載の変化検出装置。
【請求項3】
前記ベクトル取得部は、前記第1期間の前記時系列データにおいてスライド窓をスライドさせることで前記複数の第1ベクトルを取得し、前記第2期間の前記時系列データにおいてスライド窓をスライドさせることで前記複数の第2ベクトルを取得する
ことを特徴とする請求項1記載の変化検出装置。
【請求項4】
前記差分ベクトル取得部は、前記複数の第1ベクトルのそれぞれについて、前記複数の第2ベクトルのうち最も近い第2ベクトルを抽出し、前記複数の第1ベクトルのそれぞれと、抽出された第2ベクトルと、の差分に基づいて、前記複数の差分ベクトルを取得する
ことを特徴とする請求項1記載の変化検出装置。
【請求項5】
前記複数の差分ベクトルは、複数の第1差分ベクトルであり、
前記差分ベクトル取得部は、前記複数の第2ベクトルのそれぞれについて、前記複数の第1ベクトルのうち最も近い第1ベクトルを抽出し、前記複数の第2ベクトルのそれぞれと、抽出された第1ベクトルと、の差分に基づいて、複数の第2差分ベクトルを取得し、
前記変化検出部は、前記差分ベクトル取得部が取得した複数の第1差分ベクトル及び複数の第1差分ベクトルのうち、いずれか方向の分布の偏りが大きい方の、方向の分布の偏りに基づいて、前記時系列データの特徴的な変化を検出する
ことを特徴とする請求項4記載の変化検出装置。
【請求項6】
前記複数の差分ベクトルの方向の分布の偏りに応じた変化スコアを算出する変化スコア算出部を備え、
前記変化検出部は、前記変化スコア算出部によって算出された変化スコアが、予め設定されている閾値を超えたか否かに基づいて、前記時系列データの特徴的な変化を検出する
ことを特徴とする請求項1記載の変化検出装置。
【請求項7】
前記閾値を設定する閾値設定部を備え、
前記時系列データは、前記第1期間よりも前の期間である第3期間と、前記第3期間と前記第1期間との間の期間である第4期間と、を含み、
前記ベクトル取得部は、前記時系列データ取得部が取得した前記時系列データに基づいて、前記第3期間における複数の部分時系列データである複数の第3ベクトルと、前記第4期間における複数の部分時系列データである複数の第4ベクトルと、を取得し、
前記差分ベクトル取得部は、前記複数の第3ベクトルのうち特定の第3ベクトルと、前記複数の第4ベクトルのうち特定の第4ベクトルと、の組合せに係る差分ベクトルを、複数の組合せにおいて取得し、
前記閾値設定部は、前記差分ベクトル取得部が取得した複数の差分ベクトルの、方向の分布の偏りに基づいて、前記閾値を設定する
ことを特徴とする請求項6記載の変化検出装置。
【請求項8】
前記時系列データ取得部は、前記時系列データとして所定の期間におけるガス消費量のデータを取得し、
前記変化検出部は、前記差分ベクトル取得部が取得した差分ベクトルの方向の偏りに基づいて、前記ガス消費量の特徴的な時間変化を検出する
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の変化検出装置。
【請求項9】
時系列データ取得部と、ベクトル取得部と、差分ベクトル取得部と、変化検出部と、を備えた装置が行う変化検出方法であって、
前記時系列データ取得部が、第1期間及び前記第1期間よりも後の期間である第2期間を含む期間の時系列データを取得するステップと、
前記ベクトル取得部が、前記時系列データ取得部が取得した前記時系列データに基づいて、前記第1期間における複数の部分時系列データである複数の第1ベクトルと、前記第2期間における複数の部分時系列データである複数の第2ベクトルと、を取得するステップと、
前記差分ベクトル取得部が、前記複数の第1ベクトルのうち特定の第1ベクトルと、前記複数の第2ベクトルのうち特定の第2ベクトルと、の組合せに係る差分ベクトルを、複数の組合せにおいて取得するステップと、
前記変化検出部が、前記差分ベクトル取得部が取得した複数の差分ベクトルの、方向の分布の偏りに基づいて、前記時系列データの特徴的な変化を検出するステップと、を備えた
ことを特徴とする変化検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変化検出装置及び変化検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、時系列データの特徴的な変化を検出する方法として、RuLSIF法が開示されている(非特許文献1参照)。非特許文献1に記載の方法は、所定期間の時系列データと当該所定期間よりも後の期間の時系列データとを取得し、それぞれの期間の時系列データの確率分布の密度比に基づいて、時系列データの特徴的な変化が生じたか否かを判定する方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】S.Liu,M.Yamada,N.Collier,and M.Sugiyama,Change-point detection in time-series data by relative density-ratio estimation,Neural Networks,43(2013),pp.72-83.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、時系列データには、様々な要因によって他のデータ値とは大きく異なる外れ値を含む場合がある。しかしながら、非特許文献1に記載の方法は、密度比の算出が時系列データに含まれる外れ値によって影響を受けるため、時系列データに含まれる外れ値によっては、特徴的な変化を検出する際の精度が低下する場合があるという課題がある。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するものであって、時系列データの特徴的な変化を検出する精度を従来よりも向上させることができる変化検出装置及び変化検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る変化検出装置は、第1期間及び第1期間よりも後の期間である第2期間を含む期間の時系列データを取得する時系列データ取得部と、時系列データ取得部が取得した時系列データに基づいて、第1期間における複数の部分時系列データである複数の第1ベクトルと、第2期間における複数の部分時系列データである複数の第2ベクトルと、を取得するベクトル取得部と、複数の第1ベクトルのうち特定の第1ベクトルと、複数の第2ベクトルのうち特定の第2ベクトルと、の組合せに係る差分ベクトルを、複数の組合せにおいて取得する差分ベクトル取得部と、差分ベクトル取得部が取得した複数の差分ベクトルの、方向の分布の偏りに基づいて、時系列データの特徴的な変化を検出する変化検出部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、時系列データの第1期間における部分時系列データである第1ベクトルと、第2期間における部分時系列データである第2ベクトルと、から取得された複数の差分ベクトルの方向の偏りに基づいて時系列データの特徴的な変化を検出することにより、時系列データに含まれる外れ値の影響を抑制することが可能になり、従来よりも時系列データの特徴的な変化を検出する際の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る変化検出装置の概略構成を示すブロック図。
