(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135512
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】衝撃吸収部材を有する車体側部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 21/15 20060101AFI20240927BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20240927BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20240927BHJP
【FI】
B62D21/15 C
B62D25/20 F
B60K1/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046232
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】591214527
【氏名又は名称】株式会社ジーテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 広樹
(72)【発明者】
【氏名】宮堀 和也
(72)【発明者】
【氏名】久保 貴
【テーマコード(参考)】
3D203
3D235
【Fターム(参考)】
3D203BB12
3D203BB55
3D203CA25
3D203CA34
3D203CA37
3D203CA57
3D203CA73
3D203CB04
3D203CB19
3D235AA01
3D235BB06
3D235BB25
3D235CC15
3D235DD35
3D235EE63
3D235FF09
3D235HH26
(57)【要約】
【課題】軸圧壊が促進される構造を採りながら衝撃エネルギー吸収量を増やすことが可能な、衝撃吸収部材を有する車体側部構造を提供する。
【解決手段】車体の側部に車体の前後方向に延びるように設けられたサイドシル5と、サイドシル5の内部に設けられた衝撃吸収部材6とを備える。衝撃吸収部材6は、サイドシル5内で前後方向に並ぶ複数の筒状部21と、これらの筒状部21どうしを接続する複数の接続部22とを含む。筒状部21は、車幅方向に延びる複数の角稜25と、角稜25を介して互いに隣り合う複数の板部26とによって断面形状が多角形の筒状に形成される。複数の板部26のうち少なくとも一つにおける車幅方向外側の端部には、剛性が部分的に低くなる脆弱部27が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の側部に車体の前後方向に延びるように設けられた縦フレームと、
前記縦フレームに車幅方向で対峙する衝撃吸収部材とを備え、
前記衝撃吸収部材は、車幅方向に延びる筒状に形成された筒状部を有し、
前記筒状部は、車幅方向に延びる複数の角稜と、前記角稜を介して互いに隣り合う複数の板部とによって断面形状が多角形の筒状に形成され、
前記複数の板部のうち少なくとも一つにおける車幅方向外側の端部には、剛性が部分的に低くなる脆弱部が形成されている、衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【請求項2】
請求項1に記載の衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、
前記筒状部は、上下方向に重なる状態で互いに接合された上部材と下部材とによって形成されているとともに、前記前後方向に所定の間隔をおいて並ぶ位置にそれぞれ設けられ、
少なくとも1つ以上の前記上部材または前記下部材の車幅方向の長さは、前記前後方向の長さより長いことを特徴とする衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【請求項3】
請求項2に記載の衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、
前記上部材と前記下部材は、これらの上部材と下部材とが互いに接合される接合部となる接合板部と、前記筒状部を上下方向に分割した半部となる複数の屈曲板部とをそれぞれ有し、
前記屈曲板部は前記角稜を除き前記脆弱部が形成されていることを特徴とする衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【請求項4】
請求項3に記載の衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、前記脆弱部は前記屈曲板部を貫通する穴であり、
前記筒状部の前記脆弱部が形成された屈曲板部とは反対側に位置する前記屈曲板部には、前記車幅方向において前記脆弱部と同じ位置に、前記上部材および前記下部材とは別体に形成された付属部品が接合されていることを特徴とする衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【請求項5】
請求項3に記載の衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、
複数の前記屈曲板部のうち少なくとも一つの前記屈曲板部には、車幅方向の中央部にこの屈曲板部を貫通する貫通穴が形成され、
前記筒状部の前記貫通穴が形成された前記屈曲板部とは反対側に位置する前記屈曲板部には、前記車幅方向において前記貫通穴と同じ位置に、前記上部材および前記下部材とは別体に形成された倒れ込み抑制ブラケットが接合され、
前記倒れ込み抑制ブラケットは、前記筒状部の長手方向の中央部を前記車体側部構造のサイドシルに連結していることを特徴とする衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【請求項6】
請求項3に記載の衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、
前記前後方向における前記複数の屈曲板部の長さと、前記前後方向における一つの前記接合板部の長さとの総和は、
ポール側面衝突のテストに用いるポール側突物体の水平断面の中心から40°~50°の範囲となる外周の一部であって前記衝撃吸収部材に最も近い円弧状の一部をポール側突方向に投影した長さ以下であることを特徴とする衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【請求項7】
請求項3に記載の衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、
前記衝撃吸収部材は、前記前後方向に並ぶ複数の衝撃吸収体を互いに接合することによって構成され、
前記衝撃吸収体を構成する前記上部材は、上方に向けて凸になる形状に並ぶ前記複数の屈曲板部の前後両側にそれぞれ接合板部が接続された断面ハット状のハット状部を少なくとも一つ有し、
前記衝撃吸収体を構成する前記下部材は、下方に向けて凸になる形状に並ぶ前記複数の屈曲板部の前後両側にそれぞれ接合板部が接続された断面ハット状のハット状部を少なくとも一つ有し、
前記衝撃吸収体の前記上部材と前記下部材に設けられている前記接合板部の前記前後方向の端部に、前記前後方向に延びる切欠きと、前記切欠きに車幅方向に隣接する突片とが形成され、
前記前後方向に互いに隣り合う2組の前記衝撃吸収体どうしの接合部は、一方の衝撃吸収体の前記上部材または前記下部材に形成された前記切欠きに、他方の衝撃吸収体の前記上部材または前記下部材に形成された前記突片を挿入して組み合わせることにより、2枚重ねの状態となっていることを特徴とする衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【請求項8】
請求項3に記載の衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、
前記上部材の前記複数の屈曲板部と、前記下部材の前記複数の屈曲板部は、それぞれ車幅方向に延びる突条となる形状に形成され、
前記上部材または下部材の、前記突条となる部分における車幅方向外側の端部には、前記前後方向に延びる溝と、上下方向に延びる溝との少なくとも何れか一方の溝が形成されていることを特徴とする衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【請求項9】
請求項1に記載の衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、
前記筒状部は、車幅方向から見てハの字となるように形成された第1の筒状部と第2の筒状部とによって構成され、
前記第1の筒状部と前記第2の筒状部とを中空体単位として複数の前記中空体単位が前記前後方向に並べられ、
前記中空体単位を構成する前記第1の筒状部と前記第2の筒状部の上端部どうしが上側接続片によって互いに接続され、
互いに隣り合う前記中空体単位の下端部どうしが下側接続片によって互いに接続されていることを特徴とする衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【請求項10】
請求項9に記載の衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、
前記中空体単位と前記上側接続片および下側接続片とは、断面山形状の帽子部と両側のつば部とを有する断面ハット状に形成された3つの鋼板プレス品を前記前後方向に並べて組み合わせて接合することによって形成され、
