(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013544
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】液体用消臭剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20240125BHJP
D06M 13/184 20060101ALI20240125BHJP
D06M 11/70 20060101ALI20240125BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240125BHJP
A61Q 15/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
A61K8/73
D06M13/184
D06M11/70
B82Y30/00
A61Q15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115704
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】船津 啓
(72)【発明者】
【氏名】多田 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸治
【テーマコード(参考)】
4C083
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4C083AD271
4C083AD272
4C083CC01
4C083CC20
4C083CC24
4C083CC36
4C083DD23
4C083EE06
4C083EE26
4C083EE50
4C083FF01
4L031AA02
4L031AB01
4L031BA18
4L031DA13
4L033AA02
4L033AB01
4L033AC15
4L033BA17
4L033DA04
(57)【要約】
【課題】 アンモニアを含む液体、例えば、ヘアカラー剤、洗剤、虫刺され液、化粧品等に適用することが可能で、アンモニアの揮発を抑制して消臭効果に優れる液体用消臭剤を提供する
【解決手段】 セルロースナノファイバー、好ましくはカルボキシアルキル基を有するセルロースナノファイバーまたはカルボキシ基を有するセルロースナノファイバーを含有する液体用消臭剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーを含有する液体用消臭剤。
【請求項2】
セルロースナノファイバーがアニオン変性セルロースナノファイバーである請求項1記載の液体用消臭剤。
【請求項3】
アニオン変性セルロースナノファイバーが、カルボキシアルキル基を有するセルロースナノファイバーまたはカルボキシ基を有するセルロースナノファイバーである請求項1ないし2記載の液体用消臭剤。
【請求項4】
アニオン変性セルロースナノファイバーのカルボキシメチル置換度が0.01~0.50の範囲内であるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーである請求項3に記載の液体用消臭剤。
【請求項5】
カルボキシメチル化セルロースをさらに含む請求項1~4のいずれかに記載の液体用消臭剤。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の液体用消臭剤を含むヘアカラー剤、洗剤、虫刺され液、または化粧品。
【請求項7】
請求項5に記載の液体用消臭剤を含むヘアカラー剤、洗剤、虫刺され液、または化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア等に対して優れた消臭効果を有する液体用消臭剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアに対する消臭剤として、カルボン酸またはその塩などの酸性物質を使用した繊維、フィルター、スプレー、シート、ゲル、水溶液などの種々の形態の消臭剤が検討されている。
【0003】
例えば、水溶液状、水性ゲル状またはフィルム状の形態を有するカルボキシアルキルセルロースのアルカリ金属塩で構成される消臭剤が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法においては、アンモニアを含む水溶液に対しては消臭効果が不十分であった。
【0006】
本発明の課題はアンモニアを含む液体に適用することが可能で、アンモニアの揮発を抑制して消臭効果に優れる液体用消臭剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、かかる目的を達成するため鋭意検討した結果、アニオン変性セルロースナノファイバーを消臭剤に配合することが有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下を提供する。
(1) セルロースナノファイバーを含有する液体用消臭剤。
(2) セルロースナノファイバーがアニオン変性セルロースナノファイバーである(1)記載の液体用消臭剤。
(3) アニオン変性セルロースナノファイバーが、カルボキシアルキル基を有するセルロースナノファイバーまたはカルボキシ基を有するセルロースナノファイバーである(1)ないし(2)記載の液体用消臭剤。
