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特開2024-135472プレス成形性と化成処理性および外観品位に優れた亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法
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  • 特開-プレス成形性と化成処理性および外観品位に優れた亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135472
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】プレス成形性と化成処理性および外観品位に優れた亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C23C26/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046169
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 浩二郎
(72)【発明者】
【氏名】森 陽一郎
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA11
4K044BB01
4K044BC01
4K044BC02
4K044BC09
4K044CA11
4K044CA16
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】プレス成形性と化成処理性および外観品位に優れた亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】溶融亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっきの表面にMn:1.0mg/m2以上100mg/m2以下、P:10.0mg/m2以上100mg/m2以下、更に塩化物、硫酸化合物、弗化物、臭化物に由来するCl、S、F、Brのうち1種または2種以上のモル数の総和[A]が1.0×10-5mol/m2以上5.0×10-3mol/m2以下、を含み、残不可避的不純物からなる無機皮膜が施されていることを特徴とする、プレス成形性と化成処理性および外観品位に優れた亜鉛系めっき鋼板を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっきの表面に、Mn:1.0mg/m2以上100mg/m2以下、P:10.0mg/m2以上100mg/m2以下、更に塩化物、硫酸化合物、弗化物、臭化物に由来するCl、S、F、Brのうち1種または2種以上のモル数の総和[A]が1.0×10-5mol/m2以上5.0×10-3mol/m2以下、を含み、残不可避的不純物からなる無機皮膜が施されていることを特徴とする、プレス成形性と化成処理性および外観品位に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【請求項2】
前記無機皮膜において、X線光電子分光分析装置で測定される最表層から2nmまでの範囲の前記モル数の総和[A]とPのモル数[P]の比[A]/[P]が0.01以上5.0以下となることを特徴とする、請求項1に記載のプレス成形性と化成処理性および外観品位に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【請求項3】
マンガンイオンもしくは過マンガン酸イオンを0.01mol/L以上2.5mol/L以下、りん酸イオンを0.6mol/L以上3.0mol/L以下、かつ、更に酸ではなくアルカリ金属塩、アンモニウム塩、亜鉛化合物などの塩として溶液中に添加された塩化物イオン、硫酸イオン、弗化物イオン、臭化物イオンのうちの1種または2種以上を、それらの総和のモル濃度[AL]とりん酸イオンのモル濃度[PL]との比[AL]/[PL]が0.2以上1.5以下となるように含有し、残不可避的不純物を含有する水溶液を0.1秒以上10秒以下の時間、めっき表面に接触させた後に乾燥させ、請求項1または2に記載の亜鉛めっき鋼板を得ることを特徴とする、プレス成形性と化成処理性および外観品位に優れた亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形性と化成処理性および外観品位に優れた亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体等には、その耐食性や外観等の向上を目的として、亜鉛系めっき鋼板が用いられている。自動車メーカー等の車体製造工程では、鋼板をプレス成形することにより車体を製造するため、自動車車体用に複雑な形状に成形される亜鉛系めっき鋼板には、優れたプレス成形性が求められ、これまでに鋼板表面に高い潤滑性を付与するための皮膜処理技術が開発されてきた。