前記3つの鋼板プレス品のうち、中央に位置する鋼板プレス品は、前記帽子部が上方に向けて凸になる姿勢とされ、
前記3つの鋼板プレス品のうち、前側の前記鋼板プレス品と後側の鋼板プレス品は、前記帽子部が下方に向けて凸になる姿勢で前記中央の鋼板プレス品を前側と後側とから挟むように配置され、
前記第1の筒状部は、前記中央の鋼板プレス品の前記帽子部の一部と、前記前側の鋼板プレス品の前記帽子部の一部とを用いて構成され、
前記第2の筒状部は、前記中央の鋼板プレス品の前記帽子部の一部と、前記後側の鋼板プレス品の前記帽子部の一部とを用いて構成されていることを特徴とする衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【請求項11】
請求項10に記載の衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、
前記3つの鋼板プレス品の前記つば部は、前記第1の筒状部および前記第2の筒状部の上下方向の開口幅が上下方向に拡がるようにそれぞれ角稜を備える段部を有していることを特徴とする 衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【請求項12】
請求項10に記載の衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、
前記3つの鋼板プレス品の前記帽子部の頂部であって、前記前後方向の中央部には、前記帽子部の内側に向けて凹む凹み部が形成され、
前記上側接続片と前記下側接続片は、前記凹み部の裏側に他の鋼板プレス品のつば部を接合して構成されていることを特徴とする衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【請求項13】
請求項1に記載の衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、
前記縦フレームはサイドシルインナーであり、
さらに、前記サイドシルインナーより車体内側で前記前後方向に延びるビームを有し、
前記ビームは、車体フロア下に固定されるバッテリーハウジングのサイドフレームであって、中空体によって形成され、
前記サイドフレームの上下方向の中央部には、車幅方向に延びて前記サイドフレーム内を上下方向に仕切る仕切壁が設けられ、
前記筒状部は、前記前後方向に所定の間隔をおいて並ぶ位置にそれぞれ設けられ、
前記仕切壁は、車体側方から見て前記複数の筒状部の下端と上端との間に位置付けられていることを特徴とする衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【請求項14】
請求項13に記載の衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、
前記サイドフレームの車幅方向外側の角部は、断面円弧状となるように湾曲し、
前記仕切壁は、前記サイドフレームの車幅方向外側の壁に突き当てられていることを特徴とする衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【請求項15】
請求項13に記載の衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、
さらに、前記車体の下部に設けられた車体フロアフレームやフロアクロスメンバを含む強度部材を備え、
前記バッテリーハウジングは、前記サイドフレームと車幅方向に並びかつ車幅方向に延びる補強部材を有し、
前記サイドフレームは、前記サイドシルの下部に固定部を介して固定されているとともに、前記強度部材に前記補強部材を介して固定されていることを特徴とする衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【請求項16】
請求項1に記載の衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、
前記筒状部の開口側端部には、前記多角形となる閉断面の外側に向けて突出する固定部材が設けられていることを特徴とする衝撃吸収部材を有する車体側部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体に側方から加えられた衝撃を吸収する衝撃吸収部材を有する車体側部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体の側部を補強する補強部材としては、例えば特許文献1に記載されているものがある。この公報に開示された補強部材は、車体のサイドシルの内部で縦フレームのサイドシルインナーに対峙するエネルギー吸収部材で、車幅方向に延びる複数の筒状部である中空部材を車体の前後方向に並べて構成されている。中空部材は、断面形状が多角形断面となるように形成されており、車幅方向に延びる複数の角稜をそれぞれ有している。角稜とは、車幅方向に稜線が延びるような角部である。特許文献1に示す中空部材の角稜には、複数の凹み部分が形成されている。このように中空部材の角稜に凹み部分が形成されていると、側面衝突のうち最も局部荷重が大きいポール衝突で中空部材が車幅方向に潰れ易くなり、いわゆる軸圧壊を促進することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、角稜に凹み部分が形成されていると、中空部材が潰れ易くなる(軸圧壊が容易となる)反面、荷重が低下するため衝撃エネルギー吸収量が低下するという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、軸圧壊が促進される構造を採りながら衝撃エネルギー吸収量を増やすことが可能な、衝撃吸収部材を有する車体側部構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明に係る衝撃吸収部材を有する車体側部構造は、車体の側部に車体の前後方向に延びるように設けられた縦フレームと、前記縦フレームに対峙する衝撃吸収部材とを備え、前記衝撃吸収部材は、車幅方向に延びる筒状に形成された筒状部を有し、前記筒状部は、車幅方向に延びる複数の角稜と、前記角稜を介して互いに隣り合う複数の板部とによって断面形状が多角形の筒状に形成され、前記複数の板部のうち少なくとも一つにおける車幅方向外側の端部には、剛性が部分的に低くなる脆弱部が形成されているものである。前記縦フレームは、サイドシルインナーまたはバッテリーハウジングのサイドフレームによって構成することができる。
【0007】
本発明は、前記衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、前記筒状部は、上下方向に重なる状態で互いに接合された上部材と下部材とによって形成されているとともに、前記前後方向に所定の間隔をおいて並ぶ位置にそれぞれ設けられ、少なくとも1つ以上の前記上部材または前記下部材の車幅方向の長さは、前記前後方向の長さより長くてもよい。
【0008】
本発明は、前記衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、前記上部材と前記下部材は、これらの上部材と下部材とが互いに接合される接合部となる接合板部と、前記筒状部を上下方向に分割した半部となる複数の屈曲板部とをそれぞれ有し、前記屈曲板部は前記角稜を除き前記脆弱部が形成されていてもよい。
【0009】
本発明は、前記衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、前記脆弱部は前記屈曲板部を貫通する穴であり、前記筒状部の前記脆弱部が形成された屈曲板部とは反対側に位置する前記屈曲板部には、前記車幅方向において前記脆弱部と同じ位置に、前記上部材および前記下部材とは別体に形成された付属部品が接合されていてもよい。
【0010】
本発明は、前記衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、複数の前記屈曲板部のうち少なくとも一つの前記屈曲板部には、車幅方向の中央部にこの屈曲板部を貫通する貫通穴が形成され、前記筒状部の前記貫通穴が形成された前記屈曲板部とは反対側に位置する前記屈曲板部には、前記車幅方向において前記貫通穴と同じ位置に、前記上部材および前記下部材とは別体に形成された倒れ込み抑制ブラケットが接合され、前記倒れ込み抑制ブラケットは、前記筒状部の長手方向の中央部を前記車体側部構造のサイドシルに連結していてもよい。
【0011】
本発明は、前記衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、前記前後方向における前記複数の屈曲板部の長さと、前記前後方向における一つの前記接合板部の長さとの総和は、ポール側面衝突のテストに用いるポール側突物体の水平断面の中心から40°~50°の範囲となる外周の一部であって前記衝撃吸収部材に最も近い円弧状の一部をポール側突方向に投影した長さ以下であってもよい。
【0012】
