(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135487
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】二酸化炭素の固定方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/62 20060101AFI20240927BHJP
B01D 53/83 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B01D53/62 ZAB
B01D53/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046195
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】竹本 智典
(72)【発明者】
【氏名】佐野 浩希
(72)【発明者】
【氏名】中務(春日) 友明
(72)【発明者】
【氏名】明戸 剛
(72)【発明者】
【氏名】一坪 幸輝
【テーマコード(参考)】
4D002
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC01
4D002AC05
4D002AC10
4D002BA03
4D002CA08
4D002CA20
4D002DA03
4D002DA66
4D002DA70
4D002EA01
4D002EA13
4D002FA02
4D002GA01
4D002GA03
4D002GB01
4D002GB03
4D002GB06
4D002GB20
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素含有ガス(例えば、工場の排ガス)に含まれている二酸化炭素(炭酸ガス)を、連続式でかつ大型の加熱炉を用いて、廃コンクリート等のセメント質硬化体に固定するための方法であって、二酸化炭素の固定を十分な量で安定して行うことができる方法を提供する。
【解決手段】連続式加熱炉1の筒状の収容部2の内部空間を、その軸線方向に2つ以上のゾーン13、14、15に分けて、最も大きな設定温度のゾーン13と最も小さな設定温度のゾーン15とで設定温度の差が30℃以上になるように、ゾーン13等の設定温度を定める工程と、筒状の収容部2の内部空間(温度及び相対湿度の実測値が80~150℃、35%以上に調整されたもの)にて、管12から供給された水蒸気の存在下で、管11から供給された二酸化炭素含有ガスと、セメント質硬化体を接触させて、セメント質硬化体に二酸化炭素を固定する工程、を含む二酸化炭素の固定方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素含有ガスを流通させるための筒状の収容部を有する連続式加熱炉の中に、セメント質硬化体を供給して、上記二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素を、上記セメント質硬化体に固定するための二酸化炭素の固定方法であって、
上記筒状の収容部の内部空間を、その軸線方向に2つ以上のゾーンに分けて、最も大きな設定温度のゾーンと最も小さな設定温度のゾーンとで設定温度の差が30℃以上になるように、上記2つ以上のゾーンについて、設定温度を定める設定温度調整工程と、
上記設定温度調整工程の後、上記設定温度の差を30℃以上に維持した状態で、上記筒状の収容部の一端から、上記セメント質硬化体を供給して、上記筒状の収容部の内部空間にて、水蒸気の存在下で上記セメント質硬化体と上記二酸化炭素含有ガスを接触させ、上記筒状の収容部の他端から、上記二酸化炭素を固定したセメント質硬化体を排出させるセメント質硬化体処理工程、
を含む二酸化炭素の固定方法。
【請求項2】
上記最も大きな設定温度のゾーンが、上記セメント質硬化体が供給される側に最も近いゾーンであり、かつ、上記最も小さな設定温度のゾーンが、上記セメント質硬化体が排出される側に最も近いゾーンである請求項1に記載の二酸化炭素の固定方法。
【請求項3】
上記筒状の収容部が、5~30mの長さを有する請求項1に記載の二酸化炭素の固定方法。
【請求項4】
上記連続式加熱炉が、外熱式のロータリーキルンである請求項1に記載の二酸化炭素の固定方法。