(4) アニオン変性セルロースナノファイバーのカルボキシメチル置換度が0.01~0.50の範囲内であるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーである(3)に記載の液体用消臭剤。
(5) カルボキシメチル化セルロースをさらに含む(1)~(4)のいずれかに記載の液体用消臭剤。
(6) (1)~(4)のいずれかに記載の液体用消臭剤を含むヘアカラー剤、洗剤、虫刺され液、または化粧品。
(7) (5)に記載の液体用消臭剤を含むヘアカラー剤、洗剤、虫刺され液、または化粧品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の消臭剤はアンモニアを含む液体に適用することでアンモニアに対する消臭効果に優れる。また、液体中のアンモニアの大気中への放散において徐放性の効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の液体用消臭剤について説明する。本発明において「~」は端値を含む。すなわち「X~Y」はその両端の値X及びYを含む。
【0011】
本発明はセルロースナノファイバーを含有する液体用消臭剤である。
【0012】
(セルロースナノファイバー)
本発明において、セルロースナノファイバー(CNF)は、セルロース原料であるパルプなどがナノメートルレベルの繊維幅まで微細化されたものである。CNFの繊維幅(平均繊維径)は、通常、約3nm~数百nm程度であり、例えば、3~500nm程度である。本発明ではCNFの平均繊維径として3~100nm程度のものを用いることが好ましく、3~20nm程度のものがさらに好ましい。アスペクト比は30以上、好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上である。アスペクト比の上限は限定されないが、500以下程度である。
【0013】
CNFの平均繊維径および平均繊維長は、径が20nm未満の場合は原子間力顕微鏡(AFM)、20nm以上の場合は電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより、測定することができる。また、アスペクト比は下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径。
【0014】
CNFは、後述するパルプなどのセルロース原料に機械的な力を加えて微細化(解繊)することにより得ることができる。セルロース原料としては、後述するような未変性のセルロースや製紙用のパルプ等を用いてもよいし、製紙用のパルプ等をさらに化学変性させた化学変性セルロースを用いてもよい。化学変性させたセルロースの例としては、これらに限定されないが、セルロース鎖にアニオン性基を導入したアニオン変性セルロースが挙げられ、アニオン変性セルロースを用いることが好ましい。アニオン変性セルロースを、1μm未満の平均繊維径となるように解繊することにより、アニオン変性CNFを得ることができる。解繊方法は特に限定されず、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの公知の解繊装置を用いればよい。中でも、湿式の高圧または超高圧ホモジナイザを用いることは好ましい。アニオン変性CNFの例としては、アンモニアが水に溶解したアンモニウムイオン(NH4
+)との塩を形成できるアニオン変性基を有するカルボキシアルキル基を導入したカルボキシアルキル化CNF、カルボキシル基を導入したカルボキシル化CNF、リン酸系の基を導入したリン酸エステル化CNF、硫酸系の基を導入した硫酸エステル化CNFなどがあげられる。これらの中では、カルボキシアルキル基を有するCNF(カルボキシアルキル化CNF)、またはカルボキシル基を有するCNF(カルボキシル化CNF)が好ましい。
【0015】
(セルロース原料)
CNFの原料となるセルロースとしては、植物、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものが知られており、本発明ではそのいずれも使用できる。植物由来のものとしては、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)が挙げられる。本発明においては、植物または微生物由来のセルロース繊維が好ましく、植物由来のセルロース繊維がより好ましい。セルロース原料は、以下に説明するように化学変性を行ってもよい。上述のセルロース原料またはアニオン変性などの化学変性を行ったセルロース原料(化学変性セルロース)の繊維幅をナノメートルレベルにまで微細化することにより、CNFまたはアニオン変性CNFなどの化学変性CNFを得ることができる。
【0016】
(カルボキシアルキル基を有するCNF(カルボキシアルキル化CNF))
アニオン変性CNFの一例として、カルボキシアルキル基を有するカルボキシアルキル化CNFを挙げることができる。本明細書においてカルボキシアルキル基とは、-RCOOH(酸型)および-RCOOM(金属塩型)をいう。ここでRはメチレン基、エチレン基等のアルキレン基であり、Mは金属イオンである。中でも、Rがメチレン基であるCM基を有するCM化CNFが最も好ましい。カルボキシアルキル化CNFは、セルロース原料をマーセル化剤で処理した後にカルボキシアルキル化剤で処理してカルボキシアルキル基を導入する公知の方法を用いてカルボキシアルキル化セルロースを得て、次いで解繊することにより得ることができる。
