(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135491
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】放熱シートおよび放熱シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/02 20060101AFI20240927BHJP
C23C 4/08 20160101ALI20240927BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20240927BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20240927BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240927BHJP
H05K 3/38 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C23C28/02
C23C4/08
B32B7/027
B32B15/04 Z
H01L23/36 D
H05K3/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046200
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】藤原 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 一輝
【テーマコード(参考)】
4F100
4K031
4K044
5E343
5F136
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AB01B
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5E343AA02
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5E343GG01
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5F136GA21
5F136GA40
(57)【要約】
【課題】グラファイトシートと金属膜との密着性を損なうことなく、接着剤を削減する放熱シートを提供する。
【解決手段】放熱シート1は、グラファイトシート10を備える放熱シートであって、グラファイトシート10の両面または片面に配置されており、金属粒子が連なって堆積した層構造を有する下地層21と、金属のめっき層22との積層構造を有する金属膜20を備え、前記グラファイトシート10の主面側からみて、前記下地層21における前記金属粒子の大きさは0.9μm以上500μm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイトシートを備える放熱シートであって、
前記グラファイトシートの両面または片面に配置されており、金属粒子が連なって堆積した層構造を有する下地層と、金属のめっき層との積層構造を有する金属膜を備え、
前記グラファイトシートの主面側からみて、前記下地層における前記金属粒子の大きさは0.9μm以上500μm以下である、
放熱シート。
【請求項2】
前記グラファイトシートの主面に沿う前記下地層の断面、および、前記グラファイトシートの主面に交差する前記下地層の断面において、前記金属粒子の粒界には隙間が存在し、
前記下地層における前記めっき層側の一部の前記金属粒子の粒界の隙間には、前記めっき層の一部が埋め込まれている、
請求項1に記載の放熱シート。
【請求項3】
前記グラファイトシートの主面に交差する断面において、前記グラファイトシートと前記下地層の前記金属粒子との境界には隙間が存在する、請求項1または2に記載の放熱シート。
【請求項4】
請求項1に記載の放熱シートの製造方法であって、
減圧溶射法を用いて、減圧環境下で、放電によって金属粒子を溶融させ、キャリアガスによって溶融された金属粒子を前記グラファイトシートに噴射し、前記グラファイトシート上に金属粒子を堆積させることにより、前記下地層を形成する工程と、
めっき法を用いて、前記下地層上に金属のめっき層を形成する工程と、
を含む、放熱シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱シートおよび放熱シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトシートを用いた放熱シートが知られている(例えば特許文献1参照)。このような放熱シートでは、半田との接合性を高めるために、グラファイトシートの表面に金属膜を配置するすることがある。また、このような放熱シートでは、グラファイトシートの表面に接着剤を塗布することにより、グラファイトシートと金属膜との密着性を高めることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、グラファイトシートと金属膜との密着性を損なうことなく、接着剤を削減する放熱シートおよび放熱シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る放熱シートは、グラファイトシートを備える放熱シートであって、前記グラファイトシートの両面または片面に配置されており、金属粒子が連なって堆積した層構造を有する下地層と、金属のめっき層との積層構造を有する金属膜を備え、前記グラファイトシートの主面側からみて、前記下地層における前記金属粒子の大きさは0.9μm以上500μm以下である。