【請求項5】
上記水蒸気の単位時間当たりの供給量が、1kg/h以上であり、かつ、上記二酸化炭素含有ガスの単位時間当たりの供給量が、二酸化炭素に換算した値として、0.5Nm3/h以上である請求項1に記載の二酸化炭素の固定方法。
【請求項6】
上記筒状の収容部の内部空間の相対湿度の測定値が35%以上になるように、上記2つ以上のゾーンについて、上記設定温度を定める請求項1~5のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定方法。
【請求項7】
上記筒状の収容部の内部空間の温度の測定値が80~150℃になるように、上記2つ以上のゾーンについて、上記設定温度を定める請求項1~5のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素含有ガス(例えば、工場の排ガス)に含まれている二酸化炭素を、廃コンクリート等のセメント質硬化体に固定する技術が、知られている。
例えば、特許文献1に、セメント質硬化体に二酸化炭素含有ガス及び水蒸気を接触させて、前記セメント質硬化体上で炭酸化反応を生ぜしめ、当該セメント質硬化体に二酸化炭素を固定化するための反応部(例えば、ロータリーキルンを含むもの)と、前記反応部に前記セメント質硬化体を供給するセメント質硬化体供給部と、前記反応部に前記二酸化炭素含有ガスを供給する二酸化炭素含有ガス供給部と、前記反応部に水又は氷を供給する水供給部又は氷供給部と、を備え、前記反応部は水の75℃以上の温度に保持され、前記水蒸気は前記水又は前記氷が前記反応部に供給されることにより生成されることを特徴とする、二酸化炭素の固定化装置が、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素をセメント質硬化体に固定する技術において、当該固定のための手段である加熱炉として、連続式でかつ大型のものを用いる場合、加熱炉の中の各種の雰囲気(例えば、温度)を、目的とする雰囲気になるように正確に制御することは、困難である。その結果、二酸化炭素を十分かつ安定した量で固定することが困難という問題がある。
本発明の目的は、二酸化炭素含有ガス(例えば、工場の排ガス)に含まれている二酸化炭素(炭酸ガス)を、廃コンクリート等のセメント質硬化体に固定する技術において、二酸化炭素を固定するための手段である加熱炉として、連続式でかつ大型のものを用いる場合、加熱炉の中の各種の雰囲気(特に、温度及び相対湿度)を、目的とする雰囲気になるように正確に制御することができ、その結果、セメント質硬化体に二酸化炭素を十分かつ安定した量で固定することができる二酸化炭素の固定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、連続式加熱炉の筒状の収容部の内部空間を、その軸線方向に2つ以上のゾーンに分けて、これら2つ以上のゾーンについて、最も大きな設定温度のゾーンと最も小さな設定温度のゾーンとで設定温度の差が30℃以上になるように、設定温度を定め、次いで、水蒸気の存在下でセメント質硬化体と二酸化炭素含有ガスを接触させて、二酸化炭素の固定化を行なえば、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は、以下の[1]~[7]を提供するものである。
[1] 二酸化炭素含有ガスを流通させるための筒状の収容部を有する連続式加熱炉の中に、セメント質硬化体を供給して、上記二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素を、上記セメント質硬化体に固定するための二酸化炭素の固定方法であって、上記筒状の収容部の内部空間を、その軸線方向に2つ以上のゾーンに分けて、最も大きな設定温度のゾーンと最も小さな設定温度のゾーンとで設定温度の差が30℃以上になるように、上記2つ以上のゾーンについて、設定温度を定める設定温度調整工程と、上記設定温度調整工程の後、上記設定温度の差を30℃以上に維持した状態で、上記筒状の収容部の一端から、上記セメント質硬化体を供給して、上記筒状の収容部の内部空間にて、水蒸気の存在下で上記セメント質硬化体と上記二酸化炭素含有ガスを接触させ、上記筒状の収容部の他端から、上記二酸化炭素を固定したセメント質硬化体を排出させるセメント質硬化体処理工程、を含む二酸化炭素の固定方法。