【0017】
カルボキシアルキル化CNFの無水グルコース単位当たりのカルボキシアルキル置換度は、0.50以下であることが好ましい。また、カルボキシアルキル置換度の下限値は0.01以上が好ましい。操業性を考慮すると当該置換度は0.02以上0.40以下であることが好ましく、0.02以上0.35以下であることが更に好ましく、0.10以上0.35以下であることが更に好ましく、0.15以上0.35以下であることが更に好ましく、0.15以上0.30以下であることが更に好ましい。なお、無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味し、カルボキシアルキル置換度とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基(-OH)のうちカルボキシアルキル基(-ORCOOHまたは-ORCOOM)に置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのカルボキシアルキル基の数)を示す。カルボキシアルキル置換度は、マーセル化剤の量や反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。グルコース単位当たりのCM置換度は、以下の方法で測定することができる:
CM化CNF(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。メタノール900mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、塩型のCM化CNFを水素型CM化CNFに変換する。水素型CM化CNF(絶乾)を1.5g~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。80質量%メタノール15mLで水素型CM化CNFを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。CM置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化CNFの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化CNFの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH2SO4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
【0018】
CM基以外のカルボキシアルキル基置換度の測定も、上記と同様の方法で行うことができる。
【0019】
なお、本明細書において、CM化CNFの調製に用いるアニオン変性セルロースの一種である「CM化セルロース」及びCM化セルロースを解繊して得られた「CM化CNF」は、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものをいう。したがって、「CM化セルロース」及び「CM化CNF」は、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」という。)とは区別される。「CM化セルロース」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるCMCの水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、「CM化セルロース」及び「CM化CNF」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のCMCではセルロースI型結晶はみられない。
【0020】
(カルボキシル基を有するCNF(カルボキシル化CNF))
アニオン性CNFの一例として、カルボキシル基を有するカルボキシル化CNFを挙げることができる。本明細書においてカルボキシル基とは、-COOH(酸型)および-COOM(金属塩型)(式中、Mは金属イオンである)、または-COO-をいう。カルボキシル化CNFは、セルロースのピラノース環の水酸基をカルボキシル基に酸化する公知の方法を用いてカルボキシル化セルロースを得て、次いで解繊することにより得ることができる。セルロースの酸化方法としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)のようなN-オキシル化合物と、臭化物及び/又はヨウ化物との存在下で、酸化剤を用いてセルロースを水中で酸化する方法や、オゾンを含む気体を酸化剤として用いてセルロース原料と接触させることによりセルロースを酸化する方法を挙げることができる。
【0021】
カルボキシル化CNFにおけるカルボキシル基の量は、カルボキシル化CNFの絶乾質量に対して、0.4~3.0mmol/gが好ましく、0.6~2.0mmol/gがさらに好ましく、1.0~2.0mmol/gがさらに好ましく、1.1~2.0mmol/gがさらに好ましい。カルボキシル化CNFのカルボキシル基の量は、酸化剤の添加量や反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。カルボキシル基の量は、以下の方法で測定することができる:
カルボキシル化CNFの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出する:
カルボキシ基量〔mmol/gカルボキシル化CNF〕=a〔ml〕×0.05/カルボキシル化CNF質量〔g〕。
【0022】
(リン酸エステル化CNF)
アニオン性CNFの一例として、リン酸エステル化CNFを挙げることができる。リン酸エステル化CNFは、上述したセルロース原料にリン酸系化合物の粉末又は水溶液を混合する、あるいは、セルロース原料のスラリーにリン酸系化合物の水溶液を添加するなどにより、リン酸系化合物由来のリン酸系の基をセルロースに導入してリン酸エステル化セルロースとし、これを解繊することにより得ることができる。リン酸系化合物としては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステル又は塩が挙げられる。具体的には、例えば、これらに限定されないが、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらの1種、あるいは2種以上を併用してセルロースにリン酸系化合物由来のリン酸系の基を導入することができる。本明細書において、リン酸系化合物由来のリン酸系の基には、リン酸基、亜リン酸基、次亜リン酸基、ピロリン酸基、メタリン酸基、ポリリン酸基、ホスホン酸基、及びポリホスホン酸基が含まれる。リン酸エステル化セルロース及びリン酸エステル化CNFは、セルロースの分子鎖にこれらのリン酸系の基の1種または2種以上が導入されているものを含む。セルロース原料をリン酸系化合物と反応させる際には、反応を均一に進行できかつ上記基の導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物は水溶液として用いることが望ましく、その際、水溶液のpHは、pH3~7が好ましい。また、尿素等の窒素含有化合物を添加してもよい。
【0023】
リン酸エステル化CNFにおけるグルコース単位当たりのリン酸系の基の置換度(以下、単に「リン酸基置換度」と呼ぶ。)は、0.001以上0.40未満であることが好ましい。グルコース単位当たりのリン酸基置換度は、以下の方法で測定することができる:
固形分量が0.2質量%のリン酸エステル化CNFのスラリーを調製する。スラリーに対し、体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ社製、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーとを分離することにより、水素型リン酸エステル化CNFを得る。次いで、イオン交換樹脂による処理後のスラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、30秒に1回、50μLずつ加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測する。計測結果のうち、急激に電気伝導度が低下する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除すことにより、水素型リン酸エステル化CNF1g当たりのリン酸基量(mmol/g)を算出する。さらに、リン酸エステル化CNFのグルコース単位当たりのリン酸基置換度(DS)を、次式によって算出する:
DS=0.162×A/(1-0.079×A)
A:水素型リン酸エステル化CNFの1gあたりのリン酸基量(mmol/g)。
【0024】
(硫酸エステル化CNF)
アニオン性CNFの一例として、硫酸エステル化CNFを挙げることができる。硫酸エステル化CNFは、上述したセルロース原料に硫酸系化合物を反応させることにより、硫酸系化合物由来の硫酸系の基をセルロースに導入して硫酸エステル化セルロースとし、これを解繊することにより得ることができる。硫酸系化合物としては、例えば、硫酸、スルファミン酸、クロロスルホン酸、三酸化硫黄、あるいはこれらのエステル又は塩が挙げられる。これらの中では、セルロースの溶解性が小さく、また、酸性度が低いことから、スルファミン酸を用いることが好ましい。
【0025】
例えば、硫酸系化合物としてスルファミン酸を用いる場合、スルファミン酸の使用量は、セルロース鎖へのアニオン基の導入量を考慮して適宜調整することができる。例えば、セルロース分子中のグルコース単位1mol当たり、好ましくは0.01~50molの量で用いることができ、より好ましくは0.1~3.0molの量で用いることができる。
【0026】
硫酸エステル化CNFにおけるグルコース単位当たりの硫酸系の基の量(以下、単に「硫酸基量」と呼ぶ。)は、0.1~3.0mmol/gであることが好ましい。グルコース単位当たりの硫酸基量は、以下の方法で測定することができる:
硫酸エステル化CNFの水分散液をエタノール、t-ブタノールの順に溶媒置換した後、凍結乾燥する。得られた試料200mgにエタノール15ml及び水5mlを加え、30分間撹拌する。その後、0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を10ml加え、70℃で30分間撹拌し、さらに30℃で24時間撹拌する。次いで、指示薬としてフェノールフタレインを加え、塩酸で滴定を行い、下式を用いて算出する:
硫酸基量[mmol/g試料]=(5-(0.1×塩酸滴定量[ml]×2))/0.2。
【0027】
(CNFを含む粉末)
