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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135510
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ヒートポンプ式給湯システム
(51)【国際特許分類】
   F24H 4/02 20220101AFI20240927BHJP
   F24H 1/18 20220101ALI20240927BHJP
   F24H 15/156 20220101ALI20240927BHJP
   F24H 15/219 20220101ALI20240927BHJP
   F24H 15/225 20220101ALI20240927BHJP
   F24H 15/375 20220101ALI20240927BHJP
【FI】
F24H4/02 F
F24H1/18 G
F24H15/156
F24H15/219
F24H15/225
F24H15/375
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046228
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004709
【氏名又は名称】株式会社ノーリツ
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】西村 和裕
(72)【発明者】
【氏名】大西 兼造
【テーマコード(参考)】
3L122
【Fターム(参考)】
3L122AA04
3L122AA12
3L122AA23
3L122AA54
3L122AA62
3L122AB22
3L122AB33
3L122BA23
3L122BB03
3L122BB14
3L122CA14
3L122DA21
3L122EA42
3L122EA52
3L122EA64
3L122FA02
3L122FA08
3L122FA13
3L122FA24
3L122GA01
3L122GA03
(57)【要約】
【課題】貯湯温度が過剰に高くならないようにしてシステム全体のエネルギ効率を良好にしつつ、湯不足を生じ難くすることが可能なヒートポンプ式給湯システムを提供する。
【解決手段】ヒートポンプ式給湯システムAの制御手段4は、ヒートポンプ1に貯湯運転を行なわせるときには、過去の複数日にわたる熱需要に基づき、前記複数日のそれぞれにおいて、貯湯タンク2に湯不足を生じないために必要な貯湯温度の下限域である湯不足回避温度Taを求め、かつこの湯不足回避温度Taに基づいて当日の貯湯温度上限値Tmaxを決定し、この貯湯温度上限値Tmaxを超えないようにヒートポンプ1の貯湯運転を制御する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートポンプと、
このヒートポンプによって加熱された湯水を貯留する貯湯タンクを有し、かつこの湯水を所定の給湯先または熱負荷に供給可能な貯湯タンクユニットと、
過去の熱需要に基づく学習能力をもち、今後の熱需要の発生時期および熱需要量を予測し、かつ予測される熱需要の発生前に前記ヒートポンプを運転させて熱需要に対応する熱量の湯水を前記貯湯タンクに貯留させる制御を実行する制御手段と、
を備えている、ヒートポンプ式給湯システムであって、
前記制御手段は、前記ヒートポンプに貯湯運転を行なわせるときには、過去の複数日にわたる熱需要に基づき、前記複数日のそれぞれにおいて、前記貯湯タンクに湯不足を生じないために必要な貯湯温度の下限域である湯不足回避温度Taを求め、かつこの湯不足回避温度Taに基づいて当日の貯湯温度上限値Tmaxを決定し、この貯湯温度上限値Tmaxを超えないように前記ヒートポンプの貯湯運転を制御する構成とされていることを特徴とする、ヒートポンプ式給湯システム。
【請求項2】
請求項1に記載のヒートポンプ式給湯システムであって、
外部から前記貯湯タンクへの入水温度に対応して定められた貯湯温度の通常用上限値Tgのデータが、前記制御手段に記憶されており、