本発明は、前記衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、前記衝撃吸収部材は、前記前後方向に並ぶ複数の衝撃吸収体を互いに接合することによって構成され、前記衝撃吸収体を構成する前記上部材は、上方に向けて凸になる形状に並ぶ前記複数の屈曲板部の前後両側にそれぞれ接合板部が接続された断面ハット状のハット状部を少なくとも一つ有し、前記衝撃吸収体を構成する前記下部材は、下方に向けて凸になる形状に並ぶ前記複数の屈曲板部の前後両側にそれぞれ接合板部が接続された断面ハット状のハット状部を少なくとも一つ有し、前記衝撃吸収体の前記上部材と前記下部材に設けられている前記接合板部の前記前後方向の端部に、前記前後方向に延びる切欠きと、前記切欠きに車幅方向に隣接する突片とが形成され、前記前後方向に互いに隣り合う2組の前記衝撃吸収体どうしの接合部は、一方の衝撃吸収体の前記上部材または前記下部材に形成された前記切欠きに、他方の衝撃吸収体の前記上部材または前記下部材に形成された前記突片を挿入して組み合わせることにより、2枚重ねの状態となっていてもよい。
【0013】
本発明は、前記衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、前記上部材の前記複数の屈曲板部と、前記下部材の前記複数の屈曲板部は、それぞれ車幅方向に延びる突条となる形状に形成され、前記上部材または下部材の、前記突条となる部分における車幅方向外側の端部には、前記前後方向に延びる溝と、上下方向に延びる溝との少なくとも何れか一方の溝が形成されていてもよい。
【0014】
本発明は、前記衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、前記筒状部は、車幅方向から見てハの字となるように形成された第1の筒状部と第2の筒状部とによって構成され、前記第1の筒状部と前記第2の筒状部とを中空体単位として複数の前記中空体単位が前記前後方向に並べられ、前記中空体単位を構成する前記第1の筒状部と前記第2の筒状部の上端部どうしが上側接続片によって互いに接続され、互いに隣り合う前記中空体単位の下端部どうしが下側接続片によって互いに接続されていてもよい。
【0015】
本発明は、前記衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、前記中空体単位と前記上側接続片および下側接続片とは、断面山形状の帽子部と両側のつば部とを有する断面ハット状に形成された3つの鋼板プレス品を前記前後方向に並べて組み合わせて接合することによって形成され、前記3つの鋼板プレス品のうち、中央に位置する鋼板プレス品は、前記帽子部が上方に向けて凸になる姿勢とされ、前記3つの鋼板プレス品のうち、前側の前記鋼板プレス品と後側の鋼板プレス品は、前記帽子部が下方に向けて凸になる姿勢で前記中央の鋼板プレス品を前側と後側とから挟むように配置され、前記第1の筒状部は、前記中央の鋼板プレス品の前記帽子部の一部と、前記前側の鋼板プレス品の前記帽子部の一部とを用いて構成され、前記第2の筒状部は、前記中央の鋼板プレス品の前記帽子部の一部と、前記後側の鋼板プレス品の前記帽子部の一部とを用いて構成されていてもよい。
【0016】
本発明は、前記衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、前記3つの鋼板プレス品の前記つば部は、前記第1の筒状部および前記第2の筒状部の上下方向の開口幅が上下方向に拡がるようにそれぞれ角稜を備える段部を有していてもよい。
【0017】
本発明は、前記衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、前記3つの鋼板プレス品の前記帽子部の頂部であって、前記前後方向の中央部には、前記帽子部の内側に向けて凹む凹み部が形成され、前記上側接続片と前記下側接続片は、前記凹み部の裏側に他の鋼板プレス品のつば部を接合して構成されていていてもよい。
【0018】
本発明は、前記衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、前記縦フレームはサイドシルインナーであり、さらに、前記サイドシルインナーより車体内側で前記前後方向に延びるビームを有し、前記ビームは、車体フロア下に固定されるバッテリーハウジングのサイドフレームであって、中空体によって形成され、前記サイドフレームの上下方向の中央部には、車幅方向に延びて前記サイドフレーム内を上下方向に仕切る仕切壁が設けられ、前記筒状部は、前記前後方向に所定の間隔をおいて並ぶ位置にそれぞれ設けられ、前記仕切壁は、車体側方から見て前記複数の筒状部の下端と上端との間に位置付けられていてもよい。
【0019】
本発明は、前記衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、前記サイドフレームの車幅方向外側の角部は、断面円弧状となるように湾曲し、前記仕切壁は、前記サイドフレームの車幅方向外側の壁に突き当てられていてもよい。
【0020】
本発明は、前記衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、さらに、前記車体の下部に設けられた車体フロアフレームやフロアクロスメンバを含む強度部材を備え、前記バッテリーハウジングは、前記サイドフレームと車幅方向に並びかつ車幅方向に延びる補強部材を有し、前記サイドフレームは、前記サイドシルの下部に固定部を介して固定されているとともに、前記強度部材に前記補強部材を介して固定されていてもよい。
【0021】
本発明は、前記衝撃吸収部材を有する車体側部構造において、前記筒状部の開口側端部には、前記多角形となる閉断面の外側に向けて突出する固定部材が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、軸圧壊が促進される構造を採りながら衝撃エネルギー吸収量を増やすことが可能な、衝撃吸収部材を有する車体側部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明に係る衝撃吸収部材を有する車体側部構造の概略の構成を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、衝撃吸収部材の一部の断面図である。
【
図4】
図4は、衝撃吸収部材の一部の平面図である。
【
図5】
図5は、軸圧壊の発生メカニズムを説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、軸圧壊の発生メカニズムを説明するための模式図である。
【
図7】
図7は、軸圧壊の発生メカニズムを説明するための模式図である。
【
図8】
図8は、衝撃吸収エネルギーの変化を示すグラフである。
【
図9】
図9は、筒状部の車体側方から見た正面図である。
【
図11】
図11は、筒状部とサイドシルの一部の断面図である。
【
図14】
図14は、エネルギー吸収量とポール側突物体との関係を示すグラフである。
【
図17】
図17は、上部材と下部材とを接合した状態を示す斜視図である。
【
図19】
図19は、上部材と下部材とを接合した状態を示す斜視図である。
【
図21】
図21は、上部材と下部材とを接合した状態を示す斜視図である。
【
図28】
図28は、衝撃吸収部材の変形例を示す斜視図である。
【
図29】
図29は、衝撃吸収部材の変形例を示す斜視図である。
【
図30】
図30は、衝撃吸収部材の一部を拡大して示す斜視図である。
【
図31】
図31は、衝撃吸収部材の一部を拡大して示す斜視図である。
【
図33】
図33は、筒状部とビームの車体側方から見た模式図である。
【
図34】
図34は、軸圧壊を起こした軸部材およびサイドシルとビームの断面図である。
【
図38】
図38は、固定部材を有する筒状部の車体側方から見た側面図である。
【
図39】
図39は、固定部材を有する筒状部とサイドシルの断面図である。
【
図40】
図40は、衝撃吸収部材を構成する鋼板プレス品の変形例を示す斜視図である。
【
図41】
図41は、外側接続式の接続片のメリットを説明するための図である。
【
図42】
図42は、衝撃吸収部材を構成する鋼板プレス品の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る衝撃吸収部材を有する車体側部構造の一実施の形態を
図1~
図39を参照して詳細に説明する。
図1に示す自動車用車体フレーム1は、EV車など電動自動車(図示せず)に用いることができるもので、電動自動車の「車体」を構成するものである。この実施の形態による車体フレームは、車幅方向の両端部にフロントピラーインナー2と、センターピラーインナー3と、車体側部構造4の一部となるサイドシル5とを備えている(フロントピラーアウターと、センタピラーアウターは図略)。
図1はサイドシル5を分解した状態で描いてある。
【0025】
(サイドシルの説明)
この実施の形態によるサイドシル5は、二つの部品を組み合わせて車体の前後方向に延びる筒状に形成されている。以下においては、車体の前後方向を単に「前後方向」といい、車体の左右方向を単に「車幅方向」という。サイドシル5の内部には、車体側部構造4の主要な構成部材となる衝撃吸収部材6が収容されている。衝撃吸収部材6の詳細な説明は後述する。
サイドシル5を構成する二つの部品とは、車体内側で車体の前後方向に延びるサイドシルインナー7(縦フレーム)と、車体外側で車体の前後方向に延びるサイドシルアウター8である。サイドシルインナー7とサイドシルアウター8は、
図2に示すように、それぞれ断面形状がコ字状となる本体7a,8aと、本体7a,8aの端部に一体に形成された溶接用の上部フランジ7b,8bおよび下部フランジ7c,8cとを有している。
【0026】