図2】実施の形態1に係る変化検出装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図。
図3】実施の形態1に係る変化検出装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図。
図4】実施の形態1に係る変化検出装置が行う処理を示すフローチャート。
図5】実施の形態1に係る変化検出装置が取得する時系列データの一例を示すグラフ。
図6】実施の形態1に係る変化検出装置が行うベクトル取得処理の一例を示す概念図。
図7】実施の形態1に係る変化検出装置が行うベクトル取得処理によって得られた複数の第1ベクトル及び複数の第2ベクトルを示す図。
図8図8Aは、実施の形態1に係る変化検出装置が行う第1差分ベクトル取得処理を示す概念図、図8Bは、実施の形態1に係る変化検出装置が行う第1差分ベクトル取得処理によって得られた複数の第1差分ベクトルの一例を示す図、図8Cは、実施の形態1に係る変化検出装置が行う第1正規化処理によって得られた複数の第1正規ベクトルの一例を示す図。
図9図9Aは、実施の形態1に係る変化検出装置が行う第1差分ベクトル取得処理を示す概念図、図9Bは、実施の形態1に係る変化検出装置が行う第1差分ベクトル取得処理によって得られた複数の第1差分ベクトルの一例を示す図、図9Cは、実施の形態1に係る変化検出装置が行う第1正規化処理によって得られた複数の第1正規ベクトルの一例を示す図。
図10図10Aは、実施の形態1に係る変化検出装置が行う第1差分ベクトル取得処理を示す概念図、図10Bは、実施の形態1に係る変化検出装置が行う第1差分ベクトル取得処理によって得られた複数の第1差分ベクトルの一例を示す図、図10Cは、実施の形態1に係る変化検出装置が行う第1正規化処理によって得られた複数の第1正規ベクトルの一例を示す図。
図11図11Aは、実施の形態1に係る変化検出装置が行う第2差分ベクトル取得処理を示す概念図、図11Bは、実施の形態1に係る変化検出装置が行う第2差分ベクトル取得処理によって得られた複数の第2差分ベクトルの一例を示す図、図11Cは、実施の形態1に係る変化検出装置が行う第2正規化処理によって得られた複数の第2正規ベクトルの一例を示す図。
図12】実施の形態1に係る変化検出装置が行うベクトル取得処理を示す概念図。
図13】実施の形態1に係る変化検出装置によって振動の変化を検出するタイミングギアを示す模式図。
図14図14Aは、実施の形態1に係る変化検出装置が取得する時系列データとしてのタイミングギアの振動データを示すグラフ、図14Bは、実施の形態1に係る変化検出装置がタイミングギアの振動データに基づいて算出した変化スコアを示すグラフ。
図15】実施の形態1に係る変化検出装置が取得する時系列データとしてのガス消費量のデータ及びガス消費量のデータに基づいて算出した変化スコアを示すグラフ。
図16図16Aは、実施の形態1に係る変化検出装置が取得する時系列データとしての東証株価指数の日次の終値の推移を示すグラフ、図16Bは、実施の形態1に係る変化検出装置が東証株価指数のデータに基づいて算出した変化スコアを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
まず、図1を参照して、実施の形態1に係る変化検出装置100の概略構成について説明する。図1は、実施の形態1に係る変化検出装置100の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、実施の形態1に係る変化検出装置100は、時系列データを取得する時系列データ取得部10と、時系列データ取得部10が取得した時系列データに基づいて演算を行う演算部20と、演算部20による演算の結果を出力する出力部30と、を備えている。
【0010】
時系列データ取得部10は、変化検出装置100に特徴的な変化の有無を判定させる時系列データを取得する。例えば、時系列データ取得部10は、ユーザによる入力操作を受付ける図示しない入力装置、変化検出装置100が備える不図示の記憶装置、変化検出装置100と通信可能に接続された不図示のセンサ又はコンピュータ等の外部装置、変化検出装置100が備える不図示の情報読取装置によって読取られる外部記憶媒体等から、時系列データを取得する。なお、時系列データ取得部10が取得する時系列データは、時刻を示す値を含む系列データに限定されない。時系列データ取得部10が取得する時系列データは、時刻と関係する値を含む系列データであればよく、例えば、特定の時刻を起点とする経過時間を示す値を含む系列データであってもよいし、時刻が進むにつれて数が増えるカウント数等、直接に時刻を示す値以外の値を含む系列データであってもよい。
【0011】
演算部20は、ベクトル取得部21と、差分ベクトル取得部22と、ベクトル変換部23と、変化スコア算出部24と、変化検出部25と、パラメータ設定部26と、を有しており、時系列データ取得部10が取得した時系列データに基づいて、時系列データの特徴的な変化を検出する。
【0012】
ベクトル取得部21は、時系列データ取得部10が取得した時系列データに基づいて、第1期間における複数の部分時系列データである複数の第1ベクトルを取得する。言い換えると、ベクトル取得部21は、時系列データ取得部10が取得した時系列データのうち、第1期間における時系列データから、複数の第1ベクトルとして、複数の部分時系列データを抽出する。なお、部分時系列データとは、時系列データに含まれるデータ値のうち、連続する複数のデータ値を1つにまとめた系列データである。