[2] 上記最も大きな設定温度のゾーンが、上記セメント質硬化体が供給される側に最も近いゾーンであり、かつ、上記最も小さな設定温度のゾーンが、上記セメント質硬化体が排出される側に最も近いゾーンである、上記[1]に記載の二酸化炭素の固定方法。
[3] 上記筒状の収容部が、5~30mの長さを有する、上記[1]又は[2]に記載の二酸化炭素の固定方法。
[4] 上記連続式加熱炉が、外熱式のロータリーキルンである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の二酸化炭素の固定方法。
[5] 上記水蒸気の単位時間当たりの供給量が、1kg/h以上であり、かつ、上記二酸化炭素含有ガスの単位時間当たりの供給量が、二酸化炭素に換算した値として、0.5Nm3/h以上である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の二酸化炭素の固定方法。
[6] 上記筒状の収容部の内部空間の相対湿度が35%以上になるように、上記2つ以上のゾーンについて、上記設定温度を定める、上記[1]~[5]のいずれかに記載の二酸化炭素の固定方法。
[7] 上記筒状の収容部の内部空間の温度の測定値が80~150℃になるように、上記2つ以上のゾーンについて、上記設定温度を定める、上記[1]~[6]のいずれかに記載の二酸化炭素の固定方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、二酸化炭素(炭酸ガス)の固定手段である加熱炉として、連続式でかつ大型のもの(例えば、外熱式のロータリーキルン)を用いる場合であっても、セメント質硬化体に対して、二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素を十分かつ安定した量で(換言すると、大きな量でかつ経時的な変動が小さい量で)固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の二酸化炭素の固定方法で用いる連続式加熱炉の一例を示す模式的な構成図である。
【
図2】本発明の二酸化炭素の固定方法で用いる連続式加熱炉の他の例を示す模式的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、被処理物であるセメント質硬化体としては、コンクリートからなる硬化体、モルタルからなる硬化体、または、セメントペーストからなる硬化体が挙げられる。
特に、廃棄物の利用促進の観点から、再生骨材や、コンクリートもしくはモルタルからなる建材の廃材(廃コンクリート等)や、セメントペースト硬化体の廃材や、レディーミクストコンクリートで発生するスラッジの硬化体等が、本発明において、好ましく用いられる。
セメント質硬化体は、二酸化炭素含有ガスとの接触面積を大きくして、固定される二酸化炭素の量を増大させるために、好ましくは、粒状物の形態を有する。
該粒状物の粒度は、好ましくは50mm以下、より好ましくは40mm以下、さらに好ましくは30mm以下、さらに好ましくは20mm以下、特に好ましくは10mm以下である。ここで、粒状物の粒度とは、その粒状物の最大寸法(例えば、断面が楕円の形状である場合、長軸の寸法)をいう。
【0010】
本発明において、二酸化炭素含有ガスとは、気体である二酸化炭素(炭酸ガス)を含むガスを意味する。
二酸化炭素含有ガスの例としては、工場の排ガス等が挙げられる。
工場の排ガスとしては、セメント工場の排ガスや、石炭火力発電所の排ガスや、塗装工場における排気処理で発生する排ガス等が挙げられる。
また、工場の排ガスとしては、工場の排ガスから分離及び回収してなる高純度化したガス(炭酸ガスの濃度を高めたガス)を用いることもできる。
二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素(炭酸ガス)の割合は、体積分率の値として、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上である。該割合が10%以上であると、セメント質硬化体に固定される二酸化炭素の量が大きくなり、大気中への二酸化炭素の排出量の削減の効果が大きくなることから、好ましい。