縦フレームのサイドシルインナー7は、コ字状の本体7aの開放部分が車体外側を指向する姿勢で車体フレーム1のフロアパネル(図示せず)とクロスメンバー11に溶接されている。
サイドシルアウター8は、コ字状の本体8aの開放部分が車体内側を指向する状態でサイドシルインナー7に溶接されている。
サイドシルインナー7とサイドシルアウター8の上部フランジ7b,8bは、車載状態にある本体7a,8aの上端から上方に突出している。下部フランジ7c,8cは、車載状態にある本体7a,8aの下端から下方に突出している。これらの上部フランジ7b,8bと下部フランジ7c,8cは、サイドシルインナー7およびサイドシルアウター8の前端部から後端部まで延びている。サイドシルインナー7とサイドシルアウター8の溶接は、サイドシルインナー7とサイドシルアウター8の上部フランジ7b,8bどうしを互いに重ね合わせてこれらにスポット溶接を施すとともに、下部フランジ7c,8cどうしを互いに重ね合わせてこれらにスポット溶接を施すことによって行っている。
【0027】
衝撃吸収部材6は、車体側方からサイドシル5に加えられた衝撃(ポール衝突などの側突)を吸収するためのもので、本実施例ではサイドシル5内の前端部から後端部まで延びているが、衝撃吸収部材6の長さは床下のバッテリーハウジングに応じた場所と長さに設定することでコストを低減することができる。
図2に示す衝撃吸収部材6の上端部には、センターピラーインナー3の下端に結合する倒れ込み抑制ブラケット13が溶接されている。なお、センターピラーインナー3は、図示してはいないが、センタピラーアウターを備え上下に延びる閉断面を形成している。
倒れ込み抑制ブラケット13は、上部フランジ7b,8bどうしの間に挟み込まれた状態でこれらの上部フランジ7b,8bにスポット溶接によって固定されて、衝撃吸収部材6を介しセンターピラーインナー3の下部を確実に固定している。
【0028】
(衝撃吸収部材の説明)
衝撃吸収部材6は、
図3および
図4に示すように、複数の筒状部21と、これらの筒状部21どうしを接続する複数の接続部22とを含んでいる。複数の筒状部21は、サイドシル5の長手方向(前後方向)に所定の間隔をおいて並ぶ位置にそれぞれ設けられている。
図3および
図4に示す接続部22は、筒状部21の上下方向の中央部どうしを接続している。この実施の形態による筒状部21は、上下方向に重なる状態で互いに接合された上部材23と下部材24とによって形成されている。
【0029】
図3に示す衝撃吸収部材6は、前後方向に並ぶ複数の上部材23と、これらの上部材23と接合された一つの下部材24とを有している。
上部材23と下部材24は、互いに組み合わされることにより上述した筒状部21と接続部22とが実現される形状に形成されている。上部材23と下部材24との接合は、接続部22においてスポット溶接により行われる。この接合を行うときのスポット溶接は、
図4中に×印を付して示す位置で行われ、車幅方向の複数の位置において実施される。
【0030】
この実施の形態による筒状部21は、車幅方向に延びる筒状に形成されている。詳述すると、筒状部21は、車幅方向に延びる複数の角稜25と、これらの角稜25を介して互いに隣り合う複数の板部26とによって断面形状が多角形となる筒状に形成されている。
図3には、断面四角形の筒状に形成された筒状部21が図示されている。角稜25とは、車幅方向に延びる稜線を有する角部のことである。角部は、角張った角部や、断面円弧状に湾曲した角部を含む。
【0031】
図4に示すように、筒状部21を形成する複数の板部26のうち少なくとも一つにおける車幅方向外側の端部には、剛性が部分的に低くなる脆弱部27が形成されている。この実施の形態による脆弱部27は、板部26を貫通する円形の穴によって構成されている。
図3および
図4に示す筒状部21は、上端に位置する板部26に脆弱部27が形成されている。なお、脆弱部27は、筒状部21の下端に位置する板部26、筒状部21の前側の板部26や後側の板部26などに形成することができる。また、脆弱部27としては、貫通穴に限定されることはなく、図示してはいないが、板部26の厚みを部分的に変えて形成された凹凸や、切欠き、溝などによって構成することができる。
【0032】
図3および
図4に示す上部材23と、この上部材23の衝撃吸収体31と下部材24の衝撃吸収体31とが接合されて、2つの筒状部21を有している。
少なくとも1つ以上の上部材23の車幅方向の長さLは、前後方向Hの長さより長い。なお、下部材24は、上部材23と同等の前後長を有する形状に形成してもよい。この場合は、複数の下部材24を前後方向に並べて互いに接合させる。この場合であっても、少なくとも1つ以上の下部材24の車幅方向の長さLは、前後方向Hの長さより長く設定される。
【0033】
図3および
図4に示す衝撃吸収部材6は、主に車体側方から加えられたポール衝突の衝撃エネルギーを吸収する。ここでは、車体が横滑りして車体の側面が柱状体に衝突するような場合、すなわちポール衝突(以下、単に「ポール側突」という)について説明する。衝撃吸収部材6に車体の側方から衝撃力が加えられた(角稜に沿った軸方向の荷重が印加された)場合、
図5(A),(B)に示すように、脆弱部27を有する板部26が変形し、角稜25に矢印F1で示す横力が発生し、横変形が生じる。
図5(A),(B)においては、変形後の形状を二点鎖線で示している。
図5(A),(B)に示す脆弱部27は、筒状部21の上端部の板部26に形成されている場合を示している。
【0034】
この脆弱部27を有する板部26は、ポール側突後の最初に、この板部26の脆弱部27を有する部分が上方から見て括れるように変形(横変形)する。すなわち、脆弱部27がトリガーとなって板部26が最初に変形する。この板部26の変形に続いて、この板部26に連なる角稜25が変形(縦変形)する。上述した横変形がなければ角稜25に過大な荷重が作用して大きく変形するため角稜25の一部が割れる(縦割れ)が発生し、荷重が低下して衝撃エネルギー吸収量が減少する。なお、脆弱部27が筒状部21の前側の板部26あるいは後側の板部26に形成されている場合は、
図6(A),(B)に示すように、ポール側突後の最初に前側の板部26あるいは後側の板部26が変形する。
図6(A),(B)は、これらの板部26が前方あるいは後方に断面山形状に折れて突き出た状態を示している。
【0035】
このように脆弱部27の周辺で板部26と角稜25とが横変形した後、
図7(A),(B)に示すように、角稜25がポール側突に伴う縦力F2によって縦変形を連続して起こす。この縦変形は、上記の横変形が生じた部分と車幅方向の内側に隣接する位置で生じる。角稜25は筒状部21を構成する3つの板部26が形成する4つの角稜25があるので、各々の角稜25においてそれぞれ縦変形を連続する。すなわち、少なくとも1つの端部の板部26が変形するとともに角稜25は端部から変形を開始し、車幅方向の長さ全体を使って多段の座屈変形を連続し衝撃エネルギーが吸収される。
そして、筒状部21の角稜25が蛇腹状に軸圧壊してポール側突の衝撃エネルギーが衝撃吸収部材6によって吸収される。
したがって、この実施の形態によれば、軸圧壊が促進される構造を採りながら衝撃エネルギー吸収量を増やすことが可能な、衝撃吸収部材を有する車体側部構造を提供することができる。
【0036】
この実施の形態による脆弱部27を有する衝撃吸収部材6と、脆弱部27が設けられていない比較例の衝撃吸収部材とについて衝撃吸収エネルギーの大きさを較べたところ、
図8に示す結果が得られた。
図8は、ポール側突により加えられた荷重と衝撃吸収部材の変形量(ストローク)との関係を示すグラフである。
図8においては、脆弱部27(穴)が設けられていない場合を波線で示し、脆弱部27(穴)が設けられている場合を実線で示す。脆弱部27(穴)がない場合、稜線(角稜25)に過剰な荷重が作用して縦割れし、荷重が低下して衝撃エネルギーが低下するものと考える。
【0037】
繰り返すが、脆弱部27(穴)が設けられていない場合は、角稜25に横力の発生がなく縦力だけであるため、ポール側突では1軸方向(縦方向)に亀裂(縦割れ変形)が発生する。一方、この実施の形態による脆弱部27を有する場合は、ポール側突において衝撃力を横力に分力させ、角稜25の横変形により縦変形の荷重は低下するが縦割れまでは低下しないので、ポール側突の衝撃吸収エネルギー(荷重×ストローク)が増大する。
【0038】
この実施の形態では、脆弱部27(穴)は貫通穴で真円の円形、車長方向前後の角稜から等距離の車幅方向の筒状部の中心線に沿って板部26の中心線上に穿設する。前後の角稜を同時に座屈させるためである。横変形と縦変形による角稜の座屈の車幅方向のピッチを直径の大小で容易に調整できる。この直径は前後の角稜を遮断しないように、自動車工場のスポット溶接ガンが挿入できる大きさであり、車幅方向の外側の端縁を遮断した切欠きとなると、衝突の速い段階で座屈が開始できる。材質を高強度化し、横変形が発生し難くなると、直径を大きくしたり、真円ではなく、車幅方向に長い楕円、長方形などに変更できる。脆弱部27は衝突初期に座屈のきっかけをつくる目的で、衝突側の端部に一つあれば十分であるが、高強度鋼鈑など材質の強度が高くなり、座屈し難くなった場合は、端部から車幅方向の内側の中央部にも板部26の中心線上を熱処理などで軟化したり、穴をあけて座屈を調整できる。
【0039】