【0006】
本発明に係る放熱シートの製造方法は、上記の放熱シートの製造方法であって、減圧溶射法を用いて、減圧環境下で、放電によって金属粒子を溶融させ、キャリアガスによって溶融された金属粒子を前記グラファイトシートに噴射し、前記グラファイトシート上に金属粒子を堆積させることにより、前記下地層を形成する工程と、めっき法を用いて、前記下地層上に金属のめっき層を形成する工程とを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、放熱シートにおいて、グラファイトシートと金属膜との密着性を損なうことなく、接着剤を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る放熱シートの側面を示す概略図である。
【
図2A】本実施形態に係る放熱シートの製造方法における金属膜の下地層形成工程を示す図である。
【
図2B】本実施形態に係る放熱シートの製造方法における金属膜のめっき層形成工程を示す図である。
【
図3】本実施形態の変形例に係る放熱シートの側面を示す概略図である。
【
図4A】
図1の放熱シートにおける金属膜の下地層の表面を撮像したSEM画像の一例である。
【
図4B】
図4AのIVB部分を拡大したSEM画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態の一例について説明する。なお、各図面において同一または相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。また、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、他の図面を参照するものとする。
【0010】
(放熱シート)
図1は、本実施形態に係る放熱シートの側面を示す概略図である。
図1に示すように、放熱シート1は、グラファイトシート10と、グラファイトシート10上に配置された金属膜20とを備える。
【0011】
グラファイトシート10は、絶縁性および高い熱伝導特性を有するシート状の放熱基材である。
【0012】
金属膜20は、グラファイトシート10上に配置されている。金属膜20は、グラファイトシート10上に順に配置された下地層21とめっき層22との積層構造を有する。
【0013】
下地層21は、後述するように、例えばCu、Al、Ni、Ag、Sn等の粒子状の金属材料を用いた減圧溶射法によって形成される。
図4Aは、金属膜20の下地層21の表面を撮像したSEM(Scanning Electron Microscope)画像の一例であり、
図4Bは、
図4AのIVB部分を拡大したSEM画像の一例である。
図4Aおよび
図4Bの例では、粒子径8μmの銅粉末を用いて減圧溶射した。
【0014】
図4Aおよび
図4Bの例に示すように、下地層21は、金属粒子が連なって堆積した層構造を有する。グラファイトシート10の主面側からみて、下地層21における金属粒子の大きさ(粒子径)は、0.9μm以上500μm以下であり、好ましくは0.9μm以上13μm以下である。
【0015】
また、グラファイトシート10の主面に沿う下地層21の断面において、金属粒子の粒界には隙間が存在する。また、グラファイトシート10の主面に交差する下地層21の断面において、金属粒子の粒界には隙間が存在する。また、グラファイトシート10の主面に交差する断面において、グラファイトシート10と下地層21の金属粒子との境界には隙間が存在する。
【0016】
めっき層22は、後述するように、例えばCu、Al、Ni、Ag、Sn等の金属材料を用いためっき法(電解めっき法または無電解めっき法)によって形成される。これにより、下地層21におけるめっき層22側の一部の金属粒子の粒界の隙間には、めっき層22の一部が埋め込まれている。
【0017】
(放熱シートの製造方法)
次に、
図2Aおよび
図2Bを参照して、本実施形態に係る放熱シートの製造方法について説明する。
図2Aは、本実施形態に係る放熱シートの製造方法における金属膜の下地層形成工程を示す図であり、
図2Bは、本実施形態に係る放熱シートの製造方法における金属膜のめっき層形成工程を示す図である。
【0018】
まず、
図2Aに示すように、グラファイトシート10の主面に、金属膜20の下地層21を形成する(金属膜の下地層形成工程)。例えば、粒子状の金属材料を用いた減圧溶射法を用いて、金属膜20の下地層21を形成する。減圧溶射法とは、減圧環境下で、
・プラズマ放電等の放電によって、粒子状の金属材料を溶融させ、
・キャリアガスによって、溶融粒子を対象物表面に噴射し、
・溶融粒子を対象物表面に堆積する、
製膜方法である。対象物表面に堆積した溶融粒子は、瞬時に冷却され、金属膜を形成する。
【0019】
これにより、上述したように、金属膜20の下地層21は、金属粒子が連なって堆積した層構造を有する。また、グラファイトシート10の主面に沿う金属膜20の下地層21の断面において、金属粒子の粒界には隙間が存在する。また、グラファイトシート10の主面に交差する金属膜20の下地層21の断面において、金属粒子の粒界には隙間が存在する。また、グラファイトシート10の主面に交差する断面において、グラファイトシート10と金属膜20の下地層21の金属粒子との境界には隙間が存在する。
【0020】
次に、