前記制御手段は、前記当日の貯湯温度上限値Tmaxが、前記通常用上限値Tgを超える場合には、前記通常用上限値Tgを超えないように前記ヒートポンプの貯湯運転を制御する構成とされている、ヒートポンプ式給湯システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のヒートポンプ式給湯システムであって、
前記湯不足回避温度Taを求める処理は、
前記過去の複数日にわたる熱需要のデータを、24時間毎の複数のグループに分ける第1の処理と、
前記複数のグループのそれぞれにおける所定の単位時間毎の熱需要量のデータに基づき、熱需要量がピークとなる単位時間を含み、かつ前記熱需要量の累計値が前記各グループ内において最大となる時間帯を特定する第2の処理と、
この第2の処理において特定された前記時間帯の累計の熱需要量に対し、湯不足を生じない熱量の湯水を前記貯湯タンクに貯湯させるのに必要な貯湯温度の下限域である湯不足回避温度Taを求める第3の処理と、
を含む構成とされている、ヒートポンプ式給湯システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載のヒートポンプ式給湯システムであって、
前記当日の貯湯温度上限値Tmaxを決定する処理は、
複数の前記湯不足回避温度Taの中から予め定められた条件に合致するいずれか1つを選択し、かつこの選択された湯不足回避温度Taを前記当日の貯湯温度上限値Tmaxとする処理である、ヒートポンプ式給湯システム。
【請求項5】
請求項4に記載のヒートポンプ式給湯システムであって、
前記予め定められた条件とは、
複数の前記湯不足回避温度Taの中央値であること、温度の高さの順番が所定の順番であること、または前記過去の複数日にわたって前記貯湯温度上限値Tmaxとして用いられた場合に熱損失が最も小さくなる温度に相当することである、ヒートポンプ式給湯システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ式給湯システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートポンプ式給湯システムとしては、過去の熱需要に基づく学習能力をもち、今後の熱需要の発生時期や熱需要量を比較的細かく予測し、予測された熱需要に対応した熱量の湯水をヒートポンプの運転により生成して貯湯タンクに貯留させる動作を、できる限り熱需要の発生時期の直前に行なわせるようにしたものがある。従来においては、このような方式とは異なり、たとえば夜間電力を利用してヒートポンプを運転させることにより1日分の熱需要に対応した湯水を一括して生成させてから貯湯タンクに貯留させるようにしたものもあるが、このようなものと比較すると、前者のものは、貯湯タンクからの放熱ロスを少なくできる。また、貯湯タンクに貯留される湯水の熱量を実際の熱需要に対して、より的確に対応させることが可能である。したがって、湯余りや湯不足が生じることを抑制する上で好ましい。さらに、貯湯タンクとしては、1日分の熱需要に対応する湯水を貯留可能なサイズのものを用いる必要がなく、小型の貯湯タンクを用いることが可能となり、設備コストを廉価にすることもできる。
【0003】
一方、ヒートポンプのCOP(成績係数)を高くし、システム全体のエネルギ効率をよくするには、ヒートポンプによる加熱湯水温度(貯湯温度に相当)をなるべく低めの温度とすることが好ましい。
そこで、従来においては、たとえば外部から貯湯タンクへの入水温度に応じて貯湯温度の上限値(通常用上限値Tg)を設定しておき、ヒートポンプの運転時には、この通常用上限値Tgを超えないように制御することが試みられている。たとえば、入水温度が2℃~9℃の範囲であると、その際の貯湯温度の通常用上限値Tgは60℃とされている。
このような手段によれば、貯湯温度が前記通常用上限値Tgを超えた高温とされることは防止されているため、ヒートポンプのCOPを高くすることが可能である。
【0004】