この実施の形態による衝撃吸収体31は、車幅方向の長さLが前後方向の長さHより長くなるように形成されているから、軸圧壊できる長さが長く、言い換えれば変形ストロークが長くなり、衝撃エネルギー吸収量を増加できる。
【0040】
(上部材と下部材の説明)
この実施の形態による上部材23と下部材24は、
図9に示すように、これらの上部材23と下部材24とが互いに接合される接合部であって上述した接続部22となる接合板部32と、筒状部21を上下方向に分割した半部となる複数の屈曲板部とをそれぞれ有している。
複数の屈曲板部33は、筒状部21を構成する「板部26」に相当するものである。
図9に示す複数の屈曲板部33は、角稜を有する断面コ字状の突条が形成されるように並べられている。これらの複数の屈曲板部33の少なくとも一つに脆弱部27が形成されている。以下においては、上部材23および下部材24に設けられている複数の屈曲板部33、すなわち筒状部21を上下方向に分割した半部となる複数の屈曲板部33を単に「突条部分34」という。
複数の接合板部32は、突条部分34の両端に接続されている。
【0041】
上部材23と下部材24は、複数の屈曲板部33が上下方向において反対方向に突出する姿勢で接合板部32どうしを重ね、接合板部32どうしをスポット溶接により接合することによって組み合わせられている。
上部材23と下部材24とをこのように構成することにより、プレス成形で衝撃吸収体31の製造が容易となり、脆弱部27が容易に変形して軸圧壊のトリガーとなるため、横力(横割れ変形)が容易に発生する。脆弱部27が上部材23の上端となる屈曲板部33に形成されている場合は、脆弱部27を有する屈曲板部33がポール側突により
図9中に二点鎖線で示すように折れ曲がり、横力(横割れ変形)が生じる。
【0042】
(穴からなる脆弱部の説明)
図1および
図2に示す脆弱部27は、円形の穴によって構成されている。この穴は、
図10に示すように、衝撃吸収部材6に部材を溶接するためのスポット溶接用ガン35を挿入するために使用することができる。
図10に示す脆弱部27は、筒状部21の上端に位置する屈曲板部33Aを貫通する円形の穴である。この屈曲板部33とは反対側、すなわち筒状部21の下端に位置する屈曲板部33Bには、車幅方向において脆弱部27と同じ位置に、上部材23および下部材24とは別体に形成された付属部品36がスポット溶接によって接合されている。このスポット溶接は、貫通穴からなる脆弱部27に上方からスポット溶接用ガン35を挿入し、下部材24の下端の板部26と付属部品36とをスポット溶接用ガン35と電極37とによって挟んで実施する。
【0043】
図10に示す付属部品36は、
図11に示すようにサイドシルアウター8と下部材24とを接続するサイドシル固定ブラケットである。
図10に示す構成を採ることにより、脆弱部27としての穴を有効に利用して閉断面形状である筒状部21に他の部材(付属部品36)をスポット溶接により溶接することができるから、専らスポット溶接を行うための貫通穴を脆弱部27とは別に形成する場合と較べると、衝撃吸収エネルギーが多くなる。
【0044】
筒状部21の貫通穴を利用してスポット溶接を行うという技術は、
図12に示すように、筒状部21に倒れ込み抑制ブラケット13を溶接するために用いることができる。すなわち、筒状部21を構成する複数の屈曲板部33のうち、少なくとも一つの屈曲板部33(
図12においては下端に位置する屈曲板部33B)には、車幅方向の中央部にこの屈曲板部33Bを貫通する貫通穴38が形成されている。
【0045】
この貫通穴38が形成された屈曲板部33Bとは反対側に位置する上側の屈曲板部33Aには、車幅方向において貫通穴38と同じ位置に、上部材23および下部材24とは別体に形成された倒れ込み抑制ブラケット13がスポット溶接によって接合されている。このスポット溶接は、スポット溶接用ガン35を貫通穴38に挿入して行う。
倒れ込み抑制ブラケット13は、筒状部21の長手方向の中央部をサイドシル5に連結している。
【0046】
このように筒状部21を倒れ込み抑制ブラケット13によってサイドシル5に接続することにより、ポール側突方向(車幅方向であって車体外側から車体内側に向かう方向)に長い筒状部21をその長手方向がポール側突方向と平行になるように支持することができる。このため、
図12中に二点鎖線で示すように筒状部21が軸圧壊を起こす過程で倒れ込み、角稜に沿った荷重伝達ができないため軸圧壊ができなくなることを防ぐことができる。
【0047】
(接合板部と屈曲板部の前後方向の長さの説明)
図13に示すように、前後方向における複数の屈曲板部33からなる突条部分34の長さと、前後方向における一つの接合板部32の長さとの総和からなる長さAは、ポール側面衝突のテストに用いるポール側突試験体41のサイズに基づいて設定されている。ポール側面衝突のテストとしては、例えば米国で実施されている衝突安全評価テストのプログラムであるUS NCAP(New Car Assessment Programme) によって規定されたテストが知られている。このテストは、外径254mmのポールを車体の側部に所定の角度、速度で衝突させて行われる。
【0048】
ポール側面衝突のテストにおいてポール側突試験体41が当たるのはサイドシル5の一部である。ポール側突試験体41がサイドシル5に衝突した際の衝突エネルギーは、
図14に示すように、ポール側突試験体41の水平断面の中心Cからサイドシル5に向かって90°の範囲においてサイドシル5に吸収される。衝突エネルギー吸収量は、ポール側突試験体41の水平断面の中心Cからサイドシル5に向かって角度αの範囲の一部41aで相対的に多くなる。この部分の衝突範囲Bからサイドシル5に加えられる衝撃エネルギーは、全体の約70%である。
【0049】
角度αの範囲の部分は、ポール側突試験体41の水平断面の中心Cから40°~50°の範囲となる外周の一部であって、サイドシル5(衝撃吸収部材6)に最も近い円弧状の一部41aである。上述した長さAは、この円弧状の外周の一部41aをサイドシル5に向けてポール側突方向に投影した長さに設定されている。このように突条部分34と一つの接合板部32との前後方向の長さを上述した長さAとすることにより、衝突エネルギーの大部分を筒状部21で受けることができるようになり、衝撃吸収部材6による衝撃吸収エネルギーの量を最大とすることができる。
【0050】
(衝撃吸収体どうしの接合部分についての説明)
接合板部32は、
図15に示すように形成することができる。
図15は、一つの上部材23を示している。この上部材23は、上方に向けて凸になる形状に並ぶ複数の屈曲板部33からなる一つの突条部分34と、この突条部分34の前側と後側とに接続された一対の接合板部32とを有している。以下においては、一つの突条部分34と、突条部分34の前後両側に接続した二つの接合板部32とから構成される部分を、断面ハット状の「ハット状部」という。
【0051】
図15に示す上部材23は、上下方向に反転することにより下部材24としても使用できるように構成されている。
図15に示す上部材23と、この上部材23と同一の構造で上下方向に反転させた下部材24とを上下方向に重ね合わせて互いに接合することによって、複数の屈曲板部33によって上述した筒状部21が形成され、一つの衝撃吸収体31が形成される。
この衝撃吸収体31を長手方向に並べて互いに接合することによって、衝撃吸収部材6を形成することができる。すなわち、この衝撃吸収部材6は、前後方向に並ぶ複数の衝撃吸収体31を互いに接合することによって構成されている。この衝撃吸収体31を構成する上部材23は、ハット状部を少なくとも一つ含めて形成することができる。また、この衝撃吸収部材6を構成する下部材24は、ハット状部を少なくとも一つ含めて形成することができる。
【0052】
図15に示す2つの接合板部32は、二つの上部材23を前後方向に組み合わせることができるように、前後方向に延びる切欠き42と、この切欠き42に車幅方向に隣接する突片43とをそれぞれ有している。
2つの接合板部32のうち、屈曲板部33より前側に位置する前側の接合板部32には、前端部に切欠き42と突片43とが設けられている。屈曲板部33より後側に位置する後側の接合板部32には、後端部に切欠き42と突片43とが設けられている。切欠き42の大きさ(前後方向の幅と車幅方向の幅)は、他の上部材23または下部材24に形成されている突片43を挿入可能な大きさである。
【0053】
図15に示す上部材23を2個作成して前後方向に組み合わせるためには、
図16に示すように、前側の上部材23の後側の接合板部32に形成されている切欠き42に、後側の上部材23の前側の接合板部32に形成されている突片43を挿入してこれらを組み合わせる。ここでは、これらの2つの上部材23が組み合わせられることにより、上部組立体44が形成される。
図16には、二つの下部材24を組み合わせた下部組立体45が図示されている。これらの上部組立体44と下部組立体45とを上下方向に重ね合わせて互いに接合することにより、
図17に示すように、前後方向に互いに隣り合う2組の衝撃吸収体31が形成される。これら2組の衝撃吸収体31どうしの接合部は、上下方向において2枚重ねの状態となっている。
【0054】
2組の衝撃吸収体31どうしの接合は、
図16中に示す二点鎖線が通る上部材23の突片43と下部材24の突片43とをスポット溶接によって溶接して行われる。前側の上部材23の突片43と、後側の下部材24の突片43とを上下方向に重ね、これらの突片43どうしがスポット溶接によって溶接されることにより、2組の衝撃吸収体31どうしが互いに接合される。なお、前側の上部材23と下部材24との接合、後側の上部材23と下部材24との接合は、各々の接合板部32どうしをスポット溶接によって溶接することにより行うことができる。
