(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135450
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】起立補助装置
(51)【国際特許分類】
A61G 5/14 20060101AFI20240927BHJP
A47C 7/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61G5/14 711
A47C7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046138
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】517251797
【氏名又は名称】株式会社TF-METAL
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】新村 悟
(57)【要約】
【課題】使用者が座面部材から立ち上がる際において、上方への付勢力と前方への付勢力の両方の付勢力によって最適な補助力を安定かつ効果的に付与することができる起立補助装置を提供する。
【解決手段】使用者が着座する着座面に配置されたベース部材1の上面に配置され、前後方向へスライド可能に設けられた可動部材3と、ヒンジ部17を介して後端部4d側が上下方向へ回動可能に設けられた座面部材4と、下端部5aがベース部材に回転可能に連結され、上端部5bが座面部材の後端部に回転可能に連結された一対のリンク部材5と、座面部材の後端部を上方へ押し上げ付勢するねじりコイルばね6と、可動部材を前方へ付勢する引っ張りコイルばね7と、を備え、座面部材の後端部が上方へ押し上げられた際に、可動部材が前方へスライド移動する共に、座面部材が連動して前方へ移動するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が着座する着座面に配置されたベース部材と、
前記ベース部材の上面に配置され、前記ベース部材に対してスライド機構を介して前後方向へスライド可能に設けられた可動部材と、
前端部が前記可動部材の前端側に回動支点を介して支持され、後端部側が上下方向へ回動可能に設けられた座面部材と、
一端部が前記ベース部材の所定位置に回転可能に連結されると共に、他端部が前記座面部材の後端部に回転可能に連結され、前記座面部材の上下方向への回動とともに同方向に回動可能に設けられたリンク部材と、
前記可動部材と座面部材との間に設けられて、前記座面部材の後端部を上方へ押し上げ付勢する第1付勢部材と、
前記可動部材とベース部材との間に設けられ、前記可動部材を前方へ付勢する第2付勢部材と、
を備え、
前記座面部材の後端部が前記第1付勢部材の付勢力で上方へ押し上げられた際に、前記可動部材が第2付勢部材の付勢力で前方へスライド移動する共に、前記座面部材が連動して前方へ移動することを特徴とする起立補助装置。
【請求項2】
請求項1に記載の起立補助装置であって、
前記スライド機構は、前記ベース部材の両側部に固定された左右一対の下側レールと、前記可動部材の両側部に固定されて前記各下側レールに嵌合する左右一対の上側レールと、を有し、
前記可動部材は、凹状に形成された平坦な底板と、該底板の両側縁から立ち上がって上端部が外側へ折曲形成された両側片と、を有し、前記両側片が前記各上側レールの上面に固定され、
前記リンク部材と前記第1付勢部材及び第2付勢部材は、前記左右の上下側レールの間に配置されていることを特徴とする起立補助装置。
【請求項3】
請求項1に記載の起立補助装置であって、
前記リンク部材は、前記ベース部材と座面部材の左右両側に2つ設けられていることを特徴とする起立補助装置。
【請求項4】
請求項1に記載の起立補助装置であって、
前記ベース部材と可動部材との間に、前記可動部材の最大前方移動位置を規制するストッパ機構を有し、
前記ストッパ機構は、前記可動部材の底板に上下に貫通形成された開口部と、前記ベース部材の上面に設けられ、前記開口部に臨むストッパ部と、を有し、
前記可動部材が前方へスライド移動した際に、前記開口部の後端縁が前記ストッパ部に当接して前記可動部材の前方への最大移動位置を規制することを特徴とする起立補助装置。
【請求項5】
請求項1に記載の起立補助装置であって、