【0013】
また、ベクトル取得部21は、時系列データ取得部10が取得した時系列データに基づいて、第1期間よりも後の期間である第2期間における複数の部分時系列データである複数の第2ベクトルを取得する。言い換えると、ベクトル取得部21は、時系列データ取得部10が取得した時系列データのうち、第1期間よりも後の期間である第2期間における時系列データから、複数の第2ベクトルとして、複数の部分時系列データを抽出する。なお、第2期間の開始点は、第1期間の終了点と時間的に離れていてもよいが、第1期間の終了点よりも前の時刻でないことが望ましい。
【0014】
差分ベクトル取得部22は、複数の第1ベクトルのうち特定の第1ベクトルと、複数の第2ベクトルのうち特定の第2ベクトルと、の差分ベクトルを取得する。また、差分ベクトル取得部22は、差分ベクトルの取得を第1ベクトルと第2ベクトルとの複数の組合せにおいて行うことにより、複数の差分ベクトルを取得する。
【0015】
ベクトル変換部23は、差分ベクトル取得部22が取得した複数の差分ベクトルのそれぞれを正規化する。言い換えると、ベクトル変換部23は、差分ベクトル取得部22が取得した複数の差分ベクトルのそれぞれを大きさが1である正規ベクトルに変換する。なお、ベクトル変換部23は、差分ベクトル取得部22が取得した複数の差分ベクトルのそれぞれの向きを変えず大きさを統一させるように変換したベクトルを取得するように構成されていればよく、例えば、ベクトル変換部は、差分ベクトル取得部22が取得した複数の差分ベクトルのそれぞれを1以外の大きさのベクトルに変換するように構成されていてもよい。
【0016】
変化スコア算出部24は、ベクトル変換部23の変換によって得られた複数の正規ベクトルに基づいて、変化スコアを算出する。変化スコアは、ベクトル変換部23の変換によって得られた複数の正規ベクトルの、方向の分布の偏りを示す値である。例えば、時系列データの傾向が変化する際、差分ベクトル取得部22によって取得された複数の差分ベクトルは、方向が偏りやすい。このため、差分ベクトル取得部22によって取得された複数の差分ベクトルの、方向の分布の偏りに基づいて、時系列データの特徴的な変化を検出することが可能である。
【0017】
しかしながら、このような複数の差分ベクトルには、時系列データの外れ値に基づいて算出された外れ差分ベクトルが含まれる場合があり、外れ差分ベクトルは他の差分ベクトルよりも大きなベクトルとして算出されるため、時系列データの特徴的な変化を検出する際の検出方法によっては、検出精度に影響を与える場合がある。このため、実施の形態1に係る変化検出装置100は、差分ベクトル取得部22によって取得された複数の差分ベクトルの、方向のみに着目するため、これら複数の差分ベクトルを大きさが1である正規ベクトルに変換した上で、これら複数の正規ベクトルの分布の偏りに基づいて、時系列データの特徴的な変化を検出するように構成されている。
【0018】
変化検出部25は、変化スコア算出部24による算出結果に基づいて、第1期間の時系列データと第2期間の時系列データとの間に、特徴的な変化があったか否かを判定することで、時系列データの特徴的な変化を検出する。例えば、変化検出部25は、変化スコア算出部24が算出した変化スコアと、予め設定されている閾値と、を比較することにより、時系列データに特徴的な変化があったか否かを判定する。このように、変化検出部25は、差分ベクトル取得部22が取得した複数の差分ベクトルの、方向の分布の偏りに基づいて、時系列データの特徴的な変化を検出している。
【0019】
パラメータ設定部26は、演算部20が行う各種パラメータを設定する。例えば、パラメータ設定部26は、ユーザによる入力操作を受付ける図示しない入力装置、変化検出装置100が備える不図示の記憶装置、変化検出装置100と通信可能に接続された不図示の外部装置、変化検出装置100が備える不図示の情報読取装置によって読取られる外部記憶媒体等からの情報に基づいて、各種パラメータを設定する。また、パラメータ設定部26は、時系列データ取得部10が取得した時系列データに基づいて、各種パラメータを設定する。例えば、パラメータ設定部26は、ベクトル取得部21が取得する部分時系列データの大きさ(ベクトルの次元数)、ベクトル取得部21が取得する部分時系列データ間の時間差、変化検出部25による判定に用いられる閾値等のパラメータを設定する。
【0020】
出力部30は、変化検出部25による検出結果を出力する。言い換えると、出力部30は、変化検出部25による、時系列データに特徴的な変化があったか否かを示す情報出力する。例えば、出力部30は、情報を表示する図示しない表示装置、変化検出装置100が備える不図示の記憶装置、変化検出装置100と通信可能に接続された不図示の外部装置、変化検出装置100が備える不図示の情報読取装置によって情報が書込まれる外部記憶媒体等に、変化検出部25による検出結果を出力する。
【0021】
次に、図2及び図3を参照して、変化検出装置100のハードウェア構成について説明する。図2は、実施の形態1における変化検出装置100のハードウェア構成の一例を示す図であり、図3は、実施の形態1における変化検出装置100のハードウェア構成の他の例を示す図である。例えば、図2に示すように、変化検出装置100は、プロセッサ100a、メモリ100b及びI/Oポート100cを有し、メモリ100bに格納されているプログラムをプロセッサ100aが読み出して実行するように構成されている。
【0022】
また、例えば、図3に示すように、変化検出装置100は、専用のハードウェアである処理回路100d及びI/Oポート100cを有している。処理回路100dは、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、システムLSI(Large-Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、又はこれらの組み合わせによって構成される。変化検出装置100の各機能は、これらプロセッサ100a又は専用のハードウェアである処理回路100dがソフトウェアであるプログラムを実行することによって実現される。なお、変化検出装置100は、上記以外の図示しないハードウェアを備えていてもよい。
【0023】