本発明の製造方法では、上記のCNFを含む粉末を用いてCNFの水懸濁液を製造する。本発明において「粉末」とは、水分量が0~15質量%となるまで乾燥させて得られた乾燥固形物をいう。好ましくは水分量が0~10質量%である。CNFは、このような水分量となるまで乾燥を行うと通常再分散させることが困難になる傾向があるが、本発明の方法により、再分散性が向上し、低い回転数の撹拌機を用いた場合でも残留するゲル粒の量を低減させることができるようになる。粉末における水分量は、粉末を105℃で3時間以上乾燥させた後の質量(絶乾質量)と、乾燥前の質量とを用いて算出することができる。
【0028】
乾燥固形物である「粉末」の形状は、懸濁のさせやすさを考慮すると、微細で均質な粉状であることが好ましいが、粉の一部が凝集して塊を形成しているような形状であってもよいし、顆粒状であってもよい。
【0029】
CNFを含む粉末は、例えば、これに限定されないが、上記のCNFを含む分散液を乾燥させることにより製造することができる。乾燥に供する分散液における分散媒は特に限定されないが、水、親水性有機溶媒、疎水性有機溶媒またはこれらの混合溶媒であることが好ましく、水、または水と親水性有機溶媒との混合溶媒がさらに好ましい。乾燥に用いる装置は特に限定されない。例えば、真空ドラム乾燥機、常圧ドラム乾燥機、スプレー乾燥機、熱風乾燥機、温風乾燥機などを用いることができる。
【0030】
本発明で懸濁に供する「CNFを含む粉末」は、CNFに加えて他の成分を含んでいてもよい。例えば、再分散性の向上のために、水溶性高分子の粉末を含んでいてもよい。水溶性高分子としては、例えば、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、デンプン、かたくり粉、クズ粉、加工デンプン(カチオン化デンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン)、コーンスターチ、アラビアガム、ジェランガム、ポリデキストロース、ペクチン、キチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆タンパク溶解物、ペプトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリセリン、ラテックス、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、植物ガム、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー、デンプンポリアクリル酸共重合体、タマリンドガム、グァーガム、コロイダルシリカ、又はこれらの1種以上の混合物が挙げられる。中でも、セルロース誘導体は、CNFとの相溶性の点から好ましく、CMC及びその塩が特に好ましい。CMC及びその塩のような水溶性高分子は、CNFの繊維の間に入り込み、繊維間の距離を広げることで、再分散性を向上させると考えられる。
【0031】
水溶性高分子としてCMCを用いる場合は、CMCのカルボキシメチル基置換度は、0.55~1.60の範囲であることが好ましく、0.55~1.10がさらに好ましく、0.65~1.10がさらに好ましい。なお、このようなカルボキシメチル基置換度を有するCMCは、水に溶解するため、水中でセルロース由来の繊維の形状を維持しない。上述した通り、水溶性高分子としての「CMC」と、水中で繊維状の形状を維持する「カルボキシメチル化セルロース」とは、区別される。また、「カルボキシメチル化セルロース」を1μm未満の平均繊維径となるように解繊して得た「カルボキシメチル化CNF」も、「CMC」とは区別される。
【0032】
CNFを含む粉末に水溶性高分子を配合する場合、水溶性高分子の配合量は、CNF(絶乾固形分)に対して、5~300質量であることが好ましく、20~300質量%がさらに好ましく、25~200質量%がさらに好ましく、25~60質量%がさらに好ましい。
【0033】
その他、CNFを含む粉末は、本発明の効果を阻害しない範囲で、CNFや水溶性高分子以外の成分、例えば微量な金属成分などを含んでいてもよい。
【0034】
本発明の消臭剤は、必要に応じて、マスキング剤(香料など)、光触媒化合物(例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化第二鉄など)、抗菌剤、防カビ剤、防腐剤、pH調整剤、界面活性剤、着色剤、吸着型消臭剤(活性炭など)などを併用してもよい。
【0035】
本発明の消臭剤は、アンモニアを含むヘアカラー剤、洗剤、虫刺され液、化粧品等に適用できる。
【実施例0036】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0037】
(カルボキシメチル置換度の測定方法)
1)カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。
2)硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースにする。
3)水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。
4)80%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。
5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。
