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特開2024-1354851液水系プライマー組成物、及び建築外壁の改修工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135485
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】1液水系プライマー組成物、及び建築外壁の改修工法
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20240927BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240927BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240927BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240927BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/00 D
C09D5/02
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046193
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松崎 亮弥
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG001
4J038GA07
4J038JC30
4J038JC35
4J038KA03
4J038MA10
4J038MA13
4J038NA12
4J038NA27
4J038PA07
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】建物の外壁に形成された光触媒を含む下地に対する優れた付着性と、環境安全性を備えた1液水系プライマー組成物、及び建築外壁の改修工法を提供する。
【解決手段】アクリル樹脂系エマルジョンと、成膜助剤と、シランカップリング剤と、架橋剤と、を含み、シランカップリング剤は反応性官能基としてエポキシ基を有し、組成物全体100重量部中2.0~5.0重量部であり、架橋剤は組成物全体100重量部中0.3~1.8重量部であることを特徴とする1液水系プライマー組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂系エマルジョンと、成膜助剤と、シランカップリング剤と、架橋剤と、を含み、
シランカップリング剤は反応性官能基としてエポキシ基を有し、組成物全体100重量部中2.0~5.0重量部であり、
架橋剤は組成物全体100重量部中0.3~1.8重量部であることを特徴とする1液水系プライマー組成物。
【請求項2】
前記架橋剤は、カルボジイミド基、オキサゾリン基、ヒドラジド基、およびアジリジン基からなる群より選ばれた1種以上の官能基を有することを特徴とする請求項1記載の1液水系プライマー組成物。
【請求項3】
下地の上にプライマー組成物を塗布して乾燥させ、この上に、アクリル樹脂系エマルジョンを含む塗材仕上げ組成物を塗布して乾燥させる建築外壁の改修工法であって、
該プライマー組成物は、請求項1または請求項2記載の1液水系プライマー組成物であって、塗布量0.05~0.15kg/mで塗布することを特徴とする建築外壁の改修工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の外壁に形成された光触媒を含む下地に対する優れた付着性と、環境安全性を備えた1液水系プライマー組成物、及び建築外壁の改修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の外壁の改修に用いる塗料として、特許文献1には、親水化処理された窯業基材の表面を被覆する塗膜を形成するために用いられる、シーラー塗料組成物であって、エポキシ樹脂(A)と、ポリアミン(B)と、シランカップリング剤(C)と、を含み、前記エポキシ樹脂(A)は、一分子中に平均炭素数が5以上である複数のアルキル基又はシクロアルキル基を有する弱溶剤可溶型の変性エポキシ樹脂であり且つ一分子中にエポキシ基を2個以上有しエポキシ当量が150~1500であり、前記ポリアミン(B)は、脂肪族ポリアミン及びその変性物の少なくとも一方であり、前記シランカップリング剤(C)は、エポキシ基又はアミノ基を有するアルコキシシランであり、前記エポキシ樹脂(A)及び前記ポリアミン(B)の合計質量に対する前記シランカップリング剤(C)の質量は、3~10質量%であり、前記シーラー塗料組成物の全質量における、エポキシ樹脂(A)及びポリアミン(B)の合計固形分含有量は、10~70質量%であるシーラー塗料組成物が公開されている。
