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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135520
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ヒートポンプシステム
(51)【国際特許分類】
   F25B 25/00 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F25B25/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046245
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100144510
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 真由
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】廣田 靖樹
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(57)【要約】
【課題】 ヒートポンプシステムにおいて、エネルギー消費効率を向上させる技術を提供する。
【解決手段】 ヒートポンプシステムは、包接水和物が生成される生成部と、包接水和物の分解が行われ、分解物が送出される分解部と、生成部から分解部へと熱媒体が流れる第1主流路と、分解部から生成部へと熱媒体が流れる第2主流路と、分解部から送出される分解物中のガスと混合溶媒を分離する気液分離部と、気液分離部により分離された混合溶媒中の水と補助剤を分離する液液分離部と、液液分離部と分解部とを接続し、液液分離部により補助剤が分離された水を分解部に供給する第1副流路と、を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体が包接水和物の分解過程と生成過程とを繰り返すことにより、熱を輸送するヒートポンプシステムであって、
水と液体の補助剤の混合溶媒とガスの混合液が流入され、包接水和物が生成される生成部と、
包接水和物の分解が行われ、前記ガスと前記混合溶媒との混相である分解物が送出される分解部と、
前記生成部から前記分解部へと前記熱媒体が流れる第1主流路と、
前記分解部から前記生成部へと前記熱媒体が流れる第2主流路と、
前記生成部内の前記熱媒体と、前記ヒートポンプシステム外の熱源との熱交換により前記熱媒体を放熱させる放熱部と、
前記分解部内の前記熱媒体を減圧する減圧部と、
前記分解部内の前記熱媒体と、前記ヒートポンプシステム外の熱源との熱交換により前記熱媒体に吸熱させる吸熱部と、
前記分解部と前記第2主流路を介して接続され、前記分解部から送出される前記分解物中の前記ガスと前記混合溶媒を分離する気液分離部と、
前記気液分離部と前記第2主流路を介して接続され、前記気液分離部により分離された前記ガスを圧縮する圧縮部と、
前記気液分離部、前記圧縮部、および前記生成部と前記第2主流路を介して接続され、前記気液分離部により分離された前記混合溶媒と、前記圧縮部により圧縮された前記ガスとを含む前記混合液を生成し、前記第2主流を介して前記生成部に前記混合液を供給する混合部と、
前記気液分離部と前記混合部との間に配置され、前記気液分離部により分離された前記混合溶媒中の水と前記補助剤を分離する液液分離部と、
前記液液分離部と前記分解部とを接続し、前記液液分離部により前記補助剤が分離された水を前記分解部に供給する第1副流路と、
を備える、
ヒートポンプシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のヒートポンプシステムであって、
前記生成部と前記第1主流路を介して接続され、前記生成部で生成された前記包接水和物と前記ガスと前記混合溶媒とを含む気固液混合体から前記ガスを分離する気/固液分離部と、
前記気/固液分離部により分離された前記ガスを前記混合部に供給する第2副流路と、
をさらに備える、
ヒートポンプシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のヒートポンプシステムであって、
前記第1主流路に配置され、前記熱媒体を輸送する輸送ポンプを、さらに備える、
ヒートポンプシステム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のヒートポンプシステムであって、
前記気液分離部と前記圧縮部との間に配置され、前記気液分離部にて分離された前記ガス中の前記混合溶媒を吸着する脱水部を、さらに備える、
ヒートポンプシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体の圧縮・膨張と熱交換を組み合わせたヒートポンプが用いられている。例えば、特許文献1には、冷媒ラインを介して相互連結され、凝縮された冷媒を膨張させる膨張バルブと、膨張した冷媒を空気との熱交換を通じて蒸発させる蒸発器と、蒸発された気体状態の冷媒を圧縮させる圧縮器とを含んで構成された車両用エアコンシステムが開示されている。
【0003】
ヒートポンプは、少ない電気エネルギーで効率的に熱エネルギーを得ることができる点が特徴であるものの、近年の環境問題に関する意識の高まりと共に、より一層のエネルギー消費効率の向上が望まれている。これに対し、包接水和物の分解/生成を利用したヒートポンプシステムが提案されている(例えば、特許文献2、3、非特許文献1参照)。包接水和物の分解/生成熱は、特許文献1に記載されたヒートポンプにおいて用いられるような、通常の冷媒の蒸発/凝縮潜熱の10倍以上であるため、エネルギー消費効率の向上が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-076792号公報
【特許文献2】特開2004-101140号公報