6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター
(平均繊維径、アスペクト比の測定方法)
CNFの平均繊維径および平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いてランダムに選んだ200本の繊維について解析した。アスペクト比は下記の式により算出した。
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0038】
[実施例1]
(カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの製造)
回転数を100rpmに調節した5L容の二軸ニーダーに、イソプロパノール(IPA)1089部と、水酸化ナトリウム31部を水121部に溶解したものとを加え、広葉樹パルプ(日本製紙(株)製、LBKP)を100℃で60分間乾燥した際の乾燥質量で200部仕込んだ。30℃で60分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつモノクロロ酢酸ナトリウム117部を添加し、30℃で30分間撹拌した後、30分かけて70℃に昇温し、70℃で60分間カルボキシメチル化反応をさせた。マーセル化反応時及びカルボキシメチル化反応時の反応媒中の水の割合は、10質量%である。反応終了後、中和し、65%含水メタノールで洗浄し、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.27、セルロースI型の結晶化度64%のカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。なお、カルボキシメチル置換度及びセルロースI型の結晶化度の測定方法は、先述の通りである。
得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を水に分散し、1%(w/v)水分散体とした。これを、150MPaの高圧ホモジナイザーで3回処理し、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの分散体を得た。得られたカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、平均繊維径が3.2nm、アスペクト比が40であった。
【0039】
(CNF粉体の製造)
得られたカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを水で固形分0.7質量%の分散体とし、カルボキシメチルセルロース(日本製紙(株)製、商品名:F350HC-4、粘度(1質量%、25℃、60rpm)約3000mPa・s、カルボキシメチル置換度約0.90)を、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーに対して40質量%(すなわち、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの固形分を100質量部としたときにカルボキシメチルセルロースの固形分が40質量部となるように)添加し、TKホモミキサー(12,000rpm)で60分間撹拌した。
この分散体に、水酸化ナトリウム水溶液0.5質量%を加え、pHを9に調整した後、ドラム乾燥機D0405(カツラギ工業社製)のドラム表面に塗布し、140℃で1分間乾燥した。得られた乾燥物を掻き取り、次いで、衝撃式ミルを用いて1時間あたり10kgの速さで乾燥物を粉砕し、水分量5質量%の乾燥粉砕物を得た。得られた粉砕物を、30メッシュを用いて分級し、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー及びカルボキシメチルセルロースを含む粉体(CNF粉体)を得た。
【0040】
(アンモニア含有混合水溶液の調製)
アンモニアの0.25%水溶液にCNF粉体を1%となるように添加し、密閉した容器中で5分間混合撹拌して混合水溶液を調製した。その後、開放系容器に混合水溶液を移し、アンモニア揮発量(容器上部の気層中のアンモニア濃度)、及び混合水溶液のpHを経時で測定した。アンモニア揮発量の測定には検知管式気体測定器(ガステック社製GV100S)を用い、開放系容器内の液面から15cm高さ地点のアンモニア濃度を測定した。結果を表1に示した。
【0041】
[比較例1]
CNF粉体を添加しない以外は、実施例1と同様にして混合水溶液を調製し、アンモニア濃度、及び混合水溶液のpHを経時で測定した。結果を表1に示した。
【0042】
[比較例2]
CNF粉体に替えメチルセルロース(商品名:Methyl Cellulose(7000~10000mPa・s 2% in Water at 20℃)、東京化成工業製)を1.3%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして混合水溶液を調製し、アンモニア濃度、及び混合水溶液のpHを経時で測定した。結果を表1に示した。
【0043】
【0044】
表1に示されるように、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーをアンモニア水溶液に添加することにより、アンモニア揮発量が抑制され、pHの低下も抑制された。また、24時間後のアンモニア揮発量は比較例1、2よりも多くなっており、徐放性の効果も認められた。