【0003】
また、特許文献2には、建築外装材を補修する方法であって、該建築外装材の表面上の旧塗膜を剥離又は除去することなく、該旧塗膜上の汚染物質を除去した後、該旧塗膜上にシーラーとして、水分散液(A)と密着付与剤(C)を含有する水性下塗塗料を塗布し、下塗塗膜を形成する工程と、該下塗り塗膜上に水分散液(B)を含有する水性上塗塗料を塗布し、上塗塗膜を形成する工程と、を含み、前記建築外装材が、意匠性を有するサイディングボードであり、前記水分散液(A)及び前記水分散液(B)が、アクリルシリコン樹脂エマルションを含み、前記密着付与剤(C)が、エポキシ基含有シランカップリング剤を含むことを特徴とする建築外装材の補修方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5721199号公報
【特許文献2】特許第6284291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のシーラー塗料組成物は、2液型であるため塗布前に混合する手間がかかるという課題があり、また、弱溶剤型であるため環境安全性に欠ける場合があるという課題があった。
【0006】
また、特許文献2記載の建築外装材の補修方法で使用する水性下塗塗料は、光触媒を含む下地に対して十分な付着性を有さない場合があるという課題があった。
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、光触媒を含む下地に対する優れた付着性と、環境安全性を備えた1液水系プライマー組成物、及び建築外壁の改修工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために請求項1記載の発明は、アクリル樹脂系エマルジョンと、成膜助剤と、シランカップリング剤と、架橋剤と、を含み、
シランカップリング剤は反応性官能基としてエポキシ基を有し、組成物全体100重量部中2.0~5.0重量部であり、
架橋剤は組成物全体100重量部中0.3~1.8重量部であることを特徴とする1液水系プライマー組成物を提供する。
【0009】
また請求項2記載の発明は、前記架橋剤は、カルボジイミド基、オキサゾリン基、ヒドラジド基、およびアジリジン基からなる群より選ばれた1種以上の官能基を有することを特徴とする請求項1記載の1液水系プライマー組成物を提供する。
【0010】
また請求項3記載の発明は、下地の上にプライマー組成物を塗布して乾燥させ、この上に、アクリル樹脂系エマルジョンを含む塗材仕上げ組成物を塗布して乾燥させる建築外壁の改修工法であって、
該プライマー組成物は、請求項1または請求項2記載の1液水系プライマー組成物であって、塗布量0.05~0.15kg/mで塗布することを特徴とする建築外壁の改修工法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の1液水系プライマー組成物は、優れた付着性を有するという効果があり、特に従来の水系プライマーでは難付着性を示した光触媒を含む下地に対しても十分な付着性を有するという効果がある。
【0012】
また、本発明の1液水系プライマー組成物は、1液型であるため塗布前に混合する手間がかからないという効果があり、また水系であるため環境や作業者に悪影響を与えないという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。尚、本願における「光触媒を含む下地」とは、サイディングに光触媒を含むセラミックコートが施された下地(所謂、光触媒サイディング)や、無機または有機塗装のトップコートが光触媒を含む下地等を意味する。
【0014】
本発明の1液水系プライマー組成物は、アクリル樹脂系エマルジョンと、成膜助剤と、シランカップリング剤と、架橋剤と、を含み、シランカップリング剤は反応性官能基としてエポキシ基を有し、組成物全体100重量部中2.0~5.0重量部であり、架橋剤は組成物全体100重量部中0.3~1.8重量部であることを特徴とする1液水系プライマー組成物であり、該1液水系プライマー組成物には、必要に応じてこれらの他に分散剤、消泡剤、防腐剤、凍結防止剤、湿潤剤、浸透剤等の添加剤を配合することができる。
【0015】
<アクリル樹脂系エマルジョン>
本発明に使用するアクリル樹脂系エマルジョンは、アクリル酸エステル系共重合樹脂、酢酸ビニル・アクリル酸エステル系共重合樹脂、シリコン変性アクリル樹脂等のアクリル樹脂系エマルジョンを使用することができる。アクリル樹脂とするアクリル系単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、n-アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、等を使用することができる。
