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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135509
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046227
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 勇作
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246BA02
3D246DA01
3D246GA22
3D246GB21
3D246GB30
3D246GC14
3D246HA03A
3D246HA04A
3D246HA64A
3D246HA86B
3D246HA94A
3D246HB08B
3D246JA03
3D246JB03
3D246JB05
3D246JB11
3D246JB12
3D246JB27
3D246JB28
3D246JB32
3D246JB33
3D246LA02Z
3D246LA12Z
(57)【要約】
【課題】減補正制御が実行されている最中で運転者が制動操作部材の操作量を増大させた際に、当該運転者の意図に応じた減速度を車両に発生させること。
【解決手段】制動制御装置50の処理回路51は、車両10を停車させるべく制動操作部材11を操作している場合に、停車に伴う車両10の姿勢変化を抑制すべく要求制動力よりも小さい指示制動力を車両10に付与する減補正制御を実行する。処理回路51は、減補正制御の実行中に操作量が増大していることを判定する操作量増大判定部M18と、操作量増大判定部M18により操作量が増大していることが判定されている場合に、指示制動力と要求制動力との差が小さくなるように、当該指示制動力を増大させる指示値増大部M19として機能する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者が走行中の前記車両を停止させるべく前記車両の制動操作部材を操作している場合に、停車に伴う前記車両の姿勢変化を抑制すべく、前記運転者による前記制動操作部材の操作量に対応する制動力である要求制動力よりも小さい指示制動力を前記車両に付与する減補正制御を実行する制動制御装置であって、
前記減補正制御の実行中に前記操作量が増大していることを判定する操作量増大判定部と、
前記操作量増大判定部により前記操作量が増大していることが判定されている場合に、前記指示制動力と前記要求制動力との差が小さくなるように、当該指示制動力を増大させる指示値増大部と、を備える
制動制御装置。
【請求項2】
前記減補正制御の実行中に前記操作量が減少していることを判定する操作量減少判定部と、
前記操作量減少判定部により前記操作量が減少していることが判定されている場合に、所定の減少速度と前記要求制動力の減少速度とのうちの大きい方の減少速度で前記指示制動力を減少させる指示値減少部と、を備える
請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
車輪の回転速度に応じてパルス信号を出力する車輪速センサを備える車両に適用され、
前記車両が停止するまでに走行する距離又は前記車両が停止するまでの車速を、停車関連値として取得する停車関連値取得部と、
前記制動力が前記要求制動力未満である状況下で、前記停車関連値が判定停車関連値未満になった時点から前記車輪速センサが出力した前記パルス信号に含まれるパルス数が、前記判定停車関連値に応じた前記パルス数である判定数以上になった場合に、前記指示制動力を増大させる縮退処理部と、を備える
請求項1又は請求項2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
車両の走行路の勾配である路面勾配を検出する勾配検出センサを備える車両に適用され、
前記減補正制御の開始前における、前記勾配検出センサの検出信号に応じた出力値である基準出力値から、前記勾配検出センサの検出信号に応じた出力値が乖離したと判定した場合に、前記指示制動力を増大させる縮退処理部を備える
請求項1又は請求項2に記載の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に付与する制動力を制御する制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、モータジェネレータが発生させる回生制動力と、油圧アクチュエータが発生させる摩擦制動力とを用いて車両停止時における車両姿勢の変化を抑制する制動制御を実行する制御装置を開示している。当該制御装置は、車速が所定速度以下になると、回生制動力が0(零)に向けて減少するようにモータジェネレータを制御する。そして、当該制御装置は、車速が0(零)となると、油圧アクチュエータを作動させることによって摩擦制動力を増大させる。これにより、当該制御装置は、車両停止時における車両の姿勢の急な変化を抑制しつつ、車両が停止する状態を維持できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-28913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両停止時における車両の姿勢の急な変化を抑制することを目的として制動力を減少させる制動制御を実行している最中に、運転者がブレーキペダルの操作量を増大させることがある。すなわち、当該制動制御が実行されている場合にあっては、こうした運転者のブレーキペダルの操作と当該制動制御とが緩衝することが懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための制動制御装置は、車両の運転者が走行中の前記車両を停止させるべく前記車両の制動操作部材を操作している場合に、停車に伴う前記車両の姿勢変化を抑制すべく、前記運転者による前記制動操作部材の操作量に対応する制動力である要求制動力よりも小さい指示制動力を前記車両に付与する減補正制御を実行する装置である。当該制動制御装置は、前記減補正制御の実行中に前記操作量が増大していることを判定する操作量増大判定部と、前記操作量増大判定部により前記操作量が増大していることが判定されている場合に、前記指示制動力と前記要求制動力との差が小さくなるように、当該指示制動力を増大させる指示値増大部と、を備えている。
【発明の効果】
【0006】
上記制動制御装置は、減補正制御が実行されている最中で運転者が制動操作部材の操作量を増大させた際に、当該運転者の意図に応じた減速度を車両に発生させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1実施形態の制動制御装置を備えた車両の概略を示す構成図である。