【特許文献3】特開2022-087404号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Ogawa et al., Applied Energy, 26, 2157 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2、3、および非特許文献1に開示されている包接水和物の分解/生成を利用したヒートポンプシステムにおいて、さらなるエネルギー消費効率の向上が望まれている。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、ヒートポンプシステムにおいて、エネルギー消費効率を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本発明の一形態によれば、熱媒体が包接水和物の分解過程と生成過程とを繰り返すことにより、熱を輸送するヒートポンプシステムが提供される。このヒートポンプシステムは、水と液体の補助剤の混合溶媒とガスの混合液が流入され、包接水和物が生成される生成部と、包接水和物の分解が行われ、前記ガスと前記混合溶媒との混相である分解物が送出される分解部と、前記生成部から前記分解部へと前記熱媒体が流れる第1主流路と、前記分解部から前記生成部へと前記熱媒体が流れる第2主流路と、前記生成部内の前記熱媒体と、前記ヒートポンプシステム外の熱源との熱交換により前記熱媒体を放熱させる放熱部と、前記分解部内の前記熱媒体を減圧する減圧部と、前記分解部内の前記熱媒体と、前記ヒートポンプシステム外の熱源との熱交換により前記熱媒体に吸熱させる吸熱部と、前記分解部と前記第2主流路を介して接続され、前記分解部から送出される前記分解物中の前記ガスと前記混合溶媒を分離する気液分離部と、前記気液分離部と前記第2主流路を介して接続され、前記気液分離部により分離された前記ガスを圧縮する圧縮部と、前記気液分離部、前記圧縮部、および前記生成部と前記第2主流路を介して接続され、前記気液分離部により分離された前記混合溶媒と、前記圧縮部により圧縮された前記ガスとを含む前記混合液を生成し、前記第2主流を介して前記生成部に前記混合液を供給する混合部と、前記気液分離部と前記混合部との間に配置され、前記気液分離部により分離された前記混合溶媒中の水と前記補助剤を分離する液液分離部と、前記液液分離部と前記分解部とを接続し、前記液液分離部により前記補助剤が分離された水を前記分解部に供給する第1副流路と、を備える。
【0010】
この構成によれば、液液分離部により補助剤濃度が低減された混合溶媒を分解部に供給することができる。分解部中の補助剤濃度が低減され、包接水和物の安定境界曲線が低温側に移動することにより、分解部における包接水和物の分解を促進させることができる。また、液液分離部により補助剤が濃縮された混合溶媒を生成部に供給することにより、包接水和物の生成を促進させることができる。すなわち、この構成によれば、生成部と分解部との間で補助剤濃度を制御することができ、冷凍サイクル運転における高温側と低温側の温度差を拡大することができ、エネルギー消費効率COP(成績係数:Coefficient Of Performance)を向上させることができる。
【0011】
(2)上記形態のヒートポンプシステムであって、さらに、前記生成部と前記第1主流路を介して接続され、前記生成部で生成された前記包接水和物と前記ガスと前記混合溶媒とを含む気固液混合体から前記ガスを分離する気/固液分離部と、前記気/固液分離部により分離された前記ガスを前記混合部に供給する第2副流路と、を備えてもよい。
【0012】
この構成によれば、生成部と分解部との間に、気/固液分離部を備えるため、包接水和物固体を含む混合体(「スラリー」とも呼ぶ)から、ガスを分離/除去して、ガスの含有量が低減された包接水和物固体を主に含む混合体を分解部に供給することができる。そのため、余剰なガスが圧縮部に供給されることによる圧縮機効率の低下を抑制することができる。その結果、エネルギー消費効率を、さらに向上させることができる。
【0013】
(3)上記形態のヒートポンプシステムであって、前記第1主流路に配置され、前記熱媒体を輸送する輸送ポンプを、さらに備えてもよい。このようにすると、輸送ポンプにより流量を調整することができるため、分解部における分解速度を調整することができる。
【0014】
(4)上記形態のヒートポンプシステムであって、前記気液分離部と前記圧縮部との間に配置され、前記気液分離部にて分離された前記ガス中の混合溶媒を吸着する脱水部を、さらに備えてもよい。このようにすると気液分離部にて分離されたガスに混入した混合溶媒を除去することができる。これにより、圧縮部によるエネルギー消費を低減することができ、ヒートポンプシステムのエネルギー消費効率を、さらに向上させることができる。
【0015】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、ヒートポンプシステムを有する熱利用装置、ヒートポンプシステムの制御方法、冷熱生成方法、温熱生成方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態のヒートポンプシステムの基本構成を模式的に示した説明図である。
図2】ヒートポンプシステムにおける通常モードを模式的に示す説明図である。
図3】ヒートポンプシステムにおける温度差拡大モードを模式的に示す説明図である。
図4】包接水和物の安定境界曲線を概念的に示す説明図である。
図5】補助剤による包接水和物の安定境界曲線の移動の一例を示す説明図である。
図6】空気調和装置における冷熱生成を模式的に示す説明図である。
図7】空気調和装置における温熱生成を模式的に示す説明図である。
図8】制御部におけるモード切替制御の流れを示すフローチャートである。
図9】エネルギー消費効率の比較を示す説明図である。
図10】第2実施形態のヒートポンプシステムの基本構成を模式的に示した説明図である。
図11】電力COPと気固液割合の関係を示す図である。
図12】第3実施形態のヒートポンプシステムの基本構成を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態のヒートポンプシステム100の基本構成を模式的に示した説明図である。ヒートポンプシステム100は、熱媒体が包接水和物の分解過程と生成過程とを繰り返すことにより、熱を輸送する。包接水和物は、水分子が水素結合によって形成した籠の中にガス分子が包接された氷状の化合物(包接化合物)であり、水とガスから包接水和物が生成される生成過程で熱を発生し、包接水和物から水とガスに分離される分解過程で熱を吸収する。本実施形態のヒートポンプシステム100は、包接水和物の潜熱(分解・生成熱)を利用して、熱を輸送する。