【0016】
他の不飽和単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、及びクロトン酸等のカルボキシル基含有単量体;(メタ)アクリル酸や、クロトン酸、イタコン酸;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや、2(3)-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、アリルアルコール、多価アルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等の水酸基含有単量体;(メタ)アクリルアミドや、マレインアミド等のアミド基含有単量体;2-アミノエチル(メタ)アクリレートや、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3-アミノプロピル(メタ)アクリレート、2-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン等のアミノ基含有単量体;グリシジル(メタ)アクリレートや、アリルグリシジルエーテル、2個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物と活性水素原子を有するエチレン性不飽和単量体との反応により得られるエポキシ基含有単量体やオリゴノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、3-(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、及び3-(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有単量体;その他、酢酸ビニル、塩化ビニル、更には、エチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、ジアルキルフマレート等を使用することができる。
【0017】
アクリル樹脂系エマルジョン中の樹脂のガラス転移温度は-30~40℃が好ましい。ガラス転移温度が-30℃未満の場合は塗膜表面にタックが生じて汚れやすくなり上塗りとの付着性が不良となる場合があり、40℃超の場合は成膜不良となる場合がある。ここでいうガラス転移温度は、示差走査熱量計(Differential scanning calorimetry、DSC)によって測定される値である。また、本発明に使用する組成物100重量部中の樹脂固形分は5.0~25.0重量部が好ましく、5.0重量部未満では付着性、塗布作業性が低下する場合があり、また25.0重量部超では粘度が上昇し塗布作業性が低下する場合がある。市販のアクリル樹脂系エマルジョンとしては、ポリゾールAP-1350(固形分:32%、樹脂のガラス転移温度:13℃、アクリル酸エステルの重合体、昭和電工株式会社製、商品名)等がある。
【0018】
<成膜助剤>
本発明に使用する成膜助剤は、エマルジョンのポリマー粒子の融着を促進し、ポリマーによる均一な皮膜を形成させることを目的で配合する。例えば、エチレングリコールジエチルエーテル、ベンジルアルコール、ブチルセロソルブ、エステルアルコール等を使用することができる。成膜助剤の配合量は組成物100重量部中0.5~10重量部が好ましく、0.5重量部未満では低温での成膜が不十分となる場合があり、10重量部超では塗膜表面に汚れが付着し易くなり上塗りとの付着性が不良となる場合がある。
【0019】
<シランカップリング剤>
本発明に使用するシランカップリング剤は、下地との付着性を向上させる目的で配合し、下記の架橋剤と組み合わせて用いることにより優れた付着性が得られる。シランカップリング剤は1分子中に2個以上の異なる反応基を有し、無機質材料と化学結合する加水分解性基と、有機質材料と化学結合する反応性官能基とから成る。本発明で使用するシランカップリング剤としては、加水分解性基としてメトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基を有し、反応性官能基として少なくともエポキシ基を有するものを使用できる。多くのシランカップリング剤は加水分解性基を複数有するが、加水分解性基の種類は単一であってもよいし異なっていてもよい。加水分解性基と反応性官能基の組み合わせにより種々のシランカップリング剤が存在するが、本発明においては1種または2種以上のシランカップリング剤を組み合わせて使用することもできる。
【0020】