前記第1付勢部材は、ねじりコイルばねであり、第2付勢部材は、引っ張りコイルばねであることを特徴とする起立補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、椅子の座面上に載置されて、使用者が椅子から起立する際に立ち上がり補助力を付与する起立補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
体力が衰えた高齢者や要介護者などは、椅子から立ち上がることが困難となり、特に、車椅子の利用者は歩行機能などに何らかの障害を有していることから、椅子からの起立に多大な負荷が掛かるばかりか転倒の危険を伴うこともある。そこで、従来から種々の起立補助装置が提供されており、その一つとして以下の特許文献1、2に記載されているものがある。
【0003】
特許文献1に記載された起立補助装置は、座面が底板の前端部に有する回転支点を介して回転可能に支持されていると共に、前記底板と座面との間に設けられて、前記座面の後端部を上昇させるように付勢するガススプリングと複数のねじりコイルばねが設けられている。そして、ねじりコイルばねの位置を調整することによって、利用者が起立や着座する際の補助力として適切な座面持ち上げ力が付与されるようになっている。
【0004】
特許文献2に記載された起立補助装置は、椅子を対象としたもので、座部を、ヒンジを介して前後方向に連結する前座部と後座部とによって構成し、前記座部の先端部を基台の上端前端部に対して枢着すると共に、前記基台と前記後座部の後端部とを、支持杆で連結して四節リンク機構を構成してある。また、前座部の後側部に、伸縮機構の先端部を連結し、前記前座部をその先端部を中心に扇動可能にしてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-128532号公報
【特許文献2】特開2005-137693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の起立補助装置は、座面が底板の前端部に回転支点を介して回転可能になっているだけであるから、使用者の前方への移動に追従する力を付与することができない。つまり、使用者を前方へ押し出す力が少なく立ち上がり補助力を十分に得ることができないおそれがある。
【0007】
特許文献2に記載の起立補助装置は、椅子そのものの構造であり、複数のリンクを用いて座面を上方へ押し上げるようになっていることから部品点数が多くなると共に、装置自体の大型化と重量の増加を招くおそれがある。
【0008】
本発明は、前記従来技術の技術的課題に鑑みて案出されたもので、可動部材が、座面部材の後端部の上方への回動と連動して前方へスライド移動することによって、使用者が座面部材から立ち上がる際において、上方への付勢力と前方への付勢力の両方の付勢力によって立ち上がり補助力を安定かつ効果的に付与することができる起立補助装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様として、使用者が着座する着座面に配置されたベース部材と、
前記ベース部材の上面に配置され、前記ベース部材に対してスライド機構を介して前後方向へスライド可能に設けられた可動部材と、
前端部が前記可動部材の前端側に回動支点を介して支持され、後端部側が上下方向へ回動可能に設けられた座面部材と、
一端部が前記ベース部材の所定位置に回転可能に連結されると共に、他端部が前記座面部材の後端部に回転可能に連結され、前記座面部材の上下方向への回動とともに同方向に回動可能に設けられたリンク部材と、
前記可動部材と座面部材との間に設けられて、前記座面部材の後端部を上方へ押し上げ付勢する第1付勢部材と、
前記可動部材とベース部材との間に設けられ、前記可動部材を前方へ付勢する第2付勢部材と、
を備え、
前記座面部材の後端部が前記第1付勢部材の付勢力で上方へ押し上げられた際に、前記可動部材が第2付勢部材の付勢力で前方へスライド移動する共に、前記座面部材が連動して前方へ移動することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使用者が座面部材から立ち上がる際において、座面部材の上方への付勢力と前方への付勢力の両方の付勢力によって立ち上がり補助力を安定かつ効果的に付与することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る起立補助装置の実施形態を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態の起立補助装置を