【0018】
ヒートポンプシステム100は、水と補助剤との混合溶媒とガスとの混合液が流入され、包接水和物が生成される生成部10と、包接水和物の分解が行われ、ガスと混合溶媒との混相である分解物が送出される分解部20と、生成部10から分解部20へと熱媒体が流れる第1主流路30と、分解部20から生成部10へと熱媒体が流れる第2主流路40と、を備える。図1では、第1主流路30および第2主流路40を流れる熱媒体の相変化を示しており、包接水和物を破線、分解物(ガス/混合溶媒混相)を一点鎖線、ガスと混合溶媒とが混合された混合液を二重線、ガス相を二点鎖線、水相(混合溶媒)を実線で図示している。生成部10からは、包接水和物固体と、未反応のガスと混合溶媒(水/補助剤)とを含む気固液混合体の状態で包接水和物が出てくる。以降の説明において、包接水和物固体を含む気固液混合体を、包接水和物スラリーとも呼ぶ。
【0019】
包接水和物を生成するためのガスとしては、メタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレンなどの炭化水素系ガスや、HFC(ハイドロフルオロカーボン:Hydro Fluoro Carbon)、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン:Hydro Chloro Fluoro Carbon)などのフルオロカーボン系ガスや、アルゴン、クリプトンなどの希ガス、炭酸ガス(CO)、窒素、空気、アンモニア、キセノン(Xe)など、様々な冷媒ガスを用いることができる。最高平衡温度が高い、平衡圧力が低い、温度変化に対する圧力の変化量が少ない、などの特性を有するガスを用いると、高いCOPを得ることができるため、好ましい。なお、これらのガスは単独で使用してもよいし、所望の特性が得られるように複数種類を組み合わせて使用してもよい。異種ガスの組み合わせにより、包接水和物の相変化の条件を調整することが可能である。
【0020】
上述の通り、本実施形態のヒートポンプシステム100では、水と補助剤との混合溶媒とガスとの混合液が生成部10に供給される。補助剤は、包接水和物の相変化条件を調整するために水に添加されている(後に詳述する)。補助剤としては、特に限定されないが、包接水和物を形成しうる分子サイズ(5.8~8.6Å)であって、水に不溶なものが好ましい。後述するように、水と補助剤の混合溶媒から補助剤を分離することが容易であるためである。このような補助剤としては、例えば、シクロヘキサンやシクロペンタンなどの有機溶媒を用いることができる。
【0021】
図示するように、ヒートポンプシステム100は、生成部10内の熱媒体とヒートポンプシステム100外の熱源との熱交換により熱媒体を放熱させる放熱部12と、分解部20内の熱媒体とヒートポンプシステム外の熱源との熱交換により熱媒体に吸熱させる吸熱部22と、を備える。放熱部12および吸熱部22として、熱交換器を用いている。
【0022】
ヒートポンプシステム100は、第1主流路30に、分解部20内の熱媒体を減圧する減圧部24と、を備える。また、ヒートポンプシステム100は、第2主流路40に、分解部20から送出されるガスと水(混合溶媒)との混相である分解物を気液分離する第1気液分離部14と、第1気液分離部14により分離されたガスを圧縮する圧縮部16と、第1気液分離部14により分離された水(混合溶媒)と圧縮部16により圧縮されたガスとを混合して混合液を生成する混合部18と、を備える。さらに、ヒートポンプシステム100は、第1気液分離部14と混合部18との間に、第1気液分離部14により分離された混合溶媒中の水と補助剤を分離する液液分離部を備える。なお、本実施形態における第1気液分離部14を、単に「気液分離部」とも呼ぶ。
【0023】
第2主流路40は、分解部20と第1気液分離部14とを接続する第1流路41と、第1気液分離部14と圧縮部16とを接続する第2流路42と、第1気液分離部14と混合部18とを接続する第3流路43と、圧縮部16と混合部18とを接続する第4流路44と、混合部18と生成部10とを接続する第5流路45と、を備える。
【0024】
第3流路43は、第1気液分離部14と液液分離部54とを接続する第3a流路43aと、液液分離部54と混合部18とを接続する第3b流路43bを備える。第3a流路43aには、第1気液分離部14で分離された混合溶媒を液液分離部54へ送る送液ポンプ15が設けられている。第3b流路43bには、液液分離部54で補助剤が濃縮された混合溶媒を混合部18へ送る送液ポンプ58が設けられている。送液ポンプ58としては、送液ポンプ15より圧力が高い送液ポンプが用いられる。
【0025】
さらに、ヒートポンプシステム100は、液液分離部54により分離された水(補助剤濃度が薄い)を分解部20に供給する第1副流路70、を備える。第1副流路70には開閉弁72が設けられており、後述するように、所定の条件に応じて開閉される。
【0026】
減圧部24としては、膨張弁、キャピラリーチューブ等を用いることができる。第1気液分離部14は、表面張力式、サイクロン式、フィルタ式、遠心力式、冷却式、多段フィルタ式、サイクロン式等、種々の方式の気液分離器を用いることができる。表面張力式気液分離器の場合、分離後の気相側は冷媒ガスが100%、液相側は冷媒ガス/混合溶媒が30/70%(体積比)となることが想定される。圧縮部16としては、本実施形態では、電気式の圧縮機を用いている。
【0027】
液液分離部54は、水と補助剤との混合溶媒中の水と補助剤とを分離する。液液分離部54により補助剤濃度が低減された混合溶媒は第1副流路70を介して分解部20に供給され、液液分離部54により補助剤が濃縮された混合溶媒は第3b流路43bを介して18に供給される。液液分離部54は、表面張力式、サイクロン式、フィルタ式、遠心力式、冷却式、多段フィルタ式、サイクロン式等、種々の方式の液液分離器を用いることができる。多段フィルタ式液液分離器の場合、分離後の有機相側は補助剤が100%、水相側は補助剤/水が10/90%(体積比)となることが想定される。