図2図2は、停止時制動制御が実行された場合の制動力及び残走行距離の推移を示すタイミングチャートである。
図3図3は、図1の制動制御装置が備える処理回路が実行する一連の処理の流れを示すフローチャートである。
図4図4は、停止時制動制御の増補正制御の実行中に、制動操作部材の操作量が変更された場合のタイミングチャートである。
図5図5は、図3に示す一連の処理のうちの減少処理を示すフローチャートである。
図6図6は、減補正制御の実行中に制動操作部材の操作量が減少された場合のタイミングチャートである。
図7図7は、減補正制御の実行中に制動操作部材の操作量が増減された場合のタイミングチャートである。
図8図8は、第2実施形態の制動制御装置が備える処理回路が実行する一連の処理の一部を示すフローチャートである。
図9図9は、変更例の制動制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
以下、制動制御装置の第1実施形態を図1から図7に従って説明する。
図1は、制動制御装置50を備える車両10を図示している。車両10は、制動操作部材11と、複数の車輪と、複数の摩擦ブレーキ20と、制動装置30とを備えている。制動操作部材11は、車両10に制動力を付与する際に運転者が操作する部材である。例えば、制動操作部材11は、ブレーキペダルやブレーキレバーである。複数の車輪は、2つの前輪12と2つの後輪13とを含んでいる。
【0009】
<摩擦ブレーキ>
複数の摩擦ブレーキ20は、対応する車輪に制動力を付与する。摩擦ブレーキ20は、ホイールシリンダ21と回転体22と摩擦部23とを有している。回転体22は車輪と一体に回転するため、摩擦部23を回転体22に押し付けることにより、車輪に制動力が付与される。回転体22に摩擦部23を押し付ける力は、ホイールシリンダ21内の液圧であるホイール液圧が高いほど大きくなる。そのため、摩擦ブレーキ20は、ホイール液圧が高いほど大きい制動力を車輪に付与できる。
【0010】
<制動装置>
制動装置30は、複数のホイールシリンダ21のホイール液圧を制御することによって、車輪12,13に付与する制動力を制御する。例えば、制動装置30は、複数のホイールシリンダ21にブレーキ液を供給する加圧源を有している。加圧源は、例えば、電動ポンプ及び電動シリンダである。制動装置30は、前輪12用のホイールシリンダ21のホイール液圧と後輪13用のホイールシリンダ21のホイール液圧とを個別に調整できる。
【0011】
以降の記載では、複数の車輪12,13に付与される制動力の総和を、「車両10に付与する制動力BPAl」ともいう。
<検出系>
制動制御装置50には検出系から検出信号が入力される。検出系は複数のセンサを有している。複数のセンサは、ブレーキセンサ101と、前後加速度センサ102と、複数の車輪速センサ103とを含んでいる。
【0012】
ブレーキセンサ101は、運転者による制動操作部材11の操作に関連する情報を検出する。ブレーキセンサ101の一例は運転者の制動操作部材11の操作量を検出するストロークセンサである。検出系は、運転者の制動操作部材11の操作力を検出するセンサを有していてもよい。
【0013】
前後加速度センサ102は、車両10に作用する加速度のうち、車両10の前後方向の加速度を検出する。前後加速度センサ102の検出信号に基づいた車両10の前後方向の加速度を「前後加速度Gx」という。なお、車両10の走行路の勾配が変化すると、前後加速度センサ102の検出信号に応じた出力値が変化する。すなわち、前後加速度センサ102が、路面勾配を検出する「勾配検出センサ」に対応する。
【0014】
車輪速センサ103は、複数の車輪の各々に対して設けられている。複数の車輪速センサ103は、対応する車輪の回転速度をそれぞれ検出する。車輪速センサ103は、車輪の回転速度に応じてパルス信号を出力する。パルス信号に含まれるパルスの発生周期は、車輪の回転速度に応じた周期である。具体的には、車輪速センサ103は、車輪の回転速度が速いほどパルスの発生周期が短くなるようなパルス信号を検出信号として出力する。こうした検出信号に基づいた車輪の回転速度を「車輪速度VW」という。
【0015】
<制動制御装置>
制動制御装置50は処理回路51を備えている。例えば、処理回路51は電子制御装置である。この場合、処理回路51はCPU52及びメモリ53を有している。メモリ53は、CPU52によって実行される制御プログラムを記憶している。CPU52が当該制御プログラムを実行することにより、処理回路51は、制動装置30を制御して複数の摩擦ブレーキ20を作動させる。すなわち、処理回路51は、複数の摩擦ブレーキ20を作動させることによって、車両10に付与する制動力BPAlを調整できる。
【0016】
<停止時制動制御>
処理回路51は、運転者が制動操作部材11を操作している場合に停止時制動制御を実行する。停止時制動制御は、車両10が制動によって停止するに際して車両10に付与する制動力を調整することにより、停車に伴う車両10の急な姿勢変化を抑制する制動制御である。
【0017】
図2を参照し、制動制御装置50で実行される停止時制動制御について説明する。
図2の(A)に示すように運転者が制動操作部材11を操作している場合、処理回路51は、制動操作部材11の操作量Xが大きいほど値が大きくなるように要求制動力BPRqを導出する。図2の(C)に示すように、処理回路51は、車両10の制動中では、車両10の残走行距離DISを導出している。残走行距離DISとは、車両10が停止するまでに走行する距離である。タイミングt11以前のように残走行距離DISが第1走行距離判定値DISth1よりも長い場合、処理回路51は要求制動力BPRqを指示制動力BPTrとして設定する。そして、図2の(B)に示すように、処理回路51は、車両10に付与する制動力BPAlが指示制動力BPTrとなるように制動装置30を作動させる。
【0018】
タイミングt11で残走行距離DISが第1走行距離判定値DISth1になる。そのため、処理回路51は停止時制動制御を開始する。タイミングt11からは、処理回路51は停止時制動制御の増大処理を開始する。処理回路51は、増大処理において、要求制動力BPRqよりも大きい制動力を指示制動力BPTrとして設定する。例えば、処理回路51は、要求制動力BPRqとオフセット値ΔBPとの和を指示制動力BPTrとして設定する。そして、処理回路51は、車両10に付与する制動力BPAlが当該指示制動力BPTrとなるように制動装置30を作動させる。これにより、要求制動力BPRqが同じであっても、オフセット値ΔBPの分、車両10の減速度がタイミングt11以前よりも大きくなる。このように増大処理で設定した指示制動力BPTrを車両10に付与する制御を「増補正制御」ともいう。