図1のA-A線で断面した断面図である。
【
図3】本実施形態の起立補助装置の一部の構成を省略した背面図である。
【
図4】本実施形態に供されるスライド機構を示す要部拡大図である。
【
図5】本実施形態の起立補助装置の作動を段階的に示す右側面図である。
【0012】
【
図6】本実施形態の起立補助装置の作動過程を段階的に示した右側面図であって
図6は本実施形態の起立補助装置の作動過程を段階的に示した右側面図であって、(a)は使用人が座面部材の上面上に座っている着座位置の状態を示し、(b)は使用人が着座位置から臀部を少し持ち上げた作動状態を示し、(c)は使用人がさら臀部を持ち上げつつ身体の重心位置を前方に移動し始めた作動状態を示し、(d)は使用人が臀部を持ち上げ、身体の重心を足の位置まで前方に移動した作動状態を示している。
【
図7】
図6に示す起立補助装置の作動過程(a)~(d)に対応した座面部材の角度と、ねじりコイルばねと引っ張りコイルばねの座面部材に対するばね力との関係を示す折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る起立補助装置の実施形態を図面に基づいて詳述する。
【0014】
図1は本発明に係る起立補助装置の実施形態を示す斜視図、
図2は本実施形態の起立補助装置を
図1のA-A線で断面した断面図、
図3は本実施形態の起立補助装置の第2付勢部材などの一部の構成を省略した背面図、
図4は本実施形態に供されるスライド機構を示す要部拡大図である。
【0015】
本実施形態の起立補助装置は、例えば、図外の車椅子の着座部(座面)上に載置して用いられており、
図1~
図3に示すように、前記着座面に載置されるベース部材1と、該ベース部材1の上面1aに配置されて、スライド機構2を介してベース部材1の前後方向へスライド移動可能に設けられた可動部材3と、該可動部材3の上方に配置されて、使用者が離着座する板状の座面部材4と、前記ベース部材1と座面部材4との間を連結するように両端部がそれぞれ回動可能に連結された一対のリンク部材5、5と、前記可動部材3と座面部材4との間に設けられて、座面部材4の後端部4dを上方へ押し上げ付勢する第1付勢部材である一対のねじりコイルばね6、6と、前記可動部材3とベース部材1との間に設けられて、前記可動部材3を前方へ付勢する第2付勢部材である一対の引っ張りコイルばね7、7と、を備えている。
【0016】
前記ベース部材1は、例えば合成樹脂材で所定の肉厚を有する矩形板状に形成されている。このベース部材1は、車椅子の着座面に載置して用いられるが、例えばボルトなどによって固定するようにしてもよい。あるいは、車椅子のフレームを構成する着座部に一体に形成してもよい。
【0017】
前記可動部材3は、金属板を横断面ほぼクランク状に折曲して形成され、平板状の底板8と、該底板8の両側縁から立ち上がって上端部9a、9aが外方へ水平に折り曲げられた断面L字形状の両側片9,9と、を有している。底板8は、両側片9,9の間に凹状に形成されて、左右の両側部に一対の開口部10、10が形成されている。この2つの開口部10、10は、前後方向に延びた矩形状に形成されていると共に、上下方向へ貫通形成されている。
【0018】
また、底板8は、各開口部10、10よりも後端側の位置に前記各引っ張りコイルばね7、7の軸方向の各一端部7a、7aが係止固定される一対の支持ピン11,11が設けられている。さらに、両側片9,9は、各上端部9a、9aの上面に前記座面部材4の下面両側部が当接可能な一対のクッション部材12、12がそれぞれ配置固定されている。
【0019】
前記スライド機構2は、
図1、
図2及び
図4に示すように、ベース部材1の上面1aの左右両側に固定された前後各一対の4つの下側レール13と、可動部材3の両側片9,9の各上端部9a、9aの下面に固定されて、前記各下側レール13にそれぞれ嵌合しつつ前後に摺動可能な4つの上側レール14と、を有している。
【0020】
各下側レール13は、ベース部材1の上面1aの前後左右の位置に前後方向で所定隙間をもって配置されていると共に、それぞれが例えば硬質な合成樹脂材によって前後方向に長いブロック状に形成されている。また、各下側レール13は、上部が下部よりも幅広な断面ほぼT字形状に形成されて、各上端部に左右に突出した嵌合凸部13aが形成されている。各下側レール13は、それぞれが前後2つのボルト15によってベース部材1の上面1aに位置決め固定されている。