【0003】
中でも、りん酸系皮膜は、優れた潤滑性を示し、かつめっき表面と処理液との化学反応を利用して均一で密着性の良い皮膜を比較的容易に形成することができるため、従来から潤滑皮膜として重用されてきた。例えば、特許文献1には、りん酸亜鉛を主体とするプレフォスフェイト皮膜を有する亜鉛めっき鋼板が示されている。なお、この処理においては、ち密な皮膜を形成させるための前処理として、チタンコロイド含有水性液、リン酸亜鉛コロイド含有水を用いた表面調整を行うことが必要となる。
【0004】
一方で、りん酸マンガン系皮膜は、りん酸系皮膜の中でも硬質であり、高面圧で成形された場合においてもめっきの金型へのかじりを抑制する効果が高いため、薄膜でも高い潤滑効果を有することが知られている。例えば、特許文献2~特許文献7には、りん酸マンガンを主体とするりん酸系無機潤滑皮膜をめっき表面に付与することで鋼板のプレス成形性を向上させる技術が開示されている。
【0005】
めっき鋼板は、製造後に防錆油を塗布された状態で出荷され、自動車メーカーにてプレス成型や接合がなされた後に塗装が施される。塗装工程においては、まず鋼板表面に付着した油分を落とすためにアルカリ脱脂処理が施されるが、この際、鋼板が塗油されたまま長期保管されて防錆油と鋼板が強く吸着していたり、脱脂液の連続使用に伴って、液中に油分や金属イオンが多く混入して脱脂力が弱まっている場合などには、脱脂が十分になされずにその後の化成処理や塗装後外観に悪影響を及ぼすことがある。
【0006】
具体的には、脱脂後にも鋼板表面に油分が残存することにより、当該部位で化成処理皮膜の形成反応が阻害されて化成皮膜が不均一となり、これにより塗装後外観にムラが生じる。特に、上述したりん酸系皮膜を含め、プレス成形性の向上を目的とした潤滑皮膜を付与した鋼板においては、皮膜自体が潤滑油保持性を高める効能を有していることもあることから、この課題を生じやすく、改善技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4100358号公報
【特許文献2】特許第2131655号公報
【特許文献3】特許第2691797号公報
【特許文献4】特許第3199980号公報
【特許文献5】特許第4786769号公報
【特許文献6】特許第5146607号公報
【特許文献7】特許第5168417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を克服し、プレス成形性と化成処理性および外観品位に優れた亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1)溶融亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっきの表面にMn:1.0mg/m2以上100mg/m2以下、P:10.0mg/m2以上100mg/m2以下、更に塩化物、硫酸化合物、弗化物、臭化物に由来するCl、S、F、Brのうち1種または2種以上のモル数の総和[A]が1.0×10-5mol/m2以上5.0×10-3mol/m2以下、を含み、残不可避的不純物からなる無機皮膜が施されていることを特徴とする、プレス成形性と化成処理性および外観品位に優れた亜鉛系めっき鋼板。
(2)前記無機皮膜において、X線光電子分光分析装置測定される最表層から2nmまでの範囲の前記モル数の総和[A]とPのモル数[P]の比[A]/[P]が0.01以上5.0以下となることを特徴とする、(1)に記載のプレス成形性と化成処理性および外観品位に優れた亜鉛系めっき鋼板。
(3)マンガンイオンもしくは過マンガン酸イオンを0.01mol/L以上2.5mol/L以下、りん酸イオンを0.6mol/L以上3.0mol/L以下、かつ、更に酸ではなくアルカリ金属塩、アンモニウム塩、亜鉛化合物などの塩として溶液中に添加された塩化物イオン、硫酸イオン、弗化物イオン、臭化物イオンのうちの1種または2種以上を、それらの総和のモル濃度[AL]とりん酸イオンのモル濃度[PL]との比[AL]/[PL]が0.2以上1.5以下となるように含有し、残不可避的不純物を含有する水溶液を0.1秒以上10秒以下の時間、めっき表面に接触させた後に乾燥させ、(1)または(2)に記載の亜鉛系めっき鋼板を得ることを特徴とするプレス成形性と化成処理性および外観品位に優れた亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、プレス成形性と化成処理性および外観品位に優れた亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】皮膜中の[A]と化成処理性、摺動性の関係を表す図である。