【0019】
タイミングt12で残走行距離DISが第2走行距離判定値DISth2になる。第1走行距離判定値DISth1よりも短い距離が、第2走行距離判定値DISth2として設定されている。残走行距離DISが第2走行距離判定値DISth2以下である場合は、停車予測位置に車両10が近づいたと見なせる。そのため、処理回路51は、指示制動力BPTrを設定するための処理を増大処理から減少処理に移行する。処理回路51は、減少処理において、指示制動力BPTrを一定速度で減少させる。そして、処理回路51は、車両10に付与する制動力BPAlが当該指示制動力BPTrとなるように制動装置30を作動させる。これにより、要求制動力BPRqが同じであっても、車両10の減速度が次第に小さくなる。このように減少処理で設定した指示制動力BPTrを車両10に付与する制御を「減補正制御」ともいう。つまり、減補正制御は、要求制動力BPRqよりも小さい指示制動力BPTrを車両10に付与する制御である。
【0020】
タイミングt13で指示制動力BPTrが勾配相当制動力BPθと等しくなる。すると、処理回路51は、減少処理において、指示制動力BPTrを勾配相当制動力BPθで保持する。増大処理が開始されたタイミングt11での路面勾配θに応じた制動力が、勾配相当制動力BPθとして設定されている。そのため、タイミングt11から路面勾配θが変化していないのであれば、制動力BPAlを勾配相当制動力BPθ以上とすることにより、車両10を停止させることができる上に、その後の車両10の停止が維持できる。
【0021】
タイミングt14で、処理回路51は、車両10が停止したと判定するため、指示制動力BPTrを設定するための処理を減少処理から縮退処理に移行する。処理回路51は、縮退処理において、指示制動力BPTrを増大させる。例えば、処理回路51は、指示制動力BPTrを要求制動力BPRqまで増大させる。処理回路51が当該指示制動力BPTrに基づいて制動装置30を作動させることにより、車両10に付与する制動力BPAlが増大する。このように縮退処理で設定した指示制動力BPTrを車両10に付与する制御を「縮退制動制御」ともいう。指示制動力BPTrが要求制動力BPRqと等しくなると、処理回路51は停止時制動制御を終了する。
【0022】
<機能部>
処理回路51は、メモリ53の制御プログラムをCPU52が実行することにより、残走行距離導出部M11、増大処理部M13、減少処理部M15、操作量減少判定部M16、指示値減少部M17、操作量増大判定部M18、指示値増大部M19、停車判定部M21、縮退処理部M23及び制御部M25として機能する。本実施形態では、残走行距離導出部M11が、停車関連値を取得する「停車関連値取得部」に対応する。停車関連値とは、車両10が停車予測位置に近づくにつれて値が小さくなるパラメータである。
【0023】
残走行距離導出部M11は、車両10の制動中に残走行距離DISを導出する。すなわち、残走行距離導出部M11は、残走行距離DISを停車関連値として取得する。例えば、残走行距離導出部M11は、車両10の車体速度VSと車両10の減速度とに基づいて、残走行距離DISを導出する。車体速度VSは、車輪速度VWに基づいて導出した車両10の移動速度である。車両10の減速度は、車両10に付与されている制動力BPAlと相関する減速度である。例えば、車体速度VSを時間微分することにより、車両10の減速度は導出できる。残走行距離導出部M11は、車体速度VSと車両10の減速度とを基に、車両10が停止する位置を予測する。そして、残走行距離導出部M11は、予測した停止位置から車両10の現在位置までの距離を、残走行距離DISとして導出する。
【0024】
増大処理部M13は、残走行距離DISが第1走行距離判定値DISth1以下であること、及び、残走行距離DISが第2走行距離判定値DISth2よりも長いことの何れもが成立している場合に、上記増大処理を実行する。
【0025】
ここで、停止時制動制御は、増大処理によって設定された指示制動力BPTrを車両10に付与する増補正制御と、減少処理によって設定された指示制動力BPTrを車両10に付与する減補正制御とを含んでいる。さらに、増補正制御の実行後に減補正制御が実行される。上述したように減補正制御が実行されると、車両10の減速度が大幅に減少される。そのため、残走行距離DISが長くなりやすい。
【0026】
そこで、増大処理部M13は、減補正制御が実行されても実際の停止距離が基準停止距離と等しくなるような値をオフセット値ΔBPとして導出する。実際の停止距離とは、残走行距離DISが第1走行距離判定値DISth1と等しくなった基準時点から車両10が停止するまでの車両10の移動距離である。基準停止距離とは、指示制動力BPTrを要求制動力BPRqで保持したままで車両10を停止させる場合における、上記基準時点から車両10が停止するまでの車両10の移動距離である。
【0027】
増大処理部M13は、残走行距離DISが第1走行距離判定値DISth1と等しくなると、その時点の状況に応じた値を上記オフセット値ΔBPとして導出する。そして、増大処理部M13は、増大処理の実行中では、当該オフセット値ΔBPを要求制動力BPRqに加算することによって指示制動力BPTrを導出する。
【0028】
なお、増大処理が実行されている最中に操作量Xが増大されたり、操作量Xが減少されたりすることがある。この場合、操作量Xの変動に応じて要求制動力BPRqが変化する。そのため、操作量Xが変更されても増大処理部M13が増大処理を継続することにより、操作量Xの変動に応じて指示制動力BPTrが変化する。すなわち、増大処理部M13は、増大処理の実行中に操作量Xが変化しても、指示制動力BPTrと要求制動力BPRqとの差(=BPTr-BPRq)が保持されるように、指示制動力BPTrを導出する。
【0029】
減少処理部M15は、残走行距離DISが第2走行距離判定値DISth2以下であること、及び、車両10が停止していないと判定していることの何れもが成立している場合に、指示制動力BPTrを減少させる。すなわち、減少処理部M15は、指示制動力BPTrを勾配相当制動力BPθまで一定速度で減少させる。この際の指示制動力BPTrの減少速度が「所定の減少速度」に対応する。そして、減少処理部M15は、指示制動力BPTrが勾配相当制動力BPθと等しくなると、指示制動力BPTrを勾配相当制動力BPθで保持する。
【0030】
操作量減少判定部M16は、減補正制御の実行中に操作量Xが減少していることを判定する。すなわち、操作量減少判定部M16は、指示制動力BPTrが要求制動力BPRqよりも小さい状況下で操作量Xが減少していることを判定する。
【0031】