【0021】
各上側レール14は、各両側片9,9の上端部9a、9a下面の各下側レール13に対応した位置に配置されて、それぞれが同じく硬質な合成樹脂材によって立方体状に形成されている。また、各上側レール14は、それぞれの下面に各下側レール13の嵌合凸部13aに対して前後方向から嵌合する嵌合溝14aが前後方向に沿って形成されている。各上側レール14は、それぞれが図外のボルトによって可動部材3の両側片9,9の上端部9a、9a下面に位置決め固定されている。したがって、可動部材3は、各上下側レール13、14を介してベース部材1の上面1a上を所定の隙間をもって前後方向へスライド移動可能になっている。なお、
図4に示すように、各上側レール14の嵌合溝14aは、幅方向の中央部が窪んでおり、幅方向の左右の両端部で下側レール13の嵌合凸部13aの上面に接触するようになっている。また、各下側レール13の嵌合凸部13aと各上側レール14の嵌合溝14aの各摺動面にはフリクションを小さくするフッ素材を塗布することも可能である。
【0022】
また、前記ベース部材1と可動部材3との間には、該可動部材3の前方へ最大前方移動位置を規制するストッパ機構が設けられている。このストッパ機構は、一対のストッパ部16、16によって構成されている。各ストッパ部16、16は、
図1に示すように、例えば硬質な合成樹脂材によって立方体のブロック状に形成されて、それぞれの下端部がベース部材1の上面1aにボルトなどで固定されている。また、各ストッパ部16,16は、それぞれの上端部16a、16aが前記各開口部10、10から上方に臨んで設けられている。そして、可動部材3の前方へのスライド移動時に、各開口部10、10の後端縁10a、10aが各ストッパ部16、16の上端部16a、16aの端縁に当接して可動部材3の最大前方移動位置が規制されるようになっている。
【0023】
座面部材4は、例えば金属板材をほぼコ字形状に折曲形成され、平坦状の座面本体4aと、該座面本体4aの左右両側縁から下方へ垂直に折り曲げられた両側部4b、4bと、を有している。座面部材4は、
図1及び
図2に示すように、座面本体4aの前端部4cの下面と前記可動部材3の底板8の前端部8aの上面との間に設けられた回転支点である一対のヒンジ部17、17を支点として後端部4dが上下方向へ回動可能に設けられている。前記各ヒンジ部17、17は、一般的な構造であって、支軸17aと、該支軸17aを中心として開閉可能な両片部17b、17cと、を有している。下側の一片部17bは、可動部材3の底板8の前端部8a上面に左右方向に延設された支持板18上面に各3つのビスによって固定されている。一方、上側の他片部17cは、座面本体4aの前端部4c下面に左右方向に延設された第2支持板19下面に各3つのビスによって固定されている。したがって、座面部材4は、前端部4cが各ヒンジ部17,17を介して可動部材3の底板8の前端部8aに回動可能に連結されている。
【0024】
前記各リンク部材5、5は、前記ベース部材1と座面部材4との間の左右両側にそれぞれ設けられて、一端部である各下端部5a、5aがベース部材1の上面1aに固定された一対の第1ブラケット20、20に有する第1支持軸21、21を介して回転可能に連結されている。一方、他端部である上端部5b、5bは、座面部材4の座面本体4aの下面に固定された第2ブラケット22,22に有する第2支持軸23,23を介して回転可能に連結されている。各リンク部材5、5の各下端部5a、5aの位置は、ベース部材1の上面1aの前後方向のほぼ中央位置であるのに対して各上端部5b、5bの位置は、座面本体4aの前後方向の後端部4d側の位置になっている。各第1、第2ブラケット20、22は、金属板材をほぼL字形状に折り曲げて形成され、平坦な各一端部20a、22aがベース部材1の上面1aと座面本体4aの下面にボルト固定されていると共に、各一端部20a、22aの端縁から立ち上がりあるいは立ち下がった各他端部20b、22bには、中央に有する支持孔に前記第1、第2支持軸21,23がナットなどを介して取り付けられている。2つの第1ブラケット20、20の各第1支持軸21,21は、各他端部20b、20bが可動部材3の各開口部10、10から上方に臨んでいる。
【0025】
そして、座面部材4は、前記各リンク部材5、5を介して前端部4cのヒンジ部17、17を支点として後端部4dが上下方向に回動するようになっており、この上方への最大回動角度、つまり最大の傾斜角度θは約30°に設定されている。