【0028】
混合部18は、水(混合溶媒)と高圧ガスとを積極的に混合する。混合部18の形式として、内部混合型、外部混合型、衝突型、などを用いることができる。混合溶媒と高圧ガスを、例えば、ガスと混合溶媒とを撹拌する方法、フィルタを介して混合溶媒中にガスを供給する方法等を用いて混合することができる。混合部18によって、混合溶媒とガスとが混合されることにより、混合溶媒中のガスの気泡が細かくなる。気泡のサイズは特に限定されないが、マイクロサイズ~ナノサイズが好ましい。気泡のサイズを小さくすることにより、ガスと水との接触面積が大きくなり、包接水和物の生成効率を向上させることができる。なお、気泡サイズがナノサイズであると、包接水和物の生成効率がよりよいものの、多くのエネルギーを要するため、エネルギー消費とのバランスにより気泡サイズを設定するのが好ましい。
【0029】
分解部20から送出される熱媒体は、包接水和物が分解されたガスと水と補助剤とを含む混相である。第1流路41を流れる熱媒体は、ガスと水補助剤とを含む混相であるものの、積極的に混合されておらず、第5流路45を流れる熱媒体ほど均一にガスが混合溶媒中に混合されていない。本明細書において、高圧ガスと混合溶媒とが積極的に混合された溶液を「混合液」と呼び、分解部20にて包接水和物が分解されて生成されたガスと水と補助剤を含むもので、積極的に混合されていないものを、「分解物」と呼ぶ。
【0030】
本実施形態のヒートポンプシステム100は、液液分離部54を備え、開閉弁72の開閉を制御することにより、生成部に供給される混合液の補助剤濃度、および分解部中の補助剤濃度を制御することができる。通常モードでは、開閉弁72が閉弁され、温度差拡大モードでは、開閉弁72が開弁される(後に詳述する)。
【0031】
図2は、本実施形態のヒートポンプシステム100における通常モードを模式的に示す説明図である。図2を用いて、本実施形態のヒートポンプシステム100における熱輸送について説明する。通常モードでは、上述の通り、開閉弁72は閉弁されている。
【0032】
図2における分解部20の出口側の熱媒体は、分解状態(ガスと水と補助剤の混相)であり、低温、低圧である。熱媒体としての分解物は第1流路41を通って第1気液分離部14に流入する。分解物は、第1気液分離部14において、ガスと混合溶媒とに分解される。ガスは、第2流路42を通って圧縮部16に流入し、圧縮部16によって昇圧され、第4流路44を通って、混合部18に流入する。ガスは、圧縮部16による圧縮により昇圧されると共に、昇温される。一方、混合溶媒は、送液ポンプ15、58によって第3流路43を流され、混合部18に流入する。混合部18において、高圧のガスと混合溶媒とが混合され、高圧の混合液が生成され、第5流路45を通って生成部10に流入する。すなわち、生成部10の入り口側の熱媒体(混合液)は、高温、高圧である。
【0033】
生成部10に流入した高圧の混合液(熱媒体)は、放熱部12によって放熱され、冷却される。具体的には、放熱部12としての熱交換器によって、生成部10内の熱媒体と、ヒートポンプシステム外の熱源との熱交換が行われ、熱媒体が冷却される。熱媒体から生成熱に相当する熱が放出されると、熱媒体の状態は、熱媒体の相平衡線を横切り、生成部10の出口側では包接水和物状態(高圧)となる。生成部10から送出される包接水和物は、未反応の水(混合溶媒)およびガスを含んだスラリー状である。熱媒体は、生成部10と分解部20との圧力差により、生成部10から分解部20へ流れる。
【0034】
熱媒体としての包接水和物は、第1主流路30を流れ、減圧部24により減圧されて、分解部20に流入する。包接水和物は、減圧部24により減圧されると共に、降温される。すなわち、分解部20の入口側では、熱媒体は、低圧の包接水和物である。分解部20に流入した低圧の包接水和物(熱媒体)は、吸熱部22によって加熱される。具体的には、吸熱部22としての熱交換機によって、分解部20内の熱媒体と、ヒートポンプシステム外の熱源との熱交換が行われ、熱媒体が外部の熱を吸収し、加熱される。熱媒体が、分解熱に相当する熱を吸収すると、熱媒体の状態は、熱媒体の相平衡線を横切り、分解部20の出口側では低温、低圧の分解状態(ガスと混合溶媒の混相物)となる。
【0035】
このように、本実施形態のヒートポンプシステム100では、包接水和物の分解・生成熱に相当する熱を、ヒートポンプシステム100外の物体から汲み上げ、ヒートポンプシステム100外の他の物体に与えることができる。放熱部12としての熱交換器、吸熱部22としての熱交換器は、それぞれ、生成部10および分解部20の内部で熱交換を行ってもよく、外部で熱交換を行ってもよい。
【0036】
図3は、本実施形態のヒートポンプシステム100における温度差拡大モードを模式的に示す説明図である。図4は、包接水和物の安定境界曲線を概念的に示す説明図である。上述の通り、本実施形態のヒートポンプシステム100は、温度差拡大モードでは、開閉弁72が開弁される(後に詳述する)。
【0037】
図3に示すように、温度差拡大モードにおいて、開閉弁72が開弁されると、液液分離部54において、補助剤が分離され、補助剤濃度が低減された混合溶媒(例えば、補助剤/水が10/90%(体積比))が、第1副流路70を介して分解部20に供給される。そうすると、分解部20中の熱媒体の補助剤濃度が低減される。図4に示すように、包接水和物の安定境界曲線は、補助剤がない場合には、補助剤がある場合より低温側へ移動する。そうすると、分解部内の温度が同一であっても、補助剤がある場合より分解反応が促進される。
【0038】
一方、温度差拡大モードにおいて、開閉弁72が開弁されると、液液分離部54において、補助剤が濃縮された混合溶媒(例えば、補助剤が100%)が、第3b流路43bを介して混合部18に供給される。すなわち、混合液に補助剤が添加されるため、図4に示すように、包接水和物の安定境界曲線は、補助剤がない場合より高温側へ移動する。そうすると、生成部内の温度が同一であっても、補助剤がない場合より生成反応が促進される。