指示値減少部M17は、操作量減少判定部M16により操作量Xが減少していることが判定されている場合に、所定の減少速度と要求制動力BPRqの減少速度とのうちの大きい方の減少速度で指示制動力BPTrを減少させる。具体的には、指示値減少部M17は、減少処理部M15によって導出される指示制動力BPTrの減少速度、及び、要求制動力BPRqの減少速度のうちの大きい方の減少速度に基づいて、指示制動力BPTrを減少補正する。例えば、指示値減少部M17は、2つの減少速度のうちの大きい方の減少速度で指示制動力BPTrが減少するように、減少処理部M15によって導出された指示制動力BPTrを補正する。
【0032】
操作量増大判定部M18は、減補正制御の実行中に操作量Xが増大していることを判定する。すなわち、操作量増大判定部M18は、指示制動力BPTrが要求制動力BPRqよりも小さい状況下で操作量Xが増大していることを判定する。
【0033】
指示値増大部M19は、操作量増大判定部M18により操作量Xが増大していることが判定されている場合に、指示制動力BPTrと要求制動力BPRqとの差(=BPTr-BPRq)が小さくなるように、指示制動力BPTrを増大させる。具体的には、指示値増大部M19は、操作量Xの増大開始時点からの操作量Xの増大量である操作増大量ΔXを導出する。そして、指示値増大部M19は、操作増大量ΔXに応じて、減少処理部M15によって導出された指示制動力BPTrを増大補正する。例えば、指示値増大部M19は、操作増大量ΔXが大きいほど値が大きくなるように増大補正量IBPを導出する。指示値増大部M19は、操作量Xの増大開始時点の指示制動力BPTrである増大基準制度力BPBIと増大補正量IBPとの和を、指示制動力BPTrとして導出する。
【0034】
停車判定部M21は、残走行距離DISが判定残走行距離DISth3未満になると、車両10が停止したか否かを判定する。図2に示すように、第2走行距離判定値DISth2よりも短い距離が、判定残走行距離DISth3として設定されている。判定残走行距離DISth3は、車両10が停止間近であるか否かの判断基準である。本実施形態では、停車判定部M21は、残走行距離DISが判定残走行距離DISth3未満になった時点から車輪速センサ103が出力するパルス信号に含まれるパルス数CPを計数する。停車判定部M21は、車載の複数の車輪速センサ103のうちの1つの車輪速センサ103が出力するパルス信号に含まれるパルス数CPを計数する。そして、停車判定部M21は、当該パルス数CPが判定数CPth以上である場合に、車両10が停止したと判定する。一方、停車判定部M21は、当該パルス数CPが判定数CPth未満である場合に、車両10が停止していないと判定する。つまり、判定数CPthは、判定残走行距離DISth3に応じたパルス数である。
【0035】
縮退処理部M23は、車両10が停止したと判定された場合に縮退処理を実行する。縮退処理部M23は、予め設定された所定の増大速度で指示制動力BPTrを要求制動力BPRqまで増大させる。
【0036】
制御部M25は、指示制動力BPTrに基づいて車両10に付与する制動力BPAlを制御する。例えば、制御部M25は、指示制動力BPTrに基づいて制動装置30を作動させる。
【0037】
<停止時制動制御>
図3及び図4を参照し、処理回路51が停止時制動制御を実行する際の処理の流れを説明する。処理回路51は図3に示す一連の処理を繰り返し実行する。
【0038】
図3に示すように、ステップS11において、処理回路51は、制動操作中であるか否かを判定する。制動操作とは、運転者が制動操作部材11を操作することである。例えば、処理回路51は、ブレーキセンサ101の検出信号を基に、制動操作中であるか否かを判定する。処理回路51は、制動操作中であると判定した場合(S11:YES)、処理をステップS13に移行する。一方、処理回路51は、制動操作中ではないと判定した場合(S11:NO)、図3に示す一連の処理を一旦終了する。
【0039】
ステップS13において、処理回路51は、制動操作部材11の操作量Xに対応する制動力を、要求制動力BPRqとして導出する。例えば、処理回路51は、操作量Xが大きいほど大きい制動力を要求制動力BPRqとして導出する。続くステップS15において、処理回路51は、車両10の走行路の勾配である路面勾配θを導出する。処理回路51は、走行路が急勾配であるほど大きい勾配を路面勾配θとして導出する。例えば、処理回路51は、車体速度VSを時間微分した値である車両10の加速度と前後加速度Gxとの差分の大きさが大きいほど大きい勾配を、路面勾配θとして導出する。
【0040】
次のステップS17において、処理回路51は、残走行距離導出部M11として機能することにより、残走行距離DISを導出する。
続くステップS19において、処理回路51は、残走行距離DISが第1走行距離判定値DISth1以下であるか否かを判定する。処理回路51は、残走行距離DISが第1走行距離判定値DISth1以下である場合(S19:YES)、処理をステップS31に移行する。一方、処理回路51は、残走行距離DISが第1走行距離判定値DISth1よりも長い場合(S19:NO)、処理をステップS21に移行する。
【0041】
ステップS21において、処理回路51は、制御部M25として機能することにより、要求制動力BPRqを指示制動力BPTrとして設定する。そして、処理回路51は処理をステップS53に移行する。
【0042】
ステップS31において、処理回路51は、残走行距離DISが第2走行距離判定値DISth2よりも長いか否かを判定する。処理回路51は、残走行距離DISが第2走行距離判定値DISth2よりも長い場合(S31:YES)、処理をステップS33に移行する。一方、処理回路51は、残走行距離DISが第2走行距離判定値DISth2以下である場合(S31:NO)、処理をステップS41に移行する。
【0043】
ステップS33において、処理回路51は、増大処理部M13として機能することにより、上記増大処理を実行する。具体的には、ステップS35において、処理回路51は上記オフセット値ΔBPを取得する。続くステップS37において、処理回路51は、要求制動力BPRqとオフセット値ΔBPとの和を指示制動力BPTrとして設定する。
【0044】
ここで、図4を参照し、処理回路51が増補正制御を実行している最中に、制動操作部材11の操作量Xが増大されたり、操作量Xが減少されたりする場合について説明する。図4では、操作量Xが保持される場合が実線で示されている。また、途中で操作量Xが増大される場合が破線で示されている。また、途中で操作量Xが減少される場合が二点鎖線で示されている。なお、図4の(B)における一点鎖線は、操作量Xが保持されている場合の要求制動力BPRqの推移を示している。