しかしながら、前記従来技術においては、前記貯湯温度の通常用上限値Tgは、入水温度に対応して一律に設定された値に過ぎない。このため、ヒートポンプ式給湯システムにおける様々な運転状況下においては、必ずしもそのような値が常に適切であるとはいえず、改善の余地がある。また、前記した通常用上限値Tgは、ヒートポンプ式給湯システムの試験運転の繰り返しなどによって求められるのが一般的であるため、ヒートポンプ式給湯システムの各部の仕様が変更された場合には、それに対応して前記通常用上限値Tgを決め直す必要があり、煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-134970号公報
【特許文献2】特許第4525744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、貯湯温度が過剰に高くならないようにしてシステム全体のエネルギ効率を良好にしつつ、湯不足を生じ難くすることが可能なヒートポンプ式給湯システムを提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明により提供されるヒートポンプ式給湯システムは、ヒートポンプと、このヒートポンプによって加熱された湯水を貯留する貯湯タンクを有し、かつこの湯水を所定の給湯先または熱負荷に供給可能な貯湯タンクユニットと、過去の熱需要に基づく学習能力をもち、今後の熱需要の発生時期および熱需要量を予測し、かつ予測される熱需要の発生前に前記ヒートポンプを運転させて熱需要に対応する熱量の湯水を前記貯湯タンクに貯留させる制御を実行する制御手段と、を備えている、ヒートポンプ式給湯システムであって、前記制御手段は、前記ヒートポンプに貯湯運転を行なわせるときには、過去の複数日にわたる熱需要に基づき、前記複数日のそれぞれにおいて、前記貯湯タンクに湯不足を生じないために必要な貯湯温度の下限域である湯不足回避温度Taを求め、かつこの湯不足回避温度Taに基づいて当日の貯湯温度上限値Tmaxを決定し、この貯湯温度上限値Tmaxを超えないように前記ヒートポンプの貯湯運転を制御する構成とされていることを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、ヒートポンプの貯湯運転時においては、当日の貯湯温度上限値Tmaxを超えないように制御されるが、この当日の貯湯温度上限値Tmaxは、過去の複数日にわたる熱需要に基づいて求められた複数の湯不足回避温度Taに基づき決定される値である。したがって、この当日の貯湯温度上限値Tmaxは、過去の実情を的確に反映した妥当な値とすることが可能である。当日の貯湯温度上限値Tmaxが過度に低い温度であると、湯不足を生じる可能性が高くなるが、本発明によれば、そのようなことを適切に回避することが可能である。また、貯湯温度が過剰に高くならないようにできるため、ヒートポンプのCOPを高くし、システム全体のエネルギ効率を高めることも可能である。
【0010】
本発明において、好ましくは、外部から前記貯湯タンクへの入水温度に対応して定められた貯湯温度の通常用上限値Tgのデータが、前記制御手段に記憶されており、前記制御手段は、前記当日の貯湯温度上限値Tmaxが、前記通常用上限値Tgを超える場合には、前記通常用上限値Tgを超えないように前記ヒートポンプの貯湯運転を制御する構成とされている。
【0011】
このような構成によれば、当日の貯湯温度上限値Tmaxが高く、貯湯温度の通常用上限値Tgを超える場合には、貯湯温度が通常用上限値Tgを超えないように抑制される。したがって、ヒートポンプのCOPが大幅に低下する虞をなくすことが可能である。
【0012】
本発明において、好ましくは、前記湯不足回避温度Taを求める処理は、前記過去の複数日にわたる熱需要のデータを、24時間毎の複数のグループに分ける第1の処理と、前記複数のグループのそれぞれにおける所定の単位時間毎の熱需要量のデータに基づき、熱需要量がピークとなる単位時間を含み、かつ前記熱需要量の累計値が前記各グループ内において最大となる時間帯を特定する第2の処理と、この第2の処理において特定された前記時間帯の累計の熱需要量に対し、湯不足を生じない熱量の湯水を前記貯湯タンクに貯湯させるのに必要な貯湯温度の下限域である湯不足回避温度Taを求める第3の処理と、を含む構成とされている。