図17においては、スポット溶接を行うときの2つの電極の軸線を二点鎖線Wで示す。
【0055】
前後方向に互いに隣り合う2組の衝撃吸収体31どうしの接合部は、一方の衝撃吸収体31の上部材23または下部材24に形成された切欠き42に、他方の衝撃吸収体31の上部材23または下部材24に形成された突片43を挿入して組み合わせることにより、2枚重ねの状態となる。
上部材23と下部材24とを、生産性の向上を図るために一つまたは二つの突条部分34を有する形状に形成すると、衝撃吸収部材6を形成するためには衝撃吸収体31の数が多くなる。この場合、衝撃吸収体31どうしの接続部分の厚みが厚くなることがあり、この接続部分において強度が筒状部21より大きくなるおそれがある。しかし、接合板部32に切欠き42と突片43とを形成すると、上述したように衝撃吸収体31どうしの接続部分を2枚重ねの状態とすることができるから、この接続部分と筒状部21との強度分布差が解消される。このため、筒状部21の軸圧壊が接続部分によって阻害されることを防ぐことができる。また、接続部分に板状の付属部品(図示せず)をもう1枚重ね、3枚の板材による挟み込みスポット溶接も可能となる場合がある。
【0056】
接合板部32に切欠き42と突片43とを形成する場合は、
図18に示すように、前後方向の一方の接合板部32のみに切欠き42と突片43とを形成することができる。この場合は、上部材23と下部材24の切欠き42および突片43が形成されていない接合板部32を重ね、これらの接合板部32の上および下に、
図19に示すように、切欠き42と突片43を有する他の上部材23、下部材24の接合板部32を重ねる。そして、重ねた接合板部32の切欠き42の中でスポット溶接を行う。
図19においては、スポット溶接を行うときの2つの電極の軸線を二点鎖線Wで示す。
この場合であっても前側の衝撃吸収体31と後側の衝撃吸収体31との接合を2枚重ねの状態で行うことができる。
【0057】
接合板部32に切欠き42と突片43とを形成する場合は、
図20に示すように2枚の上部材23と1枚の下部材24とを使用して1個の衝撃吸収体31を作成することができる。
図20に示す前後の上部材23,23は、複数の屈曲板部33からなる突条部分34が下方に向けて凸になる姿勢として使用されている。二つの上部材23どうしは、接合板部32の切欠き42に突片43を挿入して組み合わせられている。また、下部材24は、複数の屈曲板部33からなる突条部分34が上方に向けて凸になる姿勢で使用されている。
【0058】
二つの上部材23と一つの下部材24との接合は、
図21に示すように、下部材24の突条部分の上面に上部材23の突片43を重ね、突条部分34の上面となる屈曲板部33と突片43とをスポット溶接によって詳説することにより行われる。
図21においては、スポット溶接を行うときの2つの電極の軸線を二点鎖線Wで示す。
図21に示す衝撃吸収体31においては、下部材24の突条部分34の両側に二つの筒状部21が構成されている。また、この衝撃吸収体31においては、筒状部21を構成する屈曲板部33のうち、前後方向の一方の屈曲板部33に脆弱部27が形成されている。なお、脆弱部27は、図示してはいないが、筒状部21の上壁と下壁、すなわち接合板部32に形成することもできる。
【0059】
(筒状部の変形例1)
筒状部21は
図22~
図24に示すように形成することができる。
図22~
図24において、
図1~
図20によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図22~
図24に示す衝撃吸収体31の上部材23と下部材24は、それぞれ鋼板にプレス成形を施すことによって所定の形状に形成されており、複数の屈曲板部33からなる突条部分34を有している。この衝撃吸収体31の上部材23と下部材24には、突条部分34が3つずつ形成されている。
【0060】
図22に図示されている上部材23の突条部分34の上端部であって車幅方向外側の端部には、前後方向に延びるように溝51が形成されている。この溝51は、脆弱部27を構成する穴より車体内側に形成されている。
図23に図示されている上部材23の突条部分34の両側部であって車幅方向外側の端部には、上下方向に延びる溝52が形成されている。この溝52は、脆弱部27を構成する穴より車体内側に形成されている。
図24に図示されている上部材23の突条部分34の上端部と両側部であって車幅方向外側の端部には、前後方向に延びる溝51と、上下方向に延びる溝52とが形成されている。これらの溝51,52は、脆弱部27を構成する穴より車体内側に形成されている。
なお、
図22~
図24に示す溝51,52は上部材23に形成されている。しかし、溝51,52は、上部材23の代わりに下部材24に設けることができる。
【0061】
図22~
図24に示すように筒状部21に溝51,52が形成されることにより、プレス成形によって上部材23や下部材24を金型で成形する過程で溝51,52に成型物(上部材23や下部材24)が係合するようになるから、軸圧壊エネルギー吸収量を高めるため1000MPaを越える高強度鋼板の冷間プレスにおいて、いわゆる形状凍結によりプレス成形におけるスプリングバックを抑制することができる。また、ポール側突時に脆弱部27の近傍で生じる変形に続いて溝51,52の部分で変形が生じるから、溝51,52が圧壊のトリガーとなり、圧壊が突条部分34の外側端部から車体内側に進み易くなる。このため、突条部分34の圧壊が十分に行われ、衝撃吸収エネルギーの量が多くなる。なお、ここでは上部材23と下部材24を鋼板にプレスを施して形成する例を示したが、上部材23と下部材24は、アルミニウム合金の板にプレスを施して形成することができる。上部材23と下部材24とをアルミニウム合金のプレス成形品としたとしても、同様の効果が得られる。
【0062】
(筒状部の変形例2)
筒状部21は
図25に示すように構成することができる。
図25において、
図1~
図24によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図25に示す筒状部21は、車幅方向から見てハの字となるように形成された第1の筒状部61と第2の筒状部62とによって構成されている。
図25に示す衝撃吸収部材6においては、第1の筒状部61と第2の筒状部62とを中空体単位63として複数の中空体単位63が前後方向に並べられている。
【0063】
中空体単位63を構成する第1の筒状部61と第2の筒状部62の上端部どうしは、上側接続片64によって互いに接続されている。互いに隣り合う中空体単位63の下端部どうしは、下側接続片65によって互いに接続されている。
すなわち、この実施の形態においては、第1の筒状部61と第2の筒状部62とを側方から見てハの字の形状に形成し、言い換えれば下端部が上端部より前後方向に広い形状に形成し、これらを上側接続片64によって接続することにより中空体単位63が構成されている。前後方向に隣り合う二つの中空体単位63どうしは、第1、第2の筒状部61,62を接続する上側接続片64とは上下方向にオフセットされた下側接続片65により接続することによって結合されている。
【0064】
この構成を採ることにより、
図26および
図27に示すように、前後方向から見てサイドシル5の斜め上方から側突荷重FSが加えられた場合、側突荷重FSは
図26中に二点鎖線の矢印で示すように筒状部21の衝突側の上端21Aから非衝突側の下端21Bに向けて伝達される。詳述すると、側突荷重FSは、
図27中に二点鎖線の矢印で示すように、衝突側の上端21Aから非衝突側の下端21Bに向けて伝達される。衝突側の上端21Aに入力された側突荷重FSを、前後方向の幅が相対的に広い非衝突側の下端21Bで受けることができる。この結果、斜め上方からの荷重入力であっても第1および第2の筒状部61,62が十分に圧壊されるようになる。なお、
図26においては、説明を理解し易いように、筒状部21の形状を簡素化して描いてある。
【0065】
図25~
図27に示す衝撃吸収部材6は、上述したように斜め上方からの側突荷重FSであっても十分に衝撃吸収エネルギーを大きくすることができるから、
図26に示すようにサイドシル5内の下部に配置することができる。このため、サイドシル5内の上部の空間Sを広く利用することが可能になる。この空間Sには、衝撃吸収部材6とは異なる部材を搭載することが可能である。
【0066】
図25に示す中空体単位63と上側接続片64および下側接続片65とを用いて形成された衝撃吸収部材6は、
図28および
図29に示すように構成することができる。
図28に示す衝撃吸収部材6は、断面ハット状に形成された3つの鋼板プレス品71~73を前後方向に並べて組み合わせて接合することによって形成されている。鋼板プレス品71~73は、車幅方向に延びる突条となる帽子部74と、帽子部74の前後方向の両端から前後方向に突出する一対のつば部75とによって形成されている。
【0067】
3つの鋼板プレス品71~73のうち、中央に位置する鋼板プレス品71は、帽子部74が上方に向けて凸になる姿勢とされており、上述した下部材24を構成している。