【0011】
本発明において、連続式加熱炉は、被処理物であるセメント質硬化体(通常、粒状物)を収容し移動させるための筒状(通常、円筒状)の収容部を有する。この筒状の収容部は、その軸線が水平に対して傾斜を有するため、該収容部の回転と共にセメント質硬化体を移動させることができる。
連続式加熱炉は、筒状の収容部の内部空間にて、高温の温度雰囲気下、及び、水蒸気の存在下で、セメント質硬化体と二酸化炭素含有ガスを接触させることによって、セメント質硬化体に、二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素(炭酸ガス)を固定することができる。
【0012】
連続式加熱炉の例としては、ロータリーキルン(外熱式または内熱式)、トンネル式加熱炉等が挙げられる。
中でも、外熱式のロータリーキルンは、筒状の収容部の内部空間の温度を制御し易い点で、本発明において好ましく用いられる。
なお、外熱式のロータリーキルンとは、被処理物を収容するための筒状の収容部の外周面に対して、外側から、複数のバーナー等の熱源を用いて加熱するものをいう。内熱式のロータリーキルンとは、被処理物を収容するための筒状の収容部の内部空間内に、高温のガス(例えば、工場内の廃熱によって生じる高温の排ガス)を流通させるものなどをいう。
【0013】
連続式加熱炉の筒状の収容部の内部空間の温度(測定値)は、好ましくは80~150℃、より好ましくは85~140℃、さらに好ましくは90~130℃、特に好ましくは95~120℃である。該温度が80℃以上であると、セメント質硬化体への二酸化炭素の固定量が、より大きくなる。該温度が150℃以下であると、セメント質硬化体への二酸化炭素の固定量が、より大きくなり、かつ、加熱に要するコストをより削減することができる。
上記内部空間の領域内の温度分布の中の最大値は、好ましくは85℃以上、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは95℃以上、特に好ましくは100℃以上である。
【0014】
上記内部空間の相対湿度(測定値)は、好ましくは35%以上、より好ましくは35~95%、さらに好ましくは36~90%、さらに好ましくは38~85%、特に好ましくは40~80%である。該値が35%以上であると、セメント質硬化体への二酸化炭素の固定量が、より大きくなる。該値が95%以下であると、水蒸気の供給量をより小さくすることができ、本発明の実施のコストをより削減することができる。
【0015】
上記内部空間の相対湿度(測定値)は、後述の2つ以上のゾーンについての設定温度の調整などによって、調整することができる。
水蒸気の単位時間(1時間)当たりの供給量(kg)は、相対湿度を好ましい範囲内に調整する観点から、好ましくは1kg/h以上、より好ましくは3kg/h以上、さらに好ましくは5kg/h以上、特に好ましくは7kg/h以上である。
該供給量の上限値は、水蒸気を発生させるコストの増大を避ける観点から、好ましくは50kg/h、より好ましくは30kg/h、さらに好ましくは20kg/h、特に好ましくは12kg/hである。
【0016】
本発明において、連続式加熱炉の筒状の収容部の内部空間(ただし、該内部空間とは、後述の
図1に示す筒状の加熱部5が存在する場合、加熱部5に対応する領域における筒状の収容部2の内部空間を意味する。)を、その軸線方向に2つ以上のゾーン(好ましくは、3つ以上のゾーン)に分けて、最も大きな設定温度のゾーンと最も小さな設定温度のゾーンとで設定温度の差が30℃以上になるように、これら2つ以上のゾーンについて、設定温度が定められる。
【0017】
本発明において、設定温度とは、連続式加熱炉に付属する温度調整機能を利用して設定可能な温度(例えば、後述の
図1中の筒状の加熱部5に取り付けられた加熱手段における設定温度)をいい、本発明で二酸化炭素含有ガスの流通などを行った場合に実際に測定される温度とは異なる。特に、連続式加熱炉が大型になるほど、連続式加熱炉に付属する温度調整機能による設定温度と、実際に測定される温度の差が、大きくなる。その理由として、加熱炉内の二酸化炭素含有ガスの流通や、加熱炉内の水蒸気の流通や、加熱炉内で被処理物(セメント質硬化体)が蓄熱することによる周囲の相対的な温度の低下や、加熱炉の鉄皮(外周面;例えば、