【0039】
このように、ヒートポンプシステム100において、生成部10では高温運転のため、補助剤を添加し、包接水和物を生成しやすくし、一方、分解部20では低温運転であるため、補助剤を取り除き、包接水和物を分解しやすくすることができるように構成されている。すなわち、本実施形態のヒートポンプシステム100によれば、補助剤を出し入れすることにより、包接水和物の生成、分解される温度を制御することが可能である。補助剤の効果が発現するためには、必要となる補助剤量(濃度)の閾値(以下、「補助剤閾値」とも呼ぶ)があり、補助剤量がその補助剤閾値を超えると補助剤効果が発現し、補助剤量が補助剤閾値より小さいと通常の包接水和物の安定境界曲線に戻る。したがって、補助剤量を、補助剤閾値を境界として制御することで、包接水和物の生成/分解温度を制御することができる。
【0040】
図5は、補助剤による包接水和物の安定境界曲線の移動の一例を示す説明図である。図5(a)は、ガスとしてクリプトン(Kr)単体を用いた例、図5(b)は、ガスとしてHFC-32単体(HFCはハイドロフルオロカーボン)を用いた例を示している。なお、HFC-32は、一般に、R32とも呼ばれている。図5に示すように、ガスおよび補助剤の種類によらず、補助剤を添加することにより、包接水和物の安定曲線は、高温側に移動し、包接水和物の生成が促進される。
【0041】
なお、補助剤有の場合の安定境界曲線は、一意的に決まり、上述の通り、添加する補助剤の割合によって、連続的に変化するわけではない。図5に示す包接水和物の安定境界曲線の作成方法は、以下の通りである。
1)真空に引いた高圧セル内に、水(および補助剤)を封入し、ガスで任意の圧力まで昇圧する。
2)セルを任意の温度まで冷却しながら内部を撹拌すると、自発的に包接化合物の生成が始まる。
3)温度・圧力の変化がなくなり、一定となった値が平衡状態となる。
4)温度あるいは圧力を変化させながら、平衡点を決めていく。
【0042】
本実施形態のヒートポンプシステム100は、例えば、冷房、暖房、除湿、及び加湿の少なくとも1つの機能を有する空気調和装置に適用することができる。この他に、冷却装置(ヒートシンクなど)、暖房装置(床暖房装置など)、給湯装置、冷凍装置、脱水装置、蓄熱装置、融雪装置、乾燥装置など、熱源との間で熱の授受を行う様々な熱利用装置(プラントやシステムを含む)に適用可能である。これらの熱利用装置では、本実施形態のヒートポンプを用いることにより、高いエネルギー効率を得ることができる。以下に、本実施形態のヒートポンプシステム100を、空気調和装置に適用した例について説明する。
【0043】
図6は、本実施形態の空気調和装置110における冷熱生成を模式的に示す説明図である。図7は、空気調和装置110における温熱生成を模式的に示す説明図である。図6図7では、温度差拡大モードで運転する例を示している。図6図7において、図1と同様の構成には同一の符号を付して、先行する説明を参照する。
【0044】
この空気調和装置110は、室内空気を冷房及び暖房する機能を有するものであり、上述のヒートポンプシステム100を備えている。図示するように、空気調和装置110は、第1生成・分解部11aと、第1熱交換器11bと、第1主流路30と、減圧部24と、第2生成・分解部13aと、第2熱交換器13bと、第2主流路40と、第1気液分離部14と、圧縮部16と、混合部18と、液液分離部54と第1副流路70と、制御部90と、を備える。第1生成・分解部11aおよび第1熱交換器11bは、室内機に配置され、第2生成・分解部13aおよび第2熱交換器13bは、室外機に配置されている。
【0045】
制御部90は、ROM、RAM、および、CPUを含んで構成されるコンピュータである。制御部90は、冷熱生成処理、温熱生成処理、および各処理における通常モードと温度差拡大モードとの切り替えを含む空気調和装置110全体の制御を行う。
【0046】
空気調和装置110において、第1主流路30は、第2生成・分解部13aと減圧部24とを接続する第31流路31と、減圧部24と第1生成・分解部11aとを接続する第32流路32と、第31流路31と第32流路32とを接続する第33流路33と、第34流路34と、を備える。第31流路31には開閉弁V1、第32流路32には開閉弁V2、第33流路33には開閉弁V3、第34流路34には開閉弁V4が、それぞれ、設けられている。
【0047】
空気調和装置110において、第2主流路40は、第1生成・分解部11aと第1気液分離部14とを接続する第1流路41と、第1気液分離部14と圧縮部16とを接続する第2流路42と、第1気液分離部14と混合部18とを接続する第3流路43と、圧縮部16と混合部18とを接続する44と、混合部18と生成部10とを接続する第5流路45と、を備える。さらに、第1流路41と第5流路45とを接続する第6流路46と、第7流路47と、を備える。第1流路41には開閉弁V5、第5流路45には開閉弁V6、第6流路46には開閉弁V7、第7流路47には開閉弁V8が、それぞれ、設けられている。また、液液分離部54には第1副流路70が設けられており、第1副流路70は、三方弁V9を介して第1生成・分解部11aに接続される第11副流路73と、第2生成・分解部13aに接続される第13副流路74に分岐している。
【0048】
図6に示すように、空気調和装置110が冷房として使用されるとき、室内機に配置された第1生成・分解部11aが分解部20として機能し、第1熱交換器11bが吸熱部22として機能する。第1熱交換器11bは、室内空気を取り込んで、第1生成・分解部11a内の熱媒体と室内空気とで熱交換させて、分解熱に相当する熱を、熱媒体に吸収させる。これにより第1熱交換器11bにて取り込まれた室内空気の温度が低下し(冷熱生成)、温度が低下した空気が室内に放出される。
【0049】
空気調和装置110が冷房として使用されるとき、室外機に配置された第2生成・分解部13aが生成部10として機能し、第2熱交換器13bが放熱部12として機能する。第2熱交換器13bは、室外空気(例えば、大気)を取り込んで、第2生成・分解部13a内の熱媒体と室外空気とで熱交換させて、生成熱に相当する熱を、熱媒体に放熱させる。これにより、第2熱交換器13bにて取り込まれた室外空気の温度が上昇し、温度が上昇した空気が室外に放出される。