シランカップリング剤の配合量は、組成物全体100重量部中2.0~5.0重量部が好ましく、2.5~4.0重量部であることがより好ましい。2.0重量部未満では十分な付着性が得られない場合があり、5.0重量部超では凝集物が生じる場合があり、2.5~4.0重量部であるとより良好な付着性が得られる。市販のシランカップリング剤としては例えば、KBM-403(3-グリシドキシプロピルメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、商品名)や、KBE-403(3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業株式会社製、商品名)等を使用できる
【0021】
本発明の1液水系プライマー組成物を長期間保管する場合や短期間だが高温環境で保管する場合には、保存安定性の観点からシランカップリング剤を使用直前に配合することも可能である。
【0022】
<架橋剤>
本発明に使用する架橋剤は、前記シランカップリング剤と同様に下地との付着性を向上させる目的で配合し、前記シランカップリング剤と組み合わせて用いることにより優れた付着性が得られる。本発明で使用する架橋剤としては、カルボジイミド基、オキサゾリン基、ヒドラジド基、アジリジン基等の官能基を有する化合物を使用でき、この内いずれか1つまたは2つ以上を併せて使用してもよい。特にカルボジイミド基、ヒドラジド基、及びアジリジン基のいずれかを有する架橋剤を使用すると付着性の向上に大きく寄与するためより好ましい。
【0023】
架橋剤の配合量は、組成物全体100重量部中0.3~1.8重量部が好ましく、0.5~1.3重量部であることがより好ましい。0.3重量部未満では十分な付着性が得られない場合があり、1.8重量部超では塗膜物性が低下する場合がある。市販の架橋剤としては例えば、カルボジライトV-04(ポリカルボジイミド化合物、日清紡ケミカル株式会社製、商品名)や、ケミタイトPZ-33(アジリジン化合物、株式会社日本触媒製、商品名)等を使用できる。また、架橋剤が前記アクリル樹脂系エマルジョンに予め配合された架橋型アクリル樹脂系エマルジョンも使用できる。この場合の架橋剤の配合量も前記同様である。このような市販の架橋型アクリル樹脂系エマルジョンとしては、アクロナールYJ2720D(架橋剤:ヒドラジド化合物、BASFジャパン株式会社製、商品名)等を使用できる。
【0024】
前記シランカップリング剤と前記架橋剤を組み合わせて用いることにより付着性を大きく向上させるという効果が得られる。特には従来のプライマーでは難付着性を示した光触媒を含む下地に対しても問題なく付着させることができる、という点が本発明の1液水系プライマー組成物の特徴である。
【0025】
本発明の1液水系プライマー組成物には、上記の他に、一般的な水系組成物に使用される分散剤、消泡剤、防腐剤、凍結防止剤、湿潤剤、浸透剤等を配合することができる。
【0026】
本発明の1液水系プライマー組成物は、光触媒サイディング下地や光触媒を含んだ無機または有機塗装の上に塗布することができる。また、一般的な建物の外壁の下地であるモルタル下地、コンクリート下地、プレキャスト・コンクリートパネル(PCパネル)下地等の上にも塗布することができる。
【0027】
本発明の1液水系プライマー組成物の塗布においては、ローラー刷毛を使用することができる。塗布量は0.05~0.15kg/mが好ましく、0.05kg/m未満であると十分な付着性が確保できなくなる場合があり、0.15kg/m超であるとダレが生じる場合がある。尚、下地への吸収が激しい場合には、ダレが生じない範囲で2回以上繰り返し塗布することが好ましい。塗布にはローラー刷毛を使用することが好ましいが、前記塗布量に塗布できるのであれば他の施工道具を使用しても良い。
【0028】
本発明の1液水系プライマー組成物を塗布して形成したプライマー層の上に、JISA 6909の建築用仕上塗材の規定に準ずる塗材仕上げ組成物を塗布して塗材仕上げ層を形成することで、プライマー層と塗材仕上げ層を含む塗材仕上げ構造を形成することができる。該塗材仕上げ構造を、劣化した既存の塗材仕上げ構造、塗装、またはサイディングの上に形成することで、建築外壁の改修をすることができる。
【0029】
本発明は1液水系プライマー組成物であって、1液であることに特徴がある。尚、本願における1液とは、成膜に主剤と硬化剤とを要する2液反応型、若しくはそれ以外の剤を要する3液以上の反応型ではないという意味である。よって、製造上のコスト削減のためや原料の劣化防止のために、使用する直前にいくつかの原料をそれ以外の原料と混合し、あたかも2液以上の水系プライマー組成物として扱われる場合もあり得るが、このような場合の組成物も実質的に本発明に含まれるものである。
【0030】
以下、実施例及び比較例にて具体的に説明する。
【実施例0031】
<実施例及び比較例1から3>