図1の筒状の加熱部5の外周面)からの放熱等が挙げられる。
【0018】
上記設定温度の差は、30℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上、特に好ましくは70℃以上である。該差が30℃以上であれば、筒状の収容部の内部空間における温度(測定値)及び相対湿度(測定値)を共に、好ましい範囲内に調整することができる。
上記設定温度の差の上限は、特に限定されないが、セメント質硬化体への二酸化炭素の固定量をより大きくする等の観点から、好ましくは130℃、より好ましくは120℃である。
【0019】
本発明において、2つ以上のゾーンの中で、最も大きな設定温度は、好ましくは、220~350℃の範囲内、より好ましくは、230~330℃の範囲内、特に好ましくは、240~300℃の範囲内である。該温度が220~350℃の範囲内であれば、筒状の収容部の内部空間における温度(測定値)及び相対湿度(測定値)を共に、より好ましい範囲内に調整し易くなる。
本発明において、2つ以上のゾーンの中で、最も小さな設定温度は、好ましくは、150~220℃の範囲内、より好ましくは、160~210℃の範囲内、特に好ましくは、170~200℃の範囲内である。該温度が150~220℃の範囲内であれば、筒状の収容部の内部空間における温度(測定値)及び相対湿度(測定値)を共に、より好ましい範囲内に調整し易くなる。
【0020】
本発明の好ましい実施形態の一つは、最も大きな設定温度のゾーンが、セメント質硬化体が供給される側に最も近いゾーンであり、かつ、最も小さな設定温度のゾーンが、セメント質硬化体が排出される側に最も近いゾーンであるものである。
この場合、筒状の収容部の内部空間の両端に位置するこれら2つのゾーンに挟まれた他の1つ以上のゾーンは、最も小さな設定温度以上で、かつ、最も大きな設定温度以下の温度を、設定温度として有する。
また、最も大きな設定温度のゾーン、及び、最も小さな設定温度のゾーンは、各々、ゾーンの長さ(換言すると、セメント質硬化体が移動する方向におけるゾーンの寸法)が適度のものであることが、好ましい。該ゾーンの長さは、好ましくは1~4m、より好ましくは1.5~3.5m、特に好ましくは2~3mである。
【0021】
本発明において、ゾーンの数が3つ以上である場合、これら3つ以上のゾーンのすべてについて設定温度を定めてもよいし、あるいは、最も大きな設定温度のゾーンと最も小さな設定温度のゾーンを除くゾーンのすべてについて、これらの実際の測定値がすべてのゾーンの中の最大値または最小値にならないと予測しうる限りにおいて、1つ以上のゾーンについて設定温度を定めることを省略してもよい。
本明細書中、ゾーンの中の「設定温度」、「温度の測定値」及び「相対湿度の測定値」とは、いずれも、ゾーンの長さ(換言すると、被処理物であるセメント質硬化体が移動する方向におけるゾーンの寸法)の半分の地点(中間地点)における値をいう。
【0022】
筒状の収容部の内部空間の圧力は、連続式加熱炉の周囲の大気圧に比べて、好ましくは、0Pa(大気圧と同じ)~300Paの減圧の範囲内に維持される。
なお、筒状の収容部の内部空間の圧力は、変動が大きいため、50Paの変動幅に収めることは困難であり、200Paの変動幅に収めるのが現実的である。
【0023】
本発明において、連続式加熱炉の筒状の収容部の内部空間に供給される二酸化炭素含有ガスの単位時間当たりの供給量は、セメント質硬化体への二酸化炭素の固定量をより大きくする観点から、二酸化炭素(炭酸ガス)に換算した値として、好ましくは0.5Nm3/h以上、より好ましくは1Nm3/h以上、さらに好ましくは5Nm3/h以上、さらに好ましくは10Nm3/h以上、さらに好ましくは15Nm3/h以上、特に好ましくは20Nm3/h以上である。
該供給量の上限は、特に限定されないが、二酸化炭素含有ガスのコストの過度な増大を避ける観点から、好ましくは50Nm3/h、より好ましくは40Nm3/h、特に好ましくは35Nm3/hである。
【0024】
連続式加熱炉の筒状の収容部の長さは、好ましくは5~30m、より好ましくは7~25m、さらに好ましくは8~20m、特に好ましくは10~15mである。
筒状の収容部の内径は、好ましくは0.3~3m、より好ましくは0.5~2.5m、さらに好ましくは0.8~2.0m、特に好ましくは1.0~1.5mである。