次に、図4乃至12を参照して、実施の形態1に係る変化検出装置100が行う処理について説明する。図4は、実施の形態1に係る変化検出装置100が行う処理を示すフローチャートである。まず、変化検出装置100は、処理を開始すると、各種パラメータを設定するパラメータ設定処理を行う(ステップST1)。この処理において、変化検出装置100は、パラメータ設定部26によって演算部20が演算を行うための各種パラメータを設定している。ステップST1の処理を行うと、変化検出装置100は、時系列データを取得する時系列データ取得処理を行う(ステップST2)。この処理において、変化検出装置100は、時系列データ取得部10によって、時系列データを取得している。
【0024】
図5は、実施の形態1に係る変化検出装置100が取得する時系列データの一例を示すグラフである。図5に示す時系列データは、時刻tとデータ値ξとからなる変数が2つの時系列データである。例えば、変化検出装置100は、図5に示す時系列データにおいて、時刻t=100の前後で特徴的な変化があったか否かを判定する場合、当該時系列データのうち、時刻t=100よりも前の期間である第1期間の第1時系列データと、時刻t=100以降の期間である第2期間の第2時系列データと、を取得する。言い換えると、変化検出装置100は、取得した時系列データのうち、時刻t=100のデータである点Pよりも前の時系列データを第1時系列データ、点P以降のデータを第2時系列データとして取得する。
【0025】
ステップST2の処理を行うと、変化検出装置100は、第1時系列データに基づいて、複数の第1ベクトルを取得し、第2時系列データに基づいて、複数の第2ベクトルを取得するベクトル取得処理を行う(ステップST3)。この処理において、変化検出装置100は、ベクトル取得部21によって、第1時系列データの部分時系列データである第1ベクトルと、第2時系列データの部分時系列データである第2ベクトルと、をそれぞれ複数取得している。
【0026】
図6は、実施の形態1に係る変化検出装置が行うベクトル取得処理の一例を示す概念図である。例えば、変化検出装置100は、第1時系列データのうち特定のデータ値ξ(1)と、ξ(1)よりも後の時刻の側に隣接するデータであるデータ値ξ(2)と、からなる部分時系列データを、第1ベクトルである[ξ(1)、ξ(2)]として抽出する。なお、ξの肩の数値は、時刻を示す。同様に、変化検出装置100は、第1時系列データのうち特定のデータ値ξ(2)と、ξ(2)よりも後の時刻の側に隣接するデータであるデータ値ξ(3)と、からなる部分時系列データを、第1ベクトルである[ξ(2)、ξ(3)]として抽出する。その後、順次、隣接するデータ値同士を部分時系列データである第1ベクトルとして抽出し、複数の第1ベクトルを取得する。
【0027】
言い換えると、ステップST3の処理において、変化検出装置100は、第1時系列データのうち隣接するM個のデータ値をM次元の第1ベクトルとして抽出し、スライド窓のスライド数分、抽出するデータ値の時刻を順次スライドさせることによって、第1時系列データを複数の第1ベクトルの集合に変換している。図6の例においては、変化検出装置100は、窓の大きさである第1ベクトルの次元数Mは2、データ値のスライド数は1として処理を行っている。
【0028】
次に、変化検出装置100は、第2時系列データのうち隣接するM個のデータ値をM次元の第2ベクトルとして抽出し、スライド窓のスライド数分、抽出するデータ値の時刻を順次スライドさせることによって、第2時系列データを複数の第2ベクトルの集合に変換している。なお、パラメータとして設定される第1ベクトル及び第2ベクトルの次元数Mの値は2以上の任意の整数に、データ値のスライド数の値は自由な値に設定することができるが、第1時系列データを複数の第1ベクトルに変換する処理と、第2時系列データを複数の第2ベクトルに変換する処理と、は、Mの値及びデータ値のスライド数の値が同じであることが望ましい。
【0029】
図7は、実施の形態1に係る変化検出装置100が行うベクトル取得処理によって得られた複数の第1ベクトル及び複数の第2ベクトルを示す図である。図7において、丸は第1ベクトルを示し、Xは第2ベクトルを示す。ステップST3のベクトル取得処理においては、第1ベクトル及び第2ベクトルの次元数Mは2であるため、第1ベクトル及び第2ベクトルは、図7に示す2次元平面上で示される。
【0030】
ステップST3の処理を行うと、変化検出装置100は、ステップST3のベクトル取得処理で取得した第1ベクトルと第2ベクトルとの差分ベクトルを算出する第1差分ベクトル取得処理を行う(ステップST4)。差分ベクトル取得処理としての第1差分ベクトル取得処理において、変化検出装置100は、差分ベクトル取得部22によって、複数の第1ベクトルのうち特定の第1ベクトルvから、複数の第2ベクトルのうち特定の第2ベクトルv’を減算し、第1差分ベクトルrを算出する。
【0031】
図8Aは、実施の形態1に係る変化検出装置100が行う第1差分ベクトル取得処理を示す概念図である。図8Aにおいて、丸は第1ベクトルを示し、Xは第2ベクトルを示す。例えば、第1差分ベクトル取得処理において、変化検出装置100は、既知のアルゴリズムであるk近傍法(knn;k-neaest neighbor algorithm)によって、特定の第2ベクトルv’に最も近い第1ベクトルvを抽出し、数式(1)に示すように、抽出した第1ベクトルvから対応する第2ベクトルv’を減算する処理を、各第2ベクトルについて行い、第1差分ベクトルrを算出することで、複数の第1差分ベクトルを取得している。なお、k近傍法におけるkが2以上の場合、差分ベクトルrは、k近傍となるベクトルの平均ベクトルであるv’ (knn)を用いて算出される。

=v-v’ (knn) (i=1、2、・・・、n) ・・・(1)

【0032】
図8Bは、実施の形態1に係る変化検出装置100が行う第1差分ベクトル取得処理によって得られた複数の第1差分ベクトルの一例を示す図である。ステップST4の第1差分ベクトル取得処理によって得られた複数の第1差分ベクトルは、当然ながら、互いの向き及び大きさが異なっている。
【0033】