【0045】
図4の(A)及び(B)に示すようにタイミングt21で処理回路51が増大処理を開始すると、要求制動力BPRqよりも大きい制動力が指示制動力BPTrとして設定される。操作量Xが保持されている期間では、処理回路51は、要求制動力BPRqを保持するため、指示制動力BPTrを保持する。
【0046】
図4の(A)に破線で示すようにタイミングt22から操作量Xが増大されたとすると、処理回路51は、操作量Xの増大に応じて要求制動力BPRqを増大させる。これにより、要求制動力BPRqとオフセット値ΔBPとの和である指示制動力BPTrは、図4の(B)に破線で示すように増大される。
【0047】
一方、図4の(A)に二点鎖線で示すようにタイミングt23から操作量Xが減少されたとすると、処理回路51は、操作量Xの減少に応じて要求制動力BPRqを減少させる。これにより、指示制動力BPTrは、図4の(B)に二点鎖線で示すように減少される。
【0048】
図3に戻り、処理回路51は、このように増大処理を実行すると、処理をステップS53に移行する。
ステップS41において、処理回路51は、停車判定部M21として機能することにより、車両10が停止したか否かを判定する。処理回路51は、車両10が停止したと判定した場合(S41:YES)、処理をステップS43に移行する。一方、処理回路51は、車両10が停止していないと判定した場合(S41:NO)、処理をステップS51に移行する。
【0049】
ステップS43において、処理回路51は、指示制動力BPTrが要求制動力BPRqと実質的に等しいか否かを判定する。処理回路51は、指示制動力BPTrが要求制動力BPRqと実質的に等しいと判定した場合(S43:YES)、図3に示した一連の処理を一旦終了する。一方、処理回路51は、指示制動力BPTrが要求制動力BPRqよりも小さいと判定した場合(S43:NO)、処理をステップS45に移行する。
【0050】
ステップS45において、処理回路51は、縮退処理部M23として機能することにより、上記縮退処理を実行する。処理回路51は、縮退処理の実行を通じて指示制動力BPTrを設定すると、処理をステップS53に移行する。
【0051】
ステップS51において、処理回路51は減少処理を実行する。減少処理については後述する。処理回路51は、減少処理の実行を通じて指示制動力BPTrを設定すると、処理をステップS53に移行する。
【0052】
ステップS53において、処理回路51は、制御部M25として機能することにより、指示制動力BPTrに基づいて制動装置30を作動させる。ステップS37で導出した指示制動力BPTrに従って制動装置30を作動させる制御が、増補正制御である。ステップS51で導出した指示制動力BPTrに従って制動装置30を作動させる制御が、減補正制御である。ステップS45で導出した指示制動力BPTrに従って制動装置30を作動させる制御が、縮退制動制御である。すなわち、停止時制動制御は、増補正制御と、減補正制御と、縮退制動制御とを含んでいる。その後、処理回路51は図3に示した一連の処理を一旦終了する。
【0053】
<減少処理>
図5を参照し、上記ステップS51の減少処理を説明する。
ステップS61において、処理回路51は、操作量増大判定部M18として機能することにより、制動操作部材11の操作量Xが増大しているか否かを判定する。処理回路51は、操作量Xが増大していると判定した場合(S61:YES)、処理をステップS81に移行する。一方、処理回路51は、操作量Xが増大していないと判定した場合(S61:NO)、処理をステップS63に移行する。
【0054】
ステップS63において、処理回路51は、操作量減少判定部M16として機能することにより、操作量Xが減少しているか否かを判定する。処理回路51は、操作量Xが減少していると判定した場合(S63:YES)、処理をステップS71に移行する。一方、処理回路51は、操作量Xが減少していないと判定した場合(S63:NO)、処理をステップS64に移行する。
【0055】
ステップS64において、処理回路51は、今回の制動中における減補正制御の実行中に、操作量Xが増大された経験があるか否かを判定する。処理回路51は、操作量Xが増大された経験がある場合(S64:YES)、減少処理を終了する。この場合、処理回路51は指示制動力BPTrを保持する。一方、処理回路51は、操作量Xが増大された経験がない場合(S64:NO)、処理をステップS65に移行する。
【0056】
ステップS65において、処理回路51は、減少処理部M15として機能することにより、指示制動力BPTrから基準減少量dBPを引いた制動力を、目標制動力の仮値BPTr1として導出する。そして、処理回路51は処理をステップS67に移行する。
【0057】
ステップS67において、処理回路51は、指示値減少部M17として機能することにより、勾配相当制動力BPθを取得する。ここで処理回路51が取得する勾配相当制動力BPθは、増大処理の開始時点の路面勾配θに対応する制動力である。増大処理の開始時点は、停止時制動制御の開始時点と同じと云える。そのため、勾配相当制動力BPθは、停止時制動制御の開始条件が成立した時点の路面勾配θに応じた制動力であると云える。処理回路51は、勾配相当制動力BPθを取得すると、処理をステップS69に移行する。
【0058】
ステップS69において、処理回路51は、減少処理部M15として機能することにより、目標制動力の仮値BPTr1と勾配相当制動力BPθとのうち大きい方の制動力を指示制動力BPTrとして設定する。仮値BPTr1が勾配相当制動力BPθ以下になると、処理回路51は指示制動力BPTrを勾配相当制動力BPθで保持できる。その後、処理回路51は減少処理を終了する。
【0059】
ステップS71において、処理回路51は、指示値減少部M17として機能することにより、指示制動力BPTrを減少させる。具体的には、ステップS73において、処理回路51は、要求制動力BPRqの減少速度として、要求制動力BPRqの減少量dBPRqを取得する。減少量dBPRqは、単位時間あたりの要求制動力BPRqの減少量である。単位時間は、減少処理の実行周期の時間の長さと等しい。例えば、処理回路51は、要求制動力BPRqの前回値と最新値との差を減少量dBPRqとして導出するとよい。続くステップS75において、処理回路51は、要求制動力の減少量dBPRqと基準減少量dBPとのうちの大きい方の減少量を、選択減少量dBPSとして取得する。そしてステップS77において、処理回路51は、指示制動力BPTrから選択減少量dBPSを引いた制動力を、目標制動力の仮値BPTr1として導出する。その後、処理回路51は、ステップS67の処理とステップS69の処理とを順番に実行した後、減少処理を終了する。