【0026】
前記各ねじりコイルばね6、6は、
図1~
図3に示すように、可動部材3の底板8の前端部8aに配置固定された支持板24上面に設けられ、この支持板24の上面に固定された一対のブラケット片25、25の間に介装された支軸26に挿通支持されている。各ねじりコイルばね6,6は、各下端部から前後方向に延びた共通のU字形状の下側アーム6aが支持板24の上面にばね力で弾接している一方、各上端部から前後方向に延びたそれぞれL字形状の一対の上側アーム6b、6bが座面部材4の座面本体4aの前端部4c下面にばね力で弾接している。座面部材4は、このねじりコイルばね6、6のばね力によって後端部4dが上方に付勢されている。
【0027】
前記各引っ張りコイルばね7、7は、
図1及び
図2に示すように、軸方向の各一端部7aが前述したように可動部材3の底板8の後端部に設けられた各支持ピン11、11にそれぞれ係止固定されている一方、軸方向の各他端部7bが前記各第1ブラケット20、20の第1支持軸21,21に係止固定されている。したがって、可動部材3は、各引っ張りコイルばね7、7のばね力によってベース部材1に対して前方に付勢されている。
【0028】
そして、座面部材4は、各ねじりコイルばね6、6のばね力によって後端部4dが押し上げられると、同時に可動部材3が各引っ張りコイルばね7、7のばね力によって前方へスライド移動すると、座面部材4も連動して前方へスライド移動するようになっている。
【0029】
なお、起立補助装置の不使用時において、前記座面部材4をねじりコイルばね6、6のばね力に抗してベース部材1の上面1a上に平行に倒した状態で例えばロック機構などを用いてロックして倒した状態を維持することも可能である。
〔本実施形態の起立補助装置の作動〕
以下、
図5及び
図6に基づいて本実施形態の起立補助装置の作動について説明する。
図5は本実施形態の起立補助装置の作動を段階的に示す右側面図である。
図6は本実施形態の起立補助装置の作動過程を段階的に示した右側面図であって、(a)は使用人が座面部材の上面上に座っている着座位置の状態を示し、(b)は使用人が着座位置から臀部を少し持ち上げた作動状態を示し、(c)は使用人がさら臀部を持ち上げつつ身体の重心位置を前方に移動し始めた作動状態を示し、(d)は使用人が臀部を持ち上げ、身体の重心を足の位置まで前方に移動した作動状態を示している。
【0030】
まず、
図5及び
図6(a)に示すように、使用人が着座位置にある状態では、座面部材4の座面本体4aの上面上に座って座面部材4が水平に倒れており、可動部材3が、ほぼ水平に倒れた両リンク部材5、5によって後方の移動位置に保持されている状態になっている。したがって、可動部材3は、各引っ張りコイルばね7、7が引っ張られてばね力が大きくなっているものの、両リンク部材5,5によって前方への移動が規制されている。
【0031】
この状態から、
図5及び
図6(b)に示すように、使用人が立ち上がろうとして臀部を座面部材4の座面本体4aから少し持ち上げると、これを補助する形で座面部材4が、各ヒンジ部17、17を支点として後端部4dが各ねじりコイルばね6、6のばね力で押し上げられて上昇回動する。そうすると、両リンク部材5、5もそれぞれの下端部5a、5aが第1支持軸21,21を支点として図中左方向へ回転する。と同時に可動部材3は、両リンク部材5、5による規制状態が解除されて、各引っ張りコイルばね7、7のばね力でスライド機構2を介して前方へ僅かに移動する。この可動部材3の前方移動に伴って座面部材4も連動して前方へ僅かに移動する。つまり、各引っ張りコイルばね7、7のばね力による可動部材3の前方への移動力が、両リンク部材5、5を介して座面部材4に伝達されることから、該座面部材4も連動して前方へ移動する。
【0032】
使用人がさらに臀部を持ち上げつつ身体の重心を前方に移動すると、
図5及び
図6(c)に示すように、座面部材4は、臀部に両リンク部材5、5を介して後端部4dが各ねじりコイルばね6、6のばね力でさらに押し上げられて上方へ回動すると同時に、可動部材3が、各引っ張りコイルばね7、7のばね力で前方へ移動する。これに伴って、両リンク部材5、5を介して座面部材4も連動して前方へ移動する。これにより、座面部材4が上方へ回動しつつ前方へ移動して、使用人がさらに臀部を持ち上げつつ身体の重心を前方に移動しようとするのを補助する。
【0033】