【0013】
このような構成によれば、過去の複数日にわたる熱需要のデータに基づき、湯不足を生じない範囲にある貯湯温度の下限域である湯不足回避温度Taを簡易かつ適切に求めることができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、前記当日の貯湯温度上限値Tmaxを決定する処理は、複数の前記湯不足回避温度Taの中から予め定められた条件に合致するいずれか1つを選択
し、かつこの選択された湯不足回避温度Taを前記当日の貯湯温度上限値Tmaxとする処理である。
【0015】
このような構成によれば、当日の貯湯温度上限値Tmaxを決定する処理が容易であり、かつその値を妥当なものとすることが可能である。
【0016】
本発明において、好ましくは、前記予め定められた条件とは、複数の前記湯不足回避温度Taの中央値であること、温度の高さの順番が所定の順番であること、または前記過去の複数日にわたって前記貯湯温度上限値Tmaxとして用いられた場合に熱損失が最も小さくなる温度に相当することである。
【0017】
このような構成によれば、当日の貯湯温度上限値Tmaxを、実際の熱需要に対して適切に対応したものとする上でより好ましい。
【0018】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るヒートポンプ式給湯システムの一例を示す概略説明図である。
図2図1に示すヒートポンプ式給湯システムのヒートポンプを起動させる場合の動作処理手順の一例を示すフローチャートである。
図3図2に示す動作手順中の当日の貯湯温度上限値Tmaxを求める処理の一例を示すフローチャートである。
図4】過去の熱需要のデータから湯不足回避温度Taを求める処理の一例を概念的に示す説明図である。
図5】熱需要の一例を示す説明図である。
図6】(a),(b)は、図5の熱需要に対応する処理の例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0021】
図1に示すヒートポンプ式給湯システムAは、ヒートポンプ1と、貯湯タンクユニットUとを組み合わせて構成されている。
【0022】
ヒートポンプ1は、そのハード構成が従来既知のものと同様である。すなわち、たとえばCO2などの冷媒の循環路に、ファン10aを利用して取り込まれる空気から熱を吸収する蒸発器10、圧縮器11、凝縮器としての湯水加熱用の熱交換器12、および膨張弁13が設けられたものである。
また、このヒートポンプ1には、制御部4(4b)、および熱交換器12の出口温度(湯水加熱温度であり、貯湯温度に相当)を検出するための温度センサSbが具備されている。制御部4(4b)については、後述する。
【0023】
貯湯タンクユニットUも、そのハード構成は従来既知のものと同様であり、貯湯タンク2、補助熱源機3、および制御部4(4a)を具備している。そのため、そのハード構成については、簡単に説明する。
【0024】
貯湯タンク2の下部および上部は、ヒートポンプ1の熱交換器12に対し、配管部50a,50bを介して接続されている。配管部50aに設けられた循環ポンプP1が駆動されると、矢印N11~N13で示す経路で湯水が流通し、貯湯タンク2の下部から流出した湯水は熱交換器12によって加熱されてから、貯湯タンク2内の上部に戻され、貯湯さ
れる。貯湯タンク2には、複数の温度センサSaが装着され、これら温度センサSaからの検出信号に基づいて貯湯タンク2内の貯湯量(蓄熱量)を制御部4(4a)において判断可能である。
【0025】
貯湯タンク2の下部および上部には、入水口61aを有する入水管61および出湯口62aを有する出湯管62が接続されている。出湯口62aに配管接続された給湯栓90が開状態にされると、貯湯タンク2内への入水圧によって貯湯タンク2内の湯水は出湯管62に流出し、流出口62aから給湯栓90に向けて供給される。図面では省略しているが、本実施形態のヒートポンプ式給湯システムAにおいては、浴槽への湯張り給湯機能も可能とされている。