ステップST4の処理を行うと、変化検出装置100は、ステップST4の第1差分ベクトル取得処理で算出した各第1差分ベクトルrを正規化する第1正規化処理を行う(ステップST5)。正規化処理としての第1正規化処理において、変化検出装置100は、数式(2)に示すように、ベクトル変換部23によって各第1差分ベクトルrを第1正規ベクトルzに変換することで、複数の正規ベクトルとしての第1正規ベクトルを取得している。言い換えると、変化検出装置100は、第1正規化処理によって各第1差分ベクトルの大きさが1になるように、各第1差分ベクトルを変換している。また、言い換えると、変化検出装置100は、第1正規化処理によって各第1差分ベクトルの大きさを統一している。

=r/||r|| (i=1、2、・・・、n) ・・・(2)
【0034】
図8Cは、実施の形態1に係る変化検出装置100が行う第1正規化処理によって得られた複数の第1正規ベクトルの一例を示す図である。変化検出装置100は、第1正規化処理によって、次元数Mが2である複数の第1差分ベクトルを、次元数Mが2である複数の第1正規ベクトルに変換する。これら複数の第1正規ベクトルは、半径1の円周上に分布する。なお、次元数Mが3である場合、複数の第1正規ベクトルは、球面上に分布し、次元数Mが4以上である場合、複数の第1正規ベクトルは、超球面上に分布する。
【0035】
ステップST5の処理を行うと、変化検出装置100は、複数の第1正規ベクトルに基づいて、第1変化スコアを算出する第1変化スコア算出処理を行う(ステップST6)。変化スコア算出処理としての第1変化スコア算出処理において、変化検出装置100は、変化スコア算出部24によって、複数の第1正規ベクトルの分布の偏りを示す値である第1変化スコアを算出して取得している。
【0036】
例えば、変化検出装置100は、数式(3)に示すように、既知のアルゴリズムによって第1変化スコアとしてのレイリースコア(Rayleigh score)Rを算出する。

【0037】
レイリースコアRは、複数の第1正規ベクトルzが円周上、球面上又は超球面上において、分布が均一(一様)である場合にはゼロに近い値になり、分布に偏りがある場合には大きな値になる。このため、レイリースコアの大きさを評価することで、時系列データに特徴的な変化があったか否かを判定することが可能になる。なお、変化スコア算出部24が算出する変化スコアは、複数の第1正規ベクトルの分布の偏り(一様性)に応じた値であればよく、例えば、既知のアルゴリズムによって得られるGineスコア(Gine score)又はやAjneスコア(Ajne score)であってもよい。
【0038】
iとjを第1正規ベクトルのインデックスとし、z及びzを2つの第1正規ベクトルとする。このとき、GineスコアF及びAjneスコアAは、以下の数式(4)、(5)で示される。

【0039】
Gineスコア及びAjneスコアについて、Σ記号が定める項を解釈すると、2つの第1正規ベクトルが同じ方向をむいている場合は、2つの第1正規ベクトルのなす角度ψijが0に近い値になるため、Gineスコア及びAjneスコアのΣ記号が定める項の値は0に近い値になる。一方、2つの第1正規ベクトルが違う方向にむいている場合は、2つの第1正規ベクトルのなす角度ψijは0より大きくなるため、Gineスコア及びAjneスコアのΣ記号が定める項の値は、0よりも大きな値になる。
以上よりΣ記号が定める項の前にマイナス符号が付いていることを考慮すると、Gineスコア及びAjneスコアは、第1正規ベクトルが円周上、球面上又は超球面上において、分布が均一(一様)である場合はスコアが大きな値になり、分布に偏りがある場合にはスコアが小さな値なる。
【0040】
図9Aは、実施の形態1に係る変化検出装置100が行う第1差分ベクトル取得処理を示す概念図であり、図9Bは、実施の形態1に係る変化検出装置100が行う第1差分ベクトル取得処理によって得られた複数の第1差分ベクトルの一例を示す図であり、図9Cは、実施の形態1に係る変化検出装置100が行う第1正規化処理によって得られた複数の第1正規ベクトルの一例を示す図である。図9A図9B及び図9Cは、図8A図8B及び図8Cに対し、ステップST2の処理において変化検出装置100が取得した時系列データが、第1時系列データと第2時系列データとの間で特徴的な変化がない場合のデータである点が異なる。
【0041】
図9A図9B及び図9Cに示すように、変化検出装置100は、このような時系列データを用いて処理を行った場合、取得された複数の第1差分ベクトルの方向は偏りが小さく、所得された複数の第1正規ベクトルは、円周上に均一に近い状態で分布する。
【0042】
図10Aは、実施の形態1に係る変化検出装置100が行う第1差分ベクトル取得処理を示す概念図であり、図10Bは、実施の形態1に係る変化検出装置100が行う第1差分ベクトル取得処理によって得られた複数の第1差分ベクトルの一例を示す図であり、図10Cは、実施の形態1に係る変化検出装置100が行う第1正規化処理によって得られた複数の第1正規ベクトルの一例を示す図である。図10A図10B及び図10Cは、図8A図8B及び図8Cに対し、ステップST2の処理において変化検出装置100が取得した時系列データが、外れ値(特異値)であるデータ値を含んでいる点が異なる。なお、本開示において、外れ値とは、単に他のデータ値と比較した際の差が、他のデータ値間の差よりも大きいデータ値を意味し、データ値を取得する際の人為的なミス、及びデータ値を取得する測定器の誤作動等による異常値を含むものとする。
【0043】
図10A及び図10Bに示すように、例えば、変化検出装置100が取得した第2時系列データに、外れ値であるデータ値が含まれている場合、複数の第1ベクトルには、当該外れ値に基づいて取得された外れベクトルvが含まれ、複数の第1差分ベクトルには、外れベクトルvに基づいて取得された外れ差分ベクトルrが含まれる。しかしながら、図10Cに示すように、実施の形態1に係る変化検出装置100は、各第1差分ベクトルrを正規化する第1正規化処理を行うことにより、当該外れ差分ベクトルrは大きさが1である正規ベクトルに変換されるので、当該外れ差分ベクトルrによる演算結果への影響を抑制することができる。
【0044】
図4に示すように、ステップST6の処理を行うと、変化検出装置100は、ステップST3のベクトル取得処理で取得した第1ベクトルと第2ベクトルとの差分ベクトルを算出する第2差分ベクトル取得処理を行う(ステップST8)。差分ベクトル取得処理としての第2差分ベクトル取得処理において、変化検出装置100は、差分ベクトル取得部22によって、複数の第2ベクトルのうち特定の第2ベクトルv’から、複数の第1ベクトルのうち特定の第1ベクトルvを減算し、第2差分ベクトルr’を算出する。