図2Bに示すように、めっき法(電解めっき法または無電解めっき法)を用いて、下地層21上にめっき層22を形成する(金属膜のめっき層形成工程)。これにより、下地層21におけるめっき層22側の一部の金属粒子の粒界の隙間には、めっき層22の一部が埋め込まれる。
【0021】
以上の工程により、本実施形態の放熱シート1が得られる。
【0022】
以上説明したように、本実施形態の放熱シートの製造方法によれば、粒子状の金属材料を用いた減圧溶射法を用いて、金属膜20の下地層21を形成する。これにより、本実施形態の放熱シート1によれば、金属膜20の下地層21は、金属粒子が連なって堆積した層構造を有する。
【0023】
また、グラファイトシート10の主面に沿う金属膜20の下地層21の断面において、金属粒子の粒界には隙間が存在する。また、グラファイトシート10の主面に交差する金属膜20の下地層21の断面において、金属粒子の粒界には隙間が存在する。
【0024】
また、グラファイトシート10の主面に交差する断面において、グラファイトシート10と金属膜20の下地層21の金属粒子との境界には隙間が存在する。
【0025】
これにより、接着剤を削減しても、グラファイトシート10と金属膜20との密着性を高めることができる。これにより、グラファイトシート10と金属膜20との密着性を損なうことなく、接着剤を削減することができる。
【0026】
また、本実施形態の放熱シートの製造方法によれば、めっき法を用いて、金属膜20のめっき層22を形成する。これにより、本実施形態の放熱シート1によれば、金属膜20は、めっき層22を有し、放熱対象との密着性を高めることができる。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更および変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、グラファイトシート10の片面に金属膜20が配置された放熱シート1を例示した。しかし、本発明の放熱シートはこれに限定されず、
図3に示すように、グラファイトシート10の両面に金属膜20が配置された形態であってもよい。
【実施例0028】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
図1に示す本実施形態の放熱シートを実施例1として作製した。実施例1の放熱シートの主な構成は以下の通りである。
グラファイトシート10
金属膜20:Cu溶射下地層21およびCuめっき層22
Cu溶射下地層21の膜厚:3μm
Cuめっき層22の厚さ;3μm
【0030】
(実施例2)
実施例2の放熱シートは、実施例1と比較して、主に以下の点で異なる。
Cuめっき層22の厚さ;10μm
【0031】
(比較例1)
比較例1の放熱シートは、実施例1と比較して、主に以下の点で異なる。
金属膜20:Cu溶射下地層21のみ
Cu溶射下地層21の膜厚:3μm
【0032】
(比較例2)
比較例2の放熱シートは、実施例1と比較して、主に以下の点で異なる。
金属膜20:Cuめっき層22のみ
Cuめっき層22の厚さ;10μm
【0033】
(評価)
実施例および比較例の放熱シートの評価として、
・グラファイトシート10と金属膜20との密着性
・金属膜20の表面の平滑性(表面粗さ)
・金属膜20の表面の加工性(半田接合性)
を測定した。
【0034】
グラファイトシート10と金属膜20との密着性の評価では、サンプル数3個において、JIS-H8504規格に準拠したピーリング剥離試験を行った。3個全てにおいて金属膜20が剥離しなかった場合には「◎」とし、3個中2個以上において金属膜20が剥離しなかった場合(換言すれば、1個において金属膜20が剥離してしまった場合)には「〇」とし、3個全てにおいて金属膜20が剥離してしまった場合には「×」とした。
【0035】
金属膜20の表面の平滑性(表面粗さ)の評価では、サンプル数1個において、最大高さ粗さRz(JIS B061:2013、ISO 1365-1)の評価を行った。最大高さ粗さRzが0.5μm未満である場合には「◎」とし、最大高さ粗さRzが0.5μm以上1.0μm以下である場合には「〇」とし、最大高さ粗さRzが1.0mを超える場合には「×」とした。
【0036】
金属膜20の表面の加工性(半田接合性)の評価では、サンプル数3個において、JIS-Z3198-8、JIS-K6855に準拠したツィーザーピール強度試験を行った。3個全てにおいて半田の接合性が良好であった場合には「◎」とし、3個中2個以上において半田の接合性が良好であった場合(換言すれば、1個において半田の接合性が不良であった場合)には「〇」とした。
【0037】
【0038】
比較例1(Cu溶射下地層21のみ)では、グラファイトシート10と金属膜20との密着性、および、金属膜20の表面の加工性(半田接合性)は比較的に高いが、金属膜20の表面の平滑性(表面粗さ)が低い。そのため、放熱シートと放熱対象との密着性が低いことが予想される。
【0039】
一方、比較例1(Cuめっき層のみ)では、そもそも接着剤を用いないと、金属膜20がグラファイトシート10から剥離してしまい、評価ができなかった。なお、Cuめっき層によれば、金属膜20の表面の平滑性(表面粗さ)、および、金属膜20の表面の加工性(半田接合性)は高いことが予想される。
【0040】
これに対して、実施例1および2によれば、Cu溶射下地層21による利点により、グラファイトシート10と金属膜20との密着性が高い。また、実施例1および2によれば、Cuめっき層22による利点により、金属膜20の表面の平滑性(表面粗さ)、および、金属膜20の表面の加工性(半田接合性)が高い。