【0025】
次に、本発明の二酸化炭素の固定方法の実施形態例を、図面を参照して説明する。
図1中、連続式加熱炉(外熱式のロータリーキルン)1は、筒状の収容部(内筒)2(以下、収容部2と略す。)、駆動部3、支持部4、筒状の加熱部(外筒)5(以下、加熱部5と略す。)、供給フード6、セメント質硬化体の供給路7(以下、供給路7と略す。)、排ガス排出管8、排出フード9、炭酸化セメント質硬化体の排出路10(以下、排出路10と略す。)、二酸化炭素含有ガスの供給管11(以下、供給管11と略す。)、及び、水蒸気の供給管12(以下、供給管12と略す。)を備えている。
なお、供給管11と供給管12は、1つの管として兼用してもよい。
筒状の収容部2は、被処理物であるセメント質硬化体を収容して、セメント質硬化体の炭酸化(二酸化炭素の固定)を行うためのものである。
収容部2は、その一端が供給フード6の中に、気密性を確保しつつ回転可能に嵌合され、かつ、その他端が排出フード9の中に、気密性を確保しつつ回転可能に嵌合された状態で配設されている。
【0026】
駆動部3は、下方に位置する回転駆動装置(図示せず)によって回転するものであり、収容部2に固着されているため、収容部2を所望の速度で回転させることができる。
支持部4は、下方に位置する固定支持部(図示せず)によって、回転可能に支持されている。
筒状の加熱部5は、収容部2との間に加熱手段(図示せず)を介在させることができるように、収容部2に対して同心(中心が同じ)、かつ、収容部2の外径よりも大きな内径を有するものとして、配設されている。
また、筒状の加熱部5は、略円柱状の外形を有し、その両端面の内側が気密性を確保して収容部2の外周面に接しており、回転せずに固定された状態で配設されている。
上記加熱手段(図示せず)としては、収容部2と加熱部5の間に配設される複数のバーナーまたは複数のヒーター等が挙げられる。
なお、排ガスは、排ガス排出管8の途中に配設される集塵機(図示せず)によって固体分を回収した後、排出される。
【0027】
セメント質硬化体は、以下のようにして、二酸化炭素を固定する。
セメント質硬化体は、セメント質硬化体の供給路7から供給フード6に供給され、さらに、供給フード6から収容部2に移動する。次いで、セメント質硬化体は、進行方向(図中の符号Aで示す方向)に向かって下方に傾斜している収容部2の回転に伴って、排出フード9に向かって移動していく。
一方、収容部2の内部空間に、供給管11、12から各々、二酸化炭素含有ガス及び水蒸気が供給される。二酸化炭素含有ガス及び水蒸気(これら2つを総称して、以下、ガスと称する。)は、セメント質硬化体の進行方向とは逆の方向(図中の符号Bで示す方向)に向かって移動して、供給フード6に入った後、排ガス排出路8によって排出される。
なお、
図1に示すようにガスの流れの方向が、セメント質硬化体の移動の方向と逆であることを、本明細書中、向流と称する。また、
図2(後述)に示すようにガスの流れの方向が、セメント質硬化体の移動の方向と同じであることを、本明細書中、並流と称する。
【0028】
収容部2の内部空間は、ゾーン1(図中の符号13)、ゾーン2(図中の符号14)、及び、ゾーン3(図中の符号15)の計3つのゾーンに分けられている。これら3つのゾーンの各々について、設定温度が定められる。そして、これら3つの設定温度に応じて、収容部2の内部空間に配設される加熱手段(例えば、バーナー)の数(例えば、10個)、位置(例えば、等間隔)、及び、加熱の強さ(例えば、供給フード6に近いほど、加熱の強さを大きくする)を定める。
収容部2の内部空間内のセメント質硬化体は、水蒸気の存在下に、二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素(炭酸ガス)を、固体(炭酸カルシウム)の形態で固定し、二酸化炭素を固定したセメント質硬化体(以下、炭酸化セメント質硬化体と称する。)となる。
炭酸化セメント質硬化体は、排出フード9に移動した後、排出路10によって排出される。
【0029】
図2に示す他の実施形態例は、セメント質硬化体の移動の方向とガスの流れの方向を同じ(並流)にし、それに伴って、二酸化炭素含有ガス及び水蒸気の各供給管の位置を、セメント質硬化体の供給側に変更した以外は、