使用人が臀部を持ち上げ、身体の重心を足の位置まで前方に移動すると、
図5及び
図6(d)に示すように、座面部材4は、臀部に追随する形で後端部4dが各ねじりコイルばね6、6のばね力でさらに上方へ回動すると同時に、可動部材3が各引っ張りコイルばね7、7のばね力で前方へさらに移動することができる。その後、可動部材3は、各開口部10、10の後端縁10a、10aが各ストッパ部16,16の上端部16a、16aの後端に当接して、それ以上の前方移動が規制される。これにより、座面部材4は、後端部4dが最大の回動位置(約30°)の位置で規制されると共に、両リンク部材5、5を介して可動部材3と連動して最大前方位置まで移動する。
【0034】
すなわち、座面部材4は、各ねじりコイルばね6、6のばね力で後端部4dが最大回動位置(30°の位置)まで押し上げられるが、このとき、可動部材3が各引っ張りコイルばね7、7のばね力で最大前方位置にスライド移動する。そして、可動部材3の前方への移動力が両リンク部材5、5によって座面部材4に伝達されて、この座面部材4も同時に前方へ連動して移動する。特に、座面部材4には、可動部材3の前方への移動力が両リンク部材5、5を介して後端部4dの押し上げ力として作用する。
【0035】
図7は
図6に示す起立補助装置の作動過程(a)~(d)に対応した座面部材の角度と、ねじりコイルばねと引っ張りコイルばねの座面部材に対するばね力(座面部材4の垂直方向に臀部を押し出す力)との関係を示す折れ線グラフである。
【0036】
すなわち、ねじりコイルばね6、6のばね力は、
図7の細線で示す特性のように、
図6(a)に示す座面部材4が水平位置に保持された状態では、上側アーム6b、6bが下側アーム6aに近づいていることから最大のばね力となっているが、座面部材4の後端部4dが上方へ回動して傾斜角度が漸次大きくなる(b)-(c)-(d)への変化位置ではばね力が次第に減少していくことが明らかである。
【0037】
一方、各引っ張りコイルばね7、7のばね力は、
図7の破線で示す特性のように、
図6(a)に示す座面部材4が水平位置に保持された状態では、可動部材3の最大後方移動位置に保持されていることから、座面部材4に対してばね力(座面部材4の垂直方向に作用する力)が発生しない。すなわち、座面部材4が水平位置に保持されている状態では、前述したように、両リンク部材5、5が図中右回転方向へ倒れた状態になっていることから、可動部材3も最大後退移動位置に保持されて、各引っ張りコイルばね7、7が最大に圧縮された状態になってばね力は大きくなっている。しかし、可動部材3が、両リンク部材5、5によって前方移動が規制された状態になっていることから、各引っ張りコイルばね7、7のばね力は座面部材4を持ち上げる方向に対して作用することがない。
【0038】
そして、使用者の立ち上がりに伴い座面部材4の後端部4dがねじりコイルばね6、6のばね力で押し上げられて傾斜角度が漸次大きくなる
図6(b)-(c)への変化位置では、可動部材3の前方への移動に伴い各引っ張りコイルばね7、7のばね力による影響が次第に大きくなって(c)の位置で座面部材4に対するばね力が最大になる。その後、(c)-(d)に移行するにしたがって座面部材4に対する各引っ張りコイルばね7、7のばね力はほぼ水平な特性になる。
【0039】
したがって、座面部材4の後端部4dの押し上げ方向に対する各ねじりコイルばね6、6のばね力と各引っ張りコイルばね7、7のばね力は、これらのばね力を合成することによって、
図7の太い実線で示す特性のように、
図6(b)-(c)-(d)に示す座面部材4が立ち上がる過程では座面部材4に対して一定以上の押し上げ力が安定して確保できていることが明らかである。
【0040】
以上のように、本実施形態の起立補助装置によれば、例えば車椅子などの使用者が、車椅子から立ち上がろうとして座面部材4から臀部を持ち上げると、これを補助する形で座面部材4の後端部4dが、各ねじりコイルばね6、6のばね力で各リンク部材5、5を介して上方へ自動的に回動すると同時に、可動部材3が各引っ張りコイルばね7、7のばね力で前方へ自動的にスライド移動し、座面部材4もこれに連動して前方へ移動する。つまり、座面部材4は、各リンク部材5、5を介して可動部材3の前方へのスライド移動と連動して自動的に前方へスライド移動する。このため、使用者が座面部材4から立ち上がる際において、使用者には、座面部材4の後端部4dの上方への回動による押し上げ力と前方への移動による押し出し力との両方の合成力が働くことから、使用者に対する立ち上がり補助力を効果的に付与することができる。