【0045】
図11Aは、実施の形態1に係る変化検出装置100が行う第2差分ベクトル取得処理を示す概念図である。図11Aにおいて、丸は第1ベクトルを示し、Xは第2ベクトルを示す。例えば、第2差分ベクトル取得処理において、変化検出装置100は、ステップST4の処理と同様に、k近傍法によって、特定の第1ベクトルvに最も近い第2ベクトルv’を抽出し、数式(6)に示すように、抽出した第2ベクトルv’から対応する第1ベクトルvを減算する処理を、各第1ベクトルについて行い、第2差分ベクトルr’を算出することで、複数の第2差分ベクトルを取得している。なお、k近傍法におけるkが2以上の場合、差分ベクトルr’は、k近傍となるベクトルの平均ベクトルである第1ベクトルv (knn)を用いて算出される。

r’=v’-v (knn) (i=1、2、・・・、n) ・・・(6)

【0046】
図11Bは、実施の形態1に係る変化検出装置100が行う第2差分ベクトル取得処理によって得られた複数の第2差分ベクトルr’の一例を示す図である。ステップST4の第1差分ベクトル取得処理によって得られた複数の第1差分ベクトルrと同様に、ステップST8の第2差分ベクトル取得処理により得られた複数の第2差分ベクトルr’は、互いの向き及び大きさが異なっている。
【0047】
ステップST8の処理を行うと、変化検出装置100は、ステップST8の第2差分ベクトル取得処理で算出した各第2差分ベクトルr’を正規化する第2正規化処理を行う(ステップST9)。正規化処理としての第2正規化処理において、変化検出装置100は、数式(7)に示すように、ベクトル変換部23によって各第2差分ベクトルr’を第2正規ベクトルz’に変換することで、複数の正規ベクトルとしての第2正規ベクトルを取得している。言い換えると、変化検出装置100は、ベクトル変換部23によって各第2差分ベクトルの大きさを統一している。

z’=r’/||r’|| (i=1、2、・・・、n) ・・・(7)
【0048】
図11Cは、実施の形態1に係る変化検出装置100が行う第2正規化処理によって得られた複数の第2正規ベクトルz’の一例を示す図である。変化検出装置100は、第2正規化処理によって、次元数Mが2である複数の第2差分ベクトルr’を、次元数Mが2である複数の第2正規ベクトルz’に変換する。これら複数の第2正規ベクトルは、半径1の円周上に分布する。第1正規ベクトルと同様に、次元数Mが3である場合、複数の第2正規ベクトルは、球面上に分布し、次元数Mが4以上である場合、複数の第2正規ベクトルは、超球面上に分布する。
【0049】
ステップST9の処理を行うと、変化検出装置100は、複数の第2正規ベクトルに基づいて、第2変化スコアを算出する第2変化スコア算出処理を行う(ステップST10)。変化スコア算出処理としての第2変化スコア算出処理において、変化検出装置100は、変化スコア算出部24によって、複数の第2正規ベクトルの分布の偏りを示す値である変化スコアとしての第2変化スコアを算出することで、第2変化スコアを取得している。例えば、変化検出装置100は、第1変化スコア算出処理と同様に、数式(8)に示す既知のアルゴリズムによって第2変化スコアとしてのレイリースコア(Rayleigh score)R’を算出する。

【0050】
ステップST10の処理を行うと、変化検出装置100は、ステップST6で算出した第1変化スコアと、ステップST10で算出した第2変化スコアと、のうちの最大値を算出する最大変化スコア算出処理を行う(ステップST10)。この処理において、変化検出装置100は、算出した第1変化スコアと第2変化スコアとを比較して、値が大きい方の変化スコアを選択している。言い換えると、変化検出装置100は、算出した複数の変化スコアのうち、最も時系列データの変化が大きいことを示す変化スコアを選択している。
【0051】
ステップST11の処理を行うと、変化検出装置100は、ステップST11で算出した変化スコアの値と、予め設定されている閾値と、を比較することで、時系列データの変化を検出するための変化検出処理を行う(ステップST12)。この処理において、変化検出装置100は、変化検出部25によって、ステップST11で算出した変化スコアの値と、パラメータ設定部26によって予め設定されている閾値と、を比較して、当該変化スコアの値が当該閾値を超えている場合に、第1時系列データと第2時系列データとの間で、時系列データの特徴的な変化があったと判定する。また、この処理において、変化検出装置100は、変化検出部25によって、ステップST11で算出した変化スコアの値と、パラメータ設定部26によって予め設定されている閾値と、を比較して、当該変化スコアの値が当該閾値以内である場合に、第1時系列データと第2時系列データとの間で、時系列データの特徴的な変化がなかったと判定する。
【0052】
例えば、変化検出装置100は、特徴的な変化がない平時の時系列データを予め取得し、当該平時の時系列データに基づいて算出した平時の変化スコアに基づいて、閾値を設定する。具体的には、変化検出装置100は、特徴的な変化がない平時の時系列データを予め取得し、当該平時の時系列データに基づいて算出した平時の変化スコアに所定の値を加算した値を閾値として設定するように構成されていてもよい。言い換えると、変化検出装置100は、時系列データ取得部10が、第1期間よりも前の期間である第3期間と、第3期間と第1期間との間の期間である第4期間と、を含む期間の時系列データを取得し、ベクトル取得部21が、時系列データ取得部10が取得した時系列データに基づいて、第3期間における複数の部分時系列データである複数の第3ベクトル(第1ベクトル)と、第4期間における複数の部分時系列データである複数の第4ベクトル(第2ベクトル)と、を取得し、差分ベクトル取得部22が、複数の第3ベクトルのうち特定の第3ベクトルと、複数の第4ベクトルのうち特定の第4ベクトルと、の組合せに係る差分ベクトルを、複数の組合せにおいて取得し、閾値設定部としてのパラメータ設定部26が、差分ベクトル取得部22が取得した複数の差分ベクトルの、方向の分布の偏りに基づいて、閾値を設定するように構成されている。なお、第3期間における第3ベクトルは、第1期間における第1ベクトルに対応し、第4期間における第4ベクトルは、第2期間における第2ベクトルに対応し、第1ベクトル及び第3ベクトルの差、並びに第2ベクトル及び第4ベクトルの差は、それぞれ取得された期間が異なるのみである。