3つの鋼板プレス品71~73のうち、前側の鋼板プレス品72と後側の鋼板プレス品73は、帽子部74が下方に向けて凸になる姿勢で中央の鋼板プレス品71を前側と後側とから挟むように配置されており、上述した上部材23を構成している。
上述した第1の筒状部61は、中央の鋼板プレス品71の帽子部74の一部と、前側の鋼板プレス品72の帽子部74の一部とを用いて構成されている。第2の筒状部62は、中央の鋼板プレス品71の帽子部74の一部と、後側の鋼板プレス品73の帽子部74の一部とを用いて構成されている。
この構成を採ることにより、単一のプレス金型で安価に筒状部21を製造することができる。
【0068】
図29に示す衝撃吸収部材6は、
図28に示す衝撃吸収部材6とは鋼板プレス品71~73のつば部75の形状が異なり、その他の構成は同一となるように形成されている。
図29に示す鋼板プレス品71~73のつば部75は、第1の筒状部61および第2の筒状部62の上下方向の開口幅が上下方向に拡がるようにそれぞれ角稜76を追加する段部77を有している。
つば部75に段部77が形成されることにより、第1、第2の筒状部61,62に形成される稜線が増える。段部77が形成されていない第1、第2の筒状部62には、
図30中に二点鎖線で示すように、それぞれ4本の稜線L1が形成されている。段部77が形成されている第1、第2の筒状部61,62には、
図31に示すように、4本の上記の稜線L1の他に、段部77の稜線L2を含めて合計6本の稜線がそれぞれ形成されている。なお、
図31には、第1の筒状部61のみが描いてある。
このようにつば部75に段部77を設けることにより、第1および第2の筒状部61,62の軸線方向(車幅方向)における剛性(軸力)が高くなって、ポール衝突のような高い荷重でも横変形と縦変形を組み合わせた座屈が発生でき、軸圧壊によるエネルギー吸収量が増加するようになる。
【0069】
(衝撃吸収部材の支持構造の説明)
側突荷重で車体内側に押された衝撃吸収部材6を支持するためには、
図32および
図33に示す構造を採ることができる。
図32および
図33において、
図1~
図31によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図32に示す車体側部構造4は、サイドシル5より車体内側で前後方向に延びるビーム81を有している。なお、
図32においては、説明を理解し易いように、筒状部21の形状を簡素化して描いてある。
ビーム81は、バッテリーハウジング82のサイドフレームであって、車長方向(前後方向)に長い中空体によって形成されている。バッテリーハウジング82は、走行用モータ(図示せず)に給電する複数のバッテリー(図示せず)を収容するもので、車体フロア83の下方(車体フロア下)で車体フレーム1に固定されている。車体フロア83は、乗員(図示せず)が乗るスペースと下方の車外とを仕切るものである。
【0070】
ビーム81の上下方向の中央部には、車幅方向に延びてビーム81内を上下方向に仕切る仕切壁84が設けられている。
この仕切壁84は、
図33に示すように、ビーム81の前端から後端まで直線状に前後方向に延びており、車体側方から見て衝撃吸収部材6の複数の筒状部21の下端と上端との間に位置付けられている。
図33に示す仕切壁84は、筒状部21の上下方向の中央と同じ高さ位置に位置付けられている。
【0071】
この構成を採ることにより、
図34に示すように、ポール衝突時に衝撃吸収部材6に加えられた衝撃を車体フレーム1に固定されたバッテリーハウジング82のビーム81で受けることができ、筒状部21が確実に圧壊される。
図34においては、ポール側突試験体41が衝突する例を示している。また、
図34においては、ポール衝突時の衝撃力を白抜きの矢印で示し、筒状部21の圧壊部(角稜の座屈部分)を符号85で示し、サイドシル5の圧壊部を符号86で示す。
【0072】
車体側面へのポール衝突は前後方向の任意の位置で発生するが、前後方向に所定間隔(ポール衝突体に合わせた筒状部と接続片の長さの間隔)で並ぶ複数の筒状部21の全てが仕切壁84を有するビーム81で支持されるために、衝突箇所とは無関係に衝突荷重をビーム81で受けることができる。このため、この実施の形態を採ることにより、衝撃吸収部材6の支持強度、支持剛性が増し、筒状部21で確実に軸圧壊が起こるようになってポール衝突のエネルギー吸収量がより一層増えるようになる。
【0073】
衝撃吸収部材6に加えられた側突荷重を受けるビーム81は、
図35に示すように構成することができる。
図35においては、筒状部21とサイドシル5の形状を簡素化した状態で描いてある。
図35に示すビーム81は、ロールフォーミング製法によって形成されている(金属の押出成形品でもよい)。このビーム81の車幅方向外側の角部81aは、断面円弧状となるように湾曲している。また、このビーム81の仕切壁84は、ビーム81の車幅方向外側の縦壁81bに突き当てられており、突き当て状態で外側からレーザー溶接によって縦壁81bに溶接されている。
【0074】
ビーム81を
図35に示すように形成することにより、ビーム81の被衝突面(車幅方向外側の端面)に加えられた側突荷重FSが
図35中に二点鎖線の矢印で示すように、湾曲した角部81aを伝うようにしてビーム81の上面あるいは下面に達するようになる。この結果、被衝突面の剛性が高くなる。しかも、被衝突面がビーム81内の仕切壁84で支持されるために、曲げ強度が高まり、更に筒状部21の支持強度、支持剛性が高まり、衝撃吸収エネルギーの量が増加する。
図35に示す構成を採る場合は、湾曲した角部81aの曲率半径を変えることにより、ビーム81で受けることが可能な側突荷重の大きさが変わる。このため、この実施の形態を採ることにより、衝撃吸収部材6の支持構造を設計するうえで自由度が増大する。
【0075】
バッテリーハウジング82を支持する構造は
図36に示すように構成することができる。
図36において、
図1~
図35によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図32に示す車体側部構造4は、
図36に示す車体のフロアに設けられたクロスメンバなど強度部材91を備えている。この強度部材91は、詳細には図示してはいないが、サイドシル5に固定されているもので、車体フロアフレームなどを含んでもよい。
【0076】
前記バッテリーハウジング82は、縦フレームの1種であるサイドビーム81と車幅方向に並びかつ車幅方向に延びる補強部材92を有している。補強部材92は、ビーム81と略同じ高さ位置に位置付けられており、
図37に示すように、バッテリーハウジング82の車幅方向の一端に位置するビーム81から他端に位置するビーム81まで車幅方向に延びている。また、補強部材92は、前後方向に所定の間隔をおいて並ぶ複数の位置にそれぞれ設けられている。
ビーム81は、サイドシル5の下部に固定部93を介して固定されている。また、ビーム81は、強度部材91に補強部材92と連結部材94とを介して固定されている。
【0077】
この構成を採ることにより、側突荷重について筒状部21の支持強度、支持剛性がより一層高くなる。このため、ポール衝突のような大きな荷重であっても、筒状部21を車体フレーム1に確実に固定されたビーム81で受けることができるので、衝撃吸収部材6において軸圧壊が十分に起こるようになる。
【0078】
(筒状部の変形例3)
筒状部21は
図38および
図39に示すように構成することができる。
図38および
図39において、
図1~
図37によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図38に示す筒状部21、すなわち第1の筒状部61と第2の筒状部62の開口側端部には、側方から見て多角形となる閉断面の外側に向けて突出する固定部材101が設けられている。
図38に示す固定部材101は、断面L字状に形成されており、上下方向に延びる屈曲板部33の車幅方向外側の端部に、一端部を溶接あるいは一体形成することによって設けられている。なお、固定部材101は、筒状部21の車幅方向内側の端部に設けることもできる。固定部材101の他端部は、上下方向に延びる状態でサイドシルアウター8またはサイドシルインナー7の上下方向に延びる壁に重ねられ、スポット溶接によって溶接されている。
【0079】
この構成を採ることにより、サイドシルアウター8またはサイドシルインナー7と固定部材101との挟みこみスポット溶接が容易となる。このスポット溶接を行うにあたっては、サイドシルアウター8またはサイドシルインナー7と筒状部21とは車幅方向の一方が開放されているから、スポット溶接用ガンを容易に筒状部21内に挿入することができる。
【0080】
(筒状部の変形例4)
筒状部21は
図40(A),(B)および
図42に示すように構成することができる。
図40(A),(B~
図42において、
図1~
図37によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図40(A)は脆弱部を有する鋼板プレス品の斜視図、
図40(B)は衝撃吸収部材の一部の斜視図である。
図41(A)は、
図29に示す衝撃吸収部材の凹みが浅い側の角稜76にポール衝突の荷重が作用する状態を示す斜視図、
図41(B)は、凹みが浅い側のつば部の一部がめくりあがった事象を説明するための模式図、
図41(C)は、凹み部が座屈を起こした状態を説明するための模式図である。
【0081】