【0050】
空気調和装置110の制御部90において冷熱生成制御が実行されているとき、図6に示すように、開閉弁V1、V2、V5、V6が開弁され、開閉弁V3、V4、V7、V8が閉弁されている。そのため、第2生成・分解部13aから送出された熱媒体は、第31流路31、第32流路32を通って第1生成・分解部11aに流入し、第1流路41、第2流路42、第3流路43、第4流路44、および第5流路45を通って第2生成・分解部13aに戻る。冷房時、熱媒体は、この流路により循環する。図6において、熱媒体が流通しない流路は、点線で図示している。
【0051】
空気調和装置110の制御部90において、冷熱生成制御における温度差拡大モードが実行されているとき、図6に示すように、三方弁V9によって液液分離部54と第1生成・分解部11aとが接続され、補助剤濃度が薄い(または補助剤を含まない)混合溶媒が第1生成・分解部11aに供給される。これにより第1生成・分解部11aにおける包接水和物の分解が促進される。
【0052】
一方、図7に示すように、空気調和装置110が暖房として使用されるとき、室内機に配置された第1生成・分解部11aが生成部10として機能し、第1熱交換器11bが放熱部12として機能する。第1熱交換器11bは、室内空気を取り込んで、第1生成・分解部11a内の熱媒体と室内空気とで熱交換させて、生成熱に相当する熱を、熱媒体に放出させる。これにより第1熱交換器11bにて取り込まれた室内空気の温度が上昇し(温熱生成)、温度が上昇した空気が室内に放出される。
【0053】
空気調和装置110が暖房として使用されるとき、室外機に配置された第2生成・分解部13aが分解部20として機能し、第2熱交換器13bが吸熱部22として機能する。第2熱交換器13bは、室外空気(例えば、大気)を取り込んで、第2生成・分解部13a内の熱媒体と室外空気とで熱交換させて、分解熱に相当する熱を、熱媒体に吸収させる。これにより、第2熱交換器13bにて取り込まれた室外空気の温度が低下し、温度が低下した空気が室外に放出される。
【0054】
空気調和装置110の制御部90において温熱生成制御が実行されているとき、図7に示すように、開閉弁V1、V2、V5、V6が閉弁され、開閉弁V3、V4、V7、V8が開弁されている。そのため、第2生成・分解部13aから送出された熱媒体は、第5流路45、第7流路47、第1流路41、第2流路42、第3流路43、第4流路44、第5流路45、および第6流路46を通って第1生成・分解部11aに流入し、第32流路32、第34流路34、第31流路31、第32流路32、第33流路33、第31流路31を通って第2生成・分解部13aに戻る。暖房時、熱媒体は、この流路により循環する。図3において、熱媒体が流通しない流路は、点線で図示している。
【0055】
空気調和装置110の制御部90において、温熱生成制御における温度差拡大モードが実行されているとき、図7に示すように、三方弁V9によって液液分離部54と第2生成・分解部13aとが接続され、補助剤濃度が薄い(または補助剤を含まない)混合溶媒が第2生成・分解部13aに供給される。これにより第2生成・分解部13aにおける包接水和物の分解が促進される。
【0056】
図8は、制御部90におけるモード切替制御の流れを示すフローチャートである。モード切替制御は、上述の通常モードと温度差拡大モードとの切替を行う制御である。制御部90は、冷熱生成制御、および温熱生成制御の各制御と並行してモード切替制御を行う。制御部90は、モード切替制御を開始すると、ステップS102では、通常モードで空気調和装置110を運転する。
【0057】
ステップS104において、制御部90は、低温側目標値と閾値とを比較して、低温側目標値が閾値以下になるまでは(ステップS104においてNO)、通常モードで、運転させる。低温側目標値が閾値以下になると(ステップS104においてYES)、ステップS106に進む。ここで、低温側目標値は、分解部の温度(図示せざる温度センサの検出値)である。なお、低温側目標値は、冷熱生成制御のときには第1生成・分解部11aの温度であり、温熱生成制御のときには第2生成・分解部13aの温度である。閾値は、任意に設定することができ、本実施形態では、15℃に設定されている。
【0058】
ステップS106では、制御部90は温度差拡大モードで空気調和装置110を運転する。
ステップS108において、制御部90は、低温側目標値と閾値とを比較して、低温側目標値が閾値より大きくなるまでは(ステップS108においてNO)、温度差拡大モードで、運転させる。低温側目標値が閾値より大きくなると(ステップS108においてYES)、ステップS102に戻る。ここで、閾値は、ステップS104において用いた閾値と同一である。
【0059】
図9は、エネルギー消費効率の比較を示す説明図である。図9では、包接水和物の分解・生成熱を利用する場合を「包接水和物」と記載し、冷媒の凝縮・蒸発に伴う熱を利用する場合を「R32」と記載している。ここで、R32は、冷媒R32であり、HFC(ハイドロフルオロカーボン)のなかでは地球温暖化係数が低いことが特徴である。図9に示す包接水和物を生成するガスは、冷媒R32である。
【0060】
図示するように、包接水和物を利用するヒートポンプシステムの場合、獲得熱量が従来の冷媒(R32)と比較して約6~7倍である。図示するように、包接水和物を利用する場合の圧縮機仕事は、従来の冷媒(R32)を利用する場合と同等である。COPは、下記(式1)により概算することができる。
COP=獲得熱量/(圧縮機仕事+補器仕事) …(式1)
包接水和物を利用する場合に、例えば、包接水和物スラリー搬送用ポンプ等の補器を追加した場合に、必要動力(圧縮機仕事+補器仕事)が従来の2倍になったとしても、COP=10程度を見込むことができる。一方、従来の冷媒を使用する場合には、追加の補器が不要であったとしても、COP=4程度である。
【0061】
以上説明したように、本実施形態のヒートポンプシステム100によれば、包接水和物の潜熱(分解・生成熱)を利用して、熱を輸送する。包接水和物の分解・生成熱は、冷媒の凝縮・蒸発に伴う熱より大きい。そのため、冷媒の凝縮過程及び蒸発過程に伴う熱の授受を利用した従来のヒートポンプと比較して、エネルギー消費効率を向上させることができる。