図2】皮膜中の[AS]/[PS] と化成処理性、摺動性の関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の詳細について、以下に説明する。
【0013】
上述した課題を解決するために鋭意検討した結果、特許文献2等に記載されているりん酸マンガンを主体とした無機潤滑皮膜中に、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオンなどのハロゲンイオンや硫酸イオンなどのオキソ酸イオン(以下、イオンA群と称する)を含む化合物を適量含有させることで、摺動性を損なうことなく、化成処理性を改善できることを見出した。
【0014】
上述したイオンA群からなる金属塩は、無機皮膜の主体であるりん酸マンガンと比較してアルカリ水溶液への溶解度が高い。そのため、アルカリ脱脂処理の際に皮膜の一部が防錆油もろとも溶解脱離することにより、良好な化成処理性が得られるものと考えられる。
【0015】
さらに、無機皮膜の最表面の状態と化成処理性および塗装後の表面外観の関係について詳細に調査した結果、最表面におけるイオンA群の、りん酸イオンに対する存在比率が高くなるほど、形成する化成皮膜の結晶サイズが均一となり、塗装後の表面外観が美麗になることも明らかにした。これは、イオンA群が最表面に存在することに防錆油の脱離反応が迅速に進むため、局所的に鋼板と防錆油の吸着の程度が強い場所があったとしても、周囲からの脱脂液の浸み込みが進み、全面の防錆油を離脱することができることから、脱脂性及び化成処理性の均一性が増すためと考えられる。
【0016】
なお、脱脂処理は鋼板をプレス、組付け後に行われるため、脱脂処理の際に無機潤滑皮膜の一部が脱落することは鋼板のプレス時の摺動性を向上させるという、潤滑皮膜が担保する本来の特性を何ら損なうものではない。以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
ベースとなる溶融亜鉛めっき表面の無機皮膜は、マンガンを1.0mg/m2以上100mg/m2以下の範囲で含有する。マンガン量が1.0mg/m2未満では、金型へのめっきの凝着を十分に抑制することができないため、十分な成形性が確保できない。マンガン量が100mg/m2を超えると、めっきの凝着を抑制する効果が飽和するとともに、本発明においても化成処理性が劣化する。
【0018】
また、当該皮膜はりんを10.0 mg/m2以上100mg/m2以下の範囲で含有する。りん量が10.0mg/m2未満では、加工摺動時の防錆油とのなじみが得られず、十分な成形性が確保できない。りん量が100mg/m2を超えると、防錆油とのなじみ効果が飽和するともに、本発明においても化成処理性が劣化する。
【0019】
皮膜中に含有させるイオンA群の適正量は、図1に示すように、それらの単位面積当たりの皮膜中に含有されるイオンA群のモル数の総和[A]で整理され、 [A]が1.0×10-5mol/m2以上5.0×10-3mol/m2以下であると、良好な摺動性を担保しつつ、化成処理性の改善効果が得られる。 [A]の含有量が1.0×10-5mol/m2未満の場合は化成処理性の改善効果が得られず、逆に超過する場合には、摺動性を担保する硬質なりん酸マンガン皮膜が連続的に形成することが困難になり、プレス成形性が劣化する。
【0020】
また、無機皮膜の最表層におけるイオンA群の存在比率については、図2に示すようにこれを高めることで、上述したように脱脂及び化成処理反応の均一性が増し、化成皮膜結晶のサイズをより均一にすることができ、好ましい。これを達成するためには、無機皮膜の最表層に存在するイオンA群のうち1種または2種以上のモル数の総和[AS]と最表層に存在するPのモル数[PS]の比[AS]/[PS]が0.01以上である。一方で、これが[AS]/[PS]が大きくなりすぎると摺動性がやや劣位になる傾向がみられるため、上限は5.0以下とする。
【0021】
ここで、無機皮膜の最表層とは、X線光電子分光分析装置(例えばアルバック・ファイ社製PHI5800)を用いてArスパッタリングによって表面に付着した不純物や汚れを除去し、Cが原子濃度で10%以下となる点から鋼板側に向かって、深さ方向へ1nmおきに2nmまで、計3点の原子濃度を等間隔で測定を行った際の平均値と定義する。原子濃度とは、X線光電子分光分析装置にて、測定部位から検出される各元素のピークからバックグラウンドを除去した際の面積強度を各装置で設定されている相対感度係数で除することで求められる値であり、解析ソフトにより算出可能である。
【0022】
また、上記皮膜中には、溶融亜鉛めっき中に含有される成分の他、不可避的不純物が含有されていても、摺動性や化成処理性等の鋼板特性に対しての影響はない。不可避的不純物としては、Li、Be、C 、F 、Na、Mg、Al、Si、Cl、K、Ca、Ni、Mo、V 、W 、Ti、Fe、Rb、Sr、Y 、Zn、Nb、Cs、Ba、Cr、Cd、Pb、Sn、As、ランタノイド類などが挙げられる。