【0060】
ステップS81において、処理回路51は、指示値増大部M19として機能することにより、指示制動力BPTrを増大させる。具体的には、ステップS83において、処理回路51は、操作量Xが増大していると判定されるようになった時点の指示制動力BPTrを増大基準制度力BPBIとして取得する。続くステップS85において、処理回路51は、操作量Xが増大していると判定されるようになった時点の操作量Xを増大基準操作量XBIとして取得する。次のステップS87において、処理回路51は、現在の操作量Xから増大基準操作量XBIを引いた値を、操作増大量ΔXとして導出する。続くステップS89において、処理回路51は、操作増大量ΔXに応じた増大補正量IBPを導出する。例えば、処理回路51は、操作増大量ΔXが大きいほど大きい値を増大補正量IBPとして導出する。そしてステップS91において、処理回路51は、増大基準制度力BPBIと増大補正量IBPとの和を、目標制動力の仮値BPTr1として導出する。これにより、処理回路51は、指示制動力BPTrと要求制動力BPRqとの差(=BPTr-BPRq)が小さくなるように、指示制動力BPTrを増大できる。その後、処理回路51は、ステップS67の処理とステップS69の処理とを順番に実行した後、減少処理を終了する。
【0061】
<本実施形態の作用及び効果>
図6及び図7を参照し、運転者が制動操作部材11を操作している場合の制動制御装置50の作用及び効果を説明する。なお、図6に示す例は、減補正制御が実行されている最中に操作量Xが減少される場合である。図7に示す例は、減補正制御が実行されている最中に操作量Xが減少され、その後に操作量Xが増大された場合である。
【0062】
<減補正制御の実行中に操作量が減少された場合>
図6の(B)に破線で示す指示制動力BPTrAは、図6の(A)に破線で示すように操作量Xが保持されている場合の指示制動力BPTrである。図6の(B)の一点鎖線は、図6の(A)に実線で示すように操作量Xが推移する場合の要求制動力BPRqの推移を示している。
【0063】
図6に示す例では、処理回路51は、タイミングt31から減補正制御を開始する。また、図6の(A)に示すように、タイミングt31からは、操作量Xの減少によって要求制動力BPRqが減少され始める。図6の(B)に一点鎖線で示す要求制動力BPRqの減少速度は、要求制動力の減少量dBPRqに対応する。図6の(B)に破線で示す指示制動力BPTrAの減少速度は、基準減少量dBPに対応する。タイミングt31からタイミングt32までの期間では、要求制動力BPRqの減少速度が、指示制動力BPTrAの減少速度よりも大きい。そのため、処理回路51は、要求制動力の減少量dBPRqに基づいて指示制動力BPTrを減少させる。これにより、制動制御装置50は、減少処理の実行中であっても操作量Xが減少されている場合には、運転者の要求に応じた速度で制動力BPAlを減少させることができる。
【0064】
車両10が停止する前に操作量Xが減少される場合、車両停止時に車両姿勢が急に変化することを抑制するために運転者が制動操作部材11を操作したと考えられる。しかし、その際の操作量Xの減少速度が小さい場合には、要求制動力BPRqの減少速度があまり大きくならない。このような状態では、要求制動力BPRqの減少速度に応じた速度で指示制動力BPTrを減少させる場合よりも、基準減少量dBPに基づいて指示制動力BPTrを減少させる場合のほうが、車両停止時の車両姿勢の急な変化を好適に抑制できる。
【0065】
要求制動力BPRq及び指示制動力BPTrAが何れも減少される場合には、指示制動力BPTrAの減少速度が要求制動力BPRqの減少速度よりも大きくなることがある。こうした場合、処理回路51は、基準減少量dBPに基づいて指示制動力BPTrを減少させる。すなわち、制動制御装置50は、減補正制御を実行することにより、制動操作部材11が運転者によって操作される場合であっても車両停止時に車両姿勢が急に変化することを抑制できる。
【0066】
図6に示す例では、タイミングt32以降では操作量Xが保持されるものの、タイミングt32では指示制動力BPTrが勾配相当制動力BPθよりも大きい。そのため、タイミングt32からタイミングt33までの期間では、処理回路51は、基準減少量dBPに基づいて指示制動力BPTrを減少させる。そして、タイミングt33からは、処理回路51は指示制動力BPTrを勾配相当制動力BPθで保持する。
【0067】
図6に示すタイミングt34は、要求制動力BPRqが減少されなかった場合に車両10が停止したと判定されるタイミングである。しかし、図6に示す例では、車両10の制動中に操作量Xが減少される。そのため、タイミングt34よりも後のタイミングt35で、処理回路51は、車両10が停止したと判定する。そのため、処理回路51は、タイミングt35から縮退制動制御を開始することにより、制動力BPAlを要求制動力BPRqに向けて増大させる。
【0068】
<減補正制御の実行中に操作量が増大された場合>
図7の(B)に破線で示す指示制動力BPTrAは、図7の(A)に破線で示すように操作量Xが保持されている場合の指示制動力BPTrである。図7の(B)の一点鎖線は、図7の(A)に実線で示すように操作量Xが推移する場合の要求制動力BPRqの推移を示している。
【0069】
図7に示す例では、処理回路51は、タイミングt41から減補正制御を開始する。また、図7の(A)に示すように、タイミングt41からは、操作量Xの減少によって要求制動力BPRqが減少され始める。タイミングt41からタイミングt42までの期間では、要求制動力BPRqの減少速度が、指示制動力BPTrAの減少速度よりも大きい。そのため、処理回路51は、要求制動力の減少量dBPRqに基づいて指示制動力BPTrを減少させる。これにより、制動制御装置50は、減補正制御の実行中であっても操作量Xが減少された場合には、運転者の要求に応じた速度で制動力BPAlを減少させることができる。
【0070】
図7に示す例では、タイミングt42からタイミングt43までの間で操作量Xが増大される。そのため、処理回路51は、タイミングt42の指示制動力BPTrを増大基準制度力BPBIとして記憶するとともに、タイミングt42の操作量Xを増大基準操作量XBIとして記憶する。
【0071】
タイミングt42からタイミングt43までの間の期間では、処理回路51は、現在の操作量Xから増大基準操作量XBIを引くことによって操作増大量ΔXを導出する。そして、図7の(C)に示すように、処理回路51は、操作増大量ΔXが大きいほど大きい値を増大補正量IBPとして導出する。また当該期間では、指示制動力BPTrは勾配相当制動力BPθよりも大きい。そのため、処理回路51は、操作増大量ΔXに基づいた増大補正量IBPと指示制動力BPTrの前回値との和を指示制動力BPTrとして導出する。