図40(A)に示す鋼板プレス品111は、金型(図示せず)によって鋼板にプレス成形を施すことにより断面ハット状に形成されている。すなわち、この鋼板プレス品111は、帽子部112の両側にそれぞれつば部113を有している。この鋼板プレス品111は、
図29に示した鋼板プレス品71~73と較べると、帽子部112の頂部112Aが前後方向に長く形成されている。頂部112Aの前後方向の中央部には、頂部112Aの一部が帽子部112の内側に向けて凹む形状の凹み部114が形成されている。凹み部114を挟む頂部112Aの前部と後部とにそれぞれ貫通穴からなる脆弱部27が形成されている。帽子部112の頂部112Aにこのように凹み部114が形成されることにより、頂部112Aの2箇所に段部77が形成され、4つの角稜76が形成される。このため、一つの帽子部112に6つの角稜76が形成される。
【0082】
この鋼板プレス品111を使用して第1、第2の筒状部61,62を有する衝撃吸収部材を形成するためには、この鋼板プレス品111と同じ形状で脆弱部27が形成されていない2つの鋼板プレス品を作成し、
図40(B)に示すように、これらを上下方向に反転させた姿勢で重ねて接合する。ここでは便宜上、脆弱部27を有する鋼板プレス品を上側の鋼板プレス品111Aといい、脆弱部27を有していない鋼板プレス品を下側の鋼板プレス品111Bという。
図40(B)に図示されている上側の鋼板プレス品111Aは、帽子部112が上方に向けて凸になる姿勢で使用され、下側の鋼板プレス品111Bは、帽子部112が下方に向けて凸になる姿勢で使用されている。
【0083】
上側の鋼板プレス品111Aの凹み部114に、前側に位置する下側の鋼板プレス品111Bの後側のつば部113と、後側に位置する下側の鋼板プレス品111Bの前側のつば部113とが下方から重ねられている。下側の鋼板プレス品111Bの凹み部114には、前側に位置する上側の鋼板プレス品111Aの後側のつば部113と、後側に位置する上側の鋼板プレス品111Aの前側のつば部113とが重ねられている。これらの重ね合わせ部分でスポット溶接が実施されることにより、上側の鋼板プレス品111Aと下側の鋼板プレス品111Bとが接合され、衝撃吸収部材6が形成される。
【0084】
図40(B)に示す衝撃吸収部材においては、凹み部114の裏面(帽子部112の内側の面)に、上下反対側で前後に並ぶ鋼板プレス品のつば部113が重ねられている。凹み部114の深さH1は、帽子部112のつば部113に対する高さH2より浅い。すなわち、H1<H2である。
上側の鋼板プレス品111Aの凹み部114は、第1の筒状部61と第2の筒状部62の上端部どうしを接続する上側接続片64を構成する部分である。下側の鋼板プレス品111Bの凹み部114は、第1の筒状部61と第2の筒状部62の下端部どうしを接続する下側接続片65を構成する部分である。
図40(B)に示す衝撃吸収部材の上側接続片64と下側接続片65は、凹み部114の裏面に、言い換えれば帽子部112の内側につば部113が接合されている。以下においては、帽子部112の内側につば部113が接合されている上側接続片64、下側接続片65を単に「内側接続式の接続片115」という。
【0085】
図40(B)に示す衝撃吸収部材6は、上述した
図29に示す衝撃吸収部材6と較べると衝撃エネルギー吸収性能が高い。この理由は以下の通りである。
図29に示す衝撃吸収部材6は、
図41(A)に示すように、上側接続片64と下側接続片65が上述した凹み部に相当する。
図41(A)に示す上側接続片64と下側接続片65は、帽子部74の外側につば部75が接合されている。以下においては、帽子部74の外側につば部75が接合されている上側接続片64、下側接続片65を単に「外側接続式の接続片116」という。
【0086】
図40(B)に示す衝撃吸収部材6と、
図29に示す衝撃吸収部材6{
図41(A)参照}は、いずれも凹み部の深さH1が帽子部のつば部に対する高さH2より浅い(H1<H2)ので、図中に矢印Fで示すようにポール衝突の荷重の一部が凹みの浅い側の角稜76に作用すると、この荷重Fが凹み部に直接的に作用する。この荷重Fは、
図41(A)に示す衝撃吸収部材6においては外側接続式の接続片116に作用し、
図40(B)に示す衝撃吸収部材6においては内側接続式の接続片115に作用する。
【0087】
外側接続式の接続片116に上記の荷重Fが作用すると、
図41(B)に示すように、つば部75がスポット溶接部Wを起点にして凹み部の表側に向けてめくりあがる。このようにつば部75の一部がめくりあがってしまうと、衝撃エネルギー吸収量が減少することがわかった。一方、
図40(B)に示す内側接続式の接続片115(凹み部114)に隣接する一方の角稜76Rに、図中に矢印Fで示すようにポール衝突の荷重の一部が作用すると、この角稜76Rは凹み部114を介して他方の角稜76Lと繋がっているために、他方の角稜76Lに図中に矢印FHで示す反力が発生する。このように反力FHが生じることにより、凹み部114がめくりあがることが抑制され、
図41(C)に示すように凹み部114が座屈を起こす。このため、内側接続式の接続片115を採用した衝撃吸収部材6は、高い衝撃エネルギー吸収性能を有するものとなる。したがって、脆弱部27を設定しなくてもポール衝突テストをクリヤーできる場合がある。
【0088】
図42に示す衝撃吸収部材6の鋼板プレス品121は、金型(図示せず)によって鋼板にプレス成形を施すことにより断面ハット状に形成されている。この鋼板プレス品121は、帽子部122の両側にそれぞれつば部123を有している。この鋼板プレス品121は、
図29に示した鋼板プレス品71~73と較べると、帽子部122の頂部122Aが前後方向に長く形成されている。
図42に示す帽子部122の頂部121Aは平坦に形成されている。帽子部122の前後方向の両端部にそれぞれ貫通穴からなる脆弱部27が形成されている。なお、脆弱部27を設定しなくてもポール衝突テストをクリヤーできる場合がある。
【0089】
図42に示す鋼板プレス品121を使用して衝撃吸収部材6を形成するためには、この鋼板プレス品121と同じ形状で脆弱部27が形成されていない別の鋼板プレス品を作成し、これら両者を上下方向に反転させた姿勢で重ねて接合させる。ここでは便宜上、脆弱部27を有する鋼板プレス品を上側の鋼板プレス品121Aといい、脆弱部27を有していない鋼板プレス品を下側の鋼板プレス品121Bという。
図42に示す衝撃吸収部材6は、上側の鋼板プレス品121Aの帽子部122の頂部122Aの裏面に、下側の鋼板プレス品121Bの後側のつば部123と、後側の鋼板プレス品121Bの前側のつば部123とを重ねる。また、下側の鋼板プレス品121Bの帽子部122の頂部122Aの裏面に、前側の鋼板プレス品121Aの後側のつば部123と、後側の鋼板プレス品121Bの前側のつば部123とを重ねる。これらの重ね合わせ部にスポット溶接を施すことにより、衝撃吸収部材6が形成される。
【0090】
図42に示す衝撃吸収部材6の第1の筒状部61と第2の筒状部62の上端部どうしを接続する上側接続片64と、第1の筒状部61と第2の筒状部62の下端部どうしを接続する下側接続片65は、は、帽子部122の内側につば部133が接合された「内側接続式の接続片115」である。このため、
図28に示す衝撃吸収部材6のように上側接続片64と下側接続片65が「外側接続式の接続片」となる場合と較べると、
図42に示す衝撃吸収部材6は、高い衝撃エネルギー吸収性能を有するものとなる。
【0091】
上述した各実施の形態においては脆弱部27が上部材23と下部材24の一方に設ける例を示した。しかし、前記脆弱部27は、上部材23と下部材24の両方に設けることもできる。このように、脆弱部27を上部材23と、この上部材23に対応する下部材24とに設けることで、これら上部材23と下部材24を同一の金型でプレスすることが可能になり生産性が高まる。
【0092】
また、上述した実施の形態で示したように脆弱部27の構成として貫通穴を採用すると、脆弱部27を多数設けることで軽量化できるとともに、貫通穴の個数や位置の組合せにより、衝撃エネルギー吸収モードを適宜変更可能となる。
前記内側接続式の接続片115を採用した衝撃吸収部材の場合、脆弱部27を設けなくてもポール衝突テストをクリヤーできる場合があるが、前記脆弱部27の個数や位置などの条件を変えることにより確実にポール衝突の衝撃エネルギーを吸収できるようになる。また、前記脆弱部27は、上述した実施の形態で示したように衝撃吸収体の帽子部の天部(頂部)に設定する他に、つば部につながる帽子部の側部に形成してもよい。但し、この場合、衝撃エネルギー吸収性能は帽子部の側部の方が天部より高いため、天部に脆弱部27を形成する方が好ましい。
【符号の説明】
【0093】
1…車体フレーム、4…車体側部構造、5…サイドシル、6…衝撃吸収部材、13…倒れ込み抑制ブラケット、21…筒状部、22…接続部、23…上部材、24…下部材、25…角稜、26…板、27…脆弱部、31…衝撃吸収体、32…接合板部、33…屈曲板部、36…付属部品、38…貫通穴、41…ポール側突試験体、42…切欠き、43…突片、51,52…溝、61…第1の筒状部、62…第2の筒状部、63…中空体単位、64…上側接続片、65…下側接続片、71~73…鋼板プレス品、74…帽子部、75…つば部、77…段部、81…ビーム、81a…角部、81b…縦壁、82…バッテリーハウジング、84…仕切壁、91…強度部材、92…補強部材、101…固定部材、114…凹み部、115…内側接続式の接続片、116…外側接続式の接続片。