表1及び表2の配合に従って、プライマー組成物を作製した。アクリル樹脂系エマルジョンとしてポリゾールAP-1350(固形分:32%、樹脂のガラス転移温度:13℃、アクリル酸エステルの重合体、昭和電工株式会社製、商品名)を使用し、架橋型アクリル樹脂系エマルジョンとしてアクロナールYJ2720D(架橋剤:ヒドラジド化合物、BASFジャパン株式会社製、商品名)を使用し、成膜助剤としてテキサノールCS-12(チッソ株式会社製、商品名)を使用し、シランカップリング剤としてKBM-403(3-グリシドキシプロピルメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、商品名)を使用し、架橋剤AとしてカルボジライトV-04(ポリカルボジイミド化合物、日清紡ケミカル株式会社製、商品名)を、架橋剤BとしてケミタイトPZ-33(アジリジン化合物、株式会社日本触媒製、商品名)を使用した。その他添加剤として、湿潤剤、浸透剤、防腐剤、及び消泡剤、を使用したが、これらは水系組成物用の市販品より適宜選択されるものである。これらの原料を均一に混合分散させ、実施例及び比較例1から3のプライマー組成物を作製した。
【0032】
<比較例4及び比較例5>
比較例4として、2液弱溶剤系プライマーであるリノペイントシーラーJS-RS(樹脂:エポキシ樹脂、溶媒:ミネラルスピリット、固形分:35重量%、アイカ工業株式会社製、商品名)を使用した。また、比較例5として、2液水系エポキシプライマーであるアレス水性エポレジン(樹脂:エポキシ樹脂、溶媒:水、固形分:60重量%、関西ペイント株式会社製、商品名)を使用した。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
<評価方法>
上記の実施例及び比較例について、以下の評価を行った。尚、特に記載のない限り、試験体の作製、養生、評価試験は23℃、50%RHの環境下にて行った。
【0036】
<付着性試験>
下地として光触媒サイディング(商品名:光セラ、KMEW社製)を70×70mm、厚さ16mmにカットしたものを使用し、実施例及び比較例のプライマー組成物を塗布量0.1kg/mで塗布し、16時間養生した。この上に上塗り材としてJC-870(アクリルシリコーン樹脂系塗料、アイカ工業株式会社製、商品名)を塗布量0.15kg/mで塗布し、4時間養生後、再度同上塗り材を塗布量0.15kg/mで塗布し、4日間養生し試験体とした。該試験体中央にX字の切り込み(長さ:40mm、交わり角度:30°)を、カッターナイフを用いて下地に達するまで入れ、セロハンテープ(接着部分長さ:50mm)を用い剥離試験を行い標準状態の付着性を確認した。また、該試験体の四側面をエポキシパテで止水処理した後、4日間水に浸漬させ、水中から取り出し24時間乾燥後、前記同様の剥離試験を行い浸水後の付着性を確認した。評価は以下の通り行った。
10:剥がれが全く無い
8:X字の切り込みの交点に剥がれが無く、交点以外にわずかな剥がれがある
6:X字の切り込みの交点からいずれかの方向に1.5mm以内の剥がれがある
4:X字の切り込みの交点からいずれかの方向に3.0mm以内の剥がれがある
2:X字の切り込みの大部分に剥がれがある
0:X字の切り込みよりも大きく剥がれる
上記のうち、10のものを◎と、8または6のものを〇と、4のものを△と、2または0のものを×と評価した。
【0037】
<温冷繰返し試験>
JIS A 6909に準拠した方法で試験体を作製して試験を行った。下地として光触媒サイディング(商品名:光セラ、KMEW社製)を70×70mm、厚さ16mmにカットしたものを使用し、実施例及び比較例のプライマー組成物を塗布量0.1kg/mで塗布し、16時間養生した。この上に上塗り材としてJC-870(アクリルシリコーン樹脂系塗料、アイカ工業株式会社製、商品名)を塗布量0.15kg/mで塗布し、4時間養生後、再度同上塗り材を塗布量0.15kg/mで塗布し、4日間養生し試験体とした。該試験体を、「23℃、18時間水浸漬」→「-20℃、3時間」→「50℃、3時間」のサイクルに10サイクル供し、塗膜表面の膨れの有無を目視にて観察した。膨れのないものを〇と、小さな膨れが発生したものを△と、それ以外のものを×と評価した。
【0038】
<環境安全性>
実施例及び比較例のプライマー組成物が、水系のものは環境安全性に優れるとして〇と、溶剤系のものは環境安全性が不良であるとして×と評価した。
【0039】
<作業簡易性>
実施例及び比較例のプライマー組成物が、1液型のものは施工の準備作業が簡易であり作業簡易性に優れるとして〇と、2液型のものは施工の準備作業に時間と労力を要し作業簡易性が不良であるとして×と評価した。
【0040】
<評価結果>
評価結果を表3及び表4に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】