【0062】
また、本実施形態のヒートポンプシステム100によれば、液液分離部54を有するため、液液分離部54により補助剤濃度が低減された混合溶媒を分解部20に供給することができる。分解部20中の補助剤濃度が低減され、上述の補助剤閾値より小さくなり、包接水和物の安定境界曲線が低温側に移動することにより、分解部における包接水和物の分解を促進させることができる。また、液液分離部54により補助剤が濃縮された混合溶媒を生成部10に供給することにより、包接水和物の生成を促進させることができる。すなわち、この構成によれば、生成部と分解部との間で補助剤濃度を制御することができ、冷凍サイクル運転における高温側と低温側の温度差を拡大することができ、エネルギー消費効率を向上させることができる。
【0063】
また、本実施形態のヒートポンプシステム100によれば、ガスと水と補助剤との混相である分解物から、第1気液分離部14によって水と補助剤を分離し、水分が分離されたガスを圧縮部16によって圧縮することができる。そのため、第1気液分離部14を有さない場合と比較して、水分の圧縮仕事の分、圧縮部16の仕事が低減され、ヒートポンプシステムのエネルギー消費効率を向上させることができる。
【0064】
また、この構成によれば、混合溶媒と、圧縮されたガスとが予め、混合部18によって混合され、混合液として、生成部10に送られる。そのため、混合部18を備えず、ガスと混合溶媒とが混合されずそのまま生成部10に送られる場合と比較して、ガスと水との接触面積が大きくなり、生成部10における包接水和物の生成効率を向上させることができる。その結果、ヒートポンプシステムのエネルギー消費効率を向上させることができる。
【0065】
<第2実施形態>
図10は、第2実施形態のヒートポンプシステム100Aの基本構成を模式的に示した説明図である。第2実施形態のヒートポンプシステム100Aが第1実施形態のヒートポンプシステム100と異なる点は、第1主流路30において、生成部10と減圧部24との間に気/固液分離部52を備える点と、第2流路42において、圧縮部16と混合部18との間に第2気液分離部56を備える点と、気/固液分離部52により分離されたガスを混合部18に供給する第2副流路60と、第2気液分離部56で分離された圧縮機オイルを圧縮部16に戻す第3副流路80を備える点である。第1実施形態と同一の構成には、同一の符号を付して、先行する説明を参照する。
【0066】
気/固液分離部52は、包接水和物固体と、未反応のガスと水と補助剤を含む気固液混合体(包接水和物スラリー)からガスを分離する。ここで、ガスが分離された固液混合体も、包接水和物スラリーとも呼ぶ。分離されたガスは、第2副流路60および第4流路44を介して、混合部18に流入する。気/固液分離部の形式として、表面張力式、遠心力式、多段フィルタ式、サイクロン式、などを用いることができる。サイクロン式気固液分離部の場合、分離後の固液相側が100%、気相側が100%(体積比)となることが想定される。なお、気/固液分離部52から流出する包接水和物スラリーは、少量のガスを含むこともある。
【0067】
気/固液分離部52は減圧部24の前段にあるため、気/固液分離部52において分離されたガスは、高圧状態である。気/固液分離部52を備えない場合には、包接水和物固体を主に含む気固液混合体中の余剰のガスは、減圧部24において減圧され低圧状態で圧縮部16に流入し、圧縮部16で圧縮される。これに対し、本実施形態のヒートポンプシステム100Aでは、第1主流路30を流れる包接水和物スラリーが減圧される前に、気/固液分離部52によって包接水和物スラリー中の余剰のガスが分離され、圧縮部16を介さず高圧状態で混合部18に供給される。そのため、余剰なガスが圧縮部16に供給されることによる圧縮機効率の低下を抑制することができ、エネルギー消費効率COPをさらに向上させることができる。
【0068】
図11は、電力COPと気固液割合の関係を示す図である。図11に示す例では、気固液混合相中の固体率を変えて、COPを算出している。本実施形態のヒートポンプシステム100Aを用いた場合の算出結果を黒塗り三角で示し、本実施形態のヒートポンプシステム100Aの気/固液分離部52を備えない構成のヒートポンプシステム(以下、比較例とも呼ぶ)を用いた場合の算出結果を白抜き三角で示している。ヒートポンプシステム100Aでは、上述の通り気/固液分離部52においてガスを分離しているため、分解部20に流入する熱媒体中のガス濃度は略0(ゼロ)であり、固液混合相といえる。一方、比較例のヒートポンプシステムでは気/固液分離部52を備えないため、分解部20に流入する熱媒体は気固液混合相である。なお、図11に示す例では、通常モードでの運転を例示している。
【0069】
図11に示す例では、以下の条件でCOPを試算している。生成部10の入り口側の熱媒体の温度が20℃、分解部20出口側の熱媒体の温度が10℃である。図10に示す第32流路32に図示せざるスラリーポンプを備え、当該スラリーポンプの回転数は800rpmである。生成部10に流入する混合液中の冷媒ガスの体積は91%である。
【0070】
図示するように、本実施形態のヒートポンプシステム100Aは、比較例のヒートポンプシステムと比較してCOPが向上される。図示する通り、包接水和物スラリーから気体(冷媒ガス)を分離することによりCOPを向上することができる。
【0071】
第2気液分離部56の形式として、例えば、表面張力式、遠心力式、多段フィルタ式、サイクロン式、などを用いることができる。遠心力式気液分離部とした場合、分離後の気相側は冷媒ガスが100%、液相側は冷媒ガス/圧縮機潤滑油が10/90%(体積比)となることが想定される。第2気液分離部56により分離された圧縮機オイルは、第3副流路80を介して圧縮部16に戻される。これにより圧縮部16の破損やシール性の低下を抑制することができる。なお、補助剤として用いられるものを圧縮機オイルとして用いることにより第2気液分離部56を備えない構成にしても、圧縮部16の破損等を抑制することができる。