【0026】
補助熱源機3は、貯湯タンク2に湯不足が生じた場合などにおいて、湯水加熱を行なうのに利用され、たとえばガス瞬間式湯沸器が用いられている。具体的には、この補助熱源機3は、バーナ30および熱交換器31が缶体32内に収容され、熱交換器31に供給された湯水をバーナ30によって迅速に加熱できるように構成されている。補助熱源機3の入水側配管部70aは、ポンプP2および三方弁V1を介して貯湯タンク2の上部に繋がり、かつ出湯側配管部70bは、三方弁V2を介して出湯管62に繋がっている。このため、出湯口62aから給湯栓90に向けて出湯が行なわれる場合に、三方弁V2を切り替えることによって、矢印N21,N22に示すように、補助熱源機3によって加熱された湯水を出湯口62aに供給可能である。
【0027】
補助熱源機3の出湯側配管部70bに分岐接続された配管部71には、熱交換器92が設けられている。この熱交換器92は、熱負荷の1つであり、たとえば床暖房装置などの暖房端末91用の熱媒を加熱するためのものである。ポンプP3の駆動によって熱交換器92と暖房端末91との間を熱媒が循環流通可能である。なお、図1に示す三方弁V1,V3間は、配管部63を介して接続されており、熱交換器92を通過して三方弁V3に到達した湯水を、貯湯タンク2を介することなく補助熱源機3に再度送り込んで加熱することが可能となっている。
【0028】
制御部4(4a,4b)は、マイクロコンピュータなどを用いて構成されており、制御部4aは、貯湯タンクユニットUの各部の動作制御やデータ処理を実行するのに対し、制御部4bは、ヒートポンプ1の各部の動作制御やデータ処理を実行する。
ただし、これら制御部4(4a,4b)は、本発明でいう制御手段の一例に相当し、これらが協働してヒートポンプ式給湯システムAの全体の動作制御を実行し、後述する貯湯運転を制御する。制御部4aには、リモコン8が通信接続されている。リモコン8は、データ用の表示部80、および複数の操作スイッチ81を有しており、これらの操作スイッチ81を操作することによって、ヒートポンプ式給湯システムAにおける各種の設定や動作のオン・オフなどが可能である。
【0029】
制御部4は、過去の熱需要(給湯運転実績)に基づき、今後の熱需要を予測する学習能力を有している。このような学習能力自体は、既知であるため、省略する。なお、本実施形態における熱需要の予測は、たとえば1時間などの比較的短い時間を単位として行なわれ(10時~11時,11時~12時など)、熱需要が発生する場合にはその熱需要量も予測される。この予測に際しては、風呂給湯予約や暖房運転予約などの事情も考慮される。予測対象期間は、たとえば現時刻から4時間先までの期間であるなど、基本的には現時刻から所定時間内に限定されている。制御部4は、熱需要が予測される場合には、この熱需要が発生すると予測される時期までに貯湯タンク2への貯湯動作が間に合うように、できる限り熱需要の発生予測時期に近いタイミングでヒートポンプ1の運転を開始させて、前記熱需要に対応した熱量の湯水を貯湯タンク2に貯留させる制御を実行する。
詳細は後述するが、制御部4には、貯湯温度が過剰に高くなることを防止するためのデ
ータとして、当日の貯湯温度上限値Tmax、および貯湯温度の通常用上限値TgのデータD1,D2が記憶されている。
【0030】
次に、前記したヒートポンプ式給湯システムAにおいて実行される動作処理手順について、図2および図3に示したフローチャートを参照しつつ説明する。併せて、その際の作用についても説明する。
【0031】
まず、ヒートポンプ式給湯システムAの全体の大まかな動作制御は、次のとおりである。
すなわち、制御部4は、過去の熱需要に基づき、今後の熱需要を予測する処理を短周期で繰り返し実行している(S1)。この熱需要の予測は、現時刻からたとえば4時間程度先までの熱需要の発生を予測するものであって、具体的には、今後の熱需要の発生時刻およびその熱需要量を予測する。
【0032】