【0023】
無機皮膜を形成させる溶融亜鉛めっき鋼板は、熱延鋼板もしくは冷延鋼板の表面に質量濃度で50%以上のZnを含有する金属皮膜を有するものであればよい。めっきの組成としては純Znだけでなく、Zn-Fe、Zn-Ni、Zn-Al、Zn-Mn、Zn-Crなど、Znを主成分として、Fe、Ni、Co、Al、Pb、Sn、Sb、Cu、Ti、Si、B、P、N、S、O等の1種ないし2種以上の合金元素及び不純物元素を含有してもよい。特にAlを微量に含有するZnめっき浴に鋼板を浸漬させたのちに加熱処理を施して、めっきの全質量に対して5~20%程度のFeをめっき相中に含有させるいわゆる合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、塗装後耐食性やスポット溶接性にも優れ、本発明に使用される自動車用鋼板として好適である。
【0024】
めっきの付着量についてもとくに制約されないが、自動車用鋼板としての耐食性を考慮すると、めっきを構成する全成分の総和が20g/m2以上であることが好ましい。めっき付着量が多すぎると、鋼板加工時にめっきの剥離が多くなり、金型に残留して押し疵の原因となる場合もありうることから上限は100g/m2であることが好ましい。また本発明は、溶融亜鉛めっきの母材となる鋼板の特性には何ら影響を受けるものではなく、強度クラスや組成、組織には制約はない。また、鋼板を製造する上で使用する原材料や、鋼板の製造方法についても、制約は設けない。
【0025】
この皮膜の製造方法としては、マンガンイオンもしくは過マンガン酸イオンとりん酸を含有し、かつ、酸ではなくアルカリ金属塩、アンモニウム塩、亜鉛化合物などの塩として水溶液中に添加された塩化物イオン、硫酸イオン、弗化物イオン、臭化物イオンのうちの1種または2種以上を含有する溶液をめっき表面に接触させた後に乾燥させる。
【0026】
上記オキソ酸イオン群およびハロゲンイオン群の酸は強酸もしくはめっきエッチング力の非常に強い酸であり、酸の状態で処理液中に混入させると液と鋼板が接触した際に鋼板表面の溶解反応が過度に進行し、外観不良を起こす可能性があることから、処理液中には塩として添加する必要がある。
【0027】
塩の種類としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、亜鉛化合物などが望ましい。これらに含まれる陽イオンとイオンA群の化合物は、水溶液中での溶解度が高いため、化成処理性改善効果に悪影響を及ぼさないのと同時に、摺動性や耐食性などの他の鋼板特性にも悪影響を及ぼさない。
【0028】
使用する処理液の組成としては、マンガンイオンもしくは過マンガン酸イオン、リン酸、イオンA群を含油する溶液をめっき表面に接触させる方法や接触時間を勘案して適正な皮膜状態になるように調整すればよいが、好ましくは、りんのモル濃度[PL]を0.6mol/L以上3.0mol/L以下、イオンA群のうちの1種または2種以上の合計のモル濃度[AL]と、りんのモル濃度との比[AL]/[PL]を0.2以上1.5以下とし、これを0.1秒以上10秒以下の時間、めっき表面に接触させた後に、乾燥させることが望ましい。
【0029】
本発明においてめっき表面に形成させるりん酸マンガンを主体とする無機皮膜は、めっき表面をりん酸を含む酸性溶液と接触させた際にめっき表面が溶解することにより生じるpHの上昇を利用して、難溶性のりん酸化合物が沈殿するメカニズムにより形成する。一方で、イオンA群は、pH変動に伴ってそれ自体が難溶性の化合物を形成することはできないため、りん酸化合物の形成に伴ってイオンA群を取り込ませる必要がある。そのため、無機皮膜中にイオンA群を適切な状態で存在せしめるためには、りん酸化合物の形成速度と液中のイオンA群の濃度を制御する必要がある。
【0030】
[PL]が0.6mol/L未満であると、皮膜の形成速度が小さいため、りん酸化合物が時間をかけて形成していく過程においてイオンA群が吐き出されてしまい、皮膜中に十分にイオンA群を取り込むことができない。3.0mol/L超とすると、皮膜の形成量が大きくなり過ぎ、一般的な成膜プロセスにおいてはりん酸皮膜量過多となり、化成処理性が担保できない。
【0031】
また、[AL]/[PL]が0.2未満では、皮膜中にイオン群Aを必要量取り込むことができず、十分な化成処理性向上効果を得ることができない。逆に1.5超となると、イオンA群による過溶解によりめっき表面にスラッジが付着し、表面が変色する。
【0032】
上述した処理液が鋼板表面に接触してから乾燥されるまでの時間は、0.1秒以上10秒以下とする。0.1秒未満では十分にりん酸皮膜を形成させることができず、摺動性が担保できない。一方で10秒超となると、イオンA群によるめっき表面の過溶解により、めっき表面にスラッジが付着し、表面が変色する。
【0033】