【0053】
なお、変化検出装置100は、第1期間よりも前の期間である複数の期間において予め複数の変化スコアを算出し、算出した複数の変化スコアに基づいて閾値を設定するように構成されていてもよい。例えば、変化検出装置100は、予め算出した複数の変化スコアの平均値、中央値、最大値等の代表値に所定の値を加算した値を閾値として設定するように構成されていてもよい。
【0054】
ステップST12の処理を行うと、変化検出装置100は、変化検出部25による比較結果として、時系列データの特徴的な変化の有無の判定結果を出力する(ステップST13)。例えば、この処理において、変化検出装置100は、出力部30によって、判定結果に応じた情報を不図示の表示装置に表示させる。また、例えば、この処理において、変化検出装置100は、出力部30によって、判定結果に応じた情報を不図示の外部装置に送信する。ステップST13の処理を行うと、変化検出装置100は、処理を終了する。
【0055】
以上、実施の形態1における変化検出装置100は、第1期間及び第1期間よりも後の期間である第2期間を含む期間の時系列データを取得する時系列データ取得部10と、時系列データ取得部10が取得した時系列データに基づいて、第1期間における複数の部分時系列データである複数の第1ベクトルと、第2期間における複数の部分時系列データである複数の第2ベクトルと、を取得するベクトル取得部21と、複数の第1ベクトルのうち特定の第1ベクトルと、複数の第2ベクトルのうち特定の第2ベクトルと、の組合せに係る差分ベクトルを、複数の組合せにおいて取得する差分ベクトル取得部22と、差分ベクトル取得部22が取得した複数の差分ベクトルの、方向の分布の偏りに基づいて、時系列データの特徴的な変化を検出する変化検出部25と、を備えている。
【0056】
このように、実施の形態1に係る変化検出装置100は、時系列データに基づいて取得された複数の差分ベクトルの大きさを考慮せず、これら複数の差分ベクトルの方向の偏りに基づいて時系列データの特徴的な変化を検出することにより、時系列データに含まれる外れ値の影響を抑制することが可能になり、従来よりも時系列データの特徴的な変化、即ち時系列データの傾向の変化を検出する際の精度を向上させることができる。
【0057】
また、実施の形態1に係る変化検出装置100は、時系列データの特徴的な変化を検出する際に必要な時系列データの長さ及びデータ数の制約が少ないため、他の変化検出アルゴリズム、例えば、変化後のデータ数が少ないと変化の検出に必要なカーネル関数を見つけられない場合があるKL-CPD法等と比較して、少ないデータ数の時系列データの特徴的な変化を検出することが可能になる。
【0058】
また、実施の形態1に係る変化検出装置100は、差分ベクトル取得部22が取得した複数の差分ベクトルのそれぞれを、向きを変えず大きさを統一させるように変換したベクトルを取得するベクトル変換部23を備え、変化検出部25は、ベクトル変換部23によって取得されたベクトルの方向の分布の偏りに基づいて、時系列データの特徴的な変化を検出する。
【0059】
実施の形態1に係るベクトル取得部21は、第1期間の時系列データにおいてスライド窓をスライドさせることで複数の第1ベクトルを取得し、第2期間の時系列データにおいてスライド窓をスライドさせることで複数の第2ベクトルを取得する。
【0060】
実施の形態1に係る差分ベクトル取得部22は、複数の第1ベクトルのそれぞれについて、複数の第2ベクトルのうち最も近い第2ベクトルを抽出し、複数の第1ベクトルのそれぞれと、抽出された第2ベクトルと、の差分に基づいて、複数の差分ベクトルを取得する。
【0061】
実施の形態1に係る変化検出装置100において、複数の差分ベクトルは、複数の第1差分ベクトルであり、差分ベクトル取得部22は、複数の第2ベクトルのそれぞれについて、複数の第1ベクトルのうち最も近い第1ベクトルを抽出し、複数の第2ベクトルのそれぞれと、抽出された第1ベクトルと、の差分に基づいて、複数の第2差分ベクトルを取得し、変化検出部25は、差分ベクトル取得部22が取得した複数の第1差分ベクトル及び複数の第1差分ベクトルのうち、いずれか方向の分布の偏りが大きい方の、方向の分布の偏りに基づいて、時系列データの特徴的な変化を検出する。
【0062】
実施の形態1に係る変化検出装置100は、複数の差分ベクトルの方向の分布の偏りに応じた変化スコアを算出する変化スコア算出部24を備え、変化検出部25は、変化スコア算出部24によって算出された変化スコアが、予め設定されている閾値を超えたか否かに基づいて、時系列データの特徴的な変化を検出する。
【0063】
実施の形態1に係る変化検出装置100は、閾値を設定するパラメータ設定部26を備え、時系列データは、第1期間よりも前の期間である第3期間と、第3期間と第1期間との間の期間である第4期間と、を含み、ベクトル取得部は、時系列データ取得部が取得した時系列データに基づいて、第3期間における複数の部分時系列データである複数の第3ベクトルと、第4期間における複数の部分時系列データである複数の第4ベクトルと、を取得し、差分ベクトル取得部22は、複数の第3ベクトルのうち特定の第3ベクトルと、複数の第4ベクトルのうち特定の第4ベクトルと、の組合せに係る差分ベクトルを、複数の組合せにおいて取得し、パラメータ設定部26は、差分ベクトル取得部22が取得した複数の差分ベクトルの、方向の分布の偏りに基づいて、閾値を設定する。
【0064】
なお、実施の形態1において、変化検出装置100は、変化スコア算出部24によって算出した変化スコアと予め設定されている閾値とを比較することによって、時系列データの特徴的な変化を検出するように構成されているが、これに限定されない。変化検出装置は、変化スコアに基づいて時系列データの特徴的な変化を検出するように構成されていればよく、例えば、変化スコアの時間変化量、又は変化スコアの時間変化率に基づいて、時系列データの特徴的な変化を検出するように構成されていてもよい。
【0065】
また、実施の形態1において、変化検出装置100は、ベクトル取得処理において取得するベクトルの次元数Mを2、スライド数を1として複数の第1ベクトル及び複数の第2ベクトルを取得しているが、これに限定されない。変化検出装置100は、パラメータ設定部26によってベクトルの次元数M及びスライド数を適宜設定するように構成されていてもよい。
【0066】