【0072】
操作増大量ΔXは、タイミングt42からの制動力BPAlの増大量の要求値に相当する。制動制御装置50では、処理回路51は、こうした操作増大量ΔXに応じた値を増大補正量IBPとして導出する。すなわち、処理回路51は、操作増大量ΔXに応じて指示制動力BPTrを増大させる。これにより、制動制御装置50は、減補正制御を実行している場合に操作量Xが増大された場合、当該運転者の意図に応じた減速度を車両10に発生させることができる。つまり、制動制御装置50は、運転者が操作量Xを増大させた際に、その操作量Xの増大量に対して車両10の減速度が過剰に大きくなることを抑制できる。
【0073】
なお、図7に示す例では、処理回路51は、タイミングt44で車両10が停止したと判定すると、縮退制動制御を開始する。
本実施形態では、以下の効果をさらに得ることができる。
【0074】
(1)処理回路51は、残走行距離DISが第1走行距離判定値DISth1以下となって増補正制御を開始した時点の路面勾配θに応じた制動力を、勾配相当制動力BPθとして取得する。しかし、その後も車両10が走行し続けていると、走行路の勾配が、増補正制御の開始時点の路面勾配θよりも大きくなっている可能性がある。この場合、減補正制御の実行中に制動力BPAlが勾配相当制動力BPθまで減少されると、予測していた停止位置を越えてから車両10が停止することになりうる。
【0075】
この点、制動制御装置50では、処理回路51は、制動力BPAlが要求制動力BPRq未満である状況下で、残走行距離DISが判定残走行距離DISth3未満になった時点から車輪速センサ103が出力したパルス信号に含まれるパルス数CPが判定数CPth以上になった場合に、縮退制動制御を開始する。すると、処理回路51は、縮退処理によって指示制動力BPTrを増大させることにより、制動力BPAlを増大させる。その結果、増補正制御が開始された後で走行路の勾配が大きくなっても、制動制御装置50は、予測していた停止位置の近くで車両10を停止させることができる。
【0076】
(2)処理回路51は、縮退処理において、指示制動力BPTrを要求制動力BPRqまで増大させる。その結果、縮退処理の終了後では、制動力BPAlが要求制動力BPRqと実質的に等しくなる。これにより、制動制御装置50は、減補正制御を実行した場合であっても、制動力BPAlが要求制動力BPRqと乖離した状態で車両10が停止していることを抑制できる。
【0077】
(第2実施形態)
制動制御装置の第2実施形態を図8に従って説明する。なお、第2実施形態では、前後加速度Gxを用いて縮退処理の開始タイミングを決める点などが第1実施形態と異なっている。以下の説明においては、第1実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1実施形態と同一の部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0078】
<縮退処理部>
本実施形態の縮退処理部M23の処理内容について説明する。
縮退処理部M23は、減少処理部M15によって設定された指示制動力BPTrに基づいて制動装置30が作動している場合、前後加速度センサ102の検出信号に応じた前後加速度Gxを取得する。前後加速度Gxが、前後加速度センサ102の検出信号に応じた「出力値」に対応する。縮退処理部M23は、前後加速度Gxが理想前後加速度GxAから乖離しているか否かを判定する。例えば、縮退処理部M23は、前後加速度Gxと理想前後加速度GxAとの差分の大きさが乖離判定値以上である場合に、前後加速度Gxが理想前後加速度GxAから乖離していると判定する。この場合、縮退処理部M23は、前後加速度Gxと理想前後加速度GxAとの差分の大きさが乖離判定値未満である場合に、前後加速度Gxが理想前後加速度GxAから乖離していないと判定する。
【0079】
理想前後加速度GxAは、指示制動力BPTrに対応する前後加速度である。詳しくは、増大処理の開始時点の路面勾配θに相当する重力加速度と、現在の指示制動力BPTrに応じた前後加速度との和、若しくは当該和に近い加速度が、理想前後加速度GxAとして設定されている。
【0080】
そのため、増大処理の開始時点から走行路の勾配が大きく変わると、前後加速度Gxが理想前後加速度GxAから乖離するようになる。そして、走行路の勾配が減少処理の開始時点から大きく変わった場合、縮退処理を早期に開始して制動力BPAlを早期に増大させることが望ましい。そこで、縮退処理部M23は、前後加速度Gxが理想前後加速度GxAから乖離していると判定した場合には、車両10が停止していないと判定されていても縮退処理を開始する。
【0081】
<停止時制動制御>
図8を参照し、処理回路51が停止時制動制御を実行する際の処理の流れのうち、第1実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0082】
処理回路51は、残走行距離DISが第2走行距離判定値DISth2以下である場合(S31:NO)、処理をステップS41に移行する。
ステップS41において、処理回路51は、停車判定部M21として機能することにより、車両10が停止したか否かを判定する。処理回路51は、車両10が停止したと判定した場合(S41:YES)、処理をステップS43に移行する。一方、処理回路51は、車両10が停止していないと判定した場合(S41:NO)、処理をステップS411に移行する。
【0083】
ステップS411において、処理回路51は、縮退処理部M23として機能することにより、理想前後加速度GxAを取得する。次のステップS413において、処理回路51は、縮退処理部M23として機能することにより、前後加速度Gxが理想前後加速度GxAから乖離しているか否かを判定する。処理回路51は、前後加速度Gxが理想前後加速度GxAから乖離していると判定した場合(S413:YES)、処理を図3に示したステップS43に移行する。一方、処理回路51は、前後加速度Gxが理想前後加速度GxAから乖離していないと判定した場合(S413:NO)、処理を図3に示したステップS51に移行する。この場合、処理回路51は、減少処理部M15として機能することにより、減少処理を実行する。
【0084】
<本実施形態の作用及び効果>
減少処理が実行されている場合、制動力BPAlが要求制動力BPRqよりも小さい。こうした状況下では、処理回路51は、前後加速度Gxが理想前後加速度GxAから乖離しているか否かを判定する。前後加速度Gxが理想前後加速度GxAから乖離している場合は、増大処理の開始時点から走行路の勾配が変化している可能性がある。この場合、減少処理の実行によって制動力BPAlを勾配相当制動力BPθで維持していても、車両10の停止が維持できない可能性がある。つまり、車両10が停止したと判定されてから縮退処理が実行されたとしても、制動力BPAlの増大が遅れるために車両10が僅かに動いてしまうおそれがある。