図1に示す実施形態例と同じである。
図2中、連続式加熱炉21は、筒状の収容部(内筒)22、駆動部23、支持部24、筒状の加熱部(外筒)25、供給フード26、セメント質硬化体の供給路27、排ガス排出管28、排出フード29、炭酸化セメント質硬化体の排出路30、二酸化炭素含有ガスの供給管31、及び、水蒸気の供給管32を備えている。
なお、供給管31と供給管32は、1つの管として兼用してもよい。
収容部22の内部空間は、ゾーン1(図中の符号33)、ゾーン2(図中の符号34)、及び、ゾーン3(図中の符号35)の計3つのゾーンに分けられている。
図2中、セメント質硬化体の進行方向は、符号Cで示している。ガス(二酸化炭素含有ガス及び水蒸気)の進行方向は、符号Dで示している。
【実施例0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
図1に示す加熱炉1(収容部2の長さ:12m;加熱部5の長さ:8m)において、収容部2の内部空間(上述のとおり、加熱部5に対応する領域におけるものであり、長さが8mの空間である。)を、加熱部5に対応させて3つのゾーン(各ゾーンの長さ:約2.7m)に分けた。供給フード6に近い側のゾーンは、以下、ゾーン1と称する。排出フード9に近い側のゾーンは、以下、ゾーン3と称する。ゾーン1とゾーン3に挟まれたゾーンは、以下、ゾーン2と称する。
【0031】
供給路7から供給フード6を介して収容部2の内部空間に、廃コンクリート破砕物を500kg/hの量で連続的に供給した。一方、供給管(
図1の符号11、12に相当;前流側で2つの供給管を合流させて1つの供給管とし、この1つの供給管を収容部2内に差し込む形とした。)から、27.3Nm
3/hの量の二酸化炭素含有ガス(炭酸ガス濃度:100%)、及び、8.8kg/hの量の水蒸気を、収容部2の内部空間に供給した。
【0032】
なお、収容部2の内部空間に供給した廃コンクリート破砕物は、アスファルト舗装用骨材である再生砕石の粒度に関する規定であるRC-40に相当するものであり、53mm篩の通過割合が100質量%、37.5mmの篩の通過割合が95~100質量%、19mmの篩の通過割合が50~80質量%、4.75mmの篩の通過割合が15~40質量%、2.36mmの篩の通過割合が5~25質量%の粒度分布を有するものである。
【0033】
加熱炉の設定温度は、ゾーン1で295℃、ゾーン2で215℃、ゾーン3で190℃とした。
その後、加熱炉1による廃コンクリート破砕物の炭酸化処理を開始し、ゾーン1の温度及び相対湿度、並びに、ゾーン3の温度及び相対湿度を測定した。
この際、温度及び相対湿度は、ゾーン1の中央の地点、及び、ゾーン3の中央の地点で、温湿度計(rotronic社製の「HygroPalm32」)を用いて測定した。
【0034】
[実施例2、比較例1~2]
設定温度を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
[実施例3、比較例3]
ガスの流れの向きを
図2に示すもの(並流)に変え、かつ、設定温度を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
以上の結果を表1に示す。
表1中、評価は、以下の基準で行った。
〇(良好):ゾーン1及びゾーン3のいずれについても、温度の測定値が80~150℃の範囲内であり、かつ、相対湿度の測定値が35%以上である。
×(悪い):ゾーン1及びゾーン3の少なくとも一方について、温度の測定値が80~150℃の範囲外、または、相対湿度の測定値が35%未満である。
【0035】
【0036】
表1から、実施例1~3では、いずれも、評価が良好であることがわかる。比較例1では、ゾーン3の相対湿度が15%であり、良好な範囲(35%以上)を外れている。比較例2では、ゾーン1の温度が75℃であり、良好な範囲(80~150℃)を外れており、かつ、ゾーン3の相対湿度が30%であり、良好な範囲(35%以上)を外れている。比較例3では、ゾーン1の相対湿度が30%であり、良好な範囲(35%以上)を外れている。
このように、本発明によれば、設定温度を特定の基準で調整するだけで、温度の測定値のみならず、相対湿度の測定値も、二酸化炭素の固定にとって好ましい数値範囲内に調整しうることがわかる。