【0072】
<第3実施形態>
図12は、第3実施形態のヒートポンプシステム100Bの基本構成を模式的に示した説明図である。第3実施形態のヒートポンプシステム100Bが第2実施形態のヒートポンプシステム100Aと異なる点は、第1主流路30にスラリーポンプ39を備える点と、第2流路42に脱水部17を備える点である。第2実施形態と同一の構成には、同一の符号を付して、先行する説明を参照する。
【0073】
スラリーポンプ39は、生成部10から送出される包接水和物のスラリーを輸送する。ヒートポンプシステム100Aは、スラリーポンプ39を備えることにより、第1主流路30を流れる熱媒の流量を調整することができるため、分解部20における分解速度を調整することができる。本実施形態におけるスラリーポンプ39を、「輸送ポンプ」とも呼ぶ。
【0074】
脱水部17は、第1気液分離部14にて分離されたガス中の水および補助剤を吸着する。脱水部17は、例えば、シリカゲル等の吸着剤を用いて、脱水することができる。このようにすると第1気液分離部14にて分離されたガスに混入した水分(混合溶媒)を除去することができるため、圧縮部16によるエネルギー消費を、さらに削減することができ、ヒートポンプシステム100Bのエネルギー消費効率をさらに向上させることができる。吸着剤は、シリカゲルに限定されず、公知の吸着剤を適用可能である。吸着剤は、熱処理にて用意に再生可能である。
【0075】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0076】
・減圧部24は、生成部10から分解部20へ熱媒体が流れる第1主流路30に設けられてもよいし、分解部20から生成部10へ熱媒体が流れる第2主流路40の分解部20と第1気液分離部14との間に設けられてもよい。また、分解部20が減圧部24を備えてもよいし、圧縮部16が減圧部24を備えてもよい。このようにしても、分解部20内の圧力を低減することができ、分解部20における包接水和物の分解を促進することができる。
【0077】
・上記第3実施形態において、ヒートポンプシステムがスラリーポンプ39を備える例を示したが、第1、2実施形態のヒートポンプシステムにおいて、スラリーポンプ39を備えてもよい。
【0078】
・上記第3実施形態において、ヒートポンプシステムが脱水部17を備える例を示したが、第1、2実施形態のヒートポンプシステムにおいて、脱水部17を備えてもよい。
【0079】
・上記第2実施形態において第2気液分離部56を備える構成を例示したが、第2気液分離部56を備えなくてもよい。
【0080】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0081】
本発明は、以下の適用例としても実現することが可能である。
[適用例1]
熱媒体が包接水和物の分解過程と生成過程とを繰り返すことにより、熱を輸送するヒートポンプシステムであって、
水と液体の補助剤の混合溶媒とガスの混合液が流入され、包接水和物が生成される生成部と、
包接水和物の分解が行われ、前記ガスと前記混合溶媒との混相である分解物が送出される分解部と、
前記生成部から前記分解部へと前記熱媒体が流れる第1主流路と、
前記分解部から前記生成部へと前記熱媒体が流れる第2主流路と、
前記生成部内の前記熱媒体と、前記ヒートポンプシステム外の熱源との熱交換により前記熱媒体を放熱させる放熱部と、
前記分解部内の前記熱媒体を減圧する減圧部と、
前記分解部内の前記熱媒体と、前記ヒートポンプシステム外の熱源との熱交換により前記熱媒体に吸熱させる吸熱部と、
前記分解部と前記第2主流路を介して接続され、前記分解部から送出される前記分解物中の前記ガスと前記混合溶媒を分離する気液分離部と、
前記気液分離部と前記第2主流路を介して接続され、前記気液分離部により分離された前記ガスを圧縮する圧縮部と、
前記気液分離部、前記圧縮部、および前記生成部と前記第2主流路を介して接続され、前記気液分離部により分離された前記混合溶媒と、前記圧縮部により圧縮された前記ガスとを含む前記混合液を生成し、前記第2主流を介して前記生成部に前記混合液を供給する混合部と、
前記気液分離部と前記混合部との間に配置され、前記気液分離部により分離された前記混合溶媒中の水と前記補助剤を分離する液液分離部と、
前記液液分離部と前記分解部とを接続し、前記液液分離部により前記補助剤が分離された水を前記分解部に供給する第1副流路と、
を備える、
ヒートポンプシステム。
[適用例2]
適用例1に記載のヒートポンプシステムであって、
前記生成部と前記第1主流路を介して接続され、前記生成部で生成された前記包接水和物と前記ガスと前記混合溶媒とを含む気固液混合体から前記ガスを分離する気/固液分離部と、
前記気/固液分離部により分離された前記ガスを前記混合部に供給する第2副流路と、
をさらに備える、
ヒートポンプシステム。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載のヒートポンプシステムであって、
前記第1主流路に配置され、前記熱媒体を輸送する輸送ポンプを、さらに備える、
ヒートポンプシステム。
[適用例4]
適用例1から適用例3のいずれか一項に記載のヒートポンプシステムであって、
前記気液分離部と前記圧縮部との間に配置され、前記気液分離部にて分離された前記ガス中の前記混合溶媒を吸着する脱水部を、さらに備える、
ヒートポンプシステム。
【符号の説明】
【0082】
10…生成部
11a…第1生成・分解部
11b…第1熱交換器
12…放熱部
13a…第2生成・分解部
13b…第2熱交換器
14…第1気液分離部
15…送液ポンプ
16…圧縮部
17…脱水部
18…混合部
20…分解部
22…吸熱部
24…減圧部
39…スラリーポンプ
40…第2主流路
52…気/固液分離部
54…液液分離部
56…第2気液分離部
58…送液ポンプ
60…第2副流路
70…第1副流路
72…開閉弁
80…第3副流路
90…制御部
100、100A、100B…ヒートポンプシステム
110、110A…空気調和装置
V1~V8…開閉弁
V9…三方弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12