【0041】
すなわち、座面部材4の後端部4dに対する各ねじりコイルばね6、6のばね力と各引っ張りコイルばね7、7のばね力は、これらのばね力を合成することによって、初期の立ち上がり状態から最終的な立ち上がり状態にわたって一定以上の強い押し上げ力と押し出し力の合成力によって、使用者の立ち上がり補助力を安定かつ効果的に付与することが可能になる。
【0042】
また、本実施形態では、両リンク部材5、5と両ねじりコイルばね6、6及び両引っ張りコイルばね7、7を、左右の上下側レール13、14の間に配置したことから、これらの回動付勢機構とスライド機構2をベース部材1と可動部材3の間にコンパクトに収容配置できる。これによって、起立補助装置全体の小型化が図れる。
【0043】
また、リンク部材5、5を、ベース部材1などの左右両側に2つ設けたことから、ベース部材1に対して座面部材4の後端部4dを安定して上下回動させることができる。
【0044】
さらに、本実施形態によれば、各引っ張りコイルばね7、7のばね力によって前方へ移動した可動部材3が2つのストッパ部16,16によってそれ以上の前方移動が規制されると、同時に座面部材4の前方移動と後端部4dの上方への回動も規制される。このように、一つのストッパ機構で可動部材3と座面部材4の両方の前方移動と座面部材4の回動を一緒に規制できることから、可動部材3の他に、リンク部材5、5や座面部材4の最大回動位置を規制するためにそれぞれ別異のストッパ機構が不要になることから、ストッパ機構の簡素化が図れると共に製造コストの低減化が図れる。
【0045】
本実施形態では、第1、第2付勢部材を、それぞれ構造の簡単なねじりコイルばね6、6と引っ張りコイルばね7、7によって構成したことから、例えば、ガススプリングなどを用いる場合に比較してコストの低減化が図れる。
【0046】
また、可動部材3の両側片9,9の各上面にクッション部材12、12を設けたことから、使用者が上方へ回動されている座面部材4を倒しながらこの座面部材4の上面に着座すると、両クッション部材12,12が座面部材4からの荷重を受けることによって、使用者の着座時のショックを吸収することができると共に、可動部材3に対する座面部材4の干渉を抑制できる。
【0047】
さらに、可動部材3は、金属板によって形成したことから、これをプレス成形によって成形加工できるので製造コストの低減化が図れる。また、可動部材3の両側に前後方向に長い開口部10、10を形成したことから、可動部材3全体の軽量化が図れる。
【0048】
本発明の起立補助装置は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば、第1、第2付勢部材を、ねじりコイルばねや引っ張りコイルばねに替えて、ガススプリングなどに変更することも可能である。
【0049】
また、可動部材3を硬質な合成樹脂材によって構成することも可能であり、ストッパ機構の各ストッパ部16,16をピンなどで構成することも可能である。さらに、スライド機構2を、金属製の上下側レールで構成することも可能である。
【0050】
さらに、本発明の起立補助装置は、車椅子などの椅子以外にベンチの座面や室外や室内の建物の段差部の上面などに適用することが可能である。
【0051】
また、前述のように、座面部材4を水平に保持した状態にするロックする機構を設ければ、起立補助装置がコンパクトになり、持ち運びや管理が容易になる。
【0052】
なお、使用者の着座におけるショックなどを緩和するために、座面部材4の上面にクッション部材を設けることも可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…ベース部材、2…スライド機構、3…可動部材、4…座面部材、4a…座面本体、4b…両側部、4c…前端部、4d…後端部、5…リンク部材、5a…下端部、5b…上端部、6…ねじりコイルばね(第1付勢部材)、6a…下側アーム、6b…上側アーム、7…引っ張りコイルばね(第2付勢部材)、8…底板、8a…前端部、9…両側片、9a…上端部、10…開口部、10a…後端縁、11…支持ピン、12…クッション部材、13…下側レール、14…上側レール、16…ストッパ部、17…ヒンジ部(回動支点)、17a…支軸、20…第1ブラケット、21…第1支持軸、22…第2ブラケット、23…第2支持軸。