制御部4は、今後の熱需要が予測される場合には、過去の複数日(たとえば、14日分)の熱需要に基づき、当日の貯湯温度上限値Tmaxを決定する(S2:YES,S3)。この貯湯温度上限値Tmaxを決定するための具体的な手順については後述する。次いで、ヒートポンプ1は、前記した今後の熱需要に対応して運転され、湯不足を生じないように前記熱需要を賄えるだけの熱量が貯湯タンク2に貯湯される(S4)。
ただし、その際には、ヒートポンプ1は、後述する当日の貯湯温度上限値Tmaxを超えないように運転される。このため、貯湯温度が過剰な高温になることは適切に防止され、ヒートポンプ1のCOPを高くすることが可能である。
【0033】
また、ヒートポンプ1は、貯湯温度が通常用上限値Tgをも超えないように制御される。ここで、通常用上限値Tgは、背景技術の欄においても触れているとおり、たとえば外部から貯湯タンクへの入水温度に対応して予め設定された貯湯温度の上限値である。入水温度が低いほど、外気温も低く、貯湯タンク2内に貯湯された湯水の放熱量が多くなるため、入水温度が低いほど、通常用上限値Tgは高く設定される。
前記した動作制御によれば、当日の貯湯温度上限値Tmaxが、通常用上限値Tgよりも高温である場合には、貯湯温度は当日の貯湯温度上限値Tmaxまで上昇することはなく、通常用上限値Tgを超えないようにヒートポンプ1の運転が制御される。したがって、貯湯温度が過剰な高温となることはより確実に防止される。
【0034】
前記した当日の貯湯温度上限値Tmaxを決定する処理は、たとえば次のような手順で行なわれる。
すなわち、制御部4には、過去の熱需要に関するデータが記憶されている。制御部4は、これらのデータのうちから、たとえば現時刻の1時間前などの適当な時刻を基準時として、この基準時よりも過去の複数日(たとえば、14日分)の熱需要に関するデータを読み出し、これを24時間毎の複数のグループGに分ける(S11)。このグループ分けは、概念的には、図4において、過去の14日分の熱需要のデータを、1日前のデータのグループG(G1)、2日前のデータのグループG(G2)、以下同様に、14日前のデータのグループG(G14)に区分する処理である。なお、グループGの具体的な数は、14に限定されず、グループG(Gn)、nは2以上の整数、とすることができる。
【0035】
次いで、前記した複数のグループG(G1~G14)のそれぞれにおいて、熱需要がピークになる時間を含み、かつ熱需要の累計値が前記各グループG内で最大となる時間帯を特定する(S12)。なお、熱需要量は、1時間(本発明でいう「単位時間」の一例に相当)ごとの量であり、前記時間帯の幅は、たとえば4時間である。
この処理においては、たとえば図5に示すような熱量Q1~Q4〔kcal〕の熱需要の時間帯Pa(時刻t~時刻t+4までの計4時間の時間帯)が特定される。同図に示す時間
帯Paの熱需要は、いずれか1つのグループGに相当する1日のうち、1時間当たりの熱需要量Q2がピークである時間(時刻(t+1)から(時刻t+2)まで)を含み、かつその時間に前後する時刻tから時刻(t+4)までの計4時間の時間帯Paの累計の熱需要は、前記1日の中で最大の熱需要に相当している。
【0036】
制御部4おいては、前記した図5の時間帯Paを特定した後には、この特定された時間帯Paの累計の熱需要に対して、湯不足を生じない熱量の湯水を貯湯タンク2に貯湯させるのに必要な貯湯温度の下限域である湯不足回避温度Ta(Ta1~Ta14)を求める処理が実行される(S13)。この処理においては、ヒートポンプ1は、熱重要が発生している時間帯Pa中においても運転されることを前提とする。
ここで、ヒートポンプ1を1時間運転させた際の熱量を、熱量Qhp〔kcal〕とする。また、図6に示すように、時間帯Paの1時間ごとの熱需要の熱量Q1~Q4と、熱量Qhpとの差分をΔQ1~ΔQ4とする。
【0037】
この場合、時間帯Paの熱需要の熱量Q1~Q4の全量を賄うのに必要な貯湯温度、つまり湯不足回避温度Ta〔℃〕は、次の式1で求められる。
Ta=〔Qhp+(ΔQ1+ΔQ2…+ΔQ4)〕/V+Tin …式1
ここで、
V:貯湯タンク2の容量〔L〕