また、鋼板に上記処理液を接触させる方法については、鋼板を処理液に浸漬させた後にリンガーロールやガスワイピング等で付着液量を均一化する方法や、ロールコーディングする方法などが挙げられる。
【0034】
また、処理液と鋼板を接触させた後、水洗は必ずしも行う必要はない。実施する場合、その手法は特に規定しないが、浸漬やスプレーでの吹き付け等により行う。この際、水洗を過剰に行うと無機皮膜表面の[AS]/[PS]が低下してしまう恐れもあるため、水洗時間や水温、水圧等は適宜調整することが肝要である。
【0035】
処理液ないしは水分の乾燥は、ブロアーや熱風炉、IHヒーター等により行う。所定時間内に水分が除去できれば良く、乾燥の温度は特に規定しないが、経済合理性の観点から200℃以下であることが好ましい。
【0036】
皮膜中の各元素及びイオンの含有量については、皮膜をクロム酸で溶解した液をICP発光分析法等を用いて測定することができる。オキソ酸イオンについては、オキソ酸を構成する元素である塩素、硫黄、その他ハロゲンイオンの含有量を上記手法で測定することで、皮膜中のmol濃度を得ることができる。また、ICP発光分析法等を使って作成した検量線を用いて、蛍光X線で皮膜表面に存在する元素の量を定量評価してもよい。オキソ酸の種類については、皮膜表面および皮膜中の塩素、硫黄の存在状態を光電子分光法(XPS)等を用いて同定することができる。なお、上記分析を行う前には、ヘキサンやエタノールを用いて試料を超音波洗浄し、表面の油や汚れを除去する。
【実施例0037】
実施例を用いて本発明を非限定的に説明する。
無機皮膜を付与する亜鉛めっき鋼板には合金化溶融亜鉛めっき鋼板(AS、Fe:10mass%、Al:0.2mass%、残Zn)、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)を用い、表1に示す条件の処理液をロールコーターで塗布した後に熱風乾燥炉内において50℃で乾燥させ、皮膜を形成した。
【0038】
【表1】
【0039】
<化成処理性>
試料には、上記の無機潤滑皮膜を付与しためっき鋼板に防錆油(日本パーカライジング社製ノックスラスト550HN)を片面2.0g/m2付与した試料を用いた。脱脂液の能力を劣化させる目的で、上記防錆油を5g/L、鉄と亜鉛をそれぞれ100ppm添加した脱脂液ファインクリーナー4380(40℃、日本パーカライジング社製)に90s浸漬した。その後、表面調整剤パーコレンZ(日本パーカライジング製)に30s浸漬し、PB-3080(日本パーカライジング社製、液温43℃)に90s浸漬した。化成処理皮膜の判定は、SEM観察(2次電子線像)により行い、下記評価基準の◎、○を合格とした。
評価基準:
◎:結晶サイズが1~10μmの化成皮膜が緻密に形成。
○:結晶サイズにムラはあるが、1~10μmの化成皮膜が透けなく緻密に形成。
△:化成皮膜は透けなく形成しているが、サイズが10μm超の結晶あり
×:化成皮膜が一部形成していない
【0040】
<摺動性>
皮膜形成処理後のサンプルを幅17mm、長さ300mmに切り出し、ノックスラスト550HN(日本パーカライジング社製)を1g/m2塗油後に、引張り速度500mm/minでドロービード試験を行った。押さえ荷重を200~800kgf(1.96×103~7.84×103N)と変化させて引き抜き荷重を測定し、押さえ荷重を横軸としたプロットから傾きを求め、これを1/2倍して、摩擦係数とし、下記評価基準の◎、○を合格とした。
評価基準:
◎:摩擦係数が0.15未満
○:摩擦係数が0.20未満
△:摩擦係数が0.20以上0.30未満
×:摩擦係数が0.30超
【0041】
<外観評価>
皮膜形成後の亜鉛めっき鋼板の外観ムラを目視により評価した。観察面積は210mm×300mmとし、以下の基準で評価し、下記評価基準の○を合格とした。
評価基準:
○:目視で確認できるムラは存在しない。
△:目視で確認できる明確なムラは面積率で50%未満である。
×:目視で確認できる明確なムラは面積率で50%以上である。
【0042】
表1に示すように、本発明の範囲内の条件で製造したサンプル(水準1~31)については、良好な化成処理性、摺動性に優れ、外観も良好な亜鉛めっき鋼板を得ることができた。
【0043】
このうち、水準8、17は化成処理性は合格レベルであったものの、無機皮膜表面の[AS]/[PS]がやや低かったため、若干化成皮膜の結晶サイズにムラが見られた。
【0044】
一方、比較例である水準32~34では、皮膜中の元素A群の総量が本発明範囲よりも少なく、十分な化成処理性を得ることができなかった。また、水準35では、皮膜中の元素A群の総量が本発明範囲よりも多く、十分な摺動性を得ることができなかった。
【0045】
水準36、37では、皮膜中のP量もしくはMn量が本発明範囲よりも少なく、十分な摺動性を得ることができなかった。水準38、39では、処理液に強酸である硫酸、塩酸を添加したため、処理ムラによる外観ムラが発生した。
図1
図2