図12は、実施の形態1に係る変化検出装置100が行うベクトル取得処理を示す概念図である。図12に示すように、変化検出装置100は、所定の長さの時系列データから、次元数MのベクトルのN個の集合を取得する。なお、図12は、変化検出装置100が、次元数MのベクトルのN個の集合を取得する際のスライド数が1である場合の例を示しているが、上述したようにスライド数は、1以外でもよい。例えば、パラメータ設定部26は、時系列データ取得部10が取得した時系列データに基づいて、スライド数を設定するように構成されていてもよい。具体的には、パラメータ設定部26は、時系列データ取得部10が取得した時系列データが、比較的に短時間での変動が大きい時系列データである場合、スライド数を比較的に小さく設定するように構成されていてもよい。また、パラメータ設定部26は、時系列データ取得部10が取得した時系列データが、比較的に短時間での変動が小さい時系列データである場合、スライド数を比較的に大きく設定するように構成されていてもよい。また、パラメータ設定部26は、時系列データの変化を観測することで、スライド数を動的に変化させるように構成されていてもよい。
【0067】
パラメータ設定部26は、ベクトル取得部21が取得する第1ベクトル及び第2ベクトルの次元数Mであるスライド窓長についても、適宜設定するように構成されていてもよいが、差分ベクトル取得部22が差分ベクトルを算出する際に、第1ベクトルと第2ベクトルとの次元数は一致していることが求められる。また、時系列データ取得部10が取得した時系列データの長さが、第1期間と第2期間とを足した期間よりも長い場合、変化検出装置100は、図4に示すステップST2からステップST13までの処理を行った後で、各種パラメータを新たな値に設定し、再度ステップST2からステップST13までの処理を行ってもよい。
【0068】
次に、図13乃至16を参照して、実施の形態1に係る変化検出装置100を用いて、時系列データの特徴的な変化を検出する具体例について説明する。まず、図13及び図14を参照して、実施の形態1に係る変化検出装置100を用いて、タイミングギアの振動データの特徴的な変化を検出する例について説明する。図13は、実施の形態1に係る変化検出装置100によって振動の変化を検出するタイミングギアG1、G2を示す模式図であり、図14Aは、実施の形態1に係る変化検出装置100が取得する時系列データとしてのタイミングギアG1、G2の振動データを示すグラフ、図14Bは、実施の形態1に係る変化検出装置100がタイミングギアG1、G2の振動データに基づいて算出した変化スコアを示すグラフである。
【0069】
一般に、タイミングギアは、摩耗、傷、欠け、異物の付着等の変化が発生することによって、タイミングギアの振動が変化する。このため、タイミングギアの振動データの特徴的な変化を検出することにより、これらタイミングギアに係る変化を検出することが可能になる。
【0070】
図14Aに示すグラフは、例えば、1秒周期でタイミングギアG1、G2から振動センサーによって取得した振動レベルを示す振動データである。図14Bに示すグラフは、タイミングギアG1、G2の振動データを用いて、第1ベクトル及び第2ベクトルの次元数Mを10として算出した変化スコアの推移である。図14Bにおいて、振動データが変化した時刻に、変化スコアの値も大きくなるように変化していることがわかる。
【0071】
次に、図15を参照して、実施の形態1に係る変化検出装置100を用いて、特定の需要家のガス消費量の特徴的な変化を検出する例について説明する。図15は、実施の形態1に係る変化検出装置100が取得する時系列データとしてのガス消費量のデータ及びガス消費量のデータに基づいて算出した変化スコアを示すグラフである。図15に示す変化スコアのグラフは、第1ベクトル及び第2ベクトルの次元数Mを10として算出した変化スコアの推移である。図15において、縦軸は、ガス消費量を立方メートルで表した値であり、変化スコアは、0から1で表した無次元数であり、共通の目盛になっている。
【0072】
一般に、ガス消費量は、需要家の人数構成(家族構成)の変化、新たなガス機器の導入等のガス消費設備の変化、生活スタイルの変化、気温の変化等に伴って変化する。図15に示すように、変化検出装置100が時系列データとして所定の期間における需要家のガス消費量のデータを取得した場合において、ゴールデンウィークの時期、及びお盆休みの時期にガス消費量が変化しており、おなじ時期に変化スコアの値が大きくなるように変化していることがわかる。
【0073】
次に、図16を参照して、実施の形態1に係る変化検出装置100を用いて、株式指数の特徴的な変化を検出する例について説明する。図16Aは、実施の形態1に係る変化検出装置100が取得する時系列データとしての東証株価指数(TOPIX)の日次の終値の推移を示すグラフであり、図16Bは、実施の形態1に係る変化検出装置100が東証株価指数のデータに基づいて算出した変化スコアを示すグラフである。また、図16に示す変化スコアのグラフは、第1ベクトル及び第2ベクトルの次元数Mを10として算出した変化スコアの推移である。
【0074】
一般に、バブル景気と呼ばれる期間は、1986年12月から1991年2月までの期間といわれている。従来の株価の研究においては、変動(ボラティリティ、階差の大きさ)が着目されることが多いが、図16A及び図16Bに示すように、変動の大きさと変化スコアは必ずしも一致していないことが分かる。実施の形態1に係る変化検出装置100によれば、図16Bに示すように、変化スコアが1986年11月5日と、1990年12月20日と、において大きくなるように変化しており、一般的にバブル景気の始まりといわれるタイミングよりも株式指数の変化を早く検知し、一般的にバブル景気の終わりといわれるタイミングよりも株式指数の変化を早く検知することができている。
【0075】
なお、本開示は、実施の形態の任意の構成要素の変形、若しくは任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0076】
10 :時系列データ取得部
20 :演算部
21 :ベクトル取得部
22 :差分ベクトル取得部
23 :ベクトル変換部
24 :変化スコア算出部
25 :変化検出部
26 :パラメータ設定部(閾値設定部)
30 :出力部
100:変化検出装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16