Tin:保持入水温度〔℃〕(貯湯タンク2内の最下部の湯水温度、あるいは貯湯タンク2内の最下部に近い入水配管部内の湯水温度)
【0038】
図6に示すように、時間帯Pa以前の所定の対象時刻taまでに〔Qhp+(ΔQ1+ΔQ2…+ΔQ4)〕の熱量を予め貯湯させる。ただし、ヒートポンプ1については、時間帯Pa中のたとえば3時間にわたって運転させ、貯湯タンク2への熱補充を行なうことを前提としている(時間帯Paの全期間に相当する4時間運転も可)。このようなことにより、湯不足を回避することが可能である。その際の貯湯温度は、式1で求められる。この貯湯温度は、貯湯タンク2に湯不足を生じないために必要な貯湯温度の下限域としての湯不足回避温度Taである。
このようにして湯不足回避温度Taを求める処理は、複数のグループGごとに行なう。このことにより、図4に示すように、グループG1~G14にそれぞれ対応する湯不足回避温度Ta(Ta1~Ta14)のデータを得る。
【0039】
前記したように湯不足回避温度Ta(Ta1~Ta14)のデータを得た後には、これらのデータに基づき、当日の貯湯温度上限値Tmaxを決定する(S14)。
この処理においては、たとえば複数の湯不足回避温度Ta1~Ta14の中から予め定められた条件に合致するいずれか1つが選択され、かつこの選択されたものが当日の貯湯温度上限値Tmaxとされる。
前記条件の具体例としては、「複数の前記湯不足回避温度Taの中央値であること」が挙げられる。中央値に相当する湯不足回避温度Taを、当日の貯湯温度上限値Tmaxにすれば、この当日の貯湯温度上限値Tmaxを過去の需要に合致した妥当な値とすることが可能である。また、前記以外として、たとえば湯不足回避温度Ta1~Ta14を、温度が高い順序で並べた場合に、その温度の高さが所定の順番に該当するものを当日の貯湯温度上限値Tmaxとすることもできる。このようなことによっても、当日の貯湯温度上限値Tmaxの値を妥当な値にすることが可能である。さらに、前記過去の複数日にわたって前記貯湯温度上限値Tmaxとして用いられた場合の熱損失を演算し、この演算の結果、熱損失が最も小さくなる温度に相当するものを、当日の貯湯温度上限値Tmaxとすることもできる。
【0040】
このように、当日の貯湯温度上限値Tmaxを、複数の湯不足回避温度Ta(Ta1~T
a14)に基づき決定すれば、その値を過去の熱需要に合致した妥当なものとすることができる。したがって、貯湯温度の過剰な上昇防止、および湯不足防止を図る上で一層好ましいものとなる。
なお、複数の湯不足回避温度Ta1~Ta14のいずれか1つを、当日の貯湯温度上限値Tmaxとすることに代えて、複数の湯不足回避温度Ta1~Ta14の平均値を算出するなどして、当日の貯湯温度上限値Tmaxを決定してもよい。
【0041】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係るヒートポンプ式給湯システムの各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0042】
上述の実施形態においては、湯不足回避温度Taや当日の貯湯温度上限値Tmaxを求めるための過去の熱需要のデータとして、過去の14日間の熱需要のデータが用いられているが、本発明はこれに限定されない。本発明においては、過去の複数日のデータであればよく、具体的な日数は限定されない。
また、本発明においては、1日は、24時間と同義であり、時刻0時から24時までの時間帯に限定されない。
【0043】
さらに本発明においては、貯湯温度の下限値Tminを設定しておき、実際の貯湯温度がこの温度を下回らないように制御する構成とすることも可能である。下限値Tminは、たとえば、入水温度などには関係なく設定される一定値(たとえば、43℃)である。このような構成によれば、貯湯温度が不適切な低温になることは防止される。
【符号の説明】
【0044】
A ヒートポンプ式給湯システム
U 貯湯タンクユニット
1 ヒートポンプ
2 貯湯タンク
4(4a,4b) 制御部(制御手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6