【0085】
この点、制動制御装置50では、処理回路51は、前後加速度Gxが理想前後加速度GxAから乖離していると判定した場合、車両10が停止したと判定される前から縮退処理を開始する。これにより、制動力BPAlの増大が遅れることが抑制される。その結果、増大処理を開始した以降で路面勾配θが大きくなっても、制動制御装置50は、車両10が停止した状態を維持できる。
【0086】
<変更例>
上記複数の実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記複数の実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0087】
・処理回路51は、縮退処理において、指示制動力BPTrを増大させるのであれば、指示制動力BPTrを要求制動力BPRqと等しくしなくてもよい。すなわち、処理回路51は、要求制動力BPRqとは大きさの異なる規定制動力を設定し、指示制動力BPTrを当該規定制動力まで増大させるようにしてもよい。
【0088】
・処理回路51は、減補正制御の実行中に操作量Xが減少された場合、要求制動力の減少量dBPRqと基準減少量dBPとの間の値を、選択減少量dBPSとして導出してもよい。
【0089】
・処理回路51は、減補正制御の実行中に操作量Xが減少された場合であっても、基準減少量dBPに基づいて指示制動力BPTrを減少させるようにしてもよい。
・第2実施形態において、処理回路51は、車体速度VSを用いて車両10が停止したか否かを判定してもよい。
【0090】
・停止時制動制御は、増補正制御を含まない制御であってもよい。
・車両10が、車両10の上下加速度を検出する上下加速度センサを備えていることがある。こうした車両10に適用される制動制御装置においては、処理回路51は、上下加速度センサの検出信号に応じた出力値を用いて路面勾配が変化したか否かを判定してもよい。この場合、上下加速度センサが、「勾配検出センサ」に対応する。
【0091】
処理回路51は、縮退処理部M23として機能することにより、減補正制御の開始前までに、上下加速度センサの検出信号に応じた出力値である上下加速度を、基準上下加速度として取得しておく。基準上下加速度が「基準出力値」に対応する。例えば、処理回路51は増補正制御の開始時点の上下加速度を基準上下加速度として取得しておく。
【0092】
処理回路51は、減補正制御の実行中に、上下加速度が基準上下加速度から乖離したと判定した場合に、路面勾配が変化したと判断できるため、縮退処理によって指示制動力BPTrを増大させる。これにより、制動制御装置は、上記第2実施形態と同等の効果をえることができる。
【0093】
・処理回路51は、残走行距離DISの代わりに、車両10の車体速度VSである車速SPを、停車関連値として取得してもよい。すなわち、図9に示すように、制動制御装置50Aでは、処理回路51を車速取得部M11Aとして機能させてもよい。この場合、車速取得部M11Aが「停車関連値取得部」として機能する。これによれば、処理回路51は、車速SPが第1停車車速判定値未満になった場合に、増大処理部M13として機能することにより、上記増大処理を開始する。また、処理回路51は、車速SPが第2停車車速判定値以下になった場合に減少処理を開始する。
【0094】
処理回路51は、停車判定部M21として機能することにより、車速SPが判定車速SPth未満になると、車両10が停止したか否かを判定する。第2停車車速判定値よりも低い車速が判定車速SPthとして設定されている。また当該判定車速SPthが「判定停車関連値」に対応する。処理回路51は、車速SPが判定車速SPth未満になった時点から車輪速センサ103が出力するパルス信号に含まれるパルス数CPを計測する。そして、処理回路51は、当該パルス数CPが判定数CPth以上になった場合に、車両10が停止したと判定する。
【0095】
・制動制御装置は、停止時制動制御の実行時には、摩擦制動力だけではなく、回生制動力も制御してもよい。この場合、車両10に付与する摩擦制動力の総和と車両10に付与する回生制動力の総和との合計が、制動力BPAlとなる。
【0096】
・処理回路51は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェアなどの1つ以上の専用のハードウェア回路又はこれらの組み合わせを含む回路として構成し得る。専用のハードウェアとしては、例えば、特定用途向け集積回路であるASICを挙げることができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
【0097】
<他の技術的思想>
次に、上記複数の実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(付記1)前記減補正制御は、当該減補正制御の開始前の路面勾配に応じた制動力である勾配相当制動力まで前記指示制動力を徐々に減少させることと、当該指示制動力が前記勾配相当制動力に達すると当該指示制動力を保持すること、を含む制御であることが好ましい。
【0098】
(付記2)前記縮退処理部は、前記指示制動力を前記要求制動力まで増大させることが好ましい。
なお、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、所望の選択肢の「1つ以上」を意味する。一例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が2つであれば「1つの選択肢のみ」又は「2つの選択肢の双方」を意味する。他の例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が3つ以上であれば「1つの選択肢のみ」又は「2つ以上の任意の選択肢の組み合わせ」を意味する。
【符号の説明】
【0099】
10…車両
11…制動操作部材
12…前輪(車輪の一例)
13…後輪(車輪の一例)
50,50A…制動制御装置
51…処理回路
102…前後加速度センサ(勾配検出センサの一例)
103…車輪速センサ
M11…残走行距離導出部(停車関連値取得部の一例)
M11A…車速取得部(停車関連値取得部の一例)
M15…減少処理部
M16…操作量減少判定部
M17…指示値減少部
M18…操作量増大判定部
M19…指示値増大部
M23…縮退処理部
M25…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9